説明

配線基板及び配線基板の製造方法

【課題】低コストで低抵抗な配線を有する配線基板を提供する。
【解決手段】基板と、基板上において、高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域とが形成されている濡れ性変化層と、高表面エネルギー領域上の一部又は高表面エネルギー領域と接し、濡れ性変化層上に形成された多孔質導電層と、多孔質導電層と接し、濡れ性変化層の高表面エネルギー領域上において導電性材料により形成された導電層とを有することを特徴とする配線基板を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板及び配線基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置、PDP(プラズマディスプレイパネル)、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの電極等は所定のパターンにより形成されている。
【0003】
このように、所定のパターンの電極等を形成する方法としては、フォトリソグラフィー法が一般的に用いられている。しかしながら、フォトリソグラフィー法では、高価な設備を要し、また、多数の工程を経る必要があり、出来上がった製品のコストを上昇させる原因となっている。
【0004】
一方、近年製造コストを低減させるために、印刷法により電極等を形成する方法が試みられている。このような印刷法の中でも、特に、インクジェット法は、高価な設備を必要とすることもなく、また、材料の無駄もないため有望とされている。
【0005】
特許文献1及び2には、インクジェット法により微細配線を形成する技術が開示されている。これは、基板上に表面エネルギーの異なる領域を紫外線の露光により形成し、導電性粒子を分散した溶液(導電インク)の濡れ性をコントロールした状態で、導電インクの液滴をインクジェット法により基板上に滴下することで配線パターンを形成し、200℃以下の熱処理を行なうことにより、低抵抗な配線を形成する方法である。この方法により、液滴の直径よりも微細な配線の形成を可能としている。
【0006】
また、特許文献3には、このようなインクジェット法により、導電インクの液滴の滴下位置をコントロールすることで、導電インクの乾燥速度と導電インクの濡れ広がりのダイナミカルな挙動を制御し、更なる微細な配線を形成することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−278534号公報
【特許文献2】特開2006−134959号公報
【特許文献3】特開2008−60544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に開示されている方法では、微細化を行なうために、配線幅の広い領域を微細配線領域に隣接して設けることが必要であり、配線パターンの設計が大きく制限され、濡れ広がりを利用しているため低濃度の導電インクを用いると膜厚が薄くなり、高抵抗化する傾向にあった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、低温で、低抵抗な微細配線が形成された配線基板及び配線基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基板と、前記基板上において、高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域とが形成されている濡れ性変化層と、前記高表面エネルギー領域上の一部又は前記高表面エネルギー領域と接し、前記濡れ性変化層上に形成された多孔質導電層と、前記多孔質導電層と接し、前記濡れ性変化層の高表面エネルギー領域上において導電性材料により形成された導電層と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記濡れ性変化層は、エネルギーを付与することにより臨界表面張力が変化し、低表面エネルギー状態から高表面エネルギー状態へと変化する材料を含むものであって、前記エネルギーの付与により、高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域とが形成されているものであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、基板上に形成された高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域と、前記高表面エネルギー領域上の一部又は前記高表面エネルギー領域と接し、前記基板上に形成された多孔質導電層と、前記濡れ性変化層の高表面エネルギー領域上において導電性材料により形成された導電層と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記基板は、エネルギーを付与することにより臨界表面張力が変化し、低表面エネルギー状態から高表面エネルギー状態へと変化する材料を含むものであって、前記エネルギーの付与により、高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域とが形成されているものであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、前記導電層は、インクジェットヘッドにより導電性材料を含む液体を吐出することにより形成されるものであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、前記多孔質導電体層は、金属微粒子と樹脂バインダとを含むものであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、前記金属微粒子は、Ag微粒子であって、平均粒径Rが0.1μm<R≦1μmの範囲であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、前記多孔質導電体層は、(金属微粒子)/(金属微粒子+樹脂バインダ)の重量比率が、85%以上、90%以下であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、基板上に形成された濡れ性変化層に、エネルギーを付与することにより高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域とを形成する工程と、前記高表面エネルギー領域上の一部、または前記高表面エネルギー領域と接して、多孔質導電層を形成する工程と、前記高表面エネルギー領域上に導電性材料を含む溶液を供給する工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、前記エネルギーの付与は紫外線を照射することにより行なわれるものであることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、前記多孔質導電層は、スクリーン印刷法により形成されるものであることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、前記導電性材料を含む溶液は、インクジェットヘッドより吐出することにより供給されるものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低コストで、低温で、低抵抗な微細配線が形成された配線基板及び配線基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態における配線基板の上面図
【図2】本実施の形態における配線基板の断面図
【図3】本実施の形態における別の構成の配線基板の断面図
【図4】本実施の形態における配線基板の多孔質導電層の説明図
【図5】本実施の形態における配線基板の製造方法の工程図
【図6】実施例において用いたフォトマスクの構成図
【図7】実施例における配線基板の製造工程の説明図
【図8】比較例における配線基板の製造工程の説明図
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を実施するための形態について、以下に説明する。
【0025】
(配線基板の構成)
図1及び図2に基づき、本実施の形態における配線基板について説明する。図1は、本実施の形態における配線基板の上面図であり、図2は、図1の破線1A−1Bにおいて本実施の形態における配線基板を切断した断面図である。
【0026】
図1及び図2に示されるように、本実施の形態における配線基板は、基板10の表面上に濡れ性変化層11が形成されており、この濡れ性変化層11の表面は、後述するように、紫外光の照射により高表面エネルギー領域12と低表面エネルギー領域13が形成されている。濡れ性変化層11は形成された直後においては、低表面エネルギー状態であり、紫外光の照射された部分のみが高表面エネルギー状態となり、濡れ性変化層11の表面には、高表面エネルギー領域12と低表面エネルギー領域13とが形成される。
【0027】
また、濡れ性変化層11上には、多孔質導電体層14が高表面エネルギー領域12と接続されるように形成されている。本実施の形態における配線基板には、配線領域21となる幅がW1の細い配線領域22と、幅がW2の太い配線領域23とが接続されて形成されており、さらに、細い配線領域22と接続されたパッド領域24が形成されている。細い配線領域22は、高表面エネルギー領域12上に形成された導電層15により形成されており、太い配線領域23は、多孔質導電体層14により形成されている。尚、多孔質導電体層14の下の濡れ性変化層11は、高表面エネルギー領域12であっても、低表面エネルギー領域13であってもどちらでもよい。
【0028】
このような構成により、高表面エネルギー領域12上に導電インクを選択的に流動させて、多孔質導電体層14におけるインク受容性を利用してインクの流動性を補助することができる。特に、電流量が大きくなる主配線部分を多孔質導電体層14により形成することが好ましい。
【0029】
また、図3には、本実施の形態における別の構成の配線基板を示す。図3に示されるように、基板60は紫外線照射により低表面エネルギー状態から高表面エネルギー状態へと変化する材料により構成されており、基板60の表面は、紫外光の照射により高表面エネルギー領域62と低表面エネルギー領域63が形成されている。基板60の表面は形成された直後においては、低表面エネルギー状態であり、紫外光の照射された部分のみが高表面エネルギー状態となり、基板60の表面には、高表面エネルギー領域62と低表面エネルギー領域63とが形成される。
【0030】
また、基板60上には、多孔質導電体層64が、高表面エネルギー領域62と接続されるように形成されている。この構成の配線基板には、配線領域71となる幅がW1の細い配線領域72と、幅がW2の太い配線領域73とが接続されて形成されている。細い配線領域72は、高表面エネルギー領域62上に形成された導電層65により形成されており、太い配線領域73は、多孔質導電体層64により形成されている。尚、多孔質導電体層64の下の基板60は、高表面エネルギー領域62であっても、低表面エネルギー領域63であってもどちらでもよい。
【0031】
(基板)
本実施の形態の配線基板を構成する基板10について説明する。
【0032】
基板10は、無機材料、金属・合金、樹脂材料により形成されている。但し、配線形成プロセスにおいて焼成を行なうため、100℃以上の耐熱性があることが好ましく、更には、200℃以上の耐熱性があることがより好ましい。例えば、ガラス、セラミックス、シリコン等の無機材料やPE、PP、PET、PEN、ポリカーボネート等に代表される樹脂、アルミニウム、ステンレス等が挙げられる。尚、基板10に導電性を有する材料を用いる場合には、表面を絶縁体に被覆する加工が必要となる。
【0033】
基板10の形状は、一般的には平板状である。基板10を構成する材料として、樹脂材料を用いた場合、フィルム状にすることにより、軽量化することが可能である。尚、この場合、湾曲や屈曲により基板10上に形成された配線が断線等を生じない厚さが必要であり、好ましくは40μm以上、さらに好ましくは70μm以上の厚さが必要である。
【0034】
基板10上には、濡れ性変化層11が設けられており、表面にエネルギー照射等を行なうことにより、濡れ性変化層11の表面には、高表面エネルギー領域12と低表面エネルギー領域13とが形成している。このエネルギー照射は、紫外線、放射線等の電磁波を照射するもの、電子線を照射するもの等が挙げられる。
【0035】
このようなエネルギー照射を行なうことにより、高表面エネルギー領域12と低表面エネルギー領域13を形成する際には、マスク等を用いる方法が好ましい、例えば、エネルギー照射として紫外線を照射する場合には、フォトマスクを用いることにより、容易に、高表面エネルギー領域12と低表面エネルギー領域13を形成することができる。
【0036】
また、濡れ性変化層11を構成する材料は、ポリイミドやアクリレート等の高分子材料が用いられ、これらの高分子材料の骨格を形成する主鎖や側鎖に疎水性の官能基(フッ素を含むフルオロアルキル基等)を直接または結合基を介して結合したものが用いられる。これらの高分子材料は、最初は疎水性官能基により低表面エネルギー状態となるが、紫外線等の照射により疎水性の官能基との結合が切断され親水性となり、高表面エネルギー状態となる。
【0037】
表面が低表面エネルギー状態では、導電インクの濡れ性が悪く導電インクにより配線等を形成することは困難であるが、表面が高表面エネルギー状態となることにより、導電インクの濡れ性が高まり、導電インクを用いて配線を形成することが可能となる。このため、基板10上の濡れ性変化層11の表面に、所定の配線形状のパターンのマスクを用いて紫外線等による露光を行なうことにより、露光された領域のみが高表面エネルギー領域となり、導電インクはこの高表面エネルギー領域にのみ濡れ広がり配線を形成することが可能である。
【0038】
尚、別途、濡れ性変化層11を用いることなく基板10上に直接高表面エネルギー領域12及び低表面エネルギー領域13を形成することができれば、そのような方法であってもよい。例えば、マスクを用いたプラズマ処理、エッチング処理、スパッタリング、蒸着処理等の気相法、ディッピングやスピンコーティング等の液相法により形成する方法が挙げられる。
【0039】
また、配線の形成に用いられる導電インクは、例えば、Ag、Ni、Cu等の金属微粒子を溶液中に分散させたものが挙げられる。特に、100nm以下の粒子径の金属微粒子を用いたナノメタルインクは、分散性が高く、また、微細ノズルを用いたインクジェット法に適合性が高い。また、抵抗の少ないAgを用いたナノメタルインクにより、低抵抗な配線を形成することが可能である。
【0040】
本実施の形態では、後述するように配線はインクジェット法により形成するものであるが、このインクジェット法により形成する場合、金属微粒子の適切な濃度は、1重量%以上50重量%以下とすることが好ましく、必要とされる導電膜の厚さ等に応じて調整することが可能である。また、導電インクの表面張力の適切な範囲は、0.02N/m以上、0.07N/m以下の範囲であり、表面張力が適切な値でないと、インクの着弾精度や安定性が悪化してしまう。また導電インクの粘度の適切な範囲は、1mPa・s以上、50mPa・s以下の範囲であり、粘度が適切な値でないと、インク吐出部において導電インクの付着等が生じ吐出安定性が低下することとなる。
【0041】
(多孔質導電体層)
本実施の形態における配線基板には、多孔質導電体層14が設けられている。この多孔質導電体層14は、配線抵抗を低抵抗化する機能と、配線の微細パターンの形成を補助する機能とを有している。図4に示すように、多孔質導電体層14は、複数の金属微粒子41が凝集することにより形成されており、この複数の金属微粒子41が凝集した状態においては、内部及び表面に微小な空隙42を多数有しており、導電インク等の流動性の高い低粘度流体(ニュートン流体的な挙動を示す液体)を空隙内に取り込むことができ、インクを受容することができるものである。
【0042】
多孔質導電体層14は、金属微粒子であるフィラーと樹脂バインダとを含むものである。フィラーは導電体からなる金属微粒子であり、金属または合金の微粒子により構成されている。フィラーの材料としては、Au、Ag、Cu、Ni、Al等が例として挙げられる。フィラーの粒子径は、形成される配線幅及び配線厚の1/5以下であることが好ましく、さらに好ましくは、1/10以下である。例えば、配線厚が5μmのものを得るためには、フィラーの粒子径は、1μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下であることが好ましい。フィラーの粒子径が大きすぎる場合は、配線表面や配線エッジ部の形状が変形し、均一な配線パターンの形成が困難となるからである。一方、フィラーの粒子径が小さい場合には、配線の表面平滑性、配線パターンのエッジ形状は改善されると同時に、膜密度を低くすることができ配線の抵抗率を低くすることができるが、あまりにフィラーの粒子径が小さすぎると、多孔質導電体層14に形成される空隙を十分に得ることができず、後述する導電インクを受容する機能が低下してしまう。
【0043】
更に、粒子径の異なるフィラーを混合することにより、電気抵抗と導電インク受容性とを両立することも可能である。具体的には、0.5μm径の金属微粒子に、微量の0.05μm径の金属微粒子(ナノ粒子)を混合する方法が挙げられる。この方法では、0.5μm径の金属微粒子によって空隙を形成することができ、導電インクの受容性を高めることができるとともに、この0.5μm径の金属微粒子間の接触部分に0.05μm径の金属微粒子が集まることにより、粒子間の接触面積を増やすことができる。
【0044】
樹脂バインダは、基板10上においてフィラーを形成保持する機能を有するものである。樹脂バインダに用いる材料は、基板10または濡れ性変化層11との密着性を考慮して選定する必要がある。尚、導電インクに含まれる溶媒成分に対して不溶であるか、溶解性が低いことも必要となる。
【0045】
樹脂バインダに用いられる材料は、ポリビニルアルコール樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂等の印刷用インクまたはペーストの樹脂バインダ等に用いる材料を用いることができる。
【0046】
フィラー(金属微粒子)と樹脂バインダとの質量比は、フィラー:樹脂バインダが、80:20〜97:3、即ち、(金属微粒子)/(金属微粒子+樹脂バインダ)の重量比率が80%〜97%の範囲であることが好ましい。フィラーの比率が高すぎると、基板10や濡れ性変化層11との密着性が低下する傾向にあり、多孔質導電体層14が形成されても剥離等してしまう可能性がある。また、応力が加わった場合に多孔質導電体層14にクラック等が発生しやすくなってします。一方、フィラーの比率が低すぎると、電気抵抗率が低くなり配線抵抗が高くなってしまう。また、フィラー間に形成されるはずの空隙が樹脂である樹脂バインダにより充填されてしまい、導電インクを受容する性能が低下してしまう。
【0047】
多孔質導電体層14は、上述のフィラーと樹脂バインダとを溶媒中に分散した溶液を作製し、塗布した後、乾燥させることにより形成することができる。このフィラーと樹脂バインダとが分散した溶液中では、フィラー間相互作用により、フィラー粒子が凝集し凝集体を形成する。溶液を塗布した後、溶媒を乾燥させる工程で凝集体中のフィラーは自由度が低下するため、複数の凝集体間に空隙が発生する。このような空隙が膜中や表面に生じることにより、多孔質導電体層14を形成することが可能である。膜中・膜表面に生じる空隙はフィラー径、フィラー材料、樹脂バインダ材料、フィラーと樹脂バインダとの質量比等に依存する。空隙の大きさは、導電インク受容性の観点からは、0.1〜10μmの範囲であることが好ましく、更には、電気伝導度や膜強度を考慮するならば、0.5μm〜2μmの範囲であることが好ましい。
【0048】
多孔質導電体層14を形成するための溶液に用いられる溶媒は、加熱により揮発させ除去することができる材料であることが必要であり、更には、基板10または濡れ性変化層11を溶解しない材料であることが必要である。また、多孔質導電体層14を形成する際には、形成方法にあわせて粘度、乾燥速度、腐食性等が調整される。
【0049】
多孔質導電体層14の形成方法としては、印刷法による印刷がコスト的にも有利である。具体的には、印刷法としては、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法等が挙げられる。特に、多孔質導電体層14を厚く形成することができ、生産性も高いスクリーン印刷法が好ましい。
【0050】
多孔質導電体層14の形成方法としてスクリーン印刷法を用いる場合には、塗布される溶液の粘度を高くしておく必要があり、ブルックフィールド法粘度計で80〜300Pa・sの範囲であることが好ましく、更には、100〜150Pa・sの範囲であることが好ましい。粘度が低すぎる場合には、塗布した後の形状安定性が悪くなり、形状の均一性が悪化する傾向にある。一方、粘度が高すぎる場合には、スクリーン印刷中にスクリーンと基板との密着性が高くなり、安定した版離れを行なうことが困難となり、多孔質導電層14のパターン転写性が著しく低下してしまう。
【0051】
また、スクリーン印刷に用いるメッシュは、強度と体溶剤性の観点からステンレス製メッシュを用いることが好ましい。この際、メッシュの細かさは、形成される多孔質導電層14のパターンの形状に合わせて選定される。具体的には、形成されるパターンの幅と同等以下の線密度のものを用いることが好ましい。例えば、幅が50μmの多孔質導電層14のパターンを形成する場合では、50μm間隔、即ち、500番(1インチあたり500本)以上のメッシュを用いることが好ましい。メッシュが粗すぎると、パターン幅と膜厚の均一性が低下し、断線や隣接配線との間でショートが生じる場合がある。一方、メッシュが細かすぎると、ステンレス線の太さを細くする必要があり、メッシュ強度が弱くなってしまい、繰り返しの使用によりメッシュが塑性変形してしまい、形成されるパターンの精度を著しく劣化させてしまう。尚、高張力のステンレスメッシュを用いる方法もあるが、このようなメッシュの製造コストは高いことから、製造される配線基板のコストを上昇させてしまう。
【0052】
また、スクリーン印刷法では、高粘度の溶液を印刷することが可能であるため、溶媒に含まれる溶質の成分を高くすることができ、これにより、多孔質導電体層14を厚く形成することができる。
【0053】
以上より、大きな電流の流れる主配線となる多孔質導電層14は、スクリーン印刷法により形成することが好ましい。
【0054】
(製造方法)
次に、図5に基づき、本実施の形態における配線基板の製造方法について説明する。
【0055】
最初に、図5(a)及び(b)に示すように、基板10上に濡れ性変化層11を形成したものの表面に紫外線を照射する。具体的には、フォトマスク30を介して紫外線を照射することにより、フォトマスク30の開口領域31を透過した紫外光が濡れ性変化層11の表面に照射される。尚、図5(a)は上面図であり、図5(b)は、図5(a)の破線5A−5Bで切断した断面図である。
【0056】
次に、図5(c)及び(d)に示すように、フォトマスク30を除去する。基板10の濡れ性変化層11の表面には、紫外線の照射された領域には、高表面エネルギー領域12が形成され、紫外線の照射されていない領域は低表面エネルギー領域13となる。即ち、基板10上の濡れ性変化層11の表面は低表面エネルギー状態であり、この後、紫外線を照射することにより、紫外線が照射された部分が高表面エネルギー状態へと変化し、高表面エネルギー領域12が形成される。一方、紫外線が照射されていない部分は、最初の低表面エネルギー状態のままであるため、この部分は低表面エネルギー領域13となる。尚、図5(c)は上面図であり、図5(d)は、図5(c)の破線5C−5Dで切断した断面図である。
【0057】
次に、図5(e)及び(f)に示すように、多孔質導電層14を形成する。この多孔質導電層14は、高表面エネルギー領域12上または高表面エネルギー領域12に接して形成される。多孔質導電層14は、特に低抵抗の配線が必要となる主配線となる部分に形成される。この多孔質導電層14は、スクリーン印刷法により形成することが好ましい。尚、図5(e)は上面図であり、図5(f)は、図5(e)の破線5E−5Fで切断した断面図である。
【0058】
次に、図5(g)及び(h)に示すように、インクジェット法により導電インク33の液滴を滴下する。具体的には、多孔質導電体層14と高表面エネルギー領域12とが接触している領域上に滴下する。一般的には、インクジェット法により滴下された液滴の直径よりも微細な配線を形成することは困難である(液滴が基板に接触することにより広がるため)が、多孔質導電体層14と高表面エネルギー領域12とが接触している領域上に導電インク33の液滴を滴下することにより、液滴の広がりを防ぐことができる。尚、図5(g)は上面図であり、図5(h)は、図5(g)の破線5G−5Hで切断した断面図である。
【0059】
次に、図5(i)及び(j)に示すように、インクジェット法により滴下された導電インク33は、高表面エネルギー領域12と多孔質導電体層14に広がる。具体的には、多孔質導電体層14のインク受容機能により、導電インク33の液滴の濡れ広がり量を調整することができ、高表面エネルギー領域12上に濡れ広がらせることができる。また、導電インク33の液滴を滴下する位置を多孔質導電体層14と高表面エネルギー領域12との間において調整することにより、高表面エネルギー領域12に流れ込む溶液の量を調整することが可能である。尚、図5(i)は上面図であり、図5(j)は、図5(i)の破線5I−5Jで切断した断面図である。
【0060】
次に、図5(k)及び(l)に示すように、この後乾燥させることにより、多孔質導電体層14の形成されている太い配線領域23と、高表面エネルギー領域12上に導電層15が形成された細い配線領域22からなる配線基板が形成される。尚、図5(k)は上面図であり、図5(l)は、図5(k)の破線5K−5Lで切断した断面図である。
【0061】
本実施の形態における配線基板では、多孔質導電層14を用いているが、このような多孔質導電層14を用いない場合には、太い配線領域と細い配線領域が存在する配線パターンの場合、細い配線領域に僅かでも溶液が過剰に供給されてしまうと、細い配線領域から溶液が広がってしまう。このため、所望の配線パターンが形成されなくなる場合や、溶液が供給された細い配線領域と太い配線領域とにおける溶媒の乾燥速度が異なることにより、局所的に配線が薄くなってしまうといったことを防ぐことができる。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
基板10として0.5μm厚のガラス基板を用い、ガラス基板の表面に濡れ性変化層11としてポリイミド樹脂を形成した。この濡れ性変化層11は、側鎖付ポリイミド樹脂であるチッソ製PIA−X491−E01をN−メチルピロリドンに溶解した溶液をスピンコーターにより塗布した後、200℃で熱処理を行なうことにより形成した。形成された濡れ性変化層11の膜厚をエリプソメータで測定したところ約2μmであった。
【0063】
このように、基板10上に濡れ性変化層11を形成したものについて、図6に示すパターンの形成されたフォトマスク30を用いて紫外線を照射し露光を行なった。フォトマスク30は、開口部31とマスク部32とによるパターンの形成されたものであり、照射される紫外線の光源には、λ=254nmの水銀ランプを用い、照射エネルギー密度は5J/cmとした。フォトトマスク30に形成されている開口部31のパターンにより、配線領域が形成されるものであり、幅W1が15μmの細い配線領域(引き出し線)となる部分と、幅W2が50μmの太い配線領域(主配線)となる部分により形成されており、更に細い配線領域となる部分に接続された直径D=30μmの円形のパッド領域となる部分が形成された形状のものである。尚、細い配線領域(引き出し線)同士の間の距離Sは、35μmであり、長さLは、80μmである。
【0064】
次に、図7に示すようにフォトマスク30を用いた露光の終了後の濡れ性変化層上に多孔質導電層14を形成した。この多孔質導電層14は、高表面エネルギー領域上に形成した。多孔質導電層14を形成するための溶液は、フィラーとして平均粒子径は0.2μmのAg微粒子を用い、樹脂バインダとして熱硬化樹脂である多価アクリレートモノマーKAYRAD D330を用い、フィラー:樹脂バインダの重量比は、90:10、即ち、(金属微粒子)/(金属微粒子+樹脂バインダ)の重量比率が90%とした。このフィラーと樹脂バインダとの溶質をジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート(BCA)の溶媒に溶解することにより溶液化させた。尚、溶媒の重量濃度は90%とした。
【0065】
このようにして得た溶液を更にプラネタリミキサ、ロールミルにより分散させ均一なスクリーン印刷をすることが可能なAgペーストを得た。このAgペーストの粘度をブルックフィールド式粘度計測器により測定したところ、150Pa・sであった。
【0066】
多孔質導電層14は、スクリーン印刷法により形成した。スクリーン印刷に用いたスクリーンは500番ステンレスメッシュ(直径20μmのステンレスワイヤを1インチあたり500本の密度で形成されたメッシュ)上に乳剤によるパターンを形成することにより作製した。このスクリーン上にAgペーストを塗布し、ウレタンゴム製のスキージを走査することで、Agペーストによる多孔質導電体層14のパターンを形成した。
【0067】
この後、150℃の熱処理を行なうことにより、Agペーストに含まれる溶媒を揮発させ、多孔質導電層14を形成した。このように形成した多孔質導電層14の厚さを触針式膜厚計測装置で測定したところ4〜5μmの範囲であり、断面形状は、緩やかな曲面となっていた。また、この多孔質導電層14の断面をFIB(収束イオンビーム)により切り出して、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察したところ、表面及び膜中に1〜2μmの空隙が多数存在していることを確認した。また、熱処理後の多孔質導電体層14の電気抵抗率(体積抵抗率)を測定したところ1×10−5Ω・cm以下であり、配線材料として用いることができることが確認された。
【0068】
このように、多孔質導電層14の形成されたものについて、図7に示す位置にインクジェット法によりナノメタルインクを滴下させた。用いたナノメタルインクは、Ag微粒子を溶媒中に分散させたものであり、粘度は10mPa・sである。インクジェット法に用いたインクジェット装置は、圧電素子により微小液滴の吐出が可能なものであり、吐出する液滴を8pL(直径約25μm)に設定したものである。また、このインクジェット装置は、液滴の滴下する位置合せのために、2次元移動が可能な可動ステージが設けられている。ナノメタルインクが滴下された後は、200℃の熱処理を行なうことにより、乾燥させてナノメタルインク中のAgナノ粒子と結合している分散剤等の有機材料を除去した。
【0069】
このようにして、多孔質導電層14からなる太い配線領域23と、導電層15からなる細い配線領域22及びパット領域24から構成される配線領域を有する実施例1に係る配線基板が形成した。
【0070】
熱処理後の配線を光学顕微鏡で観察したところ、フォトマスク30と同様のパターンからなる配線が形成されていることが確認された。これにより、高表面エネルギー領域12上にのみ配線が形成されていることが確認された。また、円形パッド部と主配線部の多孔質導電体層14にプローブを接触させ、デジタルマルチメータによりI−V特性を測定したところ、オームの法則にそったものであり、十分な電気的な導通が得られていることを確認した。
【0071】
(比較例1)
比較例1として、図8に示すような配線基板を作製した。比較例1における配線基板は、太い配線領域に多孔質導電体層が形成されていない構成のものである。実施例1と同様の方法により、図8に示す位置に、ナノメタルインクをインクジェット法により滴下して配線を形成した。
【0072】
このようにして、導電層115からなる太い配線領域123、細い配線領域122及びパット領域124から構成される配線領域を有する比較例1に係る配線基板が形成した。
【0073】
比較例1により形成された配線基板は、配線を光学顕微鏡で観察したところ、高表面エネルギー領域上には配線が形成されているが、太い配線領域と細い配線領域の接続部分では、膜厚が非常に薄く形成されており、将来的な使用において断線の可能性があることが確認された。また、円形パッド部と太い配線領域である主配線部とにプローブを接触させ、デジタルマルチメータによりI−V特性を測定したところ、全体の約20%において、導通不良が確認された。更に、導通が確認された配線においても、抵抗値は実施例1の10倍〜100倍の高抵抗であることが確認された。
【0074】
(実施例2)
実施例1と同様の方法により、配線基板を作製した。但し、多孔質導電体層14を形成するために用いたフィラー(金属微粒子)と樹脂バインダとの比率を、フィラー:樹脂バインダが、85:15であるもの、即ち、(金属微粒子)/(金属微粒子+樹脂バインダ)の重量比率が85%であるものと、80:20であるもの、即ち、(金属微粒子)/(金属微粒子+樹脂バインダ)の重量比率が80%であるものとを作製した。このように作製した配線基板における配線抵抗は実施例1のものと比較して、フィラー:樹脂バインダが85:15であるものは約60%上昇したものの十分な電気的な導通が確認された。一方、フィラー:樹脂バインダが80:20であるものは電気的な導通が確認されなかった。実施例1と実施例2の結果より、フィラー:樹脂バインダが85:15〜90:10であること、即ち、(金属微粒子)/(金属微粒子+樹脂バインダ)の重量比率が85〜90%であることが、配線基板を形成する上で必要であることが確認された。
【0075】
(実施例3)
実施例1と同様の方法により、配線基板を作製した。但し、多孔質導電体層14を形成ために用いたフィラーの平均粒子径は、平均粒径0.1μmのAgフィラー、平均粒径1μmのAgフィラー、平均粒径2μmのAgフィラーの3種類のフィラーにより、各々配線基板を作製した。平均粒径0.1μmのAgフィラーにより作製したAgペーストは、粘度がブルックフィールド方式で300Pa・sを超える高粘度ペーストとなり、このAgペーストを用いてスクリーン印刷を行なったところ、パターン抜けが生じてしまい正常な印刷を行なうことができなかった。また、平均粒径1μmのAgフィラー、平均粒径2μmのAgフィラーにより作製したAgペーストを用いてスクリーン印刷を行なったところ、平均粒径2μmのAgフィラーを用いた場合、形成された配線基板における配線抵抗は、実施例1における配線基板における配線抵抗の約1.5倍の高抵抗なものとなった。また、平均粒径1μmのAgフィラーを用いた場合、形成された配線基板における配線抵抗は、実施例1における配線基板における配線抵抗とあまりかわらなかった。
【0076】
よって、Agフィラーの平均粒径Rは、0.1μm<R≦1μmの範囲であることが好ましい。また、実施例1では、平均粒径0.2μmのAgフィラーで良好な配線基板を得ることができるものの、本実施例の平均粒径0.1μmのAgフィラーでは、高粘度となってしまう。経験的な観点に基づくならば、この間のAgフィラーの平均粒径Rが0.15μm以上であれば、比較的良好な配線基板を得ることができるものと考えられる。
【0077】
フィラーの金属微粒子の粒径が大きくなることにより、単位質量あたりの金属微粒子の表面積が減少し、含まれる樹脂バインダの影響が大きくなり、高抵抗になるものと考えられる。
【0078】
また、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。
【符号の説明】
【0079】
10 基板
11 濡れ性変化層
12 高表面エネルギー領域
13 低表面エネルギー領域
14 多孔質導電層
15 導電層
22 細い配線領域
23 太い配線領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上において、高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域とが形成されている濡れ性変化層と、
前記高表面エネルギー領域上の一部又は前記高表面エネルギー領域と接し、前記濡れ性変化層上に形成された多孔質導電層と、
前記多孔質導電層と接し、前記濡れ性変化層の高表面エネルギー領域上において導電性材料により形成された導電層と、
を有することを特徴とする配線基板。
【請求項2】
前記濡れ性変化層は、エネルギーを付与することにより臨界表面張力が変化し、低表面エネルギー状態から高表面エネルギー状態へと変化する材料を含むものであって、
前記エネルギーの付与により、高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域とが形成されているものであることを特徴とする請求項1に記載の配線基板。
【請求項3】
基板上に形成された高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域と、
前記高表面エネルギー領域上の一部又は前記高表面エネルギー領域と接し、前記基板上に形成された多孔質導電層と、
前記濡れ性変化層の高表面エネルギー領域上において導電性材料により形成された導電層と、
を有することを特徴とする配線基板。
【請求項4】
前記基板は、エネルギーを付与することにより臨界表面張力が変化し、低表面エネルギー状態から高表面エネルギー状態へと変化する材料を含むものであって、
前記エネルギーの付与により、高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域とが形成されているものであることを特徴とする請求項3に記載の配線基板。
【請求項5】
前記導電層は、インクジェットヘッドにより導電性材料を含む液体を吐出することにより形成されるものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の配線基板。
【請求項6】
前記多孔質導電体層は、金属微粒子と樹脂バインダとを含むものであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の配線基板。
【請求項7】
前記金属微粒子は、Ag微粒子であって、平均粒径Rが0.1μm<R≦1μmの範囲であることを特徴とする請求項6に記載の配線基板。
【請求項8】
前記多孔質導電体層は、(金属微粒子)/(金属微粒子+樹脂バインダ)の重量比率が、85%以上、90%以下であることを特徴とする請求項6または7に記載の配線基板。
【請求項9】
基板上に形成された濡れ性変化層に、エネルギーを付与することにより高表面エネルギー領域と、低表面エネルギー領域とを形成する工程と、
前記高表面エネルギー領域上の一部、または前記高表面エネルギー領域と接して、多孔質導電層を形成する工程と、
前記高表面エネルギー領域上に導電性材料を含む溶液を供給する工程と、
を有することを特徴とする配線基板の製造方法。
【請求項10】
前記エネルギーの付与は紫外線を照射することにより行なわれるものであることを特徴とする請求項9に記載の配線基板の製造方法。
【請求項11】
前記多孔質導電層は、スクリーン印刷法により形成されるものであることを特徴とする請求項9または10に記載の配線基板の製造方法。
【請求項12】
前記導電性材料を含む溶液は、インクジェットヘッドより吐出することにより供給されるものであることを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の配線基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−161127(P2010−161127A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1185(P2009−1185)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】