説明

配線材料、配線の製造方法、及びナノ粒子分散液

【課題】焼成無しで、酸素雰囲気に安定であり、かつ低抵抗な配線材料を提供する。また、従来の配線材料よりも低い温度で還元焼成できる配線材料を提供する。
【解決手段】銅と窒素を含む配線材料であって、当該配線材料には、添加材料として、エリンガム図において銅よりも酸化しやすい材料が0.5atm%以上10atm%以下添加されている。添加材料として、例えば、Si、Zr、Ti、Ni、Sn、Mn、Alのうち少なくとも1種類の金属を含む。この配線材料を加熱還元して低抵抗化する場合、1000Pa以下に減圧した雰囲気で加熱を行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は配線材料、配線の製造方法、及びナノ粒子分散液に係り、特に、インクジェット法などの直描方式による電気配線(電極)パターンの形成に好適な配線材料及びこれを用いた配線形成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機溶剤に金属微粒子を分散させたペースト(分散液)をインクジェット方式によって基板上に吐出して配線パターンを描画する技術が知られている(特許文献1、2参照)。特許文献1では、パターニング配線を形成する際に用いる材料としてナノ銅金属粒子を用いており、ナノ銅金属粒子表面に銅窒化物膜を形成したナノ銅金属粒子を用いる構成が開示されている。また、特許文献2では、窒化銅を含む組成物を加熱還元することによって金属膜を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3870273号公報
【特許文献2】特許4228827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に開示されている方法では、高温に加熱しなければ低抵抗な配線(電極)が得られない。また、特許文献2の段落0016に記載のとおり、従来の方法は、焼成処理によって低抵抗化しているが、200℃付近で原子状水素などの還元ガス雰囲気中で行うなど、雰囲気を選ぶという課題がある。さらに、銅は保存状態によっては容易に酸化してしまうため、材料としての安定性が悪いという課題がある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、焼成無しで、酸素雰囲気に安定であり、かつ低抵抗な配線材料を提供することを目的とする。また、加熱焼成を行うに際して、より低温で焼成できる配線材料を提供することを目的とする。さらに、このような配線材料を用いる配線の製造方法並びにナノ粒子分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために以下の発明態様を提供する。
【0007】
(発明1):発明1に係る配線材料は、銅と窒素を含む配線材料であって、当該配線材料には、添加材料として、エリンガム図において銅よりも酸化しやすい材料が0.5atm%以上10atm%以下添加されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、従来の配線材料と比較して、酸化し難く、室温状態(加熱処理前の初期状態)で低抵抗な配線材料を提供することができる。また、本発明によれば、従来の配線材料と比較して、還元焼成の温度を下げることができる。
【0009】
(発明2):発明2に係る配線材料は、発明1において、前記添加材料が、Si、Zr、Ti、Ni、Sn、Mn、Alのうち少なくとも1種類の金属を含むことを特徴とする。
【0010】
添加材料としては、Si、Zr、Ti、Ni、Sn、Mn、Alに例示される金属元素が好ましい。これらの金属はいずれもCuよりも酸化しやすい材料であり、銅の酸化を抑制しつつ、抵抗率の低下を達成する材料として好適である。これら材料のうちいずれか1種類、若しくは、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0011】
(発明3):発明3に係る配線材料は、発明1又は2において、前記配線材料は、窒化銅(CuN)に前記添加材料が添加されたものであることを特徴とする。
【0012】
かかる態様によれば、窒化銅のみ(添加材料無し)の配線材料と比較して、酸化し難く、低抵抗な配線材料を提供できる。また、従来の配線材料と比較して、低温での加熱還元が可能である。
【0013】
(発明4):発明4に係る配線材料は、発明1乃至3のいずれか1項において、前記配線材料は、未加熱の状態での抵抗率が3.2×10−4[Ωcm]以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明による配線材料は、従来の配線材料と比較して、未加熱の状態(初期状態)での抵抗率が低いため、焼成無しで、配線として使うことも可能である。また、本発明による配線材料は、未加熱の状態(初期状態)の抵抗率と、焼成後における抵抗率との差が、従来の配線材料よりも小さく、温度変化に対しロバストが広い材料(温度依存性の少ない材料)である。
【0015】
(発明5):発明5に係る配線材料は、発明1乃至4のいずれか1項において、前記配線材料は、300℃で焼成したときの抵抗率と、前記焼成前における室温での抵抗率との比が0.55以下であることを特徴とする。
【0016】
この発明態様による配線材料は、焼成によって配線材料から窒素が抜けて金属銅に還元されるため、焼成後の抵抗率は、焼成前の抵抗率よりも下がる。焼成の前後における抵抗率の比(「焼成後の抵抗率」/「焼成前の抵抗率」)で見たときに、焼成後の抵抗率が焼成前の室温での抵抗率の半分以下となる材料とすることが好ましい。
【0017】
(発明6):発明6に係る配線の製造方法は、発明1乃至5のいずれか1項に記載の配線材料を基板上に付与する配線材料付与工程と、前記基板上に付与された前記配線材料を加熱して銅に還元する熱処理工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
基板上に配線材料を付与して配線のパターンを形成する手法としては、インクジェット法、スクリーン印刷法、転写印刷法、気相法など、を用いることができる。
【0019】
この発明によれば、従来の配線材料と比較して、低温での還元処理が可能であり、基板の基材選択性が広い。
【0020】
(発明7):発明7に係る配線の製造方法は、発明6において、前記熱処理工程における加熱温度が300℃以下であることを特徴とする。
【0021】
実験によれば、添加材料を添加しない窒化銅の場合、300℃以上に加熱しなければ、十分に抵抗率が低下しない。これに対し、本発明によれば、300℃以下の加熱温度でも、配線として好ましい低抵抗率を実現できる。
【0022】
(発明8):発明8に係る配線の製造方法は、発明6又は7において、前記熱処理工程は、減圧した雰囲気下で前記加熱が行われることを特徴とする。
【0023】
加熱する際の雰囲気を減圧とすることによって、焼成の温度が低下する。また、大気圧雰囲気での焼成に比べ、減圧雰囲気での焼成の方が、より一層の低抵抗化が可能である。
【0024】
(発明9):発明9に係る配線の製造方法は、前記熱処理工程における雰囲気圧力が1000Pa以下であることを特徴とする。
【0025】
雰囲気圧力が低いほど(真空度が高いほど)、より低い温度での低抵抗化が可能である。好ましくは、100Pa以下、さらに好ましくは、10Pa以下の減圧雰囲気で熱処理を行うことが好ましい。
【0026】
(発明10):発明10に係るナノ粒子分散液は、発明1乃至5のいずれか1項に記載の配線材料のナノ粒子を分散媒に分散させてなることを特徴とする。
【0027】
かかる態様によるナノ粒子分散液は、ペースト状、或いは、インク状の導電性分散液(導電性インク)であり、インクジェット法などによる配線描画に好適である。
【0028】
(発明11):発明11に係るナノ粒子分散液は、発明1乃至5のいずれか1項に記載の配線材料の膜によって銅粒子の表面がコーティングされた構成を有する銅ナノ粒子を分散媒に分散させてなることを特徴とする。
【0029】
かかる態様も発明10と同様に、インクジェット法などによる配線描画に好適である。
【0030】
また、発明10及び11によるナノ粒子分散液は、酸化し難く、材料としての安定性が高く、保存が容易である。なお、発明10におけるナノ粒子並びに発明11における銅ナノ粒子の平均粒径は、1〜100nmの範囲であることが好ましい。より好ましくは、5nm〜50nmの範囲である。
【0031】
(発明12):発明12に係る配線の製造方法は、発明10又は11に記載のナノ粒子分散液を基板上に付与して配線パターンを形成することを特徴とする。
【0032】
ナノ粒子分散液を基板上に付与する配線材料付与工程によって基板上に付与された配線材料を加熱焼成せずに、配線として用いることも可能であるし、基板上に付与された配線材料を加熱焼成してもよい。基板上に付与されたナノ粒子分散液に含まれる配線材料を加熱して銅に還元する熱処理工程を付加することにより、一層の低抵抗化が可能である。
【0033】
(発明13):発明13に係る配線の製造方法は、発明10又は11に記載のナノ粒子分散液をインクジェット方式によって基板上に付与して配線パターンを描画する配線パターン描画工程と、前記基板上に付与された前記ナノ粒子分散液に含まれる前記配線材料を減圧雰囲気下で焼成させる焼成工程と、を有することを特徴とする。
【0034】
この態様によれば、低抵抗でかつ微細な銅配線(銅を主成分とする配線)を得ることが可能である。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、酸化し難く、酸素雰囲気に安定で、かつ低抵抗な配線材料を提供することができる。また、従来の配線材料と比較して、より低い温度で還元焼成できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例に係る配線材料(CuN−Mn)のX線回折パターンを示す図
【図2】本発明の実施例に係る配線材料(CuN−Mn、CuN−Ti、CuN−Al)の抵抗率と温度の関係を示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0038】
<実施例1〜7>
本発明の実施形態に係る配線材料は、窒化銅(CuN)に、添加材料として、銅よりも酸化しやすい非貴金属を1atm%以上10atm%以下添加したものである。
【0039】
表1に示した実施例1〜7では、窒化銅に、各種の添加材料(非貴金属)をおよそ2atm%(原子%)添加したものを用いた。
【0040】
【表1】

【0041】
材料としては、スパッタ法にて銅(Cu)のターゲットに各金属材料を添加したものを用い、室温にて220nmの厚みで形成した。得られた材料の結晶構造は、X線回折(XRD)観察より、窒化銅「CuN」が確認された。なお、材料にはアモルファス成分を含んでいてもよい。また、一部は窒化されていないCu成分があってもかまわない。
【0042】
得られた各材料(実施例1〜7)の抵抗率を室温にて測定したところ、表1に示したように、4.0E−05[Ωcm]〜3.2E−04[Ωcm]であった。なお、「4.0E−05」の表記は「4.0×10−5」を意味している。すなわち、「E−n」という記載によって10の「−n乗」を表し、「E+n」という記載によって10の「n乗」を表す(nは0以上の整数)。
【0043】
また、これらの各材料の膜を1000Pa程度の真空下で300℃に加熱し、300℃で10分間のアニール処理を施した。これにより、それぞれの材料とも、室温における抵抗率よりも抵抗率が下がることが確認された(表1参照)。これは、アニール処理により、窒化銅(CuN)から窒素が抜けて金属銅(Cu)となっているため(銅に還元されたため)であると考えられる。
【0044】
表1の実施例1〜7で用いた添加材料(Si、Zr、Ti、Ni、Sn、Mn、Al)は、いずれもCuよりも酸化しやすい材料である。酸化物生成のための標準自由エネルギー(標準生成ギブズエネルギー)と温度の関係を示したエリンガム図から、Cuよりも酸化しやすい材料を容易に把握することができる。
【0045】
添加材料としては、ここに例示したものに限らず、Cuよりも酸化しやすい材料であれば他の材料でもかまわない。エリンガム図においてCuよりも酸化しやすい材料を添加材料として選択することができる。これらの添加材料がCuよりも先に酸化することで、Cuの酸化を防ぎ、低抵抗配線として機能すると考えられる。
【0046】
また、実施例1〜7では、添加材料として1種類の金属を添加しているが、2種類以上を組み合わせてもよい。また、添加材料としての非貴金属は、金属状態でもよいし、窒化物状態でもよく、或いは、銅との合金状態でもかまわない。
【0047】
<比較例1>
表1の「比較例1」では、窒化銅に添加材料を入れない材料(添加無しの窒化銅)を用いた。この比較例1に係る材料(CuN)の室温における抵抗率は、5.0E−04[Ωcm]であり、添加材料を入れたもの(実施例1〜7)よりも高い値であった。また、この比較例1に係る材料(CuN)を100Pa程度の真空度で300℃、10分間アニール処理を施した結果、抵抗率は6.0E−04[Ωcm]となり、初期状態(アニール処理前)よりも高くなった。この現象の理由は十分に解明されていないが、アニール処理によって窒素が十分に抜けない、或いは、装置内の僅かな酸素によってCuが酸化される、などの理由が考えられる。
【0048】
<実施例1〜7に係る材料と比較例1に係る材料との対比>
表1の実施例1〜7に示した材料は、比較例1に比べて、室温における抵抗率(未加熱の状態での抵抗率)が低く、配線材料として良好な材料である。
【0049】
参考のために、図1にX線回折パターン(XRD)を示す。図1は、窒化銅にマンガン(Mn)を約2atm%添加した材料(実施例6)のX線回折パターンを示す図である。図1の縦軸はXRD強度を表しており、1秒当りのカウント数(cps:count per second)を単位とした。図1では、比較のために、添加材料を添加しない窒化銅(表1における「比較例1」)についてのX線回折パターンを併記した。
【0050】
図1に示すように、比較例1の材料(CuN)及び実施例6の材料(CuN−Mn)ともに、室温では「CuN」起因のピークのみであったが、300℃の加熱により純銅Cuに変化している。しかしながら、添加材料無し(比較例1)の材料では、加熱処理を施しても、十分にCuになりきっておらず、「CuN」のピークと「CuO」のピークが観測された。
【0051】
その一方で、Mnを添加した材料(実施例6)は300℃の加熱でCu単相となり、強いピークが観測された。これらの結果は、アニール処理(「熱処理」に相当)による抵抗変化の結果(図2参照)と一致している。
【0052】
なお、実施例6の材料におけるマンガン(Mn)に代えて、アルミニウム(Al)を添加したもの(実施例7)について、より高真空度10Pa、300℃にて焼成すると、抵抗率が6.2E−6[Ωcm]と大幅に低下した。
【0053】
加熱焼成する際に減圧雰囲気で加熱することにより、抵抗率を一層低下させることが可能であり、真空度が高いほど、より効果的である。
【0054】
<実施例8>
表1で説明した比較例1(無添加のもの)の材料と、実施例3(Ti添加)、実施例6(Mn添加)、実施例7(Al添加)の各材料に関して、10Paの真空度で温度を変えて抵抗率の変化を調べた。図2にその結果を示す。横軸はアニール温度(℃)、縦軸は抵抗率(Ωcm)を示す。ただし、ここでは、添加材料(Ti、Mn、Al)をそれぞれ1%程度添加した材料を用いた。
【0055】
図2に示したとおり、窒化銅CuNに添加材料(Ti、Mn、Al)を加えた材料(CuN−Ti、CuN−Mn、CuN−Al)は、いずれも250℃以下で低抵抗化がはじまっており、比較例1の無添加のもの(CuN)よりも、より低い温度で配線として良好な材料を得ることができた。
【0056】
例えば、CuN−Alに注目すると、室温での抵抗率は3.3E−5[Ωcm]であった。さらにこの材料を200℃に加熱すると、1.2E−4[Ωcm]と僅かに抵抗率が上昇したものの、良好な値であった。さらに、これを250℃に加熱すると、抵抗率は2.1E−5[Ωcm]と低下し、300℃に加熱すると、6.2E−6[Ωcm]と純銅並みの抵抗率となり、配線材料として十分であった。
【0057】
<比較例2>
その一方で、添加材料を何も加えていないもの(無添加のCuN)は、室温での抵抗率が1E−4[Ωcm]オーダーであり、加熱による温度の上昇とともに徐々に抵抗率が上昇している。250℃まで抵抗率は上昇し続け、250〜300℃までの温度でなければ低抵抗化が始まらない。加熱温度が250℃を超えて300℃になると、大幅に抵抗率が下がり、純銅に近い値となる。
【0058】
すなわち、本発明の実施例に係るCuN−Ti、CuN−Mn、CuN−Al(それぞれ1%程度添加)の各材料は、CuN(添加材料無しのもの)と比較して、室温において、より低い抵抗率であり、かつ、温度依存の少ない(温度変化に対して抵抗率の変化が少ない)ものである。
【0059】
表1の実施例1〜7の場合、焼成後の抵抗率と焼成前の抵抗率(室温抵抗率)との比を調べると、その比(「焼成後の抵抗率」/「焼成前の抵抗率」)は、約0.13〜0.55の範囲となっている。実施例7に係る材料(CuN-Al)における上記抵抗率の比が最も大きい値(0.55)となり、他の実施例1〜6に係る各材料における上記抵抗率の比はこれよりも小さい値となっている。
【0060】
本発明の実施例に係る材料(CuN−Ti、CuN−Mn、CuN−Al等)は、材料のロバストや基材の選択肢の観点から、より低い温度で(300℃未満の温度で)低抵抗な材料が得られるので、配線材料として好ましいものである。
【0061】
<添加材料の添加量について>
添加材料の添加量の上限は、用途によってその許容量が変わってくるが、配線材料の主成分であるCuと同等程度の抵抗率を求めるとすると、好ましくは、10atm%以下がよい。10atm%を超えると、焼成後の抵抗率がCuのみの場合よりも5倍以上大きくなる。これは、原理的にCuよりも高抵抗な金属が材料中に含まれるためである。添加量の上限として、より好ましくは5atm%以下である。
【0062】
添加量の下限としては、0.5atm%以上が好ましく、さらに好ましくは1atm%以上である。添加量を変化させた実験による知見から、添加材料を0.5atm%以上添加すると、相応の効果が現れ、1atm%添加すると、明らかに効果がある。
【0063】
<実施例9>
材料として窒化銅(CuN)にNiを5atm%添加したものを用いた。これを減圧中(10Pa)にて300℃加熱焼成したものの抵抗率を測定したところ、8E−5[Ωcm]であった。なお、バルク材料の銅の抵抗率は1.7E−5[Ωcm]である。
【0064】
Niの添加量を変えて、CuNにNiの添加材料を7atm%添加したものを用い、同様な実験を行った。このときの300℃加熱焼成後の抵抗率は1E−4[Ωcm]となり、添加量5atm%の場合に比べて抵抗率が大きなものとなった。
【0065】
添加材料の添加量を増やしていくと、その添加材料の抵抗値に近づく傾向になるため、金属のなかでも、より抵抗の低いCuの量(割合)が多い方が好ましい。実験に基づく知見から、添加材料の添加量の上限は10atm%以下であることが好ましい。
【0066】
<減圧下での加熱の効果について>
上述した各種の実験を通じて、加熱する際の雰囲気を減圧とすることによって、焼成の温度が下がることがわかった。焼成の際に、好ましくは1000Pa以下に減圧し、より好ましくは、100Pa以下、さらに好ましくは10Pa以下に減圧する。
【0067】
<インクジェット方式による配線描画に好適な配線材料の形態について>
(導電性インクの例1)
窒化銅に、添加材料としてCuよりも酸化しやすい材料(例えば、Si,Zr,Ti,Ni,Sn,Mn,Alなど)を0.5atm%以上10atm%以下添加してなる材料の微粒子(例えば、平均粒径8nm程度)をアルコール溶媒その他の分散媒に分散させてなるナノ粒子分散液(導電性インク)を得る。
【0068】
(導電性インクの例2)
或いはまた、窒化銅に添加材料としてCuよりも酸化しやすい材料(例えば、Si,Zr,Ti,Ni,Sn,Mn,Alなど)を0.5atm%以上10atm%以下添加してなる材料を銅粒子のコーティング膜として用い、銅粒子の周りに、当該窒化銅に微量元素を添加した材料の膜(耐酸化性膜)を付けて成る微粒子を、分散媒に分散させてなるナノ粒子分散液(導電性インク)を作製してもよい。
【0069】
上述の導電性インクの例1、例2で例示したナノ粒子分散液(導電性インク)を用いて、インクジェット装置の液体吐出ヘッドから当該ナノ粒子分散液を吐出し、その吐出液を基板に付着させることによって基板上に配線パターンを描画することができる。
【0070】
(導電性インクの具体例)
窒化銅、或いは、それに添加材料を添加したものは、ガス中蒸着法にて作製した。作製方法は、特に限定されず、蒸着法やアーク法などの気相法でもかまわないし、液相法でもかまわない。いずれの方法においても所望の組成が得られることが重要である。
【0071】
作製した材料を微粒子化して、当該材料のナノ粒子を得る。粒子サイズとしては、平均粒径で8nm程度のものを用いた。平均粒径は、このサイズに限定されず、1nm以上100nm以下の範囲で適宜選択できるが、5nm程度以上50nm程度以下のものであることが特に好ましい。
【0072】
また、この材料の粒子(「ナノ粒子」に相当)を分散させるために、粒子にメチルヘキサヒドロ無水フタル酸を添加して、液の粘度を10mPa.S(25℃)に調整した。このナノ粒子分散液を用いてインクジェット装置にてガラス基板上に配線パターンの描画を行った。描画した配線パターンは典型的なもので、線幅20μm、厚み3μmであった。
【0073】
表1の実施例1〜7で説明した各添加材料を添加した各材料ともに、良好に描画可能であった。
【0074】
<実施例10>
一例として、窒化銅にTi材料を添加した材料は、アンモニアガス中にてガス中蒸着法にて作製した。得られた粒子のサイズとしては平均粒径で8nm程度のものを用いた。この窒素化銅粒子を分散させるために、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸を添加して、液の粘度を10mPa.S(25℃)に調整した。このようにインク化した液(「ナノ粒子分散液」に相当)を用いてインクジェット装置にてガラス基板上に配線パターンの描画を行った。描画した配線パターンは典型的なもので、厚み3μmであった。良好に描画可能であった。
【0075】
得られた材料は、室温にて高抵抗であったが、10Pa程度の真空中にて250℃にて焼成することによって、抵抗率が約2E−5[Ωcm]となり、配線材料として良好なものであった。
【0076】
<比較例3>
実施例10と同様に、微粒子として、添加材料無しの窒化銅(平均粒径8nm程度)を用い、これをメチルヘキサヒドロ無水フタル酸に分散させて、液の粘度を10mPa.S(25℃)に調整した。このようにインク化した液を用いてインクジェット装置にてガラス基板上に配線パターンの描画を行った。さらに、実施例10と同様に、10Pa程度の真空中にて250℃で焼成したが、得られた配線の抵抗率は約6E−3[Ωcm]と高いものであった。
【0077】
以上説明したように、本発明の実施例1〜10に示した材料を用いることにより、銅を主成分とする良好な低抵抗配線を形成することができる。
【0078】
また、本発明の適用に関する上述の説明では、銅と窒素が均一に反応したもの(窒化銅)を主に説明したが、銅の周りに窒化銅が存在するような微粒子を原料にしてもよい。また、配線材料の表面の保護層として窒化銅を用いてコアシェル構造としても良く、それらに微量金属が添加されていてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅と窒素を含む配線材料であって、
当該配線材料には、添加材料として、エリンガム図において銅よりも酸化しやすい材料が0.5atm%以上10atm%以下添加されていることを特徴とする配線材料。
【請求項2】
請求項1において、
前記添加材料が、Si、Zr、Ti、Ni、Sn、Mn、Alのうち少なくとも1種類の金属を含むことを特徴とする配線材料。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記配線材料は、窒化銅(CuN)に前記添加材料が添加されたものであることを特徴とする配線材料。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記配線材料は、未加熱の状態での抵抗率が3.2×10−4[Ωcm]以下であることを特徴とする配線材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、
前記配線材料は、300℃で焼成したときの抵抗率と、前記焼成前における室温での抵抗率との比が0.55以下であることを特徴とする配線材料。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の配線材料を基板上に付与する配線材料付与工程と、
前記基板上に付与された前記配線材料を加熱して銅に還元する熱処理工程と、を有することを特徴とする配線の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記熱処理工程における加熱温度が300℃以下であることを特徴とする配線の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7において、
前記熱処理工程は、減圧した雰囲気下で前記加熱が行われることを特徴とする配線の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記熱処理工程における雰囲気圧力が1000Pa以下であることを特徴とする配線の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の配線材料のナノ粒子を分散媒に分散させてなることを特徴とするナノ粒子分散液。
【請求項11】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の配線材料の膜によって銅粒子の表面がコーティングされた構成を有する銅ナノ粒子を分散媒に分散させてなることを特徴とするナノ粒子分散液。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のナノ粒子分散液を基板上に付与して配線パターンを形成することを特徴とする配線の製造方法。
【請求項13】
請求項10又は11に記載のナノ粒子分散液をインクジェット方式によって基板上に付与して配線パターンを描画する配線パターン描画工程と、
前記基板上に付与された前記ナノ粒子分散液に含まれる前記配線材料を減圧雰囲気下で焼成させる焼成工程と、
を有することを特徴とする配線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−79933(P2012−79933A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224031(P2010−224031)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】