説明

酸化亜鉛基板の処理方法

【課題】亜鉛シリサイドやシリカなどが残留しないZnO基板の成長前処理方法を提供する。
【解決手段】Zn極性面を主面としたZnO単結晶の基板を、EDTAキレート化合物を含む溶液をエッチャントとして用いてエッチングするエッチング工程と、エッチングの後、配位子を有する電解質溶液を洗浄液として用いて基板を洗浄する洗浄工程と、を有する。前記エッチャントはEDTA・2Na(エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム)及びEDA(エチレンジアミン)の混合溶液であり、前記洗浄液は、EDTA・2Na及びEDAの混合溶液、EDTA・2Na及びEDAのうちいずれか1の純水による希釈液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛(ZnO)基板の処理方法に関し、特に、結晶成長前に行われる基板処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛(ZnO)は、半導体発光素子に極めて適した物性を有し、青ないし紫外領域の光素子用の材料として期待されている。また、発光素子に限らず、受光素子、表面弾性波(SAW)デバイス、圧電素子等にも広く応用が可能である。さらに、原材料が安価であるとともに、環境や人体に無害であるという特徴を有している。
【0003】
一般に、ZnO基板上にZnO系半導体の結晶成長を行う際には、基板表面のダメージ層の除去や平坦化、残渣除去のため、基板エッチング等の基板前処理が行われる。例えば、特許文献1には、水熱合成法で形成したZnO基板を、EDTA・2Na(エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム)とEDA(エチレンジアミン)の混合溶液をエッチング液として用いたエッチングについて開示されている。また、特許文献2には、蓚酸を含有する溶液で酸化亜鉛系材料をエッチングする第1の工程と、アルカリ性溶液を用いて、上記第1の工程におけるエッチング残渣を除去する第2の工程とを有するエッチング方法について開示されている。また、特許文献3には、基板表面の最終処理を、pH3以下の酸性ウェットエッチングで行い、Znの水酸化物の発生を防ぐことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−1787公報
【特許文献2】特開2010−67824号公報
【特許文献3】国際公開WO2009/001919号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】コロイドと界面の化学 第二版、北原文雄、青木幸一郎 共訳/廣川書店
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ZnO単結晶基板が近年の基板製造技術の進歩により半導体素子製造用基板として高い品質に達していると考えられるものの、このような高品質のZnO基板を用いた場合であっても、結晶成長を行う際のエッチング等の基板前処理において、以下のような問題点を有しているという知見を得、かかる特有の問題を解決せんとしてなされたものである。
【0007】
すなわち、従来の方法では、基板表面にSi(シリコン)が何らかの状態(亜鉛シリサイド、付着シリカ、埋没シリカ等)で残り、このような基板表面のSiがMgZnOなどのZnO系半導体成長層内に拡散・残留すること、また成長層の表面平坦性、モフォロジを劣化させるなど、結晶成長の阻害要因になるという知見を得、かかる問題を解決せんとしてなされたものである。
【0008】
本発明の目的は、亜鉛シリサイドやシリカなどが残留しないZnO基板の成長前処理方法を提供することにある。かかる前処理により、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相堆積)法などの結晶成長において表面平坦性に優れ、Siの拡散のない高品質な結晶を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、Zn極性面を主面としたZnO単結晶の基板を、EDTAキレート化合物を含む溶液をエッチャントとして用いてエッチングするエッチング工程と、エッチングの後、配位子を有する電解質溶液を洗浄液として用いて基板を洗浄する洗浄工程と、を有することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】評価用としてZnO基板上にZnO層及びMgxZn1-xO層の結晶成長を行ったウエハを示す断面図である。
【図2】実施例1による基板を用いた成長層の評価結果、具体的には、XRD2θスキャン(a)、(100)面ロッキングカーブ(b)、AFM像(c)、SIMS深さ方向プロファイル(d)を示す図である。
【図3】実施例2による基板を用いた成長層の評価結果、具体的には、XRD2θスキャン(a)、(100)面ロッキングカーブ(b)、AFM像(c)を示す図である。
【図4】実施例3による基板を用いた成長層の評価結果、具体的には、XRD2θスキャン(a)、(100)面ロッキングカーブ(b)、AFM像(c)を示す図である。
【図5】実施例4による基板を用いた成長層の評価結果、具体的には、XRD2θスキャン(a)、(100)面ロッキングカーブ(b)、AFM像(c)を示す図である。
【図6】実施例5による基板を用いた成長層の評価結果、具体的には、XRD2θスキャン(a)、(100)面ロッキングカーブ(b)、AFM像(c)を示す図である。
【図7】比較例1による基板を用いた成長層の評価結果、具体的には、XRD2θスキャン(a)、(100)面ロッキングカーブ(b)、AFM像(c)、SIMS深さ方向プロファイル(d)を示す図である。
【図8】比較例2による基板を用いた成長層の評価結果、具体的には、XRD2θスキャン(a)、(100)面ロッキングカーブ(b)、AFM像(c)を示す図である。
【図9】実施例1〜5及び比較例1,2による処理を行った基板を用いた成長層の評価結果をまとめて示す図である。
【図10】エッチング混合溶液と洗浄液の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下においては、亜鉛シリサイドやシリカなどのSiを含む不純物が残留しないZnO基板の成長前処理方法について図面を参照して詳細に説明する。また、本実施形態に係る基板処理方法の特徴、構成及び効果を説明するための比較例についても詳述する。また、当該処理方法による処理を行った基板を用いて成長した結晶層の特性を説明するための比較例についても詳述する。
【0012】
[MOCVD装置]
本実施形態及び比較例により処理を行った基板を用いて結晶成長を行い、その成長層について評価及び分析を行った。まず、結晶成長に用いたMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置の構成及び結晶成長材料について以下に説明する。
【0013】
用いたMOCVD装置は、ガス供給部、反応容器部及び排気部から構成されている。ガス供給部は、有機金属化合物材料を気化して供給する部分と、気体材料ガスを供給する部分と、これらのガスを輸送する配管を備えた輸送部とから構成されている。
【0014】
有機金属化合物材料ガスと気体材料ガスは、成長時にはそれぞれ第1ラン配管及び第2ラン配管を通して反応容器へキャリアガス(窒素)にて送気される。第1ラン配管及び第2ラン配管にはそれぞれ流量調整装置(マスフローコントローラ)が設置されており、所定の流量に調整されたキャリアガスにより、反応容器に取付けられたシャワーヘッドへ送気される。成長待機時には、有機金属材料ガス及び気体材料ガスは、それぞれ第1ベント配管及び第2ベント配管を通して排気される。
【0015】
反応容器部には、有機金属材料ガス及び材料ガスを基板に吹付けるシャワーヘッド、基板を保持するサセプタ、サセプタを加熱するヒーターが設けられている。基板は、ヒーターによって室温から1100℃程度まで加熱できる構造となっている。
【0016】
なお、本実施例における基板温度とは、基板を載置するサセプタの表面の温度を指している。すなわち、MOCVD法の場合、サセプタから基板への熱伝達は直接接触、およびサセプタと基板間に存在するガスにより行なわれる。本実施例で用いた成長圧力1kPa〜120kPa(Pa:パスカル)の間では、基板の表面温度はサセプタの表面温度より最大で10℃低い程度である。
【0017】
また、反応容器内にはサセプタを回転させる回転機構が設けられている。より詳細には、サセプタはステージ上に回転自在に支持され、回転モータによって回転されるように構成されている。
【0018】
排気部は、容器内圧力調整装置と排気ポンプで構成されており、容器内圧力調整装置にて反応容器内の圧力を0.01kPaないし120kPa程度まで調整できる構造となっている。
【0019】
[結晶成長材料]
本実施例においては、有機金属化合物材料として、構成分子内に酸素を含まない材料を用いた。酸素を含まない有機金属材料は、水蒸気(酸素材料又は酸素源)との反応性が高く、低成長圧力、あるいは水蒸気と有機金属(MO)の流量比(FH2O/FMO比)又はVI/II比が低い領域においてもZnO系結晶の成長を可能とする。
【0020】
本実施例においては、II族原料として、DMZn(ジメチル亜鉛)、Cp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)を用いたが、DEZn(ジエチル亜鉛)、MeCp2Mg(ビスメチルペンタジエニルマグネシウム)、EtCp2Mg(ビスエチルペンタジエニルマグネシウム)。また、III族原料として、TMGa(トリメチルガリウム)、TEGa(トリエチルガリウム)、TMAl(トリメチルアルミニウム)、TEAl(トリエチルアルミニウム)、TIBA(トリイソブチルアルミニウム)などを利用することができる。
【0021】
酸素材料(以下、酸素源という。)としては、極性酸素材料(極性酸素源)が適している。特に、HO(水蒸気)は、分子内に水素原子が結合した側と孤立電子対側でδ、δに大きく分極しており、酸化物結晶表面への吸着能力が優れている。
【0022】
また、HO分子は、水素原子結合手と孤立電子対で4面体構造をとり、sp型混成軌道の閃亜鉛鉱構造(Zincblende/Cubic)、ウルツ鉱構造(Wurtzeite/Hexagonal)の酸化物結晶の成長では、優先的に酸素サイトに配向吸着する優れた酸素源である。他の酸素源として、同様に、双極子モーメントが大きくO原子がsp型混成軌道を取る低級アルコール類でも良い。すなわち、具体的には、酸素源として、HO(水蒸気)以外に、低級アルコール類、特に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールの炭素数が1〜5の低級アルコール類が利用できる。なお、本実施例にはHO(超純水:関東化学(株)製、規格:Ultrapur)を用いた。
【0023】
キャリアガス(雰囲気ガス)としては、上記した結晶成長材料と反応しない不活性ガスが適している。また、HO(水蒸気)、TBP(ターシャリーブチルホスフィン)など結晶成長材料の基板表面への吸着を妨げないガスが良い。具体的には、キャリアガス及び雰囲気ガスとして、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、Ar(アルゴン)、Kr(クリプトン)、Xe(キセノン)またはN(窒素)などの不活性ガスを利用できる。本実施例においては、残留O濃度が1ppm未満のN(窒素)ガスをキャリアガスとして用いた。
【0024】
ZnO(酸化亜鉛)基板は、ウルツ鉱(ウルツァイト)構造の結晶で、代表的な基板切り出し面には、{0001}面であるc面、{11−20}面であるa面、{10−10}面であるm面、{10−12}面であるr面がある。また、c面には、Zn極性面(+c面)とO極性面(−c面)がある。
【0025】
以下に説明する実施例及び比較例においては、水熱合成法(hydrothermal method)で製造されたインゴットより切出されたZnO単結晶基板を用いた。なお、高温熱処理(1000℃以上)等の処理により残留Li濃度を低減した基板を用いた。
【0026】
また、ZnO単結晶基板10として、基板主面(結晶成長面)がZn極性面(+c面)である基板(以下、c面ZnO単結晶基板ともいう。)が好ましい。下記実施例及び比較例においては、結晶成長面がZn極性面である基板を用いた。また、基板主面(結晶成長面)がa軸およびm軸の何れかに傾いた基板であることが好ましい。下記実施例及び比較例においては、具体的には、(0001)面が [10−10]方向に0.5°傾いた、いわゆる0.5°オフ基板(あるいは、c面がm軸方向に0.5°傾いた0.5°オフ基板)を用いた。なお、{ }は等価な面の代表値を示し、( )は固有の面を示す。例えば、{111}=(111),(−111),(1−11),(11−1)である。同様に、< >は等価な軸方位の代表値を示し、[ ]は固有の軸方位を示す。
【0027】
基板表面ダメージ層の厚みは、(100)ω測定のFWHM(full width at half maximum)値で選別できる。以下に説明する実施例および比較例においては、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用いた。
【0028】
[評価用結晶成長]
図1は、評価用として結晶成長を行ったウエハの断面図を示す。具体的には、ZnO基板10上にZnO層11とMgxZn1-xO層12を成長した。尚、以下に示す実施例及び比較例おいては、MgxZn1-xO層12としてMg0.2Zn0.8O(x=0.2)を成長したが、Mgの組成xは、0<x≦0.68であってもよい。
【0029】
より詳細には、反応容器内のサセプタにZnO基板10をセットし、10rpmで回転した。反応容器を閉じて、第1ラン配管および第2ラン配管から其々窒素ガスを2000cc/min (計4000cc/min)の流量で送気し、シャワーヘッドから基板10に吹き付けた。なお圧力は10kPaとした。
【0030】
第1ラン配管および第2ラン配管より供給するガス流量は、常に一定流量に保った。例えば、DMZnの気化ガスを100cc/minの流量で第1ラン配管に送気する場合には、第1ラン配管基部に設けた流量調節器の流量を1900cc/minに減少し、トータル2000cc/minとしてシャワーヘッドへ送気した。
【0031】
ZnO層11は、成長圧力80kPa、基板温度775℃とし、H2O(水蒸気)を800μmol/min、DMZnを10μmol/minの流量で供給し、100nmの層厚で成長した。Mg0.2Zn0.8O層(以下、単にMgZnO層ともいう。)12は、成長圧力5kPa、基板温度875℃とし、H2O(水蒸気)を800μmol/min、DMZnを30μmol/min、Cp2Mgを1.0μmol/minの流量で供給し、400〜800nmの層厚で成長した。
【0032】
[分析及び評価方法]
表面モフォロジは、AFM(Atomic Force Microscope)により評価を行った。結晶配向性及び欠陥・転位密度については、X線回折(XRD:X-Ray Diffractometer)で評価した。また、結晶中の不純物濃度については、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により評価した。
【0033】
XRD分析は、CuのKα1線(X線)をプローブとし、測定対象より回折されるX線を測定する方法で、結晶の配列状態を評価できる。測定は2θ測定およびロッキングカーブ測定がある。c面ZnO単結晶基板上にZnO系結晶層を成長した場合は、c軸長を(002)2θ測定で評価した。基板に対する成長層の結晶配向性(チルティング、ツイスティングの程度)は(002)面、(100)面のロッキングカーブ測定の半値幅(FWHM:full width at half maximum)で評価した。具体的には、(002)面のロッキングカーブ測定でチルティング評価を行い、(100)面のロッキングカーブ測定でツイスティング評価を行った。但し、(002)面のロッキングカーブ測定は、成長膜が薄膜の場合、基板の回折強度が強く評価が困難になる。これに対し、(100)面のロッキングカーブ測定は、c軸を基準に89°で入射・回折させることで、薄膜(20nm程度)でも感度良く配向性を評価できる。チルティングが測定面側に傾斜している場合は(100)面ロッキングカーブでは評価できないが、他の面が傾斜していればツイスト成分が発生するので2/3の割合でチルティングも評価できる。従って、本発明においては、主に(100)面のロッキングカーブで評価を行った。なお、当然ではあるが、チルティング、ツイスティングの程度が大きければ、欠陥・転位密度が高いことになる。逆に小さければ欠陥・転位密度は低いことになる。
【実施例1】
【0034】
本実施例においては、EDTA・2Na(エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム)とEDA(エチレンジアミン)との混合溶液をエッチング液として用いて基板10の成長前処理を行った。
【0035】
より詳細には、EDTA・2Na(エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム・2水和物、化学式:C1014Na・2HO)の0.2mol/l溶液と、EDA(エチレンジアミン(無水)、化学式:C)との混合溶液を用いた。処理の手順は以下の通りであった。
(i) ZnO基板10の裏面(−c面、酸素極性面)に保護シートを貼る。
(ii) EDTA・2Na:EDA=10:1の体積比で混液し、15分撹拌する。
(iii) ZnO基板10を(ii)の混合溶液の中に入れ、2時間エッチングする。なお、このときエッチングレートは、0.7μm/hである。また、エッチング時間はダメージ層の厚みで決める。
(iv) (ii)の混合溶液:純水=1:10000の体積比で希釈して洗浄溶液を作る。
(v) (iii)のエッチング終了後、(iv)の溶液中にZnO基板10を入れ、洗浄する。同時に、(i)の保護シートを剥がす。
(vi) アセトン中にZnO基板10を入れ、超音波洗浄機に5分かける。アセトンは脱水の目的で使用する。超音波は、気泡が発生する強さとした。
(vii) アセトンを入れ替え、(vi)と同じ工程をもう一度繰り返す。
(viii) 予め加熱したIPA(イソプロピルアルコール)中にZnO基板10を入れ、IPA蒸気中でZnO基板を引き上げる。
【0036】
なお、上記手順(ii)において、EDTA・2Na:EDA=10:1(体積比)の場合、例えば、EDTA・2Na(濃度0.2mol/l)を200mlとするとEDA(無水、密度:0.9g/cm、分子量:60.10)は20mlを用いることを意味する。そして、このときのモル比は以下のように計算される。
・EDTA・2Na溶液(200ml)のモル数
=0.2×(200/1000)=0.04mol
・EDA(20ml)のモル数
=20(ml)×0.9/60.10=0.2995mol≒0.30mol
・EDTA・2Na:EDA(モル比)=0.04:0.30=1:7.5
【実施例2】
【0037】
本実施例の処理方法が上記した実施例1と異なる点について説明する。実施例1と異なる点は、手順(iv)であり、EDAの希釈溶液を洗浄溶液として用いて基板10の成長前処理を行った。すなわち、
(iv) EDA:純水=1:200の体積比で希釈して洗浄溶液を作る。
【0038】
そして、実施例1と同様に、 (iii)のエッチング終了後、(iv)の溶液中にZnO基板10を入れ、洗浄する。同時に、(i)の保護シートを剥がす。その他の工程は、実施例1と同様である。
【実施例3】
【0039】
本実施例の処理方法が上記した実施例1と異なる点は、手順(iv)であり、EDTA・2Naの希釈溶液を洗浄溶液として用いて基板10の成長前処理を行った。すなわち、
(iv) EDTA・2Na:純水=1:100の体積比で希釈して洗浄溶液を作る。
【0040】
そして、実施例1と同様に、 (iii)のエッチング終了後、(iv)の溶液中にZnO基板10を入れ、洗浄する。同時に、(i)の保護シートを剥がす。
【実施例4】
【0041】
本実施例においては、EDAの希釈溶液を洗浄溶液として用いて基板10の成長前処理を行った。処理手順は以下の通りであった。
(i) ZnO基板10の裏面(−c面、酸素極性面)に保護シートを貼る。
(ii) 0.2mol/lのEDTA・2Naを用意する。
(iii) ZnO基板10を(ii)の溶液の中に入れ、2時間エッチングする。
(iv) EDA:純水=1:200になるように、洗浄溶液を作る
(v) (iii)のエッチング終了後、(iv)の溶液中にZnO基板10を入れ、洗浄する。同時に、(i)の保護シートを剥がす。
(vi) アセトン中にZnO基板10を入れ、超音波洗浄機に5分かける。アセトンは脱水の目的で使用する。超音波は、気泡が発生する強さとした。
(vii) アセトンを入れ替え、(vi)と同じ工程をもう一度繰り返す。
(viii) 予め加熱したIPA中にZnO基板10を入れ、IPA蒸気中でZnO基板を引き上げる。
【実施例5】
【0042】
本実施例の処理方法が上記した実施例4と異なる点は、手順(iv)であり、EDTA・2Naの希釈溶液を洗浄溶液として用いて基板10の成長前処理を行った。すなわち、
(iv) EDTA・2Na:純水=1:100の体積比で希釈して洗浄溶液を作る。
【0043】
上記した実施例の処理方法を纏めると、実施例1〜3では、EDTA・2Na及びEDAの混合液(中性ないし弱アルカリ性)でエッチングを行い、その後に、実施例1では中性ないし弱アルカリ性のEDTA・2Na+EDA(希釈溶液)を、実施例2では弱酸性のEDTA・2Na(希釈溶液)を、実施例3ではアルカリ性のEDA(希釈溶液)を洗浄液として用いた。すなわち、エッチング後に「配位子を有する電解質溶液」によって処理(洗浄)を行った。
【0044】
また、実施例4、5では、EDTA・2Na(弱酸性)でエッチングを行い、その後に、実施例4ではアルカリ性のEDA(希釈溶液)を、実施例5では弱酸性のEDTA・2Na(希釈溶液)を洗浄液として用いた。すなわち、エッチング後に「配位子を有する電解質溶液」によって処理(洗浄)を行った。
【0045】
[比較例1〜3]
上記した実施例1〜5による基板処理の評価のため、比較例として以下の方法で基板の処理を行った。
【0046】
(比較例1)
本比較例においては、純水を洗浄溶液として用いて基板10の成長前処理を行った。処理手順は以下の通りであった。
(i) ZnO基板10の裏面(−c面、酸素極性面)に保護シートを貼る。
(ii) EDTA・2Na:EDA=10:1の体積比で混液し、15分撹拌する。
(iii) ZnO基板10を(ii)の混合溶液の中に入れ、2時間エッチングする。なお、このときエッチングレートは、0.7μm/hである。また、エッチング時間はダメージ層の厚みで決める。
(iv) (iii)のエッチング終了後、ZnO基板を純水で流水洗浄する。同時に、(i)の保護シートを剥がす。
(v) アセトン中にZnO基板10を入れ、超音波洗浄機に5分かける。アセトンは脱水の目的で使用する。超音波は、気泡が発生する強さとした。
(vi) アセトンを入れ替え、(vi)と同じ工程をもう一度繰り返す。
(vii) 予め加熱したIPA中にZnO基板10を入れ、IPA蒸気中でZnO基板を引き上げる。
【0047】
(比較例2)
本比較例の処理方法が上記した比較例1と異なる点は、手順(ii),(iii)であり、EDTA・2Naの希釈溶液を用いたエッチング後に、純水を洗浄溶液として用いて基板10の成長前処理を行った。すなわち、より具体的には、
(ii) EDTA・2Naの0.2mol/l溶液を用意する。
(iii) ZnO基板10を(ii)の溶液の中に入れ、2時間エッチングする。
【0048】
[評価結果]
以下に、上記した実施例1〜5、及び比較例1、2により処理を行った基板を用いて結晶成長を行い、結晶成長層について評価を行った。なお、以下においては、理解の容易さのため、実施例1〜5及び比較例1、2の基板又は成長層をEMB1〜5,CMP1,2と略記して説明する場合がある。
【0049】
図2,3,4,5,6は、それぞれ実施例1,2,3,4,5の評価結果を、図7,8は、それぞれ比較例1,2の評価結果を示す図である。具体的には、図2(a),3(a),4(a),5(a),6(a)は、それぞれ実施例1,2,3,4,5の処理を行った基板を用いた成長層のXRD2θ測定結果、図7(a),8(a)は、それぞれ比較例1,2の処理を行った基板を用いた成長層のXRD2θ測定結果を示す。また、図2(b),3(b),4(b),5(b),6(b),7(b),8(b)は、それぞれ実施例1,2,3,4,5,比較例1,2の(100)面ロッキングカーブの測定結果を示す。また、図2(c),3(c),4(c),5(c),6(c),7(c),8(c)は、それぞれ実施例1,2,3,4,5,比較例1,2のAFM評価結果を示す。なお、AFM評価結果は成長層表面の15μm×15μmの領域についてのものである。さらに、図2(d),図7(d)は、それぞれ実施例1、比較例1のSIMS測定結果(深さ方向プロファイル)を示す。また、図9は、実施例1〜5及び比較例1,2の評価結果を表にまとめて示している。
【0050】
上記したように、比較例1においては、EDTA・2Na+EDAエッチャントによるエッチング後に洗浄液として純水を用いて処理した基板上に結晶成長を行い、比較例2においては、EDTA・2Naエッチャントによるエッチング後に洗浄液として純水を用いて処理した基板上に結晶成長を行った。
【0051】
まず、比較例1,2のXRD測定結果について説明する。実施例1〜5及び比較例1,2においては、ZnO基板10上にZnO層11(層厚、約100nm)を成長し、次にMgZnO層12(層厚、400〜800nm)を積層した構造としている。MgZnO結晶のa軸長とc軸長は、Mg組成の増加に従い、a軸長は伸び、c軸長は短くなる。比較例1及び比較例2のXRDの2θスキャン(図7(a),図8(a))では、ZnO結晶の(0002)の回折ピーク(34.42°)と、その高角側にMgZnO結晶の(0002)の回折ピークが観察された。また、成長層の結晶性の劣化に敏感な(100)面ロッキングカーブ(図7(b),図8(b))では半値幅が広くなる傾向が見られた。
【0052】
また、比較例1及び比較例2のAFM像(図7(c),図8(c))を参照すると、MgZnO結晶はステップフロー成長しているものの、成長面に方向性がなく、褶曲状又は凹凸状のモフォロジであった(3次元(3D)成長モード)。このようなモフォロジから、成長層にドメインが形成され結晶性が劣化していることがわかった。
【0053】
また、比較例1のSIMS分析結果(図7(d))を参照すると、Al(アルミニウム)はZnO成長層11とMgZnO成長層12内において検出下限界値(LM(Al))以下であり、ZnO基板10からこれら成長層への拡散は見られなかった。ところが、Si(シリコン)はZnO成長層11では検出下限界値(LM(Si))以下であるが、MgZnO成長層12への拡散が確認された。その濃度は3×1018cmとZnO基板11に含まれるSi濃度より高い値であった。
【0054】
次に、実施例1〜5においては、MgZnO結晶のa軸長はZnO結晶のa軸長にコヒーレントに成長しているので、c軸長が若干長くなる。XRDの2θスキャンの測定結果から、ZnO結晶の(0002)の回折ピーク(34.42°)と、その高角側にMgZnO結晶の(0002)の回折ピークが観察された。また、MgZnO結晶の(100)面ロッキングカーブの半値幅(FWHM)は、ZnO基板の半値幅と同等であり、ツイスト成分はなく欠陥や転位密度は非常に低く、良好な結晶性であることが分かった。
【0055】
また、実施例1〜5のAFM像(図2(c)〜6(c))を参照して説明する。
本実施例において使用したZnO基板10の主面(結晶成長面)はZn極性であるc面で、AFM像の上下方向がa軸方向であり、左右方向がm軸方向である。また、c軸は0.5°オフしている。実施例1から実施例5において、MgZnO結晶はm軸方向にステップフロー成長しており、その結果、m軸方向に階段状の表面形状を有している。従って、AFM像はa軸方向の縦縞状の形態を呈している(2次元(2D)成長モード)。
【0056】
また、実施例1のSIMS分析結果(図2(d))を参照すると、ZnO基板11中に含まれるSiとAlは、ZnO層11およびMgZnO層12内では検出下限界(LM(Si)、LM(Al))以下であり、成長層中への拡散は見られなかった。
【0057】
[洗浄液の濃度等]
以下に説明する実施例、比較例においては、上記したように、EDTA・2Na(濃度0.2mol/l)及びEDA(無水)を原液として用い、これらを混液・希釈したが、これと異なる濃度の溶液を原液として用いる場合には換算して適用すればよい。例えば、濃度が0.5mol/lのEDTA・2Naを使用する場合、0.2mol/lの溶液を使用したときのモル濃度に合わせて使用すればよい。EDAについても同様である。
【0058】
1.実施例1の洗浄液について
1.1 洗浄液の性質
洗浄液に用いたEDTA・2Na及びEDAの混合希釈溶液は、電解質溶液または、キレート配位できる溶液ならばZnO基板表面のシリカまたは亜鉛シリサイドを除去できる。
【0059】
1.2 洗浄液の濃度
エッチング液の洗浄が目的なのでエッチングされない(またはエッチング速度が非常に遅い)ことが好ましく、混合溶液の純水による希釈液において混合溶液1に対して純水が100以上(体積比)が良い。
【0060】
別の観点としては、洗浄工程でZnO基板の裏面(O(酸素)極性面)の保護シートを洗浄中に剥がすので、その際に裏面側がエッチングされない(O極性面は弱酸、弱塩基で容易にエッチングされる)濃度、すなわち混合溶液の純水による希釈液において混合溶液1に対して純水が100以上(体積比)が好ましい。ZnO基板の裏面保護シートの代わりに、耐薬品性と成長雰囲気(温度、ガスなど)で剥離しない保護膜(SiCやGaNなど)を用いることもできる。
【0061】
洗浄液が薄すぎると、電解質およびキレート濃度が薄くなり、シリカが基板表面に付着しやすくなるので、混合溶液:純水において混合溶液1に対して純水が10000未満(体積比)であることが好ましい。
【0062】
1.3 エッチング混合溶液と洗浄液の濃度範囲
エッチング混合溶液と洗浄液の関係を図10に示す。エッチング混合溶液(エッチャント)は、EDTA・2Na:EDA=5:1,10:1,20:1(体積比)などで実用的なエッチング速度が得られる。10:1ならば0.7μm/hのエッチング速度であり、5:1ならばこれより速くなる。逆に20:1ならば遅くなる。
【0063】
洗浄液は、上記エッチング混合溶液より若干薄い(エッチング混合溶液:純水=20:1)程度であれば、洗浄中にエッチングされやすく、より希釈すればエッチングされにくくなる。図10に示した洗浄液は、どれも良好な洗浄特性を示すが、洗浄液の観点からはEDTA・2Na+EDA:純水=1:100ないし1:100000の範囲が好ましい。
【0064】
なお、EDTA・2Na水溶液をEDAと混液したときに混合前の体積の合計値と混合後の体積が一致すると仮定した場合(実際は、混合後の体積は若干小さい)のEDTA・2Na:EDA=5:1で混液する場合のモル濃度は以下のように算出される。ここで、EDAは無水物を使用しているので、モル濃度という概念を用いないが、便宜上モル濃度を算出する。すなわち、EDA(無水、密度:0.9g/cm3、分子量:60.10)を1000 ml 使用したときのモル数は、
[EDAのモル数(mol)]=1000ml×0.9g/cm3÷60.10 =約15.0 mol
従って、EDTA・2Na:EDA=5:1で混液した場合のモル濃度は、
[EDTA・2Na]=0.2 mol/l ×5÷6=0.166 =約0.17 mol/l
[EDA]=15 mol/l ×1÷6=2.5 mol/l
である。同様に、EDTA・2Na:EDA=20:1で混液した場合のモル濃度は、
[EDTA・2Na]=0.2 mol/l ×20÷21=0.190 =約0.19 mol/l
[EDA]=15 mol/l ×1÷21 =0.714=約0.71 mol/l
である。
【0065】
上記したように、EDTA・2Na及びEDAの混合溶液であるエッチャントの混合比(体積比)は、EDTA・2Na:EDA=5:1〜20:1が好ましい。この場合、エッチャントのEDTA・2Na及びEDAのモル濃度は、それぞれ0.17〜0.19mol/l及び2.5〜0.71mol/lの範囲である。
1.4 EDTAキレート材について
EDTAキレート材(化合物)には、Naが付加しないEDTA、Naが1つついたEDTA・1Na、2つついたEDTA・2Na、同様にEDTA・3Na、EDTA・4Naがある。このうち、アルカリ性のEDAと混合して用いるには酸性のEDTA・1Na、EDTA・2Naを用いるのがよい。
【0066】
2.実施例2の洗浄液について
2.1 EDAの希釈比
本実施例では無水EDAを用いた。実施例1と同様に、洗浄液に適した濃度をテストした結果、エッチング混合溶液のEDA濃度より薄ければよいが、実用的にはEDAの純水による希釈比は、EDA:純水=1:100から1:100000(体積比)が良い。
【0067】
なお、EDA:純水=1:100のとき、希釈液の濃度は、
[EDA]=15.0 mol/l ×1÷101=0.148 =約0.15 mol/l
また、EDA:純水=1:100000のとき、希釈液の濃度は、
[EDA]=15.0 mol/l ×1÷100001=0.000148 =約0.00015 mol/l
である。
【0068】
3.実施例3の洗浄液について
3.1 EDTA・2Naの希釈比
本実施例では0.2mol/lのEDTA・2Naを純水で希釈した。洗浄液に適した濃度をテストした結果、エッチング混合溶液のEDTA・2Naの濃度より薄ければよいが、実用的にはEDTA・2Naの純水による希釈比は、EDTA・2Na:純水=1:100から1:10000(体積比)の範囲が良い。
【0069】
なお、EDTA・2Na:純水=1:100のとき、希釈液の濃度は、
[EDTA・2Na]=0.2 mol/l ×1÷101=0.00198 =約0.0020 mol/l
また、EDTA・2Na:純水=1:10000のとき、希釈液の濃度は、
[EDTA・2Na]=0.2 mol/l ×1÷10001=0.0000199 =約0.000020 mol/l
である。
【0070】
4.実施例4の洗浄液について
4.1 EDTA・2Naのエッチング速度
EDTA・2Naは、Zn極性面のZnO結晶面をほとんどエッチングしない。具体的には、そのエッチング速度は、0.005μm/h以下である。しかし、付着シリカや亜鉛シリサイド層は十分に除去できる。EDTA・2Naは、ZnO基板表面に変質層(加工ダメージ層 )がなく、埋没シリカもない状態のエッチングに適している。
【0071】
なお、エッチング工程におけるEDTA・2Naエッチャントのモル濃度は、0.1〜0.5mol/lの範囲が好ましい。
【0072】
4.2 EDAの希釈比の適正範囲については、実施例2と同様である。
【0073】
5.実施例5の洗浄液について
5.1 EDTA・2Naの希釈比の適正範囲については、実施例3と同様である。
【0074】
[Si残留・拡散の原因及び問題点]
1.比較例の問題点
比較例1、2においては、EDTA・2Na+EDAエッチャント又はEDTA・2Naエッチャントによるエッチング後に、標準的な薬液除去処理方法として純水を用いた洗浄を行った。そして、かかる処理を行ったZnO基板上にZnO結晶層およびMgZnO結晶層をMOCVD法で成長した場合において、以下の問題点が明らかとなった。
【0075】
1.1 第1の問題点は、SIMS分析結果(図7(d))で示されるように、MgZnO結晶層へSi(シリコン)が拡散、残留する問題である。本問題は、ZnO結晶層中のSi濃度が検出下限界以下であることから、MgZnO結晶層の成長に特有な問題であると考えられる。
【0076】
MgZnO結晶層中にSiが拡散、残留すると、例えば以下のような問題が生じる。例えば、DH(ダブルヘテロ)構造のLED素子の場合、少なくともn型MgZnO層、発光層としてのZnO層、p型MgZnO層の3層構造を形成する。そして、n型またはp型MgZnOには、電子と正孔(キャリア)を効率よく発光層に注入するために、それぞれの層にはキャリア密度が1×1017から1×1019cm-3程度の不純物ドーピングがなされる。ところが、Siのような残留不純物が結晶層中に高い濃度で混入していると、n型またはp型結晶層の導電性制御が困難になり、発光効率の高いLEDを製作する際の障害となる。
【0077】
より具体的には、Siはn型不純物となりうる物質であり、p型MgZnO結晶層に混入するとn型残留キャリア密度を増加させp型MgZnO層の形成を困難にする。また、n型MgZnO層やMgZnO発光層等においてもSiは導電性制御を困難にしたり、意図しない発光センターを形成し、LEDの発光効率を低下させるので問題である。更には、高濃度のSiは成長層中に欠陥や転位を発生させ、LEDの発光効率を低下させるので問題である。
【0078】
1.2 第2の問題点は、MgZnO結晶層のモフォロジが褶曲状または凹凸状になる問題である。すなわち、MgZnO結晶の成長が阻害される問題である。
【0079】
前述のように、LEDは発光層を発光層よりバンドギャップの大きな層で挟み込んで形成する。この際、バンドギャップ制御のためにMgZnO層を利用する場合があり、MgZnO層の上に他の層を成長させることが想定される。結晶成長において成長層が褶曲状や凹凸状になるとドメイン同士が接する界面に欠陥が生じ、LEDの発光効率を低下させるという問題がある。
【0080】
2.MgZnO結晶層にSiが拡散、残留する原因
2.1 本願の発明者は、MgZnO成長層中にSiが混入するのは、ZnO基板表面に何等かの状態で残るSiが原因であるとの知見を得た。より詳細には、ZnO基板のエッチング方法、特に、洗浄方法を工夫することでMgZnO成長層中のSi混入濃度を検出下限界値以下まで低減できることから、Siが混入するのは、ZnO基板に含まれているSiが主因ではなく、ZnO基板表面の残留Si(亜鉛シリサイド、付着シリカ、埋没シリカ等)が主因であることがわかった。
【0081】
2.2 ZnO基板表面にシリカ等が残留する原因1
エピタキシャル結晶成長用の半導体素子製造用基板は、単結晶のインゴットから特定な面方位(例えば、(100)面、(110)面)で切出される。切出された単結晶基板は、研磨(ラッピング)、鏡面研磨(ポリシング)の手順で成長面になる切出し面の原子配列に乱れが少ない水準まで加工される。特に、鏡面研磨は機械化学研磨(CMP:ケミカル・メカニカル・ポリシング)にて磨かれる。このとき、研磨剤としてコロイド状シリカ(水和酸化ケイ素)が用いられる。コロイド状シリカによるCMP研磨は、機械的作用(研磨粒)と化学的な作用によりZnO基板を鏡面研磨する。そのために、ZnO基板表面に亜鉛シリサイド(Zn−Si−O)が(部分的に)形成されSiが残留する。また、コロイド状シリカは基板表面に付着し易く容易に除去できない。さらに、ZnO基板はモース硬度が4と小さいので研磨面にコロイド状シリカが一部埋没する等してSiが残留する。以上の理由により、CMP研磨後にエッチングや洗浄で亜鉛シリサイドやコロイド状シリカを除去する方法が提案されているが、結晶性の良好なMgZnO結晶を成長するには十分な処理ではない。
【0082】
2.3 ZnO基板表面にシリカ等が残留する原因2
ZnO結晶は、多様な試薬でウェットエッチングが可能である。エッチングにより基板表面のSi残渣(表面亜鉛シリサイド、付着シリカ、埋没シリカ等)は、基板表面より遊離し、エッチング液中に水和シリカとして分散する。ところが、エッチング後の一般的な洗浄工程として、例えば純水を用いて洗浄を行うと、エッチング液中に分散または溶解していた亜鉛シリサイドがZnO基板表面に再付着または再析出する。あるいはZnO基板表面に亜鉛シリサイドが形成される。さらに、コロイド状シリカ水和物も凝集し易くなりZnO結晶表面へ付着する。
【0083】
2.4 MOCVD法で問題が置き易い理由
高温で結晶成長を行うMOCVD法の場合、ZnO結晶中のSiの拡散速度は速い。そのために成膜したZnO結晶中のSi濃度が低い(例えば、SIMS検出下限界値以下)場合であっても、基板表面にSiが残っていると結晶中を拡散し成長表面に達する。成長層表面に存在するSiは、MgZnO結晶成長における2次元成長を阻害し、3次元成長様式での成長を促進する。3次元成長様式では各ドメインの合体界面に欠陥や転位が生じたり、Mg、Zn、O元素が結晶表面の安定サイトに移動し結合する確率が低下し、欠陥や転移を生じ易くなり、MgZnO結晶成長層の結晶性を劣化させる。その結果、欠陥転位に由来するn型の残留キャリア密度が高くなったり、n型不純物として働くSi残留密度が高くなる問題が発生する。特にこの問題は、ZnO基板表面に散在する亜鉛シリサイドで引き起こされる。
【0084】
2.5 MgZnO成長で問題がおき易い理由
MgZnO結晶(混晶)格子のa軸長とc軸長は、ZnO結晶のa軸長より長く、c軸長より短い(例えば、A. Ohtomo et al., Appl. Phys. Lett. 72, 19, p.2466, (1988))。具体的には、MgZnO結晶のMg組成増加に従い、a軸長は長くなり、c軸長は短くなる。しかるにZnO単結晶基板上にMgZnOエピタキシャル結晶を成長する場合、格子ミスマッチに基づく応力と下層のZnO層からのSi拡散により、MgZnO結晶成長が阻害され、褶曲状のモフォロジとなる。
【0085】
2.6 付着したシリカと埋没したシリカによる成長阻害
基板に付着したコロイド状シリカ残渣や埋没したコロイド状シリカ残渣は、凝集物なので成長表面において局所的に成長阻害を引き起こす。具体的には成長面のピット形成やヒルロック形成である。当然のことながら、ピットやヒルロックはLED素子を形成した場合に電流リーク等の悪影響を引き起こすので、コロイド状シリカ残渣や埋没したコロイド状シリカ残渣も除去した方が良い。
【0086】
[本発明の作用及び効果]
1.1 本発明においては、洗浄工程において洗浄液として、従来一般的であった純水に代えて、配位子を有する電解質溶液又は二座以上の配位子(多座配位子)を有する電解質溶液の希釈溶液を用いている。これにより、配位子がZnO基板やコロイド状シリカ表面に配位(吸着)するので、ZnO基板表面での亜鉛シリサイドの形成を抑制および防止できる。同時にコロイド状シリカの付着(吸着)も防止できる。尚、埋没コロイド状シリカはエッチング工程により除去される。
【0087】
また別の観点から考えた場合、若干のエッチングが進行することで亜鉛シリサイド形成を抑制および防止できるとも考えられる。コロイド状シリカの付着(吸着)も防止も同様に考えることもできる。
【0088】
更に別の観点から考えた場合、ZnO結晶表面(Zn)に配位したEDTA・2NaやEDAによる立体障害でコロイド状シリカが付着できなくなるとも考えられる。
【0089】
1.2 キレート剤を用いる利点
一般的に、コロイダルシリカを基板(例えばZnO基板)上に付着させないためには、ゼータ電位を同極性にし、かつ電位差を大きくすることで、静電気的反発が大きくなり、シリカ付着を防止できる(分散できる)。ところが、界面活性剤やキレート剤を用いた場合、コロイダルシリカや基板表面に吸着(または配位)するのでゼータ電位が(見かけ上)変わる。例えば、コロイダルシリカや基板の電位よりもゼータ電位が大きくなったり、電位が逆転するなどである(例えば、非特許文献1:「コロイドと界面の化学第二版」、北原文雄 青木幸一郎 共訳/株式会社 廣川書店 発行)。このように、界面活性剤やキレート剤を用いた場合、コロイダルシリカや基板の物性がゼータ電位を決定する要因ではなくなる。すなわち、溶液のpHでゼータ電位をコントロールする必要はなくなる。別の観点では、活性剤やキレート剤がZnO基板表面に吸着(または配位)してZn(OH)の生成を抑えることもできると考えられる。
【0090】
1.3 本発明の溶液
本発明で使用しているEDTA・2Naはキレート化合物であり配位子を有する電解質溶液である。また、上記非特許文献1は電気2重層について述べており、界面活性剤とキレート剤を例に挙げているが、配位子についても、分子構造上同様な効果を有すると解される。
【0091】
本発明の処理においては、エッチング後、純水洗浄をせずにエッチング液成分の希釈溶液で洗浄を行っている。但し、このエッチング液の試薬成分はアセトン脱水、IPA乾燥の工程で脱離しないので、基板表面に試薬が残留(吸着または配位)する。しかし、ZnOおよびMgZnO成長において基板を高温(特には500℃以上)に昇温する段階で分解、飛散するので、結晶成長に悪影響を及ぼすことはない。
【0092】
1.4 本発明の効果
実施例1〜3においては、中性ないし弱アルカリ性のエッチャントであるEDTA・2Na+EDAによるエッチング後に、洗浄液として、中性ないし弱アルカリの“EDTA・2Na+EDA”、弱酸の“EDTA・2Na”、希釈アルカリの“EDA”などの配位子を有する電解質溶液の希釈溶液を使用することにより、ZnO基板表面の亜鉛シリサイド形成を抑制することができる。更に、付着するコロイド状シリカを抑制することができる。
【0093】
また、実施例4〜5においては、弱酸性エッチャントであるEDTA・2Naによるエッチング後に、洗浄液として、弱酸の“EDTA・2Na”、希釈アルカリの“EDA”などの配位子を有する電解質溶液の希釈溶液を使用することにより、ZnO基板表面の亜鉛シリサイドの形成を抑制することができる。更に、付着するコロイド状シリカを抑制することができる。
【0094】
かかる前処理方法を施すことによって、亜鉛シリサイドやコロイド状シリカおよび埋没しているコロイド状シリカがない基板を提供できるので、高温MOCVD法においてもMgZnO結晶層にSiが混入せず(すなわち、検出下限界以下)、残留不純物の少ないMgZnO層を成長することができる。
【0095】
また、基板方位と選択成長に基づく、縦縞状のモフォロジとなるMgZnO結晶層を成長することができる。すなわち、欠陥密度の低い結晶の成長が可能となる。
【0096】
成長したMgZnO層について微分干渉顕微鏡によりピット密度の観察を行った。比較例の方法では、ピット密度は1×10〜1×10個/cmとバラツキが大きかったのに対し、本発明の方法では、7×10〜3×10個/cmと低密度であることが確認された。
【0097】
このように、MOCVD法において結晶性の良好なMgZnO結晶層の成長が可能になり、MgZnO結晶層へのSi残留の抑制が可能となり、また平坦性に優れたMgZnO結晶層の成長が可能になる。
【0098】
なお、EDTA・2NaとEDAの混合希釈溶液、EDTA・2Na希釈溶液、EDA希釈溶液は、エッチング溶液と同じ成分なので、別な試薬溶液を用いた場合に懸念される相互反応等によるエッチング面のダメージや、エッチング面への意図しない薬液残留が起きないという利点がある。
【0099】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、亜鉛シリサイドやシリカなどが残留しないZnO基板の成長前処理方法を提供することができる。より詳細には、本発明によれば、EDTA・2NaとEDAの混合溶液やEDTA・2NaなどのEDTAキレート化合物を含む溶液をエッチャントとしてZnO基板をエッチングし、EDTA・2NaとEDAの混合希釈溶液、EDTA・2Na希釈溶液、EDA希釈溶液などの配位子を有する電解質溶液を洗浄液として、エッチング後の基板を洗浄する。かかる基板処理により、基板表面の亜鉛シリサイドやシリカなどを除去できる。そして、かかる前処理を行った基板を用いることにより、MOCVD法などの結晶成長において、亜鉛シリサイドやシリカ等に起因するSiがMgZnOなどのZnO系半導体成長層内に拡散・残留し、成長層の表面平坦性、モフォロジを劣化させることのない、表面平坦性に優れ、Siの拡散のない高品質な結晶を得ることができる。
【0100】
従って、半導体素子等への適用においては、優れた不純物濃度制御及び不純物濃度プロファイル制御、急峻な界面制御が可能となり、高品質の結晶積層構造を形成できるため、優れた特性の半導体素子を提供することができる。さらに、電気的特性及び発光効率に優れたZnO系結晶系半導体発光素子の製造が可能となる。
【符号の説明】
【0101】
10 ZnO基板
11 ZnO成長層
12 MgZnO成長層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn極性面を主面としたZnO単結晶の基板の処理方法であって、
EDTAキレート化合物を含む溶液をエッチャントとして用いて前記基板をエッチングするエッチング工程と、
前記エッチングの後、配位子を有する電解質溶液を洗浄液として用いて前記基板を洗浄する洗浄工程と、を有することを特徴とする処理方法。
【請求項2】
前記エッチャントはEDTA・2Na(エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム)及びEDA(エチレンジアミン)の混合溶液であり、
前記洗浄液は、EDTA・2Na及びEDAの混合溶液、EDTA・2Na及びEDAのうちいずれか1の純水による希釈液であることを特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記エッチャントの前記混合溶液におけるEDTA・2Na及びEDAのモル濃度が、それぞれ0.17〜0.19mol/l及び2.5〜0.71mol/lの範囲であることを特徴とする請求項2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記希釈液の前記希釈比(体積比)が1:20ないし1:10000の範囲であることを特徴とする請求項2又は3に記載の処理方法。
【請求項5】
前記洗浄液はEDTA・2Naの純水による希釈液であり、前記EDTA・2Naのモル濃度が0.0020〜0.000020mol/lの範囲であることを特徴とする請求項2又は3に記載の処理方法。
【請求項6】
前記洗浄液はEDAの純水による希釈液であり、前記EDAのモル濃度が0.15〜0.00015mol/lの範囲であることを特徴とする請求項2又は3に記載の処理方法。
【請求項7】
前記エッチャントはEDTA・2Na溶液であり、
前記洗浄液は、EDTA・2Na及びEDAのうちいずれか1の純水による希釈液であることを特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項8】
前記エッチャントにおけるEDTA・2Naのモル濃度は、0.1〜0.5mol/lの範囲であることを特徴とする請求項7に記載の処理方法。
【請求項9】
前記洗浄液はEDAの純水による希釈液であり、前記EDAのモル濃度が0.15〜0.00015mol/lの範囲であることを特徴とする請求項8に記載の処理方法。
【請求項10】
前記洗浄液はEDTA・2Naの純水による希釈液であり、前記EDTA・2Naのモル濃度が0.0020〜0.000020mol/lの範囲であることを特徴とする請求項9に記載の処理方法。
【請求項11】
前記配位子を有する電解質溶液において、前記配位子は多座配位子であることを特徴とする請求項1に記載の処理方法。

【図1】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−188330(P2012−188330A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55160(P2011−55160)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】