説明

酸化物焼結体およびスパッタリングターゲット

【課題】表示装置用酸化物半導体膜の製造に好適に用いられる酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットであって、高い導電性と相対密度を兼ね備えており、高いキャリア移動度を有する酸化物半導体膜を成膜可能であり、特に、直流スパッタリング法で製造してもノジュールが発生し難く、長時間安定して放電することが可能な直流放電安定性に優れた酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】本発明の酸化物焼結体は、酸化亜鉛と;酸化スズと;Al、Hf、Ni、Si、Ga、In、およびTaよりなる群から選択される少なくとも1種の金属(M金属)の酸化物と、を混合および焼結して得られる酸化物焼結体であって、ビッカース硬度が400Hv以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置に用いられる薄膜トランジスタ(TFT)の酸化物半導体薄膜をスパッタリング法で成膜するときに用いられる酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
TFTに用いられるアモルファス(非晶質)酸化物半導体は、汎用のアモルファスシリコン(a−Si)に比べて高いキャリア移動度を有し、光学バンドギャップが大きく、低温で成膜できるため、大型・高解像度・高速駆動が要求される次世代ディスプレイや、耐熱性の低い樹脂基板などへの適用が期待されている。上記酸化物半導体(膜)の形成に当たっては、当該膜と同じ材料のスパッタリングターゲットをスパッタリングするスパッタリング法が好適に用いられている。スパッタリング法で形成された薄膜は、イオンプレーティング法や真空蒸着法、電子ビーム蒸着法で形成された薄膜に比べ、膜面方向(膜面内)における成分組成や膜厚などの面内均一性に優れており、スパッタリングターゲットと同じ成分組成の薄膜を形成できるという長所を有しているからである。スパッタリングターゲットは、通常、酸化物粉末を混合、焼結し、機械加工を経て形成されている。
【0003】
表示装置に用いられる酸化物半導体の組成として、例えばIn含有の非晶質酸化物半導体[In−Ga−Zn−O、In−Zn−O、In−Sn−O(ITO)など]が挙げられる(例えば特許文献1など)。
【0004】
また、高価なInを含まず材料コストを低減でき、大量生産に適した酸化物半導体として、ZnにSnを添加してアモルファス化したZTO系の酸化物半導体が提案されている。しかしながら、ZTO系ではスパッタリング中に異常放電を生じる場合がある。そこで、例えば特許文献2には、長時間の焼成を行なって酸化スズ相を含有しないように組織を制御することにより、スパッタリング中の異常放電や割れの発生を抑制する方法が提案されている。また特許文献3には、900〜1300℃の低温の仮焼粉末製造工程と本焼成工程の2段階工程を行なってZTO系焼結体を高密度化することにより、スパッタリング中の異常放電を抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−214697号公報
【特許文献2】特開2007−277075号公報
【特許文献3】特開2008−63214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
表示装置用酸化物半導体膜の製造に用いられるスパッタリングターゲットおよびその素材である酸化物焼結体は、導電性に優れ、且つ高い相対密度を有することが望まれている。また上記スパッタリングターゲットを用いて得られる酸化物半導体膜は、高いキャリア移動度を有することが望まれている。
【0007】
更に生産性や製造コストなどを考慮すると、高周波(RF)スパッタリング法でなく、高速成膜が容易な直流(DC)スパッタリング法で製造可能なスパッタリングターゲットの提供が望まれている。例えばZTO系のスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法で薄膜を成膜する場合、通常、アルゴンガスと酸素ガスなどの混合雰囲気中で、直流プラズマ放電によって成膜する。DCスパッタリング法によって薄膜を大量生産する場合、長時間連続してプラズマ放電を行うため、スパッタリングターゲットの使用開始から終了に至るまでの長期間に亘って、スパッタリングターゲットには、直流放電を安定且つ継続して行なうことができる特性(長期の放電安定性)が強く求められる。特に、SnやInを含む酸化物スパッタリングターゲットでは、スパッタリングが進むにつれ、スパッタリングターゲットのエロージョン面(放電面)に、ノジュールと呼ばれる黒色の付着物が形成されることがある。この黒色付着物は、主に、低級な(すなわち、欠陥が多い、例えば、低密度で酸素欠陥が多い)In酸化物またはSn酸化物であると考えられ、スパッタリング時の異常放電の原因となる。また、このようなノジュールが発生した状態で継続してスパッタリングを行うと、異常放電によって膜中に欠陥が生じたり、ノジュール自身が起点となってパーティクルが生じ、表示装置の表示品位が低下したり歩留まりが低下する原因となっていた。
【0008】
このような課題に対し、前述した特許文献2は高密度化という観点から検討されたものではなく、直流放電を安定・継続して実施するには不十分であった。また特許文献3は、酸化物焼結体の導電性を向上するという観点から検討されたものではなく、やはり、直流放電を安定・継続して実施するには不十分であった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、表示装置用酸化物半導体膜の製造に好適に用いられる酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットであって、高い導電性と相対密度を兼ね備えており、高いキャリア移動度を有する酸化物半導体膜を成膜可能であり、特に、直流スパッタリング法で製造してもノジュールが発生し難く、長時間安定して放電することが可能な直流放電安定性に優れた酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し得た本発明の酸化物焼結体は、酸化亜鉛と;酸化スズと;Al、Hf、Ni、Si、Ga、In、およびTaよりなる群から選択される少なくとも1種の金属(M金属)の酸化物と、を混合および焼結して得られる酸化物焼結体であって、ビッカース硬度が400Hv以上であるところに要旨を有するものである。
【0011】
本発明の好ましい実施形態において、厚み方向のビッカース硬度をガウス分布で近似したとき、その分散係数σは30以下である。
【0012】
本発明の好ましい実施形態において、上記酸化物焼結体に含まれる金属元素の総量を1とし、前記M金属のうち、Al、Hf、Ni、Si、およびTaよりなる群から選択される少なくとも1種の金属をM1金属とし、全金属元素中に占める、Zn、Sn、M1金属の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[M1金属]としたとき、[Zn]+[Sn]+[M1金属]に対する[M1金属]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Sn]の比は、それぞれ下式を満足するものである。
[M1金属]/([Zn]+[Sn]+[M1金属])=0.01〜0.30
[Zn]/([Zn]+[Sn])=0.50〜0.80
[Sn]/([Zn]+[Sn])=0.20〜0.50
【0013】
本発明の好ましい実施形態において、上記酸化物焼結体に含まれる金属元素の総量を1とし、上記M金属のうち、少なくともInまたはGaを含む金属をM2金属とし、全金属元素中に占める、Zn、Sn、M2金属の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[M2金属]としたとき、[Zn]+[Sn]+[M2金属]に対する[M2金属]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Sn]の比は、それぞれ下式を満足するものである。
[M2金属]/([Zn]+[Sn]+[M2金属])=0.10〜0.30
[Zn]/([Zn]+[Sn])=0.50〜0.80
[Sn]/([Zn]+[Sn])=0.20〜0.50
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、上記酸化物焼結体の相対密度は90%以上、比抵抗は0.1Ω・cm以下である。
【0015】
また、上記課題を解決し得た本発明のスパッタリングターゲットは、上記のいずれかに記載の酸化物焼結体を用いて得られるスパッタリングターゲットであって、ビッカース硬度が400Hv以上であるところに要旨を有するものである。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、スパッタリング面から厚み方向のビッカース硬度をガウス分布で近似したとき、その分散係数σは30以下である。
【0017】
本発明の好ましい実施形態において、上記スパッタリングターゲットに含まれる金属元素の総量を1とし、前記M金属のうち、Al、Hf、Ni、Si、およびTaよりなる群から選択される少なくとも1種の金属をM1金属とし、全金属元素中に占める、Zn、Sn、M1金属の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[M1金属]としたとき、[Zn]+[Sn]+[M1金属]に対する[M1金属]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Sn]の比は、それぞれ下式を満足するものである。
[M1金属]/([Zn]+[Sn]+[M1金属])=0.01〜0.30
[Zn]/([Zn]+[Sn])=0.50〜0.80
[Sn]/([Zn]+[Sn])=0.20〜0.50
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、上記スパッタリングターゲットに含まれる金属元素の総量を1とし、上記M金属のうち、少なくともInまたはGaを含む金属をM2金属とし、全金属元素中に占める、Zn、Sn、M2金属の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[M2金属]としたとき、[Zn]+[Sn]+[M2金属]に対する[M2金属]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Sn]の比は、それぞれ下式を満足するものである。
[M2金属]/([Zn]+[Sn]+[M2金属])=0.10〜0.30
[Zn]/([Zn]+[Sn])=0.50〜0.80
[Sn]/([Zn]+[Sn])=0.20〜0.50
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、上記スパッタリングターゲットの相対密度は90%以上、比抵抗は0.1Ω・cm以下である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低い比抵抗と、高い相対密度を有する酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットを、希少金属のInを添加せずに/またはIn量を低減しても得られるため、原料コストを大幅に削減できる。また、本発明によれば、スパッタリングターゲットの使用開始から終了に至るまで、継続して、直流放電安定性に優れたスパッタリングターゲットが得られる。本発明のスパッタリングターゲットを用いれば、キャリア移動度の高い酸化物半導体膜を、高速成膜が容易な直流スパッタリング法により、安価に且つ安定して成膜できるため、生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットを製造するための基本的な工程を示す図(M金属=Al、Hf、Ni、Si、Ga、およびTa)である。
【図2】図2は、本発明の酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットを製造するための基本的な工程を示す図(M金属=In)である。
【図3】図3は、実験例1のAl−ZTO焼結体を用いて製造したスパッタリングターゲット(本発明例)および比較例1のTa−ZTO焼結体を用いて製造したスパッタリングターゲットについて、厚み方向におけるビッカース硬度のガウス分布(正規分布)曲線の結果を示すグラフである。
【図4】図4は、実験例2のTa−ZTO焼結体を用いて製造したスパッタリングターゲット(本発明例)および比較例1のTa−ZTO焼結体を用いて製造したスパッタリングターゲットについて、厚み方向におけるビッカース硬度のガウス分布(正規分布)曲線の結果を示すグラフである。
【図5】図5は、実験例3のIn−ZTO焼結体を用いて製造したスパッタリングターゲット(本発明例)および比較例1のTa−ZTO焼結体を用いて製造したスパッタリングターゲットについて、厚み方向におけるビッカース硬度のガウス分布(正規分布)曲線の結果を示すグラフである。
【図6】図6は、実験例4のGa−ZTO焼結体を用いて製造したスパッタリングターゲット(本発明例)および比較例1のTa−ZTO焼結体を用いて製造したスパッタリングターゲットについて、厚み方向におけるビッカース硬度のガウス分布(正規分布)曲線の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、Znと、Snを含む酸化物(ZTO)半導体について、高い導電性と高い相対密度を発揮することを前提にしたうえで、直流スパッタリング法を適用してもノジュールを抑制し得、スパッタリングターゲットの使用開始から終了に至るまで、長期間安定して放電可能なスパッタリングターゲット用酸化物焼結体を提供するため、検討を重ねてきた。
【0023】
その結果、酸化物焼結体(更にはスパッタリングターゲットを含む)の硬さと放電安定性は相関があり、硬ければ硬い程、安定した放電が可能であり、ノジュールの発生も効果的に抑制できること;このような効果は、厚さ方向の硬さ分布のバラツキをできるだけ小さくすることにより促進されることが分かった。そこで、酸化物焼結体の硬さを制御し得る技術について更に検討を行なったところ、ZTOを構成する金属元素(Zn、Sn)の各酸化物と;Al、Hf、Ni、Si、Ga、In、およびTaよりなる群から選択される少なくとも1種の金属(M金属)の酸化物と、を混合および焼結して得られるM金属含有ZTO焼結体を用い、後記する推奨条件で製造すれば、ビッカース硬度が向上し、好ましくは、厚み方向のビッカース硬度のバラツキが小さくなるため、成膜時の異常放電が少なく、経時的に安定して、継続して直流放電が得られることを見出した。更に、上記スパッタリングターゲットを用いて成膜された酸化物半導体薄膜を有するTFTは、キャリア密度が15cm2/Vs以上と、非常に高い特性が得られることも分かった。そして、このようなM金属含有ZTO焼結体を得るためには、好ましくは、全金属元素(Zn+Sn+M金属)中に占めるM金属の合計量の比や、ZnおよびSnの合計量に対するZnまたはSnの各比が適切に制御された混合粉末を用い、所定の焼結条件(好ましくは非還元性雰囲気下にて、1350〜1650℃の温度で5時間以上焼成する)を行なえば良いことを見出し、本発明を完成した。
【0024】
本発明において、酸化物焼結体(更にはスパッタリングターゲット)の硬さ制御(更には厚さ方向の硬度分布制御)により、スパッタリング時のノジュール発生が抑制され、安定した直流放電が可能になるメカニズムは、詳細には不明であるが、おそらく、酸化物焼結体の密度、内部欠陥、空孔の分布、空孔の密度、組成、組織分布などといった酸化物焼結体の内部構造が、酸化物焼結体の硬度に影響していると考えられ、酸化物焼結体の硬度(更には硬度分布)がスパッタリングの品質と良好な相関を有しているためと推察される。
【0025】
以下、本発明に係る酸化物焼結体の構成要件について、詳しく説明する。
【0026】
本発明の酸化物焼結体は、酸化亜鉛と;酸化スズと;Al、Hf、Ni、Si、Ga、In、およびTaよりなる群から選択される少なくとも1種の金属(M金属)の酸化物と、を混合および焼結して得られる酸化物焼結体であって、ビッカース硬度が400Hv以上であるところに特徴がある。
【0027】
まず、本発明に係る酸化物焼結体のビッカース硬度は400Hv以上である。これにより、スパッタリングターゲットのビッカース硬度も400Hv以上となり、スパッタリング時の直流放電性が向上する。酸化物焼結体のビッカース硬度は高い程よく、好ましくは420Hv以上であり、より好ましくは430Hv以上である。なお、その上限は、直流放電性向上の観点からは特に限定されないが、割れなどの欠陥が無く、高密度な焼結体が得られる限度において、適切な範囲内に制御されていることが好ましい。ここで、上記ビッカース硬度は、酸化物焼結体をt/2(t:厚さ)位置で切断した切断面の表面の位置を測定したものである。
【0028】
更に、上記酸化物焼結体について、厚み方向のビッカース硬度をガウス分布(正規分布)で近似したとき、その分散係数σは30以下に制御されていることが好ましい。このように試料間のビッカース硬度のバラツキが著しく小さく制御されたものは、スパッタリング時の直流放電性が一層向上する。分散係数は小さい程よく、好ましくは25以下である。
【0029】
具体的には、上記酸化物焼結体を10個用意し、厚さ方向(t)の複数個所(t/4位置、t/2位置、3×t/4位置)で切断して面を露出させ、露出した面内の個所(切断面の表面位置)のビッカース硬度を測定する。同様の操作を、10個の酸化物焼結体について行い、下記の式f(x)で表されるガウス分布で近似し、厚さ方向のビッカース硬度の分散係数σを算出する。
【0030】
【数1】

式中、μはビッカース硬度の平均値を示す。
【0031】
次に、本発明に用いられるM金属について説明する。上記M金属は、Al、Hf、Ni、Si、Ga、In、およびTaよりなる群から選択される少なくとも1種の金属(M金属)であり、酸化物焼結体およびスパッタリングターゲットのビッカース硬度向上に寄与する元素であり、その結果、直流放電性が向上する。また、上記M金属は、ZnとSnのみから構成されるZn−Sn−O(ZTO)焼結体の相対密度向上および比抵抗の低減に大きく寄与する元素でもあり、その結果、やはり、直流放電性が向上する。更に上記M金属は、スパッタリングによって形成した膜特性の向上に有用な元素である。上記M金属は、単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0032】
本発明の酸化物焼結体を構成する金属元素の好ましい比は、以下に詳述するように、M金属の種類によって相違する。すなわち、Al、Hf、Ni、Si、Ga、In、およびTaよりなる群から選択されるM金属が、少なくともInまたはGaを含む場合と、含まない場合とで、全金属元素中に占めるM金属の好ましい比の下限が相違し、前者の場合は、好ましい比の下限が若干大きくなる。以下、場合を分けて、詳しく説明する。
【0033】
(ア)M金属が、Al、Hf、Ni、Si、およびTaよりなる群から選択される少なくとも1種の金属(M1金属)である場合
すなわち、上記M金属がInおよびGaを含まない場合であり、このようなM金属を特に「M1金属」と呼ぶ。上記酸化物焼結体に含まれる金属元素の総量を1とし、全金属元素中に占める、Zn、Sn、M1金属の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[M1金属]としたとき、[Zn]+[Sn]+[M1金属]に対する[M1金属]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Sn]の比は、それぞれ下式を満足することが好ましい。なお、M1金属の含有量とは、M1金属を単独で含有するときは単独の量であり、M1金属を2種以上含有するときは2種以上の含有量である。
[M1金属]/([Zn]+[Sn]+[M1金属])=0.01〜0.30
[Zn]/([Zn]+[Sn])=0.50〜0.80
[Sn]/([Zn]+[Sn])=0.20〜0.50
【0034】
まず、[Zn]+[Sn]+[M1金属]に対する[M1金属]の比(以下、単にM1金属比と略記する場合がある。)は0.01〜0.30であることが好ましい。M1金属比が0.01未満の場合、M金属添加による作用が有効に発揮されず、スパッタリングターゲットとしたときの直流放電安定性に劣るほか、薄膜を形成したときの移動度や、TFTの信頼性などが低下する。一方、上記M1金属が0.30を超えると、焼結体の密度を90%以上にすることはできず、比抵抗も高くなるため、直流プラズマ放電が安定せず、異常放電が発生し易くなる。また、TFTのスイッチング特性(オフ電流の増加、閾値電圧の変動、サブスレショルド特性の低下など)や信頼性が低下し、表示装置などに適用した場合に必要とされる性能が得られなくなる。より好ましいM1金属比は、0.01以上0.10以下である。
【0035】
また、([Zn]+[Sn])に対する[Zn]の比(以下、単にZn比と略記する場合がある。)は0.50〜0.80であることが好ましい。Zn比が0.50を下回ると、スパッタリング法によって形成した薄膜の微細加工性が低下し、エッチング残渣が生じ易い。一方、[Zn]比が0.80を超えると、成膜後の薄膜の薬液耐性に劣るものとなり、微細加工の際に酸による溶出速度が速くなって高精度の加工を行なうことができない。より好ましい[Zn]比は、0.55以上0.70以下である。
【0036】
また、([Zn]+[Sn])に対する[Sn]の比(以下、単にSn比と略記する場合がある。)は0.20〜0.50であることが好ましい。[Sn]比が0.20を下回ると、スパッタリング法によって形成した薄膜の薬液耐性が低下し、微細加工の際、酸による溶出速度が速くなって高精度の加工を行なうことができない。一方、[Sn]比が0.50を超えると、スパッタリング法によって形成した薄膜の微細加工性が低下し、エッチング残渣が生じ易い。より好ましい[Sn]比は、0.25以上0.40以下である。
【0037】
(イ)M金属が、少なくともInまたはGaを含む場合
M金属のうち、InおよびGaの少なくとも一種を含む場合を特に「M2金属」と呼ぶ。上記酸化物焼結体に含まれる金属元素の総量を1とし、全金属元素中に占めるZn、Sn、M2金属の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[M2金属]としたとき、[Zn]+[Sn]+[M2金属]に対する[M2金属]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Sn]の比は、それぞれ下式を満足するものである。なお、M2金属の含有量とは、M2金属を単独で含有するときは単独の量であり、M2金属を2種以上含有するときは2種以上の含有量である。
[M2金属]/([Zn]+[Sn]+[M2金属])=0.10〜0.30
[Zn]/([Zn]+[Sn])=0.50〜0.80
[Sn]/([Zn]+[Sn])=0.20〜0.50
【0038】
ここで、Zn比およびSn比の設定理由、および、より好ましい範囲は、前記(ア)と同じである。
【0039】
また、[Zn]+[Sn]+[M2金属]に対する[M2金属]の比(以下、単にM2金属比と略記する場合がある。)は0.10〜0.30であることが好ましい。これにより、薄膜トランジスタのオン電流が増加し、サブスレショルド特性が向上する。その結果、キャリア移動度が大きくなり、表示装置の性能が向上する。M2金属比が0.10未満の場合、M2金属添加による作用が有効に発揮されず、スパッタリングターゲットとしたときの直流放電安定性に劣るほか、薄膜を形成したときの移動度や、TFTの信頼性などが低下する。一方、上記M2金属がInを含まず、少なくともGaを含む場合については、当該M2金属比が0.30を超えると、焼結体の密度を90%以上にすることはできず、比抵抗も高くなるため、直流プラズマ放電が安定せず、異常放電が発生し易くなる。また、TFTのオフ電流が増加し、半導体としての特性が損なわれる。より好ましいM2金属比は、0.15以上0.25以下である。
【0040】
本発明の酸化物焼結体は、好ましくは、相対密度90%以上、比抵抗0.1Ω・cm以下を満足するものである。
【0041】
(相対密度90%以上)
本発明の酸化物焼結体は、相対密度が非常に高く、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。高い相対密度は、スパッタリング中での割れやノジュールの発生を防止し得るだけでなく、安定した放電を、スパッタリングターゲットの使用開始から終了に至るまで、常に連続して維持するなどの利点をもたらす。
【0042】
(比抵抗0.1Ω・cm以下)
本発明の酸化物焼結体は、比抵抗が小さく、0.1Ω・cm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05Ω・cm以下である。これにより、直流電源を用いたプラズマ放電などによる直流スパッタリング法による成膜が可能となり、スパッタリングターゲットを用いた物理蒸着(スパッタリング法)を表示装置の生産ラインで効率よく行うことができる。
【0043】
次に、本発明の酸化物焼結体を製造する方法について説明する。
【0044】
本発明の酸化物焼結体は、酸化亜鉛と;酸化スズと;Al、Hf、Ni、Si、Ga、In、およびTaよりなる群から選択される少なくとも1種の金属(M金属)の酸化物と、を混合および焼結して得られるものであり、原料粉末からスパッタリングターゲットまでの基本工程を図1および図2に示す。図1には、M金属がIn以外の金属、すなわち、M金属=Al、Hf、Ni、Si、Ga、Taの場合における、酸化物焼結体の製造工程のフローを示し、図2には、M金属=Inの場合における、酸化物焼結体の製造工程のフローを示す。図1と図2の工程を対比すると、図1では、常圧焼結後に熱処理を行なっているのに対し、図2では、常圧焼結後の熱処理がない点でのみ、相違している。本発明では、M金属として2種類以上の金属元素を含む態様も包含しているが、例えば、M金属としてInおよびAlの2種類を使用するときは、図2の工程に基づき、製造すれば良い。
【0045】
まず、図1を参照しながら、M金属=Al、Hf、Ni、Si、Ga、Taの場合における、酸化物焼結体の製造工程を説明する。図1には、各酸化物の粉末を混合・粉砕→乾燥・造粒→成形→常圧焼結→熱処理して得られた酸化物焼結体を、加工→ボンディグしてスパッタリングターゲットを得るまでの基本工程を示している。上記工程のうち本発明では、以下に詳述するように焼結条件およびその後の熱処理条件を適切に制御したところに特徴があり、それ以外の工程は特に限定されず、通常用いられる工程を適宜選択することができる。以下、各工程を説明するが、本発明はこれに限定する趣旨ではなく、例えば、M金属の種類などによって適切に制御することが好ましい。
【0046】
まず、酸化亜鉛粉末、酸化スズ粉末、および酸化M金属粉末を所定の割合に配合し、混合・粉砕する。用いられる各原料粉末の純度はそれぞれ、約99.99%以上が好ましい。微量の不純物元素が存在すると、酸化物半導体膜の半導体特性を損なう恐れがあるためである。各原料粉末の配合割合は、Zn、Sn、およびM金属の比率が上述した範囲内となるように制御することが好ましい。
【0047】
混合および粉砕はポットミルを使い、原料粉末を水と共に投入して行うことが好ましい。これらの工程に用いられるボールやビーズは、例えばナイロン、アルミナ、ジルコニアなどの材質のものが好ましく用いられる。
【0048】
次に、上記工程で得られた混合粉末を乾燥し造粒した後、成形する。成形に当たっては、乾燥・造粒後の粉末を所定寸法の金型に充填し、金型プレスで予備成形した後、CIP(冷間静水圧プレス)などによって成形することが好ましい。焼結体の相対密度を上昇させるためには、予備成形の成形圧力を約0.2tonf/cm2以上に制御することが好ましく、成形時の圧力は約1.2tonf/cm2以上に制御することが好ましい。
【0049】
次に、このようにして得られた成形体に対し、常圧にて焼成を行う。本発明では、焼成温度:約1350℃〜1650℃、保持時間:約5時間以上で焼結を行なうことが好ましい。これにより、相対密度の向上に寄与するZn2SnO4が焼結体中に多く形成され、その結果、スパッタリングターゲットの相対密度も高くなり、放電安定性が向上する。焼成温度が高いほど焼結体の相対密度が向上し易く、かつ短時間で処理できるため好ましいが、温度が高くなり過ぎると焼結体が分解し易くなるため、焼成条件は上記の範囲とするのが好ましい。より好ましくは、焼成温度:約1450℃〜1600℃、保持時間:約8時間以上である。なお、焼成雰囲気は非還元性雰囲気が好ましく、例えば炉内に酸素ガスを導入することによって雰囲気を調整することが好ましい。
【0050】
次に、このようにして得られた焼結体に対して熱処理を行い、本発明の酸化物焼結体を得る。本発明では、直流電源によるプラズマ放電を可能にするため、熱処理温度:約1000℃以上、保持時間:約8時間以上に制御することが好ましい。上記処理により、比抵抗は、例えば約100Ω・cm(熱処理前)から0.1Ω・cm(熱処理後)まで低下するようになる。より好ましくは、熱処理温度:約1100℃以上、保持時間:約10時間以上である。熱処理雰囲気は還元性雰囲気が好ましく、例えば炉内に窒素ガスを導入することによって雰囲気を調整することが好ましい。具体的には、M金属の種類などによって適切に制御することが好ましい。
【0051】
上記のようにして酸化物焼結体を得た後、常法により、加工→ボンディングを行なうと本発明のスパッタリングターゲットが得られる。このようにして得られるスパッタリングターゲットのビッカース硬度も、前述した酸化物焼結体と同様、400Hv以上を満足するものであり、厚さ方向のビッカースの分散係数も、好ましくは30以下を満足する。更に、スパッタリングターゲットのZn比、Sn比、M1金属比、M2金属比も、前述した酸化物焼結体に記載の好ましい比を満足する。また、上記スパッタリングターゲットの相対密度および比抵抗も、酸化物焼結体と同様、非常に良好なものであり、好ましい相対密度はおおむね90%以上であり、好ましい比抵抗はおおむね0.1Ω・cm以下である。
【0052】
次に、図2を参照しながら、M金属=Inの場合(すなわち、M金属として少なくともInを含む場合)における、酸化物焼結体の製造工程を説明する。上述したとおり、M金属としてInを少なくとも用いる場合は、前述した図1において、常圧焼結後の熱処理は行なわない。ここで、「Inを含有する場合に焼結後の熱処理を行なわない」とは、当該熱処理を行わなくても比抵抗が低下するから、このような熱処理は不要である(熱処理工程が増えるため、生産性などを考慮すると無駄である)という意味であって、焼結後の熱処理を積極的に排除する趣旨では決してない。常圧焼結後の熱処理を行なっても比抵抗などの特性には何ら悪影響を及ぼさないため、生産性などを考慮しないのであれば焼結後の熱処理を行なっても良く、このようにして得られた物も、本発明の範囲内に包含される。上記以外の工程は、前述した図1に基づいて説明したとおりであり、詳細は、図1の説明部分を参照すれば良い。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されず、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適切に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0054】
(実験例1)
純度99.99%の酸化亜鉛粉末(JIS1種)、純度99.99%の酸化スズ粉末、および純度99.99%の酸化アルミニウム粉末を[Zn]:[Sn]:[Al]=73.9:24.6:1.5の比率で配合し、ナイロンボールミルで20時間混合した。参考のため、表1に、Zn比およびSn比を示している。Al比は0.015である。次に、上記工程で得られた混合粉末を乾燥、造粒し、金型プレスにて成形圧力0.5tonf/cm2で予備成形した後、CIPにて成形圧力3tonf/cm2で本成形を行った。
【0055】
このようにして得られた成形体を、表1に示すように、常圧にて1500℃で7時間保持して焼結を行なった。焼結炉内には酸素ガスを導入し、酸素雰囲気下で焼結した。次いで熱処理炉内に導入し、1200℃で10時間熱処理した。熱処理炉内には窒素ガスを導入し、還元性雰囲気で熱処理した。
【0056】
このようにして得られた実験例1の酸化物焼結体の相対密度をアルキメデス法で測定したところ90%以上であった。また上記酸化物焼結体の比抵抗を四端子法によって測定したところ、0.1Ω・cm以下であり、良好な結果が得られた。
【0057】
次に、上記酸化物焼結体を4インチφ、5mmtの形状に加工し、バッキングプレートにボンディングしてスパッタリングターゲットを得た。このようにして得られたスパッタリングターゲットをスパッタリング装置に取り付け、DC(直流)マグネトロンスパッタリング法で、ガラス基板(サイズ:100mm×100mm×0.50mm)上に、酸化物半導体膜を形成した。スパッタリング条件は、DCスパッタリングパワー150W、Ar/0.1体積%O2雰囲気、圧力0.8mTorrとした。その結果、スパッタリングターゲットの使用開始から終了に至るまで、異常放電(アーキング)の発生は見られず、安定して放電することが確認された。
【0058】
また、上記スパッタリングターゲットについて、スパッタリング面におけるビッカース硬度を測定したところ、438Hvであり、本発明の範囲(400Hv以上)を満足していた。更に、上記スパッタリングターゲットのスパッタリング面から深さ方向のビッカース硬度の分散係数を、前述した方法に基づき、測定した結果、本発明の好ましい範囲(30以下)を満足しており、バラツキの非常に小さいものであった(表1を参照)。
【0059】
また、上記のスパッタリング条件で成膜した薄膜を用い、チャネル長10μm、チャネル幅100μmの薄膜トランジスタを作製してキャリア移動度を測定したところ、15cm2/Vs以上の高いキャリア移動度が得られた。
【0060】
(実験例2)
純度99.99%の酸化亜鉛粉末(JIS1種)、純度99.99%の酸化スズ粉末、および純度99.99%の酸化タンタル粉末を[Zn]:[Sn]:[Ta]=73.9:24.6:1.5の比率で配合し、1550℃で5時間焼結した後、1150℃で14時間熱処理したこと以外は、前述した実験例1と同様にして実験例2の酸化物焼結体を得た(Ta比=0.015)。
【0061】
このようにして得られた実験例2の酸化物焼結体の相対密度および比抵抗を、前述した実験例1と同様にして測定したところ、相対密度は90%以上、比抵抗は0.1Ω・cm以下であり、良好な結果が得られた。
【0062】
次に、上記酸化物焼結体を、前述した実験例1と同様にしてDC(直流)マグネトロンスパッタリングを行なった結果、異常放電(アーキング)の発生は見られず、安定して放電することが確認された。
【0063】
また、上記スパッタリングターゲットについて、実験例1と同様にしてビッカース硬度を測定したところ、441Hvであり、本発明の範囲(400Hv以上)を満足していた。更に、上記スパッタリングの放電面から深さ方向のビッカース硬度の分散係数を、前述した方法に基づき、測定した結果、本発明の好ましい範囲(30以下)を満足しており、バラツキの非常に小さいものであった(表1を参照)。
【0064】
また、上記のスパッタリング条件で成膜した薄膜を用い、前述した実験例1と同様にしてキャリア移動度を測定したところ、15cm2/Vs以上の高いキャリア移動度が得られた。
【0065】
(実験例3)
純度99.99%の酸化亜鉛粉末(JIS1種)、純度99.99%の酸化スズ粉末、および純度99.99%の酸化インジウム粉末を[Zn]:[Sn]:[In]=45.0:45.0:10.0の比率で配合し、1550℃で5時間焼結した(熱処理なし)こと以外は、前述した実験例1と同様にして実験例3の酸化物焼結体を得た(In比=0.10)。
【0066】
このようにして得られた実験例3の酸化物焼結体の相対密度および比抵抗を、前述した実験例1と同様にして測定したところ、相対密度は90%以上、比抵抗は0.1Ω・cm以下であり、良好な結果が得られた。
【0067】
次に、上記酸化物焼結体を、前述した実験例1と同様にしてDC(直流)マグネトロンスパッタリングを行なった結果、異常放電(アーキング)の発生は見られず、安定して放電することが確認された。
【0068】
また、上記スパッタリングターゲットについて、実験例1と同様にしてビッカース硬度を測定したところ、441Hvであり、本発明の範囲(400Hv以上)を満足していた。更に、上記スパッタリングの放電面から深さ方向のビッカース硬度の分散係数を、前述した方法に基づき、測定した結果、本発明の好ましい範囲(30以下)を満足しており、バラツキの非常に小さいものであった(表1を参照)。
【0069】
また、上記のスパッタリング条件で成膜した薄膜を用い、前述した実験例1と同様にしてキャリア移動度を測定したところ、15cm2/Vs以上の高いキャリア移動度が得られた。
【0070】
(実験例4)
純度99.99%の酸化亜鉛粉末(JIS1種)、純度99.99%の酸化スズ粉末、および純度99.99%の酸化ガリウム粉末を[Zn]:[Sn]:[Ga]=60.0:30.0:10.0の比率で配合し、1600℃で8時間焼結した後、1200℃で16時間熱処理したこと以外は、前述した実験例1と同様にして実験例4の酸化物焼結体を得た(Ga比=0.10)。
【0071】
このようにして得られた実験例4の酸化物焼結体の相対密度および比抵抗を、前述した実験例1と同様にして測定したところ、相対密度は90%以上、比抵抗は0.1Ω・cm以下であり、良好な結果が得られた。
【0072】
次に、上記酸化物焼結体を、前述した実験例1と同様にしてDC(直流)マグネトロンスパッタリングを行なった結果、異常放電(アーキング)の発生は見られず、安定して放電することが確認された。
【0073】
また、上記スパッタリングターゲットについて、実験例1と同様にしてビッカース硬度を測定したところ、461Hvであり、本発明の範囲(400Hv以上)を満足していた。更に、上記スパッタリングの放電面から深さ方向のビッカース硬度の分散係数を、前述した方法に基づき、測定した結果、本発明の好ましい範囲(30以下)を満足しており、バラツキの非常に小さいものであった(表1を参照)。
【0074】
また、上記のスパッタリング条件で成膜した薄膜を用い、前述した実験例1と同様にしてキャリア移動度を測定したところ、15cm2/Vs以上の高いキャリア移動度が得られた。
【0075】
(比較例1)
前述した実験例2において、炉内に成形体を1300℃で5時間保持して焼結し、1200℃で10時間熱処理したこと以外は、上記実験例2と同様にして比較例1の酸化物焼結体を得た。
【0076】
このようにして得られた比較例1の酸化物焼結体の相対密度および比抵抗を、前述した実験例1と同様にして測定したところ、焼結温度が本発明で推奨する下限(1350℃)より低いため、相対密度は90%を下回り、比抵抗は0.1Ωを超えていた。
【0077】
次に、上記酸化物焼結体を、前述した実験例1と同様にしてDC(直流)マグネトロンスパッタリングを行なったところ、不定期に異常放電が生じた。放電終了後にスパッタリング面を目視で観察したところ、ノジュールと見られる荒れが生じることが確認された。また、放電終了後にスパッタリング面を光学顕微鏡で観察したところ、薄膜側に異常放電により発生したと見られる欠陥が観察された。
【0078】
また、上記スパッタリングターゲットについて、実験例1と同様にしてビッカース硬度を測定したところ、358Hvであり、本発明の範囲(400Hv以上)を下回っていた。更に、上記スパッタリングの放電面から深さ方向のビッカース硬度の分散係数を、前述した方法に基づき、測定した結果、本発明の好ましい範囲(30以下)を超えており、バラツキが大きくなった(表1を参照)。
【0079】
【表1】

【0080】
また、上記のスパッタリング条件で成膜した薄膜を用い、前述した実験例1と同様にしてキャリア移動度を測定したところ、キャリア移動度は3.0cm2/Vsと、低かった。
【0081】
参考のため、図3〜6に、実験例1〜4のスパッタリングターゲットについて、ビッカース硬度のガウス分布(正規分布)曲線の結果を示す。各図には、比較のため、比較例1のスパッタリングターゲットの結果も併記している。これらの図より、本発明によれば、比較例に比べてビッカース硬度が高く、バラツキが抑えられたスパッタリングターゲットが得られることが分かる。
【0082】
以上の実験結果より、本発明で規定するM金属を含有し、比抵抗の分散係数が0.02以下に抑制されており、酸化物焼結体を構成する金属の組成比も本発明の好ましい要件を満足する実験例1〜5の酸化物焼結体を用いて得られるスパッタリングターゲットは、高い相対密度および低い比抵抗を有しており、直流スパッタリング法で製造しても長時間安定して放電することが分かった。また、上記スパッタリングターゲットを用いて得られる薄膜は、高いキャリア移動度を有するため、酸化物半導体薄膜として極めて有用であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛と;酸化スズと;Al、Hf、Ni、Si、Ga、In、およびTaよりなる群から選択される少なくとも1種の金属(M金属)の酸化物と、を混合および焼結して得られる酸化物焼結体であって、ビッカース硬度が400Hv以上であることを特徴とする酸化物焼結体。
【請求項2】
厚み方向のビッカース硬度をガウス分布で近似したとき、その分散係数σが30以下である請求項1に記載の酸化物焼結体。
【請求項3】
前記酸化物焼結体に含まれる金属元素の総量を1とし、
前記M金属のうち、Al、Hf、Ni、Si、およびTaよりなる群から選択される少なくとも1種の金属をM1金属とし、
全金属元素中に占める、Zn、Sn、M1金属の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[M1金属]としたとき、[Zn]+[Sn]+[M1金属]に対する[M1金属]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Sn]の比は、それぞれ下式を満足するものである請求項1または2に記載の酸化物焼結体。
[M1金属]/([Zn]+[Sn]+[M1金属])=0.01〜0.30
[Zn]/([Zn]+[Sn])=0.50〜0.80
[Sn]/([Zn]+[Sn])=0.20〜0.50
【請求項4】
前記酸化物焼結体に含まれる金属元素の総量を1とし、
前記M金属のうち、少なくともInまたはGaを含む金属をM2金属とし、
全金属元素中に占める、Zn、Sn、M2金属の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[M2金属]としたとき、[Zn]+[Sn]+[M2金属]に対する[M2金属]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Sn]の比は、それぞれ下式を満足するものである請求項1または2に記載の酸化物焼結体。
[M2金属]/([Zn]+[Sn]+[M2金属])=0.10〜0.30
[Zn]/([Zn]+[Sn])=0.50〜0.80
[Sn]/([Zn]+[Sn])=0.20〜0.50
【請求項5】
相対密度90%以上、比抵抗0.1Ω・cm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物焼結体を用いて得られるスパッタリングターゲットであって、ビッカース硬度が400Hv以上であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項7】
スパッタリング面から厚み方向のビッカース硬度をガウス分布で近似したとき、その分散係数σが30以下である請求項6に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記スパッタリングターゲットに含まれる金属元素の総量を1とし、
前記M金属のうち、Al、Hf、Ni、Si、およびTaよりなる群から選択される少なくとも1種の金属をM1金属とし、
全金属元素中に占める、Zn、Sn、M1金属の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[M1金属]としたとき、[Zn]+[Sn]+[M1金属]に対する[M1金属]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Sn]の比は、それぞれ下式を満足するものである請求項6または7に記載のスパッタリングターゲット。
[M1金属]/([Zn]+[Sn]+[M1金属])=0.01〜0.30
[Zn]/([Zn]+[Sn])=0.50〜0.80
[Sn]/([Zn]+[Sn])=0.20〜0.50
【請求項9】
前記スパッタリングターゲットに含まれる金属元素の総量を1とし、
前記M金属のうち、少なくともInまたはGaを含む金属をM2金属とし、
全金属元素中に占める、Zn、Sn、M2金属の含有量(原子%)をそれぞれ、[Zn]、[Sn]、[M2金属]としたとき、[Zn]+[Sn]+[M2金属]に対する[M2金属]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Zn]の比、[Zn]+[Sn]に対する[Sn]の比は、それぞれ下式を満足するものである請求項6または7に記載のスパッタリングターゲット。
[M2金属]/([Zn]+[Sn]+[M2金属])=0.10〜0.30
[Zn]/([Zn]+[Sn])=0.50〜0.80
[Sn]/([Zn]+[Sn])=0.20〜0.50
【請求項10】
相対密度90%以上、比抵抗0.1Ω・cm以下である請求項6〜9のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−180247(P2012−180247A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45267(P2011−45267)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【Fターム(参考)】