酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜
【課題】 ディスプレイ作製の基礎となる赤色、緑色、青色の3原色の発色が可能な、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を提供することにある。
【解決手段】 酸化物蛍光材料をターゲット材料としてパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に薄膜が形成し、前記薄膜の形成後、酸素中または大気中で900℃以上1200℃以下の熱処理によって蛍光特性を向上させたことを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
【解決手段】 酸化物蛍光材料をターゲット材料としてパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に薄膜が形成し、前記薄膜の形成後、酸素中または大気中で900℃以上1200℃以下の熱処理によって蛍光特性を向上させたことを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜に係り、特に、赤色、緑色、及び青色の3原色を発光することが可能な酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機ELや無機EL等多数の蛍光体が知られているが、酸化によって結晶性が低下し、蛍光特性の経年劣化が著しいという問題がある。
【0003】
特許文献1には、イットリウムアルミネート等の無機母材材料に金属イオンを置換した複酸化物蛍光体薄膜の製造方法が示されている。
特許文献2には、無機母体材料に希土類金属イオンや遷移金属イオンを含有した材料に機械的外力を印加することにより発光する薄膜の製造方法が示されている。
特許文献3には、多結晶体Snペロブスカイト酸化物系の蛍光特性が示されている。
非特許文献1には、多結晶体ASnO3 系ペロブスカイト構造(A=Ca,Sr,Ba)において、Eu3+で置換した際に赤色蛍光特性が得られることが示されている。
非特許文献2には、多結晶体Sn系層状ペロブスカイト構造において青色蛍光が得られることが示されている。
非特許文献3には、多結晶体CaSnO3において、Tbを置換した際に蛍光特性が得られることが示されている。
非特許文献4には、多結晶体層状層状ペロブスカイトSrn+1TiO3n+1系で赤色蛍光特性が得られることが示されている。
非特許文献5には、SrTiO3単結晶および薄膜に関し、酸素欠損により青白蛍光が得られることが示されている。
非特許文献6には、多結晶体SrTiO3 にPr原子を置換することにより、赤色蛍光特性が得られることが示されている。
非特許文献7には、多結晶体Pr原子置換(CaxSr1-x)TiO3において赤色蛍光特性が得られることが示されている。
非特許文献8には、薄膜MHfO3:Tm置換の青色蛍光特性が得られることが示されている。
非特許文献9には、Er原子で置換したBaTiO3薄膜において蛍光特性が得られることが示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003-183646号公報
【特許文献2】特開平11-219601号公報
【特許文献3】特願2005-322286
【非特許文献1】J. AlloyCompd. Vol.387, pp L1-4 (2005)
【非特許文献2】J. Mater.Sci. Lett., Vol.11, 1330 (1992)
【非特許文献3】MaterialsChemistry and Physics Vol.93, pp.129-132 (2005)
【非特許文献4】J.J.Appl. Phys. Vol.44, pp. 761-764 (2005)
【非特許文献5】Naturematerials Vol 4, 816 (2005)
【非特許文献6】Appl.Phy. Lett Vol 78, 655 (2001)
【非特許文献7】Chem.Mater. Vol 17, 3200 (2005)
【非特許文献8】Appl.Surf. Sci. Vol 197-198, 402 (2002)
【非特許文献9】Appl.Phy. Lett Vol 65, 25 (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術に示すように、酸化物多結晶体においては良好な蛍光体が得られることは知られているが、ディスプレイ作製上必要な赤色、緑色、及び青色の3原色の蛍光を発する酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜は知られていない。特に、ディスプレイ応用の際には、薄膜によるELの開発が必要不可欠であり、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の開発が急務とされている。
本発明の目的は、ディスプレイ作製の基礎となる赤色、緑色、青色の3原色の発色が可能な、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために、次のような手段を採用した。
第1の手段は、酸化物蛍光材料をターゲット材料としてパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に薄膜が形成されたことを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第2の手段は、第1の手段において、前記ターゲット材料が、希土類元素、遷移金属元素、アルカリ土類元素等をペロブスカイト構造に置換した多結晶ターゲット材料であることを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第3の手段は、第1の手段または第2の手段において、前記ターゲット材料が、Sr2(Sn1-x
Tix)O4:0.01≦x≦0.1であり、青色蛍光が得られることを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第4の手段は、第1の手段または第2の手段において、前記ターゲット材料が、Pry(CaxSr1-x)1-yTiO3:0.1≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.05であり、赤色蛍光が得られることを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第5の手段は、第1の手段または第2の手段において、前記ターゲット材料が、(Sr1-x
Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:0.01≦x≦0.1、0.01≦y≦0.2であり、赤色蛍光が得られることを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第6の手段は、第1の手段または第2の手段において、前記ターゲット材料が、{(Ca1-x
Mg x) 1-yTby}SnO3:0.01≦x≦0.2、0.001≦y≦0.2であり、緑色蛍光が得られることを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第7の手段は、第1の手段または第2の手段において、前記ターゲット材料が、(PrxSr1-x)SnO3:0.001≦x≦0.2であり、波長490nm±10nmの蛍光が得られることを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第8の手段は、第1の手段ないし第7の手段いずれか1つの手段において、前記薄膜を、酸素中または大気中で、900℃以上1200℃以下の熱処理によって蛍光特性を向上させたことを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第9の手段は、第1の手段ないし第8の手段いずれか1つの手段において、前記基板が、SrTiO3、LaAlO3、LaGaO3、LaSrGaO4のいずれかからなるペロブスカイト関連構造を有する材料、またはMgO、MgAl2O4のいずれかからなる立方晶もしくは正方晶系を有する材料からなることを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、赤色、緑色、青色の3原色の優れた蛍光特性を有する酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜が得られ、その結果、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜によるエレクトロルミネッセンスデバイスの開発が可能となる。また酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を用いたエレクトロルミネッセンスデバイスによれば、低電圧駆動が可能となることから、システムの小型化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
はじめに、本発明に係る酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の作製の概要について説明する。薄膜の作製にはパルスレーザー堆積法を用いる。パルスレーザー堆積法は短時間(典型的成膜時間は1時間)で500nm程度の薄膜を形成することができることから、工業的応用に期待されている。また、酸素気流中で成膜することができるため、酸化物薄膜成長時には酸素欠損等による電気的特性、蛍光特性の劣化を極めて少なくすることができる。パルスレーザー堆積法は、1Torr以下の低圧酸素中で、酸化物からなるターゲット材料にArF(波長193nm)のエキシマレーザーを照射し、ターゲット材料をプラズマ化させプルームを形成し、ターゲット材料に対抗する面に加熱した基板を配置し、薄膜を堆積させるものである。1000℃以下の温度ではクラスター成長が支配的であり、ターゲット材料をその化学量論組成で成膜させることができる。
【0009】
パルスレーザー堆積法における、レーザー照射周波数は8Hzであり、成膜時間は30分である。基板とターゲット間距離は32mmとした。レーザーエネルギーは約120mJである。ターゲット材料としては、希土類元素、遷移金属元素、アルカリ土類元素をペロブスカイト構造に置換した多結晶ターゲット材料を用いる。また、基板としては、SrTiO3、LaAlO3、LaGaO3、LaSrGaO4のいずれかからなるペロブスカイト関連構造を有する材料、またはMgO、MgAl2O4のいずれかからなる立方晶もしくは正方晶系を有する材料を用いる。ここでは、典型的例としてSrTiO3(001)単結晶研磨基板を用いた。SrTiO3の結晶構造は正方晶であり、格子定数は3.905nmである。ペロブスカイト酸化物の多くの材料はこの近傍の格子定数を持ち、整合性が良いため、結晶性の優れた酸化物エピタキシャル薄膜の成長が期待できる。
【実施例1】
【0010】
本発明の実施例1を図1ないし図5を用いて説明する。図1は、ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜、多結晶体および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図、図2は、ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による850℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図、図3は、ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図、図4は、ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長後、および大気中1000℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図、図5は、図2ないし図4の蛍光特性の測定結果をまとめた図である。
【0011】
特許文献3には、多結晶体Snペロブスカイト酸化物により、赤、青、緑色の蛍光特性が得られること、および多結晶体Sr2(Sn1-x Tix)O4:0.01≦x≦0.1において青色蛍光が得られることが示されている。これらの知見に基づいて、本実施例の発明で得られる酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜は、ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4:0.01≦x≦0.1をパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に成膜したものである。
【0012】
以下においては、前記化学組成の蛍光特性において最も良い蛍光特性が得られるx=0.05の場合について述べる。パルスレーザー堆積法によって前記化学組成のターゲットを基板温度が600℃、800℃、850℃において、エピタキシャル成長により基板上に成膜した。その後、成膜された酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の結晶構造を調べるためx線回折パターンを測定した。その結果、全ての温度で(110)薄膜が形成されていることからエピタキシャル成長が確認された。
【0013】
図1は、典型的例として800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図であり、同図に示すように、計算結果と多結晶体で得られた結果に対し、薄膜のパターンは(110)方位のみが出現していることから、(110)方位にエピタキシャル成長していることが分かる。
【0014】
図2は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を850℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の蛍光特性の測定結果を示す図であり、同図に示すように、それぞれにおいて410nmの波長で蛍光特性が得られていることが分かる。特に、1000℃の熱処理によって蛍光特性が顕著に向上していることから、1000℃による熱処理が最適と考えられる。
【0015】
図3は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の蛍光特性の測定結果を示す図であり、同図に示すように、1000℃の熱処理によって、蛍光特性が顕著に改善していることが分かる。これらの結果から、薄膜成長後、大気中1000℃で熱処理を行うことによって、蛍光特性が顕著に向上することが分かる。
【0016】
図4は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を600℃で成長後、および大気中1000℃で熱処理後の蛍光特性の測定結果を示す図であり、同図に示すように、大気中1000℃で熱処理を行うことによって、蛍光特性が顕著に向上していることが分かる。
【0017】
図5は、図2ないし図4に示した測定結果を総合的にまとめた図である。同図に示すように、最も良好な蛍光特性は、600℃で上記化学組成のターゲットをパルスレーザー堆積法によって成膜後、大気中1000℃で熱処理することによって得られることが分かる。大気中には20%前後の酸素が含有されていることから、酸素中における熱処理でも同様の結果が得られると考えられる。最適な化学組成でこれらの結果が得られたことから、Sr2(Sn1-x
Tix)O4:0.01≦x≦0.1においても、同様の蛍光特性が得られると考えられる。
【実施例2】
【0018】
本発明の実施例2を図6および図7を用いて説明する。図6は、ターゲット材料としてPr0.002(Ca0.6Sr0.4)0.998TiO3を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図、図7は、ターゲット材料としてPr0.002(Ca0.6Sr0.4)0.998TiO3を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【0019】
非特許文献7には、多結晶体、Pry(CaxSr1-x)1-yTiO3:0.1≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.05において赤色蛍光特性が得られることが示されている。これらの知見に基づいて、本実施例の発明で得られる酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜は、ターゲット材料として、Pry(CaxSr1-x)1-yTiO3:0.1≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.05をパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に成膜したものである。
【0020】
以下においては、前記非特許文献7において化学組成において最も良い蛍光特性が得られるx=0.6、y=0.002の場合について述べる。パルスレーザー堆積法によって前記化学組成のターゲットを基板温度が600℃および800℃において、エピタキシャル成長により基板上に成膜した。その後、成膜された酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の結晶構造を調べるためx線回折パターンを測定した。
【0021】
図6は、典型的例として800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図であり、同図は10度から80度までのx線回折パターンであり、(001)薄膜が形成されていることからエピタキシャル成長した薄膜であることが分かる。
【0022】
図7は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を600℃で成膜後、および大気中1000℃、1100℃で熱処理後の蛍光特性の測定結果を示す図であり、同図に示すように、それぞれにおいて620nmの波長で蛍光特性が得られていることが分かる。酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の成長後のみの蛍光特性よりも大気中1000℃で熱処理後の薄膜、またはそれよりも高温の大気中1100℃で熱処理後の薄膜において蛍光特性が顕著に向上していることが分かる。なお、大気中1200℃で熱処理後の薄膜は、この材料を使用しても蛍光特性が劣化することが分かった。大気中には20%前後の酸素が含有されていることから、酸素中における熱処理でも同様の結果が得られると考えられる。最適な化学組成でこれらの結果が得られたことから、Pry(CaxSr1-x)1-yTiO3:0.1≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.05の領域でも蛍光特性が得られると考えられる。
【実施例3】
【0023】
本発明の実施例3を図8ないし図10を用いて説明する。図8は、ターゲット材料として(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:x=0.02、y=0.1を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図、図9は、ターゲット材料として(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:x=0.02、y=0.1を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図、図10は、ターゲット材料として(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:x=0.02、y=0.1を用い、パルスレーザー堆積法による600℃、800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1,200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【0024】
特許文献3には、多結晶体Snペロブスカイト酸化物により、赤、青、緑色の蛍光特性が得られること、および多結晶体(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:0.01≦x≦0.1、0.01≦y≦0.2において赤色蛍光が得られたことが示されている。これらの知見に基づいて、本実施例の発明で得られる酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜は、ターゲット材料として(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:0.01≦x≦0.1、0.01≦y≦0.2をパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に成膜されたものである。
【0025】
以下においては、前記化学組成の蛍光特性において最も良い蛍光特性が得られるx=0.02、y=0.1の場合について述べる。パルスレーザー堆積法によって前記化学組成のターゲットを基板温度が600℃および800℃おいて、エピタキシャル成長により基板上に成膜した。その後、成膜された酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の結晶構造を調べるためx線回折パターンを測定した。
【0026】
図8は、600℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図であり、同図に示すように、計算結果に対し、薄膜のx線回折パターンは(110)方位に配向した薄膜が成長していることから、エピタキシャル成長した薄膜であることが分かる。
【0027】
図9は、800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図であり、同図に示すように、計算結果に対し、薄膜のx線回折パターンは(110)方位に配向した薄膜が成長していることから、エピタキシャル成長した薄膜であることが分かる。
【0028】
図10は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を800℃で成膜後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の蛍光特性の測定結果を示す図であり、同図に示すように、それぞれにおいて赤色を示す590 nmから610nmの波長で蛍光特性が得られていることが分かる。特に、600℃で成膜後、大気中1000℃で熱処理した蛍光特性が最も強度が強いことから、最適条件であることが分かる。大気中には20%前後の酸素が含有されていることから、酸素中における熱処理でも同様の結果が得られると考えられる。最適な化学組成でこれらの結果が得られたことから、(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:0.01≦x≦0.1、0.01≦y≦0.2の領域でも蛍光特性が得られると考えられる。
【実施例4】
【0029】
本発明の実施例4を図11ないし図13を用いて説明する。図11は、ターゲット材料として{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:x=0.03、y=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図、図12は、ターゲット材料として{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:x=0.03、y=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図、図13は、ターゲット材料として{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:x=0.03、y=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による600℃、800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【0030】
特許文献3には、多結晶体Snペロブスカイト酸化物により、赤、青、緑色の蛍光特性が得られること、および多結晶体{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:0.01≦x≦0.2、0.001≦y≦0.2において緑色蛍光が得られることが示されている。これらの知見に基づいて、本実施例の発明で得られる酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜は、ターゲット材料として{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:0.01≦x≦0.2、0.001≦y≦0.2をパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に成膜したものである。
【0031】
以下においては、特許文献3に示す化学組成において最も良い蛍光特性が得られるx=0.03、y=0.005の場合について述べる。パルスレーザー堆積法によって前記化学組成のターゲットを基板温度が600℃および800℃において、エピタキシャル成長により基板上に成膜した。その後、成膜された酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の結晶構造を調べるためx線回折パターンを測定した。
【0032】
図11は、600℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図であり、同図に示すように、計算結果に対し、薄膜のx線回折パターンは(110)方位に配向した薄膜が成長していることから、エピタキシャル成長した薄膜であることが分かる。
【0033】
図12は、800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図であり、同図に示すように、計算結果に対し、薄膜のx線回折パターンは(110)方位に配向した薄膜が成長していることから、エピタキシャル成長した薄膜であることが分かる。
【0034】
図13は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を600℃、800℃で成膜後、大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の蛍光特性の測定結果を示す図であり、同図に示すように、薄膜の蛍光特性測定の結果、800℃で成膜直後では、良好な結果は得られなかった。800℃で成膜後、大気中1000℃、1100℃、1200で熱処理を行った結果、および、600℃で成膜後、大気中1100℃で熱処理を行った結果、全ての場合において540nmの波長において顕著な蛍光特性が得られていることが分かる。特に、600℃で成膜後、大気中1100℃で熱処理を行った場合、最も顕著な蛍光特性が得られることが分かる。大気中には20%前後の酸素が含有されていることから、酸素中における熱処理でも同様の結果が得られると考えられる。最適な化学組成でこれらの結果が得られたことから、{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:0.01≦x≦0.2、0.001≦y≦0.2の領域でも蛍光特性が得られると考えられる。
【実施例5】
【0035】
本発明の実施例5を図14および図15を用いて説明する。図14は、ターゲット材料として(PrxSr1-x)SnO3:x=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図、図15は、ターゲット材料として(PrxSr1-x)SnO3:x=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による600℃、800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【0036】
特許文献3には、多結晶体Snペロブスカイト酸化物により、赤、青、緑色の蛍光特性が得られること、および多結晶体(PrxSr1-x)SnO3:0.001≦x≦0.2において波長490nm±10nm蛍光が得られることが示されている。これらの知見に基づいて、本実施例の発明で得られる酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜は、ターゲット材料として(PrxSr1-x)SnO3:0.001≦x≦0.2をパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に成膜したものである。
【0037】
以下においては、特許文献3に示す化学組成において最も良い蛍光特性が得られるx=0.005の場合について述べる。パルスレーザー堆積法によって前記化学組成のターゲットを基板温度が600℃および800℃において、エピタキシャル成長により基板上に成膜した。その後、800℃で成膜された酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の結晶構造を調べるためx線回折パターンを測定した。
【0038】
図14は、800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図であり、同図に示すように、計算結果に対し、薄膜のx線回折パターンは(110)方位に配向した薄膜が成長していることから、エピタキシャル成長した薄膜であることが分かる。
【0039】
図15は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を600℃、800℃で成膜後、大気中1000℃、1100℃で熱処理後の蛍光特性の測定結果を示す図であり、同図に示すように、薄膜の蛍光特性測定の結果、600℃、800℃で成膜直後では、良好な結果は得られなかった。600℃、800℃で成膜後、大気中1000℃、1100℃で熱処理を行った結果、蛍光特性が改善し、490nmの波長において顕著な蛍光特性が得られていることが分かる。特に、600℃で成膜後、大気中1100℃で熱処理を行った場合、最も顕著な蛍光特性が得られることが分かる。大気中には20%前後の酸素が含有されていることから、酸素中における熱処理でも同様の結果が得られると考えられる。最適な化学組成でこれらの結果が得られたことから、(PrxSr1-x)SnO3:0.001≦x≦0.2の領域でも蛍光特性が得られると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜、多結晶体および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図である。
【図2】ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による850℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【図3】ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【図4】ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長後、および大気中1000℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【図5】図2ないし図4の蛍光特性の測定結果をまとめた図である。
【図6】ターゲット材料としてPr0.002(Ca0.6Sr0.4)0.998TiO3を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図である。
【図7】ターゲット材料としてPr0.002(Ca0.6Sr0.4)0.998TiO3を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【図8】ターゲット材料として(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:x=0.02、y=0.1を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図である。
【図9】ターゲット材料として(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:x=0.02、y=0.1を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図である。
【図10】ターゲット材料として(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:x=0.02、y=0.1を用い、パルスレーザー堆積法による600℃、800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1,200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【図11】ターゲット材料として{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:x=0.03、y=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図である。
【図12】ターゲット材料として{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:x=0.03、y=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図である。
【図13】ターゲット材料として{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:x=0.03、y=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による600℃、800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【図14】ターゲット材料として(PrxSr1-x)SnO3:x=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図である。
【図15】ターゲット材料として(PrxSr1-x)SnO3:x=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による600℃、800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜に係り、特に、赤色、緑色、及び青色の3原色を発光することが可能な酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機ELや無機EL等多数の蛍光体が知られているが、酸化によって結晶性が低下し、蛍光特性の経年劣化が著しいという問題がある。
【0003】
特許文献1には、イットリウムアルミネート等の無機母材材料に金属イオンを置換した複酸化物蛍光体薄膜の製造方法が示されている。
特許文献2には、無機母体材料に希土類金属イオンや遷移金属イオンを含有した材料に機械的外力を印加することにより発光する薄膜の製造方法が示されている。
特許文献3には、多結晶体Snペロブスカイト酸化物系の蛍光特性が示されている。
非特許文献1には、多結晶体ASnO3 系ペロブスカイト構造(A=Ca,Sr,Ba)において、Eu3+で置換した際に赤色蛍光特性が得られることが示されている。
非特許文献2には、多結晶体Sn系層状ペロブスカイト構造において青色蛍光が得られることが示されている。
非特許文献3には、多結晶体CaSnO3において、Tbを置換した際に蛍光特性が得られることが示されている。
非特許文献4には、多結晶体層状層状ペロブスカイトSrn+1TiO3n+1系で赤色蛍光特性が得られることが示されている。
非特許文献5には、SrTiO3単結晶および薄膜に関し、酸素欠損により青白蛍光が得られることが示されている。
非特許文献6には、多結晶体SrTiO3 にPr原子を置換することにより、赤色蛍光特性が得られることが示されている。
非特許文献7には、多結晶体Pr原子置換(CaxSr1-x)TiO3において赤色蛍光特性が得られることが示されている。
非特許文献8には、薄膜MHfO3:Tm置換の青色蛍光特性が得られることが示されている。
非特許文献9には、Er原子で置換したBaTiO3薄膜において蛍光特性が得られることが示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003-183646号公報
【特許文献2】特開平11-219601号公報
【特許文献3】特願2005-322286
【非特許文献1】J. AlloyCompd. Vol.387, pp L1-4 (2005)
【非特許文献2】J. Mater.Sci. Lett., Vol.11, 1330 (1992)
【非特許文献3】MaterialsChemistry and Physics Vol.93, pp.129-132 (2005)
【非特許文献4】J.J.Appl. Phys. Vol.44, pp. 761-764 (2005)
【非特許文献5】Naturematerials Vol 4, 816 (2005)
【非特許文献6】Appl.Phy. Lett Vol 78, 655 (2001)
【非特許文献7】Chem.Mater. Vol 17, 3200 (2005)
【非特許文献8】Appl.Surf. Sci. Vol 197-198, 402 (2002)
【非特許文献9】Appl.Phy. Lett Vol 65, 25 (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術に示すように、酸化物多結晶体においては良好な蛍光体が得られることは知られているが、ディスプレイ作製上必要な赤色、緑色、及び青色の3原色の蛍光を発する酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜は知られていない。特に、ディスプレイ応用の際には、薄膜によるELの開発が必要不可欠であり、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の開発が急務とされている。
本発明の目的は、ディスプレイ作製の基礎となる赤色、緑色、青色の3原色の発色が可能な、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために、次のような手段を採用した。
第1の手段は、酸化物蛍光材料をターゲット材料としてパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に薄膜が形成されたことを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第2の手段は、第1の手段において、前記ターゲット材料が、希土類元素、遷移金属元素、アルカリ土類元素等をペロブスカイト構造に置換した多結晶ターゲット材料であることを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第3の手段は、第1の手段または第2の手段において、前記ターゲット材料が、Sr2(Sn1-x
Tix)O4:0.01≦x≦0.1であり、青色蛍光が得られることを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第4の手段は、第1の手段または第2の手段において、前記ターゲット材料が、Pry(CaxSr1-x)1-yTiO3:0.1≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.05であり、赤色蛍光が得られることを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第5の手段は、第1の手段または第2の手段において、前記ターゲット材料が、(Sr1-x
Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:0.01≦x≦0.1、0.01≦y≦0.2であり、赤色蛍光が得られることを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第6の手段は、第1の手段または第2の手段において、前記ターゲット材料が、{(Ca1-x
Mg x) 1-yTby}SnO3:0.01≦x≦0.2、0.001≦y≦0.2であり、緑色蛍光が得られることを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第7の手段は、第1の手段または第2の手段において、前記ターゲット材料が、(PrxSr1-x)SnO3:0.001≦x≦0.2であり、波長490nm±10nmの蛍光が得られることを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第8の手段は、第1の手段ないし第7の手段いずれか1つの手段において、前記薄膜を、酸素中または大気中で、900℃以上1200℃以下の熱処理によって蛍光特性を向上させたことを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
第9の手段は、第1の手段ないし第8の手段いずれか1つの手段において、前記基板が、SrTiO3、LaAlO3、LaGaO3、LaSrGaO4のいずれかからなるペロブスカイト関連構造を有する材料、またはMgO、MgAl2O4のいずれかからなる立方晶もしくは正方晶系を有する材料からなることを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、赤色、緑色、青色の3原色の優れた蛍光特性を有する酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜が得られ、その結果、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜によるエレクトロルミネッセンスデバイスの開発が可能となる。また酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を用いたエレクトロルミネッセンスデバイスによれば、低電圧駆動が可能となることから、システムの小型化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
はじめに、本発明に係る酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の作製の概要について説明する。薄膜の作製にはパルスレーザー堆積法を用いる。パルスレーザー堆積法は短時間(典型的成膜時間は1時間)で500nm程度の薄膜を形成することができることから、工業的応用に期待されている。また、酸素気流中で成膜することができるため、酸化物薄膜成長時には酸素欠損等による電気的特性、蛍光特性の劣化を極めて少なくすることができる。パルスレーザー堆積法は、1Torr以下の低圧酸素中で、酸化物からなるターゲット材料にArF(波長193nm)のエキシマレーザーを照射し、ターゲット材料をプラズマ化させプルームを形成し、ターゲット材料に対抗する面に加熱した基板を配置し、薄膜を堆積させるものである。1000℃以下の温度ではクラスター成長が支配的であり、ターゲット材料をその化学量論組成で成膜させることができる。
【0009】
パルスレーザー堆積法における、レーザー照射周波数は8Hzであり、成膜時間は30分である。基板とターゲット間距離は32mmとした。レーザーエネルギーは約120mJである。ターゲット材料としては、希土類元素、遷移金属元素、アルカリ土類元素をペロブスカイト構造に置換した多結晶ターゲット材料を用いる。また、基板としては、SrTiO3、LaAlO3、LaGaO3、LaSrGaO4のいずれかからなるペロブスカイト関連構造を有する材料、またはMgO、MgAl2O4のいずれかからなる立方晶もしくは正方晶系を有する材料を用いる。ここでは、典型的例としてSrTiO3(001)単結晶研磨基板を用いた。SrTiO3の結晶構造は正方晶であり、格子定数は3.905nmである。ペロブスカイト酸化物の多くの材料はこの近傍の格子定数を持ち、整合性が良いため、結晶性の優れた酸化物エピタキシャル薄膜の成長が期待できる。
【実施例1】
【0010】
本発明の実施例1を図1ないし図5を用いて説明する。図1は、ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜、多結晶体および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図、図2は、ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による850℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図、図3は、ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図、図4は、ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長後、および大気中1000℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図、図5は、図2ないし図4の蛍光特性の測定結果をまとめた図である。
【0011】
特許文献3には、多結晶体Snペロブスカイト酸化物により、赤、青、緑色の蛍光特性が得られること、および多結晶体Sr2(Sn1-x Tix)O4:0.01≦x≦0.1において青色蛍光が得られることが示されている。これらの知見に基づいて、本実施例の発明で得られる酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜は、ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4:0.01≦x≦0.1をパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に成膜したものである。
【0012】
以下においては、前記化学組成の蛍光特性において最も良い蛍光特性が得られるx=0.05の場合について述べる。パルスレーザー堆積法によって前記化学組成のターゲットを基板温度が600℃、800℃、850℃において、エピタキシャル成長により基板上に成膜した。その後、成膜された酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の結晶構造を調べるためx線回折パターンを測定した。その結果、全ての温度で(110)薄膜が形成されていることからエピタキシャル成長が確認された。
【0013】
図1は、典型的例として800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図であり、同図に示すように、計算結果と多結晶体で得られた結果に対し、薄膜のパターンは(110)方位のみが出現していることから、(110)方位にエピタキシャル成長していることが分かる。
【0014】
図2は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を850℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の蛍光特性の測定結果を示す図であり、同図に示すように、それぞれにおいて410nmの波長で蛍光特性が得られていることが分かる。特に、1000℃の熱処理によって蛍光特性が顕著に向上していることから、1000℃による熱処理が最適と考えられる。
【0015】
図3は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の蛍光特性の測定結果を示す図であり、同図に示すように、1000℃の熱処理によって、蛍光特性が顕著に改善していることが分かる。これらの結果から、薄膜成長後、大気中1000℃で熱処理を行うことによって、蛍光特性が顕著に向上することが分かる。
【0016】
図4は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を600℃で成長後、および大気中1000℃で熱処理後の蛍光特性の測定結果を示す図であり、同図に示すように、大気中1000℃で熱処理を行うことによって、蛍光特性が顕著に向上していることが分かる。
【0017】
図5は、図2ないし図4に示した測定結果を総合的にまとめた図である。同図に示すように、最も良好な蛍光特性は、600℃で上記化学組成のターゲットをパルスレーザー堆積法によって成膜後、大気中1000℃で熱処理することによって得られることが分かる。大気中には20%前後の酸素が含有されていることから、酸素中における熱処理でも同様の結果が得られると考えられる。最適な化学組成でこれらの結果が得られたことから、Sr2(Sn1-x
Tix)O4:0.01≦x≦0.1においても、同様の蛍光特性が得られると考えられる。
【実施例2】
【0018】
本発明の実施例2を図6および図7を用いて説明する。図6は、ターゲット材料としてPr0.002(Ca0.6Sr0.4)0.998TiO3を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図、図7は、ターゲット材料としてPr0.002(Ca0.6Sr0.4)0.998TiO3を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【0019】
非特許文献7には、多結晶体、Pry(CaxSr1-x)1-yTiO3:0.1≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.05において赤色蛍光特性が得られることが示されている。これらの知見に基づいて、本実施例の発明で得られる酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜は、ターゲット材料として、Pry(CaxSr1-x)1-yTiO3:0.1≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.05をパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に成膜したものである。
【0020】
以下においては、前記非特許文献7において化学組成において最も良い蛍光特性が得られるx=0.6、y=0.002の場合について述べる。パルスレーザー堆積法によって前記化学組成のターゲットを基板温度が600℃および800℃において、エピタキシャル成長により基板上に成膜した。その後、成膜された酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の結晶構造を調べるためx線回折パターンを測定した。
【0021】
図6は、典型的例として800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図であり、同図は10度から80度までのx線回折パターンであり、(001)薄膜が形成されていることからエピタキシャル成長した薄膜であることが分かる。
【0022】
図7は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を600℃で成膜後、および大気中1000℃、1100℃で熱処理後の蛍光特性の測定結果を示す図であり、同図に示すように、それぞれにおいて620nmの波長で蛍光特性が得られていることが分かる。酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の成長後のみの蛍光特性よりも大気中1000℃で熱処理後の薄膜、またはそれよりも高温の大気中1100℃で熱処理後の薄膜において蛍光特性が顕著に向上していることが分かる。なお、大気中1200℃で熱処理後の薄膜は、この材料を使用しても蛍光特性が劣化することが分かった。大気中には20%前後の酸素が含有されていることから、酸素中における熱処理でも同様の結果が得られると考えられる。最適な化学組成でこれらの結果が得られたことから、Pry(CaxSr1-x)1-yTiO3:0.1≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.05の領域でも蛍光特性が得られると考えられる。
【実施例3】
【0023】
本発明の実施例3を図8ないし図10を用いて説明する。図8は、ターゲット材料として(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:x=0.02、y=0.1を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図、図9は、ターゲット材料として(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:x=0.02、y=0.1を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図、図10は、ターゲット材料として(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:x=0.02、y=0.1を用い、パルスレーザー堆積法による600℃、800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1,200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【0024】
特許文献3には、多結晶体Snペロブスカイト酸化物により、赤、青、緑色の蛍光特性が得られること、および多結晶体(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:0.01≦x≦0.1、0.01≦y≦0.2において赤色蛍光が得られたことが示されている。これらの知見に基づいて、本実施例の発明で得られる酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜は、ターゲット材料として(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:0.01≦x≦0.1、0.01≦y≦0.2をパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に成膜されたものである。
【0025】
以下においては、前記化学組成の蛍光特性において最も良い蛍光特性が得られるx=0.02、y=0.1の場合について述べる。パルスレーザー堆積法によって前記化学組成のターゲットを基板温度が600℃および800℃おいて、エピタキシャル成長により基板上に成膜した。その後、成膜された酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の結晶構造を調べるためx線回折パターンを測定した。
【0026】
図8は、600℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図であり、同図に示すように、計算結果に対し、薄膜のx線回折パターンは(110)方位に配向した薄膜が成長していることから、エピタキシャル成長した薄膜であることが分かる。
【0027】
図9は、800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図であり、同図に示すように、計算結果に対し、薄膜のx線回折パターンは(110)方位に配向した薄膜が成長していることから、エピタキシャル成長した薄膜であることが分かる。
【0028】
図10は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を800℃で成膜後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の蛍光特性の測定結果を示す図であり、同図に示すように、それぞれにおいて赤色を示す590 nmから610nmの波長で蛍光特性が得られていることが分かる。特に、600℃で成膜後、大気中1000℃で熱処理した蛍光特性が最も強度が強いことから、最適条件であることが分かる。大気中には20%前後の酸素が含有されていることから、酸素中における熱処理でも同様の結果が得られると考えられる。最適な化学組成でこれらの結果が得られたことから、(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:0.01≦x≦0.1、0.01≦y≦0.2の領域でも蛍光特性が得られると考えられる。
【実施例4】
【0029】
本発明の実施例4を図11ないし図13を用いて説明する。図11は、ターゲット材料として{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:x=0.03、y=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図、図12は、ターゲット材料として{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:x=0.03、y=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図、図13は、ターゲット材料として{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:x=0.03、y=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による600℃、800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【0030】
特許文献3には、多結晶体Snペロブスカイト酸化物により、赤、青、緑色の蛍光特性が得られること、および多結晶体{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:0.01≦x≦0.2、0.001≦y≦0.2において緑色蛍光が得られることが示されている。これらの知見に基づいて、本実施例の発明で得られる酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜は、ターゲット材料として{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:0.01≦x≦0.2、0.001≦y≦0.2をパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に成膜したものである。
【0031】
以下においては、特許文献3に示す化学組成において最も良い蛍光特性が得られるx=0.03、y=0.005の場合について述べる。パルスレーザー堆積法によって前記化学組成のターゲットを基板温度が600℃および800℃において、エピタキシャル成長により基板上に成膜した。その後、成膜された酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の結晶構造を調べるためx線回折パターンを測定した。
【0032】
図11は、600℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図であり、同図に示すように、計算結果に対し、薄膜のx線回折パターンは(110)方位に配向した薄膜が成長していることから、エピタキシャル成長した薄膜であることが分かる。
【0033】
図12は、800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図であり、同図に示すように、計算結果に対し、薄膜のx線回折パターンは(110)方位に配向した薄膜が成長していることから、エピタキシャル成長した薄膜であることが分かる。
【0034】
図13は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を600℃、800℃で成膜後、大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の蛍光特性の測定結果を示す図であり、同図に示すように、薄膜の蛍光特性測定の結果、800℃で成膜直後では、良好な結果は得られなかった。800℃で成膜後、大気中1000℃、1100℃、1200で熱処理を行った結果、および、600℃で成膜後、大気中1100℃で熱処理を行った結果、全ての場合において540nmの波長において顕著な蛍光特性が得られていることが分かる。特に、600℃で成膜後、大気中1100℃で熱処理を行った場合、最も顕著な蛍光特性が得られることが分かる。大気中には20%前後の酸素が含有されていることから、酸素中における熱処理でも同様の結果が得られると考えられる。最適な化学組成でこれらの結果が得られたことから、{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:0.01≦x≦0.2、0.001≦y≦0.2の領域でも蛍光特性が得られると考えられる。
【実施例5】
【0035】
本発明の実施例5を図14および図15を用いて説明する。図14は、ターゲット材料として(PrxSr1-x)SnO3:x=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図、図15は、ターゲット材料として(PrxSr1-x)SnO3:x=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による600℃、800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【0036】
特許文献3には、多結晶体Snペロブスカイト酸化物により、赤、青、緑色の蛍光特性が得られること、および多結晶体(PrxSr1-x)SnO3:0.001≦x≦0.2において波長490nm±10nm蛍光が得られることが示されている。これらの知見に基づいて、本実施例の発明で得られる酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜は、ターゲット材料として(PrxSr1-x)SnO3:0.001≦x≦0.2をパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に成膜したものである。
【0037】
以下においては、特許文献3に示す化学組成において最も良い蛍光特性が得られるx=0.005の場合について述べる。パルスレーザー堆積法によって前記化学組成のターゲットを基板温度が600℃および800℃において、エピタキシャル成長により基板上に成膜した。その後、800℃で成膜された酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の結晶構造を調べるためx線回折パターンを測定した。
【0038】
図14は、800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図であり、同図に示すように、計算結果に対し、薄膜のx線回折パターンは(110)方位に配向した薄膜が成長していることから、エピタキシャル成長した薄膜であることが分かる。
【0039】
図15は、酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜を600℃、800℃で成膜後、大気中1000℃、1100℃で熱処理後の蛍光特性の測定結果を示す図であり、同図に示すように、薄膜の蛍光特性測定の結果、600℃、800℃で成膜直後では、良好な結果は得られなかった。600℃、800℃で成膜後、大気中1000℃、1100℃で熱処理を行った結果、蛍光特性が改善し、490nmの波長において顕著な蛍光特性が得られていることが分かる。特に、600℃で成膜後、大気中1100℃で熱処理を行った場合、最も顕著な蛍光特性が得られることが分かる。大気中には20%前後の酸素が含有されていることから、酸素中における熱処理でも同様の結果が得られると考えられる。最適な化学組成でこれらの結果が得られたことから、(PrxSr1-x)SnO3:0.001≦x≦0.2の領域でも蛍光特性が得られると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜、多結晶体および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図である。
【図2】ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による850℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【図3】ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【図4】ターゲット材料としてSr2(Sn1-x Tix)O4: x=0.05を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長後、および大気中1000℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【図5】図2ないし図4の蛍光特性の測定結果をまとめた図である。
【図6】ターゲット材料としてPr0.002(Ca0.6Sr0.4)0.998TiO3を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜のx線回折パターンを示す図である。
【図7】ターゲット材料としてPr0.002(Ca0.6Sr0.4)0.998TiO3を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【図8】ターゲット材料として(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:x=0.02、y=0.1を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図である。
【図9】ターゲット材料として(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:x=0.02、y=0.1を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図である。
【図10】ターゲット材料として(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:x=0.02、y=0.1を用い、パルスレーザー堆積法による600℃、800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1,200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【図11】ターゲット材料として{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:x=0.03、y=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による600℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図である。
【図12】ターゲット材料として{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:x=0.03、y=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図である。
【図13】ターゲット材料として{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:x=0.03、y=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による600℃、800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃、1200℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【図14】ターゲット材料として(PrxSr1-x)SnO3:x=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による800℃で成長時の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜および計算結果より得られた多結晶体のx線回折パターンを示す図である。
【図15】ターゲット材料として(PrxSr1-x)SnO3:x=0.005を用い、パルスレーザー堆積法による600℃、800℃で成長後、および大気中1000℃、1100℃で熱処理後の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜の蛍光特性の測定結果を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物蛍光材料をターゲット材料としてパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に薄膜が形成されたことを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項2】
前記ターゲット材料が、希土類元素、遷移金属元素、アルカリ土類元素をペロブスカイト構造に置換した多結晶ターゲット材料であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項3】
前記ターゲット材料が、Sr2(Sn1-x Tix)O4:0.01≦x≦0.1であり、青色蛍光が得られることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項4】
前記ターゲット材料が、Pry(CaxSr1-x)1-yTiO3:0.1≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.05であり、赤色蛍光が得られることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項5】
前記ターゲット材料が、(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:0.01≦x≦0.1、0.01≦y≦0.2であり、赤色蛍光が得られることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項6】
前記ターゲット材料が、{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:0.01≦x≦0.2、0.001≦y≦0.2であり、緑色蛍光が得られることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項7】
前記ターゲット材料が、(PrxSr1-x)SnO3:0.001≦x≦0.2であり、波長490nm±10nmの蛍光が得られることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項8】
前記薄膜を、酸素中または大気中で、900℃以上1200℃以下の熱処理によって蛍光特性を向上させたことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1つの請求項に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項9】
前記基板が、SrTiO3、LaAlO3、LaGaO3、LaSrGaO4のいずれかからなるペロブスカイト関連構造を有する材料、またはMgO、MgAl2O4のいずれかからなる立方晶もしくは正方晶系を有する材料からなることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1つの請求項に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項1】
酸化物蛍光材料をターゲット材料としてパルスレーザー堆積法によって、600℃以上800℃以下の温度でエピタキシャル成長により基板上に薄膜が形成されたことを特徴とする酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項2】
前記ターゲット材料が、希土類元素、遷移金属元素、アルカリ土類元素をペロブスカイト構造に置換した多結晶ターゲット材料であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項3】
前記ターゲット材料が、Sr2(Sn1-x Tix)O4:0.01≦x≦0.1であり、青色蛍光が得られることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項4】
前記ターゲット材料が、Pry(CaxSr1-x)1-yTiO3:0.1≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.05であり、赤色蛍光が得られることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項5】
前記ターゲット材料が、(Sr1-x Eu x)2(Sn1-y Ti y)O4:0.01≦x≦0.1、0.01≦y≦0.2であり、赤色蛍光が得られることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項6】
前記ターゲット材料が、{(Ca1-x Mg x) 1-yTby}SnO3:0.01≦x≦0.2、0.001≦y≦0.2であり、緑色蛍光が得られることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項7】
前記ターゲット材料が、(PrxSr1-x)SnO3:0.001≦x≦0.2であり、波長490nm±10nmの蛍光が得られることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項8】
前記薄膜を、酸素中または大気中で、900℃以上1200℃以下の熱処理によって蛍光特性を向上させたことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1つの請求項に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【請求項9】
前記基板が、SrTiO3、LaAlO3、LaGaO3、LaSrGaO4のいずれかからなるペロブスカイト関連構造を有する材料、またはMgO、MgAl2O4のいずれかからなる立方晶もしくは正方晶系を有する材料からなることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1つの請求項に記載の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−19317(P2008−19317A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190755(P2006−190755)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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