説明

量子ドットアレイおよびその製造方法

【課題】比較的小さなサイズの量子ドットを相互に短絡することなく均一に分散させた量子ドットアレイを得る。
【解決手段】量子ドットアレイの製造方法は、基板上(2)に、それぞれが上下をバリア層(8a、8)で挟まれた量子ドット(6)を含む複数の柱状部(4)を設けることにより、量子ドットアレイ(100)を形成するために、基板(2)を回転させながら第1の材料を斜方蒸着することにより、基板(2)上に前記複数の柱状部(4)を形成するための基礎部を形成し、その後、基板の回転を停止して前記バリア層の材料および量子ドットの材料を順次斜方蒸着することにより、基礎部上に上下をバリア層で挟まれた量子ドットを形成する、各工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドットアレイおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドットとは一般に、半導体や金属などからなる数nm〜数十nm程度の微小な塊であり、電子やホールを3次元的に閉じ込めることができる。このような閉じ込め効果により、量子ドットの中では電子やホールの運動が量子化され、離散的なエネルギー準位が形成される。これにより、所望の波長で発光する、高効率な発光材料を得ることができる。また、量子ドットをバリア層で挟んだ構造に電極を取り付けることにより、共鳴トンネル素子を構成することができる。これは、特定のエネルギーの電子のみを取り出す、エネルギーフィルターとして用いることができる。更に、このような量子ドットをアレイ状に並べて量子ドットアレイとすることで、エネルギー効率および温度安定性に優れた量子ドットレーザなどの実現が可能となる。
【0003】
量子ドットアレイの製造方法として、フォトリソグラフィーを利用したパターニングにより量子ドットアレイを製造する方法、薄膜成長におけるSK(Stransiki−Krastanov)成長モードを利用した自己組織化により、量子ドットアレイを製造する方法が知られている。
【0004】
ところが、フォトリソグラフィーを利用した製造方法では、プロセスが複雑となり生産効率が低下するため、量子ドットアレイを用いた素子のコストが高くなる。さらに、大面積化が困難である。
【0005】
また、SK成長モードを利用した製造方法では、量子ドットの構成材料とバリア層の構成材料との格子定数差が利用されるため、量子ドットの構成材料とバリア層の構成材料との組合せが限定される。また、基板上の量子ドットの数密度を制御することも困難である。さらに、量子ドットとバリア層とを膜厚方向に交互に積層しようとすると、バリア層の格子歪みを緩和させるためにバリア層の膜厚を大きくせざるを得ない。
【0006】
一方、斜方蒸着により直径がナノメートルオーダーの柱の配列からなる構造が形成されることを利用し(非特許文献1参照)、基板上に量子ドットの構成材料を斜方蒸着することにより、量子ドットを含んだ複数の柱状部を基板上に形成する方法が考えられる。
【0007】
【非特許文献1】Suzuki、他2名、「Morphological Stability of TiO2 Thin Films with Isolated Columns」、Japanese Journal of Applied Physics Part 2、第40巻、p.L398−L400、2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した非特許文献1に記載の斜方蒸着技術を利用した量子ドットアレイの製造方法では、基板上に量子ドットの材料を直接斜方蒸着するが、このとき、初期段階で量子ドット材料の微小な塊が多く形成される。成長に伴って、そのうちの幾つかが選択的に成長して量子ドット材料の柱を形成する。そのため、基板上に、量子ドット材料の小さな塊と柱とが混在し、量子ドットのサイズが不均一となる。また、柱と、柱の間に存在する微小な塊とが接触し、両者が半導体あるいは金属であるため、その間に短絡が生じる。さらには、蒸着方向に垂直な方向で、成長した柱同士が接触し短絡が発生する恐れもある。非特許文献1では、基板を回転させながら斜方蒸着を行うことも提案しているが、この場合でも柱の間に量子ドット材料の微小な塊が存在するので、量子ドットのサイズが不均一となり、また、柱および微小な塊間で短絡が発生する恐れがある。
【0009】
そこで、最初にバリア層材料を斜方蒸着して基板上にバリア層材料の柱を成長させ、その後量子ドット材料を斜方蒸着することにより、量子ドットアレイを形成する方法が提案されている。この方法では、基板上にバリア層材料の微小な塊が形成されるが、この微小な塊は量子ドットのサイズには影響しないので、サイズの均一な量子ドットアレイを得ることができる。さらに、バリア層材料は絶縁性が高いので、微小な塊および柱間で短絡は発生しない。これにより、上述した非特許文献1の持つ多くの欠点を解決することができる。ところが、前述の非特許文献1に記載の斜方蒸着技術を利用した製造方法の場合と同様、蒸着方向に垂直な方向で柱同士が接触し、量子ドットが相互に接触して短絡する欠点が存在する。これを解決するために、基板を回転させながら斜方蒸着を行うことも提案されているが、この方法では、量子ドット間の短絡の問題が解決される一方で、柱のサイズ(太さ)が大きくなるため、それに伴って量子ドットのサイズが大きくなる問題が生じる。量子ドットのサイズが大きくなると、量子ドットを有するデバイスにおいて、所望の特性が得られなくなる。
【0010】
本発明は、従来の量子ドットアレイの製造方法における上述のような欠点を解決する目的でなされたものであり、サイズの小さな量子ドットを、量子ドット間で短絡を生じさせることなくしかも基板上に均一に分布させることが可能な、量子ドットアレイの新規な製造方法、およびその製造方法によって製造された量子ドットアレイを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の量子ドットアレイの製造方法は、基板上に、それぞれがバリア層で挟まれた量子ドットを含む複数の柱状部を設けることにより、量子ドットアレイを形成する、量子ドットアレイの製造方法において、基板を回転させながら第1の材料を斜方蒸着することにより、前記基板上に前記複数の柱状部を形成するための基礎部を形成し、その後、基板の回転を停止して前記バリア層の材料および量子ドットの材料を順次斜方蒸着することにより、前記基礎部上に前記バリア層で挟まれた量子ドットを形成する、各工程を含んでいる。
【0012】
また、前記第1の材料は前記バリア層の材料と同じ材料であってもよく、さらに電極材料であっても良い。第1の材料が電極材料である場合は、前記基礎部を形成する工程は、基板を回転させながら第1の材料を斜方蒸着した後、基板の回転を停止して前記第1の材料の斜方蒸着を継続する工程を含んでいても良い。
【0013】
さらに、前記製造方法において、前記基板の回転を停止してバリア層の材料、量子ドットの材料を順次斜方蒸着する工程を複数回繰り返して行うことにより、複数段にわたって量子ドットアレイを形成しても良い。
【0014】
前記課題を解決するために、本発明の量子ドットアレイは、基板の表面に対してほぼ垂直方向に伸びる複数の基礎部と、前記それぞれの基礎部上に形成される傾斜した柱状部と、を含み、前記柱状部は、バリア層によって挟まれた量子ドットを含んで構成される。
【0015】
また、前記量子ドットアレイにおいて、前記基礎部は前記バリア層と同じ材料で構成され、あるいは電極材料で構成されても良い。電極材料で構成される場合は、前記基礎部上に当該電極材料の傾斜部を含んでいても良い。
【0016】
さらに、前記量子ドットアレイにおいて、前記柱状部は、前記バリア層によって挟まれた量子ドットを複数段にわたって含んでいても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明の量子ドットアレイの製造方法によれば、量子ドットアレイを形成するための基板を回転させながら第1の材料を斜方蒸着することによって、基板に対してほぼ垂直に伸びる複数の基礎部が、それぞれの基礎部の先端間で相互に明瞭に分離して形成される。従って、その後、基板の回転を停止して、バリア層材料および量子ドット材料を斜方蒸着することにより、明瞭に分離された基礎部上の先端に、比較的直径の小さい量子ドットを含む傾斜した柱状部が形成される。その結果、量子ドットのサイズが小さく、さらに、それぞれの量子ドットが互いに明瞭に分離されて短絡することがない、量子ドットアレイを得ることができる。
【0018】
上述の製造方法によって得られた本発明の量子ドットアレイでは、サイズの小さい量子ドットが基板上で比較的均一に分布し、しかも隣接する量子ドット同士が相互に明瞭に分離して形成されているので、量子ドット間で短絡が生じ量子ドットの特性を損ねることがない。そのため、所望の特性を有する量子ドットアレイを得ることができる。更に、バリア層材料と量子ドット材料とを交互に蒸着して、量子ドットアレイを基板に垂直方向に積層する場合、量子ドットが基板に垂直方向に配列されるので、これを共鳴トンネル素子に用いる場合、優れた特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の一実施形態にかかる量子ドットアレイの概略構造を説明するための図である。図において、量子ドットアレイ100は、基板2上に複数の微小な塊1およびこれらから選択的に成長した柱状部4を有している。後述するように、本実施形態では、最初、バリア層材料を基板2を回転させながら斜方蒸着するので、微小な塊1は、バリア層材料の塊である。各柱状部4は、量子ドット6とバリア層8を交互に複数回積層した構造を有しており、その結果、量子ドットアレイ100は三次元にわたって形成される。柱状部4は基本的に斜方蒸着法によって形成されるため、基板2の表面2aの垂直方向に対して角度θ’だけ傾斜している。なお、この傾斜角θ’は、一般に、材料の蒸着角θよりも小さい。
【0020】
本実施形態では、基板2の表面2a上に最初の材料を斜方蒸着する場合、基板2を回転させながら斜方蒸着を行うので、蒸着材料のバリア層材料の微小な塊1を基に形成されるバリア層8aの基礎部は、図示するように表面2aのほぼ垂直方向に伸びる円柱状に形成される。また、基板2の回転を伴った斜方蒸着により、各バリア層8aの先端が隣接するバリア層8aの先端から明瞭に分離された形で、基板上に比較的均一に分散して形成されるようになる。
【0021】
基板2の回転は、バリア層8aの基礎部が形成された後停止され、その後は基板2の回転を伴わない斜方蒸着が実行される。従って、バリア層8aは、図1に示すように、基礎部上で斜方蒸着の方向に傾斜した傾斜部を有するようになる。次に、基板2を固定した状態で、量子ドット材料、バリア層材料、量子ドット材料、さらに量子ドット材料を斜方蒸着することにより、バリア層8を上下に形成した量子ドット6の積層構造を備える複数の柱状部4が形成される。この柱状部4は、材料の斜方蒸着によって形成されるので、その径は従来の斜方蒸着法による柱状部と同様に、比較的小さくなる。
【0022】
その結果、隣接する量子ドット同士で相互に明瞭に分離され、しかもサイズの小さな量子ドットが基板上で短絡することなく比較的均一に分布した、量子ドットアレイ100を得ることができる。なお、図1において、3は基板2を蒸着装置内に固定するための固定台であり、蒸着装置内で軸3aを中心に回転自在に構成されている。
【0023】
量子ドット6の構成材料としては、半導体や金属が挙げられ、半導体としては、例えばSi、Ge、CdS、ZnS、ZnTe、CdTeなどがあり、金属としては、例えばAu、Ag、Cuなどがある。バリア層8a、8の構成材料は、量子ドット6の構成材料に対してエネルギー障壁となるものであり、これにより、量子ドット6に電子またはホールを閉じ込めることが可能である。バリア層8、8aの構成材料は、量子ドット6の構成材料に対してエネルギー障壁となるものであれば特に限定されず、例えばSiO、Al、Siなどが用いられる。例えば量子ドット6をSiで、バリア層8、8aをSiOで構成することができる。
【0024】
以下に、図2を参照して、上述した量子ドットアレイ100の製造方法を説明する。
【0025】
まず基板2を用意する。基板2としては、例えばシリコンウエハなどを用いることができる。次に、図示してはいないが、基板2を、例えば電子ビーム蒸着装置内の固定台3上に設置する。ここで、電子ビーム蒸着装置は、容器(図示せず)と蓋(図示せず)とを備えている。容器内には、バリア層8a、8用の蒸着源を収容するバリア層用蒸着源収容部(図示せず)及び量子ドット用の蒸着源を収容する量子ドット用蒸着源収容部(図示せず)が設けられており、バリア層用及び量子ドット用の蒸着源は、例えば電子ビームにより加熱されて蒸発するようになっている。なお、固定台3は、回転軸3aの周りに回転可能に構成されている(図1参照)。
【0026】
バリア層用及び量子ドット用の蒸着源収容部は、基板2の表面2aの法線に対して斜め方向に配置されている。言い換えると、基板2の法線に対する蒸着角度(図1のθ)は、法線に対して好ましくは30度以上である。蒸着角度が30度未満である場合は、柱状部同士が接触する、即ち量子ドット間が短絡する恐れがある。なお、蒸着角度は90度以下である。基板温度は通常室温であるが、各蒸着材料の融点(絶対温度表記)の1/3以下であることが好ましい。基板温度が蒸着材料の融点(絶対温度表記)の1/3よりも高い場合には、1/3以下の場合に比べて柱状部同士が接触しやすく、量子ドット間で短絡が発生する恐れがある。
【0027】
次に、容器内のバリア層用蒸着源収容部にバリア層8、8aの構成材料を蒸着源として収容し、量子ドット用の蒸着源収容部には量子ドット6の構成材料を蒸着源として収容する。
【0028】
次いで、容器に蓋をし容器内を真空にした後、電子ビームをバリア層用の蒸着源に照射し蒸着源を加熱して蒸発させる。このとき、同時に固定台3を回転駆動する。バリア層用の蒸着源収容部は基板2の表面2aの法線に対して斜めの位置に設けられているため、基板2の表面2aに対してバリア層用の蒸着源が斜方蒸着され、基板2上にはバリア層材料の多数の微小な塊1が形成されるが、そのうちの幾つかが選択的に成長し、バリア層8aの基礎部81となる。固定台3の回転によって基板2が回転しているため、基礎部81は、図2(a)に示すように、法線方向に伸びてほぼ円柱状に成長する。基礎部81の間には、円柱に成長し得ないバリア層材料の微小な塊1が残っている。
【0029】
基板2の回転を伴った斜方蒸着を継続することによって、基板2の表面2a上に、複数の基礎部81が比較的均一に分散して形成されると、バリア層用の蒸着源による斜方蒸着を継続する一方で、固定台3の回転を停止する。これによって、図2(b)に示すように、バリア層8aの傾斜部82が基礎部81上に形成される。傾斜部82は、蒸着角度θよりも小さい角度で傾斜している。
【0030】
以上のようにして、基板2の表面2aに対してほぼ垂直な基礎部81と、傾斜部82とを有するバリア層8aが形成されると、次に、電子ビームを量子ドット用の蒸着源に照射して蒸着源を加熱して蒸発させる。このとき、量子ドット用の蒸着源収容部は、基板2の表面2aの法線に対して斜めの位置に設けられているため、基板2の表面2aに対して量子ドット用の蒸着源が斜方蒸着される。このようにして、図2(c)に示すように、各バリア層8a上に第1の量子ドット6が形成される。
【0031】
次に、再び電子ビームをバリア層用の蒸着源に照射して蒸着源を加熱し蒸発させて、上記と同様にして、図2(d)に示すように、量子ドット6の上にバリア層8を形成する。
【0032】
その後、再び電子ビームを量子ドット用の蒸着源に照射して加熱蒸発させ、図2(e)に示すように第2の量子ドット6を形成する。次に、電子ビームをバリア層用の蒸着源に照射して加熱蒸発させ、図2(f)に示すように第3のバリア層8を形成する。
【0033】
以下、量子ドット6およびバリア層8を上記と同様にして交互に形成し、量子ドットが三次元的に配列された量子ドットアレイ100の製造を完了する。
【0034】
上記の製造方法によれば、まず、基板2の回転を伴ってバリア層材料が斜方蒸着されるため、バリア層8aの基礎部81は基板2の表面2aのほぼ法線方向に伸びて形成され、各バリア層8aの先端が明瞭に分離して形成されるようになる。その後、基板2の回転を停止してバリア層8aの一部を斜方蒸着により形成した後、量子ドット6、バリア層8を繰り返して斜方蒸着により形成することにより、バリア層8a上に、傾斜した柱状構造4が形成される。
【0035】
この柱状構造4は、斜方蒸着により形成されるため、比較的直径の大きなバリア層8a上に形成された場合でも、バリア層8aの直径に比べて小さい直径を有するようになる。しかも、バリア層8aが隣接するバリア層8a間で明瞭に分離して形成されているので、その上に形成される傾斜した柱状構造4も隣接する柱状構造4間で明瞭に分離されて形成される。その結果、基板2の表面2aに平行な平面内で小さなサイズの量子ドット6が相互に明瞭に分離して形成されることとなり、蒸着方向に垂直な方向において量子ドット6同士が接触し、短絡することはない。
【0036】
図3は、本発明の第2の実施形態にかかる一次元量子ドットアレイ200の概略構造を示す断面図である。この量子ドットアレイ200は、例えばシリコンウエハである基板2上に、不純物、例えばBを高濃度にドープしたシリコンで構成される第1の電極層10、二酸化シリコンを材料とする第1のバリア層12、ノンドープのシリコンを材料とする量子ドット14、二酸化シリコンを材料とする第2のバリア層16および、不純物、例えばBを高濃度にドープしたシリコンで構成される第2の電極層18で構成されている。
【0037】
図3に示す量子ドットアレイ200において、第1の電極層10は次のようにして形成される。まず基板2を回転させながら例えばBドープのシリコンを基板2上に斜方蒸着することにより、基板2の表面2a上に電極材料の多数の微小な塊9を形成する。さらに回転を伴った斜方蒸着を継続することにより、微小な塊9を選択的に成長させ、表面2aのほぼ法線方向に伸びる基礎部を形成する。その後、基板2の回転を停止した状態で同じ斜方蒸着を継続することにより、第1の電極層10の傾斜部が形成される。このとき、基礎部は、基板2の回転を伴った斜方蒸着により、隣接する基礎部の先端間で明瞭に分離して形成される。その後、基板2の回転を停止した状態で斜方蒸着を継続することにより、上述したように傾斜部が形成されるが、この傾斜部は、成長に伴って斜方蒸着に伴う本来の小さなサイズの直径を有するようになる。
【0038】
従って、第1の電極層10の傾斜部を充分に成長させた後、バリア層用蒸着源、量子ドット用蒸着源、さらにバリア層用蒸着源による斜方蒸着を実施することによって、第1のバリア層12、量子ドット14および第2のバリア層16が形成される。その後、例えばBドープのシリコンを斜方蒸着することにより、第2の電極層18を形成する。これによって、充分に小さな径を有する量子ドット16を含んだ複数の柱状部4aが、基板2上で相互に分離して形成され、その結果、サイズの小さな量子ドットが均一に分散した一次元量子ドットアレイ200が形成される。
【0039】
図4(a)〜(c)は、本発明の製造方法による効果を示すための図であって、従来方法および本発明の方法に基づいて形成した量子ドットアレイのSEM画像データをコンピュータ処理した画像を示す。図4(a)は、基板の回転を伴わない斜方蒸着方法によって形成した量子ドットアレイのx−y平面画像(図(a)の上部)とz軸方向の画像(図(a)の下部)を示し、平面画像に示された点は量子ドットの二次元的な分布を示している。図4(b)は、基板の回転を継続しながら斜方蒸着法によって形成した量子ドットアレイのx−y平面画像(図(b)の上部)とz軸方向の画像(図(b)の下部)を示し、平面画像に示された点は量子ドットの二次元的な分布を示している。
【0040】
これに対して、図4(c)は、図3に示す本発明の方法によって形成された量子ドットアレイのx−y平面画像(図(c)の上部)とz軸方向画像(図(c)の下部)を示し、平面画像に示された点は量子ドット14の二次元的な分布を示すものである。なお、図4(a)および(b)に示す量子ドットアレイの概略構造を、図5の(a)および(b)に示す。
【0041】
図4(a)および図5(a)において、40は斜方蒸着によって形成された柱状構造を示し、第1の電極42、第1のバリア層44、量子ドット46、第2のバリア層48および第2の電極50を含んでいる。なお、図5(a)(b)の9’、9”は、図3に示した微小な塊9と同様に、第1の電極42を形成する時に同時に形成される電極材料の塊である。図4(b)および図5(b)において、60は基板2の回転を伴う斜方蒸着法によって形成された柱状構造を示し、第1の電極62、第1のバリア層64、量子ドット66、第2のバリア層68および第2の電極70を含んでいる。
【0042】
図4(a)のz軸方向画像より明らかなように、従来の斜方蒸着法では比較的小さな径を有する柱状構造40が得られ、従ってx−y平面画像より明らかなように、量子ドット46のサイズも小さくなる。ところが、この方法では、x−y平面画像の47で示す部分のように、量子ドット46が蒸着方向と直交する方向に連なり、電気的な絶縁が不充分となる部分が形成される。
【0043】
また、図4(b)に示す量子ドットアレイでは、基板を回転しながら斜方蒸着を行うことによって柱状構造60の径が比較的大きくなり、その結果、図4(b)のx−y平面図に示すように、量子ドット66が相互に明瞭に分離された状態となるものの、柱状構造60の径が比較的大きいので、個々の量子ドット66のサイズがかなり大きくなる欠点を有している。
【0044】
これに対して、図4(c)のz軸方向画像に示すように、柱状構造4を形成する初期段階のみ基板2を回転しその後回転を停止して斜方蒸着を行う、本発明の方法による量子ドットアレイ200(図3参照)では、量子ドット14を含む部分の柱状構造4aが細くなり、その結果、小さいサイズの量子ドット14が基板上に比較的均一に分散するようになる。一方、基板に接して形成される基礎部10a(図4(c)参照)の先端は、基板2の回転によって、隣接する基礎部と相互に明瞭に分離される。その結果、基礎部10a上に形成される柱状部4aに含まれる量子ドット14も、x−y平面状で明瞭に分離され、相互に短絡することがない。なお、量子ドットが相互に短絡すると、量子ドットとしての正常な機能が失われる事態が発生する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態にかかる量子ドットアレイの概略構成を示す図。
【図2】図1に示す量子ドットアレイの製造方法を示す図。
【図3】本発明の他の実施形態にかかる量子ドットアレイの概略構成を示す図。
【図4(a)】従来の方法によって製造された量子ドットアレイのSEM画像についてのコンピュータ解析結果を示す図。
【図4(b)】従来の他の方法によって製造された量子ドットアレイのSEM画像についてのコンピュータ解析結果を示す図。
【図4(c)】本発明の方法によって製造された量子ドットアレイのSEM画像についてのコンピュータ解析結果を示す図。
【図5】従来方法によって製造された量子ドットアレイの概略構成を示す図。
【符号の説明】
【0046】
1 バリア層材料の微小な塊
2 基板
3 固定台
4 柱状構造
6 量子ドット
8、8a バリア層
100 量子ドットアレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、それぞれがバリア層で挟まれた量子ドットを含む複数の柱状部を設けることにより、量子ドットアレイを形成する、量子ドットアレイの製造方法において、
基板を回転させながら第1の材料を斜方蒸着することにより、前記基板上に前記複数の柱状部を形成するための基礎部を形成し、
その後、基板の回転を停止して前記バリア層の材料および量子ドットの材料を順次斜方蒸着することにより、前記基礎部上に前記バリア層で挟まれた量子ドットを形成する、各工程を含む、量子ドットアレイの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の量子ドットアレイの製造方法において、前記第1の材料は前記バリア層の材料と同じ材料であることを特徴とする、量子ドットアレイの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の量子ドットアレイの製造方法において、前記第1の材料は電極材料であり、前記基礎部を形成する工程は、前記基板を回転させながら第1の材料を斜方蒸着した後、基板の回転を停止して前記第1の材料の斜方蒸着を継続する工程を含むことを特徴とする、量子ドットアレイの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の量子ドットアレイの製造方法において、さらに、前記基礎部上に前記バリア層で挟まれた量子ドットを形成する工程を複数回繰り返して行うことにより、複数段にわたって量子ドットアレイを形成する工程を含むことを特徴とする、量子ドットアレイの製造方法。
【請求項5】
基板の表面に対してほぼ垂直方向に伸びる複数の基礎部と、
前記それぞれの基礎部上に形成される傾斜した柱状部と、を含み、
前記柱状部は、バリア層によって挟まれた量子ドットを含む、量子ドットアレイ。
【請求項6】
請求項5に記載の量子ドットアレイにおいて、前記基礎部は前記バリア層と同じ材料で構成されていることを特徴とする、量子ドットアレイ。
【請求項7】
請求項5に記載の量子ドットアレイにおいて、前記基礎部は電極材料で構成され、前記基礎部上に当該電極材料の傾斜部を含むことを特徴とする、量子ドットアレイ。
【請求項8】
請求項5に記載の量子ドットアレイにおいて、前記柱状部は、前記バリア層によって挟まれた量子ドットを複数段にわたって含むことを特徴とする、量子ドットアレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図4(c)】
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【公開番号】特開2008−130898(P2008−130898A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315562(P2006−315562)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】