金型成形方法及び成形金型
【課題】 材料を注入して第1金型及び第2金型で成形された成形品を、確実に第2金型側から取出すことができる射出成形方法及び射出成形金型を提供する。
【課題を解決するための手段】実施形態の金型成形方法は、固定金型10と可動金型40とを当接させてキャビティ2を形成し、モールド材MTを射出して成形した後、可動金型40を固定金型10から離間するときに成形品92を可動金型40に密着させた状態とし、その後エジェクトピン50により成形品92を可動金型40から分離する金型成形方法であって、可動金型40と固定金型10とが離間するときに、固定金型10に設けた押出手段30が成形品92を可動金型40側に押し出すこと、エジェクトピン50が成形品92を可動金型40から分離させるときの離型抵抗力Rをロードセル70が計測すること、ロードセル70が計測した離型抵抗力Rに応じて押出手段30の押出力Fを変化させること、を特徴とする。
【課題を解決するための手段】実施形態の金型成形方法は、固定金型10と可動金型40とを当接させてキャビティ2を形成し、モールド材MTを射出して成形した後、可動金型40を固定金型10から離間するときに成形品92を可動金型40に密着させた状態とし、その後エジェクトピン50により成形品92を可動金型40から分離する金型成形方法であって、可動金型40と固定金型10とが離間するときに、固定金型10に設けた押出手段30が成形品92を可動金型40側に押し出すこと、エジェクトピン50が成形品92を可動金型40から分離させるときの離型抵抗力Rをロードセル70が計測すること、ロードセル70が計測した離型抵抗力Rに応じて押出手段30の押出力Fを変化させること、を特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、第1金型と第2金型とを当接させてキャビティを形成し、材料を注入して成形した後、該第2金型を該第1金型から離間するときに、成形品を該第2金型に密着させた状態とし、その後、エジェクトピンにより成形品を該第2金型から分離する金型成形方法及び成形金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、固定金型と可動金型とを当接させてキャビティを形成し、材料を射出して成形した後、該可動金型を該固定金型から離間するときに、成形品を該可動金型に密着させた状態とし、その後、エジェクトピンにより成形品を該可動金型から分離する射出成形方法が行われている。
その射出成形方法においては、可動金型を固定金型から離間させるときに、成形品を確実に可動金型に密着させて離間できるようにするため、成形品の形状やランナ形状等を変えて、離型抵抗を増やす工夫をしている。
一方、特許文献1には、一次成形品用固定金型のPL面に臨んで補助突起板15を摺動自在に備え、バネ16で突没可能にして型開き時に一次成形品を可動金型4のキャビティ内に確実に移動保持させるようにしていると、記載されている。すなわち、固定金型側にバネ力で作用する押出ピンを設け、成形品を確実に可動型に密着させる方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平8-197578号公報 段落(0010)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された発明では、次のような問題があった。
すなわち、金型の経年変化により、キャビティ面の表面粗度が悪化し、固定金型側の離型抵抗が増加するため、可動金型と固定金型とを離間するときに、成形品が固定金型側に残る問題があった。
この問題は以下の理由によって生じる。すなわち、射出成形法による成形品の中でも、ハイブリッド自動車用モータの固定子をモールドする射出成形では、成形品の材料となるモールド材には、例えば、スチレン、飽和ポリエステル等の樹脂材のほか、アルミナ、ガラス繊維等の比較的硬質の混合材料が含まれている。このようなモールド材を金型で成形すると、成形時にモールド材中の混合材料がキャビティ面に触れて、キャビティ面の表面粗度を悪化させる。キャビティ面の表面粗度は、成形ショット数の増加と共に悪化して、固定金型側の離型抵抗がだんだんと大きくなる。
離型抵抗が増大し固定金型に成形品が残った場合には、無理に成形品を取り出すため、成形品を製品として使用することが難しい。ハイブリッド自動車用モータの固定子をモールドする射出成形方法においては、成形品の1個当たりの価格が高いため、この点、大きな問題となる。
【0005】
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、材料を注入して第1金型及び第2金型とで成形された成形品を、確実に第2金型側から取出すことができる金型成形方法及び成形金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の金型成形方法、及び成形金型は、次の構成を有している。
(1)第1金型と第2金型とを当接させてキャビティを形成し、材料を注入して成形した後、該第2金型を該第1金型から離間するときに、成形品を該第2金型に密着させた状態とし、その後、エジェクトピンにより成形品を該第2金型から分離する金型成形方法において、前記第1金型と前記第2金型とが離間するときに、前記第1金型に設けられた押出手段が、前記成形品を前記第2金型側に押し出すこと、前記エジェクトピンが、前記成形品を前記第2金型から分離させるときの離型抵抗力を、離型抵抗計測手段が計測すること、前記離型抵抗計測手段が計測した離型抵抗力に応じて、前記押出手段の押出力を変化させること、を特徴とする。
【0007】
(2)第1金型と第2金型とを当接させてキャビティを形成し、材料を注入して成形した後、該第2金型を該第1金型から離間するときに、成形品を該第2金型に密着させた状態とし、その後、エジェクトピンにより成形品を該第2金型から分離させる成形金型において、前記第1金型に設けられ、前記第1金型と前記第2金型とが離間するときに、前記成形品を前記第2金型側に押し出す押出手段と、前記エジェクトピンが、前記成形品を前記第2金型から分離するときの離型抵抗力を計測する離型抵抗計測手段と、前記離型抵抗計測手段が計測した離型抵抗力に応じて、前記押出手段の押出力を変化させる制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
次に、上記構成を有する本発明の金型成形方法及び成形金型の作用・効果について説明する。
本発明の成形金型を用いた本発明の金型成形方法は、第1金型と第2金型とを当接させてキャビティを形成し、材料を注入して成形した後、該第2金型を該第1金型から離間するときに、成形品を該第2金型に密着させた状態とし、その後、エジェクトピンにより成形品を該第2金型から分離する金型成形方法であって、第1金型と第2金型とが離間するときに、第1金型に設けられた押出手段が、成形品を第2金型側に押し出すこと、エジェクトピンが、成形品を第2金型から分離させるときの離型抵抗力を、離型抵抗計測手段が計測すること、離型抵抗計測手段が計測した離型抵抗力に応じて、押出手段の押出力を変化させること、を特徴としているので、第1金型と第2金型との離間時に、成形品は、離型抵抗計測手段により計測した離型抵抗力に応じて変化させた押出手段の押出力で、第2金型側に押し出される。
【0009】
ところで、例えば、ハイブリッド自動車用モータの固定子を樹脂でモールドするにあたり、例えば、スチレン、飽和ポリエステル等の樹脂材のほか、アルミナ、ガラス繊維等の比較的硬質の混合材料を含むモールド材を、射出成形法により射出して固定金型及び可動金型で成形する場合がある。
このような成形の場合、モールド材中の混合材料が両方の金型のキャビティ面に触れて、このキャビティ面を粗くする。キャビティ面の表面粗度は、経年変化によって次第に悪化する。
出願人は、この現象について詳しく解析する実験を行った。実験では、特に成形品の成形回数(成形ショット数)が数万から数十万回程度になってくると、成形ショット数の増加と共に、キャビティ面の表面粗度が極度に悪化して、成形品を固定金型から離間させるときの離型抵抗もかなり増大していることを、新たに確認した。
このような表面粗度の悪化は、固定金型及び可動金型の両側で同じように進行するものと推察される。すなわち、成形品が固定金型から離間するときの離型抵抗力と、エジェクトピンにより成形品を可動金型から分離させるときの離型抵抗力とは、ほぼ同程度の大きさになるものと考えられる。
【0010】
また、実験を通じて、成形品を固定金型から離間させるときの離型抵抗について、成形ショット数が初回時のときの離型抵抗の大きさを1としたとき、例えば、数千回から一万回前後の時点で初回時の約2倍、数万回の時点で初回時の約5倍等と、成形ショット数の増加数のわりには離型抵抗は急激に大きくなり、その後も、離型抵抗は、成形ショット数の増加と共に増え続け、数十万回にも達すると、その離型抵抗は、実に初回時の10倍超にも及んでいることも、新たに判った。
一般に、固定金型及び可動金型を用いた射出成形では、これらの金型は、その耐用回数として、数十万回を超える成形ショット数まで使用される。
こうした使用事情の下、従来の射出成形方法のように、一定のバネ力で作用する押出ピンを固定金型側に設けても、バネ力を一定にしたままでバネを使用し続けると、固定金型及び可動金型を使用している間に、バネ力が、成形品を固定金型から離間させるときの離型抵抗力より小さくなる場合が、成形ショット数が比較的少ない時点で生じ得る。
すると、可動金型と固定金型とを離間するときに、バネ力との差分、固定金型側に残る離型抵抗力に起因して、成形品が固定金型側に残る虞がある。
【0011】
これに対し、本発明の成形金型を用いた本発明の金型成形方法では、エジェクトピンにより成形品を第2金型から分離させるときの離型抵抗力を離型抵抗計測手段が計測し、押出手段による押出力を、計測した離型抵抗力に応じて変化させているので、たとえ、経年変化によりキャビティ面の表面粗度が悪化し第1金型側の離型抵抗が増加しても、押出手段による、離型抵抗に打勝つ押出力で、成形品を第2金型側に押し出すことができる。
すなわち、成形品を第1金型から離間するときの離型抵抗は、エジェクトピンにより成形品を第2金型から分離させるときの離型抵抗力と、ほぼ同じ大きさであると考えられる。
このことから、第1金型側の離型抵抗について、成形ショット数が初回時のときの離型抵抗の大きさに対し、約2倍、約5倍等と増加の一途をたどり、数十万回にも達したときの離型抵抗が、初回時の10倍超にも及ぶようであれば、第2金型側の離型抵抗力も、第1金型側の離型抵抗と同様な増加傾向になっているものと推察される。
本発明の成形金型を用いた本発明の金型成形方法では、押出手段は、離型抵抗計測手段により、エジェクトピンが成形品を第2金型から分離させるときの離型抵抗力を計測し、計測した離型抵抗力に応じて変化させた押出力で、成形品を第2金型側に押し出す。
このため、たとえ第1金型側の離型抵抗が、その初回時のときの大きさの約2倍、約5倍等と増え続け、10倍超にまで及んでいたとしても、押出手段は、計測した第2金型側の離型抵抗力に応じて変化させた押出力で、成形品を第2金型側に押し出すので、成形品は、押出手段の押出力で、必然的に第2金型側に押し出されることになる。
したがって、第1金型と第2金型とが離間するときには、成形品を、確実に第2金型側から取出すことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(実施形態)
以下、本発明における成形金型を具体化した一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1及び図2は、本実施形態に係る射出成形金型1の構成を説明する断面図であり、図1は成形時の型締め状態、図2は成形後の型開き状態を示す。図3は、図2中、P部を拡大して示す説明図である。図4は、図1に示す射出成形金型1の電気制御回路を示す説明図である。
本実施形態では、射出成形金型1(成形金型)は、ハイブリッド自動車用モータのステータ部を構成する部品であるインサート部材91に、射出成形法により樹脂を射出し、固定金型10(第1金型)及び可動金型40(第2金型)で成形した成形品92をモールドさせた製品90を製造する金型である。インサート部材91は、略円環状のバスバ部と、これより径内側にバスバ部と接続した複数のコイル部とからなる。
【0013】
この射出成形金型1は、図1乃至図4に示すように、固定金型10、押出手段30、可動金型40、エジェクトピン50、ロードセル70及び制御手段80等から構成されている。
固定金型10側には、押出手段30が、可動金型40側には、エジェクトピン50及びロードセル70がそれぞれ配設されており、射出成形金型1は、制御手段80で電気的に制御されて動作する。
【0014】
はじめに、制御手段80について説明する。
制御手段80は、図4に示すように、I/O端子81、CPU82、RAM83及びROM84等の公知のマイクロコンピュータを備えている。マイクロコンピュータには、ROM84等に記憶された後述する離型抵抗力計測プログラムや、その他のプログラムをCPU82にロードすることにより、所定の動作、例えば、後述する可動金型取付盤41及びエジェクトピン取付盤60の動作、ロードセル70の作動及び流体供給源25の駆動等を行う。
【0015】
次に、固定金型10について説明する。
固定金型10は、型開閉方向(図1,2中、上下方向)に移動しない構造の固定金型取付盤11に固定されている。
この固定金型10は、4つのワーク押出しピン20及び、各ワーク押出しピン20と固定金型取付盤11との間に配設された4つの押出手段30を備えている。
ワーク押出しピン20は、型締め時に、押出手段30による押圧で可動金型40と共に挟持してインサート部材91を保持するピンであり、図5に示すように、固定金型10と可動金型40とが当接して形成されるドーナツ形状のキャビティ2の径方向外側で、周方向に4等分された位置に配置されている。なお、図5は、図1中、パーティング面PLから見た固定金型の平面図である。
【0016】
押出手段30は、本実施形態では、ガスシリンダであり、その作動ガスの流量等に応じて、可動金型40側への押圧力を可変できる構成となっている。この押出手段30は、型締め時には、ワーク押出しピン20を可動金型40側に所定の押圧値で押圧する一方、可動金型40と固定金型10とが離間するときに、押圧力を所定の押圧値から変化させてワーク押出しピン20を押圧し、成形品92を可動金型40側に押し出す。
具体的には、各押出手段30は、それぞれ独立した4つの流体供給源25に図示しない配管で接続されている。この流体供給源25は、押出手段30に作動ガスを供給する。
各流体供給源25は、制御手段80のI/O端子81と電気的に接続されており、CPU82からの動作指令に基づいて、接続する押出手段30へ作動ガスの流量等を制御して、これを押出手段30に供給する構成となっている。このように、押出手段30は、接続する流体供給源25で制御した作動ガスの流量等に応じて、ワーク押出しピン20への押圧力を変化させる。
【0017】
次に、可動金型40について説明する。
可動金型40は、型開閉方向(図1,2中、上下方向)に移動可能な可動金型取付盤41に中間部材42を介して固定されている。可動金型40は、可動金型取付盤41による型開閉方向の移動により、固定金型10との型締め位置であるパーティング面PLまで移動して固定金型10と当接するようになっている。
可動金型40は、インサート部材91を載置する載置面40aを有し、この載置面40aより固定金型10側に突出した中央円柱部43を有している。中央円柱部43は、図5及び図6に示すように、載置したインサート部材91の径方向中央部に位置し、可動金型40と固定金型10とがパーティング面PL上で当接したときに、固定金型10との間にキャビティ2を形成する。なお、図6は、図1中、パーティング面PLから見た可動金型の平面図である。
キャビティ2には、射出成形時に、成形品92の材料であるモールド材MTが、固定金型10側に設けた図示しないスプルから、ランナ93及び図示しないゲートを通じて射出され、成形品92が成形される(図1参照)。
なお、モールド材MTとしては、本実施形態では、スチレン、飽和ポリエステル等の樹脂材である主材料と、アルミナ、ガラス繊維等の副材料と、離型材とを含む材料が挙げられる。
【0018】
また、可動金型40には、成形品92を当該可動金型40から分離させる棒状のエジェクトピン50が8箇所に配設されている。各エジェクトピン50は、インサート部材91のうち、隣り合うコイル部同士の間で、キャビティ2をその周方向に8等分する位置に配置されている(図6参照)。エジェクトピン50は、そのピン下端部51を、中間部材42の径内側に配設されたエジェクトピン取付盤60によって支持されている。
エジェクトピン取付盤60は、制御手段80のI/O端子81と電気的に接続した図示しない油圧シリンダと接続しており、型開閉方向(図1等の中、上下方向)に所定のストロークの範囲で移動可能に構成されている。
エジェクトピン取付盤60が上昇すると、これに伴って各エジェクトピン50も上昇して、各エジェクトピン50の上端面50aに当接した成形品92が、上方に持ち上げられて可動金型40の載置面40aから離間する。これにより、成形品92が可動金型40から分離する。
【0019】
次に、ロードセル70(離型抵抗計測手段)について説明する。
各エジェクトピン50のピン下端部51と、エジェクトピン取付盤60の当接部61との間に、ピン下端部51と当接部61とが当接可能な状態で、8つのロードセル70が配設されている。
このロードセル70は、公知の構成のロードセルであり、エジェクトピン50が成形品92(製品90)を可動金型40から分離させるときの離型抵抗力Rを計測する。
具体的には、ロードセル70は、エジェクトピン取付盤60の上昇により、成形品92が可動金型40の載置面40aから持ち上がるまでに、当接部61がロードセル70を介してピン下端部51を押圧したときの当該ロードセル70自身にかかる押圧力を、離型抵抗力Rとして計測する。
各ロードセル70は、制御手段80のI/O端子81と電気的に接続されており、離型抵抗力Rの計測値Rmを制御手段80のRAM83に出力するようになっている。
【0020】
次に、射出成形金型1を用いた製品90の製造工程について、簡単に説明する。
インサート部材91を、可動金型40の載置面40aの所定位置に載置する。この後、可動金型40を固定金型10とのパーティング面PLまで移動させて、可動金型40と固定金型10とを当接させる。これにより、射出成形金型1にキャビティ2が形成される。
次いで、押出手段30によりワーク押出しピン20を可動金型40側に所定の押圧値で押圧して、キャビティ2内で載置面40aに載置したインサート部材91を保持する。
次いで、射出圧力が例えば10MPaの圧力値で、モールド材MTを、固定金型10側に設けた図示しないスプルから、ランナ93及び図示しないゲートを通じてキャビティ2に射出する。これにより、モールド材MTは、キャビティ2内にあるインサート部材91の周囲を被覆する形態に充填され、この後、この状態のモールド材MTを冷却する。
かくして、キャビティ2内のモールド材MTは、成形された形態の成形品92となり、インサート部材91が成形品92によってモールドされた製品90ができる。
なお、キャビティ2に到達するまでのランナ93及びゲートにおいて、硬化したモールド材MTは、後工程で製品90から除去される。
【0021】
次に、射出成形金型1を用いた、本実施形態に係る金型成形方法について、図7乃至図9を用いて説明する。
図7は、射出成形金型1において、可動金型40と固定金型10とが離間する様子を示す図であり、押出手段30によりワーク押出しピン20を介して成形品92を可動金型40側に押し出した後の状態を示す。図8は、離型抵抗力計測プログラムの構成を示すフローチャートである。図9は、各ワーク押出しピン20の押圧力Fnを算出に用いる一覧表である。
【0022】
本実施形態に係る金型成形方法は、前述した製品90の製造工程において、キャビティ2にモールド材MTを射出して成形した後、可動金型40を固定金型10から離間するときに、成形品92を可動金型40に密着させた状態とし、その後、エジェクトピン50により成形品92を可動金型40から分離する射出成形方法を前提としている。
そして、本実施形態に係る金型成形方法は、(1)可動金型40と固定金型10とが離間するときに、固定金型10に設けられた押出手段30が、成形品92を可動金型40側に押し出すこと、(2)エジェクトピン50が、成形品92を可動金型40から分離させるときの離型抵抗力Rを、ロードセル70が計測すること、(3)ロードセル70が計測した離型抵抗力Rの計測値Rmに応じて、押出手段30の押出力Fの押出値Fnを変化させること、を特徴とする方法である。
【0023】
本実施形態に係る金型成形方法について詳細に説明する。
この金型成形方法は、複数の製品90を連続で繰り返し製造するにあたり、図8に示す離型抵抗力計測プログラムの手順に基づいて行われる。
すなわち、この離型抵抗力計測プログラムは、製品90を製造する数量に相当する回数分、制御手段80によって毎回実行される。
離型抵抗力計測プログラムは、初期状態として、成形品92がキャビティ2内で成形された後、可動金型40と固定金型10とが型締めしたままの状態(図1に示す状態)から、開始される。
【0024】
まず、ステップS10では、1回前に成形した先の成形品92について、可動金型40に密着した状態の成形品92を可動金型40から分離させるときに、8本のエジェクトピン50がそれぞれ受ける離型抵抗力Rを、各ロードセル70により計測する。
具体的には、8本のエジェクトピン50、すなわち、第1乃至第8エジェクトピン51,52,53,54,55,56,57,58がそれぞれ受ける離型抵抗力Rを、これらと個々に当接する8つのロードセル70が計測する。
なお、先の成形品92が存在しない場合、すなわち製品90となる成形品92の成形が初回目になる場合には、例えば、製品90とは異なるテスト品向け等の成形品92を用いて、離型抵抗力Rを計測することが好ましい。
【0025】
次に、ステップS11では、各ロードセル70は、第1乃至第8エジェクトピン51,52,53,54,55,56,57,58で計測した離型抵抗力Rの計測値Rm(1≦m≦8)を制御手段80に出力し、制御手段80で8つの計測値Rmを読み取り、記憶する。
なお、図9には、計測値Rmとして、第1エジェクトピン51で計測されたものをR1、第2エジェクトピン52で計測されたものをR2、以下の同様にして、第8エジェクトピン58で計測されたものをR8で表記する。
【0026】
次に、ステップS12では、1本の押出しピン20に対し、3つのエジェクトピン50にかかる3つ分の離型抵抗力Rであるピン離型抵抗を、3つの計測値Rmを用いて制御手段80で演算する。
3つの計測値Rmは、参照する図6及び図9に示すように、キャビティ2の径方向に対し、4本のワーク押出しピン20(第1,第2,第3,第4ワーク押出しピン21,22,23,24)と隣接するエジェクトピン50、すなわち第2,第4,第6,第8,エジェクトピン52,54,56,58に受ける計測値Rmを、中心値としてまず選択する。その上で、この中心値に対応したエジェクトピン50と、キャビティ2の径方向に隣り合うエジェクトピン50に受ける2つの計測値Rmを、隣接値として用いる。
具体的には、第1ワーク押出しピン21に対し、これと径方向に隣接する第2エジェクトピン52は、第1,第3エジェクトピン51,53と隣り合う。
したがって、第2エジェクトピン52での計測値Rmは計測値R2であり、第1,第3エジェクトピン51,53での計測値Rmはそれぞれ計測値R1、R2であるので、第1ワーク押出しピン21にかかるピン離型抵抗の算出では、計測値R1、R2、R3を用いる。
同様に、第2ワーク押出しピン22にかかるピン離型抵抗の算出では、計測値R3、R4、R5を、第3ワーク押出しピン23にかかるピン離型抵抗の算出では、計測値R5、R6、R7を、第4ワーク押出しピン24にかかるピン離型抵抗の算出では、計測値R7、R8、R1を、それぞれ用いる。
ピン離型抵抗の算出方法としては、例えば、3つの計測値Rmの平均値を演算値Cnとするほか、中心値である計測値に、隣接値である2つの計測値にそれぞれ1/2倍した積を各々加算して、このときの総和を1/2倍した演算値Cn等を算出する方法が挙げられる。
【0027】
次に、ステップS13では、制御手段80において、可動金型40を固定金型10から離間するとき、4本のワーク押出しピン20を、それぞれの押出手段30で押圧するときの押圧力Fの押圧値Fnを決定する。この押圧値Fnは、ステップS12で算出したピン離型抵抗の演算値Cnに応じて、それぞれの演算値Cnより大きくなるように変化させて設定される。
具体的には、第1ワーク押出しピン21の押圧値F1を、計測値R1、R2、R3を用いて算出した演算値C1より大きく設定する。同様に、第2ワーク押出しピン22の押圧値F2を、計測値R3、R4、R5を用いて算出した演算値C2より、第3ワーク押出しピン23の押圧値F3を、計測値R5、R6、R7を用いて算出した演算値C3より、第4ワーク押出しピン24の押圧値F4を、計測値R7、R8、R1を用いて算出した演算値C4より、いずれも大きく設定する。
【0028】
次に、ステップS14では、制御手段80のCPU82が、ステップS13で決定した押圧値Fnに基づいて、各流体供給源25を動作指令して、接続する押出手段30へ供給する作動ガスの流量等を制御する。
次に、ステップS15において、可動金型40が固定金型10から離間する際に、流体供給源25で制御された作動ガスの流量等に応じた押出手段30の押圧力F、すなわちステップS13で決定した4つの押圧値Fnで、各ワーク押出しピン20(第1乃至第4ワーク押出しピン21,22, 23, 24)を押して、成形品92を可動金型40側に押し出す。すると、図7に示すように、成形品92は、固定金型10から離間し、可動金型40と密着した状態で、可動金型40とともに型開方向(図7中、下方向)に移動する。
可動金型40が型開き状態になったら、エジェクトピン取付盤60を上昇させ、8つのエジェクトピン50で成形品92(製品90)を持ち上げて、可動金型40から分離する(図2参照)。
【0029】
次に、ステップS16では、製品90を引き続き連続で製造するにあたり、次の成形品92の成形を継続して行うか否かについて判断する。継続して成形を行う場合は、YESに進んで、ステップS10を実行する。
但し、ステップS15を実行する際に、8本のエジェクトピン50がそれぞれ受ける離型抵抗力Rを各ロードセル70で計測しておけば、YESに進んで、ステップS11を実行すれば良い。
一方、次の成形品92の成形を継続して行なわない場合は、NOに進み、離型抵抗力計測プログラムの実行を終了する。
【0030】
ところで、本実施形態に係る金型成形方法のように、ハイブリッド自動車用モータの固定子(インサート部材91に対応)を樹脂でモールドした製品を製造するにあたり、例えば、スチレン、飽和ポリエステル等の樹脂材のほか、アルミナ、ガラス繊維等の比較的硬質の混合材料を含むモールド材を、射出成形法により射出して固定金型及び可動金型で成形する場合がある。
このような成形の場合、モールド材中の混合材料が両方の金型のキャビティ面に触れて、このキャビティ面が粗くなる。キャビティ面の表面粗度は、経年変化によって次第に悪化する。このような表面粗度の悪化は、固定金型及び可動金型の両側で同じように進行するものと推察される。すなわち、成形品が固定金型から離間するときの離型抵抗力と、エジェクトピンにより成形品を可動金型から分離させるときの離型抵抗力とは、ほぼ同程度の大きさになるものと考えられる。
出願人は、この前提の下、表面粗度が悪化していく現象について、可動金型側の離型抵抗力を計測して詳しく解析した。
【0031】
解析の結果を図10乃至図12に示す。図10は、成形品の成形回数(成形ショット数)、固定金型の面粗度Rz及び、エジェクトピンにより成形品を可動金型から分離させるときの離型抵抗力Rとの関係について、調査した結果を示す。図11は、図10における成形ショット数と離型抵抗力Rとの関係について示したグラフである。図12は、図10における成形ショット数と面粗度Rzとの関係について示したグラフである。
なお、面粗度Rzは、JIS法に規定された十点平均粗さRzである。離型抵抗力Rは、エジェクトピン50が成形品92を可動金型40から分離させるときに、計測した離型抵抗力Rである。
図12から容易に理解できるように、固定金型の面粗度Rzは、成形ショット数の増加に概ね比例して悪化していることが判る。これは、前述したように、モールド材中の混合材料が固定金型側のキャビティ面に触れて、経年変化によって次第に悪化したものみられ、可動金型でも、固定金型と同様に、面粗度Rzの悪化が進行しているものと考えられる。
その一方で、図11に示したグラフを見ると、可動金型側の離型抵抗力Rが図示されているが、この離型抵抗力Rの増加傾向は、固定金型側でも同じになるものと推察される。こうした前提の下、固定金型側のキャビティ面の面粗度Rzは、成形ショット数の増加と共に悪化して、特に成形ショット数が数万から数十万回程度になってくると、成形品を固定金型から離間させるときの離型抵抗は、数千回までの状態に比べて極度に増大することが新たに判った。
【0032】
さらに、成形品を固定金型から離間させるときの離型抵抗、すなわち可動金型側の離型抵抗力Rについて、成形ショット数が初回時近傍の離型抵抗力Rの大きさを1としたとき、例えば、数千回から一万回前後の時点で初回時の約2倍、数万回の時点で初回時の約5倍等と、成形ショット数の増加数のわりには離型抵抗は急激に大きくなり、その後も、離型抵抗は、成形ショット数の増加と共に増え続け、数十万回にも達すると、その離型抵抗は、実に初回時の10倍超にも及んでいることも、新たに確認できた。
具体的に、図10及び図11に示したデータを用いて説明する。すなわち、成形ショット数が初回、10,000回、100,000回、400,000回のときの離型抵抗力Rは、この順に、3.92×103(N)、9.8×103(N)、29.4×103(N)、49.0×103(N)となっている。初回時の離型抵抗力Rの計測値3.92×103(N)を1とした場合、10,000回でその約2.5倍、100,000回で約7.5倍と、成形ショット数の増加と共に急激に増え続けている。400,000回にもなると49.0×103(N)に達しており、実に12倍以上となっている。
このように、成形ショット数が初回時近傍の離型抵抗力Rの大きさと、数十万回を超えた離型抵抗力Rの大きさとでは、離型抵抗の大きさに10倍超の大きな差異が生じてくる。
【0033】
一般に、本実施形態に係る金型成形方法のような固定金型及び可動金型を用いた射出成形では、これらの金型は、その耐用回数として、数十万回を超える成形ショット数まで使用される。
こうした使用事情の下、従来の射出成形方法のように、一定のバネ力で作用する押出ピンを固定金型側に設けても、バネ力を一定にしたままでバネを使用し続けると、固定金型及び可動金型を使用している間に、バネ力が成形品を固定金型から離間させるときの離型抵抗力より小さくなる場合が、成形ショット数が比較的少ない時点で生じ得る。
すると、可動金型と固定金型とが離間するときに、バネ力との差分、固定金型側に残る離型抵抗力に起因して、成形品が固定金型側に残る虞がある。
【0034】
これに対し、本発明の射出成形金型1を用いた、本実施形態に係る金型成形方法は、エジェクトピン50により成形品92(製品90)を可動金型40から分離させるときの離型抵抗力Rをロードセル70が計測し、押出手段30による押出力Fを、計測した離型抵抗力Fの押圧値Fnに応じて変化させているので、たとえ、経年変化によりキャビティ面2の表面粗度が悪化し固定金型10側の離型抵抗が増加しても、離型抵抗に打勝つ押出手段30による押出力Fで、成形品92を可動金型40側に押し出すことができる。
すなわち、成形品92を固定金型10から離間するときの離型抵抗は、エジェクトピン50により成形品92を可動金型40から分離させるときの離型抵抗力Rと、ほぼ同じ大きさであると考えられる。
このことから、固定金型40側の離型抵抗について、成形ショット数が初回時のときの離型抵抗の大きさに対し、約2倍、約5倍等と増加の一途をたどり、数十万回にも達したときの離型抵抗が、初回時の10倍超にも及ぶようであれば、可動金型40側の離型抵抗力Rも、固定金型10側の離型抵抗と同様な増加傾向になっているものと推察される。
本発明の射出成形金型1を用いた、本実施形態に係る金型成形方法では、押出手段30は、エジェクトピン50が成形品92を可動金型40から分離させるときの離型抵抗力Rを、ロードセル70により成形品92を1回行う度に毎回計測し、計測した離型抵抗力Rの計測値Rmに応じて大きく変化させた押出力Fnで、成形品92を可動金型40側に押し出す。
このため、たとえ固定金型10側の離型抵抗が、その初回時のときの大きさの約2倍、約5倍、10倍超にまで及んでも、押出手段30は、成形ショットを行う毎に毎回計測した可動金型40側の離型抵抗力Rに応じて変化させた押出力Fの押出値Fnで、成形品92を可動金型40側に押し出すので、成形品92は、押出手段30の押出力Fで、必然的に可動金型40側に押し出されることになる。
したがって、可動金型40と固定金型10とが離間するときに、成形品92を、確実に可動金型40側から取出すことができるようになる。
【0035】
また、本実施形態では、製品90は、ハイブリッド自動車用モータのステータ部を構成する部品であるインサート部材91に、射出成形法により樹脂を射出し、固定金型10及び可動金型40で成形した成形品92をモールドさせたものであり、製品90一個当たりの価格が高い。
射出成形金型1を用いた、本実施形態に係る金型成形方法によれば、固定金型10側の離型抵抗が増大し固定金型10に成形品92が残ることもなく、無理に成形品92を固定金型10から取り出すこともない。
したがって、固定金型10に残った成形品92を無理に取り出して、この成形品92を製品90として使用することが困難となり、この製品90を廃棄することに起因した経済的損失の発生を防止することができる。
【0036】
(変形形態)
実施形態の射出成形金型1を用いた、本変形形態に係る金型成形方法について、参照する図10及び図11と、図13とを用いて説明する。
図13は、本変形形態に係る金型成形方法で行う押圧手段30の点検手順を示すフローチャートである。
本変形形態に係る金型成形方法は、前述した実施形態の金型成形方法とは、押圧手段30の押圧力Fを変化させるのに用いる手法が異なる。また、実施形態では、射出成形金型1に構成された押圧手段30を、ガスシリンダとした。これに対し、本変形形態では、押圧手段30をコイルバネとして構成されている。
しかしながら、本変形形態で用いる射出成形金型1は、押圧手段30がコイルバネであり、流体供給源25を備えていない点以外では、本実施形態の射出成形金型1と同様である。
したがって、本変形形態に係る金型成形方法を中心に説明し、実施形態と同様な部分の説明は、簡単または省略する。
【0037】
本変形形態に係る金型成形方法について詳細に説明する。
この金型成形方法は、複数の製品90を繰り返し製造するにあたり、図13に示す押圧手段30の点検に基づいたものとなっている。
この押圧手段30の点検は、成形ショット数の増加に伴う固定金型10及び可動金型40の離型抵抗の増大傾向と、取付けるコイルバネ(押圧手段30)の性能とを考慮した上で実施される定期点検であり、実際には、例えば、一月に一回程度等の頻度で定期的に実施される。
すなわち、一例として挙げた図10及び図11を見ても判るように、固定金型10及び可動金型40の離型抵抗力Rの大きさは、成形ショット数が数千個から約10,000回に達するまでに、例えば、初回時の2倍超と急激に増大し、その後、成形ショット数の増加に伴う離型抵抗力Rの上昇率は、数千個から約10,000回までの上昇率より小さくなる傾向にあるものの、初回時の約2倍、約5倍等と増加の一途をたどり、数十万回にも達したときの離型抵抗は、初回時の10倍超にも及ぶものと推察される。
押圧手段30は、所定のバネ定数を有したコイルバネである。一般に、コイルバネでは、設定されたバネ定数から生じるバネ力において、当該コイルバネにかかる抵抗力として、外力に当該コイルバネが高い信頼性をもって耐えうることができるバネ力の許容範囲は、設定された当該バネ力の数倍までにも及ばないものと考えられる。
【0038】
このようなバネの性能上における信頼性の観点から、射出成形金型1に取付けたコイルバネのバネ力で、増大していく離型抵抗力Rに耐えうることができる成形ショット数の許容範囲は、成形ショット数が比較的少ないときと、比較的多いときとではそれぞれ異なるものと考えられる。
すなわち、成形ショット数が比較的少ない時点では、例えば、初回目から数千個回までの成形ショット数で、さらに、その後、たとえ新しいバネに交換したとしても、バネ交換後に成形した数万回の成形ショット数で、バネ力が成形品を固定金型10から離間させるときの離型抵抗力Rより小さくなる場合が生じ得る。
その一方、成形ショット数が比較的多くなってくると、バネ交換後に成形した数万回から数十万回程度の成形ショット数で、バネ力が離型抵抗力Rより小さくなる場合が生じる。
そうすると、成形ショット数が初回時のときに取付けられているコイルバネに対しては、成形ショット数が数千回になったときに、最初の押圧手段30の点検を実施する必要があり、その次に行う押圧手段30の点検は、最初の点検後に成形した成形ショット数が数万回になったときに実施する必要がある。
さらに、2回目以降に行われる点検のタイミングとして、点検は、このような考え方で繰り返し行われ、先の点検からその次の点検を行うまでに成形を予定している成形ショット数を、次回の押圧手段30の点検を行う目安時期として、解析の結果を図10及び図11を参考に予測した設定回数kを設定する。
【0039】
定期点検は、初期状態として、先の成形品92を成形した後、その次の成形品92を成形しようとする状態において、開始される。
まず、ステップS20では、先の成形品92の成形が、成形ショット数が(k−1)回目に該当する否かを判別する。(k−1)回目に該当する場合は、YESに進んで、ステップS21を実行する。その反対に、該当せず、(k−1)回目に満たない場合は、NOに進み、ステップS22を実行して、成形ショット数が(k−1)回目になるまで成形品92の成形を繰り返し継続する。
次に、ステップS21では、(k−1)回目の成形品92の成形を終えて、その次となるk回目の成形品92を成形する際、可動金型40に密着した状態の成形品92を可動金型40から分離させるときに、8本のエジェクトピン50がそれぞれ受ける離型抵抗力Rを、各ロードセル70で計測する。具体的には、8本のエジェクトピン50、すなわち、第1乃至第8エジェクトピン51,52,53,54,55,56,57,58がそれぞれ受ける離型抵抗力Rを、これらと個々に当接するロードセル70を用いて計測する。
【0040】
次に、ステップS23では、ステップS21において計測した、8箇所分の離型抵抗力Rの計測値Rm(1≦m≦8)を読み取る。
次いで、ステップS24では、1本の押出しピン20に対し、3つのエジェクトピン50にかかる3つ分の離型抵抗力Rであるピン離型抵抗を、3つの計測値Rmを用いて制御手段80で演算する。
なお、3つの計測値Rmを選択する選択手法と、ピン離型抵抗を求めるにあたり、3つの計測値Rmを用いた演算手法とは、実施形態において、図8に示したフローチャートのうち、ステップS12で記載された手法と同じであるため、ここでは、選択手法及び演算手法の説明を省略する。
【0041】
次に、ステップS25では、ステップS24で算出したピン離型抵抗の演算値Cnと、予め解析した図10に示す結果のうち、成形ショット数と離型抵抗力Rとの関係を示すデータとを照合した上で、押出手段30による押圧力Fの押圧値Fnを決定する。
すなわち、図10または図11において、成形ショット数がk回目であるときの離型抵抗力Rの大きさを確認する。予め解析した離型抵抗力Rの大きさと、ピン離型抵抗の演算値Cnとを比較し、4本のワーク押出しピン20に対するピン離型抵抗の各演算値Cnに応じて、各押出手段30による押圧力Fの押圧値Fnをそれぞれ決定する。押圧値Fnは、ステップS24で算出したそれぞれの演算値Cnより大きくなるように変化させて決定する。
具体的には、第1ワーク押出しピン21の押圧値F1を、計測値R1、R2、R3を用いて算出した演算値C1より大きく設定する。同様に、第2ワーク押出しピン22の押圧値F2を、計測値R3、R4、R5を用いて算出した演算値C2より、第3ワーク押出しピン23の押圧値F3を、計測値R5、R6、R7を用いて算出した演算値C3より、第4ワーク押出しピン24の押圧値F4を、計測値R7、R8、R1を用いて算出した演算値C4より、いずれも大きく設定する。
【0042】
次に、ステップS26では、ステップS25で決定した押圧値Fnに対応したバネ定数のコイルバネを選択し、成形ショット数がk回目になるまで設置されていた古いコイルバネから、選択した新しいコイルバネに交換する。
但し、今回の当該点検において、ステップS25で決定した押圧値Fnが、この点検前に行った前回の当該点検時で決定した押圧値Fnと大差なく同程度である場合、あるいは、古いコイルバネに有するバネ力で許容できるものである場合には、新しいコイルバネに交換する必要はない。
かくして、押圧手段30の点検は終了する。
押圧手段30の点検後、成形ショット数が(k+1)回目以降の成形品92の成形を開始し、前述したように、成形ショット数の増加による増大傾向と、取付けるコイルバネの性能とを考慮した上で新たに設定した設定回数まで、ステップS26で交換したコイルバネを用いる。
【0043】
前述したように、本発明に係る金型成形方法のような固定金型及び可動金型を用いた射出成形では、これらの金型は、その耐用回数として、数十万回を超える成形ショット数まで使用される。
こうした使用事情の下、固定金型及び可動金型を長期にわたって使用している間に、離型抵抗の大きさが成形ショット数の頻度によって、2倍、5倍そして10倍超もの開きがあっても、本変形形態に係る金型成形方法によれば、離型抵抗力Rの増大量に応じて、押圧手段30による押圧値Fnを変化させる、図13に示す定期点検を行っているので、一定のバネ力のバネを使い続けることはなく、バネ力が、成形品92を固定金型10から離間させるときの離型抵抗力より小さくなることはない。したがって、可動金型40と固定金型10とを離間するときに、バネ力との差分、固定金型10側に残る離型抵抗力に起因して、成形品92が固定金型40側に残る虞もない。
【0044】
なお、この発明は前記実施形態及び変形形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜変更して実施することもできる。
例えば、実施形態及び変形形態では、金型成形方法として、固定金型10と可動金型40とを当接させてキャビティ2を形成し、モールド材MTを射出し成形して、キャビティ2内のインサート部材91をモールドする射出成形方法を例示した。
しかしながら、本発明の金型成形方法は、実施形態及び変形形態で例示した射出成形方法に限定されるものではなく、例えば、第1金型と第2金型とを当接させてキャビティを形成し、溶融状態の金属をキャビティに注入して成形する鋳造等、他の金型成形方法にも、適宜適用可能である。
【0045】
また、実施形態及び変形形態では、固定金型10に押出手段30を設ける一方、可動金型40にエジェクトピン50を配設することにより、成形品92を可動金型40に残留させる射出成形金型1を例示した。
しかしながら、成形金型は、成形品を固定金型に残留させるために、固定金型にエジェクトピンを設け、可動金型に押出手段を設けた構成であっても良い。
【0046】
また、実施形態では、押出手段30を、流体供給源25から供給されるガスの流量等を制御して、押圧力Fを変化させる駆動源を例示した。
しかしながら、押出手段は、例えば、供給される作動油の流量等に応じて、押圧力を可変可能な油圧シリンダ等でもよく、成形品を可動金型側に押し出すときの押圧力を可変できる駆動源であれば、種々変更可能である。
【0047】
また、実施形態及び変形形態では、離型抵抗計測手段としてロードセル70を例示した。
しかしながら、離型抵抗計測手段は、成形品を可動金型から分離させるときの離型抵抗力を計測できるものであれば、種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施形態に係る射出成形金型の構成を説明する断面図であり、成形時の型締め状態を示す。
【図2】実施形態に係る射出成形金型の構成を説明する断面図であり、成形後の型開き状態を示す。
【図3】図2中、P部を拡大して示す説明図である。
【図4】実施形態に係る射出成形金型の電気制御を説明する回路図である。
【図5】図1中、パーティング面PLから見た固定金型の平面図である。
【図6】図1中、パーティング面PLから見た可動金型の平面図である。
【図7】実施形態に係る射出成形金型において、可動金型と固定金型とが離間する様子を示す図であり、押出手段により成形品を可動金型側に押し出した後の状態を示す。
【図8】離型抵抗力計測プログラムの構成を示すフローチャートである。
【図9】各ワーク押出しピンの押圧力の算出に用いる一覧表である。
【図10】成形ショット数、固定金型の面粗度及び離型抵抗力との関係について、調査した結果を示す一覧表である。
【図11】図10における成形ショット数と離型抵抗力Rとの関係について示したグラフである。
【図12】図10における成形ショット数と面粗度Rzとの関係について示したグラフである。
【図13】変形形態に係る射出成形方法で行う押圧手段の点検手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
1 射出成形金型(成形金型)
2 キャビティ
10 固定金型(第1金型)
30 押出手段
40 可動金型(第2金型)
50 エジェクトピン
70 ロードセル(離型抵抗計測手段)
80 制御手段
90 製品
91 インサート部材
R 離型抵抗力
MT モールド材MT(材料)
【技術分野】
【0001】
この発明は、第1金型と第2金型とを当接させてキャビティを形成し、材料を注入して成形した後、該第2金型を該第1金型から離間するときに、成形品を該第2金型に密着させた状態とし、その後、エジェクトピンにより成形品を該第2金型から分離する金型成形方法及び成形金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、固定金型と可動金型とを当接させてキャビティを形成し、材料を射出して成形した後、該可動金型を該固定金型から離間するときに、成形品を該可動金型に密着させた状態とし、その後、エジェクトピンにより成形品を該可動金型から分離する射出成形方法が行われている。
その射出成形方法においては、可動金型を固定金型から離間させるときに、成形品を確実に可動金型に密着させて離間できるようにするため、成形品の形状やランナ形状等を変えて、離型抵抗を増やす工夫をしている。
一方、特許文献1には、一次成形品用固定金型のPL面に臨んで補助突起板15を摺動自在に備え、バネ16で突没可能にして型開き時に一次成形品を可動金型4のキャビティ内に確実に移動保持させるようにしていると、記載されている。すなわち、固定金型側にバネ力で作用する押出ピンを設け、成形品を確実に可動型に密着させる方法が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平8-197578号公報 段落(0010)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された発明では、次のような問題があった。
すなわち、金型の経年変化により、キャビティ面の表面粗度が悪化し、固定金型側の離型抵抗が増加するため、可動金型と固定金型とを離間するときに、成形品が固定金型側に残る問題があった。
この問題は以下の理由によって生じる。すなわち、射出成形法による成形品の中でも、ハイブリッド自動車用モータの固定子をモールドする射出成形では、成形品の材料となるモールド材には、例えば、スチレン、飽和ポリエステル等の樹脂材のほか、アルミナ、ガラス繊維等の比較的硬質の混合材料が含まれている。このようなモールド材を金型で成形すると、成形時にモールド材中の混合材料がキャビティ面に触れて、キャビティ面の表面粗度を悪化させる。キャビティ面の表面粗度は、成形ショット数の増加と共に悪化して、固定金型側の離型抵抗がだんだんと大きくなる。
離型抵抗が増大し固定金型に成形品が残った場合には、無理に成形品を取り出すため、成形品を製品として使用することが難しい。ハイブリッド自動車用モータの固定子をモールドする射出成形方法においては、成形品の1個当たりの価格が高いため、この点、大きな問題となる。
【0005】
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、材料を注入して第1金型及び第2金型とで成形された成形品を、確実に第2金型側から取出すことができる金型成形方法及び成形金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の金型成形方法、及び成形金型は、次の構成を有している。
(1)第1金型と第2金型とを当接させてキャビティを形成し、材料を注入して成形した後、該第2金型を該第1金型から離間するときに、成形品を該第2金型に密着させた状態とし、その後、エジェクトピンにより成形品を該第2金型から分離する金型成形方法において、前記第1金型と前記第2金型とが離間するときに、前記第1金型に設けられた押出手段が、前記成形品を前記第2金型側に押し出すこと、前記エジェクトピンが、前記成形品を前記第2金型から分離させるときの離型抵抗力を、離型抵抗計測手段が計測すること、前記離型抵抗計測手段が計測した離型抵抗力に応じて、前記押出手段の押出力を変化させること、を特徴とする。
【0007】
(2)第1金型と第2金型とを当接させてキャビティを形成し、材料を注入して成形した後、該第2金型を該第1金型から離間するときに、成形品を該第2金型に密着させた状態とし、その後、エジェクトピンにより成形品を該第2金型から分離させる成形金型において、前記第1金型に設けられ、前記第1金型と前記第2金型とが離間するときに、前記成形品を前記第2金型側に押し出す押出手段と、前記エジェクトピンが、前記成形品を前記第2金型から分離するときの離型抵抗力を計測する離型抵抗計測手段と、前記離型抵抗計測手段が計測した離型抵抗力に応じて、前記押出手段の押出力を変化させる制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
次に、上記構成を有する本発明の金型成形方法及び成形金型の作用・効果について説明する。
本発明の成形金型を用いた本発明の金型成形方法は、第1金型と第2金型とを当接させてキャビティを形成し、材料を注入して成形した後、該第2金型を該第1金型から離間するときに、成形品を該第2金型に密着させた状態とし、その後、エジェクトピンにより成形品を該第2金型から分離する金型成形方法であって、第1金型と第2金型とが離間するときに、第1金型に設けられた押出手段が、成形品を第2金型側に押し出すこと、エジェクトピンが、成形品を第2金型から分離させるときの離型抵抗力を、離型抵抗計測手段が計測すること、離型抵抗計測手段が計測した離型抵抗力に応じて、押出手段の押出力を変化させること、を特徴としているので、第1金型と第2金型との離間時に、成形品は、離型抵抗計測手段により計測した離型抵抗力に応じて変化させた押出手段の押出力で、第2金型側に押し出される。
【0009】
ところで、例えば、ハイブリッド自動車用モータの固定子を樹脂でモールドするにあたり、例えば、スチレン、飽和ポリエステル等の樹脂材のほか、アルミナ、ガラス繊維等の比較的硬質の混合材料を含むモールド材を、射出成形法により射出して固定金型及び可動金型で成形する場合がある。
このような成形の場合、モールド材中の混合材料が両方の金型のキャビティ面に触れて、このキャビティ面を粗くする。キャビティ面の表面粗度は、経年変化によって次第に悪化する。
出願人は、この現象について詳しく解析する実験を行った。実験では、特に成形品の成形回数(成形ショット数)が数万から数十万回程度になってくると、成形ショット数の増加と共に、キャビティ面の表面粗度が極度に悪化して、成形品を固定金型から離間させるときの離型抵抗もかなり増大していることを、新たに確認した。
このような表面粗度の悪化は、固定金型及び可動金型の両側で同じように進行するものと推察される。すなわち、成形品が固定金型から離間するときの離型抵抗力と、エジェクトピンにより成形品を可動金型から分離させるときの離型抵抗力とは、ほぼ同程度の大きさになるものと考えられる。
【0010】
また、実験を通じて、成形品を固定金型から離間させるときの離型抵抗について、成形ショット数が初回時のときの離型抵抗の大きさを1としたとき、例えば、数千回から一万回前後の時点で初回時の約2倍、数万回の時点で初回時の約5倍等と、成形ショット数の増加数のわりには離型抵抗は急激に大きくなり、その後も、離型抵抗は、成形ショット数の増加と共に増え続け、数十万回にも達すると、その離型抵抗は、実に初回時の10倍超にも及んでいることも、新たに判った。
一般に、固定金型及び可動金型を用いた射出成形では、これらの金型は、その耐用回数として、数十万回を超える成形ショット数まで使用される。
こうした使用事情の下、従来の射出成形方法のように、一定のバネ力で作用する押出ピンを固定金型側に設けても、バネ力を一定にしたままでバネを使用し続けると、固定金型及び可動金型を使用している間に、バネ力が、成形品を固定金型から離間させるときの離型抵抗力より小さくなる場合が、成形ショット数が比較的少ない時点で生じ得る。
すると、可動金型と固定金型とを離間するときに、バネ力との差分、固定金型側に残る離型抵抗力に起因して、成形品が固定金型側に残る虞がある。
【0011】
これに対し、本発明の成形金型を用いた本発明の金型成形方法では、エジェクトピンにより成形品を第2金型から分離させるときの離型抵抗力を離型抵抗計測手段が計測し、押出手段による押出力を、計測した離型抵抗力に応じて変化させているので、たとえ、経年変化によりキャビティ面の表面粗度が悪化し第1金型側の離型抵抗が増加しても、押出手段による、離型抵抗に打勝つ押出力で、成形品を第2金型側に押し出すことができる。
すなわち、成形品を第1金型から離間するときの離型抵抗は、エジェクトピンにより成形品を第2金型から分離させるときの離型抵抗力と、ほぼ同じ大きさであると考えられる。
このことから、第1金型側の離型抵抗について、成形ショット数が初回時のときの離型抵抗の大きさに対し、約2倍、約5倍等と増加の一途をたどり、数十万回にも達したときの離型抵抗が、初回時の10倍超にも及ぶようであれば、第2金型側の離型抵抗力も、第1金型側の離型抵抗と同様な増加傾向になっているものと推察される。
本発明の成形金型を用いた本発明の金型成形方法では、押出手段は、離型抵抗計測手段により、エジェクトピンが成形品を第2金型から分離させるときの離型抵抗力を計測し、計測した離型抵抗力に応じて変化させた押出力で、成形品を第2金型側に押し出す。
このため、たとえ第1金型側の離型抵抗が、その初回時のときの大きさの約2倍、約5倍等と増え続け、10倍超にまで及んでいたとしても、押出手段は、計測した第2金型側の離型抵抗力に応じて変化させた押出力で、成形品を第2金型側に押し出すので、成形品は、押出手段の押出力で、必然的に第2金型側に押し出されることになる。
したがって、第1金型と第2金型とが離間するときには、成形品を、確実に第2金型側から取出すことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(実施形態)
以下、本発明における成形金型を具体化した一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1及び図2は、本実施形態に係る射出成形金型1の構成を説明する断面図であり、図1は成形時の型締め状態、図2は成形後の型開き状態を示す。図3は、図2中、P部を拡大して示す説明図である。図4は、図1に示す射出成形金型1の電気制御回路を示す説明図である。
本実施形態では、射出成形金型1(成形金型)は、ハイブリッド自動車用モータのステータ部を構成する部品であるインサート部材91に、射出成形法により樹脂を射出し、固定金型10(第1金型)及び可動金型40(第2金型)で成形した成形品92をモールドさせた製品90を製造する金型である。インサート部材91は、略円環状のバスバ部と、これより径内側にバスバ部と接続した複数のコイル部とからなる。
【0013】
この射出成形金型1は、図1乃至図4に示すように、固定金型10、押出手段30、可動金型40、エジェクトピン50、ロードセル70及び制御手段80等から構成されている。
固定金型10側には、押出手段30が、可動金型40側には、エジェクトピン50及びロードセル70がそれぞれ配設されており、射出成形金型1は、制御手段80で電気的に制御されて動作する。
【0014】
はじめに、制御手段80について説明する。
制御手段80は、図4に示すように、I/O端子81、CPU82、RAM83及びROM84等の公知のマイクロコンピュータを備えている。マイクロコンピュータには、ROM84等に記憶された後述する離型抵抗力計測プログラムや、その他のプログラムをCPU82にロードすることにより、所定の動作、例えば、後述する可動金型取付盤41及びエジェクトピン取付盤60の動作、ロードセル70の作動及び流体供給源25の駆動等を行う。
【0015】
次に、固定金型10について説明する。
固定金型10は、型開閉方向(図1,2中、上下方向)に移動しない構造の固定金型取付盤11に固定されている。
この固定金型10は、4つのワーク押出しピン20及び、各ワーク押出しピン20と固定金型取付盤11との間に配設された4つの押出手段30を備えている。
ワーク押出しピン20は、型締め時に、押出手段30による押圧で可動金型40と共に挟持してインサート部材91を保持するピンであり、図5に示すように、固定金型10と可動金型40とが当接して形成されるドーナツ形状のキャビティ2の径方向外側で、周方向に4等分された位置に配置されている。なお、図5は、図1中、パーティング面PLから見た固定金型の平面図である。
【0016】
押出手段30は、本実施形態では、ガスシリンダであり、その作動ガスの流量等に応じて、可動金型40側への押圧力を可変できる構成となっている。この押出手段30は、型締め時には、ワーク押出しピン20を可動金型40側に所定の押圧値で押圧する一方、可動金型40と固定金型10とが離間するときに、押圧力を所定の押圧値から変化させてワーク押出しピン20を押圧し、成形品92を可動金型40側に押し出す。
具体的には、各押出手段30は、それぞれ独立した4つの流体供給源25に図示しない配管で接続されている。この流体供給源25は、押出手段30に作動ガスを供給する。
各流体供給源25は、制御手段80のI/O端子81と電気的に接続されており、CPU82からの動作指令に基づいて、接続する押出手段30へ作動ガスの流量等を制御して、これを押出手段30に供給する構成となっている。このように、押出手段30は、接続する流体供給源25で制御した作動ガスの流量等に応じて、ワーク押出しピン20への押圧力を変化させる。
【0017】
次に、可動金型40について説明する。
可動金型40は、型開閉方向(図1,2中、上下方向)に移動可能な可動金型取付盤41に中間部材42を介して固定されている。可動金型40は、可動金型取付盤41による型開閉方向の移動により、固定金型10との型締め位置であるパーティング面PLまで移動して固定金型10と当接するようになっている。
可動金型40は、インサート部材91を載置する載置面40aを有し、この載置面40aより固定金型10側に突出した中央円柱部43を有している。中央円柱部43は、図5及び図6に示すように、載置したインサート部材91の径方向中央部に位置し、可動金型40と固定金型10とがパーティング面PL上で当接したときに、固定金型10との間にキャビティ2を形成する。なお、図6は、図1中、パーティング面PLから見た可動金型の平面図である。
キャビティ2には、射出成形時に、成形品92の材料であるモールド材MTが、固定金型10側に設けた図示しないスプルから、ランナ93及び図示しないゲートを通じて射出され、成形品92が成形される(図1参照)。
なお、モールド材MTとしては、本実施形態では、スチレン、飽和ポリエステル等の樹脂材である主材料と、アルミナ、ガラス繊維等の副材料と、離型材とを含む材料が挙げられる。
【0018】
また、可動金型40には、成形品92を当該可動金型40から分離させる棒状のエジェクトピン50が8箇所に配設されている。各エジェクトピン50は、インサート部材91のうち、隣り合うコイル部同士の間で、キャビティ2をその周方向に8等分する位置に配置されている(図6参照)。エジェクトピン50は、そのピン下端部51を、中間部材42の径内側に配設されたエジェクトピン取付盤60によって支持されている。
エジェクトピン取付盤60は、制御手段80のI/O端子81と電気的に接続した図示しない油圧シリンダと接続しており、型開閉方向(図1等の中、上下方向)に所定のストロークの範囲で移動可能に構成されている。
エジェクトピン取付盤60が上昇すると、これに伴って各エジェクトピン50も上昇して、各エジェクトピン50の上端面50aに当接した成形品92が、上方に持ち上げられて可動金型40の載置面40aから離間する。これにより、成形品92が可動金型40から分離する。
【0019】
次に、ロードセル70(離型抵抗計測手段)について説明する。
各エジェクトピン50のピン下端部51と、エジェクトピン取付盤60の当接部61との間に、ピン下端部51と当接部61とが当接可能な状態で、8つのロードセル70が配設されている。
このロードセル70は、公知の構成のロードセルであり、エジェクトピン50が成形品92(製品90)を可動金型40から分離させるときの離型抵抗力Rを計測する。
具体的には、ロードセル70は、エジェクトピン取付盤60の上昇により、成形品92が可動金型40の載置面40aから持ち上がるまでに、当接部61がロードセル70を介してピン下端部51を押圧したときの当該ロードセル70自身にかかる押圧力を、離型抵抗力Rとして計測する。
各ロードセル70は、制御手段80のI/O端子81と電気的に接続されており、離型抵抗力Rの計測値Rmを制御手段80のRAM83に出力するようになっている。
【0020】
次に、射出成形金型1を用いた製品90の製造工程について、簡単に説明する。
インサート部材91を、可動金型40の載置面40aの所定位置に載置する。この後、可動金型40を固定金型10とのパーティング面PLまで移動させて、可動金型40と固定金型10とを当接させる。これにより、射出成形金型1にキャビティ2が形成される。
次いで、押出手段30によりワーク押出しピン20を可動金型40側に所定の押圧値で押圧して、キャビティ2内で載置面40aに載置したインサート部材91を保持する。
次いで、射出圧力が例えば10MPaの圧力値で、モールド材MTを、固定金型10側に設けた図示しないスプルから、ランナ93及び図示しないゲートを通じてキャビティ2に射出する。これにより、モールド材MTは、キャビティ2内にあるインサート部材91の周囲を被覆する形態に充填され、この後、この状態のモールド材MTを冷却する。
かくして、キャビティ2内のモールド材MTは、成形された形態の成形品92となり、インサート部材91が成形品92によってモールドされた製品90ができる。
なお、キャビティ2に到達するまでのランナ93及びゲートにおいて、硬化したモールド材MTは、後工程で製品90から除去される。
【0021】
次に、射出成形金型1を用いた、本実施形態に係る金型成形方法について、図7乃至図9を用いて説明する。
図7は、射出成形金型1において、可動金型40と固定金型10とが離間する様子を示す図であり、押出手段30によりワーク押出しピン20を介して成形品92を可動金型40側に押し出した後の状態を示す。図8は、離型抵抗力計測プログラムの構成を示すフローチャートである。図9は、各ワーク押出しピン20の押圧力Fnを算出に用いる一覧表である。
【0022】
本実施形態に係る金型成形方法は、前述した製品90の製造工程において、キャビティ2にモールド材MTを射出して成形した後、可動金型40を固定金型10から離間するときに、成形品92を可動金型40に密着させた状態とし、その後、エジェクトピン50により成形品92を可動金型40から分離する射出成形方法を前提としている。
そして、本実施形態に係る金型成形方法は、(1)可動金型40と固定金型10とが離間するときに、固定金型10に設けられた押出手段30が、成形品92を可動金型40側に押し出すこと、(2)エジェクトピン50が、成形品92を可動金型40から分離させるときの離型抵抗力Rを、ロードセル70が計測すること、(3)ロードセル70が計測した離型抵抗力Rの計測値Rmに応じて、押出手段30の押出力Fの押出値Fnを変化させること、を特徴とする方法である。
【0023】
本実施形態に係る金型成形方法について詳細に説明する。
この金型成形方法は、複数の製品90を連続で繰り返し製造するにあたり、図8に示す離型抵抗力計測プログラムの手順に基づいて行われる。
すなわち、この離型抵抗力計測プログラムは、製品90を製造する数量に相当する回数分、制御手段80によって毎回実行される。
離型抵抗力計測プログラムは、初期状態として、成形品92がキャビティ2内で成形された後、可動金型40と固定金型10とが型締めしたままの状態(図1に示す状態)から、開始される。
【0024】
まず、ステップS10では、1回前に成形した先の成形品92について、可動金型40に密着した状態の成形品92を可動金型40から分離させるときに、8本のエジェクトピン50がそれぞれ受ける離型抵抗力Rを、各ロードセル70により計測する。
具体的には、8本のエジェクトピン50、すなわち、第1乃至第8エジェクトピン51,52,53,54,55,56,57,58がそれぞれ受ける離型抵抗力Rを、これらと個々に当接する8つのロードセル70が計測する。
なお、先の成形品92が存在しない場合、すなわち製品90となる成形品92の成形が初回目になる場合には、例えば、製品90とは異なるテスト品向け等の成形品92を用いて、離型抵抗力Rを計測することが好ましい。
【0025】
次に、ステップS11では、各ロードセル70は、第1乃至第8エジェクトピン51,52,53,54,55,56,57,58で計測した離型抵抗力Rの計測値Rm(1≦m≦8)を制御手段80に出力し、制御手段80で8つの計測値Rmを読み取り、記憶する。
なお、図9には、計測値Rmとして、第1エジェクトピン51で計測されたものをR1、第2エジェクトピン52で計測されたものをR2、以下の同様にして、第8エジェクトピン58で計測されたものをR8で表記する。
【0026】
次に、ステップS12では、1本の押出しピン20に対し、3つのエジェクトピン50にかかる3つ分の離型抵抗力Rであるピン離型抵抗を、3つの計測値Rmを用いて制御手段80で演算する。
3つの計測値Rmは、参照する図6及び図9に示すように、キャビティ2の径方向に対し、4本のワーク押出しピン20(第1,第2,第3,第4ワーク押出しピン21,22,23,24)と隣接するエジェクトピン50、すなわち第2,第4,第6,第8,エジェクトピン52,54,56,58に受ける計測値Rmを、中心値としてまず選択する。その上で、この中心値に対応したエジェクトピン50と、キャビティ2の径方向に隣り合うエジェクトピン50に受ける2つの計測値Rmを、隣接値として用いる。
具体的には、第1ワーク押出しピン21に対し、これと径方向に隣接する第2エジェクトピン52は、第1,第3エジェクトピン51,53と隣り合う。
したがって、第2エジェクトピン52での計測値Rmは計測値R2であり、第1,第3エジェクトピン51,53での計測値Rmはそれぞれ計測値R1、R2であるので、第1ワーク押出しピン21にかかるピン離型抵抗の算出では、計測値R1、R2、R3を用いる。
同様に、第2ワーク押出しピン22にかかるピン離型抵抗の算出では、計測値R3、R4、R5を、第3ワーク押出しピン23にかかるピン離型抵抗の算出では、計測値R5、R6、R7を、第4ワーク押出しピン24にかかるピン離型抵抗の算出では、計測値R7、R8、R1を、それぞれ用いる。
ピン離型抵抗の算出方法としては、例えば、3つの計測値Rmの平均値を演算値Cnとするほか、中心値である計測値に、隣接値である2つの計測値にそれぞれ1/2倍した積を各々加算して、このときの総和を1/2倍した演算値Cn等を算出する方法が挙げられる。
【0027】
次に、ステップS13では、制御手段80において、可動金型40を固定金型10から離間するとき、4本のワーク押出しピン20を、それぞれの押出手段30で押圧するときの押圧力Fの押圧値Fnを決定する。この押圧値Fnは、ステップS12で算出したピン離型抵抗の演算値Cnに応じて、それぞれの演算値Cnより大きくなるように変化させて設定される。
具体的には、第1ワーク押出しピン21の押圧値F1を、計測値R1、R2、R3を用いて算出した演算値C1より大きく設定する。同様に、第2ワーク押出しピン22の押圧値F2を、計測値R3、R4、R5を用いて算出した演算値C2より、第3ワーク押出しピン23の押圧値F3を、計測値R5、R6、R7を用いて算出した演算値C3より、第4ワーク押出しピン24の押圧値F4を、計測値R7、R8、R1を用いて算出した演算値C4より、いずれも大きく設定する。
【0028】
次に、ステップS14では、制御手段80のCPU82が、ステップS13で決定した押圧値Fnに基づいて、各流体供給源25を動作指令して、接続する押出手段30へ供給する作動ガスの流量等を制御する。
次に、ステップS15において、可動金型40が固定金型10から離間する際に、流体供給源25で制御された作動ガスの流量等に応じた押出手段30の押圧力F、すなわちステップS13で決定した4つの押圧値Fnで、各ワーク押出しピン20(第1乃至第4ワーク押出しピン21,22, 23, 24)を押して、成形品92を可動金型40側に押し出す。すると、図7に示すように、成形品92は、固定金型10から離間し、可動金型40と密着した状態で、可動金型40とともに型開方向(図7中、下方向)に移動する。
可動金型40が型開き状態になったら、エジェクトピン取付盤60を上昇させ、8つのエジェクトピン50で成形品92(製品90)を持ち上げて、可動金型40から分離する(図2参照)。
【0029】
次に、ステップS16では、製品90を引き続き連続で製造するにあたり、次の成形品92の成形を継続して行うか否かについて判断する。継続して成形を行う場合は、YESに進んで、ステップS10を実行する。
但し、ステップS15を実行する際に、8本のエジェクトピン50がそれぞれ受ける離型抵抗力Rを各ロードセル70で計測しておけば、YESに進んで、ステップS11を実行すれば良い。
一方、次の成形品92の成形を継続して行なわない場合は、NOに進み、離型抵抗力計測プログラムの実行を終了する。
【0030】
ところで、本実施形態に係る金型成形方法のように、ハイブリッド自動車用モータの固定子(インサート部材91に対応)を樹脂でモールドした製品を製造するにあたり、例えば、スチレン、飽和ポリエステル等の樹脂材のほか、アルミナ、ガラス繊維等の比較的硬質の混合材料を含むモールド材を、射出成形法により射出して固定金型及び可動金型で成形する場合がある。
このような成形の場合、モールド材中の混合材料が両方の金型のキャビティ面に触れて、このキャビティ面が粗くなる。キャビティ面の表面粗度は、経年変化によって次第に悪化する。このような表面粗度の悪化は、固定金型及び可動金型の両側で同じように進行するものと推察される。すなわち、成形品が固定金型から離間するときの離型抵抗力と、エジェクトピンにより成形品を可動金型から分離させるときの離型抵抗力とは、ほぼ同程度の大きさになるものと考えられる。
出願人は、この前提の下、表面粗度が悪化していく現象について、可動金型側の離型抵抗力を計測して詳しく解析した。
【0031】
解析の結果を図10乃至図12に示す。図10は、成形品の成形回数(成形ショット数)、固定金型の面粗度Rz及び、エジェクトピンにより成形品を可動金型から分離させるときの離型抵抗力Rとの関係について、調査した結果を示す。図11は、図10における成形ショット数と離型抵抗力Rとの関係について示したグラフである。図12は、図10における成形ショット数と面粗度Rzとの関係について示したグラフである。
なお、面粗度Rzは、JIS法に規定された十点平均粗さRzである。離型抵抗力Rは、エジェクトピン50が成形品92を可動金型40から分離させるときに、計測した離型抵抗力Rである。
図12から容易に理解できるように、固定金型の面粗度Rzは、成形ショット数の増加に概ね比例して悪化していることが判る。これは、前述したように、モールド材中の混合材料が固定金型側のキャビティ面に触れて、経年変化によって次第に悪化したものみられ、可動金型でも、固定金型と同様に、面粗度Rzの悪化が進行しているものと考えられる。
その一方で、図11に示したグラフを見ると、可動金型側の離型抵抗力Rが図示されているが、この離型抵抗力Rの増加傾向は、固定金型側でも同じになるものと推察される。こうした前提の下、固定金型側のキャビティ面の面粗度Rzは、成形ショット数の増加と共に悪化して、特に成形ショット数が数万から数十万回程度になってくると、成形品を固定金型から離間させるときの離型抵抗は、数千回までの状態に比べて極度に増大することが新たに判った。
【0032】
さらに、成形品を固定金型から離間させるときの離型抵抗、すなわち可動金型側の離型抵抗力Rについて、成形ショット数が初回時近傍の離型抵抗力Rの大きさを1としたとき、例えば、数千回から一万回前後の時点で初回時の約2倍、数万回の時点で初回時の約5倍等と、成形ショット数の増加数のわりには離型抵抗は急激に大きくなり、その後も、離型抵抗は、成形ショット数の増加と共に増え続け、数十万回にも達すると、その離型抵抗は、実に初回時の10倍超にも及んでいることも、新たに確認できた。
具体的に、図10及び図11に示したデータを用いて説明する。すなわち、成形ショット数が初回、10,000回、100,000回、400,000回のときの離型抵抗力Rは、この順に、3.92×103(N)、9.8×103(N)、29.4×103(N)、49.0×103(N)となっている。初回時の離型抵抗力Rの計測値3.92×103(N)を1とした場合、10,000回でその約2.5倍、100,000回で約7.5倍と、成形ショット数の増加と共に急激に増え続けている。400,000回にもなると49.0×103(N)に達しており、実に12倍以上となっている。
このように、成形ショット数が初回時近傍の離型抵抗力Rの大きさと、数十万回を超えた離型抵抗力Rの大きさとでは、離型抵抗の大きさに10倍超の大きな差異が生じてくる。
【0033】
一般に、本実施形態に係る金型成形方法のような固定金型及び可動金型を用いた射出成形では、これらの金型は、その耐用回数として、数十万回を超える成形ショット数まで使用される。
こうした使用事情の下、従来の射出成形方法のように、一定のバネ力で作用する押出ピンを固定金型側に設けても、バネ力を一定にしたままでバネを使用し続けると、固定金型及び可動金型を使用している間に、バネ力が成形品を固定金型から離間させるときの離型抵抗力より小さくなる場合が、成形ショット数が比較的少ない時点で生じ得る。
すると、可動金型と固定金型とが離間するときに、バネ力との差分、固定金型側に残る離型抵抗力に起因して、成形品が固定金型側に残る虞がある。
【0034】
これに対し、本発明の射出成形金型1を用いた、本実施形態に係る金型成形方法は、エジェクトピン50により成形品92(製品90)を可動金型40から分離させるときの離型抵抗力Rをロードセル70が計測し、押出手段30による押出力Fを、計測した離型抵抗力Fの押圧値Fnに応じて変化させているので、たとえ、経年変化によりキャビティ面2の表面粗度が悪化し固定金型10側の離型抵抗が増加しても、離型抵抗に打勝つ押出手段30による押出力Fで、成形品92を可動金型40側に押し出すことができる。
すなわち、成形品92を固定金型10から離間するときの離型抵抗は、エジェクトピン50により成形品92を可動金型40から分離させるときの離型抵抗力Rと、ほぼ同じ大きさであると考えられる。
このことから、固定金型40側の離型抵抗について、成形ショット数が初回時のときの離型抵抗の大きさに対し、約2倍、約5倍等と増加の一途をたどり、数十万回にも達したときの離型抵抗が、初回時の10倍超にも及ぶようであれば、可動金型40側の離型抵抗力Rも、固定金型10側の離型抵抗と同様な増加傾向になっているものと推察される。
本発明の射出成形金型1を用いた、本実施形態に係る金型成形方法では、押出手段30は、エジェクトピン50が成形品92を可動金型40から分離させるときの離型抵抗力Rを、ロードセル70により成形品92を1回行う度に毎回計測し、計測した離型抵抗力Rの計測値Rmに応じて大きく変化させた押出力Fnで、成形品92を可動金型40側に押し出す。
このため、たとえ固定金型10側の離型抵抗が、その初回時のときの大きさの約2倍、約5倍、10倍超にまで及んでも、押出手段30は、成形ショットを行う毎に毎回計測した可動金型40側の離型抵抗力Rに応じて変化させた押出力Fの押出値Fnで、成形品92を可動金型40側に押し出すので、成形品92は、押出手段30の押出力Fで、必然的に可動金型40側に押し出されることになる。
したがって、可動金型40と固定金型10とが離間するときに、成形品92を、確実に可動金型40側から取出すことができるようになる。
【0035】
また、本実施形態では、製品90は、ハイブリッド自動車用モータのステータ部を構成する部品であるインサート部材91に、射出成形法により樹脂を射出し、固定金型10及び可動金型40で成形した成形品92をモールドさせたものであり、製品90一個当たりの価格が高い。
射出成形金型1を用いた、本実施形態に係る金型成形方法によれば、固定金型10側の離型抵抗が増大し固定金型10に成形品92が残ることもなく、無理に成形品92を固定金型10から取り出すこともない。
したがって、固定金型10に残った成形品92を無理に取り出して、この成形品92を製品90として使用することが困難となり、この製品90を廃棄することに起因した経済的損失の発生を防止することができる。
【0036】
(変形形態)
実施形態の射出成形金型1を用いた、本変形形態に係る金型成形方法について、参照する図10及び図11と、図13とを用いて説明する。
図13は、本変形形態に係る金型成形方法で行う押圧手段30の点検手順を示すフローチャートである。
本変形形態に係る金型成形方法は、前述した実施形態の金型成形方法とは、押圧手段30の押圧力Fを変化させるのに用いる手法が異なる。また、実施形態では、射出成形金型1に構成された押圧手段30を、ガスシリンダとした。これに対し、本変形形態では、押圧手段30をコイルバネとして構成されている。
しかしながら、本変形形態で用いる射出成形金型1は、押圧手段30がコイルバネであり、流体供給源25を備えていない点以外では、本実施形態の射出成形金型1と同様である。
したがって、本変形形態に係る金型成形方法を中心に説明し、実施形態と同様な部分の説明は、簡単または省略する。
【0037】
本変形形態に係る金型成形方法について詳細に説明する。
この金型成形方法は、複数の製品90を繰り返し製造するにあたり、図13に示す押圧手段30の点検に基づいたものとなっている。
この押圧手段30の点検は、成形ショット数の増加に伴う固定金型10及び可動金型40の離型抵抗の増大傾向と、取付けるコイルバネ(押圧手段30)の性能とを考慮した上で実施される定期点検であり、実際には、例えば、一月に一回程度等の頻度で定期的に実施される。
すなわち、一例として挙げた図10及び図11を見ても判るように、固定金型10及び可動金型40の離型抵抗力Rの大きさは、成形ショット数が数千個から約10,000回に達するまでに、例えば、初回時の2倍超と急激に増大し、その後、成形ショット数の増加に伴う離型抵抗力Rの上昇率は、数千個から約10,000回までの上昇率より小さくなる傾向にあるものの、初回時の約2倍、約5倍等と増加の一途をたどり、数十万回にも達したときの離型抵抗は、初回時の10倍超にも及ぶものと推察される。
押圧手段30は、所定のバネ定数を有したコイルバネである。一般に、コイルバネでは、設定されたバネ定数から生じるバネ力において、当該コイルバネにかかる抵抗力として、外力に当該コイルバネが高い信頼性をもって耐えうることができるバネ力の許容範囲は、設定された当該バネ力の数倍までにも及ばないものと考えられる。
【0038】
このようなバネの性能上における信頼性の観点から、射出成形金型1に取付けたコイルバネのバネ力で、増大していく離型抵抗力Rに耐えうることができる成形ショット数の許容範囲は、成形ショット数が比較的少ないときと、比較的多いときとではそれぞれ異なるものと考えられる。
すなわち、成形ショット数が比較的少ない時点では、例えば、初回目から数千個回までの成形ショット数で、さらに、その後、たとえ新しいバネに交換したとしても、バネ交換後に成形した数万回の成形ショット数で、バネ力が成形品を固定金型10から離間させるときの離型抵抗力Rより小さくなる場合が生じ得る。
その一方、成形ショット数が比較的多くなってくると、バネ交換後に成形した数万回から数十万回程度の成形ショット数で、バネ力が離型抵抗力Rより小さくなる場合が生じる。
そうすると、成形ショット数が初回時のときに取付けられているコイルバネに対しては、成形ショット数が数千回になったときに、最初の押圧手段30の点検を実施する必要があり、その次に行う押圧手段30の点検は、最初の点検後に成形した成形ショット数が数万回になったときに実施する必要がある。
さらに、2回目以降に行われる点検のタイミングとして、点検は、このような考え方で繰り返し行われ、先の点検からその次の点検を行うまでに成形を予定している成形ショット数を、次回の押圧手段30の点検を行う目安時期として、解析の結果を図10及び図11を参考に予測した設定回数kを設定する。
【0039】
定期点検は、初期状態として、先の成形品92を成形した後、その次の成形品92を成形しようとする状態において、開始される。
まず、ステップS20では、先の成形品92の成形が、成形ショット数が(k−1)回目に該当する否かを判別する。(k−1)回目に該当する場合は、YESに進んで、ステップS21を実行する。その反対に、該当せず、(k−1)回目に満たない場合は、NOに進み、ステップS22を実行して、成形ショット数が(k−1)回目になるまで成形品92の成形を繰り返し継続する。
次に、ステップS21では、(k−1)回目の成形品92の成形を終えて、その次となるk回目の成形品92を成形する際、可動金型40に密着した状態の成形品92を可動金型40から分離させるときに、8本のエジェクトピン50がそれぞれ受ける離型抵抗力Rを、各ロードセル70で計測する。具体的には、8本のエジェクトピン50、すなわち、第1乃至第8エジェクトピン51,52,53,54,55,56,57,58がそれぞれ受ける離型抵抗力Rを、これらと個々に当接するロードセル70を用いて計測する。
【0040】
次に、ステップS23では、ステップS21において計測した、8箇所分の離型抵抗力Rの計測値Rm(1≦m≦8)を読み取る。
次いで、ステップS24では、1本の押出しピン20に対し、3つのエジェクトピン50にかかる3つ分の離型抵抗力Rであるピン離型抵抗を、3つの計測値Rmを用いて制御手段80で演算する。
なお、3つの計測値Rmを選択する選択手法と、ピン離型抵抗を求めるにあたり、3つの計測値Rmを用いた演算手法とは、実施形態において、図8に示したフローチャートのうち、ステップS12で記載された手法と同じであるため、ここでは、選択手法及び演算手法の説明を省略する。
【0041】
次に、ステップS25では、ステップS24で算出したピン離型抵抗の演算値Cnと、予め解析した図10に示す結果のうち、成形ショット数と離型抵抗力Rとの関係を示すデータとを照合した上で、押出手段30による押圧力Fの押圧値Fnを決定する。
すなわち、図10または図11において、成形ショット数がk回目であるときの離型抵抗力Rの大きさを確認する。予め解析した離型抵抗力Rの大きさと、ピン離型抵抗の演算値Cnとを比較し、4本のワーク押出しピン20に対するピン離型抵抗の各演算値Cnに応じて、各押出手段30による押圧力Fの押圧値Fnをそれぞれ決定する。押圧値Fnは、ステップS24で算出したそれぞれの演算値Cnより大きくなるように変化させて決定する。
具体的には、第1ワーク押出しピン21の押圧値F1を、計測値R1、R2、R3を用いて算出した演算値C1より大きく設定する。同様に、第2ワーク押出しピン22の押圧値F2を、計測値R3、R4、R5を用いて算出した演算値C2より、第3ワーク押出しピン23の押圧値F3を、計測値R5、R6、R7を用いて算出した演算値C3より、第4ワーク押出しピン24の押圧値F4を、計測値R7、R8、R1を用いて算出した演算値C4より、いずれも大きく設定する。
【0042】
次に、ステップS26では、ステップS25で決定した押圧値Fnに対応したバネ定数のコイルバネを選択し、成形ショット数がk回目になるまで設置されていた古いコイルバネから、選択した新しいコイルバネに交換する。
但し、今回の当該点検において、ステップS25で決定した押圧値Fnが、この点検前に行った前回の当該点検時で決定した押圧値Fnと大差なく同程度である場合、あるいは、古いコイルバネに有するバネ力で許容できるものである場合には、新しいコイルバネに交換する必要はない。
かくして、押圧手段30の点検は終了する。
押圧手段30の点検後、成形ショット数が(k+1)回目以降の成形品92の成形を開始し、前述したように、成形ショット数の増加による増大傾向と、取付けるコイルバネの性能とを考慮した上で新たに設定した設定回数まで、ステップS26で交換したコイルバネを用いる。
【0043】
前述したように、本発明に係る金型成形方法のような固定金型及び可動金型を用いた射出成形では、これらの金型は、その耐用回数として、数十万回を超える成形ショット数まで使用される。
こうした使用事情の下、固定金型及び可動金型を長期にわたって使用している間に、離型抵抗の大きさが成形ショット数の頻度によって、2倍、5倍そして10倍超もの開きがあっても、本変形形態に係る金型成形方法によれば、離型抵抗力Rの増大量に応じて、押圧手段30による押圧値Fnを変化させる、図13に示す定期点検を行っているので、一定のバネ力のバネを使い続けることはなく、バネ力が、成形品92を固定金型10から離間させるときの離型抵抗力より小さくなることはない。したがって、可動金型40と固定金型10とを離間するときに、バネ力との差分、固定金型10側に残る離型抵抗力に起因して、成形品92が固定金型40側に残る虞もない。
【0044】
なお、この発明は前記実施形態及び変形形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜変更して実施することもできる。
例えば、実施形態及び変形形態では、金型成形方法として、固定金型10と可動金型40とを当接させてキャビティ2を形成し、モールド材MTを射出し成形して、キャビティ2内のインサート部材91をモールドする射出成形方法を例示した。
しかしながら、本発明の金型成形方法は、実施形態及び変形形態で例示した射出成形方法に限定されるものではなく、例えば、第1金型と第2金型とを当接させてキャビティを形成し、溶融状態の金属をキャビティに注入して成形する鋳造等、他の金型成形方法にも、適宜適用可能である。
【0045】
また、実施形態及び変形形態では、固定金型10に押出手段30を設ける一方、可動金型40にエジェクトピン50を配設することにより、成形品92を可動金型40に残留させる射出成形金型1を例示した。
しかしながら、成形金型は、成形品を固定金型に残留させるために、固定金型にエジェクトピンを設け、可動金型に押出手段を設けた構成であっても良い。
【0046】
また、実施形態では、押出手段30を、流体供給源25から供給されるガスの流量等を制御して、押圧力Fを変化させる駆動源を例示した。
しかしながら、押出手段は、例えば、供給される作動油の流量等に応じて、押圧力を可変可能な油圧シリンダ等でもよく、成形品を可動金型側に押し出すときの押圧力を可変できる駆動源であれば、種々変更可能である。
【0047】
また、実施形態及び変形形態では、離型抵抗計測手段としてロードセル70を例示した。
しかしながら、離型抵抗計測手段は、成形品を可動金型から分離させるときの離型抵抗力を計測できるものであれば、種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施形態に係る射出成形金型の構成を説明する断面図であり、成形時の型締め状態を示す。
【図2】実施形態に係る射出成形金型の構成を説明する断面図であり、成形後の型開き状態を示す。
【図3】図2中、P部を拡大して示す説明図である。
【図4】実施形態に係る射出成形金型の電気制御を説明する回路図である。
【図5】図1中、パーティング面PLから見た固定金型の平面図である。
【図6】図1中、パーティング面PLから見た可動金型の平面図である。
【図7】実施形態に係る射出成形金型において、可動金型と固定金型とが離間する様子を示す図であり、押出手段により成形品を可動金型側に押し出した後の状態を示す。
【図8】離型抵抗力計測プログラムの構成を示すフローチャートである。
【図9】各ワーク押出しピンの押圧力の算出に用いる一覧表である。
【図10】成形ショット数、固定金型の面粗度及び離型抵抗力との関係について、調査した結果を示す一覧表である。
【図11】図10における成形ショット数と離型抵抗力Rとの関係について示したグラフである。
【図12】図10における成形ショット数と面粗度Rzとの関係について示したグラフである。
【図13】変形形態に係る射出成形方法で行う押圧手段の点検手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
1 射出成形金型(成形金型)
2 キャビティ
10 固定金型(第1金型)
30 押出手段
40 可動金型(第2金型)
50 エジェクトピン
70 ロードセル(離型抵抗計測手段)
80 制御手段
90 製品
91 インサート部材
R 離型抵抗力
MT モールド材MT(材料)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金型と第2金型とを当接させてキャビティを形成し、材料を注入して成形した後、該第2金型を該第1金型から離間するときに、成形品を該第2金型に密着させた状態とし、その後、エジェクトピンにより成形品を該第2金型から分離する金型成形方法において、
前記第1金型と前記第2金型とが離間するときに、前記第1金型に設けられた押出手段が、前記成形品を前記第2金型側に押し出すこと、
前記エジェクトピンが、前記成形品を前記第2金型から分離させるときの離型抵抗力を、離型抵抗計測手段が計測すること、
前記離型抵抗計測手段が計測した離型抵抗力に応じて、前記押出手段の押出力を変化させること、
を特徴とする金型成形方法。
【請求項2】
第1金型と第2金型とを当接させてキャビティを形成し、材料を注入して成形した後、該第2金型を該第1金型から離間するときに、成形品を該第2金型に密着させた状態とし、その後、エジェクトピンにより成形品を該第2金型から分離させる成形金型において、
前記第1金型に設けられ、前記第1金型と前記第2金型とが離間するときに、前記成形品を前記第2金型側に押し出す押出手段と、
前記エジェクトピンが、前記成形品を前記第2金型から分離するときの離型抵抗力を計測する離型抵抗計測手段と、
前記離型抵抗計測手段が計測した離型抵抗力に応じて、前記押出手段の押出力を変化させる制御手段と、
を有することを特徴とする成形金型。
【請求項1】
第1金型と第2金型とを当接させてキャビティを形成し、材料を注入して成形した後、該第2金型を該第1金型から離間するときに、成形品を該第2金型に密着させた状態とし、その後、エジェクトピンにより成形品を該第2金型から分離する金型成形方法において、
前記第1金型と前記第2金型とが離間するときに、前記第1金型に設けられた押出手段が、前記成形品を前記第2金型側に押し出すこと、
前記エジェクトピンが、前記成形品を前記第2金型から分離させるときの離型抵抗力を、離型抵抗計測手段が計測すること、
前記離型抵抗計測手段が計測した離型抵抗力に応じて、前記押出手段の押出力を変化させること、
を特徴とする金型成形方法。
【請求項2】
第1金型と第2金型とを当接させてキャビティを形成し、材料を注入して成形した後、該第2金型を該第1金型から離間するときに、成形品を該第2金型に密着させた状態とし、その後、エジェクトピンにより成形品を該第2金型から分離させる成形金型において、
前記第1金型に設けられ、前記第1金型と前記第2金型とが離間するときに、前記成形品を前記第2金型側に押し出す押出手段と、
前記エジェクトピンが、前記成形品を前記第2金型から分離するときの離型抵抗力を計測する離型抵抗計測手段と、
前記離型抵抗計測手段が計測した離型抵抗力に応じて、前記押出手段の押出力を変化させる制御手段と、
を有することを特徴とする成形金型。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−137130(P2009−137130A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315159(P2007−315159)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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