説明

金属ストリップの横型連続焼鈍炉

【課題】加熱能力を効果的に高めることのできる金属ストリップの横型連続焼鈍炉を提供する。
【解決手段】金属ストリップ20の横型連続焼鈍炉10において、加熱室12の上部にセラミックスから成る支持板36を横設して、支持板36の上面に電熱線から成る電気ヒータ44Cを横向きに寝た状態且つ波打形状をなす状態に設置し、電気ヒータ44Cで加熱された支持板36からの輻射熱を、下方を通過する金属ストリップ20に当てて加熱するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は金属ストリップの横型連続焼鈍炉に関し、特に加熱室の構造に特徴を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
炉入口から搬入したステンレス鋼等の金属ストリップを加熱室でヒータにより加熱した後、冷却室を通過させ、炉出口から搬出することで金属ストリップを連続焼鈍する横型連続焼鈍炉として図4に示すようなものが従来公知である。
この図4に示す横型連続焼鈍炉では、耐火材(耐火レンガ若しくはセラミックスファイバ)で構成した断熱材を内張りして成る加熱室の側壁面200と床面202とにヒータを設置し、このヒータからの熱を炉内を通過する処理対象としての金属ストリップ206に直接当てて、これを加熱する。
【0003】
通常そのヒータとして電熱線から成る電気ヒータ204を用い、そして所要の加熱能力を持たせるために長尺のものを波打形状に湾屈曲させた状態で設置する。
詳しくは、側壁面200の電気ヒータ204は、図4(ロ)に示すように側壁面200に沿って上下方向即ち縦方向に波打形状をなすように設置し、また床面202の電気ヒータ204は、床面202に沿って横向きに波打形状をなすように設置する。
【0004】
尚図4(イ)において210は金属ストリップ206を支持するハースロールである。
また図4(ロ)中、212は側壁面200に設けられた支持ピンで、側壁面200の電気ヒータ204はこの支持ピン212によって吊下状態に且つ縦方向に波打形状をなす状態に設置される。
【0005】
床面202の電気ヒータ204は波打面が金属ストリップ206と平行向きとなるため、この床面202の電気ヒータ204からの熱は金属ストリップ206に対して直角に当ることとなり、加熱の効率は高い。
【0006】
一方側壁面200の電気ヒータ204は、波打面が金属ストリップ206と直角方向の向きとなるため、図4(ハ)に示しているようにその側壁面200の電気ヒータ204からの熱は金属ストリップ206に対して直角には当らずに斜めに当ることとなって、金属ストリップ206に対する加熱の効率が悪い。
【0007】
床面202の電気ヒータ204は上記のように金属ストリップ206に対する加熱の効率は高いものの、炉内で金属ストリップ206が破断した場合、その破断した金属ストリップ206が床面202に垂れ落ちて床面202の電気ヒータ204と接触し、これをショートさせて断線させてしまう事故を起す問題がある。
【0008】
そのため、通常は図4(イ)に示しているように床面202の複数個所から部分的にガード214を上向きに突出させ、金属ストリップ206が破断しても、破断した金属ストリップ206が床面202の電気ヒータ204に接触するのを防止するようにしていた。
しかしながらこのようにしても床面202の電気ヒータ204の断線に対して必ずしも安全といえない。
【0009】
またこのように床面202の複数個所からガード214を部分的に突出させた場合、必然的に床面202への電気ヒータ204の設置スペースが狭くなってしまい、床面202の電気ヒータ204による加熱の能力が制限されてしまう。
結果としてこの種電気ヒータ204を用いた連続焼鈍炉の場合、金属ストリップ206に対する加熱能力を十分に高めることが難しい。
【0010】
加熱の能力を高める手段として、天井面208に支持ピンを複数設け、そして電気ヒータ204を支持ピンにて吊り下げるようにして天井面208に設置するといったことも考えられるが、この場合、支持ピンを天井面に設けること自体難しいのに加えて、天井面208に吊下状態に設けた電気ヒータ204が上下方向、即ち縦方向の波打形状となってしまい、電気ヒータ204の波打面が金属ストリップ206に対し直角の向きとなってしまって、金属ストリップ206に対する加熱の効率が著しく低くなってしまう問題があり、現実的ではない。
【0011】
尚、下記特許文献1には加熱室の上部に防塵板を配設して、天井空間と加熱空間とに区画するようになした点が開示されているが、この板は防塵のためのもので、本発明とは異なったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4268281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は以上のような事情を背景とし、加熱室での金属ストリップの加熱能力を効果的に高めることのできる金属ストリップの横型連続焼鈍炉を提供することを目的としてなされたものである。
また本発明の他の目的は、金属ストリップが破断することがあっても、床面に設置した電気ヒータが断線するのを有効に防止でき、安全性をより一層高めることのできる金属ストリップの横型連続焼鈍炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
而して請求項1のものは、耐火材で構成した断熱材を内張りして成る加熱室を備え、炉入口から搬入した金属ストリップを該加熱室でヒータにより加熱した後、冷却室を通過させて炉出口から搬出することで連続焼鈍する金属ストリップの横型連続焼鈍炉において、前記加熱室の上部にセラミックスから成る支持板を横設して、該支持板よりも上側の天井空間と下側の加熱空間とに区画し、該支持板の上面に前記ヒータとして電熱線から成る電気ヒータを該上面に沿って横向きに波打形状をなす状態に設置し、該電気ヒータで加熱された該支持板からの輻射熱を、下方を通過する金属ストリップに当てて加熱するようになしてあることを特徴とする。
【0015】
請求項2のものは、請求項1において、前記加熱室の床面に前記ヒータとして電熱線から成る電気ヒータを該床面に沿って横向きに波打形状をなす状態に設置するとともに、該電気ヒータを上側から覆う状態にセラミックス板からなるカバー板を床上に横設し、該電気ヒータにて加熱された該カバー板からの輻射熱を、上方を通過する前記金属ストリップに当てて加熱するようになしてあることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0016】
以上のように本発明は、横型連続焼鈍炉において加熱室の上部にセラミックスから成る支持板を横設して、その支持板の上面に電熱線から成る電気ヒータを、その上面に沿って横向きに波打形状をなす状態で、即ち横向きに寝た状態で設置し、電気ヒータで加熱された支持板からの輻射熱を、下方を通過する金属ストリップに当てて加熱するようになしたものである。
【0017】
このようにすれば、支持板上面に設置した電気ヒータからの熱を、セラミックス板から成る支持板を介して下方の金属ストリップに当て、これを加熱することができる。
しかも支持板上面の電気ヒータは波打面が金属ストリップと平行方法の面となるため、電気ヒータからの熱を支持板を介して効率高く金属ストリップに当てることができる。
そしてこの支持板上面の電気ヒータを、炉の側壁面の電気ヒータ,床面の電気ヒータと併せて設置することで、金属ストリップに対する加熱の能力を効果的に高めることができる。
【0018】
次に請求項2は、加熱室の床面に電気ヒータを床面に沿って横向きに波打形状をなす状態に設置するとともに、電気ヒータを上側から覆う状態にセラミックス板からなるカバー板を床上に横設し、電気ヒータにて加熱されたカバー板からの輻射熱を、上方を通過する金属ストリップに当てて加熱するようになしたものである。
【0019】
このようにしておけば、炉内で金属ストリップが破断して下方に垂れ落ちることがあっても、その破断した金属ストリップが直接床面の電気ヒータと接触するのを確実に防止することができ、金属ストリップの破断によって床面に設置した電気ヒータが断線する等の不具合を確実に防止することが可能となる。
加えてこのようにすれば、床面への電気ヒータの設置スペースを十分に広く確保することが可能となり、床面の電気ヒータによる加熱の能力を従来に増して高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態の横型連続焼鈍炉を示した図である。
【図2】同実施形態における加熱室の断面及び電気ヒータの配置パターンを示した図である。
【図3】同実施形態における加熱室を一部切り欠いて示した斜視図である。
【図4】横型連続焼鈍炉の従来例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10はステンレス鋼等の金属ストリップを図中左から右向きに走行させながら連続焼鈍する横型連続焼鈍炉で、加熱室12と冷却室14及び入口シール室16,出口シール室18を備えている。
ここで加熱室12には予熱室,均熱室を備えておくことができる。
また冷却室14には徐冷室を備えておくことができる。
【0022】
図において20は金属ストリップで、22はこれを支持するハースロールである。
ハースロール22は、金属ストリップ20の搬送方向に沿って複数配置されている。
この実施形態において、金属ストリップ20は炉入口24から炉内に搬入され、そして加熱室12内を図中右向きに搬送された後冷却室14へと送られ、そして冷却室14を通過し冷却された上で炉出口26から炉外に搬出され、連続焼鈍処理される。
【0023】
図2及び図3に加熱室12の構造が具体的に示してある。
これらの図において、28は鉄製の炉殻でその内側に耐火レンガ,セラミックファイバー等の耐火材で構成した断熱材30が全周に亘って内張りされている。
加熱室12内部の上下中間部には上記のハースロール22が配設され、このハースロール22によって下側から支持されつつ金属ストリップ20が加熱室12内を図2中紙面と直角方向に搬送される。
尚、図中32は側壁面を、34は床面をそれぞれ示している。
【0024】
この実施形態では、加熱室12内部の上部にセラミックスから成る支持板36が横設され、加熱室12の内部がこの支持板36によってこれよりも上側の天井空間38と、下側の加熱空間40とに区画されている。
尚支持板36は、例えば側壁面32から受部42を突出させて、この受部42にて支持板36の幅方向端部を下側から受けるようにして設置することができる。
ここで支持板36は、図3にも示しているように(但し図3では後述のカバー板46が省略されている)炉の長手方向に沿って加熱室12内部を連続的に延びている。
【0025】
側壁面32には電気ヒータ44Aが設置されている。この電気ヒータ44Aは長尺の電熱線から成るもので、図3に示しているように上下方向、つまり縦方向に波打形状をなすように湾屈曲させられた状態で設置されている。
この側壁面32の電気ヒータ44Aは、図3(ハ)に示しているように支持ピン45によって吊下状態に保持され、炉の長手方向に連続的に延びている。
【0026】
この実施形態において、電気ヒータ44Aは図3(イ),(ハ)に示すように帯状をなすリボンヒータから成っている。その寸法は例えば厚みが2〜3mm程度、幅が20〜40mm程度である。
但しかかる電気ヒータ44Aとして断面形状が円形状の丸棒状のものその他様々な形状のものを用いることが可能である。この点は後述の電気ヒータ44B,44Cについても同様である。
尚この側壁面32の電気ヒータ44Aは、支持板36より下側の加熱空間40に設けられている。
【0027】
一方、床面34にもまた長尺の電熱線から成る電気ヒータ(リボンヒータ)44Bが、床面34を支持面として横向きに波打形状をなすように湾屈曲状態で設置されている。
この床面34の電気ヒータ44Bもまた炉の長手方向に延びている。
【0028】
この実施形態では、支持板36の上面にも長尺の電熱線から成る電気ヒータ(リボンヒータ)44Cが、支持板36の上面を支持面として横向きに寝た状態且つ波打形状をなすように湾屈曲状態で設置されている。
この電気ヒータ44Cもまた図3(ロ)に示しているように炉の長手方向に連続的に延びている。
この実施形態では、セラミックスから成る支持板36が、その上面の電気ヒータ44Cにて加熱され、そしてその下方の金属ストリップ20が支持板36からの輻射熱によって加熱される。
【0029】
図2(イ)に示しているように床面34上には、電気ヒータ44Bを上方から覆い、カバーするセラミックスから成るカバー板46が設けられている。
カバー板46は床面34との間に隙間Sを形成する状態に、床面34に対し微小距離上側の位置に設けられており、そしてその隙間S内に電気ヒータ44Bが位置させられている。
尚、カバー板46は幅方向中央部において支持部48により床面34上に支持されている。
【0030】
この実施形態では、金属ストリップ20が床面34の電気ヒータ44Bによって直接加熱されず、先ずカバー板46が電気ヒータ44Bによって加熱され、そしてそのカバー板46からの輻射熱によって金属ストリップ20が加熱される。
但し加熱空間40内に雰囲気ガスが存在している場合には、その雰囲気ガスによる伝熱作用によっても金属ストリップ20が加熱される。
この点は支持板36による加熱についても同様である。
【0031】
本実施形態では、側壁面32の電気ヒータ44A,床面34の電気ヒータ44B,支持板36上面の電気ヒータ44Cの何れもが波打形状をなしている。
このうち側壁面32の電気ヒータ44Aは波打面が金属ストリップ20に対して直角の向きをなしており、一方支持板36上面の電気ヒータ44C及び床面34の電気ヒータ44Bは何れも金属ストリップ20に対して波打面が平行方向の面をなしている。
【0032】
従って側壁面32の電気ヒータ44Aからの熱は、金属ストリップ20に対して斜めの向きで当ることとなる。
これに対して床面34の電気ヒータ44B及び支持板36上面の電気ヒータ44Cからの熱は、金属ストリップ20に対してカバー板46,支持板36を介し直角に当ることとなる。
【0033】
以上のように本実施形態によれば、支持板36上面に設置した電気ヒータ44Cからの熱を、セラミックス板から成る支持板36を介して下方の金属ストリップ20に当て、これを加熱することができる。
しかも支持板36上面の電気ヒータ44Cは波打面が金属ストリップ20と平行方法の面となるため、電気ヒータ44Cからの熱を支持板36を介して効率高く金属ストリップ20に当てることができる。
そしてこの支持板36上面の電気ヒータ44Cを、炉の側壁面32の電気ヒータ44A,床面34の電気ヒータ44Bと併せて設置することで、金属ストリップ20に対する加熱の能力を効果的に高めることができる。
【0034】
また本実施形態によれば、炉内で金属ストリップ20が破断した場合であっても、その破断した金属ストリップ20が直接床面34の電気ヒータ44Bと接触するのを確実に防止することができ、金属ストリップ20の破断によって床面34に設置した電気ヒータ44Bが断線する等の不具合を確実に防止することができる。
加えて本実施形態によれば床面34への電気ヒータ44Bの設置スペースを十分に広く確保することができ、床面34の電気ヒータ44Bによる加熱の能力を従来に増して高めることができる。
【0035】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば上記のカバー板46を設けずに、図4(イ)に示す従来構造で電気ヒータ44Bを床面34に設置するといったことも場合により可能である。
更に本発明は還元雰囲気で金属ストリップを光輝焼鈍する連続光輝焼鈍炉に適用することも可能であるなど、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0036】
10 横型連続焼鈍炉
12 加熱室
14 冷却室
20 金属ストリップ
24 炉入口
26 炉出口
30 断熱材
32 側壁面
34 床面
36 支持板
38 天井空間
40 加熱空間
44A,44B,44C 電気ヒータ
46 カバー板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火材で構成した断熱材を内張りして成る加熱室を備え、炉入口から搬入した金属ストリップを該加熱室でヒータにより加熱した後、冷却室を通過させて炉出口から搬出することで連続焼鈍する金属ストリップの横型連続焼鈍炉において、
前記加熱室の上部にセラミックスから成る支持板を横設して、該支持板よりも上側の天井空間と下側の加熱空間とに区画し
該支持板の上面に前記ヒータとして電熱線から成る電気ヒータを該上面に沿って横向きに波打形状をなす状態に設置し、該電気ヒータで加熱された該支持板からの輻射熱を、下方を通過する金属ストリップに当てて加熱するようになしてあることを特徴とする金属ストリップの横型連続焼鈍炉。
【請求項2】
請求項1において、前記加熱室の床面に前記ヒータとして電熱線から成る電気ヒータを該床面に沿って横向きに波打形状をなす状態に設置するとともに、該電気ヒータを上側から覆う状態にセラミックス板からなるカバー板を床上に横設し、該電気ヒータにて加熱された該カバー板からの輻射熱を、上方を通過する前記金属ストリップに当てて加熱するようになしてあることを特徴とする金属ストリップの横型連続焼鈍炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−38683(P2011−38683A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185338(P2009−185338)
【出願日】平成21年8月8日(2009.8.8)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】