説明

金属材料摺動面構造、内燃機関用シリンダ及び金属材料摺動面形成方法

【課題】溶射被膜を形成することなく金属材料の表面に硬化層を形成すると共に、廃液処理などを生じることなく潤滑油を十分に保持できる金属材料摺動面構造、内燃機関用シリンダ及び金属材料摺動面形成方法。
【解決手段】アルミニウム合金製シリンダブロック4のシリンダボア6にプラズマ溶融装置2によりプラズマ溶融粗面化工程を行うことにより表面に凹凸形状を形成する。このことにより変化の激しい凹凸形状が形成される。しかも瞬間的な凝固により、溶射被膜が形成されていなくても非常に高硬度の凹凸表面となる。そしてこの凹凸表面に対して弾性ホーニング加工することにより凸部分にプラトー面形成工程を実行する。このことにより形成したピストンリング摺動面は、ハイSiアルミニウム合金のみでなくダイカスト用のアルミニウム合金でも長時間の十分なスカッフ性が得られ、かつECMのように廃液処理などを生じることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に形成された凸部分の先端にプラトー面を形成している金属材料摺動面構造、内燃機関用シリンダ及び金属材料摺動面形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料の耐摩耗性を向上させる技術が存在する(例えば特許文献1〜3参照)。
特許文献1では、真空アーク放電によりアルミニウム合金材料の表面に硬化層を形成し、この硬化層形成時に生じたうねり状の湾曲の頂部を圧延により平滑な面としている。尚、この特許文献1には従来技術としてうねり状の湾曲の頂部を切削により平滑な面を形成する例も開示されている。
【0003】
特許文献2では、カムシャフトのカム摺動部表面に対してプラズマアークなどの高密度エネルギーを照射して表面を再溶融し、こうして形成された表面硬化層をローラやプレートにより押圧して表面の凹凸を抑制し、その後、研磨仕上げしている。
【0004】
特許文献3では、アルミニウム製のシリンダブロックのシリンダボア内に溶射ガンにて溶射粉末をプラズマ溶射して溶射被膜を形成した後、ホーニング加工により表面に微小な気孔が有する溶射被膜を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−328167号公報(第4−6頁、図2−7)
【特許文献2】特開昭61−270340号公報(第4−5頁、図5)
【特許文献3】特開2005−171274号公報(第6−7頁、図6−7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のごとく真空アーク放電による作業では、金属材料を真空槽内に配置する必要があり、作業効率が低く生産ラインでは採用しにくい。更にシリンダブロックなどの大型な金属材料や多数のシリンダライナなどを同時に処理するには装置が巨大なものとなり現実的ではない。しかもうねり状の湾曲では凹部の深さや数は全体として十分に潤滑油を保持できるものではなく、スカッフ性など他部材との摺動特性が低く、耐摩耗性は不十分である。
【0007】
特許文献2についても、表面硬度の向上のみが目的であり、表面の凹凸は抑制しているので、潤滑油の保持はほとんどなく、スカッフ性など他部材との摺動特性が低く、耐摩耗性は不十分である。
【0008】
特許文献3では、金属材料を基材としてその表面に別材料の溶射粉末により溶射被膜を形成している。このような溶射被膜をシリンダボアに形成した場合には、材質の違いにより、特に内燃機関の高温化による熱膨張差やピストンリングの摺動により、基材から溶射被膜が剥がれるおそれがあり、耐久性に問題を生じる。
【0009】
この他、ECM(電解加工)により凹部を形成する手法が存在するが、電解加工液を用いるため廃液処理のため環境上の問題が生じる。
本発明は、溶射被膜を形成することなく金属材料の表面に硬化層を形成すると共に、廃液処理などを生じることなく潤滑油を十分に保持できる金属材料摺動面構造、内燃機関用シリンダ及び金属材料摺動面形成方法を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用・効果について記載する。
請求項1に記載の金属材料摺動面構造は、金属材料の表面に形成された凹凸の内で凸部分の先端が除去されていることにより金属材料の表面に平行な一面に揃えられたプラトー面を形成している摺動面構造であって、前記凸部分の先端が除去される前の前記凹凸は、金属材料の表面に対してプラズマ照射による溶融がなされたことにより形成されたものであることを特徴とする。
【0011】
このようにプラズマ照射により金属材料表面に形成された凹凸は、プラズマが衝突することにより、一瞬にして溶融した表面が激しい動揺を生じた後に瞬時に冷却されて凝固することにより形成されたものである。このため真空アーク放電のような、うねり状の湾曲ではなく、もっと凹凸変化の激しい、場合により袋状の凹部も存在するような表面凹凸形状が形成されている。しかも瞬間的な凝固により、非常に高硬度の凹凸表面となっている。
【0012】
この凹凸に対して凸部分の先端を除去してプラトー面を形成することにより、このプラトー面上にて、他部材が摺動可能となる。このプラトー面間に存在する凹部分は十分に潤滑油を保持できる陥入形状を呈していることから、他部材がプラトー面上を摺動する場合に凹部分から十分な潤滑油がプラトー面に供給されて、スカッフ性などの他部材との摺動特性が高いものとなる。
【0013】
しかも溶射被膜を形成することなく金属材料の表面に硬化層を形成しているため、熱膨張差や他部材の摺動による剥離のおそれがない。
更に金属材料摺動面構造形成時に電解加工液などの廃液は生じないので環境上の問題もない。
【0014】
請求項2に記載の金属材料摺動面構造では、請求項1に記載の金属材料摺動面構造において、前記凸部分の先端の除去は、プラズマ照射後に研削によりなされたものであることを特徴とする。
【0015】
このように凸部分の先端除去は研削により可能であり、金属材料の表面に平行な一面に揃えられたプラトー面を形成した金属材料摺動面構造を容易に実現できる。
請求項3に記載の金属材料摺動面構造では、請求項2に記載の金属材料摺動面構造において、前記凸部分の先端の除去は、ホーニング加工により形成されたものであることを特徴とする。
【0016】
すなわちホーニング砥石による研削によりプラトー面を形成でき、このようなホーニング加工により、プラトー面自体も滑らかな面に形成できる。したがってプラトー面間の凹部分からの潤滑油により他部材の摺動をより円滑なものにでき、他部材との摺動特性が高い金属材料摺動面構造となる。
【0017】
請求項4に記載の金属材料摺動面構造では、請求項3に記載の金属材料摺動面構造において、前記ホーニング加工は、弾性ホーニング砥石により行われたものであることを特徴とする。
【0018】
ホーニング加工としては、弾性ホーニング砥石を用いることができ、このことにプラトー面での摺動特性がより良好な金属材料摺動面構造にすることができる。
請求項5に記載の金属材料摺動面構造では、請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属材料摺動面構造において、前記凹凸の内で凹部分の平均深さは、前記プラトー面から1.0〜20μmの範囲に存在することを特徴とする。
【0019】
凹部分の平均深さが1.0μmより浅いと潤滑油の保持性が低下して金属材料表面の耐摩耗性が低下する傾向にある。凹部分の平均深さが20μmより深いと潤滑油が必要以上に消費される傾向にある。
【0020】
したがって前記範囲に凹部分の平均深さを設定することにより、潤滑油の保持性を高め、潤滑油の消費を抑制できる金属材料摺動面構造とすることができる。
請求項6に記載の金属材料摺動面構造では、請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属材料摺動面構造において、前記凹凸が形成された領域の全面積における前記プラトー面の占める面積率が5〜70%であることを特徴とする。
【0021】
プラトー面が占める面積率が5%より低い場合には潤滑油保持には十分であるが潤滑油消費量が高まり、他部材の摺動時でのプラトー面での面圧が過剰となり凸部分の強度低下と摺動特性が悪化する傾向にある。プラトー面が占める面積率が70%より高い場合には潤滑油の保持性が低下して摺動特性が悪化する傾向にある。
【0022】
したがって前記面積率にてプラトー面を形成することにより、潤滑油保持性、潤滑油消費性、摺動特性が良好な金属材料摺動面構造とすることができる。
請求項7に記載の金属材料摺動面構造では、請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属材料摺動面構造において、前記プラトー面の1面当たりの平均面積が5μm2以上であることを特徴とする。
【0023】
このように平均5μm2以上に、プラトー面の面積を設定することにより、特に摺動特性が良好な金属材料摺動面構造とすることができる。
請求項8に記載の金属材料摺動面構造では、請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属材料摺動面構造において、前記金属材料はアルミニウム合金であることを特徴とする。
【0024】
自動車エンジン等の用途においてエンジンの軽量化及び熱伝導性の向上のため、金属材料としてアルミニウム合金を用いてシリンダブロックやシリンダライナが形成される。このようなアルミニウム合金においても、前述した摺動面構造を採用することにより、廃液処理などを生じることなく潤滑油を十分に保持でき、耐摩耗性等の耐久性を向上させた金属材料摺動面構造とすることができる。
【0025】
請求項9に記載の金属材料摺動面構造では、請求項8に記載の金属材料摺動面構造において、前記アルミニウム合金はケイ素を含んでいることを特徴とする。
このようにアルミニウム合金がケイ素を含む合金であることにより、アルミニウム合金内のケイ素の初晶が、プラズマ照射により微細化して凹凸状態の表面層に分散される。このことによりアルミニウム合金自体の高硬度化と共に、微細化ケイ素によって更に表面層の硬度が高くなるので、プラトー面の硬度と滑らかさを更に高めることができる。このため耐摩耗性が向上し、スカッフ性などの他部材との摺動特性が特に高い金属材料摺動面構造とすることができる。
【0026】
請求項10に記載の金属材料摺動面構造では、請求項8又は9に記載の金属材料摺動面構造において、前記凹凸はプラズマ照射により硬度が140HV以上の状態で形成されているものであることを特徴とする。
【0027】
前述したごとくプラズマ照射後の瞬間的な凝固によりアルミニウム合金表面の凹凸は高硬度な状態に形成できる。アルミニウム合金の内でも、元の硬度(ビッカース硬度:HV)が低い種類(100〜110HV)であったとしても、140HV以上の凹凸を形成することが容易にできる。このように表面の凹凸を140HV以上の状態で形成していることにより、耐摩耗性等の摺動特性を特に向上させた金属材料摺動面構造とすることができる。
【0028】
請求項11に記載の金属材料摺動面構造では、請求項10に記載の金属材料摺動面構造において、前記凹凸はプラズマ照射により硬度が140〜190HVの範囲で形成されているものであることを特徴とする。
【0029】
このようにアルミニウム合金の凹凸部分が140〜190HVの範囲で形成されたものであることにより、耐摩耗性等の摺動特性を十分に向上させた金属材料摺動面構造とすることができる。
【0030】
請求項12に記載の金属材料摺動面構造では、請求項1〜11のいずれか一項に記載の金属材料摺動面構造において、前記プラズマ照射による溶融は、不活性ガスをプラズマ状にして金属材料の表面に照射したことにより行われたことを特徴とする。
【0031】
アルゴンガスや窒素ガスなどと言った不活性ガスを用いてプラズマ照射することにより金属材料の表面に溶融と激しい動揺を生じさせて、高硬度な凹凸を形成することができる。
【0032】
このような凹凸形成処理では、溶射粉末を用いていないので表面の硬化層と金属材料との熱膨張差や他部材の摺動による剥離のおそれがない金属材料摺動面構造とすることができる。更に電解加工液などの廃液は発生しないので加工工程にて環境上の問題を生じない金属材料摺動面構造とすることができる。
【0033】
請求項13に記載の金属材料摺動面構造では、請求項1〜11のいずれか一項に記載の金属材料摺動面構造において、前記プラズマ照射による溶融は、大気をプラズマ状にして金属材料の表面に照射したことにより行われたことを特徴とする。
【0034】
このように大気を用いてプラズマ照射しても良く、不活性ガスの場合と同様に高硬度な凹凸を有する金属材料摺動面構造とすることができる。大気であるのでプラズマ照射装置に貯蔵ボンベは必要なく、大気を吸い込んで用いれば良いので、金属材料摺動面構造形成時における加工コストが有利なものとなる。
【0035】
請求項14に記載の内燃機関用シリンダでは、内周面を、請求項1〜13のいずれか一項に記載の金属材料摺動面構造としたことを特徴とする。
このように内燃機関用シリンダとして、内周面が前記摺動面構造とされた金属材料を用いることにより、内周面をピストンリングが摺動しても、内周面に形成されている凹部分から十分な潤滑油がピストンリングとプラトー面との間に供給されて、スカッフ性などのピストンリングとの摺動特性が高い内燃機関用シリンダとすることができる。
【0036】
しかも内燃機関用シリンダの内周面に溶射被膜を形成することなく硬化層を形成しているため、熱膨張差やピストンリングの摺動による剥離のおそれがない。更に内燃機関用シリンダ内周面の加工時に電解加工液などの廃液は生じないので環境上の問題もない。
【0037】
請求項15に記載の内燃機関用シリンダでは、請求項14に記載の内燃機関用シリンダにおいて、シリンダライナとして形成されていることを特徴とする。
このように内燃機関用シリンダにおいて、内周面が前記摺動面構造とされたシリンダライナを用いることができ、前記請求項14に述べた作用・効果を生じる。
【0038】
請求項16に記載の内燃機関用シリンダでは、請求項14に記載の内燃機関用シリンダにおいて、シリンダブロックと一体に形成されていることを特徴とする。
このようにシリンダライナでなくシリンダブロックと一体に形成されているシリンダに適用することができる。すなわちシリンダブロックと同一の金属材料にて一体に形成されているシリンダであっても、前述したごとくプラズマ照射による凹凸とプラトー面とを形成することにより、前記請求項14に述べた作用・効果を生じる。
【0039】
請求項17に記載の金属材料摺動面形成方法は、金属材料の表面をプラズマ照射により溶融及び動揺させることで凹凸を前記表面に形成して凝固させるプラズマ溶融粗面化工程と、前記プラズマ溶融粗面化工程後に、金属材料の表面に平行であって前記凹凸における厚さ方向の中間位置に設定した一面まで凸部分の先端を除去して、凸部分の先端にプラトー面を形成するプラトー面形成工程とを実行することを特徴とする。
【0040】
プラズマ溶融粗面化工程では、プラズマ照射により金属材料表面は一瞬にして溶融し、同時に液状化した表面部分は激しく動揺する。そしてプラズマ照射が終了すれば、直ちに表面より下の金属材料部分により吸熱されて表面は急速に冷却されて動揺時の凹凸状態を維持したまま凝固し、粗面化が完了する。
【0041】
このためプラズマ溶融粗面化工程後においては、従来の真空アーク放電のようなうねり状の湾曲ではなく、もっと凹凸変化の激しい表面形状が形成されている。しかも瞬間的な凝固により、非常に高硬度の凹凸状態となっている。
【0042】
そしてプラトー面形成工程では、この凹凸に対して凸部分の先端を一面に揃えて除去することによりプラトー面を形成する。
このようにして形成された金属材料摺動面は、プラトー面間に存在する凹部分は、十分に潤滑油を保持できる陥入状を呈している。このことから、他部材がプラトー面にて摺動する場合に凹部分から十分な潤滑油が供給されて、スカッフ性などの他部材との摺動特性が高い金属材料摺動面が形成できる。
【0043】
しかも金属材料の表面を加工してその形状を高硬度の凹凸形状としているため、溶射被膜を形成することなく金属材料の表面に硬化層形成を可能としている。したがって熱膨張差や他部材の摺動による剥離のおそれがない金属材料摺動面が形成できる。
【0044】
更に電解加工液などの廃液は生じないので、このような金属材料摺動面形成方法を実行しても環境上の問題が生じない。
請求項18に記載の金属材料摺動面形成方法では、請求項17に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラトー面形成工程は、前記凸部分の先端を研削により除去することを特徴とする。
【0045】
このようにプラトー面形成工程では、凸部分の先端除去は研削により行うことで、凹凸における厚さ方向の中間位置にて、金属材料の表面に平行な一面に揃えられたプラトー面を容易に形成できる。
【0046】
請求項19に記載の金属材料摺動面形成方法では、請求項18に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラトー面形成工程は、前記研削をホーニング加工により行うことを特徴とする。
【0047】
プラトー面形成工程では、ホーニング砥石による研削によりプラトー面を形成することができる。このことにより滑らかなプラトー面を形成できる。このようなプラトー面を摺動面に形成できることにより、凹部分からの潤滑油と共に、他部材の摺動をより円滑なものにでき、他部材との摺動特性が高い金属材料摺動面構造となる。
【0048】
請求項20に記載の金属材料摺動面形成方法では、請求項19に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記ホーニング加工は、弾性ホーニング砥石により行うことを特徴とする。
【0049】
プラトー面形成工程で行うホーニング加工としては、弾性ホーニング砥石を用いて行うことができる。このことにより平滑なプラトー面を有する金属材料摺動面を形成することができる。
【0050】
請求項21に記載の金属材料摺動面形成方法では、請求項17〜20のいずれか一項に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラトー面形成工程は、前記プラトー面を、凹部分の底部からの平均高さが1.0〜20μmの範囲に形成することを特徴とする。
【0051】
プラトー面形成工程にて形成されたプラトー面に対して凹部分の平均深さが1.0μmより浅いと潤滑油の保持性が低下して耐摩耗性が低下する傾向にある。凹部分の平均深さが20μmより深いと潤滑油が必要以上に消費される傾向にある。
【0052】
したがって前記範囲に、凹部分の底部からのプラトー面の平均高さを形成することにより、潤滑油の保持性を高め、潤滑油の消費を抑制できる金属材料摺動面を形成することができる。
【0053】
請求項22に記載の金属材料摺動面形成方法では、請求項17〜21のいずれか一項に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラトー面形成工程は、前記プラトー面を、前記凹凸が形成された領域の全面積において占める面積率を5〜70%として形成することを特徴とする。
【0054】
形成されたプラトー面が占める面積率が5%より低い場合には潤滑油保持には十分であるが潤滑油消費量が高まり、他部材の摺動時でのプラトー面での面圧が過剰となり凸部分の強度低下と摺動特性が悪化する傾向にある。プラトー面が占める面積率が70%より高い場合には潤滑油の保持性が低下して摺動特性が悪化する傾向にある。
【0055】
したがってプラトー面形成工程では、前記面積率でプラトー面を形成することにより、潤滑油保持性、潤滑油消費性、摺動特性が良好な金属材料摺動面を形成することができる。
【0056】
請求項23に記載の金属材料摺動面形成方法では、請求項17〜22のいずれか一項に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラトー面形成工程は、前記プラトー面を、1面当たりの平均面積が5μm2以上として形成することを特徴とする。
【0057】
このようにプラトー面の面積が平均5μm2以上となるように、プラトー面形成工程を実行することにより、特に摺動特性が良好な金属材料摺動面を形成することができる。
請求項24に記載の金属材料摺動面形成方法では、請求項17〜23のいずれか一項に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記金属材料としては、アルミニウム合金を用いることを特徴とする。
【0058】
自動車エンジン等の用途においてはエンジンの軽量化及び熱伝導性の向上のために、アルミニウム合金を金属材料としてシリンダブロックやシリンダライナが形成される。このようなアルミニウム合金においても、前述した金属材料摺動面を形成することにより、廃液処理などを生じることなく潤滑油を十分に保持でき、耐摩耗性等の耐久性を向上させた金属材料摺動面を形成することができる。
【0059】
請求項25に記載の金属材料摺動面形成方法では、請求項24に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記アルミニウム合金はケイ素を含んでいることを特徴とする。
このようにアルミニウム合金がケイ素を含む合金であることにより、プラズマ溶融粗面化工程において、アルミニウム合金内のケイ素の初晶が、プラズマ照射により微細化して凹凸状態の表面層に分散される。このことによりアルミニウム合金自体の高硬度化と共に、微細化ケイ素によって更に表面層の硬度が高くなる。このためプラトー面形成工程により形成されるプラトー面の硬度と滑らかさを更に高めることができる。このため、耐摩耗性が向上し、スカッフ性などの他部材との摺動特性が特に高い金属材料摺動面を形成することができる。
【0060】
請求項26に記載の金属材料摺動面形成方法では、請求項17〜25のいずれか一項に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラズマ溶融粗面化工程は、凝固後の前記凹凸を、硬度が140HV以上の状態で形成することを特徴とする。
【0061】
前述したごとくプラズマ溶融粗面化工程でのプラズマ照射後の瞬間的な凝固によりアルミニウム合金表面の凹凸は高硬度な状態に形成できる。アルミニウム合金の内でも、元の硬度(ビッカース硬度:HV)が低い種類(100〜110HV)であったとしても、140HV以上の凹凸を形成することが容易にできる。このようにプラズマ溶融粗面化工程において凹凸部分の硬度を140HV以上の状態で形成することにより、プラトー面形成工程後には、耐摩耗性等の摺動特性を特に向上させた金属材料摺動面を形成することができる。
【0062】
請求項27に記載の金属材料摺動面形成方法では、請求項26に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラズマ溶融粗面化工程は、凝固後の前記凹凸を、硬度が140〜190HVの範囲で形成することを特徴とする。
【0063】
このようにプラズマ溶融粗面化工程にてアルミニウム合金の凹凸部分の硬度を140〜190HVの範囲で形成することにより、耐摩耗性等の摺動特性を十分に向上させた金属材料摺動面を形成することができる。
【0064】
請求項28に記載の金属材料摺動面形成方法では、請求項17〜27のいずれか一項に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラズマ溶融粗面化工程は、不活性ガスをプラズマ状にして金属材料の表面に照射することを特徴とする。
【0065】
プラズマ溶融粗面化工程では、アルゴンガスや窒素ガスなどと言った不活性ガスを用いてプラズマ照射することにより金属材料の表面に溶融と激しい動揺を生じさせて、高硬度な凹凸を形成することができる。
【0066】
このような凹凸形成処理では、溶射粉末を用いていないので表面の硬化層と金属材料との熱膨張差や他部材の摺動による剥離のおそれがない金属材料摺動面を形成することができる。更にプラズマ溶融粗面化工程では、電解加工液などの廃液は発生しないので金属材料摺動面の形成において環境上の問題は生じない。
【0067】
請求項29に記載の金属材料摺動面形成方法では、請求項17〜28のいずれか一項に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラズマ溶融粗面化工程は、大気をプラズマ状にして金属材料の表面に照射することを特徴とする。
【0068】
プラズマ溶融粗面化工程では、大気を用いてプラズマ照射しても良く、不活性ガスの場合と同様に高硬度な凹凸を有する金属材料摺動面を形成することができる。大気であるのでプラズマ照射装置に貯蔵ボンベは必要なく、大気を吸い込んで用いれば良いので、加工コストが有利な金属材料摺動面形成方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施の形態1のプラズマ溶融装置の概略ブロック図。
【図2】プラズマ溶融粗面化工程後のシリンダボア表面の測定形状をディスプレー上に表示した中間調画像で示す図面代用の写真。
【図3】図2における一断面での凹凸状態を表すグラフ。
【図4】プラトー面形成工程後のシリンダボア表面の測定形状をディスプレー上に表示した中間調画像で示す図面代用の写真。
【図5】図4における一断面での凹凸状態を表すグラフ。
【図6】実施例1のシリンダライナのスカッフ性の測定結果を比較例と共に示すグラフ。
【図7】(a),(b)実施例2のアルミニウム合金の表面状態を示す図面代用の顕微鏡写真と、その一断面での凹凸状態測定グラフ。
【図8】(a),(b)比較例として弾性ホーニング加工のみを実行したアルミニウム合金の表面状態を示す図面代用の顕微鏡写真と、その一断面での凹凸状態測定グラフ。
【図9】(a),(b)比較例としてECM加工を実行したアルミニウム合金の表面状態を示す図面代用の顕微鏡写真と、その一断面での凹凸状態測定グラフ。
【図10】実施例3にて凹部分の深さとスカッフ性との関係を示すグラフ。
【図11】実施例4にてプラトー面の面積率とスカッフ性との関係を示すグラフ。
【図12】実施の形態2にてプラズマ溶融粗面化工程を実行する作業ロボットの概略ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0070】
[実施の形態1]
金属材料摺動面形成方法について説明する。図1は、金属材料摺動面形成方法におけるプラズマ溶融粗面化工程を実行するためのプラズマ照射による表面溶融装置(以下、プラズマ溶融装置と称する)2の概略構成を表すブロック図である。
【0071】
このプラズマ溶融装置2は、直列4気筒内燃機関のシリンダブロック4に一体に形成されたシリンダ5の内面であるシリンダボア6に対してプラズマ照射を実行して表面を溶融及び動揺させて粗面化を実現する装置である。尚、ここで金属材料であるシリンダブロック4(シリンダ5を含む)は、アルミニウム合金製である。例えば、Siを23%含有するハイSiアルミニウム合金、ダイカスト成形に適するSiを10%含有するADC12など、あるいはこれらの中間的な性質のSiを17%含有する高強度高耐摩耗性アルミニウム合金(商品名:A390等)などの各種のアルミニウム合金を用いることができる。
【0072】
図1では、シリンダ5はシリンダブロック4に一体に形成されていたが、別体に形成されたアルミニウム合金製のシリンダライナをシリンダブロック4に鋳込んだものでも良い。
【0073】
プラズマ溶融装置2は、プラズマ発振機8、ガス供給装置10、プラズマ発生器12、プラズマノズル14、及びプラズマヘッド16を備えている。ガス供給装置10は内部に圧縮ポンプを備えて、大気を圧縮して高圧化(0.5〜0.7MPa)し、ガス配管10aを介してシリンダ5毎に備えられた各プラズマ発生器12へ圧縮空気を分配している。例えば4つのプラズマ発生器12のそれぞれに20〜60L(リットル)/分で圧縮空気を分配している。
【0074】
各プラズマ発生器12へは、プラズマ発振機8内に備えられた高周波高電圧装置8aから高周波高電圧が供給されている。プラズマ周波数としては18〜25kHz、その電流量としては6〜20アンペアに調節されている。そして各プラズマ発生器12内の放電により圧縮空気はプラズマ化されて、プラズマノズル14の先端にある照射口14aからシリンダボア6に向けて照射される。
【0075】
プラズマヘッド16は、各プラズマ発生器12とプラズマノズル14とを支持しており、その移動及びプラズマノズル14に対する回転駆動により照射口14aが対向する位置を移動させている。ここではプラズマノズル14をシリンダボア6の軸芯位置に配置して、プラズマ照射時に、軸周りに回転させつつ軸方向に移動させている。ここでは直径75〜90mmのシリンダボア6に対して、3〜10mm(例えば5mm)の距離で照射口14aを配置し、プラズマノズル14を数10rpm(例えば50rpm)で回転させつつ、シリンダボア6の軸方向に1mm前後〜数mm/秒(例えば0.85mm/秒)にて移動させている。このことによりシリンダボア6内でピストンリングにて摺動される領域に対してプラズマ照射してプラズマ溶融粗面化工程を実行している。
【0076】
このプラズマ溶融粗面化工程では、プラズマ照射によりシリンダボア6の表面にプラズマが衝突し、このことにより一瞬にして溶融した表面が激しい動揺を生じる。そして照射位置が移動することにより、シリンダブロック4自身の熱伝導によって溶融状態部分が瞬時に冷却される。この急速な冷却により、シリンダボア6の表面は、凹凸状態を維持したまま凝固して凹凸形状が固定され、粗面化が完了する。特にこの急速冷却により極めて高硬度(ビッカース硬度で140〜190HV)の表面状態にて粗面化された状態となる。
【0077】
このようにプラズマ溶融装置2によりシリンダボア6の表面を溶融及び動揺させて凝固させることによりプラズマ溶融粗面化工程が完了する。このプラズマ溶融粗面化工程完了時でのシリンダボア6の表面形状を測定した結果を、図2の3次元グラフに示す。図3は図2における一断面での凹凸状態を表すグラフである。尚、図2,3はADC12に対してプラズマ溶融粗面化工程を実行して共焦点光学顕微鏡にて測定した表面形状である。
【0078】
図2,3に示されているごとく、プラズマ照射により生じた激しい凹凸状態が凝固して固定されていることが判る。この凹凸の硬度は180HVであり、元のADC12の硬度が100〜110HVであるのに対して高い上昇を示している。
【0079】
次にこのように粗面化されたシリンダボア6に対して、プラトー面形成工程としてホーニング加工にて、凸部分V(図3)の先端を研削により除去して摺動面を形成する。すなわちシリンダボア6に平行であって凹凸における厚さ方向の中間位置に設定した一面まで凸部分Vの先端を除去する。ここでは、例えば凹凸部分の厚さの約1/3(上から)の位置で、凸部分Vの先端を除去するように研削する。
【0080】
ホーニング加工としては、通常のホーニング砥石による仕上げ加工、及び弾性ホーニング砥石による仕上げ加工のいずれでも良いが、ここでは特に弾性ホーニング砥石による弾性ホーニング加工を実行している。
【0081】
このことにより図4に示す3次元グラフ及び図5に示す一断面での凹凸状態グラフのごとく、凸部分Vの先端が平坦となって、金属材料の表面であるシリンダボア6に平行な一面に揃えられたプラトー面Pを形成した状態となる。尚、図4,5は前記図2,3と同様に測定したものである。
【0082】
ここではプラトー面Pは、凹部分Cの底部からの平均高さが1.0〜20μmの範囲に形成されている。すなわち、凹部分Cの平均深さは、プラトー面Pから1.0〜20μmの範囲に存在する。プラトー面Pは、ホーニング加工、特に図4,5では弾性ホーニング加工により形成されているので、特に滑らかな摺動面として形成される。
【0083】
更にプラトー面Pの総面積が凹凸が形成された領域の全面積において占める割合(以下、プラトー面Pの面積率と称する)は、摺動面としての実用上は、後述する実施例4にて説明するごとく5〜70%とされる。すなわち、図5に示すごとく凸部分Vに形成されたプラトー面Pの面積Spの総計Σspと、凹部分の面積Scの総計Σscとの関係が、式1に示すごとくの関係とされる。
【0084】
[式1] 5≦100・Σsp/(Σsp+Σsc)≦70
(実施例1)
アルミニウム合金製シリンダライナ(連続鋳造品、ADC12についてはダイカスト成形でも良い)に対して、そのシリンダボアに上述したごとくのプラズマ溶融粗面化工程及びプラトー面形成工程とを実行してピストンリング摺動面を形成したものに対して、スカッフ性(時間:分)を測定した結果を図6に示す。尚、実施例においては、Ar(アルゴンガス)、N2(窒素ガス)あるいは空気をプラズマ化するガスとして流量20L/分で用いることでプラズマ溶融粗面化工程を実行している。比較例としては、弾性ホーニング加工のみ、弾性ホーニングと通常のプラズマ表面処理との組み合わせ、及びECM処理のみにて摺動面を形成した例を示す。
【0085】
スカッフ性測定は次のように行った。
まず、前述のごとく摺動面を形成したシリンダライナの一部を、テストピースとして、高さ50mm・幅30mmに切り出して、その摺動面に潤滑油(0.13mg/cm2)を塗布する。この摺動面に高さ20mm・幅10mmの窒化リングピースを面圧330MPaで押しつける。この状態で窒化リングピースを上下40mmのストロークで、500サイクル/分で振動させる。そして窒化リングピースがテストピースとの摩擦力増加により停止するまでの振動継続時間を測定する。
【0086】
この測定時間が長いほど、シリンダライナの摺動面が傷つかずに十分な潤滑油膜が形成されて低摩擦状態を維持している状態が長いことを示している。すなわち測定時間が長いほどスカッフ性は高いことになる。
【0087】
本実施の形態による実施例では、いずれのアルミニウム合金でも、長時間の十分なスカッフ性が得られている。全体としてECMの場合よりも高いスカッフ性が得られている。比較例で示したごとく、弾性ホーニング加工のみや、通常のプラズマ表面加工と弾性ホーニング加工との組み合わせでは、スカッフ性が不足であり実用的でない。
【0088】
(実施例2)
本発明の実施例として図7の(a)はアルミニウム合金(ここではADC12)に対して、窒素ガスにて前述したごとくのプラズマ溶融粗面化工程と弾性ホーニングによるプラトー面形成工程とを実行した場合の表面状態を示す顕微鏡写真、(b)はその一断面での凹凸状態測定グラフである。
【0089】
比較例として示す図8の(a)は同一金属材料に対して弾性ホーニング加工のみを実行した場合の表面状態を示す顕微鏡写真、(b)はその一断面での凹凸状態測定グラフである。同じく比較例として示す図9の(a)は同一金属材料に対してECM加工を実行した場合の表面状態を示す顕微鏡写真、(b)はその一断面での凹凸状態測定グラフである。
【0090】
図7に示した実施例では、凹部分が十分に深く、オイルピットとしての機能が高い。これと共に個々のプラトー面P(写真では白い島状部分)が十分に広く、図9のECM加工による比較例と比較しても面積的には10倍以上に達し、表面もSi結晶が突出せずにプラズマ溶融粗面化工程で超微細化されたものがプラトー面P下に存在している。しかも硬度は、元の硬度(100〜110HV)から加工後に上昇して、140〜190HVに達する。実測では180HVとなっている。このことによりピストンリングとの摩擦による摩耗粉発生が抑制できる。更にプラトー面Pが広いことにより、ピストンリング摩擦時の面圧が低下し、十分に深い凹部分から供給される潤滑油の油膜も厚膜化する。したがって耐摩耗性が十分に高くなっている。実際に図7のテストピースではスカッフ性の実測値は40分間を越えている。
【0091】
図8に示した弾性ホーニング加工のみでは凹部は十分に深く形成できず、ほとんど潤滑油の保持能力がない。しかも硬度も上昇していないし、表面もSi結晶が突出している。このため耐摩耗性は低い。実際に図8のテストピースではスカッフ性の実測値は0.75分間であり、非常に低い。
【0092】
図9に示したECM加工を実行した場合は、或る程度の深さで凹部分を形成できるが、硬度は上昇せず、凸部分の先端のプラトー面が非常に小さくなり、耐摩耗性は不十分である。表面はSi結晶が突出している。しかも廃液が生じる加工であり環境上の問題も生じる。実際に図9のテストピースではスカッフ性の実測値は5.75分間であり図7のテストピースに比較して可成り短い。
【0093】
このように本実施の形態による金属材料摺動面構造は、溶射被膜を形成することなく金属材料の表面(ここではシリンダボア)に硬化層を形成できると共に、凹部分が十分に深くでき潤滑油を十分に保持できる。しかも廃液処理などの環境上の問題を生じることはない。
【0094】
したがって金属材料としてアルミニウム合金材料を用いても、耐摩耗性が非常に高いシリンダボアを形成でき、内燃機関のシリンダブロックやシリンダライナに用いても十分に実用可能なものとなる。このことにより内燃機関の更なる軽量化が可能となって、燃費を向上させることに貢献できる。
【0095】
(実施例3)
プラズマ溶融粗面化工程とプラトー面形成工程とを、その条件(ここではプラズマ化する窒素ガスの圧力と流量)を種々変更して実行し、凹部分の深さ(プラトー面Pの高さと同じ)が種々異なるアルミニウム合金(ADC12)のテストピースを作成した。ただしプラトー面の平均面積については5μm2(平方マイクロメートル)で、かつプラトー面の面積率は15%に揃えて作成した。このテストピースについてスカッフ性を測定した結果を図10に示す。
【0096】
凹部分深さが1.0μm未満では、急速にスカッフ性が低下する傾向にあり、20μmを越えると潤滑油消費量が増加する傾向にある。したがって実用上は、凹部分深さが1.0〜20μmの範囲が望ましい。
【0097】
(実施例4)
プラズマ溶融粗面化工程とプラトー面形成工程とを、その条件(ここではプラズマ化する窒素ガスの圧力と流量)を種々変更して実行し、プラトー面の面積率が種々異なるアルミニウム合金(ADC12)のテストピースを作成した。ただし凹部分の平均深さ(プラトー面Pの高さと同じ)は10μmで、プラトー面の平均面積については5μm2に揃えて作成した。このテストピースについてスカッフ性を測定した結果を図11に示す。
【0098】
プラトー面の面積率が5%未満ではピストンリングとの面圧上昇により接触応力が増大してスカッフ性が低下する傾向にあり、70%を越えると潤滑油の保持性が低下してプラトー面に十分に潤滑油が回らず、スカッフ性が低下する傾向にある。したがって実用上は、前記式1に示したごとく、プラトー面の面積率は5〜70%の範囲が望ましい。
【0099】
[実施の形態2]
図12に、金属材料摺動面形成方法を実行して金属材料としてのワーク50の表面を前述した各実施の形態のごとくに加工して摺動面を形成する作業ロボット52の例を示す。尚、ワーク50としては内燃機関のシリンダブロックやシリンダライナでも良く、他の摺動部に用いられる金属材料、例えばコンロッド、クランク軸受、カム軸受等の軸受等でも良い。又、金属材料自体もアルミニウム合金に限らず、鋳鉄などのその他の金属による合金にも適用できる。
【0100】
作業ロボット52はアーム54の先端にプラズマノズル56を取り付けている。
その照射口56aからは作業台58上に配置されたワーク50の加工対象表面50aにプラズマ照射がなされることにより、プラズマ溶融粗面化工程が実行されて、図2,3に示したごとくの高硬度化した凹凸形状の表面が形成される。
【0101】
ここでプラズマノズル56へはアーム54に取り付けられた高周波高電圧装置60からプラズマ周波数18kHzにて高電圧電流が供給され、更に窒素ボンベ62から圧力0.52〜0.53MPaの圧縮窒素ガスが流量20リットル/分で供給されている。このことによりプラズマノズル56内に設けられているプラズマ発生器にて窒素ガスがプラズマ化されて、照射口56aから照射される。尚、高周波高電圧装置60から供給されるプラズマ周波数、電圧、電流量はプラズマ溶融装置本体64により制御されている。同時に作業ロボット52の作業動作及び作業台58の移動もプラズマ溶融装置本体64により制御されている。
【0102】
例えば、ワーク50が内燃機関のシリンダライナである場合には、その内周面であるシリンダボアに対して、照射口56aとの距離が5mm、プラズマノズル56との間の相対回転数が50rpm、プラズマノズル56のシリンダライナの軸方向相対移動速度が0.85mm/秒にて移動させてプラズマ溶融粗面化工程が実行される。
【0103】
尚、プラズマ周波数、電圧、電流量、ガス圧力、流量などの調節要素により凹凸形状及び硬度を所望の範囲に調節するが、全ての調節要素を調節する必要はなく、特にガス圧力、流量により実用的な範囲で十分に調節は可能である。
【0104】
作業ロボット52によるプラズマ溶融粗面化工程の完了後は、シリンダボアには図2,3に示したごとくの凹凸を有して高硬度化された表面が形成されているので、別途、弾性ホーニング加工を実行するロボットの作業位置に作業台58を移動させて、プラトー面形成工程として弾性ホーニングによる鏡面仕上げ加工を実行する。
【0105】
このことにより図4,5,7に示したごとくプラトー面Pが形成されたシリンダボアを形成できる。このことにより前記実施の形態1に示したごとくの効果が得られる。
[その他の実施の形態]
・前記実施の形態1の実施例2〜4については、アルミニウム合金としてADC12を用いたが、Siを23%含有するハイSiアルミニウム合金、Siを17%含有する高強度高耐摩耗性アルミニウム合金等の各種のアルミニウム合金を用いても良く、耐摩耗性の高さが更に顕著なものとなる。
【符号の説明】
【0106】
2…プラズマ溶融装置(表面溶融装置)、4…シリンダブロック、5…シリンダ、6…シリンダボア、8…プラズマ発振機、8a…高周波高電圧装置、10…ガス供給装置、10a…ガス配管、12…プラズマ発生器、14…プラズマノズル、14a…照射口、16…プラズマヘッド、50…ワーク、50a…加工対象表面、52…作業ロボット、54…アーム、56…プラズマノズル、56a…照射口、58…作業台、60…高周波高電圧装置、62…窒素ボンベ、64…プラズマ溶融装置本体、C…凹部分、P…プラトー面、V…凸部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の表面に形成された凹凸の内で凸部分の先端が除去されていることにより金属材料の表面に平行な一面に揃えられたプラトー面を形成している摺動面構造であって、
前記凸部分の先端が除去される前の前記凹凸は、金属材料の表面に対してプラズマ照射による溶融がなされたことにより形成されたものであることを特徴とする金属材料摺動面構造。
【請求項2】
請求項1に記載の金属材料摺動面構造において、前記凸部分の先端の除去は、プラズマ照射後に研削によりなされたものであることを特徴とする金属材料摺動面構造。
【請求項3】
請求項2に記載の金属材料摺動面構造において、前記凸部分の先端の除去は、ホーニング加工により形成されたものであることを特徴とする金属材料摺動面構造。
【請求項4】
請求項3に記載の金属材料摺動面構造において、前記ホーニング加工は、弾性ホーニング砥石により行われたものであることを特徴とする金属材料摺動面構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属材料摺動面構造において、前記凹凸の内で凹部分の平均深さは、前記プラトー面から1.0〜20μmの範囲に存在することを特徴とする金属材料摺動面構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属材料摺動面構造において、前記凹凸が形成された領域の全面積における前記プラトー面の占める面積率が5〜70%であることを特徴とする金属材料摺動面構造。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属材料摺動面構造において、前記プラトー面の1面当たりの平均面積が5μm2以上であることを特徴とする金属材料摺動面構造。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属材料摺動面構造において、前記金属材料はアルミニウム合金であることを特徴とする金属材料摺動面構造。
【請求項9】
請求項8に記載の金属材料摺動面構造において、前記アルミニウム合金はケイ素を含んでいることを特徴とする金属材料摺動面構造。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の金属材料摺動面構造において、前記凹凸はプラズマ照射により硬度が140HV以上の状態で形成されているものであることを特徴とする金属材料摺動面構造。
【請求項11】
請求項10に記載の金属材料摺動面構造において、前記凹凸はプラズマ照射により硬度が140〜190HVの範囲で形成されているものであることを特徴とする金属材料摺動面構造。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の金属材料摺動面構造において、前記プラズマ照射による溶融は、不活性ガスをプラズマ状にして金属材料の表面に照射したことにより行われたことを特徴とする金属材料摺動面構造。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の金属材料摺動面構造において、前記プラズマ照射による溶融は、大気をプラズマ状にして金属材料の表面に照射したことにより行われたことを特徴とする金属材料摺動面構造。
【請求項14】
内周面を、請求項1〜13のいずれか一項に記載の金属材料摺動面構造としたことを特徴とする内燃機関用シリンダ。
【請求項15】
請求項14に記載の内燃機関用シリンダにおいて、シリンダライナとして形成されていることを特徴とする内燃機関用シリンダ。
【請求項16】
請求項14に記載の内燃機関用シリンダにおいて、シリンダブロックと一体に形成されていることを特徴とする内燃機関用シリンダ。
【請求項17】
金属材料の表面をプラズマ照射により溶融及び動揺させることで凹凸を前記表面に形成して凝固させるプラズマ溶融粗面化工程と、
前記プラズマ溶融粗面化工程後に、金属材料の表面に平行であって前記凹凸における厚さ方向の中間位置に設定した一面まで凸部分の先端を除去して、凸部分の先端にプラトー面を形成するプラトー面形成工程と、
を実行することを特徴とする金属材料摺動面形成方法。
【請求項18】
請求項17に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラトー面形成工程は、前記凸部分の先端を研削により除去することを特徴とする金属材料摺動面形成方法。
【請求項19】
請求項18に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラトー面形成工程は、前記研削をホーニング加工により行うことを特徴とする金属材料摺動面形成方法。
【請求項20】
請求項19に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記ホーニング加工は、弾性ホーニング砥石により行うことを特徴とする金属材料摺動面形成方法。
【請求項21】
請求項17〜20のいずれか一項に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラトー面形成工程は、前記プラトー面を、凹部分の底部からの平均高さが1.0〜20μmの範囲に形成することを特徴とする金属材料摺動面形成方法。
【請求項22】
請求項17〜21のいずれか一項に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラトー面形成工程は、前記プラトー面を、前記凹凸が形成された領域の全面積において占める面積率を5〜70%として形成することを特徴とする金属材料摺動面形成方法。
【請求項23】
請求項17〜22のいずれか一項に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラトー面形成工程は、前記プラトー面を、1面当たりの平均面積が5μm2以上として形成することを特徴とする金属材料摺動面形成方法。
【請求項24】
請求項17〜23のいずれか一項に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記金属材料としては、アルミニウム合金を用いることを特徴とする金属材料摺動面形成方法。
【請求項25】
請求項24に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記アルミニウム合金はケイ素を含んでいることを特徴とする金属材料摺動面形成方法。
【請求項26】
請求項17〜25のいずれか一項に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラズマ溶融粗面化工程は、凝固後の前記凹凸を、硬度が140HV以上の状態で形成することを特徴とする金属材料摺動面形成方法。
【請求項27】
請求項26に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラズマ溶融粗面化工程は、凝固後の前記凹凸を、硬度が140〜190HVの範囲で形成することを特徴とする金属材料摺動面形成方法。
【請求項28】
請求項17〜27のいずれか一項に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラズマ溶融粗面化工程は、不活性ガスをプラズマ状にして金属材料の表面に照射することを特徴とする金属材料摺動面形成方法。
【請求項29】
請求項17〜28のいずれか一項に記載の金属材料摺動面形成方法において、前記プラズマ溶融粗面化工程は、大気をプラズマ状にして金属材料の表面に照射することを特徴とする金属材料摺動面形成方法。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−17277(P2011−17277A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162026(P2009−162026)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】