説明

鉄道車両用蓄電池制御システム

【課題】蓄電池の電池容量の検出精度を向上する。
【解決手段】充放電可能な蓄電池と、電力変換器を有する鉄道車両用の蓄電池制御システムにおいて、力行運転中の蓄電池からの放電量、あるいは制動運転中の蓄電池への充電量に基づいて、充放電される電荷量を演算し、非充放電期間である、惰行運転期間あるいは停車期間において、所定の緩和時間経過後に、蓄電池の端子開放電圧を求める。そして、充放電される電荷量と蓄電池の充放電前後の充電率の変化とに基づいて、電池の容量を演算することにより、電池容量を演算する機会を増やすとともに、その精度を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池を搭載する鉄道車両用の蓄電池制御システムに関する
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギ効率改善の観点から、鉄道車両にリチウムイオン電池などの蓄電池を搭載し、回生ブレーキ時にモーターから得られる電力を蓄電池に蓄積して、力行時に再利用することで、消費電力を低減する技術の開発が活発に行われている。
このリチウムイオン電池は、充放電の繰り返しに伴う劣化により容量が減少し、蓄えられる電力量が減少するため、鉄道車両の力行時に必要な放電量、制動時に回生される充電量が減少することになり、消費電力の低減効果が減少する。そのため、電池の正確な容量を把握し、それをもとに電池の交換時期を決定する必要がある。
【0003】
電池の容量は、充放電される電池の電荷量(これを充放電電荷量と呼ぶ)と、充放電前後の電池の充電率SOC(State Of Charge)の変化から算出できる。
充放電電荷量は所定の充放電動作期間中の電流を積分して求めることができる。
一方SOCは、端子開放電圧OCV(Open Circuit Voltage)と相関関係があり、OCVを測ることでSOCを求めることができる。
【0004】
この相関関係は電池の劣化によってはほとんど変化しないことから、OCVを測ることで電池の劣化状態によらず正確にSOCを推定することができる。ただし、蓄電池の端子電圧は充放電終了後、OCVに戻るまでに、充放電が行われない所定の緩和時間が必要であり、正確に電圧を測定するためには充放電が止まってから所定の緩和時間が経過した後に電圧を測定しなければならない。
【0005】
そこで、特許文献1及び2においては、電池の充放電電流を観測し、電池に対し充放電されない状態が所定の緩和時間以上継続する非充放電期間を検出することで、電池のOCVの測定を可能とし、充放電前後のSOCの差と充放電中に蓄えられた電荷量の変化から、電池の容量を求めることを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−068369号公報
【特許文献2】特開2003−224901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、実際には、ハイブリッド自動車等の自動車用途においては、加減速等に伴い、短時間の充放電が絶えず繰り返されるため、緩和時間以上の非充放電期間を確保することが難しく、現実的には車両の運行前後の車庫での待機時しか電圧を測定できない。
このため、容量算出のため充放電電荷量を算出する際、充放電動作期間中の電流積分は一日の運行開始から運行終了までの全期間で実施しなければならず、長時間の積分が必要になることから、測定器や積分器の誤差などの影響が大きくなり、精度良く容量を推定できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、一般的な鉄道車両の運行パターンは、駅停車、力行、惰行、制動の4つから構成されることに注目した。
すなわち、現停車駅から次の停車駅までの鉄道の運行は、例えば電車の場合、発車時に架線からモーターに給電することにより所定の速度となるまで力行(加速)させ、所定の速度に達したら、モーターへの給電を停止して、鉄道車両の巨大な慣性質量及び車輪−線路間の低転がり摩擦を利用して、惰行運転を行う。そして、次の停車駅に近づいた段階で、制動(モータによる回生ブレーキ)を開始して鉄道車両を制動し、次の停車駅で停車させる。その後、所定の停車時間を経て、さらに次の停車駅に向けて力行を開始するというパターンを採る。
【0009】
こうした運行パターンのうち、蓄電池に対し充電と放電が行われるのは、駅を出発し加速する力行(放電)と、駅に停車するためにブレーキをかける制動(充電)の時のみであり、それ以外の駅停車と惰行の期間は蓄電池になんらの充電も放電も行われない非充放電期間となる。この非充放電期間は、通常の運行では、緩和時間として十分なものを確保することができ、しかも、その直前の力行運転時の放電期間、あるいは、制動運転時の回生に伴う充電期間はある程度限定された期間であり、充放電動作期間中の電流積分についても、測定器や積分器の誤差などの影響を最小限にとどめることができる。
【0010】
また、このような運転状態の変移は、運転士がマスコンを操作することにより、駅停車から力行、惰行そして制動に移行するため、検出が容易である。
そこで、現駅に停車してから次駅に向けて力行運転を開始する直前までの期間、そして力行運転を終了してから制動が開始するまでの惰行運転期間の非充放電期間に、蓄電池の電圧を測定することで、開放電圧の測定機会を増やすことで、容量検出の精度を向上させることができる。
これにより、鉄道用途における駅停車時や惰行中の短時間の非充放電期間でのSOCの算出が可能となり、運航中の容量算出を実現させる。
【0011】
より具体的には、本発明の鉄道車両用蓄電池制御システムにおいては、次のような技術的手段を講じた。
(1)充放電可能な蓄電池と、電力変換器を有する鉄道車両用の蓄電池制御システムにおいて、力行運転中の前記蓄電池からの放電量、あるいは制動運転中の前記蓄電池への充電量に基づいて、充放電される電荷量を演算する電荷量演算手段と、非充放電期間である、惰行運転期間あるいは停車期間において、所定の緩和時間経過後に、前記蓄電池の端子開放電圧を求めて、前記蓄電池の充放電前後の充電率の変化を演算する充電率演算手段と、前記電荷量演算手段と充電率演算手段の演算結果に基づいて、電池の容量を演算する容量演算手段とを具備した。
【0012】
(2)上記の蓄電池制御システムにおいて、前記緩和時間の経過を、前記蓄電池の電圧に基づいて判定するようにした。
【0013】
(3)上記の蓄電池制御システムにおいて、前記惰行運転期間あるいは前記停車期間が所定の時間以上継続して前記緩和時間が経過した後に、力行指令が出力された際、前記充電率演算手段が力行開始時の充電率を演算し、力行中に前記電荷量演算手段が前記蓄電池からの放電電流を積算した電流積算値を演算するとともに、力行終了後に惰行運転が所定の時間以上継続し前記緩和時間が経過した後に、次の力行指令あるいは制動指令が出力されると、前記蓄電池の力行終了時の充電率を演算し、前記電流積算値と、前記力行終了時の充電率と前記力行開始時の充電率との差に基づいて、前記蓄電池の容量を求めるようにした。
【0014】
(4)上記の蓄電池制御システムにおいて、前記惰行運転期間が所定の時間以上継続して前記緩和時間が経過した後に、制動指令が出力されると、前記充電率演算手段が制動開始時の充電率を求め、制動中は、前記蓄電池に充電される充電電流を積算した電流積算値を求めるとともに、制動終了後、惰行運転期間あるいは停車期間が所定の時間以上継続して前記緩和時間が経過した後に、力行指令または次の制動指令が出力されると、前記充電率演算手段が制動終了時の充電率を求め、前記電流積算値と、前記制動終了時の充電率と前記制動開始時の充電率の差から、前記蓄電池の容量を求めるようにした。
【0015】
(5)上記の蓄電池制御システムにおいて、前記鉄道車両が、運転手が操作し、前記電力変換器に力行及び制動の指令を出すマスコンを有し、該マスコンの操作に基づいて、前記力行運転、制動運転及び非充放電期間である惰行運転期間あるいは停車期間を判定するようにした。
【0016】
(6)上記の蓄電池制御システムにおいて、前記マスコンの操作に基づいて、前記容量演算手段により前記蓄電池の容量を演算し、前記力行運転あるいは制動運転を開始するようにした。
【0017】
(7)上記の蓄電池制御システムにおいて、非充放電期間である、前記惰行運転期間あるいは前記停車期間が前記緩和時間より短い場合には、前記充電率演算手段による前記蓄電池の電圧の測定をスキップするようにした。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、力行運転中の蓄電池からの放電量、あるいは制動運転中の蓄電池への充電量に基づいて、充放電される電荷量を演算するとともに、非充放電期間である、惰行運転期間あるいは停車期間を利用して、緩和時間経過後に、蓄電池の端子開放電圧を求めて、蓄電池の充放電前後の充電率の変化を演算し、演算された電荷量と充電率演算に基づいて、電池の容量を演算することができるので、鉄道車両独特の運行パターンに即して緩和時間を最適化でき、蓄電池の容量を算出する機会を増やし、かつ、長時間の電流積算を不要として容量の算出精度を向上できる。これにより正確に蓄電池の交換時期を知ることができるようになり、電池劣化による省エネ効果の減少を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る電池制御システム1000のブロック図である。
【図2】蓄電池を充放電した際の電圧の推移を表すグラフである。
【図3】蓄電池への電圧と緩和時間の関係を表すグラフである。
【図4】蓄電池の電圧と充電率の関係を表すグラフである。
【図5】鉄道用途における、時間と速度及び充放電電流の推移を表すグラフである。
【図6】本発明に係る電池制御システム1000の第二のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて、本発明に関わる蓄電池の劣化推定方式の実施の形態について説明する。
【実施例】
【0021】
図1に電池制御システム1000の構成図を示す。
電池制御システム1000は、電池システム1と電池制御装置2、充放電装置3及び、運転制御装置40から構成され、電池システム1と電池制御装置2は、信号線104により接続されている。
また、充放電装置3は、電池システム1に対して、電力の充放電を行い、例えばインバータや発電機などからなる。運転制御装置40は、運転手が操作するマスコン41を具備し、このマスコン41からの指令により鉄道車両の力行(加速)、惰行、制動(回生)、停止が制御される。
【0022】
電池システム1は、電池10とセンサ100からなる。また、センサ100は、電流センサ101と、電圧センサ102と、温度センサ103とから構成される。電流センサ10は電池10を流れる電流を、電圧センサ102は電池10の電圧を、温度センサ103は電池10の温度をそれぞれ検出し、アナログ信号として出力する。
【0023】
電池制御装置2は、A/D変換器21と電池状態推定装置20から構成される。A/D変換器21は、センサ100からのアナログ信号を電池状態推定装置20で処理できるように、ディジタル信号に変換する。なお、A/D変換器21は電池システム1側に置き、アナログ信号をディジタル信号に変換して、電池制御装置2に送る構成でもよい。電池状態推定装置20は、緩和判定手段201、充電状態推定手段202、電流積算手段203、及び劣化推定装置204とから構成される。
【0024】
緩和判定手段201は、A/D変換器21を介して、センサ100からの検出信号をもとに、電池10が非通電状態に入ってから電池10の電圧が安定したかを判定し、その緩和終了信号を、充電状態推定手段202、電流積算手段203に対し出力する。
【0025】
充電状態推定手段202は、緩和判定手段201からの緩和終了信号を受けた状態で、マスコン41より、力行開始、または、制動開始の信号が出るのを検出すると、電池10の電圧から充電率(SOC)を求める。また、電流積算手段203は、力行及び制動中に電池10を流れる電流を積算し、電池10に充放電された電荷量の変化を算出する。最後に、劣化推定装置204は、充電状態推定手段202からのSOC情報と、電流積算手段203からの電荷量の変化の情報から、電池10の容量を推定する手段である。
【0026】
ここで、今回電池10として使用するリチウムイオン電池の特性について説明する。
図2に、電池10に対して、一定電流で充電及び放電した時の電池10の電圧の変化を示す。横軸が時間で、縦軸が電池10の端子間電圧である。
図2(a)は充電期間終了後の電池10の端子間電圧の変化を、そして、図2(b)は放電期間終了後の電池10の端子間電圧の変化を示し、電池10の端子間電圧は、充放電終了後、ある時定数を持って安定した電圧である開放電圧:OCV(Open Circuit Voltage)に戻っていくことが知られている。
【0027】
この電池10の電圧Vと開放電圧のOCVとの差をΔV(t)とすると、リチウムイオン電池においては、この充放電終了直後の電圧と、開放電圧と差ΔV(0)は、電池10の温度が低いほど、また、充放電時の電流または充放電電力量が多いほど大きくなる性質がある。なお、この充放電終了から開放電圧OCVに戻るまでの時間を緩和時間とする。
例えば、この緩和時間は電池10の温度に変化するが、一般的には、30秒〜1分を確保する必要がある。
【0028】
図3は、充放電終了直後からの時間、縦軸が電池10の電圧Vとし、電池10の電圧Vと開放電圧OCVとの差であるΔV(t)の変化を示したグラフである。
緩和時間Ttrは、ΔV(t)が、初期の電圧差ΔV(0)の所定の比率α(例えば1%)となるまでの時間、または、予め定められた時間Δt内のΔV(t)の変化が、予め定められた閾値ΔVthになるまでの時間とする。
すなわち、
【数1】

または、
【数2】

を満たす時間Ttrを緩和時間とする。
【0029】
図4は、横軸に充電率(SOC)、縦軸に開放電圧OCVを取り、OCVとSOCとの相関関係を示したグラフである。
充電率SOCは、次式のように定義されており、電池10が完全に放電した状態がSOC=0%、完全に充電した状態がSOC=100%となる。なお、このOCVとSOCとの相関関係は、温度や劣化によりほとんど変化しないことが知られている。
SOC(%)=電池10に蓄えられている電荷量(Ah)
÷電池10に蓄えられる総電荷量(Ah)×100
この電池10に蓄えられる総電荷量を電池10の容量Qとする。容量Qは劣化により減少していくため、この容量を検出することで電池10の劣化状態を把握できる。
【0030】
以下、図5を用いて、本電池状態推定装置20により、電池10の容量Qを推定する流れを説明する。
図5は、鉄道の運行パターンを示しており、駅停車(t〜t)、力行(t〜t)、惰行(t〜t)、制動(t〜t)から構成され、tで再び次駅での駅停車に戻る。
横軸が時刻(時間)、縦軸が電池10への充放電電流I、電池10の端子間の電圧V、電池10の充電率SOCであり、電池10に対し充放電電流Iを流した際の電圧V及びSOCの推移を示している。
【0031】
電池10に対して、力行(t〜t)が放電、制動(t〜t)が充電となる。それ以外の駅停車(t〜t)と惰行(t〜t)が充放電されない非充放電期間となり、この期間が緩和時間となる。
(1)駅停車(t〜t)時、緩和判定手段201は電流センサ101、電圧センサ102、温度センサ103からA/D変換器21を介して、電池10の電流・電圧・温度情報を入手・観測し、蓄電池10の電圧変化ΔVを監視する。緩和判定手段201が、この電圧変化ΔVが式(1)を満たすのを確認すると、緩和終了信号を充電状態推定手段202と電流積算手段203に伝える。
【0032】
(2)時刻tにおいて、マスコン41のノッチが入り、力行指令が出ると、力行のための放電を開始する直前に、充電状態推定手段202は、電圧センサ102より電池10の電圧を入手し、図4に示す電池10の電圧と充電率(SOC)との関係から、SOC(=SOC(t))を求め、劣化推定装置204に出力する。
また、電流積算手段203は、緩和判定手段201から緩和終了信号を受け、電流積算値をリセットする。
【0033】
(3)次に、力行時のt〜t間において、電池10に対する放電が行われる。このときの充放電電流をI(t)とする。なお、充放電電流I(t)は充電が正、放電を負とする。
電流積算手段203は時刻t〜t間の充放電電流I(t)を積算し、電池10に蓄えられた電荷量の変化Δqを求め、劣化推定装置204に出力する。次の式(3)にΔqの算出式を示す。
【数3】

【0034】
(4)時刻tで、マスコン41のノッチがオフされ、惰行に入ると、図5に示すように電池10の電圧Vは、徐々に開放電圧に戻る。緩和判定手段201は、電池10の電流・電圧・温度の観測し、蓄電池10の電圧変化ΔVの監視を開始する。
【0035】
(5)時刻tでマスコン41のノッチが入り、制動指令が出ると、1)と同様に、充電状態推定手段202は、電池10の電圧から、SOC(=SOC(t))を求める。
劣化推定装置204は、充電状態推定手段202より入手した通電期間前後のSOCであるSOCとSOC及び、電流積算手段203で算出した電池10に蓄えられた電荷量の変化Δqより、電池10の容量Qを求める。これは、時刻tでの電池10に蓄えられた電荷量をq、時刻tに蓄えられた電荷量をqとすると、式(1)に示すように充電率SOCは、蓄えられた電荷量と容量の比となることから、SOCとSOCは、式(4)、(5)に示す式で表わされる。
【数4】

【数5】

【0036】
また、Δq=q−qとなることから、式(3)〜式(5)を用いて、SOC,SOC、Δqの関係式は式(6)に示すとおりとなる。
【数6】

この式(6)を容量Qについて解いた式が次の式(7)となり、これが容量Qを求める式となる。
また、式(8)に容量の劣化度SOHを求める式を示す。なお、Qは電池10の初期容量である。
【数7】

【数8】

【0037】
(6)制動時のt〜t間において、電池10に対し充電が行われる。(3)と同様に、電流積算手段203は時刻t〜t間の充放電電流I(t)を積算し、電池10に蓄えられた電荷量の変化Δq’を求め、劣化推定装置204に出力する。
【0038】
(7)時刻tで駅に到着しマスコン41のノッチがオフされ、車両が駅に停車すると、(4)と同様に、電池10の電池Vは、徐々に開放電圧に戻る。緩和判定手段201は、電池10の電流・電圧・温度の観測し、蓄電池10の電圧変化ΔVの監視を開始する。
【0039】
(8)時刻t5で、マスコン41のノッチが入り、力行指令が出ると、(4)と同様に、充電状態推定手段202は、電池10の電圧からSOC(=SOC(t))を求め、劣化推定装置204は、充電状態202より入手したSOCBとSOCC及び電流積算手段203で算出したΔq’により、電池10の容量Qを求める。
なお、(5)において、惰行時間(t〜t)が短く、電池10の緩和時間が取れなかった場合には、SOC(t)とSOC(t)とt〜t間の電流積算値Δqを用いて、電池10の容量Qを求める。なお、t〜tの場合は、力行時の放電と、制動時の充電が含まれているため、SOCの差やΔqが所定の値以下の場合には、誤差の影響を考慮し、計算を行わない。
【0040】
また、走行中に複数の惰行が含まれ、各惰行期間において、緩和時間を十分に確保できる場合には、2つの惰行間の力行または制動に対して、上記ステップを実行することで、電池10の容量Qを求めることができ、電池劣化の推定を高頻度で行うことができる。
また、マスコン41からのノッチ(力行、制動)指令のほかに、運転制御装置40に自動運転時モードがあり、自動運転モード時に、運転制御装置40がノッチ(力行、制動)指令を出力してもよい。
【0041】
図9にもう一つの実施例を示す。
先の実施例との相違は、電池10が組電池11の直列接続により構成されている点にある。
電池制御システム1000は、電池システム1と電池制御装置2、充放電手段3から構成され、電池システム1と電池制御装置2は、信号線104により接続されている。
また、充放電手段3は、電池システム1に対して、電力の充放電を行い、例えばインバータや発電機などからなる。
【0042】
電池システム1は、組電池10とセンサ100からなる。組電池10は、複数の単電池11を直列に接続された構成である。また、センサ100は、電流センサ101と、電圧センサ102と、温度センサ103と、電圧センサ群110から構成される。電流センサ101は、組電池10を流れる電流を、電圧センサ102は、組電池10の総電圧を、温度センサ103は、組電池10を構成する単電池11の温度を測定する。なお、温度センサ103は、各単電池11のうち最も高い温度または、それが推測できるように組電池10に設置されている。
【0043】
また、電圧センサ群110は、各単電池11の電圧を測定し、その結果をディジタル化して通信に送る。この方法については特開2005−318750号公報などに記載されているため、詳細は記載しない。この方式を採用することにより、複数の電圧センサ12からの単電池11の電圧情報を通信により入手することで、蓄電池1と蓄電池制御装置2とを接続する信号線104の本数を削減することができる。
【0044】
電池制御装置2は、A/D変換器21と電池状態推定装置20及び通信装置22から構成される。A/D変換器21は、センサ100からのアナログ信号を周期τでサンプリングし、ディジタル化する。電池状態推定装置20は、緩和判定手段201、充電状態推定手段202、電流積算手段203、及び劣化推定装置204とから構成される。
【0045】
また、通信装置22は、電圧センサ群110から一定周期で送信される単電池11の電圧データを受信し、電池状態推定装置20に出力する。なお、センサ100に含まれる全センサのディジタルデータを、通信装置22を介して入手してもよい。
本構成においては、単電池11は直列に接続されているため、各単電池11を流れる充放電電流は、電流センサ101より入手することができる。また、緩和判定手段201は、電圧センサ群101からの各単電池11の電圧と、電流センサ101からの充放電電流情報を観測し、全単電池11の電圧が安定する緩和時間を決定する。
【0046】
充電状態推定手段202は、緩和判定手段201からの電圧安定判定結果をもとに、電圧センサ群110から入手した各単電池11の電圧から、各単電池11のSOCを算出する。
電流積算手段203は、電流センサ101から入手した充放電電流を積算するとともに、劣化推定装置204は、充電状態推定手段202からの各単電池11の差と電流積算手段203の電流積算値から、各単電池11の容量Qを求める。
この容量の求め方は、図5に示す内容と同じである。
【0047】
なお、以上の実施例では、マスコン41の操作に基づいて、力行運転、惰行運転、回生を伴う減速運転、停車状態を検出するようにしたが、自動運転システムにおける運転指令やATO(Automatic Train Operation system:自動列車運転システム)信号に基づいて、こうした運転状態を識別することも可能である。
すなわち、ATOを用いたシステムは、速度制限を行うATC(Automatic Train Control system:自動列車制御システム)を発展させたものであり、線路上におかれたATO地上装置と通信し、列車の発進、減速、及び停止位置の情報を入力、車両に搭載されたATO車上装置が、力行、惰行、回生運転を指令することにより、自動運転を実現する。
ATOを用いたシステムでは、列車の発進指令を受信すると、ATCにより指定された速度まで力行運転を行い、その後、定速運転に入る。次の停車駅に近付くと、線路上にATO地上装置が置かれており、その情報から、次の停車駅までの距離を入手し、この距離と現在の速度に基づいて、ブレーキ制御を行い、指定された位置に停車する。
このように、ATOを用いたシステムにおいても、ATO車上装置から出力された運転指令をもとに、力行運転、惰行運転、回生を伴う減速運転を識別することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように、本発明によれば、力行運転中の蓄電池からの放電量、あるいは制動運転中の蓄電池への充電量に基づいて、充放電される電荷量を演算するとともに、非充放電期間である、惰行運転期間あるいは停車期間を利用して、緩和時間経過後に、蓄電池の端子開放電圧を求めて、蓄電池の充放電前後の充電率の変化を演算し、演算された電荷量と充電率演算に基づいて、電池の容量を演算することができるので、鉄道車両独特の運行パターンに即して緩和時間を最適化でき、蓄電池の容量を算出する機会を増やし、かつ、長時間の電流積算を不要として容量の算出精度を向上できる。
こうした蓄電池搭載型鉄道車両は、省エネルギの観点から今後幅広い導入が予想されているが、本発明によれば、高価な蓄電池の交換時期を正確に認知できることから、蓄電池の最大限の有効活用とともに、的確な保守を実現できる蓄電池制御システムとして広く利用されることが期待される。
【符号の説明】
【0049】
1…電池システム、2…電池制御装置、3…充放電手段、10…電池、11…組電池、100…センサ、101…電流センサ、102…電圧センサ、103…温度センサ、110…電圧センサ群、20…電池状態推定装置、21…A/D変換器、22…通信回路、201…緩和判定手段、202…充電状態推定手段、203…電流積算手段、204…劣化状態推定手段、11…単電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電可能な蓄電池と、電力変換器を有する鉄道車両用の蓄電池制御システムにおいて、
力行運転中の前記蓄電池からの放電量、あるいは制動運転中の前記蓄電池への充電量に基づいて、充放電される電荷量を演算する電荷量演算手段と、
非充放電期間である、惰行運転期間あるいは停車期間において、所定の緩和時間経過後に、前記蓄電池の端子開放電圧を求めて、前記蓄電池の充放電前後の充電率の変化を演算する充電率演算手段と、
前記電荷量演算手段と充電率演算手段の演算結果に基づいて、電池の容量を演算する容量演算手段とを具備したことを特徴とする蓄電池制御システム。
【請求項2】
前記緩和時間の経過を、前記蓄電池の電圧に基づいて判定するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の蓄電池制御システム。
【請求項3】
前記惰行運転期間あるいは前記停車期間が所定の時間以上継続して前記緩和時間が経過した後に、力行指令が出力された際、前記充電率演算手段が力行開始時の充電率を演算し、力行中に前記電荷量演算手段が前記蓄電池からの放電電流を積算した電流積算値を演算するとともに、力行終了後に惰行運転が所定の時間以上継続し前記緩和時間が経過した後に、次の力行指令あるいは制動指令が出力されると、前記蓄電池の力行終了時の充電率を演算し、前記電流積算値と、前記力行終了時の充電率と前記力行開始時の充電率との差に基づいて、前記蓄電池の容量を求めることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電池制御システム。
【請求項4】
前記惰行運転期間が所定の時間以上継続して前記緩和時間が経過した後に、制動指令が出力されると、前記充電率演算手段が制動開始時の充電率を求め、制動中は、前記蓄電池に充電される充電電流を積算した電流積算値を求めるとともに、制動終了後、惰行運転期間あるいは停車期間が所定の時間以上継続して前記緩和時間が経過した後に、力行指令または次の制動指令が出力されると、前記充電率演算手段が制動終了時の充電率を求め、前記電流積算値と、前記制動終了時の充電率と前記制動開始時の充電率の差から、前記蓄電池の容量を求めることを特徴とする請求項1ないし3に記載の蓄電池制御システム。
【請求項5】
前記鉄道車両が、運転手が操作し、前記電力変換器に力行及び制動の指令を出すマスコンを有し、該マスコンの操作に基づいて、前記力行運転、制動運転及び非充放電期間である惰行運転期間あるいは停車期間を判定するようにしたことを特徴とする請求項1ないし4に記載の蓄電池制御システム。
【請求項6】
前記マスコンの操作に基づいて、前記容量演算手段により前記蓄電池の容量を演算し、前記力行運転あるいは制動運転を開始するようにしたことを特徴とする請求項5に記載の蓄電池制御システム。
【請求項7】
非充放電期間である、前記惰行運転期間あるいは前記停車期間が前記緩和時間より短い場合には、前記充電率演算手段による前記蓄電池の電圧の測定をスキップすることを特徴とする請求項1ないし6に記載の蓄電池制御システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−78095(P2012−78095A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220634(P2010−220634)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】