説明

鉛プラグ入り積層ゴム体

【課題】 ハードニング現象が生じない上に、安定な履歴特性を有した積層ゴムを具備した鉛プラグ入り積層ゴム体を提供すること。
【解決手段】 鉛プラグ入り積層ゴム体1は、ゴム弾性層2と硬質板層3とを交互に積層してなる積層ゴム4と、積層ゴム4に拘束されて埋め込まれた鉛プラグ5と、ゴム弾性層2の外周面12を覆うと共にゴム弾性層2の外周面12に加硫成形により一体形成された筒状の被覆層13とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震支承に用いられて好適な鉛プラグ入り積層ゴム体、特にハードニング現象の生じ難い上に、高い減衰性能と安定した履歴特性とを有した鉛プラグ入り積層ゴム体に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特公平6−22958号公報
【特許文献2】特開2000−1820号公報
【特許文献3】特開2002−188122号公報
【0003】
ゴム弾性層と硬質板層とを交互に積層してなる積層ゴムと、この積層ゴムを積層方向に関して貫通すると共に積層ゴムに拘束されて埋め込まれて積層ゴムに適宜な減衰機能を付与する鉛プラグを有した鉛プラグ入り積層ゴム体は、橋梁用の支承としては勿論のこと他の構造物用の支承として数多く用いられている。
【0004】
斯かる観点において、特許文献1には、優れた二以上の特性を有する積層構造体を得るために、軟質板の周縁部分と内側部分とを互いに特性の異なる材質から形成することが、特許文献2には、ゴム層における局部的な歪みの発生を抑止し、ゴム層の局部破壊を防止するために、積層体の上下両端面の端部鋼板付近のゴム層の少なくとも周縁部に補強ゴムを配置し、補強ゴムの剪断弾性係数をゴム層の本体ゴムよりも高くすることが、そして、特許文献3には、減衰特性を改良し、且つ耐久性にも優れた橋梁用ゴム支承を提供するために、ゴム層の外周部分を低減衰ゴムにし、内側部分を高減衰ゴムすることが夫々提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、積層ゴムに使用されるゴム材料は、大きく分けて天然ゴムと、等価減衰定数が0.10以上であって天然ゴムよりも大きな減衰特性を有する高減衰ゴムとに大別される。積層ゴムにおいて、使用されるゴム材料の特性がその性能、耐久性に直接影響し、支承として求められる機能から見た場合、例えば天然ゴムを用いるとハードニングが生じやすい上に比較的オゾン環境に弱い一方、履歴特性の低下が少なく、高減衰ゴムを用いるとハードニングが生じ難いと共に比較的オゾン環境に強い一方、履歴特性の低下が比較的顕著に生じることになる。
【0006】
特許文献1で提案される積層構造体は、その軟質板の周縁部分と内側部分とを単に互いに特性の異なる材質から形成してなるものであって、相反する特性とされている大変形時においてハードニング現象が生じなく、しかも、大変形後においても変化のない安定な履歴特性を有したものではなく、特許文献2の積層ゴム支承もまた、ゴム層の本体ゴムよりも剪断弾性係数が高い補強ゴムをゴム層の周縁部に配置したものに過ぎないのであって、ハードニング現象をなくして安定な履歴特性を有したものではなく、更に、特許文献3の橋梁用ゴム支承も、ゴム層の外周部分を低減衰ゴムにし、内側部分を高減衰ゴムにして、単に、改良された減衰特性と優れた耐久性を有したものに過ぎないのであって、ハードニング現象をなくして安定な履歴特性を有したものではない。
【0007】
本発明は、前記諸点に鑑みて、ゴム弾性層において天然ゴムからなる部分と高減衰ゴムからなる部分とが特定の位置関係であって高減衰ゴムからなる部分とゴム弾性層の全体との体積比率が一定の範囲にある場合には大変形時においてハードニング現象が生じなく、しかも、大変形後においても変化のない安定な履歴特性を有した積層ゴムとなることを見出してなされたものであって、したがって、本発明の目的とするところは、上記のようなハードニング現象が生じない上に、安定な履歴特性を有した積層ゴムを具備した鉛プラグ入り積層ゴム体を提供することにある。
【0008】
本発明による鉛プラグ入り積層ゴム体は、ゴム弾性層と硬質板層とを交互に積層してなる積層ゴムと、この積層ゴムを積層方向に関して貫通すると共に積層ゴムに拘束されて埋め込まれた少なくとも一つの柱状の鉛プラグとを有しており、当該ゴム弾性層の外周側部分が高減衰ゴムからなっており、この外周側部分に囲繞された該ゴム弾性層の内周側部分が天然ゴムからなっており、ゴム弾性層の全体に対してのゴム弾性層の高減衰ゴムからなる外周側部分の体積比率が0.2から0.8であることを特徴とするものである。
【0009】
また本発明による鉛プラグ入り積層ゴム体は、ゴム弾性層と硬質板層とを交互に積層してなる積層ゴムと、この積層ゴムを積層方向に関して貫通すると共に積層ゴムに拘束されて埋め込まれた少なくとも一つの柱状の鉛プラグとを有した鉛プラグ入り積層ゴム体であって、当該ゴム弾性層の積層方向に対して直交する方向のうちの一つの方向における一対の外側部分が高減衰ゴムからなっており、この一対の外側部分に挟まれた該ゴム弾性層の内側部分が天然ゴムからなっており、ゴム弾性層の全体に対するゴム弾性層の高減衰ゴムからなる外側部分の体積比率が0.2から0.8であることを特徴とするものである。
【0010】
更に本発明による鉛プラグ入り積層ゴム体は、ゴム弾性層と硬質板層とを交互に積層してなる積層ゴムと、この積層ゴムを積層方向に関して貫通すると共に積層ゴムに拘束されて埋め込まれた少なくとも一つの柱状の鉛プラグとを有しており、当該ゴム弾性層の鉛プラグを囲む鉛プラグ周囲部分が天然ゴムからなっており、当該鉛プラグ周囲部分を除くゴム弾性層の他の部分が高減衰ゴムからなっており、ゴム弾性層の全体に対してのゴム弾性層の高減衰ゴムからなる部分の体積比率が0.2から0.8であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明に係る鉛プラグ入り積層ゴム体によれば、少なくとも、ゴム弾性層の積層方向に対して直交する方向のうちの一つの方向における一対の外側部分が高減衰ゴムからなっている一方、この一対の外側部分に挟まれた該ゴム弾性層の内側部分が天然ゴムからなっているために、オゾン環境に比較的弱い天然ゴムからなる内側部分を高減衰ゴムからなる外側部分で保護することができ、しかも、ゴム弾性層の全体に対して0.2から0.8の体積比率の高減衰ゴムからなる外側部分を有しているために、円柱状の鉛プラグと相俟って鉛プラグ入り積層ゴム体の剪断方向(水平方向)の構造物の振動を可及的に速やかに減衰させることができる。
【0012】
ゴム弾性層に天然ゴムのみを使用した鉛プラグ入り積層ゴム体は、剪断方向の大変形時においてハードニング現象を生じ易い、換言すれば、剪断方向の大きな変形で急激に大きな降伏後剛性kdを現出する(降伏後剛性kdの線形領域が狭い)一方、ゴム弾性層に高減衰ゴムのみを使用した積層ゴム体は、伸び特性が大きく、剪断方向の大変形時においてもハードニング現象を生じ難いのである(降伏後剛性kdの線形領域が広い)が、斯かる鉛プラグ入り積層ゴム体において、高減衰ゴムからなる外側部分がゴム弾性層の全体に対して0.2よりも少ない体積比率となると、高減衰ゴムの大きな伸び特性を十分に利用できなくなってハードニング現象が生じ易くなり、したがって、高減衰ゴムからなる外側部分は、ハードニング現象の効果的な抑制の観点からゴム弾性層の全体に対して0.2以上の体積比率であることが要求されるのである。
【0013】
また、高減衰ゴムは、その弾性特性に対して繰り返し変形で大きな影響を受け繰り返し変形に対して安定性に欠け、特に大変形後での履歴特性に大きな影響を受ける一方、天然ゴムは、繰り返し変形でも弾性特性にそれ程影響を受けず繰り返し変形に対しては安定な弾性特性を有しているのであるが、鉛プラグ入り積層ゴム体において、高減衰ゴムからなる外側部分がゴム弾性層の全体に対して0.8よりも大きな体積比率となると、天然ゴムの安定な弾性特性よりも高減衰ゴムの安定性に欠けた弾性特性による履歴特性の劣化、換言すれば、剪断方向の等価剛性keqを減少させることとなり、したがって、高減衰ゴムからなる外側部分は、繰り返し変形での等価剛性keqの維持との観点からゴム弾性層の全体に対して0.8以下の体積比率であることが要求される。
【0014】
ゴム弾性層の全体に対しての高減衰ゴムからなる外側部分又は外周側部分の体積比率が0.5以下であると、より安定な履歴特性を得ることができる。
【0015】
本発明において高減衰ゴムのポリマーとしては、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブタジエンゴム若しくはシリコーンゴム等又はこれらの混合物及びこれらと天然ゴムからなる混合物を含むものであって、高減衰ゴムのポリマー以外の材料としては代表例としてカーボンブラック、シリカ又は樹脂が挙げられ、設計歪において0.10以上、好ましい例では、0.10から0.20の等価減衰定数を有するものであり、この場合、天然ゴムは、設計歪において0.01から0.06の等価減衰定数を有しているとよい。高減衰ゴム及び天然ゴムには、必要に応じて充填剤、可塑剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等の添加剤が配合されていてもよい。
【0016】
各ゴム弾性層は、通常、同一厚みを有しているのが好ましいが、異なる厚みを有していてもよく、硬質板層もまた、同一厚みを有していてもよいが、これに代えて、積層方向の両端に配された厚肉硬質板層と、この厚肉硬質板層間においてゴム弾性層と交互に積層された薄肉硬質板層とを含んでいてもよく、斯かる厚肉硬質板層にボルト、ダウエルピン等を介して橋桁を含む構造物及び橋脚を含む基礎等に取り付け板を取り付けるようにしてもよく、厚肉硬質板層を用いない場合等では、ゴム弾性層又は硬質板層に直接に接着剤を介して又はゴム弾性層に加硫接着により取り付け板を取り付けるようにしてもよい。硬質板層としては、金属、セラミックス、プラスチック、FPR等の所要の剛性を有する各種の材料からなる板状のものを用いることができる。
【0017】
ゴム弾性層及び硬質板層の夫々は、平面視において、正方形を含む四角形、五角形、六角形又は円形であって、好ましくは、四角形又は円形であり、橋梁用には正方形を含む四角形又は円形であり、積層ゴムもまた、ゴム弾性層及び硬質板層の形状に対応して四角形、五角形、六角形又は円形であるが、いずれもこれらに限定されない。
【0018】
鉛プラグは、積層ゴムの中央部に一個だけ埋め込まれていてもよいが、これに代えて又はこれと共に積層ゴムの中央部の周りに複数個埋め込まれていてもよく、好ましくは純度99.9%以上の鉛材料を用いて形成されているとよい。鉛プラグは、円柱、四角柱、六角柱等の角柱でもよく、好ましくは円柱がよい。また鉛プラグは、ゴム弾性層の天然ゴムからなる部分に拘束されて埋め込まれていても、ゴム弾性層の高減衰ゴムからなる部分に拘束されて埋め込まれていても、更には、天然ゴムからなる部分及び高減衰ゴムからなる部分の両方に亘った部位に拘束されて埋め込まれていてもよいが、好ましくは天然ゴムからなる部分に埋め込まれると繰り返し変形に対する安定性に劣る高減衰ゴムの影響を鉛プラグが受けることがないのでよい。
【0019】
積層方向に対して直交する方向のうちの一つの方向のみの振動に対して構造物を免震支承する例えば橋軸方向のみの振動に対して構造物を免震支承する橋梁用の鉛プラグ入り積層ゴム体の場合には、上述の通り、ゴム弾性層の積層方向に対して直交する方向のうちの一つの方向の一対の外側部分が高減衰ゴムからなって、この一対の外側部分に挟まれた該ゴム弾性層の内側部分が天然ゴムからなっていてもよく、斯かる鉛プラグ入り積層ゴム体の場合には、積層方向に対して直交する方向のうちの一つの方向を橋軸方向に合致させ、高減衰ゴムからなる一対の外側部分と一対の外側部分に挟まれて天然ゴムからなる内側部分とが橋軸方向に並ぶように当該鉛プラグ入り積層ゴム体を配置するとよい。
【0020】
本発明の鉛プラグ入り積層ゴム体は、積層ゴムの外周面を被覆する被覆層を有していてよく、斯かる被覆層は、高減衰ゴムからなっていてもよいが、耐候性及び成形性の観点からオゾン劣化防止剤、老化防止剤を有する天然ゴムからなっているのが好ましい。積層ゴムの外周面を被覆する被覆層は、積層ゴムの外周面に接着剤を介して又は加硫により接着されて一体化されるとよい。被覆層の厚みは、積層ゴムの大きさにもよるが、十分な耐久性をもって長期に亘って耐候性を得ることができるならば十分に薄くてもよく、例えば高さ73mm、縦横250mmの積層ゴムの場合に一例として5mm程度を挙げることができる。
【0021】
本発明に係る鉛プラグ入り積層ゴム体では、積層ゴムの積層方向の一方の端面を直接に例えば基礎に固着し、積層ゴムの積層方向の他方の端面を直接に例えば支持する建物に固着してもよいが、これに代えて、積層ゴムの積層方向の一方の端面に一方の板面で接触した一方の取り付け板と、積層ゴムの積層方向の他方の端面に一方の板面で接触した他方の取り付け板とを更に具備して鉛プラグ入り積層ゴム体を構成し、斯かる取り付け板を介して基礎及び建物に鉛プラグ入り積層ゴム体を固着してもよい。一方の取り付け板は、その一方の板面で積層ゴムにねじ部材を介して固着され、他方の取り付け板は、その一方の板面で積層ゴムに他のねじ部材を介して固着されていても、これに代えて又はこれと共に、一方の取り付け板は、その一方の板面で積層ゴムに、一方の取り付け板及び積層ゴムの夫々に嵌め込まれたダウエルピンを介してその板面方向に関して固着され、他方の取り付け板は、その一方の板面で積層ゴムに、他方の取り付け板及び積層ゴムの夫々に嵌め込まれた他のダウエルピンを介してその板面方向に関して固着されていてもよく、更には、上記と併用して又は単独で各取り付け板は、直接的に積層ゴムの積層方向の対応の端面に加硫接着により固着されていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ハードニング現象が生じない上に、安定な履歴特性を有した積層ゴムを具備した鉛プラグ入り積層ゴム体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に本発明及びその実施の形態を、図に示す好ましい例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら例に何等限定されないのである。
【0024】
図1から図3において、本例の鉛プラグ入り積層ゴム体1は、平面視で四角形の複数のゴム弾性層2と同じく平面視で四角形の硬質板層3とを交互に積層してなる積層ゴム4と、積層ゴム4を積層方向、即ち鉛直方向Vに関して貫通すると共に積層ゴム4に拘束されて埋め込まれた少なくとも一つ、本例では四個の円柱状の鉛プラグ5と、鉛プラグ5及び積層ゴム4の鉛直方向Vの一方の端面6に一方の板面7で接触した取り付け板8と、鉛プラグ5及び積層ゴム4の鉛直方向Vの他方の端面9に一方の板面10で接触した取り付け板11と、ゴム弾性層2の外周面12を覆うと共にゴム弾性層2の外周面12に加硫成形により一体形成された筒状の被覆層13とを具備している。
【0025】
複数の硬質板層3は、鉛直方向Vの最外側に位置していると共に厚肉の鋼板等からなる一対の厚肉硬質板層21及び22と、一対の厚肉硬質板層21及び22間に配されていると共に厚肉硬質板層21及び22よりも薄肉の鋼板等からなる複数の薄肉硬質板層23とを具備している。厚肉硬質板層21の一方の面には円形の凹所24が、厚肉硬質板層22の一方の面には円形の凹所25が夫々形成されている。
【0026】
一対の厚肉硬質板層21及び22間において複数の薄肉硬質板層23と交互に配されている複数のゴム弾性層2は、加硫接着により一対の厚肉硬質板層21及び22並びに複数の薄肉硬質板層23に固着されている。
【0027】
矩形状の境界線31で境界付けられるゴム弾性層2の環状の外周側部分32は、設計歪において0.10以上の等価減衰定数を有する高減衰ゴムからなっており、外周側部分32に囲繞されたゴム弾性層2の内周側部分33は、設計歪において0.01から0.06の等価減衰定数を有している天然ゴムからなっており、ゴム弾性層2の全体に対しての高減衰ゴムからなるゴム弾性層2の外周側部分32の体積比率は、0.2から0.8である。即ち、鉛プラグ5の部分を含めないで複数のゴム弾性層2の全体の体積をVallとし、複数のゴム弾性層2の環状の外周側部分32の体積をVoutとした場合、体積比率(=Vout/Vall)は0.2から0.8である(Vout/Vall=0.2〜0.8)。
【0028】
四個の円柱状の鉛プラグ5は、内周側部分33において積層ゴム4に拘束されて埋め込まれている。
【0029】
鋼板等からなる取り付け板8は、その板面7に円形の凹所35を有しており、しかも、その板面7で積層ゴム4の端面6に接触すると共に積層ゴム4の厚肉硬質板層21にねじ部材36を介して固着されており、取り付け板8と同様に鋼板等からなる取り付け板11は、その板面10に円形の凹所37を有しており、その板面10で積層ゴム4の端面9に接触すると共に積層ゴム4の厚肉硬質板層22にねじ部材38を介して固着されている。取り付け板8と厚肉硬質板層21との間において凹所24及び35には、剪断キー39が嵌装されており、取り付け板11と厚肉硬質板層22との間において凹所25及び37には、剪断キー40が嵌装されており、剪断キー39により取り付け板8は、厚肉硬質板層21に対して鉛直方向Vと直交する方向、即ち水平方向Hに関して固定されており、剪断キー40により取り付け板11は、厚肉硬質板層22に対して水平方向Hに関して固定されている。
【0030】
ゴム弾性層2の外周面12を覆う被覆層13は、天然ゴムからなっており、端面6及び9の夫々と面一となっている鉛直方向Vの端面で取り付け板8の板面7及び取り付け板11の板面10の夫々に当接されている。
【0031】
積層ゴム4は、例えば次のようにして製造できる。まず、鉛プラグ5挿入用の孔を有すると共に内周側部分33の外形形状をもった未加硫の天然ゴム材板を、同様に鉛プラグ5鉛挿入用の孔を有すると共に厚肉硬質板層21となる厚肉鋼板に貼着し、この貼着と共に又はこの貼着後、内周側部分33の外形形状をもった上記の未加硫の天然ゴム材板と同一の厚みをもつと共に外周側部分32の外形形状をもつ未加硫の高減衰ゴム材板を厚肉硬質板層21となる厚肉鋼板に、内周側部分33の外形形状をもった上記の未加硫の天然ゴム材板の端面と接する状態で貼着し、厚肉硬質板層21となる厚肉鋼板に貼着された天然ゴム材板と高減衰ゴム材板とに鉛プラグ5鉛挿入用の孔を有すると共に薄肉硬質板層23となる薄肉鋼板を貼着し、以後、必要層数を得るように上記の作業を繰り返して、薄肉硬質板層23となる薄肉鋼板に貼着された天然ゴム材板と高減衰ゴム材板とに鉛プラグ5鉛挿入用の孔を有すると共に厚肉硬質板層22となる厚肉鋼板を貼着し、貼着後、これらを一体加硫(加工)して積層ゴム4を得る。鉛プラグ5は、加硫成形された積層ゴム4の積層方向に直交して形成された孔に圧入するとよい。
【0032】
以上の鉛プラグ入り積層ゴム体1は、取り付け板8がアンカーボルト等を介して基礎に、取り付け板11がボルト等を介して構造物に固着されて構造物と基礎との間に配され、構造物の鉛直方向Vの荷重を支持すると共に地震による基礎の水平方向Hの振動を鉛プラグ5を含む積層ゴム4の水平方向Hの剪断変形により構造物に伝達させない上に、主として鉛プラグ5の水平方向Hの塑性変形とゴム弾性層2の外周側部分32の水平方向Hの剪断変形とで構造物の水平方向Hの振動を速やかに減衰させるように用いられる。
【0033】
鉛プラグ入り積層ゴム体1によれば、ゴム弾性層2の外周側部分32が高減衰ゴムからなっている一方、ゴム弾性層2の外周側部分32に囲繞された内周側部分33が天然ゴムからなっているために、オゾン環境に比較的弱い天然ゴムからなる内周側部分33を高減衰ゴムからなる外周側部分32で保護することができ、しかも、ゴム弾性層2の全体に対して0.2から0.8の体積比率の高減衰ゴムからなる外周側部分32を有しているために、ハードニング現象が生じない上に、安定な履歴特性を有し、加えて、鉛プラグ5と相俟って鉛プラグ入り積層ゴム体1の水平方向Hの振動を可及的速やかに減衰させることができる上に、大きな減衰を得ることができる結果、鉛プラグ入り積層ゴム体の小型化を図ることができて、製造原価を低減できると共に施工の容易化を図ることができる。
【0034】
上記の鉛プラグ入り積層ゴム体1では、ゴム弾性層2の環状の外周側部分32を高減衰ゴムとし、外周側部分32に囲繞されたゴム弾性層2の内周側部分33を天然ゴムとしたが、図4に示すように、一対の直線状の境界線41及び42で境界付けられるゴム弾性層2の鉛直方向Vに対して直交する水平方向Hのうちの一つの方向Xの一対の外側部分43及び44が高減衰ゴムからなっており、一対の外側部分43及び44に挟まれたゴム弾性層2の内側部分45が天然ゴムからなっていてもよく、この場合にも、ゴム弾性層2の全体に対する高減衰ゴムからなるゴム弾性層2の外側部分43及び44の体積比率、即ち、鉛プラグ5の部分を含めないで複数のゴム弾性層2の全体の体積をVallとし、複数のゴム弾性層2の一対の矩形状の外側部分43及び44の体積をVoutとした場合、体積比率(=Vout/Vall)を0.2から0.8とするとよい。
【0035】
図4に示す一対の外側部分43及び44並びに内側部分45を有した鉛プラグ入り積層ゴム体1を橋梁用とする場合には、方向Xを橋梁の橋桁の橋軸方向と一致させる一方、水平方向Hのうちの方向Xと直交する方向Yにゴム弾性層2をサイドブロック等の移動制限部材により剪断変形させないようにして斯かる鉛プラグ入り積層ゴム体1を橋脚と橋桁との間に設置するとよい。
【0036】
橋梁用の鉛プラグ入り積層ゴム体1でも、ゴム弾性層2の一対の外側部分43及び44が高減衰ゴムからなっている一方、一対の外側部分43及び44に挟まれたゴム弾性層2の内側部分45が天然ゴムからなっているために、オゾン環境に比較的弱い天然ゴムからなる内側部分45を高減衰ゴムからなる一対の外側部分43及び44で保護することができ、しかも、ゴム弾性層2の全体に対して0.2から0.8の体積比率の高減衰ゴムからなる一対の外側部分43及び44を有しているために、ハードニング現象が生じない上に、安定な履歴特性を有し、加えて、鉛プラグ5と相俟って鉛プラグ入り積層ゴム体1の剪断方向Hの一つの方向であって橋軸方向である方向Xの振動を可及的速やかに減衰させることができる。
【0037】
また鉛プラグ入り積層ゴム体1を図5又は図6に示すように形成してもよい。即ち図5に示す鉛プラグ入り積層ゴム体1では、ゴム弾性層2における複数個の鉛プラグ5の夫々を一個毎に個別に囲む複数個の平面視矩形状(例えば正方形)の鉛プラグ周囲部分47が天然ゴムからなっており、鉛プラグ周囲部分47を除くゴム弾性層2の他の部分48が高減衰ゴムからなっており、図6に示す鉛プラグ入り積層ゴム体1では、ゴム弾性層2の複数個m(図示では4個)の鉛プラグ5を複数n(但し、m>n、図示では2個)毎に個別に囲む平面視矩形状(例えば長方形)の鉛プラグ周囲部分47が天然ゴムからなっており、鉛プラグ周囲部分47を除くゴム弾性層2の他の部分48が高減衰ゴムからなっており、いずれの鉛プラグ入り積層ゴム体1でも、ゴム弾性層2の全体に対してのゴム弾性層2の高減衰ゴムからなる部分48の体積比率が0.2から0.8である。
【0038】
図5又は図6に示す鉛プラグ入り積層ゴム体1も、ハードニング現象が生ない上に安定な履歴特性を有し、鉛プラグ5と相俟って大きな減衰を得ることができる結果、鉛プラグ入り積層ゴム体の小型化を図ることができて、製造原価を低減できると共に施工の容易化を図ることができる。
【実施例】
【0039】
高さh=73.5mm、縦横長さd=240mm、六層のゴム弾性層2の各厚みt1=5mm、厚肉硬質板層21及び22の各厚みt2=16mm、5層の薄肉硬質板層23の各厚みt3=2.3mm、中心Oがゴム弾性層2の対角線上に位置する四個の鉛プラグ5の各直径φ=34.5mm、各鉛プラグ5の中心O間の間隔D=100mm、各鉛プラグ5の中心Oからゴム弾性層2の各一辺までの間隔L=70mmであって、体積比率=Vout/Vallが0、0.2、0.5、0.8及び1である図1から図3に示す被覆層13(厚みt4=5mm)付の五個の積層ゴム4を準備し、斯かる積層ゴム4の夫々に面圧6N/mmの鉛直方向Vの荷重下で剪断歪率175%の水平方向Hの剪断変形を加えてその変位−応力履歴特性曲線を求め、この変位−応力履歴特性曲線から体積比率=Vout/Vallが0、0.2、0.5、0.8及び1の夫々の場合の降伏後剛性kd(0)、kd(0.2)、kd(0.5)、kd(0.8)及びkd(1)を求めた。これら降伏後剛性kd(0)、kd(0.2)、kd(0.5)、kd(0.8)及びkd(1)を降伏後剛性kd(0)で基準化した降伏後剛性knd値を図7に示す。
【0040】
また、上記の五個の被覆層13付の積層ゴム4の夫々に対して、面圧6N/mmの鉛直方向Vの荷重下で剪断歪率175%の水平方向Hの繰り返し剪断変形を11サイクル加えて、その後10分間放置した後、再び面圧6N/mmの鉛直方向Vの荷重下で剪断歪率175%の水平方向Hの繰り返し剪断変形を11サイクル加え、先行の11サイクルの剪断変形と後続の11サイクルの剪断変形とによる変位−応力履歴特性曲線から、先行の11サイクル中の2サイクル目の等価剛性keqに対する先行の11サイクル中の11サイクル目の等価剛性keqの低下量と後続の11サイクル中の11サイクル目の等価剛性keqの低下量とを先行の11サイクル中の2サイクル目の等価剛性keqを基準のレベル“1”として求めた。これら基準“1”からの等価剛性keqの低下量を体積比率=Vout/Vallが0である積層ゴム4の等価剛性keqの低下量で基準化した値を図8に示す。図8において、曲線51は、先行の11サイクル中の11サイクル目の基準化された等価剛性keqの低下量であり、曲線52は、後続の11サイクル中の11サイクル目(全体として22サイクル目)の基準化された等価剛性keqの低下量である。
【0041】
図7から明らかであるように、体積比率=Vout/Vallが0.2よりも小さいと、降伏後剛性kdの変化が見られない結果、0.2よりも小さい体積比率=Vout/Vallの積層ゴム4ではハードニング現象が生じやすいことを窺うことができる一方、体積比率=Vout/Vallが0.2以上であると、降伏後剛性kdが線形的に変化する結果、0.2以上の体積比率=Vout/Vallの積層ゴム4ではハードニング現象を効果的に抑制できることを窺うことができる。
【0042】
また図8から明らかであるように、体積比率=Vout/Vallが0.8よりも大きいと、等価剛性keqの低下量が大きい結果、繰り返し剪断変形を受けた際に履歴安定性が悪いことを窺うことができる一方、体積比率=Vout/Vallが0.8以下であると、等価剛性keqの低下量が殆どない結果、繰り返し剪断変形を受けた場合でも安定な履歴特性となることを窺うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態の好ましい例の斜視説明図である。
【図2】図1に示す例のII−II線矢視面断面説明図である。
【図3】図1に示す例の平面説明図である。
【図4】本発明の実施の形態の好ましい他の例の平面説明図である。
【図5】本発明の実施の形態の好ましい他の例の平面説明図である。
【図6】本発明の実施の形態の好ましい他の例の平面説明図である。
【図7】本発明の実施例の体積比率−基準化剛性曲線図である。
【図8】本発明の実施例の体積比率−基準化等価剛性低下量曲線図である。
【符号の説明】
【0044】
1 鉛プラグ入り積層ゴム体
2 ゴム弾性層
3 硬質板層
4 積層ゴム
5 鉛プラグ
32 外周側部分
33 内周側部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム弾性層と硬質板層とを交互に積層してなる積層ゴムと、この積層ゴムを積層方向に関して貫通すると共に積層ゴムに拘束されて埋め込まれた少なくとも一つの柱状の鉛プラグとを有した鉛プラグ入り積層ゴム体であって、当該ゴム弾性層の外周側部分が高減衰ゴムからなっており、この外周側部分に囲繞された該ゴム弾性層の内周側部分が天然ゴムからなっており、ゴム弾性層の全体に対してのゴム弾性層の高減衰ゴムからなる外周側部分の体積比率が0.2から0.8であることを特徴とする鉛プラグ入り積層ゴム体。
【請求項2】
ゴム弾性層と硬質板層とを交互に積層してなる積層ゴムと、この積層ゴムを積層方向に関して貫通すると共に積層ゴムに拘束されて埋め込まれた少なくとも一つの柱状の鉛プラグとを有した鉛プラグ入り積層ゴム体であって、当該ゴム弾性層の積層方向に対して直交する方向のうちの一つの方向における一対の外側部分が高減衰ゴムからなっており、この一対の外側部分に挟まれた該ゴム弾性層の内側部分が天然ゴムからなっており、ゴム弾性層の全体に対するゴム弾性層の高減衰ゴムからなる外側部分の体積比率が0.2から0.8であることを特徴とする鉛プラグ入り積層ゴム体。
【請求項3】
ゴム弾性層と硬質板層とを交互に積層してなる積層ゴムと、この積層ゴムを積層方向に関して貫通すると共に積層ゴムに拘束されて埋め込まれた少なくとも一つの柱状の鉛プラグとを有した鉛プラグ入り積層ゴム体であって、当該ゴム弾性層の鉛プラグを囲む鉛プラグ周囲部分が天然ゴムからなっており、当該鉛プラグ周囲部分を除くゴム弾性層の他の部分が高減衰ゴムからなっており、ゴム弾性層の全体に対してのゴム弾性層の高減衰ゴムからなる部分の体積比率が0.2から0.8であることを特徴とする鉛プラグ入り積層ゴム体。
【請求項4】
高減衰ゴムは、設計歪において0.10から0.20の等価減衰定数を有しており、天然ゴムは、設計歪において0.01から0.06の等価減衰定数を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の鉛プラグ入り積層ゴム体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−250300(P2006−250300A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70166(P2005−70166)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】