説明

鋼材の電気化学的防食膜

【課題】 鋼製支柱の地面との境界部、海洋鋼構造物の飛沫帯など、確実な乾燥状態に保つことが困難でありながら、防食電流がほとんど流れない部位に使用できる鋼材の電気化学的防食膜を提供する。
【解決手段】 グルコマンナン等の天然高分子多糖類の不可逆性ゲルと、ポリアニリンと、エポキシ化合物のアミノ化合物硬化体とからなる三次元複合構造体の、網目構造の中に、亜鉛微粒子等の鉄より卑な金属の微粒子が散在しており、エポキシ化合物のアミノ化合物硬化体を得るにあたって、エポキシ化合物に対し、化学量論的に使用すべきアミノ化合物のアミン当量より3〜25%多いアミノ化合物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中のみならず、鋼製支柱の地面との境界部、海洋鋼構造物の飛沫帯など、確実な乾燥状態に保つことが困難でありながら、防食電流がほとんど流れない部位に使用できる鋼材の電気化学的防食膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼構造物等の防食法として、外部電源方式及び犠牲陽極方式(流電陽極方式)の電気防食法が知られている。これは、防食電流を流すことにより金属を熱力学的に不活性な状態にして腐食を停止させる方法である。
外部電源方式は、直流電源装置及び耐久性電極を用い、耐久性電極を正極、被防食体を負極に接続して通電する方法である。他方、犠牲陽極方式は、被防食体にこれより卑な金属を接続して犠牲陽極とし、両者間の電位差を利用して防食電流を通電する方法である。被防食体が鋼材の場合には、亜鉛等の鉄より卑な金属が犠牲陽極として用いられる。
電気防食法は水中では効果があるが、大気中で水の飛沫に濡れがちな鋼材の部位では、防食電流の経路を確保するための水分が不足し効果を発現することができなかった。
【0003】
鋼製支柱の地面との境界部、海洋鋼構造物の飛沫帯、海産物加工工場等の機材の鉄製土台など、乾燥状態に保つことが困難でありながら、防食電流がほとんど流れない金属部位に電気防食を施す方法に関しては、例えば、特許文献1に、イオン交換基が導入されたイオン交換樹脂やキレート樹脂等の固体高分子電解質やゼオライト等の有機、無機系の陽イオン選択透過性物質を含有する皮膜を形成させる方法が開示されている。又、特許文献2には、ポリアニリン等の導電性ポリマー粒子、塗膜形成成分、有色顔料及び溶剤成分を含有する塗料組成物が開示されている。
【特許文献1】特開2000−169986号公報
【特許文献2】特開2002−327151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、鋼材に塗布することにより、乾燥状態に保つことが困難でありながら、防食電流がほとんど流れない部位であっても鉄より卑な金属を付着させて犠牲電極とし、局所電池を形成させて鋼材の腐食を防止する電気化学的防食法を研究した。そのためには、先ず、常に水分を保有する物質を鋼材面に塗布することが必要である。
天然多糖類であるグルコマンナン等の不可逆性ゲルは、大量の水分を三次元網目構造中に保有している。この含有水中に鉄より卑な金属の微粒子を散在させれば鋼材の防食膜を形成することができると考えられる。しかしながら、天然多糖類の不可逆性ゲルは鋼材表面との接着性が悪く、鋼材表面に局所電池を形成するに至らなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決することを目的とし、その構成は、グルコマンナン等の天然高分子多糖類の不可逆性ゲルと、ポリアニリンと、エポキシ化合物のアミノ化合物硬化体とからなる三次元複合構造体の、網目構造の中に、亜鉛微粒子等の鉄より卑な金属の微粒子が散在しており、エポキシ化合物のアミノ化合物硬化体を得るにあたって、エポキシ化合物に対し、化学量論的に使用すべきアミノ化合物のアミン当量より3〜25%多いアミノ化合物を使用することを特徴とし、エポキシ化合物としてビスフェノールA型またはビスフェノールF型を使用することを特徴とする。
【0006】
すなわち、本発明は防食電流の経路を確保するための、充分な水分を保持したグルコマンナン等の天然高分子多糖類の不可逆性ゲルを利用した電気化学的防食膜を提供するものである。更に、鋼材表面への天然高分子多糖類ゲルの付着性を向上させるために、両端にエポキシ基を有する化合物を両端にアミノ基を有する化合物と反応させて、複合三次元構造体とし、その網目構造の中に鉄より卑な金属の微粒子を散在させたものである。
【0007】
その結果、エポキシ硬化体の三次元構造により鋼材表面との接着性が向上し、皮膜中の鉄より卑な金属の微粒子は、鋼材表面と密に接触することができる。更に、天然多糖類の不可逆性ゲルに包含された水分中では防食電流が容易に流れることができて、鉄より卑な金属の微粒子と鋼材との間には局所電池が形成される。したがって、鉄より卑な金属の微粒子は犠牲陽極としての機能を良く発現し、鋼材は電気化学的に防食される。
更に、ポリアニリン(エメラルジン塩基型ポリアニリン)を配合することにより、皮膜ペーストの粘性が高められたり、鋼材の電位を低下させることができ、pH5〜6のポリアニリンにより本発明皮膜のpHをより中性領域に調整することができる。
【発明の効果】
【0008】
亜鉛粒子が均等に分散している上に、天然高分子多糖類ゲルに包含された水分により防食電流の経路が確保されるため、大気環境中でも電気化学的防食法が可能になった。更に、エポキシ樹脂を配合したため、鋼材表面との接着性が向上し、効果的に鋼材の腐食を防止することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に使用する鉄より卑な金属としては、イオン化傾向が鉄より大きい金属であればよく、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等を挙げることができる。中でも亜鉛が扱いよい。亜鉛の微粒子としては、金属亜鉛量を多く含むものがよい。
【0010】
天然高分子多糖類としては、グルコマンナン、カードラン、アルギン酸、アルギン酸誘導体、アルギン酸塩、アルギン酸誘導体の塩、κ−カラギーナン、キトサン及びプルラン等の対独又は2種以上を混合したものでも良い。大量の水に膨潤し、加熱することにより不可逆性のゲルを形成する多糖類である。中でもグルコマンナンが好ましく使用される。グルコマンナンは一般に蒟蒻粉と呼ばれる蒟蒻原料の主成分であり、D−グルコースとD−マンノースがβ−1,4結合した複合多糖類である。重合度約6200、分子量100万以上であり、分子の長さは1300Å程度である。水により膨潤し、大量の水に溶解して粘稠な溶液を形成し、この溶液はアルカリを加えて加熱することにより熱不可逆性ゲルを形成する。これがいわゆる蒟蒻である。
【0011】
グルコマンナンを水に溶解するにあたり、グルコマンナン溶液中の好ましいグルコマンナン量は0.1〜5%、好ましくは0.5〜4.5%であり、この範囲で均一で作業性の良い均一なグルコマンナンゲルを合成することができた。ちなみに、グルコマンナン量が2.5%のグルコマンナンゲルを膜化したときの含水量は約10%であった。
【0012】
カラギーナンはツノマタ族やスギノリ族等の紅藻から得られる粘質性の多糖類である。少なくとも数種の成分が知られ、熱水抽出液から塩化カリウムでゲル状に沈殿する成分がκ−カラギーナンである。κ−カラギーナンはD−ガラクトースと3,6−アンヒドロ−D−ガラクトースとからなる硫酸多糖類であって、アガロースと同じくβ−1,4とα−1,3で交互に結合して直鎖構造をし、硫酸基は主としてD−ガラクトースの残基のC−4に結合している。カラギーナンにはその他ι−カラギーナン、μ−カラギーナン、η−カラギーナン、λ−カラギーナン等が存在する。本発明には主としてκ−カラギーナンを使用する。
κ−カラギーナンを水に溶解して不可逆性ゲルを製造するにあたり、κ−カラギーナン濃度1〜10%、好ましくは2〜5%の場合に良好な作業性が得られる。
【0013】
カードランはβ−1,3の直鎖状グルカンであり、懸濁液の加熱により熱不可逆性のゲルを生じる。キトサンはキチンの脱アセチル化物であり、アミノ基がアセチル化されたD−グルコサミンがβ−1,4結合しているものである。
プルランは、澱粉を主原料として黒酵母の1種である Aureobasidium pullulansを培養した菌体外培養液より得られる物質である。
アルギン酸はD−マンノウラン酸のβ−1,4結合からなる直鎖分子であって、褐藻類の重要な構造多糖類である。そのまま或いはNa、Ca或いはMgの塩として、或いは各種誘導体又はその塩として本発明に使用される。
【0014】
本発明においては、エポキシ化合物が必須である。エポキシ化合物にはグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、グリシジルアミノ化合物型、脂環型等があるが、特に限定はなく、両末端にエポキシ基を有して2個以上のエポキシ基を有する多官能型エポキシ化合物であればよい。グリシジルエーテル型が好ましく使用され、特にビスフェノールA型及びビスフェノールF型が一般的である。これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。両末端のエポキシ基は極めて反応性が高いため、アミノ基やアミド基とよく反応し、特に各種ジアミノ化合物類はエポキシ硬化剤として使用される。各種ジアミノ化合物の両末端のアミノ基はエポキシ基を開環させて結合し、この際に生じた−OH基は更に他のアミノ基と結合し、複雑な三次元構造体皮膜を形成し、エポキシ樹脂としての特性を発現する。
【0015】
ビスフェノールA型エポキシ化合物は下記の構造式で表される。(1)式において、nの数は0、1、2……等、可及的に小さい数が好ましい。また、ビスフェノールF型エポキシ化合物は、ビスフェノールA型エポキシ化合物の2個のフェノキシ基に挟まれた、炭素原子に結合する2個のメチル基に代わって水素が結合しているものである。ビスフェノールA型又はビスフェノールF型エポキシ化合物は、本発明において、それぞれ単独で或いは任意の比率の混合物として好ましく使用される。
【化1】

【0016】
エポキシ化合物を硬化させるために使用するアミノ化合物は、エポキシ化合物とよく相溶し、実用的に充分な機械的強度が得られるまで反応及び架橋が進行することが重要である。一般には常温で液体で、常温で硬化する脂肪族アミノ化合物が使用される。ジエチレントリアミノ化合物、トリエチレンテトラミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン(以下、TMDとする)、変性したアミノ化合物等を挙げることができる。
【0017】
1分子中に2個のアミノ基を有するアミノ化合物と、1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物との反応であれば、1g当量のアミノ化合物と1g当量のエポキシ化合物とを反応させれば過不足なく反応する。2個のアミノ基を有するアミノ化合物は4個の活性水素を有し分子量を4で除した数がアミン当量であり、アミノ基を4個有するアミノ化合物であれば活性水素を8個有し分子量を8で除した数がアミン当量である。
【0018】
1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ当量は分子量を4で除した数であり、分子中に3個のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ当量は分子量を6で除した数である。化学量論的には、同一アミン当量のアミノ化合物と同一エポキシ当量のエポキシ化合物とを反応させればよい。しかしながら、本発明にあっては、3〜25%、好ましくは5〜20%余分のアミン当量のアミノ化合物をエポキシ化合物と反応させた場合に好ましい結果が得られる。
【0019】
ポリアニリンはアニリンの重合体であり、導電性ポリアニリンと非導電性ポリアニリンとがあり、本発明にあっては必須の構成成分ではないが、pH5〜6の非導電性のポリアニリンを添加することにより、皮膜ペーストのpHを中性領域に調整できる効果がある。特に、エメラルジン塩基型ポリアニリンは好ましい。本発明にあっては、ポリアニリンの溶剤としてエポキシ硬化剤として使用するアミノ化合物をそのまま利用することができる。
【0020】
本発明の防食膜は、1)構成成分として必須な天然高分子多糖類を10倍ないし100倍量の水で膨潤させ、次いで70〜95℃で20分〜1時間撹拌してゲル化させたもの、2)ジアミノ化合物とエポキシ化合物を反応させ、ペースト状硬化体を得、このペースト状硬化体と3)犠牲極となる亜鉛微粒子を混合してペースト状皮膜材料を得る。このペーストは鋼材に塗布した後、約1時間で硬化を開始し、1日後には一見乾燥しているが実質的には鋼材表面に充分な水分を供給し、且つ亜鉛微粒子が流出し難い緻密な網目構造を有する防食皮膜の形成が完成する。
【実施例1】
【0021】
(1)鋼材の防食性の評価
防食性能の評価に用いた炭素鋼は、100×32×3mmの短冊状のSS400鋼(通称ミガキバー)であり、その成分組成は、
炭素(C) : 0.043%
珪素(Si) : 0.057%
マンガン(Mn): 0.317%
燐(P) : 0.014%
硫黄(S) : 0.008%
鉄(Fe) : 99.561%であった。
【0022】
実験室中における大気中の防食性は、目視観察によって発錆の有無を調べて判断した。その結果、実施例、比較例共に6か月以上の長期にわたって膜の変化はなく発錆しなかった。より過酷な条件を与えるために、3%塩化ナトリウム水溶液からなる擬似海水中に浸漬した。試験片のみの場合は1時間後に発錆し、時間の経過と共に錆は増大していった。一方、比較例の膜であっても膜を被覆した試験片は6か月は目視による変化を観察できなかったので、電気防食評価方法により電位を測定して評価した。
【0023】
(2)電気防食評価方法
3%塩化ナトリウム水溶液中に、実施例及び比較例で得られた皮膜を被覆した試験片を浸漬した。試験片の電位を、飽和銀塩化銀電極を用いてデジタルマルチメーターにて測定した。この電位に199mVを加算して標準水素電極電位基準(SHE)に変換した値をプルベの電位−pH図(図1)に当てはめて腐食域・不動態域・不活性域を評価した。図1に示す電位−pH図において、不活性域の境界が理論上の防食電位である。鋼材の示す電位が防食電位以下であれば電気防食が達成されたと判断される。このとき鋼材の状態は不活性となり錆を生じない。防食電位(Ep)は酸性から中性にかけては約−0.6Vである。アルカリ性では(1)式に示すように鋼材表面の溶液のpHに依存して変化する。実験では試験片の電位が防食電位より低い値を示すことが目標になる。
Ep=−0.085−0.0591×pH ………… (1)
以下の実施例、比較例においても擬似海水中で上記鋼材の、電位vsSHEを測定して防食効果の目安とした。
【0024】
(3)エポキシ樹脂三次元構造体の製造
非導電性ポリアニリンをTMDに溶解してポリアニリン4%溶液を得た。エポキシ化合物4.5gと4%ポリアニリンTMD溶液1gを混合したところ、エポキシ化合物とポリアニリンの溶媒であるTMDが反応し、エポキシ樹脂のペースト状三次元構造体が得られた。なお、エポキシ化合物としてはエピコート(商標名、ジャパンエポキシレジン社製、ビスフェノールA型エポキシ)及びビスフェノールF型エポキシを用いた。
【0025】
(4)皮膜材料の製造
一方、グルコマンナン1gを水40gに溶解し、80℃で30分間撹拌してゲル状物を得た。撹拌中に水分が蒸発して得られたグルコマンナンゲル濃度は約3%であった。
グルコマンナンゲル10g、亜鉛微粒子10g、(3)で得られたエポキシ樹脂三次元構造体全部を配合してペースト状の本発明皮膜材料を得た。得られた皮膜材料を、約3mm厚に試験片の端から60mmを全周にわたって塗布した。約1時間後に硬化が開始し1日後には硬化が完了した。なお、亜鉛微粒子としては塗料用亜鉛を用いた。
【実施例2】
【0026】
〔実施例2及び実施例3〕
グルコマンナンゲル10gに添加する亜鉛微粒子を20gとした以外は、実施例1と同様にして防食被覆された試験片を得て実施例2とした。更に、グルコマンナンゲル10gに添加する亜鉛微粒子を30gとした以外は、実施例1と同様にして防食被覆された試験片を得て実施例3とした。
更に、防食皮膜を塗布しない試験片を比較例1とし、表1に示す成分構成の皮膜を塗布した試験片を比較例2〜4とした。各実施例及び比較例に関して3%塩化ナトリウム水溶液浸漬後10日毎の電位vsSHEを(2)に示した電気防食評価方法により測定し表2に併記した。
【0027】
〔実施例4〜6〕
ポリアニリンを配合することなく、エポキシ化合物を直接TMDに溶解して、グルコマンナンゲル10g、亜鉛微粒子10g、20g及び30gと配合した以外は、表1に示すように、実施例1と同様にして防食皮膜を塗布した試験片を得た。その結果を表1及び表2に併記した。
本発明グルコマンナンゲル10gには、亜鉛微粒子を90gまで配合できることが判明した。
【0028】
比較例4の含水グルコマンナンゲルを用いずに、亜鉛微粒子、TMD、エポキシ化合物及びポリアニリンで製膜し、被覆した鋼材の電位は−0.6V以下にならず、防食効果はみられなかった。これは、含水グルコマンナンゲルが無いために防食電流を通すことができないためであった。これに対して、実施例1では、6ケ月後でも−0.6V以下の電位を保持し、防食効果を示した。
このことから、含水グルコマンナンゲルは、防食電流が流れる経路を確保するために必要な成分であることが明らかになった。
表1及び表2から明らかなように、本発明複合皮膜は亜鉛微粒子を良く補足して、水中に逃がすことなく、鋼材表面によく密着して長期にわたる防食効果を示した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
〔実施例7〕
皮膜成分の製造
グルコマンナン1gに代えてκ−カラギーナン1.5gを水40gに溶解し、80℃で30分間撹拌してゲル状物を得た。撹拌中に水分が蒸発して得られたκ−カラギーナンの濃度は約2.7%であった。
κ−カラギーナンゲル10g、亜鉛微粒子15g、(3)で得られたエポキシ樹脂三次元構造体全部を配合し、実施例1と同様にしてペースト状の本発明皮膜材料を得た。得られた皮膜材料を、実施例1と同様にして試験片に塗布し、皮膜配合比率を表3に、電気防食評価方法による電位を表4に示した。
【0032】
〔実施例8〜13〕
実施例1と同様にして、アルギン酸ナトリウム塩1.2gを水40gに溶解し、加熱撹拌してアルギン酸ナトリウム塩のゲルを製造し、得られた熱不可逆性アルギン酸ナトリウム塩のゲル10gを用いて実施例1と同様にして皮膜材料を得、実施例8とした。
カードラン1.2gを水40gに溶解し、加熱撹拌してカードランゲルを製造し、得られた熱不可逆性カードランゲル10gを用いて実施例1と同様にして皮膜材料を得、実施例9とした。
キトサン1.5gを水40gに溶解し、加熱撹拌してキトサンゲルを製造し、得られた熱不可逆性キトサンゲル10gを用いて実施例1と同様にして皮膜材料を得、実施例10とした。
【0033】
プルラン10gを水35gに溶解し、加熱撹拌してプルランゲルを製造し、得られた熱不可逆性プルランゲル10gを用いて実施例1と同様にして皮膜材料を得、実施例11とした。
グルコマンナン0.8gにブルラン0.2gを混合したものを水40gに溶解し、加熱撹拌してグルコマンナン−プルラン混合ゲルを製造し、得られた熱不可逆性グルコマンナン−プルラン混合ゲル10gを用いて実施例1と同様にして皮膜材料を得、実施例12とした。
【0034】
グルコマンナン0.8gにκ−カラギーナン0.2gを混合したものを水40gに溶解し、加熱撹拌してグルコマンナン−κ−カラギーナン混合ゲルを製造し、得られた熱不可逆性グルコマンナン−κ−カラギーナン混合ゲル10gを用いて実施例1と同様にして皮膜材料を得、実施例13とした。
実施例8〜13の不可逆性ゲル10gに、実施例1と同様に、表3に示す量の亜鉛微粒子、TMD、エポキシ化合物及びポリアニリンを加えて、ペースト状の皮膜材料をそれぞれ製造し、実施例1と同様にして鋼材に塗布し、3%塩化ナトリウム水溶液に浸漬して10日ごとのそれぞれの試験片の電位を測定し、実施例7の結果と共に表4に併記した。表4から明らかなように、鋼材表面によく密着して長期わたる防食効果を示した。
【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】不活性、腐食、不動態の理論的条件を示す電位−pH図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然高分子多糖類の不可逆性ゲルと、エポキシ化合物のアミノ化合物硬化体とからなる三次元複合構造体の、網目構造の中に、鉄より卑な金属の微粒子が散在していることを特徴とする鋼材の電気化学的防食膜。
【請求項2】
天然高分子多糖類の不可逆性ゲルと、ポリアニリンと、エポキシ化合物のアミノ化合物硬化体とからなる三次元複合構造体の、網目構造の中に、鉄より卑な金属の微粒子が散在していることを特徴とする鋼材の電気化学的防食膜。
【請求項3】
天然高分子多糖類が、グルコマンナン、カードラン、アルギン酸、アルギン酸塩、アルギン酸誘導体、アルギン酸誘導体の塩、κ−カラギーナン、キトサン及びプルランからなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載する鋼材の電気化学的防食膜。
【請求項4】
天然高分子多糖類がグルコマンナンであることを特徴とする請求項1又は2に記載する鋼材の電気化学的防食膜。
【請求項5】
鉄より卑な金属の微粒子が、亜鉛微粒子であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載する鋼材の電気化学的防食膜。
【請求項6】
エポキシ化合物の硬化剤として、2以上のアミノ基を有する脂肪族アミノ化合物が使用されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載する鋼材の電気化学的防食膜。
【請求項7】
エポキシ化合物が、ビスフェノールA型及び/又はビスフェノールF型のエポキシ化合物であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載する鋼材の電気化学的防食膜。
【請求項8】
エポキシ化合物のアミノ化合物硬化体を得るにあたって、エポキシ化合物に対し、化学量論的に使用すべきアミノ化合物のアミン当量より3〜25%多いアミノ化合物を使用することを特徴とする請求項6又は7記載の鋼材の電気化学的防食膜。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−111910(P2006−111910A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299078(P2004−299078)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000192903)神奈川県 (65)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【出願人】(591035195)ユニコロイド株式会社 (5)
【Fターム(参考)】