説明

防振ブッシュおよびその製造方法

【課題】インナ軸部材に対するストッパ部材の抜けを防止することによって、インナ軸部材のアウタ筒部材に対する軸方向の相対変位量を安定して制限することができる、新規な構造の防振ブッシュとその製造方法を提供すること。
【解決手段】インナ軸部材12とアウタ筒部材14を本体ゴム弾性体16で弾性連結した構造を有する防振ブッシュ10において、インナ軸部材12に対して外周面に開口する係止凹部52が形成されていると共に、インナ軸部材12に外嵌されるストッパ部材42には軸方向外側に突出する係止片54が設けられており、ストッパ部材42のインナ軸部材12からの抜けを防止する抜止手段56が、係止片54と係止凹部52の係止によって構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車のサスペンション機構においてサスペンションアームと車両ボデーを防振連結するため等に用いられる防振ブッシュとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のサスペンション機構等において、車輪を支持するサスペンションアームと車両ボデーとの連結部分には防振ブッシュが配設されており、それらサスペンションアームと車両ボデーが防振ブッシュを介して防振連結されている。この防振ブッシュは、例えば、特開2003−294084号公報(特許文献1)等に開示されているものであって、車両ボデーに取り付けられるインナ軸部材が、サスペンションアームの取付筒部に嵌着されるアウタ筒部材に挿通されており、それらインナ軸部材とアウタ筒部材が筒状の本体ゴム弾性体によって弾性連結された構造を有している。
【0003】
ところで、特許文献1に記載の防振ブッシュでは、走行安定性の向上や本体ゴム弾性体の耐久性の確保等を目的として、インナ軸部材とアウタ筒部材の軸方向での相対変位量を制限するストッパ手段が設けられている。即ち、インナ軸部材にはストッパ部材が圧入固定されており、サスペンションアームの取付筒部にストッパ部材が当接することで、インナ軸部材のアウタ筒部材に対する軸方向一方の側への相対変位を制限する第1ストッパ手段が構成されている。
【0004】
しかしながら、第1ストッパ手段を構成するストッパ部材は、インナ軸部材に対して圧入によって固定されているだけであるため、軸方向での抜けに対する抗力を大きく確保することが難しい。それ故、衝撃的な大荷重の入力によってストッパ部材がサスペンションアームの取付筒部に強く打ち当てられると、ストッパ部材がインナ軸部材に対して軸方向他方の側に抜け変位して、第1ストッパ手段による軸方向のストッパ効果が安定して発揮されなくなるおそれがある。その結果、目的とする自動車の走行安定性や本体ゴム弾性体の耐久性が充分には得られないという不具合が生じる場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−294084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、インナ軸部材に対するストッパ部材の抜けを防止することによって、インナ軸部材のアウタ筒部材に対する軸方向の相対変位量を安定して制限することができる、新規な構造の防振ブッシュとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の第1の態様は、インナ軸部材がアウタ筒部材に挿通されて、それらインナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結されていると共に、該インナ軸部材にはストッパ部材が外嵌されており、該インナ軸部材の該アウタ筒部材に対する軸方向への相対変位量を制限する第1ストッパ手段が該ストッパ部材を含んで構成されている防振ブッシュにおいて、前記インナ軸部材には外周面に開口する係止凹部が形成されていると共に、前記ストッパ部材には軸方向外側に突出する係止片が設けられており、該係止片と該係止凹部の係止によって該ストッパ部材の該インナ軸部材からの抜けを防止する抜止手段が構成されていることを、特徴とする。
【0008】
このような第1の態様に従う構造とされた防振ブッシュによれば、ストッパ部材の他部材(アウタ筒部材側)に対する当接時等に、当接反力によるストッパ部材のインナ軸部材からの抜けが、抜止手段によって防止される。この抜止手段は、ストッパ部材に設けられた係止片とインナ軸部材に設けられた係止凹部との軸方向での当接係止によって実現されていることから、ストッパ部材のインナ軸部材からの抜けに対して有効な抗力を得ることができる。それ故、第1ストッパ手段においてストッパ部材と他部材とのクリアランスが維持されて、目的とするストッパ作用が安定して発揮される。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載された防振ブッシュにおいて、前記係止凹部が前記インナ軸部材の全周に亘って連続的に延びる溝状とされているものである。
【0010】
第2の態様によれば、ストッパ部材をインナ軸部材に対して周方向で位置決めすることなく取り付けることが可能となって、ストッパ部材の取付作業が簡単になる。しかも、係止凹部を安定した形状で簡単に形成できることから、本発明に係る防振ブッシュの製造の容易化が図られる。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載された防振ブッシュにおいて、前記係止片が前記ストッパ部材の全周に亘って連続的に延びる環状とされているものである。
【0012】
第3の態様によれば、ストッパ部材とインナ軸部材の周方向での位置決めが不要となることから、ストッパ部材のインナ軸部材に対する取付作業を簡単にすることができる。しかも、目的とする形状の係止片を安定して簡単に形成することができて、防振ブッシュを容易に製造することができる。
【0013】
特に、全周に亘って連続する溝状の係止凹部と、全周に亘って連続する環状の係止片とを組み合わせて採用すれば、係止凹部と係止片を全周に亘って係止させて抜止手段を構成することができて、抜止手段において係止に基づく抜け抗力を大きく得ることができる。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の何れか1つの態様に記載された防振ブッシュにおいて、前記係止凹部の内面において軸方向内側に位置する部分が、軸方向内側に向かって次第に軸直角方向外側に傾斜する傾斜面とされているものである。
【0015】
第4の態様によれば、係止片の内周面と係止凹部の傾斜面が略隙間なく重ね合わされて、それら係止片の内周面と係止凹部の傾斜面との重ね合わせ面間に対する雨水等の異物の侵入が防止される。その結果、係止凹部や係止片の侵食等による損傷が防止されて、抜止手段の耐久性の向上が図られる。
【0016】
本発明の第5の態様は、第1〜第4の何れか1つの態様に記載された防振ブッシュにおいて、前記インナ軸部材の前記アウタ筒部材に対する軸方向一方の側への相対変位量が前記第1ストッパ手段によって制限されている一方、該インナ軸部材には外周側に突出するフランジ部が設けられており、該インナ軸部材の該アウタ筒部材に対する軸方向他方の側への相対変位量を制限する第2ストッパ手段が該フランジ部を含んで構成されているものである。
【0017】
第5の態様によれば、第1ストッパ手段と第2ストッパ手段とによって、インナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位が軸方向両側で制限されている。これにより、本体ゴム弾性体の耐久性や車両の走行安定性等の向上が実現される。しかも、第2ストッパ手段がインナ軸部材に設けられたフランジ部を利用して形成されていることから、少ない部品点数で軸方向両側のストッパ手段が実現されており、構造の著しい複雑化も回避される。
【0018】
本発明の第6の態様は、第1〜第5の何れか1つの態様に記載された防振ブッシュの製造方法であって、(a)前記係止凹部を備えた前記インナ軸部材を前記アウタ筒部材に挿通配置して、それらインナ軸部材とアウタ筒部材を前記本体ゴム弾性体によって弾性連結する工程と、(b)前記係止片を備えた前記ストッパ部材を準備する工程と、(c)該ストッパ部材を該インナ軸部材に外嵌して位置決めする工程と、(d)内周面に軸方向外側に向かって次第に拡径するテーパ面が設けられた筒状ジグを該インナ軸部材に外挿して、該インナ軸部材に対して位置決めされた該ストッパ部材の該係止片に対して該筒状ジグの該テーパ面を軸方向に押し当てて該係止片の突出先端部を該係止凹部に曲げ入れることにより該係止片と該係止凹部を軸方向で係止させて抜止手段を構成する工程とを有することを、特徴とする。
【0019】
このような第6の態様に従う防振ブッシュの製造方法によれば、筒状ジグのテーパ面を係止片に軸方向で押し当てて、係止片をテーパ面によって塑性変形させて係止凹部に曲げ入れることにより、係止片を係止凹部に係止させて抜止手段を構成することができる。それ故、抜止手段を構成する際に、八方絞り等の径方向での加工を係止片に施す必要がなく、加工作業を簡単に行うことができる。
【0020】
しかも、筒状ジグの軸方向での押当てによって係止片を径方向に変形させることから、係止片を周上で均一に変形させ易く、変形後の係止片の形状を安定させることができる。従って、抜止手段において係止片と係止凹部との係止に基づいた抜け抗力が安定して発揮される。
【0021】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載された防振ブッシュの製造方法において、前記インナ軸部材の外周面に段差部が設けられており、前記筒状ジグの当接による前記ストッパ部材の該インナ軸部材に対する軸方向内側への相対変位を規制する位置決め手段が該ストッパ部材の該段差部への当接によって構成されているものである。
【0022】
第7の態様によれば、筒状ジグのテーパ面が係止片に対して軸方向に押し当てられる際に、筒状ジグから係止片(ストッパ部材)に及ぼされる軸方向の押圧力によってストッパ部材がインナ軸部材に対して目的とする取付け位置からずれるのを防ぐことができる。従って、ストッパ部材がインナ軸部材に対して正しい位置に取り付けられて、目的とするストッパ効果や防振効果が発揮される。
【0023】
しかも、ストッパ部材のインナ軸部材に対する位置決めが、インナ軸部材の段差部を利用した位置決め手段によって実現されており、位置決め用の特別な部品やジグを必要としない。それ故、部品点数の増加による構造の複雑化や製造工程数の増加を回避することができると共に、ジグへのセット作業等が不要となることで作業を簡単化することも可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、係止凹部に対して係止片が軸方向で係止されていることによって抜止手段が構成されており、ストッパ部材がインナ軸部材に対して軸方向で抜け側に変位するのを防止されている。それ故、ストッパ部材とアウタ筒部材側との当接によるストッパ作用が有効に発揮されて、インナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位量が制限されることによる耐久性や走行安定性の向上が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の1実施形態としての防振ブッシュを示す縦断面図。
【図2】図1に示された防振ブッシュを構成する一体加硫成形品の縦断面図。
【図3】図1に示された防振ブッシュを構成するストッパ部材を示す縦断面図。
【図4】図1に示された防振ブッシュの要部を拡大して示す部分断面図。
【図5】図1に示された防振ブッシュの製造方法を説明する図であって、(a)が筒状ジグのインナ軸部材への外挿状態を、(b)が筒状ジグの係止片への押当て状態を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1には、本発明に従う構造とされた防振ブッシュの1実施形態として、自動車用のサスペンションブッシュ10が示されている。サスペンションブッシュ10は、インナ軸部材12がアウタ筒部材14に挿通されていると共に、それらインナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を有している。なお、以下の説明において、軸方向とは、原則として図1中の左右方向を言う。また、図1では、サスペンションブッシュ10が実線で示されていると共に、後述する車両ボデー64(取付用のボルトとナットを含む)および取付筒部66が2点鎖線で示されている。
【0028】
より詳細には、インナ軸部材12は、鉄やアルミニウム合金等の金属で形成された高剛性の部材であって、略円柱形状とされた中央本体部18と、中央本体部18から軸方向両側に突出する一対の取付部20,20とを一体で備えている。
【0029】
中央本体部18は、略円形断面で軸方向に延びる中実の部材であって、軸方向中間部分に環状の段差部22が設けられており、段差部22を挟んで軸方向一方の側(図1中、右側)が大径部24とされていると共に、軸方向他方の側(図1中、左側)が小径部26とされている。更に、中央本体部18の軸方向一方の端部付近には、軸直角方向外側に向かって突出する環状のフランジ部28が一体形成されている。なお、段差部22は、中央本体部18の軸方向中央に対して軸方向他方側に偏倚した位置に設けられている。
【0030】
一方、一対の取付部20,20は、略同一の板形状を有しており、互いに同一方向を厚さ方向として中央本体部18から軸方向外側に突出している。更に、各取付部20の中央部分には、厚さ方向に貫通するボルト孔30が形成されている。なお、取付部20の上下方向視(図1中の上下方向視)での形状は、特に限定されるものではなく、一対の取付部20,20において相互に異なっていても良い。
【0031】
アウタ筒部材14は、全体として薄肉大径の略円筒形状を有しており、インナ軸部材12と同様の金属材料で形成された高剛性の部材とされている。また、アウタ筒部材14は、円筒形状の筒状部32を備えており、筒状部32の軸方向一方の端部に軸直角方向外側に突出するフランジ状の当接部34が設けられていると共に、筒状部32の軸方向他方の端部が内周側に曲げられている。なお、筒状部32および当接部34を一体で備えたアウタ筒部材14は、筒状とされた金属材の軸方向両端部に対して、プレス等の手段で曲げ加工を施すことにより、容易に得ることができる。
【0032】
そして、インナ軸部材12がアウタ筒部材14に挿通されており、インナ軸部材12の中央本体部18がアウタ筒部材14の筒状部32に対して同一中心軸上に配置されて径方向に所定の距離で離隔していると共に、一対の取付部20,20がアウタ筒部材14よりも軸方向外側に突出して配置されている。
【0033】
このように配置されたインナ軸部材12とアウタ筒部材14の間には、本体ゴム弾性体16が配設されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉大径の略円筒形状を有しており、内周面がインナ軸部材12の中央本体部18の外周面に加硫接着されていると共に、外周面がアウタ筒部材14の筒状部32の内周面に加硫接着されている。これにより、インナ軸部材12とアウタ筒部材14は、本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体16がインナ軸部材12とアウタ筒部材14を備えた一体加硫成形品36として形成されている(図2参照)。
【0034】
また、本体ゴム弾性体16の軸方向一方の端部には、フランジ状のストッパゴム38が一体形成されている。このストッパゴム38は、軸方向一方の端面がインナ軸部材12のフランジ部28に加硫接着されていると共に、軸方向他方の端面がアウタ筒部材14の当接部34に加硫接着されており、フランジ部28と当接部34の間に介在されている。なお、ストッパゴム38の外周面は、軸方向一方の側に向かって次第に小径となる凹状の湾曲面とされている。
【0035】
さらに、本体ゴム弾性体16の軸方向他方の端部には、すぐり部40が形成されている。すぐり部40は、本体ゴム弾性体16の径方向中間部分を略一定の断面形状で環状に延びる凹所であって、本体ゴム弾性体16の軸方向他方の端面に開口している。
【0036】
また、インナ軸部材12には、別体のストッパ部材42が外嵌装着されている。ストッパ部材42は、図3に示されているように、鉄やアルミニウム合金等で形成されて高剛性の部材であって、略円環板形状を有している。また、ストッパ部材42は、内周部分44が外周部分46よりも厚肉とされていると共に、内周部分44と外周部分46が互いに異なる略一定の厚さで広がっており、それら内周部分44と外周部分46が内周側に向かって次第に厚肉となるテーパ部48を介して一体形成されている。
【0037】
さらに、ストッパ部材42の外周部分46には、緩衝ゴム50が固着されている。緩衝ゴム50は、略一定の断面形状で周方向に連続する環状のゴム弾性体であって、ストッパ部材42の外周部分46に加硫接着されて、軸方向一方側の面上に配設されている。
【0038】
そして、緩衝ゴム50を備えたストッパ部材42は、一体加硫成形品36のインナ軸部材12に取り付けられている。即ち、ストッパ部材42は、インナ軸部材12に対して軸方向他方の側から外挿されて、中央本体部18の小径部26に圧入固定されている。更に、ストッパ部材42は、内周部分44が段差部22に対して軸方向で当接することによって、インナ軸部材12に対して軸方向で位置決めされている。
【0039】
また、インナ軸部材12とストッパ部材42の間には、インナ軸部材12に設けられた係止凹部52と、ストッパ部材42に設けられた係止片54とによって、ストッパ部材42のインナ軸部材12からの軸方向での抜けを防止する抜止手段56が構成されている。
【0040】
係止凹部52は、インナ軸部材12の外周面に開口して、インナ軸部材12の周方向で全周に亘って連続的に延びる溝状(環状溝)であって、中央本体部18の小径部26の軸方向中間部分に形成されている。また、係止凹部52の内面において、軸方向内側(軸方向一方の側)に位置する部分が、軸方向一方の側に向かって次第に軸直角方向外側に傾斜するテーパ状の傾斜面58とされている。更に、係止凹部52の内面において、軸方向外側(軸方向他方の側)に位置する部分が、略軸直角方向に広がる環状の係止面60とされている。そして、係止凹部52は、それら傾斜面58と係止面60が湾曲凹状面を介して連続的に設けられた滑らかな内面形状を有している。
【0041】
係止片54は、ストッパ部材42の周方向で全周に亘って連続的に延びる環状乃至は筒状とされており、ストッパ部材42の内周端部から軸方向外側(軸方向他方の側)に突出している。また、係止片54は、図3に示されているように、後述するストッパ部材42のインナ軸部材12への組付け前には、略一定の直径で軸方向に延びる筒状とされている。
【0042】
そして、係止片54は、ストッパ部材42のインナ軸部材12への組付け時に、先端部分が先端側に向かって次第に小径となるテーパ形状に加工される(図4参照)。これにより、係止片54が係止凹部52に曲げ入れられて、係止片54の突出先端面と係止凹部52の係止面60が外周部分において軸方向で当接しており、それら係止凹部52と係止片54が軸方向に係止されている。その結果、ストッパ部材42のインナ軸部材12に対する軸方向他方の側への抜けが、係止片54と係止凹部52の係止によって制限されており、もって、ストッパ部材42のインナ軸部材12からの軸方向での抜けを防止する抜止手段56が、係止片54と係止凹部52を含んで構成されている。
【0043】
なお、係止凹部52の傾斜面58の傾斜角度が、テーパ形状とされた係止片54の傾斜に沿うように設定されており、係止片54の内周面と係止凹部52の傾斜面58との隙間が極めて小さくされて、それらの面が略密着している。これら係止片54および傾斜面58の傾斜角度は、特に限定されるものではないが、加工のし易さ等を考慮して、好適には、軸方向に対して15°〜60°の範囲に設定され、本実施形態では45°程度とされている。
【0044】
このような構造とされたサスペンションブッシュ10は、インナ軸部材12が車両ボデー64にボルト等によって固定されると共に、アウタ筒部材14がサスペンションアームの取付筒部66に圧入固定されることによって、車両に装着されている。このように、サスペンションブッシュ10が自動車のサスペンション機構においてサスペンションアームと車両ボデー64の間に介装されることにより、サスペンションアームが車両ボデー64によって防振支持されている。
【0045】
かくの如きサスペンションブッシュ10の車両への装着状態において、路面の凹凸を乗り越える際等に衝撃的な大荷重が入力されて、インナ軸部材12がアウタ筒部材14に対して軸方向一方の側に大きく相対変位すると、ストッパ部材42がサスペンションアームの取付筒部66に緩衝ゴム50を介して当接する。これにより、インナ軸部材12のアウタ筒部材14に対する軸方向一方側への相対変位量が制限されて、走行安定性の向上や本体ゴム弾性体16の損傷防止等が実現される。なお、このことからも明らかなように、サスペンションブッシュ10では、インナ軸部材12のアウタ筒部材14に対する軸方向一方の側への変位を制限する第1ストッパ手段が、ストッパ部材42と取付筒部66の緩衝ゴム50を介した当接によって構成されている。
【0046】
本実施形態では、ストッパ部材42がインナ軸部材12に対して圧入されているのみならず、ストッパ部材42の係止片54がインナ軸部材12の係止凹部52に係止された抜止手段56が設けられている。それ故、衝撃的な大荷重の入力によってストッパ部材42が取付筒部66に対して強く打ち当てられても、ストッパ部材42のインナ軸部材12に対する軸方向外側(図1中、左方)への相対変位が防止されて、目的とするストッパ効果を安定して得ることができる。
【0047】
しかも、係止凹部52の軸方向内側(図1中、右側)の内面が傾斜面58とされており、係止片54の内周面が傾斜面58に略密着状態で重ね合わされている。これにより、係止片54の内周面と係止凹部52の間に水等の異物が侵入するのを防いで、耐久性の向上が図られる。
【0048】
加えて、係止凹部52の軸方向外側(図1中、左側)の内面が略軸直角方向に広がる係止面60とされていることから、抜止手段56において係止による位置決め作用(抜けに対する抗力)が有効に得られて、ストッパ部材42のインナ軸部材12からの抜けが防止される。
【0049】
また、インナ軸部材12に形成された係止凹部52が周方向に連続して延びる環状の溝とされていると共に、ストッパ部材42に形成された係止片54が周方向に連続する円環状乃至は円筒状とされている。これによって、ストッパ部材42のインナ軸部材12に対する周方向での位置決めが不要とされており、ストッパ部材42をインナ軸部材12に対して簡単に組み付けることができる。
【0050】
しかも、係止凹部52と係止片54が何れも全周に亘って形成されていることから、抜止手段56が全周に亘って設けられている。それ故、抜止手段56によるストッパ部材42のインナ軸部材12からの抜けに対する抗力を、効果的に得ることができる。
【0051】
さらに、ストッパ部材42は、内周部分44が外周部分46よりも厚肉とされており、ストッパ部材42のインナ軸部材12に対する圧入面積が大きく確保されている。それ故、圧入固定に基づいたストッパ部材42のインナ軸部材12に対する位置決め作用も有利に発揮される。
【0052】
なお、ストッパ部材42のインナ軸部材12に対する軸方向他方側への変位は、ストッパ部材42の段差部22への当接と、係止片54の傾斜面58への係止によって制限されている。
【0053】
一方、インナ軸部材12のアウタ筒部材14に対する軸方向他方側への相対変位量は、インナ軸部材12のフランジ部28とアウタ筒部材14がストッパゴム38を介して当接することによって制限されている。従って、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の軸方向での相対変位量が軸方向両側において制限されて、走行安定性や本体ゴム弾性体16の耐久性向上が実現される。このことからも明らかなように、サスペンションブッシュ10では、インナ軸部材12のアウタ筒部材14に対する軸方向他方の側への変位を制限する第2ストッパ手段が、フランジ部28とアウタ筒部材14の間でストッパゴム38が軸方向に大きく圧縮されることによって、実現されている。なお、ストッパゴム38がアウタ筒部材14の当接部34側に向かって次第に大径となっていることによって、ストッパゴム38における実質的な圧縮部分が大きく確保されて、ストッパ効果が有利に発揮されるようになっている。
【0054】
また、インナ軸部材12のフランジ部28とアウタ筒部材14の軸方向間に配設されたストッパゴム38が、それらフランジ部28とアウタ筒部材14の両方に固着されている。これにより、インナ軸部材12がアウタ筒部材14に対して軸方向他方の側に変位する際には、ストッパゴム38が圧縮ばねとして機能して、軸方向ばねが調節されることから、目的とする防振性能や走行安定性等を有利に得ることができる。
【0055】
なお、このような抜止手段56を備えた本実施形態に係るサスペンションブッシュ10は、例えば以下の如くして製造される。
【0056】
すなわち、係止凹部52を備えたインナ軸部材12とアウタ筒部材14を準備して、本体ゴム弾性体16の成形用金型にセットし、ゴム材料を充填して本体ゴム弾性体16を加硫成形する。これにより、インナ軸部材12とアウタ筒部材14を本体ゴム弾性体16によって弾性連結して、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品36を形成する工程が完了する。
【0057】
一方、係止片54を備えたストッパ部材42を緩衝ゴム50の成形用金型にセットした後、成形用金型のキャビティにゴム材料を充填して、緩衝ゴム50を加硫成形する。これにより、緩衝ゴム50を備えたストッパ部材42を準備する工程が完了する。なお、この時点において、係止片54は、先端部分を含んだ全体が軸方向に延びる円筒形状とされており、テーパ形状とされていない。
【0058】
そして、一体加硫成形品36のアウタ筒部材14をサスペンションアームの取付筒部66に対して軸方向一方の側から圧入固定した後、ストッパ部材42をインナ軸部材12に対して軸方向他方の側から圧入固定する。この際、ストッパ部材42をインナ軸部材12の段差部22に当接させることにより、ストッパ部材42のインナ軸部材12に対する軸方向内側への相対変位を規制する位置決め手段を構成し、係止片54を係止凹部52の開口部上に配置する。これにより、ストッパ部材42をインナ軸部材12に対して外嵌して軸方向で位置決めする工程が完了する。
【0059】
なお、後述する筒状ジグ68による押圧に伴って係止片54が軸方向で僅かに圧縮されることを考慮して、変形前の係止片54の突出先端が係止凹部52の開口部よりも軸方向外側まで突出するように位置決めしても良い。これによれば、係止片54の変形後に係止片54の突出先端面と係止凹部52の係止面60との間にできる隙間が小さくなって、異物の侵入を防ぐことができる。
【0060】
その後、図5の(a)に示されているように、筒状ジグ68をインナ軸部材12に軸方向他方の側から外挿する。この筒状ジグ68は、少なくともインナ軸部材12に外挿される側の端部(軸方向一方の端部)において、内径寸法がインナ軸部材12の小径部26の外径寸法と略等しい円筒形状とされており、軸方向一方の端部の内周面がテーパ面70とされている。このテーパ面70は、軸方向外側に向かって次第に拡径しており、軸方向端部における最大直径が係止片54の突出先端部の外径よりも大きくされていることが望ましい。なお、テーパ面70は、図5に示されているように軸方向に対して略一定の角度で傾斜する平面形状の他、軸方向に対する傾斜角度が連続的に変化する湾曲面形状や、軸方向に対する傾斜角度が段階的に変化する多角面形状等も採用され得る。
【0061】
そして、筒状ジグ68を軸方向一方の側に移動させることによって、筒状ジグ68のテーパ面70をストッパ部材42の係止片54に対して軸方向に押し当てる。これにより、図5の(b)に示されているように、係止片54の突出先端部分をテーパ面70の傾斜に沿って内周側に倒れ込むように塑性変形させて、係止片54をインナ軸部材12の係止凹部52に入り込ませる。以上によって、係止片54を係止凹部52に軸方向で係止させて抜止手段56を構成する工程が完了する。
【0062】
最後に、筒状ジグ68を軸方向他方の側に移動させて取り除くことにより、本実施形態に従う構造のサスペンションブッシュ10を得ることができる。
【0063】
なお、例えば、取付筒部66がそれぞれ半円筒形状を有する一対の部材を組み合わせた構造とされている場合等、ストッパ部材42のインナ軸部材12への固定後にアウタ筒部材14を取付筒部66に取り付けることが可能な場合には、ストッパ部材42をインナ軸部材12に固定してサスペンションブッシュ10を完成させてから、アウタ筒部材14を取付筒部66に取り付けても良い。
【0064】
このように、本実施形態に係るサスペンションブッシュ10の製造方法によれば、筒状ジグ68に設けられたテーパ面70の案内作用を利用することで、筒状ジグ68を係止片54に対して軸方向で押し当てることによって、係止片54をテーパ形状に加工して係止凹部52に係止させることができる。それ故、係止片54を係止凹部52に係止させるための加工用ジグとして、簡単な構造の筒状ジグ68を採用することができて、サスペンションブッシュ10を安価に製造することができる。しかも、筒状ジグ68の係止片54に対する軸方向での押当てという簡単な加工作業によって、目的とする係止片54の加工後形状を安定して得ることができる。
【0065】
さらに、インナ軸部材12に段差部22が設けられており、ストッパ部材42がインナ軸部材12への圧入によって段差部22に当接される。これにより、筒状ジグ68が係止片54に対して軸方向で押し当てられても、ストッパ部材42がインナ軸部材12に対してずれることなく位置決めされて、筒状ジグ68による押圧力に対する反力が有効に発揮される。従って、係止片54の加工後形状の安定化が図られると共に、ストッパ部材42をインナ軸部材12上の目的とする位置に取り付けることができる。しかも、位置決め手段がインナ軸部材12の段差部22とストッパ部材42との当接によって構成されていることから、位置決め用の特別な部品やジグが不要であり、ストッパ部材42をインナ軸部材12に対して簡単な構造で容易に位置決めすることができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、係止凹部の断面形状は、必ずしも前記実施形態で示されたものに限定されるものではなく、矩形や半円形等の断面形状も採用され得る。
【0067】
また、係止凹部は、必ずしも全周に亘って連続する環状の溝には限定されず、例えば、周上で部分的に設けられた凹所状等であっても良い。更に、係止片も、必ずしも全周に亘って連続する環状乃至は筒状とされていなくても良く、例えば、周上で部分的に設けられた板状等であっても良い。なお、部分的な係止凹部と部分的な係止片を組み合わせて採用可能であることは言うまでもないが、環状の係止凹部52と部分的な係止片を組み合わせて採用可能であると共に、部分的な係止凹部と環状の係止片54を組み合わせて採用し、係止片54を部分的に変形させて係止させることも可能である。
【0068】
また、前記実施形態では、筒状ジグ68による押圧の反力を得るために、インナ軸部材12に段差部22が設けられていたが、例えば、筒状ジグ68による係止片54の加工時にストッパ部材42を別のジグで支持することにより反力を得ても良く、この場合には、インナ軸部材12の段差部22を省略することも可能である。
【0069】
また、前記実施形態では、ストッパ部材42が緩衝ゴム50を介して取付筒部66に当接することで、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の軸方向での相対変位量を制限する第1ストッパ手段が構成されていたが、第1ストッパ手段は、例えば、ストッパ部材42とアウタ筒部材14の当接を利用して実現されていても良い。
【0070】
また、前記実施形態では、インナ軸部材12のアウタ筒部材14に対する軸方向他方の側への変位を制限する第2ストッパ手段が、インナ軸部材12に一体形成されたフランジ部28を含んで構成されていたが、第2ストッパ手段として別の構造を採用することも可能である。具体的には、例えば、インナ軸部材の右半分にも左半分と同様の構造を採用して、ストッパ部材42をインナ軸部材の右半分にも取り付けることで、第1ストッパ手段と略同一構造の第2ストッパ手段を設けても良い。他の構造としては、例えば、フランジ部28が外周側により大きく突出されて、アウタ筒部材14の当接部34と軸方向投影において重なり合うように配置されると共に、本体ゴム弾性体16からストッパゴム38が取り除かれており、それらフランジ部28と当接部34の当接によって第2ストッパ手段が構成されていても良い。なお、第2ストッパ手段は必須ではなく、本体ゴム弾性体16の耐久性や自動車の走行安定性等が確保されれば、省略されていても良い。
【0071】
また、インナ軸部材におけるストッパ部材42の取付部分は、中実の円柱状に限定されるものではなく、例えば、厚肉小径の円筒状等であっても良い。
【0072】
また、本発明は、自動車用の防振ブッシュだけに適用されるものではなく、例えば、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両等に用いられる防振ブッシュにも好適に適用される。更に、前記実施形態では、サスペンションアームと車両ボデー64との連結部分に用いられるサスペンションブッシュ10が例示されているが、本発明に係る防振ブッシュは必ずしも当該部位に用いられるものに限定されず、例えば、本発明は、トルクロッドブッシュ等にも好適に適用され得る。
【符号の説明】
【0073】
10:サスペンションブッシュ(防振ブッシュ)、12:インナ軸部材、14:アウタ筒部材、16:本体ゴム弾性体、22:段差部、28:フランジ部、42:ストッパ部材、52:係止凹部、54:係止片、56:抜止手段、58:傾斜面、68:筒状ジグ、70:テーパ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材がアウタ筒部材に挿通されて、それらインナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結されていると共に、該インナ軸部材にはストッパ部材が外嵌されており、該インナ軸部材の該アウタ筒部材に対する軸方向への相対変位量を制限する第1ストッパ手段が該ストッパ部材を含んで構成されている防振ブッシュにおいて、
前記インナ軸部材には外周面に開口する係止凹部が形成されていると共に、前記ストッパ部材には軸方向外側に突出する係止片が設けられており、該係止片と該係止凹部の係止によって該ストッパ部材の該インナ軸部材からの抜けを防止する抜止手段が構成されていることを特徴とする防振ブッシュ。
【請求項2】
前記係止凹部が前記インナ軸部材の全周に亘って連続的に延びる溝状とされている請求項1に記載の防振ブッシュ。
【請求項3】
前記係止片が前記ストッパ部材の全周に亘って連続的に延びる環状とされている請求項1又は2に記載の防振ブッシュ。
【請求項4】
前記係止凹部の内面において軸方向内側に位置する部分が、軸方向内側に向かって次第に軸直角方向外側に傾斜する傾斜面とされている請求項1〜3の何れか1項に記載の防振ブッシュ。
【請求項5】
前記インナ軸部材の前記アウタ筒部材に対する軸方向一方の側への相対変位量が前記第1ストッパ手段によって制限されている一方、該インナ軸部材には外周側に突出するフランジ部が設けられており、該インナ軸部材の該アウタ筒部材に対する軸方向他方の側への相対変位量を制限する第2ストッパ手段が該フランジ部を含んで構成されている請求項1〜4の何れか1項に記載の防振ブッシュ。
【請求項6】
第1〜第5の何れか1項に記載された防振ブッシュの製造方法であって、
前記係止凹部を備えた前記インナ軸部材を前記アウタ筒部材に挿通配置して、それらインナ軸部材とアウタ筒部材を前記本体ゴム弾性体によって弾性連結する工程と、
前記係止片を備えた前記ストッパ部材を準備する工程と、
該ストッパ部材を該インナ軸部材に外嵌して位置決めする工程と、
内周面に軸方向外側に向かって次第に拡径するテーパ面が設けられた筒状ジグを該インナ軸部材に外挿して、該インナ軸部材に対して位置決めされた該ストッパ部材の該係止片に対して該筒状ジグの該テーパ面を軸方向に押し当てて該係止片の突出先端部を該係止凹部に曲げ入れることにより該係止片と該係止凹部を軸方向で係止させて抜止手段を構成する工程と
を有することを特徴とする防振ブッシュの製造方法。
【請求項7】
前記インナ軸部材の外周面に段差部が設けられており、前記筒状ジグの当接による前記ストッパ部材の該インナ軸部材に対する軸方向内側への相対変位を規制する位置決め手段が該ストッパ部材の該段差部への当接によって構成されている請求項6に記載の防振ブッシュの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−2608(P2013−2608A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137161(P2011−137161)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】