説明

防振マウント

【課題】 振幅の大きな振動を減衰させるのに加えて、微小振動を吸収することができる防振マウントを提供する。
【解決手段】 ケーシング12内には弾性体14を介して筒状容器15を取付けると共に、筒状容器15内には取付軸18を設ける。また、筒状容器15の底部16Bと取付軸18のフランジ部18Bとの間にはばね部材20を設けると共に、筒状容器15の蓋体17と取付軸18のフランジ部18Bとの間には圧電アクチュエータ21を挟持する。さらに、筒状容器15の底部16Bには、粘性液体23中に位置して可動板24を設ける。これにより、弾性体14、可動板24等によって振幅の大きな振動を減衰させることができると共に、ばね部材20、圧電アクチュエータ21等によって振幅の小さな微小振動を吸収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建設機械の旋回フレームとキャブとの間、鉄道車両の走行装置と車体との間、工場の床と機械装置との間等、一の部材上に他の部材を取付けるときに両者間に用いて好適な防振マウントに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル、油圧クレーン等の建設機械は、自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体の旋回フレーム上に防振マウントを介して設けられたキャブと、上部旋回体の前部側に俯仰動可能に設けられた作業装置とにより大略構成されている。
【0003】
ここで、防振マウントは、掘削作業時の振動、下部走行体の走行時の振動がフレームからキャブに伝わるのを抑え、運転室内の居住性を高めるものである。そして、この種の防振マウントとして、旋回フレームに取付けられるケーシングと、該ケーシング内に粘性液体を封入した状態で固着された弾性体と、該弾性体に固着されキャブに取付けられる取付軸と、該取付軸に設けられ粘性液体が流通するときに抵抗力を与える減衰力発生部材とにより構成された液体封入式の防振マウントが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−308688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来技術では、振動の振幅が小さくなるに従って動ばね定数が増大し、かつ損失係数が減少する傾向がある。即ち、振動が小さいときには、動ばね定数の増大と損失係数の減少によって振動伝達率が増大し、振動吸収特性が低下する傾向がある。このため、従来技術では、例えば走行振動やエンジン振動のように、継続的な微小振動が発生する状況では、旋回フレームの振動がキャブに伝わり易くなり、乗り心地が悪化するという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、振幅の大きな振動を減衰させるのに加えて、微小振動を吸収することができる防振マウントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために請求項1の発明による防振マウントは、ケーシングと、該ケーシングに設けられた弾性材料からなる弾性体と、該弾性体に設けられ、軸方向の一側に軸挿通孔を有すると共に軸方向の他側が底部となった筒状容器と、該筒状容器に挿入され、基端側が該筒状容器内に位置し先端側が該筒状容器の軸挿通孔から突出した取付軸と、前記筒状容器の内部に設けられ、伸張または縮小によって該取付軸を前記筒状容器に進入する方向または前記筒状容器から突出する方向に変位させる圧電アクチュエータと、前記筒状容器の内部に設けられ、該圧電アクチュエータに予圧縮荷重を作用させる付勢部材とからなり、前記圧電アクチュエータは、前記筒状容器側と取付軸側とのうち少なくともいずれか一方に対して固着しない状態で取付けられ、前記弾性体と圧電アクチュエータは、前記筒状容器を介して荷重伝達経路上で直列に配置する構成としている。
【0008】
請求項2の発明は、前記筒状容器は、軸方向の一側が開口すると共に軸方向の他側が閉塞された有底筒状に形成され、前記圧電アクチュエータ、取付軸の基端側および付勢部材を内部に収容する筒部材と、前記取付軸が挿通される軸挿通孔を有して該筒部材の開口側に設けられ、該筒部材の底部との間に前記圧電アクチュエータ、取付軸の基端側および付勢部材を挟持する蓋体とによって構成している。
【0009】
請求項3の発明は、前記取付軸の基端側には、前記圧電アクチュエータと付勢部材との間に挟持されるフランジ部を設ける構成としている。
【0010】
請求項4の発明では、前記圧電アクチュエータは、前記取付軸の軸方向に向けて積層された複数の圧電素子によって構成している。
【0011】
請求項5の発明では、前記ケーシングと取付軸とのうち少なくともいずれか一方の振動を検出する振動検出手段を設け、前記圧電アクチュエータには、該振動検出手段による検出信号に基づいて当該圧電アクチュエータの伸張、縮小を制御する制御手段を接続して設け、該制御手段は、前記振動検出手段による検出信号に基づいて前記圧電アクチュエータで振動を吸収するための制御信号を演算し、該制御信号を前記圧電アクチュエータに出力する構成としている。
【0012】
請求項6の発明では、前記ケーシングは、軸方向の一側が開口すると共に軸方向の他側が閉塞された有底筒状に形成され、前記弾性体は、該ケーシング内に粘性液体を封入した状態で該ケーシングの開口側を閉塞し、前記筒部材の底部側には、前記粘性液体中に位置して前記弾性体の弾性変形に応じて粘性液体が流通するときに抵抗力を与える減衰力発生部材を設ける構成としている。
【0013】
請求項7の発明では、前記圧電アクチュエータは、伸張したときに前記付勢部材に抗して前記筒状容器に進入する方向に前記取付軸を変位させ、縮小したときに前記付勢部材の付勢力によって前記筒状容器から突出する方向に前記取付軸を変位させる構成としている。
【0014】
請求項8の発明では、前記圧電アクチュエータは、伸張したときに前記付勢部材に抗して前記筒状容器から突出する方向に前記取付軸を変位させ、縮小したときに前記付勢部材の付勢力によって前記筒状容器に進入する方向に前記取付軸を変位させる構成としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、弾性体と圧電アクチュエータとを筒状容器を介して荷重伝達経路上で直列に設けたから、振幅の大きな振動は弾性体を用いて減衰させることができると共に、振幅の小さい振動は圧電アクチュエータを用いて吸収することができる。このため、ケーシングが取付けられた一の部材から取付軸が取付けられた他の部材に伝わる振動を、振幅の大小に拘らず、弾性体と圧電アクチュエータとによって減衰させ、吸収することができる。この結果、防振マウント全体として、大きな振幅の振動と微小振幅の振動とに対する振動吸収効果を両立することができる。これにより、例えば弾性体では振幅の小さい微小振動を吸収できないときでも、この微小振動を圧電アクチュエータを用いて吸収することができる。
【0016】
また、微小振動の吸収には圧電アクチュエータを用いるから、他のアクチュエータを用いた場合に比べて、制御信号に対する応答性を向上することができる。このため、より高い周波数範囲に亘って防振効果を得ることができる。一方、一般的に、圧電アクチュエータは引張り応力に対して機械的な強度が不足する傾向がある。これに対し、本発明では、圧電アクチュエータはケーシング側と取付軸側とのうち少なくともいずれか一方に対して固着しない状態で取付ける構成としたから、圧電アクチュエータに引張り応力が作用することがなく、圧電アクチュエータの信頼性、耐久性を高めることができる。
【0017】
さらに、付勢部材は圧電アクチュエータを予め圧縮する予圧縮荷重を作用させるから、振動によって圧電アクチュエータががた付くことがなくなる。このため、圧電アクチュエータが伸張するときの力を速やかに取付軸とケーシングとの間に作用させることができ、時間遅延が生じることなく振動を減衰させることができる。
【0018】
請求項2の発明によれば、筒部材の底部と蓋体との間に圧電アクチュエータ、取付軸の基端側および付勢部材を挟持する構成としたから、付勢部材は、筒部材の底部と蓋体との間で圧電アクチュエータを軸方向に予め圧縮することができる。このため、振動によって圧電アクチュエータががた付くことがなく、予圧縮した状態で筒部材の底部と蓋体との間に圧電アクチュエータを保持することができる。また、取付軸の基端側は圧電アクチュエータおよび付勢部材と一緒に挟持されるから、圧電アクチュエータの伸張、縮小に応じて取付軸の基端側を軸方向に変位させることができる。このため、圧電アクチュエータの伸張、縮小を制御することによって、取付軸の軸方向に生じる振動を吸収することができる。
【0019】
請求項3の発明によれば、取付軸の基端側には圧電アクチュエータと付勢部材との間に挟持されるフランジ部を設けたから、付勢部材は、フランジ部を介して圧電アクチュエータに対して予圧縮荷重を作用させることができる。また、取付軸のフランジ部は圧電アクチュエータと付勢部材との間に挟持されるから、圧電アクチュエータの伸張、縮小に応じて取付軸のフランジ部を軸方向に変位させることができる。このため、圧電アクチュエータの伸張、縮小を制御することによって、取付軸の軸方向に生じる振動を吸収することができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、圧電アクチュエータは複数の圧電素子を積層する構成としたから、圧電アクチュエータは各圧電素子の厚さ寸法の変化を累積することができる。このため、圧電アクチュエータの厚さ寸法を大きく変化させることができるから、取付軸を軸方向に向けて大きく変位させることができる。
【0021】
請求項5の発明によれば、制御手段は振動検出手段による検出信号に基づいて圧電アクチュエータの伸張、縮小を制御する構成としたから、制御手段は、例えば振動検出手段によって検出した振動から弾性体で減衰させることができない振幅の小さい微小振動を抽出し、該微小振動を相殺するための制御信号を演算することができる。このとき、制御手段は制御信号を圧電アクチュエータに出力するから、圧電アクチュエータは制御信号に応じて伸張、縮小し、微小振動を減衰させることができる。
【0022】
請求項6の発明によれば、ケーシング内には粘性液体を封入すると共に、筒部材の底部側には粘性液体中に位置する減衰力発生部材を設ける構成としている。ここで、ケーシングまたは取付軸に振動が生じたときには、弾性体が弾性変形して筒部材が変位すると共に、筒部材の変位に伴って粘性液体が流通する。このとき、減衰力発生部材は、粘性液体の流通に対して抵抗力を与えるから、該抵抗力によって振動を減衰させることができる。
【0023】
請求項7の発明によれば、圧電アクチュエータが伸張したときには、付勢部材に抗して筒状容器に進入する方向に取付軸を変位させ、圧電アクチュエータが縮小したときには、付勢部材の付勢力によって筒状容器から突出する方向に取付軸を変位させる。このため、圧電アクチュエータの伸張、縮小を制御することによって、取付軸の軸方向に生じる振動を吸収することができる。
【0024】
さらに、取付軸が筒状容器に進入するときには、圧電アクチュエータが伸張する力(伸張力)を用いるのに対し、取付軸が筒状容器から突出するときには、付勢部材の付勢力を用いる。このように付勢部材を用いて圧電アクチュエータを縮小するから、圧電アクチュエータの軸方向の両端側は、筒状容器および取付軸のいずれにも固着する必要がない。ここで、圧電アクチュエータの両端側を筒状容器および取付軸に固着した場合には、取付軸が軸方向に振動するのに伴って、圧電アクチュエータに圧縮応力と引張り応力とが作用する。これに対し、本発明では、圧電アクチュエータの両端側は筒状容器および取付軸のいずれにも当接するだけでよいから、圧電アクチュエータに引張り応力が作用することがなく、圧電アクチュエータの信頼性、耐久性を高めることができる。
【0025】
請求項8の発明によれば、圧電アクチュエータが伸張したときには、付勢部材に抗して筒部材から突出する方向に取付軸を変位させ、圧電アクチュエータが縮小したときには、付勢部材の付勢力によって筒部材に進入する方向に取付軸を変位させる。このため、圧電アクチュエータの伸張、縮小を制御することによって、取付軸の軸方向に生じる振動を吸収することができる。
【0026】
さらに、取付軸が筒状容器から突出するときには、圧電アクチュエータが伸張する力(伸張力)を用いるのに対し、取付軸が筒部材に進入するときには、付勢部材の付勢力を用いる。このように付勢部材を用いて圧電アクチュエータを縮小するから、圧電アクチュエータの軸方向の両端側は、筒部材および取付軸のいずれにも固着する必要がない。このため、圧電アクチュエータの両端側は筒部材および取付軸のいずれにも当接するだけでよいから、圧電アクチュエータに引張り応力が作用することがなく、圧電アクチュエータの信頼性、耐久性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態による防振マウントを、油圧ショベルの旋回フレームとキャブとの間に適用した場合を例に挙げ、図1ないし図6を参照しつつ説明する。
【0028】
図中、1は油圧ショベルで、該油圧ショベル1の車体は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3とにより構成され、上部旋回体3の前部側には、掘削作業用の作業装置4が俯仰動可能に設けられている。
【0029】
そして、上部旋回体3は、下部走行体2上に旋回可能に設けられた後述の旋回フレーム5(一の部材)と、該旋回フレーム5上に取付けられた後述のキャブ8(他の部材)とを備えている。
【0030】
5は上部旋回体3のベースをなす一方の部材としての旋回フレームで、旋回フレーム5は、図2および図3に示すように、下部走行体2に取付けられるセンタフレーム6を有し、該センタフレーム6の前部左側には、後述のキャブ8を下側から支持するキャブ支持部7が設けられている。
【0031】
そして、センタフレーム6は、厚肉な鋼板からなる底板6Aと、該底板6A上を前,後方向に延びる縦板(図示せず)とにより大略構成されている。また、キャブ支持部7は、前,後方向に離間して底板6Aから左,右方向に延びた2本の横梁7A,7Bと、該各横梁7A,7Bの左端側を連結し前,後方向に延びた側枠7Cと、横梁7Aから前側に突出し側枠7Cと平行して前,後方向に延びた縦梁7Dと、横梁7Aよりも前側に位置して側枠7Cと縦梁7Dとを左,右方向で連結する前枠7Eとにより大略構成されている。
【0032】
8は後述の防振マウント11を介して旋回フレーム5のキャブ支持部7上に支持された他方の部材としてのキャブで、該キャブ8は旋回フレーム5上に運転室を画成するものである。ここで、キャブ8は、例えば薄肉な鋼板にプレス加工、溶接加工等を施すことにより、前面部8A、後面部8B、左,右の側面部8C(左側のみ図示)、および上面部8Dによって囲まれた箱状に形成されている。そして、キャブ8の下端側には床板用ブラケット8Eが設けられ、該床板用ブラケット8Eには、キャブ8の底部をなす床板9が取付けられている。
【0033】
また、床板9の下面側には、ボルト穴10Aを備えた保持金具10が固着されている。そして、保持金具10は、後述する防振マウント11の取付軸18をねじ止め固定し、取付軸18を保持するものである。
【0034】
11は旋回フレーム5のキャブ支持部7とキャブ8との間に設けられた4個の防振マウントで、これら各防振マウント11は、キャブ支持部7の横梁7Bとキャブ8の床板9との間に左,右に離間して2個配置されると共に、キャブ支持部7の前枠7Eとキャブ8の床板9との間に左,右に離間して2個配置され、旋回フレーム5の振動がキャブ8に伝わるのを抑えるものである。そして、各防振マウント11は、図4に示すように、後述のケーシング12、弾性体14、筒部材16、取付軸18、ばね部材20、圧電アクチュエータ21、粘性液体23、可動板24等からなる液体封入式マウントとして構成されている。
【0035】
12は旋回フレーム5のキャブ支持部7に取付けられたケーシングで、該ケーシング12は、軸方向の一側(上端側)が開口部となった中空な円筒部12Aと、該円筒部12Aの上端側に一体形成されたフランジ部12Bと、円筒部12Aの軸方向の他側(下端側)を閉塞する底板部12Cとにより有底円筒状に形成されている。そして、ケーシング12は、フランジ部12Bに挿通した2個のボルト13を用いてキャブ支持部7に締結される構成となっている。
【0036】
14はケーシング12の開口部を閉塞した状態でケーシング12に固着された弾性体で、該弾性体14は、ケーシング12内に後述の粘性液体23を封入するものである。ここで、弾性体14は、例えばゴム等の弾性材料により形成され、ケーシング12を施蓋する厚肉蓋部14Aと、該厚肉蓋部14Aの中心部に穿設された取付孔14Bとを備えている。そして、厚肉蓋部14Aは、ケーシング12の円筒部12Aの内周面に固着され、取付孔14Bには後述の筒部材16が固着されている。これにより、弾性体14は、ケーシング12と筒部材16との間に設けられている。
【0037】
15は弾性体14に取付けられた筒状容器で、該筒状容器15は、後述する筒部材16と蓋体17とによって構成され、軸方向の一側に軸挿通孔17Cを有すると共に軸方向の他側が底部16Bとなった有底円筒状に形成されている。そして、筒状容器15は、その内部にばね部材20、圧電アクチュエータ21および取付軸18のフランジ部18Bを収容している。
【0038】
16は弾性体14内を軸方向に挿通して設けられた筒部材で、該筒部材16は、軸方向の中間部位が弾性体14の取付孔14Bに接着、溶着等の手段を用いて固着されることにより、ケーシング12の中心部に配置されている。また、筒部材16は、軸方向の一側(上端側)が開口した中空な円筒部16Aと、該円筒部16Aの軸方向の他側(下端側)を閉塞する底部16Bと、前記円筒部16Aの上端側に位置する開口部16Cとにより有底円筒状に形成されている。そして、開口部16Cの内周面には、後述する蓋体17を螺着するための雌ねじが設けられている。
【0039】
17は筒部材16の開口側(上端側)に設けられた蓋体で、該蓋体17は、中心側が貫通した円環状に形成され、その外周側には雄ねじ部17Aが形成されている。また、蓋体17は、筒部材16の底部16Bとの間に後述する圧電アクチュエータ21、取付軸18のフランジ部18Bおよびばね部材20を挟持する。そして、蓋体17は、雄ねじ部17Aを筒部材16の開口部16Cに螺合することによって、筒部材16に取付けられ、後述する圧電アクチュエータ21の上端に当接する。これにより、蓋体17は、ばね部材20と共に軸方向の予圧を与えた状態で筒部材16内に圧電アクチュエータ21を保持している。
【0040】
また、蓋体17は、キャブ8の保持金具10と対面している。このとき、蓋体17と保持金具10との間には、例えば数十μm〜数mm程度の隙間が形成されている。この隙間によって、筒部材16は、軸方向に対する変位が許容されている。
【0041】
さらに、蓋体17の中心側には、例えばスリーブ軸受等からなる軸受17Bが取付けられている。そして、軸受17B内には後述の取付軸18を挿通するための軸挿通孔17Cが形成され、軸受17Bは、取付軸18を軸方向に変位可能に支持する。
【0042】
18は筒部材16内に挿入して設けられた取付軸で、該取付軸18は、ケーシング12に対して軸方向に変位可能に設けられている。また、取付軸18は、軸方向に沿って筒部材16の底部16B付近まで延びる長尺なロッド部18Aと、筒部材16内に位置して該ロッド部18Aの基端側に設けられた円板状のフランジ部18Bと、ロッド部18Aの先端側に位置して筒状容器15の軸挿通孔17Cから突出した雄ねじ部18Cとによって構成されている。ここで、フランジ部18Bは、筒部材16の底部16Bに対面して配置されている。そして、フランジ部18Bと底部16Bとの間には、後述のばね部材20が取付けられると共に、フランジ部18Bと蓋体17との間には、圧電アクチュエータ21が取付けられる。これにより、フランジ部18Bは、ばね部材20と圧電アクチュエータ21との間に挟持されている。
【0043】
一方、取付軸18の雄ねじ部18Cは、キャブ8の床板用ブラケット8Eに挿通されると共に、床板9の保持金具10とナット19とが螺着される。これにより、取付軸18は、キャブ8に取付けられる構成となっている。
【0044】
20は筒部材16内の底部16B側に設けられた付勢部材としてのばね部材で、該ばね部材20は、例えば皿ばねによって構成され、筒部材16の底部16Bと取付軸18のフランジ部18Bとの間に挟持されている。そして、ばね部材20は、取付軸18の軸方向の振動に対して後述の圧電アクチュエータ21と並列に作用するように配置されている。また、ばね部材20は、取付軸18に作用するキャブ8の荷重F1よりも大きなばね力F2(付勢力)を有している。このため、ばね部材20は、筒状容器15から突出する方向に取付軸18を付勢し、フランジ部18Bが底部16Bから離間した状態で取付軸18を支持すると共に、後述の圧電アクチュエータ21に予圧縮荷重を作用させている。
【0045】
21は筒部材16の開口部16Cと取付軸18のフランジ部18Bとの間に設けられた円筒状の圧電アクチュエータで、該圧電アクチュエータ21は、例えば取付軸18の軸方向に向けて積層された複数の圧電素子21Aによって構成されている。また、圧電アクチュエータ21は、その中心側に取付軸18を挿通するための挿通孔21Bが形成されている。そして、圧電アクチュエータ21は、挿通孔21B内に取付軸18のロッド部18Aが挿通された状態で筒部材16内に取付けられ、蓋体17と取付軸18のフランジ部18Bとの間に挟持されている。これにより、圧電アクチュエータ21は、筒状容器15を介してケーシング12と取付軸18との間の荷重伝達経路上で弾性体14に対して直列に配置されている。
【0046】
このとき、取付軸18は、ばね部材20によって筒部材16から突出する方向に付勢されているから、圧電アクチュエータ21には、フランジ部18Bを介してばね部材20の付勢力が作用する。このため、圧電アクチュエータ21は、電圧が印加されてない状態でも、ばね部材20によって予め圧縮する力(予圧縮荷重)が付与されている。
【0047】
また、圧電アクチュエータ21は、信号ケーブル21Cを介して後述する制御装置28に接続されている。そして、圧電アクチュエータ21の両端側には、制御装置28から制御信号S3としての電圧が印加される。このとき、圧電アクチュエータ21は、例えば一端側に対して他端側に正の電圧を印加して制御信号S3を大きくすると、ばね部材20に抗して軸方向に伸張する。一方、圧電アクチュエータ21は、制御信号S3を小さくすると、ばね部材20の圧縮力によって軸方向に縮小する。このように、圧電アクチュエータ21は、制御信号S3に応じて軸方向に対して数百μm(例えば100μm程度)の範囲で伸張、縮小する。これにより、圧電アクチュエータ21が伸張したときには、取付軸18は、ばね部材20に抗して筒部材16に進入する方向に変位する。一方、圧電アクチュエータ21が縮小したときには、取付軸18は、ばね部材20の付勢力によって筒部材16から突出する方向に変位する。このため、圧電アクチュエータ21は、制御装置28からの制御信号S3に応じて取付軸18を軸方向に変位させることができ、ケーシング12、取付軸18に作用する振動を吸収することができる。
【0048】
なお、制御信号S3が印加されていないとき(圧電アクチュエータ21の両端の電位差が零のとき)には、圧電アクチュエータ21は最縮小し、取付軸18は筒部材16に対して最上昇する。一方、最大の制御信号S3が印加されたとき(圧電アクチュエータ21の両端の電位差が最大のとき)には、圧電アクチュエータ21は最伸張し、取付軸18は筒部材16に対して最下降する。そして、最大の制御信号S3に対して半分程度のオフセット電圧V0(オフセット信号)が印加されたときに、圧電アクチュエータ21の長さ寸法は最縮小と最伸張との間の中立長さとなり、取付軸18は最上昇位置と最下降位置との間の中立位置に配置されるものである。
【0049】
また、圧電アクチュエータ21の軸方向の両端は、蓋体17とフランジ部18Bとにそれぞれ当接するものの、蓋体17とフランジ部18Bに固着(接着)されていない。このため、圧電アクチュエータ21には、筒部材16、取付軸18等によって圧縮応力は作用するものの、引張り応力は作用しない構成となっている。
【0050】
さらに、ばね部材20の付勢力(ばね力F2)は、キャブ8の通常の振動によってばね部材20が圧縮され、圧電アクチュエータ21が蓋体17とフランジ部18Bとの間で遊んでしまうことがない程度の強さに設定されている。これにより、圧電アクチュエータ21による振動吸収作用を安定して作用させることができる。一方、圧電アクチュエータ21は、ばね部材20の付勢力に対抗して取付軸18(フランジ部18B)を押し下げるのに十分な伸張力F3(F3>F2)を発生させることができる構成となっている。
【0051】
22はケーシング12内に画成された流体室で、該流体室22は、ケーシング12と弾性体14と筒部材16とによって囲まれた密閉空間として構成されている。そして、流体室22内には、例えばシリコン油等の大きな粘性を有する粘性液体23が封入されている。
【0052】
24は流体室22内に位置して筒部材16の下端側(底部16B側)に設けられた減衰力発生部材としての可動板で、該可動板24は、筒部材16の下端側にボルト25を用いて固着されている。そして、可動板24は、流体室22内に封入した粘性液体23に常時浸されており、弾性体14が弾性変形するときに筒部材16と共に粘性液体23中を上,下方向(軸方向)に移動するものである。
【0053】
また、ケーシング12の円筒部12Aと可動板24との間には環状の隙間からなる環状通路26が形成されている。そして、環状通路26は、粘性液体23が流通可能な液体通路を形成している。従って、可動板24が粘性液体23中を上,下方向に移動し、粘性液体23がケーシング12と可動板24との間の環状通路26を流れるときに、この粘性液体23に抵抗力が与えられる構成となっている。このように、粘性液体23および可動板24は、振動を減衰させる減衰力を発生させるから、弾性体14と共に大きな振幅の振動を減衰させる減衰力発生機構を構成するものである。
【0054】
27はキャブ支持部7に取付けられた振動検出手段としての加速度センサで、該加速度センサ27は、防振マウント11の近傍に配置されると共に、後述の制御装置28に接続されている。そして、加速度センサ27は、キャブ支持部7およびケーシング12に作用する軸方向(上,下方向)の加速度を検出し、該加速度に対応した電流、電圧等の検出信号S0を制御装置28に向けて出力する。
【0055】
28は圧電アクチュエータ21および加速度センサ27に接続された制御装置(制御手段)で、該制御装置28は、図5に示すように、後述するシグナルコンディショナ29、フィルタ30、ゲイン調整器31、リミッタ32および加算器33によって構成されている。そして、制御装置28は、加速度センサ27による検出信号S0に基づいて圧電アクチュエータ21で振動を吸収するための制御信号S3を演算し、該制御信号S3を圧電アクチュエータ21に出力する。これにより、制御装置28は、加速度センサ27からの検出信号S0に基づいて圧電アクチュエータ21の伸張、縮小を制御するものである。
【0056】
29は加速度センサ27に接続されたシグナルコンディショナで、該シグナルコンディショナ29は、例えば加速度センサ27に向けて駆動用の電源電圧を供給すると共に、加速度センサ27による検出信号S0を加速度に応じた電圧値(加速度信号S1)に変換する。このため、シグナルコンディショナ29から出力される加速度信号S1は、加速度センサ27が取付けられている部位の加速度に比例して変化する。
【0057】
30はシグナルコンディショナ29の後段に接続されたフィルタで、該フィルタ30は、例えばバタワース2次のローパスフィルタ(低域通過フィルタ)によって構成され、シグナルコンディショナ29による加速度信号S1を圧電アクチュエータ21のたわみ量(変位)に応じた変位信号S2に変換する。また、フィルタ30は、カットオフ周波数が例えば1Hzに設定され、図6に示すような伝達関数を有する。このフィルタ30の伝達関数では、ゲイン(利得)の絶対値は理論変位と異なるものの、5Hz以上ではほぼ変位に比例する出力を得ることができる。また、1Hz以下ではほぼ変位に比例する出力となるので、加速度変位変換処理におけるドリフト成分(オフセットノイズ)等の低周波数成分の影響を受け難くすることができる。このため、フィルタ30から出力される制御信号S3を用いることによって、圧電アクチュエータ21は加速度計測におけるドリフト成分等の低周波数成分を除去することができる。
【0058】
31はフィルタ30の後段に接続されたゲイン調整器で、該ゲイン調整器31は、図5に示すように、圧電アクチュエータ21の許容電圧に応じてフィルタ30から出力された変位信号S2のゲイン(利得)を調整する。これにより、変位信号S2は、その振幅(電圧振幅)が圧電アクチュエータ21の許容電圧よりもやや大きくなるように調整される。
【0059】
32はゲイン調整器31の後段に接続されたリミッタで、該リミッタ32は、変位信号S2の振幅が圧電アクチュエータ21の許容電圧範囲に収まるように、ゲイン調整器31から出力された変位信号S2の振幅を厳密に制限する。
【0060】
33はリミッタ32の後段に接続された加算器で、該加算器33は、リミッタ32から出力される変位信号S2に対して、圧電アクチュエータ21を中立長さにするためのオフセット電圧V0を加算し、制御信号S3を出力する。そして、加速度が作用しないときには、加算器33は、制御信号S3としてオフセット電圧V0を出力する。このとき、圧電アクチュエータ21は、中立長さに保持される。一方、加速度が作用したときには、加算器33は、制御信号S3としてオフセット電圧V0に加速度に応じた変位信号S2を加算し、該加算値に応じた電圧を出力する。このとき、圧電アクチュエータ21は、変位信号S2に応じて中立長さから伸張または縮小する。
【0061】
本実施の形態による防振マウント11は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について図4ないし図6を参照しつつ説明する。
【0062】
まず、防振マウント11は、ケーシング12をボルト13によって旋回フレーム5のキャブ支持部7に取付けると共に、取付軸18の雄ねじ部18Cをナット19によってキャブ8の床板9に取付ける。これにより、防振マウント11は、旋回フレーム5上でキャブ8を弾性的に支持する。
【0063】
そして、例えば油圧ショベル1の走行時、掘削作業時のように、旋回フレーム5が大きな振幅で振動したときには、弾性体14が、ケーシング12と筒部材16との間で上,下方向に弾性変形し、この弾性体14の変形によって旋回フレーム5からキャブ8に伝わる振動を抑制することができる。
【0064】
このとき、筒部材16に固定された可動板24は、弾性体14の弾性変形に応じて粘性液体23中を上,下方向に移動する。このため、粘性液体23は、ケーシング12と可動板24との間の環状通路26を介して流通する。これにより、粘性液体23が環状通路26を流通するときに該粘性液体23に与えられる粘性抵抗、流動抵抗により、筒部材16の上,下方向の移動に対して大きな減衰力が付与され、その結果、キャブ8に伝わった振動を減衰することができる。
【0065】
このように、例えば0.5mm以上の大きな振幅の振動に対しては、弾性体14は低剛性な振る舞いをすると共に、可動板24は粘性液体23を十分に攪拌する。このため、防振マウント11全体としては低ばね定数、高減衰の特性となるから、キャブ8の振動を抑制することができる。
【0066】
一方、例えば0.5mm以下の小さな振幅の振動に対しては、弾性体14は高剛性な振る舞いをすると共に、可動板24の変位も小さくなって粘性液体23の動きも小さくなる。このため、小さな振幅の振動は、弾性体14、可動板24等では吸収することができず、筒部材16に伝達される。このとき、加速度センサ27は旋回フレーム5の振動を検出するから、制御装置28は、加速度センサ27による検出信号S0に基づいて制御信号S3を演算し、圧電アクチュエータ21に出力する。
【0067】
ここで、キャブ8に上向きの加速度が作用するときには、制御信号S3はオフセット電圧V0に対してこの加速度に応じた変位信号S2を加算した電圧となる。このため、圧電アクチュエータ21は、制御信号S3に応じて中立長さから伸張し、取付軸18を押し下げる。このように、キャブ8に上向きの変位が生じたときには、防振マウント11は、圧電アクチュエータ21が伸張することによってキャブ8を押し下げ、キャブ8に生じる上向きの変位を相殺する。
【0068】
一方、キャブ8に下向きの加速度が作用するときには、加速度の向きが逆になるから、変位信号S2は負の値となる。このため、制御信号S3は、オフセット電圧V0に対してこの加速度に応じた変位信号S2を減算した電圧となる。このとき、圧電アクチュエータ21は、ばね部材20の圧縮力によって中立長さから縮小するから、ばね部材20は取付軸18を押し上げる。このように、キャブ8に下向きの変位が生じたときには、防振マウント11は、ばね部材20によってキャブ8を押し上げ、キャブ8に生じる下向きの変位を相殺する。
【0069】
この結果、防振マウント11は、大きな振幅の振動は弾性体14および可動板24等を用いて吸収、減衰できると共に、小さな振幅の振動は圧電アクチュエータ21等を用いて吸収することができる。このため、旋回フレーム5に生じた振動がキャブ8に伝達することがなく、キャブ8の乗り心地を改善することができる。
【0070】
かくして、本実施の形態では、圧電アクチュエータ21は、伸張したときには、ばね部材20に抗して筒状容器15に進入する方向に取付軸18を変位させ、縮小したときには、ばね部材20の付勢力によって筒状容器15から突出する方向に取付軸18を変位させる。このため、圧電アクチュエータ21の伸張、縮小を制御することによって、取付軸18の軸方向に生じる振動を吸収することができる。
【0071】
また、ケーシング12と取付軸18との間に弾性体14と圧電アクチュエータ21とを筒状容器15を介して荷重伝達経路上で直列に並べて配置したから、振幅の大きな振動は弾性体14を用いて減衰させることができると共に、振幅の小さい振動は圧電アクチュエータ21を用いて吸収することができる。このため、ケーシング12が取付けられた旋回フレーム5から取付軸18が取付けられたキャブ8に伝わる振動を、振幅の大小に拘らず、弾性体14と圧電アクチュエータ21とによって減衰させ、吸収することができる。この結果、防振マウント11全体として、大きな振幅の振動と微小振幅の振動とに対する振動吸収効果を両立することができる。これにより、例えば弾性体14では振幅の小さい微小振動を吸収できないときでも、この微小振動を圧電アクチュエータ21を用いて吸収することができる。
【0072】
さらに、取付軸18が筒状容器15に進入するときには、圧電アクチュエータ21が伸張する力を用いるのに対し、取付軸18が筒状容器15から突出するときには、ばね部材20の付勢力を用いる。このように、ばね部材20を用いて圧電アクチュエータ21を縮小するから、圧電アクチュエータ21の軸方向の両端側は、筒状容器15および取付軸18のいずれにも固着する必要がなく、筒状容器15および取付軸18のいずれにも当接するだけでよい。このため、圧電アクチュエータ21に引張り応力が作用することがなく、圧電アクチュエータ21の信頼性、耐久性を高めることができる。
【0073】
また、筒部材16の底部16Bと取付軸18のフランジ部18Bとの間にはばね部材20を設けると共に、蓋体17と取付軸18のフランジ部18Bとの間には圧電アクチュエータ21を設ける構成としたから、ばね部材20は、取付軸18に対して筒部材16から突出する方向に付勢力を付加すると共に、圧電アクチュエータ21に対して蓋体17と取付軸18のフランジ部18Bとの間で予め圧縮される予圧縮荷重を付加することができる。このため、振動によって圧電アクチュエータ21ががた付くことがなく、予圧縮した状態で筒部材16の蓋体17と取付軸18のフランジ部18Bとの間に圧電アクチュエータ21を挟持することができる。
【0074】
また、本実施の形態では、圧電アクチュエータ21に対してオフセット電圧V0を加算した制御信号S3を印加し、ばね部材20の予圧縮荷重に抗して圧電アクチュエータ21を予め中立長さに伸張させる構成とした。このため、制御信号S3をオフセット電圧V0に対して増減させることによって、取付軸18を上,下いずれの方向にも変位させることができ、上,下両方向の振動を吸収することができる。
【0075】
また、ばね部材20の付勢力によって圧電アクチュエータ21の両端側は常に筒部材16と取付軸18とに接触するから、圧電アクチュエータ21が伸張するときの力を速やかに取付軸18に作用させることができ、時間遅延が生じることなく振動を減衰させることができる。
【0076】
また、微小振動の吸収には圧電アクチュエータ21を用いるから、他のアクチュエータを用いた場合に比べて、制御信号S3に対する応答性を向上することができる。このため、より高い周波数範囲に亘って防振効果を得ることができる。さらに、圧電アクチュエータ21は複数の圧電素子21Aを積層する構成としたから、各圧電素子21Aの厚さ寸法の変化を累積することができる。このため、圧電アクチュエータ21全体の厚さ寸法を大きく変化させることができるから、取付軸18を軸方向に向けて大きく変位させることができる。
【0077】
また、制御装置28は加速度センサ27による検出信号S0に基づいて圧電アクチュエータ21の伸張、縮小を制御する構成としたから、制御装置28は、例えば加速度センサ27によって検出した振動から弾性体14で減衰させることができない振幅の小さい微小振動を抽出し、該微小振動を相殺するための制御信号S3を演算することができる。このとき、制御装置28は制御信号S3を圧電アクチュエータ21に出力するから、圧電アクチュエータ21は制御信号S3に応じて伸張、縮小し、微小振動を吸収することができる。
【0078】
さらに、ケーシング12内には粘性液体23を封入すると共に、筒部材16の底部16B側には粘性液体23中に位置する可動板24を設ける構成としている。このため、ケーシング12または取付軸18に振動が生じたときには、弾性体14が弾性変形して筒部材16が軸方向に変位すると共に、筒部材16の変位に伴ってケーシング12と可動板24との間の環状通路26を粘性液体23が流通する。このとき、可動板24は、粘性液体23の流通に対して抵抗力を与えるから、該抵抗力によって振動を減衰させることができる。
【0079】
次に、図7は本発明による第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、筒部材の底部と取付軸のフランジ部との間に圧電アクチュエータを配置すると共に、筒部材の蓋体と取付軸のフランジ部との間に付勢部材を配置する構成としたことにある。なお、本実施の形態では前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0080】
41は本実施の形態による防振マウントで、該防振マウント41は、第1の実施の形態による防振マウント11とほぼ同様に、ケーシング12、弾性体14、筒状容器15、取付軸42、ばね部材43、圧電アクチュエータ44等によって構成されている。
【0081】
42は筒状容器15内に挿入して設けられた取付軸で、該取付軸42は、第1の実施の形態による取付軸18とほぼ同様に、軸方向に沿って筒部材16の開口部16C付近まで延びる短尺なロッド部42Aと、筒部材16内に位置して該ロッド部42Aの基端側に設けられた円板状のフランジ部42Bと、ロッド部42Aの先端側に位置して筒状容器15の軸挿通孔17Cから突出した雄ねじ部42Cとによって構成されている。ここで、フランジ部42Bは、筒状容器15の蓋体17に対面して配置されると共に、後述するばね部材43と圧電アクチュエータ44との間に挟持されている。そして、取付軸42は、キャブ8の床板用ブラケット8Eを挿通した状態で雄ねじ部42Cが床板9の保持金具10とナット19とに螺着され、キャブ8に取付けられている。
【0082】
43は筒部材16内の開口部16C側に設けられた付勢部材としてのばね部材で、該ばね部材43は、第1の実施の形態によるばね部材20と同様に例えば皿ばねによって構成されている。但し、ばね部材43は、筒状容器15の蓋体17と取付軸42のフランジ部42Bとの間に挟持されている。そして、ばね部材43は、取付軸42の軸方向の振動に対して後述の圧電アクチュエータ44と並列に作用するように配置されている。また、ばね部材43は、取付軸42に作用するキャブ8の荷重よりも大きなばね力(付勢力)を有している。このため、ばね部材43は、筒状容器15に進入する方向に取付軸42を付勢し、フランジ部42Bが蓋体17から離間した状態で取付軸42を支持すると共に、後述の圧電アクチュエータ44に予圧縮荷重を作用させている。
【0083】
44は筒部材16の底部16Bと取付軸42のフランジ部42Bとの間に設けられた円柱状の圧電アクチュエータで、該圧電アクチュエータ44は、第1の実施の形態による圧電アクチュエータ21とほぼ同様に、複数の圧電素子44Aによって構成されている。そして、圧電アクチュエータ44は、筒部材16内に取付けられ、筒部材16の底部16Bと取付軸42のフランジ部42Bとの間に挟持されている。これにより、圧電アクチュエータ44は、筒状容器15を介してケーシング12と取付軸42との間の荷重伝達経路上で弾性体14に対して直列に配置されている。
【0084】
このとき、取付軸42は、ばね部材43によって筒部材16に進入する方向に付勢されているから、圧電アクチュエータ44には、フランジ部42Bを介してばね部材43の付勢力が作用する。このため、圧電アクチュエータ44は、電圧が印加されてない状態でも、ばね部材42によって予圧縮荷重が付与されている。
【0085】
また、圧電アクチュエータ44は、信号ケーブル44Bを介して供給される制御装置(図示せず)に接続され、制御装置からの制御信号に応じて伸張、縮小する。そして、圧電アクチュエータ44が伸張したときには、取付軸42は、ばね部材43に抗して筒状容器15から突出する方向に変位する。一方、圧電アクチュエータ44が縮小したときには、取付軸42は、ばね部材43の付勢力によって筒状容器15に進入する方向に変位する。このため、圧電アクチュエータ44は、制御信号に応じて取付軸42を軸方向に変位させることができ、ケーシング12、取付軸42に作用する振動を吸収することができる。
【0086】
また、圧電アクチュエータ44の軸方向の両端は、筒部材16の底部16Bとフランジ部18Bとにそれぞれ当接するものの、底部16Bとフランジ部18Bに固着(接着)されていない。このため、圧電アクチュエータ44には、筒部材16、取付軸42等によって圧縮応力は作用するものの、引張り応力は作用しない構成となっている。
【0087】
かくして、このように構成される本実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。即ち、本実施の形態では、第1の実施の形態による防振マウント41に比べて、圧電アクチュエータ44とばね部材43との軸方向の配置関係が逆になり、圧電アクチュエータ44の伸張、縮小に対する取付軸42の変位の方向が逆になっている。しかし、圧電アクチュエータ44による微小振動の吸収効果等は、第1の実施の形態とほぼ同様に奏するものである。
【0088】
次に、図8は本発明による第3の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、粘性液体および可動板を省く構成としたことにある。なお、本実施の形態では前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0089】
51は本実施の形態による防振マウントで、該防振マウント51は、第1の実施の形態による防振マウント11とほぼ同様に、ケーシング52、弾性体14、筒状容器15、取付軸18、ばね部材20、圧電アクチュエータ21等によって構成されている。
【0090】
52は旋回フレーム5のキャブ支持部7に取付けられたケーシングで、該ケーシング52は、軸方向の両側が開口部となった中空な円筒部52Aと、該円筒部52Aの上端側に一体形成されたフランジ部52Bとにより円筒状に形成されている。そして、ケーシング52は、フランジ部52Bに挿通した2個のボルト13を用いてキャブ支持部7に締結される構成となっている。
【0091】
但し、ケーシング52は、第1の実施の形態によるケーシング12と異なり、底板部を省く構成となっている。このため、ケーシング52内には、流体室および粘性液体は設けられていない。また、筒状容器15の下端側にも、可動板は設けられておらず、可動板および粘性液体による減衰力は付与しない構成となっている。
【0092】
かくして、このように構成される本実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、粘性液体および可動板を省く構成としたから、可動板等に基づく減衰力は発生しないものの、防振マウント51の構成を簡略化することができ、製造コストを低減することができる。
【0093】
なお、前記第3の実施の形態では、第1の実施の形態による取付軸18、ばね部材20、圧電アクチュエータ21等を用いる構成としたが、第2の実施の形態による取付軸42、ばね部材43、圧電アクチュエータ44等を用いる構成としてもよい。
【0094】
また、前記各実施の形態では、加速度センサ27は旋回フレーム5に設ける構成としたが、ケーシング12,52に設ける構成としてもよい。また、加速度センサは、キャブや取付軸に設ける構成としてもよく、旋回フレームとキャブとの両方に設ける構成としてもよい。
【0095】
また、前記各実施の形態では、振動検出手段には加速度センサ27を用いる構成としたが、例えば速度センサ等を用いる構成としてもよい。
【0096】
また、前記各実施の形態では、付勢部材として皿ばねからなるばね部材20,43を設ける構成としたが、コイルばね等を用いる構成としてもよい。
【0097】
また、前記各実施の形態では、制御装置28はアナログ回路で構成したが、シグナルコンディショナ29の出力をA/D変換し、加算器33の出力をD/A変換すれば、シグナルコンディショナ29と加算器33との間はディジタル信号処理を行う構成としてもよい。
【0098】
さらに、前記各実施の形態では、防振マウント11,41,51を、油圧ショベル1の旋回フレーム5とキャブ8との間に設けた場合を例に挙げている。しかし、本発明はこれに限らず、例えば鉄道車両の走行装置と車体との間、自動車の車体フレームとエンジンとの間、工場の床と機械装置との間等、一の部材上で他の部材を防振支持する防振マウントとして広く適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の第1の実施の形態による防振マウントを備えた油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】図1中の旋回フレーム、キャブ等を拡大して示す一部破断の正面図である。
【図3】旋回フレームのキャブ支持部、防振マウント等を図2中の矢示III−III方向からみた断面図である。
【図4】第1の実施の形態による防振マウントを示す断面図である。
【図5】図4中の圧電アクチュエータおよび加速度センサに接続された制御装置を示すブロック図である。
【図6】周波数に対するフィルタの利得および位相を示す特性線図である。
【図7】第2の実施の形態による防振マウントを示す断面図である。
【図8】第3の実施の形態による防振マウントを示す断面図である。
【符号の説明】
【0100】
11,41,51 防振マウント
12,52 ケーシング
14 弾性体
15 筒状部材
16 筒部材
16B 底部
16C 開口部
17 蓋体
18,42 取付軸
18B,42B フランジ部
20,43 ばね部材(付勢部材)
21,44 圧電アクチュエータ
21A,44A 圧電素子
23 粘性液体
24 可動板(減衰力発生部材)
27 加速度センサ(振動検出手段)
28 制御装置(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
該ケーシングに設けられた弾性材料からなる弾性体と、
該弾性体に設けられ、軸方向の一側に軸挿通孔を有すると共に軸方向の他側が底部となった筒状容器と、
該筒状容器に挿入され、基端側が該筒状容器内に位置し先端側が該筒状容器の軸挿通孔から突出した取付軸と、
前記筒状容器の内部に設けられ、伸張または縮小によって該取付軸を前記筒状容器に進入する方向または前記筒状容器から突出する方向に変位させる圧電アクチュエータと、
前記筒状容器の内部に設けられ、該圧電アクチュエータに予圧縮荷重を作用させる付勢部材とからなり、
前記圧電アクチュエータは、前記筒状容器側と取付軸側とのうち少なくともいずれか一方に対して固着しない状態で取付けられ、
前記弾性体と圧電アクチュエータは、前記筒状容器を介して荷重伝達経路上で直列に配置してなる防振マウント。
【請求項2】
前記筒状容器は、軸方向の一側が開口すると共に軸方向の他側が閉塞された有底筒状に形成され、前記圧電アクチュエータ、取付軸の基端側および付勢部材を内部に収容する筒部材と、
前記取付軸が挿通される軸挿通孔を有して該筒部材の開口側に設けられ、該筒部材の底部との間に前記圧電アクチュエータ、取付軸の基端側および付勢部材を挟持する蓋体とによって構成してなる請求項1に記載の防振マウント。
【請求項3】
前記取付軸の基端側には、前記圧電アクチュエータと付勢部材との間に挟持されるフランジ部を設ける構成としてなる請求項1または2に記載の防振マウント。
【請求項4】
前記圧電アクチュエータは、前記取付軸の軸方向に向けて積層された複数の圧電素子によって構成してなる請求項1,2または3に記載の防振マウント。
【請求項5】
前記ケーシングと取付軸とのうち少なくともいずれか一方の振動を検出する振動検出手段を設け、
前記圧電アクチュエータには、該振動検出手段による検出信号に基づいて当該圧電アクチュエータの伸張、縮小を制御する制御手段を接続して設け、
該制御手段は、前記振動検出手段による検出信号に基づいて前記圧電アクチュエータで振動を吸収するための制御信号を演算し、該制御信号を前記圧電アクチュエータに出力する構成としてなる請求項1,2,3または4に記載の防振マウント。
【請求項6】
前記ケーシングは、軸方向の一側が開口すると共に軸方向の他側が閉塞された有底筒状に形成され、
前記弾性体は、該ケーシング内に粘性液体を封入した状態で該ケーシングの開口側を閉塞し、
前記筒部材の底部側には、前記粘性液体中に位置して前記弾性体の弾性変形に応じて粘性液体が流通するときに抵抗力を与える減衰力発生部材を設ける構成としてなる請求項1,2,3,4または5に記載の防振マウント。
【請求項7】
前記圧電アクチュエータは、伸張したときに前記付勢部材に抗して前記筒状容器に進入する方向に前記取付軸を変位させ、縮小したときに前記付勢部材の付勢力によって前記筒状容器から突出する方向に前記取付軸を変位させる構成としてなる請求項1,2,3,4,5または6に記載の防振マウント。
【請求項8】
前記圧電アクチュエータは、伸張したときに前記付勢部材に抗して前記筒状容器から突出する方向に前記取付軸を変位させ、縮小したときに前記付勢部材の付勢力によって前記筒状容器に進入する方向に前記取付軸を変位させる構成としてなる請求項1,2,3,4,5または6に記載の防振マウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−256043(P2008−256043A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97432(P2007−97432)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】