説明

防振装置

【課題】 金属とゴム弾性体からなる防振装置において、金属とゴム弾性体との結合を操作加工性に優れた加硫接着によるものの、加硫個所等を考慮して残留歪の残らないようにする。
【解決手段】 内側部材1の外周にゴム弾性体2を加硫接着し、ゴム弾性体2を外側部材3に収容した防振装置において、外側部材3を、ゴム弾性体2の下部を包む下部外側部材9と、上部を包んで下部外側部材9と一体化される上部外側部材10とで構成するとともに、ゴム弾性体2と下部外側部材9とを加硫接着したことを特徴とする防振装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンマウト等に使用される防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンマウントとしては、内筒と外筒との間にゴム弾性体を介在させたブッシュタイプのものが一般的であったが、このタイプのものは、ゴム弾性体を内筒と外筒との間に加硫接着して閉じ込めるために、収縮による残留歪が生じるという問題があった。このため、外筒をハウジングに圧入する前に絞り加工をして残留歪を除くといった処置が必要になり、コストが高くなるといった欠点を有していた。
【0003】
そこで、下記特許文献1及び2に見られるように、ゴム弾性体を加硫接着するのは、内筒又は内側部材のみとし、外筒又は外側部材に対しては、何らかの手段で機械的に結合する措置が講じられて来た。これによると、確かに残留歪は残らないものの、弾性があって容変形性のゴム弾性体を金属等の剛体に結合するには、その構造が難しいといった問題がある。上記の特許文献1及び2では、ゴム弾性体に突出部分を形成し、これを剛体で挟圧、保持して固定するといった措置を講じており、加工の難しと煩わしさを呈している。また、一方的に変形させたままにしており、ゴムの特性を喪失させている。さらに、剛体によって挟圧、保持で固定するといった措置を講じているため、防振装置そのものが大形になり、狭いエンジンルーム内に収めるにも問題があった。
【特許文献1】特開平8−296681号公報
【特許文献2】特開2003−202053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ゴムと金属等の剛体を結合する手段としては、加硫接着は確実であって、しかも、簡単であるという非常に優れた面も有している。本発明は、このような長所に着目し、加硫接着する部材とその部位に注意を払うことで、残留歪を生じさせないようにしたものである。そして、これにより、故障等の起こらないコンパクトな防振装置の具現を可能にしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載の、内側部材の外周にゴム弾性体を加硫接着し、ゴム弾性体を外側部材に収容した防振装置において、外側部材を、ゴム弾性体の下部を包む下部外側部材と、上部を包んで下部外側部材と一体化される上部外側部材とで構成するとともに、ゴム弾性体と下部外側部材とを加硫接着したことを特徴とする防振装置を提供するとともに、これにおいて、請求項2に記載の、下部外側部材がゴム弾性体の底面に沿う概略平板体をしており、この平板体の上面と底面とを加硫接着した手段を提供する。
【0006】
そして、以上の防振装置において、請求項3に記載した、ゴム弾性体の両側面を、底面から直立する起立壁と、起立壁の上端から幅狭側に傾斜して頂面に至る傾斜壁とで構成するとともに、上部外側部材の側壁を、起立壁と傾斜壁の境界から所定高さの隙間を隔てた個所で段を形成して幅狭にした手段、請求項4に記載した、下部外側部材の中央部に前後方向に延びる突条を形成するとともに、突条の上方部位のゴム弾性体に突条の方向に延びるぬすみを形成した手段を提供する。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の手段によれば、ゴム弾性体が加硫接着されるのは、内側部材と下部外側部材だけであり、上部外側部材は、ゴム弾性体の周囲を囲包しているだけであって連結はされていない。したがって、ゴム弾性体が上部外側部材に収容されたときにも、ゴム弾性体には残留歪は発生しない。加えて、加硫接着は、操作が簡単であるし、接着面の形状は自由である。このとき、請求項2の手段によれば、平板とゴム弾性体の端面を加硫接着するのであるから、処置が簡単である。
【0008】
なお、ゴム弾性体を剛体で挟圧したりして機械的に結合する場合、抜け止めや位置ずれを考慮する構造をとらなければならなず、その分、形状も複雑になるが、このように、加硫接着すれば、そのような配慮は不要であり、形状設計の自由度が高まる。このことは、簡単な構造になって全体がコンパクトになるし、挟圧、保持に基づくゴム弾性体の損傷や摩耗による保持部材からの脱落等もないことを意味する。また、振動入力時のゴム弾性体の変形の自由度が増し、耐久性も向上される。
【0009】
このように、振動入力方向に対するゴム弾性体の抜け止め等を考慮する必要がないのであるから、請求項3の手段をとるようなことも可能であり、こうすると、隙間の長さを調整することで振幅を調整できるから、ばね比も種々に変更できる。すなわち、ばねの特性を決めるチューニング要素の範囲が広いといえる。さらに、請求項4の手段によると、振動吸収に重要なばねの軟らかさを出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。防振装置として、本例では、自動車用のエンジンマウントを例にしており、図1は防振装置の一部断面正面図、図2は一部断面側面図、図3は一部断面平面図、図4は内側部材とゴム弾性体の一部断面正面図、図5は同じく一部断面平面図であるが、この防振装置は、エンジン(図示省略)側に連結される金属製の内側部材1と、内側部材1を中に差し込んで加硫接着したゴム弾性体2と、ゴム弾性体2を収容して自動車のフレーム(図示省略)側に固定される金属製の外側部材3とからなる。
【0011】
なお、本例の内側部材1は、断面が四角形をした角棒であるが、この他に厚肉の鋼管であってもよい(1aは固定するための孔又は長孔)。また、本例のゴム弾性体2は、図1の正面視で所定厚み(紙面に直角な方向の寸法)の略四角形をしているものであり、このうち、両側面は、下方が底面4から直立する起立壁5になっており、その上端からは幅狭側に傾斜する傾斜壁6となって頂面7に至っている。そして、この内側部材1は、このゴム弾性体2の傾斜壁6で囲まれる部分の中央に前後方向(紙面に直角な方向)に向けて差し込まれて加硫接着されている。また、内側部材1の下方の中央部位には、ばねを軟らかくして防振性を高めるため、正面視で山形をしたぬすみ8を前後に貫通させている。
【0012】
本例の外側部材3は、ゴム弾性体2の下部を包む下部外側部材9と、上部を包む上部外側部材10とで構成されている。そして、本発明では、この下部外側部材9とゴム弾性体2とが加硫接着によって結合されているのである。この加硫接着の形態は問わないが、操作の容易性を考慮すると、一面で加硫接着されているのが適する。本例の下部外側部材9は、平板形状を基本形態としているのであるが、中央でぬすみ8の下まで上方に突出する突条13が形成されて前後に延びている。この突条13は、下部外側部材9の強度を高めるとともに、振動の上下方向の入力に対してストッパの役割を果たすものであり、ゴム弾性体2の耐久性を向上させるものである。
【0013】
上部外側部材10は、ゴム弾性体2の上部を包むものであるが、本例では、下部外側部材9が基本的には平板体であることから、ゴム弾性体2の側方から上方を覆うように被せられる形態をしている。このため、本例の上部外側部材10は、脚部14の中央側にアーチ部15が立ち上がったハット形をしており、脚部14を下部外側部材9の端部11の上に重ねてかしめ等で両者を一体化している。
【0014】
この他、脚部14等には適宜取付用のボルト等を通すための孔又は長孔16が形成されている。さらに、本例では、上部外側部材10のアーチ部15は、ゴム弾性体2の起立壁5と傾斜壁6の境界から所定高さSの位置で段17を形成して幅狭に絞られている。したがって、この所定高さSの部分は隙間18を形成している。この段17は、一種のストッパを形成するから、Sを調整することで、ばね比とストッパの位置を調整できる。
【0015】
以上において、防振装置が平衡(初期)状態のとき、ゴム弾性体2は、その起立壁5のみが上部外側部材10のアーチ部15の内面に接当しているのであり、その他の部分は、非接当の状態になっている。すなわち、ゴム弾性体2の傾斜壁6や頂面7は、上部外側部材10と非接触の状態にある。振動入力時に自由な変形を確保してばねの軟らかさを出すためである。
【0016】
加えて、本例では、ゴム弾性体2と上部外側部材10との接触面或いは接触可能面には突条を形成している。すなわち、ゴム弾性体2の傾斜壁6に上下方向に向けて複数条の第1突条19を設けているし、さらに、この第1突条19を下方に延長して起立壁5にもやや幅狭の第2突条20として形成し、この第2突条20をやや押し潰した状態で上部外側部材10のアーチ部15の内面に接当させている。
【0017】
さらに、ゴム弾性体2の頂面7にも、同様に第3突条21を形成している。ところで、本例では、第3突条21は、前後方向に向けているが、左右方向に向けたものであってもよい。これらの突条19〜21は、振動入力によって上部外側部材10とゴム弾性体2とが擦り合う接触になったときに発生する音鳴りを抑制するためのものである。なお、ここでの突条とは、突起体が連続したものをいうのであるが、不連続な(独立した)突起であってもよい。要は、接触面積を減じるものであればよいのである。
【0018】
以上により、例えば、外側部材3を固定して振動体を内側部材2で受けるとすれば、振動体による振動は内側部材1を連結するゴム弾性体2が抑制することになる。このときの振動吸収性は、ばねが軟らかいほど大きいことから、ゴム弾性体2と外側部材3の一部を加硫接着しているものの、ばねの軟らかさを阻害しない形態での加硫接着によっている本発明に係る防振装置が優れているのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る防振装置の一部断面正面図である。
【図2】本発明に係る防振装置の一部断面側面図である。
【図3】本発明に係る防振装置の一部断面平面図である。
【図4】本発明に係る防振装置のゴム弾性体の一部断面正面図である。
【図5】本発明に係る防振装置のゴム弾性体の一部断面平面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 内側部材
1a 孔又は長孔
2 ゴム弾性体
3 外側部材
4 ゴム弾性体の底面
5 ゴム弾性体の起立壁
6 ゴム弾性体の傾斜壁
7 ゴム弾性体の頂面
8 ぬすみ
9 下部外側部材
10 上部外側部材
11 端部
13 突条
14 脚部
15 アーチ部
16 孔又は長孔
17 段
18 隙間
19 第1突条
20 第2突条
21 第3突条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側部材の外周にゴム弾性体を加硫接着し、ゴム弾性体を外側部材に収容した防振装置において、外側部材を、ゴム弾性体の下部を包む下部外側部材と、上部を包んで下部外側部材と一体化される上部外側部材とで構成するとともに、ゴム弾性体と下部外側部材とを加硫接着したことを特徴とする防振装置。
【請求項2】
下部外側部材がゴム弾性体の底面に沿う概略平板体をしており、この平板体の上面と底面とを加硫接着した請求項1の防振装置。
【請求項3】
ゴム弾性体の両側面を、底面から直立する起立壁と、起立壁の上端から幅狭側に傾斜して頂面に至る傾斜壁とで構成するとともに、上部外側部材の側壁を、起立壁と傾斜壁の境界から所定高さの隙間を隔てた個所で段を形成して幅狭にした請求項2の防振装置。
【請求項4】
下部外側部材の中央部に前後方向に延びる突条を形成するとともに、突条の上方部位のゴム弾性体に突条の方向に延びるぬすみを形成した請求項1〜3いずれかの防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−275203(P2006−275203A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97297(P2005−97297)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000157278)丸五ゴム工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】