説明

防湿コート剤、防湿組成物、防湿フィルムおよびその製造方法

【課題】 各種の基材に防湿性を付与する防湿コート剤と、これを用いた経済的、省資源的に有利な方法で実用的かつ環境問題に配慮した防湿加工品を提供する。
【解決手段】 ウレタン、ワックス、液状媒体よりなる防湿コート剤であって、ウレタン100質量部あたり10〜1000質量部のワックスを含有することを特徴とする防湿コート剤。また、このコート剤から液状媒体を除去して得られる防湿組成物、これを種々の基材に塗工してなる防湿性加工品または防湿フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた防湿性を付与する防湿コート剤、その防湿コート剤を塗工して得られる防湿組成物と、防湿組成物をフィルムに積層した防湿フィルムと生産性に優れた防湿フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略称する。)やナイロン6(以下、「Ny6」と略称する)等の熱可塑性樹脂フィルムは、機械特性や光学特性などに優れるため、各種食品や薬品等の包装用フィルムとして広く利用されている。このような用途においては、湿気を嫌う製品を包装する際にはフィルムに防湿性を付与する加工が行われている。
【0003】
フィルムに防湿性を付与する方法として、基材となる樹脂にワックスを添加し、フィルム化する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、この方法では、基材に多量のワックスを混合するため、機械特性や耐溶剤性といったフィルムの特性が損なわれるという問題があった。
【0004】
また、無機酸化物蒸着層を設けたポリアミドフィルムの外面にウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体とポリエチレンワックスを含むコート剤を塗布することにより、防湿性と耐ピンホール性を発現させる技術が開示されている(特許文献2)。しかしながら、この技術では、防湿性向上は無機蒸着膜により達成されたものであり、ワックスを含むコート剤は無機蒸着膜のピンホールの保護およびフィルム表面のブロッキング防止を目的として使用されたものであったため、コート剤中のワックス添加量は極めて低いものであった。
【0005】
さらに、二軸延伸ポリプロピレンフィルムへの防湿性と耐ブロッキング性を付与する目的で、フィルム両面に、流動パラフィンやパラフィンワックスなどを添加した塩化ビニリデン系共重合体からなるトップコート剤を用いることが開示されている(特許文献3)。この技術は、流動パラフィンやパラフィンワックスが、塩化ビニリデン系共重合体中でラメラ状の分散体となり、特異的に少量のワックス量で防湿性が発現したものであり、他の樹脂を用いたコート剤に適用できるものではなく、また、この方法は、塩化ビニリデンを含むため、焼却時に有害ガスを発生するおそれがあり、環境の点から好ましくない。
【0006】
一方、ポリアミドフィルム表面にウレタン樹脂を含有する塗膜を形成する技術としては、ウレタン樹脂、メラミン樹脂および架橋触媒を配合した液を塗布した後、延伸してフィルムに易接着性を付与する方法(特許文献4)や、ポリアミドフィルム上にポリウレタンとアクリル系ポリマーとからなるグラフト共重合体およびポリオレフィンワックスの配合物からなる易滑性層を積層して高湿度雰囲気下での易滑性を付与することも開示されている(特許文献5)が、いずれも防湿性の発現を目的としたものではなく、さらに後者の技術は易滑性を目的としたものであって、ワックスの添加量は少ない。
【0007】
【特許文献1】特開平9−194706号公報
【特許文献2】特開2001−205761号公報
【特許文献3】特開平8−134242号公報
【特許文献4】特開平11−34259号公報
【特許文献5】特開平9−248886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような背景のもと、本発明は、基材の特性を損なうことなく生産性に優れた方法で防湿性を付与することのできる防湿性コート剤と、この防湿コート剤を塗工した防湿組成物および防湿フィルムとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ウレタン樹脂、ワックスおよび液状媒体を含む防湿コート剤を基材に塗布することで、基材の有する特性を損なわずに防湿性を付与できることを見出し、この知見に基づいて本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明の要旨は下記の通りである。
(1)ウレタン樹脂100質量部、ワックス10〜1000質量部および液状媒体を含有する防湿コート剤。
(2)さらにメラミン化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン基含有化合物およびエポキシ化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する(1)記載の防湿コート剤。
(3)液状媒体が水または水性媒体であることを特徴とする(1)または(2)記載の防湿コート剤。
(4)ワックスとして、キャンデリラワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスおよびフィッシャートロプシュワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の防湿コート剤。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の防湿コート剤より液状媒体を除去してなり、40℃、100%RHにおける水蒸気透過係数が、200g・μm/m2/day以下であることを特徴とする防湿組成物。
(6)(5)記載の防湿組成物の層を基材の表面に設けた防湿性加工品。
(7)(5)記載の防湿組成物を基材に含浸させた防湿性加工品。
(8)(5)記載の防湿組成物の層を熱可塑性樹脂フィルムの表面に設けた防湿フィルム。
(9)防湿組成物層の厚みが0.01〜5μmであることを特徴とする(8)記載の防湿フィルム。
(10)熱可塑性樹脂がポリアミドであることを特徴とする(8)または(9)記載の防湿フィルム。
(11)未延伸フィルムの少なくとも片面に(1)〜(4)のいずれかに記載のコート剤を塗布した後、ワックスの融点以上の温度で乾燥することを特徴とする防湿フィルムの製造方法。
(12)未延伸フィルムの少なくとも片面に(1)〜(4)のいずれかに記載のコート剤を塗布した後、同時二軸延伸することを特徴とする防湿フィルムの製造方法。
(13)未延伸フィルムを縦延伸した後、縦延伸フィルムの少なくとも片面に(1)〜(4)のいずれかに記載のコート剤を塗布した後、横延伸することを特徴とする防湿フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の防湿コート剤によれば、経済的、省資源的に有利な方法で各種の基材に防湿性を付与でき、実用的かつ環境問題に配慮した防湿組成物、防湿フィルムを製造することができる。また、ポリアミド樹脂フィルムを基材とすることによって、ポリアミド樹脂フィルムの有する突き刺し耐性、耐ピンホール性、耐衝撃性などの機械特性を活かしつつ、防湿性を付与することができる。さらに、防湿層の形成時にワックスの融点以上で乾燥することにより、防湿性を効果的に発現させることができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の防湿コート剤は、ウレタン樹脂、ワックスおよび液状媒体よりなるものである。
【0014】
本発明で用いるウレタン樹脂とは、主鎖中にウレタン結合を含有する高分子であり、例えばポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応で得られるものである。本発明においては、ポリウレタン樹脂の構造は特に限定されないが、耐ブロッキング性の点から、ガラス転移温度が30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上が特に好ましい。
【0015】
ウレタン樹脂を構成するポリオール成分としては、特に限定されず、例えば、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの低分子量グリコール類、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの低分子量ポリオール類、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド単位を有するポリオール化合物、ポリエーテルジオール類、ポリエステルジオール類などの高分子量ジオール類、ビスフェノールAやビスフェノールFなどのビスフェノール類、ダイマー酸のカルボキシル基を水酸基に転化したダイマージオール等が挙げられる。
【0016】
また、イソシアネート成分としては、芳香族、脂肪族および脂環族の公知のポリイソシアネートの1種または2種以上の混合物を用いることができる。ポリイソシアネートとしては、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどの3官能以上のポリイソシアネートやジイソシアネートを使用することができ、ジイソシアネートを用いることが好ましい。ジイソシアネートの具体例としては、トリレンジジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメリールジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、水添トリレンジジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート、およびこれらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体などが挙げられる。
【0017】
また、鎖長延長剤を用いて適宜ウレタン樹脂の分子量を調整することもできる。こうした化合物としては、イソシアネート基と反応することができるアミノ基や水酸基などの活性水素を2個以上有する化合物が挙げられ、例えば、ジアミン化合物、ジヒドラジド化合物、グリコール類を用いることができる。
【0018】
ジアミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチルテトラミン、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン−4,4´−ジアミンなどが挙げられる。その他、N−2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、N−3−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基を有するジアミン類およびダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダイマージアミン等も挙げられる。更に、グルタミン酸、アスパラギン、リジン、ジアミノプロピオン酸、オルニチン、ジアミノ安息香酸、ジアミノベンゼンスルホン酸等のジアミン型アミノ酸類も挙げられる。
【0019】
ジヒドラジド化合物としては、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシンジヒドラジドなどの2〜18個の炭素原子を有する飽和脂肪族ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジドなどの不飽和ジヒドラジド、炭酸ジヒドラジド、カルボジヒドラジド、チオカルボジヒドラジドなどが挙げられる。
【0020】
グリコール類としては、前述のポリオール類から適宜選択して用いることができる。
【0021】
本発明で使用されるワックスの具体例としては、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ろうなどの植物ワックス、セラックワックス、ラノリンワックスなどの動物ワックス、モンタンワックス、オゾケライトなどの鉱物ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックスなどの合成ワックスが挙げられる。中でもキャンデリラワックス、カルナバワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックスがウレタンと混合することで優れた防湿性を発現することから好ましく、パラフィンワックス、キャンデリラワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックスがより好ましい。また、ワックスの融点として50℃以上のものが好ましく、さらに好ましくは80〜100℃の範囲のものである。
【0022】
本発明の防湿コート剤におけるウレタン樹脂とワックスとの配合比率は、防湿性の発現、防湿組成物層の透明性および強度を維持するため、ウレタン樹脂100質量部に対して、ワックスを10〜2000質量部とすることが必要であり、好ましくは20〜500質量部で、さらに好ましくは30〜150質量部である。10質量部未満では防湿性が充分に発現されない。また、ワックスの量が2000質量部を超えると、防湿組成物層が白濁したり、もろくなるうえに、基材との密着性が低下する。場合によっては防湿性が悪化することもある。
【0023】
本発明の防湿コート剤の液状媒体としては特に限定されず、有機溶剤であってもよいし、水または水と親水性溶媒の混合物であってもよいが、室温・常圧において液体であり、加熱や減圧によって揮発するものが好ましい。有機溶剤としては、ジエチルケトン(3−ペンタノン)、メチルプロピルケトン(2−ペンタノン)、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)、2−ヘキサノン、5−メチル−2−ヘキサノン、2−へプタノン、3−へプタノン、4−へプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、トルエン、キシレン、ベンゼン、ソルベッソ100、ソルベッソ150等の芳香族炭化水素類、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン等の脂肪族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、γ−ブチロラクトン、イソホロン等のエステル類、加えて後述の親水性の有機溶剤などが挙げられる。
【0024】
なお、液状媒体としては、保存安定性、取り扱いの容易さ、さらに、環境保護、省資源、消防法等による危険物規制、職場環境改善等の立場から、水性媒体が好ましい。水性媒体とは水を主成分とする液体からなる媒体である。水以外の溶媒としては、親水性の有機溶剤を用いることが好ましく、その具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−tert−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジメチル等のエステル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセトニトリル、そのほか、アンモニアを含む、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−ジエタノールアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン等の有機アミン化合物等を挙げることができる。
【0025】
上記の液状媒体中にウレタンおよびワックスが含有された状態としては、両方の成分が液状媒体に溶解している状態、いずれかの成分が微粒子として液状媒体に分散し、他方が液状媒体に溶解している状態、両方の成分が液状媒体に微粒子として分散している状態が挙げられ、ウレタン、ワックス、液状媒体の組み合わせにより、いずれの状態をとっていてもよいが、保存安定性、取り扱いの容易さ、環境保護などの理由から、特に、ウレタンとワックスとが、いずれも水または水性媒体に微粒子として分散した、いわゆる水性分散体の状態が好ましい。このような水性分散体は、ウレタン樹脂およびワックスの各成分の水性分散体をそれぞれ調製し、これらを所定の配合量で混合することにより簡便に得られる。混合には、液/液混合装置を適宜使用する。分散混合性が良好であるため、極めて短時間かつ簡単な混合操作でよい。
【0026】
ウレタン樹脂を水性媒体に溶解または分散するためには、ウレタン樹脂に、カルボキシル基、スルホン酸基などのアニオン性基、やシラノール基や水酸基などのノニオン性基、アミノ基などのカチオン性基を導入することが好ましい。このようにすれば、水溶性ウレタンや自己乳化型のウレタン水性分散体を得ることができる。また、乳化剤を用いて強制乳化型のウレタン水性分散体とすることもできる。さらに、自己架橋型官能基を有するウレタン水性分散体を用いることもできる。塗液の取り扱い性や塗膜の耐水性などの点から、自己乳化型のウレタン水性分散体を用いることが好ましい。
【0027】
ウレタン樹脂水性分散体は、市販品として入手することもでき、例えば、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックス150、300、420、460、500、550、600、830、E−4500等、三井武田ケミカル株式会社製のタケラックW−615、W−6010、W−6020、W−6061、W−7004、W−605、WS−7000、WS−5000、WS−5100、WS−4000等、大日本インキ化学工業株式会社製、ハイドランHW−340、HW−150−140、AP−30、AP−40F、ボンコートCG−5000などが挙げられる。なお、市販のウレタン樹脂水性分散体の固形分濃度は通常25〜50質量%である。
【0028】
ワックスの水性分散体を調製する方法として、アニオン性の分散安定剤を用いる方法、分散安定剤を使用せずに、塩基性化合物によって酸性基を部分的に中和することにより分散安定化する方法、の2種類が例示できる。一般には、ワックスの酸価が5mgKOH/g未満の場合には前者の方法を採り、酸価が5mgKOH/g以上の場合には後者の方法を採ることができる。
【0029】
アニオン性の分散安定剤を使用してワックスの水性分散体を調製する場合には、転相乳化法などの公知の水性化方法を行えばよく、例えば、ワックスを有機溶剤に溶解するか、あるいは、溶融して液状化しておき、アニオン性の分散安定剤を添加した水を加えてホモミキサー、ホモディスパー、ホモジナイザー、コロイドミル、ペブルミル、超音波分散機等の汎用の分散装置で撹拌することにより水性化することができる。
【0030】
分散安定剤の添加量は、ワックス100質量部に対して、0.001〜20質量部が好ましく、0.01〜10質量部がより好ましく、0.01〜7質量部が特に好ましい。分散安定剤の添加量が20質量部を超えると、得られる塗膜の耐水性が低下してしまうことがある。
【0031】
分散安定剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等を挙げることができる。
【0032】
また、分散安定剤を含まないワックス水性分散体は、ワックス、塩基性化合物、水性媒体とを、密閉可能な容器中で加熱、攪拌することで調製することができる。この方法によれば、一般に使用されているホモジナイザーやホモミキサーのような高速撹拌装置を使用しなくても、安定な水性分散体を得ることができる。製造装置としては、公知の固/液撹拌装置や乳化機を使用することができ、0.1MPa以上の加圧が可能な装置を使用することが好ましい。撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されないが、樹脂が媒体中で浮遊状態となる程度の低速の撹拌でよい。
【0033】
具体的には、上記の装置にワックス、塩基性化合物、水性媒体などの原料を投入し、次いで、槽内の温度を45〜200℃、好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは80〜120℃の温度に保ちつつ、好ましくは粗大粒子が無くなるまで(例えば、5〜120分間)攪拌を続けることによりワックスを十分に分散化させ、その後、好ましくは攪拌下で40℃以下に冷却することにより、分散体を得ることができる。槽内の温度が45℃未満の場合は、ワックスの分散化が困難になる。槽内の温度が200℃を超える反応は不経済なので好ましくない。
【0034】
前記塩基性化合物の具体例としては、アンモニアまたは沸点が250℃以下の有機アミン化合物が好ましく用いられる。有機アミン化合物の例としては、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−ジエタノールアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等を挙げることができる。分散安定性が優れていることから、トリエチルアミン、モルホリンを用いることが特に好ましい。
【0035】
ワックスの水性分散体は市販品としても入手でき、例えば、日本精蝋株式会社製のEMUSTAR−0135、0443、0413、0454、1055、2090、3085、3115、3115B、5390、5501、5555、AQADISPA−7415等が挙げられる。
【0036】
本発明の防湿コート剤には、耐溶剤性、基材との接着性等の性能を向上させるために架橋剤を配合することが好ましい。架橋剤の配合割合は、ウレタン樹脂100質量部に対して0.1〜50質量部の範囲であることが好ましく、0.1〜30質量部の範囲であることがより好ましい。添加量が0.1質量部未満であると添加効果が小さく、50質量部を超えるとフィルムとの密着性が低下する傾向にある。本発明に用いる架橋剤は、乾燥条件やコート剤の保存安定性の点から適宜選択することができ、例えば、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、ジルコニウム塩化合物等を用いることができる。これらの架橋剤は単独で使用してもよく、あるいは2種類以上を併用してもよい。防湿層と基材フィルムとの接着性の点でトリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミンなどのメチロール化メラミン化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、などのグリシジルエーテル型エポキシ化合物、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどのイソシアネート化合物が好ましい。イソシアネート化合物はビウレット型でもアダクト型でもイソシアヌレート型でもよく、液の貯蔵安定性の点からブロックイソシアネートとして使用してもよい。これらの架橋剤は、環境保護、省資源、消防法等による危険物規制、職場環境改善等の立場から、水性媒体中で使用できることが好ましいので、必要に応じてエチレングリコールやポリエチレングリコールなどのノニオン性の親水基を導入することもできる。トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミン、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネートが特に好ましい。
【0037】
さらに、本発明の防湿コート剤には、その特性が損なわれない範囲で、有機・無機フィラー、板状顔料、無機層状化合物、顔料、顔料分散剤、湿潤剤、消泡剤、増粘剤、凍結融解安定剤、塗膜形成助剤、防腐剤、防カビ剤、防サビ剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ラジカル補足剤、耐候剤、難燃剤、レベリング剤、ワキ防止剤等を添加することができる。
【0038】
本発明の防湿コート剤の固形分濃度は、5〜60質量%の範囲とすることが好ましく、より好ましくは5〜50質量%であり、特に好ましくは5〜40質量%の範囲である。5質量%以下では防湿性を発現するのに充分な厚みの層をコートすることが困難となり、また、その後の乾燥工程において長時間を要するという問題を生じやすい。一方、60質量%を超えると、混合操作や保存性などに問題を生じることがある。固形分濃度の調整は、水性媒体の留去や希釈により適宜行うことができる。また、塗工性能、混合安定性を向上させるために低沸点アルコール(例えばエタノール)などの有機溶媒を加えてもよい。
【0039】
本発明の防湿コート剤は、各種の基材への塗工性に優れているので、紙、合成紙、熱可塑性樹脂フィルム、プラスチック製品、鋼板やアルミ箔のような金属、木材、織布、編布、不織布、石膏ボード、木質ボード等へ塗工するこおとができ、コート剤から液状媒体を除去してなる防湿組成物を上記基材に積層または含浸させることによって、各種基材に防湿加工を施すことができる。
【0040】
基材にフィルムを用いれば、防湿フィルムとすることができる。基材フィルムとしては、PET、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリグリコール酸、ポリ乳酸等のポリヒドロキシカルボン酸、ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)等の脂肪族ポリエステル系樹脂に代表されるウレタン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂またはそれらの混合物等の熱可塑性樹脂よりなるフィルムやこれらの積層体が挙げられるが、中でも、ポリエステル、ポリアミドからなるフィルムが好適に使用できる。フィルムに突き刺し強力、耐ピンホール性や耐衝撃性が要求される場合には、ポリアミドフィルムを好ましく用いることができる。ポリアミドフィルムを用いた防湿フィルムは、水分を含んだ内容物の包装袋に好適である。
【0041】
基材フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよく、その製法も限定されるものではなく、加熱によって収縮する、いわゆるシュリンクフィルムでもよい。また、基材フィルムの厚さも特に限定されるものではないが、通常は1〜500μmの範囲であればよい。通常、包装フィルムには、5〜30μmのものが好ましく使用される。また、基材フィルムには、コロナ放電処理がされていることが好ましい。また、シリカ、アルミナ等が蒸着されていてもよく、ガスバリア層等の他の層が積層されていてもよい。
【0042】
本発明の防湿組成物を基材フィルムに積層して防湿フィルムとする場合、基材フィルムの表面に積層するので、基材全体の機械特性(例えば、耐屈曲ピンホール性)を損ねることなく防湿性を付与することができる。
【0043】
上記した防湿フィルムには、さらに、紙、合成紙、プラスチック製品、鋼板等を積層することができる。これらを積層する面は、防湿フィルムの防湿組成物側でも基材フィルム側でもよい。また、必要に応じて接着層を設けてもよい。
【0044】
基材フィルムを製造する方法としては、例えば、熱可塑性樹脂を押出機で加熱・溶融してTダイより押出し、冷却ロールなどにより冷却固化させて未延伸フィルムを得るか、もしくは円形ダイより押出して水冷あるいは空冷により固化させて未延伸フィルムを得る。延伸フィルムを製造する場合は、未延伸フィルムを一旦巻き取った後、または連続して同時2軸延伸法または逐次2軸延伸法により延伸する方法が好ましい。フィルム機械的特性や厚み均一性能面からはTダイによるフラット式製膜法とテンター延伸法を組合わせる方法が好ましい。
【0045】
防湿コート剤を延伸に先だって基材に塗工する場合には、まず未延伸フィルムに塗工して乾燥した後、テンター式延伸機に供給してフィルムを走行方向と幅方向に同時に延伸(同時2軸延伸)、熱処理するか、あるいは、多段熱ロール等を用いてフィルムの走行方向に延伸を行った後に塗工し、乾燥後、テンター式延伸機によって幅方向に延伸(逐次2軸延伸)してもよい。また、走行方向の延伸とテンターでの延伸を組み合わせることも可能である。フィルムの延伸の熱量をコート剤の乾燥、架橋に用いることができるため、生産性に優れた防湿フィルムを得ることができる。また、塗布後に延伸することで、容易に薄膜を得ることができる。
【0046】
基材フィルムと防湿性組成物の層との接着性を向上するために、基材フィルム表面にコロナ放電処理やアンカーコート処理を施してもよい。
【0047】
本発明の防湿コート剤を基材に塗工する方法は特に限定されるものではないが、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等が採用できる。
【0048】
本発明の防湿コート剤を基材に塗工した後には、熱処理を施することが好ましい。熱処理方法としては、熱風乾燥機、真空乾燥機、赤外線ヒーターなどの非接触型の熱処理装置や熱ロール、熱プレス機などの接触型の熱処理装置といった公知の方法を使用することができ、これらを組み合わせて使用することもできる。熱処理温度は、使用する装置の熱効率などによっても異なるが、防湿コート剤中に含まれるワックスの融点以上で熱処理することが好ましい。さらに熱処理時間を短くするために130℃以上で熱処理することが好ましく、150℃以上で熱処理することが好ましい。また、熱処理時間は通常1秒以上、好ましくは3秒以上がよい。熱処理温度が低すぎたり、熱処理時間が短かすぎたりすると防湿性が不十分となる場合がある。
【0049】
本発明における防湿組成物層の厚みは、防湿性を充分高めるためには少なくとも0.05μmより厚くすることが望ましい。また、防湿性の点からは、防湿組成物層は厚いほうがよいが、本発明の特徴は防湿組成物層が薄くても防湿性を発現することにあるため、特別に厚くする必要はない。防湿性と経済性を考慮した好ましい防湿組成物層の厚さは0.05〜5μmであり、0.1〜2μmがより好ましく、0.1〜1μmが特に好ましい。
【0050】
また、本発明においては、上記のようにコート剤を塗工して防湿組成物層を形成するという方法によって、他の方法(例えば予め作製した防湿性のフィルムを基材上に積層するなど)と比較して、きわめて簡便に5μm以下の厚みの防湿組成物層を基材上に形成することができる。
【0051】
本発明の防湿組成物層の防湿性は後述する水蒸気透過係数により評価することができ、その値は、200g・μm/m/day以下となる。この値は、包装材料のような用途に用いるためには、100g・μm/m/dayが好ましく、50g・μm/m/dayがより好ましく、20g・μm/m/day以下がさらに好ましく、10g・μm/m/day以下が特に好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにのみ限定されるものではない。なお、各種の物性については以下の方法によって測定又は評価した。
(1)防湿組成物層の厚さ
フィルム面に防湿組成物層を積層した防湿加工フィルムの全体の厚さから、基材フィルムの厚さを減じて求めた。
(2)耐屈曲ピンホール性
20℃、65%RHの条件下で調湿した20.3mm×27.9mmの長方形のフィルムをゲルボフレックステスター(理学工学社製)に装着して、8.9mm直進中に440度回転し、さらに6.4mm直進し、その後、逆の行程で元の位置に戻るまでの動きを1回と数えて、10,000回の屈曲テストを行った。屈曲テスト後のフィルムについて、着色液(三菱瓦斯化学社製エージレスシールチェック)をフィルムの片面に塗布し、液が反対面に浸透した個数をピンホール数として計測した(測定面積は497mm)。
(3)水蒸気透過度、水蒸気透過係数
モコン株式会社製の透湿度測定器(PERMATRAN−W3/31MW)により、40℃、100%RHにおける防湿加工フィルムの水蒸気透過度を測定し、Qとした。一方、基材フィルムの水蒸気透過度を測定し、Qとした。次に、防湿加工フィルムと基材フィルムの平均厚みの差から防湿組成物層の厚みを求め、Lとした。以上の数値から下記関係式により防湿組成物層の水蒸気透過係数Pを算出した。
【0053】
1/Q=1/Q+L/P
ただし、Q:防湿加工フィルムの水蒸気透過度(g/m/day)
:基材の水蒸気透過度(g/m/day)
:防湿組成物層の水蒸気透過係数(g・μm/m/day)
L:防湿組成物層厚み(μm)
なお、基材として用いたPETフィルムのQは59g/m/day、Ny6フィルムのQは603g/m/dayであった。
【0054】
参考例1
(キャンデリラワックス分散体W−1の調製)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、40.0gのキャンデリラワックス(東亜化成株式会社製、酸価:15.8、ケン化価:55.4、融点71℃)、8.6g(ワックスの完全ケン化に必要な量の2.5倍当量)のモルホリン(ナカライテスク株式会社製)及び151.4gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を400rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を100℃に保ってさらに10分間撹拌した。その後、空冷にて、回転速度600rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、淡黄色の均一なワックス水性分散体W−1を得た。固形分濃度は20.0質量%、数平均粒子径は0.27μmであった。
【0055】
実施例1
キャンデリラワックス分散体W−1を、ウレタン水性分散体(三井武田ケミカル社製、タケラックWS−5100)U−1の樹脂成分100質量部に対し、ワックス成分50質量部となるよう配合し、水性防湿コート剤J−1を得た。
【0056】
得られた水性防湿コート剤J−1をフィルムアプリケーター(株式会社安田精機製作所製、542-AB)にマイヤーバーを設置して基材フィルムの片面に塗工後、140℃で60秒間乾燥することにより防湿フィルムを作製し、防湿性、被膜の厚さ、耐屈曲ピンホール性の評価を行った。基材フィルムとしては、厚み15μmの2軸延伸Ny6フィルム(ユニチカ株式会社製エンブレムON15)を用いた。
【0057】
実施例2
基材フィルムをPETフィルム(ユニチカ株式会社製、エンブレットPET12、厚み12μm)に変えた以外は実施例1と同様の手順でコート剤、およびコートフィルムを得た。
【0058】
実施例3、4
実施例1の水性防湿コート剤の調製において、キャンデリラワックス分散体W−1の添加量を、ウレタン水性分散体U−1の樹脂成分100質量部に対し、ワックス成分を20質量部、100質量部となるよう配合した以外は実施例1と同様にして、それぞれ水性防湿コート剤J−2(実施例3)、J−3(実施例4)とした。これらを用いて各種物性の評価を行った。
【0059】
実施例5
ワックス樹脂水性分散体としてフィッシャートロプシュワックス分散体(日本精蝋株式会社製、EMUSTAR−3085、アニオン性界面活性剤含有、以下「3085」と略称する。ワックスの融点は85℃)を、ウレタン水性分散体として第一工業製薬株式会社製スーパーフレックス460(以下、「U−2」と略称する。)を用い、ウレタン樹脂成分100質量部に対し、ワックス成分50質量部となるよう配合し、さらに架橋剤としてイソシアネート(日本ポリウレタン工業株式会社製、アクアネートAQ100)を10質量部添加し、水性防湿コート剤J−4を得た。このコート剤を用いた以外は実施例1と同様にして防湿フィルムを作製し、各種物性の評価を行った。
【0060】
実施例6
ワックス分散体としてマイクロクリスタリンワックス水性分散体(日本精蝋株式会社製、EMUSTAR−2090、アニオン性界面活性剤含有、以下「2090」と略称する。ワックスの融点は88℃)を、ウレタン水性分散体として大日本インキ化学工業株式会社製ハイドランAP40(以下、「U−3」と略称する。)を用い、ウレタン樹脂成分100質量部に対し、ワックス成分50質量部となるよう配合し、さらに架橋剤としてメラミン(三井サイテック株式会社製、サイメル327)10質量部を添加して水性防湿コート剤J−5を得た。このコート剤を用いた以外は実施例1と同様にして防湿フィルムを作製し、各種物性の評価を行った。
【0061】
実施例7
ワックス分散体としてパラフィンワックス水性分散体(日本精蝋株式会社製、EMUSTAR−0135、アニオン性界面活性剤含有、以下「0135」と略称する。ワックスの融点は61℃)を、ウレタン水性分散体として第一工業製薬株式会社製F−8583D(以下、「U−4」と略称する。)を用い、ウレタン樹脂の樹脂成分100質量部に対し、ワックス成分50質量部となるよう配合し、さらに架橋剤としてエポキシ化合物(ナガセ化成工業株式会社製、デナコールEX313)10質量部を添加して水性防湿コート剤J−6を得た。このコート剤を用いた以外は実施例1と同様にして防湿フィルムを作製し、各種物性の評価を行った。
【0062】
実施例8
ナイロン6樹脂(ユニチカ社製、ユニチカナイロン6、A1030BRL)をTダイを備えた押出機(75mm径、L/Dが45の緩圧縮タイプ単軸スクリュー)を用いて、シンリンダー温度260℃、Tダイ温度270℃でシート状に押し出し、表面温度10℃に調節された冷却ロール上に密着させて急冷し、厚み150μmの未延伸フィルムとした。
【0063】
続いて、未延伸フィルムをグラビアロール式コーターに導き、実施例1で示したコート剤J−1を乾燥後のコート厚みが7μm(延伸後の厚み0.7μm)になるようにコーティングし、80℃の熱風ドライヤー中で30秒間乾燥した。次に、フィルムをテンター式同時2軸延伸機に供給し、温度100℃で2秒間予熱した後、170℃で縦方向に3倍、横方向に3.5倍の倍率で延伸した。次に、横方向弛緩率5%で、200℃で15秒間の熱処理を行い、厚み15μmの2軸延伸フィルムを巻き取った。
【0064】
実施例9
防湿コート剤としてJ−4を用いた以外は実施例8と同様にして、防湿フィルムを作製し、各種物性の評価を行ない、表1に示した。
【0065】
実施例10
実施例5の水性防湿コート剤の調製において、フィッシャートロプシュワックス分散体W−1の添加量を、ウレタン水性分散体U−1の樹脂成分100質量部に対し、ワックス成分を120質量部となるよう配合して水性防湿コート剤J−7とした。このコート剤を用いた以外は実施例8と同様にして防湿フィルムを作製し、各種物性の評価を行った。
【0066】
実施例11
防湿コート剤としてJ−5を用いた以外は実施例8と同様にして、防湿フィルムを作製し、各種物性の評価を行なった。
【0067】
実施例12
ワックス分散体としてフィッシャートロプシュワックス水性分散体(日本精蝋株式会社製、EMUSTAR−3115、アニオン性界面活性剤含有、以下「3115」と略称する。ワックスの融点は115℃)を、ウレタン水性分散体としてU−4を用い、ウレタン樹脂成分100質量部に対し、ワックス成分50質量部となるよう配合し、さらに架橋剤としてエポキシ化合物(ナガセ化成工業株式会社製、デナコールEX313)10質量部を添加して水性防湿コート剤J−8を得た。
【0068】
ナイロン6樹脂をTダイを備えた押出機(75mm径、L/Dが45の緩圧縮タイプ単軸スクリュー)を用いて、シリンダー温度260℃、Tダイ温度270℃でシート状に押出し、表面温度25℃に調節された冷却ロール上に密着させて急冷し、厚み155μmの未延伸フィルムとした。
【0069】
続いて、この未延伸フィルムを周速の異なる加熱ローラ群からなる縦延伸機により55〜62℃の温度で2.8倍に縦延伸して縦延伸フィルムとした。次いで、縦延伸フィルムの片面に防湿コート剤J−8をマイヤーバーコーターを用いて横延伸後の塗布物の厚みが0.7μmとなるように塗布した。次いで、テンターに導き、予熱部において60℃で、5.3秒間処理して水分散体中の水分を実質的に乾燥させて塗膜を形成させるとともに予熱し、90℃で 3.7倍に横延伸し、210℃で熱セットし、厚み15μmの防湿コートフィルムを得た。各種物性の評価を行なった。
【0070】
実施例13〜14
実施例1の水性防湿コート剤の調製において、キャンデリラワックス分散体W−1の添加量を、ウレタン水性分散体U−1の樹脂成分100質量部に対し、ワックス成分がそれぞれ、500質量部(実施例13)、1000質量部(実施例14)となるよう配合した以外は実施例1と同様にして、水性防湿コート剤J−9〜11を作製し、各種物性の評価を行った。
【0071】
実施例1〜14で得られた測定結果等をまとめて表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
比較例1
実施例1の水性防湿コート剤の調製において、キャンデリラワックス分散体W−1を添加しなかった以外は実施例1と同様にして水性防湿コート剤H−1を作製し、各種物性の評価を行った。
【0074】
比較例2
実施例1の水性防湿コート剤の調製において、樹脂水性分散体として変性ポリオレフィン水性分散体(ユニチカ株式会社、アローベースSB−1200)を用いた以外は実施例1と同様にして水性防湿コート剤H−2を作製し、各種物性の評価を行った。
【0075】
比較例3
実施例1の水性防湿コート剤の調製において、キャンデリラワックス分散体W−1の添加量を、ウレタン水性分散体U−1の樹脂成分100質量部に対し、ワックス成分が2000質量部となるよう配合した以外は実施例1と同様にして、水性防湿コート剤H−3を作製し、各種物性の評価を行った。
【0076】
比較例1〜3で得られた測定結果等を表1に示す。
【0077】
実施例1、2から基材フィルムの種類にかかわらず、防湿性および透明性に優れたものが得られた。
【0078】
実施例1、3、4、13、14からウレタンとワックスの配合比を変えても、防湿性および耐屈曲ピンホール性に優れたものが得られた。
【0079】
実施例1、5、6、7から、ワックスと架橋剤の種類を変えても、防湿性および耐屈曲ピンホール性に優れたものが得られた。
【0080】
実施例8、9、10、11から、未延伸フィルムに防湿コート剤を塗工し、その後に同時二軸延伸しても防湿性と耐屈曲ピンホール性に優れた防湿フィルムが得られた。
【0081】
実施例12から、フィルムを縦延伸した後に防湿コート剤を塗工し、その後に横方法に延伸する逐次二軸延伸法でも防湿性と耐屈曲ピンホール性に優れた防湿フィルムが得られた。
【0082】
これに対し、比較例1は、ワックスを配合していないため防湿性を発現しなかった。また比較例2は、ワックスの添加量が本発明の範囲外であるため塗膜にひび割れが生じ、ガス透過性の評価が行えなかった。比較例3は、樹脂が本発明の範囲外で、防湿性に劣っていた。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン樹脂100質量部、ワックス10〜1000質量部および液状媒体を含有する防湿コート剤。
【請求項2】
さらにメラミン化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン基含有化合物およびエポキシ化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する請求項1記載の防湿コート剤。
【請求項3】
液状媒体が水または水性媒体であることを特徴とする請求項1または2記載の防湿コート剤。
【請求項4】
ワックスとして、キャンデリラワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスおよびフィッシャートロプシュワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防湿コート剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の防湿コート剤より液状媒体を除去してなり、40℃、100%RHにおける水蒸気透過係数が、200g・μm/m2/day以下であることを特徴とする防湿組成物。
【請求項6】
請求項5記載の防湿組成物の層を基材の表面に設けた防湿性加工品。
【請求項7】
請求項5記載の防湿組成物を基材に含浸させた防湿性加工品。
【請求項8】
請求項5記載の防湿組成物の層を熱可塑性樹脂フィルムの表面に設けた防湿フィルム。
【請求項9】
防湿組成物層の厚みが0.01〜5μmであることを特徴とする請求項8記載の防湿フィルム。
【請求項10】
熱可塑性樹脂がポリアミドであることを特徴とする請求項8または9記載の防湿フィルム。
【請求項11】
未延伸フィルムの少なくとも片面に請求項1〜4のいずれかに記載のコート剤を塗布した後、ワックスの融点以上の温度で乾燥することを特徴とする防湿フィルムの製造方法。
【請求項12】
未延伸フィルムの少なくとも片面に請求項1〜4のいずれかに記載のコート剤を塗布した後、同時二軸延伸することを特徴とする防湿フィルムの製造方法。
【請求項13】
未延伸フィルムを縦延伸した後、縦延伸フィルムの少なくとも片面に請求項1〜4のいずれかに記載のコート剤を塗布した後、横延伸することを特徴とする防湿フィルムの製造方法。


【公開番号】特開2006−298968(P2006−298968A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118296(P2005−118296)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】