説明

難燃性接着シート及びシート組立体

【課題】熱可塑性樹脂、硬化剤及び難燃剤を有する難燃性接着シートにおいて、新たな物質を添加することなく、フロー性とブロッキング性との両方をバランス良く調和させることにより、サーミスタ等といったシート組立体の製造時の作業性を向上させる。
【解決手段】基材2上に接着層3を形成して成る難燃性接着シート1において、接着層3は、熱可塑性樹脂と難燃剤と硬化剤とを有し、接着層2のTgは−20〜20℃であり、難燃剤の平均粒径は0.1〜5.0μmである。接着層の配合は、熱可塑性樹脂100重量部、難燃剤60〜100重量部、硬化剤0〜50重量部である。硬化剤は含まれない場合もある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に難燃性の接着層を形成して成る難燃性接着シートに関する。また、本発明は、一対の難燃性接着シートによって導体を挟持して成るシート組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
上記シート組立体は、例えばサーミスタ、フラットケーブル等である。サーミスタは、温度変化に対して電流が変化する抵抗体を一対の接着シートで挟持して成る温度検知要素である。サーミスタは、例えば、回路に過電流が流れることを防止するための電子素子として用いられる。フラットケーブルは、複数の細長い導体を一対の接着シートで挟持して成る配線要素である。フラットケーブルは、例えば複数の電子機器間における電気信号の伝送路として用いられる。
【0003】
上記難燃性接着シートは、一般に、基材上に難燃性の接着層を設けることによって形成される。基材は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等によって形成される。この難燃性接着シートに関しては、フロー性が良くて加工し易いこと、及びブロッキングを発生し難いことが要求されている。
【0004】
ここで、フロー性とは、難燃性接着シートの構成要素である接着層が流動性を帯びるときの温度が高いか低いかの特性のことである。フロー性が良いとはフローし易いこと、すなわち流動性を帯びるときの温度が低いことである。一方、フロー性が悪いとはフローし難いこと、すなわち流動性を帯びるときの温度が高いことである。導体の表面全域を接着シートによって密着状態で被覆することを容易に達成できるようにするためには、フロー性が良いことが要求される。
【0005】
ブロッキングとは、一方の面が接着層であり他方の面が基材である接着シートをロール状に巻いたときに、接着層が基材に付着することである。通常の接着シートでは、このブロッキングが発生し難いことが望まれている。本明細書では、ブロッキングが発生し易いことをブロッキング性が悪いといい、ブロッキングが発生し難いことをブロッキング性が良いということにする。
【0006】
従来、接着シートにおけるフロー性及びブロッキング性に関していくつかの文献が知られている。例えば特許文献1によれば、ポリエステル樹脂、窒素含有リン化合物及びヒドロキシスズ酸亜鉛を含んで成る難燃接着混和物において、ブロッキング性を良くするためにシリカ等といった充填材を接着シートの構成要素として添加することが知られている(例えば[0021]段落参照)。また、接着力向上剤および難燃助剤であるヒドロキシスズ酸亜鉛の平均粒径を10μm以下にすることが知られている(例えば[0020]段落参照)。
【0007】
また、例えば特許文献2によれば、エポキシ樹脂、硬化剤及びゴム系材料を含むベース樹脂とホウ素化合物粉末を含んで成る接着性樹脂混和物において、難燃剤であるホウ素化合物粉末の平均粒径を10μm以下とすることが好ましいことが知られている(例えば[0021]段落参照)。これにより、塗膜厚さが薄くなった時に表面性が悪くなることを防止できるとされている。
【0008】
また、例えば特許文献3によれば、非ハロゲン系エポキシ樹脂、熱可塑性樹脂および/または合成ゴム、硬化剤、硬化促進剤、ならびにリン含有充填剤を含有してなる難燃性接着剤組成物において、カルボキシル基の調整によりフロー性を良くできることが知られている(例えば[0017]段落参照)。
【0009】
また、例えば特許文献4によれば、非ハロゲン系エポキシ樹脂、熱可塑性樹脂および/または合成ゴム、硬化剤、窒素含有ポリリン酸塩化合物、ならびに硬化促進剤を含有してなる難燃性接着剤組成物において、カルボキシル基含有熱可塑性樹脂中におけるカルボキシル基の割合を規定することにより、フロー性を良くできることが知られている(例えば[0018]〜[0019]段落参照)。
【0010】
そして、例えば特許文献5によれば、熱可塑性樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、リン化合物及びメラミンシアヌレートを含有して成るハロゲンフリー難燃性接着剤組成物において、難燃剤であるメラミンシアヌレートの平均粒径を10μm以下にすることにより、膜厚を薄く塗布した際に表面平滑性が低下することを防止できることが知られている(例えば[0032]段落参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−336026号公報(第3頁)
【特許文献2】特開2005−112910号公報(第6頁)
【特許文献3】特開2005−248048号公報(第5頁)
【特許文献4】特開2006−342319号公報(第5頁)
【特許文献5】特開2008−056820号公報(第7頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の各従来技術においては、フロー性とブロッキング性とがそれぞれ独立して考察されていた。また、特許文献1によれば、ブロッキング性を向上させるためにシリカ等の充填材を新たに添加していた。さらには、いくつかの文献において、成分材料の平均粒径を10μm以下に規定することが開示されているが、これらは、主に、当該成分材料の膜厚を薄く塗布した際の表面の平滑性が損なわれないようにするための技術であり、ブロッキング性及びフロー性との関連で考察されたものではない。
【0013】
本発明者等は、PET等から成る基材上に難燃性の接着層を形成して成る難燃性接着シートにおいて、できるだけ構成成分を増やすことなく、フロー性とブロッキング性とをバランス良く良好な状態に設定することを目的として鋭意、検討をした。そして、その結果、PET等から成る基材上に接着層を形成して成り、その接着層が熱可塑性樹脂及び難燃剤を含有し、場合によってはさらに硬化剤を含有している難燃性接着シートにおいて、熱可塑性樹脂や難燃剤等といった個々の樹脂のTg(ガラス転移点温度)を規定するのではなく、接着層の全体のTgを所定範囲に規定し、さらに難燃剤の粒径を所定範囲に規定すれば、新たな物質を添加することなく、フロー性とブロッキング性との両方をバランス良く調和させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の目的は、熱可塑性樹脂及び難燃剤を有する、場合によってはさらに硬化剤を有する難燃性接着シートにおいて、新たな物質を添加することなく、フロー性とブロッキング性との両方をバランス良く実現することにより、サーミスタ、フラットケーブル等といったシート組立体の製造時の作業性を格段に向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る難燃性接着シートは、基材上に接着層を形成して成る難燃性接着シートにおいて、前記接着層は、熱可塑性樹脂と、難燃剤と、硬化剤とを有し、前記接着層のTgは−20〜20℃であり、前記難燃剤の平均粒径は0.1〜5.0μmであり、前記接着層の配合は、熱可塑性樹脂100重量部、難燃剤60〜100重量部、硬化剤0〜50重量部であることを特徴とする。難燃剤の平均粒径は、より好ましくは0.5〜2.0μmである。
【0016】
一般に樹脂のTgが高いと、その樹脂のブロッキング性は良い(ブロッキングが発生し難い)が、フロー性が悪い(導体を覆う加工が難しい)。他方、Tgが低いとフロー性は良いがブロッキング性が悪い。本発明によれば、熱可塑性樹脂、難燃剤等の個々のTgではなく、接着層の全体のTgを−20〜20℃に規定し、しかも、難燃剤の平均粒径を0.1〜5.0μmに規定したので、フロー性が良好であり、しかもブロッキングを発生することの無い難燃性接着シートを提供できる。つまり、熱可塑性樹脂及び難燃剤以外に特別な添加剤を加えることなく、フロー性とブロッキング性の両方を良好な状態に維持できる。
【0017】
接着層のTgが−20℃未満であると、ブロッキングが容易に発生して、作業性が著しく損なわれる。他方、接着層のTgが20℃を越えると、接着力が著しく低下して、シート組立体に不良が発生するおそれがある。
【0018】
難燃剤の平均粒径が0.1μm未満であると、接着層と基材とでブロッキングが発生して作業性が損なわれる。また、接着シートを手で取り扱う作業者にとって、手触りの感触が悪くなる。また、平均粒径が0.1μm未満であると、塗工液のチクソトロピー性が高くなりすぎ、塗工の工程に適さず、平滑な表面が得られない。他方、難燃剤の平均粒径が5.0μmを越えると、接着層の導体に対する密着性が悪くなったり、接着シートの折曲がり性が悪くなったりするおそれがある。
【0019】
上記難燃性接着シートにおいて、前記接着層の配合は、熱可塑性樹脂100重量部、難燃剤60〜100重量部、硬化剤0〜50重量部である。難燃剤が60重量部未満であると、十分な難燃性を確保できない。硬化剤が0.5重量部未満であると、架橋密度が低く、耐熱性及び耐溶剤性が悪くなるおそれがあるが、フロー性が非常に良好である。硬化剤が50重量部を超えると接着力が低下する。
【0020】
本発明に係る難燃性接着シートには、硬化剤を含んでいないものも含まれる。硬化剤を含まない難燃性接着シートは、良好なフロー性を維持できる。
【0021】
次に、本発明に係る難燃性接着シートにおいて、前記難燃剤は粒子状のリン系化合物を主成分とすることができる。粒子状のリン系化合物は熱可塑性樹脂、特に飽和共重合ポリエステルと共に用いられたとき、良好な難燃性を発揮することができる。粒子状のリン系化合物は、例えばリン酸エステルアミドとすることができる。
【0022】
次に、本発明に係る難燃性接着シートにおいて、前記硬化剤はイソシアネート化合物とすることができる。イソシアネート化合物は熱可塑性樹脂の末端の水酸基、酸基に対して適切な架橋密度を実現し、これにより、熱可塑性樹脂に適切なフロー性を付与できる。
【0023】
次に、本発明に係るシート組立体は、一対の接着シートによって導体を挟持して成るシート組立体であって、前記一対の接着シートは以上に記載した構成の難燃性接着シートであり、前記一対の接着シートは、それらの前記接着層が前記導体を挟んで互いに面接触させられ、さらに熱圧着により接着されていることを特徴とする。
【0024】
この構成のシート組立体は、例えばフラットケーブル、サーミスタ等である。このシート組立体で用いられる本発明の難燃性接着シートは良好なフロー性とブロッキング性とを併せて有している。難燃性接着シートのフロー性が良好であることから、この難燃性接着シートを用いて形成されたシート組立体における導体と接着層との密着性は、その導体の表面全域にわたって非常に良好である。さらに、難燃性接着シートのブロッキング性が良好であることから、シート組立体の製造時における作業性は非常に良好である。
【0025】
接着層が硬化剤を含む接着シートを用いる場合は、架橋により耐熱性を得ることができるので、シート組立体としてカバーレイを形成するときに好適である。他方、接着層が硬化剤を含まない接着シートを用いる場合は、それ程高い耐熱性が必要とならないシート組立体であるフラットケーブルを形成するときに好適である。
【発明の効果】
【0026】
一般に、樹脂のTgが高いとその樹脂のブロッキング性は良いがフロー性が悪い。他方、Tgが低いとフロー性は良いがブロッキング性が悪い。本発明の難燃性接着シートによれば、熱可塑性樹脂、難燃剤等の個々のTgではなく、接着層の全体のTgを−20〜20℃に限定し、しかも、難燃剤の平均粒径を0.1〜5.0μmに限定したので、フロー性が良好であり、しかもブロッキングを発生することが無い。つまり、熱可塑性樹脂及び難燃剤以外に特別な添加剤を接着層の構成成分として加えることなく、接着層についてフロー性とブロッキング性の両方を良好な状態に維持できる。
【0027】
つまり、本発明によれば、熱可塑性樹脂及び難燃剤を有する、場合によってはさらに硬化剤を有する接着シートにおいて、新たな物質を構成成分として添加することなく、フロー性とブロッキング性との両方をバランス良く実現することができる。
【0028】
さらに、本発明に係るシート組立体によれば、ブロッキング性が良好である本発明の難燃性接着シートを用いているので、シート組立体の製造時の作業性が非常に良好である。そして、フロー性が良好である本発明の難燃性接着シートを用いているので、完成したシート組立体における導体と接着層との密着性が非常に良好である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る難燃性接着シートの一実施形態及びシート組立体の製造過程の一例を示す図である。
【図2】本発明に係るシート組立体の一実施形態を示す図である。
【図3】本発明に係るシート組立体の一実施形態であるサーミスタを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(難燃性接着シートの実施形態)
本発明に係る難燃性接着シートの一実施形態は、例えば図1において符号1に示すように形成される。この接着シート1は、基材2上に接着層3を積層することによって形成されている。なお、図示の接着シート1は本発明の一実施形態を模式的に示すものであり、本発明が図示の実施形態に限定されるものでないことはもちろんである。
【0031】
この難燃性接着シート1を用いてシート組立体を作製する場合には、図1において、導体4を間に挟んで、一対の接着シート1の接着層3を互いに面接触させ、さらに熱圧着する。これにより、図2に示すようなシート組立体5が製造される。接着層3は導体4の表面全面を密着状態で覆っている。
【0032】
本実施形態において、基材2は熱可塑性樹脂によって形成されている。この熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフォイド、ポリカーボネート等が挙げられる。好ましくは、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフォイド、ポリエチレンナフタレートである。透明性、寸法安定性、機械的特性等の点から見れば、ポリエステルやポリエチレンナフタレートが好ましい。
【0033】
好ましいポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンナフタレート等が挙げられる。これら2種以上を混合しても良い。また、これらと他のジカルボン酸成分やジオール成分が共重合されたものであっても良い。
【0034】
熱可塑性樹脂中には各種の添加剤、架橋剤等を含ませても良い。基材2は単層に限られず、2層以上から成る複合フィルムであっても良い。基材2の厚みは、1.0〜50μmである。
【0035】
接着シートに高い難燃性を持たせる場合には、熱可塑性樹脂に難燃剤を添加しても良い。この場合の難燃剤は非ハロゲン系難燃剤であることが望ましい。非ハロゲン系難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、酸化スズ水和物、塩基性炭酸マグネシウム、三酸化アンチモン、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛、ジルコニウム系難燃剤、モリブデン系難燃剤等がある。
【0036】
機械的強度や寸法安定性等の観点から、熱可塑性樹脂は2軸配向されたものであることが好ましい。2軸配向とは、未延伸すなわち結晶配向が完了する前の熱可塑性樹脂フィルムを長手方向及びそれと直角な幅方向にそれぞれ適宜の倍率、例えば2.5〜5.0程度延伸し、その後熱処理により結晶配向を完了させたものである。
【0037】
接着層3は、本実施形態の場合、熱可塑性樹脂、難燃剤及び硬化剤が混合されて成る接着剤によって形成されている。硬化剤は場合によっては用いられないことがある。接着層3は公知の方法によって基材2上に形成される。例えば、熱可塑性樹脂、難燃剤及び硬化剤をトルエン、メチルエチルケトン等の溶剤に溶かして溶液を形成し、その溶液を周知の塗布方法によって基材2の表面に塗布し、さらに乾燥する。接着層の厚みは、例えば、10〜100μm、好ましくは15〜50μm、より好ましくは20〜40μm程度である。接着層の中には、必要に応じて、酸化防止剤、充填剤等を添加することができる。
【0038】
接着層3は、硬化剤を入れる場合は、例えば次のような配合で形成されている。
(A)熱可塑性樹脂 100重量部
(B)難燃剤 60〜100重量部
(C)硬化剤 0.5〜50重量部
なお、製造しようとしている接着シート組立体の種類によっては、硬化剤を入れなくても良い。
【0039】
難燃剤は可塑性樹脂100重量部に対して60〜100重量部、好ましくは70〜90重量部である。難燃剤が60重量部未満では十分な難燃性が得られず、90重量部を超えると、接着力が低下する。
【0040】
硬化剤は可塑性樹脂100重量部に対して0.5〜50重量部、好ましくは1.5〜10重量部である。硬化剤が0.5重量未満では架橋密度が低く、耐熱性及び耐溶剤性が低い傾向がある。硬化剤が50重量部を超えると接着力が低下する。
【0041】
接着層3の構成成分である熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アイオノマー樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸又はメタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ酢酸ビニル系樹脂、アクリル系又はメタクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアクリルニトリル系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、熱可塑性ポリウレタン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリカーボネート系樹脂、熱可塑性ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂等がある。熱可塑性樹脂は、好ましくは、飽和共重合ポリエステル又はポリアミド系樹脂を用いることができる。
【0042】
接着層3の構成成分である難燃剤としては、非ハロゲン系化合物が用いられている。非ハロゲン系化合物としては、例えば、フェニルスルホン酸、t−ブチルスルホン酸、フェニルスルフィン酸、ポリリン酸アンモニウム、リン酸エステルアミド等のリン系難燃剤;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、酸化スズ水和物、塩基性炭酸マグネシウム、酸化アンチモン、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛、ジルコニウム系難燃剤、モリブデン系難燃剤等の無機系難燃剤がある。難燃剤は、好ましくは、粒子状リン系化合物が用いられる。難燃剤は、無機系難燃剤を混合することもある。
【0043】
本実施形態の難燃剤は粒子を含んでおり、その粒子の平均粒径は0.1〜5μmの範囲内の任意の値である。好ましくは、平均粒径は0.5〜2.0μmである。粒子径がこの範囲内に入っていれば、接着層3の接着性又は粘着性を物理的に抑制できる。従って、図1の接着シート1をロール状に巻き取ったとき、接着層3が基材2に貼り付くこと、すなわちブロッキングを防止することができる。難燃剤の粒径を上記の通りに設定すれば、難燃剤が難燃の機能を達成できるだけの量を接着層に含ませれば、難燃剤によって必然的にブロッキングの機能が達成される。
【0044】
接着層3の構成成分である硬化剤としてはイソシアネート化合物又はエポキシ樹脂が挙げられる。これらは熱可塑性樹脂に含まれる水酸基、またはカルボキシル基と反応して架橋点を形成する。
【0045】
一般に、樹脂のTgが高いとその樹脂のブロッキング性は良いがフロー性が悪い。他方、Tgが低いとフロー性は良いがブロッキング性が悪い。本実施形態によれば、熱可塑性樹脂、難燃剤等の個々のTgではなく、接着層の全体のTgを−20〜20℃に限定したので、接着剤層が適切なフロー性を有する。しかも、難燃剤の平均粒径を0.1〜5.0μmに限定したので、ブロッキングの発生を効果的に防止できる。この場合、ブロッキングの発生を防止するために、熱可塑性樹脂及び難燃剤以外に特別な添加剤を加える必要が無い。
【0046】
つまり、本実施形態によれば、熱可塑性樹脂及び難燃剤を有する、場合によってはさらに硬化剤を有する接着シートにおいて、新たな物質を構成成分として添加することなく、フロー性とブロッキング性との両方をバランス良く実現することができる。
【0047】
(シート組立体の実施形態)
図3は本発明に係るシート組立体の一実施形態であるサーミスタを示している。このサーミスタ6は、温度変化に対して電流が変化する抵抗体7及びそれから延びる導電線8を上下一対の接着シート1,1で挟持して成る温度検知要素である。このサーミスタ6は、例えば、回路に過電流が流れることを防止するための電流検知素子として用いられる。このサーミスタ6のA−A線に従った断面構造は図2に示された断面構造に相当する。この場合、図2に示された導体4が図3の導電線8や抵抗体7に相当する。
【0048】
本発明に係る難燃性接着シート1に関しては接着層のフロー性が良好であるので、導体である導電線や抵抗体を接着層によって密着状態で被覆できる。また、難燃性接着シート1にブロッキングが生じないので、サーミスタ6を製造する際、作業者は難燃性接着シート1を容易に取り扱うことができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
熱可塑性樹脂をトルエンとメチルエチルケトンの混合溶剤で希釈し、表1に示した割合で難燃剤及び硬化剤を混合し、接着剤溶液を得た。これをポリエチレンテレフタレートから成る基材に塗布した後、溶剤を乾燥させて接着シートを作成した。
【0051】
また、接着層のフロー性評価用にサーミスタの抵抗体及び2本の導線を平行に並べ、接着シート2枚を接着層が向かい合うようにして面接触させ、さらに熱圧着して、シート組立体としてのサーミスタを得た。
【0052】
こうして得られた接着シートについて接着性、難燃性、耐ブロッキング性を調査し、サーミスタについてフロー性を調査し、結果を表1に示した。
【0053】
<接着性>
幅20mmに切断した接着シート2枚を接着層同士貼り合わせ、熱圧着ロールにて、ロール温度150℃、圧力0.8Mpa、スピード0.5m/minで熱圧着し、試験試料を作成した。試験は引張速度300mm/minで180°剥離試験を行い、剥離力が2kg以上のものを「○(良品)」、2kg未満のものを「×(不良品)」と判定した。
【0054】
<接着層のTg>
接着層のTgは、接着剤溶液をポリエステルフィルムに塗布した後、溶剤を乾燥させて接着シートを作成し、剥離フィルムを保護シートとして貼合させた上で、保護シートを剥がし、DSC法で接着層のTgを測定した。
【0055】
<難燃剤の平均粒径>
難燃剤の平均粒径はレーザー回折法で測定した。
【0056】
<難燃性>
難燃性は、UL−94VTM−0に合格したものを「○」とし、不合格のものを「×」とした。
【0057】
<耐ブロッキング性>
3枚の接着シートを接着層面が下になるように重ね合わせて形成した試料を2枚のガラスで挟み、50g/cmの荷重を印加して50℃−24時間恒温槽に投入した。投入後の試料を幅20mmに切断し、引張速度300mm/minで180°剥離試験を行い、剥離力が50g以下のものを「○」、50gを超えたものを「×」と判定した。
【0058】
<フロー性>
接着層のフロー性評価用にサーミスタの抵抗体及び2本の導線を平行に並べ、接着シート2枚を接着層が向かい合うようにして面接触させ、熱圧着ロールにて、ロール温度150℃、圧力0.8Mpa、スピード0.5m/minで熱圧着し、シート組立体としてのサーミスタを得た。
このサーミスタを主成分エチレングリコールの赤色不凍液に1分間浸漬する。浸漬後、接着シート間に浸透した赤色不凍液の距離が1mm以下のものを「○」、1mmを超えたものを「×」と判定した。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示した通り、比較例1〜6と比較して実施例1〜3の接着シートはいずれも、接着性、難燃剤、耐ブロッキングに優れていることが分かる。またサーミスタについても、フロー性が優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0061】
1.接着シート、 2.基材、 3.接着層、 4.導体、 5.シート組立体、
6.サーミスタ、 7.抵抗体、 8.導電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に接着層を形成して成る難燃性接着シートにおいて、
前記接着層は、熱可塑性樹脂と、難燃剤と、硬化剤とを有し、
前記接着層のTgは−20〜20℃であり、
前記難燃剤の平均粒径は0.1〜5.0μmであり、
前記接着層の配合は、熱可塑性樹脂100重量部、難燃剤60〜100重量部、硬化剤0〜50重量部である
ことを特徴とする難燃性接着シート。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、飽和共重合ポリエステル又はポリアミド系樹脂であることを特徴とする請求項1記載の難燃性接着シート。
【請求項3】
前記難燃剤は、粒子状リン系化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の難燃性接着シート。
【請求項4】
前記硬化剤はイソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の難燃性接着シート。
【請求項5】
一対の難燃性接着シートによって導体を挟持して成るシート組立体であって、
前記一対の難燃性接着シートは請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の難燃性接着シートであり、
前記一対の難燃性接着シートは、それらの前記接着層が前記導体を挟んで互いに面接触させられ、さらに熱圧着により接着されている
ことを特徴とするシート組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−215758(P2010−215758A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62858(P2009−62858)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(592091220)株式会社コスモテック (13)
【Fターム(参考)】