説明

電力制限回路

【課題】希望周波数帯域外の放射レベルを許容範囲内に抑え、平均電力とバックオフの損失を可能な限り抑制する電力制限回路を提供する。
【解決手段】入力信号の電力値を算出する電力計算部11と、算出された電力値と、予め設定された閾値とを比較する閾値比較部12と、算出した電力の包絡線から極大点と極大値を検出するピーク検出部13と、閾値と前記極大値から求めたスケーリング係数を備え、形状パラメータ計算部18によって算出された形状パラメータと併せてカイザー窓を生成する窓関数生成部14と、入力信号を所定時間遅延させる遅延部15と、遅延させた入力信号と窓関数とを乗算する乗算部16と、乗算結果から希望の周波数帯域外の放射レベルを測定する帯域外レベル計測部17と、測定された帯域外放射レベルから窓関数の形状パラメータを算出する形状パラメータ計算部とを備える電力制限回路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力制限回路に関し、特に、ASICやマイクロプロセッサで実現するデジタル信号処理の分野において、デジタル高速無線通信システムが備える送信用パワーアンプ(電力増幅器)等の入力電力に制限を設ける回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタル高速無線通信システムの分野において、周波数帯域の利用率向上と、データ通信の高レート化という市場の要求に応えるためCDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多重接続)や、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交波周波数分割多重)といった高効率の多重方式が多く利用されるようになった。これらの方式は、送信信号生成時に複数のキャリアやコードの多重を行うため、送信信号の平均電力に対して非常に大きい瞬時電力(ピークファクタ、クレストファクタ)を有するという特徴があり、それが高効率伝送を実現する上での課題となっている。
【0003】
これらの通信機が備える送信用パワーアンプの入出力特性は、理想的には、図2のT(x)に示す直線で表現されるが、実機経験上では、図2のE(x)に示すように、入力電力が大きくなるに従って利得が低下するような非線形性を示す。パワーアンプの非線形性は、希望周波数帯域外の放射レベルの増加(図3参照)を引き起こす相互変調の大きな原因であり、伝送効率の悪化と、他の無線周波数への妨害を誘引するため、厳しく制限する必要がある。
【0004】
パワーアンプの動作点を下げ、出力飽和点に対するバックオフ(図2参照)を充分に確保することにより、希望帯域外の放射レベルを抑制することができるが、パワーアンプの入力信号のPAPR(又は、PAR、Peak to Average Power Ratio:ピーク対平均電力比率)が大きいと、より大きなバックオフを必要とするため、効率よくパワーアンプを運用するのは容易でない。この問題を解決するためには、プリディストーションや、フィードフォワードといったパワーアンプの非線形性補償と、PAPRを低減する技術の組み合わせが肝要であり、特に、後者については、CFR(Crest Factor Reduction:クレストファクタリダクション)、クリップ又はクリッピングなどと呼ばれる手法が知られている。
【0005】
最も単純なCFRの一例として、図5に示すハード・クリッピング方式が挙げられる。送信信号の同相成分Iチャンネル(In-Phase Channel)と、直交成分Qチャンネル(Quadrature Channel)の電力P5を電力変換部51で求め、設定閾値TH5との大小関係を判定部52で判定し、P5>TH5の場合には、スケーリング係数算出部53でP5とTH5に基づいてスケーリング係数を導出する。遅延部54で、電力変換部51からスケーリング係数算出部53の処理にかかるのと同じ時間だけ、送信信号IチャンネルとQチャンネルとを遅延させた後、乗算部55で両チャンネルにスケーリング係数を乗算する。処理後の電力包絡線は、図6に示すように、TH5を超過した部分についてのみ制限処理が施されるため、処理点前後に不連続点が現れてしまう。これは、パワーアンプの非線形性と同様に、希望周波数帯域外への放射漏洩(図4(a)参照)の原因となるので、帯域制限能力に優れたローパスフィルタとの組み合わせが必須になる。
【0006】
上述の課題を解決するため、特許文献1に記載のような発明が提案されている。この発明では、CFR処理の対象となる閾値超過の電力極大点と、その周辺時間を一定の時間幅を持った窓関数で逓倍することにより、極大点と、その近傍の点の接続を滑らかに低減する。この方式の概念ブロック図を図7に示す。ハード・クリッピング方式との大きな違いは、閾値を超過する極大点を判定するピーク検出部73と、閾値と極大電力値から求めたスケーリング係数Aとを用いて窓関数W(t)を生成する窓関数生成部74が追加されている点である。窓関数を使用した方式によるCFR後の電力包絡線を図8(b)に、比較としてCFR処理前の電力包絡線を図8(a)に示す。平行して描画されている図8(c)は生成窓関数であり、これの極小点と、クレストファクタを持つ送信信号の位相を揃えて乗算部76で乗算する。このように、CFR処理に窓関数を用いることで、希望周波数帯域外への放射レベル(図4(b)参照)を抑制しながらバックオフを確保することができる。
【0007】
【特許文献1】特開2004−80696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記窓関数を用いたCFR(図7参照)は、希望周波数帯域外の放射レベル抑圧の観点で、ハード・クリッピング方式(図5参照)より良好な結果が得られるものの、依然として以下のような課題を抱えている。
【0009】
クレストファクタの低減は、送信信号の平均電力に少なからず影響を与えるが、特に窓関数を用いたCFRは、閾値超過点のみを逓倍するハード・クリッピング方式と比較して平均電力の損失が顕著である。平均電力の損失は、相対的なPAPRの増加、すなわちバックオフの損失を意味する。従って、設定閾値は、予め低めに見積もらなければならないが、過剰に低くすると、スケーリング係数の影響と、窓関数による逓倍の頻度が増加し、入力信号とCFR後の出力信号の差異の大きさを示すEVM(Error Vector Magnitude)が増加する。EVMの増加は、無線通信の伝送特性に悪影響を及ぼす。また、閾値を低く設定すると、さらなる平均電力の損失を招くという悪循環に陥る可能性もあり、閾値調整のみで最適なバックオフを見積もるのは、装置の利用者にとって負担の大きい作業である。このような観点からも、閾値以外の調整可能なパラメータに着目する必要がある。
【0010】
例えば、窓関数の時間幅を増やすと、鋭角はより滑らかになり、帯域外の放射レベルは減少するが、PAPRとEVMが増加してしまう。逆に窓関数の時間幅を減らすと、帯域外の放射レベルは増加するが、PAPRとEVMは改善される。窓関数の時間幅をさらに小さくしていくと、これらの特性はハード・クリッピング方式のそれに漸近していく。要するに、「希望周波数帯域外の放射レベル」と、「平均電力の低下量(PAPRの増加)」の関係は、トレードオフを伴うので、これらのパラメータは、システムの伝送特性要件を満たすように適切に決定されなければならない。
【0011】
もう一つの課題として、上記のトレードオフが入力信号の形状によっても大きく左右される点が挙げられる。例えば、入力信号の平均電力が同一であっても、分散が大きいと、傾向としてCFR処理の頻度が増加し、平均電力の損失が大きくなる。そのため、設定閾値が同一であるにも拘わらず、バックオフが不足する可能性がある。クレストファクタの占める割合は、序文でも述べたように、送信信号のキャリア数やコード多重数の増加に伴い増大する傾向がある。
【0012】
そこで、本発明は、希望周波数帯域外の放射レベルを許容範囲内に抑えつつ、平均電力とバックオフの損失をできる限り抑えることのできる電力制限回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、入力された信号を所定の電力値以下に制限して出力するための電力制限回路であって、入力信号の電力値を算出する電力計算部と、該電力計算部で算出された電力値と、予め設定された閾値とを比較する閾値比較部と、前記電力計算部で算出した電力の包絡線から極大点と極大値を検出するピーク検出部と、前記閾値と前記ピーク検出部で検出された極大値から求めたスケーリング係数を備え、形状パラメータ計算部によって算出された形状パラメータと併せてカイザー窓を生成する窓関数生成部と、前記入力信号を所定時間遅延させる遅延部と、該遅延部によって遅延させた入力信号と窓関数とを乗算する乗算部と、該乗算部による乗算結果から希望の周波数帯域外の放射レベルを測定する帯域外レベル計測部と、該帯域外レベル計測部によって測定された帯域外放射レベルから前記窓関数の形状パラメータを算出する形状パラメータ計算部とを備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、入力された信号を所定の電力値以下に制限して出力するための電力制限回路であって、入力信号の電力値を算出する電力計算部と、該電力計算部で算出された電力値と、予め設定された閾値とを比較する閾値比較部と、前記電力計算部で算出した電力の包絡線から極大点と極大値を検出するピーク検出部と、前記閾値と前記ピーク検出部で検出された極大値から求めたスケーリング係数を備え、形状パラメータ計算部によって算出された時間幅を持つ窓関数を生成する窓関数生成部と、前記入力信号を所定時間遅延させる遅延部と、該遅延部によって遅延させた入力信号と窓関数とを乗算する乗算部と、該乗算部による乗算結果から希望の周波数帯域外の放射レベルを測定する帯域外レベル計測部と、該帯域外レベル計測部によって測定された帯域外放射レベルから前記窓関数の形状パラメータを算出する形状パラメータ計算部とを備えることを特徴とする。
【0015】
上記特許文献1に記載の発明に代表される従来のCFRの窓関数は、その時間幅やスケーリング係数以外の形状を左右するパラメータが固定されているが、本発明では、CFR処理後の希望周波数帯域外のレベルを計測し、フィードバックループすることで、可変設定された窓関数の形状パラメータ又は時間幅を動的に調整し、最適な「希望周波数帯域外の放射レベル」と「平均電力の低下量」のトレードオフを得るように動作する。
【0016】
すなわち、本発明によれば、従来の窓関数を使用したCFRに、上記で示した希望帯域外レベルの測定と、窓関数の形状パラメータの計算とを追加して行うことにより、希望周波数帯域外の放射が許容レベルより僅かに低くなるように抑圧しつつ、バックオフの損失もできる限り最小となるような最適な窓関数を動的に決定することができるとともに、送信信号の電力分散の傾向の変化にも動的に対応することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、希望周波数帯域外の放射レベルを許容範囲内に抑えながら、平均電力とバックオフの損失をできる限り抑制することのできる電力制限回路を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。まず、図1を参照しながら、本発明の第1の実施の形態(特許請求の範囲の請求項1に記載の発明に対応)について詳細に説明する。
【0019】
この電力制限回路は、入力信号の同相成分Iチャンネルと、直交成分Qチャンネルの電力を計算する電力計算部11と、電力計算部11で求めた電力が設定閾値を超過する時間を判定する閾値比較部12と、閾値比較部12で求めた時間帯の中で電力の極大点であるピーク時刻と、その時の電力極大値を検出するピーク検出部13と、ピーク検出部13で求めた極大値と設定閾値の比率からスケーリング係数を導出し、後述の形状パラメータ計算部18の結果と併せてクレストファクタを逓倍するための時間関数を生成する窓関数生成部14と、未処理のIチャンネルとQチャンネルを所定時間遅延させる遅延部15と、窓関数生成部14の結果を遅延部15のIチャンネルとQチャンネルの各々に乗算する乗算部16と、乗算部16の結果から希望周波数帯域外の放射レベルを計算する帯域外レベル測定部17と、帯域外レベル測定部17の結果から窓関数の形状パラメータを計算する形状パラメータ計算部18とで構成され、乗算部16の結果を出力端子より出力してCFRの処理が終了する。
【0020】
次に、上記構成を有する電力制限回路の動作について詳細に説明する。
【0021】
電力計算部11は、入力信号の同相成分Iチャンネル及び直交成分Qチャンネルの信号振幅から入力信号電力を算出する。Iチャンネル及びQチャンネルは、電圧の次元を有し、Iチャンネルの振幅をI、Qチャンネルの振幅をQとすると、電力Pは式(1.a)のように求められる。あるいは、式1(b)のように平方根の絶対値を求めることで振幅の次元で表現することもできるが大意は同じである。この場合、後述の判定部12の設定閾値TH、ピーク検出部13の電力極大値Ppeak、窓関数生成部14のスケーリング係数Aの次元もこれに合わせる。また、様々な自然科学分野で、電力(振幅)演算過程を簡便化する近似的手法が知られており、これらを応用しても充分なCFRの効果が得られる。例として、参考文献("Understanding GPS : principles and applications", Elliot D Kaplan, ARTECH HOUSE, INC. 1966, ISBN 0-89006-793-7)の145頁(5.2)式を用いれば加減算、ビットシフト、大小比較器と選択器の組み合わせで平方根を含む振幅演算器を構成することができる。
【0022】
【数1】

【0023】
閾値比較部12は、電力の瞬時値Pと閾値THとを比較し、P>THとなる時刻Toverを判定する。閾値THは、装置利用者が任意に設定できる構成とし、充分なパワーアンプのバックオフが得られる適切な値を設定する。
【0024】
ピーク検出部13は、閾値判定部12にて判定したToverの最中で電力の時間微分の符号が正から負に反転する時刻を判定することにより、電力包絡線の極大点であるピーク時刻Tpeakを求める。また、極大点における電力Pを電力極大値Ppeakに代入する。
【0025】
窓関数生成部14では、まずTpeakにおける入力信号IチャンネルとQチャンネルの振幅を抑圧するためのスケーリング係数Aを求める。式(1)においてPを電力の次元とした場合、スケーリング係数Aは、設定閾値THと電力極大値Ppeakから式(2)のように求められる。
【0026】
【数2】

【0027】
その後、係数Aとピーク時間Tpeakから関数W(t)が式(3)のように求められる。この窓関数は、2τの時間幅を有し、中心点t=τにおいて極小となる左右対称型の時間関数であり、その極小点と入力信号のピーク点の位相を揃えて逓倍することで、クレストファクタ点と、その前後一定時間にわたって滑らかに減衰させる。これにより、図4(b)に示すように、入力信号の非希望周波数帯域への放射レベルを抑制しながら、クレストファクタを閾値以下に制限することができる。
【0028】
【数3】

【0029】
特許文献1では、窓関数Wa(t)の例としてコサイン関数を使用している。この文献において、発明者は言及していないが、実際には、これはハニング窓と呼ばれる関数に等しい。本実施の形態では、ハニング窓の代わりに、式(3)中の関数Wa(t)としてJ. F. Kaiserらによって提案されたカイザー窓(“Nonrecursive digital filter design using the I0-sinh window function", J. F. Kaiser, In Proc. 1974 IEEE int. Symp. Circuits Syst., Apr. 1974, pp. 20-23.) (“On the Use of the I0-Sinh Window for Spectrum Analysis", J. F. Kaiser. etc, IEEE TRANSACTION ON ACOUSTICS, SPEECH, AND SIGNAL PROCESSING, VOL. ASSP-28, NO.1 FEB 1980, pp. 105-107)を用いる。
【0030】
この関数は、有限インパルス応答(Finite Impulse Response, FIR)のローパスフィルタを設計する際、通過帯域幅と希望周波数帯域外放射レベルのトレードオフを得るための有効な手法として知られている。本実施の形態では、形状パラメータαの調整で窓の峻急さが変化するというカイザー窓の性質に着目し、後述の帯域外レベル測定部17と形状パラメータ計算部18とを組み合わせてフィードバックループを構成することにより、平均電力の減少量と希望周波数帯域外の放射レベルの最適なトレードオフを得ることを特徴とする。
【0031】
前述の参考文献より、カイザー窓Wa(t)は式(4)で表される。ここで、関数I0[x]は零次の第一種変形ベッセル関数であり、式(5)で表される。また、変数αはカイザー窓の形状を決定する正の実数であり、後述の形状パラメータ計算部18にて導出される。窓関数の時間幅は前述の通り2τで表されるが、ここでτは固定値とし、装置利用者が要求される希望周波数帯域外放射レベルを考慮して決定する。
【0032】
【数4】

【0033】
【数5】

【0034】
遅延部15では、電力計算部11から閾値比較部12とピーク検出部13を経由し、窓関数生成部14の窓関数W(t)の極小点に至るまでの一連の時間に等しい所定遅延量をIチャンネルとQチャンネルに付与し、W(t)の極小点とクレストファクタを有するIチャンネルQチャンネルの位相を一致させる。乗算部16にて遅延調整された両チャンネルにW(t)を乗算し、CFR処理完了として出力端子より出力する。
【0035】
一方で、乗算部16の結果を帯域外レベル測定部17に入力し、希望周波数帯域内のレベルDと、希望周波数帯域外の最近接放射のレベルUを導出し、それらの比率R=D/Uを計算する(図4参照)。ここで、Rはデシベル表記では差分として表現される。
【0036】
各々の周波数のレベルを測定するには、アナログ変換してスペクトラムアナライザを使用したり、バンドパスフィルタで必要な周波数に帯域制限し電力を計算するなど様々な方法があるが、ここでは、DFT(Discrete Fourier Transform,離散フーリエ変換)の例を挙げる。本発明では二点の周波数についてのみ計算すればよいので、演算の負担はそれほど大きくない。乗算部16の乗算結果の同相成分をI”(t)、直交成分をQ”(t)とすると、DFTは式(6)で表される。Nは一回のフーリエ変換で扱うサンプル点数で、大きくなると周波数分解能が向上するが、一回のレベル測定に要する時間が増す。さらにレベル測定の精度を向上させるため、式(7)に示すように、L回DFTを行った結果の平均値を一度の電力比率R計測とする。αを更新する周期はN×Lに比例するので、二つの値は装置の要求に応じて適切に選択される必要がある。測定の対象となる周波数は、Nと入力信号のサンプリング周期、下付文字kの選択で定められ、Xklの実部成分の自乗と、虚部成分の自乗の和から電力が求められる。M回目の希望周波数の電力計測の結果と非希望周波数のそれの比率をR(M)とする。尚、DFTの精度を向上させるには、xnにハニング窓等の窓関数を乗算するなど既知の手法を応用することができる。
【0037】
【数6】

【0038】
【数7】

【0039】
形状パラメータ計算部18では、帯域外レベル測定部16で求めたRから、カイザー窓Wa(t)の形状パラメータαを計算する。形状パラメータを変化させたときのカイザー窓の比較を図9に示す。この図より明らかなように、αを小さくするとカイザー窓の山の傾斜が緩やかになりレベルUが減少(すなわちRが増加する)するが、CFR後の平均電力の損失が顕著になる。一方、αを大きくすると、Uは増加するが窓の山が急峻になるので平均電力の損失を抑えることができる。本発明では、装置が要求する最小限必要なRに等しいRminを予め設定し、これを基準値として収束するようなフィードバックループを構成し、いわゆるオートレベルコントロール機能を実現する。すなわち、一度のR計測の結果で、RがRminより大きいときはαが大きくなるように、RがRminより小さい場合には、αが小さくなるように、RとRminが等しい場合には、αの値を保持し続けるように制御する。
【0040】
M回目のR計測に対するαの制御量V(M)を導出する。V(M)は、符号付きの実数であり、式(8.a)のように求められる。Vは正負の符号を有する実数であり、式(8.a)のように求められる。あるいは、対数計算が負担にならないシステムであれば、デシベル表現を用いて式(8.b)のように求めることもできる。ここで、Gは一度のR計測の結果に対するαの制御量を調整するための定数であり、これを調整することでフィードバックループの応答速度を決定する。式(9)のように、V(M)とα(M)と加算することで新たにα(M+1)を求め、それを窓関数生成部14の式(4.a)に代入する。
【0041】
【数8】

【0042】
【数9】

【0043】
次に、図1を参照しながら、本発明の第2の実施の形態(特許請求の範囲の請求項2に記載の発明に対応)について説明する。尚、本実施の形態では、窓関数生成部14にカイザー窓を使用せず、窓関数の時間幅τを動的に調整する方法を提案する。
【0044】
電力計算部11は、特許請求の範囲の請求項1の実施形態の同名機能(以下、「カイザー窓方式」と呼ぶ)と同様である。また、閾値比較部12及びピーク検出部13は、カイザー窓方式と同様であり、窓関数生成部14では、式(3)中のWa(t)に式(4.a)のカイザー窓でなく、時間幅τの動的変更が可能な窓関数を用いる。この場合、τが可変で、t=0と2τで最小になり、t=τで最大となる左右対称の山型の形状を持つ窓関数であれば、ハミング窓、ハニング窓、三角窓、ブラックマン窓など様々な関数が候補となる。ここでは、式(4.b)にハニング窓を用いた例のみを挙げる。
【0045】
遅延部15及び乗算部16は、カイザー窓方式と同様である。但し、τが可変になることで位相が不一致にならないように配慮する必要がある。帯域外レベル測定部17は、カイザー窓方式と同様である。
【0046】
形状パラメータ計算部18では、帯域外レベル測定部16で求めたRから、カイザー窓Wa(t)の時間幅τを計算する。τを大きくするとカイザー窓の山の傾斜が緩やかになりレベルUが減少(すなわちRが増加)するが、CFR後の平均電力の損失が顕著になる。一方、τを小さくするとUは増加するが、窓の山が急峻になるので平均電力の損失を抑えることができる。本実施形態においてもカイザー方式と同様のRminを設定し、これを基準値として収束するようなフィードバックループを構成する。すなわち、一度のL回DFTの結果で、RがRminより大きいときはτが小さくなるように、RがRminより小さい場合には、τが大きくなるように、RとRminが等しい場合には、τの値を保持し続けるよう制御する。
【0047】
M回目のR計測に対するτの制御量Y(M)を導出する。Y(M)は、正負の符号を有する実数であり、式(10、a)のように求められる。あるいは、対数計算が負担とならないシステムであれば、デシベル表現を用いて式(9.b)のように求めることもできる。ここで、Gは一度のR計測結果に対するτの制御量を調整するための定数であり、これを調整することでフィードバックループの応答速度を決定する。式(11)のようにY(M)とτ(M)を加算することで新たにτ(M+1)を求め、窓関数生成部14の式(4.b)に代入する。
【0048】
【数10】

【0049】
【数11】

【0050】
以上説明したように、従来の窓関数を使用したCFRに、上記で示したCFR後の非希望帯域外レベル測定と、窓関数の形状パラメータ計算とを追加することにより、非希望周波数帯域の放射レベルを許容範囲内の限度一杯まで抑えつつ、平均電力の損失をできる限り最小とするような最適な窓関数を動的に選択することができ、また、入力信号の電力分散の傾向の変化にも自動的に対応することができる。
【0051】
これにより、本発明の後段に配置されるパワーアンプの利得線形性の高い電力範囲を有効に活用できるようになり、図(4.b)に示すように、希望波周波数帯域外への放射レベルを抑圧し、電力効率のよいパワーアンプを持った通信システムの構築が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明にかかる電力制限回路の概念を示すブロック図である。
【図2】パワーアンプの入出力特性を示すグラフである。
【図3】パワーアンプの非線形性による希望帯域外へのスペクトル放射を示すグラフであって、(a)は理想スペクトルを、(b)はパワーアンプの非線形性による希望帯域外放射を示す。
【図4】異なるCFR方式による希望周波数帯域外のスペクトル放射を比較したグラフであって、(a)はハード・クリッピング方式によるスペクトルであり、(b)は窓関数を用いたCFRによるスペクトルである。
【図5】従来のハード・クリッピング方式の概念を示すブロック図である。
【図6】従来のハード・クリッピング方式による入出力信号の電力包絡線を比較したグラフであって、(a)はクリッピング処理前の電力包絡線、(b)はクリッピング処理後の電力包絡線である。
【図7】従来の窓関数を用いたCFRの概念ブロック図である。
【図8】窓関数を用いたCFRによる入出力信号の電力包絡線を比較したグラフである。
【図9】本発明の第1の実施の形態で形状パラメータαを変更したときのカイザー窓を比較したグラフである。
【符号の説明】
【0053】
11 電力計算部
12 閾値比較部
13 ピーク検出部
14 窓関数生成部
15 遅延部
16 乗算部
17 帯域外レベル測定部
18 形状パラメータ計算部
51 電力変換部
52 判定部
53 スケーリング係数算出部
54 遅延部
55 乗算部
71 電力計算部
72 閾値比較部
73 ピーク検出部
74 窓関数生成部
75 遅延部
76 乗算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された信号を所定の電力値以下に制限して出力するための電力制限回路であって、
入力信号の電力値を算出する電力計算部と、
該電力計算部で算出された電力値と、予め設定された閾値とを比較する閾値比較部と、
前記電力計算部で算出した電力の包絡線から極大点と極大値を検出するピーク検出部と、
前記閾値と前記ピーク検出部で検出された極大値から求めたスケーリング係数を備え、形状パラメータ計算部によって算出された形状パラメータと併せてカイザー窓を生成する窓関数生成部と、
前記入力信号を所定時間遅延させる遅延部と、
該遅延部によって遅延させた入力信号と窓関数とを乗算する乗算部と、
該乗算部による乗算結果から希望の周波数帯域外の放射レベルを測定する帯域外レベル計測部と、
該帯域外レベル計測部によって測定された帯域外放射レベルから前記窓関数の形状パラメータを算出する形状パラメータ計算部とを備えることを特徴とする電力制限回路。
【請求項2】
入力された信号を所定の電力値以下に制限して出力するための電力制限回路であって、
入力信号の電力値を算出する電力計算部と、
該電力計算部で算出された電力値と、予め設定された閾値とを比較する閾値比較部と、
前記電力計算部で算出した電力の包絡線から極大点と極大値を検出するピーク検出部と、
前記閾値と前記ピーク検出部で検出された極大値から求めたスケーリング係数を備え、形状パラメータ計算部によって算出された時間幅を持つ窓関数を生成する窓関数生成部と、
前記入力信号を所定時間遅延させる遅延部と、
該遅延部によって遅延させた入力信号と窓関数とを乗算する乗算部と、
該乗算部による乗算結果から希望の周波数帯域外の放射レベルを測定する帯域外レベル計測部と、
該帯域外レベル計測部によって測定された帯域外放射レベルから前記窓関数の形状パラメータを算出する形状パラメータ計算部とを備えることを特徴とする電力制限回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−306346(P2007−306346A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133208(P2006−133208)
【出願日】平成18年5月12日(2006.5.12)
【出願人】(303013763)NECエンジニアリング株式会社 (651)
【Fターム(参考)】