説明

電力変換装置

【課題】電圧利用率の要求が低い領域を電圧利用率の要求が高い領域にして制御することで、制御性能を損なうことなく低損失化を達成できる電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置において、指令トルクTcmd*(要求トルク)と回転数Nとに基づいて指令電圧振幅Vamp*(電圧振幅)を設定する電圧振幅設定手段52aと、偏差トルクΔTに基づいて指令電圧位相Vp*(電圧位相)を設定する電圧位相設定手段52eと、指令電圧振幅Vamp*と指令電圧位相Vp*とに基づいて正弦波領域であっても過変調領域になるよう昇圧する指令昇圧電圧Vconv*(昇圧指令信号)をコンバータ10に伝達する電圧指令設定手段51aとを有する。この構成によれば、電圧利用率の要求が低い領域を電圧利用率の要求が高い領域にして制御するので、全域で制御性能を損なうことなく低損失化を達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバータと、インバータと、コントローラとを備える電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、要求トルクと実トルク(推定トルクを含む実際のトルク)との差分値に基づいて電力変換回路の出力電圧の位相を設定し、当該位相及び回転機の回転数(回転速度とも呼ぶ。以下同じである。)に基づいて電力変換回路の出力電圧ベクトルのノルムを設定し、当該ノルム及び位相に基づいて電力変換回路のスイッチング素子に操作信号を出力する技術の一例が開示されている(例えば特許文献1を参照)。特許文献1の技術によれば、変調率が閾値を超えて高い電圧利用率が要求される領域(例えば過変調領域)では、スイッチング回数が低減し、変調率が閾値以下であって電圧利用率の要求が低い領域(例えば正弦波領域)と比較しても制御性能を損なうことなく低損失化が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−232530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、変調率が閾値以下であって電圧利用率の要求が低い領域では、通常のスイッチング制御を行うために低損失化も達成できない、という問題があった。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、従来は変調率が閾値以下であって電圧利用率の要求が低い領域を、変調率が閾値以上であって電圧利用率の要求が高い領域にして制御することで、全域でスイッチング回数を低減し、制御性能を損なうことなく低損失化を達成できる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、昇圧を行うコンバータと、昇圧された電圧を変換して出力するインバータと、前記コンバータおよび前記インバータの作動を個別に制御するコントローラとを備える電力変換装置において、要求トルクと回転数とに基づいて、電圧振幅を設定する電圧振幅設定手段と、前記要求トルクと実トルクとの差分値(偏差)に基づいて、電圧位相を設定する電圧位相設定手段と、前記電圧振幅設定手段によって設定される電圧振幅と前記電圧位相設定手段によって設定される電圧位相とに基づいて、変調率が閾値以下となり電圧利用率の要求が低い領域であっても前記変調率が前記閾値を超える電圧利用率の要求が高い領域となるように前記昇圧を行う昇圧指令信号を前記コンバータに伝達する電圧指令設定手段とを有することを特徴とする。
【0007】
なお、一般的には「電圧利用率の要求が低い領域」は正弦波領域と設定し、「電圧利用率の要求が高い領域」は過変調領域と設定することが多いが、必ずしもこれらの設定には限定されない。以降、正弦波領域と過変調領域を例にして記載する。「昇圧指令信号」はアナログ信号とデジタル信号とを問わない。「変調率」は、例えば電圧指令の振幅/(直流電源電圧/2)で算出される値である。「閾値」には任意の数値を設定することができ、実際には1.00から1.15までの範囲の数値を設定することが多い。「電圧利用率」は、インバータの出力電圧ベクトルの大きさを定量化した物理量である。
【0008】
この構成によれば、電圧指令設定手段は、電圧利用率の要求が低い領域であっても電圧利用率の要求が高い領域となるように昇圧する昇圧指令信号をコンバータに伝達する。従来は電圧利用率の要求が低い領域で制御していた領域を電圧利用率の要求が高い領域にして制御できるように昇圧制御を行うので、全域で制御性能を損なうことなく低損失化を達成することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記電圧指令設定手段は、前記コンバータに入力される電圧値を前記昇圧指令信号の下限値とすることを特徴とする。この構成によれば、変調率を必ず1.00以上(あるいは閾値以上)にできるので、全域で低損失化と制御性改善を達成することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記電圧指令設定手段は、前記電圧振幅設定手段によって設定される電圧振幅の変調率が指令変調率となるように前記昇圧指令信号を制御する昇圧指令制御手段と、現在の前記電圧位相に対して所定の出力余裕が得られるように前記昇圧指令信号を補正する補正電圧設定手段とを有することを特徴とする。この構成によれば、昇圧指令制御手段によって指令変調率となるように制御しながらも、補正電圧設定手段によって所定の出力余裕が得られる。そのため、余裕をもって制御性能を損なうことなく低損失化を達成することができる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、前記昇圧指令制御手段は、制御領域が過変調領域になるような数値範囲(単一の数値を含む。)の前記指令変調率を用いることを特徴とする。この構成によれば、指令変調率を指令するだけで制御領域が過変調領域になる。そのため、制御性能を損なうことなく低損失化をより確実に達成することができる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、前記補正電圧設定手段は、電圧位相制限値に到達するまでの出力余裕を求める出力余裕演算手段と、前記出力余裕を制限する出力余裕リミッタと、前記出力余裕に対応する電圧余裕を演算し、前記電圧余裕に基づいて前記補正電圧を設定する電圧余裕演算手段とを有することを特徴とする。この構成によれば、電圧余裕演算手段が電圧余裕を演算したうえで補正電圧を設定するので、所定の出力余裕を確保しながらも低損失化と制御性改善を達成することができる。
【0013】
請求項6に記載の発明は、前記出力余裕演算手段は、電圧振幅,電圧位相,回転数,トルク,電流のいずれか一つ以上の変数を用いて、数式モデルを用いて演算を行う演算方式および前記変数のいずれか一つ以上を引数としてマップを参照する参照方式のうちで一方または双方の方式により、前記出力余裕を求めることを特徴とする。この構成によれば、演算方式や参照方式によって確実に出力余裕が求められ、制御性能を損なうことなく低損失化をより確実に達成することができる。
【0014】
請求項7に記載の発明は、前記電圧余裕演算手段は、前記出力余裕演算手段によって求められる出力余裕に基づいて、電圧振幅,電圧位相,回転数,トルク,電流のいずれか一つ以上の変数を用いて、数式モデルを用いて演算を行う演算方式および前記変数のいずれか一つ以上を引数としてマップを参照する参照方式のうちで一方または双方の方式により、補正電圧を求めることを特徴とする。この構成によれば、演算方式や参照方式によって確実に補正電圧が求められ、制御性能を損なうことなく低損失化をより確実に達成することができる。
【0015】
請求項8に記載の発明は、前記出力余裕リミッタは、前記要求トルクに対し位相制御によるトルクフィードバックのみで対応可能な出力値を上限として、前記出力余裕を制限することを特徴とする。この構成によれば、変調率を必ず1.00以上(あるいは閾値以上)にできるので、全域で制御性能を損なうことなく低損失化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電力変換装置の構成例を示す模式図である。
【図2】コントローラの構成例を示す模式図である。
【図3】電圧振幅設定手段の構成例を示す模式図である。
【図4】補正電圧設定部の第1構成例を示す模式図である。
【図5】出力余裕制限(電圧位相制限)と回転数との関係を示すグラフ図である。
【図6】出力余裕の制限例を示すグラフ図である。
【図7】電圧振幅/回転数とトルクとの関係を示すグラフ図である。
【図8】補正電圧設定部の第2構成例を示す模式図である。
【図9】車両の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。なお、特に明示しない限り、「接続する」という場合には電気的な接続を意味する。各図は、本発明を説明するために必要な要素を図示し、実際の全要素を図示してはいない。上下左右等の方向を言う場合には、図面の記載を基準とする。「設定」には、マップ等の参照に基づく決定や、関数式等で表される数式モデルに基づく演算(算出)などを含む。乗算を表す記号は「・」を用いる。特性線は、図示する直線や曲線等には限られない。
【0018】
〔実施の形態1〕
実施の形態1は図1〜図7を参照しながら説明する。図1には電力変換装置の構成例を模式図で示す。図2にはコントローラの構成例を模式図で示す。図3には電圧振幅設定手段の構成例を模式図で示す。図4には補正電圧設定部の第1構成例を模式図で示す。図5には出力余裕制限(電圧位相制限)と回転数との関係をグラフ図で示す。図7には電圧振幅/回転数とトルクとの関係をグラフ図で示す。
【0019】
図1に示す電力変換装置は、電力源Eから供給される電力を変換し、回転機40に供給する機能を担う。この電力変換装置は、コンバータ10、インバータ20、コントローラ50などを有する。以下では、各要素について説明する。なお「外部装置」に相当するECU60から伝達される指令には例えば指令トルクTcmd*や指令回転数Ncmd*等があるが、説明を簡単にするために本形態では指令トルクTcmd*を代表して説明する。この指令トルクTcmd*は「要求トルク」に相当する。
【0020】
コンバータ10は、電力源Eから平滑用のコンデンサC1を介して供給される入力電圧Vdc(例えば300[V]等)を、インバータ20で必要とする入力電圧Vinv(例えば660[V]等)に変換して出力する機能を担う。電力源Eには、例えばバッテリ(蓄電池)や燃料電池等を用いる。
【0021】
上記コンバータ10は、駆動回路M11,M12、スイッチング素子Q11,Q12、ダイオードD11,D12、コイルL10などを有する。駆動回路M11,M12はトランジスタ等を有し、コントローラ50から伝達される昇圧指令信号(すなわち指令昇圧電圧Vconv*)に従ってスイッチング素子Q11,Q12を駆動制御する。スイッチング素子Q11,Q12には、スイッチング機能を有する半導体素子(例えばIGBTやパワートランジスタ等)を用いる。本例のスイッチング素子Q11,Q12は直列接続され、ハーフブリッジを構成する。ダイオードD11,D12は、それぞれスイッチング素子Q11,Q12に並列接続され、いずれもフリーホイールダイオードとして機能する。コイルL10には例えばチョークコイル等を用いる。
【0022】
スイッチング素子Q11,Q12の接続点は、コイルL10を介して電力源Eのプラス電極に接続する。コンバータ10の出力端子は、インバータ20の直流電源端に接続する。具体的には、スイッチング素子Q11の高電位側端子(図面上側端子)をインバータ20の高電位側に接続し、スイッチング素子Q12の低電位側端子(図面下側端子)をインバータ20の低電位側に接続する。また、スイッチング素子Q12の低電位側端子は電力源Eのマイナス電極に接続する。
【0023】
インバータ20は、コンバータ10から供給される入力電圧Vinvの電力を変換して回転機40に出力する機能を担う。コンバータ10とインバータ20との間には、平滑用のコンデンサC2が接続される。コンデンサC2は、コンバータ10の出力電圧(すなわち入力電圧Vinv)の電位変動を平滑化する機能を担う。なお、インバータ20の具体的な構成や作動等は周知であるので図示および説明を省略する。回転機40の相数に合わせて、例えば三相(U相,V相,W相)で電力を変換するように構成されているものとする。
【0024】
電流センサ30には、回転機40を流れる相電流I(すなわちU相電流Iu,V相電流Iv,W相電流Iw)を検出可能なセンサを用いる。例えば、磁気比例型センサ,電磁誘導型センサ,ファラデー効果型センサ,変流器型センサなどが該当する。
【0025】
回転機40は、本形態では電動機能と発電機能とを兼ね備える三相の電動発電機(図中には「MG」と記載する)を適用する。この回転機40には、「回転センサ」に相当するレゾルバ41を備える。レゾルバ41は、回転機40に備える回転部材(例えば主軸やロータ等)の電気角に基づく検出信号(SIN検出信号SsやCOS検出信号Sc等)を出力する。
【0026】
コントローラ50は、コンバータ10やインバータ20等の作動を司る。このコントローラ50は、コンバータ制御機構51やインバータ制御機構52などを有する。コンバータ制御機構51は、ECU60(外部装置)から伝達される指令(指令トルクTcmd*)や、インバータ制御機構52から伝達される変数Vxなどに基づいて、コンバータ10の作動を制御する昇圧指令信号(すなわち指令昇圧電圧Vconv*)を出力する。変数Vxは、例えば出力余裕用変数Voutputや指令電圧振幅Vamp*などが該当する。このうち指令電圧振幅Vamp*は「電圧振幅」に相当する。インバータ制御機構52は、ECU60から伝達される指令(すなわち指令トルクTcmd*)や、電流センサ30から伝達される相電流I(すなわちU相電流Iu,V相電流Iv,W相電流Iw)、レゾルバ41から伝達される検出信号などに基づいて、インバータ20の作動を制御する制御信号(すなわち操作信号Vsw*)を出力する。以下では、コンバータ制御機構51とインバータ制御機構52の具体的な構成例や作動等について説明する。
【0027】
コンバータ制御機構51とインバータ制御機構52の一構成例を図2に示す。コンバータ制御機構51は、電圧指令設定手段51aなどを有する。電圧指令設定手段51aの具体的な構成例や作動等について、図3を参照しながら説明する。
【0028】
図3に示す電圧指令設定手段51aは、出力余裕用変数Voutputや、後述する電圧振幅設定手段52aから伝達される指令電圧振幅Vamp*、入力電圧Vdc(あるいは二点鎖線で示す入力電圧Vinv)などに基づいて、指令昇圧電圧Vconv*を設定してコンバータ10に出力する機能を担う。この電圧指令設定手段51aは、補正電圧設定部51a1、加合部51a2,51a5、リミッタ部51a3、演算部51a4,51a7、PI制御部51a6などを有する。
【0029】
出力余裕用変数Voutputは、出力余裕ΔPを設定するために用いる変数(変数群)である。例えば、電圧(すなわち入力電圧Vdcや入力電圧Vinv等の電源電圧、電圧指令、実電圧等)、回転数N、トルク(すなわち指令トルクTcmd*や推定トルクT等)、電流(すなわちU相電流Iu,V相電流Iv,W相電流Iw等)、指令電圧位相、実電圧位相、位相制限値などが該当する。いずれか一の変数を適用するか、あるいは二以上の変数を任意に組み合わせて適用することが可能である。本形態では説明を簡単にするため、回転数Nと指令トルクTcmd*を適用する。
【0030】
補正電圧設定部51a1は、出力余裕用変数Voutput(本形態では指令トルクTcmd*と回転数N)に基づいて、補正電圧Vofsを設定して出力する。この補正電圧設定部51a1は「補正電圧設定手段」に相当する。具体的な構成例や作動等については後述する(図4を参照)。
【0031】
演算部51a4は、後述する電圧振幅設定手段52aから伝達される指令電圧振幅Vamp*と入力電圧Vdc(あるいは入力電圧Vinv)とに基づいて除算を行い、実変調率Mとして出力する。式で表すと、M=Vinv/Vamp*になる。加合部51a5は、演算部51a4から伝達される実変調率Mと、制限変調率Mlim*とに基づいて差分値(偏差)を求め、偏差変調率Mdとして出力する。式で表すと、Md=Mlim*−Mになる。制限変調率Mlim*は、制御領域が過変調領域になるような数値範囲(単一の数値を含む。)を用いるのが望ましい。この制限変調率Mlim*は、記録媒体(例えばROM等)にマップ等で記憶されてもよく、関数式等で表される数式モデルに基づいて演算してもよく、ECU60から伝達されてもよい。
【0032】
PI制御部51a6は、偏差変調率Mdに基づいてPI(比例積分)制御を行い、指令変調率M*を設定して出力する。より具体的には、指令電圧振幅Vamp*(電圧振幅)の変調率が制限変調率Mlim*となるように、指令昇圧電圧Vconv*を制御するべく指令変調率M*を設定して出力する。このPI制御部51a6は「昇圧指令制御手段」に相当する。具体的な構成や作動等は周知であるので、図示および説明を省略する。
【0033】
演算部51a7は、PI制御部51a6から伝達される指令変調率M*と、入力電圧Vinvとに基づいて乗算を行い、実効電圧Veffとして出力する。式で表すと、Veff=M*・Vinvになる。加合部51a2は、上述した補正電圧Vofsと実効電圧Veffとに基づいて差分値(偏差)を求め、昇圧電圧Vconvとして出力する。式で表すと、Vconv=Veff−Vofsになる。リミッタ部51a3は、昇圧電圧Vconvを制限して指令昇圧電圧Vconv*として出力する。昇圧電圧Vconvは制限例については後述する(図6を参照)。
【0034】
上述のように構成された電圧指令設定手段51aは、出力余裕用変数Voutput(特に指令電圧位相Vp*)や、指令電圧振幅Vamp*、入力電圧Vdc(あるいは入力電圧Vinv)などに基づいて、指令昇圧電圧Vconv*(昇圧指令信号)を設定して出力することができる。すなわち、リミッタ部51a3が昇圧電圧Vconvを制限することにより、昇圧電圧Vconvがコンバータ10に許容された昇圧電圧の最大値・最小値を超えることを防止でき、変調率が閾値以下となる正弦波領域であっても、過変調領域として確実に制御することが出来る。なお、閾値には任意の数値が設定可能であり、例えば1.00から1.15までの範囲の数値を設定することが多い。指令昇圧電圧Vconv*の下限値には、コンバータ10に入力される入力電圧Vdc(あるいは入力電圧Vinvに基づいて算出される電圧)の電圧値とするのが望ましい。
【0035】
図2に戻り、インバータ制御機構52は、電圧振幅設定手段52a、変調率設定手段52b、操作信号出力手段52c、加合部52d、電圧位相設定手段52e、トルク推定手段52f、電流ベクトル設定手段52g、回転数設定手段52h、角度設定手段52iなどを有する。本形態のインバータ制御機構52は、ECU60から伝達される指令トルクTcmd*に基づいて制御を行うので、「トルク制御機構」ともいえる。
【0036】
電圧振幅設定手段52aは、ECU60から伝達される指令(すなわち指令トルクTcmd*)や、回転数設定手段52hから伝達される回転数Nなどに基づいて、上述した指令電圧振幅Vamp*を設定して出力する。指令電圧振幅Vamp*の設定例は任意であり、周知でもあるので図示および説明を省略する。変調率設定手段52bは、電圧振幅設定手段52aから伝達される指令電圧振幅Vamp*と入力電圧Vinvとに基づいて、設定電圧振幅Vm*を設定して出力する。
【0037】
加合部52dは、ECU60から伝達される指令トルクTcmd*と、後述するトルク推定手段52fから伝達される推定トルクTとに基づいて差分値(偏差)を求め、偏差トルクΔTとして出力する。式で表すと、ΔT=Tcmd*−Tになる。電圧位相設定手段52eは、偏差トルクΔTに基づいて指令電圧位相Vp*を設定して出力する。
【0038】
本形態の電圧位相設定手段52eは、PI制御部52e1やリミッタ部52e2などを有する。PI制御部52e1は、偏差トルクΔTに基づいてPI制御を行い、電圧位相指令Vpを出力する。リミッタ部52e2は、電圧位相指令Vpを所定値範囲で制限し、指令電圧位相Vp*として出力する。所定値範囲には適切な数値範囲を設定できる。回転機40の種類や定格等に応じて、例えば−10〜+190[deg]を設定したり、dq座標上においてq軸を基準として−100〜+100[deg]等を設定したりする。
【0039】
操作信号出力手段52cは、変調率設定手段52bから伝達される設定電圧振幅Vm*や、電圧位相設定手段52eから伝達される指令電圧位相Vp*などに基づいて、インバータ20内のスイッチング素子を駆動制御するための操作信号Vsw*を出力する。この操作信号Vsw*には、パルス幅変調(PWM)信号を含めることができる。
【0040】
角度設定手段52iは、レゾルバ41から伝達される検出信号(SIN検出信号SsやCOS検出信号Sc等)に基づいて、回転角度θを出力する。回転角度θは、回転機40における所定位置を基準とする角度である。所定位置は任意に設定可能であり、例えばノースマーカの設置位置(0度)を基準とする角度を検出することもできる。回転数設定手段52hは、角度設定手段52iから伝達される回転角度θに基づいて、上述した回転数Nを設定して出力する。
【0041】
電流ベクトル設定手段52gは、電流センサ30によって検出される相電流I(U相電流Iu,V相電流Iv,W相電流Iw)や、角度設定手段52iから伝達される回転機40の回転角度θなどに基づいて、電流ベクトルを設定して出力する。電流ベクトルは、d軸電流Idおよびq軸電流Iqの組み合わせや、電流振幅および電流位相の組み合わせなどが該当する。本形態では、d軸電流Idおよびq軸電流Iqの組み合わせを適用する。トルク推定手段52fは、電流ベクトル設定手段52gから伝達される電流ベクトルに基づいて、上述した推定トルクTを設定して出力する。この推定トルクTは「実トルク」に相当する。
【0042】
次に、補正電圧設定部51a1の構成例や作動等について、図4を参照しながら説明する。図4の補正電圧設定部51a1は、出力余裕設定器51aa、出力余裕リミッタ器51ab、電圧余裕設定器51ac、出力余裕制限値設定器51aeなどを有する。
【0043】
出力余裕設定器51aaは、出力余裕用変数Voutput(本形態では指令トルクTcmd*と回転数N)に基づいて、出力余裕ΔPを設定して出力する。この出力余裕設定器51aaは「出力余裕演算手段」に相当する。出力余裕ΔPの設定例について、図5を参照しながら説明する。
【0044】
図5には、出力余裕制限値ΔPlimに相当する電圧位相制限を縦軸とし、出力余裕用変数Voutputに相当する回転数Nを横軸とする関係をグラフで示す。特性線L1は、電圧位相の制限値を規定する電圧位相制限値Vlimの変化を示す。電圧位相制限値Vlimは、補正電圧設定部51a1内の記録媒体(例えばROM等)にマップ等で記憶されてもよく、関数式等で表される数式モデルに基づいて演算してもよく、ECU60から伝達されてもよい。特性線L2は、現時点でインバータ20に対して指令している指令電圧位相Vp*の変化を示す。特性線L1,L2はいずれも回転数Nに伴って変化する。すなわち実線で示す直線や二点鎖線で示す曲線に限らず、制御しようとする制御対象(本形態では回転機40)の特性に応じた様々な変化形態がある。回転数Nの現在値が回転数N1ならば、特性線L1,L2とはそれぞれ出力値P1,P2で交差する。これらの出力値P1と出力値P2との差分値が出力余裕ΔPとして求められる。式で表すと、ΔP=|P2−P1|になる。
【0045】
上述した設定例に代えて、数式モデルを用いて演算を行う演算方式および出力余裕用変数Voutputに含まれる変数Vxのうちで一つ以上の変数を引数としてマップを参照する参照方式のうちで一方または双方の方式により、出力余裕ΔPを設定して出力してもよい。
【0046】
演算方式の場合は、極対数を「p」とし、d軸インダクタンスを「Ld」とし、q軸インダクタンスを「Ld」とし、電圧振幅を「V」とし、回転数を「N」とし、q軸に対する電圧位相を「δ」とし、永久磁束を「Φ」とすると、トルクT(推定トルク,実トルク,指令トルクのいずれも該当する)は次の式(1)のような電圧方程式が成立する。なお、抵抗成分は無視している。この電圧方程式によれば、出力余裕ΔPは次の式(2)によって算出される。
T=p/LdLq×(V/N)sinδ×{(Ld−Lq)(V/N)cosδ+LqΦ}…(1)
ΔP=N×T…(2)
【0047】
図4に戻って、出力余裕制限値設定器51aeは、出力余裕用変数Voutput(本形態では指令トルクTcmd*と回転数N)に基づいて、最低出力余裕値ΔPminを設定して出力する。出力余裕リミッタ器51abは、出力余裕設定器51aaから伝達される出力余裕ΔPと、出力余裕制限値設定器51aeから伝達される最低出力余裕値ΔPminと、回転数Nとに基づいて、出力余裕制限値ΔPlimを設定して出力する。出力余裕制限値ΔPlimの設定例については後述する(図6を参照)。この出力余裕リミッタ器51abは「出力余裕リミッタ手段」に相当する。
【0048】
電圧余裕設定器51acは、出力余裕リミッタ器51abから伝達される出力余裕制限値ΔPlimと、電圧余裕用変数Vvoltとに基づいて、出力余裕ΔPに対応する電圧余裕を演算するとともに、当該電圧余裕に基づいて補正電圧Vofsを設定して出力する。この電圧余裕設定器51acは「電圧余裕演算手段」に相当する。補正電圧Vofsの設定例については後述する(図7を参照)。
【0049】
なお、電圧余裕用変数Vvoltは、電圧余裕ΔVを設定するために用いる変数(変数群)である。例えば、電圧(すなわち入力電圧Vdcや入力電圧Vinv等の電源電圧、電圧指令、実電圧等)、回転数N、トルク(すなわち指令トルクTcmd*や推定トルクT等)、電流(すなわち相電流Iなどの実電流、指令電流等)などが該当する。いずれか一の変数を適用するか、あるいは二以上の変数を任意に組み合わせて適用することが可能である。本形態では説明を簡単にするため、回転数Nを適用する。
【0050】
上述のように構成された補正電圧設定部51a1は、出力余裕用変数Voutputおよび電圧余裕用変数Vvoltに基づいて、補正電圧Vofsを設定して出力することができる。
【0051】
出力余裕制限値ΔPlimの設定例について、図6を参照しながら説明する。図6には、出力余裕ΔPを縦軸とし、出力余裕用変数Voutputを横軸とする関係をグラフで示す。より具体的には、最低出力余裕値ΔPminで制限する例を図6(A)に示し、フィルタで制限する例を図6(B)に示し、階段状に制限する例を図6(C)に示す。いずれの例も出力余裕用変数Voutputとして回転数Nを適用する。他の変数としては、電圧(すなわち入力電圧Vdcや入力電圧Vinv等の電源電圧、電圧指令、実電圧等)、トルク(すなわち指令トルクTcmd*や推定トルクT等)などを適用してもよい。
【0052】
図6(A)に示す設定例は、特性線L4で示す最低出力余裕値ΔPminに基づいて出力余裕ΔPを制限し、出力余裕制限値ΔPlimを出力する。このような出力余裕制限値ΔPlimの特性を特性線L3で示す。回転数基準値Nthは、出力余裕制限値ΔPlim(特性線L3)と最低出力余裕値ΔPmin(特性線L4)とが交差する回転数である(図6(B)および図6(C)でも同様)。回転数Nが回転数基準値Nth以上(N≧Nth)の場合は、出力余裕制限値ΔPlimは最低出力余裕値ΔPminを上回るので、当該回転数Nに対応する出力余裕ΔPをそのまま出力余裕制限値ΔPlimとして出力する。一方、回転数Nが回転数基準値Nth未満(N<Nth)の場合は、当該回転数Nの大きさにかかわらず「0」を出力余裕制限値ΔPlimとして出力する。よって、二点鎖線で示す特性線L3の部分が制限される。
【0053】
図6(B)に示す設定例は、特性線L4で示す最低出力余裕値ΔPminを基準とし、さらにフィルタに基づいて出力余裕ΔPを制限し、出力余裕制限値ΔPlimを出力する。このような出力余裕制限値ΔPlimの特性を特性線L5で示す。回転数Nが回転数基準値Nth未満(N<Nth)の場合は、図6(A)と同様に、回転数Nの大きさにかかわらず「0」を出力余裕制限値ΔPlimとして出力する。一方、回転数Nが回転数基準値Nth以上(N≧Nth)の場合は、フィルタ(例えば関数等)によって曲線状に変化させる。図6(B)の例では、回転数Nが大きくなるにつれて出力余裕制限値ΔPlim(特性線L3)との差が無くなるように漸近させている。
【0054】
図6(C)に示す設定例は、特性線L4で示す最低出力余裕値ΔPminを基準とし、さらに階段状に出力余裕ΔPを制限し、出力余裕制限値ΔPlimを出力する。このような出力余裕制限値ΔPlimの特性を特性線L6で示す。回転数Nが回転数基準値Nth未満(N<Nth)の場合は、図6(A)と同様に、回転数Nの大きさにかかわらず「0」を出力余裕制限値ΔPlimとして出力する。一方、回転数Nが回転数基準値Nth以上(N≧Nth)の場合は、階段状に変化させる。図6(C)の例では、回転数Nxを基準に制限を変えている。回転数Nxは、階段状変化の出力余裕制限値ΔPlim(特性線L6)と出力余裕制限値ΔPlim(特性線L3)とが交差する回転数である。すなわち、回転数基準値Nth以上で回転数Nx未満(Nth≦N<Nx)のときは階段状に制限し、回転数Nx以上(N≧Nx)のときは回転数Nに対応する出力余裕ΔPをそのまま出力余裕制限値ΔPlimとして出力する。
【0055】
上述した図6(A)〜図6(C)に示す制御に加えて、他の条件を課してもよい。他の条件は任意に設定可能である。例えば、上記電圧が最低電圧以上(あるいは超過)であることなどが該当する。最低電圧は、例えばコンバータ10による昇圧前の電源電圧(コンバータの検出電圧値や、検出電圧値に実際にインバータ20へ入力されるまでの電圧誤差分を含めた値のいずれか)、最低出力余裕から想定される必要電圧振幅分を含めた電源電圧などが該当する。最低出力余裕は、導出出力や補正出力などが該当する。
【0056】
導出出力は、現在の指令トルクTcmd*、推定トルクT、回転数Nに対して、過渡応答により想定される最大要求トルクとの差から導出される出力、あるいは定常時における最大トルクとの差から導出される出力である。補正出力は、上記導出出力により求まる出力に対して、電気的・機械的により生じる損失出力分を加えた出力である。具体例として、回転数Nが4000[rpm]、最大トルク要求が50[Nm]であれば、最低出力余裕は20.9[KW]になる。同様に回転数Nが4000[rpm]、指令トルクTcmd*が20[Nm]であれば、最低出力余裕は8.4[KW]になる。
【0057】
上述した出力余裕制限値ΔPlimの設定例は、図3に示すリミッタ部51a3の作動にも同様に適用することができる。この場合、図6(A)〜図6(C)にそれぞれ示す縦軸を括弧内の「昇圧電圧Vconv」に置き換えればよい。こうすれば、図6(A)では指令昇圧電圧Vconv*の特性が特性線L3になり、図6(B)では指令昇圧電圧Vconv*の特性が特性線L5になり、図6(C)では指令昇圧電圧Vconv*の特性が特性線L6になる。
【0058】
次に、補正電圧Vofsの設定例について、図7を参照しながら説明する。図7には、電圧振幅/回転数を縦軸とし、トルクTxを横軸とする関係をグラフで示す。電圧振幅Vmは、例えば電源電圧(すなわち入力電圧Vdcや入力電圧Vinv等)、電圧指令、実電圧などが該当する。補正電圧Vofsは電圧振幅Vmの差分値に相当する。説明を簡単にするために、電圧振幅/回転数(すなわちVm/N)を変数Xとする。トルクTxは、指令トルクTcmd*や推定トルクTなどが該当する。トルクTxの差分値(図中の横幅)は出力余裕ΔPに相当する。特性線L7は、変数XとトルクTxとの関係を規定する。本形態では一例として二次関数で規定するが、制御対象(本形態では回転機40)の特性に応じた様々な特性線を規定できる。トルクTxの現在値がトルク値T2ならば、出力余裕ΔPの差分値を持たせると、トルク値T1を特定できる。これらのトルク値T2,T1に基づいて、特性線L7とはそれぞれ変数値X2,X1で交差する。これらの変数値X2と変数値X1との差分値が余裕値ΔXとなる。この余裕値ΔXは「電圧余裕」に相当する。よって、補正電圧Vofsは余裕値ΔXにトルクTxを乗算することで求められる。式で表すと、Vofs=T2・ΔX=T2・|X2−X1|になる。
【0059】
上述した設定例に代えて、数式モデルを用いて演算を行う演算方式および電圧余裕用変数Vvoltに含まれる変数Vxのうちで一つ以上の変数を引数としてマップを参照する参照方式のうちで一方または双方の方式により、補正電圧Vofsを設定して出力してもよい。
【0060】
演算方式の場合について説明する。トルクTは上述した式(1)の電圧方程式で算出される。電圧振幅の「V」について解を求めると、次の式(3)に示すように電圧位相から電圧振幅式が求まる。式(3)の右辺を関数形式「f(T,δ)」と表すと、補正電圧Vofsは次の式(4)によって算出することができる。
Vofs/N=1/2×{−LqΦ/(Ld−Lq)/cosδ+4TLdLq/(Ld−Lq)/(p×sinδcosδ)}…(3)
Vofs = N×f(T,δ)…(4)
【0061】
上述した実施の形態1によれば、以下に示す各効果を得ることができる。まず請求項1に対応し、指令トルクTcmd*(要求トルク)と回転数Nとに基づいて、電圧振幅を設定する電圧振幅設定手段52aと、指令トルクTcmd*(要求トルク)と推定トルクT(実トルク)との差分値(偏差)に基づいて、電圧位相を設定する電圧位相設定手段52eと、電圧振幅設定手段52aによって設定される指令電圧振幅Vamp*(電圧振幅)と電圧位相設定手段52eによって設定される指令電圧位相Vp*(電圧位相)とに基づいて、電圧利用率の要求が低い領域(正弦波領域)であっても電圧利用率の要求が高い領域(過変調領域)になるように昇圧を行う指令昇圧電圧Vconv*(昇圧指令信号)をコンバータ10に伝達する電圧指令設定手段51aとを有する構成とした(図2〜図7を参照)。この構成によれば、正弦波領域であっても積極的に過変調領域で制御できるように昇圧制御を行うので、全域で制御性能を損なうことなく低損失化を達成することができる。
【0062】
請求項2に対応し、電圧指令設定手段51aは、コンバータ10に入力される入力電圧Vdcの電圧値を指令昇圧電圧Vconv*の下限値とする構成とした(図3,図6を参照)。この構成によれば、変調率を必ず1.00以上(あるいは閾値以上)にできるので、全域で制御性能を損なうことなく低損失化を達成できる。
【0063】
請求項3に対応し、電圧指令設定手段51aは、電圧振幅設定手段52aによって設定される指令電圧振幅Vamp*(電圧振幅)の変調率が制限変調率Mlim*となるように指令昇圧電圧Vconv*を制御するPI制御部51a6(昇圧指令制御手段)と、現在の電圧位相に対して所定の出力余裕ΔPが得られるように指令昇圧電圧Vconv*を補正する補正電圧設定部51a1(補正電圧設定手段)とを有する構成とした(図3を参照)。この構成によれば、PI制御部51a6によって制限変調率Mlim*となるように制御しながらも、補正電圧設定部51a1によって所定の出力余裕ΔPが得られる。そのため、余裕をもって制御性能を損なうことなく低損失化を達成することができる。
【0064】
請求項4に対応し、PI制御部51a6(昇圧指令制御手段)は、制御領域が過変調領域になるような数値範囲の制限変調率Mlim*を用いる構成とした(図3を参照)。この構成によれば、制限変調率Mlim*を指令するだけで制御領域が過変調領域になる。そのため、制御性能を損なうことなく低損失化をより確実に達成することができる。
【0065】
請求項5に対応し、補正電圧設定部51a1(補正電圧設定手段)は、電圧位相制限値に到達するまでの出力余裕ΔPを求める出力余裕設定器51aa(出力余裕演算手段)と、出力余裕ΔPを制限する出力余裕リミッタ器51ab(出力余裕リミッタ手段)と、出力余裕ΔPに対応する電圧余裕を演算し、電圧余裕に基づいて補正電圧Vofsを設定する電圧余裕設定器51ac(電圧余裕演算手段)とを有する構成とした(図4,図7を参照)。この構成によれば、電圧余裕設定器51acが電圧余裕を演算したうえで補正電圧Vofsを設定するので、所定の出力余裕ΔPを確保しながらも制御性能を損なうことなく低損失化を達成することができる。
【0066】
請求項6に対応し、出力余裕設定器51aaは、出力余裕用変数Voutput(すなわち電圧振幅,電圧位相,回転数N,トルク,電流等)のいずれか一つ以上の変数Vxを用いて、数式モデルを用いて演算を行う演算方式および変数Vxのいずれか一つ以上を引数としてマップを参照する参照方式のうちで一方または双方の方式により、出力余裕ΔPを求める構成とした(図4,図7を参照)。この構成によれば、演算方式や参照方式によって確実に出力余裕ΔPが求められ、制御性能を損なうことなく低損失化をより確実に達成することができる。
【0067】
請求項7に対応し、電圧余裕設定器51acは、出力余裕設定器51aaによって求められる出力余裕ΔPに基づいて、電圧余裕用変数Vvolt(すなわち電圧振幅,電圧位相,回転数N,トルク,電流等)のいずれか一つ以上の変数Vxを用いて、数式モデルを用いて演算を行う演算方式および変数Vxのいずれか一つ以上を引数としてマップを参照する参照方式のうちで一方または双方の方式により、補正電圧Vofsを求める構成とした(図4,図7を参照)。この構成によれば、演算方式や参照方式によって確実に補正電圧Vofsが求められ、制御性能を損なうことなく低損失化をより確実に達成することができる。
【0068】
請求項8に対応し、出力余裕リミッタ器51abは、指令トルクTcmd*(要求トルク)に対し位相制御によるトルクフィードバックのみで対応可能な出力値(図6では回転数基準値Nth)を上限として、出力余裕ΔPを制限する構成とした(図6を参照)。この構成によれば、変調率を必ず1.00以上(あるいは閾値以上)にできるので、全域で制御性能を損なうことなく低損失化を達成することができる。
【0069】
〔実施の形態2〕
実施の形態2は、実施の形態1における補正電圧設定部51a1の変形例である。当該実施の形態2は図8を参照しながら説明する。なお、電力変換装置の構成等は実施の形態1と同様であり、図示および説明を簡単にするために実施の形態2では実施の形態1と異なる点について説明する。よって実施の形態1で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0070】
図8に示す補正電圧設定部51a1は、図4に示す補正電圧設定部51a1と比べると、加合器51adをさらに備えた点が相違する。この加合器51adは「調整出力手段」に相当し、電圧余裕設定器51acが設定する補正電圧Vofs*を調整し、補正電圧Vofsとして出力する機能を担う。具体的には、電圧余裕設定器51acから伝達される補正電圧Vofs*と、入力電圧誤差Vinv_errとに基づいて加え合わせ(加算)を行い、補正電圧Vofsとして出力する。式で表すと、Vofs=Vofs*+Vinv_errになる。
【0071】
入力電圧誤差Vinv_errは、インバータ20の作動を制御する制御信号(すなわち操作信号Vsw*)にかかる電圧誤差である。この入力電圧誤差Vinv_errは、記録媒体(例えばROM等)にマップ等で記憶されてもよく、関数式等で表される数式モデルに基づいて演算してもよく、ECU60から伝達されてもよい。このように入力電圧誤差Vinv_errを加えることで変調率を必ず1.00以上(あるいは閾値以上)にできるので、全域で制御性能を損なうことなく低損失化を達成できる。
【0072】
〔実施の形態3〕
実施の形態3は、実施の形態1,2に示す電力変換装置を輸送機器に適用する例であって、図9を参照しながら説明する。図9では、輸送機器の一例として車両に適用した場合の構成例を模式図で示す。なお、電力変換装置の構成等は実施の形態1,2と同様である。よって、図示および説明を簡単にするため、実施の形態1,2で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0073】
図9に示す車両100は、回転機40および内燃機関(トルク発生源)の双方を動力源として走行可能なハイブリッド自動車(スプリット方式)の一例である。この車両100は、インバータ20および回転機40のほかに、車速センサ80,加速度センサ85,内燃機関102,バッテリ106,発電機108,動力分割機構110,PCU(パワー・コントロール・ユニット)112,車輪116などを有する。
【0074】
車両100は、内燃機関102および回転機40の双方を動力源として用い、一方または双方で発生した動力を車輪116に伝達して走行するように構成されている。内燃機関102は例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等が該当し、炭化水素系燃料を燃焼させることで動力を発生させる。この内燃機関102は、発生させた動力(回転力)を出力軸104に伝達する。回転機40は、PCU112から供給される電力を受けて動力を発生させる機能と、あるいは動力分割機構110から分割される動力を中継する機能とを有し、一方または双方の動力を回転軸114(伝達軸)に伝達する。
【0075】
バッテリ106は蓄電と放電が可能な蓄放電手段であり、例えば二次電池や燃料電池等が該当する。発電機108は、動力分割機構110によって分割された動力によって電力を発生させる。通常の発電機を用いてもよく、括弧内に「MG」で示す電動発電機を用いてもよい。発生した電力は、PCU112を通じてバッテリ106に蓄電したり、回転機40を回転駆動させたりする。
【0076】
PCU112は、車両100における電力の授受を司る。具体的には、発電機108で発生した電力をバッテリ106に蓄電する制御や、回転機40を回転駆動する電力を供給する制御などを行う。このPCU112は、例えばコンバータ10,インバータ20,バッテリECUなどで構成される。バッテリECUは、バッテリ106との間における電力の蓄積や放出等の制御を行う。
【0077】
動力分割機構110は、内燃機関102で発生する動力を分割(分配)する機能を担う。すなわち車両100の状況(すなわち走行や停止等の状態)に応じて、発電機108および回転機40のうちで一方または双方に動力を伝達する。動力分割機構110は任意に構成可能であるが、例えばキャリア,サンギヤ,プラネタリギヤなどで構成される。
【0078】
コントローラ50には、実施の形態1,2に示す電圧振幅設定手段52aや、電圧位相設定手段52e、電圧指令設定手段51aなどを有する(図1〜図8を参照)。ECU60は、車速センサ80から伝達される速度Vsや、加速度センサ85から伝達される加速度Asに基づいて車両100の走行状態を把握できる。また、把握した車両100の走行状態や、運転者の操作(主にアクセルペダルやブレーキペダル等の操作)に基づいて、コントローラ50に対して指令トルクTcmd*(要求トルク)を出力する。この実施の形態3によれば、請求項1〜8については実施の形態1,2と同様であるので、各実施の形態に対応する作用効果を得ることができる。
【0079】
〔他の実施の形態〕
以上では本発明を実施するための形態について実施の形態1〜3に従って説明したが、本発明は当該形態に何ら限定されるものではない。言い換えれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。例えば、次に示す各形態を実現してもよい。
【0080】
上述した実施の形態1〜3では、回転機40には三相の発電電動機を適用した(図1,図2を参照)。この形態に代えて、他の回転機を適用してもよい。他の回転機には、例えば三相以外の相数(二相や四相以上)からなる発電電動機、相数を問わず電動機や発電機などが該当する。制御対象の相違に過ぎないので、実施の形態1,2と同様の作用効果を得ることができる。
【0081】
上述した実施の形態1〜3では、図2に示すPI制御部52e1と図3に示すPI制御部51a6は、いずれも比例要素と積分要素を含むPI制御を行う構成とした。この形態に代えて、さらに微分要素を含めてPID制御を行う構成としてもよい。PID制御について、図2,図3では括弧内に示す。回転機40の性能や用途等によっては回転数Nが急激に変化する場合があり、このような回転機40について制御応答性が向上する。
【0082】
上述した実施の形態3では、車両100として回転機40および内燃機関102の双方を動力源として走行可能なハイブリッド自動車(スプリット方式)を適用した(図9を参照)。この形態に代えて、回転機40を備える他の車両に適用することもできる。他の車両は、例えば他の方式(シリーズ方式またはパラレル方式)のハイブリッド自動車や、回転機40の動力のみを利用する車両(いわゆる電気自動車や燃料電池自動車)などが該当する。他の車両であっても形態が相違するに過ぎないので、実施の形態1,2と同様の作用効果が得られる。
【0083】
上述した実施の形態1〜3では、「閾値」と「電圧利用率の要求が低い領域」および「電圧利用率の要求が高い領域」との関係は、変調率が閾値以下となる領域を「電圧利用率の要求が低い領域」とし、変調率が閾値を超える領域が「電圧利用率の要求が高い領域」とした。この形態に代えて、閾値とは別個の基準値であって電圧の利用率を示す基準電圧利用率を用い、基準電圧利用率以下となる領域を「電圧利用率の要求が低い領域」とし、基準電圧利用率を超える領域が「電圧利用率の要求が高い領域」としてもよい。実施の形態1〜3において「閾値」を「基準電圧利用率」に置き換えることで容易に実現できる。基準値の相違に過ぎないので、実施の形態1〜3と同様の作用効果が得られる。
【0084】
〔他の発明の態様〕
以上では発明の実施の形態について説明したが、当該実施の形態には特許請求の範囲に記載した発明の態様のみならず他の発明の態様を含む。この発明の態様を以下に列挙するとともに、必要に応じて関連説明を行う。
【0085】
〔態様1〕前記補正電圧設定手段は、
前記電圧余裕演算手段によって設定される前記補正電圧と、前記インバータの電圧誤差とに基づいて、前記補正電圧を調整して出力する調整出力手段を有することを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【0086】
態様1の構成によれば、調整出力手段(加合器51ad)は、電圧余裕演算手段(電圧余裕設定器51ac)によって設定される補正電圧Vofs*を入力電圧誤差Vinv_errで調整し、出力する補正電圧Vofsとして出力する(図8を参照)。このように入力電圧誤差Vinv_errを加えることで変調率を必ず1.00以上(あるいは閾値以上)にできるので、全域で制御性能を損なうことなく低損失化を達成することができる。
【0087】
〔態様2〕昇圧を行うコンバータと、昇圧された電圧を変換して出力するインバータと、前記コンバータおよび前記インバータの作動を個別に制御するコントローラと、を備える電力変換装置の制御を行う電力変換制御方法において、
要求トルクと回転数とに基づいて電圧振幅を設定し、
前記要求トルクと実トルクとの差分値に基づいて電圧位相を設定し、
前記電圧振幅設定手段によって設定される電圧振幅と前記電圧位相設定手段によって設定される電圧位相とに基づいて、変調率が閾値以下となり電圧利用率の要求が低い領域であっても前記変調率が前記閾値を超える電圧利用率の要求が高い領域となるように前記昇圧を行う昇圧指令信号を前記コンバータに伝達することを特徴とする電力変換制御方法。
【0088】
態様2の構成によれば、正弦波領域であっても過変調領域となるように昇圧する昇圧指令信号をコンバータに伝達する。電圧利用率の要求が低い領域(正弦波領域)であっても電圧利用率の要求が高い領域(過変調領域)で制御できるように昇圧制御を行うので、全域で制御性能を損なうことなく低損失化を達成することができる。
【符号の説明】
【0089】
10 コンバータ
20 インバータ
30 電流センサ
40 回転機(制御対象)
41 レゾルバ(回転センサ)
50 コントローラ
51 コンバータ制御機構
51a 電圧振幅設定手段
51a1 補正電圧設定部
51aa 出力余裕設定器
51ab 出力余裕リミッタ器
51ac 電圧余裕設定器
51ae 出力余裕制限値設定器
51a3 リミッタ部
51a4,51a7 演算部
51a6 PI制御部
52 インバータ制御機構
60 ECU(外部装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇圧を行うコンバータと、昇圧された電圧を変換して出力するインバータと、前記コンバータおよび前記インバータの作動を個別に制御するコントローラと、を備える電力変換装置において、
要求トルクと回転数とに基づいて、電圧振幅を設定する電圧振幅設定手段と、
前記要求トルクと実トルクとの差分値に基づいて、電圧位相を設定する電圧位相設定手段と、
前記電圧振幅設定手段によって設定される電圧振幅と前記電圧位相設定手段によって設定される電圧位相とに基づいて、変調率が閾値以下となり電圧利用率の要求が低い領域であっても前記変調率が前記閾値を超える電圧利用率の要求が高い領域となるように前記昇圧を行う昇圧指令信号を前記コンバータに伝達する電圧指令設定手段と、
を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記電圧指令設定手段は、前記コンバータに入力される電圧値を前記昇圧指令信号の下限値とすることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電圧指令設定手段は、
前記電圧振幅設定手段によって設定される電圧振幅の変調率が指令変調率となるように前記昇圧指令信号を制御する昇圧指令制御手段と、
現在の前記電圧位相に対して所定の出力余裕が得られるように前記昇圧指令信号を補正する補正電圧を設定する補正電圧設定手段と、
を有することを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記昇圧指令制御手段は、制御領域が過変調領域になるような数値範囲の前記指令変調率を用いることを特徴とする請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記補正電圧設定手段は、
電圧位相制限値に到達するまでの出力余裕を求める出力余裕演算手段と、
前記出力余裕を制限する出力余裕リミッタ手段と、
前記出力余裕に対応する電圧余裕を求め、前記電圧余裕に基づいて前記補正電圧を設定する電圧余裕演算手段と、
を有することを特徴とする請求項3または4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記出力余裕演算手段は、電圧振幅,電圧位相,回転数,トルク,電流のいずれか一つ以上の変数を用いて、数式モデルを用いて演算を行う演算方式および前記変数のいずれか一つ以上を引数としてマップを参照する参照方式のうちで一方または双方の方式により、前記出力余裕を求めることを特徴とする請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記電圧余裕演算手段は、前記出力余裕演算手段によって求められる出力余裕に基づいて、電圧振幅,電圧位相,回転数,トルク,電流のいずれか一つ以上の変数を用いて、数式モデルを用いて演算を行う演算方式および前記変数のいずれか一つ以上を引数としてマップを参照する参照方式のうちで一方または双方の方式により、前記補正電圧を求めることを特徴とする請求項5または6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記出力余裕リミッタ手段は、前記要求トルクに対し位相制御によるトルクフィードバックのみで対応可能な出力値を上限として、前記出力余裕を制限することを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載の電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−223008(P2012−223008A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88118(P2011−88118)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】