説明

電動アクチュエータ駆動装置及びこれを備えた制振装置

【課題】駆動指令信号が過大になることに対する対策を適正化した電動アクチュエータ駆動装置を提供する。
【解決手段】周期的信号たる電流指令I41の振幅及び位相に対応する振幅情報及び位相情報を有する指令ベクトルに基づいて電流指令I41を生成するものであり、指令ベクトルは互いに交わる複数のベクトルで表現され、指令ベクトルを表現する各ベクトルの大きさを示す適応フィルタ係数(Re、Im)をそれぞれ算出する係数算出手段44と、係数算出手段44により算出される各々の適応フィルタ係数(Re、Im)に基づいて電流指令I41を生成する指令信号生成手段45と、所定の条件が成立している場合に電流上限超過信号S41を生成して係数算出手段44に入力する電流超過検出手段4cとを有し、係数算出手段44は、電流上限超過信号S41が入力されている間、全ての適応フィルタ係数を電流指令I41が制限される方向に修正し、各適応フィルタ係数に対する修正の割合が全ての適応フィルタ係数で同一となるように抜き係数kを用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動指令信号を生成して電動アクチュエータに入力することにより電動アクチュエータの駆動を制御する電動アクチュエータ駆動装置に係り、特に駆動指令信号が過大になることに対する対策を適正化した電動アクチュエータ駆動装置及びこれを備えた制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レシプロモータ等のリニアアクチュエータを始めとする電動アクチュエータを電気的に駆動する際は、可動子の固定子への衝突や、コントローラに対して許容量以上の電流が流れ又は電圧が印加されることによるコントローラの破損等が発生する可能性がある。可動子の固定子への衝突は騒音、異常振動の発生、電動デバイスの寿命劣化につながり、コントローラの破損はデバイスの焼損につながり、何れも未然に防止しなければならない。
【0003】
このような対策として、電動アクチュエータの駆動を指令する周期的信号である駆動指令信号の電流や電圧等を不具合発生前に制限(クランプ)し、異常処理を行う手法が有効な手立てとして考えられている。
【0004】
例えば、特許文献1の図20に示されるものは、エンジン回転数等を入力して、電動アクチュエータたる加振手段に発生させるべき振動の振幅指令値と周波数指令値とを演算により求めて出力する指令値生成部と、前記指令値生成部から出力される振幅指令値と周波数指令値とから決まる印加可能な電流値の上限が周波数毎に定義された振幅上限クランプテーブルと、印加電流生成部とを備えている。印加電流生成部は、前記振幅指令値と前記周波数指令値とを入力し、振幅上限クランプテーブルを参照して、入力した振幅指令値を適切な(可動)範囲に制限するための補正を行い、入力された周波数指令と、この補正(制限)後の振幅指令値とに基づいて、レシプロモータを用いた加振手段に対して印加すべき電流の指令値を求めて出力するものである。そして、リニアアクチュエータの可動子を常に適切な可動範囲内で駆動することで、ストッパへの衝突を避け、衝突音の発生を抑制することができるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/129627号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に示される構成においては、補正(制限)される振幅指令値は、加振手段に印加すべき電流の振幅及び位相に対応する振幅情報及び位相情報を有するベクトルであり、このベクトルを互いに直交する2つのベクトルで表現し、各ベクトルの大きさを実数部及び虚数部という係数で表現して演算に適したものにしている(特許文献1の図10参照)。
【0007】
しかしながら、上記で述べた振幅上限クランプテーブルを参照して振幅指令値を制限する具体的構成として、実数部又は虚数部のうち上限を超えたものをカットするクランプ制御を行っていたところ、実数部又は虚数部のうちのいずれか一方のみがクランプされた場合に、補正後の実数部及び虚数部により表現されるベクトルの向きが変わり、駆動指令信号の位相ズレが生じて駆動精度が低減してしまう。
【0008】
特に、電動アクチュエータを加振手段として用いる制振システムに適用する場合には、制振すべき振動に対して逆相となる振動を加振するにあたり、加振する振動の位相を目的と完全に一致させなければならないという厳格な要求があり、駆動指令信号の位相ズレが制振精度に多大な悪影響を与えてしまう。
【0009】
本発明は、上記課題を有効に解決した電動アクチュエータ駆動装置およびこれを備えた制振装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0011】
すなわち、本発明の電動アクチュエータ駆動装置は、周期的信号たる駆動指令信号を生成して電動アクチュエータに入力し当該電動アクチュエータを駆動するにあたり、駆動指令信号の振幅及び位相に対応する振幅情報及び位相情報を有する指令ベクトルに基づいて前記駆動指令信号を生成するものであって、前記指令ベクトルは互いに交わる複数のベクトルで表現され、前記指令ベクトルを表現する各ベクトルの大きさを示す係数をそれぞれ算出する係数算出手段と、係数算出手段により算出される各々の係数に基づいて前記駆動指令信号を生成する指令信号生成手段と、所定の条件が成立している場合に絞り込み指令信号を生成して前記係数算出手段に入力する絞り込み指令手段とを具備し、前記係数算出手段は、前記絞り込み指令信号が入力されている間、全ての係数を前記駆動指令信号が制限される方向に修正し、各係数に対する修正の割合が全ての係数で同一であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、絞り込み指令信号が入力されているときに、指令ベクトルを表現する全ての係数が駆動指令信号を制限する方向に修正され、各係数に対する修正の割合が全ての係数で同一であるので、指令ベクトルの方向が変わることなく指令ベクトルの大きさが駆動指令信号を制限する方向に修正され、この係数に基づいて生成される周期的な駆動指令信号の位相がズレることを回避しつつ、可動子の固定子への衝突やコントローラの破損等を有効に防止することができ、電動アクチュエータの信頼性や耐久性だけでなく駆動精度を有効に向上させることができる。
【0013】
前記指令信号生成手段で生成される駆動指令信号に更に補正を加える駆動指令補正手段を備える場合には、前記絞り込み指令手段は、補正後の駆動指令信号の振幅値が予め設定した上限値を超過している場合に前記所定の条件が成立しているとすることが有効である。
【0014】
即応性を向上させるためには、前記絞り込み指令手段は、前記各々の係数により表現される指令ベクトルの大きさが上限値を超過する場合に前記所定の条件が成立しているとすることが効果的である。
【0015】
電動アクチュエータの駆動精度を更に追求するためには、前記係数算出手段は、1回あたりの前記係数の修正を予め定めた範囲内に留めて前記係数の算出を繰り返すことにより前記係数の修正を段階的に行うものであることが好ましい。
【0016】
予め定めた範囲とは、駆動指令信号の大幅な変動を抑える趣旨である。
【0017】
本発明の電動アクチュエータ駆動装置は、電動アクチュエータたる加振手段を通じて制振すべき振動に対して逆相となる振動を発生し振動を制御する制振装置に特に好適に適用が可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以上説明したように、指令ベクトルを表現する全ての係数が駆動指令信号を制限する方向に修正され、各係数に対する修正の割合が全ての係数で同一であるので、駆動指令信号を制限する際に指令ベクトルの向きを変えずに指令ベクトルの大きさを駆動指令信号が制限される方向に修正され、駆動指令信号の位相が所望の位相からズレることを回避して、駆動精度を有効に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る制振装置を車両に適用した模式的な構成図。
【図2】同制振装置を構成するリニアアクチュエータを備えた加振手段の模式的な構成図。
【図3】本発明の一実施形態における基本次数の制振制御に係る構成を示すブロック図。
【図4】適応フィルタ係数とその係数により表現されるベクトルを示す説明図。
【図5】適応フィルタ係数とその係数により表現されるベクトルを示す説明図。
【図6】同実施形態における電流補正部に対応した制振制御に係る構成を示すブロック図。
【図7】本発明の他の実施形態に係る基本次数の制振制御に係る構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
この実施形態の電動アクチュエータ駆動装置は、周期的信号たる駆動指令信号を生成して電動アクチュエータに入力し電動アクチュエータを駆動するにあたり、駆動指令信号の振幅及び位相に対応する振幅情報及び位相情報を有する指令ベクトルに基づいて駆動指令信号を生成するものであり、制振装置に搭載されている。制振装置は、図1に示すように、自動車等の車両に搭載されるものであり、座席st等の制振すべき位置posに設けた加速度センサ等の振動検出手段1と、所定の質量を有する補助質量2aを振動させることにより相殺振動vi2を発生する電動アクチュエータたるリニアアクチュエータ20を用いた加振手段2と、振動発生源gnであるエンジンの点火パルスから取り出される基本周波数fから基準波ejθを生成する基準波生成手段3と、振動検出手段1からの振動検出信号sgと前記基準波ejθとを入力し加振手段2に相殺振動vi2を発生させる適応制御手段4とを有し、車体フレームfrmにマウンタgnmを介して搭載されたエンジン等の振動発生源gnで生じる振動vi1と加振手段2で発生させる相殺振動vi2とを制振すべき位置posで相殺させて制振すべき位置posにおける振動を低減するものである。
【0022】
振動検出手段1は、加速度センサ等を用いてエンジンの主振動方向と同一方向の主振動を検出し、振動検出信号sg{=Asin(θ+φ)}を出力する。
【0023】
リニアアクチュエータ20は、図2に示すように、永久磁石を備える固定子22を車体フレームfrmに固定し、抑制するべき振動方向と同方向の往復動(図2の紙面では上下動)を可動子23に行わせるようにしたレシプロタイプのものである。ここでは、車体フレームfrmの抑制すべき振動の方向と可動子23の往復動方向(推力方向)とが一致するように、車体フレームfrmに固定される。可動子23は補助質量2aとともに軸25に取り付けられ、この軸25は可動子23及び補助質量21を推力方向に移動可能なように板バネ24を介して固定子22に支持されている。リニアアクチュエータ20と補助質量21によって、動吸振器が構成されていることになる。
【0024】
リニアアクチュエータ20を構成するコイル(図示せず)に交流電流(正弦波電流、矩形波電流)を流した場合、コイルに所定方向の電流が流れる状態では、磁束が、永久磁石においてS極からN極に導かれることにより、磁束ループが形成される。その結果、可動子23は、重力に逆らう方向(上方向)に移動する。一方、コイルに対して所定方向とは逆方向の電流を流すと、可動子23は、重力方向(下方向)に移動する。可動子23は、交流電流によるコイルへの電流の流れの方向が交互に変化することにより以上の動作を繰り返し、固定子22に対して軸25の軸方向に往復動することになる。これにより、軸25に接合されている補助質量21が上下方向に振動することになる。このリニアアクチュエータ20それ自体のより具体的な構造や動作説明は特許文献1等にも開示されているように公知であるため、詳細は省略する。可動子23は図示しないストッパによって動作範囲が規制されている。リニアアクチュエータ20と補助質量21とによって構成される動吸振器は、アンプ6から出力される電流制御信号ssに基づいて、補助質量21の加速度を制御して制振力を調節することにより、車体フレームfrmに発生する振動を相殺して振動を低減することができる。
【0025】
基本次数の基準波生成手段3(31)は、図3に示すように、基本周波数f[Hz]から基本次数の基準波ejθである基準正弦波(sinθ)と基準余弦波(cosθ)を生成する。生成される基準正弦波(sinθ)と基準余弦波(cosθ)は何らかの同期信号に対し同期しても、させなくてもどちらでもよい。θ=ωt=2πftである。
【0026】
適応制御手段4は、基本次数の振動を制御する基本次数適応制御手段たる基本適応アルゴリズムブロック4aを主体とする。この基本適応アルゴリズムブロック4aは、係数算出手段44と、指令信号生成手段45とを有し、振動検出信号sgと前記基準波ejθ{=(sinθ、cosθ)}とから基本次数適応フィルタ係数(Re、Im)=(A´cosφ´、A´sinφ´)を係数算出手段44により算出して当該基本次数適応フィルタ係数(Re、Im)に基づき駆動指令信号たる基本次数制振電流指令I41を指令信号生成手段45により生成し、これに基づき後述するアンプ6を介してリニアアクチュエータ20に電流制御信号ssを入力することで、制振すべき位置posに前記振動発生源gnからの振動に対し逆相となる振動を加振手段2を通じて発生させる。先ず、検出してきた振動検出信号sg{=Asin(θ+φ)}の基本周波数成分の正弦波の逆信号(正逆が反対の信号)を生成する。振動検出信号Asin(θ+φ)は収束パラメータμと乗算されたのち、乗算器41a、41bにおいて基準正弦波sinθ、あるいは、基準余弦波cosθと乗算され、積分器41c、41dにおいて演算毎に前回値Z-1 に加算する形で積分される。その演算結果は、振動検出信号sgの基準正弦波sinθからずれた逆相正弦波ベクトルの収束方向の成分を持つ逆相正弦波のベクトルVe1すなわち適応フィルタ係数(Re、Im)=(A´cosφ´、A´sinφ´)として係数算出手段44により算出される(図4(a)参照)。逆相正弦波のベクトルVe1は、図4(a)に示すように、互いに直交する複数のベクトルVe2、Ve3で表現され、基本次数適応フィルタ係数ReはベクトルVe2の大きさを示し、基本次数適応フィルタ係数ImはベクトルVe3の大きさを示すものである。そして、ベクトルVe1の大きさが振幅に対応し、ベクトルVe1の向き(角度φ’)が位相に対応している。算出した適用フィルタ係数(Re、Im)に対し、図3に示すように、乗算器41e、41fにおいてそれぞれ基準正弦波sinθ、基準余弦波cosθを乗算し、その結果を加算器41gにおいて加算することで、振動検出信号sgの逆相正弦波信号として基本次数制振電流指令I41{=A´sin(θ+φ´)}を指令信号生成手段45により生成する。積分を繰り返すと、A´、φ´が真値A、φと対応する値に収束するにつれて振動の相殺が進むが、基本周波数fや位相θは絶えず変化しているため、常に変化に追従する形で制御が行われる。
【0027】
このような制御のなかで、過電流によりリニアアクチュエータ20を構成する可動子23が固定子22に設けた図示しないストッパ等へ衝突すると、騒音発生や寿命劣化の原因になることから、制振電流指令I41を抑える必要がある。
【0028】
そこで、本実施形態はさらに、前記基本次数制振電流指令I41のピーク電流値A´を算出する振幅検出手段4bと、基本周波数fから予め設めた基本次数電流上限値αを導出し前記基本次数制振電流指令I41のピーク電流値A´が前記基本次数電流上限値αを超過している場合に基本次数電流上限超過信号S41を生成する絞り込み指令手段たる基本次数電流超過検出手段4cとを設けている。
【0029】
振幅検出手段4bは、基本次数制振電流指令I41の振幅A´を随時(リアルタイム)に算出するブロックである。生成した基本次数制振電流指令I41の波形A´sin(θ+φ´)から求めてもよいし、その波形生成前の加算データの二乗和平方根をとっても良い。また、演算量を軽くするために二乗和だけをとり、比較する電流上限値αを二乗しても良い。基本次数電流超過検出手段4cは、基本次数電流上限値αを電流クランプテーブル41hの形で記憶している。
【0030】
以上のようにして基本次数電流上限超過信号S41が生成されるが、この信号S41が出力された際に単にフィルタ等により制振電流指令I41をカット(頭切り)することで電流をクランプしたのでは、高調波が発生して、電動アクチュエータの異常駆動といった不具合を引き起こす。また、制振電流指令I41を制限する際に、フィルタ係数Re、Imに対して上限を超えたものをカットするクランプ処理を独立して行うと、図4(b)に示すように、フィルタ係数Re、Imのうちのいずれか一方のみがクランプされた場合に(図示はフィルタ係数Reのみがクランプされた例を示す)、クランプ後のフィルタ係数Re、Imにより表現される逆位相正弦波のベクトルVe1の向きがベクトルVe1の向きと異なり(角度φ’→角度φ’)、ベクトルの向きは位相を表すので、電流指令I41の位相ズレを引き起こす。
【0031】
そこで本実施形態は、図3に示すように、かかる基本次数電流上限超過信号S41を前記基本適応アルゴリズムブロック4aに入力して、当該基本適応アルゴリズムブロック4aに、前記基本次数電流上限超過信号S41が入力されている間、前記基本次数適応フィルタ係数(Re、Im)を算出する毎に当該基本次数適応フィルタ係数(Re、Im)を予め定めた範囲内で制振電流指令I41が制限される方向に修正するようにしている。
【0032】
基本適応アルゴリズムブロック4aは、前述したごとく、前記振動検出手段1から入力される入力信号sgを積分しながら適応フィルタ係数(Re、Im)を更新する処理を繰り返すものであるが、制振電流指令I41を制限する際、前記積分値を小さく絞り込む位置に積分抜き処理ブロック4dを設け、積分抜き処理を行う。具体的には、電流上限超過信号S41が入力されているか否かによって内部のフラグ設定部41j、41kに0か1のフラグを立て、信号S41が入力されていないとき(フラグ1のとき)は絞り込みを行わず、信号S41が入力されているとき(フラグ0のとき)は演算タイミング毎に乗算器41m、41nにおいて減算係数設定部たる抜き係数設定部41zに設定された減算係数値たる抜き係数値kを前回値Z-1 に乗算することで、積分値を小さく絞り込む。抜き係数値kは一回の演算で絞り込む量を小さくするためのもので、例えばk=1020/1024(=0.9961)などと設定される。抜き係数値kを、1を大きく割り込まない値にしているのは(絞り込み量を小さく抑えているのは)、大きくしすぎると、一回の絞り込み動作で基本次数電流指令I41の値が急変し、出力に高調波が重畳されて異常振動を励起する原因になるからである。このように、抜き係数値kは、全ての適応フィルタ係数(Re、Im)で共用されており、抜き係数値kを全ての係数(Re、Im)に乗算することによって、各係数Re、Imに対する修正の割合が全て同一となり、図5に示すように、修正後の各ベクトルVe2、Ve3により表現されるベクトルVe1の向きが修正前のベクトルVe1の向きに一致して変わらず(φ’=φ’)、ベクトルVe1の大きさのみが制限される。この抜き係数値kは、基本次数電流上限値α(電流クランプ値)からの超過量が大きくなるほど小さくなるように(つまり絞り込み量を大きくするように)、比較部41iからの偏差信号に応じて抜き係数設定部41zにおいて値を可変しても良い。また、超過量の比率を算出して、電流上限値αに同期させても良い。なお、本実施形態では、2つの適応フィルタ係数(Re、Im)を用いて指令ベクトルを表現しているが、3つ以上の係数を用いて指令ベクトルを表現するものにも同様に上記の制限方法を適用できる。
【0033】
すなわち、制振電流指令I41が超過している場合に、即座に制振電流指令I41の超過分をカットするのではなく、予め定めた範囲(ここでは、抜き係数値kによる積分の絞込みの範囲)で制振電流指令I41を制限する修正を繰り返すため、高調波の発生や、可動子の衝突のない振幅に向かって、制振電流指令I41が漸近することになる。絞り込み係数生成ブロック4dはあくまでも例であり、電流上限超過信号S41から絞り込み係数kの適用のオンオフないし当該絞り込み係数kを増減させるブロックであれば、内部構成はどの様な形であってもかまわない。適応フィルタ係数(Re、Im)の収束は、収束パラメータμが大きいほど早くなる。
【0034】
また、図1に示す振動発生源gnで生じる振動には、基本次数のほかに高次次数が重畳しているため、高次次数が過電流となっても上記と同様の不具合が生じる。そこで、高次次数に対しても、高次次数適応アルゴリズムブロック4eを同様に設けて上記と同様の絞り込み制御を行う。
【0035】
更に、電流指令が制限されるケースとして、電流指令I41に図6に示すような補正を加える駆動指令信号補正手段たる電流補正部6aが存する場合がある。このような場合には、補正後の制振電流指令値I61が予め所定の基準に基づき設定した電流上限値αを超過している場合に補正後電流超過信号S61を生成して前記適応アルゴリズムブロック4a、4eに入力する補正後電流超過検出手段6bを更に備えておくとよい。この場合、各適応アルゴリズムブロック4a、4eは、超過信号S41の入力ラインと補正後電流超過信号S61の入力ラインとをOR回路で接続し、たとえ超過信号S41が入力されていない場合にも、前記補正後電流超過信号S61が入力されることをもって、適応フィルタ係数(Re、Im)を算出する毎に当該適応フィルタ係数(Re、Im)を予め定めた範囲内で制振電流指令I41が制限される方向に修正する制御を行う。この補正後電流超過検出手段6bで超過が認められた場合、適応制御が実効を奏するまでに過大な電流指令がそのままリニアアクチュエータ20に突入するおそれがあるため、この補正後電流超過検出手段6bで超過が認められた場合に限っては、従来と同様の電流クランプ(頭切り)を行い、システムを破損等から保護する構成も有効である。このように、補正による電流指令値I61の変動に起因した可動子23の固定子22への衝突やコントローラの破損は、補正前の電流指令I41を生成する適応制御手段4だけでは対処することができないが、補正を加味して電流指令値I61の振幅値が上限を超過しているか否かを判断し、その判断結果をフィルタ係数Re、Imの算出時にフィードバックしている。
【0036】
以上のように、本実施形態の電動アクチュエータ駆動装置は、周期的信号たる電流指令I41を生成してリニアアクチュエータ20に入力しリニアアクチュエータ20を駆動するにあたり、電流指令I41の振幅及び位相に対応する振幅情報及び位相情報を有する指令ベクトル(ベクトルVe1、Ve1)に基づいて電流指令I41を生成するものであって、指令ベクトル(ベクトルVe1、Ve1)は互いに交わる複数のベクトル(ベクトルVe2、Ve3、Ve2、Ve3)で表現され、指令ベクトル(ベクトルVe1等)を表現する各ベクトル(ベクトルVe2、Ve3等)の大きさを示す係数(Re、Im)をそれぞれ算出する係数算出手段44と、係数算出手段44により算出される各々の係数(Re、Im)に基づいて電流指令I41を生成する指令信号生成手段45と、所定の条件が成立している場合に絞り込み指令たる基本次数電流上限超過信号S41を生成して係数算出手段44に入力する絞り込み指令手段(電流超過検出手段4c)とを具備し、係数算出手段44は、基本次数電流上限超過信号S41が入力されている間、全ての係数(Re、Im)を電流指令I41が制限される方向に修正し、各係数(Re、Im)に対する修正の割合が全ての係数で同一であるので、指令ベクトル(ベクトルVe1等)の方向が変わることなく指令ベクトルベクトルVe1等の大きさが電流指令I41を制限する方向に修正され、この係数(Re、Im)に基づいて生成される周期的な電流指令I41の位相がズレることを回避しつつ、可動子23の固定子22への衝突やコントローラの破損等を有効に防止することができ、リニアアクチュエータ20の信頼性や耐久性だけでなく駆動精度を有効に向上させることができる。
【0037】
さらに、指令信号生成手段45で生成される電流指令I41に更に補正を加える電流補正部6aを備えるシステムにおいて、補正による電流指令値I61の変動に起因した可動子23の固定子22への衝突やコントローラの破損は、補正前の電流指令I41を生成する適応制御手段4だけでは対処することができないが、本実施形態では、絞り込み指令手段が補正後電流超過検出手段6bであり、補正後電流超過検出手段6bが、補正後の電流指令値I61の振幅値が予め設定した上限値を超過している場合に所定の条件が成立しているとして補正後電流超過信号S61を係数算出手段44に入力するので、補正を加味して電流指令値I61の振幅値が上限値を超過しているか否かを判断し、電流補正部6aの補正による電流指令値I61の変動に起因する不具合を電流指令値I61の位相ズレを生ずることなく有効に回避することが可能となる。
【0038】
さらにまた、係数算出手段44は、1回あたりの適応フィルタ係数(Re、Im)の修正を予め定めた範囲内に留めて適応フィルタ係数(Re、Im)の算出を繰り返すことにより適応フィルタ係数(Re、Im)の修正を段階的に行うものであるので、絞り込み指令信号たる電流上限超過信号S41や補正後電流超過信号S61が入力されているときに、即座に電流指令I41をカットするのではなく、予め定めた範囲で電流指令I41を制限する修正を繰り返すので、高調波の発生を回避しながら、可動子23の固定子22への衝突やコントローラの破損等を有効に防止することができ、装置の信頼性や耐久性だけでなく電動アクチュエータの制御精度を向上させることが可能となる。
【0039】
その他、制振装置では、制振すべき振動に対して逆相となる振動を加振するにあたり、加振する振動の位相を目的と一致させなければならないという厳格な要求があり、電流指令I41の位相ズレが制振精度に多大な悪影響を与えてしまうところ、本実施形態の電動アクチュエータ駆動装置を搭載しこの駆動装置により駆動する電動アクチュエータを通じて制振すべき振動に対して逆相となる振動を発生して制振を行うように制振装置を構成すると、制振精度を著しく向上させることが可能となる。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0041】
例えば、前記絞り込み指令手段を、各々の係数により表現される指令ベクトルの大きさが所定の上限値を超過する場合に上記の所定の条件が成立しているとして絞り込み指令信号を係数算出手段に入力するように構成してもよい。具体的には、図7に示すように、絞り込み指令手段として判定部146を設け、この判定部146に適応フィルタ係数(Re、Im)を入力し、入力した適応フィルタ係数(Re、Im)に基づいて指令ベクトル(ベクトルVe1等)の大きさを算出し、この算出結果が所定上限値以上であるか否かを判定し、所定上限値以上であれば電流上限超過信号S41を生成して前記係数算出手段44に入力し、所定上限値以上でなければ電流上限超過信号S41を係数算出手段44に入力しないように構成することが挙げられる。このように構成すると、指令ベクトルの大きさが駆動指令信号の振幅値に対応し、各々の係数はスカラーであるので、簡易な四則演算で指令ベクトルの大きさを求めることができ、周期的信号である駆動指令信号を用いる場合と比べて簡易な演算で駆動指令信号の振幅値を求めることができ、即応性を向上させることが可能となる。
【0042】
さらに、本実施形態では、駆動指令信号を電流指令としているが、電圧指令であってもよい。また、本実施形態では係数が適応フィルタ係数であるが、これに特に限定されるものではない。また、絞り込み指令手段が判定するにあたり、駆動指令信号の電動アクチュエータへの入力ラインに現れる最終電流波形又は最終電圧波形の振幅値を用いて上記判定を行ってもよく、また、これらの最終電流波形又は最終電圧波形のうち所定の周波数成分抽出後の振幅値を用いて上記判定を行ってもよい。
【0043】
加えて、本実施形態では、駆動指令補正手段として電流補正部6aを挙げているが、電圧を補正するものでもよい。また、本実施形態において絞り込み指令手段は、電流補正部6a等により能動的に補正を加えられた補正後の駆動指令信号の振幅値を参照しているが、補正された駆動指令信号であれば、これに限定されるものではない。例えば、周波数fが大きくなるか、あるいは、外部から大きな衝撃が印加されリニアアクチュエータ20に多大な電圧が励起された場合には、駆動指令信号のリニアアクチュエータ20への入力ライン上に現れる印加電圧指令が大きくなり、最悪は電圧飽和状態(それ以上電圧印加ができなくなり、電流制御破綻をきたす)が発生する。これを防止するために、絞り込み指令手段を、駆動指令信号のリニアアクチュエータ20への入力ライン上に現れる駆動指令信号の電圧値が所定上限以上であるかを判定して、絞り込み指令信号を生成するようにしてもよい。
【0044】
また、本実施形態では、高調波の発生を防止すべく、係数算出手段44を、絞り込み指令信号たる基本次数電流上限超過信号S41が入力されている間、係数(Re、Im)を算出する毎に全ての係数(Re、Im)を予め定めた範囲で電流指令I41が制限される方向に修正し、係数(Re、Im)を段階的に制限するように構成しているが、高調波の発生が問題とならない適用例では、係数(Re、Im)を段階的に修正することに限定されるものではない。
【0045】
さらに、本実施形態では、絞り込み指令手段たる電流超過検出手段4cを、所定の条件が成立している場合に絞り込み指令信号たる基本次数電流上限超過信号S41を係数算出手段44へ常に出力するように構成しているが、絞り込み指令信号が入力されているか否かを係数算出手段が係数の算出時に判断可能であれば、常に絞り込み指令信号が入力されるものに限定されるものではない。
【0046】
その他、本発明を制振装置以外に電動アクチュエータの駆動を必要とする装置や機器類に適用するなど、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0047】
20…電動アクチュエータ(リニアアクチュエータ)
44…係数算出手段
45…指令信号生成手段
4c…絞り込み指令手段(電流超過検出手段)
6b…絞り込み指令手段(補正後電流超過検出手段)
6a…駆動指令補正手段(電流補正部)
41…駆動指令信号(電流指令)
61…補正後の駆動指令信号(制振電流指令値)
Ve1、Ve1…指令ベクトル
Ve2、Ve3、Ve2、Ve3…指令ベクトルを表現する複数のベクトル
Re、Im…係数(適応フィルタ係数)
S41…絞り込み指令信号(電流上限超過信号)
S61…絞り込み指令信号(補正後電流超過信号)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的信号たる駆動指令信号を生成して電動アクチュエータに入力し当該電動アクチュエータを駆動するにあたり、駆動指令信号の振幅及び位相に対応する振幅情報及び位相情報を有する指令ベクトルに基づいて前記駆動指令信号を生成する電動アクチュエータ駆動装置であって、
前記指令ベクトルは互いに交わる複数のベクトルで表現され、前記指令ベクトルを表現する各ベクトルの大きさを示す係数をそれぞれ算出する係数算出手段と、
係数算出手段により算出される各々の係数に基づいて前記駆動指令信号を生成する指令信号生成手段と、
所定の条件が成立している場合に絞り込み指令信号を生成して前記係数算出手段に入力する絞り込み指令手段とを具備し、
前記係数算出手段は、前記絞り込み指令信号が入力されている間、全ての係数を前記駆動指令信号が制限される方向に修正し、各係数に対する修正の割合が全ての係数で同一であることを特徴とする電動アクチュエータ駆動装置。
【請求項2】
前記指令信号生成手段で生成される駆動指令信号に更に補正を加える駆動指令補正手段を備え、
前記絞り込み指令手段は、補正後の駆動指令信号の振幅値が予め設定した上限値を超過している場合に前記所定の条件が成立しているとする請求項1に記載の電動アクチュエータ駆動装置。
【請求項3】
前記絞り込み指令手段は、前記各々の係数により表現される指令ベクトルの大きさが上限値を超過する場合に前記所定の条件が成立しているとする請求項1に記載の電動アクチュエータ駆動装置。
【請求項4】
前記係数算出手段は、1回あたりの前記係数の修正を予め定めた範囲内に留めて前記係数の算出を繰り返すことにより前記係数の修正を段階的に行うものである請求項1〜3のいずれかに記載の電動アクチュエータ駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの電動アクチュエータ駆動装置を備え、当該駆動装置により駆動する電動アクチュエータを通じて制振すべき振動に対して逆相となる振動を発生して制振を行う制振装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−209830(P2011−209830A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74796(P2010−74796)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】