電動パワーステアリング装置
【課題】電動モータの電気的抵抗が精度良く推定することが可能となる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】電動パワーステアリング装置は、電動モータ20の電気的抵抗の推定値に基づいて同電動モータ20の回転速度を算出する。そして、舵角センサ54の出力が舵角一定条件を満たすとき、かつ、電動モータ20の誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすとき、電動モータ20の電気的抵抗の推定値を推定して更新する。
【解決手段】電動パワーステアリング装置は、電動モータ20の電気的抵抗の推定値に基づいて同電動モータ20の回転速度を算出する。そして、舵角センサ54の出力が舵角一定条件を満たすとき、かつ、電動モータ20の誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすとき、電動モータ20の電気的抵抗の推定値を推定して更新する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電動モータの電気的抵抗の推定値に基づいて同電動モータの回転速度を算出する電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の操舵を補助する電動パワーステアリング装置において、電動モータに流すべき電流の目標値が、ステアリングシャフトの操舵トルクや車速に加えて、ステアリングホイールの操舵速度に対応する当該電動モータの回転速度に基づいて決定されることが知られている。
【0003】
電動モータの回転速度の算出においては、記憶装置に予め記憶されている電動モータの抵抗値を用いることが知られている。特許文献1には、回転速度の算出に用いる電動モータの端子間抵抗値を、モータ電流に応じて使い分けることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、電動モータの電流検出値および電圧検出値と、電流−抵抗特性とによって当該電流検出値に対応付けられる抵抗値とに基づいて、電動モータの回転速度を算出すること、並びに、抵抗算出手段により算出される電動モータの抵抗値に基づいて、電流−抵抗特性を更新することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−66999号公報
【特許文献2】特開2011−10379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電動モータの電気的抵抗を精度良く推定するためには、ステアリングホイールの舵角が保持されている状態、すなわち、ステアリングホイールが保舵されている状態が好ましい。
【0007】
しかし、分解能の低い舵角センサを用いるとき、舵角センサの出力に基づいてステアリングホイールの舵角が保持されていることを精確に判定できないおそれがある。すなわち、ステアリングホイールの舵角が変化しているときであっても、舵角が一定速度の低速で変化する場合には、舵角センサの出力は舵角が保持されているときと同じとなることがある。その結果、ステアリングホイールの舵角が変化しているときに、抵抗値が推定および更新されてしまい、電動モータの電気的抵抗が精度良く推定されないという問題がある。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電動モータの電気的抵抗が精度良く推定することが可能となる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を達成するための手段およびその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、電動モータの電気的抵抗の推定値に基づいて同電動モータの回転速度を算出する電動パワーステアリング装置において、舵角センサの出力が舵角一定条件を満たすとき、かつ、前記電動モータの誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすとき、前記推定値を更新することを要旨としている。
【0010】
ステアリングホイールの舵角が変化しているときであっても、舵角が一定速度の低速で変化する場合には、舵角センサの出力は舵角が保持されているときと同じとなることがある。一方、電動モータの誘起電圧は舵角の速度に比例して変化するため、舵角が一定速度の低速で変化する場合には、舵角が保持されていないと精確に推測できる。
【0011】
そこで、上記発明では、電動パワーステアリング装置は、舵角センサの出力が舵角一定条件を満たすとき、かつ、電動モータの誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすとき、電動モータの電気的抵抗の推定値を推定して更新するため、電動モータの電気的抵抗を精度良く推定することが可能となる。
【0012】
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記舵角センサの出力から操舵速度を算出し、前記舵角一定条件には、前記操舵速度が所定速度以下であることが含まれ、前記誘起電圧一定条件には、前記誘起電圧の変化量が所定量以下であることが含まれることを要旨としている。
【0013】
ステアリングホイールが操舵されていなければ、操舵速度は「0」であって、電動モータに生じる誘起電圧も「0」である。
上記発明によれば、舵角一定条件は、舵角一定条件には、操舵速度が所定速度以下であることが含まれ、誘起電圧一定条件には、誘起電圧の変化量が所定量以下であることが含まれるため、舵角一定条件と誘起電圧一定条件とが満たされれば、舵角が保持されていると推測できる。
【0014】
なお、本発明において「誘起電圧の変化量」とは、時間をあけて繰り返し算出される誘起電圧について、所定の時間当たりの変化度合いを表すものであってもよく、電動モータに誘起電圧が生じていないときを基準状態として、この基準状態からの誘起電圧の変化度合いを表すものであってもよい。
【0015】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記舵角一定条件には、前記舵角センサの出力の変化量が所定の範囲内である舵角一定時間が、所定時間以上であることが含まれ、前記誘起電圧一定条件には、前記誘起電圧の変化量が所定の範囲内である誘起電圧一定時間が、所定時間以上であることが含まれることを要旨としている。
【0016】
ステアリングホイールが操舵されていなければ、舵角センサの出力の変化量は所定の範囲内に含まれて、舵角一定時間は所定時間以上となる。同様に、ステアリングホイールが操舵されていなければ、電動モータに生じる誘起電圧の変化量は所定の範囲内に含まれて、誘起電圧一定時間は所定時間以上となる。
【0017】
上記発明によれば、舵角一定条件には、舵角センサの出力の変化量が所定の範囲内である舵角一定時間が、所定時間以上であることが含まれ、誘起電圧一定条件には、誘起電圧の変化量が所定の範囲内である誘起電圧一定時間が、所定時間以上であることが含まれるため、舵角一定条件と誘起電圧一定条件とが満たされれば、舵角が保持されていると推測できる。
【0018】
なお、本発明において「誘起電圧の変化量」とは、上述のごとく、所定の時間当たりの変化度合いを表すものであってもよく、上記基準状態からの誘起電圧の変化度合いを表すものであってもよい。また、「舵角センサの出力の変化量」とは、時間をあけて繰り返し出力される舵角センサの出力について、所定の時間当たりの変化度合いを表すものであってもよく、ステアリングホイールが所定位置にあるときを基準状態として、この基準状態からの舵角センサの出力の変化度合いを表すものであってもよい。また、舵角一定時間と比較される所定時間と、誘起電圧一定時間と比較される所定時間とは、異なる時間であっても同じ時間であってもよい。
【0019】
(4)請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の電動パワーステアリング装置において、前記推定値を算出するための演算式として、舵角が保持されているときに用いる第1演算式と、舵角が変化したときに用いる第2演算式を使い分けることを要旨としている。
【0020】
ステアリングホイールの舵角が保持されているときは、電動モータの電圧および電流を演算対象として含む一般的な演算式を用いることにより、電動モータの電気的抵抗を推定することができる。この一般的な演算式を第1演算式とする。
【0021】
上記発明では、電動モータの電気的抵抗を推定するための演算式として、舵角が保持されているときに用いる第1演算式と、舵角が変化したときに用いる第2演算式とを使い分ける。このため、ステアリングホイールの舵角が変化したときであっても、一般的な演算式と異なる第2演算式から電動モータの電気的抵抗を推定することが可能である。
【0022】
(5)請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の電動パワーステアリング装置において、前記第2演算式は、前記電動モータの電流、同電動モータの電圧、同電動モータの誘起電圧定数、および前記舵角の変化量を演算対象として含み、前記舵角一定時間が所定時間以上、かつ、同舵角一定時間に比べて前記誘起電圧一定時間が長いとき、前記第2演算式から前記電動モータの電気的抵抗を推定することを要旨としている。
【0023】
舵角一定時間が所定時間以上、かつ、舵角一定時間に比べて誘起電圧一定時間が長いときは、ステアリングホイールが操舵されたものの操舵速度が一定の低速で変化するようなときである。このようなときは、電動モータに生じる誘起電圧を考慮することにより、電動モータの電気的抵抗を精度良く推定することができる。電動モータに生じる誘起電圧は、電動モータの誘起電圧定数と舵角の変化量とに関連している。
【0024】
そこで、上記発明では、舵角一定時間が所定時間以上、かつ、舵角一定時間に比べて誘起電圧一定時間が長いとき、電動モータの誘起電圧定数と舵角の変化量を演算対象として含む第2演算式から電動モータの電気的抵抗を推定する。これにより、電動モータの誘起電圧定数と舵角の変化量の積を電動モータに生じる誘起電圧に相当するものと推定して、電動モータに生じる誘起電圧を考慮することにより、電動モータの電気的抵抗を推定することができる。従って、ステアリングホイールが操舵されたときであっても、電動モータの電気的抵抗が比較的精度良く推定される。
【0025】
(6)請求項6に記載の発明は、請求項3〜5のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、前記舵角一定時間が所定時間未満であるとき、前記電動モータの電気的抵抗の推定を禁止することを要旨としている。
【0026】
舵角一定時間が微小な時間であれば、その時間においては電動モータの電流および電圧が安定していないおそれがある。
そこで、上記発明では、舵角一定時間が所定時間未満であるとき、電動モータの電気的抵抗の推定が禁止されるため、電動モータの電気的抵抗の推定精度を保証することができる。
【0027】
(7)請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、前記電動モータに生じる外乱を観測する外乱オブザーバにより、前記外乱として前記誘起電圧を算出することを要旨としている。
【0028】
上記発明によれば、電動モータに生じる外乱を観測する外乱オブザーバにより、外乱として電動モータに生じる誘起電圧を算出するため、直接物理量として検出することのできない誘起電圧を算出することができる。
【0029】
(8)請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、前記電動モータはブラシ付きのモータであることを要旨としている。
【0030】
ブラシレスモータには、その回転の制御ために同モータの回転速度が得られるセンサが必ず設けられる構成であるのに対して、ブラシ付きモータには、同モータの回転速度が得られるセンサを設ける必要性が低く、同センサを省略することにより、電動パワーステアリング装置の製造コストを低減することができる。ただし、このようなセンサが省略されると、電動モータの電気的抵抗の推定値に基づいて同電動モータの回転速度を算出することになり、同電気的抵抗の推定精度が低ければ、電動モータの回転速度を精度良く算出できないという問題がある。
【0031】
一方、上記発明によれば、電動モータはブラシ付きモータであって、舵角一定条件と誘起電圧一定条件とが満たされるときに電動モータの電気的抵抗の推定値が推定および更新されるため、電動パワーステアリング装置の製造コストを低減することを可能となり、かつ、電動モータの回転速度を精度良く算出することが可能である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、電動モータの電気的抵抗を精度良く推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態の電動パワーステアリング装置について、その全体構造を模式的に示す模式図。
【図2】同実施形態の電動パワーステアリング装置が備える制御装置の構成を示す模式図。
【図3】同実施形態の制御装置が備える抵抗値更新部の構成を示す模式図。
【図4】同実施形態の電動パワーステアリング装置により実行される「抵抗値更新処理」について、その手順を示すフローチャート。
【図5】本発明の第2実施形態の制御装置が備える抵抗値更新部の構成を示す模式図。
【図6】同実施形態の電動パワーステアリング装置により実行される「舵角一定時間計測処理」について、その手順を示すフローチャート。
【図7】同実施形態の電動パワーステアリング装置により実行される「誘起電圧一定時間計測処理」について、その手順を示すフローチャート。
【図8】同実施形態の電動パワーステアリング装置により実行される「抵抗値更新処理」について、その手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(第1実施形態)
図1〜図3を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1に示されるように、電動パワーステアリング装置1には、ステアリングホイール2の回転力を転舵輪3に伝達する動力伝達機構10と、動力伝達機構10に設けられている電動モータ20と、電動モータ20を制御する制御装置30が設けられている。
【0035】
動力伝達機構10を構成するステアリングシャフト11の一端にはステアリングホイール2が固定されるとともに、その他端にはラックピニオン機構12を介してラック軸13が接続されている。ラック軸13の両端にはタイロッドおよびナックルアームを介して転舵輪3が接続されている。運転者がステアリングホイール2を回転させると、ステアリングシャフト11が回転する。この回転運動は、ラックピニオン機構12によりラック軸13の直線運動に変換され、ラック軸13の直線運動により転舵輪3の向きが変わる。
【0036】
また、ステアリングシャフト11には、ブラシ付きのDCモータである電動モータ20が減速機51を介して接続されている。電動モータ20が回転することによって、ステアリングシャフト11に回転力が付与される。電動モータ20によりステアリングシャフト11に付与されるトルクは、運転者の操舵負荷が軽減されるように制御装置30によって調整される。
【0037】
制御装置30には、ステアリングホイール2の操作によってステアリングシャフト11に付与される操舵トルクを検出するトルクセンサ52と、車速を検出する車速センサ53と、ステアリングホイール2の舵角を検出する舵角センサ54とが接続されている。
【0038】
図2に制御装置30の構成をブロック図で示す。
ECU(Electronic Control Unit)により構成される制御装置30は、電流検出部31、電圧検出部32、記憶部33、回転速度算出部34、目標電流値算出部35、PWM信号生成部36、およびモータ駆動回路37を備えている。
【0039】
電流検出部31は、電動モータ20に流れる電流(以下、電動モータ20の電流という)の大きさを検出する回路により構成されている。また、電圧検出部32は、電動モータ20の端子間電圧(以下、電動モータ20の電圧という)を検出する回路により構成されている。また、記憶部33は、電動モータ20の抵抗値や誘起電圧定数等を情報として記憶するメモリにより構成されている。記憶部33に記憶される情報は、読み書き可能に構成されている。
【0040】
回転速度算出部34および目標電流値算出部35は演算装置により構成される。回転速度算出部34および目標電流値算出部35は、記憶部33に記憶されている演算プログラム等に基づいて所定の演算を行う。
【0041】
回転速度算出部34は、電流検出部31による電流の検出結果と、電圧検出部32による電圧の検出結果と、記憶部33に記憶されている電動モータ20の抵抗値および誘起電圧定数とに基づいて、角速度である電動モータ20の回転速度(単位:rad/s)を算出する。電動モータ20の回転速度「ω」は、「ω=(V−I×R)/k」の演算式から算出される。この数式において、「V」は電圧検出部32により検出された電動モータ20の電圧値(単位:V)、「I」は電流検出部31により検出された電動モータ20の電流値(単位:A)を表している。また、「R」は電動モータ20の抵抗値(単位:Ω)、「k」は電動モータ20の誘起電圧定数(逆起電力定数)(単位:V/(rad/s))を表している。
【0042】
目標電流値算出部35は、電流検出部31による電流の検出結果と、トルクセンサ52による操舵トルクの検出結果と、車速センサ53による車速の検出結果と、回転速度算出部34により算出された電動モータ20の回転速度とに基づいて、電動モータ20に流すべき電流の大きさである目標電流値を算出する。
【0043】
PWM信号生成部36は、算出された目標電流値に基づいてPWM信号を生成する回路により構成されている。所望の回転方向および回転速度で電動モータ20を回転させるための信号であるPWM信号は、PWM信号生成部36からモータ駆動回路37に出力される。
【0044】
モータ駆動回路37は、スイッチング素子であるトランジスタ37A〜37Dにより構成されたH型ブリッジ回路である。トランジスタ37A〜37Dは、ON状態になるタイミングを示す信号であるPWM信号に基づいて、OFF状態からON状態に切り替わる。トランジスタ37A,37DがON状態、かつ、トランジスタ37B,37CがOFF状態になれば、電動モータ20は一方向に回転する。また、トランジスタ37B,37CがON状態、かつ、トランジスタ37A,37DがOFF状態になれば、電動モータ20は反対方向に回転する。従って、ON状態になるトランジスタ37A〜37Dが切り替わることにより電動モータ20の回転方向が変化する。また、OFF状態を維持する時間とON状態を維持する時間との比、すなわちPWM信号のデューティ比により電動モータ20の回転速度が決定される。
【0045】
さらに、制御装置30は、記憶部33に記憶されている電動モータ20の抵抗値を書き換える抵抗値更新部40を備えている。抵抗値更新部40には電流検出部31と電圧検出部32と舵角センサ54と記憶部33とが接続されている。抵抗値更新部40は、電動モータ20における電気的抵抗の推定値である電動モータ20の抵抗値を推定して、その推定結果を記憶部33に記憶させる。
【0046】
図3に抵抗値更新部40の構成をブロック図で示す。
抵抗値更新部40は、操舵速度算出部41、誘起電圧算出部42、保舵判定部43、および抵抗推定部44を備えている。操舵速度算出部41および誘起電圧算出部42および保舵判定部43および抵抗推定部44は、回転速度算出部34および目標電流値算出部35と同様に演算装置により構成され、記憶部33に記憶されている演算プログラムに基づいて所定の演算を行う。
【0047】
操舵速度算出部41は、舵角センサ54による舵角の検出結果と、タイマ(不図示)により計測された時間とに基づいて、所定時間当たりの舵角の変化量、すなわち所定時間当たりのステアリングホイール2の回転量である操舵速度を算出する。
【0048】
誘起電圧算出部42は、電動モータ20に生じる誘起電圧を外乱として観測する外乱オブザーバにより構成され、電流検出部31による電流の検出結果と、電圧検出部32による電圧の検出結果と、記憶部33に記憶されている電動モータ20の抵抗値およびインダクタンスとに基づいて、電動モータ20に生じる誘起電圧(単位:V)を算出する。誘起電圧「e」は、「V=R×I+L×(dI/ds)+e」の数式から算出される。この数式において、「V」、「R」、「I」は、それぞれ、上記数式と同様に、電動モータ20の電圧値、電動モータ20の抵抗値、電動モータ20の電流値を表している。また、「L」は電動モータ20のインダクタンス(単位:H)、「dI/ds」は電動モータ20の電流値の微小変化量と微小時間の比(単位:A/s)を表している。
【0049】
保舵判定部43は、操舵速度算出部41により算出されたステアリングホイール2の操舵速度と、誘起電圧算出部42により算出された誘起電圧とに基づいて、ステアリングホイール2の舵角が保持されているか、すなわちステアリングホイール2が保舵されているか否かを判断する。例えば、保舵判定部43は、ステアリングホイール2の操舵速度が所定速度以下、かつ、算出された誘起電圧の変化量が所定量以下のとき、ステアリングホイール2が保舵されていると判定する。この場合、ステアリングホイール2の操舵速度が所定速度を超える、または、算出された誘起電圧の変化量が所定量を超えるときには、ステアリングホイール2が保舵されていると判定されない。
【0050】
抵抗推定部44は、保舵判定部43により保舵されている旨判定されたとき、すなわち電動モータ20の抵抗推定可能と判断されたとき、電流検出部31による電流の検出結果と、電圧検出部32による電圧の検出結果とに基づいて、電動モータ20の電気的抵抗の推定値である抵抗値を算出する。電動モータ20の抵抗値「R」は、「V=I×R」の一般的な演算式から算出される。この数式において、「V」、「I」は、それぞれ、上記数式と同様に、電動モータ20の電圧値、電動モータ20の電流値を表している。
【0051】
以上のように構成された電動パワーステアリング装置1において、抵抗値更新部40は、抵抗推定部44により算出された電動モータ20の抵抗値、すなわち電動モータ20の電気的抵抗の推定結果を記憶部33に記憶させる。
【0052】
図4を参照して、抵抗値を更新するための処理である抵抗値更新処理の手順について説明する。なお、同処理は制御装置30により所定の周期毎に繰り返し実行される。
ステップS1では、操舵速度算出部41が舵角センサ54とタイマとを用いてステアリングホイール2の操舵速度を算出する。
【0053】
ステップS2では、電流検出部31が電動モータ20の電流を検出するとともに、電圧検出部32が電動モータ20の電圧を検出する。
ステップS3では、外乱オブザーバである誘起電圧算出部42が、ステップS2において検出された電動モータ20の電流および電圧に基づいて、誘起電圧を算出する。
【0054】
ステップS4では、ステップS1において算出された操舵速度と、ステップS3において算出された誘起電圧とに基づいて、ステアリングホイール2が保舵されているか否かを判断する。具体的には、操舵速度が所定速度以下、かつ、算出された誘起電圧の変化量が所定量以下のとき、ステアリングホイール2が保舵されていると判定される。ステアリングホイール2の操舵速度が所定速度を超える、または、算出された誘起電圧の変化量が所定量を超えるときには、ステアリングホイール2が保舵されていないと判定される。
【0055】
すなわち、ステップS4においては、舵角センサ54の出力が舵角一定条件を満たし、かつ、電動モータ20の誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすか否かが判断される。本実施形態において、舵角一定条件には操舵速度が所定速度以下であることが含まれ、誘起電圧一定条件には誘起電圧の変化量が所定量以下であることが含まれている。
【0056】
ステップS4においてステアリングホイール2が保舵されている旨判定されたとき、ステップS5で、抵抗推定部44が、ステップS2において検出された電動モータ20の電流および電圧に基づいて電動モータ20の抵抗値を算出する。
【0057】
ステップS6では、ステップS5において算出された電動モータ20の抵抗値が記憶部33に記憶されて、電動モータ20の抵抗値が更新される。このように、ステップS5およびS6においては、舵角センサ54の出力が舵角一定条件を満たすとき、かつ、電動モータ20の誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすとき、電動モータ20の抵抗値が推定されて更新される。
【0058】
一方、ステップS4においてステアリングホイール2が保舵されている旨判定されなかったとき、電動モータ20の抵抗値の算出、すなわち電動モータ20の電気的抵抗の推定は禁止されて、電動モータ20の抵抗値の更新が行われない。
【0059】
(実施形態の効果)
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ステアリングホイール2の舵角が変化しているときであっても、舵角が一定速度の低速で変化する場合には、舵角センサ54の出力は舵角が保持されているときと同じとなることがある。一方、電動モータ20の誘起電圧は舵角の速度に比例して変化するため、舵角が一定速度の低速で変化する場合には、舵角が保持されていないと精確に推測できる。本実施形態においては、電動パワーステアリング装置1は、舵角センサ54の出力が舵角一定条件を満たすとき、かつ、電動モータ20の誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすとき、電動モータ20の電気的抵抗の推定値を推定して更新するため、電動モータ20の電気的抵抗を精度良く推定することが可能となる。その結果、電動モータ20の回転速度を精度良く算出することが可能となる。
【0060】
(2)ステアリングホイール2が操舵されていなければ、操舵速度は「0」であって、電動モータ20に生じる誘起電圧も「0」である。本実施形態においては、電動パワーステアリング装置1は、舵角センサ54の出力から操舵速度を算出し、舵角一定条件には、同操舵速度が所定速度以下であることが含まれ、誘起電圧一定条件には、誘起電圧の変化量が所定量以下であることが含まれる。このため、舵角一定条件と誘起電圧一定条件とが満たされれば、舵角が保持されていると推測できる。
【0061】
(3)本実施形態においては、電動モータ20に生じる外乱を観測する外乱オブザーバである誘起電圧算出部42により、外乱として電動モータ20に生じる誘起電圧が算出される。このため、直接物理量として検出することのできない誘起電圧を算出することができる。
【0062】
(4)ブラシレスモータには、その回転の制御ために同モータの回転速度が得られるセンサが必ず設けられる構成であるのに対して、ブラシ付きモータには、同モータの回転速度が得られるセンサを設ける必要性が低く、同センサを省略することにより、電動パワーステアリング装置の製造コストを低減することができる。ただし、このようなセンサが省略されると、電動モータの電気的抵抗の推定値に基づいて同電動モータの回転速度を算出することになり、同電気的抵抗の推定精度が低ければ、電動モータの回転速度を精度良く算出できないという問題がある。本実施形態においては、電動モータ20はブラシ付きモータであって、舵角一定条件と誘起電圧一定条件とが満たされるときに電動モータ20の電気的抵抗の推定値が推定および更新されるため、電動パワーステアリング装置1の製造コストを低減することを可能となり、かつ、電動モータ20の回転速度を精度良く算出することが可能である。
【0063】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について詳細に説明するとともに、同一の構成についてはその説明を省略する。
【0064】
本実施形態においては、図2および図3に示される抵抗値更新部40に代えて、図5に示される抵抗値更新部60に、電流検出部31と電圧検出部32と舵角センサ54と記憶部33とが接続されている。抵抗値更新部60は、抵抗値更新部40と同様に、電動モータ20における電気的抵抗の推定値である電動モータ20の抵抗値を推定して、その推定結果を記憶部33に記憶させる。
【0065】
抵抗値更新部60は、舵角一定時間計測部61、誘起電圧一定時間計測部62、抵抗推定可否判定部63、および抵抗推定部64を備えている。舵角一定時間計測部61および誘起電圧一定時間計測部62はタイマを含む回路により構成されている。また、誘起電圧一定時間計測部62および抵抗推定可否判定部63および抵抗推定部64は、演算装置により構成され、記憶部33に記憶されている演算プログラムに基づいて演算を行う。
【0066】
舵角一定時間計測部61は、舵角センサ54の出力の変化量が所定の範囲内である舵角一定時間を計測する。本実施形態においては、舵角センサ54の出力の変化量は、時間をあけて繰り返し出力される舵角センサ54の出力について、所定の時間当たりの変化度合いを表すものである。舵角センサ54の出力が所定の範囲を維持し続けるときの時間は、舵角一定時間として計測される。
【0067】
誘起電圧一定時間計測部62は、誘起電圧算出部42と同様に外乱オブザーバにより構成され、電流検出部31による電流の検出結果と、電圧検出部32による電圧の検出結果と、記憶部33に記憶されている電動モータ20の抵抗値およびインダクタンスとに基づいて、誘起電圧算出部42と同様に電動モータ20に生じる誘起電圧を算出する。そして、誘起電圧一定時間計測部62は、誘起電圧の算出結果に基づいて、誘起電圧の変化量が所定の範囲内である誘起電圧一定時間を計測する。本実施形態においては、誘起電圧の出力の変化量は、時間をあけて繰り返し算出される誘起電圧について、所定の時間当たりの変化度合いを表すものである。誘起電圧が所定の範囲を維持し続けるときの時間は、誘起電圧一定時間として計測される。
【0068】
抵抗推定可否判定部63は、舵角一定時間計測部61により計測された舵角一定時間、および誘起電圧一定時間計測部62により計測された誘起電圧一定時間に基づいて、電動モータ20の電気的抵抗の推定が可能か否かを判断する。例えば、抵抗推定可否判定部63は、舵角一定時間と誘起電圧一定時間とが、所定時間以上のとき、ステアリングホイール2が保舵されていると判定して、電動モータ20の電気的抵抗の推定が可能であると判定する。また、舵角一定時間が所定時間以上、かつ、舵角一定時間に比べて誘起電圧一定時間が長いときも、電動モータ20の電気的抵抗の推定が可能であると判定する。
【0069】
抵抗推定部64は、抵抗推定可否判定部63により電動モータ20の電気的抵抗の推定が可能である旨判定されたとき、第1演算式または第2演算式から電動モータ20の電気的抵抗の推定値である抵抗値を算出する。第1演算式は「V=I×R」であって、舵角が保持されているときに用いる演算式である。第2演算式は「R=(V−k(α/T))/I」であって、舵角が変化したときに用いる演算式である。これらの数式において「V」、「R」、「I」、「k」は、それぞれ、上記数式と同様に、電動モータ20の電圧値、電動モータ20の抵抗値、電動モータ20の電流値、電動モータ20の誘起電圧定数を表している。また、「α」は舵角センサ54により検出される舵角(単位:rad)、「T」は舵角一定時間計測部61により計測された舵角一定時間(単位:s)を表している。
【0070】
図6を参照して、舵角一定時間を計測するための処理である舵角一定時間計測処理の手順について説明する。なお、同処理は制御装置30により繰り返し実行される。
ステップS11では、舵角一定時間の計測開始に際して舵角一定時間が「0」に設定され、ステップS12では、舵角一定時間の計時が開始される。
【0071】
ステップS13では、舵角一定時間計測部61が、舵角センサ54から舵角情報(舵角の検出結果)を取得し、ステップS14で、繰り返し取得される舵角情報(すなわち、舵角センサ54の出力)に基づいて、舵角センサ54の出力の変化量が所定量以下であるか否かを判断する。
【0072】
ステップS14において舵角センサ54の出力の変化量が所定量以下である旨判定されなかったとき、ステップS13およびS14が繰り返される。従って、舵角センサ54の出力の変化量が所定量以下を維持し続ける間、舵角一定時間が積算されていく。
【0073】
一方、ステップS14において舵角センサ54の出力の変化量が所定量以下である旨判定されたとき、ステップS15で舵角一定時間の計時が終了される。
そして、ステップS16で、ステップS12からS15までの時間、すなわち舵角一定時間の計測結果が、舵角一定時間計測部61から抵抗推定可否判定部63に出力される。
【0074】
図7を参照して、誘起電圧一定時間を計測するための処理である誘起電圧一定時間計測処理の手順について説明する。なお、同処理は制御装置30により繰り返し実行される。
ステップS21では、誘起電圧一定時間の計測開始に際して誘起電圧一定時間が「0」に設定され、ステップS22では、誘起電圧一定時間の計時が開始される。
【0075】
ステップS23では、電流検出部31が電動モータ20の電流を検出するとともに、電圧検出部32が電動モータ20の電圧を検出する。
ステップS24では、外乱オブザーバにより構成される誘起電圧一定時間計測部62が、ステップS23において検出された電動モータ20の電流および電圧に基づいて、誘起電圧を算出する。
【0076】
ステップS25では、繰り返し検出される電動モータ20の電流および電圧から算出される誘起電圧に基づいて、誘起電圧の変化量が所定量以下であるか否かを判断する。
ステップS25において誘起電圧の変化量が所定量以下である旨判定されなかったとき、ステップS23およびS24が繰り返される。従って、誘起電圧の変化量が所定量以下を維持し続ける間、誘起電圧一定時間が積算されていく。
【0077】
一方、ステップS25において誘起電圧の変化量が所定量以下である旨判定されなかったとき、ステップS26で誘起電圧一定時間の計時が終了される。
そして、ステップS27で、ステップS22からS26までの時間、すなわち誘起電圧一定時間の計測結果が、誘起電圧一定時間計測部62から抵抗推定可否判定部63に出力される。
【0078】
舵角一定時間計測処理と誘起電圧一定時間計測処理とは平行して実行され、これらの処理が実行されているときに抵抗値更新処理が実行される。
図8を参照して、抵抗値更新処理の手順について説明する。なお、同処理は制御装置30により所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0079】
ステップS31では、抵抗推定可否判定部63が、舵角センサ54から舵角情報(舵角の検出結果)を取得し、ステップS32で、舵角情報に基づいてステアリングホイール2の舵角が変化したか否かを判断する。
【0080】
ステップS32において舵角が変化した旨判定されなかったとき、ステップS33で、抵抗推定可否判定部63が、舵角一定時間と誘起電圧一定時間とに基づいて、電動モータ20の抵抗値が推定可能か否かを判断する。具体的には、舵角一定時間と誘起電圧一定時間が、それぞれ所定時間以上であるとき、ステアリングホイール2が保舵されていると判定され、電動モータ20の抵抗値が推定可能であると判定される。
【0081】
すなわち、ステップS32において、舵角センサ54の出力が舵角一定条件を満たし、かつ、電動モータ20の誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすか否かが判断される。本実施形態において、舵角一定条件には、舵角センサ54の出力の変化量が所定の範囲内である舵角一定時間が、所定時間以上であることが含まれ、誘起電圧一定条件には、誘起電圧の変化量が所定の範囲内である誘起電圧一定時間が、所定時間以上であることが含まれている。
【0082】
ステップS33において抵抗値が推定可能であると判定されたとき、ステップS34では、電流検出部31が電動モータ20の電流を検出するとともに、電圧検出部32が電動モータ20の電圧を検出する。
【0083】
ステップS35では、抵抗推定部64が、ステップS34において検出された電動モータ20の電流および電圧に基づいて、第1演算式から電動モータ20の抵抗値を算出する。そして、ステップS36で、ステップS35において算出された電動モータ20の抵抗値が記憶部33に記憶されて、電動モータ20の抵抗値が更新される。このように、ステップS35およびS36においては、舵角センサ54の出力が舵角一定条件を満たすとき、かつ、電動モータ20の誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすとき、電動モータ20の抵抗値が推定されて更新される。
【0084】
一方、ステップS33において抵抗値が推定可能であると判定されなかったとき、すなわち、舵角一定時間が所定時間未満であったとき、または誘起電圧一定時間が所定時間未満であったとき、電動モータ20の抵抗値の算出、すなわち電動モータ20の電気的抵抗の推定は禁止されて、電動モータ20の抵抗値の更新が行われない。
【0085】
さらに、本実施形態においては、ステップS32において舵角が変化した旨判定されたときであっても、所定条件を満たすことにより第2の演算式から電動モータ20の抵抗値が算出される。
【0086】
すなわち、ステップS32において舵角が変化した旨判定されたとき、ステップS41で、抵抗推定可否判定部63が、舵角一定時間が所定時間以上、かつ、舵角一定時間に比べて誘起電圧一定時間が長いか否かを判断する。このとき、舵角一定時間が所定時間以上、かつ、舵角一定時間に比べて誘起電圧一定時間が長ければ、第2演算式を用いて電動モータ20の抵抗値が推定可能であると判定される。
【0087】
ステップS41において抵抗値が推定可能であると判定されたとき、ステップS42では、電流検出部31が電動モータ20の電流を検出するとともに、電圧検出部32が電動モータ20の電圧を検出する。
【0088】
次いで、抵抗推定部64が、ステップS43で、ステップ32で変化が検出された舵角と、当該舵角の変化が検出されるまでの舵角一定時間とに基づいて、誘起電圧を算出する。この誘起電圧は「k(α/T)」で表される。
【0089】
ステップS44では、ステップS42において検出された電動モータ20の電流および電圧と、ステップS43において算出された誘起電圧「k(α/T)」に基づいて、第2演算式から電動モータ20の抵抗値を算出する。
【0090】
そして、ステップS45で、ステップS44において算出された電動モータ20の抵抗値が記憶部33に記憶されて、電動モータ20の抵抗値が更新される。
一方、ステップS41において抵抗値が推定可能であると判定されなかったとき、すなわち、舵角一定時間が所定時間未満であったとき、または誘起電圧一定時間が誘起電圧一定時間未満であったとき、電動モータ20の抵抗値の算出、すなわち電動モータ20の電気的抵抗の推定は禁止されて、電動モータ20の抵抗値の更新が行われない。
【0091】
(実施形態の効果)
本実施形態によれば、第1実施形態による前記(1)および(3)および(4)の効果に加えて、さらに以下の効果を得ることができる。
【0092】
(5)ステアリングホイール2が操舵されていなければ、舵角センサ54の出力の変化量は所定の範囲内に含まれて、舵角一定時間は所定時間以上となる。同様に、同様に、ステアリングホイール2が操舵されていなければ、電動モータ20に生じる誘起電圧の変化量は所定の範囲内に含まれて、誘起電圧一定時間は所定時間以上となる。本実施形態においては、舵角一定条件には、舵角センサ54の出力の変化量が所定の範囲内である舵角一定時間が、所定時間以上であることが含まれ、誘起電圧一定条件には、誘起電圧の変化量が所定の範囲内である誘起電圧一定時間が、所定時間以上であることが含まれる。このため、舵角一定条件と誘起電圧一定条件とが満たされれば、舵角が保持されていると推測できる。
【0093】
(6)ステアリングホイール2の舵角が保持されているときは、電動モータ20の電圧および電流を演算対象として含む一般的な演算式(第1演算式)を用いることにより、電動モータ20の電気的抵抗を推定することができる。本実施形態においては、電動モータ20の電気的抵抗を推定するための演算式として、舵角が保持されているときに用いる第1演算式と、舵角が変化したときに用いる第2演算式とを使い分ける。このため、ステアリングホイール2の舵角が変化したときであっても、一般的な演算式と異なる第2演算式から電動モータ20の電気的抵抗を推定することが可能である。
【0094】
(7)舵角一定時間が所定時間以上、かつ、舵角一定時間に比べて誘起電圧一定時間が長いときは、ステアリングホイール2が操舵されたものの操舵速度が一定の低速で変化するようなときである。このようなときは、電動モータ20に生じる誘起電圧を考慮することにより、電動モータ20の電気的抵抗を精度良く推定することができる。電動モータ20に生じる誘起電圧は、電動モータ20の誘起電圧定数と舵角の変化量とに関連している。そこで、本実施形態においては、舵角一定時間が所定時間以上、かつ、舵角一定時間に比べて誘起電圧一定時間が長いとき、電動モータ20の誘起電圧定数と舵角の変化量を演算対象として含む第2演算式から電動モータ20の電気的抵抗を推定する。これにより、電動モータ20の誘起電圧定数と舵角の変化量の積を電動モータ20に生じる誘起電圧に相当するものと推定して、電動モータ20に生じる誘起電圧を考慮することにより、電動モータ20の電気的抵抗を推定することができる。従って、ステアリングホイール2が操舵されたときであっても、電動モータ20の電気的抵抗が比較的精度良く推定される。
【0095】
(8)舵角一定時間が微小な時間であれば、その時間においては電動モータ20の電流および電圧が安定していないおそれがある。そこで、本実施形態においては、舵角一定時間が所定時間未満であるとき、電動モータ20の電気的抵抗の推定が禁止されるため、電動モータ20の電気的抵抗の推定精度を保証することができる。
【0096】
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記実施態様にて例示した態様に限定されるものではなく、例えば以下に示すように変更して実施することもできる。また以下の変形例は、上記実施形態についてのみ適用されるものではなく、変形例同士を組み合わせて実施してもよい。
【0097】
・第1実施形態のステップS4において、操舵速度が所定速度以下、かつ、誘起電圧が所定電圧以下か否かが判断されてもよい。そして、操舵速度が所定速度以下、かつ、誘起電圧が所定電圧以下であるとき、ステップS5以降の動作が行われる構成としてもよい。すなわち、誘起電圧の変化量とは、繰り返し算出される誘起電圧の所定時間当たりの変化度合いを表すものに限定されず、電動モータ20に誘起電圧が生じていないときを基準状態として、この基準状態からの誘起電圧の変化度合いを表すものも含む。同様に、第2実施形態のステップS25において比較演算の対象となる誘起電圧の変化量も、時間をあけて繰り返し算出される誘起電圧について、所定の時間当たりの変化度合いを表すものに限定されない。
【0098】
・第2実施形態のステップS33において、舵角一定時間と比較される所定時間、誘起電圧一定時間と比較される所定時間は、舵角が保持されているか否かを判断できれば異なる時間であっても同じ時間であってもよい。
【0099】
・第2実施形態のステップS14において比較演算の対象となる舵角センサ54の出力の変化量は、時間をあけて繰り返し出力される舵角センサ54の出力について、所定の時間当たりの変化度合いを表すものに限定されない。すなわち、舵角センサ54の出力の変化量は、ステアリングホイール2が所定位置にあるときを基準状態として、この基準状態からの舵角センサ54の出力の変化度合いを表すものであってもよい。また、舵角一定時間と比較される所定時間と、誘起電圧一定時間と比較される所定時間は、異なる時間であっても同じ時間であってもよい。
【0100】
・電動モータ20の抵抗値を算出に用いられる電動モータ20の電圧は、電圧検出部32による電圧の検出結果(すなわち、観測値)でなくてもよい。すなわち、電動モータ20の抵抗値の算出において、電動モータ20に印加すべき電圧の目標値を、電動モータ20の電圧として用いてもよい。
【0101】
・第1実施形態において、舵角が変化したと判断されるときに、第2実施形態と同様にして、第2演算式を用いて電動モータ20の電気的抵抗の推定値を算出することもできる。すなわち、第1実施形態において、電動モータ20の抵抗値を算出するための演算式として、舵角が保持されているときに用いる第1演算式と、舵角が変化したときに用いる第2演算式を使い分けることもできる。
【0102】
・上記の各演算式を適宜変更してもよく、例えば補正係数や補正項を付加してもよい。
・電動モータ20がブラシレスモータにより構成される場合にも、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1…電動パワーステアリング装置、2…ステアリングホイール、3…転舵輪、10…動力伝達機構、11…ステアリングシャフト、30…制御装置、31…電流検出部、32…電圧検出部、33…記憶部、34…回転速度算出部、35…目標電流値算出部、36…PWM信号生成部、37…モータ駆動回路、37A〜37D…トランジスタ、40…抵抗値更新部、41…操舵速度算出部、42…誘起電圧算出部、43…保舵判定部、44…抵抗推定部、51…減速機、52…トルクセンサ、53…車速センサ、54…舵角センサ、60…抵抗値更新部、61…舵角一定時間計測部、62…誘起電圧一定時間計測部、63…抵抗推定可否判定部、64…抵抗推定部。
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電動モータの電気的抵抗の推定値に基づいて同電動モータの回転速度を算出する電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の操舵を補助する電動パワーステアリング装置において、電動モータに流すべき電流の目標値が、ステアリングシャフトの操舵トルクや車速に加えて、ステアリングホイールの操舵速度に対応する当該電動モータの回転速度に基づいて決定されることが知られている。
【0003】
電動モータの回転速度の算出においては、記憶装置に予め記憶されている電動モータの抵抗値を用いることが知られている。特許文献1には、回転速度の算出に用いる電動モータの端子間抵抗値を、モータ電流に応じて使い分けることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、電動モータの電流検出値および電圧検出値と、電流−抵抗特性とによって当該電流検出値に対応付けられる抵抗値とに基づいて、電動モータの回転速度を算出すること、並びに、抵抗算出手段により算出される電動モータの抵抗値に基づいて、電流−抵抗特性を更新することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−66999号公報
【特許文献2】特開2011−10379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電動モータの電気的抵抗を精度良く推定するためには、ステアリングホイールの舵角が保持されている状態、すなわち、ステアリングホイールが保舵されている状態が好ましい。
【0007】
しかし、分解能の低い舵角センサを用いるとき、舵角センサの出力に基づいてステアリングホイールの舵角が保持されていることを精確に判定できないおそれがある。すなわち、ステアリングホイールの舵角が変化しているときであっても、舵角が一定速度の低速で変化する場合には、舵角センサの出力は舵角が保持されているときと同じとなることがある。その結果、ステアリングホイールの舵角が変化しているときに、抵抗値が推定および更新されてしまい、電動モータの電気的抵抗が精度良く推定されないという問題がある。
【0008】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電動モータの電気的抵抗が精度良く推定することが可能となる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を達成するための手段およびその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、電動モータの電気的抵抗の推定値に基づいて同電動モータの回転速度を算出する電動パワーステアリング装置において、舵角センサの出力が舵角一定条件を満たすとき、かつ、前記電動モータの誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすとき、前記推定値を更新することを要旨としている。
【0010】
ステアリングホイールの舵角が変化しているときであっても、舵角が一定速度の低速で変化する場合には、舵角センサの出力は舵角が保持されているときと同じとなることがある。一方、電動モータの誘起電圧は舵角の速度に比例して変化するため、舵角が一定速度の低速で変化する場合には、舵角が保持されていないと精確に推測できる。
【0011】
そこで、上記発明では、電動パワーステアリング装置は、舵角センサの出力が舵角一定条件を満たすとき、かつ、電動モータの誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすとき、電動モータの電気的抵抗の推定値を推定して更新するため、電動モータの電気的抵抗を精度良く推定することが可能となる。
【0012】
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記舵角センサの出力から操舵速度を算出し、前記舵角一定条件には、前記操舵速度が所定速度以下であることが含まれ、前記誘起電圧一定条件には、前記誘起電圧の変化量が所定量以下であることが含まれることを要旨としている。
【0013】
ステアリングホイールが操舵されていなければ、操舵速度は「0」であって、電動モータに生じる誘起電圧も「0」である。
上記発明によれば、舵角一定条件は、舵角一定条件には、操舵速度が所定速度以下であることが含まれ、誘起電圧一定条件には、誘起電圧の変化量が所定量以下であることが含まれるため、舵角一定条件と誘起電圧一定条件とが満たされれば、舵角が保持されていると推測できる。
【0014】
なお、本発明において「誘起電圧の変化量」とは、時間をあけて繰り返し算出される誘起電圧について、所定の時間当たりの変化度合いを表すものであってもよく、電動モータに誘起電圧が生じていないときを基準状態として、この基準状態からの誘起電圧の変化度合いを表すものであってもよい。
【0015】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記舵角一定条件には、前記舵角センサの出力の変化量が所定の範囲内である舵角一定時間が、所定時間以上であることが含まれ、前記誘起電圧一定条件には、前記誘起電圧の変化量が所定の範囲内である誘起電圧一定時間が、所定時間以上であることが含まれることを要旨としている。
【0016】
ステアリングホイールが操舵されていなければ、舵角センサの出力の変化量は所定の範囲内に含まれて、舵角一定時間は所定時間以上となる。同様に、ステアリングホイールが操舵されていなければ、電動モータに生じる誘起電圧の変化量は所定の範囲内に含まれて、誘起電圧一定時間は所定時間以上となる。
【0017】
上記発明によれば、舵角一定条件には、舵角センサの出力の変化量が所定の範囲内である舵角一定時間が、所定時間以上であることが含まれ、誘起電圧一定条件には、誘起電圧の変化量が所定の範囲内である誘起電圧一定時間が、所定時間以上であることが含まれるため、舵角一定条件と誘起電圧一定条件とが満たされれば、舵角が保持されていると推測できる。
【0018】
なお、本発明において「誘起電圧の変化量」とは、上述のごとく、所定の時間当たりの変化度合いを表すものであってもよく、上記基準状態からの誘起電圧の変化度合いを表すものであってもよい。また、「舵角センサの出力の変化量」とは、時間をあけて繰り返し出力される舵角センサの出力について、所定の時間当たりの変化度合いを表すものであってもよく、ステアリングホイールが所定位置にあるときを基準状態として、この基準状態からの舵角センサの出力の変化度合いを表すものであってもよい。また、舵角一定時間と比較される所定時間と、誘起電圧一定時間と比較される所定時間とは、異なる時間であっても同じ時間であってもよい。
【0019】
(4)請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の電動パワーステアリング装置において、前記推定値を算出するための演算式として、舵角が保持されているときに用いる第1演算式と、舵角が変化したときに用いる第2演算式を使い分けることを要旨としている。
【0020】
ステアリングホイールの舵角が保持されているときは、電動モータの電圧および電流を演算対象として含む一般的な演算式を用いることにより、電動モータの電気的抵抗を推定することができる。この一般的な演算式を第1演算式とする。
【0021】
上記発明では、電動モータの電気的抵抗を推定するための演算式として、舵角が保持されているときに用いる第1演算式と、舵角が変化したときに用いる第2演算式とを使い分ける。このため、ステアリングホイールの舵角が変化したときであっても、一般的な演算式と異なる第2演算式から電動モータの電気的抵抗を推定することが可能である。
【0022】
(5)請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の電動パワーステアリング装置において、前記第2演算式は、前記電動モータの電流、同電動モータの電圧、同電動モータの誘起電圧定数、および前記舵角の変化量を演算対象として含み、前記舵角一定時間が所定時間以上、かつ、同舵角一定時間に比べて前記誘起電圧一定時間が長いとき、前記第2演算式から前記電動モータの電気的抵抗を推定することを要旨としている。
【0023】
舵角一定時間が所定時間以上、かつ、舵角一定時間に比べて誘起電圧一定時間が長いときは、ステアリングホイールが操舵されたものの操舵速度が一定の低速で変化するようなときである。このようなときは、電動モータに生じる誘起電圧を考慮することにより、電動モータの電気的抵抗を精度良く推定することができる。電動モータに生じる誘起電圧は、電動モータの誘起電圧定数と舵角の変化量とに関連している。
【0024】
そこで、上記発明では、舵角一定時間が所定時間以上、かつ、舵角一定時間に比べて誘起電圧一定時間が長いとき、電動モータの誘起電圧定数と舵角の変化量を演算対象として含む第2演算式から電動モータの電気的抵抗を推定する。これにより、電動モータの誘起電圧定数と舵角の変化量の積を電動モータに生じる誘起電圧に相当するものと推定して、電動モータに生じる誘起電圧を考慮することにより、電動モータの電気的抵抗を推定することができる。従って、ステアリングホイールが操舵されたときであっても、電動モータの電気的抵抗が比較的精度良く推定される。
【0025】
(6)請求項6に記載の発明は、請求項3〜5のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、前記舵角一定時間が所定時間未満であるとき、前記電動モータの電気的抵抗の推定を禁止することを要旨としている。
【0026】
舵角一定時間が微小な時間であれば、その時間においては電動モータの電流および電圧が安定していないおそれがある。
そこで、上記発明では、舵角一定時間が所定時間未満であるとき、電動モータの電気的抵抗の推定が禁止されるため、電動モータの電気的抵抗の推定精度を保証することができる。
【0027】
(7)請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、前記電動モータに生じる外乱を観測する外乱オブザーバにより、前記外乱として前記誘起電圧を算出することを要旨としている。
【0028】
上記発明によれば、電動モータに生じる外乱を観測する外乱オブザーバにより、外乱として電動モータに生じる誘起電圧を算出するため、直接物理量として検出することのできない誘起電圧を算出することができる。
【0029】
(8)請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、前記電動モータはブラシ付きのモータであることを要旨としている。
【0030】
ブラシレスモータには、その回転の制御ために同モータの回転速度が得られるセンサが必ず設けられる構成であるのに対して、ブラシ付きモータには、同モータの回転速度が得られるセンサを設ける必要性が低く、同センサを省略することにより、電動パワーステアリング装置の製造コストを低減することができる。ただし、このようなセンサが省略されると、電動モータの電気的抵抗の推定値に基づいて同電動モータの回転速度を算出することになり、同電気的抵抗の推定精度が低ければ、電動モータの回転速度を精度良く算出できないという問題がある。
【0031】
一方、上記発明によれば、電動モータはブラシ付きモータであって、舵角一定条件と誘起電圧一定条件とが満たされるときに電動モータの電気的抵抗の推定値が推定および更新されるため、電動パワーステアリング装置の製造コストを低減することを可能となり、かつ、電動モータの回転速度を精度良く算出することが可能である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、電動モータの電気的抵抗を精度良く推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態の電動パワーステアリング装置について、その全体構造を模式的に示す模式図。
【図2】同実施形態の電動パワーステアリング装置が備える制御装置の構成を示す模式図。
【図3】同実施形態の制御装置が備える抵抗値更新部の構成を示す模式図。
【図4】同実施形態の電動パワーステアリング装置により実行される「抵抗値更新処理」について、その手順を示すフローチャート。
【図5】本発明の第2実施形態の制御装置が備える抵抗値更新部の構成を示す模式図。
【図6】同実施形態の電動パワーステアリング装置により実行される「舵角一定時間計測処理」について、その手順を示すフローチャート。
【図7】同実施形態の電動パワーステアリング装置により実行される「誘起電圧一定時間計測処理」について、その手順を示すフローチャート。
【図8】同実施形態の電動パワーステアリング装置により実行される「抵抗値更新処理」について、その手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(第1実施形態)
図1〜図3を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1に示されるように、電動パワーステアリング装置1には、ステアリングホイール2の回転力を転舵輪3に伝達する動力伝達機構10と、動力伝達機構10に設けられている電動モータ20と、電動モータ20を制御する制御装置30が設けられている。
【0035】
動力伝達機構10を構成するステアリングシャフト11の一端にはステアリングホイール2が固定されるとともに、その他端にはラックピニオン機構12を介してラック軸13が接続されている。ラック軸13の両端にはタイロッドおよびナックルアームを介して転舵輪3が接続されている。運転者がステアリングホイール2を回転させると、ステアリングシャフト11が回転する。この回転運動は、ラックピニオン機構12によりラック軸13の直線運動に変換され、ラック軸13の直線運動により転舵輪3の向きが変わる。
【0036】
また、ステアリングシャフト11には、ブラシ付きのDCモータである電動モータ20が減速機51を介して接続されている。電動モータ20が回転することによって、ステアリングシャフト11に回転力が付与される。電動モータ20によりステアリングシャフト11に付与されるトルクは、運転者の操舵負荷が軽減されるように制御装置30によって調整される。
【0037】
制御装置30には、ステアリングホイール2の操作によってステアリングシャフト11に付与される操舵トルクを検出するトルクセンサ52と、車速を検出する車速センサ53と、ステアリングホイール2の舵角を検出する舵角センサ54とが接続されている。
【0038】
図2に制御装置30の構成をブロック図で示す。
ECU(Electronic Control Unit)により構成される制御装置30は、電流検出部31、電圧検出部32、記憶部33、回転速度算出部34、目標電流値算出部35、PWM信号生成部36、およびモータ駆動回路37を備えている。
【0039】
電流検出部31は、電動モータ20に流れる電流(以下、電動モータ20の電流という)の大きさを検出する回路により構成されている。また、電圧検出部32は、電動モータ20の端子間電圧(以下、電動モータ20の電圧という)を検出する回路により構成されている。また、記憶部33は、電動モータ20の抵抗値や誘起電圧定数等を情報として記憶するメモリにより構成されている。記憶部33に記憶される情報は、読み書き可能に構成されている。
【0040】
回転速度算出部34および目標電流値算出部35は演算装置により構成される。回転速度算出部34および目標電流値算出部35は、記憶部33に記憶されている演算プログラム等に基づいて所定の演算を行う。
【0041】
回転速度算出部34は、電流検出部31による電流の検出結果と、電圧検出部32による電圧の検出結果と、記憶部33に記憶されている電動モータ20の抵抗値および誘起電圧定数とに基づいて、角速度である電動モータ20の回転速度(単位:rad/s)を算出する。電動モータ20の回転速度「ω」は、「ω=(V−I×R)/k」の演算式から算出される。この数式において、「V」は電圧検出部32により検出された電動モータ20の電圧値(単位:V)、「I」は電流検出部31により検出された電動モータ20の電流値(単位:A)を表している。また、「R」は電動モータ20の抵抗値(単位:Ω)、「k」は電動モータ20の誘起電圧定数(逆起電力定数)(単位:V/(rad/s))を表している。
【0042】
目標電流値算出部35は、電流検出部31による電流の検出結果と、トルクセンサ52による操舵トルクの検出結果と、車速センサ53による車速の検出結果と、回転速度算出部34により算出された電動モータ20の回転速度とに基づいて、電動モータ20に流すべき電流の大きさである目標電流値を算出する。
【0043】
PWM信号生成部36は、算出された目標電流値に基づいてPWM信号を生成する回路により構成されている。所望の回転方向および回転速度で電動モータ20を回転させるための信号であるPWM信号は、PWM信号生成部36からモータ駆動回路37に出力される。
【0044】
モータ駆動回路37は、スイッチング素子であるトランジスタ37A〜37Dにより構成されたH型ブリッジ回路である。トランジスタ37A〜37Dは、ON状態になるタイミングを示す信号であるPWM信号に基づいて、OFF状態からON状態に切り替わる。トランジスタ37A,37DがON状態、かつ、トランジスタ37B,37CがOFF状態になれば、電動モータ20は一方向に回転する。また、トランジスタ37B,37CがON状態、かつ、トランジスタ37A,37DがOFF状態になれば、電動モータ20は反対方向に回転する。従って、ON状態になるトランジスタ37A〜37Dが切り替わることにより電動モータ20の回転方向が変化する。また、OFF状態を維持する時間とON状態を維持する時間との比、すなわちPWM信号のデューティ比により電動モータ20の回転速度が決定される。
【0045】
さらに、制御装置30は、記憶部33に記憶されている電動モータ20の抵抗値を書き換える抵抗値更新部40を備えている。抵抗値更新部40には電流検出部31と電圧検出部32と舵角センサ54と記憶部33とが接続されている。抵抗値更新部40は、電動モータ20における電気的抵抗の推定値である電動モータ20の抵抗値を推定して、その推定結果を記憶部33に記憶させる。
【0046】
図3に抵抗値更新部40の構成をブロック図で示す。
抵抗値更新部40は、操舵速度算出部41、誘起電圧算出部42、保舵判定部43、および抵抗推定部44を備えている。操舵速度算出部41および誘起電圧算出部42および保舵判定部43および抵抗推定部44は、回転速度算出部34および目標電流値算出部35と同様に演算装置により構成され、記憶部33に記憶されている演算プログラムに基づいて所定の演算を行う。
【0047】
操舵速度算出部41は、舵角センサ54による舵角の検出結果と、タイマ(不図示)により計測された時間とに基づいて、所定時間当たりの舵角の変化量、すなわち所定時間当たりのステアリングホイール2の回転量である操舵速度を算出する。
【0048】
誘起電圧算出部42は、電動モータ20に生じる誘起電圧を外乱として観測する外乱オブザーバにより構成され、電流検出部31による電流の検出結果と、電圧検出部32による電圧の検出結果と、記憶部33に記憶されている電動モータ20の抵抗値およびインダクタンスとに基づいて、電動モータ20に生じる誘起電圧(単位:V)を算出する。誘起電圧「e」は、「V=R×I+L×(dI/ds)+e」の数式から算出される。この数式において、「V」、「R」、「I」は、それぞれ、上記数式と同様に、電動モータ20の電圧値、電動モータ20の抵抗値、電動モータ20の電流値を表している。また、「L」は電動モータ20のインダクタンス(単位:H)、「dI/ds」は電動モータ20の電流値の微小変化量と微小時間の比(単位:A/s)を表している。
【0049】
保舵判定部43は、操舵速度算出部41により算出されたステアリングホイール2の操舵速度と、誘起電圧算出部42により算出された誘起電圧とに基づいて、ステアリングホイール2の舵角が保持されているか、すなわちステアリングホイール2が保舵されているか否かを判断する。例えば、保舵判定部43は、ステアリングホイール2の操舵速度が所定速度以下、かつ、算出された誘起電圧の変化量が所定量以下のとき、ステアリングホイール2が保舵されていると判定する。この場合、ステアリングホイール2の操舵速度が所定速度を超える、または、算出された誘起電圧の変化量が所定量を超えるときには、ステアリングホイール2が保舵されていると判定されない。
【0050】
抵抗推定部44は、保舵判定部43により保舵されている旨判定されたとき、すなわち電動モータ20の抵抗推定可能と判断されたとき、電流検出部31による電流の検出結果と、電圧検出部32による電圧の検出結果とに基づいて、電動モータ20の電気的抵抗の推定値である抵抗値を算出する。電動モータ20の抵抗値「R」は、「V=I×R」の一般的な演算式から算出される。この数式において、「V」、「I」は、それぞれ、上記数式と同様に、電動モータ20の電圧値、電動モータ20の電流値を表している。
【0051】
以上のように構成された電動パワーステアリング装置1において、抵抗値更新部40は、抵抗推定部44により算出された電動モータ20の抵抗値、すなわち電動モータ20の電気的抵抗の推定結果を記憶部33に記憶させる。
【0052】
図4を参照して、抵抗値を更新するための処理である抵抗値更新処理の手順について説明する。なお、同処理は制御装置30により所定の周期毎に繰り返し実行される。
ステップS1では、操舵速度算出部41が舵角センサ54とタイマとを用いてステアリングホイール2の操舵速度を算出する。
【0053】
ステップS2では、電流検出部31が電動モータ20の電流を検出するとともに、電圧検出部32が電動モータ20の電圧を検出する。
ステップS3では、外乱オブザーバである誘起電圧算出部42が、ステップS2において検出された電動モータ20の電流および電圧に基づいて、誘起電圧を算出する。
【0054】
ステップS4では、ステップS1において算出された操舵速度と、ステップS3において算出された誘起電圧とに基づいて、ステアリングホイール2が保舵されているか否かを判断する。具体的には、操舵速度が所定速度以下、かつ、算出された誘起電圧の変化量が所定量以下のとき、ステアリングホイール2が保舵されていると判定される。ステアリングホイール2の操舵速度が所定速度を超える、または、算出された誘起電圧の変化量が所定量を超えるときには、ステアリングホイール2が保舵されていないと判定される。
【0055】
すなわち、ステップS4においては、舵角センサ54の出力が舵角一定条件を満たし、かつ、電動モータ20の誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすか否かが判断される。本実施形態において、舵角一定条件には操舵速度が所定速度以下であることが含まれ、誘起電圧一定条件には誘起電圧の変化量が所定量以下であることが含まれている。
【0056】
ステップS4においてステアリングホイール2が保舵されている旨判定されたとき、ステップS5で、抵抗推定部44が、ステップS2において検出された電動モータ20の電流および電圧に基づいて電動モータ20の抵抗値を算出する。
【0057】
ステップS6では、ステップS5において算出された電動モータ20の抵抗値が記憶部33に記憶されて、電動モータ20の抵抗値が更新される。このように、ステップS5およびS6においては、舵角センサ54の出力が舵角一定条件を満たすとき、かつ、電動モータ20の誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすとき、電動モータ20の抵抗値が推定されて更新される。
【0058】
一方、ステップS4においてステアリングホイール2が保舵されている旨判定されなかったとき、電動モータ20の抵抗値の算出、すなわち電動モータ20の電気的抵抗の推定は禁止されて、電動モータ20の抵抗値の更新が行われない。
【0059】
(実施形態の効果)
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ステアリングホイール2の舵角が変化しているときであっても、舵角が一定速度の低速で変化する場合には、舵角センサ54の出力は舵角が保持されているときと同じとなることがある。一方、電動モータ20の誘起電圧は舵角の速度に比例して変化するため、舵角が一定速度の低速で変化する場合には、舵角が保持されていないと精確に推測できる。本実施形態においては、電動パワーステアリング装置1は、舵角センサ54の出力が舵角一定条件を満たすとき、かつ、電動モータ20の誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすとき、電動モータ20の電気的抵抗の推定値を推定して更新するため、電動モータ20の電気的抵抗を精度良く推定することが可能となる。その結果、電動モータ20の回転速度を精度良く算出することが可能となる。
【0060】
(2)ステアリングホイール2が操舵されていなければ、操舵速度は「0」であって、電動モータ20に生じる誘起電圧も「0」である。本実施形態においては、電動パワーステアリング装置1は、舵角センサ54の出力から操舵速度を算出し、舵角一定条件には、同操舵速度が所定速度以下であることが含まれ、誘起電圧一定条件には、誘起電圧の変化量が所定量以下であることが含まれる。このため、舵角一定条件と誘起電圧一定条件とが満たされれば、舵角が保持されていると推測できる。
【0061】
(3)本実施形態においては、電動モータ20に生じる外乱を観測する外乱オブザーバである誘起電圧算出部42により、外乱として電動モータ20に生じる誘起電圧が算出される。このため、直接物理量として検出することのできない誘起電圧を算出することができる。
【0062】
(4)ブラシレスモータには、その回転の制御ために同モータの回転速度が得られるセンサが必ず設けられる構成であるのに対して、ブラシ付きモータには、同モータの回転速度が得られるセンサを設ける必要性が低く、同センサを省略することにより、電動パワーステアリング装置の製造コストを低減することができる。ただし、このようなセンサが省略されると、電動モータの電気的抵抗の推定値に基づいて同電動モータの回転速度を算出することになり、同電気的抵抗の推定精度が低ければ、電動モータの回転速度を精度良く算出できないという問題がある。本実施形態においては、電動モータ20はブラシ付きモータであって、舵角一定条件と誘起電圧一定条件とが満たされるときに電動モータ20の電気的抵抗の推定値が推定および更新されるため、電動パワーステアリング装置1の製造コストを低減することを可能となり、かつ、電動モータ20の回転速度を精度良く算出することが可能である。
【0063】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について詳細に説明するとともに、同一の構成についてはその説明を省略する。
【0064】
本実施形態においては、図2および図3に示される抵抗値更新部40に代えて、図5に示される抵抗値更新部60に、電流検出部31と電圧検出部32と舵角センサ54と記憶部33とが接続されている。抵抗値更新部60は、抵抗値更新部40と同様に、電動モータ20における電気的抵抗の推定値である電動モータ20の抵抗値を推定して、その推定結果を記憶部33に記憶させる。
【0065】
抵抗値更新部60は、舵角一定時間計測部61、誘起電圧一定時間計測部62、抵抗推定可否判定部63、および抵抗推定部64を備えている。舵角一定時間計測部61および誘起電圧一定時間計測部62はタイマを含む回路により構成されている。また、誘起電圧一定時間計測部62および抵抗推定可否判定部63および抵抗推定部64は、演算装置により構成され、記憶部33に記憶されている演算プログラムに基づいて演算を行う。
【0066】
舵角一定時間計測部61は、舵角センサ54の出力の変化量が所定の範囲内である舵角一定時間を計測する。本実施形態においては、舵角センサ54の出力の変化量は、時間をあけて繰り返し出力される舵角センサ54の出力について、所定の時間当たりの変化度合いを表すものである。舵角センサ54の出力が所定の範囲を維持し続けるときの時間は、舵角一定時間として計測される。
【0067】
誘起電圧一定時間計測部62は、誘起電圧算出部42と同様に外乱オブザーバにより構成され、電流検出部31による電流の検出結果と、電圧検出部32による電圧の検出結果と、記憶部33に記憶されている電動モータ20の抵抗値およびインダクタンスとに基づいて、誘起電圧算出部42と同様に電動モータ20に生じる誘起電圧を算出する。そして、誘起電圧一定時間計測部62は、誘起電圧の算出結果に基づいて、誘起電圧の変化量が所定の範囲内である誘起電圧一定時間を計測する。本実施形態においては、誘起電圧の出力の変化量は、時間をあけて繰り返し算出される誘起電圧について、所定の時間当たりの変化度合いを表すものである。誘起電圧が所定の範囲を維持し続けるときの時間は、誘起電圧一定時間として計測される。
【0068】
抵抗推定可否判定部63は、舵角一定時間計測部61により計測された舵角一定時間、および誘起電圧一定時間計測部62により計測された誘起電圧一定時間に基づいて、電動モータ20の電気的抵抗の推定が可能か否かを判断する。例えば、抵抗推定可否判定部63は、舵角一定時間と誘起電圧一定時間とが、所定時間以上のとき、ステアリングホイール2が保舵されていると判定して、電動モータ20の電気的抵抗の推定が可能であると判定する。また、舵角一定時間が所定時間以上、かつ、舵角一定時間に比べて誘起電圧一定時間が長いときも、電動モータ20の電気的抵抗の推定が可能であると判定する。
【0069】
抵抗推定部64は、抵抗推定可否判定部63により電動モータ20の電気的抵抗の推定が可能である旨判定されたとき、第1演算式または第2演算式から電動モータ20の電気的抵抗の推定値である抵抗値を算出する。第1演算式は「V=I×R」であって、舵角が保持されているときに用いる演算式である。第2演算式は「R=(V−k(α/T))/I」であって、舵角が変化したときに用いる演算式である。これらの数式において「V」、「R」、「I」、「k」は、それぞれ、上記数式と同様に、電動モータ20の電圧値、電動モータ20の抵抗値、電動モータ20の電流値、電動モータ20の誘起電圧定数を表している。また、「α」は舵角センサ54により検出される舵角(単位:rad)、「T」は舵角一定時間計測部61により計測された舵角一定時間(単位:s)を表している。
【0070】
図6を参照して、舵角一定時間を計測するための処理である舵角一定時間計測処理の手順について説明する。なお、同処理は制御装置30により繰り返し実行される。
ステップS11では、舵角一定時間の計測開始に際して舵角一定時間が「0」に設定され、ステップS12では、舵角一定時間の計時が開始される。
【0071】
ステップS13では、舵角一定時間計測部61が、舵角センサ54から舵角情報(舵角の検出結果)を取得し、ステップS14で、繰り返し取得される舵角情報(すなわち、舵角センサ54の出力)に基づいて、舵角センサ54の出力の変化量が所定量以下であるか否かを判断する。
【0072】
ステップS14において舵角センサ54の出力の変化量が所定量以下である旨判定されなかったとき、ステップS13およびS14が繰り返される。従って、舵角センサ54の出力の変化量が所定量以下を維持し続ける間、舵角一定時間が積算されていく。
【0073】
一方、ステップS14において舵角センサ54の出力の変化量が所定量以下である旨判定されたとき、ステップS15で舵角一定時間の計時が終了される。
そして、ステップS16で、ステップS12からS15までの時間、すなわち舵角一定時間の計測結果が、舵角一定時間計測部61から抵抗推定可否判定部63に出力される。
【0074】
図7を参照して、誘起電圧一定時間を計測するための処理である誘起電圧一定時間計測処理の手順について説明する。なお、同処理は制御装置30により繰り返し実行される。
ステップS21では、誘起電圧一定時間の計測開始に際して誘起電圧一定時間が「0」に設定され、ステップS22では、誘起電圧一定時間の計時が開始される。
【0075】
ステップS23では、電流検出部31が電動モータ20の電流を検出するとともに、電圧検出部32が電動モータ20の電圧を検出する。
ステップS24では、外乱オブザーバにより構成される誘起電圧一定時間計測部62が、ステップS23において検出された電動モータ20の電流および電圧に基づいて、誘起電圧を算出する。
【0076】
ステップS25では、繰り返し検出される電動モータ20の電流および電圧から算出される誘起電圧に基づいて、誘起電圧の変化量が所定量以下であるか否かを判断する。
ステップS25において誘起電圧の変化量が所定量以下である旨判定されなかったとき、ステップS23およびS24が繰り返される。従って、誘起電圧の変化量が所定量以下を維持し続ける間、誘起電圧一定時間が積算されていく。
【0077】
一方、ステップS25において誘起電圧の変化量が所定量以下である旨判定されなかったとき、ステップS26で誘起電圧一定時間の計時が終了される。
そして、ステップS27で、ステップS22からS26までの時間、すなわち誘起電圧一定時間の計測結果が、誘起電圧一定時間計測部62から抵抗推定可否判定部63に出力される。
【0078】
舵角一定時間計測処理と誘起電圧一定時間計測処理とは平行して実行され、これらの処理が実行されているときに抵抗値更新処理が実行される。
図8を参照して、抵抗値更新処理の手順について説明する。なお、同処理は制御装置30により所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0079】
ステップS31では、抵抗推定可否判定部63が、舵角センサ54から舵角情報(舵角の検出結果)を取得し、ステップS32で、舵角情報に基づいてステアリングホイール2の舵角が変化したか否かを判断する。
【0080】
ステップS32において舵角が変化した旨判定されなかったとき、ステップS33で、抵抗推定可否判定部63が、舵角一定時間と誘起電圧一定時間とに基づいて、電動モータ20の抵抗値が推定可能か否かを判断する。具体的には、舵角一定時間と誘起電圧一定時間が、それぞれ所定時間以上であるとき、ステアリングホイール2が保舵されていると判定され、電動モータ20の抵抗値が推定可能であると判定される。
【0081】
すなわち、ステップS32において、舵角センサ54の出力が舵角一定条件を満たし、かつ、電動モータ20の誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすか否かが判断される。本実施形態において、舵角一定条件には、舵角センサ54の出力の変化量が所定の範囲内である舵角一定時間が、所定時間以上であることが含まれ、誘起電圧一定条件には、誘起電圧の変化量が所定の範囲内である誘起電圧一定時間が、所定時間以上であることが含まれている。
【0082】
ステップS33において抵抗値が推定可能であると判定されたとき、ステップS34では、電流検出部31が電動モータ20の電流を検出するとともに、電圧検出部32が電動モータ20の電圧を検出する。
【0083】
ステップS35では、抵抗推定部64が、ステップS34において検出された電動モータ20の電流および電圧に基づいて、第1演算式から電動モータ20の抵抗値を算出する。そして、ステップS36で、ステップS35において算出された電動モータ20の抵抗値が記憶部33に記憶されて、電動モータ20の抵抗値が更新される。このように、ステップS35およびS36においては、舵角センサ54の出力が舵角一定条件を満たすとき、かつ、電動モータ20の誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすとき、電動モータ20の抵抗値が推定されて更新される。
【0084】
一方、ステップS33において抵抗値が推定可能であると判定されなかったとき、すなわち、舵角一定時間が所定時間未満であったとき、または誘起電圧一定時間が所定時間未満であったとき、電動モータ20の抵抗値の算出、すなわち電動モータ20の電気的抵抗の推定は禁止されて、電動モータ20の抵抗値の更新が行われない。
【0085】
さらに、本実施形態においては、ステップS32において舵角が変化した旨判定されたときであっても、所定条件を満たすことにより第2の演算式から電動モータ20の抵抗値が算出される。
【0086】
すなわち、ステップS32において舵角が変化した旨判定されたとき、ステップS41で、抵抗推定可否判定部63が、舵角一定時間が所定時間以上、かつ、舵角一定時間に比べて誘起電圧一定時間が長いか否かを判断する。このとき、舵角一定時間が所定時間以上、かつ、舵角一定時間に比べて誘起電圧一定時間が長ければ、第2演算式を用いて電動モータ20の抵抗値が推定可能であると判定される。
【0087】
ステップS41において抵抗値が推定可能であると判定されたとき、ステップS42では、電流検出部31が電動モータ20の電流を検出するとともに、電圧検出部32が電動モータ20の電圧を検出する。
【0088】
次いで、抵抗推定部64が、ステップS43で、ステップ32で変化が検出された舵角と、当該舵角の変化が検出されるまでの舵角一定時間とに基づいて、誘起電圧を算出する。この誘起電圧は「k(α/T)」で表される。
【0089】
ステップS44では、ステップS42において検出された電動モータ20の電流および電圧と、ステップS43において算出された誘起電圧「k(α/T)」に基づいて、第2演算式から電動モータ20の抵抗値を算出する。
【0090】
そして、ステップS45で、ステップS44において算出された電動モータ20の抵抗値が記憶部33に記憶されて、電動モータ20の抵抗値が更新される。
一方、ステップS41において抵抗値が推定可能であると判定されなかったとき、すなわち、舵角一定時間が所定時間未満であったとき、または誘起電圧一定時間が誘起電圧一定時間未満であったとき、電動モータ20の抵抗値の算出、すなわち電動モータ20の電気的抵抗の推定は禁止されて、電動モータ20の抵抗値の更新が行われない。
【0091】
(実施形態の効果)
本実施形態によれば、第1実施形態による前記(1)および(3)および(4)の効果に加えて、さらに以下の効果を得ることができる。
【0092】
(5)ステアリングホイール2が操舵されていなければ、舵角センサ54の出力の変化量は所定の範囲内に含まれて、舵角一定時間は所定時間以上となる。同様に、同様に、ステアリングホイール2が操舵されていなければ、電動モータ20に生じる誘起電圧の変化量は所定の範囲内に含まれて、誘起電圧一定時間は所定時間以上となる。本実施形態においては、舵角一定条件には、舵角センサ54の出力の変化量が所定の範囲内である舵角一定時間が、所定時間以上であることが含まれ、誘起電圧一定条件には、誘起電圧の変化量が所定の範囲内である誘起電圧一定時間が、所定時間以上であることが含まれる。このため、舵角一定条件と誘起電圧一定条件とが満たされれば、舵角が保持されていると推測できる。
【0093】
(6)ステアリングホイール2の舵角が保持されているときは、電動モータ20の電圧および電流を演算対象として含む一般的な演算式(第1演算式)を用いることにより、電動モータ20の電気的抵抗を推定することができる。本実施形態においては、電動モータ20の電気的抵抗を推定するための演算式として、舵角が保持されているときに用いる第1演算式と、舵角が変化したときに用いる第2演算式とを使い分ける。このため、ステアリングホイール2の舵角が変化したときであっても、一般的な演算式と異なる第2演算式から電動モータ20の電気的抵抗を推定することが可能である。
【0094】
(7)舵角一定時間が所定時間以上、かつ、舵角一定時間に比べて誘起電圧一定時間が長いときは、ステアリングホイール2が操舵されたものの操舵速度が一定の低速で変化するようなときである。このようなときは、電動モータ20に生じる誘起電圧を考慮することにより、電動モータ20の電気的抵抗を精度良く推定することができる。電動モータ20に生じる誘起電圧は、電動モータ20の誘起電圧定数と舵角の変化量とに関連している。そこで、本実施形態においては、舵角一定時間が所定時間以上、かつ、舵角一定時間に比べて誘起電圧一定時間が長いとき、電動モータ20の誘起電圧定数と舵角の変化量を演算対象として含む第2演算式から電動モータ20の電気的抵抗を推定する。これにより、電動モータ20の誘起電圧定数と舵角の変化量の積を電動モータ20に生じる誘起電圧に相当するものと推定して、電動モータ20に生じる誘起電圧を考慮することにより、電動モータ20の電気的抵抗を推定することができる。従って、ステアリングホイール2が操舵されたときであっても、電動モータ20の電気的抵抗が比較的精度良く推定される。
【0095】
(8)舵角一定時間が微小な時間であれば、その時間においては電動モータ20の電流および電圧が安定していないおそれがある。そこで、本実施形態においては、舵角一定時間が所定時間未満であるとき、電動モータ20の電気的抵抗の推定が禁止されるため、電動モータ20の電気的抵抗の推定精度を保証することができる。
【0096】
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記実施態様にて例示した態様に限定されるものではなく、例えば以下に示すように変更して実施することもできる。また以下の変形例は、上記実施形態についてのみ適用されるものではなく、変形例同士を組み合わせて実施してもよい。
【0097】
・第1実施形態のステップS4において、操舵速度が所定速度以下、かつ、誘起電圧が所定電圧以下か否かが判断されてもよい。そして、操舵速度が所定速度以下、かつ、誘起電圧が所定電圧以下であるとき、ステップS5以降の動作が行われる構成としてもよい。すなわち、誘起電圧の変化量とは、繰り返し算出される誘起電圧の所定時間当たりの変化度合いを表すものに限定されず、電動モータ20に誘起電圧が生じていないときを基準状態として、この基準状態からの誘起電圧の変化度合いを表すものも含む。同様に、第2実施形態のステップS25において比較演算の対象となる誘起電圧の変化量も、時間をあけて繰り返し算出される誘起電圧について、所定の時間当たりの変化度合いを表すものに限定されない。
【0098】
・第2実施形態のステップS33において、舵角一定時間と比較される所定時間、誘起電圧一定時間と比較される所定時間は、舵角が保持されているか否かを判断できれば異なる時間であっても同じ時間であってもよい。
【0099】
・第2実施形態のステップS14において比較演算の対象となる舵角センサ54の出力の変化量は、時間をあけて繰り返し出力される舵角センサ54の出力について、所定の時間当たりの変化度合いを表すものに限定されない。すなわち、舵角センサ54の出力の変化量は、ステアリングホイール2が所定位置にあるときを基準状態として、この基準状態からの舵角センサ54の出力の変化度合いを表すものであってもよい。また、舵角一定時間と比較される所定時間と、誘起電圧一定時間と比較される所定時間は、異なる時間であっても同じ時間であってもよい。
【0100】
・電動モータ20の抵抗値を算出に用いられる電動モータ20の電圧は、電圧検出部32による電圧の検出結果(すなわち、観測値)でなくてもよい。すなわち、電動モータ20の抵抗値の算出において、電動モータ20に印加すべき電圧の目標値を、電動モータ20の電圧として用いてもよい。
【0101】
・第1実施形態において、舵角が変化したと判断されるときに、第2実施形態と同様にして、第2演算式を用いて電動モータ20の電気的抵抗の推定値を算出することもできる。すなわち、第1実施形態において、電動モータ20の抵抗値を算出するための演算式として、舵角が保持されているときに用いる第1演算式と、舵角が変化したときに用いる第2演算式を使い分けることもできる。
【0102】
・上記の各演算式を適宜変更してもよく、例えば補正係数や補正項を付加してもよい。
・電動モータ20がブラシレスモータにより構成される場合にも、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1…電動パワーステアリング装置、2…ステアリングホイール、3…転舵輪、10…動力伝達機構、11…ステアリングシャフト、30…制御装置、31…電流検出部、32…電圧検出部、33…記憶部、34…回転速度算出部、35…目標電流値算出部、36…PWM信号生成部、37…モータ駆動回路、37A〜37D…トランジスタ、40…抵抗値更新部、41…操舵速度算出部、42…誘起電圧算出部、43…保舵判定部、44…抵抗推定部、51…減速機、52…トルクセンサ、53…車速センサ、54…舵角センサ、60…抵抗値更新部、61…舵角一定時間計測部、62…誘起電圧一定時間計測部、63…抵抗推定可否判定部、64…抵抗推定部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータの電気的抵抗の推定値に基づいて同電動モータの回転速度を算出する電動パワーステアリング装置において、
舵角センサの出力が舵角一定条件を満たすとき、かつ、前記電動モータの誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすとき、前記推定値を推定して更新する
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記舵角センサの出力から操舵速度を算出し、
前記舵角一定条件には、前記操舵速度が所定速度以下であることが含まれ、
前記誘起電圧一定条件には、前記誘起電圧の変化量が所定量以下であることが含まれる
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記舵角一定条件には、前記舵角センサの出力の変化量が所定の範囲内である舵角一定時間が、所定時間以上であることが含まれ、
前記誘起電圧一定条件には、前記誘起電圧の変化量が所定の範囲内である誘起電圧一定時間が、所定時間以上であることが含まれる
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記推定値を算出するための演算式として、舵角が保持されているときに用いる第1演算式と、舵角が変化したときに用いる第2演算式を使い分ける
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記第2演算式は、前記電動モータの電流、同電動モータの電圧、同電動モータの誘起電圧定数、および前記舵角の変化量を演算対象として含み、
前記舵角一定時間が所定時間以上、かつ、同舵角一定時間に比べて前記誘起電圧一定時間が長いとき、前記第2演算式から前記電動モータの電気的抵抗を推定する
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記舵角一定時間が所定時間未満であるとき、前記電動モータの電気的抵抗の推定を禁止する
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記電動モータに生じる外乱を観測する外乱オブザーバにより、前記外乱として前記誘起電圧を算出する
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記電動モータはブラシ付きモータである
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項1】
電動モータの電気的抵抗の推定値に基づいて同電動モータの回転速度を算出する電動パワーステアリング装置において、
舵角センサの出力が舵角一定条件を満たすとき、かつ、前記電動モータの誘起電圧が誘起電圧一定条件を満たすとき、前記推定値を推定して更新する
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記舵角センサの出力から操舵速度を算出し、
前記舵角一定条件には、前記操舵速度が所定速度以下であることが含まれ、
前記誘起電圧一定条件には、前記誘起電圧の変化量が所定量以下であることが含まれる
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記舵角一定条件には、前記舵角センサの出力の変化量が所定の範囲内である舵角一定時間が、所定時間以上であることが含まれ、
前記誘起電圧一定条件には、前記誘起電圧の変化量が所定の範囲内である誘起電圧一定時間が、所定時間以上であることが含まれる
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記推定値を算出するための演算式として、舵角が保持されているときに用いる第1演算式と、舵角が変化したときに用いる第2演算式を使い分ける
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記第2演算式は、前記電動モータの電流、同電動モータの電圧、同電動モータの誘起電圧定数、および前記舵角の変化量を演算対象として含み、
前記舵角一定時間が所定時間以上、かつ、同舵角一定時間に比べて前記誘起電圧一定時間が長いとき、前記第2演算式から前記電動モータの電気的抵抗を推定する
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記舵角一定時間が所定時間未満であるとき、前記電動モータの電気的抵抗の推定を禁止する
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記電動モータに生じる外乱を観測する外乱オブザーバにより、前記外乱として前記誘起電圧を算出する
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記電動モータはブラシ付きモータである
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2012−240656(P2012−240656A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116087(P2011−116087)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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