説明

電動車用の変速機

【課題】クラッチと、駆動輪側に動力を伝達する歯車列とで互いのスペースに制約を受けないようにする。
【解決手段】電動モータ2の出力側につながる入力軸11と、車両の駆動輪5側につながる出力軸17と、入力軸11の変速機ケース6端部側に、接続状況に応じて入力軸11の動力を出力側に伝達するクラッチ9を設け、高速段ギヤ列7及び低速段ギヤ列8を介してデフ3側に動力を伝達する歯車列(変速歯車群)を変速機ケース6の中央部位に位置させ、クラッチ9と変速歯車群とを車幅方向でオフセットさせた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車に備えられる電動車用の変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータを走行用の駆動源とした自動車(電動車)が実用化されている。電動車は、減速比が1段に固定された減速機構が用いられ、電動モータの性能により、登坂・加速性能と高速性能を確保している。このため、登坂・加速性能と高速性能は電動モータの性能に依存され、登坂・加速性能と高速性能を同時に向上させるためには、電動モータの性能を向上させる必要がある。
【0003】
登坂・加速性能を向上させるためには、ギヤ比を大きい状態にする必要があり、高速性能を向上させるためには、ギヤ比を小さい状態にする必要がある。従って、電動モータの性能を向上させるだけでは相反する機能を同時に向上させることには限度があるのが実情であった。
【0004】
このような状況から、入力軸と出力軸との間に、ギヤ比が小さい高速用歯車列と、ギヤ比が大きい低速用歯車列を設け、電磁クラッチを介して高速用歯車列と入力軸を接続・切断することで低速側の変速段と高速側の変速段とを切り換える変速機を備えた電動車が従来から提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
従来から提案されている電動車は、電磁クラッチに電力を供給することで高速用歯車列と入力軸を接続し、高速側の変速段を達成する構成となっている。このため、変速機の変速段を切り換えることにより、電動モータの性能に依存することなく、駆動系により登坂・加速性能と高速性能を両立させることができる。
【0006】
電磁クラッチを備えた電動車用の変速機では、低速側の変速段を達成する歯車列及び高速側の変速段を達成する歯車列(変速歯車群)が備えられ、更に、電磁クラッチがケースの内部に備えられることになる。このため、限られたスペースの中で電磁クラッチと変速歯車群とを配置する必要があり、電磁クラッチの機能(理想の伝達トルクの選択等)や歯車列の機能(理想のギヤ比の選択等)を得るための構成を達成することが困難であり、性能設計に制約が生じているのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭60−61548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、クラッチと、駆動側に出力を伝達する変速歯車群とで互いのスペースに制約を受けることがない電動車用の変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の電動車用の変速機は、変速機ケースに支持され電動モータの出力側につながる入力軸と、前記変速機ケースに支持され車両の駆動輪側につながる出力軸と、前記変速機ケースの端部側における前記入力軸に設けられ、接続状況に応じて前記入力軸の動力を出力側に伝達するクラッチと、前記変速機ケースの中央部位に配され、前記クラッチの出力側と前記出力軸との間、もしくは、前記入力軸と前記出力軸との間で動力を伝達する変速歯車群とを備えた電動車用の変速機において、前記クラッチと前記変速歯車群とが車幅方向でオフセットしていることを特徴とする。
【0010】
請求項1に係る本発明では、変速機ケースの一方側にクラッチが備えられ、動力を伝達する変速歯車群が変速機ケースの中央部位に配されているので、クラッチと変速歯車群の位置を軸方向でオフセットさせることができる。このため、クラッチ及び変速歯車群のスペースの制約が抑制され、それぞれの性能を個別に設計することができる。従って、クラッチと、駆動側に出力を伝達する変速歯車群とで互いのスペースの制約を受けないようにすることが可能になる。
【0011】
例えば、変速歯車のスペースの影響を受けることなく、クラッチの接続性能を高めるためにクラッチ板等を大きい径に設定することができ、また、クラッチのスペースの影響を受けることなく、変速歯車群の歯車の径を選択してギヤ比を任意に設定することができる。尚、クラッチとしては、多数のクラッチ板が積層された多板型の電磁クラッチを適用することが好ましい。
【0012】
そして、請求項2に係る本発明の電動車用の変速機は、請求項1に記載の電動車用の変速機において、前記クラッチが配されている端部と反対側の前記変速機ケースの他端部側に固定される固定歯車と、前記出力軸に設けられる同期用リング部材と、前記同期用リング部材と前記固定歯車とを噛合い状態にする同期スリーブとを備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る本発明では、同期スリーブにより同期用リング部材と固定歯車とを噛合い係合させることにより、出力軸の回転を固定することができ、駆動輪側の回転を固定することができる。同期用リング部材としては、同期スリーブの嵌合に対応して、回転速度差が摩擦力により等しくされる同期機構が用いられる。このため、同期機構を用いてパーキングブレーキの機能を変速機に持たせることができる。
【0014】
また、請求項3に係る本発明の電動車用の変速機は、請求項2に記載の電動車用の変速機において、前記変速歯車群は、前記入力軸もしくは前記クラッチの出力側に設けられる高速段側の高速歯車と、前記クラッチの出力側もしくは前記入力軸に設けられる低速段側の低速歯車と、前記出力軸に設けられ前記高速歯車に噛み合う高速伝達歯車と、前記出力軸に設けられ前記低速歯車に噛み合う低速伝達歯車と、前記クラッチの接続状況に対応して、前記高速歯車から前記高速伝達歯車への動力の伝達、もしくは、前記低速歯車から前記低速伝達歯車への動力の伝達のいずれかを選択する選択手段とを備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る本発明では、クラッチの出力側の接続状態に応じて、選択手段により高速歯車から高速伝達歯車への動力の伝達、もしくは、低速歯車から低速伝達歯車への動力の伝達のいずれかが選択される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電動車用の変速機は、クラッチと、駆動側に出力を伝達する変速歯車群とで互いのスペースの制約を受けないようにすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例に係る変速機を備えた電動車の要部を表す構造概念図である。
【図2】電磁クラッチの具体的な機構の概略構成図である。
【図3】動力伝達状況の説明図である。
【図4】動力伝達状況の説明図である。
【図5】動力伝達状況の説明図である。
【図6】動力伝達状況の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1には本発明の一実施例に係る電動車の要部を表す構造概念、図2には電磁クラッチの具体的な機構の一例を示してある。
【0019】
図1に示すように、電動車1は、電動モータ2の出力が入力される本発明の変速機3と、変速機3からの出力がデファレンシャル(デフ)4を介して伝達される左右の駆動輪5とを備えている。変速機3には、ギヤ比が小さな高速段側の高速段ギヤ列7及びギヤ比が大きな低速段側の低速段ギヤ列8が備えられ(変速歯車群)、クラッチとしての電磁クラッチ9の作動により動力の伝達経路が切り換えられる。また、低速段ギヤ列8には後退段の機構が備えられ、変速機3のケース6(変速機ケース)にはデフ4への出力を固定するパーキング機構10が設けられている。
【0020】
尚、電動車は、電動モータを走行用の駆動源とした自動車であって、電動車としては、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)を含むものとする。
【0021】
変速機3の構成を具体的に説明する。
【0022】
変速機3のケース6には車幅方向(図中左右方向)に延びる入力軸11が回転自在に支持され、入力軸11には電動モータ2の出力側が接続されている。入力軸11の端部(ケース6の一方側の端部:図中左側の端部)には電磁クラッチ9が備えられている。電磁クラッチ9は、具体例は後述するが、入力軸11側に取り付けられる複数の入力側クラッチ板12を備え、入力側クラッチ板12の間に出力側クラッチ板13が配されている。つまり、多数のクラッチ板が積層された多板型の電磁クラッチ9となっている。
【0023】
尚、電磁クラッチ9に代えて機械式や流体式等の種々のクラッチを適用することも可能である。
【0024】
電磁クラッチ9は、電力が供給されていない状態で(後述する電磁コイルが励磁されていない状態で)、入力側クラッチ板12と出力側クラッチ板13が接続状態にされ、入力軸11の回転が出力側クラッチ板13側に伝達される。また、電力が供給された状態で(後述する電磁コイルが励磁された状態で)、入力側クラッチ板12と出力側クラッチ板13が非接続状態にされ、入力軸11の回転が出力側クラッチ板13側に伝達されず回転が自由状態にされる。
【0025】
出力側クラッチ板13はクラッチケース14に取り付けられ、クラッチケース14の電動モータ2寄りには高速段ギヤ列7を構成する(高速段側の)高速歯車15が設けられている。また、高速歯車15と電動モータ2の間の入力軸11には低速段ギヤ列8を構成する(低速段側の)低速歯車16が設けられている。
【0026】
変速機3のケース6には入力軸11と平行に同一方向に延びる出力軸17が回転自在に支持され、出力軸17には高速歯車15に噛合う高速伝達歯車18が設けられている。また、出力軸17には低速歯車16に噛合う低速伝達歯車19が選択手段としてのワンウエイクラッチ20を介して設けられている。ワンウエイクラッチ20は、電動モータ2が正回転した際に、低速歯車16から入力される低速伝達歯車19の回転が出力軸17に伝達され、逆方向の回転は伝達されない。
【0027】
つまり、電磁クラッチ9の入力側クラッチ板12と出力側クラッチ板13が接続状態にされている場合(電磁クラッチ9に電力が供給されていない場合)、入力軸11の回転が出力側クラッチ板13側に伝達され、クラッチケース14、高速歯車15及び高速伝達歯車18を介して出力軸17が回転し、高速段が達成される。この場合、低速伝達歯車19はワンウエイクラッチ20により相対的に逆回転状態が許容されて低速伝達歯車19の回転は出力軸17に伝達されない。
【0028】
また、電磁クラッチ9の入力側クラッチ板12と出力側クラッチ板13が非接続状態にされている場合(電磁クラッチ9に電力が供給されている場合)、入力軸11の回転が出力側クラッチ板13側に伝達されず、クラッチケース14、高速歯車15及び高速伝達歯車18の回転が自由になる。この場合、低速伝達歯車19の回転がワンウエイクラッチ20を介して出力軸17に伝達され、低速伝達歯車19を介して出力軸17が回転し、低速段が達成される。
【0029】
高速伝達歯車18と低速伝達歯車19の間における出力軸17には、即ち、変速機3のケース6の中央部位に位置する出力軸17には、デフ4の入力歯車21に噛合う出力歯車30が設けられている。出力軸17に伝達された電動モータ2の動力は、出力歯車30及び入力歯車21を介してデフ4に伝達され、駆動輪5が駆動回転される。
【0030】
従って、走行の頻度が高い高速段側では電磁クラッチ9に電力が供給されないことになり、低速段の達成による登坂・加速性能と、高速段の達成による高速性能を駆動系で両立させても電力消費を抑制することができる。この結果、消費電力を抑えた状態で電動モータ2の性能に拘わらず登坂・加速性能と高速性能を両立して向上させることが可能になる。
【0031】
また、ケース6の一方側の端部に電磁クラッチ9が備えられ、高速側の高速段ギヤ列7及び低速段側の低速段ギヤ列8を介してデフ4側に動力を伝達する歯車列を変速機3のケース6の中央部位に位置させたので、電磁クラッチ9と、駆動輪5側に動力を伝達する歯車列とが車幅方向でオフセットされた状態になる。
【0032】
このため、電磁クラッチ9と、駆動輪5側に動力を伝達する歯車列とで互いのスペースに制約を受けることがなくなる。つまり、歯車列のスペースの影響を受けることなく、電磁クラッチ9の接続性能を高めるためにクラッチ板を大きい径に設定することができる。また、電磁クラッチ9のスペースの影響を受けることなく、歯車列の歯車の径を選択してギヤ比を任意に設定することができる。
【0033】
また、変速機3のケース6の一方側の端部に電磁クラッチ9が備えられ、デフ4側に動力を伝達する歯車列をケース6の中央部位に位置させたので、ケース6の他方側の端部に、他の機能部材、例えば、パーキング機構10を備えることができ、変速機3における機能の設計自由度を向上させることができる。
【0034】
パーキング機構10を説明する。
【0035】
変速機3のケース6の他方側(電磁クラッチ9の反対側:図中右側)における出力軸17には同期用リング部材22が設けられ、同期用リング部材22と同軸状に変速機3のケース6の他方側の内壁には固定歯車23が固定されている。同期用リング部材22には固定歯車23側に移動する同期スリーブ24が設けられ、同期スリーブ24が固定歯車23側に移動することで、同期用リング部材22と固定歯車23が噛合い係合される。
【0036】
同期用リング部材22は、例えば、同期ハブ、同期リングを備えた部材で、同期スリーブ24により同期用リング部材22と固定歯車23の回転速度差が摩擦力により等しくされる、即ち、同期用リング部材22の回転(出力軸17の回転)が固定される機構となっている。つまり、パーキングブレーキの機能が変速機3に備えられた構成になっている。同期スリーブ24の移動は、電動モータや索体等により運転者の操作に連動して行われる。
【0037】
後退段の機構を説明する。
【0038】
低速伝達歯車19の同期用リング部材22側の面には、同期用リング部材22に対向して逆転用歯車25が備えられ、同期スリーブ24は逆転用歯車25側にも移動できるようになっている。同期スリーブ24が逆転用歯車25側に移動することで、同期用リング部材22と逆転用歯車25が噛合い係合される。電動モータ2を逆回転させて車両を後退させる場合、電磁クラッチ9に電力を供給すると共に、同期スリーブ24を同期用リング部材22と逆転用歯車25とに噛合い係合させる。
【0039】
これにより、入力軸11の逆方向の回転が出力側クラッチ板13側に伝達されず、クラッチケース14、高速歯車15及び高速伝達歯車18の回転が自由になる。そして、低速伝達歯車19の逆方向の回転がワンウエイクラッチ20で許容され、逆転用歯車25及び同期用リング部材22を介して出力軸17が逆方向に回転し、後退段が達成される。
【0040】
上述したように、同期スリーブ24により同期用リング部材22と固定歯車23とを噛合い係合させることで出力軸17の回転を固定することができるので、パーキングブレーキの機能を変速機3に持たせることができる。また、出力軸17の回転を固定するための同期スリーブ24を用いて、同期用リング部材22と逆転用歯車25を噛合い係合させることで、後退段を達成することができる。
【0041】
図2に基づいて電磁クラッチ9の具体的な機構の一例を説明する。図2は機構を説明するための電磁クラッチの構成を示したもので、図1に示した電磁クラッチ9の入力側クラッチ板12が径方向の外側から中心側に向けて配され、クラッチケース14が図2の出力側の軸に相当し、出力側クラッチ板13が径方向の中心側から外側に向けて配される構成となっている。図1に示した電磁クラッチ9と同一部材もしくは同一機能部材には同一符号を付してある。
【0042】
図2に示すように、入力軸11にはケーシング31が設けられ、ケーシング31の内側には複数の入力側クラッチ板12が設けられている。また、出力側軸32(図1のクラッチケース14に相当)には複数の出力側クラッチ板13が設けられ、入力側クラッチ板12と出力側クラッチ板13が交互に配され、それぞれ軸方向に移動自在とされている。
【0043】
電磁クラッチの端部にはボール33が介在するカム機構34が設けられ、カム機構34はパイロットクラッチ35が接続されることで動作する。即ち、パイロットクラッチ35が接続されて入力軸11が回転することで、カム機構34が広げられ入力側クラッチ板12が出力側クラッチ板13に押付けられる。これにより、電磁クラッチが接続状態にされる。電磁クラッチにはパイロットクラッチ35を接続状態に付勢する圧縮コイルばね36が設けられ、電磁コイル37が励磁されていない状態で、パイロットクラッチ35は圧縮コイルばね36により接続された状態にされている。
【0044】
また、電磁クラッチには電磁コイル37が設けられ、電磁コイル37が励磁されることにより、圧縮コイルばね36の付勢力に抗してパイロットクラッチ35が非接続状態にされる。パイロットクラッチ35が非接続状態にされることにより、カム機構34による入力側クラッチ板12の押付け作用が解放され、入力側クラッチ板12と出力側クラッチ板13の接続状態が解除されて入力軸11に対して出力側軸32の回転が自由になる。
【0045】
上述した電磁クラッチは、圧縮コイルばね36の付勢力によりパイロットクラッチ35が接続状態にされ、入力軸11の回転によりカム機構34が作動して入力側クラッチ板12と出力側クラッチ板13が接続状態にされる。
【0046】
このため、圧縮コイルばね36の付勢力によりパイロットクラッチ35を接続状態にし、カム機構34により入力側クラッチ板12と出力側クラッチ板13を接続状態にするので、圧縮コイルばね36の付勢力を大きくすることなく電磁クラッチを確実に接続状態にすることができる。また、圧縮コイルばね36の付勢力を大きくする必要がないので、少ない電力による電磁コイル37の励磁により、圧縮コイルばね36の付勢力に抗してパイロットクラッチ35を非接続状態にすることができる。
【0047】
図3から図6に基づいて、各変速段が達成される場合、及び、パーキング機構が作動される場合の動力の伝達状況を説明する。図3から図6には動力の伝達状況を示してあり、各図において実線で示した経路で動力が伝達される。
【0048】
図3に基づいて低速段が達成される場合の動力の伝達経路を説明する。
【0049】
低速段が達成される場合、同期スリーブ24が同期用リング部材22だけに嵌合した状態で、電磁クラッチ9に電力が供給される。電磁クラッチ9に電力が供給されることにより、出力側クラッチ板13に対して入力側クラッチ板12が非接続状態にされる。
【0050】
入力側クラッチ板12と出力側クラッチ板13が非接続状態になると、高速歯車15及び高速伝達歯車18の回転が自由状態になり、入力軸11の回転が、低速歯車16から低速伝達歯車19、ワンウエイクラッチ20を介して出力軸17に伝えられる。これにより、出力歯車30を介して低速段ギヤ列8からの回転動力がデフ4に出力されて駆動輪5(図1参照)に伝えられ、低速段が達成された状態になる。
【0051】
図4に基づいて高速段が達成される場合の動力の伝達経路を説明する。
【0052】
高速段が達成される場合、同期スリーブ24が同期用リング部材22だけに嵌合した状態で、電磁クラッチ9への電力の供給が停止される。電磁クラッチ9への電力の供給が停止されることにより、入力側クラッチ板12と出力側クラッチ板13が接続状態にされる。
【0053】
入力側クラッチ板12と出力側クラッチ板13が接続状態になると、入力軸11の回転が高速歯車15及び高速伝達歯車18を介して出力軸17に伝えられる。この時、低速伝達歯車19はワンウエイクラッチ20により相対的に逆回転状態が許容されて低速伝達歯車19の回転は出力軸17に伝達されない。これにより、出力歯車30を介して高速段ギヤ列7からの回転動力がデフ4に出力されて駆動輪5(図1参照)に伝えられ、高速段が達成された状態になる。
【0054】
図5に基づいて後退段が達成される場合の動力の伝達経路を説明する。
【0055】
後退段が達成される場合、同期スリーブ24を逆転用歯車25側に移動させることで、同期用リング部材22と逆転用歯車25を噛合い係合させてワンウエイクラッチ20がロックされると共に、電磁クラッチ9に電力が供給される。電磁クラッチ9に電力が供給されることにより、出力側クラッチ板13に対して入力側クラッチ板12が非接続状態にされる。
【0056】
電動モータ2が逆方向に回転すると、入力軸11の逆方向の回転が出力側クラッチ板13側に伝達されず、クラッチケース14、高速歯車15及び高速伝達歯車18の回転が自由状態になり、入力軸11の逆方向の回転が、低速歯車16、低速伝達歯車19、逆転用歯車25及び同期用リング部材22を介して出力軸17に伝えられる。これにより、出力歯車30を介して出力軸17の逆方向の回転動力がデフ4に出力されて駆動輪5(図1参照)に伝えられ、後退段が達成された状態になる。
【0057】
図6に基づいてパーキング機構が作動される場合の動力の伝達経路を説明する。
【0058】
パーキング機構を作動させて出力軸17を固定する場合、同期スリーブ24を固定歯車23側に移動させることで、同期用リング部材22と固定歯車23を噛合い係合させる。これにより、同期用リング部材22の回転、即ち、出力軸17の回転が固定されて駆動輪5(図1参照)が固定され、パーキング機構が作動された状態になる。
【0059】
上記構成の変速機3は、ケース6の一方側の端部に電磁クラッチ9を備え、高速段ギヤ列7及び低速段側の低速段ギヤ列8を介してデフ4側に動力を伝達する歯車列を変速機3のケース6の中央部位に位置させたので、電磁クラッチ9と、駆動輪5側に動力を伝達する歯車列とで互いのスペースに制約を受けることがなくなる。また、デフ4側に動力を伝達する歯車列をケース6の中央部位に位置させたので、ケース6の他方側の端部にパーキング機構10等の機能部材を備えることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、電動車用の変速機の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 電動車
2 電動モータ
3 変速機
4 デファレンシャル(デフ)
5 駆動輪
6 ケース
7 高速段ギヤ列
8 低速段ギヤ列
9 電磁クラッチ
10 パーキング機構
11 入力軸
12 入力側クラッチ板
13 出力側クラッチ板
14 クラッチケース
15 高速歯車
16 低速歯車
17 出力軸
18 高速伝達歯車
19 低速伝達歯車
20 ワンウエイクラッチ
21 入力歯車
22 同期用リング部材
23 固定歯車
24 同期スリーブ
25 逆転用歯車
30 出力歯車
31 ケーシング
32 出力軸
33 ボール
34 カム機構
35 パイロットクラッチ
36 圧縮コイルばね
37 電磁コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機ケースに支持され電動モータの出力側につながる入力軸と、
前記変速機ケースに支持され車両の駆動輪側につながる出力軸と、
前記変速機ケースの端部側における前記入力軸に設けられ、接続状況に応じて前記入力軸の動力を出力側に伝達するクラッチと、
前記変速機ケースの中央部位に配され、前記クラッチの出力側と前記出力軸との間、もしくは、前記入力軸と前記出力軸との間で動力を伝達する変速歯車群とを備えた電動車用の変速機において、
前記クラッチと前記変速歯車群とが車幅方向でオフセットしている
ことを特徴とする電動車用の変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車用の変速機において、
前記クラッチが配されている端部と反対側の前記変速機ケースの他端部側に固定される固定歯車と、
前記出力軸に設けられる同期用リング部材と、
前記同期用リング部材と前記固定歯車とを噛合い状態にする同期スリーブとを備えた
ことを特徴とする電動車用の変速機。
【請求項3】
請求項2に記載の電動車用の変速機において、
前記変速歯車群は、
前記入力軸もしくは前記クラッチの出力側に設けられる高速段側の高速歯車と、
前記クラッチの出力側もしくは前記入力軸に設けられる低速段側の低速歯車と、
前記出力軸に設けられ前記高速歯車に噛み合う高速伝達歯車と、
前記出力軸に設けられ前記低速歯車に噛み合う低速伝達歯車と、
前記クラッチの接続状況に対応して、前記高速歯車から前記高速伝達歯車への動力の伝達、もしくは、前記低速歯車から前記低速伝達歯車への動力の伝達のいずれかを選択する選択手段とを備えた
ことを特徴とする電動車用の変速機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−225364(P2012−225364A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91276(P2011−91276)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】