説明

電子デバイス

【課題】閾値電界が従来よりも低減され、より優れた電界電子放出特性を有する電子デバイスを提供する。
【解決手段】カソード電極上にBCN薄膜10,15が形成される電子デバイスであって、BCN薄膜の組成を膜内で変化させることにより、BCN薄膜とカソード電極の界面でのポテンシャル障壁高さが低くされると共に、膜表面での電子親和力が小さくされる。BCN薄膜中のCの組成比が、表面側に比べてカソード電極側で大きいか、BCN薄膜中のNの組成比が、カソード電極側表面側に比べて表面側で大きい。この電子デバイスの製造方法であって、基板上に、化学気相合成法により、炭化水素および窒素を含むガスを用いてBCNを薄膜状に堆積させる際、堆積の初期から終期に至る間で、原料ガス中の炭化水素の組成比や流量を減少させてCの組成比を調整するか、原料ガス中の窒素の組成比や流量を増加させてNの組成比を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閾値電界が低く、優れた電界電子放出特性を有するBCN薄膜を用いた電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
BN(窒化ホウ素)薄膜やBNとC(炭素)の複合化合物であるBCN薄膜を用いた電子デバイスは、優れた電気的特性を有するため、従来からセンサー等へ応用する研究が行われている(特許文献1、2)。
【0003】
近年においては、このBN薄膜やBCN薄膜は、その優れた電界電子放出特性からフィールドエミッタ用材料として注目され、さらにはそのフィールドエミッタを用いた表示装置の開発も盛んに行われている。
【0004】
このようなBN薄膜やBCN薄膜の優れた電界電子放出特性は、ナノ薄膜のトンネル効果によるものであり、現在では、カソード電極上に形成された厚さ8〜10nmのBCN薄膜として、8.3〜15.2V/μmの低い閾値電界で放出電流が1×10−12Aを超え、それ以上の電圧では急速に放出電流が増加するという良好な電界電子放出特性を有するBCN薄膜が実現されている(非特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−070669号公報
【特許文献2】特開2007−254810号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takashi Sugino 他2名、「Electron field emission from boron−nitride nanofilms」、APPLIED PHYSICS LETTERS、VOLUME 80、NUMBER 19、2002年、American Institute of Physics.
【非特許文献2】Chiharu Kimura 他4名、「Electron affinity and field emission characteristics of boron carbon nitride film」、Diamond & Related Materials 14(2005)719−723.
【非特許文献3】Kunitaka Okada 他2名、「Surface properties of boron carbon nitride films treated with plasma」、Diamond & Related Materials 15(2006)1000−1003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年の価格、性能に対するユーザの厳しい要求の下、より低い閾値電界で、より一層電気的特性、特に電界電子放出特性が優れた電子デバイスが望まれている。
【0008】
このような電界電子放出特性に優れた電子デバイスとして、上記したBN薄膜やBCN薄膜を用いた電子デバイスに替えて、近年、カーボンナノチューブを用いた電子デバイスが注目されているが、個々のカーボンナノチューブの電界電子放出特性は優れるものの、ばらつきがあり、電子デバイスにおいても電界電子放出特性のばらつきを生じるという問題点がある。また、長期間に渡る特性の維持にも問題点がある。
【0009】
また、カーボンナノチューブには、BN薄膜やBCN薄膜と異なり、酸化性ガス雰囲気下では劣化するという問題点もある。さらに、BN薄膜やBCN薄膜が3×10−4Torrまでの圧力雰囲気では劣化しないのに対し、カーボンナノチューブは、10−5Torrを超えると劣化するという問題点もある。
【0010】
本発明は、上記の問題に鑑み、閾値電界が従来よりも低減され、より優れた電界電子放出特性を有する電子デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題の解決を検討するにあたって、10nm以下のBNナノ薄膜またはBCNナノ薄膜を用いてフィールドエミッタを作製することにより、電子放出閾値電界強度を低下できることを実験的に示し、これをトンネル制御フィールドエミッション(Tunneling Control Field Emission:TCFE)と名付けた。
【0012】
このTCFEにつき、図1を用いて説明する。なお、図1(a)は10nmを超えるBCN膜に負のバイアスを印加したときのエネルギーバンド図であり、図1(b)は10nm以下のBCNナノ薄膜に負のバイアスを印加したときのエネルギーバンド図である。そして、図1において、10、15はBCN薄膜、20は電子、30はアノード電極である。また、Δφは仕事関数、Eはn−Si基板の伝導帯端、Eはフェルミ準位、Eはn−Si基板の価電子帯端である。
【0013】
図1(a)に示すように、10nmを超えるBCN膜の場合には、電子20はn−Si基板の伝導帯端Eからホッピング伝導によりBCN膜10の表面まで輸送された後、ファウラー・ノルトハイムトンネリングにより表面ポテンシャルを通り抜けて真空中に放出される。
【0014】
これに対して、図1(b)に示すように、BCN膜が10nm以下のBCNナノ薄膜の場合には、電子20はBCNナノ薄膜15をトンネルし、BCNナノ薄膜15の表面に達する。このとき、表面でのポテンシャル障壁は、厚膜のBCN膜10(図1(a))の場合に比べ低くなるため、低電界強度で電子20を真空中に放出することができる。これが、TCFEである。
【0015】
このようなナノ薄膜を用いたフィールドエミッタを実用化するためには、基板とナノ薄膜界面での障壁高さを低くして、さらに電子放出閾値電界強度を低くする必要がある。
【0016】
その1つの手段として、ナノ薄膜の炭素組成比を増加させることが考えられる。しかし、単純に炭素組成比を増加させた均一組成のナノ薄膜を用いたフィールドエミッタでは、表面での真空準位が増加し、実効的な障壁高さが低下しない。また、表面に負性電子親和力をもつBN膜を用いると、基板界面での障壁高さがBCN膜の場合より増加してしまう。このため、上記の課題を解決することができない。
【0017】
そこで、さらに検討の結果、従来の均一組成のBNやBCNのナノ薄膜に替えて、膜内の組成比を変化させたBCN薄膜を作製することにより、具体的には、カソード電極界面ではエネルギー障壁高さを低くし、表面では電子親和力を小さくするように電極界面と表面で異なった組成比を設定することにより、基板界面でのポテンシャル障壁を低くすると共に、表面でのポテンシャル障壁高さの上昇も抑制して、上記の課題が解決できることを見出した。
【0018】
即ち、10nm以下のBCNナノ薄膜でTCFEを用いるフィールドエミッタの場合、BCNナノ薄膜と表面ポテンシャルによる実効的なトンネルポテンシャルの障壁高さが低下することになり、電子放出閾値電界強度の低下につながる。図2(a)は、本発明のBCNナノ薄膜に対するエネルギーバンド図を示しており、基板界面でのポテンシャル障壁を図1(b)の場合と比べて低くすることができる。また、組成比を変えることにより、表面でのポテンシャル障壁高さの上昇も抑制することができる。
【0019】
一方、10nmを超えるBCN膜においても、膜内の組成比を変化させて、カソード電極から膜の伝導帯端に電子を注入できる程度にカソード電極界面でのポテンシャル障壁高さを低下させ、表面に負性電子親和力を設けることにより、電子放出特性を向上させることができる。図2(b)に、本発明の10nmを超える膜厚のBCN膜の場合のエネルギーバンド図を示す。図2(b)のように、膜内の組成比を変化させて、電子が基板からBCN膜の伝導帯端に注入される程度に(3eV以下)基板界面でのポテンシャル障壁を低くすると、負性電子親和力を有する表面から電子を放出することができる。
【0020】
以上のように、10nm以下のBCNナノ薄膜においても、また10nmを超えるBCN膜においても、膜の組成をカソード電極側と表面で変えることにより、膜とカソード電極の界面でのポテンシャル障壁高さを低くしつつ、膜表面での電子親和力を小さくできること、具体的には、膜中のC(炭素原子)の組成比を、表面に比べてカソード電極側で大きくしたBCN薄膜であれば、また、N(窒素原子)の観点からすると、膜中のNの組成比を、表面に比べてカソード電極側で小さくしたBCN薄膜であれば、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
以下、各請求項の発明を説明する。
【0021】
請求項1に記載の発明は、
カソード電極上にBCN薄膜が形成されてなる電子デバイスであって、
前記BCN薄膜の組成を膜内で変化させることにより、前記BCN薄膜と前記カソード電極の界面でのポテンシャル障壁高さが低くされると共に、膜表面での電子親和力が小さくされていることを特徴とする電子デバイスである。
【0022】
BCN薄膜の組成を膜内で変化させて、BCN薄膜とカソード電極の界面でのポテンシャル障壁高さを低くすると共に、BCN薄膜表面での電子親和力を小さくすることにより、電界電子放出特性が優れた、特に電界の閾値が低い電子デバイスを提供することができる。
【0023】
なお、本請求項の発明における「BCN薄膜」は、ナノ薄膜に限定されず、10nmを超える厚さの薄膜であってもよい。
【0024】
そして、BCNはBNに比べて、吸水性がなく耐水性に優れているため、BCN薄膜を採用することにより、より優れた電子デバイスを提供することができる。
【0025】
請求項2に記載の発明は、
前記BCN薄膜中のCの組成比が、表面側に比べてカソード電極側で大きいことを特徴とする請求項1に記載の電子デバイスである。
【0026】
そして、請求項3に記載の発明は、
前記BCN薄膜中のNの組成比が、カソード電極側に比べて表面側で大きいことを特徴とする請求項1に記載の電子デバイスである。
【0027】
上記の各請求項の発明は、ナノ薄膜の炭素組成比を増加させることにより膜とカソード電極の界面でのポテンシャル障壁高さを低くしつつ、膜表面での電子親和力を小さくできることに着目して、請求項1に記載の「BCN薄膜の組成を膜内で変化させる」具体的な手段を規定するものである。即ち、請求項2の発明は、BCN薄膜中のCの組成比の観点から規定したものであり、また、請求項3の発明は、BCN薄膜中のNの組成比の観点から規定したものである。
【0028】
請求項4に記載の発明は、
前記BCN薄膜が、5〜10nmの厚さのBCN薄膜であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電子デバイスである。
【0029】
BCN薄膜は、一般に薄い方が好ましいが、実用的な耐久性も考慮したTCFEを効果的に発揮できるBCNナノ薄膜の適切な厚さは、5〜10nmである。
【0030】
請求項5に記載の発明は、
前記BCN薄膜は、アモルファス状であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電子デバイスである。
【0031】
アモルファス状のBCN薄膜とすることにより、基板とBCN薄膜の界面に正の空間電場が生じて基板からBCN薄膜への電子の移動が容易となりトンネル効果を発揮し易くなる。また、表面側の分子の端部の結合が多様となり電子の放出が容易となる。これらのため、電界電子放出特性が優れた、特に電界の閾値が低い電子デバイスを提供することができる。
【0032】
請求項6に記載の発明は、
前記BCN薄膜が、n−Si基板と比べて仕事関数が小さい金属基板上に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電子デバイスである。
【0033】
従来、BCN薄膜は一般にn−Si基板上に形成されていたが、n−Si基板と比べて仕事関数が小さい金属基板上に形成されたBCN薄膜であると、さらにカソード界面でのポテンシャル障壁を低下させることができる。このような金属としては、例えば、Ti(仕事関数:4.33eV)を挙げることができる。また、Ag、Cr、Al、Sn、Taを用いても良い。
【0034】
請求項7に記載の発明は、
前記BCN薄膜が、n−Si基板と比べて電子親和力が小さい基板上に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電子デバイスである。
【0035】
n−Si基板と比べて電子親和力が小さい基板上に形成されたBCN薄膜であると、さらにカソード界面でのポテンシャル障壁を低下させることができる。このような材料としては、例えば、n−GaNを挙げることができる。
【0036】
請求項8に記載の発明は、
前記BCN薄膜が、炭化水素を分解する触媒作用をなす金属製薄膜の上に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電子デバイスである。
【0037】
炭化水素を分解する触媒作用をなす金属製薄膜の上に形成されたBCN薄膜であると、BCN薄膜の製造時、金属製薄膜側(カソード電極側)ではCの供給源たる炭化水素の分解が促進される為、Cの組成比が高くなる。そして、ある程度BCN層が堆積された後は、金属製薄膜はBCN層に覆われて触媒作用を発揮し難くなるため、Cの組成比が低下する。その結果、BCN薄膜とカソード電極の界面でのポテンシャル障壁高さが低く、BCN薄膜表面での電子親和力が小さくあるいは負となるため、電界電子放出特性が優れた、特に電界の閾値が低い電子デバイスを提供することができる。そして、このような触媒を用いることにより、ガス流量の調整をすることなく、電界電子放出特性が優れた、特に電界の閾値が低い電子デバイスを提供することができる。
【0038】
なお、炭化水素を分解する触媒作用をなす金属としては、例えば、Pt、Ni、Fe等を挙げることができる。
【0039】
また、炭化水素としては、例えば、CH(メタン)、C(エタン)等を挙げることができる。
【0040】
請求項9に記載の発明は、
前記BCN薄膜が、炭化水素を分解する微粒子状触媒がドット状に形成された基板上に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電子デバイスである。
【0041】
炭化水素を分解する微粒子状触媒がドット状に形成されたカソード基板の上に形成されたBCN薄膜であると、ドット部へ電界が集中して動作電圧が低下する。
【0042】
請求項10に記載の発明は、
基板上に、化学気相合成法により、原料として炭化水素および窒素を含むガスを用いてBCNを薄膜状に堆積させる電子デバイスの製造方法であって、
前記BCNの堆積の初期から終期に至る間で、前記原料ガス中の炭化水素の組成比および/または流量を減らすことにより、Cの組成比を表面側に比べてカソード側で大きくさせる原料ガス制御工程を有していることを特徴とする電子デバイスの製造方法である。
【0043】
本請求項の発明は、原料として炭化水素および窒素を含むガスを用いてBCNを薄膜状に堆積させる際に、原料ガス中の炭化水素の組成比や流量を調整することにより、BCN薄膜中のCの組成比を表面側に比べてカソード側で大きくする発明である。
【0044】
なお、化学気相合成法としては、個々の材料ガスを切り替えて供給できるため、各元素毎に独立して活性度などを制御しやすく、さまざまな組成の薄膜を容易に得ることが可能なリモートプラズマアシスト化学気相合成法を用いることが好ましい。
【0045】
請求項11に記載の発明は、
基板上に、化学気相合成法により、原料として炭化水素および窒素を含むガスを用いてBCNを薄膜状に堆積させる電子デバイスの製造方法であって、
前記BCNの堆積の初期から終期に至る間で、前記原料ガス中の窒素の組成比および/または流量を増加させることにより、Nの組成比をカソード側に比べて表面側で大きくさせる原料ガス制御工程を有していることを特徴とする電子デバイスの製造方法である。
【0046】
本請求項の発明は、原料として炭化水素および窒素を含むガスを用いてBCNを薄膜状に堆積させる際に、原料ガス中の窒素の組成比や流量を調整することにより、BCN薄膜中のNの組成比をカソード側に比べて表面側で大きくしているため、結果的に、BCN薄膜中のCの組成比を表面側に比べてカソード側で大きくする発明である。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、カソード電極上にBCN薄膜が形成されてなる電子デバイスとして、閾値電界が従来よりも低減され、より優れた電界電子放出特性を有する電子デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】TCFEを説明するエネルギーバンド図である。
【図2】本発明に基づくエネルギーバンド図である。
【図3】実施例1および比較例のフィールドエミッタの電界電子放出特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0050】
以下の実施例は、カソード基板上にBCNナノ薄膜を設けたフィールドエミッタに関する。
(実施例1)
実施例1は、BCNナノ薄膜のCの組成比をカソード基板側で高くする手段として、BCN中のCの原料となるガスであるCHの流量を調節することに関する。
【0051】
(1)フィールドエミッタの作製
フッ酸処理、水洗による表面処理を施したn型シリコンSi基板(n−Si基板)からなるカソード基板を、プラズマアシスト化学気相法を用いた薄膜堆積装置(リアクター)に入れ、1×10−3Torrまで真空引きを行った後、Nを1.0sccm(25℃、1barで1cc/分)導入してリアクター内の圧力を1.0Torrに調節した。次いで、リアクター内の温度を650℃とし、さらに高周波(40W、周波数13.56MHz)を印加して窒素プラズマを生成し、この状態でBClを0.4sccm、Hを1sccm流し、またCHを最初の1分30秒は0.5sccm、その後の1分30秒は0.2sccm流し、カソード基板上にBCNを堆積させて厚さ8〜10nmのBCNナノ薄膜を形成した後、アノード電極と組み合わせてフィールドエミッタを作製した。
【0052】
また、比較例として、CHの流量を0.2sccmで一定とし、その他は実施例1と同じ条件でカソード基板上にBCNナノ薄膜を形成させてフィールドエミッタを作製した。
【0053】
なお、薄膜堆積装置は、前記特許文献1の図1、図2等に記載されている周知技術である為、説明や図示は省略する。
【0054】
(2)BCNナノ薄膜のC組成比
X線光電子分光法(XPS)により本実施例のBCNナノ薄膜の厚さ方向のC組成比を測定したところ、カソード基板界面で16%、表面で10%であった。一方、比較例のBCNナノ薄膜の厚さ方向のC組成比は10%で均一であった。
【0055】
(3)フィールドエミッタの電子放出閾値電界強度
実施例1および比較例のフィールドエミッタの電界電子放出特性を測定した。測定結果を図3に示す。図3に示すように、本実施例のフィールドエミッタの電流が1×10−9Aとなる電子放出閾値電界強度は6V/μmであり、比較例の8V/μmに比べて低下していることが確認された。
【0056】
(実施例2)
実施例2は、BCNナノ薄膜のC組成比をカソード基板側で高くする手段として、Nの流量を調節して、Cの原料ガスであるCHの全ガスに対する濃度を調節することに関する。
【0057】
(1)フィールドエミッタの作製
カソード基板温度を400℃とし、CHの流量を0.5sccmで一定とし、Nの流量を最初の1分30秒は0.5sccmとし、その後の1分30秒は2.5sccmに増加してCの原料ガスであるCHの全ガスに対する濃度を低くしてカソード基板上にBCNナノ薄膜を形成した後、実施例1と同じ方法でフィールドエミッタを作製した。
【0058】
(2)BCNナノ薄膜のC組成比
形成したBCNナノ薄膜の厚さ方向のC組成比は、カソード基板界面で16%、表面で13%であった。
【0059】
(3)フィールドエミッタの電子放出閾値電界強度
作製したフィールドエミッタの電子放出閾値電界強度は7V/μmであり、前記比較例の8V/μmに比べて低下していることが確認された。
【0060】
(実施例3)
実施例3は、カソード基板として仕事関数の小さい金属であるTiを用い、これにより電子放出閾値の一層の低下を図ったものである。
【0061】
(1)フィールドエミッタの作製
n−Si製の板の上にTiを20nm堆積させたカソード基板に、前記実施例1の最初の1分30秒と同じ条件、即ちCHの流量を0.5sccmとして厚さ8〜10nmのBCNナノ薄膜を形成した後、実施例1と同じ方法でフィールドエミッタを作製した。
【0062】
(2)BCNナノ薄膜のC組成比
形成したBCNナノ薄膜の厚さ方向のC組成比は、16%で均一であった。
【0063】
(3)フィールドエミッタの電子放出閾値電界強度
作製したフィールドエミッタの電流が1×10−9A/cmとなる電子放出閾値電界強度は、前記比較例の8V/μmから5V/μmまで低下していることが確認された。
【0064】
なお、本実施例では、基板に仕事関数の小さい金属であるTiを用いたが、電子親和力が小さい材料、例えばn−GaNを用いても同様に電子放出閾値電界強度を低下させることができる。
【0065】
このように、カソード基板としてTiのように仕事関数の小さい金属や電子親和力の小さいn−GaN等を用いることにより、カソード基板とBCN膜界面での電子に対するポテンシャル障壁を低くして、電子放出閾値電界強度を低下させることができる。
【0066】
(実施例4)
実施例4は、BCNナノ薄膜の厚さ方向のC組成比をカソード基板側で高くする手段として原料ガスであるCHの分解を促進するための触媒を用いることに関する。
【0067】
(1)フィールドエミッタの作製
n−Si基板上にTiを電子ビーム蒸着法で10nm堆積させ、次いでPtをスパッタリング法で20nm堆積させた。カソード基板をリアクター内にセットして1×10−3Torrまで真空引きを行った後、Nを1.0sccm導入してリアクター内の圧力を1.0Torrに調節した。次いで、リアクター内の温度を650℃とし、さらに高周波(40W、周波数13.56MHz)を印加して窒素プラズマを生成し、この状態でBClを0.4sccm、Hを1sccm流し、またCHを0.5sccmの一定の流量で流して厚さ約10nmのBCNナノ薄膜を形成した後、実施例1と同じ方法でフィールドエミッタを作製した。
【0068】
ここに、Pt薄膜の役割は、CHの分解を促進させる触媒作用を行うことにある。また、Ti薄膜の役割は、Siの板に直接Ptを堆積させると白金シリサイドが形成されるため、それを防止することにある。
【0069】
本実施例では、最初はカソード基板の表面に在るPtによるCHの分解促進効果のためCの濃度は高くなり、ある程度堆積が進むとPtはBCNに覆われて触媒作用を発揮できなくなるためCの濃度は低くなる。
【0070】
(2)BCNナノ薄膜のC組成比
X線光電子分光法によりこのBCNナノ薄膜の厚さ方向のC組成比を評価したところ、カソード基板界面で20%、表面で12%であり、何れも触媒を使用しない実施例1に比較して多少高い炭素濃度となった。
【0071】
(3)フィールドエミッタの電子放出閾値電界強度
また、このBCNナノ薄膜を用いたフィールドエミッタの電子放出閾値電界強度は、4V/μmであり、実施例1に比べてさらに低下していることが確認された。
【0072】
このように、本実施例では、触媒を用いることによりBCNナノ薄膜を形成させる過程で原料ガスの流量を変化させずにカソード基板側のC組成比の高いBCNナノ薄膜を形成し、電子放出閾値電界強度を低減させることができる。
【0073】
本実施例では、CHの分解を促進する触媒としてPtを用いたが、触媒として例えばNi、Feを用いることができる。
【0074】
(実施例5)
実施例5は、BCNナノ薄膜のCの組成比をカソード基板側で高くする手段としてCHの分解を促進する触媒をカソード基板の表面にドット状(微粒子状)に形成することに関する。
【0075】
(1)フィールドエミッタの作製
n−Siの板の上にTiを電子ビーム蒸着法で10nm堆積させ、次いでNiを熱蒸着法で20nm堆積させた後、800℃の水素雰囲気中でアモルファス状の酸化Niを還元焼結して微粒子状の金属Niとし、表面にCHの分解を促進する微粒子状の触媒が形成されたカソード基板を作製した。
【0076】
次いで、このカソード基板上に実施例4と同じ条件でBCNナノ薄膜を形成した後、実施例1と同じ方法でフィールドエミッタを作製した。
【0077】
(2)BCNナノ薄膜のC組成比
X線光電子分光法によりこのBCNナノ薄膜の厚さ方向のC組成比を測定したところ、カソード基板界面で18%、表面で13%であった。
【0078】
(3)フィールドエミッタの電子放出閾値電界強度
フィールドエミッタの電子放出閾値電界強度は、5V/μmであり、前記比較例の8V/μmに比べて低下していることが確認された。
【符号の説明】
【0079】
10、15 BCN薄膜
20 電子
30 アノード電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード電極上にBCN薄膜が形成されてなる電子デバイスであって、
前記BCN薄膜の組成を膜内で変化させることにより、前記BCN薄膜と前記カソード電極の界面でのポテンシャル障壁高さが低くされると共に、膜表面での電子親和力が小さくされていることを特徴とする電子デバイス。
【請求項2】
前記BCN薄膜中のCの組成比が、表面側に比べてカソード電極側で大きいことを特徴とする請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項3】
前記BCN薄膜中のNの組成比が、カソード電極側に比べて表面側で大きいことを特徴とする請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項4】
前記BCN薄膜が、5〜10nmの厚さのBCN薄膜であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項5】
前記BCN薄膜は、アモルファス状であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項6】
前記BCN薄膜が、n−Si基板と比べて仕事関数が小さい金属基板上に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項7】
前記BCN薄膜が、n−Si基板と比べて電子親和力が小さい基板上に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項8】
前記BCN薄膜が、炭化水素を分解する触媒作用をなす金属製薄膜の上に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項9】
前記BCN薄膜が、炭化水素を分解する微粒子状触媒がドット状に形成された基板上に形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項10】
基板上に、化学気相合成法により、原料として炭化水素および窒素を含むガスを用いてBCNを薄膜状に堆積させる電子デバイスの製造方法であって、
前記BCNの堆積の初期から終期に至る間で、前記原料ガス中の炭化水素の組成比および/または流量を減らすことにより、Cの組成比を表面側に比べてカソード側で大きくさせる原料ガス制御工程を有していることを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項11】
基板上に、化学気相合成法により、原料として炭化水素および窒素を含むガスを用いてBCNを薄膜状に堆積させる電子デバイスの製造方法であって、
前記BCNの堆積の初期から終期に至る間で、前記原料ガス中の窒素の組成比および/または流量を増加させることにより、Nの組成比をカソード側に比べて表面側で大きくさせる原料ガス制御工程を有していることを特徴とする電子デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−34752(P2011−34752A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178806(P2009−178806)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】