説明

電子ビーム装置及びデバイス製造方法

【課題】 試料の描画中に発生する電子ビームの位置異常、電子ビーム照射量等の特性の異常の発生を即座に検出できる電子ビーム装置及びその電子ビーム装置を用いるデバイス製造方法を提供する。
【解決手段】ブランキングデータに基づいて、電子ビームを偏向制御する偏向制御手段と、偏向制御手段により試料上に照射されるように偏向制御された電子ビームを通過させる開口部、および、前記偏向制御手段により前記試料上に照射されないように偏向制御された電子ビームを遮蔽する遮蔽部を有するアパーチャ手段と、電子ビームが遮蔽部に照射された際に前記アパーチャ手段から発生する光または反射電子及び2次電子のうち少なくとも1つを検出する検出手段と、検出手段の検出結果に基づいて、試料上での照射状態を求める手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームを試料に照射する電子ビーム装置に関し、特に、描画中に発生する電子ビーム位置異常や電子ビーム照射量等、電子ビーム特性の異常を即座に検知できる電子ビーム装置及びその電子ビーム装置を用いるデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子ビームを試料に照射中に装置に何等かの異常が発生すると、照射ビームにもその影響が発生する。特に電子ビーム描画装置を用いてマスクブランクや半導体ウエハにパターンを描画する際、装置に何等かの異常が発生すると、パターン描画不良の原因となる。
電子ビーム描画装置の場合に異常が生じる原因には次のようなことが考えられる。1つは描画システムに起因するもので、具体的には、サブシステム相互間のタイミングのずれ、雑音の混入等である。これらの原因によって、例えばブランキング制御システムに異常が発生すると、ショットの位置ずれやドーズ量の異常等、描画不良が発生する。もう1つは電子ビームへの物理的外乱によるもので、例えばカラム内各部のチャージアップによるビーム軌道の乱れやマイクロ放電による装置内電場の急激な変動によって、いわゆるケラレが発生しドーズ量不足やパターン抜けなどの描画不良を引き起こす。
このような異常を描画中に検出することは困難で、実際に描画したパターン又はウエハ上に形成された半導体集積を回路として検査していた。そのため異常が判明するのはパターン描画後の工程であり、従って異常が発生しているにもかかわらず、それを検知できないために描画を続けなければならず、さらに少なからず時間を要する検査を経なければ良否判定できないという問題がある。
異常の発生が即座に判明すればその後の描画時間及び検査時間を省略することができる。
このために従来は、描画システムの偏向データのエラーをチェックするという方法や、ブランキングアパーチャに流入する電流量を計測して偏向データと比較を行う方法、試料からの反射電子や2次電子の量を計測して偏向データと比較を行うという方法がとられている。
例えば、特開平2−215033号公報(特許文献1)では、簡単な構成で、ビーム電流の測定等を行うことができる電子ビーム装置が提案され、アパーチャの下方に設けられる導電性の筒状体等に入射する電子ビームを検出して電子ビーム軸の調整を行っていた。
【特許文献1】特開平2−215033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、描画システムの偏向データのエラーをチェックするという方法では、実際にビームが試料に照射されたかどうかを検知することはできないという問題がある。
ブランキングアパーチャに流れる電流量を計測する方法や反射電子や2次電子の量を計測する方法では、電子ビームの電流量が小さいため、正確な計測が困難であるという問題がある。また、ブランキングを高速で行う場合には、高速での計測が求められる。
そこで、本発明は、試料の描画中に発生する電子ビームの位置異常、電子ビーム照射量等の特性の異常の発生を即座に検出できる電子ビーム装置及びその電子ビーム装置を用いるデバイス製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために本発明の電子ビーム装置は、電子源からの電子ビームを試料上に照射する電子ビーム装置において、
ブランキングデータに基づいて、前記電子ビームを偏向制御する偏向制御手段と、
前記偏向制御手段により前記試料上に照射されるように偏向制御された電子ビームを通過させる開口部、および、前記偏向制御手段により前記試料上に照射されないように偏向制御された電子ビームを遮蔽する遮蔽部を有するアパーチャ手段と、
前記電子ビームが前記遮蔽部に照射された際に前記アパーチャ手段から発生する光または反射電子及び2次電子のうち少なくとも1つを検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて、前記試料上での照射状態を求める手段と、を備えることを特徴とする。
さらに、本発明の電子ビーム装置は、求められた前記試料上での照射状態と前記ブランキングデータを比較する手段をさらに備える。
さらに、本発明の電子ビーム装置は、前記遮蔽部は前記電子ビームが照射された際に発光する発光体を有し、前記検出手段は前記発光体から発生する光を検出する。
さらに、本発明の電子ビーム装置は、前記遮蔽部の表面及び裏面のうち少なくとも1方には、導電性物質が設けられている。
さらに、本発明の電子ビーム装置は、前記アパーチャ手段から発生する信号は反射電子及び2次電子のうち少なくとも1つであり、前記検出手段は前記反射電子及び2次電子のうち少なくとも1つを検出する。
さらに、本発明の電子ビーム装置は、前記遮蔽部は反射物質を有し、前記検出手段は前記反射物質からの反射電子を検出する。
さらに、本発明の電子ビーム装置は、前記試料上での照射状態と前記ブランキングデータを比較した結果に基づいて、前記電子ビームの照射エラーの判定を行う。
さらに、本発明の電子ビーム装置は、前記試料上での照射状態に基づいて、前記電子ビームの照射量を求める。
さらに、本発明の電子ビーム装置は、前記試料上での照射状態に基づいて、前記ブランキングデータを補正する。
さらに、本発明のデバイス製造方法は、前記電子ビーム装置を用いて試料を露光する工程と、露光された前記試料を現像する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0005】
本発明の電子ビーム装置によれば、偏向制御手段により試料上に照射されるように偏向制御された電子ビームを通過させる開口部、および、前記偏向制御手段により前記試料上に照射されないように偏向制御された電子ビームを遮蔽する遮蔽部を有するアパーチャ手段と、前記電子ビームが前記遮蔽部に照射された際に前記アパーチャ手段から発生する信号を検出する検出手段と、前記検出手段の検出結果に基づいて、前記試料上での照射状態を求める手段と、を備えるため、試料の描画中に発生する電子ビームの位置異常、電子ビーム照射量等の特性の異常の発生を即座に検出できる。
ここで、前記遮蔽部は前記電子ビームが照射された際に発光する発光体を有し、前記検出手段は前記発光体から発生する光を検出し、あるいは、前記遮蔽部は反射物質を有し、前記検出手段は前記反射物質からの反射電子を検出する。
さらに、本発明の電子ビーム装置によれば、前記遮蔽部の表面及び裏面のうち少なくとも1方には、導電性物質が設けられるため、電子ビームがブランキングアパーチャに照射されることによって起きる帯電を効果的に防止して、電子ビームの照射位置のドリフトを少なくする。
さらに、本発明の電子ビーム装置によれば、前記試料上での照射状態と前記ブランキングデータを比較した結果に基づいて、前記電子ビームの照射エラーの判定を行うため、試料の描画中に発生する電子ビームの位置異常発生を即座に検出できる。
さらに、本発明の電子ビーム装置によれば、前記試料上での照射状態に基づいて、前記電子ビームの照射量を求めるため、試料の描画中に発生する電子ビーム照射量の異常の発生を即座に検出できる。
さらに、本発明の電子ビーム装置は、前記試料上での照射状態に基づいて、前記ブランキングデータを補正するため、試料の描画中に発生する電子ビームの位置異常、電子ビーム照射量等の特性の異常の発生を即座に検出し、さらに、電子ビームの試料への照射状態を制御できる。
さらに、本発明のデバイス製造方法は、前記電子ビーム装置を用いて試料を露光する工程と、露光された前記試料を現像する工程と、を備えるため、半導体デバイスの製造中に前記電子ビーム装置による試料の描画中に発生する電子ビームの位置異常、電子ビーム照射量等の特性の異常の発生を即座に検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照して、本発明を、その実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0007】
まず、図1の概略構成図、図2および図3を参照して、本発明の実施例1の電子ビーム装置を説明する。
電子銃1から電子ビーム2が照射され、電子ビーム2は、ブランキング装置であるブランカー3を構成する二つのビームブランキング電極4、5の電圧によって、オン状態の電子ビーム6とオフ状態の偏向電子ビーム7が作られる。
オン状態の電子ビーム6は、ブランキングアパーチャ8に設けられた電子ビーム開口9を通過し、試料12に照射される。オフ状態の電子ビーム7は、ブランキングアパーチャ8の表面8aに照射されて遮蔽される。ブランキングアパーチャ8は、発光物質を含有しているか、または、ブランキングアパーチャ8の表面8aが発光物質でコーティングされる。オフ状態の電子ビーム7がブランキングアパーチャ8の表面8aに照射されると発光10が発生する。検出器11は発光10を検出する検出器で、ブランキングアパーチャ8近傍の電子ビーム6の入射側に設けられている。
ブランカー3は、それらを制御する制御部13に接続され、検出器11は、計測回路14に接続されている。制御部13の出力信号と、計測回路14の計測結果は、比較部15に入力され、制御部13に比較結果が出力される。
【0008】
ブランキングアパーチャ8は、電子ビーム7が照射されることによって発光する性質を持つ、例えばYSiO:Tbといった蛍光材料を含有するかまたは表面8aにコーティングされている。この他にも、ブラウン管の蛍光材料として用いられるようなZnS:Ag、ZnS:Cu, Al、YS:Eu等の種々の蛍光材料を使用することが可能である。
このような材料は多くが絶縁材料であるため、電子ビーム7の照射によって帯電する。その対策として、ブランキンアパーチャ8に用いられる蛍光材料を、例えばアルミニウムのような導電性材料でコーティングを行うと、ブランキングアパーチャ8上への帯電を効果的に予防して、電子ビーム7の照射位置のドリフト等を少なくすることができる。
検出器11は、蛍光材料が含有あるいは塗布されるブランキングアパーチャ8の表面8aの発光強度を感知するものでもよく、また、蛍光材料が含有あるいは塗布されるブランキングアパーチャ8の表面8aの発光状態を観察するカメラやCCDでもよい。
本実施例1において、検出器11の形状は図1に示すように板状に構成されるが、検出器11の形状は、実装上許される範囲で形状で構成されることができる。
本実施例1では、オン状態の電子ビーム6およびオフ状態の電子ビーム7が検出器11に接触することなく通過できる形状であればよく、例えば、光軸上に開口を持つリング形状のものであってもよい。
【0009】
次に、図2の詳細図を参照して、図1に示される電子ビーム装置におけるブランカー3に接続された制御部13、検出器11に接続された計測回路14および比較部15の動作を説明する。
データ処理部25はビームのオンオフ信号パターンを生成し所望の照射時間と照射タイミングを総合的に制御するための構成要素、バンクメモリ26は多値化されたビットマップで構成された照射データを格納する構成要素、バッファメモリ27はバンクメモリ26から出力された照射データを一時的に蓄積する構成要素、パルス幅変調回路28はバッファメモリ27から出力された照射データをパルス幅に変換する構成要素、ドライバ29はパルス幅変調回路28から出力されたデータをブランカー3に駆動信号として送出する構成要素である。
増幅器30は検出器11で検出された信号を増幅するための構成要素、AD変換器31は増幅器30で増幅された信号をディジタル値に変換するための構成要素、導出部32はAD変換器31の出力から試料に照射された電子ビームの特性を導出する構成要素である。
【0010】
データ信号33はバッファメモリ27がパルス幅変調回路28に出力する信号、信号34は検出器11からの信号を計測回路14で処理した信号である。これらの信号33、34は比較部15で比較される。データ処理部25はビームのオンオフ信号パターンから多値化されたビットマップデータを生成し、バンクメモリ26に格納する。バンクメモリ26に格納されたビットマップデータはデータ処理部25の指令する所望のタイミングでバッファメモリ27に転送され、逐次更新される。バッファメモリ27からから出力されたビットマップデータはパルス幅変調回路28で各データの大きさに見合ったパルス幅を持つブランキング信号に加工され、ドライバ29に出力されてブランキング電極4、5を駆動する。ここで、パルス幅変調回路28はデータの出力周期で決まる時間間隔の中央にパルス幅の中心が重なるように変調を行う。データ処理部25は、バンクメモリ26とバッファメモリ27がデータを出力するタイミング以外にも、パルス幅変調回路28の動作タイミング、さらに計測回路14の動作タイミング等をコントロールする。
【0011】
次に、図3を参照して比較部15が行う比較動作を説明する。
ここで、試料12に照射される電子ビーム6の量に関する比較動作について説明する。照射信号40はパルス幅変調回路28が出力する信号、出力信号41は増幅器30が出力する信号である。パルス幅変調回路28の出力は、0と1の2値で、0がビームオフ、1がビームオンに対応する。ビームのオン時間、オフ時間はパルスの幅によって決定される。
一方、試料12に照射された電子ビーム6のビーム量は、ブランキングアパーチャ8で遮蔽されなかった電子ビーム6である。従って、ブランキングアパーチャ8で遮蔽された電子ビーム7による発光10を検出し、発光量をもとにブランキングアパーチャ8で遮蔽された電子ビーム7の量が分かれば、試料12に到達した電子ビーム量を導出することができる。照射信号40と出力41を比較することによって、ブランカー3に送られた信号と試料に照射された電子ビーム量の比較を行うことができる。
本実施例1では、この比較結果によって照射エラーを検出している。実際に比較器15に入力される信号は信号33、34である。信号33はパルス幅に変調がされる前のデータであり、信号34はディジタル変換されたデータであるが、信号33と信号34を比較することは、照射信号40と出力41とを比較することと等価である。
比較の方法としては、例えば、パルス幅変調回路28のサンプリング周波数に従いパルスの中心部分で信号34を計測し、その結果と信号33のデータからパルスの有無のみを比較する方法や、信号34を高速にサンプリングして実際の波形データを得、その結果と信号33のデータで決定される論理上の波形との比較を行う方法などがある。これらの方法以外にも得られた実際の波形と論理的な波形の相関等を診るといった統計的な処理方法によっても、信号33と信号34の比較判定を行うことができる。
上述のような方法で得られた比較結果35はデータ処理部25に出力され、装置シーケンス、表示といった種々の用途に供される。
本実施例1では、ブランキングアパーチャ8は発光物質を含有しているか、またはブランキングアパーチャ8の表面8aが発光物質でコーティングされている構成とし、検出器11は発光10を検出する。
この発光物質の代わりに、Au等の反射物質を用いることもできる。反射物質を用いた場合、ブランキングアパーチャ8の表面8aで電子が反射するため、検出器11に電子を検出する検出器を用いることで、同様の機能が期待できる。
また、ブランキングアパーチャ8に電子ビーム7が照射されることにより反射される反射電子や、発生する2次電子を検出器11で検出する構成としても同様の機能が期待できる。
【実施例2】
【0012】
次に、本発明の実施例2の電子ビーム装置は、電子銃から放出される電子ビームを複数本に分割してマトリックス状に並べ、各々のビームで同時にパターンを描画する所謂マルチビーム方式の電子線描画装置に適用した実施例である。
この種の装置は複数の電子ビームでより広い視野に同時にパターンを描画するので、スループットを向上させることができる。
図4を参照して、本発明の実施例2の電子ビーム装置であるマルチビーム方式の電子線描画装置を説明する。
電子銃50は、描画装置の光源である。この光源から放射された電子ビーム51はコンデンサーレンズ52によって略平行の電子ビーム51aとなる。この略平行の電子ビーム51aは複数の要素電子光学系54が配列された、マルチビームモジュール53に入射する。ブランキング電極を有する要素電子光学系54は複数の光源の中間像55、56を散乱などによる不要なビームを遮蔽するアパーチャ57の開口付近に形成すると同時に、複数のブランキング電極を各々個別に作動させ、後述する投影系の瞳位置にあるブランキングアパーチャ61で複数の電子ビームを遮蔽する構成になっている。
次に、磁界レンズ59と磁界レンズ60は磁気対称ダブレットで投影系を構成する。ここで、磁界レンズ59と磁界レンズ60との距離は各々のレンズの焦点距離の和に等しく、光源である電子銃50の中間像55、56は磁界レンズ59の焦点位置付近にあって、それらの像は磁界レンズ60の焦点位置付近に形成される。磁界偏向器63は磁界によって偏向を行う装置、静電偏向器64は電界によって偏向を行う装置で、これら二つの偏向器を用いて複数の中間像55、56からの電子ビームを偏向させて、複数の中間像の像を試料62の上で平面的に移動させるようになっている。ここで磁界偏向器63と静電偏向器64は、光源像の移動距離によって使い分ける。ダイナミックフォーカスコイル65は偏向器を作動させた際に発生する偏向収差によるフォーカス位置のずれを補正するための構成要素、ダイナミックスティグコイル58は同様な過程で発生する非点収差を補正する構成要素である。また、XYZステージ66は試料62をX,Y,Z方向に移動するための構成要素である。描画の際には、パターンデータに基づいて、複数の中間像の像を投影系によって試料62上に投影し、複数の要素電子光学系54のブランキング電極を作動させて複数の電子ビームをオン・オフさせながら、磁界偏向器63と静電偏向器64及びXYZステージ66を用いて試料62の全面を走査し所望の露光パターンを得る。
【0013】
次に、電子線描画装置におけるマルチビームモジュール53に載置された要素電子光学系54のブランキング電極とそれらを駆動するドライバ及び駆動信号を伝送する伝送路を図5に示す。
描画データを各ビームのオンオフ信号パターンに変換し所望の露光時間を与えるデータ処理系67からドライバ68に駆動信号を出力する。この出力は駆動信号ケーブル69を介して中継基板71のインターフェースコネクタ70に接続され、配線パターンによって電子光学鏡筒78を通過し駆動信号の終端回路であるターミネータ72に入力する。ターミネータ72を通過した駆動信号は真空シール79を通過しコンタクトユニット73を経由してブランキングモジュール74に接続される。さらに、ブランキングモジュール74の上には各ブランキング開口77に一対ずつ設けられたブランキング電極76があり、コンタクトユニット73から配線パターン75を通して駆動信号がそれらブランキング電極76に接続される。
【0014】
次に、図6を参照して図4及び図5で説明した装置において電子ビームの特性を検出する方法を説明する。
電子ビーム90は分割された電子ビームで、ブランキングモジュール74は前述中継基板71に載置された構成要素、投影光学系の一部91は分割された電子ビーム90を縮小投影する投影光学系の一部、ブランキングアパーチャ61は電子ビーム90をオンオフする構成要素である。ここで、データ処理系67には、パターンデータをビームのオンオフ信号パターンに変換し所望の照射時間と照射タイミングを提供するデータ処理部102、多値化されたビットマップで構成された照射データを格納しているバンクメモリ95a、95b・・・から出力された照射データを一時的に蓄積するバッファメモリ94a、94b・・・から出力された照射データをパルス幅に変換するパルス幅変調回路93a、93b・・・の出力を時系列上で加算し照射プロファイルを出力する演算部96、検出信号の不要な高周波成分を除去するローパスフィルタ99、検出信号をディジタル化するAD変換器100、照射プロファイルとAD変換器100の出力を分析、比較、判定、等の処理を行う信号処理部101、信号処理部101の出力からデータ処理部102の判定処理によって生成される判定出力103から構成される。
さらに、ドライバ68a、68b・・・はパルス幅変調回路93a、93b・・・から出力された信号をブランキングモジュール74に載置されたブランカーに駆動信号として送出する構成要素、検出器97はブランキングアパーチャ61の表面61a上に具備された蛍光体の発光92を検出するための構成要素、増幅器98は検出器97で検出された信号を増幅するための構成要素である。
データ処理部102は描画するべきパターンデータから多値化されたビットマップデータを生成しバンクメモリ95に格納する。バンクメモリ95は分割された電子ビーム90をブランキングするブランカーの数に対応して複数用意されており、またこれに続く後段の各処理部分も同数用意される。バンクメモリ95に格納されたビットマップデータは所望のタイミングでバッファメモリ94に転送される。
【0015】
本実施例2においてはバッファメモリは所謂FIFOでデータ処理部102の指令によって逐次更新される。バッファメモリ94から出力されたビットマップデータはパルス幅変調回路93に入力し各データの大きさに見合ったパルス幅を持つブランキング信号に加工されドライバ68へ出力され、ドライバ68はブランキングモジュール74に配列されたブランキング電極を駆動する。ここで、パルス幅変調回路93は、データ出力周期で決まる時間間隔の中央にパルス幅の中心が重なるように変調をかける。
分割された電子ビーム90はブランキングモジュール74のブランキング電極に印加されたパルス幅変調信号によって偏向を受けながら、投影光学の一部91を通りブランキングアパーチャ61付近に到達する。ブランキングアパーチャ61は投影光学系の光軸付近に開口を持ち、ブランキングモジュール74で偏向を受けた電子ビームを遮蔽し、受けないものは開口61bを通過して、さらに下部にある試料に照射される。ここで、ブランキングアパーチャ61のビーム入射側(本実施例では上部の表面61a)には蛍光体が塗布され、遮蔽された電子ビームが入射すると発光92を発生する。ここで蛍光体は実施例1と同様な形態、材料を用いる。発光92を検出する検出器97は、例えば、フォトダイオードやフォトトランジスタ、PIN、フォトマル等、種々のものを使用する。選定に際しては、用いる蛍光体の発光波長に合わせて最適なもの使用する。
本実施例2では所謂PINダイオードを用いる。PINダイオードの出力は高速応答性を持たせるために軽負荷とし、後段の増幅器98で100倍程度のゲインを得る。増幅器の出力はローパスフィルタ99を通り不要な高周波を除去しAD変換器100でディジタル化される。信号処理部101は演算部96の出力とAD変換器100の出力を取り込み、其々のデータから波形トレース、積分、微分、2階微分、重心計算、等の手法を用いて波形解析を行う。
さらに両データの同一性、相似性、相関、等の比較、統計的処理を行うと同時に、波形解析や比較、統計的処理で得られた情報を用いて異常性判定も行う。
これらの波形データや特性データ、比較、統計情報、判定結果はデータ処理部102に送出され、データ処理部がそれらの情報を元に、照射パラメータの補正を行うと同時に照射状況の評価を行い判定出力103を得る。
【0016】
一例として、ドーズ量の処理を行った場合について図7を用いて説明する。
図7はパルス幅変調回路の出力と演算部の出力イメージ、及び増幅器の出力を時間経過に従ってグラフ化したものである。
出力信号Pa、Pbはパルス幅変調回路93a、93bの出力である。ここでは分割された電子ビームが4本、即ちブランカーも4個という想定で説明するために、出力Pc、Pdを追加する。従って、出力信号Pa、Pb、Pc、Pd,4つの信号が各ドライバに出力され、ドライバに接続された4つのブランカーが駆動される。ここで、縦軸の破線は各パルスの時間中心位置で、この位置がパルスの中央になるように変調される。この破線の間隔はパルスの送出周期を表していることになり、本実施例2では送出周期が100MHzである。従ってパルスの間隔は10nsecであり、このインターバル毎に全てのビームのオンオフ制御が行われる。信号Psは出力信号Pa、Pb、Pc、Pdの時系列上の和である。実際にはパルス幅変調回路の出力ではなく、前段のバッファ94a、94b・・・の出力を演算部96でディジタル的に時系列加算する。
一方、図7に示される信号Dsは検出器97で得られた信号に増幅器98でゲインをかけ、LPFを通過した信号である。信号Psの波形と信号Dsが相似であり、正常な描画ができている。ドーズ量を処理する場合いくつかの手法があるが、本実施例2では積分法と2階微分法とを用いる。積分法は信号Ps、Ds其々をパルス毎の積分ウィンドウ内で積分しその結果の差分をパラメータとして判定に用いる方法である。2階微分法は信号Ps、Dsの波形に注目し、各々の波形の増減を2回の微分操作による傾きの符号変化としてデータ化し、各々の波形から得られたデータの一致度を評価して判定に用いる方法である。
本実施例2がドーズ量を比較するときに異なる二つの方法を同時に用いるのは、判定精度を上げるためである。
さらに本実施例2では、それらを補完する中心値判定も併用する。中心値判定は文字通り中心値、即ちパルスの中心位置のデータに着目する方法で、図7に示される信号Ps、Dsと各破線との交点のデータから、ある閾値をもとにパルスの有無を判別する。この方法は判別が簡単にでき信号処理部を構成する回路への負担が軽いのでラフチェックの目的で常時モニタに使用している。尚、前述したようにDsはAD変換機100によってディジタル化した後に信号処理を実行している。
さて、こうして得られたドーズ量の評価結果はデータ処理部へ出力され、リアルタイム補正とスタティック補正の両方にフィードバックされている。リアルタイム部分は基本ドーズ量であり、描画条件によって決まる量でありその変動分を補正する意味合いがある。スタティック部分は所謂オフセットであり、適正なインターバルで補正される量である。
【0017】
図5に戻って、さらにこうして得られた情報からデータ処理部102は総合的に判断を下し、判定出力103を出力する。この出力は、不図示の上位コントローラや表示装置等で利用される。例えば、装置シーケンスの変更や停止、エラー表示、アラート出力、エラーログへの登録、エラー回復、リトライシーケンスの起動、等の動作の起動に利用される。
本実施例2ではブランキングアパーチャ61や検出器97の形状設計について特段の配慮をしなかったが、実施例1で示したブランキングアパーチャ8の構成および検出器11の形状のように、検出感度やSN比の向上などを目的に種々の形態や構成が考えられる。
【実施例3】
【0018】
次に、図8、図9を参照して、本発明の実施例1の電子ビーム装置を用いて半導体デバイスを製造する本発明の実施例3のデバイス製造方法を説明する。
図8は微小デバイス(ICやLSI等の半導体チップ、液晶パネル、CCD、薄膜磁気ヘッド、マイクロマシン等)の製造のフローを示す。
ステップ1(回路設計)では半導体デバイスの回路設計を行う。ステップ2(露光制御データ作成)では設計した回路パターンに基づいて露光装置の露光制御データを作成する。一方、ステップ3(ウエハ製造)ではシリコン等の材料を用いてウエハを製造する。ステップ4(ウエハプロセス)は前工程と呼ばれ、上記用意した露光制御データが入力された露光装置とウエハを用いて、リソグラフィ技術によってウエハ上に実際の回路を形成する。次のステップ5(組み立て)は後工程と呼ばれ、ステップ4によって作製されたウエハを用いて半導体チップ化する工程であり、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)、パッケージング工程(チップ封入)等の工程を含む。ステップ6(検査)ではステップ5で作製された半導体デバイスの動作確認テスト、耐久性テスト等の検査を行う。こうした工程を経て半導体デバイスが完成し、これが出荷(ステップ7)される。
図9は上記ウエハプロセスの詳細なフローを示す。ステップ11(酸化)ではウエハの表面を酸化させる。ステップ12(CVD)ではウエハ表面に絶縁膜を形成する。ステップ13(電極形成)ではウエハ上に電極を蒸着によって形成する。ステップ14(イオン打込み)ではウエハにイオンを打ち込む。ステップ15(レジスト処理)ではウエハに感光剤を塗布する。ステップ16(露光)では上記説明した露光装置によって回路パターンをウエハに焼付露光する。ステップ17(現像)では露光したウエハを現像する。ステップ18(エッチング)では現像したレジスト像以外の部分を削り取る。ステップ19(レジスト剥離)ではエッチングが済んで不要となったレジストを取り除く。これらのステップを繰り返し行うことによって、ウエハ上に多重に回路パターンが形成される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1の概略構成図である。
【図2】本発明の実施例1を構成する制御装置の概略構成図である。
【図3】本発明の実施例1の信号波形の説明図である。
【図4】本発明の実施例2の説明図である。
【図5】本発明の実施例2を構成するブランキングモジュールの説明図である。
【図6】本発明の実施例2を構成するブランキングモジュールとその周辺回路の説明図である。
【図7】本発明の実施例2の信号波形の説明図である。
【図8】本発明の実施例3のデバイス製造方法のフローの説明図である。
【図9】図8のフローの詳細なウエハプロセスの説明図である。
【符号の説明】
【0020】
1 電子銃 2 電子ビーム 3 ブランカー 4 ブランキング電極
5 ブランキング電極 6 オン状態の電子ビーム
7 オフ状態の電子ビーム 8 ブランキングアパーチャ
9 電子ビーム開口 10 発光 11 検出器
12 試料 13 制御部 14 計測回路
15 比較部 25データ処理部 26 バンクメモリ
27 バッファメモリ 28 パルス幅変調回路 29 ドライバ
30 増幅器 31 AD変換器 32 導出部
33、34信号 35 比較結果 40 照射信号
41 出力 50 電子銃 51 電子ビーム
52 コンデンサーレンズ 53 マルチビームモジュール
54 要素電子光学系 55 中間像 56 中間像
57 アパーチャ 58 ダイナミックスティグコイル
59 磁界レンズ 60 磁界レンズ 61 ブランキングアパーチャ
62 試料 63 磁界偏向器 64 静電偏向器
65 ダイナミックフォーカスコイル 66 XYZステージ
67 データ処理系 68 ドライバ 69 駆動信号ケーブル
70 インターフェースコネクタ 71 中継基板
72 ターミネータ 73 コンタクトユニット
74 ブランキングモジュール 75 配線パターン
76 ブランキング電極 77 ブランキング開口
78 電子光学鏡筒 79 真空シール
90 電子ビーム 91 投影光学系 92 発光
93a、93b パルス幅変調回路 94a、94b バッファメモリ
95a、95b バンクメモリ 96 演算部
97 検出器 98 増幅器 98 ローパスフィルタ
100 AD変換器 101 信号処理部
102 データ処理部 103 判定出力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源からの電子ビームを試料上に照射する電子ビーム装置において、
ブランキングデータに基づいて、前記電子ビームを偏向制御する偏向制御手段と、
前記偏向制御手段により前記試料上に照射されるように偏向制御された電子ビームを通過させる開口部、および、前記偏向制御手段により前記試料上に照射されないように偏向制御された電子ビームを遮蔽する遮蔽部を有するアパーチャ手段と、
前記電子ビームが前記遮蔽部に照射された際に前記アパーチャ手段から発生する光または反射電子及び2次電子のうち少なくとも1つを検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて、前記試料上での照射状態を求める手段と、を備えることを特徴とする電子ビーム装置。
【請求項2】
求められた前記試料上での照射状態と前記ブランキングデータを比較する手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の電子ビーム装置。
【請求項3】
前記遮蔽部は前記電子ビームが照射された際に発光する発光体を有し、前記検出手段は前記発光体から発生する光を検出することを特徴とする請求項1または2に記載の電子ビーム装置。
【請求項4】
前記遮蔽部の表面及び裏面のうち少なくとも1方には、導電性物質が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の電子ビーム装置。
【請求項5】
前記アパーチャ手段から発生する信号は反射電子及び2次電子のうち少なくとも1つであり、前記検出手段は前記反射電子及び2次電子のうち少なくとも1つを検出することを特徴とする請求項1に記載の電子ビーム装置。
【請求項6】
前記遮蔽部は反射物質を有し、前記検出手段は前記反射物質からの反射電子を検出することを特徴とする請求項1に記載の電子ビーム装置。
【請求項7】
前記試料上での照射状態と前記ブランキングデータを比較した結果に基づいて、前記電子ビームの照射エラーの判定を行うことを特徴とする請求項2に記載の電子ビーム装置。
【請求項8】
前記試料上での照射状態に基づいて、前記電子ビームの照射量を求めることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の電子ビーム装置。
【請求項9】
前記試料上での照射状態に基づいて、前記ブランキングデータを補正することを特徴とする請求項1から8のいずれか1つに記載の電子ビーム装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1つに記載の電子ビーム装置を用いて試料を露光する工程と、露光された前記試料を現像する工程と、を備えるデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−19243(P2007−19243A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198837(P2005−198837)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成14年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)ML2システム基本技術の開発」委託研究、産業再生法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】