説明

電子ビーム誘起エッチング方法

本発明は、物質(100,200)を電子ビーム誘起エッチングする方法に関し、本方法は、少なくとも1種類のエッチングガスを、物体(100,200)に電子ビームが衝突する位置と同じ位置において、物体(100,200)に供給する方法ステップ、および、同時に、少なくとも1種類のエッチングガスによる自発的エッチングを減速または抑制するようにした少なくとも1種類のパッシベーションガスを供給する方法ステップを含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム誘起エッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エッチングプロセスは、産業面で、特に、半導体産業において、重要な役割を果たす。エッチングプロセスを用いて、ナノメータ範囲に至る微細構造を作成することができる。さらに、エッチングプロセスは、フォトリソグラフィマスクを修復する際に重要な機能を果たす。
【0003】
半導体技術において微細構造を加工するためにエッチングプロセスを用いるが、集束イオンビームの衝突により行うエッチングプロセスは、従来より、FIB(focused ion beam)の頭字語で知られる。例えば、FIB技術は、特許文献1に開示される。FIB技術の特に有利な点は、非常に平坦で非常に急勾配の側壁、すなわち、アスペクト比の高い構造を加工できることである。アスペクト比とは、ある構造における奥行または高さの、それぞれの横方向最小長さに対する比を示す。
【0004】
FIB技術で平坦な側壁を加工できる理由は、この技術において物質を除去する際、ある程度までは、エッチングではなく、集束イオンビームを用いるスパッタリングにより行うからである。しかしながら、FIB技術にはいくつかの深刻なデメリットがある。イオンビームによるスパッタリング作用により、エッチング対象領域の外側にある物質も除去されてしまう。この影響は、特許文献2において、「河床侵食(river bedding)」効果として記載されている。一方、特許文献2にも開示されているように、エッチング対象の層の下の層にイオンが注入される(「汚染(staining)」)。その結果、この下層の特性の変化または損傷がそれぞれ生じる。さらに、スパッタした物質の大部分が試料または真空チャンバ内の他の箇所に蒸着する(「再蒸着」)。
【0005】
イオンビームに替えて電子ビームを用いてエッチングプロセスを誘起する場合(電子ビーム誘起エッチング、EBIE)、特許文献2に記載されるように、物質はエッチングによってのみ排他的に除去される。FIB技術において生じるスパッタリング箇所は、EBIEにおいては発生しない。非特許文献1において、エッチングガスとして二フッ化キセノン(XeF)を用い、さらに、場合により、電子ビームを同時に用いて行うシリコンのエッチングが検証されている。電子ビームを用いることにより、シリコンにおけるエッチング速度は、エッチングガスXeFのみを用いた場合と比較して、倍速となる。非特許文献2および非特許文献3においては、XeFを用いてシリコンをエッチングした場合、および、種々のガス類を用いて種々の物質をエッチングした場合における、粒子s線の衝突により原子スケールまたは分子スケールでそれぞれ生じるプロセスが検証されている。
【0006】
非特許文献4の著者らは、一定時間が経過する毎にエッチングプロセスを中断することを繰り返し、窒化膜を逐次蒸着して、新たに生成された側壁を保護する、プラズマエッチングプロセスについて検証している。
【0007】
特許文献3によれば、電子ビーム誘起エッチングを用いた際の横方向エッチング問題の解決法が開示される。このプロセスでは、上記において参照した非特許文献4と同様に、物質を約2μm除去した後エッチングプロセスを中断し、重合体(ポリマー)を形成する物質を蒸着して側壁を保護する。その後、所望のエッチング深さに達するまで、エッチングとパッシベーションを交互に行ってこのプロセスを継続する。
【0008】
このようにエッチングプロセスとパッシベーションプロセスを段階的に行うことの本質的な欠点は、側壁にリップルが形成されることである。第1エッチングステップの間、新たに生成された側壁はまだ保護されていないため、側壁が横方向にエッチングされてしまう。続いて、パッシベーションステップを行うことにより、波形パッシベーション層が形成される。このパッシベーション層の層厚はその高さに応じて決まる。このようにパッシベーション層が形成されることにより、エッチングした側壁の勾配と平坦度が損なわれる。これは、特に、エッチング対象の構造の外形寸法が小さい場合、その後のプロセスステップにおいて問題となる。
【0009】
用語「自発的エッチング」は、本願明細書において、電子ビームを物質上に衝突させずに、少なくとも1種類のエッチングガスを衝突させることにより物質をエッチングすることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4,639,301号明細書
【特許文献2】米国特許第6,753,538号明細書
【特許文献3】米国特許第5,501,893号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】S.MatsuiおよびK.Mori著「Direct writing onto Si by electron beam simulated etching」(Appl. Phys. Lett. 51(19), 1498(1987))
【非特許文献2】J.W. CoburnおよびH.F. Winters著「The etching of silicon with XeF2 vapour」(Appl. Phys. Lett. 34(1), 70 (1979))
【非特許文献3】J.W. CoburnおよびH.F. Winters著「Ion and electron-assisted gas-surface chemistry - An important effect in plasma etching」(J. Appl. Phys. 50(5), 3189 (1979))
【非特許文献4】K. Tsujimoto, S. Tachi, K. Ninomiya, K. Suzuki, S. Okudaira,およびS. Nishimatsu著「A New Side Wall Protection Technique in Microwave Plasma Etching Using a Chopping Method」(Conf. on Solid State Devices and Materials, 229-233, Tokyo 1986)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、したがって、上記の問題点に基づき、上記の欠点を少なくとも部分的に回避する電子ビーム誘起エッチング方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に一実施形態によれば、この問題は、請求項1に記載の方法により解決される。一実施形態において、物質の電子ビーム誘起エッチング方法は、少なくとも1種類のエッチングガスを、物体(100,200)上の、電子ビームが衝突する位置に供給するステップ、および、同時に、少なくとも1種類のエッチングガスによる自発的エッチングを減速または抑制するようにした少なくとも1種類のパッシベーションガスを供給するステップ、を含むものである。
【0014】
驚くべきことに、電子ビーム誘起エッチングにおいて、パッシベーションガスをエッチングガスに添加することにより、自発的エッチングを効果的に抑制できることが分かった。このため、特許文献3において教示されるようなパッシベーション膜を側壁に連続形成するためにエッチングプロセスを中断する必要はなくなり、よって本発明による方法は、より容易に、したがってより安価に実施することができる。ただし、本発明による方法の特に有利な点は、側壁にパッシベーション層を蒸着せずとも側壁の自発的エッチングを効果的に抑制することができることである。したがって、本発明による方法によれば、非常に平坦な側壁を形成することができる。
【0015】
特に、パッシベーションガスを同時に供給することにより、種々のエッチング対象物質に応じてエッチングガスとパッシベーションガスとの分圧比を個々に調整して、種々のエッチング対象物質の自発的エッチングを抑制することができる。
【0016】
本発明による方法の好ましい実施形態において、エッチングガスとして二フッ化キセノン(XeF)を用いる。しかしながら、その他の種類のエッチングガス、例えば、塩素(Cl)、臭素(Br)、およびヨウ素(I)等のその他のハロゲン族元素、または、別のハロゲン化合物を用いることも考えられる。
【0017】
本発明による方法の特に好ましい実施形態において、パッシベーションガスとしてアンモニア(NH)を用いる。しかしながら、本発明による方法は、パッシベーションガスとしてNHを用いることに限定されない。例えば、窒素(N)、酸素(О)、二酸化炭素(CO)、四塩化炭素(CCl)、および/またはメタン(CH)等の異なるパッシベーション物質等を用いることが考えられる。
【0018】
シリコンをエッチングする際には、ガス流量を0.25sccm(標準立方センチメートル/分)とすることで、特に良好な結果が得られる。
【0019】
本発明による方法の特に好ましい実施形態において、エッチング対象の物質は複数の層を含み、本発明による方法は、少なくとも1つの第1層と少なくとも1つの第2層との間の層境界に到達したかを判定するプロセスステップ、および、少なくとも第2層における横方向エッチングを減速または抑制するようにパッシベーションガスの供給を行うプロセスステップ、を有する。
【0020】
本実施形態によれば、種々の物質を含む互いに重なり合う複数の層にわたりエッチングする際に、パッシベーションガスのガス流量を調整して、個々の層を電子ビーム誘起エッチングする間に、各層の横方向エッチングを減速または抑制することができる。したがって、本発明による方法によれば、種々の物質を含む複数の層にわたり、EBIEプロセスを中断することなく、高アスペクト比を有する微細構造を加工することが可能となる。したがって、半導体素子のいわゆる「回路編集」が可能となる。すなわち、デバイスの各導電路を正確に切断または互いに接続することにより、微細な電気的構造を連続して直接加工修正することが可能となる。
【0021】
好ましい実施形態において、分析信号を測定することにより、層境界に到達したかどうかを判定する。一実施形態において、分析信号を測定することは、現在エッチングしている表面から発生する二次イオンを検出することを含む。分析信号の取得には、既知の表面分析法を用いることができ、例えば、オージェ電子分光法(AES)、X線光電子分光法(XPS)、または、質量分光測定法等を用いることができる。この場合、画像化分析法を用いることも考えられる。たとえば、電子ビーム顕微鏡法、走査トンネル顕微鏡法、原子間力顕微鏡法等を用いることができ、またはこれらの方法を組み合わせて用いることができる。
【0022】
さらなる好ましい実施形態において、エッチング時間を測定することにより層境界に到達したかどうかを判定する。別の測定においては、多層系における個々の層の厚さおよび組成があらかじめ分かっている場合、エッチングガスおよびパッシベーションガスに応じた種々の物質のエッチング速度を測定することができる。そして、この情報を用いて、エッチング時間に基づいて層境界にいつ到達するかを求めることができる。これら2つのその他の選択可能な方法、すなわち、分析信号の測定およびエッチング時間の測定は、組み合わせて用いることもできることは明らかである。
【0023】
本発明による方法のさらなる実施形態は、特許請求の範囲におけるさらなる従属項において定義される。
【0024】
以下の発明の詳細な説明において、本発明の現下における好ましい実施形態を、図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1態様による方法であって、真空チャンバ内の物質に、エッチングガス、パッシベーションガス、および集束電子ビームを同時に衝突させることによりエッチングする方法の実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明の第1態様による方法によりシリコンにエッチングしたビアの拡大概略断面図である。
【図3】本発明の第2態様による方法であって、図1に示す真空チャンバ内に、電子ビームからの後方散乱電子または電子ビームから放出される二次電子を検出する検出器を追加的に配置し、エッチング対象の物質は複数の層を含んでなる(多層系)、本発明の第2態様による方法を示す概略図である。
【図4】本発明の第2態様による方法によりエッチングを行った後の、複数の層を有する物質の拡大概略図である。
【図5】従来の方法でエッチングを行った際の図4に示すビアの概略断面図である。
【図6】本発明による方法でエッチングを行った際の図4に示すビアの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明による方法および本発明による装置の好ましい実施形態を詳細に説明する。
【0027】
図1に概略的に示すように、エッチング対象のシリコン層100を真空チャンバ10内の標本ホルダ20上に配置する。真空チャンバ10は、例えば、電子ビーム装置30の真空チャンバであり、電子ビーム装置30は、例えば、本発明による方法に適合した電子顕微鏡である。
【0028】
図1に概略的に示す本発明の好ましい実施形態において、注入口40すなわち注入口ノズル40を介して、XeFを真空チャンバ10内に導入する。XeFに加え、例えば、Cl,Br、およびI等のその他のハロゲン族元素、または、例えば、SF等のハロゲン化合物を導入することも可能である。本発明による方法は、ハロゲン化合物を用いることに限定されない。考えられうるその他のエッチングガスとしては、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、またはその他の強酸化物質が挙げられる。本発明による方法においては、また、2種類以上のエッチングガスを同時に用いることもできる。さらに、エッチングガスの混合比はエッチングプロセス中に変更することができる。
【0029】
図1に示す実施形態において、注入口50を介してパッシベーションガスとしてNHを真空チャンバ10内に導入する。NHに加え、H、O、CO、CClおよび/またはCHをエッチングガスとして用いることができる。エッチング対象の物質表面で吸着位置となりうる位置(すなわち、各側壁および底部領域)を充満し、これらの吸着位置のエッチングガスを置き換えることのできる材料は、すべてパッシベーションガスとして考えられる。パッシベーションガスは、2種類または数種類のガスまたは物質によりそれぞれ生成することができ、その混合比はエッチングプロセス中に変更することができる。
【0030】
XeFおよびNHは、適切な投入弁(図1には図示せず)を介して、エッチング対象のシリコン層100の領域に、対応する注入口40,50を経由して送り込まれる。XeFおよびNHの2種類のガスを、別々の投入弁を介して導入し、共通の注入口(図1には図示せず)を用いて導入することも可能である。エッチング対象の表面に向けたガス注入口に代えて、エッチングガスおよび/またはパッシベーションガスを、真空チャンバ10内において、エッチング対象の表面に向けることなく導入することもできる。
【0031】
XeFおよびNHの投入量は、時間に依存しないものとすることができる。また、これらのガスのうちの両方および/または一方のガスの投入量を、エッチングプロセス中に、経時変化(「チョッピング」)させることも可能である。
【0032】
エッチングガスとパッシベーションガスの正確な投入量の比は、真空チャンバの形状、使用した真空ポンプのポンプ力、および1つまたは複数のガス注入口40または50の幾何学的配置にそれぞれ著しく依存する。通常、2種類のガスの分圧または各ガスの流量を調整して、パッシベーションガスの分圧がエッチングガスの分圧よりも低くなるようにする。
【0033】
エッチングガスとパッシベーションガスの混合比に加え、電子ビームは、EBIEプロセスにおいて、中心的な役割を果たす。本発明による方法において、好ましくは、エッチングする材料に応じて、0.1keVから30keVの間の電子エネルギーを用いる。エッチングプロセスにおいて、電子ビームのエネルギーは、本発明による方法を最適化するためのパラメータと想定される。エッチングプロセスを特徴付けるその他のパラメータとしては、物質表面に衝突する電子の単位時間当たりの数を決める電子電流の値がある。図2に示すエッチングプロファイルにおいて、電子電流の強度は、50pA〜200pAの範囲である。
【0034】
物質表面において発生する過程を最適に支援するため、電子ビームをエッチング対象の物質上にわたり繰り返し段階的に伝送する。この電子ビームが前回の処理位置に戻るまでの時間(「リフレッシュ時間」)は、好ましくは、エッチング面のこの位置に、反応に必要な新しい分子を注入口40および50から再度十分に供給することができるように、調整する。ドウェル時間とは、電子ビームが個々の位置に滞留する時間を指す。一般的な過程において、ドウェル時間は、数10ナノ秒、例えば、50ナノ秒であり、リフレッシュ時間は、数ミリ秒の範囲、例えば、2ミリ秒である。さらに、処理対象領域の大きさによっては、電子ビームの電流量および連続する画素の距離を変化させることが有用である場合がある。エッチング対象領域が小さい場合、電流量は、例えば、50pAの範囲とし、電子ビームの画素距離を、例えば、2nmとする。一方、領域が大きい場合は、例えば、電流量が200pAの範囲であり画素距離が約4nmの電子ビームで処理する。
【0035】
エッチング反応を開始するには、好ましくは、集束電子ビームを単独で用いる。しかしながら、追加または代案として、その他のエネルギー伝達機構(例えば、集束レーザビームおよび/または非集束イオンビーム)を用いることもできる。
【0036】
エッチングガスの自発的エッチング速度の値は、基本的に、エッチング対象の物質に依存する。このことは、例えば、深トレンチをエッチングする際、自発的エッチングがエッチング対象の構造に及ぼす効果は、エッチング対象の物質に依存する可能性があることを意味する。
【0037】
本発明による方法は、エッチング対象の物質を制限しない。例えば、金属類、半導体類、および/またはアイソレータ類等の材料をエッチングすることができる。同様に、別の種類の物質を組み合わせた物質も、本発明のエッチング方法により除去することができる。異なる物質、特に、種類の異なる物質は、特定のエッチングガスに対して、異なる自発的エッチング速度を呈する。したがって、各物質について、パッシベーションガスとエッチングガスとのガス流量比を個別に調整する必要がある。金属製の導電層をエッチングする際は、パッシベーションガスにより金属が減損する可能性があるため、特定のパッシベーションガス類の供給を遮断することが有用である。
【0038】
本発明の第1の態様による方法について、まず、シリコン層のエッチングを例に説明する。図2に、本発明による方法によりシリコンにエッチングしたビア、すなわち、アクセスホールを示す。上記に参照した非特許文献1から既に明らかなように、電子衝突なしに、XeFガスによりシリコンをエッチング速度7nm/minで直接エッチングする。このことは、電子放射により誘起されたエッチング速度に対する自発的エッチング速度の比は、シリコンの場合、1:1であることを示し、すなわち、シリコンはエッチングガスXeFのみにより自発的に除去することができ、したがって、高エッチング速度で等方的に除去することができることを意味する。したがって、シリコンは、本発明による方法の利点を実証するのによく適した物質である。
【0039】
図2に示すビアにおいて、シリコン物質100は数層にわたり除去されており、連続層において領域は小さくなる。この処理において、上記のように、電子ビームのパラメータは可変である。処理対象領域の大きさによって、および、処理対象の物質によって、さらに、エッチングガスとパッシベーションガスとの混合比を調整する必要がある場合がある。例えば、シリコンは、混合比が1:1のエッチングガスとパッシベーションガスにより、0.25sccmのガス流量でエッチングすることができる。異なる物質の場合、例えば、図4および図6に示すビアをエッチングする場合、パッシベーションガスの比を減少させた異なる混合比が好ましく、例えば、パッシベーションガスのガス流量を約0.1sccm、およびエッチングガスのガス流量を約0.5sccmとして、混合比を1:5とする。図2に示す平坦で急勾配の側壁により明らかなように、本発明による方法によれば、電子ビームにより誘起されるエッチング速度と同程度の高速の自発的エッチング速度を効果的に抑制することができる。このため、電子ビームが存在しない箇所において、エッチングガスXeFによるシリコンの自発的な除去が回避される。
【0040】
パッシベーションガスは、横方向における自発的エッチングを抑制するだけでなく、電子ビーム方向、すなわち、図1における鉛直方向における自発的エッチングの影響を少なくとも部分的に抑制する。したがって、鉛直方向におけるエッチング速度を減少することができ、特に、エッチングガスのガス流量の範囲内にあるパッシベーションガスのガス流量を減少することができる。しかしながら、本発明による方法をシリコン100に適用した場合も、本発明を経済的に適用するのに十分なエッチング速度でのエッチングは可能であり、シリコン100において数μmの体積を除去することができる。
【0041】
図3に、本発明による方法および本発明による装置の実施形態の第2の態様を示す。図3においては、図1と比較して、2つの本質的な変更点を示す。一つは、標本ホルダ20上に配置した物質が複数の層を有する多層系200である点であり、もう一つは、真空チャンバ10内に検出器60を配置して電子ビームから後方散乱した電子および電子ビームから放出した二次電子を検出する点である。検出器60からの信号に基づき、現在エッチングしている層の物質組成の変化を、次の層と比較して、検出することができる。このため、検出器60の信号を測定することにより、多層系200において第1層が除去されたことが確認され、第2層を除去するエッチングプロセスを開始することができる。すなわち、検出器60の信号により、エッチングプロセスが層境界に達したことを確認することができる。図2についての説明において既に述べたように、エッチング対象の各物質に対して、個々に、パッシベーションガスとエッチングガスとのガス流量比を特定する必要がある。供給されたパッシベーションガスのガス流量が、全体のガス流量に対して、小さすぎる場合、この層における自発的エッチングが完全に抑制されず、側壁が除去されてしまうのを完全に防ぐことができない。一方、パッシベーションガスのエッチングガスに対するガス流量比が、エッチング対象の層に対して高すぎると、鉛直方向のエッチング速度が必要以上に減少する。極端な場合には、この層においてエッチングプロセスを行うことがもはや不可能となる。第1層210と第2層220との間の層境界部に達する際に第2層220の物質組成における変化を、例えば、図3に示す検出器を用いて、検出することにより、これからエッチングしようとする第2層220に対する2種類のガス、すなわち、NHおよびXeFのガス流量比を調整することが可能となる。したがって、第2層220における自発的エッチングを抑制するための特定の要件を満たすことができる。検出器60の信号により、さらなる層境界に達したかどうかも知ることができる。したがって、任意の多層系200について、パッシベーションガスとエッチングガスとのガス流量比を、個々の層210〜280に対して、それぞれ最適化することができる。
【0042】
図4に、多層系200の複数の層210〜260を貫通して金属製の導電接続270に至るまで、ビア300をエッチングする方法を概略的に示す。ここで、NHとXeFのガス流量比を、新たにエッチングしようとする層の層境界において調整する。最上層210は誘電層であり、XeFにより自発的エッチングされない絶縁物質の多くと同様のものである。したがって、層210は、NHを供給せずに除去する。層220,230,240,および250は種々の組成および厚さを有する半導体層である。エッチングプロセスにより層210が除去されると、すなわち、エッチングの前線が層210と層220との間の層境界部に達すると、このことは検出器60の信号により直接確認される。層220の物質組成も、検出器60の信号により判定することができる。ここで、NHの投入弁を開放するが、結果として得られるNHのガス流量が層220における自発的エッチングを抑制することができるものとなる程度に、投入弁を開放する。既に上述したように、本発明による方法を実施するに当たり、好ましくは、パッシベーションガスのガス流量を0.1sccmの範囲とし、エッチングガスのガス流量が0.5sccmの範囲として、混合比を約1:5とする。
【0043】
図4に示す例において、半導体層230,240,および250を含む次の多層系を、層220に対する、NHのXeFに対するガス流量比と同じ流量比でエッチングする。しかしながら、以上に述べたように、本方法によれば、各層230,240,および250に対して、NHのガス流量比を個別に調整することができる。
【0044】
金属製の導電層260の周囲の障壁層260は、層210と同様に、XeFにより自発的エッチングされない物質で構成する。したがって、検出器60の信号に基づき、エッチングの前線が層250と層260との間の層境界に達したことを検出した後、NHの投入弁を閉鎖する。金属製の導電層280の銅表面は、NHとの接触により損傷する可能性があるため、パッシベーションガスを真空チャンバ10からポンプで排出する。層260は、誘電層210の除去と同様に、電子ビームを衝突させ、エッチングガスにより除去する。金属製の導電層270も、エッチングガスおよび電子ビームを同時に衝突させることにより断線する。連続した層210〜270を有する多層システム200は、半導体基板280上に配設する。
【0045】
エッチング可能な最小領域は、電子ビームの直径に応じて決まる。電子流のビーム径は調節可能であり、特に、電子ビームは非常に正確に集束することができる(直径<4nm)。したがって、エッチング対象領域、すなわち、電子ビームにより照射する領域は、非常に狭く選択することができる。したがって、本発明による自発的エッチングを抑制する方法により、高アスペクト比で平坦な側壁を有する非常に微細な構造を作製できる可能性が広がる。
【0046】
図5および図6において、同様に、本発明による方法の本質的な利点を明示する。図5は、従来の方法を用いて、連続層にわたりエッチングしたビア300を拡大して示す断面図である。一方の半導体層210,230,240,および250および他方のアイソレーション層220および260におけるエッチング速度が異なるため、層220において隘路が生じ、その上層210および下層230においてビアが拡張する。図6においては、本発明による方法を用いて、ビア300を図4の連続層210から210にかけてエッチングした。ビア300の側壁は実質的に平坦で垂直であるため、エッチングプロセス以降のさらなるプロセスステップを容易に行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体(100,200)の電子ビーム誘起エッチング方法であって、
a.少なくとも1種類のエッチングガスを、前記物体(100,200)上の、該物体(100,200)に電子ビームが衝突する位置に供給するステップ、および
b.同時に、前記少なくとも1種類のエッチングガスによる自発的エッチングを減速または抑制するようにした少なくとも1種類のパッシベーションガスを供給するステップ、
を含む電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電子ビーム誘起エッチング方法であって、前記エッチングガスは二フッ化キセノン(XeF)を含むことを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電子ビーム誘起エッチング方法であって、前記パッシベーションガスはアンモニアを含むことを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子ビーム誘起エッチング方法であって、前記パッシベーションガスを供給するステップは、前記物質(100,200)のエッチング中に、連続的に行われる、および/または経時変化させて行われることを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の電子ビーム誘起エッチング方法であって、前記物質(100,200)はシリコン層(100)を含むことを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電子ビーム誘起エッチング方法であって、前記電子ビームが前記物質(100,200)に衝突する位置における、前記パッシベーションガスと前記エッチングガスの分圧比は1以下であることを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の電子ビーム誘起エッチング方法であって、前記パッシベーションガスの供給量は、0.25標準立方センチメートル/分であることを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の電子ビーム誘起エッチング方法であって、前記物質(100,200)は複数の層(200)を含み、該方法は、さらに、
a.少なくとも1つの第1層(210)と少なくとも1つの第2層(220)との間の層境界に到達したかを判定するステップ、および
b.前記少なくとも第2層(220)における横方向エッチングを減速または抑制するようにパッシベーションガスの供給を行うステップ、
を含む、電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項9】
請求項8に記載の電子ビーム誘起エッチング方法であって、分析信号を測定することにより層境界に到達したかどうかを判定することを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項10】
請求項9に記載の電子ビーム誘起エッチング方法であって、前記分析信号を測定することは、後方散乱電子および/または二次電子を検出することを含む、電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項11】
請求項8に記載の電子ビーム誘起エッチング方法であって、エッチング時間を測定することにより層境界部に到達したかどうかを判定することを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか一項に記載の電子ビーム誘起エッチング方法であって、前記エッチングガスの分圧を層境界において調整することを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか一項に記載の電子ビーム誘起エッチング方法であって、該方法を用いて、埋設導電接続(270)にクリアランスホールをエッチングすることを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか一項に記載の電子ビーム誘起エッチング方法であって、前記層(200)は、少なくとも1つの誘電層(210,260)、少なくとも1つの半導体層(220,230,240,250,280)、および少なくとも1つの導電層(270)を含むことを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項15】
請求項14に記載の電子ビーム誘起エッチング方法であって、前記半導体層(220,230,240,250,280)をエッチングする間の、前記パッシベーションガスの供給量は0.1標準立方センチメートル/分であることを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項16】
請求項8〜14のいずれか一項に記載の電子ビーム誘起エッチング方法であって、前記パッシベーションガスの供給は、銅含有層(270)に到達する前に遮断され、パッシベーション物質は前記真空チャンバ(10)内から除去されることを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング方法。
【請求項17】
物質(100,200)の電子ビーム誘起エッチング装置であって、
a.少なくとも1種類のエッチングガスを、前記物質(100,200)に電子ビームが衝突する位置に供給するための注入口(40)、および
b.電子ビーム誘起エッチングを行う間、前記少なくとも1種類のエッチングガスによる自発的エッチングを減速または抑制するようにした少なくとも1種類のパッシベーションガスを注入するための注入口(50)、
を備える電子ビーム誘起エッチング装置。
【請求項18】
請求項17に記載の電子ビーム誘起エッチング装置であって、前記エッチングガスとして二フッ化キセノンを使用することができることを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング装置。
【請求項19】
請求項17または18に記載の電子ビーム誘起エッチング装置であって、前記パッシベーションガスとしてアンモニアを使用することができることを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング装置。
【請求項20】
請求項17〜19のいずれか一項に記載の電子ビーム誘起エッチング装置であって、前記パッシベーションガスの前記注入口(50)および/または前記エッチングガスの注入口(40)は、前記パッシベーションガスおよび/または前記エッチングガスを連続的および/または経時変化させて供給するように動作可能であることを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング装置。
【請求項21】
請求項17に記載の電子ビーム誘起エッチング装置であって、さらに、
a.第1層(210)と第2層(220)との間の層境界に到達したかどうかを判定する測定デバイス、および
b.パッシベーションガスの分圧を調整して前記第2層(220)における横方向エッチングを抑制する調整デバイス、
を備える電子ビーム誘起エッチング装置。
【請求項22】
請求項21に記載の電子ビーム誘起エッチング装置であって、層境界に到達したかどうかを判定する前記測定デバイスは分析信号を含むことを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング装置。
【請求項23】
請求項22に記載の電子ビーム誘起エッチング装置であって、前記分析信号は、後方散乱電子および/または二次電子を検出する検出器(60)を含むことを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング装置。
【請求項24】
請求項21に記載の電子ビーム誘起エッチング装置であって、1つの第1層(210)と1つの第2層(220)との間の層境界に到達したかどうかを判定する前記測定デバイスはエッチング時間測定デバイスを含むことを特徴とする、電子ビーム誘起エッチング装置。
【請求項25】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の電子ビーム誘起エッチング方法を用いてエッチングした構造を有する半導体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−530822(P2011−530822A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522438(P2011−522438)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005885
【国際公開番号】WO2010/017987
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(510232809)カールツァイス エスエムエス ゲーエムベーハー (3)
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss SMS GmbH
【Fターム(参考)】