説明

電子写真感光体の製造方法

【課題】放電の均一性を上げて軸方向の電位ムラを改善し、濃度ムラのない高品位な画像が得られる電子写真感光体の製造方法を提供する。
【解決手段】円筒状の中心電極の少なくとも一部を兼ねる円筒状基体102を、減圧かつ電気的に接地された反応容器101の内部に設置し、電源107から前記中心電極の一方の端部領域を経由して電力を供給することで前記中心電極と反応容器101との間に交番電圧を印加し、前記円筒状基体102の上に堆積膜を形成する電子写真感光体の製造方法において、前記中心電極の端部領域であって前記電源に接続されている端部領域とは反対側の端部領域の内側に、電気的に接地された円筒状可動部材108を誘電体を介して挿入することでコンデンサーを形成し、前記円筒状可動部材の侵入部分113の長さを変化させることによって前記コンデンサーの容量を堆積膜形成処理中に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は円筒状基体表面に堆積膜を形成した電子写真感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アモルファスシリコン(以下、「a−Si」とも称す)系の電子写真感光体は、円筒状の基体の表面に、光導電層や表面層などの堆積膜を形成することにより製造されている。堆積膜の形成方法としては、RF帯の高周波を用いたグロー放電により原料ガスを分解させ、その分解生成物を、基体に被着させる方法(RFプラズマCVD法)が広く採用されている。
【0003】
しかしながら、近年、電子写真装置は、従来にも増して高画質化が追求されるようになってきており、 これに応えるために堆積膜の膜厚、膜質の均一性改善や特性の向上が強く要求されている。
従来のRFプラズマCVD法では、周波数が比較的高いために装置の形状に依存したプラズマのムラができやすい。例えば同軸状堆積膜形成装置においては、軸方向端部においてプラズマの偏りが生じやすくプラズマが不均一になる場合があり、堆積膜の均一性を向上していく上での課題となっていた。
【0004】
これらのうち、堆積膜の均一性向上に関しては定在波や装置のインピーダンスの影響が比較的小さくなる低周波数でのグロー放電が検討されている。例えば、300kHz以下の周波数で正または負のみの矩形波の電圧を用いる技術が提案されている(特許文献1)。
また、20MHz以上450MHz以下の周波数において、接地電極の一端をアースし、他端を誘電体を介してアースに接続する技術が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2006/134781号公報
【特許文献2】特開平9−031659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような技術により堆積膜の均一性の向上、特性の向上は達成されつつある。しかしながら、画質に対する市場の要求は更に高まってきている。特に軽印刷などのプリントオンデマンド(以下PODと略す)市場やピクトリアル分野においてはその要求は著しく、この分野では特性の面内均一性に対する要求が厳しい。特に軸方向の特性ムラは、特許文献1の考え方ではまだ改善の余地が残されていることが分かった。
【0007】
例えば特許文献1に挙げたような300kHz以下の周波数領域でも、端部での反射による影響は若干ながら存在する。これらは、例えば特許文献2に挙げたように、端部コンデンサー構造のような装置構成の工夫で最適化する対策が考えられる。このとき、堆積膜形成条件(例えばガス種、ガス圧等)によっては最適化したコンデンサー容量が異なることが予想される。これらは堆積膜形成条件毎に微調整することで解決可能だが、電子写真感光体のような形成条件の違う層を積層して膜を形成する場合、全てを満たす最適条件が一つのセッティングでは得られない可能性がある。
【0008】
他の装置構成の工夫として、例えば一般的なインピーダンス可変型のマッチング回路を電極の端部である反射部に接続する方法が考えられる。しかし、一般的なマッチング回路であるコイルやコンデンサーなどの素子がプラズマや熱に晒されることは好ましくない。そこで、プラズマや熱に晒されないためにはリード線で反応容器の外側に設置したマッチング回路に接続する必要があるが、リード線による接続では想定外の動作をすることがあった。即ちリード線そのものの持つインピーダンスによる設計外の動作、リード線からの電磁波の輻射が挙げられる。これらの理由により、反応容器外へのマッチング回路の設置では必ずしもうまくいかない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電子写真感光体の製造方法は、円筒状の中心電極の少なくとも一部を兼ねる円筒状基体を、減圧かつ電気的に接地された反応容器の内部に設置し、電源から前記中心電極の一方の端部領域を経由して電力を供給することで前記中心電極と反応容器との間に交番電圧を印加し、前記円筒状基体の上に堆積膜を形成する。そして、前記中心電極の端部領域であって前記電源に接続されている端部領域とは反対側の端部領域の内側に、電気的に接地された円筒状可動部材を誘電体を介して挿入することでコンデンサーを形成し、前記コンデンサーの容量を堆積膜形成処理中に変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明では、電子写真感光体の製造方法において、円筒状基体を含む中心電極の片方の端部領域から交番電圧を印加し、もう片方の端部領域にコンデンサー構造を形成して堆積膜形成処理中に端部領域の容量を変化させることを特徴とする。このことにより、電子部品であるコンデンサーが放電や高温に晒されたり、コンデンサーをリード線によって離れたところに設置する際の設計外のトラブルが起こったりしない。また、簡便な構造で確実なインピーダンス調整が行われる。結果、特性ムラの改善が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に適用可能なa−Si感光層を円筒状基体上に堆積させる製造装置の模式図であり、(a)が全体の縦断面図であり、(b)が横断面図であり、(c)が装置下部を拡大した縦断面図である。
【図2】本発明に至る過程で検討したインピーダンス変更手段の模式図である。(a)が反応容器外にコンデンサーを設置した例であり、(b)が反応容器内に設置した例である。
【図3】本発明に適用可能な、円筒状可動部材と円筒状電極との間に配される誘電体を説明する模式図である。(a)が全体図であり、(b)〜(e)が誘電体の種類と位置を変更した例である。
【図4】本発明に適用可能な、円筒状可動部材と円筒状電極の横断面図である。(a)は両者とも円筒ないし円柱形状の例であり、(b)は歯車状の嵌合の例である。
【図5】本発明によって製造されるa−Si感光体の層構成を説明する模式図である。
【図6】本発明に適用可能な円筒状可動部材を説明する模式図である。(a)が上面図、(b)、(c)が縦断面図であり、(b)が密着前、(c)が密着後の様子を示した例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に、本発明が適用可能な堆積膜製造装置の模式図を示す。図1の装置は、円筒状基体102、キャップ104、ホルダー103からなる中心電極117に電源107から電力導入端子106を介して電力を給電し、アースである反応容器101との間に放電を生起させて処理を行う。
中心電極117は絶縁体からなるサセプター105に支持されており、アースから絶縁されている。
【0013】
また、円筒状可動部材108が中心電極117の内側に挿入可能な形で配置されており、円筒状可動部材108はホルダー103と不図示の誘電体を挟んで部分的に対向する構造を取っている。このように円筒状可動部材108とホルダー103が誘電体を介して形成するコンデンサーにより、中心電極117の電力導入端部の反対側の端部領域のインピーダンスを変更することができるようになっている。
【0014】
本発明者らは、まず、図1の円筒状可動部材108のようなインピーダンス整合手段を設けないで、堆積膜の特性均一化の検討を行った。すると、放電の均一性が得やすいとされる周波数3kHz〜300kHzの電力を用いて定在波を抑制しても、膜厚や特性の均一性が不十分な場合があることが分かった。
この原因としては、電極端部における電力の反射の影響が大きいと考えられる。即ち、図1に示したような装置構成の場合、電力は上端部から導入されているが、電力導入側と反対の端部である下端部は、円筒状可動部材108がなければ開放端である。このような開放端は、電磁波の強い反射面として作用する。この反射面からの反射波と入射波の合成による電力分布が放電に影響することが分かった。この分布は、例えばVHF帯の高周波電力を用いた堆積膜形成装置で課題となっている定在波による影響と比べれば非常に小さいが、均一性を追求する場合には更に改善する必要があることが分かった。
【0015】
端部領域での反射を抑制するために、端部領域のインピーダンスを変える方法が考えられる。例えば、図2(a)、(b)のようにホルダー103の端部領域をホルダー底板203からリード線202を介し、コンデンサー201に接続してアース即ち反応容器101に接続する。このような接続をすることで、ホルダー端部領域での電力の反射率が低下して反射電力による影響が低減することが分かっている。
【0016】
しかし、例えば図2(a)の場合、反応容器101の外部に設置されたコンデンサー201に接続するためにはリード線202と電流導入端子204を介する必要があり、その間の経路が余分なインピーダンスを持つことになる。この経路のインピーダンス成分は、端部領域のインピーダンス調整に予期せぬ影響を与える場合がある。即ち、リード線202の持つインダクタンス成分は、リード線の経路や曲がり方で異なってしまい、セッティングごとに微妙に変化する可能性が高い。また、電流導入端子は貫通コンデンサーの構造であるから、接続経路全体はインダクタンス成分Lとキャパシタンス成分Cが組み合わされた複雑なLC回路となり、電極上の電力分布に与える影響も単純ではなくなる。また、反応容器外に高周波電力を輻射する部分が発生するため、電磁波が制御機器等に影響を及ぼしたりしないようにきちんとシールドする必要がある。シールドする部位がスペース的に厳しい場合には、大きな装置変更が必要になる場合もある。以上のように、図2(a)のような形態でコンデンサーを接続すると、設計通りの動きをしない場合や、装置が複雑化する場合があることが分かった。
【0017】
一方、例えば図2(b)のようにコンデンサー201を中心電極117の内側に配した場合、リード線202の長さは図2(a)に比べて短くすることはできる。ただ、コンデンサー201はプラズマには晒されないものの、反応容器中は高温になることがあり、その高温に耐えられるコンデンサーを使用する必要がある。例えば、良質なa−Si膜を得るためには、基板温度を200℃以上にする必要がある。コンデンサーを設置する場所によっては素子の耐熱温度を越えてしまう可能性もあるため、耐熱性の部材を用いた特注コンデンサーが必要になる場合もある。また、腐食性のガスを用いるプロセスにおいては腐食の対策も必要となる。
【0018】
また、この端部領域の反射を減らすための最適容量は、放電状況によって変化することがある。例えば、放電時のガス組成、圧力、投入電力などが異なると、放電状況が変化し、最適なインピーダンスは微妙に変わってくる。即ち、異なる組成や特性の膜を連続して積層する積層膜においては、各層の堆積時に異なる端部容量を選択する必要が出てくる。図2(a)のような形態であれば、コンデンサー201をバリコンに変更することにより、処理中に処理条件が変更になった場合にも対応することが可能である。しかし図2(b)のように反応容器中にコンデンサー201を設置する形態では、コンデンサー201をバリコンに変えたとしても、処理中に容量変更ができない。
【0019】
そこで、本発明者らは、中心電極117の電力印加と逆側の端部領域に、円筒状可動部材108とホルダー103と誘電体からなるコンデンサー構造を形成した。次に、堆積膜形成処理中に円筒状可動部材108がホルダー103に侵入する侵入部分113の長さを変えることで端部領域の容量を変化させた。これらのことにより、上述したような問題点を伴わずに反射電力を効果的に低減させられることを見出し、本発明に至った。
【0020】
即ち、本発明のように端部領域に円筒状可動部材108とホルダー103と誘電体からなるコンデンサー構造を形成することにより、端部領域のインピーダンスを変更することができる。このため、リード線を用いた場合にリード線が持つインダクタンスのような不要な成分が発生せず、設計した通りの効果を発揮させることができる。また、コンデンサーがホルダー103と円筒状可動部材108と誘電体とで形成される極めて単純な構成のため、高温に晒されたとしても破損することはなく、堆積膜形成条件によらず効果を発揮することが可能となる。
【0021】
また、可動部分をもつことにより、固定された容量ではなく可変容量を簡便な構造で実現することができる。このため、積層構造の膜を堆積させる場合に層ごとに条件を変えることが容易に可能となる。即ち、層ごとにガス種、圧力、放電電力が変わる場合には最適な端部容量も微妙に異なるが、装置を止めたり開けたりすることなく、処理を継続しながら各層の膜堆積条件に最適な端部容量を選択することが可能となる。
【0022】
また、可動部分を動かすことでコンデンサー容量を随時変化させることができる。このため、電子写真感光体の作製のように膜堆積処理が長時間に及ぶ場合には、処理中に電力分布の最適化調整を逐次行うことも可能である。この最適化調整は、例えば以下のような方法を用いることができる。円筒状可動部材108とホルダー103と誘電体により形成されたコンデンサーでは、電源107から流れ込む電流の一部が熱として消費される。コンデンサーに流れ込む電流が変化すると、この円筒状可動部材108の温度が変化する。そこで、コンデンサーの近傍に温度計115を設置し、図1において温度計表示部116の値をモニターし、その値に応じて円筒状可動部材108を上下動させることによって、端部領域の容量をダイナミックに調整することが可能である。
【0023】
なお、本発明では比較的低周波の電力を例として、本発明の構成と組み合わせた際の一層の電力分布均一化について説明しているが、工業分野で一般的に用いられる高周波電力においても同様の効果を得ることができる。即ち、本発明のような端部領域のインピーダンス調整や処理中の可変動作に関しては、RF帯のような高周波を使用した放電においても、最適に設計されれば処理の均一化効果を発揮させることができる。
【0024】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1(a)は、本発明に適用可能なa−Si感光層を円筒状基体上に堆積させる製造装置の模式的断面図を示す。
円筒状基体102は、円筒状の中心電極の少なくとも一部を兼ねる。円筒状基体102を、減圧かつ電気的に接地された反応容器101の内部に設置する。電源107から中心電極の一方の端部領域を経由して電力を供給することで中心電極と反応容器101との間に交番電圧を印加し、円筒状基体102の上に堆積膜を形成する。
前述したように、円筒状基体102が補助基体であるホルダー103とキャップ104とで保持されて中心電極117を形成しており、絶縁性のサセプター105の上に保持されている。交番電圧が電源107から電力導入端子106を介してキャップ104に接続される。円筒状基体102を含む中心電極117に供給された電力により反応容器101中のガスが分解されて円筒状基体102上に堆積膜が形成される。
【0025】
原料ガスはガス導入手段110から軸方向に分配されて導入され、複数の排気口109から不図示の真空ポンプによって排気される。また、ホルダー103の内側に、アースに接続された円筒状可動部材108が挿入されている。
図1(b)には、装置の横方向の断面を示す。この例では排気口109は周方向に1か所、ガス導入手段110は周方向に7か所、配置されている。ガス導入手段110はこのように周方向に複数配されることがより好ましい。側面部に排気口109を形成することにより、ガス導入手段110からのガス流を軸方向に一様なガス流として形成することができる。周方向には分布を持ってしまうため、このような形態を用いた場合には円筒状基体102を含む中心電極117をモーター114により回転させることが必要である。
【0026】
図1では排気口109は反応容器101の側面に設置されているが、反応容器101の底面部に設置されてもよい。その場合には周方向に複数配置されていることが望ましい。
また、図1では、モーターは円筒状可動部材108を駆動し、円筒状可動部材108が回転軸を兼ねる構造としているが、モーターを上部に配置して上部から駆動しても構わない。または、サセプター105を回転駆動して円筒状可動部材108は回転しない構成としても良い。
【0027】
図1(c)は、装置下部の拡大図を示している。円筒状可動部材108は内側に押し当て部材118を有し、軸111を介して反応容器101外部でモーター114に接続される。円筒状可動部材108と押し当て部材118とは電気的に接続しており、且つ反応容器101の貫通部においてアースである反応容器101と電気的に接触している。さらにアースをより完全にするためにアースばね112を押し当て部材118のシャフト部に接触させている。円筒状可動部材108とホルダー103との侵入部分113において、両者が誘電体を介してコンデンサーを形成するようになっている。
【0028】
また、円筒状可動部材108には温度計(温度センサー)115が埋め込まれており、温度計表示部116に接続されている。この温度計115は、円筒状可動部材108とホルダー103と誘電体により形成されるコンデンサーの容量に電気的な影響を与えないことが望ましく、光ファイバー方式の温度計を用いることがより好ましい。
また、図1では電力導入が上からなされ、下部においてインピーダンス調整を行う形態が挙げられている。しかし、下部から電力導入、上部においてインピーダンス調整という形態を取っても良い。インピーダンス調整を行う場所が電力導入と反対側の端部領域であればどちらの形態でも構わない。
【0029】
図6は、この円筒状可動部材108の詳細な構造と動作について説明するための模式図を示している。
図6(a)は、円筒状可動部材108を上面から見た構造である。円筒状可動部材108は、側面外周を形成するリング部601と、ヘッド部603、その両者をつなぐバネ部602とから形成されている。リング部601は周方向にスリットで分割された構造を取っている。
【0030】
図6(b)は、この円筒状可動部材の軸方向断面を示している。リング部601はバネ部602でヘッド部603に接続されており、ヘッド部603にはシャフト111が接続されている。このシャフト111を上下させることにより、リング部601のホルダー103への侵入部分113の長さが変化し、端部領域における容量が変化する。
このとき、リング部601の外径とホルダー103やサセプター105の内径との間には、円筒状可動部材108を上下方向にスムーズに動かすための隙間が設けてある。具体的には例えば片側で250μm程度(つまり、前記外径と前記内径との差が500μm程度)の隙間を見込んで加工した部材を用い、リング部材601の外側に例えば150μmの絶縁性被膜を形成したとする。すると、ホルダー103と円筒状可動部材108との間には、寸法上は100μmの隙間が存在することになる。このとき、ホルダー103と円筒状可動部材108と誘電体とが形成する静電容量は、絶縁性被膜が作る静電容量と、隙間が作る静電容量との直列接続になり、結果的に隙間の静電容量が支配的になる場合があった。
【0031】
そこで、押し当て部材118を下から矢印605の方向に押しつけてやることにより、バネ部602が押されてリング部601が矢印606の方向に拡がる。図6(c)には、押し当て部材118が上に上がり、リング部601が拡がった状態を示した。このような状態となることにより、リング部601がホルダー103やサセプター105に誘電体を介して密着する状態(つまり、隙間が無いため、隙間が作る静電容量の影響がないという状態。)が形成できる。
以上のように押し当て部材118を矢印605の方向に押し当てることにより、円筒状可動部材108とホルダー103と誘電体が形成するコンデンサーの容量は、対向する面積と誘電体の厚さと誘電体の比誘電率のみで定まる静電容量とすることができる。
【0032】
なお、図を見やすくするために図6(c)では押し当て部材118と円筒状可動部材108とは接していないが、押し当て部材118を押し当てている状態では両者は密着しており、電気的導通が図られている。ゆえに、押し当て部材118のシャフト部604と円筒状可動部材108とは電気的にも強固に導通している。また、シャフト部604が反応容器外で図1(c)に示すアースばね112によってアースに確実に接続されることにより、円筒状可動部材108全体がアースに確実に接続される。
【0033】
また、図1(c)のように押し当て部材118を上に上げた状態であれば、円筒状可動部材108とホルダー103とは密着してほぼ一体の状態になっているため、ホルダー103を円筒状可動部材108によって駆動することができる。このとき、温度をモニターするには図1における温度計115をヘッド部603の中央部に密着するように配すれば、円筒状可動部材108が回転していても温度をモニターすることができる。このように温度をモニターすることにより、円筒状可動部材108とホルダー103と誘電体が形成するコンデンサーに流れ込む電流が作り出すジュール熱をモニターすることができ、コンデンサーに流れ込む電流量を推測することが可能となる。
【0034】
図3に、円筒状可動部材108とホルダー103との絶縁方法について、例を示した。
図3(a)は図1(c)の一部であり、更にその一部分を拡大したものが図3(b)〜(e)である。この図3(b)〜(e)に関しては、模式的な図であるため敢えて隙間を開けて表現されているが、各部材はそれぞれ部分的に接触していても、全体的に密着していてもよい。
図3(b)は、円筒状可動部材108の外側に絶縁性のライナー301を設置した例である。ライナー301の材質としては絶縁性が確保できれば特に指定はないが、処理中に高温になる可能性を考えれば耐熱性があることがより好ましい。その観点から、例えばアルミナやジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素などの物質を含むセラミックス焼結体、マシナブルセラミックスと呼ばれる切削加工可能なセラミックス、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やポリイミドなどの耐熱樹脂が挙げられる。これらを厚さ0.1〜2mm程度、円筒状に加工し、円筒状可動部材108の外側に密着させた形状とする。このようなライナー形状は設置が容易で交換可能という利点がある。
また、図3(c)のように、更にホルダー103の内側に同様のライナー301を設置しても構わない。
【0035】
一方、更に高容量が必要となる場合や、繰り返し使用における耐久性を向上させるためには、誘電体の厚さをある程度薄く、強固に形成することが望ましい。その場合には図3(d)に示したように、円筒状可動部材108の外周面に絶縁性被膜302を形成することもできる。絶縁性被膜302の例としては、例えばアルミナやジルコニアなどの酸化物系セラミックス、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、アモルファスカーボンなどの膜が挙げられる。これらの形成方法としては、溶射、スパッタ、CVDなどの膜形成プロセスから任意に選ぶことができる。また、これらの材料に関しては特に限定はないが、形成の容易さやコストの点から、アルミナ溶射膜が好ましい素材として挙げられる。円筒状可動部材108を軸方向に動かす必要や、ホルダー103との接触を考えると、溶射後に表面を磨いて平滑化することが更に好ましい。また、強度や表面平滑性、潤滑性の点から、アモルファスカーボン膜も好適な素材として挙げられる。堆積膜処理中に円筒状可動部材108を動かす際には、摺擦による発塵が懸念される場合がある。アモルファスカーボンは固体潤滑材としても使用される物質であり、発塵の心配が少なくより好ましい。例えば、図3(e)に挙げたような形態で、円筒状可動部材108の外周面とホルダー103の内周面の両側に薄いアモルファスカーボン膜を形成すれば、摺擦による発塵を高レベルで抑えることが可能となる。
【0036】
これら絶縁性被膜302の厚さに関しては特に限定はないが、10〜500μm程度であれば耐久性の点でも、絶縁性の点でも良好であり好ましい範囲として挙げられる。
また、図3には例示されてはいないが、このような絶縁性被膜302をホルダー103の内側にのみ形成することも可能である。
また、同様に図には挙げていないが、ホルダー103の内側のみライナー301を設置することもできるし、片方にライナー、もう片方に絶縁性被膜のような組み合わせにしても構わない。
【0037】
いずれにしても、膜の厚さ、素材の誘電率を元に装置設計すればよい。即ち、形成されるコンデンサーの容量は図1の侵入部分113の長さに応じて変化する表面積と、ライナー301や絶縁性被膜302の厚さ、それらを形成する物質の誘電率から算出することができる。これら表面積、厚さおよび誘電率は、コンデンサーの容量が目標の値になるように適宜選択する。
例えば、外径Φ84.0mmの中心電極、内径Φ230.0mmの反応容器を用い、周波数100kHzの矩形波を用いて堆積膜を形成する場合を例とする。本発明者らが実験したところ、端部容量の変更範囲としては、0pF〜5000pF程度の可変容量を設定しておけば、余裕しろを含め処理条件の変更にも柔軟に対応可能であることが分かった。ホルダー103の内径が73.0mm、円筒状可動部材108の外径が72.5mmとする。この場合、上記の可変域を得るためには250μmのアルミナ溶射膜(誘電率は最大で8程度)を選択し、0〜60mm程度の可動域が得られるように設計をすれば対応可能であることが計算できる。このように装置の形態、周波数などの処理条件が決まれば、それに応じた適正な端部容量を調べ、誘電体の材質、膜厚を適宜選んで装置を設計すればよい。
【0038】
また、円筒状可動部材108とホルダー103は、容量の安定性という点で、誘電体を介して接していることが好ましい。両者の間に空間がある場合、容量が安定しない場合がある。特に、中心電極117を回転させ、円筒状可動部材108を回転させない構成を取った場合には、偏芯により円筒状可動部材108とホルダー103との間の距離が変わる場合があり、容量が回転と共に変化してしまう場合がある。このような状態で放電を継続すると、放電の強度が周期的に変動する状態になる場合がある。
そこで、両者間の空隙はなるべく少ない方が好ましい。少なくとも、1か所以上は接触している状態が好ましい。このようにすることで、容量が円筒状可動部材108のホルダー103への侵入部分113の長さによって決まる一定値に安定する。
【0039】
図4に、ホルダーと円筒状可動部材の、侵入部分における横断面を示す。
例えば中心電極117の回転手段を上部に設置し、下部に設置される円筒状可動部材は中心電極117の回転手段として使用しない場合には、円筒状可動部材は回転させないか、又は自由に連れ回る形態としても良い。その場合には、図4(a)のように密着させる機構のない円筒状可動部材401を用いることができる。即ち、ホルダー403の内周面も円筒状可動部材401も共に凹凸のない円筒状の形態とすることもできる。この場合には機構的に簡略化できるというメリットはあるが、隙間分の容量を考慮に入れた設計を行う必要がある。
円筒状可動部材を中心電極117の回転駆動軸として機能させる場合には、例えば図6に挙げたように円筒状可動部材108が内部に押し当て部材118を持ち、リング部601がホルダー103に密着するような構成を取ることもできる。そのような構造で密着させれば、円筒状可動部材108を回転駆動することでホルダー103を回転させることが可能である。
【0040】
更に、図4(b)に示したように、歯車状の嵌合とすることもできる。具体的には、ホルダー404の内側に歯を形成してホルダー404を内歯歯車とし、円筒状可動部材402の外側にも歯を形成して円筒状可動部材402を外歯歯車とする。このようにすることで、表面積を更に大きくすることができ、大容量を得たい場合には特に有利である。また、回転による駆動力を更に確実に伝達することができるため、より好ましい。このような複雑な形態を用いる場合には、誘電体としては絶縁性被膜302を選択することが好ましい。
【0041】
図5は、本発明に係る電子写真感光体の層構成を説明するための模式的構成図であり、導電性の円筒状基体501の上に下部注入阻止層502、光導電層503、表面層504が順に積層された電子写真感光体である。光導電層503は水素を含むa−Siからなる。
図5に示した各層の形成は、プラズマCVD法によって、所望特性が得られるように成膜パラメーターの数値条件が適宜設定されて作製される。
【0042】
(円筒状基体)
円筒状基体501の材質としては、加工性や製造コストを考慮するとアルミニウムが優れている。この場合、Al−Mg系合金(JIS5000系)、Al−Mg−Si系合金(JIS6000系)、Al−Mn系合金(JIS3000系)のいずれかを用いることが好ましいが、特にJIS5000系、6000系合金がより好適である。
次に、電子写真感光体の表面を平滑、清浄面とする目的で、また中心からの外周面精度を得る目的で、上記円筒状基体の外周面を切削加工する。その後、切削油や切削屑を取り除くために洗浄を行う。
【0043】
(下部注入阻止層)
円筒状基体501と光導電層503との間にシリンダー側からの電荷の注入を阻止する働きを有する下部注入阻止層502を設けることが効果的である。下部注入阻止層502には伝導性を制御する原子を含有させる。
伝導性を制御するために下部注入阻止層502に含有させる原子としては、帯電極性に応じて第13族原子又は第15族原子を用いることができる。
【0044】
更に、下部注入阻止層502には、炭素原子、窒素原子および酸素原子のうち少なくとも1種の原子を含有させることにより、下部注入阻止層502と円筒状基体501との間の密着性の向上を図ることが可能となる。
下部注入阻止層502の膜厚は、所望の電子写真特性が得られること及び経済的効果等の点から、好ましくは0.1〜10.0μm、より好ましくは0.3〜5.0μm、さらに好ましくは0.5〜3.0μmとされる。膜厚を0.1μm以上とすることにより、円筒状基体501からの電荷の注入阻止能を十分に有することができ、好ましい帯電能を得ることができる。一方、10.0μm以下とすることにより、作製時間の延長による製造コストの増加を防ぐことができる。
【0045】
(光導電層)
光導電層502は水素を含むa−Siからなり、伝導性をコントロールするための不純物原子として第13族原子、第15族原子を適宜添加しても良い。また、抵抗値などの特性を調整するために、酸素、炭素、窒素などの原子を適宜添加しても良い。
水素原子(H)の含有量の合計は、ケイ素原子と水素原子の和に対して10原子%以上、特に15原子%以上であることが好ましく、また、30原子%以下、特に25原子%以下であることが好ましい。また、水素原子と同様の効果を得る目的で、フッ素などのハロゲン原子を水素原子に加えて用いることもできる。
【0046】
光導電層502の膜厚は、所望の電子写真特性が得られること、経済的効果等の点から所望にしたがって適宜決定される。よって、15μm以上、特に20μm以上とすることが好ましく、また、60μm以下、特に50μm以下、さらには40μm以下とすることが好ましい。15μm以上とすることで所望の帯電能が得られやすい。また、製造コストの点から60μm以下とすることがより好ましい。
【0047】
(表面層)
表面層504は、連続繰り返し使用耐性、耐湿性、使用環境耐性、電気特性に関して良好な特性を得るために設けられている。
表面層504の材質は、例えばケイ素原子と炭素原子を母体する非単結晶材料が好適に使用できる。また、水素原子及び/又はハロゲン原子を膜中に適宜含んでいてもよい。また、窒素原子、酸素原子を適宜含んでもよく、a−SiCON系の材料としても構わない。
【0048】
また、表面層504中に水素原子が含有されることが好ましいが、水素原子はケイ素原子の未結合手を補償し、層品質の向上、特に電荷保持特性を向上させる。
ここではa−SiC系の材料を一例として挙げたが、これに限定されるものではなく、所望の特性が得られれば他の材料を用いても構わない。
表面層の層厚としては、通常0.01〜3μm、好適には0.05〜2μm、最適には0.1〜1μmとされるのが望ましいものである。層厚が0.01μmよりも薄いと電子写真感光体の使用中に磨耗により表面層が失われる場合があり、3μmを越えると残留電位の増加などの電子写真特性の低下が発生する場合がある。
【0049】
<製造装置及び製造方法>
以下、図1の装置を用いた電子写真感光体の形成方法の手順の一例について説明する。
反応容器101内に円筒状基体102を含む中心電極117を設置し、電力導入端子106を介して電源107に接続したのち、不図示の排気装置(例えば真空ポンプ)により反応容器101内を排気する。
【0050】
次に、ガス導入手段110により堆積膜形成に用いるガスを反応容器101に供給する。原料ガスは不図示のガスボンベから不図示のマスフローコントローラーを介して流量設定され、ガス導入手段110に接続されている。ガスを流入しながら、不図示の排気速度調整手段により排気速度を操作し、反応容器101内の圧力が所望の圧力になるように調整する。ここで言う排気速度の調整とは具体的には、例えばメカニカルブースターポンプの回転数を操作することやバルブの開度を操作することが挙げられる。
【0051】
内圧が安定したところで、電源107を所望の周波数、所望の電力に設定する。例えば、周波数100kHzの矩形波の電力を中心電極117に供給しグロー放電を生起させる。この放電エネルギーによって反応容器101内に導入させた原料ガスが分解され、円筒状基体102上にアモルファスシリコンを主成分とする所望の光導電層が積層される。
このとき、あらかじめ実験によりムラが最も抑制される端部容量となる侵入長さを求めておき、その長さだけ円筒状可動部材108をホルダー103の中に侵入させる。これにより、反射電力の影響を小さくして電力分布を均一化し、堆積膜形成処理の均一化を図ることができる。
【0052】
所望の膜厚の形成がおこなわれた後、電力の供給とガスの供給を止め、光導電層503の積層を終える。
続いて表面層504を積層する場合や光導電層503と円筒状基体501の間に下部注入阻止層502を積層する場合も基本的には上記と同様の操作を行う。このとき、それぞれの堆積膜形成条件によって、端部領域の適正容量が若干異なっていることが実験的に明らかとなっている。あらかじめ実験で求めた適正容量となるように、各層の積層時に円筒状可動部材を所望の長さだけ侵入させて処理する。
【0053】
また、更に均一性が要求される場合には、各処理中においても容量を逐次変化させることもできる。例えば、電子写真感光体においては、光導電層503の形成時間は非常に長く数時間を要する。このとき、光導電層503の堆積初期における最適なインピーダンスと、堆積末期における最適なインピーダンスは若干異なっている。そこで、温度計115に接続した温度計表示部116の値をモニターしておき、温度が一定になるように端部領域の最適インピーダンスの逐次調整を行うことができる。また、このような一定条件処理中におけるインピーダンスの微調整は、表面層504や下部注入阻止層502においても同様に対応することができる。
このような方法で円筒状基体102上に各層を成膜した後、反応容器101内にNガスなどの不活性ガスを流入させ、反応容器101内を大気圧まで戻し、電子写真感光体を反応容器101から取り出す。
【実施例】
【0054】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
<実施例1>
外径84.0mmΦ、長さ381.0mm、肉厚3.0mmの切削加工したアルミニウム製の円筒状基体102を、キャップ104、ホルダー103と組み合わせ、図1に示したような成膜装置に設置した。円筒状可動部材108は図6のような構成とした。
ホルダー103の内径は73.0mm、円筒状可動部材108のリング部601の外径は72.5mmで、スリット幅は2mm、アルミナ溶射膜(比誘電率=約8)を形成した後に表面を研磨した。研磨後のアルミナの膜厚は200μmであった。
【0055】
これらの部材を反応容器中にセッティング後、押し当て部材118によりリング部601をホルダー103に密着させた。反応容器内を真空排気し、次にArガスを導入しながらホルダー内の不図示のヒーターにて所定の温度まで加熱した。次に、原料ガスを導入し、中心電極117に電力を投入して放電を開始した。電源としては周波数50kHz、デューティー比50%のパルス電源を用い、マイナスのパルス電圧を中心電極117に給電した。膜堆積条件は表1に示した値とし、順次積層を行って電子写真感光体を完成させた。
【0056】
このとき、円筒状可動部材108は、下部注入阻止層、光導電層、又は表面層の作製の際に、それぞれ14mm、18mm、又は10mmだけ、ホルダー103内部に侵入させた。
この数値は、あらかじめ最も均一な処理が可能な端部容量を実験的に選んだものである。具体的には、円筒状可動部材108のホルダー103への侵入部分113の長さを固定し、円筒状基体上に下部注入阻止層を5μm堆積させた。次に渦電流膜厚計(HELMUT FISCHER社製FISHERSCOPE mms+プローブETA3.3H)を用いて、形成された堆積膜の膜厚を軸方向に中央から±17cmの区間を2cm間隔で、周方向に30度間隔で測定した。この計216点の膜厚データの最大最小の値の差をもって膜厚面内ムラと定義した。円筒状可動部材108のホルダー103への侵入部分113は、10mm間隔で0〜60mmまで変えて作製・評価し、膜厚面内ムラが小さい位置の前後で更に2mm間隔で作製・評価し、最終的に最も小さい侵入量を2mm刻みで選択した。
【0057】
光導電層、表面層においても円筒状可動部材108のホルダー103への侵入部分113の長さを、同様の手法で最も膜厚面内ムラが小さい値に決定した。
各層においては円筒状可動部材108のホルダー103への侵入部分113の長さは、該当する処理中は一定(各層の堆積膜形成処理に適した値)とし、層を変えるタイミングで変化させた。
得られた電子写真感光体について、以下のような評価を行った。
【0058】
(端部領域の暗部電位軸ムラの測定)
それぞれの電子写真感光体を、電子写真装置(キヤノン製iRC6880N)に設置し、ロータリー現像器の位置に電位計(Trek社製電位計344)のプローブを感光体軸方向に可動な状態で設置する改造を行い軸方向の電位分布を測定した。このとき、プロセススピードを273mm/sec、前露光(波長660nmのLED)の光量を4μJ/cm、主帯電器に流す電流を1000μAとした。像露光のレーザーはオフとした。
【0059】
次に、中央から−130mm〜+130mmの領域において、軸方向に20mm刻みで14点の測定点で周方向平均の電位を求め、この14点の電位データの平均が450Vとなるように主帯電器のグリッドに印加する電圧を調整する。次に、±140mmを含み、±140mmより外側の領域を端部領域とし、+140mm〜+170mmの端部領域及び−140mm〜−170mmの端部領域で、10mm刻みで周方向平均電位を測定する。この10mm刻みの電位データを更に+側、−側の各々の端部領域で平均化する。そして中央から−130mm〜+130mmの領域での平均電位である450Vからの差分が大きい方の端部領域の平均電位をVbとしたとき、
|Vb−450|/450(単位:%)を端部領域電位軸ムラと定義する。
この端部領域電位軸ムラについて、比較例1(A)の感光体を基準として以下のように区分した。
【0060】
AA…端部領域電位軸ムラが比較例1(A)の感光体に対して35%より小さい
A…端部領域電位軸ムラが比較例1(A)の感光体に対して35%以上、50%より小さい
B…端部領域電位軸ムラが比較例1(A)の感光体に対して50%以上、75%より小さい
C…端部領域電位軸ムラが比較例1(A)の感光体に対して75%以上、105%より小さい
D…端部領域電位軸ムラが比較例1(A)の感光体に対して105%以上
この評価においては、ランクB以上で本発明の効果が得られていると判断した。
【0061】
(端部領域の明部電位軸ムラの測定)
端部領域の暗部電位軸ムラ測定と同様の手順により、−130mm〜+130mmの範囲の暗部の平均電位が450Vになるようにグリッド電圧を調整する。次に、全面(±160mm)にレーザー露光光を照射し、明部電位を中央から−130mm〜+130mmの領域で20mm刻みで周方向平均電位を測定し、これら14点の測定点の電位データの平均が100Vとなるように露光量を調整する。次に、電位計を用いて表面電位を、±140mmを含み±140mmより外側の領域を端部領域とし、+140mm〜+160mmの端部領域及び−140mm〜−160mmの端部領域での10mm刻みでの周方向平均電位を求める。更に+側、−側の各々の端部領域において電位データの平均を取る。中央から−130mm〜+130mmの領域での平均電位である100Vからの差分が大きい方の端部領域の平均電位をVbとしたとき、|Vb−100|/100(単位:%)を端部領域電位軸ムラと定義する。
この端部領域電位軸ムラについて、比較例1(A)の感光体を基準として以下のように区分した。
【0062】
AA…端部領域電位軸ムラが比較例1(A)の感光体に対して65%より小さい
A…端部領域電位軸ムラが比較例1(A)の感光体に対して65%以上、80%より小さい
B…端部領域電位軸ムラが比較例1(A)の感光体に対して80%以上、95%より小さい
C…端部領域電位軸ムラが比較例1(A)の感光体に対して95%以上、105%より小さい
D…端部領域電位軸ムラが比較例1(A)の感光体に対して105%以上
この評価においては、ランクB以上で本発明の効果が得られていると判断した。
得られた結果を比較例1の結果と合わせて表2に示した。
【0063】
<比較例1>
実施例1と同様にして、表1の条件で電子写真感光体を作製した。電源は実施例1と同様に50kHz、デューティー比50%のパルス電源、マイナスのパルス電圧を中心電極117に印加する構成とした。
このとき、図1の装置において、以下の3通りの方法でそれぞれの感光体を作製した。
比較例1(A):円筒状可動部材108を取り外した、
比較例1(B):円筒状可動部材108の侵入量を、光導電層にとっての最適位置である18mmに固定して全層の膜堆積を行った、
比較例1(C):円筒状可動部材108の侵入量を、表面層にとっての最適位置である10mmに固定して全層の膜堆積を行った。
【0064】
得られたそれぞれの電子写真感光体について、実施例1と同様の評価を行った。
得られた結果を実施例1の結果と合わせて表2に示した。
実施例1では、端部領域の電位軸ムラは、暗部電位、明部電位共に比較例1(A)に比べて大きく改善していた。端部領域での放電が一様で安定していたためと理解される結果となった。
一方、比較例1(B)は、円筒状可動部材108の侵入量が、光導電層に最適化された一定値で作製されたものである。光導電層と下部注入阻止層とでは最適な侵入量が近いため侵入量を一定とした影響は少ないと思われ、暗部電位に関しては非常に良好な値であった。一方、明部電位のムラは比較例1(A)とさほど変わらない結果となった。この原因としては、光導電層と表面層とでは最適な侵入量が大きく異なっており、表面層の端部領域で放電が強くなってしまったためと考えられる。結果、表面層の膜厚や屈折率などの特性が変化し、明部電位のムラが残ってしまったと考えられる。
【0065】
また、比較例1(C)では、表面層に最適化された容量であるために、下部注入阻止層と光導電層の膜厚ムラは、改善が少なかった。この結果、暗部電位は比較例1(A)と同様のランクとなった。表面層の特性ムラは小さいものの、暗部電位にムラが残っている以上明部電位のムラの改善は実施例1には及ばない結果となった。
以上の結果から、中心電極117の給電端部と反対側の端部のインピーダンスを変化させる構成を用い、且つ処理条件に最適化された容量に調整して感光体を作製することにより、端部領域の電位ムラが軽減されることが確かめられた。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
<実施例2>
実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。電源は3kHz、デューティー比50%のパルス電源、マイナスのパルス電圧を中心電極117に印加する構成とした。
図1の装置において、円筒状可動部材108を絶縁する誘電体が異なる以下の2通りの方法で実験を行った。
(A):厚さ100μmのPTFEシート(比誘電率=約2)を用いた、
(B):厚さ220μmの窒化アルミニウム膜(比誘電率=約8.5)を用いた。
(A),(B)それぞれの構成において、下部注入阻止層、光導電層、表面層における円筒状可動部材108の最適な侵入量を実験的に求めた。実施例2(A)の場合、それぞれ38mm、50mm、26mmであり、実施例2(B)の場合、それぞれ20mm、26mm、14mmであった。この値に設定しながら、表1の条件でそれぞれの層を形成し、電子写真感光体を完成させた。
【0069】
得られた電子写真感光体について、実施例1と同様の評価を行った。
加えて、本実施例では処理装置の耐久性に関しても評価した。それぞれの装置を用いて、複数回の膜形成後にどれだけ良好な特性を維持し続けるかという観点で試験を行った。具体的には、10回ずつ処理を行って10本ずつ感光体を作製し、1回目と10回目の電子写真感光体を評価して、10回目の電子写真感光体の電位ムラ抑制効果が1回目に比べてどの程度低下しているかを確認した。
【0070】
(耐久性の評価)
10回の膜堆積を行った後、1回目と10回目の電子写真感光体について実施例1における端部領域の暗部の平均電位の測定を行い、端部領域の+側と−側のそれぞれで中央から±130mmの暗部の平均電位との差分が大きい方をそれぞれVb(1)、Vb(10)とした。次に、両者の差分の割合である|Vb(10)−Vb(1)|/450Vを求め、暗部電位軸ムラの増加分と定義した。以下のようにランク分けした。
【0071】
AA…1回目に比べて10回目の暗部電位軸ムラ増加分が0.5%以下
A…1回目に比べて10回目の暗部電位軸ムラ増加分が0.5%より大きく1%以下
B…1回目に比べて10回目の暗部電位軸ムラ増加分が1%より大きく3%以下
C…1回目に比べて10回目の暗部電位軸ムラ増加分が3%より大きく5%以下
D…1回目に比べて10回目の暗部電位軸ムラ増加分が5%より大きい
なお、ランクB以上で本発明の効果が得られていると判断した。
【0072】
以上の結果を表3に示した。
表3に示したとおり、どちらの誘電体を用いた場合でも、1回目の結果では比較例1(A)に比べて極めて良好な結果であった。このことから、誘電体としてはライナー状のものを設置しても、膜状のものを形成しても効果としては変わらないことが確かめられた。一方、10回の処理における耐久性を比較したところ、テフロン(登録商標)シートの方がやや電位軸ムラが増加した。円筒状可動部材108周辺を詳しく調べたところ、テフロン(登録商標)シートが若干変形していることが分かった。このために容量が変化してしまったと考えられ、ライナー状のものを設置するよりは薄膜を形成した方が耐久性の観点からより好ましいことが分かった。
【0073】
【表3】

【0074】
<実施例3>
実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。電源は300kHz、デューティー比50%のパルス電源、マイナスのパルス電圧を中心電極117に印加する構成とした。
ただし、図1の装置において、モーター114を上部に設置し、電流導入端子を駆動軸とし、上端部を回転駆動する形態に変更した。
また、本実施例ではホルダー103と円筒状可動部材108とを意図的に接しないようにする場合と接するようにした場合との差を見るために、絶縁膜の膜厚を薄くしたもの(A)と厚くしたもの(B)とで比較した。
(A):厚さ50μmのカーボン膜(比誘電率=約8)、
(B):厚さ200μmの窒化ケイ素膜(比誘電率=約7)。
【0075】
また、ホルダー103と円筒状可動部材108とが密着できる構成か否かは以下のとおりとした。
(A):図4(a)のように密着させる機構がなく、円筒状可動部材108は単純な円筒状、
(B):図6のように押し当て部材118を押し込むことにより円筒状可動部材108とホルダー103とが密着できる構成。
この結果、(A)の方はホルダー103と円筒状可動部材108は接しておらず、誘電率の小さい空隙が生じている。
【0076】
それぞれの構成において、下部注入阻止層、光導電層、表面層における円筒状可動部材の最適な侵入量を実験的に求めた。実施例3(A)の場合、それぞれ46mm、60mm、32mmであり、実施例3(B)の場合、それぞれ8mm、12mm、6mmであった。この値を用い、表1の条件でそれぞれの層を形成し、電子写真感光体を完成させた。
以上のような装置構成を用い、表1の条件でそれぞれの層を形成し、電子写真感光体を完成させた。
得られた電子写真感光体について、実施例1と同様の評価を行った。
【0077】
加えて、本実施例では処理の安定性やバラつきに関しても評価するため、それぞれの装置構成を用いて10回ずつ処理を行い、10本ずつ感光体を作製した。
【0078】
(バラつきの評価)
10本の感光体のそれぞれについて実施例1に示した方法で暗部電位ムラ及び明部電位ムラの測定を行った後に以下のように評価した。
AA…暗部電位ムラ及び明部電位ムラの全てがAA評価だった場合
A…暗部電位ムラ又は明部電位ムラの最低評価として1つでもAがあった場合
B…暗部電位ムラ又は明部電位ムラの最低評価として1つでもBがあった場合
C…暗部電位ムラ又は明部電位ムラの最低評価として1つでもCがあった場合
D…暗部電位ムラ又は明部電位ムラの最低評価として1つでもDがあった場合
【0079】
即ち、10回の測定において、暗部電位軸ムラ、明部電位軸ムラのいずれも、9回目までは安定してA判定が得られたとしても、10回目に作製した感光体の明部電位ムラがC判定だった場合、その装置構成のバラつきはC判定と見なす。なお、ランクB以上で本発明の効果が得られていると判断した。
以上の結果を表4に示した。
【0080】
表4に示したとおり、どちらの誘電体を用いた場合でも、1回目の結果では比較例1(A)に比べて極めて良好な結果であった。このことから、ホルダー103と円筒状可動部材108との間に誘電体に加えて空隙があったとしても、同様に効果が得られることが確かめられた。一方、10回の処理におけるバラつきを比較したところ、意図的に空隙を生じさせた実施例3(A)でややバラつきが発生した。ムラがやや悪かった回での放電の様子を調べると、パルス電源からの出力電流が微小ながら回転周期で脈打つ現象が観察されていたことが分かった。これはホルダーの設置時のバラつきにより、回転に微小な偏芯が発生して空隙が微妙に変化し、端部容量が若干ながら変化したためではないかと考えている。以上の結果から、空隙をなくして少なくとも一部が接していることが、安定性や再現性の点からより好ましいことが分かった。
【0081】
【表4】

【0082】
<実施例4>
実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製した。電源は100kHz、デューティー比50%のパルス電源、マイナスのパルス電圧を中心電極117に印加する構成とした。
図1の装置において、円筒状可動部材108を絶縁する部材として、厚さ200μmのカーボン膜を用いた。下部注入阻止層、光導電層、表面層における円筒状可動部材の最適な侵入量を実験的に求めたところ、それぞれ12mm、16mm、8mmであった。各層の膜形成開始時にこの条件を初期条件として放電をスタートさせた。
【0083】
放電開始後、円筒状可動部材108に埋め込んだ温度計115からの温度データを温度計表示部116から読み取った。放電を開始してから10分程度で温度が安定することが実験的に確かめられているため、各層の膜形成開始から10分後の温度を当該層の最適温度と定めた。この最適温度を維持するように、当該層の膜形成中に円筒状可動部材108を微小量上下動させた。温度は追従に時間がかかるため、5分間の平均温度で調整を行うようにした。
【0084】
表1の条件でそれぞれの層を形成し、電子写真感光体を完成させた。
結果を表5に示す。比較例1(A)の基準に対して極めて均一性の高い処理が行われたことが分かった。以上の点から、円筒状可動部材の温度をモニターしそれを一定になるように制御することで、端部領域に形成されたコンデンサーへ流れ込む電流を一定に維持することができ、その結果として端部容量を一定に維持できることが分かった。このような微調整により、更に処理の均一性を高めることが可能であることが分かった。
【0085】
【表5】

【符号の説明】
【0086】
101 反応容器
102 円筒状基体
103 ホルダー
104 キャップ
105 サセプター
106 電力導入端子
107 電源
108 円筒状可動部材
109 排気口
110 ガス導入手段
111 軸
112 アースばね
113 侵入部分
114 モーター
115 温度計(温度センサー)
116 温度計表示部
117 中心電極
118 押し当て部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の中心電極の少なくとも一部を兼ねる円筒状基体を、減圧かつ電気的に接地された反応容器の内部に設置し、電源から前記中心電極の一方の端部領域を経由して電力を供給することで前記中心電極と反応容器との間に交番電圧を印加し、前記円筒状基体の上に堆積膜を形成する電子写真感光体の製造方法において、
前記中心電極の端部領域であって前記電源に接続されている端部領域とは反対側の端部領域の内側に、電気的に接地された円筒状可動部材を誘電体を介して挿入することで、前記中心電極の反対側の端部、前記誘電体及び前記円筒状可動部材からなるコンデンサーを形成し、前記円筒状可動部材の侵入部分の長さを変化させることによって前記コンデンサーの容量を堆積膜形成処理に適した値に変化させた状態で堆積膜を形成することを特徴とする、電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記誘電体が、前記中心電極の内周面、及び/又は前記円筒状可動部材の外周面に形成された絶縁性の膜である請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記中心電極の内周面の少なくとも一部が誘電体を介して前記円筒状可動部材の外周面に接していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
前記堆積膜形成処理が、複数の層を形成する処理であって、前記コンデンサーの容量を、各層の堆積膜形成処理に適した値に変化させた状態で各層の堆積膜を形成する請求項1ないし3のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項5】
前記円筒状可動部材が、前記中心電極を回転させる回転軸を兼ねる請求項1ないし4のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項6】
前記円筒状可動部材の外周面に外歯歯車が形成されており、且つ前記中心電極の内周面にも内歯歯車が形成されており、前記円筒状可動部材を前記中心電極に嵌合して回転せしめる請求項5に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項7】
前記円筒状可動部材のコンデンサーを形成する領域の近傍に温度計を設置し、前記コンデンサーの温度をモニターし、前記温度の変化に対応して、前記コンデンサーの容量を調整する請求項1ないし6のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−92635(P2013−92635A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234325(P2011−234325)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】