説明

電子回路装置

【課題】封止樹脂部の成型時におけるフレキシブル配線板の接着剤の層の変形を抑制すると共に接着剤の層の変形に起因したフレキシブル配線板の劣化を抑制する。
【解決手段】電子回路装置20は、回路基板22と、フレキシブル配線板23と、回路基板22とフレキシブル配線板23の一部とを封止するようにモールド成形された封止樹脂部25a,25bと、フレキシブル配線板23に接着された放熱プレート24とを含み、フレキシブル配線板23は、ベースフィルム230と、放熱プレート24に接着されない第2カバーフィルム234uと、両者により覆われる第2配線用導体232uとを含み、フレキシブル配線板23と封止樹脂部25aの外周部との境界の外側かつベースフィルム230と第2カバーフィルム234uとの間には、配線として機能しないダミー配線材30が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路装置に関し、特に、電子部品が実装された回路基板を含む電子回路装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電子回路装置として、可撓性を有するベース基材の一方の面側に設けられた第1配線パターンとベース基材の他方の面側に設けられた第2配線パターンとを有するフレキシブル配線板と、フレキシブル配線板の一方の面側に実装されると共に第1配線パターンと電気的に接続された電子部品と、フレキシブル配線板の一方の面側に設けられて電子部品を封止する第1モールド樹脂部と、フレキシブル配線板の他方の面側に設けられて少なくとも電子部品に対向する領域を封止する第2モールド樹脂部とを備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この電子回路装置の第1モールド樹脂部の外周縁かつその外周縁近傍の領域には、フレキシブル配線板の表面(接着層の表面)に第1配線パターンがなく、かつ、フレキシブル配線板の表面とベース基材との間に第1配線パターンがない。また、第2モールド樹脂部の外周縁かつその外周縁近傍の領域には、フレキシブル配線板の表面(保護層の表面)に第2配線パターンがなく、かつ、フレキシブル配線板の表面とベース基材との間に第2配線パターンがない。これにより、この電子回路装置では、モールド樹脂部のトランスファーモールド成形に際して第1、第2配線パターンを切断、損傷するような金型の型締め圧力(クランプ圧)が第1、第2配線パターンに加わることを抑制し、配線パターンを切断、損傷することなくフレキシブル配線板上に実装された電子部品をモールド樹脂部により封止することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−108362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の電子回路装置のように、第1、第2モールド樹脂部の外周縁かつその外周縁近傍の領域であってフレキシブル配線板の表面とベース基材との間に第1、第2配線パターンが存在しないようにすると、第1、第2モールド樹脂部の外周縁かつその外周縁近傍であって第1、第2配線パターンが存在しない箇所の接着層の厚みが増すことになり、モールド樹脂部のトランスファーモールド成形に際して第1、第2配線パターンにクランプ圧が作用するのを抑制し得たとしても、厚みのある接着層がクランプ圧により少なからず変形する。そして、このように接着層が変形すると、接着層の変形に起因してフレキシブル配線板にいわゆる層間剥離等が発生してしまうおそれがある。なお、このような接着層の変形は、上記特許文献に記載された複層構造(両面構造)を有するフレキシブル配線板のみならず、単層構造(片面構造)を有するフレキシブル配線板においても起こり得る。
【0005】
そこで、本発明は、封止樹脂部の成型時におけるフレキシブル配線板の接着剤の層の変形を抑制すると共に接着剤の層の変形に起因したフレキシブル配線板の劣化を抑制することができる電子回路装置の提供を主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電子回路装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0007】
本発明による電子回路装置は、
電子部品が実装された回路基板と、配線用導体と該配線用導体の上下面を覆う一対の絶縁性フィルムとを含むと共に前記回路基板と外部機器との電気的接続を可能とするフレキシブル配線板と、前記回路基板と前記フレキシブル配線板の一部とを封止するようにモールド成形された樹脂からなる封止樹脂部とを含む電子回路装置であって、
前記フレキシブル配線板の前記配線用導体は、前記一対の絶縁性フィルムの少なくとも何れか一方に接着剤の層を介して接着されており、前記フレキシブル配線板と前記封止樹脂部の外周部との境界の外側かつ前記一対の絶縁性フィルム同士の間には、配線として機能しないダミー配線材が配置されていることを特徴とする。
【0008】
この電子回路装置では、フレキシブル配線板の配線用導体が一対の絶縁性フィルムの少なくとも何れか一方に接着剤の層を介して接着されており、フレキシブル配線板と封止樹脂部の外周部との境界の外側かつ一対の絶縁性フィルム同士の間には、配線として機能しないダミー配線材が配置されている。このように、フレキシブル配線板と封止樹脂部の外周部との境界の外側かつ一対の絶縁性フィルム同士の間にダミー配線材を配置することにより、ダミー配線材周辺における接着剤の層の厚みを減らすことができるので、封止樹脂部のモールド成形に際して接着剤の層が変形してしまうのを抑制すると共に、接着剤の層の変形に起因したフレキシブル配線板の劣化を良好に抑制することが可能となる。
【0009】
また、前記封止樹脂部は、上型および下型を用いてモールド成型されてもよく、前記ダミー配線材は、前記上型および前記下型の型締めに伴って該上型または該下型から圧力が加えられる前記フレキシブル配線板のクランプ領域の内面側に配置されてもよい。このようにフレキシブル配線板のクランプ領域の内面側にダミー配線材を配置することにより、当該クランプ領域付近における接着剤の層の厚みを減らすことができるので、封止樹脂部のモールド成形に際し、クランプ圧により接着剤の層が変形してしまうのを抑制すると共に、接着剤の層の変形に起因したフレキシブル配線板の劣化を良好に抑制することが可能となる。
【0010】
更に、前記電子回路装置は、前記フレキシブル配線板に接着された放熱部材を更に備えてもよく、前記封止樹脂部は、前記回路基板と前記フレキシブル配線板の一部と前記放熱部材の一部とを封止してもよく、前記フレキシブル配線板は、前記放熱部材に接着される第1の絶縁性フィルムと、前記放熱部材に接着されない第2の絶縁性フィルムと、前記第1の絶縁性フィルムと絶縁性を有する中間フィルムとにより覆われる第1の配線用導体と、前記中間フィルムと前記第2の絶縁性フィルムとにより覆われる第2の配線用導体とを含んでもよく、前記第1の配線用導体は、前記第1の絶縁性フィルムと前記中間フィルムとの少なくとも何れか一方に接着剤の層を介して接着されてもよく、前記第2の配線用導体は、前記中間フィルムと前記第2の絶縁性フィルムとの少なくとも何れか一方に接着剤の層を介して接着されてもよく、前記ダミー配線材は、前記第2の配線用導体と同一の材料からなると共に前記クランプ領域の内面側かつ前記第2の配線用導体が存在しない箇所に該第2の配線用導体と同層に配置されてもよい。このような複層構造を有するフレキシブル配線板と当該フレキシブル配線板に接着される放熱部材とを含む電子回路装置では、封止樹脂部のモールド成形に際し、フレキシブル配線板の第1の絶縁性フィルムに接着される放熱部材と、当該放熱部材に接着されないフレキシブル配線板の第2の絶縁性フィルムとにクランプ圧が直接作用することになる。従って、かかる電子回路装置では、クランプ領域の内面側であって放熱部材に接着されない第2の絶縁性フィルムと中間フィルムとの間の第2の配線用導体が存在しない箇所に当該第2の配線用導体と同層にダミー配線材を配置すれば、クランプ領域付近における第2の絶縁性フィルムと中間フィルムとの間の接着剤の層の厚みを減らすことができるので、封止樹脂部のモールド成形に際し、クランプ領域付近における第2の絶縁性フィルムと中間フィルムとの間の接着剤の層の変形と、当該接着剤の層の変形に起因したフレキシブル配線板の劣化を良好に抑制することが可能となる。そして、ダミー配線材を第2の配線用導体と同一の材料により形成すれば、フレキシブル配線板の製造に際して、ダミー配線材をクランプ領域の内面側かつ第2の配線用導体が存在しない箇所に容易に形成することができる。なお、ダミー配線材は、クランプ領域の内面側であって放熱部材に接着される第1の絶縁性フィルムと中間フィルムとの間の第1の配線用導体が存在しない箇所に当該第1の配線用導体と同層に配置されてもよい。
【0011】
また、前記電子回路装置において、前記ダミー配線材は、前記配線用導体と同一の材料からなると共に前記クランプ領域の内面側かつ前記配線用導体が存在しない箇所に該配線用導体と同層に配置されてもよい。これにより、単層構造を有するフレキシブル配線板を含む電子回路装置において、クランプ領域付近における一対の絶縁性フィルム間の接着剤の層の厚みを減らすことができるので、封止樹脂部のモールド成形に際し、クランプ領域付近における当該一対の絶縁性フィルム間の接着剤の層の変形と、当該接着剤の層の変形に起因したフレキシブル配線板の劣化を良好に抑制することが可能となる。そして、ダミー配線材を配線用導体と同一の材料により形成すれば、フレキシブル配線板の製造に際して、ダミー配線材をクランプ領域の内面側かつ配線用導体が存在しない箇所に容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例に係る電子回路装置20を示す断面図である。
【図2】電子回路装置20に含まれるフレキシブル配線板23の断面図である。
【図3】フレキシブル配線板23の一部を例示する模式図である。
【図4】電子回路装置20の製造工程を説明するための断面図である。
【図5】電子回路装置20に含まれるフレキシブル配線板23の平面図である。
【図6】変形例に係るフレキシブル配線板23Bを例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の一実施例に係る電子回路装置20を示す断面図である。同図に示す実施例の電子回路装置20は、図示しない車両用自動変速機を制御する電子制御装置として構成されており、例えばトランスミッションケースの下部に固定されたユニット台に搭載される。そして、実施例の電子回路装置20は、各種電子部品21が実装される回路基板22と、回路基板22に接着されて当該回路基板22と外部機器100との電気的接続を可能とするフレキシブル配線板(FPC:Flexible Printed Circuit Board)23と、フレキシブル配線板23に接着された放熱プレート(ヒートシンク)24と、回路基板22とフレキシブル配線板23の一部と放熱プレート24の一部とを封止するように成形された樹脂からなる封止樹脂部25aおよび25bとを備える。
【0015】
回路基板22は、セラミックといった耐熱性と熱伝導性とに優れると共に比較的小さい熱膨張係数をもった材料により形成された基材からなり、この基材の一方の面に形成された配線パターンを有する。回路基板22の配線パターンが形成された面は、ICチップを始めとする複数の電子部品21の実装面とされ、この実装面には、配線パターンに接続されたボンディング端子(回路側接続端子)26が複数配設されている。
【0016】
フレキシブル配線板23は、可撓性をもった変形可能な配線材であって、例えば0.1〜0.2mm程度の厚みを有するものである。実施例の電子回路装置20に含まれるフレキシブル配線板23は、図2に示すように、複層構造(両面構造)を有するものであり、ポリイミド樹脂といった絶縁性をもった樹脂からなるベースフィルム(中間フィルム)230と、ベースフィルム230の一方の面に接着剤層231uを介して貼着された銅箔等からなる第1配線用導体232lと、第1配線用導体232lやベースフィルム230に対して接着剤層231lを介して貼着されて第1配線用導体232lを覆う第1カバーフィルム(第1の絶縁性フィルム)234lと、ベースフィルム230の他方の面に接着剤層233lを介して貼着された銅箔等からなる第2配線用導体232uと、第2配線用導体232uやベースフィルム230に対して接着剤層233uを介して貼着されて第2配線用導体232uを覆う第2カバーフィルム(第2の絶縁性フィルム)234uとを含むものである。
【0017】
第1および第2カバーフィルム234l,234uもポリイミド樹脂といった絶縁性をもった樹脂からなり、実施例では、図1に示すように、第2カバーフィルム234uに対して回路基板22の裏面(非実装面)が接着される。そして、実施例のフレキシブル配線板23は、図1に示すように、それぞれ対応する第2配線用導体232uに接続された複数のボンディング端子(配線板側接続端子)236を有する。各ボンディング端子236は、第2カバーフィルム234uから露出しており、ボンディングワイヤ27を介して回路基板22の対応するボンディング端子26と接続される。更に、フレキシブル配線板23(主に第1配線用導体232l)には、外部機器100との接続に供されるコネクタ(図示省略)が接続されている。フレキシブル配線板23を介して回路基板22と接続される外部機器100には、自動変速機の油圧クラッチや油圧ブレーキを作動させる油圧回路に含まれるソレノイドバルブ、油温センサや油圧センサといった各種センサ類、他の電子制御ユニット等が含まれる。
【0018】
なお、実施例のフレキシブル配線板23は、ベースフィルム230の表裏面に接着剤層231u,233lを介して銅箔を貼着すると共にエッチング等によりベースフィルム230の表裏面に第1配線用導体232lのパターンと第2配線用導体232uのパターンとを形成した後、接着剤層231l,233uを介してベースフィルム230や第1配線用導体232l,第2配線用導体232uに第1カバーフィルム234lや第2カバーフィルム234uを貼着することにより製造される。従って、ベースフィルム230と第1カバーフィルム234lとの間の第1配線用導体232lが存在しない領域には、接着剤層231uと接着剤層231lとが一体化されて実質的に1層の接着剤層が形成される。同様に、ベースフィルム230と第2カバーフィルム234uとの間の第2配線用導体232uが存在しない領域には、接着剤層233lと接着剤層233uとにより実質的に1層の接着剤層233が形成される(図3参照)。
【0019】
放熱プレート24は、実施例において、普通鋼(SPCC)やクラッド材といった熱伝導性に優れると共に比較的小さい熱膨張係数をもった低膨張性金属からなる例えば矩形状の板体である。図1に示すように、放熱プレート24は、フレキシブル配線板23に対して回路基板22とは反対側から、すなわちフレキシブル配線板23の第1カバーフィルム234lに接着される。実施例では、フレキシブル配線板23の第1カバーフィルム234lと放熱プレート24とが接合された後、フレキシブル配線板23の第2カバーフィルム234uに対して回路基板22が接着され、それにより回路基板22、フレキシブル配線板23および放熱プレート24が一体化される。
【0020】
封止樹脂部25aおよび25bは、図4に示すように、一体化された回路基板22、フレキシブル配線板23および放熱プレート24を上型11と下型12とからなる成形金型10のキャビティ内にセットした後、例えばエポキシ樹脂といった熱硬化性樹脂を加熱加圧して溶融させると共に図示しないポットを介して溶融樹脂を成形金型10のキャビティ内に注入・加圧するトランスファーモールド成形により成形される。図1に示すように、図中上側の封止樹脂部25aは、回路基板22とフレキシブル配線板23の一部とを封止し、図中下側の封止樹脂部25bは、放熱プレート24の一部を封止する。図中上側の封止樹脂部25aと図中下側の封止樹脂部25bとの形状(質量)や位置は、封止樹脂部25a,25bと他の部材との間に作用する応力が緩和されるように定められる。なお、実施例の電子回路装置20が配置される自動変速機のユニット台にはATF(オートマチックトランスミッションフルード)が導入され、放熱プレート24の封止樹脂部25aおよび25bにより封止されていない露出部や封止樹脂部25aおよび25bの表面とATFとが熱交換することにより回路基板22にて発生する熱が外部に放出されることになる。
【0021】
ここで、実施例の電子回路装置20では、封止樹脂部25aおよび25bのモールド成形に際し、フレキシブル配線板23の第1カバーフィルム234lに接着される放熱プレート24と、当該放熱プレート24に接着されないフレキシブル配線板23の第2カバーフィルム234uとに成型金型10の型締めに伴う圧力(クランプ圧)が直接作用することになる。すなわち、実施例の電子回路装置20では、封止樹脂部25a,25bのトランスファーモールド成形に際して上型11と接するフレキシブル配線板23(第2カバーフィルム234u)のクランプ領域CA(図1および図4参照)に上型11からの圧力(クランプ圧)が加えられると共に、封止樹脂部25a,25bのトランスファーモールド成形に際して下型12と接する放熱プレート24のクランプ領域CA(図1および図4参照)に下型12からの圧力(クランプ圧)が加えられる。従って、クランプ圧が放熱プレート24により受けられることにより、フレキシブル配線板23の放熱プレート24側の領域は、クランプ圧による影響を比較的受けにくい。これに対して、フレキシブル配線板23の回路基板22側の領域は、第2カバーフィルム234u(クランプ領域CA)に直接クランプ圧が作用することから、クランプ圧による影響を比較的受けやすい。このため、実施例の電子回路装置20では、図1および図4に示すように、スルーホール238等を用いて回路基板22側の第2配線用導体232uと放熱プレート24側の第1配線用導体232lとを接続することにより、フレキシブル配線板23のクランプ領域CAの内面側であって第2カバーフィルム234uとベースフィルム230との間に配線用導体(銅箔)232uが存在しないように(配線用導体が第2カバーフィルム234u側を迂回するように)している。これにより、封止樹脂部25a,25bのモールド成形に際し、成形金型10の型締めに伴って回路基板22側の第2配線用導体232uが断線してしまうのを抑制することが可能となる。
【0022】
ただし、フレキシブル配線板23(第2カバーフィルム234u)のクランプ領域CAの内面側であって第2カバーフィルム234uとベースフィルム230との間に第2配線用導体232uが存在しないようにすると、何ら対策を施さなければ、図3に例示するように接着剤層233lと接着剤層233uとにより実質的に1層の接着剤層233が形成されることになり、当該接着剤層233の厚みdは、第2カバーフィルム234uとベースフィルム230との間であって第2配線用導体232uの上下に位置する接着剤層233l,233uの厚みdl,duに比べて大きくなる。そして、このように厚みのある接着剤層233は、封止樹脂部25a等のモールド成形に際してクランプ圧により少なからず変形し、接着剤層233が変形してしまうと、接着剤層233の変形に起因してフレキシブル配線板23にいわゆる層間剥離等が発生してしまうおそれがある。同様に、放熱プレート24のクランプ領域CAの内面側であって第1カバーフィルム234lとベースフィルム230との間の第1配線用導体232lが存在しない箇所にも、何ら対策を施さなければ、接着剤層231lと接着剤層231uとにより厚みのある接着剤層が形成される。そして、第1カバーフィルム234l側の厚みのある接着剤層にクランプ圧が作用すると、当該接着剤層が変形すると共に、当該変形に起因してフレキシブル配線板23にいわゆる層間剥離等が発生してしまうおそれがある。
【0023】
これを踏まえて、実施例の電子回路装置20では、図1、図4および図5に示すように、フレキシブル配線板23と封止樹脂部25aの外周部との境界の外側かつ第2カバーフィルム234uとベースフィルム230との間、すなわちフレキシブル配線板23のクランプ領域CAの内面側であって放熱プレート24に接着されない第2カバーフィルム234uとベースフィルム230との間の第2配線用導体232uが存在しない箇所に当該第2配線用導体232uと同一の材料(銅箔)からなると共に配線として機能しないダミー配線材30が配置される。すなわち、実施例では、ベースフィルム230に接着剤層233lを介して銅箔を貼着すると共にエッチング等によりベースフィルム230上に第2配線用導体232uのパターンと当該第2配線用導体232uから分離されたダミー配線材30のパターンとを形成した後、接着剤層233uを介してベースフィルム230等に対して第2カバーフィルム234uを貼着することにより、ダミー配線材30がクランプ領域CAの内面側かつ第2配線用導体232uが存在しない箇所に当該第2配線用導体232uと同層に配置される。また、実施例では、ベースフィルム230に接着剤層231uを介して銅箔を貼着すると共に、エッチング等によりベースフィルム230上に第1配線用導体232lのパターンと当該第1配線用導体232lから分離されたダミー配線材(図示省略)のパターンとを形成した後、接着剤層231lを介してベースフィルム230等に対して第1カバーフィルム234lを貼着することにより、放熱プレート24と封止樹脂部25bの外周部との境界の外側かつ第1カバーフィルム234lとベースフィルム230との間、すなわち放熱プレート24のクランプ領域CAの内面側であって放熱プレート24に接着される第1カバーフィルム234lとベースフィルム230との間の第1配線用導体232lが存在しない箇所に当該第1配線用導体232lと同一の材料(銅箔)からなると共に配線として機能しないダミー配線材(図示せず)が配置される。なお、実施例において、第2カバーフィルム234u側のダミー配線材30のパターンは、図5に示すように、封止樹脂部25aの外周に沿って例えば概ね矩形状に連なるものとされ、第1カバーフィルム234l側のダミー配線材は、同層の第1配線用導体232lと接触しないように分散した状態で配設される。
【0024】
以上説明したように、実施例の電子回路装置20では、フレキシブル配線板23と封止樹脂部25aの外周部との境界の外側かつ第2カバーフィルム234uとベースフィルム230との間に配線として機能しないダミー配線材30が配置されると共に、放熱プレート24と封止樹脂部25bの外周部との境界の外側かつ第1カバーフィルム234lとベースフィルム230との間に配線として機能しないダミー配線材(図示せず)が配置される。すなわち、実施例の電子回路装置20では、フレキシブル配線板23のクランプ領域CAの内面側であって放熱プレート24に接着されない第2カバーフィルム234uとベースフィルム230との間の第2配線用導体232uが存在しない箇所に当該第2配線用導体232uと同一の材料(銅箔)からなると共に配線として機能しないダミー配線材30が配置される。また、放熱プレート24のクランプ領域CAの内面側であって放熱プレート24に接着される第1カバーフィルム234lとベースフィルム230との間の第1配線用導体232lが存在しない箇所に当該第1配線用導体232lと同一の材料(銅箔)からなると共に配線として機能しないダミー配線材(図示せず)が配置される。
【0025】
これにより、フレキシブル配線板23のクランプ領域CA付近の第2カバーフィルム234uとベースフィルム230との間に接着剤層233lと接着剤層233uとからなる実質的に1層の接着剤層233ができるだけ形成されないようにすると共に、放熱プレート24のクランプ領域CA付近の第1カバーフィルム234lとベースフィルム230との間に接着剤層231lと接着剤層231uとからなる実質的に1層の接着剤層ができるだけ形成されないようにすることができる。つまり、実施例の電子回路装置20では、クランプ領域CA付近における接着剤の層の厚みを減らすことができるので、封止樹脂部25a,25bのモールド成形に際し、クランプ圧により接着剤の層が変形してしまうのを抑制すると共に、接着剤の層の変形に起因したフレキシブル配線板23の層間剥離といった劣化を良好に抑制することが可能となる。そして、上記実施例のように、ダミー配線材30を第1、第2配線用導体232l,232uと同一の材料(銅箔)により形成すれば、フレキシブル配線板23の製造に際して、ダミー配線材30等をフレキシブル配線板23や放熱プレート24のクランプ領域CAの内面側かつ第1、第2配線用導体232l,232uと同層に容易に形成することができる。
【0026】
なお、ダミー配線材30等はクランプ領域CAの内面側に配置されればよいが、強度を確保すべく、図1および図4に示すように、ダミー配線材30等をフレキシブル配線板23と封止樹脂部25aの外周部との境界あるいは放熱プレート24と封止樹脂部25bの外周部との境界の内側にまで延出してもよい。また、複層構造を有するフレキシブル配線板23と当該フレキシブル配線板23に接着される放熱プレート24とを含む電子回路装置20では、封止樹脂部25a,25bのモールド成形に際し、フレキシブル配線板23の第1カバーフィルム234lに接着される放熱プレート24と、当該放熱プレート24に接着されないフレキシブル配線板23の第2カバーフィルム234uとにクランプ圧が直接作用することになる。従って、フレキシブル配線板23の放熱プレート24側の領域は、上述のようにクランプ圧による影響を比較的受けにくい。従って、放熱プレート24に接着される第1カバーフィルム234l側のダミー配線材は省略されてもよい。
【0027】
更に、図2に示すフレキシブル配線板23においてベースフィルム230側の接着剤層231uおよび接着剤層233lを省略すると共に第1配線用導体232lおよび図示しないダミー配線材と第2配線用導体232uおよびダミー配線材30とをベースフィルム230に対してそれぞれ熱溶着により貼着してもよい。また、図2に示すフレキシブル配線板23において第1,第2カバーフィルム234l,234u側の接着剤層231lおよび接着剤層233uを省略すると共に第1配線用導体232lおよび図示しないダミー配線材と第2配線用導体232uおよびダミー配線材30とを第1または第2カバーフィルム234lまたは234uに対してそれぞれ熱溶着により貼着してもよい。これらの場合には、ベースフィルム230と第1カバーフィルム234lとの間の第1配線用導体232lが存在しない領域において接着剤層231lまたは231uの厚みが増すと共に、ベースフィルム230と第2カバーフィルム234uとの間の第2配線用導体232uが存在しない領域において接着剤層233uまたは233lの厚みが増すことになる。従って、これらの場合も、ダミー配線材30をフレキシブル配線板23のクランプ領域CAの内面側かつ第2配線用導体232uが存在しない箇所に当該第2配線用導体232uと同層に配置すると共に図示しないダミー配線材を放熱プレート24のクランプ領域CAの内面側かつ第1配線用導体232lが存在しない箇所に当該第1配線用導体232lと同層に配置することで、クランプ領域CA付近における接着剤の層の厚みを減らすことが可能となり、それにより、封止樹脂部25a,25bのモールド成形に際してクランプ圧により接着剤の層が変形してしまうのを抑制すると共に、接着剤の層の変形に起因したフレキシブル配線板23の層間剥離といった劣化を良好に抑制することができる。
【0028】
更に、上述の電子回路装置20に対して、複層構造(両面)を有するフレキシブル配線板23の代わりに、図6に示すような単層構造(片面構造)を有するフレキシブル配線板23Bが適用されてもよい。図6に例示するフレキシブル配線板23Bは、ポリイミド樹脂といった樹脂により形成された第1の絶縁性フィルムとしてのベースフィルム230Bと、このベースフィルム230B上に接着剤層231Bを介して貼着された銅箔等からなる配線用導体232Bと、配線用導体232Bやベースフィルム230Bに対して接着剤層233Bを介して貼着されて配線用導体232Bを覆う第2の絶縁性フィルムとしてのカバーフィルム234Bとを含む。このようなフレキシブル配線板23Bを用いた場合には、ダミー配線材30Bをクランプ領域の内面側かつ配線用導体232Bが存在しない箇所に当該配線用導体232Bと同層に配置すればよい。これにより、単層構造を有するフレキシブル配線板23Bを含む電子回路装置20において、クランプ領域付近における表裏一対のベースフィルム230Bとカバーフィルム234Bとの間の接着剤の層の厚みを減らすことができるので、封止樹脂部25a,25bのモールド成形に際し、クランプ領域付近におけるベースフィルム230Bとカバーフィルム234Bとの間の接着剤の層の変形と、当該接着剤の層の変形に起因したフレキシブル配線板23Bの層間剥離といった劣化を良好に抑制することが可能となる。なお、配線用導体232Bおよびダミー配線材30Bは、ベースフィルム230Bとカバーフィルム234Bとの一方に対して熱溶着により貼着されてもよい。また、上述の電子回路装置20に対して、3層以上の多層構造を有するフレキシブル配線板が適用されてもよいことはいうまでもない。
【0029】
そして、上述の電子回路装置20において、放熱プレート24が省略されてもよい。また、上述の電子回路装置20は、車両用自動変速機を制御するのに用いられるものとして説明されたが、これに限られるものではない。すなわち、電子回路装置20は、例えば内燃機関や電動機といった他の車載機器を制御する電子制御ユニットとして構成されてもよく、車載機器以外の機器を制御等する電子回路装置として構成されてもよい。
【0030】
ここで、実施例や変形例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。すなわち、実施例や変形例において、電子部品21が実装された回路基板22が「回路基板」に相当し、回路基板22と外部機器100との電気的接続を可能とするフレキシブル配線板23,23Bが「フレキシブル配線板」に相当し、回路基板22とフレキシブル配線板23等の一部と放熱プレート24の一部とを封止するように成形された樹脂からなる封止樹脂部25aおよび25bが「封止樹脂部」に相当し、ダミー配線材30,30Bが「ダミー配線材」に相当する。また、第1カバーフィルム234l、ベースフィルム230,230B、第2カバーフィルム234u、カバーフィルム234Bが「絶縁性フィルム」に相当し、第1配線用導体232l、第2配線用導体232uおよび配線用導体232Bが「配線用導体」に相当し、ベースフィルム230が「中間フィルム」に相当し、接着剤層231l,231u,231B,233l,233uおよび233Bが「接着剤の層」に相当する。ただし、これら実施例および変形例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施例はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【0031】
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、電子回路装置の製造産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
10 成形金型、11 上型、12 下型、20 電子回路装置、21 電子部品、22 回路基板、23,23B フレキシブル配線板、24 放熱プレート、25a,25b 封止樹脂部、26 ボンディング端子、27 ボンディングワイヤ、30,30B ダミー配線材、100 外部機器、230,230B ベースフィルム、231B,231l,231u,233,233B,233l,233u 接着剤層、232B 配線用導体、232l 第1配線用導体、232u 第2配線用導体、234B カバーフィルム、234l 第1カバーフィルム、234u 第2カバーフィルム、236 ボンディング端子、238 スルーホール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品が実装された回路基板と、配線用導体と該配線用導体の上下面を覆う一対の絶縁性フィルムとを含むと共に前記回路基板と外部機器との電気的接続を可能とするフレキシブル配線板と、前記回路基板と前記フレキシブル配線板の一部とを封止するようにモールド成形された樹脂からなる封止樹脂部とを含む電子回路装置であって、
前記フレキシブル配線板の前記配線用導体は、前記一対の絶縁性フィルムの少なくとも何れか一方に接着剤の層を介して接着されており、前記フレキシブル配線板と前記封止樹脂部の外周部との境界の外側かつ前記一対の絶縁性フィルム同士の間には、配線として機能しないダミー配線材が配置されていることを特徴とする電子回路装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子回路装置において、
前記封止樹脂部は、上型および下型を用いてモールド成型され、
前記ダミー配線材は、前記上型および前記下型の型締めに伴って該上型または該下型から圧力が加えられる前記フレキシブル配線板のクランプ領域の内面側に配置されることを特徴とする電子回路装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電子回路装置において、
前記フレキシブル配線板に接着された放熱部材を更に備え、
前記封止樹脂部は、前記回路基板と前記フレキシブル配線板の一部と前記放熱部材の一部とを封止しており、前記フレキシブル配線板は、前記放熱部材に接着される第1の絶縁性フィルムと、前記放熱部材に接着されない第2の絶縁性フィルムと、前記第1の絶縁性フィルムと絶縁性を有する中間フィルムとにより覆われる第1の配線用導体と、前記中間フィルムと前記第2の絶縁性フィルムとにより覆われる第2の配線用導体とを含み、
前記第1の配線用導体は、前記第1の絶縁性フィルムと前記中間フィルムとの少なくとも何れか一方に接着剤の層を介して接着されており、前記第2の配線用導体は、前記中間フィルムと前記第2の絶縁性フィルムとの少なくとも何れか一方に接着剤の層を介して接着されており、前記ダミー配線材は、前記第2の配線用導体と同一の材料からなると共に前記クランプ領域の内面側かつ前記第2の配線用導体が存在しない箇所に該第2の配線用導体と同層に配置されることを特徴とする電子回路装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電子回路装置において、
前記ダミー配線材は、前記配線用導体と同一の材料からなると共に前記クランプ領域の内面側かつ前記配線用導体が存在しない箇所に該配線用導体と同層に配置されることを特徴とする電子回路装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−18856(P2011−18856A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164063(P2009−164063)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】