説明

電子放出素子、電子放出ディスプレイ装置およびその製造方法

【課題】電子を均一に放出することができ、製造工程が簡単であり低コストで製造することの可能な電子放出素子と、この電子放出素子を備えて画素間の均一度を向上させることの可能なディスプレイ装置および電子放出素子の製造方法を提供する。
【解決手段】第1基板110と、第1基板110上に配置されたカソード電極120および電子放出源と、カソード電極120と電気的に絶縁されるように配置されたゲート電極140と、カソード電極120とゲート電極140との間に配置され、カソード電極120とゲート電極140とを絶縁する絶縁体層130と、カソード電極120に接するように配置され、半導体カーボンナノチューブを含む抵抗層125と、を備える電子放出素子101である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出素子、これを備えた電子放出ディスプレイ装置およびその製造方法に関し、より詳細には、電子放出源として冷陰極を利用する方式の電子放出素子と、これを備える電子放出ディスプレイ装置および電子放出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子放出素子は、電子放出源として熱陰極を利用する方式と冷陰極を利用する方式とがある。冷陰極を利用する方式の電子放出素子としては、FEA(Field Emitter Array)型、SCE(Surface Conduction Emitter)型、MIM(Metal Insulator Metal)型およびMIS(Metal Insulator Semiconductor)型、BSE(Ballistic electron Surface Emitting)型が知られている。
【0003】
FEA型は、仕事関数が小さい物質またはβ関数が大きい物質を電子放出源として使用する場合、真空中で電界差によって容易に電子が放出される原理を利用したものであって、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)などを主材質とした、鋭利な先端を有するチップ構造物や、グラファイト、DLC(Diamond Like Carbon)などの炭素系物質、そしてナノチューブやナノワイヤなどのナノ物質を電子放出源に適用した素子が開発されている。
【0004】
SCE型は、第1基板上に相互対向して配置された第1電極と第2電極との間に導電薄膜を備え、導電薄膜に微細亀裂を生じさせることによって電子放出源を形成した素子である。かかる素子は、電極に電圧を印加して導電薄膜の表面に電流を流すことにより、微細亀裂である電子放出源から電子が放出される原理を利用する。
【0005】
MIM型およびMIS型電子放出素子は、それぞれ金属−誘電層−金属(MIM:Metal−dielectric layer−Metal)と金属−誘電層−半導体(MIS:Metal−dielectric layer−Semiconductor)構造の電子放出源を形成し、誘電層を介して位置する二つの金属または金属と半導体との間に電圧を印加することによって、高い電子電位を有する金属または半導体から低い電子電位を有する金属方向に電子が移動および加速しながら放出される原理を利用した素子である。
【0006】
BSE型は、半導体のサイズを、半導体のうち電子の平均自由行程より小さい寸法領域まで縮小すると電子が散乱せずに走行する原理を利用して、オーミック電極上に金属または半導体からなる電子供給層を形成し、さらに電子供給層上に絶縁体層と金属薄膜とを形成して、オーミック電極と金属薄膜とに電源を印加することによって電子を放出させる素子である。
【0007】
このうち、FEA型電子放出素子は、カソード電極およびゲート電極の配置形態によって大きくトップゲート型とアンダーゲート型とに分類され、また、使用される電極の数によって、2極管、3極管または4極管に分類される。FEA型電子放出素子を利用したディスプレイ装置の例を、図1および図2に示す。
【0008】
図1は、従来のトップゲート型電子放出ディスプレイ装置の概略的な構成を示す部分斜視図である。図2は、図1のII−II線に沿って切り取った断面図である。
【0009】
図1および図2に示すように、従来の電子放出ディスプレイ装置1は、前面パネル1bと、前面パネル1bに対して平行に配置され、真空の発光空間3を形成する電子放出素子1aとを備える。さらに、前面パネル1bおよび電子放出素子1aとの間隔を維持するスペーサ60を備える。
【0010】
電子放出素子1aは、第1基板10と、第1基板10上に交差するように配置されたゲート電極40と、カソード電極20と、ゲート電極40とカソード電極20との間に配置され、ゲート電極40とカソード電極20とを電気的に絶縁する絶縁体層30とを備える。
【0011】
ゲート電極40とカソード電極20とが交差する領域には、電子放出源ホール31が形成されており、その内部に電子放出源50が配置されている。
【0012】
前面パネル1bは、第2基板90と、第2基板90の底面に配置されたアノード電極80と、アノード電極80の底面に配置された蛍光体層70とを備える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このようなFEA型電子放出素子を活用して画像を具現するディスプレイ装置を作成する場合に、画素間の輝度均一度が落ちる場合がある。これは、各電子放出源に印加される電圧に偏差が生じる場合に発生する問題であるが、このような問題によってディスプレイ装置の品位を大きく阻害することがあり、ディスプレイ装置の品質向上のためには、必ず解決せねばならない問題である。このため、このような画素間の均一度が低下する問題に対する解決策が強く要求されている。
【0014】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、電子を均一に放出することができ、製造工程が簡単であり低コストで製造することの可能な電子放出素子と、この電子放出素子を備えて画素間の均一度を向上させることの可能な、新規かつ改良されたディスプレイ装置および電子放出素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、第1基板と、第1基板上に配置されたカソード電極および電子放出源と、カソード電極と電気的に絶縁されるように配置されたゲート電極と、カソード電極とゲート電極との間に配置され、カソード電極とゲート電極とを絶縁する絶縁体層と、カソード電極に接するように配置され、半導体カーボンナノチューブ(CNT:Carbon Nano Tube)を含む抵抗層と、を備える電子放出素子が提供される。
【0016】
ここで、抵抗層は、10Ωcm〜10Ωcmの抵抗値を有することが望ましい。かかる抵抗層は、電子放出源とカソード電極との間に配置されてもよく、電子放出源の側面に接するように配置されてもよい。
【0017】
ここで、ゲート電極の上側を覆う第2絶縁体層と、第2絶縁体層によりゲート電極と絶縁され、ゲート電極と平行な方向に配置された集束電極と、をさらに備えることもできる。カソード電極とゲート電極とは、相互交差する方向に延びて配置されていることが望ましい。
【0018】
また、本発明の他の目的は、第1基板と、第1基板上に配置された複数のカソード電極と、カソード電極と交差するように配置された複数のゲート電極と、カソード電極とゲート電極との間に配置され、カソード電極とゲート電極とを絶縁する絶縁体層と、カソード電極とゲート電極とが交差する位置に形成された電子放出源ホールと、電子放出源ホール内に配置された電子放出源と、電子放出源とカソード電極何れにも接するように設置され、半導体CNTを含む抵抗層と、を備える電子放出ディスプレイ装置が提供される。かかる電子放出ディスプレイ装置は、第1基板と実質的に平行に配置される第2基板と、第2基板に配置されたアノード電極と、アノード電極に配置された蛍光体層と、を備えることを特徴とする。
【0019】
ここで、抵抗層は、10Ωcm〜10Ωcmの抵抗値を有することが望ましい。かかる抵抗層は、電子放出源とカソード電極との間に配置されてもよく、電子放出源の側面に接するように配置されてもよい。
【0020】
また、ゲート電極の上側を覆う第2絶縁体層と、第2絶縁体層によりゲート電極と絶縁され、ゲート電極と略平行な方向に配置された集束電極と、をさらに備えることもできる。
【0021】
さらに、本発明の他の目的は、基板、カソード電極、絶縁体層およびゲート電極を形成する素材を順次に形成する工程(a)と、ゲート電極素材の上面に、フォトレジストにより所定の厚さのマスクパターンを形成する工程(b)と、マスクパターンを利用して、ゲート電極、絶縁体層およびカソード電極を部分エッチングして電子放出源ホールを形成する工程(c)と、電子放出源および抵抗層に使われるCNTを半導体CNTと導体CNTとに分離する工程(d)と、工程(d)で分離された半導体CNTとネガティブ感光性物質とを含む抵抗層用カーボンペーストを電子放出源ホールに塗布する工程(e)と、導体CNTとネガティブ感光性物質とを含む電子放出用カーボンペーストを抵抗層用カーボンペースト上に塗布する工程(f)と、塗布されたカーボンペーストを選択的に露光して硬化させる工程(g)と、硬化されずに残っているカーボンペーストとフォトレジストとを除去する工程(h)と、を含む電子放出素子の製造方法が提供される。
【0022】
ここで、工程(e)、(f)、(g)は、順次に行われ、工程(g)は、一回の露光工程で抵抗層用カーボンペーストのうち抵抗層を形成する部分と、電子放出用カーボンペーストのうち電子放出源を形成する部分とを同時に硬化させることが望ましい。
【0023】
また、工程(e)、(f)、(g)は、工程(e)が行われた後に工程(g)が行われることによって抵抗層用カーボンペーストのうち抵抗層を形成する部分が選択的に硬化され、その後、工程(f)が行われた後に工程(g)がもう一度行われることによって電子放出用カーボンペーストのうち電子放出源を形成する部分を選択的に硬化させることができる。
【0024】
ここで、工程(d)は、ニトロニウム(NO)が含まれた溶液にCNTを混ぜる工程と、CNTが含まれた溶液に超音波を加えて金属性CNTを破壊する工程と、超音波処理が完了した溶液をフィルタで濾過して半導体CNTを得る工程と、を含むこともできる。
【0025】
さらに、抵抗層用カーボンペーストに含まれている半導体CNTの含量を調節して、抵抗層の最終抵抗値を調節する工程を含んでもよい。
【0026】
本発明によれば、電子放出源に印加される電圧が均一に分布されることによって、電子放出源から放出される電子を均一に発生させることができ、ディスプレイ装置にこのような電子放出素子を採用することにより、画素間の均一度を向上させることができる。
【0027】
また、集束電極を追加し、半導体性質を有するCNTを利用して抵抗層を形成することによって、電子を均一に放出することができるという効果をさらに向上することができる。
【0028】
また、半導体性質を有するCNTで抵抗層を形成することによって、抵抗層を形成する工程を既存の電子放出源を形成する工程にそのまま適用することができるので、工程を非常に簡単にすることができる。
【0029】
また、既存の電子放出源を形成する工程と共に抵抗層を形成する工程を行うことによって、工程を大きく変化させなくとも上記のような効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように本発明によれば、電子を均一に放出することができ、製造工程が簡単であり低コストで製造することの可能な電子放出素子と、この電子放出素子を備えて画素間の均一度を向上させることの可能な、ディスプレイ装置および電子放出素子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0032】
(第1の実施形態)
まず、図3および図4に基づいて、本発明の第1の実施形態にかかるディスプレイ装置について説明する。なお、図3は、本実施形態にかかる電子放出素子、およびこれを利用して具現したディスプレイ装置の構成を概略的に示す断面図である。図4は、図3のIV部分の拡大図である。
【0033】
図3および図4に示すように、本実施形態にかかる電子放出素子101は、第1基板110と、カソード電極120と、ゲート電極140と、第1絶縁体層130と、電子放出源150と、抵抗層125とを備える。
【0034】
第1基板110は、所定の厚さを有する板状の部材であって、例えば石英ガラス、少量のNaのような不純物を含有したガラス、板ガラス、SiOがコーティングされたガラス基板、酸化アルミニウムまたはセラミック基板を用いることができる。また、フレキシブルディスプレイ装置を具現する場合には、柔軟な材質を用いてもよい。
【0035】
カソード電極120は、第1基板110上に一方向に延びるように配置され、通常の電気導電物質からなる。例えば、Al、Ti、Cr、Ni、Au、Ag、Mo、W、Pt、Cu、Pdなどの金属またはその合金、ガラスおよびPd、Ag、RuO、Pd−Agなどの金属または金属酸化物で構成された印刷された導電体、InまたはSnOなどの透明導電体、または多結晶シリコンなどの半導体物質で形成することができる。
【0036】
ゲート電極140は、カソード電極120と絶縁体層130とを挟んで配置され、カソード電極120のように一般的な電気導電物質で形成することができる。
【0037】
絶縁体層130は、ゲート電極140とカソード電極120との間に配置され、カソード電極120とゲート電極140とを絶縁することによって二つの電極間においてショートすることを防止する。
【0038】
電子放出源150は、カソード電極120と通電するように配置され、ゲート電極140の前面パネル102側方向の高さよりも低い位置に配置される。電子放出源150の材料としては、針状構造を有するものであれば使用することができる。特に、仕事関数が小さく、β関数が大きいCNT、グラファイト、ダイヤモンドおよびダイヤモンド状カーボンなどの炭素系物質からなることが望ましい。特に、CNTは、電子放出特性に優れており、低電圧駆動が容易であるので、これを電子放出源として使用するとパネルの大面積化に有利である。
【0039】
抵抗層125は、電子放出源150とカソード電極120のいずれにも接するように設置される。特に、図3のように、抵抗層125を、電子放出源150とカソード電極120との間に配置させることが工程を簡単することができるので望ましい。かかる抵抗層125は、電子放出源150に印加される電圧を均一に印加させる働きをする。すなわち、抵抗層125が配置されることによって印加される電圧が降下し、これにより、電子放出源150内で全面積に対して偏差の小さい電圧が印加され、ディスプレイ装置で構成される場合にも、隣接した電子放出源150の間に偏差の小さい電圧が印加される。
【0040】
抵抗層125は、特に、半導体性質を有するCNTを主成分として形成される。一般に、金属触媒を使用して合成されたCNTには、半導体および導体のCNTが混在されているので、このうち半導体性質を有するCNTを分離して、この半導体CNTを抵抗層125の主原料として使用する。半導体CNTを得る方法については、後述する。
【0041】
抵抗層125は、1,000Ωcm〜100,000Ωcmの抵抗値を有することが望ましい。抵抗値が1,000Ωcm以下である場合には、抵抗層125を使用してカソード電極に印加される電圧を均一にすることによる効果が得られない。すなわち、各電子放出源150で電子放出を均一にする効果や、これにより、画面のむらを防ぎ、発光を均一にするという効果が得られない。また、抵抗層125の抵抗値が100,000Ωcmを超える場合には、抵抗層125を形成することによって得る効果に関係なく、消費電力が過度に増加してしまい、実用化が困難となる。
【0042】
一方、抵抗層125の抵抗値は、抵抗層125に含まれた半導体CNTの含量を調節して調節できる。また、半導体CNTの一部にドーピングして抵抗値を調節してもよい。
【0043】
以上説明したような構成を有する電子放出素子101は、カソード電極に(−)電圧を印加し、ゲート電極に(+)電圧を印加して、電子放出源150から電子を放出させることができる。
【0044】
一方、前述した電子放出素子101は、可視光線を発生して画像を具現するディスプレイ装置に利用することができる。ディスプレイ装置に構成するためには、本実施形態にかかる電子放出素子の第1基板110に対して平行に配置される第2基板190と、第2基板190上に設置されるアノード電極180と、アノード電極180に設置された蛍光体層170とをさらに備える。
【0045】
また、単純にランプとして可視光線を発生させるのではなく、画像を具現するためには、カソード電極120とゲート電極140とが相互に交差するように配置させることが望ましい。
【0046】
また、ゲート電極140とカソード電極120とが交差する領域には、電子放出源ホール131が形成され、その内部に電子放出源150が配置される。
【0047】
第1基板110を備える電子放出素子101と第2基板190を備える前面パネル102とは、互いに所定の間隔を維持しつつ対向して発光空間103を形成し、電子放出素子101と前面パネル102との間隔を維持するために、スペーサ160が配置される。スペーサ160は、例えば、絶縁物質から形成することができる。
【0048】
また、内部の真空を維持するために、例えばフリットを用いて電子放出素子101および前面パネル102が形成する空間の周りを密封し、内部の空気などを排気することもできる。
【0049】
このような構成を有する電子放出ディスプレイ装置は、次のように動作する。
【0050】
まず、電子放出のためにカソード電極120に(−)電圧を印加し、ゲート電極140には(+)電圧を印加し、カソード電極120に設置された電子放出源150から電子を放出させる。また、アノード電極180に強い(+)電圧を印加してアノード電極180方向に放出された電子を加速させる。このように電圧を印加することにより、電子放出源150を構成する針状の物質から電子が放出されてゲート電極140に向かって進み、アノード電極180に向かって加速される。アノード電極180に向かって加速された電子は、アノード電極180側に位置する蛍光体層170にぶつかりながら可視光線を発生する。
【0051】
一方、本実施形態の電子放出素子にて使用される抵抗層125によって、画素をなす電子放出源に印加される電圧を均一にすることができ、画素間の輝度均一度が高まって、画像の品質を向上させることができる。
【0052】
次に、以下では、本実施形態にかかる電子放出素子の製造方法について説明する。この製造方法は、一実施形態に過ぎず、必ずしも下記の方法で製造されねばならないということではない。
【0053】
まず、第1基板110、カソード電極120、絶縁体層130およびゲート電極140を形成する素材を順次に所定厚さに積層する。積層は、例えばスクリーンプリンティング等により行うことが望ましい。
【0054】
次いで、ゲート電極140の上面に、所定の厚さのマスクパターンを形成する。マスクパターンの形成は、電子放出源ホールを形成するためのものであって、フォトレジスト(Photo Resist:PR)を塗布し、例えばUV、E−ビーム等を利用してパターンを形成するフォトリソグラフィ工程によって行うことができる。
【0055】
さらに、マスクパターンを利用してゲート電極140、絶縁体層130およびカソード電極120をエッチングして電子放出源ホールを形成する。エッチング工程は、ゲート電極140、絶縁体層130およびカソード電極120の材料、厚さによってエッチング液を利用する湿式エッチングや、腐食性ガスを利用する乾式エッチングまたはイオンビームを利用するマイクロマシニング方式によって行うことができる。
【0056】
その後、カーボン物質を含むカーボンペーストを製造する。カーボンペーストは、抵抗層形成用と電子放出源用とを別途に製造する。抵抗層形成用カーボンペーストは、カーボン物質として半導体性質を有するCNTを混合して製造する。電子放出源用カーボンペーストは、通常の半導体と導体CNTとが混在するCNTパウダーを混合して製造する。そして、抵抗層形成用カーボンペーストを電子放出源ホールに塗布した後、抵抗層形成用カーボンペーストの上に電子放出源用カーボンペーストを塗布する。塗布工程は、例えばスクリーンプリンティングによって行うことができる。
【0057】
次いで、抵抗層形成用カーボンペーストのうち抵抗層を形成する部分と、電子放出源用カーボンペーストのうち電子放出源を形成する部分とをそれぞれ硬化させる。この工程は、カーボンペーストに感光性樹脂が含まれる場合と含まれない場合とでは、硬化させる方法が異なる。
【0058】
感光性樹脂が含まれる場合には、露光工程を利用する。例えば、ネガティブ感光性物質であるネガティブ感光性を有する感光性樹脂を含む場合、ネガティブ感光性樹脂は、光を受ければ硬化する特性を有するので、フォトリソグラフィ工程でフォトレジストを塗布した後、光を選択的に照射して、カーボンペーストのうち必要な部分のみを硬化させて抵抗層および電子放出源を形成することが可能である。したがって、その後、露光後現像して硬化されずに残っているカーボンペーストとフォトレジストとを除去して電子放出素子を完成させることができる。
【0059】
一方、カーボンペーストに感光性樹脂を含んでいない場合には、次のような方法で電子放出源および抵抗層を形成することができる。カーボンペーストが感光性樹脂を含んでいない場合には、別途のフォトレジストパターンを利用したフォトリソグラフィ工程が必要である。すなわち、フォトレジスト膜を利用してフォトレジストパターンを先に形成した後、フォトレジストパターンを利用してカーボンペーストを印刷して供給する。
【0060】
上述したように、印刷されたカーボンペーストは、酸素ガス、または約1000ppm以下、特に10ppm〜500ppmの酸素が存在する窒素ガス雰囲気下で焼成工程を経る。このような酸素ガス雰囲気下での焼成工程を通じて、カーボンペーストのうちCNTは基板との接着力が向上し、ビークルは揮発、除去され、他の無機バインダー等が溶融した後凝固することによって、電子放出源の耐久性を向上させることができる。
【0061】
ここで、焼成温度は、カーボンペーストに含まれたビークルの揮発温度および時間を考慮して決定しなければならない。一般的な焼成温度は、350℃〜500℃、望ましくは、約450℃である。これは、焼成温度が350℃未満であれば、ビークルなどの揮発が十分になされないという問題点が発生し、焼成温度が500℃を超えれば、製造コストが上昇し、基板が損傷する恐れがあるという問題が発生するためである。
【0062】
このように焼成された焼成結果物は、必要に応じて活性化工程を行う。活性化工程の一例によれば、熱処理工程を通じてフィルム状に硬化される溶液、例えば、ポリイミド系高分子を含む電子放出源の表面処理剤を焼成結果物上に塗布した後、これを熱処理し、熱処理によって形成されたフィルムを剥離することができる。また、活性化工程の他の例によれば、所定の駆動源として駆動されるローラの表面に接着力を有する接着部を形成して、このローラによって焼成結果物の表面に所定の圧力で加圧して活性化工程を行うこともできる。このような活性化工程を通じて、ナノサイズを有する無機物は、電子放出源の表面に露出される、または垂直配向されるように制御することができる。
【0063】
一方、カーボンペーストには、CNT以外にカーボンペーストの印刷性および粘度を調節するためにビークルをさらに含む。ビークルは、例えば樹脂成分および溶媒成分から形成することができる。
【0064】
樹脂成分は、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂と、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレートおよびウレタンアクリレート等のアクリル系樹脂と、ポリビニルアセテート、ポリビニルブチラル、ポリビニルエーテル等のビニル系樹脂のうち少なくとも一つを含むことができるが、これに制限されるものではない。また、上述したような樹脂成分のうちの一部は、感光性樹脂の役割を同時に行うこともできる。
【0065】
溶媒成分は、例えば、テルピネオール、ブチルカルビトール(Butyl Carbitol:BC)、ブチルカルビトールアセテート(Butyl Carbitol Acetate:BCA)、トルエンおよびテキサノールのうち少なくともいずれか一つを含むことができる。このうち、溶媒成分は、テルピネオールを含むことが望ましい。
【0066】
一方、溶媒成分の含量が過度に少ないあるいは多い場合には、カーボンペーストの印刷性および流動性が低下するという問題が発生する可能性がある。特に、ビークルの含量が過度に多い場合には、乾燥時間が過度に長くなるという問題がある。
【0067】
また、カーボンペーストは、必要に応じて、感光性樹脂、光開始剤および充填剤のうち選択されたいずれか一つ以上をさらに含むこともできる。
【0068】
一方、上述した感光性樹脂の非限定的な例には、アクリレート系モノマー、ベンゾフェノン系モノマー、アセトフェノン系モノマー、またはチオキサントン系モノマーなどがあり、より具体的には、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、2,4−ジエチルオキサントン、または2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンなどを使用できる。
【0069】
光開始剤は、感光性樹脂が露光されるときに感光性樹脂の架橋結合を開始する役割を行う。光開始剤の非限定的な例として、例えばベンゾフェノンなどがある。
【0070】
充填剤は、基板と十分に接着されていないナノサイズを有する無機物の伝導性をさらに向上させる役割を行う物質であって、その非限定的な例としては、例えばAg、Al、などがある。
【0071】
上記説明では、カーボンペーストを使用して電子放出源と抵抗層とを形成する方法を説明したが、このような方法以外に、化学気相蒸着(Chemical Vapor Deposition:CVD)成長方法を利用して電子放出源を形成してもよい。ただし、半導体CNTを含む抵抗層は、CVD成長方法では形成し難いので、電子放出源をCVD成長方法で形成する場合にも、抵抗層の場合には、カーボンペーストを印刷する方式で形成することが望ましい。また、工程を簡単にできるという点で、カーボンペーストを印刷する方式で抵抗層と電子放出源いずれも製作することがさらに望ましい。
【0072】
次に、本実施形態で、抵抗層の主材料として使われる半導体CNTを得る方法について説明する。
【0073】
まず、テトラメチレンスルホン(Tetra Methylene Sulfone:TMS)/クロロホルム溶液にNOSbFとNOBFとを添加する。この溶液には、ニトロニウム(NO)が存在する。
【0074】
次いで、この溶液に半導体と導体とが混在されているCNTパウダーを加える。CNTパウダーが含まれた状態で溶液を掻き混ぜる、または超音波を加える。この過程で、金属性CNTが破壊されて、導体性質を有するCNTは消失する。そして、溶液をフィルタによって濾過し、溶液から半導体性質を有するCNTのみを得ることができる。
【0075】
このように得られた半導体CNTからペーストを製造し、これと別途に半導体と導体とが混在された通常のCNTペーストを製造することができる。
【0076】
以上、第1の実施形態にかかる電子放出素子について説明した。
【0077】
(第2の実施形態)
次に、図5に基づいて、本発明の第2の実施形態にかかる電子放出素子について説明する。なお、図5は、本実施形態にかかる電子放出素子の概略的な構成を示す部分断面図である。
【0078】
図5に示すように、本実施形態にかかる電子放出素子は、上述した第1の実施形態にかかる電子放出素子の構造に、第2絶縁体層135および集束電極145を追加した構造となっている。
【0079】
集束電極145は、第2絶縁体層135によってゲート電極140と電気的に絶縁されるように設置される。また、カソード電極120およびゲート電極140によって形成される電界によって、電子放出源150から放出される電子を、可能な限り図3に示したような前面パネル102のアノード電極180に向かって直進させることができる。集束電極145の素材は、カソード電極120およびゲート電極140と同様に、電気伝導性に優れた素材から形成される。このように、集束電極145をさらに備える電子放出素子の場合にも、本実施形態のように半導体性質を有するCNTからなる抵抗層125が形成される場合には、電子放出源に印加される電圧が均一に印加されるので、均一に電子放出させることができる。また、このような電子放出素子を採用したディスプレイ装置では、集束電極による電子集束効果と抵抗層による均一な電圧印加効果とが組み合わされて、画素間の均一性をより確保することができる。一方、製造工程中に抵抗層用カーボンペーストに含まれる半導体CNTの量を調節して、抵抗層の抵抗値を調節することが可能である。
【0080】
(第3の実施形態)
次に、図6に基づいて、本発明の第3の実施形態にかかる電子放出素子について説明する。なお、図6は、本実施形態にかかる電子放出素子の概略的な構成を示す部分断面図である。
【0081】
図6に示すように、本実施形態の電子放出素子と上述した第2の実施形態の電子放出素子との相違点は、抵抗層225が電子放出源250とカソード電極120との間に位置するのではなく、カソード電極120の上面および電子放出源250の側面に接するように位置するという点である。このように、カソード電極120の上面と電子放出源250の側面とに抵抗層225が接するように形成される場合にも、カソード電極120に印加される電圧をそれぞれの電子放出源250に均一に印加させる効果が得られる。また、抵抗層225を、半導体CNTを含む抵抗層用カーボンペーストを印刷することによって形成することが可能であり、抵抗層用カーボンペーストに含まれている半導体CNTの量を調節して抵抗層225の抵抗値を調節することも可能である。
【0082】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、電子放出素子、これを備えた電子放出ディスプレイ装置およびその製造方法に適用可能であり、特に電子放出源として冷陰極を利用する方式の電子放出素子と、これを備える電子放出ディスプレイ装置および電子放出素子の製造方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】従来の電子放出素子およびディスプレイ装置の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿って切り取った断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態にかかる電子放出素子およびディスプレイ装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図4】図3のIV部分の拡大図である。
【図5】本発明の第2の実施形態にかかる電子放出素子の構成を概略的に示す部分断面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態にかかる電子放出素子の構成を概略的に示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0085】
100 電子放出ディスプレイ装置
101 電子放出素子
102 前面パネル
103 発光空間
110 第1基板
120 カソード電極
125,225 抵抗層
130 第1絶縁体層
131 電子放出源ホール
135 第2絶縁体層
140 ゲート電極
145 集束電極
150,250 電子放出源
160 スペーサ
170 蛍光体層
180 アノード電極
190 第2基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板と、
前記第1基板上に配置されたカソード電極および電子放出源と、
前記カソード電極と電気的に絶縁されるように配置されたゲート電極と、
前記カソード電極と前記ゲート電極との間に配置され、前記カソード電極と前記ゲート電極とを絶縁する絶縁体層と、
前記カソード電極に接するように配置され、半導体カーボンナノチューブを含む抵抗層と、
を備える電子放出素子。
【請求項2】
前記抵抗層は、10Ωcm〜10Ωcmの抵抗値を有することを特徴とする、請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記抵抗層は、電子放出源と前記カソード電極との間に配置されることを特徴とする、請求項1または2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記抵抗層は、電子放出源の側面に接するように配置されることを特徴とする、請求項1または2に記載の電子放出素子。
【請求項5】
前記ゲート電極の上面を覆う第2絶縁体層と、
前記第2絶縁体層により前記ゲート電極と絶縁され、前記ゲート電極と略平行に配置される集束電極と、
をさらに備えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の電子放出素子。
【請求項6】
前記カソード電極と前記ゲート電極とは、相互に交差するように延びて配置されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の電子放出素子。
【請求項7】
第1基板と、
前記第1基板上に配置された複数のカソード電極と、
前記カソード電極と交差するように配置された複数のゲート電極と、
前記カソード電極と前記ゲート電極との間に配置され、前記カソード電極と前記ゲート電極とを絶縁する絶縁体層と、
前記カソード電極と前記ゲート電極とが交差する位置に形成された電子放出源ホールと、
前記電子放出源ホール内に配置された電子放出源と、
前記電子放出源および前記カソード電極に接するように設置され、半導体カーボンナノチューブを含む抵抗層と、
を備え、
前記第1基板と略平行に配置された第2基板と、
前記第2基板の、前記第1基板と対向する面側に配置されたアノード電極と、
前記アノード電極の、前記第1基板と対向する面側に配置された蛍光体層と、
をさらに備えることを特徴とする、電子放出ディスプレイ装置。
【請求項8】
前記抵抗層は、10Ωcm〜10Ωcmの抵抗値を有することを特徴とする、請求項7に記載の電子放出ディスプレイ装置。
【請求項9】
前記抵抗層は、前記電子放出源と前記カソード電極との間に配置されることを特徴とする、請求項7または8に記載の電子放出ディスプレイ装置。
【請求項10】
前記抵抗層は、前記電子放出源の側面に接するように配置されることを特徴とする、請求項7または8に記載の電子放出ディスプレイ装置。
【請求項11】
前記ゲート電極の上面を覆う第2絶縁体層と、
前記第2絶縁体層により前記ゲート電極と絶縁され、前記ゲート電極と略平行に配置された集束電極と、
をさらに備えることを特徴とする、請求項7〜10のいずれかに記載の電子放出ディスプレイ装置。
【請求項12】
基板、カソード電極、絶縁体層およびゲート電極を形成する素材を順次形成する工程(a)と、
前記ゲート電極素材の上面に、フォトレジストによって所定の厚さのマスクパターンを形成する工程(b)と、
前記マスクパターンを利用して、前記ゲート電極、前記絶縁体層および前記カソード電極を部分エッチングして電子放出源ホールを形成する工程(c)と、
電子放出源および抵抗層に使われるカーボンナノチューブを、半導体カーボンナノチューブと導体カーボンナノチューブとに分離する工程(d)と、
前記工程(d)で分離された半導体カーボンナノチューブとネガティブ感光性物質とを含む抵抗層用カーボンペーストを、前記電子放出源ホールに塗布する工程(e)と、
前記導体カーボンナノチューブと前記ネガティブ感光性物質とを含む電子放出用カーボンペーストを、前記抵抗層用カーボンペースト上に塗布する工程(f)と、
塗布された抵抗層用カーボンペーストおよび電子放出用カーボンペーストを選択的に露光して硬化させる工程(g)と、
硬化されずに残存するカーボンペーストと前記フォトレジストとを除去する工程(h)と、
を含むことを特徴とする、電子放出素子の製造方法。
【請求項13】
前記工程(e)、前記工程(f)、前記工程(g)は、順次に行われ、
前記工程(g)は、一回の露光工程で前記抵抗層用カーボンペーストのうち前記抵抗層を形成する部分と、前記電子放出用カーボンペーストのうち前記電子放出源を形成する部分とを硬化させることを特徴とする、請求項12に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項14】
前記工程(e)、前記工程(f)、前記工程(g)は、
前記工程(e)が行われた後に前記工程(g)が行われ、前記抵抗層用カーボンペーストのうち抵抗層を形成する部分が選択的に硬化され、
また、前記工程(f)が行われた後に工程(g)が再度行われ、前記電子放出用カーボンペーストのうち電子放出源を形成する部分を選択的に硬化させることを特徴とする、請求項12または13に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項15】
前記工程(d)は、
ニトロニウム(NO)が含まれた溶液にカーボンナノチューブを混ぜる工程と、
カーボンナノチューブが含まれた前記溶液に超音波を加えて金属性カーボンナノチューブを破壊する工程と、
超音波処理が完了した溶液をフィルタで濾過して半導体カーボンナノチューブを得る工程と、
を含むことを特徴とする、請求項12〜14のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項16】
抵抗層用カーボンペーストに含まれる半導体カーボンナノチューブの含量を調節して、前記抵抗層の最終抵抗値を調節する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項12〜15のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−103346(P2007−103346A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197468(P2006−197468)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】