説明

電子放出素子、電子放出装置、自発光デバイス、画像表示装置、送風装置、冷却装置、帯電装置、画像形成装置、電子線硬化装置、および電子放出素子の製造方法

【課題】真空中だけでなく大気圧中でも安定した電子放出を可能とし、かつ電子放出に伴うオゾンやNOx等の有害物質の発生を抑制した、電子放出素子を提供する。
【解決手段】電子放出素子1は、基板2と上部電極3との間に微粒子層4を備え、微粒子層4は、抗酸化力が高い金属微粒子6と、金属微粒子6の大きさより大きい絶縁体の微粒子5とを含んでいる。電子放出素子1は、真空中だけでなく大気中でも安定して電子放出でき、放電を伴わないためオゾンやNOx等の有害物質をほぼ生成せず、酸化劣化しない。そのため、電子放出素子1は、寿命が長く大気中でも安定して長時間連続動作できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加することにより電子を放出させることができる電子放出素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電子放出素子として、スピント(Spindt)型電極、カーボンナノチューブ(CNT)型電極などが知られている。このような電子放出素子は、例えば、FED(Field Emision Display)の分野に応用検討されている。このような電子放出素子は、尖鋭形状部に電圧を印加して約1GV/mの強電界を形成し、トンネル効果により電子放出させる。
【0003】
また、かねてから、このような電子放出素子を大気中で動作させたいという要求が存在しており、例えば、帯電装置や静電潜像形成装置に応用しようという発想が存在する。スピント型電極の電子放出素子の例では、これを大気中で動作させ、大気中に電子を放出し、気体分子を電離して荷電粒子としてのイオンを発生させ、静電潜像を形成するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。あるいは、カーボンナノチューブ型電極の電子放出素子を大気中で動作させた研究成果が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、これら2つのタイプの電子放出素子は、上記のように電子放出部表面近傍が強電界であるため、放出された電子は電界により大きなエネルギーを得て気体分子を電離しやすくなる。気体分子の電離により生じた陽イオンは強電界により素子の表面方向に加速衝突し、スパッタリングによる素子破壊が生じるという問題がある。また、大気中の酸素は電離エネルギーより解離エネルギーが低いため、イオンの発生より先にオゾンを発生する。オゾンは人体に有害である上、その強い酸化力により様々なものを酸化することから、素子の周囲の部材にダメージを与えるという問題が存在し、これを避けるために周辺部材には耐オゾン性の高い材料を用いなければならないという制限が生じている。
【0005】
一方、上記とは別のタイプの電子放出素子として、MIM(Metal Insulator Metal)型やMIS(Metal Insulator Semiconductor)型の電子放出素子が知られている。これらは素子内部の量子サイズ効果及び強電界を利用して電子を加速し、平面状の素子表面から電子を放出させる面放出型の電子放出素子である。これらは素子内部で加速した電子を放出するため、素子外部に強電界を必要としない。従って、MIM型及びMIS型の電子放出素子においては、上記スピント型やCNT型、BN型の電子放出素子のように気体分子の電離によるスパッタリングで破壊されるという問題やオゾンが発生するという問題を克服できる。
【0006】
例えば、半導体の陽極酸化処理によって形成される多孔質半導体(例えば多孔質シリコン)の量子サイズ効果を利用した上記MIS型に属する電子放出素子として、多孔質半導体中に注入された電子を電界で加速し、表面金属薄膜をトンネル効果によって通過させ真空中に放出させるものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、かかる多孔質半導体による電子放出素子は、陽極酸化という極めて簡便・安価な製造方法にて素子を作製できるという大きなメリットがある。
【0007】
さらに、半導体微粒子もしくは金属微粒子の外側を絶縁層で覆ったものが繰り返し積層された、電子放出素子が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平6−255168号公報(平成6年9月13日公開)
【特許文献2】特開平8−250766号公報(平成8年9月27日公開)
【特許文献3】特開平9−7499号公報(平成9年1月10日公開)
【非特許文献1】山口、他3名「カーボンナノチューブによる画像記録用高効率電子線源の開発」、Japan Hardcopy97論文集、日本画像学会、1997年7月、p221−224
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、MIM型やMIS型の上記従来の電子放出素子を、大気中で動作させた場合、様々な気体分子が素子表面に吸着し、半導体の電気的特性などを変質させ、電子放出電流が減少するという問題が新たに発生している。特に大気中の酸素による半導体の酸化劣化は避けられず、大きな問題となっている。
【0009】
これら素子内部で電子を加速するMIM型やMIS型の従来の電子放出素子の表面は、素子内部に電界を印加する上部電極の役割を担っており、一般的に金属薄膜で構成されている。また、MIM型やMIS型の従来の電子放出素子の表面は、素子内部で加速された電子を、金属薄膜をトンネルして真空中に放出させる役割をも担っており、金属薄膜の膜厚が薄いほど素子内部で加速された電子のトンネル確率が高くなり、電子放出量が多くなる。そのため、金属薄膜の膜厚は薄い方が好ましいと言えるが、金属薄膜の膜厚が薄すぎると、緻密な膜を形成することが困難であるため、気体分子のバリア効果がほとんどない。従って、大気中で電子放出素子を動作させた場合、気体分子が内部の半導体層に侵入し、半導体の電気的特性を変質させ、電子放出電流が減少するという課題が発生する。
【0010】
この結果、半導体微粒子もしくは金属微粒子を核とし、その外側を絶縁層で覆った微粒子が繰り返し積層された、電子放出素子では、大気中において安定して電子を発生させることはできず、特に絶縁層が半導体微粒子もしくは金属微粒子の酸化膜により構成されている場合では、大気中の酸素により微粒子の酸化が進み、酸化膜の膜厚が増加する。この酸化膜の膜厚増加は電子のトンネル確率を低下させ、最終的には電子放出が止まってしまう。
【0011】
また一方で、電子がトンネルできる程度の膜厚の絶縁膜は抵抗値がとても低く、素子内を電流が多く流れすぎることにより絶縁破壊を起こしたり、発熱が生じたりすることによって微粒子や絶縁層にダメージを与え、素子が破壊されてしまうという課題がある。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、真空中だけでなく大気圧中でも安定した電子放出を可能とし、かつ電子放出に伴うオゾンやNOx等の有害物質の発生を抑制できる、電子放出素子等の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の電子放出素子は、上記課題を解決するために、電極基板と薄膜電極とを有し、当該電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加することで、当該電極基板と薄膜電極との間で電子を加速させて、当該薄膜電極から当該電子を放出させる電子放出素子であって、上記電極基板と上記薄膜電極との間には、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、上記導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質と、が含まれる電子加速層が設けられていることを特徴としている。
【0014】
上記構成によると、電極基板と薄膜電極との間には、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、上記導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質と、が含まれる電子加速層が設けられている。ここで言う抗酸化力が高いとは、酸化物形成反応の低いことを指す。一般的に熱力学計算より求めた、酸化物生成自由エネルギーの変化量ΔG[kJ/mol]値が負で大きい程、酸化物の生成反応が起こり易いことを表す。本発明ではΔG>−450[kJ/mol]以上に該当する金属元素が、抗酸化力の高い導電微粒子として該当する。また、該当する導電微粒子の周囲に、その導電微粒子の大きさよりも小さい絶縁体物質を付着、または被覆することで、酸化物の生成反応をより起こし難くした状態の導電微粒子も、抗酸化力が高い導電微粒子に含まれる。
【0015】
この電子加速層は、絶縁体物質と抗酸化力が高い導電微粒子とが緻密に集合した薄膜の層であり、半導電性を有する。この半導電性の電子加速層に電圧を印加すると、電子加速層内に電流が流れ、その一部は印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって放出される。
【0016】
また、導電微粒子として抗酸化力が高い導電体を用いることから、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難いため、大気圧中でも安定して動作させることができる。
【0017】
また、上記絶縁体物質および導電性微粒子は、電子加速層における抵抗値および弾道電子の生成量を調整することができるため、電子加速層を流れる電流値と電子放出量の制御を可能とする。さらに、上記絶縁体物質は、電子加速層を流れる電流により生じるジュール熱を効率良く逃がす役割も有することができるため、電子放出素子が熱で破壊されるのを防ぐことができる。
【0018】
本発明の電子放出素子は、上記構成を有するため、真空中だけでなく大気圧中で動作させても放電を伴わないためオゾンやNOx等の有害物質をほぼ生成せず、電子放出素子が酸化劣化しない。そのため、本発明の電子放出素子は、寿命が長く大気中でも長時間連続動作をさせることができる。よって、本発明により、真空中だけでなく大気圧中でも安定して電子を放出でき、オゾンやNOx等の有害物質の発生を抑制した電子放出素子を提供することができる。
【0019】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子は、貴金属であってもよい。このように、上記導電微粒子が、貴金属であることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化を図ることができる。
【0020】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子を成す導電体は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいてもよい。このように、上記導電微粒子を成す導電体が、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を、より効果的に防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化をより効果的に図ることができる。
【0021】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子の平均径は、導電性を制御する必要から、上記絶縁体物質の大きさよりも小さくなければならず、3〜10nmであるのが好ましい。このように、上記導電微粒子の平均径を、上記絶縁体物質の微粒子径よりも小さく、好ましくは3〜10nmとすることにより、電子加速層内で、導電微粒子による導電パスが形成されず、電子加速層内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、粒子径が上記範囲内の導電微粒子を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
【0022】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記絶縁体物質は、SiO、Al、及びTiOの少なくとも1つを含んでいてもよい。または有機ポリマーを含んでいてもよい。上記絶縁体物質が、SiO、Al、及びTiOの少なくとも1つを含んでいる、あるいは、有機ポリマーを含んでいると、これら物質の絶縁性が高いことにより、上記電子加速層の抵抗値を任意の範囲に調整することが可能となる。特に、絶縁体物質として酸化物(SiO、Al、及びTiOの)を用い、導電微粒子として抗酸化力が高い導電体を用いる場合には、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化をより一層発生し難くなるため、大気圧中でも安定して動作させる効果をより顕著に発現させることができる。
【0023】
ここで、上記絶縁体物質は微粒子であってもよく、その平均径が10〜1000nmであるのが好ましく、12〜110nmであるのがより好ましい。この場合、粒子径の分散状態は平均粒径に対してブロードであっても良く、例えば平均粒径50nmの微粒子は、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。上記微粒子である絶縁体物質の平均径を好ましくは10〜1000nm、より好ましくは12〜110nmとすることにより、上記絶縁体物質の大きさよりも小さい上記導電微粒子の内部から外部へと効率よく熱伝導させて、素子内を電流が流れる際に発生するジュール熱を効率よく逃がすことができ、電子放出素子が熱で破壊されることを防ぐことができる。さらに、上記電子加速層における抵抗値の調整を行いやすくすることができる。
【0024】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記電子加速層における上記絶縁体物質の割合が、重量比で80〜95%であるのが好ましい。上記電子加速層における上記絶縁体物質の割合が、重量比で80〜95%であると、上記電子加速層内の抵抗値を適度に上げることができ、大量の電子が一度に流れることで電子放出素子が破壊されるのを防ぐことができる。
【0025】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記電子加速層の層厚は、12〜6000nmであるのが好ましく、300〜6000nmであるのがより好ましい。上記電子加速層の層厚を、好ましくは12〜6000nm、より好ましくは300〜6000nmとすることにより、電子加速層の層厚を均一化すること、また層厚方向における電子加速層の抵抗調整が可能となる。この結果、電子放出素子表面の全面から一様に電子を放出させることが可能となり、かつ素子外へ効率よく電子を放出させることができる。
【0026】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記薄膜電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいてもよい。上記薄膜電極に、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つが含まれることによって、これら物質の仕事関数の低さから、電子加速層で発生させた電子を効率よくトンネルさせ、電子放出素子外に高エネルギーの電子をより多く放出させることができる。
【0027】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子の周囲に、当該導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質が存在してもよい。このように、上記導電微粒子の周囲に、当該導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質が存在することは、素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献する他、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を、より効果的に防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化をより効果的に図ることができる。
【0028】
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子の周囲に存在する上記導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質は、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいてもよい。このように、上記導電微粒子の周囲に存在する上記導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質が、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいることで、素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、導電微粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁体物質の周囲に存在する導電微粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。よって、電子放出素子の長寿命化をより効果的に図ることができる。
【0029】
ここで、本発明の電子放出素子では、上記導電微粒子の周囲に存在する上記導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質は、上記導電微粒子表面に付着して付着物質として存在するものであり、当該付着物質は、上記導電微粒子の平均径より小さい形状の集合体として、上記導電微粒子表面を被膜していてもよい。このように、上記導電微粒子の周囲に存在する上記導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質が、上記導電微粒子表面に付着あるいは、上記導電微粒子の平均径より小さい形状の集合体として、上記導電微粒子表面を被膜していることで、素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、導電微粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁体物質の周囲に存在する導電微粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。よって、電子放出素子の長寿命化をさらに効果的に図ることができる。
【0030】
また、本発明の電子放出素子では、上記導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質は、上記電極基板に層形成されており、かつ、層の厚み方向に貫通する複数の開口部を有しており、上記開口部には、上記導電微粒子が収容されていてもよい。シート状に構成された絶縁体物質は微粒子の集合体ではなく固体の塊として存在するため、電流が流れない絶縁体として機能する。一方、上記開口部に上記導電微粒子が収容された部分では、表面抵抗が低下しその部分のみ電流が流れ易くなる。この結果、上記開口部に上記導電微粒子が収容された部分でのみ、電子放出が生じる。この方法では、微粒子の分散した分散液を均一に塗布する生産工程を必要としないため、より大面積の電子放出素子を容易に形成可能となる。
【0031】
本発明の電子放出装置は、上記いずれか1つの電子放出素子と、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴としている。
【0032】
上記構成によると、真空中だけでなく大気圧中でも安定して電子を放出できる。さらに、オゾンやNOx等の有害物質を生成せず、電子を放出することができる。
【0033】
さらに、本発明の電子放出素子を自発光デバイス、及びこの自発光デバイスを備えた画像表示装置に用いることにより、真空封止が不要で大気中でも長寿命な面発光を実現する自発光デバイスを提供することができる。
【0034】
また、本発明の電子放出素子を、送風装置あるいは冷却装置に用いることにより、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質の発生がなく、被冷却体表面でのスリップ効果を利用することにより高効率で冷却を行うことができる。
【0035】
また、本発明の電子放出素子を、帯電装置、及びこの帯電装置を備えた画像形成装置に用いることにより、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質を発生させることなく、被帯電体を帯電させることができる。
【0036】
また、本発明の電子放出素子を、電子線硬化装置に用いることにより、面積的に電子線硬化でき、マスクレス化が図れ、低価格化・高スループット化を実現することができる。
【0037】
本発明の電子放出素子の製造方法は、上記課題を解決するために、電極基板と薄膜電極とを有し、当該電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加することで、当該電極基板と薄膜電極との間で電子を加速させて、当該薄膜電極から放出させる電子放出素子の製造方法であって、上記電極基板上に、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、上記導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質とを含む電子加速層を形成する電子加速層形成工程と、上記電子加速層上に上記薄膜電極を形成する薄膜電極形成工程と、を含むことを特徴としている。
【0038】
上記方法によると、真空中だけでなく大気圧中でも安定して電子を放出でき、オゾンやNOx等の有害物質をほぼ生成しない、電子放出素子を製造することができる。
【0039】
なお、上記電子加速層形成工程は、上記導電微粒子と、上記絶縁体物質とを溶媒にて混合して混合物質を生成する混合工程と、上記電極基板上に上記混合物質を塗布する塗布工程と、上記記塗布した混合物質を乾燥させる乾燥工程とを含んでいてもよい。
【0040】
または、上記電子加速層形成工程は、シート状で、かつ、積層方向に貫通する複数の開口部を有している上記絶縁体物質を、上記電極基板上に積層する積層工程と、上記開口部に上記導電微粒子を充填する充填工程と、を含んでいてもよい。あるいは、上記電子加速層形成工程は、上記電極基板に上記絶縁体物質を層形成する層形成工程と、上記絶縁体物質に、層の厚み方向に貫通する複数の開口部を形成する開口工程と、上記開口部に上記導電微粒子を充填する充填工程とを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0041】
本発明の電子放出素子は、上記のように、上記電極基板と上記薄膜電極との間には、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、上記導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質と、が含まれる電子加速層が設けられている。
【0042】
上記構成によると、上記電子加速層は、絶縁体物質と抗酸化力が高い導電微粒子とが緻密に集合した薄膜の層であり、半導電性を有する。この半導電性の電子加速層に電圧を印加すると、電子加速層内に電流が流れ、その一部は印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって放出される。また、導電微粒子として抗酸化力が高い導電体を用いることから、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難いため、大気圧中でも安定して動作させることができる。
【0043】
また、上記絶縁体物質および導電性微粒子は、電子加速層における抵抗値および弾道電子の生成量を調整することができるため、電子加速層を流れる電流値と電子放出量の制御を可能とする。さらに、上記絶縁体物質は、電子加速層を流れる電流により生じるジュール熱を効率良く逃がす役割も有することができるため、電子放出素子が熱で破壊されるのを防ぐことができる。
【0044】
本発明の電子放出素子は、上記構成を有するため、真空中だけでなく大気圧中で動作させても放電を伴わないためオゾンやNOx等の有害物質をほぼ生成せず、電子放出素子が酸化劣化しない。そのため、本発明の電子放出素子は、寿命が長く大気中でも長時間連続動作をさせることができる。よって、本発明により、真空中だけでなく大気圧中でも安定して電子を放出でき、オゾンやNOx等の有害物質の発生を抑制した電子放出素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の電子放出素子の実施形態について、図1〜17を参照しながら具体的に説明する。なお、以下に記述する実施の形態および実施例は本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらよって限定されるものではない。
【0046】
〔実施の形態1〕
図1は、本発明の電子放出素子の一実施形態の構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態の電子放出素子1は、下部電極となる基板(電極基板)2と、上部電極(薄膜電極)3と、その間に挟まれて存在する電子加速層4とからなる。また、基板2と上部電極3とは電源7に繋がっており、互いに対向して配置された基板2と上部電極3との間に電圧を印加できるようになっている。電子放出素子1は、基板2と上部電極3との間に電圧を印加することで、基板2と上部電極3との間、つまり、電子加速層4に電流を流し、その一部を印加電圧の形成する強電界により弾道電子として、上部電極3を透過あるいは上部電極3の隙間から放出させる。なお、電子放出素子1と電源7とから電子放出装置が成る。
【0047】
下部電極となる基板2は、電子放出素子の支持体の役割を担う。そのため、ある程度の強度を有し、直に接する物質との接着性が良好で、適度な導電性を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。例えばSUSやTi、Cu等の金属基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板、ガラス基板のような絶縁体基板、プラスティック基板等が挙げられる。例えばガラス基板のような絶縁体基板を用いるのであれば、その電子加速層4との界面に金属などの導電性物質を電極として付着さることによって、下部電極となる基板2として用いることができる。上記導電性物質としては、導電性に優れた貴金属系材料を、マグネトロンスパッタ等を用いて薄膜形成できれば、その構成材料は特に問わない。また、酸化物導電材料として、透明電極に広く利用されているITO薄膜も有用である。また、強靭な薄膜を形成できるという点で、例えば、ガラス基板表面にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜した金属薄膜を用いてもよいが、これら材料および数値に限定されることはない。
【0048】
上部電極3は、電子加速層4内に電圧を印加させるものである。そのため、電圧の印加が可能となるような材料であれば特に制限なく用いることができる。ただし、電子加速層4内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロス無く透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどが挙げられる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物および硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。また上部電極3の膜厚は、電子放出素子1から外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要であり、10〜55nmの範囲とすることが好ましい。上部電極3を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では、電気的導通を確保できない。一方、電子放出素子1から外部へ電子を放出させるための最大膜厚は55nmであり、これを超える膜厚では弾道電子の透過が起こらず、上部電極3で弾道電子の吸収あるいは反射による電子加速層4への再捕獲が生じてしまう。
【0049】
電子加速層4は、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、上記導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質とを含んでいればよい。本実施形態では、上記導電微粒子は、金属微粒子6として説明する。また、本実施形態では、上記絶縁体物質は、金属微粒子6の平均径より大きい平均径の微粒子である、絶縁体の微粒子5として説明する。しかし電子加速層4の構成は、上記したものに限定されず、例えば、上記絶縁体物質が、基板2に層形成されており、かつ、層の厚み方向に貫通する複数の開口部を有しており、そして、この開口部には、導電微粒子が収容されていている、というような形態であってもよい。
【0050】
本実施形態では、電子加速層4には、絶縁体の微粒子5と、金属微粒子6とを含んでいる。よって、以下では、電子加速層4を微粒子層4と記載する。
【0051】
ここで、金属微粒子6の金属種としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような金属種でも用いることができる。ただし、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、抗酸化力が高い金属である必要があり、貴金属が好ましく、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルといった材料が挙げられる。このような金属微粒子6は、公知の微粒子製造技術であるスパッタ法や噴霧加熱法を用いて作成可能であり、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子等の市販の金属微粒子粉体も利用可能である。弾道電子の生成の原理については後段で記載する。
【0052】
ここで、金属微粒子6の平均径は、導電性を制御する必要から、以下で説明する絶縁体の微粒子5の大きさよりも小さくなければならず、3〜10nmであるのがより好ましい。このように、金属微粒子6の平均径を、絶縁体の微粒子5の粒子径よりも小さく、好ましくは3〜10nmとすることにより、微粒子層4内で、金属微粒子6による導電パスが形成されず、微粒子層4内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、粒子径が上記範囲内の金属微粒子6を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
【0053】
なお、金属微粒子6の周囲には、金属微粒子6の大きさより小さい絶縁体物質が存在していてもよく、金属微粒子6の大きさより小さい絶縁体物質は、金属微粒子6の表面に付着する付着物質であってもよく、付着物質は、金属微粒子6の平均径より小さい形状の集合体として、金属微粒子6の表面を被膜する絶縁被膜であってもよい。金属微粒子6の大きさより小さい絶縁体物質としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような絶縁体物質でも用いることができる。ただし、金属微粒子6の大きさより小さい絶縁体物質が金属微粒子6を被膜する絶縁被膜であり、絶縁被膜を金属微粒子6の酸化被膜によって賄った場合、大気中での酸化劣化により酸化皮膜の厚さが所望の膜厚以上に厚くなってしまう恐れがあるため、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、有機材料による絶縁被膜が好ましく、例えば、アルコラート、脂肪酸、アルカンチオールといった材料が挙げられる。この絶縁被膜の厚さは薄い方が有利であることが言える。
【0054】
絶縁体の微粒子5に関しては、その材料は絶縁性を持つものであれば特に制限なく用いることができる。ただし、後述の実験結果の通り微粒子層4を構成する微粒子全体における絶縁体の微粒子5の重量割合は80〜95%、またその大きさは、金属微粒子6に対して優位な放熱効果を得るため、金属微粒子6の直径よりも大きいことが好ましく、絶縁体の微粒子5の直径(平均径)は10〜1000nmであることが好ましく、12〜110nmがより好ましい。従って、絶縁体の微粒子5の材料はSiO、Al、TiOといったものが実用的となる。ただし、表面処理が施された小粒径シリカ粒子を用いると、それよりも粒子径の大きな球状シリカ粒子を用いるときと比べて、溶媒中に占めるシリカ粒子の表面積が増加し、溶液粘度が上昇するため、微粒子層4の膜厚が若干増加する傾向にある。また、絶縁体の微粒子5の材料には、有機ポリマーから成る微粒子を用いてもよく、例えば、JSR株式会社の製造販売するスチレン/ジビニルベンゼンから成る高架橋微粒子(SX8743)、または日本ペイント株式会社の製造販売するスチレン・アクリル微粒子のファインスフェアシリーズが利用可能である。ここで、絶縁体の微粒子5は、2種類以上の異なる粒子を用いてもよく、また、粒径のピークが異なる粒子を用いてもよく、あるいは、単一粒子で粒径がブロードな分布のものを用いてもよい。
【0055】
また絶縁体の成す役割は微粒子形状に依存しないため、上記絶縁体物質に有機ポリマーから成るシート基板や、何らかの方法で絶縁体物質を塗布して形成した絶縁体層を用いてもよい。但しこのシート状基板や絶縁体層には厚さ方向を貫通する複数の微細孔を有する必要がある。このような用件を満たすシート状基板材料として、例えば、ワットマンジャパン株式会社の製造販売するメンブレンフィルターニュークリポア(ポリカーボネート製)が有用である。
【0056】
微粒子層4は薄いほど強電界がかかるため低電圧印加で電子を加速させることができるが、電子加速層の層厚を均一化できること、また層厚方向における電子加速層の抵抗調整が可能となることなどから、微粒子層4の層厚は、12〜6000nm、より好ましくは300〜6000nmであるとよい。
【0057】
次に、電子放出の原理について説明する。図2は、電子放出素子1の微粒子層4付近の断面を拡大した模式図である。図2に示すように、微粒子層4は、その大部分を絶縁体微の粒子5で構成され、その隙間に金属微粒子6が点在している。図2における絶縁体の微粒子5および金属微粒子6の比率は、絶縁体の微粒子5および金属微粒子6の総重量に対する絶縁体の微粒子5の重量比率が80%に相当する状態であり、絶縁体の微粒子5一粒子当たりに付着する金属微粒子6は六粒子程度となる。
【0058】
微粒子層4は絶縁体の微粒子5と少数の金属微粒子6とで構成されるため、半導電性を有する。よって微粒子層4へ電圧を印加すると、極弱い電流が流れる。微粒子層4の電圧電流特性は所謂バリスタ特性を示し、印加電圧の上昇に伴い急激に電流値を増加させる。この電流の一部は、印加電圧が形成する微粒子層4内の強電界により弾道電子となり、上部電極3を透過あるいはその隙間を通過して電子放出素子1の外部へ放出される。弾道電子の形成過程は、電子が電界方向に加速されつつトンネルすることによるものと考えられるが、断定できていない。
【0059】
次に、電子放出素子1の、生成方法の一実施形態について説明する。まず、基板2上に、絶縁体の微粒子5と、金属微粒子6とを分散させた分散溶液をスピンコート法を用いて塗布することで、微粒子層4を形成する。ここで、分散溶液に用いる溶媒としては、絶縁体の微粒子5と、金属微粒子6とを分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができ、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、テトラデカン等を用いることができる。また、金属微粒子6の分散性を向上させる目的で、事前処理としてアルコラート処理を施すとよい。スピンコート法による成膜、乾燥、を複数回繰り返すことで所定の膜厚にすることができる。微粒子層4は、スピンコート法以外に、例えば、滴下法、スプレーコート法等の方法でも成膜することができる。そして、電子加速層4上に上部電極3を成膜する。上部電極3の成膜には、例えば、マグネトロンスパッタ法を用いればよい。
【0060】
また、電子放出素子1において、電子加速層における絶縁体物質(微粒子層4における絶縁体の微粒子5に対応)が層形成されたものである場合、次のように生成することができる。まず、基板2上に、シート状で、かつ、層の厚み方向に貫通する複数の開口部を有している絶縁体物質(以降ではシート状絶縁体物質)を積層する、もしくは、基板2上に絶縁体物質を溶解/分散したコート液を塗布して絶縁体層を形成する。シート状絶縁体物質には、例えば、有機ポリマー、SiO、Alから成るシート状基板を用いることができ、絶縁体層を形成する物質には、SiO、Al、及びTiO、または有機ポリマーを用いることができる。
【0061】
ここで、複数の開口部は、有機ポリマーであれば刃物を用いたうち抜き法や、高エネルギーレーザ照射によるレーザ穴あけ加工法等を用いて形成可能であり、またSiO、Alから成る物質には、陽極酸化法、特にSiOのナノポーラス構造形成には、界面活性剤を鋳型とする水熱反応法等を用いて、所望の開口部を形成可能である。なお、開口部の大きさは、使用する金属微粒子以上の直径が必要となり、50〜50nmが好ましい。このような開口部が設けられたシート状絶縁体物質を基板2積層する、もしくは絶縁体物質を溶解/分散したコート液を塗布して形成した絶縁体層に、複数の開口部を形成する。
【0062】
ここで、上記では、基板2に、開口部が設けられたシート状絶縁体物質を積層しているが、基板2にシート状絶縁体物質を積層した後に、シート状絶縁体物質に開口部を形成してもよい。
【0063】
その後、シート状絶縁体物質の開口部に絶縁被膜された金属微粒子6を充填する。このとき、例えば、絶縁被膜された金属微粒子6を分散させた溶液を、開口部に浸透させ自然乾燥させることで、電子加速層4が形成される。なお、絶縁被膜された金属微粒子6を、溶媒に分散させることなく、送風や吸引または擦り込みなどの方法により開口部に直接浸透させてもよい。そして、このように形成された電子加速層4上に、上部電極3を成膜する。上部電極3の成膜には、例えば、マグネトロンスパッタ法を用いればよい。
【0064】
(実施例1)
実施例として、本発明に係る電子放出素子を用いた電子放出実験について図3〜7を用いて説明する。なお、この実験は実施の一例であって、本発明の内容を制限するものではない。
【0065】
本実施例では、微粒子層4における絶縁体の微粒子5と絶縁体物質(付着物質)を表面に付着させた金属微粒子6との配合を変えた5種類の電子放出素子1を作製した。
【0066】
基板2には30mm角のSUSの基板を使用し、この基板2上にスピンコート法を用いて微粒子層4を堆積させた。スピンコート法に用いた絶縁体の微粒子5及び絶縁体物質を表面に付着させた金属微粒子6を含んだ溶液は、トルエンを溶媒として各粒子を分散したものである。トルエン溶媒中に分散させた絶縁体の微粒子5と絶縁体物質を表面に付着させた金属微粒子6の配合割合は、絶縁体の微粒子5および金属微粒子6の投入総量に対する絶縁体の微粒子5の重量比率を70、80、90、95%と、それぞれ成るようにした。
【0067】
絶縁体物質を表面に付着させた金属微粒子6として、銀ナノ粒子(平均径10nm、うち絶縁被膜アルコラート1nm厚)を用い、絶縁体の微粒子5として、球状シリカ粒子(平均径110nm)を用いた。
【0068】
各微粒子を分散させた溶液は、次のように作成する。10mLの試薬瓶にトルエン溶媒を3mL入れ、その中に0.5gのシリカ粒子を投入する。ここで試薬瓶を超音波分散器にかけ、シリカ粒子の分散を行う。この後0.055gの銀ナノ粒子を追加投入し、同様に超音波分散処理を行う。こうして絶縁体の微粒子(シリカ粒子)の配合割合が90%となる分散溶液が得られる。
【0069】
スピンコート法による成膜条件は、分散溶液の基板への滴下後に、500RPMにて5sec続いて3000RPMにて10sec、基板の回転を行う事とした。この成膜条件を3度繰り返し、基板上に3層堆積させた後、室温で自然乾燥させた。膜厚は約1500nmであった。
【0070】
基板2の表面に微粒子層4を形成後、マグネトロンスパッタ装置を用いて上部電極3を成膜する。成膜材料として金を使用し、上部電極3の層厚は12nm、同面積は0.28cmとした。
【0071】
上記のように作製した電子放出素子について、図3に示すような測定系を用いて電子放出実験を行った。図3の実験系では、電子放出素子1の上部電極3側に、絶縁体スペーサ9を挟んで対向電極8を配置させる。そして、電子放出素子1および対向電極8は、それぞれ、電源7に接続されており、電子放出素子1にはV1の電圧、対向電極8にはV2の電圧がかかるようになっている。このような実験系を1×10−8ATMの真空中に配置して電子放出実験を行い、さらに、このような実験系を大気中に配置して電子放出実験を行った。これらの実験結果を図4〜7に示す。
【0072】
図4は、真空中にて電子放出実験した際の電子放出電流を測定した結果を示すグラフである。ここで、V1=1〜10V、V2=50Vとした。図4に示すように、1×10−8ATMの真空中において、シリカ粒子の重量比率が、70%では電子放出が見られないのに対し、80、90、95%では電子放出による電流が観測された。その値は、10Vの電圧印加で10−7A程度であった。
【0073】
図5は、上記と同様、真空中において電子放出実験した際の素子内電流を測定した結果を示すグラフである。ここでも、上記と同様、V1=1〜10V、V2=50Vとした。図5から、シリカ粒子の割合が70%では抵抗値が足りずに絶縁破壊を起こしている(電流値が振り切れ、グラフ上部に張り付いている)ことがわかる。金属微粒子の配合比が多くなると、金属微粒子による導電パスが形成され易くなり、微粒子層4に低電圧で大電流が流れてしまう。このため、弾道電子発生の条件が成立しないと考えられる。
【0074】
図6は、シリカ粒子の割合が90%の電子放出素子を用いて、V1=1〜15V,V2=200Vとして、大気中で電子放出実験した際の、電子放出電流および素子内電流を測定した結果を示すグラフである。
【0075】
図6に示すように、大気中で、V1=15Vの電圧印加で10−10A程度の電流が観測された。
【0076】
さらに、図7は、図6と同様シリカ粒子の割合が90%の電子放出素子を用いて、ここでは、V1=15V,V2=200Vの電圧印加で大気中にて連続駆動させた際の、電子放出電流および素子内電流を測定した結果を示すグラフである。図7に示す通り、6時間経っても安定的に電流を放出し続けた。
【0077】
(実施例2)
本実施例では、微粒子層4における絶縁体の微粒子5と絶縁体物質を表面に付着させた金属微粒子6の組成は上記実施例1と同様だが、微粒子層4の成膜条件を変更し、その層厚を変えた4種類の電子放出素子1を作成した。
【0078】
スピンコートに用いる分散溶液に分散させた絶縁体の微粒子5と絶縁体物質を表面に付着させた金属微粒子6の配合割合は、絶縁体の微粒子5および金属微粒子6の投入総量に対する絶縁体の微粒子5の重量比率を80%と成るように調整し、スピンコート法による上述の成膜条件を1回、5回、で作成した。また、同スピンコート法による成膜条件において、コート面へ供給する塗液量を減量し、同1回のスピンコート条件でも行った。さらに先の成膜方法は異なり、分散溶液を基板2表面に滴下するだけの方法でも微粒子層4の成膜も行った。各成膜条件と微粒子層4の層厚との関係は、表1に示す通りである。
【0079】
【表1】

【0080】
本実施例にて作成した電子放出素子1を、図3に示す測定系を用いて測定した結果は以下の通りである。V1=1〜20V、V2=50Vとして計測した結果、1×10−8ATMの真空中において、微粒子層4の層厚が300nmから6000nmの範囲にある電子放出素子では電子放出が得られたのに対し、19000nmの電子放出素子では、素子の抵抗が高いため十分な素子内電流を流すことができず、電子放出が得られなかった。
【0081】
(実施例3)
上記実施例1,2では、トルエン溶媒に、絶縁体の微粒子5として球状シリカ粒子、絶縁体物質を表面に付着させた金属微粒子6としてアルコラート被膜された銀ナノ粒子、を分散させた系であった。本実施例では、金属微粒子として、金、白金およびパラジウムを用いて電子放出素子の作成を行った。
【0082】
微粒子層4の成膜方法には前述のスピンコート法を用いるため、各微粒子を分散させた溶液を次のように作成した。10mLの試薬瓶にエタノール溶媒を3mL入れ、球状シリカ粒子(平均径110nm)を0.5g投入する。ここで試薬瓶を超音波分散器にかけ、シリカ粒子の分散を行う。次に金微粒子(平均粒径3nm)を0.055g追加投入し、同様に超音波分散処理を行う。この条件で分散溶液に占める微粒子の総質量に対するシリカ粒子の配合割合は90%となる。
【0083】
スピンコート法による成膜条件は前述の実施例と同様であるが、SUSの基板表面には、前処理としてシランカップリング剤を用いた親水化処理を行う必要がある。このようにして作成した微粒子層4の表面には、マグネトロンスパッタ装置を用いて上部電極3を成膜する。成膜材料として金を使用し、上部電極3の層厚は12nm、同面積は0.28cmとした。
【0084】
この電子放出素子は1×10−8ATMの真空中において、上部電極への印加電圧10Vにて、6×10−8Aの電子放出電流が確認された。
【0085】
同様に、白金微粒子およびパラジウムパラジウム微粒子においても、全く同様の製造方法により電子放出素子を作成し、電子放出可能であることを確認した。
【0086】
(実施例4)
本実施例では、微粒子層4における絶縁体の微粒子5として有機ポリマーから成る微粒子を用いて電子放出素子の作成を行った。
【0087】
先の実施例同様、微粒子層4の成膜方法には前述のスピンコート法を用いるため、各微粒子を分散させた溶液を次のように作成した。10mLの試薬瓶にトルエン溶媒を3mL入れ、JSR株式会社製高架橋ポリマー微粒子(SX8743:平均径50nm)を0.5g投入する。ここで試薬瓶を超音波分散器にかけ、高架橋ポリマー微粒子の分散を行う。次に応用ナノ研究所製、銀ナノ粒子を0.055g追加投入し、同様に超音波分散処理を行い、微粒子分散溶液が得られる。
【0088】
スピンコート法による成膜条件は前述のものと同様であり、SUSの基板2表面に3回の成膜を繰り返すことで、膜厚が約1000nmの微粒子層4が得られた。この微粒子層4の表面に、金材料を用いて厚さ40nmの上部電極3を成膜し、電子放出素子とした。本実施例における電子放出素子においても、電子放出が確認された。
【0089】
(実施例5)
本実施例では、電子加速層における絶縁体物質(上記実施例1〜4の、微粒子層4における絶縁体の微粒子5に対応)として有機ポリマーから成るシート状基板を用いて電子放出素子の作成を行った。図8に、本発明に係る電子放出素子の構成の、別の一例である電子放出素子1’の電子加速層4’付近の断面を拡大した模式図を示す。本実施例では、絶縁体物質5’は、シート状で基板2に積層されており、積層方向に貫通する複数の開口部51を有する形状となっている。
【0090】
基板2には30mm角のSUSの基板を用い、その上に絶縁体物質5’として厚さが6μmのポリカーボネートのシートを積層した。なお、このポリカーボネートのシートには、φ50nmの開口部(孔)51が1μmあたり6個の割合で開いており、その開口率は約1.2%である。開口部51は、シートの積層方向に貫通している。
【0091】
次に、絶縁体物質を表面に付着させた金属微粒子6として金ナノ粒子(平均粒径10nm、うち絶縁皮膜水溶性高分子1nm)を2.5mmol/Lの濃度で溶媒である水に分散させた。この溶液を上記ポリカーボネートのシートの上に適量滴下し、上記開口部51に浸透させた後、自然乾燥させた。上部電極3には金を用い、マグネトロンスパッタにより層厚を12nmにして開口部51に金ナノ粒子が埋まっているポリカーボネートのシート(電子加速層4’)上に堆積させた。電極面積は0.28cmであった。
【0092】
上記のように作製した電子放出素子1’について、図3に示すような測定系を用いて電子放出実験を行ったところ、電子放出による電流が確認された。
【0093】
なお、本実施例では溶液の滴下により開口部51に絶縁体物質を表面に付着させた金属微粒子6を浸透させているが、溶媒に分散させることなく送風や吸引または擦り込みなどの方法により直接浸透させてもよい。
【0094】
〔実施の形態2〕
図9に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出素子1を用いた本発明に係る帯電装置90の一例を示す。帯電装置90は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とからなり、感光体11を帯電させるものである。本発明に係る画像形成装置は、この帯電装置90を具備している。本発明に係る画像形成装置において、帯電装置90を成す電子放出素子1は、被帯電体である感光体11に対向して設置され、電圧を印加することにより、電子を放出させ、感光体11を帯電させる。なお、本発明に係る画像形成装置では、帯電装置90以外の構成部材は、従来公知のものを用いればよい。ここで、帯電装置90として用いる電子放出素子1は、感光体11から、例えば3〜5mm隔てて配置するのが好ましい。また、電子放出素子1への印加電圧は25V程度が好ましく、電子放出素子1の電子加速層の構成は、例えば、25Vの電圧印加で、単位時間当たり1μA/cmの電子が放出されるようになっていればよい。
【0095】
帯電装置90として用いられる電子放出素子1は、大気中で動作させても放電を伴わず、従って帯電装置90からのオゾンの発生は全く無い。オゾンは人体に有害であり環境に対する各種規格で規制されているほか、機外に放出されなくとも機内の有機材料、例えば感光体11やベルトなどを酸化し劣化させてしまう。このような問題を、本発明に係る電子放出素子1を帯電装置90に用い、また、このような帯電装置90を画像形成装置が有することで、解決することができる。
【0096】
さらに帯電装置90として用いられる電子放出素子1は、面電子源として構成されるので、感光体11の回転方向へも幅を持って帯電を行え、感光体11のある箇所への帯電機会を多く稼ぐことができる。よって、帯電装置90は、線状で帯電するワイヤ帯電器などと比べ、均一な帯電が可能である。また、帯電装置90は、数kVの電圧印加が必要なコロナ放電器と比べて、10V程度と印加電圧が格段に低くてすむというメリットもある。
【0097】
〔実施の形態3〕
図10に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出素子1を用いた本発明に係る電子線硬化装置100の一例を示す。電子線硬化装置100は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7、さらに電子を加速させる加速電極21を備えている。電子線硬化装置100では、電子放出素子1を電子源とし、放出された電子を加速電極21で加速してレジスト22へと衝突させる。一般的なレジスト22を硬化させるために必要なエネルギーは10eV以下であるため、エネルギーだけに注目すれば加速電極は必要ない。しかし、電子線の浸透深さは電子のエネルギーの関数となるため、例えば厚さ1μmのレジスト22を全て硬化させるには約5kVの加速電圧が必要となる。
【0098】
従来からある一般的な電子線硬化装置は、電子源を真空封止し、高電圧印加(50〜100kV)により電子を放出させ、電子窓を通して電子を取り出し、照射する。この電子放出の方法であれば、電子窓を透過させる際に大きなエネルギーロスが生じる。また、レジストに到達した電子も高エネルギーであるため、レジストの厚さを透過してしまい、エネルギー利用効率が低くなる。さらに、一度に照射できる範囲が狭く、点状で描画することになるため、スループットも低い。
【0099】
これに対し、本発明に係る電子放出素子1を用いた本発明に係る電子線硬化装置は、大気中動作可能であるため、真空封止の必要がない。また、電子透過窓を通さないのでエネルギーのロスも無く、印加電圧を下げることができる。さらに面電子源であるためスループットが格段に高くなる。また、パターンに従って電子を放出させれば、マスクレス露光も可能となる。
【0100】
〔実施の形態4〕
図11〜13に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出素子1を用いた本発明に係る自発光デバイスの例をそれぞれ示す。
【0101】
図11に示す自発光デバイス31は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7と、さらに、電子放出素子1と離れ、対向した位置に、基材となるガラス基板34、ITO膜33、そして蛍光体32が積層構造を有する発光部36と、から成る。
【0102】
蛍光体32としては赤、緑、青色発光に対応した電子励起タイプの材料が適しており、例えば、赤色ではY:Eu、(Y,Gd)BO:Eu、緑色ではZnSiO:Mn、BaAl1219:Mn、青色ではBaMgAl1017:Eu2+等が使用可能である。ITO膜33が成膜されたガラス基板34表面に、蛍光体32を成膜する。蛍光体32の厚さ1μm程度が好ましい。また、ITO膜33の膜厚は、導電性を確保できる膜厚であれば問題なく、本実施形態では150nmとした。
【0103】
蛍光体32を成膜するに当たっては、バインダーとなるエポキシ系樹脂と微粒子化した蛍光体粒子との混練物として準備し、バーコーター法或いは滴下法等の公知な方法で成膜するとよい。
【0104】
ここで、蛍光体32の発光輝度を上げるには、電子放出素子1から放出された電子を蛍光体へ向けて加速する必要があり、その場合は電子放出素子1の基板2と発光部36のITO膜33の間に、電子を加速する電界を形成するための電圧印加するために、電源35を設けるとよい。このとき、蛍光体32と電子放出素子1との距離は、0.3〜1mmで、電源7からの印加電圧は18V、電源35からの印加電圧は500〜2000Vにするのが好ましい。
【0105】
図12に示す自発光デバイス31’は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7、さらに、蛍光体32を備えている。自発光デバイス31’では、蛍光体32は平面状であり、電子放出素子1の表面に蛍光体32が配置されている。ここで、電子放出素子1表面に成膜された蛍光体32の層は、前述のように微粒子化した蛍光体粒子との混練物から成る塗布液として準備し、電子放出素子1表面に成膜する。但し、電子放出素子1そのものは外力に対して弱い構造であるため、バーコーター法による成膜手段は利用すると素子が壊れる恐れがある。このため滴下法或いはスピンコート法等の方法を用いるとよい。
【0106】
図13に示す自発光デバイス31”は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7を備えており、さらに、電子放出素子1の微粒子層4に蛍光体32’として蛍光の微粒子が混入されている。この場合、蛍光体32’の微粒子を絶縁体の微粒子5と兼用させてもよい。但し前述した蛍光体の微粒子は一般的に電気抵抗が低く、絶縁体の微粒子5に比べると明らかに電気抵抗は低い。よって蛍光体の微粒子を絶縁体の微粒子5に変えて混合する場合、その蛍光体の微粒子の混合量は少量に抑えなければ成らない。例えば、絶縁体の微粒子5として球状シリカ粒子(平均径110nm)、蛍光体微粒子としてZnS:Mg(平均径500nm)を用いた場合、その重量混合比は3:1程度が適切となる。
【0107】
上記自発光デバイス31,31’,31”では、電子放出素子1より放出させた電子を蛍光体32,32に衝突させて発光させる。なお、自発光デバイス31,31’,31”は、電子放出素子1が大気中で電子を放出できるため、大気中動作可能であるが、真空封止すれば電子放出電流が上がり、より効率よく発光することができる。
【0108】
さらに、図14に、本発明に係る自発光デバイスを備えた本発明に係る画像表示装置の一例を示す。図14に示す画像表示装置140は、図13で示した自発光デバイス31”と、液晶パネル330とを供えている。画像表示装置140では、自発光デバイス31”を液晶パネル330の後方に設置し、バックライトとして用いている。画像表示装置140に用いる場合、自発光デバイス31”への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cmの電子が放出されるようになっていればよい。また、自発光デバイス31”と液晶パネル330との距離は、0.1mm程度が好ましい。
【0109】
また、本発明に係る画像表示装置として、図11に示す自発光デバイス31を用いる場合、自発光デバイス31をマトリックス状に配置して、自発光デバイス31そのものによるFEDとして画像を形成させて表示する形状とすることもできる。この場合、自発光デバイス31への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cmの電子が放出されるようになっていればよい。
【0110】
(実施の形態5)
図15及び図16に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出素子1を用いた本発明に係る送風装置の例をそれぞれ示す。以下では、本願発明に係る送風装置を、冷却装置として用いた場合について説明する。しかし、送風装置の利用は冷却装置に限定されることはない。
【0111】
図15に示す送風装置150は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とからなる。送風装置150において、電子放出素子1は、電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出することにより、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。冷却させる場合、電子放出素子1に印加する電圧は、18V程度が好ましく、この電圧で、雰囲気下に、例えば、単位時間当たり1μA/cmの電子を放出することが好ましい。
【0112】
図16に示す送風装置160は、図15に示す送風装置150に、さらに、送風ファン42が組み合わされている。図16に示す送風装置160は、電子放出素子1が電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出し、さらに、送風ファン42が被冷却体41に向かって送風することで電子放出素子から放出された電子を被冷却体41に向かって送り、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。この場合、送風ファン42による風量は、0.9〜2L/分/cmとするのが好ましい。
【0113】
ここで、送風によって被冷却体41を冷却させようとするとき、従来の送風装置あるいは冷却装置のようにファン等による送風だけでは、被冷却体41の表面の流速が0となり、最も熱を逃がしたい部分の空気は置換されず、冷却効率が悪い。しかし、送風される空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含まれていると、被冷却体41近傍に近づいたときに電気的な力によって被冷却体41表面に引き寄せられるため、表面近傍の雰囲気を入れ替えることができる。ここで、本発明に係る送風装置150,160では、送風する空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含んでいるので、冷却効率が格段に上がる。
【0114】
図17は、被冷却体41に単に空気を送風した場合の被冷却体41の表面温度と、被冷却体41に電子およびイオンを含む空気を送風した場合の被冷却体41の表面温度とを比較したグラフである。図17から、送風される空気に電子およびイオンが含まれると、冷却効率が上がることがわかる。
【0115】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明に係る電子放出素子は、放電を伴わないためオゾンの発生が無く、また、安定な大気圧動作が可能である。よって、例えば、電子写真方式の複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置の帯電装置や、電子線硬化装置、或いは発光体と組み合わせることにより画像表示装置、または放出された電子が発生させるイオン風を利用することにより送風装置等に、好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の一実施形態の電子放出素子の構成を示す模式図である。
【図2】図1の電子放出素子における微粒子層付近の断面の拡大図である。
【図3】電子放出実験の測定系を示す図である。
【図4】真空中における電子放出電流を示すグラフを表す図である。
【図5】真空中における電子放出時の素子内電流を示すグラフを表す図である。
【図6】大気中における電子放出電流及び素子内電流を示すグラフを表す図である。
【図7】大気中における電子放出電流及び素子内電流の経時変化を示す図である。
【図8】本発明の電子放出素子の別の構成による、電子加速層付近の断面の拡大図である。
【図9】本発明の電子放出素子を用いた帯電装置の一例を示す図である。
【図10】本発明の電子放出素子を用いた電子線硬化装置の一例を示す図である。
【図11】本発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスの一例を示す図である。
【図12】本発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスの他の一例を示す図である。
【図13】本発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスの更に別の一例を示す図である。
【図14】本発明の電子放出素子を用いた自発光デバイスを具備する画像形成装置の他の一例を示す図である。
【図15】本発明に係る電子放出素子を用いた送風装置及びそれを具備した冷却装置の一例を示す図である。
【図16】本発明の電子放出素子を用いた送風装置及びそれを具備した冷却装置の別の一例を示す図である。
【図17】被冷却体に、空気を送風した場合のと、電子およびイオンを含む空気を送風した場合とにおける、比較したグラフを表す図である。
【符号の説明】
【0118】
1,1’ 電子放出素子
2 基板(電極基板)
3 上部電極(薄膜電極)
4 微粒子層(電子加速層)
4’ 電子加速層
5 絶縁体の微粒子(絶縁体物質)
5’ 絶縁体物質
6 金属微粒子(導電微粒子)
7 電源(電源部)
8 対向電極
9 絶縁体スペーサ
11 感光体
21 加速電極
22 レジスト
31,31’,31” 自発光デバイス
32,32’ 蛍光体
33 ITO膜
34 ガラス基板
35 電源
36 発光部
41 被冷却体
42 送風ファン
51 開口部
90 帯電装置
100 電子線硬化装置
140 画像表示装置
150 送風装置
160 送風装置
330 液晶パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基板と薄膜電極とを有し、当該電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加することで、当該電極基板と薄膜電極との間で電子を加速させて、当該薄膜電極から当該電子を放出させる電子放出素子であって、
上記電極基板と上記薄膜電極との間には、
導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、
上記導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質と、
が含まれる電子加速層が設けられていることを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
上記導電微粒子は、貴金属であることを特徴とする、請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
上記導電微粒子を成す導電体は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
上記導電微粒子の平均径は、3〜10nmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項5】
上記絶縁体物質は、SiO、Al、及びTiOの少なくとも1つを含んでいる、または有機ポリマーを含んでいることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項6】
上記絶縁体物質が微粒子であり、その平均径は、10〜1000nmであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項7】
上記微粒子である絶縁体物質の平均径は、12〜110nmであることを特徴とする、請求項6に記載の電子放出素子。
【請求項8】
上記電子加速層における上記絶縁体物質の割合が、重量比で80〜95%であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項9】
上記電子加速層の層厚は、12〜6000nmであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項10】
上記電子加速層の層厚は、300〜6000nmであることを特徴とする、請求項9に記載の電子放出素子。
【請求項11】
上記薄膜電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項12】
上記導電微粒子の周囲に、当該導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質が存在することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項13】
上記導電微粒子の周囲に存在する上記導電微粒子の大きさより小さい絶縁体物質は、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいること特徴とする、請求項12に記載の電子放出素子。
【請求項14】
上記導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質は、上記電極基板に層形成されており、かつ、層の厚み方向に貫通する複数の開口部を有しており、
上記開口部には、上記導電微粒子が収容されていることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の電子放出素子と、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴とする電子放出装置。
【請求項16】
請求項15に記載の電子放出装置と発光体とを備えたことを特徴とする自発光デバイス。
【請求項17】
請求項16に記載の自発光デバイスを備えたことを特徴とする画像表示装置。
【請求項18】
請求項15に記載の電子放出装置を備え、雰囲気下に電子を送風することを特徴とする送風装置。
【請求項19】
請求項15に記載の電子放出装置を備え、雰囲気下に電子を送風して被冷却体を冷却することを特徴とする冷却装置。
【請求項20】
請求項15に記載の電子放出装置を備え、感光体を帯電することを特徴とする帯電装置。
【請求項21】
請求項20に記載の帯電装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項22】
請求項15に記載の電子放出装置を備えることを特徴とする電子線硬化装置。
【請求項23】
電極基板と薄膜電極とを有し、当該電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加することで、当該電極基板と薄膜電極との間で電子を加速させて、当該薄膜電極から放出させる電子放出素子の製造方法であって、
上記電極基板上に、導電体からなり抗酸化力が高い導電微粒子と、上記導電微粒子の大きさより大きい絶縁体物質とを含む電子加速層を形成する電子加速層形成工程と、
上記電子加速層上に上記薄膜電極を形成する薄膜電極形成工程と、を含むことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項24】
上記電子加速層形成工程は、
上記導電微粒子と、上記絶縁体物質とを溶媒にて混合して混合物質を生成する混合工程と、
上記電極基板上に上記混合物質を塗布する塗布工程と、
上記塗布した混合物質を乾燥させる乾燥工程と、
を含むことを特徴とする請求項23に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項25】
上記電子加速層形成工程は、
シート状で、かつ、積層方向に貫通する複数の開口部を有している上記絶縁体物質を、上記電極基板上に積層する積層工程と、
上記開口部に上記導電微粒子を充填する充填工程と、
を含むことを特徴とする請求項23に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項26】
上記電子加速層形成工程は、
上記電極基板に上記絶縁体物質を層形成する層形成工程と、
上記絶縁体物質に、層の厚み方向に貫通する複数の開口部を形成する開口工程と、
上記開口部に上記導電微粒子を充填する充填工程と、
を含むことを特徴とする請求項23に記載の電子放出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−146891(P2009−146891A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295722(P2008−295722)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】