説明

電子放出素子用微小体、インキ組成物及びこれを用いた電子放出素子並びに画像表示装置

【課題】輝度バラツキと劣化速度を減少させることのできる、均一な高さの電子放出素子と、この電子放出素子を用いて、電子放出効率が良く、高画質、高解像度で耐久性のある電界放出型ディスプレイを提供する。
【解決手段】好ましくは平均直径1〜10nmの微細孔を表面上に有し、その微細孔に触媒を担持した母微小体(A)と、母微小体(A)上の触媒から成長した繊維状炭素材料(B)とから構成されてなる電子放出素子用の微小体(C)。また、この微小体(C)の層を、好ましくは単層に、電子放出電極上に形成した電子放出素子。さらに、この微小体(C)を含有するインク組成物、並びにこの電子放出素子を具備した画像表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界電子放出現象を利用して電子を放出する電子放出素子及びそれを用いた画像表示装置に関し、さらに詳しくは、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素を付与した微小体を電子放出源とした、輝度バラツキと劣化速度を減少させる特性を有する電子放出素子とそれを用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像表示装置(又はディスプレイ)の薄型化、およびその画像の高輝度化、高コントラスト化、広視野角化に対する要請がますます強まってきている。これに伴い、ディスプレイ用の電子源として、ミクロンサイズの微小電子放出素子の開発が盛んである。
【0003】
従来、電子放出素子としては、高温に加熱されたタングステン等の材料に高電圧を印加して電子を放出させる「熱放出型」のものが用いられていたが、近年では、高温に加熱する必要が無く、低電圧でも電子を放出することが可能である「冷陰極型」の電子放出素子が盛んに研究開発されている。このような冷陰極型の電子放出素子には様々なタイプがあるが、一般的には、ゲート電極に電圧をかけ、電子放出部に電界を印加することにより電子の放出を行う電界放出形であり、シリコン(Si)やモリブデン(Mo)で作製されたコーン状の突起を電子放出部とするものが多く用いられてきた。
【0004】
このような冷陰極型電子放出素子とし、高速応答、低消費電力といった特長を持つ電界放出型ディスプレイ(FED)用の新しく有利な陰極構造が明らかにされている(例えば、特許文献1)。特許文献1は、特定の処理を行うことにより電子親和力が負となり得るダイヤモンドを電子放出源として利用しようとするものであり、その構成として、ダイヤモンド膜ではなくダイヤモンド粒子を用いることにより、製造上での簡素化、更には低コスト化を実現しようとしている。
【0005】
具体的には、基板の上に電極となる導電層が形成され、さらにその上に、ダイヤモンド粒子からなる電子放出部が形成されている。ダイヤモンド粒子は、所定の処理により、電子親和力が負になっている。このダイヤモンド粒子に対向するように電子引き出し電極が設けられ、この電子引き出し電極に電位を与えることにより、ダイヤモンド粒子からなる電子放出部から電子を取り出す。ここで、ダイヤモンド粒子は、その表面の電子親和力が負になっているので、導電層からダイヤモンド粒子に入った電子は、容易にダイヤモンド粒子から放出されることが期待される。これによって、対向する電子引き出し電極に高電圧を印加しなくても、電子の取り出しが可能になることが期待され、また、ダイヤモンド粒子を用いて電子放出部を形成していることから、電子放出素子が容易に且つ低コストで形成され得る。
【0006】
一方、カーボンナノチューブは、熱伝導率が金属よりも高く、電気伝導性が良好又は適度(良導体又は半導体)で、表面が化学的に安定し、軽量なのに強度がダイヤモンド並みなど、その特異な電気的、化学的及び機械的性質により、電界放射電子源、ナノスケール電子デバイス、化学的貯蔵システム、機械的補強材などといった将来のナノテクノロジーに応用できる可能性が高く、検討されている。
【0007】
従来、カーボンナノチューブの製造方法としては、気相法として、炭化水素などの炭素原料を含むガス雰囲気下でのアーク放電による方法、黒鉛ターゲットにレーザを照射し、蒸発させて形成するレーザ蒸発による方法、コバルト金属もしくはニッケル金属の触媒を配した基板上でアセチレンなどの炭素原料となるガスを熱分解することによる方法などが知られている(例えば、特許文献2参照)。最近では、従来のアーク放電法などに比べて格段に低コストでナノ炭素を製造できる方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。その特許文献3では、粒径が15〜100nmのダイヤモンドを担体として、それらに触媒成分としてのニッケルを金属として5wt%含む触媒0.1gを小型の固定床流通系反応管に充填し、触媒層を600℃で一定に保ち、原料ガスとしてメタンを20ml/分の流速で60分間流して反応を行うことにより、直径15〜100nmの中空の構造を持つカーボンナノチューブが得られ、カーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーの種類や形状を制御して、効率的で良好な炭素繊維を得る方法が提案されている。
【0008】
ところで、上記のように、電界放出型ディスプレイ(FED)には、良好な電子放出材料が必要であり、この電子放出材料或いは電子放出素子として、カーボンナノチューブ或いはナノカーボン系材料(ナノ炭素材料)が検討されている(例えば、特許文献4〜8参照)。
【0009】
具体的に、特許文献4では、電子放出源の製造方法が開示され、導電性を有する粘性溶液に複数のカーボンナノチューブが集合して構成されたバンドルを分散させたバンドルペーストを用意し、このバンドルペーストからなるパターンを基板上に形成する第1の工程と、前記パターン表面にレーザを照射することにより、前記パターン表面においては前記バンドル以外の物質を選択的に除去し、加えて、そのバンドル表面においては前記カーボンナノチューブ以外の炭素成分を選択的に除去して、前記カーボンナノチューブより電子を放出する電子放出源を形成する第2の工程とを備えたことを特徴とする電子放出源の製造方法が提案され、この構成により、特に、印刷パターン表面にレーザを照射することで、表面の銀粒子およびバインダーを選択的に除去し、バンドルを露出させ、加えて、このレーザ照射により、露出したバンドル表面においてカーボンナノチューブが露出した状態とすることにより、耐性があり、より多くの電子を放出させることのできる電子放出源をより容易に製作できるようにしている。
【0010】
また、特許文献5では、第1の電極と、該第1の電極上に配置された電子放出部と、を少なくとも備えた電子放出素子であって、該電子放出部は、粒子或いはその凝集体から構成されており、該粒子が、六炭素環構造を有するカーボン材料を含んでいる、電子放出素子が提案され、この構成により、特に六炭素環構造を有するカーボン材料を含む粒子或いは粒子の凝集体を電子放出部として用いることで、低コストで製造可能であり、且つ効率的に電子を放出できる安定性の高い電子放出素子となっている。六炭素環構造を有するカーボン材料は、グラファイト或いはカーボンナノチューブを主成分としている。
【0011】
特許文献6では、カーボンインキ、電子放出素子、電子放出素子の製造方法、および画像表示装置が開示され、画像表示装置は、少なくとも6員環を有する炭素の粒子を含み、有機バインダーと溶剤でペースト化され、炭素の粒子の一部を支持する支持粒子を含有するカーボンインキを、基板上にパターニングした導電体の所定の位置に塗布し、さらに焼成してなる電子放出素子を用いている。この構成により、印刷という廉価で量産性の良い工程で、電界放出効率が高いカーボンインキと電子放出素子、またその製造方法を提供し、画像表示装置に用いて良好な電子放出素子を提供し、さらに、当該電子放出素子を用いて、高画質で効率も良い画像表示装置の構成を提供している。
【0012】
また、特許文献7では、電子放出素子及び電子放出源とそれらの製造方法並びにそれらを使用した画像表示装置及びその製造方法が開示され、低電圧駆動で大電流を安定に得ることが可能な電子放出素子及びその製造方法を提供するために、電子放出素子が、導電層と、該導電層に、その一部を埋没させるように固着された、電子放出部として機能する繊維状物体(例えば、カーボン系材料やカーボンナノチューブ)とを少なくとも備えている。また、この電子放出素子は、例えば、基板上に導電性ペーストと繊維状物体との混合物を塗布する工程と、該塗布した混合物の表面部に含まれる該導電性ペーストを選択的に除去して、該繊維状物体の一部を露出させる除去工程と、を包含する製造方法によって、製造することができるものである。
【0013】
さらに、特許文献8では、複数の電子放出物質の個体が基板に垂直な状態で存在することができる電子放出用複合粒子及びその製造方法、電子放出源及びその製造方法、電子放出用複合粒子を含む電子放出表示素子エミッタ形成用組成物が提案され、低い動作電圧で電子放出が始まって電子放出特性に優れた電子放出素子を提供するために、金属、酸化物及びセラミック物質からなる群より選択された少なくとも一種の物質からなるマトリックス粒子と、このマトリックス粒子の内部に一部が埋まっており、他部は表面に突出しているカーボン系物質の個体と、を有することを特徴とする電子放出用複合粒子などが開示されている。
【0014】
しかしながら、特許文献4〜7に示される、電子放出素子やその製造方法では、カーボンナノチューブなどのカーボン材料を導電性ペーストなどと共に、電極基板に塗布し、その塗布工程のみでは、カーボンナノチューブなどが横倒しとなり、或いはペースト中に埋没することになって、有効な電子放出素子が形成されない。そのため、さらに除去工程などを採用することにより、カーボンナノチューブなどを露出させ、有効な電子放出素子を形成させている。
【0015】
このような方法では、カーボンナノチューブなどの高さが不均一となり、その結果、電界放出型ディスプレイ(FED)の輝度のバラツキの原因となったり、或いは高さが高いカーボンナノチューブなどに電界が集中することにより、そこから破壊されて劣化が早くなるという問題があった。
【0016】
【特許文献1】特開平7−282715号公報
【特許文献2】特開2000−86217号公報
【特許文献3】特開2004−277241号公報
【特許文献4】特開2000−36243号公報
【特許文献5】特開2000−90813号公報
【特許文献6】特開2000−204304号公報
【特許文献7】特開2000−208027号公報
【特許文献8】特開2004−311407号公報
【特許文献9】特開2004−71527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、上記従来の電界放出型ディスプレイ(FED)用電子放出素子の問題点に鑑み、カーボンナノチューブを用いた電子放出素子であって、カーボンナノチューブの高さが均一で、その成長方向が揃っているため、輝度のバラツキや電界の局部集中による劣化を避けることができる電子放出素子を提供することにある。
【0018】
また、本発明の他の目的は、当該電子放出素子を用いて、電子の放出効率が良く、高画質、高解像度で耐久性のある電界放出型ディスプレイ(画像表示装置)を提供することにある。
【0019】
また、上述のような電界放出型ディスプレイには、ダイオードアクションと呼ばれる故障動作があり、解決すべき重要な課題となっている。これは、電子の放出を止めようとしても、エミッタホールの中央付近からの電子の放出が止まらなくなる現象である。すなわち、エミッタホール底部のカソード上に電子放出素子を形成し、エミッタホールの上面にゲート電極を設ける。このカソードとゲート間の電界(電位勾配)で電子の放出を制御する(ゲート電圧のオンオフで電子の放出をオンオフする)。エミッタホールの縁付近では電界は正常に維持されているが、中央付近ではアノード側の数〜10数kVの高電圧の影響を受けて、ゲート電圧をゼロにしても電子の放出が続いてしまうという現象である。
【0020】
かかるダイオードアクションを防止する方法として、特許文献9にはエミッタホールの底部中央に凹みを設ける方法が提案されている。すなわち、エミッタホールの底部にカーボンナノチューブ含有ペーストを塗布して、電子源膜とする場合に、図3に示すように、エミッタホール4の底部中央に凹み8を設ける方法である。しかし、この方法では、エミッタホールに微細な凹みを精度良く形成する加工の手間が大きいことが問題になる。
【0021】
本発明者らの知見によれば、このダイオードアクションには、電子放出体の高さの均一性や、エミッタホール内での配置が大きな影響を及ぼす。そこで、本発明の他の目的は、電子放出体(カーボンナノチューブ)の高さや配列を適切に制御して、エミッタホールの底部が平坦であっても、ダイオードアクションを防止し得る手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を重ねた結果、表面上に微細孔を有し、その微細孔に触媒を担持した母微小体から、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素を付与した微小体を作製し、その微小体を導電性粘性溶液、例えば導電性ペーストと共に含有するインキ組成物を調整し、そのインキ組成物を電極上に塗布すると、従来の技術では、導電性ペーストなどの除去工程が必要であったが、塗布工程(さらに乾燥工程)のみで電子放出素子を形成でき、その作製した電子放出素子を電界放出型ディスプレイ(FED)などに適用することにより、輝度バラツキと劣化速度を減少させ得ることを見出した。
【0023】
とくに、母微小体として、少なくとも表面に微細孔を有する粒子を用いると、繊維状炭素が母微小体表面に強固に付着するのみならず、繊維状炭素の高さ、配列間隔や成長の方向が一様になるという効果が得られる。そのため、電子の放出が一様になり、輝度バラツキや劣化速度の減少効果が大きいことが知見された。
【0024】
また、エミッタホール内の電極上に上記微小体の層を単層状に形成し、かつ微小体の径を適切に選択して、この微小体がエミッタホールの中心部を除いて配置されるようにすると、ダイオードアクションと呼ばれる現象を防止できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものである。
【0025】
すなわち、本発明の電子放出素子用の微小体(C)は、表面上に微細孔を有し、その微細孔に触媒を担持した母微小体(A)と、母微小体(A)上の触媒から成長した繊維状炭素材料(B)とから構成されてなるものである。
【0026】
この微小体(C)においては、母微小体(A)の微細孔は、その平均直径が1〜10nmであることが好ましい。また、この微細孔が、母微小体(A)の表面に互に近接して(数〜数十nmの間隔で)ほぼ一様に分布していることが好ましい。
【0027】
かかる微細孔は繊維状炭素が析出する起点となるため、結晶析出における結晶核と同様の作用をすると考えられる。結晶核が多い場合に、結晶が微細になり、その大きさが一様になるのと同様に、微細孔のある母微小体の表面には、繊維状炭素が密に析出し、その成長の高さもほぼ一様になることが知見された。なお、繊維状炭素の長さは、1〜10μmであると電子放出特性が良く、繊維状炭素が相互にからみ難くなるという知見も得ている。
【0028】
また、上記のような大きさの微細孔は、通常は母微小体の水分や揮発分が揮散して、その抜け孔として形成されるものであるため、母微小体表面に高密度(数〜数十nmの間隔)で一様に存在する。したがって、これを析出の核として成長する繊維状炭素の配列も密になり、その間隔もほぼ一様になることが知見された。かつ、繊維状炭素が密に生成するので、繊維状炭素の成長方向もほぼ表面から直角な方向になることが期待される。このように、上述のような微細孔を有する母微小体を用いることにより、その表面の繊維状炭素の析出状態を大幅に改善したことが、本発明のポイントである。
【0029】
このような特性を有する母微小体(A)としては、シリカゲル粒子が好適である。さらに、母微小体(A)がほぼ均一な大きさを有し、その平均径が0.1〜50μmであることが好ましく、球であれば粒径で、球でない場合は球換算径で算出すればよい。また、母微小体(A)は略球形であることが特に好ましく、その場合、炭素状繊維が一様に生成されているので、電極上に配置する際に方向性を考慮しなくても良い。
【0030】
本発明の電子放出素子は、上記の微小体(C)の層が、エミッタホール内の電子放出電極上に形成されていることを特徴とするものである。
【0031】
この電子放出素子においては、前記微小体(C)の層が、単層状に形成されていることが好ましい。
【0032】
また、その場合には、微小体(C)が、エミッタホールの中心を除いて配置されていることが好ましく、微小体(C)が、エミッタホールの中心からほぼ等距離に配置されていることがより好ましい。
【0033】
さらに、エミッタホール内の微小体(C)の配置を上述のように制御するために、微小体(C)として、その平均径rがエミッタホールの直径Rに対してR/3<r<R/2の関係を有する粒子を用いることが好ましい。
【0034】
本発明は、上述の微小体(C)を含有するインキ組成物、並びに上述のいずれかの電子放出素子を具備してなる画像表示装置を含むものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明の電子放出素子用微小体は、微細孔を有する母微小体表面に、カーボンナノチューブなどの電子放出部となる繊維状炭素を付与したものであり、この微小体を導電性粘性溶液に均一に分散させたインキ組成物を、電極表面に塗布・乾燥することによって、電子放出素子を形成することができる。そのため、印刷という量産性に優れ廉価な製造法で、電極や基板上に位置や範囲を特定しながら塗布することで、電子放出素子を作成できるという効果を奏する。
【0036】
また、従来の技術では、電界放出型ディスプレイの輝度のバラツキが生じたり、或いは高さの高い電子放出源(カーボンナノチューブなど)に電界が集中して、そこから破壊されて劣化が早くなるという問題が有ったが、本発明の電子放出素子においては、カーボンナノチューブなどの材料を付与した微小体を電子放出源とすることにより、輝度バラツキと劣化速度を減少させることができる。
【0037】
とくに、表面に微細孔を有する母微小体に繊維状炭素を成長させることにより、この微細孔が繊維状炭素が析出する起点となって、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素の長さや配列を一様にすることができるため、輝度のバラツキと劣化速度を減少させる効果が大きい。また、この微小体の大きさやエミッタホール内での配列を適切に調整することにより、ダイオードアクションを防止することができ、ゲート電圧をゼロとした場合にきちんと電子放出が停止される電子放出素子を実現することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明のインキ組成物及び電子放出素子などについて、項目ごとに詳細に説明する。
【0039】
本発明の電子放出素子は、表面上に微細孔を有し、その微細孔に触媒金属を担持した母微小体(A)と、母微小体(A)上の触媒から成長した繊維状炭素材料(B)から構成される微小体(C)の層を電極上に形成することを特徴とするものである。
【0040】
1.繊維状炭素材料(B)を付与した微小体(C)の作製方法
本発明に係る微小体(C)は、表面に微細孔を有しその微細孔に触媒金属を担持させた母微小体(A)を、化学的気相成長法(CVD法)により炭素を含む物質の気相中で繊維状炭素材料が合成される触媒反応温度に加熱し、前記触媒金属の表面に繊維状炭素材料を成長させて形成される。繊維状炭素は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、ダイヤモンドライクカーボン及びカーボンブラックからなる群より選択される繊維状の炭素系物質、或いはそれらの混合物である。
【0041】
母微小体(A)は、平均径1〜10nmの微細孔を有し、比表面積が100〜1000m/g程度の粒子であることが好ましい。かかる粒子としては、シリカ系多孔体(例えば、シリカゲル、シリカメソ多孔体など)、多孔質セラミックス粒子(例えば、ゼオライトなど)、多孔質金属粒子、活性炭などが挙げられる。その中でも上述のような径の微細孔を有するものとして、シリカゲル粒子が特に好ましい。
【0042】
シリカゲルは、吸着力の強いケイ酸のゲルで、成分はSiO・nHOで表されるが、加熱・脱水されて水分が2〜10%の粉末である。多孔性で微細孔を有し、その平均径はほぼ上述のような値になっている。比表面積が700〜1000m/gに及ぶものもあり、本発明の目的に好適である。
【0043】
さらに上記の微細孔は、その大きさが揃っていることが好ましい。担持した触媒が大きさの揃っているものとなることにより、均一な径の繊維状炭素、例えばカーボンナノチューブを生成することができる。本発明の電子放出素子の場合では、繊維状炭素材料を付与した微小体(C)の直径は、1〜60μmが好ましい。また、上記の微細孔は、その間隔が揃っていることが好ましい。担持した触媒間の間隔が揃っていることにより、繊維状炭素例えばカーボンナノチューブを均一な密度に成長させることができる。
【0044】
繊維状炭素を生成させるための触媒は、繊維状炭素、例えばカーボンナノチューブの生成反応の活性点となり、かつ該反応を促進するものであれば、特に限定されず、例えば、金属および金属酸化物等が挙げられる。また該金属の中でも遷移金属が好ましい。ここで遷移金属としては、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タンタル、タングステン、レニウム、イリジウムまたは白金を指すものであるが、これらの内、特に周期表VIII族に属するもので、特に鉄、ニッケル、コバルトが好適であって、鉄が最も好適である。担持方法としては、含浸法、共沈法、熱分解法などを用いることができる。
【0045】
触媒を担持した母微小体(A)の表面に繊維状炭素を成長させる方法としては、化学的気相成長法(CVD法)が好適である。CVD法は、反応容器内で母微小体を加熱し、炭素原子を含む原料ガスと接触させて、触媒の作用により、母微小体表面に繊維状炭素、例えばカーボンナノチューブを生成させるものである。母微小体を原料ガス気流と接触させる方法は、とくに限定を要しないが、例えば母微小体を石英皿に載せて気流と接触させる方法、流動床法や浮遊法などを適用することができる。
【0046】
CVD法での繊維状炭素材料の原料となる物質は、とくに限定されないが、CH,C,C,CH,CHOH,COHなどの炭化水素系ガスもしくはCO,COなどのガスを利用できる。
【0047】
また、これらの物資を分解させると同時に、それを原料元素として繊維状炭素が成長するのに十分な反応条件として、反応温度は、450〜1000℃であることが好ましい。反応温度が450℃未満であると、不完全な構造のナノチューブとなったり、アモルファスが析出したりする問題があり、一方、1000℃を超えると、グラファイトが析出するおそれがある。
【0048】
2.電子放出素子及びその製造方法
本発明の電子放出素子は、導電性粘性溶液に上記の繊維状炭素を付与した微小体(C)を均一に分散したインキ組成物を、電極上に塗布すること、すなわち塗布工程により製造される。
【0049】
(1)インキ組成物
インキ組成物は、粘性ペーストに、前記の繊維状炭素を付与した微小体を均一に分散したものである。このペーストは、電子放出素子形成の工程に応じて混合する。例えば、スクリーン印刷により塗布する場合にはそれに適した粘度に調整し、また露光プロセスによりエミッタを形成する場合には、光反応開始剤、増感剤、光反応モノマー、アルカリ可溶性アクリルバインダー、低融点ガラスなどを混合する。
【0050】
本発明のインキ組成物は、前述した母微小体(A)が微細孔を有するという点に特徴があるので、これにより得られる効果を図を用いて説明する。本発明者らの知見によれば、母微小体(A)が微細孔(径1〜10nm)を有することにより、その表面に成長する繊維状炭素(例えばカーボンナノチューブ)の成長方向や長さが一様になる。すなわち、微細孔を有しない母微小体を用いた場合には、図1(a)に示すように、カーボンナノチューブの成長方向や長さはまちまちである(従来技術)。これに対して、微細孔を有する母微小体(A)1を用いた場合には、この微細孔を起点としてカーボンナノチューブが成長することが多く、図1(b)に示すように、その成長方向はほぼ母微小体(A)1の表面と直角になり、その長さもほぼ一様になることが知見された。
【0051】
したがって、このインキ組成物をエミッタホール4の底部に塗布した場合に、従来技術のインキ組成物では、図1(c)に示すように、電子放出体であるカーボンナノチューブの高さや密度がまちまちになるのに対して、本発明のインキ組成物では、図1(d)に示すように、電子放出体の高さや密度をほぼ一様にすることができる。したがって、電子放出素子に本発明のインキ組成物を用いれば、ディスプレイの輝度のバラツキや電界の局部集中による劣化を防止することができる。
【0052】
(2)エミッタ
上記インキ組成物を、カソード電極5上に作製したエミッタホール4内に塗布、乾燥、焼成することによってエミッタを作製する。この際、微小体(C)3の大きさとエミッタホール4の深さをほぼ同じにしておけば、エミッタホール4上面より外側に堆積した微小体(C)3を取り除くことによって、微小体(C)3を容易に単層で塗布することができる(図2(a)参照)。
【0053】
具体的には、インキ組成物をエミッタホール4上にスクリーン印刷し、乾燥、焼成した後、エミッタホール4が現れるまで多重に堆積している微小体(C)3をCMP等によって研磨することで実現する。
【0054】
また、エミッタホール4の半径Rと微小体(C)3の半径rとの関係が、2r<R<3rとなるようにすれば、エミッタホールの中央に空間を残して、微小体(C)3が主にエミッタホール4の周辺近くに位置するように配置することができる。参考までに、R=2.75rとしたときの幾何学関係を、図2(b)に示す。
【0055】
このような配列状態にするには、例えば微小体(C)3を含む比較的粘度の低いインキ組成物を、エミッタホールにスクリーン印刷等で落とし込んだ後、超音波振動を与えることによって、図2(b)に示すような微小体(C)3の配列を実現することができる。
【0056】
このような配列では、図2(c)に示すように、エミッタホール4の中央付近には、微小体(C)のない空間が形成される。また、その空間の周辺では、カーボンナノチューブの方向が斜めとなり、凹み8を設けたと同様にアノード電極5からの距離を大きくすることができる。したがって、上記の本発明の構成は、ダイオードアクションの防止にきわめて有効である。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0058】
[繊維状炭素を付与した微小体と、電子放出素子の作製]
母微小体(A)として平均径約4μm、平均細孔径10nm、比表面積536m/gの真球状シリカゲル微粒子にNiを担持させたものを用いた。Niの担持は、上記シリカゲル微粒子と硝酸ニッケル6水和物を純水中で混合し、ロータリーエバポレータを用いて40℃に加熱しながら4時間回転させることで、硝酸ニッケルをシリカゲル微粒子の細孔中に十分に含浸させた。その後アスピレータを用いて水分を除去し、さらに100℃で8時間乾燥後、焼成炉で空気を自然対流させながら4時間焼成した。硝酸ニッケル6水和物とシリカゲル微粒子の重量は、担持後のNiの重量が20wt%となるように混合した。
【0059】
その後、この母微小体(A)の粉末をCVD装置に入れ、CHを20ml/分、Nを10ml/分流しながら、525℃で加熱することで、母微小体(A)の表面に、繊維状炭素(B)を生成させて、微小体(C)を作製した。
【0060】
この微小体(C)を0.2g、ペーストを20g、低融点ガラスを0.1g、テルピネオールを10g回転混合し、インキ組成物を作製した。その後、このインキ組成物をSiウェハー上に作製した深さ10μm、半径12.5μmのエミッタホール中に塗布し、80℃で3時間乾燥、400℃で2時間焼成してエミッタを作製した。
【0061】
上述のように作製した電子放出素子を、電界放出型ディスプレイ(FED)の陰極のエミッタとして用いた。これをFEDの冷陰極として、真空中で蛍光体を塗布した陽極に対向して配置し、電圧を印加することによって、真空中に電子が引き出され、加速されて蛍光体に衝突させて励起発光させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に用いられる微小体(C)又はこれを使用した電子放出素子は、下記のような広範囲な産業上の利用可能性が考えられる。
(1)電子放出素子として利用した場合
本発明の電子放出素子は、輝度バラツキと劣化速度を減少させるという優れた機能を有するので、FED、撮像装置、電子ビーム装置、マイクロ波進行管、照明装置、有機発光装置、電気化学装置のキーデバイスとして適用できる可能性が高い。
(2)複合材料のフィラーとして利用した場合
材料中に均一に繊維状炭素を分散することが容易であり、繊維状炭素の高い機械的強度、導電性、熱伝導性を合わせ持った複合材料となる。
(3)その他
一次電池や二次電池の電極、あるいは燃料電池の触媒担持体、ガス吸収材料、研磨剤として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の効果を説明する模式図である。
【図2】本発明の電子放出素子におけるダイオードアクション防止効果を説明する模式図である。
【図3】従来のダイオードアクション防止方法の例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 母微小体(A)
2 繊維状炭素材料(B)
3 微小体(C)
4 エミッタホール
5 カソード電極
6 ゲート電極
7 アノード電極
8 凹み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上に微細孔を有し、その微細孔に触媒を担持した母微小体(A)と、母微小体(A)上の触媒から成長した繊維状炭素材料(B)とから構成されてなる電子放出素子用の微小体(C)。
【請求項2】
母微小体(A)の微細孔は、その平均直径が1〜10nmであることを特徴とする請求項1に記載の微小体(C)。
【請求項3】
前記微細孔が、母微小体(A)の表面に互に近接してほぼ一様に分布していることを特徴とする請求項1又は2に記載の微小体(C)。
【請求項4】
母微小体(A)がシリカゲル粒子からなることを特徴とする請求項3に記載の微小体(C)。
【請求項5】
母微小体(A)がほぼ均一な大きさを有し、その平均径が0.1〜50μmである請求項1から4のいずれかに記載の微小体(C)。
【請求項6】
前記母微小体(A)が略球形であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の微小体(C)
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の微小体(C)の層が、エミッタホール内の電子放出電極上に形成されていることを特徴とする電子放出素子。
【請求項8】
前記微小体(C)の層が、単層状に形成されていることを特徴とする請求項7に記載の電子放出素子。
【請求項9】
微小体(C)が、エミッタホールの中心を除いて配置されていることを特徴とする請求項8に記載の電子放出素子。
【請求項10】
微小体(C)が、エミッタホールの中心からほぼ等距離に配置されていることを特徴とする請求項9に記載の電子放出素子。
【請求項11】
微小体(C)として、その平均径rがエミッタホールの直径Rに対してR/3<r<R/2の関係を有する粒子を用いてなることを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載の電子放出素子。
【請求項12】
請求項1から6のいずれかに記載の微小体(C)を含むインキ組成物。
【請求項13】
請求項7から11のいずれかに記載の電子放出素子を具備してなる画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−141554(P2007−141554A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331264(P2005−331264)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】