説明

電極箔とこの電極箔を用いたコンデンサおよび電極箔の製造方法

【課題】コンデンサの容量低下を抑制することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため本発明は、アルミニウムを主成分とする基材18の表面に亜鉛または亜鉛合金からなる下地層23を形成する工程と、この下地層23の表面に、蒸着によってアルミニウムを主成分とする微粒子20を複数積み重ね、粗膜層19を形成する工程と、を少なくとも備えたものとした。これにより本発明は、基材18表面の酸化を抑制するとともに、基材18と粗膜層19との密着性を高め、コンデンサ6の容量低下を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極箔の製造方法と電極箔およびこの電極箔を用いたコンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンデンサとしては、パーソナルコンピュータのCPU周りに使用される低ESRの固体電解コンデンサや、電源回路の平滑用などに使用されるアルミ電解コンデンサなどが挙げられる。これらのコンデンサには、小型大容量化が強く望まれている。
【0003】
例えば従来の固体電解コンデンサは、表面に誘電膜が形成された電極箔(陽極箔)と、誘電膜上に形成された導電性高分子からなる固体電解質層と、この固体電解質層上に形成された陰極層とを有している。
【0004】
そして近年コンデンサの大容量化を目的に、図11に示すように、アルミニウムからなる基材1と、この基材1上に蒸着によって形成され、内部に空隙を有する粗膜層2とを備えた電極箔3が検討されている。
【0005】
この粗膜層2は、基材1の表面にアルミニウムからなる微粒子4が積み重なり、基材1の表面から伸びるように形成されたツリー状、あるいは海ぶどう状の柱状体5が、複数集まったものである。
【0006】
粗膜層2の表面積は、複数の微粒子4が積み重なるほど大きくなり、表面積が増大するため、コンデンサの容量拡大に繋がる。
【0007】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−258404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の電極箔3においても、コンデンサの容量が低下してしまうことがある。
【0010】
その理由の一つは、粗膜層2を形成する前に、基材1の表面に酸化皮膜が形成されてしまい、粗膜層2と基材1との間が絶縁されてしまうからである。特に酸素ガス雰囲気下で蒸着を行う場合は、基材1の表面が酸化されやすくなり、酸化皮膜の厚みが増してこの問題は顕著となる。
【0011】
またもう一つの理由は、粗膜層2と基材1との密着性が低く、粗膜層2が基材1から剥離してしまうからである。特に低温環境下で蒸着を行う場合は、基材1が十分に軟化せず、根元の微粒子4との密着性が低下してしまう。
【0012】
そしてその結果、コンデンサの容量が低下してしまうのである。
【0013】
そこで本発明は、コンデンサの容量低下を抑制する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そしてこの目的を達成するため本発明は、アルミニウムからなる基材の表面に亜鉛または亜鉛合金からなる下地層を形成する工程と、この下地層の表面に、蒸着によってアルミニウムからなる微粒子を複数積み重ね、粗膜層を形成する工程と、を少なくとも備えたものとした。
【発明の効果】
【0015】
これにより本発明は、コンデンサの容量低下を抑制できる。
【0016】
その理由の一つは、下地層はアルミニウムよりも酸化されにくい亜鉛を主成分とするため、微粒子と基材との界面に酸化皮膜が形成されにくくなるからである。
【0017】
またもう一つの理由は、微粒子と基材との密着性を高めることができるからである。すなわち亜鉛はアルミニウムよりも融点が低いため、蒸着工程において基材の表面は軟化しやすくなり、微粒子との密着性が高まる。また亜鉛はアルミニウムと合金化しやすいため、下地層と基材、下地層と微粒子との界面は金属結合しやすくなり、密着性が高まる。
【0018】
そしてその結果、コンデンサの容量の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1におけるコンデンサの斜視図
【図2】(a)同コンデンサに使用されるコンデンサ素子の平面図、(b)図2(a)の断面図(X−X断面)
【図3】本発明の実施例1における電極箔の模式断面図
【図4】同電極箔を3万倍にしたSEM写真
【図5】本発明の実施例1における電極箔の要部を示す模式断面図
【図6】本発明の実施例1の電極箔の製造方法を示す模式断面図
【図7】本発明の実施例1の電極箔の製造方法を示す模式断面図
【図8】本発明の実施例2の電極箔の要部を示す模式断面図
【図9】本発明の実施例3の電極箔の要部を示す模式断面図
【図10】本発明の実施例3におけるコンデンサの一部切欠斜視図
【図11】従来の電極箔の模式断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施例1)
以下、本実施例における電極箔と、この電極箔を用いたコンデンサについて説明する。本実施例のコンデンサは、陰極材料として導電性高分子材料を用いた積層型の固体電解コンデンサである。
【0021】
図1は本実施例のコンデンサ6の斜視図であり、矩形状の複数枚のコンデンサ素子7を積層したものである。図2(a)、(b)はコンデンサ素子7の平面図および断面図である。
【0022】
図2(b)に示すように、コンデンサ素子7は、表面に誘電膜8が形成された電極箔9(陽極箔)と、誘電膜8を形成した後に、電極箔9を押圧するように設けられ、電極箔9を陽極電極部10と陰極形成部に分離する絶縁性のレジスト部11と、陰極形成部の誘電膜8上に形成された陰極電極部12とを有している。
【0023】
陰極電極部12は、誘電膜8上に形成された導電性高分子からなる固体電解質層13と、この固体電解質層13上に形成されたカーボン層および銀ペースト層からなる陰極層14とから構成される。
【0024】
そして図1に示すように、コンデンサ素子7は複数枚積層され、夫々の陽極電極部10は陽極端子15にレーザー溶接によって接続され、陽極が外部に引き出される。
【0025】
また陰極電極部12には陰極端子16が接続され、陰極が外部に引き出される。陰極端子16には、コンデンサ素子7の搭載部分の両側面を上方に折り曲げた折り曲げ部16Aが形成されている。陰極端子16の素子搭載部分とコンデンサ素子7の陰極電極部12間、折り曲げ部16Aと陰極電極部12間、ならびに各コンデンサ素子7の陰極電極部12間は、それぞれ導電性接着材で接合できる。
【0026】
陽極端子15と陰極端子16は、夫々一部が外表面に露呈する状態で、上記複数枚のコンデンサ素子7とともに絶縁性樹脂からなる外装体17で一体に被覆される。この外装体17から表出した陽極端子15と陰極端子16の一部を外装体17に沿って底面へと折り曲げると、コンデンサ6の底面に陽極端子15と陰極端子16を形成した面実装型のコンデンサ6となる。
【0027】
そして本実施例では、電極箔9は、図2(b)に示すように、基材18と、この基材18上に形成された粗膜層19を有している。粗膜層19は、本実施例のように基材18の両面に形成してもよく、あるいは片面に形成してもよい。
【0028】
また粗膜層19は、図3の模式図、あるいは図4のSEM(走査型電子顕微鏡)写真に示すように、基材18の表面に複数の微粒子20が積み重なり、基材18の表面から伸びるように形成された柱状体21が、複数集まったものである。
【0029】
これらの柱状体21は、図3、図4に示すように、それぞれ複数の微粒子20を不規則に連ならせ、枝分かれさせた海ぶどう型、あるいはツリー型であってもよい。本実施例では、それぞれの微粒子20が粒状の原形を維持しながら、枝分かれするように積み重なる構造となっているため、より表面積を大きくできる。また枝分かれ構造により、応力負荷を分散でき、機械的強度を高めることができる。
【0030】
そして本実施例では、微粒子20の平均粒子径は、0.01μm以上0.20μm以下である。この平均粒子径は、例えば粗膜層19の水平断面、あるいは垂直断面を移したSEM写真によって測定できる。
【0031】
また粗膜層19は多数の空孔を備え、この空孔径の最頻値は、微粒子20の平均粒子径とほぼ同様で、0.01μm以上0.20μm以下である。空孔径は、水銀圧入法によって計測することができ、これによって得た空孔径の分布のピーク値を空孔径の最頻値とした。この空孔によって、粗膜層19の空隙率は50〜80%程度となる。
【0032】
また本実施例では、基材18の厚みが20〜30μm、粗膜層19の厚みが50μmとした。厚みはこれに限らないが、粗膜層19の総厚みは、片面で20μm以上とすることで、より大容量化を図ることができ、80μm以下とすることで後述する本実施例の蒸着方法を用いて容易に形成する事ができる。
【0033】
基材18の原材料は、本実施例では純度99.9%以上のアルミニウム箔とした。微粒子20も、純度99.9%以上のアルミニウム原料を蒸発させたものである。
【0034】
ここで図5は、本実施例の電極箔9の模式断面図であり、説明を簡易にするため、微粒子20は一つだけ示している。この図5に示すように、本実施例の電極箔9は、基材18と微粒子20との接合界面直下の領域には、亜鉛が偏在し、少なくともアルミニウム、亜鉛からなる合金部22が形成されている。
【0035】
この合金部22は、基材18の表面から深さ5nmから深さ100nmに至る領域に形成された。
【0036】
この合金部22の主成分は、アルミニウムである。また亜鉛は基材18の表面から深さ10nm〜50nmで原子濃度が0.5〜20at%でピークとなり、ピーク地点から深さ100nmの地点に向かって徐々に亜鉛の原子濃度は小さくなる。
【0037】
なおこの合金部22はその他アルミニウム−鉄−亜鉛合金でもよい。鉄も含む場合、鉄原子の原子濃度は、基材18の表面から深さ10nm〜50nmで0.5〜20at%と最大になり、徐々に鉄の原子濃度は小さくなる。なお、アルミニウム−鉄−亜鉛合金のとき、鉄に比べて亜鉛の方が、アルミニウムへの拡散性が高いため、深さ方向においてより広範囲に存在することがあり、そのときは任意の点において、鉄に比べて亜鉛の原子濃度が低くなることがある。
【0038】
なお、本実施例では、基材18の表面から深さ10nmの領域から合金部22が形成されているが、化成処理や熱処理条件を変えることにより、基材18の表面から深さ5nmの領域から形成される場合もある。また本実施例の誘電膜8は、基材18の露出面上に形成された第一誘電膜8Aと、この第一誘電膜8A上と粗膜層19の露出面上に形成された酸化アルミニウムからなる第二誘電膜8Bとで構成されている。
【0039】
第一誘電膜8Aおよび第二誘電膜8Bはいずれも酸化アルミニウムを主成分とするが、第二誘電膜8Bには亜鉛が不可避的な不純物程度しか含まれないのに対し、第一誘電膜8Aには亜鉛が第二誘電膜8Bより多く、具体的には0.5〜20at%含まれている。第一誘電膜8Aは、亜鉛が含まれることにより、クラックの抑制に効果がある。その理由は、亜鉛が含まれることで軟らかくなり、折り曲げ性に優れ、柔軟に曲げに追従できるからと推測できる。亜鉛は金属または酸化物(酸化亜鉛)として含まれる。なお、下地層23に鉄が含まれる場合は、第一誘電膜8Aに0.5〜20at%の鉄が含まれる。鉄は金属または酸化物(酸化鉄)として含まれる。
【0040】
第一誘電膜8Aの厚みは5〜7nm程度であり、第二誘電膜8Bは厚みが10nm程度である。亜鉛や鉄を含むと誘電率や耐圧が低くなり、また漏れ電流特性が低下するため、亜鉛や鉄を殆ど含まない第二誘電膜8Bを、第一誘電膜8Aより厚くすることが好ましい。
【0041】
以上のように本実施例の基材18上に形成された誘電膜8は二層構造であるが、その他後述する化成処理の条件によっては、誘電膜8の構造が変わり、例えば基材18の露出面上に亜鉛および鉄と酸化アルミニウムの混合物からなる単一の誘電膜8が形成される場合もある。但し上述のように、耐圧や誘電率、漏れ電流の観点から、二層構造とする事がより好ましい。
【0042】
誘電膜8が単層、複層に関わらず、基材18上に形成される誘電膜8は、少なくともいずれかの層に亜鉛を含み、その原子濃度は例えば粗膜層19上に形成される第二誘電膜8Bに含まれるような、不可避的な不純物としての亜鉛濃度よりも高い。
【0043】
以下、本実施例の製造方法について説明する。
【0044】
まず図6に示すように、基材18の表面に下地層23を形成した。下地層23はスパッタ法や蒸着法を代表とする乾式法、また溶融亜鉛めっき法により形成することができる。また置換めっき法を用いれば、より簡便に生産性が高く、均一な薄膜を形成することができる。本実施例においては置換めっき法を用いた。
【0045】
まず始めに、基板表面に付着している有機物の除去、また基板表面に形成されている酸化膜の溶解のため、アルカリ脱脂液等により基板洗浄を行う。次に平滑な表面を得るために、また酸化膜の溶解を行うためにエッチングを行う。このエッチングで発生した残渣等を除去するために酸性のコンディショナー等で表面処理を行う。次に酸化膜を溶解し、亜鉛粒子・亜鉛膜を形成するため亜鉛置換溶液を用いて亜鉛置換を行う。この亜鉛置換によりアルミニウム表面に亜鉛を形成することができる。さらに良質な亜鉛膜とするために、硝酸等の強酸を用いて、形成した亜鉛を溶解させ、もう一度亜鉛置換を行うダブルジンケート処理によって、より均一で薄い亜鉛皮膜を得ることができる。亜鉛が疎に置換形成され、アルミニウムを完全に被覆していない状態においても、本発明の効果は得られるが、亜鉛を密に置換形成し、薄く均一で80%以上の被覆率を有すれば更に効果を発揮することができる。このとき0.3〜15nmの亜鉛皮膜にすることで、生産性、表面安定性、各種特性において良好なものとなる。また、ムラのない緻密な亜鉛置換皮膜を得るため、また密着性の良好な皮膜を得るために、亜鉛置換溶液中に亜鉛化合物、水酸化アルカリ、鉄塩、鉄イオンの錯化剤等を含有させる場合があるが、このような溶液を用いて亜鉛置換を行えば、亜鉛置換皮膜中に鉄が含有されることがある。その他、鉄以外の金属塩を亜鉛置換溶液中に存在させておけば、その金属が皮膜中に含有されることもあるが、少なくとも亜鉛が存在していれば、亜鉛でも亜鉛合金でも本発明の効果を得ることができる。
【0046】
以上のように形成した下地層23は、亜鉛が主成分であり、原子濃度比率は亜鉛:鉄が7:3の割合とした。また下地層23の厚みは約5nmとした。
【0047】
この時、基材18上には時間経過とともに自然酸化皮膜が形成されるが、下地層23を形成した後、1日放置した場合の基材18表面の酸素原子濃度は約45at%であった。一方下地層23を形成しない従来の場合は約55at%であった。すなわち本実施例では、従来と比較して、約10at%、表層の酸素原子濃度を低減できたことになる。なお、表面の酸素原子濃度の測定法としては、AES,XPS,TEM等の分析手法を使用することができる。
【0048】
また酸素原子濃度は基材18の表面から内側に向かって徐々に減少するが、本実施例では酸素原子濃度が10at%まで減少するのは基材18の表面から15nmの地点であったのに対し、従来例では基材1の表面から25nmの地点であった。すなわち本実施例では、従来と比較して、自然酸化皮膜の厚みを薄くできることを示している。
【0049】
そして上記のように基材18に下地層23を形成した後に、抵抗加熱式蒸着法によって、下記のように粗膜層19を形成した。
(1)基材18を下地層23の表面が蒸着面となるように真空槽内に配置して0.01〜0.001Paの真空に保つ。
(2)基材18周辺に酸素ガスに対してアルゴンガスの流量を2〜6倍にした不活性ガスを流入して基材18周辺の圧力を10〜30Paの状態にする。
(3)基材18の温度を150〜300℃の範囲に保つ。
(4)基材18と対向する位置に配置した蒸着材料を蒸発させ、微粒子20を下地層23に蒸着させる。
【0050】
以上のプロセスで、基材18の一面に粗膜層19を形成できる。
【0051】
このように、粗膜層19を形成した直後は、根元の微粒子20と基材18とは図7のような構成になる。なお、図7は説明を簡易にするため、微粒子20を一つしか示していないが、実際はこの微粒子20上に複数の微粒子20が積み重なっている。下地層23の亜鉛とアルミニウムは溶解しやすいため、微粒子20と下地層23との界面、下地層23と基材18との界面は、時間経過と共に合金化される。次に、本実施例では、上記のように粗膜層19を蒸着により形成した後、化成電圧5V、保持時間20分、7%アジピン酸アンモニウム水溶液、70℃、0.05A/cm2で化成を行った。
【0052】
この化成処理後、根元の微粒子20と基材18とは、図5のような構成になる。本実施例では、まず化成処理工程での電圧印加、熱や時間経過によって、下地層23に含まれる亜鉛原子が基材18の下方(内側)へ拡散していく。そして基材18の表面にはアルミニウム原子が露出する。またこの化成処理工程では、基材18の表面から酸化されるため、表層に露出したアルミニウムが酸化され、第二誘電膜8Bを形成し、さらにその内側の亜鉛が溶けたアルミニウムの層も酸化され、第一誘電膜8Aを形成する。あるいは、表面の亜鉛に比べて、下方に存在するアルミニウムの方が、化成されやすく(酸化されやすく)、亜鉛側(表面側)へ拡散すると同時に酸化皮膜を形成している可能性もある。このメカニズムは明確となっていないが、いずれにおいても、第二誘電膜8Bと、さらにその内側の亜鉛が溶けたアルミニウムの層が酸化された第一誘電膜8Aを形成する。
【0053】
また基材18の微粒子20との接合界面は酸化されないため、亜鉛が基材18の下方へと拡散し、合金部22を形成する。
【0054】
なお、下地層に鉄も含む場合は、亜鉛と同様に下地層23から基材18の内側へ拡散する。この時、亜鉛は鉄よりもアルミニウムに溶けやすく拡散してしまうため、化成後の合金部22には、亜鉛よりも鉄の方が、原子濃度が高くなる。
【0055】
以上のように化成処理を施した後、電極箔9を炉に入れ、300℃〜500℃で熱処理を行ってもよい。
【0056】
以下、本実施例の効果を説明する。
【0057】
本実施例では、コンデンサ6の容量低下を抑制できる。
【0058】
その理由は、基材18の表面に、アルミニウムよりも酸化されにくい亜鉛を主成分とする下地層23を設けたからである。これにより従来のアルミニウムからなる基材1と比較して、酸素との親和性が低いため、例えば本実施例では10at%も表面の酸素原子濃度を低減でき、酸素含有量の高い自然酸化皮膜を薄くできる。したがって粗膜層19と基材18との界面が絶縁化されるのを抑制でき、コンデンサ6の静電容量を高めることができる。
【0059】
また亜鉛はアルミニウムに溶けやすいため、化成処理工程において、表層の誘電膜8(図5の第二誘電膜8B)は亜鉛を殆ど含まず、酸化アルミニウムから構成される。したがって酸化アルミニウムの比較的高い耐圧特性や誘電率を維持でき、漏れ電流特性が良好なものができる。
【0060】
また本実施例の電極箔9と、従来の電極箔3について、JIS−K5600に準拠した剥離試験を行った。従来の電極箔3は、基材1および微粒子4は何れも純度99.9wt%以上のアルミニウムで構成されている。この剥離試験では、相対的に結合強度の弱い部分から剥離することになる。
【0061】
この剥離試験の結果、従来の電極箔3では、粗膜層2が根元から基材1と剥離する割合は、約50%であった。これに対し、本実施例の電極箔9は、粗膜層19が根元から剥離する割合が、約5%にまで低減できた。
【0062】
その理由は、亜鉛または亜鉛合金からなる下地層23を形成したことで、微粒子20と基材18との密着性が高まったからと考えられる。すなわち亜鉛の融点は約420℃であり、アルミニウムよりも融点(約660℃)と比べて低い。したがって下地層23の亜鉛濃度が増える程、蒸着工程において下地層23は軟化しやすくなり、微粒子20との密着性が高まる。また亜鉛はアルミニウムと合金化しやすいため、下地層23と基材18、下地層23と微粒子20との界面は金属結合しやすくなり、密着性が高まる。
【0063】
また酸素原子濃度を減らすことにより、根元の微粒子20は下地層23と金属結合しやすくなり、基材18と微粒子20との密着性を高めることができる。
【0064】
そしてその結果、コンデンサ6の容量を高めることができる。
【0065】
なお、従来のアルミニウム基材1を用いた場合も、基材1の温度を上げることにより粗膜層2との密着性を高めることができるが、本実施例のように粗膜層19の表面積を大きくしたい場合、微粒子20を、その粒子形状を維持した状態で積み上げていくことが好ましい。したがって、基材18を過剰に加熱することは、微粒子20が溶けて空隙が潰れたり、微粒子20が肥大化したりしてしまうため、好ましくない。一方で、低温環境下で蒸着を行うと、基材18が十分に軟化せず、基材18と粗膜層19との密着性が低下するのである。
【0066】
したがって本実施例のように基材18の表面だけ選択的に軟化しやすくする構成は、基材18との密着性を高めるとともに、拡大された表面積を維持し、大容量コンデンサ6を実現するのに適している。
【0067】
また下地層23に含まれる亜鉛はアルミニウムと合金化しやすいため、下地層23と基材18、下地層23と微粒子20との界面に金属結合が形成され、密着性が高まる。そしてその結果、粗膜層19の剥離を低減し、コンデンサ6の容量の低下を抑制できる。
【0068】
なお、本実施例では電極箔9を積層型の固体電解コンデンサの陽極として用いたが、その他巻回型の固体電解コンデンサの陽極箔、あるいは陰極箔、あるいはその双方として用いてもよい。また本実施例では、陰極材料として導電性高分子を用いたが、有機半導体や液体の電解液を用いてもよい。また導電性高分子と電解液の両方を用いることも出来る。
【0069】
また本実施例では、第一誘電膜8A、第二誘電膜8Bを陽極酸化によって形成したが、基材18および粗膜層19の表面に形成する誘電膜は、液相法やめっき、ゾルゲル、スパッタや蒸着など種々の手段によって形成でき、組成は酸化アルミニウム以外にも酸化チタンや二酸化シリコンなどの酸化物、あるいは窒化チタンなどの窒化物などで形成できる。
【0070】
(実施例2)
本実施例と実施例1との違いは、電極箔9を化成する前に急速で加熱処理を行った点である。この熱処理工程は、蒸着工程後の電極箔9を、300℃〜500℃で急速に加熱することで行う。
【0071】
このように急速に加熱すると、亜鉛が拡散する間もなく熱酸化される。図8に示すように、上層に亜鉛を20at%含む第三誘電膜8Cができる。なお、第三誘電膜8Cの主成分は酸化アルミニウムであり、亜鉛は金属あるいは酸化物として含まれる。なお、下地層(図6の図番23)が鉄を含む場合は、第三誘電膜8Cに鉄も含まれる。本実施例の場合、亜鉛の拡散が起こり難いため、亜鉛の原子濃度の方が鉄の原子濃度よりも高くなる。
【0072】
そしてさらに酸化が進むか、あるいは陽極化成を行うと、アルミニウムからなる基材18も酸化され、第三誘電膜8Cの下層に酸化アルミニウムからなる第四誘電膜8Dが形成される。
【0073】
微粒子20の表面には、上述の熱処理工程や化成工程によって実施例1と同様に酸化アルミニウムからなる第五誘電膜8Eが形成される。
【0074】
本実施例では、第三誘電膜8Cの膜厚は5〜7nmである。第四誘電膜8D、第五誘電膜8Eの膜厚は第三誘電膜8Cよりも厚く、本実施例では約10nmである。
【0075】
アルミニウム、鉄、亜鉛からなる合金部22は、基材18の、微粒子20との接合界面直下に形成される。
【0076】
本実施例でも、実施例1と同様に、基材18上に亜鉛または亜鉛合金からなる下地層23を設けて蒸着を行うため、基材18表面の酸化を抑制できるとともに、微粒子20との密着性が高まり、結果としてコンデンサ6の容量を高めることができる。また亜鉛や鉄原子濃度の低い第四誘電膜8Dを設けたことで、高い誘電率や耐圧を維持できる。
【0077】
(実施例3)
本実施例と実施例1との違いは、電極箔9を陰極箔として用いた点である。陰極箔の場合も、実施例1と同様に、電極箔9上に化成によって誘電膜8を形成してもよいが、本実施例では化成処理を行わず、金属面を露出させたままでよい。このように化成処理を行わない場合も、図9に示すように、時間経過とともに電極箔9の表面には薄い自然酸化膜からなる第六誘電膜8Fが形成される。
【0078】
本実施例の電極箔9は、アルミニウムを主成分とする基材18と、この基材18上にアルミニウムを主成分とする複数の微粒子20が積み重なって形成された粗膜層19と、を備え、基材18の粗膜層19が形成された面の内側には、アルミニウム、亜鉛からなる合金層24が形成され、基材18および粗膜層19の露出面には酸化アルミニウムからなる自然酸化皮膜、すなわち第六誘電膜8Fが形成されている。合金層24はさらに鉄を含み、アルミニウム−鉄−亜鉛合金で構成してもよい。
【0079】
なお、下地層23に含まれる亜鉛や鉄は、時間経過とともに徐々に基材18の下方(内側)へ拡散していくため、粗膜層19を形成後、基材18の表面にはアルミニウム原子が露呈する。このアルミニウムが自然に酸化したものが、第六誘電膜8Fである。
【0080】
以上のように本実施例では、自然酸化によって第六誘電膜8Fを形成したが、ゾルゲル法やメッキ法などによって第六誘電膜8Fを形成してもよい。
【0081】
本実施例でも、実施例1と同様に、蒸着する前工程で亜鉛または亜鉛合金からなる下地層23を形成すれば、表面の酸素原子比率を低減でき、粗膜層19と基材18との密着性を高めることが出来る。
【0082】
また亜鉛はアルミニウムに溶けやすいため、時間経過とともに形成される自然酸化皮膜(第六誘電膜8F)はほぼ純粋な酸化アルミニウムで形成される。したがって、酸化アルミニウムの比較的高い誘電率や耐圧を維持できる。
【0083】
また本実施例の電極箔9は、図10に示すように、電解質として電解液を用いたコンデンサ25(アルミ電解コンデンサ)に用いることができる。
【0084】
このコンデンサ25は、上記電極箔9を陰極箔26として用い、陰極箔26と、アルミニウム箔からなる陽極箔27とを間にセパレータ28を介して積層または巻回したコンデンサ素子29と、このコンデンサ素子29に含浸させた電解液と、陽極箔27および陰極箔26の電極をそれぞれ外部へ引き出す陽極端子30および陰極端子31と、コンデンサ素子29を収容するケース32と、陽極端子30および陰極端子31の一部を外部に露出させた状態でケース32を封止する封止部33と、を備えている。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明による電極箔は、小型大容量のコンデンサに有用である。
【符号の説明】
【0086】
6 コンデンサ
7 コンデンサ素子
8 誘電膜
9 電極箔
10 陽極電極部
11 レジスト部
12 陰極電極部
13 固体電解質層
14 陰極層
15 陽極端子
16 陰極端子
16A 折り曲げ部
17 外装体
18 基材
19 粗膜層
20 微粒子
21 柱状体
22 合金部
23 下地層
24 合金層
25 コンデンサ
26 陰極箔
27 陽極箔
28 セパレータ
29 コンデンサ素子
30 陽極端子
31 陰極端子
32 ケース
33 封止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを主成分とする基材の表面に亜鉛または亜鉛合金からなる下地層を形成する工程と、
この下地層の表面に、蒸着によってアルミニウムを主成分とする微粒子を複数積み重ね、粗膜層を形成する工程と、
を少なくとも備えた電極箔の製造方法。
【請求項2】
前記粗膜層を形成する工程の後に、
前記基材および前記粗膜層の露出面に誘電膜を形成する工程を含む、請求項1に記載の電極箔の製造方法。
【請求項3】
アルミニウムを主成分とする基材と、
この基材上にアルミニウムを主成分とする複数の微粒子が積み重なって形成された粗膜層と、を備え、
前記基材の前記微粒子との接合界面直下の領域には、少なくともアルミニウムおよび亜鉛からなる合金部が形成されている、電極箔。
【請求項4】
前記基材および前記粗膜層の露出面には酸化アルミニウムを主成分とする誘電膜が形成され、
前記基材の露出面に形成された前記誘電膜は、前記粗膜層の露出面に形成された前記誘電膜よりも亜鉛の原子濃度が大きい、請求項3に記載の電極箔。
【請求項5】
アルミニウムを主成分とする基材と、
この基材上にアルミニウムを主成分とする複数の微粒子が積み重なって形成された粗膜層と、を備え、
前記基材の前記粗膜層が形成された面の内側には、少なくともアルミニウムおよび亜鉛からなる合金層が形成されている、電極箔。
【請求項6】
前記基材および前記粗膜層の露出面には、誘電膜が形成された、請求項5に記載の電極箔。
【請求項7】
表面に誘電膜が形成された陽極箔と、前記誘電膜上に設けられた固体電解質層と、この固体電解質層上に形成された陰極層と、を有するコンデンサ素子と、
前記陽極箔および前記陰極層の電極をそれぞれ外部へ引き出す陽極端子および陰極端子と、
これらの陽極端子および陰極端子の一部が外部に露出するように前記コンデンサ素子を被覆する外装体と、を備え、
前記陽極箔は、請求項3または5に記載の電極箔を用いたコンデンサ。
【請求項8】
表面に誘電膜が形成された陽極箔と、陰極箔とを、間にセパレータを介して積層または巻回したコンデンサ素子と、
このコンデンサ素子に含浸させた陰極材料と、
前記陽極箔および陰極箔の電極をそれぞれ引き出す陽極端子および陰極端子と、
前記コンデンサ素子を収容するケースと、
前記陽極端子および前記陰極端子の一部を外部に露出させた状態で前記ケースを封止する封止部と、を備え、
前記陽極箔または陰極箔の少なくとも一方は請求項3または5に記載の電極箔を用いたコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−249488(P2011−249488A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120016(P2010−120016)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】