説明

電源システムおよびそれを搭載する車両

【課題】コンバータを有する電源システムにおいて、電圧変換動作が不要な場合の効率を改善する。
【解決手段】電源システム105は、直流電源110と、コンバータ120と、バイパス回路170と、ECU300とを備え、負荷装置130に電源電圧を供給する。コンバータ120は、スイッチング動作によって直流電源110と負荷装置130との間で電圧変換を行なう。バイパス回路170は、コンバータ120のスイッチング動作とは独立して、直流電源110から負荷装置130に対して、コンバータ120をバイパスするように構成される。ECU300は、コンバータ120を流れる電流ILおよびコンバータ120の負荷装置130側の電圧VHの少なくともいずれかが、バイパス回路170の切替えに適した条件となったときに、バイパス回路170を切替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源システムおよびそれを搭載する車両に関し、より特定的には、蓄電装置および電力変換装置を備える電源システムの損失を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に配慮した車両として、蓄電装置(たとえば二次電池やキャパシタなど)を搭載し、蓄電装置に蓄えられた電力から生じる駆動力を用いて走行する車両が注目されている。このような車両には、たとえば電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池車などが含まれる。
【0003】
これらの車両においては、発進時や加速時に蓄電装置から電力を受けて走行のための駆動力を発生するとともに、制動時に回生制動によって発電を行なって蓄電装置に電気エネルギを蓄えるための回転電機(モータジェネレータ)を備える場合がある。このように、走行状態に応じてモータジェネレータを制御するために、車両にはインバータが搭載される。
【0004】
また、このような車両においては、インバータが必要とする電力は車両状態によって変動する。そして、インバータが必要とする電力を安定的に供給するために、蓄電装置とインバータとの間にコンバータが備えられる場合がある。このコンバータにより、インバータの入力電圧を蓄電装置の出力電圧より高く昇圧して、モータの高出力化ができるとともに、同一出力時のモータ電流を低減することで、インバータおよびモータの小型化,低コスト化を図ることができる。
【0005】
特開2007−295749号公報(特許文献1)は、昇圧コンバータを含み、電気機器などの負荷と電力をやり取りする電源装置において、所定の条件において、昇圧コンバータをバイパスするためのバイパス回路(調整回路)を備える構成を開示する。特開2007−295749号公報(特許文献1)によれば、バイパス回路を用いて昇圧コンバータをバイパスすることによって、昇圧コンバータの負荷側の電圧を電池電圧よりも低くならないようにし、昇圧コンバータの負荷側における電圧の予期しない低下を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−295749号公報
【特許文献2】特開2006−238629号公報
【特許文献3】特開平7−087731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のようなコンバータを備える車両においては、昇圧動作が不要の場合に、コンバータ内のスイッチング素子のスイッチング損失を低減して効率を向上させるために、スイッチング動作を停止させる手法が行なわれる場合がある。この場合、スイッチング損失については削減可能であるが、コンバータ内に含まれるリアクトル成分や、スイッチング素子などを電流が流れることで発生する導通損失については改善できない場合がある。
【0008】
また、特開2007−295749号公報(特許文献1)に開示される構成においては、負荷の電力消費量が急激に高くなった場合に、昇圧コンバータの負荷側の電圧が電池電圧よりも低くならないように、調整回路によって昇圧コンバータがバイパスされるが、昇圧動作が不要な場合の損失低減については考慮されていなかった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、コンバータを有する電源システムにおいて、電圧変換動作が不要な場合の効率を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による電源システムは、直流電源と、電圧変換装置と、バイパス回路とを備え、負荷装置に電源電圧を供給する。電圧変換装置は、直流電源と負荷装置との間で、スイッチング動作によって電圧変換を行なう。バイパス回路は、上記スイッチング動作とは独立して、直流電源から負荷装置に対して、電圧変換装置をバイパスする。
【0011】
好ましくは、電源システムは、電圧変換装置を流れる電流および電圧変換装置の負荷装置の第1の電圧の少なくともいずれかが、バイパス回路の切替えに適した条件となった場合に、バイパス回路を切替えるための制御装置をさらに備える。
【0012】
好ましくは、制御装置は、第1の電圧と、電圧変換装置の直流電源側の第2の電圧との差の絶対値が、しきい値より小さい場合に、電圧変換装置をバイパスするようにバイパス回路を制御する。
【0013】
好ましくは、電圧変換装置は、負荷装置の電力線と接地線との間に直列接続される第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子と、接地線から電力線に向かう方向を順方向として、第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子にそれぞれ並列に接続された第1の整流素子および第2の整流素子と、第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子の接続ノードと直流電源の正極端子とを結ぶ経路に設けられたリアクトルとを含む。そして、制御装置は、リアクトルに流れるリアクトル電流に基づいて、バイパス回路による電圧変換装置のバイパスを停止するようにバイパス回路を制御する。
【0014】
好ましくは、制御装置は、リアクトル電流と、直流電源から出力される電流との差の絶対値が、しきい値より小さい場合に、バイパス回路による電圧変換装置のバイパスを停止するようにバイパス回路を制御する。
【0015】
好ましくは、制御装置は、直流電源から負荷装置へ向かう方向に電流が流れる場合、および負荷装置から直流電源へ向かう方向に電流が流れる場合の両方の場合において、バイパス回路の切替えに適した条件となった場合に、バイパス回路を制御する。
【0016】
好ましくは、バイパス回路は、直流電源の正極端子と負荷装置の電力線との間に接続されたリレーを含む。
【0017】
好ましくは、電圧変換装置は、負荷装置の電力線と接地線との間に直列接続される第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子と、接地線から電力線に向かう方向を順方向として、第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子にそれぞれ並列に接続された第1の整流素子および第2の整流素子と、第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子の接続ノードと直流電源の正極端子とを結ぶ経路に設けられたリアクトルとを含む。そして、バイパス回路は、正極端子と電力線との間に接続され、正極端子から電力線に向かう方向を順方向とする第3の整流素子を含む。
【0018】
好ましくは、第3の整流素子は、第1の整流素子に比べて、通電時の抵抗が小さい。
好ましくは、バイパス回路は、第3の整流素子に並列に、かつ逆接続される第3のスイッチング素子をさらに含む。
【0019】
好ましくは、バイパス回路は、第3のスイッチング素子に直列に、かつ第3のスイッチング素子と逆向きに接続される第4のスイッチング素子と、第4のスイッチング素子に並列に、かつ逆接続される第4の整流素子をさらに含む。
【0020】
好ましくは、電圧変換装置は、負荷装置の電力線と接地線との間に直列接続される第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子と、接地線から電力線に向かう方向を順方向として、第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子にそれぞれ並列に接続された第1の整流素子および第2の整流素子と、直流電源の正極端子と負極端子との間に直列接続される第3のスイッチング素子および第4のスイッチング素子と、負極端子から正極端子に向かう方向を順方向として、第3のスイッチング素子および第4のスイッチング素子にそれぞれ並列に接続された第3の整流素子および第4の整流素子と、第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子の接続ノードと、第3のスイッチング素子および第4のスイッチング素子の接続ノードとを結ぶ経路に設けられたリアクトルとを含む。そして、バイパス回路は正極端子と電力線に接続される。
【0021】
本発明による車両は、電源システムと、電源システムからの電力を用いて車両の駆動力を生成するための駆動装置とを備える。電源システムは、直流電源と、直流電源と駆動装置との間で、スイッチング動作によって電圧変換を行なうように構成された電圧変換装置と、スイッチング動作とは独立して、直流電源から駆動装置に対して、電圧変換装置をバイパスするように構成されたバイパス回路とを含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コンバータを有する電源システムにおいて、電圧変換動作が不要な場合の効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施の形態1に従う電源システムを含む車両の全体ブロック図である。
【図2】比較例において、バイパス回路を切替えた時の電流,電圧波形の一例を示す図である。
【図3】実施の形態1において、バイパス回路を切替えた時の電流,電圧波形の一例を示す図である。
【図4】実施の形態1における、切替制御を説明するための機能ブロック図である。
【図5】実施の形態1において、ECUにおいて実行される切替制御処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
【図6】実施の形態1の変形例1に従う電源システムを含む車両の全体ブロック図である。
【図7】実施の形態1における、力行時に回路を流れる電流を説明するための第1の図である。
【図8】実施の形態1の構成において、力行時に回路を流れる電流を説明するための第2の図である。
【図9】実施の形態1の構成において、力行時に回路を流れる電流を説明するための第3の図である。
【図10】実施の形態1の構成において、力行時に回路を流れる電流を説明するための第4の図である。
【図11】実施の形態1の構成において、回生時に回路を流れる電流を説明するための第1の図である。
【図12】実施の形態1の構成において、回生時に回路を流れる電流を説明するための第2の図である。
【図13】実施の形態1の構成において、回生時に回路を流れる電流を説明するための第3の図である。
【図14】実施の形態1の構成において、回生時に回路を流れる電流を説明するための第4の図である。
【図15】実施の形態2に従う電源システムを含む車両の全体ブロック図である。
【図16】実施の形態3に従う電源システムを含む車両の全体ブロック図である。
【図17】実施の形態3における電流,電圧波形の一例を示す図である。
【図18】実施の形態3の他の例に従う電源システムを含む車両の全体ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0025】
[実施の形態1]
実施の形態1に従う電源システム105を含む車両100の全体ブロック図である。
【0026】
図1を参照して、車両100は、電源システム105と、負荷装置130とを備える。電源システム105は、直流電源110と、コンバータ120と、電圧センサ140,145,150と、電流センサ160,165と、バイパス回路170と、システムメインリレーSMRと、コンデンサC1,C2と、制御装置であるECU(Electronic Control Unit)300とを備える。
【0027】
直流電源110は、充放電可能に構成された電力貯蔵要素である。直流電源110は、たとえば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池あるいは鉛蓄電池などの二次電池や、電気二重層キャパシタなどの蓄電素子を含んで構成される。
【0028】
直流電源110は、電力線PL1および接地線NL1を介してコンバータ120に接続される。また、直流電源110は、モータジェネレータ133,134で発電された電力を蓄電する。直流電源110の出力はたとえば200V程度である。
【0029】
なお、実施の形態1では、電源システム105が車両100の電源装置である例の場合を示すが、負荷装置130は、直流電力を用いて駆動可能な電気機器であればどのようなものであってもよい。また、直流電源110については、電源システム105に含まれる場合の例を示すが、直流電力の入出力が可能であれば、電源システム105の外部から供給される構成であってもよい。
【0030】
電圧センサ145は、直流電源110の電圧VBを検出し、その検出値をECU300へ出力する。電流センサ165は、直流電源110に入出力される電流IBを検出し、その検出値をECU300へ出力する。なお、図1においては、電流センサ165は、電力線PL1に設けられる構成となっているが、接地線NL1に設けられるようにしてもよい。
【0031】
システムメインリレーSMRに含まれるリレーは、直流電源110とコンバータ120とを結ぶ電力線PL1および接地線NL1にそれぞれ介挿される。そして、システムメインリレーSMRは、ECU300からの制御信号SE1によって制御され、直流電源110とコンバータ120との間での電力の供給と遮断とを切替える。
【0032】
コンデンサC1は、電力線PL1と接地線NL1との間に接続される。コンデンサC1は、電力線PL1と接地線NL1との間の電圧変動を低減する。電圧センサ140は、コンデンサC1にかかる電圧VLを検出し、その検出値をECU300へ出力する。
【0033】
コンバータ120は、スイッチング素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2と、リアクトルL1とを含む。
【0034】
スイッチング素子Q1およびQ2は、電力線HPLおよび接地線NL1の間に直列に接続される。なお、本実施の形態において、スイッチング素子としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタあるいは、電力用バイポーラトランジスタ等を用いることができる。
【0035】
スイッチング素子Q1,Q2に対して、逆並列ダイオードD1,D2がそれぞれ接続される。リアクトルL1は、スイッチング素子Q1およびQ2の接続ノードと、電力線PL1との間に設けられる。
【0036】
スイッチング素子Q1,Q2は、ECU300からの制御信号PWCによって制御され、電力線PL1および接地線NL1と、電力線HPLおよび接地線NL1との間で電圧変換動作を行なう。
【0037】
コンバータ120は、基本的には、各スイッチング周期内でスイッチング素子Q1およびQ2が相補的かつ交互にオン・オフするように制御される。コンバータ120は、昇圧動作時には、直流電圧VLを直流電圧VH(負荷装置130への入力電圧に相当するこの直流電圧を、以下「システム電圧」とも称する。)に昇圧する。この昇圧動作は、スイッチング素子Q2のオン期間にリアクトルL1に蓄積された電磁エネルギを、スイッチング素子Q1および逆並列ダイオードD1を介して、電力線HPLへ供給することにより行なわれる。
【0038】
また、コンバータ120は、降圧動作時には、直流電圧VHを直流電圧VLに降圧する。この降圧動作は、スイッチング素子Q1のオン期間にリアクトルL1に蓄積された電磁エネルギを、スイッチング素子Q2および逆並列ダイオードD2を介して、接地線NL1へ供給することにより行なわれる。
【0039】
これらの昇圧動作および降圧動作における電圧変換比(VHおよびVLの比)は、上記スイッチング周期におけるスイッチング素子Q1,Q2のオン期間比(デューティ比)により制御される。なお、昇圧動作および降圧動作が不要の場合(すなわち、VH=VL)には、スイッチング素子Q1およびQ2をオンおよびオフにそれぞれ固定するように制御信号PWCを設定することで、電圧変換比=1.0(デューティ比=100%)とすることもできる。
【0040】
電流センサ160は、電力線PL1におけるコンデンサC1の接続ノードとリアクトルL1との間に設けられる。電流センサ160は、リアクトルL1に流れる電流ILを検出し、その検出値をECU300へ出力する。
【0041】
コンデンサC2は、コンバータ120と負荷装置130とを結ぶ電力線HPLおよび接地線NL1との間に接続される。コンデンサC1は、電力線HPLと接地線NL1との間の電圧変動を低減する。電圧センサ150は、コンデンサC2にかかる電圧VHを検出し、その検出値をECU300へ出力する。
【0042】
負荷装置130は、インバータ131,132と、モータジェネレータ133,134と、動力伝達ギア135と、駆動輪136とを含む。
【0043】
インバータ131,132は、電力線HPLおよび接地線NL1により、コンバータ120に対して並列に接続される。インバータ131,132は、ECU300からの制御指令PWI1,PWI2によりそれぞれ制御され、コンバータ120から出力される直流電力を、モータジェネレータ133,134をそれぞれ駆動するための交流電力に電力変換する。
【0044】
モータジェネレータ133,134は交流回転電機であり、たとえば、永久磁石が埋設されたロータを備える永久磁石型同期電動機である。
【0045】
モータジェネレータ133,134の出力トルクは、減速機や動力分割機構によって構成される動力伝達ギア135を介して駆動輪136に伝達されて、車両100を走行させる。モータジェネレータ133,134は、車両100の回生制動動作時には、駆動輪136の回転力によって発電することができる。そして、その発電電力は、インバータ131,132によって直流電源110の充電電力に変換される。
【0046】
バイパス回路170は、スイッチS1を含む。スイッチS1は、電力線PL1と電力線HPLとの間に接続される。スイッチS1は、ECU300からの制御信号SE2によって制御される。スイッチS1は、基本的には、コンバータ120において昇圧動作および降圧動作が不要であるときに接続され、コンバータ120に流れる電流をバイパスする。
【0047】
このようにスイッチS1は、コンバータ120の昇圧動作および降圧動作が不要であるとき、すなわちスイッチング素子Q1がオンに固定され、スイッチング素子Q2がオフに固定されているときに接続される。しかしながら、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング動作の停止,再開と、スイッチS1の切替えとを同時に行なうと、回路に対して影響をおよぼすおそれがある。
【0048】
たとえば、電圧VHと電圧VLとの差が大きい状態で、スイッチS1が接続された場合、直流電源110やコンデンサC1などに過大な電圧が印加される可能性があり、これが機器や素子の故障や破損の原因となり得る。また、スイッチS1の切替えによって、電流経路が突然変更されるので、スイッチS1の切替え直後の過渡期において、回路内の電圧,電流が急激に増加したり振動的になったりする可能性がある。
【0049】
そのため、本実施の形態においては、バイパス回路内を切替える際に、コンバータ120おスイッチング素子Q1,Q2のスイッチング動作とは独立した予め切替えに適した条件を設定し、その条件が整った後に実際にバイパス回路を切替える切替制御を行なう。このようにすることによって、バイパス回路切替時に発生し得る影響を抑制することが期待できる。
【0050】
次に、図2,3を用いて、本実施の形態1によるバイパス回路の切替制御の概要について説明する。
【0051】
図2は、本実施の形態1によるバイパス回路の切替制御を適用しない比較例において、バイパス回路をオンからオフに切替えた時の電流,電圧波形の一例を示す図である。図2および後述する図3においては、横軸に時間が示されており、縦軸には、電圧VH,バイパス回路170に流れる電流IS、リアクトルL1に流れる電流IL、スイッチング素子Q1,Q2の状態、およびバイパス回路170内のスイッチS1の開閉状態が示される。なお、図2は、直流電源110からの電力が負荷装置130に伝達される力行状態の場合を示す。
【0052】
図1および図2を参照して、図2の時刻t1までは、バイパス回路170のスイッチS1が閉成された状態、すなわちコンバータ120がバイパスされた状態である。この状態においては、電圧VHは電圧VLとほぼ同じであり、直流電源110から出力される電流は、すべてバイパス回路170を経由して負荷装置130へ供給される。このとき、コンバータ120のスイッチング素子Q1,Q2は、スイッチング損失を低減するために、スイッチング素子Q1がオンに固定され、スイッチング素子Q2がオフに固定される。
【0053】
そして、時刻t1において、コンバータ120において昇圧動作を開始するために、スイッチS1がオフされるとともに、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング動作が開始される。このとき、スイッチS1に流れる電流は即座にゼロに低下するが、リアクトルL1に流れる電流ILは、リアクトルL1により電流の急変が阻害されるために電流ILの立ち上がりが遅れてしまう。そのため、リアクトル電流ILが立ち上がるまでの間に、電圧VHが低下する。そして、スイッチS1の切替え直後の過渡期において、電圧VHおよび電流ILの大きな変動および変動が発生してしまうおそれがある。そうすると、この過渡期における電圧,電流の変動に対応するために、回路内の部品の電圧,電流の耐量をアップすることが必要となるので、コストアップにつながってしまう。
【0054】
一方、図3は、本実施の形態1によるバイパス回路の切替制御を適用した場合に、バイパス回路をオンからオフに切替えた時の電流,電圧波形の一例を示す図である。
【0055】
図3を参照して、図3の時刻t11までは、図2の時刻t1までと同様である。時刻t11にて、コンバータ120において昇圧動作を開始してスイッチング素子Q1,Q2のスイッチング動作が開始されるが、本実施の形態1によるバイパス回路の切替制御においては、時刻t11の時点では、スイッチS1はまだオンの状態のままである。そうすると、コンバータ120による昇圧動作によって、リアクトル電流ILが徐々に増加し、それに伴ってバイパス回路170を流れる電流ISが低下する。そして、電流ISがほぼゼロに到達する時刻t12となった時点で、スイッチS1をオフとする。このように、バイパス回路170を流れる電流ISの低下後に、スイッチS1を切替えることによって、スイッチS1切替え直後の過渡期における電圧VHおよび電流ILのオーバーシュートや振動などの変動を抑制することが可能となる。これにより、回路内の部品の耐量をアップする必要がなくなるのでコストアップを抑制することが期待できる。
【0056】
なお、スイッチS1を閉成する場合については図示していないが、スイッチング素子Q1,Q2の動作は、電圧VHと電圧VLとの差が小さくなったことに基づいて実行される。そのため、スイッチS1を閉成する場合には、電圧や電流の大きな変動は基本的には発生しない場合が多い。
【0057】
図4は、実施の形態1における、バイパス回路の切替制御を説明するための機能ブロック図である。図6で説明される機能ブロック図に記載された各機能ブロックは、ECU300によるハードウェア的あるいはソフトウェア的な処理によって実現される。
【0058】
図4を参照して、ECU300は、VH指令決定部310と、指令デューティ決定部320と、ゲート駆動信号生成部330と、バイパス回路信号生成部340とを含む。
【0059】
VH指令決定部310は、運転者によるアクセルペダル(図示せず)の操作などによって決定されるモータジェネレータのトルク指令値TRに基づいて、たとえば予め定められたマップなどを用いて、システム電圧の目標値VH*を決定する。そして、VH指令決定部310は、決定した目標値VH*を、指令デューティ決定部320へ出力する。
【0060】
指令デューティ決定部320は、VH指令決定部310からの目標値VH*と、電圧センサ140,150からのそれぞれ電圧検出値VL,VHとを受ける。指令デューティ決定部320は、これらの情報に基づいて、コンバータ120のスイッチング素子Q1,Q2のデューティ信号DUTYを決定する。そして、指令デューティ決定部320は、決定したデューティ信号DUTYを、ゲート駆動信号生成部330およびバイパス回路信号生成部340へ出力する。
【0061】
ゲート駆動信号生成部330は、指令デューティ決定部320からのデューティ信号DUTYを受け、スイッチング素子Q1,Q2のゲートを駆動するための制御信号PWCを生成する。ゲート駆動信号生成部330は、この制御信号PWCをコンバータ120へ出力し、コンバータ120を駆動する。
【0062】
バイパス回路信号生成部340は、指令デューティ決定部320からのデューティ信号DUTYと、電流センサ160,165からのそれぞれの電流検出値IL,IBを受ける。そして、バイパス回路信号生成部340は、これらの情報に基づいて、スイッチS1の開閉を制御するための制御信号SE2を生成し、バイパス回路170へ出力する。
【0063】
図5は、実施の形態1において、ECU300において実行されるバイパス回路の切替制御処理の詳細を説明するためのフローチャートである。図5に示されるフローチャート中の各ステップについては、ECU300に予め格納されたプログラムを所定周期でメインプログラムから呼び出して実行することによって実現される。あるいは、一部のステップについては、専用のハードウェア(電子回路)を構築して処理を実現することも可能である。
【0064】
図1および図5を参照して、ECU300は、ステップ(以下、ステップをSと略す。)400にて、電圧センサ140,150によって検出される電圧VL,VHを取得する。
【0065】
次に、ECU300は、S410にて、電流センサ160,165によって検出される電流IL、IBを取得する。なお、リアクトル電流ILは、スイッチング動作に起因する変動(リプル)を含み得るので、ECU300は、このS410において、検出したリアクトル電流ILを時間軸方向に平滑化した平均電流ILaveについても演算する。
【0066】
引き続き、ECU300は、S420にて、取得した情報に基づいて、コンバータ120のデューティ信号DUTYを演算する。そして、ECU300は、S430にて、演算したデューティ信号DUTYが、上アーム(スイッチング素子Q1)をオン固定とするような指令(すなわち、DUTY=100%)であるか否かを判定する。
【0067】
上アームオン固定の場合(S430にてYES)は、処理がS440に進められ、ECU300は、スイッチング素子Q1をオンに固定し、かつスイッチング素子Q2をオフに設定するような制御信号PWCを生成して、コンバータ120のスイッチング動作を停止する。
【0068】
そして、次に、ECU300は、S450にて、電圧VHとVLとの差の絶対値が、所定のしきい値α以下であるか否かを判定する。これは、万一電圧VHとVLとの差が大きい状態でバイパス回路170のスイッチS1が閉成された場合に、直流電源110等に過大な電圧が印加されることを防止するためである。
【0069】
電圧VHとVLとの差の絶対値が所定のしきい値α以下である場合(S450にてYES)は、処理がS460に進められて、ECU300は、制御信号SE2をオンに設定してバイパス回路170に出力することによって、スイッチS1を閉成する。
【0070】
電圧VHとVLとの差の絶対値が所定のしきい値αより大きい場合(S450にてNO)は、S470に処理が進められ、ECU300は、バイパス回路170を前回の制御周期と同じ状態、すなわちスイッチS1が開放された状態に維持する。なお、すでにスイッチS1が閉成された状態において、電圧センサの検出誤差やノイズ等によってS450においてNOと判定された場合には、S470においては、スイッチS1が閉成された状態を維持する。
【0071】
一方、上アームオン固定ではない場合(S430にてNO)は、S445に処理が進められ、ECU300は、デューティ信号DUTYにしたがってコンバータ120のスイッチング動作を実行する。そして、ECU300は、S455にて、直流電源110からの電流IBとリアクトル電流の平均電流ILaveとの差の絶対値が所定のしきい値β以下であるか否かを判定する。
【0072】
電流IBとリアクトル平均電流ILaveとの差の絶対値が所定のしきい値β以下である場合(S455にてYES)は、S465に処理が進められ、ECU300は、制御信号SE2をオフに設定してバイパス回路170に出力することによって、スイッチS1を開放する。なお、もともとスイッチS1が開放されていた状態の場合には、開放した状態が維持される。
【0073】
電流IBとリアクトル平均電流ILaveとの差の絶対値が所定のしきい値βより大きい場合(S455にてNO)は、S470に処理が進められて、バイパス回路170を前回の制御周期と同じ状態に維持する。
【0074】
以上のような処理に従って制御することによって、電圧VHおよびVLの状態、あるいは電流IBおよびILの状態が、スイッチS1の切替に適切な状態となったときに、スイッチS1を切替えることが可能となる。これによって、バイパス回路の切替え直後の過渡期における電圧,電流の変動を抑制できるとともに、回路内の部品の耐量アップが必要なくなることによってコストアップを抑制することができる。
【0075】
なお、図5のフローチャートにおいては、スイッチング素子Q1のオン固定を条件を判定後に、バイパス回路170の切替えを判定したが、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング状態とは独立して、電圧VHおよび電流ILに基づいてバイパス回路を切替えるようにしてもよい。
【0076】
[実施の形態1の変形例]
上述のバイパス回路170のスイッチS1については、図1のような開閉器以外にも様々な形態を採用することが可能である。
【0077】
図6に、他の例のバイパス回路を備える車両100Aを示す全体ブロック図を示す。図6においては、図1のバイパス回路170に代えてバイパス回路170Aが備えられる。バイパス回路170Aは、逆耐圧を有しない一般的なIGBT(スイッチング素子Q3,Q4)を含んでスイッチS1が構成されている。
【0078】
スイッチング素子Q3,Q4は、互いのコレクタが接続されるように、電力線PL1とHPLとの間に直列に接続される。そして、スイッチング素子Q3,Q4には、ダイオードD3,D4がそれぞれ逆並列に接続される。
【0079】
スイッチング素子Q3,Q4は、ECU300からの制御信号PWDによって制御される。力行時にコンバータ120をバイパスする際には、スイッチング素子Q3がオフに設定されるとともに、スイッチング素子Q4がオンに設定される。一方、回生時にコンバータ120をバイパスする際には、スイッチング素子Q3がオンに設定されるとともに、スイッチング素子Q4がオフに設定される。バイパス回路をこのような構成とすることによっても、図1と同様の構成が実現できる。
【0080】
[実施の形態2]
上述の実施の形態1では、力行状態においてコンバータ120をバイパスするときについて説明を行なった。しかし、負荷装置130の状態については、たとえば車両100の減速時などのように、負荷装置130で発電された電力により直流電源110を充電する回生状態になる場合がある。ところが、図1(または図6)に示したバイパス回路の構成においては、以下に説明するように、回生状態においてバイパス回路170のスイッチS1を開放しようとした場合に、図5のフローチャートのステップS455に示す電流判定の条件が成立しない場合が発生し得る。以下、図7から図14を用いて、上記の場合が発生する理由を説明する。
【0081】
図7から図14は、図1の回路において、スイッチング動作により回路を流れる電流を説明するための図である。なお、図7から図10は力行時の場合を示し、図11から図14は回生時の場合を示す。
【0082】
図7を参照して、力行時に、バイパス回路170のスイッチS1が閉成されてコンバータ120がバイパスされた状態では、実線矢印AR1のように、直流電源110から出力された電流は、バイパス回路170を通って負荷装置130に供給され、接地線NL1を通って直流電源110に戻ってくるルートで流れる。このとき、スイッチング素子Q1はオンであり、スイッチング素子Q2はオフである。そして、スイッチング素子Q1,Q2の間の接続ノードが、電力線HPL,PL1と同電位となるので、ダイオードD1には電流は流れない。
【0083】
実施の形態1での切替制御のように、バイパス状態から昇圧状態に切替える場合は、スイッチS1の切替え直後における電圧,電流の変動を抑制するために、スイッチS1をオンとして状態で、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング動作が開始される。
【0084】
図8のように、スイッチS1をオンにしたままの状態で、スイッチング素子Q1をオフとし、スイッチング素子Q2をオンにすると、図7と同様に破線矢印AR2で示される電流が流れるとともに、電流の一部は、実線矢印AR3で示すような、リアクトルL1およびスイッチング素子Q2を通って接地線NL1により直流電源110に戻るように流れて、リアクトルL1にエネルギを蓄える。
【0085】
そして、次に図9のように、再びスイッチング素子Q1がオン,スイッチング素子Q2がオフにスイッチングされると、リアクトルL1に蓄えられたエネルギが放出されて、実線矢印AR5のような電流が流れる。この実線矢印AR5の電流は、破線矢印AR4のように流れる電流を打ち消すような向きの電流であるため、破線矢印AR4の電流が徐々に低下する。
【0086】
その後、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング動作が継続されて、図8および図9の状態が繰り返され、図9の実線矢印AR5のルートの電流の大きさと、破線矢印AR4のルートの電流の大きさとが等しくなると、バイパス回路170を流れる電流がほぼゼロとなる。これによって、図5のフローチャートのステップS455での電流判定条件が成立するので、スイッチS1をオフとでき、バイパス状態が解除されて図10の実線矢印AR6に示されるルートの電流が流れる。これによって、通常の昇圧動作が可能となる。
【0087】
一方、回生時に、バイパス回路170のスイッチS1が閉成されてコンバータ120がバイパスされた状態では、電流は、図11の実線矢印AR11のように、負荷装置130からバイパス回路170を経由して直流電源110に供給され、接地線NL1を通って負荷装置130に戻ってくるルートを流れる。
【0088】
そして、図12のように、スイッチング素子Q1がオフに設定され、かつスイッチング素子Q2がオンに設定されると、破線矢印AR12のように流れる電流の一部が、力行時の図8と同じように実線矢印AR13のルートで流れてリアクトルL1にエネルギを蓄える。
【0089】
その後、再びスイッチング素子Q1がオン,スイッチング素子Q2がオフに設定されると、力行時の図9と同様に、リアクトルL1に蓄えらたエネルギが放出されることによって、図13の実線矢印AR15のような電流が流れる。
【0090】
このとき、図13に示されるように、バイパス回路170においては、破線矢印AR14の電流および実線矢印AR15の電流が同じ方向に流れるので、実線矢印AR15のルートの電流によって、破線矢印AR14のルートの電流を打ち消すことができない。そのため、図5のフローチャートのステップS455での電流判定条件が成立しないため、電圧,電流の変動なしにスイッチS1を開放することができない状態が発生し得る(図14)。
【0091】
そこで、実施の形態2においては、図15のように、実施の形態1のコンバータ120にスイッチング素子Q6,Q7およびダイオードD6,D7を追加したコンバータ120Aを、コンバータ120に代えて設ける構成について説明する。
【0092】
図15は、実施の形態2に従う電源システム105Bを含む車両100Bの全体ブロック図である。なお、図15において、図1と重複する要素の説明は繰り返さない。
【0093】
図15を参照して、コンバータ120Aに含まれるスイッチング素子Q6,Q7は、直列に接続され、かつ図1のバイパス回路170の直流電源110側の端子と接地線NL1との間に接続される。
【0094】
コンバータ120Aは、力行時には、スイッチング素子Q6をオン、スイッチング素子Q7をオフとしたまま、実施の形態1のコンバータ120で説明した図7から図10のように、スイッチング素子Q1,Q2が制御される。
【0095】
一方、回生時において昇圧動作に切替える場合は、ECU300は、制御信号PWC#によって、スイッチング素子Q1をオンとしたままで、スイッチング素子Q6,Q7を交互にオンとオフとを切替えるように制御する。このように制御することによって、スイッチング素子Q7がオンし、かつスイッチング素子Q6がオフしているときには、図15中の実線矢印AR21のように電流が流れ、リアクトルL1にエネルギが蓄えられる。そして、逆に、スイッチング素子Q6がオン、かつスイッチング素子Q7がオフとされると、リアクトルL1からのエネルギの放出によって、図15の実線矢印AR22のような電流が流れる。これによって、バイパス回路170において、破線矢印AR20で示される回生電流を打ち消す向きに電流が流れるので、スイッチS1を流れる電流を低下することができる。これによって、回生時においても電圧,電流の変動なしにスイッチS1を開放することができる。
【0096】
[実施の形態3]
上述のように、実施の形態1の構成においては、回生時にバイパス状態を解除する際に、スイッチS1に流れる電流を低下させることができない場合がある。しかしながら、たとえば、図1に示されるように、電源システム105が車両に対して適用されるような場合には、回生時にコンバータをバイパスしているときに、昇圧動作に移行するような状態となることは非常に少ない。
【0097】
一般的に、モータに電流を流すには、モータの回転による逆起電力に打ち勝つ電圧をインバータから出力する必要がある。この逆起電力はモータ回転数に依存するため、必要となる電圧(すなわち、システム電圧VH)は、モータ回転数によってほぼ決まることになる。そして、バイパス状態となるのは、昇圧が不要の場合、すなわちモータ回転数が低い場合であるので、「回生時のバイパス状態」とは「モータ回転数が低く、かつ、減速制動中」であり、モータ回転数が上昇していくことは通常考えにくい状態となる。ちなみに、「回生時にコンバータをバイパスしているときに昇圧動作に移行する」条件が成立する場合は、たとえば、急な下り坂をブレーキを踏みながら進んでいるにもかかわらず、減速する力が不足して速度が上昇する場合である。
【0098】
このように、発生頻度が低い、「回生時にコンバータをバイパスしているときに昇圧動作に移行するような状態」に対応して、実施の形態2のようなコンバータとすることは、かえって回路や制御を複雑化してしまい、コストアップにつながるおそれがある。
【0099】
また、このような電源装置が車両に対して適用されるような場合は、力行状態で使用される頻度が高いため、力行時のみコンバータをバイパスする構成とするかわりに付加回路をシンプルなものとすることで、期待していた効果の大部分を享受しつつコストを低減することが可能な場合があり得る。
【0100】
そのため、実施の形態3においては、図1のスイッチS1に代えてダイオードを設けることによって、回生時にはコンバータのバイパスは行なわないが、力行時において、ECU300による制御を行なうことなく実施の形態1と同等の効果を得られる構成について説明する。
【0101】
図16は、実施の形態3に従う電源システム105Cを含む車両100Cの全体ブロック図である。なお、図16においては、図1と重複する要素の説明は繰り返さない。
【0102】
図16を参照して、上述のように、電源システム105Cは、図1のバイパス回路170に代えて、ダイオードD5を含むバイパス回路170Cを含む。
【0103】
ダイオードD5は、アノードが電力線PL1に接続され、カソードが電力線HPLに接続される。さらにダイオードD5は、コンバータ120に含まれるダイオードD1以上の素子サイズ(チップ面積)を有するように、すなわち導通時のオン抵抗がD1よりも低くなるようなものが選択される。このようにすることによって、コンバータ120のスイッチング素子Q1をオン固定した場合の導通損失に比べて、バイパス回路170Bの導通損失を低くすることができる。
【0104】
図16の回路においては、ECU300は、ダイオードD5の導通を制御する必要がなく、電圧VHが電圧VLよりも低下するとダイオードD5が導通する。
【0105】
図17は、バイパス回路170Bによるバイパス状態が解除されるときの、電圧,電流波形の一例を示す図である。図17においては、横軸に時間が示されており、縦軸には、電圧VH,バイパス回路170Bに流れる電流IS、リアクトルL1に流れる電流IL、スイッチング素子Q1,Q2の状態、およびバイパス回路170内のダイオードD5の導通状態が示される。
【0106】
図17を参照して、時刻t21までは、ダイオードD5が導通した状態であり、バイパス回路170B側に電流が流れている。時刻t21において、昇圧動作を行なうためにスイッチング素子Q1,Q2のスイッチング動作が開始される。これによって、実施の形態1の図8,9と同様に、リアクトル電流ILが徐々に増加し、それに伴って電流ISが低下する。時刻t21から時刻t22の間は、ダイオードD5は導通したままである。
【0107】
そして、時刻t22において、電流ISが正から負に達した時点で、ダイオードD5が非導通となり、バイパス状態が解除される。
【0108】
このように、コンバータ120を動作させてリアクトル電流ILを増加させ、電流ISを減少させることによって、力行時において実施の形態1の図3と同様にバイパス状態を解除する際に、電圧VHおよびリアクトル電流ILの変動を抑制することができる。さらに、ECU300による制御を不要としたシンプルな回路構成とすることによって、コストアップを抑制することが可能となる。
【0109】
なお、図16の構成において、さらに回生時にもバイパスを行ないたい場合には、図18に示す車両100Dにように、ECU300からの制御信号PWEによって制御され、図17のダイオードD5に逆並列に接続されたスイッチング素子Q5を追加したバイパス回路170Dを備える構成としてもよい。
【0110】
なお、上述のように、実施の形態1およびその変形例、そして実施の形態3の図18に示す構成において、回生時にバイパス状態を解除する場合、一時的に回生動作を停止するとともにバイパス状態を解除し、その後再度回生動作を行なうようにモータジェネレータやインバータを制御することによって、バイパス状態の解除時に発生する電圧,電流の変動を抑制する構成とすることも可能である。
【0111】
この場合、一時的に回生状態が解除されるために、その間回生制動力が低下するおそれがあるが、機械式ブレーキの制動力を強めたり、ハイブリッド自動車のようなエンジンや複数のモータジェネレータを備える車両の場合には、エンジンブレーキや他方のモータジェネレータによって制動力を補完したりするような制御をあわせて行なうことによって、一時的な制動力低下を抑制するようにしてもよい。
【0112】
なお、本実施の形態における「コンバータ120,120A」は、本発明の「電圧変換装置」の一例である。
【0113】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0114】
100,100A,100B,100C,100D 車両、105,105A,105B,105C,105D 電源システム、110 直流電源、120,120A コンバータ、130 負荷装置、131,132 インバータ、133,134 モータジェネレータ、135 動力伝達ギア、136 駆動輪、140,145,150 電圧センサ、150,160,165 電流センサ、170,170A,170C,170D バイパス回路、300 ECU、310 VH指令決定部、320 指令デューティ決定部、330 ゲート駆動信号生成部、340 バイパス回路信号生成部、C1,C2 コンデンサ、D1〜D7 ダイオード、HPL,PL1 電力線、L1 リアクトル、NL1 接地線、Q1〜Q7 スイッチング素子、S1 スイッチ、SMR システムメインリレー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷装置に電源電圧を供給するための電源システムであって、
直流電源と、
前記直流電源と前記負荷装置との間で、スイッチング動作によって電圧変換を行なうように構成された電圧変換装置と、
前記スイッチング動作とは独立して、前記直流電源から前記負荷装置に対して、前記電圧変換装置をバイパスするように構成されたバイパス回路とを備える、電源システム。
【請求項2】
前記電圧変換装置を流れる電流および前記電圧変換装置の前記負荷装置の第1の電圧の少なくともいずれかが、前記バイパス回路の切替えに適した条件となった場合に、前記バイパス回路を切替えるための制御装置をさらに備える、請求項1に記載の電源システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1の電圧と、前記電圧変換装置の前記直流電源側の第2の電圧との差の絶対値が、しきい値より小さい場合に、前記電圧変換装置をバイパスするように前記バイパス回路を制御する、請求項2に記載の電源システム。
【請求項4】
前記電圧変換装置は、
前記負荷装置の電力線と接地線との間に直列接続される第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子と、
前記接地線から前記電力線に向かう方向を順方向として、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子にそれぞれ並列に接続された第1の整流素子および第2の整流素子と、
前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子の接続ノードと前記直流電源の正極端子とを結ぶ経路に設けられたリアクトルとを含み、
前記制御装置は、前記リアクトルに流れるリアクトル電流に基づいて、前記バイパス回路による前記電圧変換装置のバイパスを停止するように前記バイパス回路を制御する、請求項2に記載の電源システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記リアクトル電流と、前記直流電源から出力される電流との差の絶対値が、しきい値より小さい場合に、前記バイパス回路による前記電圧変換装置のバイパスを停止するように前記バイパス回路を制御する、請求項4に記載の電源システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記直流電源から前記負荷装置へ向かう方向に電流が流れる場合、および前記負荷装置から前記直流電源へ向かう方向に電流が流れる場合の両方の場合において、前記バイパス回路の切替えに適した条件となった場合に、前記バイパス回路を制御する、請求項2〜5のいずれか1項に記載の電源システム。
【請求項7】
前記バイパス回路は、
前記直流電源の正極端子と前記負荷装置の電力線との間に接続されたリレーを含む、請求項1に記載の電源システム。
【請求項8】
前記電圧変換装置は、
前記負荷装置の電力線と接地線との間に直列接続される第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子と、
前記接地線から前記電力線に向かう方向を順方向として、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子にそれぞれ並列に接続された第1の整流素子および第2の整流素子と、
前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子の接続ノードと前記直流電源の正極端子とを結ぶ経路に設けられたリアクトルとを含み、
前記バイパス回路は、
前記正極端子と前記電力線との間に接続され、前記正極端子から前記電力線に向かう方向を順方向とする第3の整流素子を含む、請求項1に記載の電源システム。
【請求項9】
前記第3の整流素子は、前記第1の整流素子に比べて、通電時の抵抗が小さい、請求項8に記載の電源システム。
【請求項10】
前記バイパス回路は、
前記第3の整流素子に並列に、かつ逆接続される第3のスイッチング素子をさらに含む、請求項8に記載の電源システム。
【請求項11】
前記バイパス回路は、
前記第3のスイッチング素子に直列に、かつ前記第3のスイッチング素子と逆向きに接続される第4のスイッチング素子と、
前記第4のスイッチング素子に並列に、かつ逆接続される第4の整流素子をさらに含む、請求項10に記載の電源システム。
【請求項12】
前記電圧変換装置は、
前記負荷装置の電力線と接地線との間に直列接続される第1のスイッチング素子および第2のスイッチング素子と、
前記接地線から前記電力線に向かう方向を順方向として、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子にそれぞれ並列に接続された第1の整流素子および第2の整流素子と、
前記直流電源の正極端子と負極端子との間に直列接続される第3のスイッチング素子および第4のスイッチング素子と、
前記負極端子から前記正極端子に向かう方向を順方向として、前記第3のスイッチング素子および前記第4のスイッチング素子にそれぞれ並列に接続された第3の整流素子および第4の整流素子と、
前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子の接続ノードと、前記第3のスイッチング素子および前記第4のスイッチング素子の接続ノードとを結ぶ経路に設けられたリアクトルとを含み、
前記バイパス回路は、前記正極端子と前記電力線に接続される、請求項1に記載の電源システム。
【請求項13】
車両であって、
電源システムと、
前記電源システムからの電力を用いて、前記車両の駆動力を生成するための駆動装置とを備え、
前記電源システムは、
直流電源と、
前記直流電源と前記駆動装置との間で、スイッチング動作によって電圧変換を行なうように構成された電圧変換装置と、
前記スイッチング動作とは独立して、前記直流電源から前記駆動装置に対して、前記電圧変換装置をバイパスするように構成されたバイパス回路とを含む、車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−182521(P2011−182521A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42825(P2010−42825)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】