説明

電源回路組込み型発振回路

【課題】発生するノイズが少なくかつ低消費電流であるとともにチップサイズを低減可能な発振回路を提供する。
【解決手段】電圧レギュレータ(電源制御用のトランジスタM0)と、VCO(電圧制御発振回路20)と、電流源回路(バンドギャップ回路11)とを電源電圧端子と接地点との間に縦積みした電源一体型の発振回路として構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振回路さらには電源回路と一体の電圧制御発振回路に適用して有効な技術に関し、例えば受信信号をダウンコンバートしたり送信信号をアップコンバートしたりするのに用いられる高周波の局部発振信号を生成する電圧制御発振回路(以下、VCOと称する)に利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機のような無線通信機器には、受信信号や送信信号に高周波の局部発振信号をミキサで合成して周波数のダウンコンバートやアップコンバートを行なったり、送信信号の変調や受信信号の復調を行なったりする通信用半導体集積回路(以下、高周波ICと称する)が用いられている。かかる高周波ICにおいては、受信信号や送信信号と合成される高周波の局部発振信号を生成するためVCOを内蔵したものが提供されている。
【0003】
VCOは一般に電源電圧が変化すると発振周波数が変動する周波数依存性を有する。そこで、電源電圧が変動しないように、安定した電源電圧を生成可能な電源回路と電圧制御発振回路とを一体にした図1のような回路がある。図1の回路は、バンドギャップリファランス回路のような定電圧を発生する回路11と該定電圧に応じた電圧を発生する電圧レギュレータ12とからなる電源回路10と、該電源回路からの電圧を電源電圧として発振動作する発振回路20とから構成されている。
【特許文献1】特開2001−306157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
WCDMA方式の無線通信システムでは送信と受信が同時に行なわれるとともに送受信動作が連続するため、GSM方式などのパケット通信に比べて消費電力が大きく、所望のバッテリーの持続時間を確保する為に消費電力の削減が必要とされている。図1の発振回路は安定した電源電圧を供給する電源回路10を有するため、発振周波数の電源電圧依存性は小さくなる。しかしながら、定電圧回路11と電圧レギュレータ12とからなる電源回路10を付加した分だけ電流消費が大きくなるとともに、電源回路10が発生するノイズが問題となる。
【0005】
電源回路の雑音は、VCOの位相雑音に深刻な影響を与えるので重要な問題である。電源回路の雑音を減らす方法としては、バイパスコンデンサを用いる技術がある。しかしながら、バイパスコンデンサは容量値が大きいためICのチップに内蔵させるのは困難である。一方、バイパスコンデンサを外付け素子として設けるには、ICに追加の外部端子が必要となりピン数の増加ひいてはパッケージサイズの増加をもたらすとともに、部品点数が増加してシステムの小型化を妨げる要因となる。よって、バイパスコンデンサを使用する方法は妥当な対策ではない。
【0006】
そこで、電源制御用トランジスタM0とレベルアップ用のトランジスタQ0と定電圧回路11とを電源電圧端子と接地点との間に縦積みにした図2のような回路を、発振回路の電源回路とすることを思い付いて検討を行なった。
【0007】
その結果、図2のような電源回路の場合、電源回路自身の低雑音化の方法として回路内の抵抗値を小さくする手法が考えられるが、抵抗値を小さくするとそれに比例して消費電流が増加してしまう。WCDMA方式の携帯電話向けの高周波ICでは、内蔵のVCO自身の低消費電流化も課題であるが、同様に併設する電源回路の消費電流も極力低減しなければ要求仕様を満たすことが困難である。そのため、図2の電源回路は、消費電流の低減という点でまだ不充分であることが明らかとなった。
【0008】
なお、本発明に関連する発明として、電源電圧端子と接地点との間にVCO回路とミキサ回路を縦積みにした発明が提案されている(特許文献1)。この先願発明は、異なる機能の回路を電源電圧端子と接地点との間に縦積みにしている点で本発明と類似しているが、目的とする機能の回路と電源回路とを縦積みにしているものではない。
【0009】
また、上記先願発明は、電池が消耗した場合にも回路が動作できるようにするため、VCO回路とミキサ回路を縦積み状態と並列状態とに切替えるスイッチを設けており、常にVCO回路と電源回路とが縦積み状態で動作する本願発明とは、明らかに構成および動作が異なっている。
【0010】
この発明の目的は、発生するノイズが少なくかつ低消費電流であるとともにチップサイズを低減可能な発振回路を提供することにある。
【0011】
この発明の他の目的は、携帯電話向けの高周波ICに内蔵するのに好適な発振回路を提供することにある。
【0012】
この発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴については、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願において開示される発明のうち代表的なものの概要を説明すれば、下記のとおりである。
【0014】
すなわち、電源制御用のトランジスタと、レベルアップ用のトランジスタと、バンドギャップリファランス回路とを、電源電圧端子と接地点との間に縦積みした図2のような電源回路において、レベルアップ用のトランジスタの代わりに機能回路であるVCO(電圧制御発振回路)を挿入して縦積み回路としたものである。
【0015】
上記した手段によれば、バンドギャップリファランス回路と電圧レギュレータとで分圧用の抵抗(図1のR7,R8,R9とR11,R12)および帰還用差動アンプ(AMP0とAMP1)を共用できるため、従来回路に比べて大幅に消費電流を減らすことができるとともに、回路の占有面積すなわちチップサイズを低減することができる。
【0016】
また、電源回路に流れる電流が発振回路の動作電流となるため、別々に電流が流れる図2の回路に比べてトータルの電流が同じであれば電源回路内の抵抗の値を小さくして流れる電流を増加させて発生するノイズを減らすことができる。これによって、バイパスコンデンサを用いることなくノイズを減らすことができ、外部端子の増設によるパッケージサイズの増加や部品点数の増加によるコストアップ、実装面積の増大を回避することができる。
【発明の効果】
【0017】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば下記のとおりである。
【0018】
すなわち、本発明に従うと、発生するノイズが少なくかつ低消費電流であるとともにチップサイズおよびパッケージサイズを低減することが可能であり、特に携帯電話向けの高周波ICに内蔵するのに好適な発振回路を得ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて説明する。
【0020】
図3には、本発明に係る発振回路の一実施例が示されている。
【0021】
この実施例の発振回路は、電源電圧端子Vccと接地点GNDとの間に、電源制御用のトランジスタM0と、電圧制御発振回路(VCO)20と、定電圧回路としてバンドギャップリファランス回路(以下、バンドギャップ回路と称する)11とを直列に接続して縦積みした構成を有する。そして、基準電圧Vxが安定するように、電源制御用のトランジスタM0のゲート端子にバンドギャップ回路11から出力される制御電圧Vzが印加される。
【0022】
VCO20は、LC共振型発振回路であり、ソースが共通接続されかつ互いにベースとコレクタとが容量C3,C4を介して交差結合された一対のNPNバイポーラ・トランジスタQ1,Q2を有する。また、VCO20は、該トランジスタQ1,Q2のコレクタと電源電圧端子Vccとの間にそれぞれ接続されたインダクタL1,L2と、上記トランジスタQ1,Q2のコレクタ端子間に、直列に接続されたバラクタ・ダイオードからなる可変容量素子Cv1,Cv2を有する。
【0023】
バラクタ・ダイオードCv1,Cv2は互いにカソード端子が向き合うように接続されている。また、pushing(電源電圧変動)特性対策のため、バラクタ・ダイオードCv1,Cv2のアノード端子と接地点との間には抵抗R1,R2が接続され、可変容量素子Cv1,Cv2と直列に直流成分をカットする容量C1,C2が接続され、GND基準に変換している。可変容量素子Cv1,Cv2の接続ノードN0には、図示しないPLL回路内のループフィルタなどから制御電圧Vctrが印加されて発振周波数が連続的に変化可能に構成されている。
【0024】
また、VCO20のトランジスタQ1,Q2のベースとコレクタとの間、ベースと共通エミッタN1との間に、それぞれ抵抗R3,R4及びR5,R6が接続され、抵抗分割で自己バイアスを行なうとともに、後述のように抵抗比でVCOの電源電圧となるレギュレータ電圧Vregのレベルを調整するようにしている。容量C3,C4は発振振幅を容量によりアッテネートしてQ1,Q2のベースへ正帰還する。図示しないが、発振出力はトランジスタQ1,Q2のコレクタとインダクタL1,L2との接続ノードから取り出される。
【0025】
バンドギャップ回路11は、VCO20のトランジスタQ1,Q2の共通エミッタが接続されるノードN1と接地点GNDとの間に直列に接続された抵抗R7およびトランジスタQ3と、R7−Q3と並列にノードN1と接地点GNDとの間に直列に接続された抵抗R8,R9およびトランジスタQ4と、上記抵抗R7,R8の各端子電圧を入力電位とする差動アンプ(出力比較差動増幅回路)AMP0とからなる。
【0026】
トランジスタQ3,Q4はPNPバイポーラ・トランジスタであり、ベースとコレクタが結合されてベース電位とコレクタ電位とが同電位とされている。このトランジスタQ3,Q4は通常のバイポーラプロセスで形成されるトランジスタでもよいし、MOSプロセスで形成されるラテラル構造のPNPトランジスタであってもよい。
【0027】
バンドギャップ回路11は、VCO20のトランジスタQ1,Q2の共通エミッタと接地点GNDとの間に接続され、トランジスタQ3,Q4のベース・エミッタ間電圧Vbe3,Vbe4の差と、抵抗R7,R8の抵抗比に応じた制御電圧Vzを出力すると共に、電源電圧依存性のない電流をVCO20に流す定電流源(電流源回路)として機能する。
【0028】
本実施例では、バンドギャップ回路11により生成された制御電圧Vzが電源制御用のトランジスタM0のゲート端子に印加されることにより、Vzに応じた電流がM0に流され、これがVCO20に動作電流として流され、さらにその電流はそのままバンドギャップ回路(電流源回路)11の抵抗R7,R8に抵抗比率で分割されて流される。電源制御用のトランジスタM0によりVCO20へ供給されるレギュレータ電圧Vregは、使用する素子の定数にもよるが一般には2.4V以上であれば、VCO20を安定して発振動作させることができる。
【0029】
本実施例の電源一体型の発振回路は、VCO20の発振周波数を決定するLC共振回路の部分は図1のVCOと変わらないので、AC的な発振動作は従来のVCOと同じであり、周波数fは、f=1/(2π*√(L*Cv))で決まる。ただし、トランジスタQ1,Q2のベースバイアス電位がレギュレータ電圧作成のために従来のVCOに比べて高く設定されるので、出力振幅が従来に比べて若干小さく制約されるが、発振振幅が比較的小さいときには影響は少ない。
【0030】
一方、トランジスタQ1,Q2のGm(伝達コンダクタンス)は負の温度係数を持つが、Q1,Q2のバイアス電流が、バンドギャップ回路の正の温度係数を持つPTAT(Proportional To Absolute Temperature)電流に変更されたことで、Q1,Q2のGmが温度補償されることになり、発振器の負性抵抗(1/Gm)が温度変動に対して一定化する。また、それによって発振振幅レベルが温度変動に対して安定する。さらに、発振振幅レベルが補正される、つまり温度変動で振幅が低下するのが防止されることで、位相雑音やSN比(信号・雑音比)も改善される。
【0031】
ここで、図3のVCO20に着目すると、トランジスタQ1,Q2と直列のインダクタL1,L2は直流的には抵抗がゼロすなわちQ1,Q2のコレクタは電源制御用のトランジスタM0のドレインに直結されているとみなすことができる。従って、図3のVCO20のトランジスタQ1,Q2は、図2の回路におけるトランジスタQ0と等価な素子とみなすことができる。
【0032】
また、バンドギャップ回路11は、前述したように、電源電圧依存性のない電流をVCO20に流す定電流源(電流源回路)として機能する。よって、図3のバンドギャップ回路(電流源回路)11は、図2の回路における定電流源CC0と等価な回路とみなすことができる。つまり、直流的には、図3の回路は図2におけるVCOの電源電圧を供給する電源回路と同様な動作をする。従って、図2の電源回路により発生されるレギュレータ電圧Vregを解析すれば、図3の実施例におけるVCO20の電源電圧を解析したのと同等の結果が得られる。そこで以下、図2の電源回路により発生されるレギュレータ電圧Vregについて説明する。
【0033】
図2の電源回路10は、バンドギャップ回路11の抵抗R7とR8の共通接続端子の電位である基準電圧VxをトランジスタQ0のベース・エミッタ間電圧Vbe(Q0)だけ上方へシフトしたものがレギュレータ電圧Vregとなる。ここで、トランジスタQ0のベース・エミッタ間電圧Vbe(Q0)には、負の温度係数−2mV/degが存在する。そのため、Q0としてベースとコレクタとを結合したダイオード接続のトランジスタを使用して、基準電圧Vxをバンドギャップ電圧1.2Vとし、Vbe(Q0)だけシフトしたのではレギュレータ電圧Vregに負の温度係数が残ってしまう。
【0034】
そこで、抵抗R7,R8を調整することで、図4に示すように、基準電圧Vxが正の温度係数を持つように調整する。図1に示されているような本来のバンドギャップ回路においては、正の温度係数をもつPTAT電流により、バンドギャップ電圧Vxは抵抗R7,R8で昇圧される。このときトランジスタQ3,Q4のベース・エミッタ電圧(Vbe)の負の温度係数を打ち消している。抵抗R7,R8を大きくしてPTAT電流で昇圧される電圧配分を大きくすれば、基準電圧Vxは+2mV/degの温度係数を有するように設定することができる。
【0035】
図2の回路では、このような設定を行なうことにより、トランジスタQ0のベース・エミッタ間電圧Vbe(Q0)の温度係数を打ち消して温度依存性のないレギュレータ電圧Vregを発生することが可能である。さらに、図2の電源回路では、電圧調整のため、Q0のベースとコレクタとの間およびベースとエミッタとの間に抵抗R3,R4を設け、この抵抗で(R4/R3)*Vbe(Q0)だけさらに電圧を高い方へシフトするようにしている。最終的にレギュレータ電圧Vregは、
Vreg=Vx+Vbe(Q0)+(R4/R3)*Vbe(Q0)
=Vx+{(R3+R4)/R3}*Vbe(Q0)
となる。抵抗R3,R4の比によりVbe(Q0)は温度係数が増えるので、基準電圧Vxの温度係数はさらに調整が必要である。
【0036】
図3の実施例では、バンドギャップ回路11の抵抗R7,R8で基準電圧Vxが正の温度係数を有するように設定して、VCO20のトランジスタQ1,Q2のベース・エミッタ電圧の負の温度係数をキャンセルして温度が変化してもVCO20の電源電圧であるVregが変動しないようにしている。また、VCO20の電源電圧であるVregが所望のレベルとなるように、トランジスタQ1,Q2のベースに接続されている自己バイアス用の抵抗R3,R4及びR5,R6の抵抗比を設定し、その抵抗比に応じてさらにバンドギャップ回路11の抵抗R7,R8を調整している。
【0037】
図5および図6には、図3の実施例の電源一体型発振回路の変形例を示す。このうち図5は、VCO20のトランジスタQ1,Q2およびバンドギャップ回路11のトランジスタQ3,Q4としてバイポーラ・トランジスタの代わりにMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を使用したものである。
【0038】
この変形例では、DC的にレギュレータ電圧を生成する系として、バイポーラ・トランジスタのVbeの代わりにMOSFET(M1,M2)のゲート・ソース電圧Vgsが組み込まれる。これによって、
Vreg=Vgs+Vx
で表わされるレギュレータ電圧Vregが発生される。Vgs電圧はトランジスタのサイズ調整にて任意に設定することができる。また、Vgsの温度依存性は基準電圧Vxの設定にてキャンセルすることが可能であり、VCO20にバンドギャップ回路11のPTAT電流が流されることで、図3の実施例と同様の効果が期待できる。
【0039】
図6の変形例は、図5の回路において、VCOのインダクタL1,L2を、トランジスタM1,M2と直列に接続する代わりに、差動出力ノード間に、バラクタ・ダイオードCv1,Cv2と並列に接続して中間ノードはフローティングにする。また、互いのゲート端子とドレイン端子が交差結合された一対のPチャネルMOSFET M3,M4をNチャネルMOSFET M1,M2と直列に接続して、CMOS構成のVCOとしたものである。この回路では、
Vreg=Vgsn(M1)+Vgsp(M3)+Vx
で表わされるレギュレータ電圧Vregが発生される。
【0040】
DCバイアスは、NMOS(M1,M2)のゲート・ソース電圧VgsnとPMOS(M3,M4)のゲート・ソース電位Vgspから決まり、トランジスタサイズによって任意に調整でき、基準電圧Vxにて温度係数も打ち消すことができる。VCO20にバンドギャップ回路11のPTAT電流が流されることで、図3の実施例と同様の効果が期待できる。さらに、この実施例のCMOS構成のVCOは、NMOSのVCOに比べて発振振幅は小さく制約されるものの、比較的小さなバイアス電流にて動作するので低消費電力化に向いている。
【0041】
図7は、本発明に係る電源一体型発振回路の第2の実施例を示す。この実施例は、電流源回路としてバンドギャップ回路の代わりに、抵抗R8,R9に直列接続されたトランジスタQ4(M6)を省略したVGS/Rバイアス型電流源回路を用いたものである。
【0042】
第1の実施例のバンドギャップ回路11では、前述したように、抵抗R7,R8の正の温度係数でトランジスタQ4のベース・エミッタ電圧(Vbe)の負の温度係数を打ち消すようにしているが、この第2の実施例ではバイアス電流はVgs(M5)/R9で決まり負の温度係数を持つ。
【0043】
また、この実施例のVGS/Rバイアス型電流源回路は、バンドギャップ回路に比べて発生するノイズが小さいので、第1の実施例よりも低雑音回路に適しているが温度に対して安定とするなら別の補正が必要となる。なお、トランジスタM5は、MOSFETでなくバイポーラ・トランジスタであってもよい。
【0044】
図8は、本発明に係る電源一体型発振回路の第3の実施例を示す。前記第1および第2の実施例はVCOとして差動構成のLC共振型発振器を用いたが、使用可能なVCOはこれに限定されるものでない。
【0045】
第3の実施例は、VCOの共振部が水晶振動子XTLと周波数調整用の可変容量素子Cv1とから構成されている。負性抵抗を与えるトランジスタM1,M2は、抵抗R1〜R4にてレギュレータ電圧Vregを分圧した電圧Vbiasにてバイアスされている。また、M1,M2と直列に、カレントミラー接続されたPチャネル型負荷MOSFET M3,M4が接続されている。水晶振動子XTLは、外付け部品として、発振回路が形成されている半導体チップの外部端子に接続される。
【0046】
トランジスタM1のゲート・ドレイン間に接続されている抵抗R5は、出力をM1のバイアス電圧Vbiasに負帰還させる。トランジスタM2のゲートとM1のドレインとの間に接続されている容量C1はAC的に正帰還を行なっており、MOSFET M3,M4にて折り返された信号は抵抗R5による負帰還に打ち勝って発振する。
【0047】
このクリスタル発振器の電源回路として、第1の実施例と同様にバンドギャップ回路11と電源制御用トランジスタM0とからなる電源回路が適用されている。この電源回路によりDC的に生成されるレギュレータ電圧Vregは、次式
Vreg={(R1+R2)/R1}・{Vgs(M1)+Vx}
で表わされる。
【0048】
ここで、MOSFETのゲート・ソース間電圧Vgsの温度依存性をキャンセルするように基準電圧Vxを設計すれば、レギュレータ電圧は温度に対して安定する。また、バンドギャップ回路のPTAT電流は温度に対してトランジスタM1のGmを補正する効果があるので発振レベルが安定するという利点がある。
【0049】
図9には、本発明に係る発振回路を適用した通信用半導体集積回路(高周波IC)及びそれを用いた無線通信システムの一例として、WCDMA(Wideband Code Division Multiple Access)方式の携帯電話機の構成例がブロック図で示されている。
【0050】
図9に示すシステムは、信号電波を送受信するアンテナ100と、送信信号と受信信号を分離するデュプレクサ(分波器)110と、送信信号を増幅する高周波電力増幅回路(パワーアンプ)130と、受信信号を復調したり送信信号を変調したりする高周波IC200と、ベースバンド回路300とからなる。
【0051】
ベースバンド回路300は、送信データをI,Q信号に変換したり復調されたI,Q信号から受信データを抽出するなどのベースバンド処理を行なったり高周波IC200を制御したりする。この実施例では、高周波IC200およびベースバンド回路300は、各々別個の半導体チップ上にそれぞれ半導体集積回路として構成されている。
【0052】
本実施例の高周波IC200は、大きく分けると、受信系回路と、送信系回路と、それ以外の制御回路やクロック系回路などの送受信系に共通の回路からなる制御系回路とで構成される。
【0053】
受信系回路は、受信信号を増幅するロウノイズアンプ211と、発振回路VCO1で生成された発振信号φRF1とロウノイズアンプ211で増幅された受信信号とを合成することで復調およびダウンコンバートを行なうミキサ212と、復調されたI,Q信号をそれぞれ増幅してベースバンド回路300へ出力する高利得増幅回路(PGA)213などからなる。
【0054】
送信系回路は、ベースバンド回路300から供給されるI,Q信号を増幅するアンプ231と、増幅されたI,Q信号と発振回路VCO2で生成された発振信号φRF2とを合成することにより変調およびアップコンバートを行なうミキサ232と、変調された信号を増幅するアンプ233などから構成されている。
【0055】
本実施例においては、ミキサ212で受信信号と合成される高周波信号φRF1を生成するRF−PLL1と、ミキサ232で送信信号と合成される高周波信号φRF2を生成するRF−PLL2が設けられ、これらのPLL内のVCOや基準発振回路250として、前記第1〜第3実施例で説明した電源一体型の発振回路が使用されている。
【0056】
RF−PLL1は、VCO221と、VCOの使用バンドを選択する自動バンド選択回路222と、VCO221で生成された発振信号を分周する可変分周器223および基準発振回路250からの基準クロックφrefを分周する分周器224を有する。RF−PLL1は、さらに、分周器223および224で分周された信号の位相を比較する位相比較器225と、その位相差に応じた電圧を発生するチャージポンプ226およびループフィルタ227を有する。このループフィルタ227のチャージ電圧がVCO221に発振制御電圧Vctrとして供給される。RF−PLL2は、発生する高周波信号の周波数が異なるのみで、構成はRF−PLL1と同一であるので図示および説明を省略する。
【0057】
特に制限されるものでないが、この実施例では、受信側のRF−PLL1と送信側のRF−PLL2で必要とされる基準クロックφrefを生成する基準発振回路250は、受信系と送信系に共通の回路として設けられている。また、RF−PLL1とRF−PLL2には、ベースバンド回路300からの信号に基づいてこのRF−PLL1とRF−PLL2および上記受信系回路や送信系回路を制御する信号を生成する制御回路261,262が設けられている。
【0058】
制御回路261,262にはコントロールレジスタやデータレジスタなどが設けられている。これらのレジスタにベースバンドIC300からの信号に基づいてオフセット値や発振周波数(分周比)の設定が行なわれ、レジスタに設定された値がRF−PLL1,RF−PLL2の自動バンド選択回路222内のレジスタや可変分周回路223に供給される。
【0059】
これとともに、ベースバンドIC300からの指令(コマンドコード等)に基づいて、制御回路261,262から自動バンド選択回路222に対して発振周波数切替え制御信号が供給される。制御回路は、RF−PLL1とRF−PLL2および上記受信系回路や送信系回路に共通の回路として設けるようにしても良い。
【0060】
以上本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0061】
例えば前記第1〜第3実施例および変形例において開示した電流源回路11とVCO20、レギュレータ回路(M0)は、それぞれ任意に組み合わせることが可能である。また、いわゆるBiCMOSプロセスを使用することが許容されるならば、VCO20を構成するトランジスタまたは電流源回路11を構成するトランジスタの一方をMOSFETとし、他方をバイポーラ・トランジスタとした混在回路も実現可能である。
【0062】
また、前記実施例では、発生する発振信号の周波数が制御電圧Vcnrで変更可能なVCOを用いた回路を示したが、発振信号の周波数が固定であるVCOを用いる場合にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上の説明では主として本発明者によってなされた発明をその背景となった利用分野である携帯電話機等の無線通信装置の高周波ICに内蔵されるVCOについて説明した。本発明はそれに限定されず、半導体集積回路に内蔵されるVCO一般に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】従来の発振回路の構成例を示す回路図である。
【図2】本発明に先立って検討した発振回路の構成例を示す回路図である。
【図3】本発明に係る電源一体型の発振回路の第1の実施例を示す回路図である。
【図4】第1の実施例の発振回路における各部の電位の温度特性を示すグラフである。
【図5】第1の実施例の発振回路の第1の変形例を示す回路図である。
【図6】第1の実施例の発振回路の第2の変形例を示す回路図である。
【図7】本発明に係る発振回路の第2の実施例を示す回路図である。
【図8】本発明に係る発振回路の第3の実施例を示す回路図である。
【図9】本発明に係るPLL回路を適用した通信用半導体集積回路(高周波IC)及びそれを用いた無線通信システムの構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0065】
10 電源回路
11 バンドギャップ回路
12 電圧レギュレータ
20,221 VCO(電圧制御発振回路)
211 ロウノイズアンプ
212 復調&ダウンコンバート用ミキサ
213 高利得増幅回路
232 変調&アップコンバート用ミキサ
250 基準発振回路
261,262 制御回路
300 ベースバンド回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電源電圧が供給される第1の電源端子と、
前記第1の電源電圧とは異なる第2の電源電圧が供給される第2の電源端子と、
前記第1の電源端子からの電圧を受け、電源電圧を出力する電圧レギュレータと、
前記電圧レギュレータからの前記電源電圧が供給される電圧制御発振回路と、
前記第2の電源端子と接続する電流源回路とを含み、一つの半導体チップ内に形成された発振回路であって、
前記電圧レギュレータと、前記電圧制御発振回路と、前記電流源回路と、が前記第1と第2の電源端子との間に直列に接続され、前記電圧レギュレータから前記電圧制御発振回路に流された電流が前記電流源回路に流れることを特徴とする発振回路。
【請求項2】
前記電流源回路は基準電圧発生回路からなり、
前記電圧レギュレータは、前記基準電圧発生回路の出力比較差動増幅回路の出力電圧を制御端子に受けて前記第1の電源電圧を降圧して前記電圧制御発振回路の動作電圧を生成する電源制御用トランジスタからなることを特徴とする請求項1に記載の発振回路。
【請求項3】
前記基準電圧発生回路は、
前記電圧制御発振回路との結合点と前記第2の電源端子との間に直列に接続された第1抵抗および第1トランジスタを有する第1電流経路と、
前記電圧制御発振回路との結合点と前記第2の電源端子との間に直列に接続された第2抵抗および第3抵抗と第2トランジスタを有する第2電流経路と、
前記第1抵抗と前記第2抵抗の電圧降下で生じた2つ電圧が入力され、それらの電位差に応じた電圧を出力する前記出力比較差動増幅回路と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の発振回路。
【請求項4】
前記基準電圧発生回路内の前記第1〜第3抵抗は、前記基準電圧発生回路と前記電圧制御発振回路との結合点の電位が正の温度特性を有し、前記電圧制御発振回路内のトランジスタの負の温度特性を相殺するように抵抗値が設定されていることを特徴とする請求項3に記載の発振回路。
【請求項5】
前記電圧制御発振回路は、エミッタ共通接続され互いにベース端子とコレクタ端子が交差結合された一対のバイポーラ・トランジスタもしくはソース共通接続され互いにゲート端子とドレイン端子が交差結合された一対の電界効果トランジスタを有し、
前記電圧レギュレータにより生成される電圧は、前記バイポーラ・トランジスタのベース・エミッタ間電圧もしくは前記電界効果トランジスタのゲート・ソース間電圧の分だけ前記交差結合されたノードの電位よりも高く設定されることを特徴とする請求項4に記載の発振回路。
【請求項6】
前記電圧制御発振回路は、
エミッタ共通接続され互いにベース端子とコレクタ端子が交差結合された一対のバイポーラ・トランジスタを有し、
該一対のバイポーラ・トランジスタのそれぞれのベース端子とコレクタ端子との間およびベース端子とエミッタ端子との間にそれぞれ抵抗が接続され、
これらの抵抗で分割された電圧が当該バイポーラ・トランジスタのベース端子に印加されることで自己バイアスされるように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の発振回路。
【請求項7】
前記電圧制御発振回路の前記一対のバイポーラ・トランジスタもしくは一対の電界効果トランジスタの伝達コンダクタンスは、前記基準電圧発生回路を流れる正の温度係数を持つ電流により温度補償されることを特徴とする請求項5に記載の発振回路。
【請求項8】
前記電圧制御発振回路は、
前記一対のバイポーラ・トランジスタまたは前記一対の電界効果トランジスタと前記電源制御用トランジスタとの間に接続された一対のインダクタンス素子と、
前記一対のバイポーラ・トランジスタのコレクタ端子間または前記一対の電界効果トランジスタのドレイン端子間に接続された容量素子と、
を有するLC共振型発振回路であることを特徴とする請求項5に記載の発振回路。
【請求項9】
前記電圧制御発振回路は、
前記一対のバイポーラ・トランジスタのコレクタ端子間または前記一対の電界効果トランジスタのドレイン端子間に、互いにカソード端子が向き合うように結合された一対のバラクタ・ダイオードと、
前記一対のバラクタ・ダイオードの各アノード端子と前記一対のバイポーラ・トランジスタのコレクタ端子もしくは前記一対の電界効果トランジスタのドレイン端子との結合ノードとの間にそれぞれ接続された一対の容量素子とを備え、
前記一対のバラクタ・ダイオードの共通カソード端子に制御電圧が印加されることにより発振周波数が可変にされていることを特徴とする請求項8に記載の発振回路。
【請求項10】
前記電流源回路は、
前記電圧制御発振回路との結合点と前記第2の電源端子との間に直列に接続された第1抵抗および第1トランジスタを有する第1電流経路と、
前記電圧制御発振回路との結合点と前記第2の電源端子との間に直列に接続された第2抵抗および第3抵抗を有する第2電流経路と、
前記第1抵抗と前記第2抵抗の電圧降下で生じた2つ電圧が入力され、それらの電位差に応じた電圧を出力する出力比較差動増幅回路とからなり、
前記電圧レギュレータは、前記出力比較差動増幅回路の出力電圧を制御端子に受けて入力電源電圧を降圧して前記電圧制御発振回路の電源電圧を生成する電源制御用トランジスタからなることを特徴とする請求項1に記載の発振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−300623(P2007−300623A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114918(P2007−114918)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【出願人】(503153953)エポック・マイクロエレクトロニクス・インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】