説明

電線

【課題】導体又は光ファイバを絶縁樹脂層で被覆してなる電線において、単純に絶縁樹脂層中のUV吸収剤及び/又は光安定剤の含有量を増やすことなく、従来よりも優れた耐候性を有する電線を提供することにある。
【解決手段】導体又は光ファイバの外周を絶縁樹脂からなる絶縁樹脂層にて被覆してなり、該絶縁樹脂層が少なくともカーボンブラック又は顔料と、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤とを有し、さらに前記の紫外線吸収剤及び/又は光安定剤の滲出しを誘導する滲出誘導剤を含有することを特徴とする。前記の滲出誘導剤としては、炭素数11以上22以下の範囲内の脂肪酸アマイド、炭素数9以上42以下の範囲内の脂肪酸ビスアマイド、又は炭素数11以上22以下の範囲内の脂肪酸アマイドと炭素数9以上42以下の範囲内の脂肪酸ビスアマイドの組合せが特に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体又は光ファイバを絶縁樹脂層で被覆してなり、耐候性に優れる電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、絶縁電線及びケーブルの類は、地中の共同構内に設置する動きはあるものの、架空線等の屋外で使用されるものが非常に多い。これは、電力輸送用の電線だけではなく、CATV(ケーブルテレビ)等で使用する信号用電線、あるいは光ファイバを使用するケーブル等として使用される。このような電線及びケーブルは、日光中に含まれる紫外線、降雨等の影響による被覆用絶縁樹脂の劣化が避けられず、長期間の使用に対して何らかの耐候性を付与する必要がある。
【0003】
紫外線による絶縁樹脂の劣化の機構は、紫外線により絶縁樹脂中の分子鎖が切断してラジカルが発生し、これが連鎖して分子量が低下し、伸びや強度の低下という劣化を引き起こすというものである。この機構による絶縁樹脂の劣化を防止及び抑制するために、従来から多種多様な検討が行われており、主に次に示すような(A)〜(C)の対策がとられてきた。
【0004】
(A)絶縁樹脂に微粒子を添加し、紫外線を遮蔽・吸収する(例えば、特許文献1を参照)。紫外線による分解を避けるため、微粒子として安価なカーボンブラックが広く使用されている。屋外で使用される電線のほとんどが黒色であるのはこのためである。また、黒色ケーブルで不都合がある場合は、二酸化チタンを使用して白色とする場合もある。この場合の紫外線を遮蔽・吸収する作用機構はカーボンブラックとほぼ同等と考えられている。
【0005】
(B)絶縁樹脂に有機系の紫外線(UV)吸収剤を添加する。UV吸収剤は分子構造的に紫外領域での光吸収の強い化合物を使用しており、例えば、サルチル酸誘導体、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系の化合物等が一般的である。上記のカーボンブラックや二酸化チタンを使用する場合の補助的な役割として添加する場合が多い。
【0006】
(C)絶縁樹脂に光安定剤を添加する(例えば、特許文献2を参照)。光安定剤は、分子鎖が紫外線により切断されて発生したラジカルを捕捉して連鎖的な劣化を防止する作用を有する。光安定剤には、例えば、ヒンダードアミン系が知られている。カーボンブラックやUV吸収剤を添加しても、これらは絶縁樹脂中に存在するため、絶線樹脂の表層部分(表層部と表層付近を含む部分)では紫外線の充分な遮蔽や吸収ができず、強い紫外線による分子鎖の切断が起きる。光安定剤は、この表層部分の保護に有効である。屋外で使用する電線・ケーブル類は、数十年レベルの長期で使用されるため、カーボンブラック等による遮蔽・吸収だけではなく、劣化の起点となる表層部分の保護が重要となるため、光安定剤を併用して使用することが広く行われている。特に、高分子量の光安定剤を使用する場合は、降雨による流出が起きにくいため、より効果的な表層部分を保護できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−234001号公報
【特許文献2】特開2003−100158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、最近になって、カーボンブラックの黒や、二酸化チタンの白以外の色相を持ちつつ、従来以上の耐候性を有する絶縁電線及びケーブル(以下、絶縁電線及びケーブルを総称して電線という。)の需要が増えている。これは電線敷設時の作業向上が大きな理由である。
【0009】
作業性向上、すなわち電線の識別性向上のために、前記の特許文献1に記載されているように、多様な色相を持つ絶縁樹脂層を使用する場合は、色相そのものの消色や絶縁樹脂の劣化に対して十分に注意する必要がある。これは、UV吸収剤や光安定剤を使用しても、着色に使用する顔料類がカーボンブラックに比べ紫外線の遮蔽、吸収能力が不足し、耐候性の低い顔料の消色や絶縁樹脂の劣化が避けられないためである。また、カーボンブラックを含有する黒色の電線においても、適用範囲を広げるため従来より厳しい環境に使用できるように耐候性の一層の向上が求められている。
【0010】
上記の問題や要求に対して検討すべき課題は、以下の2点である。
〈1〉顔料類の消色を防止するために、顔料に到達する紫外線を減少させる。
〈2〉絶縁樹脂層の表層部分の劣化を防止するため、表層部分の光安定剤を増やす。
【0011】
上記〈1〉及び〈2〉の課題は、それぞれ絶縁樹脂層の表層部分でのUV吸収剤及び/又は光安定剤の濃度を高めることによって解決できると考えられる。その方法としては、単純にUV吸収剤及び/又は光安定剤の添加量を増やすことであるが、これらの添加剤を増やしても降雨による流出で短期間にその効果が薄れることが分かった。さらに、これらの添加剤を大幅に増やすと、絶縁樹脂の強度低下等の副作用が発生しやすい。
【0012】
本発明の目的は、上記のような従来技術における問題点を解決しようとするものであり、導体又は光ファイバを絶縁樹脂層で被覆してなる電線において、単純に絶縁樹脂層中のUV吸収剤及び/又は光安定剤の含有量を増やすことなく、従来よりも優れた耐候性を有する電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の目的を達成するために種々の検討を行った結果、特定の化合物を併用することで、UV吸収剤や光安定剤を継続的に表層部分(表層部と表層付近を含む)に移行させ、長期間にわたり表層部分に高濃度で存在させることが可能になることを見出して到達したものであり、次の構成を有する。本発明において、この特定の化合物はUV吸収剤や光安定剤の表面部分への滲み出しを促進する機能を有するため、滲出誘導剤と呼称する。
(1)本発明は、導体又は光ファイバの外周を絶縁樹脂からなる絶縁樹脂層にて被覆してなり、該絶縁樹脂層が少なくともカーボンブラック又は顔料と、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤とを有し、さらに前記の紫外線吸収剤及び/又は光安定剤の滲出しを誘導する滲出誘導剤を含有することを特徴とする電線を提供する。
(2)本発明は、前記滲出誘導剤が、脂肪酸アマイド、脂肪酸ビスアマイド、炭素数9以上45以下の範囲内の高級脂肪酸、及び炭素数9以上45以下の範囲内の高級脂肪酸とアルコールから合成される脂肪酸エステルの群から選ばれる少なくともいずれか一つであることを特徴とする前記(1)に記載の電線を提供する。
(3)本発明は、前記滲出誘導剤が、炭素数11以上22以下の範囲内の脂肪酸アマイド、炭素数9以上42以下の範囲内の脂肪酸ビスアマイド、又は炭素数11以上22以下の範囲内の脂肪酸アマイドと炭素数9以上42以下の範囲内の脂肪酸ビスアマイドの組合せであることを特徴とする前記(2)に記載の電線を提供する。
(4)本発明は、前記滲出誘導剤の含有量が、前記絶縁樹脂100重量部に対して0.5重量部以上5.0重量部以下であることを特徴とする前記(2)又は(3)に記載の電線を提供する。
(5)本発明は、前記光安定剤が、平均分子量1500以上のヒンダードアミン系光安定剤であることを特徴とする前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の電線を提供する。
(6)本発明は、前記絶縁樹脂がポリオレフィン樹脂であることを特徴とする前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の電線を提供する。
(7)本発明は、前記絶縁樹脂層が2層以上からなることを特徴とする前記(1)乃至(6)のいずれかに記載の電線を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、単純に絶縁樹脂層中のUV吸収剤及び/又は光安定剤の含有量を増やす必要が無いために、強度等の初期特性を大きく低下させないで、耐候性を従来よりも大幅に向上させた電線を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の電線の構成図であり、(a)は導体の外周を絶線樹脂層にて被覆した電線、(b)は光ファイバの外周を絶縁樹脂層にて被覆したケーブルである。
【図2】本発明の実施例における電線の基本構造図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の電線の構成図であり、絶縁樹脂層が3層から構成されるものである。図1の(a)及び(b)に示すように、本発明の耐候性絶縁電線(a)及び耐候性ケーブル(b)は、それぞれ導体10又は光ファイバを収納したユニット20の周囲に絶縁樹脂層30が被覆してあり、個々の絶縁樹脂は外層より31、32、33となっている。本発明は、絶縁樹脂層30が図1に示す3層構造には限定されない。製品の種類により絶線樹脂層は単層でも2層以上の複数層でも選択できる。また、本発明は、図1に示す電線において最外層の絶縁樹脂層(最外層樹脂層31)の構成を主な対象としているが、最外層樹脂層31の内部に配置される中間の内部樹脂層32、最内層の内部樹脂層33に対して適用してもよい。内部に配置される絶縁樹脂層である32又は32と33にUV吸収剤及び/又は光安定剤が含まれる場合には、それらの化合物を最外層樹脂層へ滲み出させる効果があるため、より長期間にわたって電線の耐候性を維持又は向上させることができる。
【0018】
本発明の電線及びケーブルは、最外層樹脂層が少なくともカーボンブラック又は顔料と、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤とを有し、さらに前記の紫外線吸収剤及び/又は光安定剤の滲み出しを誘導する滲出誘導剤を含有することを特徴とする。ここで、滲出誘導剤は、UV吸収剤及び/又は光安定剤を絶縁樹脂層の表面部分に移行させる機能を有する。本発明は、滲出誘導剤をUV吸収剤及び/又は光安定剤と併用する絶縁樹脂は、滲出誘導剤を含有しないものと比べて、例えば、暗所及び屋外暴露状態で1年間放置した後において、前記絶縁電線の同一面積の表面に滲出したUV吸収剤及び/又は光安定剤の量が多くなるという新しい知見に基づいてなされたものである。この効果は、暗所よりも屋外暴露状態で顕著に現れる。これは、日光等によって滲出誘導剤が分解、揮散するため継続的な滲出し効果が続くことによって、結果的にUV吸収剤及び/又は光安定剤の表面への滲出し量を増大させると考えられる。絶縁樹脂の表面部分に滲出したUV吸収剤及び/又は光安定剤の量は、降雨等により一時的に流出することはあるが、上記のように継続的な滲出しが続くため、降雨等による流出の影響は実用上僅小である。
【0019】
次に、本発明電線及びケーブルを構成する導体、光ファイバユニット、絶縁樹脂、カーボンブラック又は顔料、UV吸収剤、光安定剤、滲出誘導剤の構造、形態及び成分について説明する。
【0020】
〈導体〉
図1に示す導体10の種類、構造については特に規定するものではない。導体の材質は、例えば、銅、銀、鉄等の金属単体でもよく、これらの金属に金、亜鉛、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、錫、鉄等の金属を1種類以上添加して合金線でもよい。また、金属酸化物を焼結した導電性セラミックスでもよい。
【0021】
導体の表面についても特に規定するものではなく、導体材料の単独でもよく、表面に金、銀、錫、ニッケル、鉛、亜鉛、又はこれらの合金によってメッキされた導体を使用してもよい。
【0022】
また、導体の構造も様々な形態が考えられる。単線でも多数の素線を撚り合せた導体でもよく、撚り線の場合は撚り方も目的とする製品に応じて自由に選択できる。さらに、パイプ状の導体も考えられ、その場合パイプの内部は空洞でも他の材料が充填されていてもよい。
【0023】
〈光ファイバユニット〉
光ファイバユニットについても、その構造、形状、材質を特に特定するものではない。光ファイバは1本1本の素線毎でも、複数本を並行に配置して一本化した所謂テープファイバでもよく、1本以上の素線を絶縁樹脂中に埋め込んだ構造でも良い。
【0024】
これらのファイバを収納する形状も自由であり、単なるチューブでも、屈曲時にファイバへ掛かる側圧を考慮したスペーサーでも良く、さらにその材質も目的に叶うものであれば特に規定するものではない。加えて、これらのファイバを収納したチューブやスペーサーの本数も特に限定するものではなく、所望の通信容量に応じて選択できる。
【0025】
〈絶縁樹脂〉
図1において少なくとも最外層樹脂層31を構成する絶縁樹脂は、電線用被覆樹脂として適用できるものであれば特にその種類は問わないが、価格、柔軟性(伸び)、強度、電気的特性及び成形加工性等から、ポリオレフィン樹脂が好適である。
【0026】
本発明で使用されるポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポエチレン[低密度ポリエチレン(以下、LDPEともいう)、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン(以下、VLDPEともいう)、直鎖状低密度ポリエチレン(以下、LLDPEともいう)、直鎖状超低密度ポリエチレン]、ポリプロピレン等のホモポリマー、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(以下、EEAともいう)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、EVAともいう)、エチレン−酢酸ビニル−スチレングラフト共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−スチレングラフト共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸グラフト共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体等のエチレン共重合体が挙げられる。これらのポリオレフィン樹脂は1種のみを単独で使用しても2種以上を併用しても良い。また、この絶縁樹脂を電線、ケーブルとして形成した後に架橋させることもできる。
【0027】
〈カーボンブラック又は顔料〉
本発明に使用するカーボンブラック又は顔料は、上記の絶縁樹脂に着色できるものであれば、その種類は問わない。本発明に使用するカーボンブラックは、その製法によってファーネス法(ファーネスブラック)、チャンネル法(チャンネルブラック)、アセチレン法(アセチレンブラック)、サーマル法(サーマルブラック)等に分類されるが、そのいずれでも使用することができる。それらの中で、本発明では微粒子が得やすいファーネス法又はチャンネル法によって製造されるカーボンブラックがより好ましい。
【0028】
上記のカーボンブラックの他に、顔料としては、例えば、二酸化チタン、群青、黄鉛等の無機顔料、モノアゾ顔料、ジアゾ顔料、縮合アゾ顔料等のアゾ系、キナクリドンやフタロシアニンに代表される多環系顔料等の有機顔料や染料が挙げられる。これらの顔料は、所望の色相、明度に応じて組み合わせて使用することができる。
【0029】
〈UV吸収剤〉
UV吸収剤は、使用目的に適合するものであれば、特に規定するものではなく、次のサルチル酸誘導体、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系等を使用することができる。
【0030】
サリチル酸誘導体としては、例えば、フェニルサリシレート、p−第三―ブチルフェニルサリシレート等が挙げられる。
【0031】
ベンゾフェノン系としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒロドキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾイル酸n−ヘキサデシルエステル、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、1,4−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)ブタン、1,6−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)ヘキサン等が挙げられる。
【0032】
ベンゾトリアゾール系としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−第三ブチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−ジ−第三ブチル−5’−メチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−第三ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−第三オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−第三アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、及びその他のベンゾトリアゾール誘導体等が挙げられる。
【0033】
これらの他に、蓚酸アニリド誘導体、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート等を使用しても良い。これらのUV吸収剤は単独又は複数を組み合わせて使用できる。
【0034】
UV吸収剤の添加量は、上記の絶縁樹脂100重量部に対して1重量部以上5重量部以下、より好ましくは3重量部以上5重量部以下である。これは、UV吸収剤が滲出誘導剤のブリードアウトと共に最外層の絶縁樹脂層(最外層樹脂層)の外周部(表層部)へ移行するものであるため、降雨等による流出があってもUV吸収の機能を維持でき、かつ過剰添加に起因する成形性の低下を起こさない範囲である。
【0035】
〈光安定剤〉
本発明は、光安定剤としてヒンダードアミン系光安定剤やベンゾフェノン系光安定剤等を使用することができるが、滲出誘導剤による移行性が比較的良好で、かつ光安定剤としての機能に優れるヒンダードアミン系光安定剤が好適である。さらに、ヒンダードアミン系光安定剤は、平均分子量が1500以上のものがより好ましい。平均分子量が1500未満のヒンダードアミン系光安定剤は、滲出誘導剤による移行が速くなりすぎるため、光安定性を確保することができる期間が相対的に短くなる。また、紫外線が強い環境下では、分解が顕著になって光安定性の効果が薄れる場合がある。
【0036】
このようなヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、ポリ[[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジル)イミノ]]、ポリ[[(6−モルホリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]−ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]]、N,N’−ビス(3−アミノプロピ)エチレンジアミン・2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミン・N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物等が挙げられる。これら光安定剤は単独又は複数組み合わせて使用できる。
【0037】
光安定剤の添加量は、上記の絶縁樹脂100重量部に対して1重量部以上5重量部以下、より好ましくは3重量部以上5重量部以下である。これは、光吸収剤が滲出誘導剤のブリードアウトと共に最外層の絶縁樹脂層(最外層樹脂層)の外周部(表層部)へ移行するものであるため、降雨等による流出があってもUV吸収の機能を維持でき、かつ過剰添加に起因する成形性の低下を起こさない範囲である。
【0038】
本発明に使用する絶縁樹脂は、上記のUV吸収剤または光安定剤と少なくともいずれかを含有することによって耐候性を向上させることができる。しかしながら、絶縁樹脂の耐候性の低下は種々の要因によって起きるため、様々な環境下に対応して使用できる電線を提供することが必要である。そのため、本発明は、使用環境に応じて仕様が異なる電線を製造する必要が無くなり、電線の適用範囲が広がるという点から、耐候性を向上させる機構がそれぞれ異なる上記のUV吸収剤及び光安定剤を併用することがより好ましい。
【0039】
〈滲出誘導剤〉
本発明は、滲出誘導剤として、脂肪酸アマイド、脂肪酸ビスアマイド、炭素数9以上45以下の範囲内の高級脂肪酸、及び炭素数9以上45以下の範囲内の高級脂肪酸とアルコールから合成される脂肪酸エステル、高級アルコール、金属石鹸系の化合物を使用できる。これらの化合物の中には、樹脂の成型加工性を上げる目的で従来から滑剤として使用されるものが含まれているが、本発明で使用する滲出誘導剤は機能及び作用が滑剤とは全く異なるため、あくまでUV吸収剤及び/又は光安定剤と併用されるときに本発明の効果を発揮するものである。
【0040】
脂肪酸アマイドとしては、例えば、ラウリン酸アマイド、パルミチン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロシキシステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、リシノール酸アマイド、N−ステアリルオレイン酸アマイド等が挙げられる。
【0041】
脂肪族ビスアマイドとしては、例えば、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アマイド等が挙げられる。
【0042】
炭素数9以上45以下の範囲内の高級脂肪酸しては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸を始めとする炭素数9以上45以下の範囲内の飽和直鎖脂肪酸、炭素数12以上24以下の範囲内のモノ不飽和脂肪酸、炭素数18以上24以下の範囲内の多不飽和脂肪酸等が挙げられる。
【0043】
炭素数9以上45以下の範囲内の高級脂肪酸とアルコールから合成される脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリルステアレート等の挙げられる。
【0044】
高級アルコールとしては、パルミチルアルコールやステアリルアルコール等が挙げられる。
【0045】
金属石鹸としては、ステアリン酸、ラウリン酸、リシノール酸、ナフテン酸、2エチルヘキソイン酸に、カドミウム、バリウム、カルシウム、亜鉛、スズ、アルミニウム、マグネシウムを組み合わせたものが挙げられる。
【0046】
上記の滲出誘導剤は、単独又は複数組み合わせて使用できる。本発明は、上記の各種滲出誘導剤の中で、UV吸収剤及び/又は光安定剤の絶縁樹脂層表面部分への滲出し性及び滲出し効果の持続性の点から、脂肪酸アマイド、脂肪酸ビスアマイド、炭素数9以上45以下の範囲内の高級脂肪酸、及び炭素数9以上45以下の範囲内の高級脂肪酸とアルコールから合成される脂肪酸エステルが好ましい。これらの滲出誘導剤の中で、耐候性の向上という本発明の効果を最も達成できるものとして、脂肪酸アマイド及び脂肪酸ビスアマイドのいずれか1種又はそれらを組み合わせて使用することがより好ましく、さらに、炭素数11以上22以下の範囲内の脂肪酸アマイド、炭素数9以上42以下の範囲内の脂肪酸ビスアマイド、又は炭素数11以上22以下の範囲内の脂肪酸アマイドと炭素数9以上42以下の範囲内の脂肪酸ビスアマイドの組合せが特に好ましい。脂肪酸アマイド及び脂肪酸ビスアマイドの炭素数がそれぞれ11未満及び9未満では、UV吸収剤及び/又は光安定剤の滲出し効果が十分でない。また、それらの炭素数がそれぞれ22又は42を超えると、絶縁樹脂との均一混合が困難となるだけではなく、絶縁樹脂の初期強度の低下が顕著となる。
【0047】
本発明に使用される滲出誘導剤の添加量は、滲出誘導剤の種類に応じて最適化されるが、上記の脂肪酸アマイド、脂肪酸ビスアマイド、炭素数9以上45以下の範囲内の高級脂肪酸、及び炭素数9以上45以下の範囲内の高級脂肪酸とアルコールから合成される脂肪酸エステルの場合は、絶縁樹脂100重量部に対して0.5重量部以上5重量部以下が好ましく、3重量部以上5重量部以下がより好ましい。滲出誘導剤の添加量が極端に少ないと、本発明の効果が得られない。また、添加量が多くなりすぎると、UV吸収剤や光安定剤の絶縁樹脂表面部分への移行は促進されるものの、逆に、絶縁樹脂の物性、特に強度の低下が大きくなるため、電線用被覆樹脂として実用に供することができなくなる。
【0048】
〈絶縁樹脂層中に含まれるその他の成分〉
本発明では、上記の絶縁樹脂層の材料に難燃性を付与するために、本発明の目的を損なわない範囲であれば難燃剤を配合することができる。難燃剤としては、無機難燃剤が好適であり、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、又は酸化アンチモン(二酸化アンチモン、三酸化アンチモン)、二酸化チタン、酸化セリウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化ホウ素、酸化ジルコニウム、酸化ビスマス、酸化鉄(三酸化第二鉄等)、マンガン亜鉛、マンガンニッケル等のソフトフェライト、酸化ネオジウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ベリリウム、酸化バリウム、酸化マンガン、酸化レニウム、酸化ルテニウム、酸化オスニウム、酸化コバルト、酸化ロジウム、酸化ニッケル、酸化パラジウム、酸化白金、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化セレン等の金属酸化物が挙げられる。これらの中でも、難燃効果が高い点から、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物が好ましい。また、本発明に用いる二酸化チタンは、ルチル型、アナターゼ型のどちらでも良く、両方を混合して使用しても良い。
【0049】
上記の難燃剤として使用できる金属水酸化物又は金属酸化物の中で、例えば、二酸化チタンや酸化鉄等は本発明において顔料として使用する場合がある。その場合は、顔料としての効果だけではなく、同時に難燃剤としての効果を期待できる。
【0050】
さらに、本願発明の絶縁樹脂層には、必要に応じて、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素系難燃剤、ホウ酸化合物、モリブデン化合物、亜鉛化合物等の難燃助剤、酸化防止剤、界面活性剤、軟化剤、可塑剤、相溶化剤、安定剤、架橋剤、上記顔料以外の着色剤等を添加することができる。
【0051】
〈内部樹脂層〉
本発明は、例えば図1に示す絶縁樹脂層30において、少なくとも最外層の絶縁樹脂層(最外層樹脂層31)に関するものであり、その内部の絶縁樹脂層(内部樹脂層)32、33の材料構造について制約されるものではない。そのため、内部樹脂層は最外層樹脂層と異なる組成を有する絶縁樹脂や添加剤であっても良い。また、上記で述べたように、必要に応じて最外層樹脂層と同様の絶縁樹脂や添加剤を選択することもできる。その場合は、長期間にわたって電線の耐候性を維持又は向上させることができるだけではなく、ケーブルの端末や最外層に物理的に傷が付くことを考慮して、内部樹脂層にも耐候性を付与することができる。
【0052】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
下記の実施例及び比較例の絶縁樹脂層を有する試作電線は以下のようにして製造した。
【0054】
〈供試材料と試作電線の構造〉
電線の導体として、公称断面積3.5mmの錫メッキ軟銅線を用いた。本発明の効果を検証するために、図2に示す基本構造を有する試作電線を作製した。試作電線は、前記導体の周囲に被覆した厚さ1.1mmの内層と厚さ0.7mmの外層からなる2層構造を有する。試作電線の内層(内部樹脂層)及び外層(外部樹脂層)を構成する絶縁樹脂は、いずれも低密度ポリエチレン(LDPE:密度(d)=0.919g/cm、190℃におけるメルトフローレート(MFR)=1.2g/10分)を使用した。顔料としてナフトールレッド(大日精化工業(株)社製モノアゾレッド)を用いて、絶縁樹脂100重量部に対して1.2重量部添加した。
【0055】
UV吸収剤は、2−(2’−ヒドロキシ−3’−ジ−第三ブチル−5’−メチルーフェニル)−5−クロロ・ベンゾトリアゾール(BASF社製Tinuvin326)を使用した。光安定剤は、ヒンダードアミン系の高分子量光安定剤であるポリ[(6−モルホリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]−ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]](サンケミカル社製サイアソーブUV−3346:平均分子量1600)及びヒンダードアミン系の低分子量光安定剤であるテトラキシ(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート(旭電化社製アデカスタブLA−52:平均分子量847)を使用した。また、滲出誘導剤は、オレイン酸アマイド(日本化成社製ダイヤミッドO)、エチレンビスステアリン酸アマイド(日本化成社製スリパックスE)、ラウリン酸(花王社製ルナックL70)及びステアリン酸モノグリセリド(花王社製エキセル84)を使用した。これらの添加剤は、図2に示す外層の絶縁樹脂(LDPE)に、表1〜表6に示す実施例及び比較例の材料組成に従って配合を行い、電線試作を行った。
【0056】
〈試作電線の製造方法〉
試作電線は、導体周辺に内層と外層を連続押出法によって被覆して製造した。内層用の材料は、LDPEペレットを用いた。外層用の材料は、あらかじめ2軸混練機を用いて、LDPEペレット、所定量の顔料、UV吸収剤、光安定剤及び滲出誘導剤を充分に混練後、ペレット化したものを用いた。連続押出は、最内層の押出の口径が60mm、口径比(L/D)が29の押出機を使用し、外層は口径が90mmで、口径比(L/D)が29の押出機を並べて行った。
【0057】
〈評価方法〉
本発明の課題は導体を被覆した絶縁樹脂の耐候性の向上であるため、絶縁樹脂中の顔料の消色及び絶縁樹脂の劣化の2点について評価を行って電線の寿命を推定した。いずれも試作電線を約50cmに切断し、必要な本数をサンシャインウエザーメーター(SUGA試験機)に投入した。JIS A 1415−1995に従って紫外線照射強度78.5W/cm(紫外線波長域300〜400nm)、ブラックパネル温度63℃、スプレーサイクル18分/120分で紫外線照射を行った。また、滲出誘導剤の添加は絶縁樹脂の特性を低下させる傾向にあるため、絶縁樹脂の初期の引張り強度を測定することによって滲出誘導剤による物性低下の影響を評価した。
それぞれの評価内容は以下の通りである。
(1)顔料の消色:一定時間ごとに目視で確認し、明確な消色や退色といった劣化が確認できた時点を寿命とし、その時点までの期間を寿命時間とする。
(2)絶縁樹脂の劣化:一定時間ごとに試料を回収し、紫外線暴露面が中心軸となるように絶縁樹脂被膜を切り開く。次に、6号ダンベル形にて試験片を打抜く。試験片の中心線と紫外線暴露面がずれないようにして24時間以上の環境馴致時間を置いた後、引張り試験機にて伸び量を評価する。このとき、引張り速度は200mm/minに設定した。測定の結果、伸び量が初期値の50%到達を寿命点とし、そこまでの期間を寿命点として評価した。
(3)絶縁樹脂の初期の引張破断強度:サンシャインウエザーメーターに投入する前の試作電線から絶線樹脂皮膜を切り開いて、6号ダンベルにて試験片を打抜いた後、引張り試験機を用いて、室温において200mm/minの引張り速度で初期引張破断強度を測定した。初期引張破断強度は7MPa以上でなければ電線として実用に供するものとはならないので、本発明はこの値以上を目標とする。
【0058】
[実施例1〜14、比較例1〜6]
UV吸収剤としてTinuvin326、光安定剤として高分子量のヒンダードアミン系化合物(サイアソーブUV−3346)又は低分子量のヒンダードアミン系化合物(アデカスタブLA−52、以下スタブLA−52と略す)、及び滲出誘導剤としてオレイン酸アマイド(ダイヤミッドO)又はエチレンビスステアリン酸アマイド(スリパックスE)を用いて試作した電線について、絶縁樹脂層の組成と各種評価結果を表1及び表2に示す(実施例1〜7及び実施例8〜14)。また、滲出誘導剤又はUV吸収剤と光安定剤の少なくともどちらかを含有しない組成を用いて試作した電線について、絶縁樹脂層の組成と各種評価結果を表3に示す(比較例1〜6)。表1〜表3中における消色及び伸び量の寿命時間の目標値は、表3に示される滲出誘導剤を含まない比較例1よりも寿命が改善することを目指して、1000時間を超える時間とした。初期引張破断強度の目標値は、上記で述べた理由により、7MPa以上とした。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
表1及び表2に示す各実施例と表3に示す比較例1〜2との対比から分かるように、本発明は、UV吸収剤及び光安定剤を含む絶縁樹脂層に、さらに滲出誘導剤として脂肪族アマイド、脂肪族ビスアマイド又はそれらの化合物の組合せを添加することによって、消色及び伸び量の寿命時間を長くすることができ、耐候性の向上が確認できた。本発明は、滲出誘導剤の含有量が0.5重量部においてすでに消色及び伸び量の寿命時間の改善効果がみられており、その改善効果は滲出誘導剤の含有量が増えるとともに大きくなっている。
【0063】
一方で、実施例5、6、12、13から分かるように、初期引張破断強度は滲出誘導剤の含有量ともに低下する傾向にあり、5.0重量部を超えると強度の低下が大きくなり、実用域の範囲(7MPaを超える範囲)から外れる結果となった。電線の強度は、表1及び表2に示す絶縁樹脂においてLDPEの分子量調整や改質剤の探索、又は絶縁樹脂層の厚さや内部樹脂層の検討によって改善することも可能であるため、本発明において滲出誘導剤の含有量は特に限定されない。しかし、そのような検討を行わなくても樹脂の強度を維持しながら耐候性に優れる電線を製造するために、滲出誘導剤の含有量は5重量部以下に設定することが好ましい。また、耐候性向上の効果が明確に得られる滲出誘導剤の含有量は、実施例に示すように、0.5重量部以上であり、より好ましくは3重量部以上である。したがって、本発明において、初期特性の低下を抑えながら耐候性を大幅に向上させるという効果を最も発揮できる滲出誘導剤の含有量は、絶縁樹脂100重量部に対して好ましくは0.5重量部以上5重量部以下であり、より好ましくは3重量部以上5重量部以下の範囲である。
【0064】
表1及び表2には、光安定剤として高分子量のサイアソーブUV−3346(平均分子量1600)又は低分子量のスタブLA−52(平均分子量847)を用いたときの絶縁樹脂層の評価結果をそれぞれ示している。両者の間で、消色の寿命時間は改善効果の差異がほとんどみられないものの、伸び量については低分子量のものを用いた実施例10〜14で長寿命化の効果が小さい。これは、平均分子量が小さい光安定剤ほど絶縁樹脂層の外部への流出が速くなり、絶縁樹脂層の表面部分に留まる量が少ないために、耐候性の向上が十分に得られなかったためと考えられる。したがって、本願発明に使用する光安定剤は、高分子量、具体的には平均分子量が1500以上のヒンダードアミン系化合物であることが好ましい。なお、光安定剤を単一の分子量を有する化合物として工業的に得ることは高純度化処理等を行う必要があるため、コスト的な制限がある。本発明は光安定剤を安価な市販品から得ることを考慮して、単一の分子量の代わりに通常市販品等に記載されている平均分子量を用いる。
【0065】
表3には、滲出誘導剤を含有するものの、UV吸収剤と光安定剤を含まない絶縁樹脂層の組成と各種評価結果を合わせて示している(比較例4〜6)。比較例4〜6は、比較例3と対比すると、初期引張破断強度が低下するだけで、消色及び伸び量において長寿命化の効果は全く得られないことが分かる。このように、本発明に使用される滲出誘導剤は、UV吸収剤及び/又は光安定剤と併用することによって耐候性の向上という新しい作用と効果を奏する成分であり、従来から滑剤として利用されているものとは機能が全く異なる。
【0066】
次に、表1に示す実施例3及び表3に示す比較例1の試作電線をそれぞれ用いて、滲出誘導剤によるUV吸収剤と光安定剤の移行を確認する実験を行った。両者の試作電線を用いて、それぞれ屋外暴露状態と暗所で1年間保管した4種類の試料から、同一面積の表面に滲出した物質を採取し、熱分解GC/MS(ガスクロマトグラフ/質量分析装置、島津社製GC−17A)を用いて分析した。分析結果から、抽出されたUV吸収剤と光安定剤の量を算出し、電線ケーブル表面1cmあたりの抽出量に換算した結果を表4に示す。
【0067】
【表4】

【0068】
表4に示すように、滲出誘導剤を用いると抽出物の量が大きく増え、しかも屋外暴露品においてその量が多いことが分かった。日光によって滲出誘導剤が分解、揮散するため継続的な滲出しが続き、抽出物の量が増大したためと考えられる。このように、本発明に使用される滲出誘導剤はUV吸収剤と光安定剤の滲出しの機能を有することが確認できた。
【0069】
[実施例15〜26]
滲出誘導剤として脂肪族アマイド及び脂肪族ビスアマイドに代えて、それぞれラウリン酸及びステアリン酸モノグリセリドを用いて試作した電線について、絶縁樹脂層の組成と各種評価結果を表5及び表6に示す(実施例15〜20及び実施例21〜26)。ここで、ラウリン酸は炭素数9以上45以下の範囲内の高級脂肪酸の一例であり、ステアリン酸モノグリセリドは炭素数9以上45以下の範囲内の高級脂肪酸とアルコールから合成される脂肪酸エステルの一例である。
【0070】
【表5】

【0071】
【表6】

【0072】
表5及び表6に示されるように、滲出誘導剤としてラウリン酸又はステアリン酸モノグリセリドを使用する場合も、それらの含有量とともに消色及び伸び量の寿命時間は長くなっており、絶縁樹脂層の耐候性を向上させることができる。また、ラウリン酸とステアリン酸モノグリセリドとの間で寿命の延長効果を対比すると、ラウリン酸はステアリン酸モノグリセリドと比べて、同じ含有量において消色の寿命延長効果はやや小さいものの、伸び量については寿命時間がやや長くなった。このように、滲出誘導剤による寿命延長効果は、ラウリン酸とステアリン酸モノグリセリドの間で顕著な差異は見られていない。しかしながら、これらの滲出誘導剤を表1及び表2に示す脂肪族アマイド及び脂肪族ビスアマイドと比べると、消色及び伸び量の寿命延長効果は脂肪族アマイド及び脂肪族ビスアマイドの方が大きいことが分かる。したがって、本発明に使用する滲出誘導剤としては、脂肪族アマイド及び/又は脂肪族ビスアマイドが好適である。
【0073】
本発明によれば、滲出誘導剤をUV吸収剤や光安定剤と併用することで、UV吸収剤や光安定剤を継続的に表層部分に移行させ、長期間にわたり表層部分に高濃度で存在させることが可能になるため、耐候性が大幅に向上して絶縁樹脂層の劣化を抑制することができる。また、単純に絶縁樹脂層中のUV吸収剤及び/又は光安定剤の含有量を増やすことなく、滲出誘導剤の含有量を最適化することだけで耐候性を付与できるため、初期物性の大幅な低下を防止しつつ、強度や電気的特性に優れる電線を得ることができる。さらに、本発明の絶縁樹脂層は、通常の電線と同じ構成を用いて滲出誘導剤を添加するだけで耐候性を付与できるため、敷設時の作業性向上のために使用されるカーボン又は顔料含有の着色電線だけではなく、それ以外の用途に使用される電線に対しても適用が可能である。
【符号の説明】
【0074】
10・・・導体、20・・・光ファイバユニット、30・・・樹脂層、31・・・最外層樹脂層、32・・・中間の内部樹脂層、33・・・最内層の内部樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体又は光ファイバの外周を絶縁樹脂からなる絶縁樹脂層にて被覆してなり、該絶縁樹脂層が少なくともカーボンブラック又は顔料と、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤とを有し、さらに前記の紫外線吸収剤及び/又は光安定剤の滲出しを誘導する滲出誘導剤を含有することを特徴とする電線。
【請求項2】
前記滲出誘導剤が、脂肪酸アマイド、脂肪酸ビスアマイド、炭素数9以上45以下の範囲内の高級脂肪酸、及び炭素数9以上45以下の範囲内の高級脂肪酸とアルコールから合成される脂肪酸エステルの群から選ばれる少なくともいずれか一つであることを特徴とする請求項1に記載の電線。
【請求項3】
前記滲出誘導剤が、炭素数11以上22以下の範囲内の脂肪酸アマイド、炭素数9以上42以下の範囲内の脂肪酸ビスアマイド、又は炭素数11以上22以下の範囲内の脂肪酸アマイドと炭素数9以上42以下の範囲内の脂肪酸ビスアマイドの組合せであることを特徴とする請求項2に記載の電線。
【請求項4】
前記滲出誘導剤の含有量が、前記絶縁樹脂100重量部に対して0.5重量部以上5.0重量部以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載の電線。
【請求項5】
前記光安定剤が、平均分子量1500以上のヒンダードアミン系光安定剤であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電線。
【請求項6】
前記絶縁樹脂がポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電線。
【請求項7】
前記絶縁樹脂層が2層以上からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の電線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−204044(P2012−204044A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65549(P2011−65549)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】