説明

静電クランプ、リソグラフィ装置および静電クランプを製造する方法

【課題】静電クランプ上にクランプされる物体の位置の高い精度および経時的な安定性を与える改善された静電クランプを提供する。
【解決手段】本発明は、バールが設けられた材料層を含むリソグラフィ装置における使用のための静電クランプであって、絶縁体および/または誘電材料に囲われた電極がバール間に設けられた静電クランプおよびそのような静電クランプを製造する方法に関する。静電クランプは、リソグラフィ装置において物体を物体サポートにクランプするために使用されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用中、リソグラフィ装置において物体(例えば、ウェーハ、基板またはレチクル)を固定面で保持する静電クランプであって、クランプはバールが設けられたサポートを含み、それによってバールの頂部は物体が保持される平面を決定し、絶縁体に囲われた電極がバール間に設けられている、静電クランプに関する。
【背景技術】
【0002】
リソグラフィ装置は、所望のパターンを基板上、通常、基板のターゲット部分上に付与する機械である。リソグラフィ装置は、例えば、集積回路(IC)の製造に用いることができる。その場合、ICの個々の層上に形成される回路パターンを生成するために、パターニングデバイス、例えばマスク(レチクル)を用いることができる。このパターンは、基板(例えば、シリコンウェーハ)上のターゲット部分(例えば、ダイの一部、または1つ以上のダイを含む)に転写することができる。通常、パターンの転写は、基板上に設けられた放射感応性材料(レジスト)層上への結像によって行われる。一般には、単一の基板が、連続的にパターニングされる隣接したターゲット部分のネットワークを含んでいる。
【0003】
静電クランプは、特定の波長、例えばEUVで動作するリソグラフィ装置で使用することができる。というのは、これらの波長では、リソグラフィ装置の特定の領域は真空状態の下で動作するからである。静電クランプは、マスクまたは基板(ウェーハ)などの物体をマスクテーブルまたはウェーハテーブルなどの物体サポートのそれぞれに静電的にクランプするために設けることができる。静電クランプは、プリアライメントユニット内に物体を静電的にクランプするために用いられてもよい。
【0004】
US第4,502,094号(図2および図3)は、例えばアルミニウムから形成される熱伝導サポート3および5を含む静電チャック(クランプ)2上に配置された半導体ウェーハ1を開示する。ウェーハ1をチャック上に位置付けするために位置付けピン13aおよび13bが設けられ、それによって、ウェーハ1の平坦エッジ1aはピン13aに隣接し、丸みを帯びたエッジ1bはピン13bに隣接することができる。よって、ウェーハ1の位置を一意的に規定する。サポートは、厚さ6mmであり得る周縁部分3および厚さ約3.5mmを有するより薄い穴あき中心部分5を有する。中心部分は、直径3mmを有する断面が円形である穿孔または開口6を有する。静電チャック2は、開口6内に固定された銅の柱7の形態を有する熱伝導部も含む。長さ6mmおよび直径3mmを有する柱7は、サポートの中心部分と熱接触しており、さらに、その比較的大きいサイズにより熱シンクとして作用できる周縁部分3とも熱接触している。
【0005】
柱7は平らな端面8を有しており、当該端面8は、半導体ウェーハ1をその上で支えるとともにサポートの周縁部分3の主要面9上で支えることができるように同じ固定面にある。このようにして、ウェーハを静電チャック2に対する固定面で支持することができる。さらに、柱7は金属から形成されているため、柱7は、半導体ウェーハ1の後面(すなわち、静電チャック2に面した表面)が柱7によって電気的に接触されるように導電性(ならびに熱伝導性)である。
【0006】
チャック2は、例えばアルミニウムから形成されるグリッド電極10の形態を有する導電部材も有する。本質的には、グリッド10は、直径90mmおよび厚さ1.3mmを有する円形状である。グリッド10のメッシュは、直径5mmを有する円形開口11によって構成される。グリッド10は、柱7が開口11を通って延在するように配置されているため、柱7間に延在する部分を有するが、柱7およびグリッド10は誘電材料層12によって相互に絶縁されている。例えばエポキシ樹脂である誘電材料層12はグリッド10を囲み、それによって、グリッドを柱7から絶縁させることに加えて、グリッド10はサポートの中心部分5からも絶縁される。柱7およびサポート2の中心部分5の両方からのグリッド10の距離は、例えば1mmであり、誘電層10がこれらの様々な部材の間の空間全体を埋める。さらに、誘電層はグリッド10の上面に存在するが、層10のこの部分は約200マイクロメートルの厚さを有する。以下により詳細に説明するように、柱7は誘電層12から突出してもよく、それによって半導体ウェーハ1は層12から約10マイクロメートル離される。
【0007】
チャック2に対して半導体ウェーハ1を保持するために、ウェーハ1とグリッド電極10との間に電位差が付与される。一般的には、この電位差は4kVである。電気接触はサポート2から柱7を介してウェーハ1の後面へと行われ、例えば約4kVのバイアス電位がサポートの中心部分5および誘電層12を通って延在する電気接続4を介してグリッド10に付与される。したがって、誘電層12にわたって静電クランプ力が確立され、それによってウェーハ1はチャック2の柱7に対して固定面で保持される。クランプ力の大きさは、ウェーハ1と電極10との間の電位差の二乗に比例し、層12の誘電率に正比例し、かつウェーハ1とグリッド10との間の距離の二乗に反比例する。
【0008】
図3は、図2の半導体ウェーハおよびチャックの上からとった平面図であり、半導体ウェーハは部分的に切り取られている。図2は、図3のI−I’線に沿った断面図を示している。図3に示すように、チャック2は柱7の対称分布を有する。ウェーハをチャックに対して均一に保持するためには、ウェーハの局所的湾曲を回避するために柱7が比較的狭い間隔で配置されることが好ましい。これは、ウェーハ1に亘った温度変動を回避する必要性とも一貫している。柱7の数が多いほど、かつその間の空間が狭いほど、ウェーハからサポートの厚い周縁熱シンク3への熱伝達がより効率的になり得る。しかしながら、柱の数について言えば、柱7の数が増えるにつれて静電引力による接触圧は減少するため、妥協点が見出さなければならない。しかしながら、柱7は誘電層12から突出するため、ウェーハ1は柱7の端面8および主要面9の内側周縁部にのみチャック2に接触する。接触領域をこのように限定することにより、接触圧(すなわち、単位面積当たりの力)は最大化される。これは、ウェーハ1と柱7との間の熱伝達の効率は接触圧に依存するため、有益である。
【0009】
静電クランプ上にクランプされる物体は、非常に高い精度により静電クランプ上に位置付けされる必要があり、静電クランプ上の物体の位置は経時的に安定する必要がある。
【発明の概要】
【0010】
例えば、物体の位置の高い精度および安定性を与える改善された静電クランプを提供することが有利である。
【0011】
本発明の一態様によると、使用中、リソグラフィ装置において物体を固定面で保持する静電クランプであって、クランプはバールが設けられたサポートを含み、それによってバールの頂部は物体が保持される平面を決定し、絶縁体に囲われた電極がバール間に設けられており、サポートは低膨張材料から形成されている、静電クランプが提供される。
【0012】
本発明の更なる態様によると、リソグラフィ装置において物体を物体サポートに静電的にクランプするように構成された静電クランプを製造する方法であって、材料層にバールを設けることと、絶縁体および/または誘電材料に囲われた電極をバール間に配置することとを含む、方法が提供される。
【0013】
本発明の更なる態様によると、放射ビームのビームパス内の物体を支持するように構成された物体サポートと、物体を物体サポートに対して静電的にクランプするように構成された静電クランプとを含むリソグラフィ装置であって、クランプはバールが設けられたサポートを含み、それによってバールの頂部は物体が保持される平面を決定し、絶縁体に囲われた電極がバール間に設けられており、サポートは低膨張材料から形成されている、リソグラフィ装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明のいくつかの実施形態を、単なる例として、添付の概略図を参照して以下に説明する。これらの図面において同じ参照符号は対応する部分を示す。
【図1】図1は、本発明の一実施形態を使用することができるリソグラフィ装置を示す。
【図2】図2は、図3のI−I’線をとった、従来技術による静電チャック上に配置された半導体ウェーハの断面図である。
【図3】図3は、図2の半導体ウェーハおよびチャックの上からとった平面図であり、半導体ウェーハは部分的に切り取られている。
【図4】図4は、本発明の一実施形態による静電クランプの最上層の部分断面図を示す。
【図5】図5は、本発明の更なる実施形態による静電クランプの最上層の部分断面図を示す。
【図6】図6は、更なる実施形態による静電クランプの上面図を開示する。
【図7】図7は、図6の静電クランプの断面図を開示する。
【図8】図8は、静電クランプの更なる実施形態の上面図を開示する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の一実施形態によるリソグラフィ装置を概略的に示している。このリソグラフィ装置は、放射ビームB(例えば、紫外線またはEUV放射)を調整するように構成された照明システム(イルミネータ)ILと、パターニングデバイス(例えば、マスク)MAを支持するように構成され、かつ特定のパラメータに従ってパターニングデバイスを正確に位置決めするように構成された第一ポジショナPMに接続されたサポート構造(例えば、マスクテーブル)MTと、基板(例えば、レジストコートウェーハ)Wを保持するように構成され、かつ特定のパラメータに従って基板を正確に位置決めするように構成された第二ポジショナPWに接続された基板テーブル(例えば、ウェーハテーブル)WTと、パターニングデバイスMAによって放射ビームBに付けられたパターンを基板Wのターゲット部分C(例えば、1つ以上のダイを含む)上に投影するように構成された投影システム(例えば、屈折投影レンズシステム)PSとを含む。
【0016】
照明システムとしては、放射を誘導し、整形し、または制御するために、屈折型、反射型、磁気型、電磁型、静電型、またはその他のタイプの光コンポーネント、あるいはそれらのあらゆる組合せなどのさまざまなタイプの光コンポーネントを含むことができる。
【0017】
サポート構造は、パターニングデバイスの重量を支えるなどしてパターニングデバイスを支持する。サポート構造は、パターニングデバイスの配向、リソグラフィ装置の設計、および、パターニングデバイスが真空環境内で保持されているか否かなどの他の条件に応じた態様で、パターニングデバイスを保持する。サポート構造は、機械式、真空式、静電式またはその他のクランプ技術を使って、パターニングデバイスを保持することができる。サポート構造は、例えば、必要に応じて固定または可動式にすることができるフレームまたはテーブルであってもよい。サポート構造は、パターニングデバイスを、例えば、投影システムに対して所望の位置に確実に置くことができる。本明細書において使用される「レチクル」または「マスク」という用語はすべて、より一般的な「パターニングデバイス」という用語と同義であると考えるとよい。
【0018】
本明細書において使用される「パターニングデバイス」という用語は、基板のターゲット部分内にパターンを作り出すように、放射ビームの断面にパターンを与えるために使用できるあらゆるデバイスを指していると、広く解釈されるべきである。なお、留意すべき点として、放射ビームに付与されたパターンは、例えば、そのパターンが位相シフトフィーチャまたはいわゆるアシストフィーチャを含む場合、基板のターゲット部分内の所望のパターンに正確に一致しない場合もある。通常、放射ビームに付けたパターンは、集積回路などのターゲット部分内に作り出されるデバイス内の特定機能層に対応することになる。
【0019】
パターニングデバイスは、透過型であっても、反射型であってもよい。パターニングデバイスの例としては、マスク、プログラマブルミラーアレイ、およびプログラマブルLCDパネルが含まれる。マスクは、リソグラフィでは公知であり、バイナリ、レベンソン型(alternating)位相シフト、およびハーフトーン型(attenuated)位相シフトなどのマスク型、ならびに種々のハイブリッドマスク型を含む。プログラマブルミラーアレイの一例では、小型ミラーのマトリックス配列が用いられており、各小型ミラーは、入射する放射ビームを様々な方向に反射させるように、個別に傾斜させることができる。傾斜されたミラーは、ミラーマトリックスによって反射される放射ビームにパターンを付ける。
【0020】
本明細書において使用される「投影システム」という用語は、使われている露光放射にとって、あるいは液浸液の使用または真空の使用といった他の要因にとって適切な、屈折型、反射型、反射屈折型、磁気型、電磁型、および静電型光学系、またはそれらのあらゆる組合せを含むあらゆる型の投影システムを包含していると広く解釈されるべきである。本明細書において使用される「投影レンズ」という用語はすべて、より一般的な「投影システム」という用語と同義であると考えるとよい。
【0021】
サポート構造および基板テーブルは、以下、物品サポートと呼んでもよい。物品は、レチクルなどのパターニングデバイスおよびウェーハなどの基板を含むが、それらに限定されない。
【0022】
本明細書に示されているとおり、装置は、反射型のもの(例えば、反射型マスクを採用しているもの)である。また、装置は、透過型のもの(例えば、透過型マスクを採用しているもの)であってもよい。
【0023】
リソグラフィ装置は、2つ(デュアルステージ)以上の基板テーブル(および/または2つ以上のマスクテーブル)を有する型のものであってもよい。そのような「マルチステージ」機械においては、追加のテーブルを並行して使うことができ、または予備工程を1つ以上のテーブル上で実行しつつ、別の1つ以上のテーブルを露光用に使うこともできる。
【0024】
また、リソグラフィ装置は、投影システムと基板との間の空間を満たすように、比較的高屈折率を有する液体、例えば水、によって基板の少なくとも一部を覆うことができるタイプのものであってもよい。また、リソグラフィ装置内の別の空間、例えば、マスクと投影システムとの間に液浸液を加えてもよい。液浸技術は、投影システムの開口数を増加させるための技術においてよく知られている。本明細書において使用される「液浸」という用語は、基板のような構造物を液体内に沈めなければならないという意味ではなく、単に、露光中、投影システムと基板との間に液体があるということを意味するものである。
【0025】
図1を参照すると、イルミネータILは、放射源SOから放射ビームを受ける。例えば、放射源がエキシマレーザである場合、放射源とリソグラフィ装置は、別個の構成要素であってもよい。そのような場合には、放射源は、リソグラフィ装置の一部を形成しているとはみなされず、また放射ビームは、放射源SOからイルミネータILへ、例えば、適切な誘導ミラーおよび/またはビームエキスパンダを含むビームデリバリシステムを使って送られる。その他の場合においては、例えば、放射源が水銀ランプである場合、放射源は、リソグラフィ装置の一体部分とすることもできる。放射源SOおよびイルミネータILは、必要ならばビームデリバリシステムとともに、放射システムと呼んでもよい。
【0026】
イルミネータILは、放射ビームの角強度分布を調節するアジャスタを含んでもよい。一般に、イルミネータの瞳面内の強度分布の少なくとも外側および/または内側半径範囲(通常、それぞれσ-outerおよびσ-innerと呼ばれる)を調節することができる。さらに、イルミネータILは、インテグレータおよびコンデンサといったさまざまな他のコンポーネントを含んでもよい。イルミネータは、放射ビームの断面に所望の均一性および強度分布をもたせるように、放射ビームを調整するために使用することができる。
【0027】
放射ビームBは、サポート構造(例えば、マスクテーブルMT)上に保持されているパターニングデバイス(例えば、マスクMA)上に入射して、パターニングデバイスによってパターン形成される。マスクMAを通り抜けた後、放射ビームBは投影システムPSを通過し、投影システムPSは、基板Wのターゲット部分C上にビームの焦点をあわせる。第2ポジショナPWおよび位置センサIF2(例えば、干渉計デバイス、リニアエンコーダ、または静電容量センサ)を使って、例えば、様々なターゲット部分Cを放射ビームBの経路内に位置付けるように、基板テーブルWTを正確に動かすことができる。同様に、第1ポジショナPMおよび別の位置センサIF1を使い、例えば、マスクライブラリからマスクを機械的に取り出した後またはスキャン中に、マスクMAを放射ビームBの経路に対して正確に位置付けることもできる。通常、マスクテーブルMTの移動は、第1ポジショナPMの一部を形成するロングストロークモジュール(粗動位置決め)およびショートストロークモジュール(微動位置決め)を使って達成することができる。同様に、基板テーブルWTの移動も、第2ポジショナPWの一部を形成するロングストロークモジュールおよびショートストロークモジュールを使って達成することができる。ステッパの場合は(スキャナとは対照的に)、マスクテーブルMTは、ショートストロークアクチュエータのみに連結されてもよく、または固定されてもよい。マスクMAおよび基板Wは、マスクアライメントマークM1およびM2と、基板アライメントマークP1およびP2とを使って、位置合わせされてもよい。例示では基板アライメントマークが専用ターゲット部分を占めているが、基板アライメントマークをターゲット部分とターゲット部分との間の空間内に置くこともできる(これらは、スクライブラインアライメントマークとして公知である)。同様に、1つより多いダイがマスクMA上に設けられている場合、マスクアライメントマークは、ダイとダイの間に置かれてもよい。
【0028】
例示の装置は、以下のモードのうち少なくとも1つのモードで使用できる。
1.ステップモードでは、マスクテーブルMTおよび基板テーブルWTを基本的に静止状態に保ちつつ、放射ビームに付けられたパターン全体を一度にターゲット部分C上に投影する(すなわち、単一静的露光)。その後、基板テーブルWTは、Xおよび/またはY方向に移動され、それによって別のターゲット部分Cを露光することができる。ステップモードにおいては、露光フィールドの最大サイズによって、単一静的露光時に結像されるターゲット部分Cのサイズが限定される。
2.スキャンモードでは、マスクテーブルMTおよび基板テーブルWTを同期的にスキャンする一方で、放射ビームに付けられたパターンをターゲット部分C上に投影する(すなわち、単一動的露光)。マスクテーブルMTに対する基板テーブルWTの速度および方向は、投影システムPSの(縮小)拡大率および像反転特性によって決めることができる。スキャンモードにおいては、露光フィールドの最大サイズよって、単一動的露光時のターゲット部分の幅(非スキャン方向)が限定される一方、スキャン動作の長さによって、ターゲット部分の高さ(スキャン方向)が決まる。
3.別のモードでは、プログラマブルパターニングデバイスを保持した状態で、マスクテーブルMTを基本的に静止状態に保ち、また基板テーブルWTを動かす、またはスキャンする一方で、放射ビームに付けられているパターンをターゲット部分C上に投影する。このモードにおいては、通常、パルス放射源が採用されており、さらにプログラマブルパターニングデバイスは、基板テーブルWTの移動後ごとに、またはスキャン中の連続する放射パルスと放射パルスとの間に、必要に応じて更新される。この動作モードは、前述の型のプログラマブルミラーアレイといったプログラマブルパターニングデバイスを利用するマスクレスリソグラフィに容易に適用することができる。
【0029】
図4は、本発明の一実施形態による静電クランプの部分断面図である。図4に示す実施形態では、使用中、物体を固定面24で保持する静電クランプ20は、バール21が設けられたサポート25を含んでおり、それによってバールの頂部は物体が保持される平面24を決定し、誘電体23によって囲まれる電極22はバール21間に設けられる。誘電体23は絶縁体としても機能する。電極22とバール21の頂部との距離は、5〜1000μmであってよく、好ましくは50〜1000μmであってもよい。設計例では、電極とバールの頂部との距離と同等である物体と電極との距離は、5〜10μmのギャップおよび100μmの誘電体を含む。図4では2つのバール21のみしか示していないが、一般的には、複数のバールが使用されてもよく、かつ電極22および誘電材料23がそれらのバール21のそれぞれの間に配置されてもよいことが理解されたい。有利には、バール21が設けられたサポート25は、1つの材料から形成されてもよく、それによってサポート25上のバール21の位置は非常に安定性があり固定される。これは、平面24内で物体を適当な位置上で安定して保持することに役立つ。安定性を改善するために、サポート25は、バール21の高さより10〜200倍厚くてもよい。例えば、サポートの厚さは40mmであり、バールの高さは30μmであってもよい。
【0030】
バール21の頂部は、物体が保持される平面24を決定する。バール21の頂部は、物体と接触していてもよく、この接触はバール21の材料が耐摩耗性であることを必要とし得る。というのは、物体がバール21上にクランプされる度に力がバール21上に与えられ、これはバール21の磨耗をもたらし得るからである。磨耗は、クランプ20のバール21を粘着作用に対してより敏感にし得る。一般的には、粘着作用は、物体の底部と支持バール21の頂部との間の粘着力、ならびに残りの静電気によって生成される静電力に起因する。粘着力は、材料不純物および接触面の粗さによる欠陥によって生成され得る。物体がバール21の上を滑る場合があり、それによってバール21上の磨耗および粗さによる欠陥をもたらす。磨耗の別の原因は、汚染物質がバール21に付着した場合に必要とされるバール21の洗浄であり得る。
【0031】
静電クランプ20上にクランプされる物体は、非常に高い精度で位置付けされる必要があり、静電クランプ20上の物体の位置は、経時的に安定する必要がある。バール21およびサポート25のそれぞれに銅およびアルミニウムが使用された場合、金属の熱膨張(16.5m/m.K×10−6および22.5m/m.K×10−6のそれぞれ)が高いため、十分に高い精度によって位置を保証することができない。クランプ20の温度が変化する場合、高い熱膨張は、バール21の平面24における非平坦性および移動へのリスクを与え得る。クランプ20で用いられる異なる材料における膨張係数の違いは、材料間の張力(tension)およびクランプ20の非平坦性という結果になり得る。別のリスクとしては、バール21とサポート25との間の接続が弱すぎる場合があり、これは、例えば電極22または誘電体23によって生じたあらゆる張力がクランプの非平坦性および/または平面24におけるバール21の移動という結果になり得ることである。したがって、サポート25およびバール21を1つの材料から形成することが有利であり得る。1つの物から形成された場合、2つの間の接続を改善された剛性で形成することができる。これは、クランプ20内のあらゆる張力を解消する。バール21が設けられたサポート25の材料は、10m/m.K×10−6より少ない熱膨張を有することが好ましい。材料としては、例えば、SiC(例えば4m/m.K×10−6の熱膨張を有する京セラ(登録商標)によって製造される炭化ケイ素)、SiSiC(4m/m.K×10−6の熱膨張を有するSaint Gobain社(登録商標)によって製造されるシリコン処理された炭化ケイ素)またはSi(3.3m/m.K×10−6の熱膨張を有する窒化ケイ素)が挙げられる。静電クランプ2上にクランプされる必要があり得る基板およびレチクルなどの物体は、シリコンおよび石英のそれぞれから形成されてもよい。シリコンは2〜3m/m.K×10−6の熱膨張を有し、石英は、その製造プロセスによって、0.05〜9m/m.K×10−6の熱膨張を有する。クランプ20の熱膨張は、物体と静電クランプ20との間の張力を最小限にするために、クランプ20上にクランプされる物体の熱膨張と近くなるように選択されてもよい。これは、クランプ20上の物体のより良い平坦さおよびクランプ2上の物体の位置のより良い安定性という結果となる。開示されている熱膨張係数は、室温298Kにおいて20〜200Kの温度範囲にわたる係数であり、熱膨張係数はこれ以下でもよい。
【0032】
上記の材料は銅よりさらに硬い。SiCおよびSiSiCの(ヌープ(Knoop)100g)硬度は、9〜10のモーズ(Moh’s)硬度に対応する2800Kg/mmであり、Siは9のモーズ硬度に対応する2200Kg/mmの(ヌープ100g)硬度を有する。上記の段落で説明したように、バール21の磨耗および粘着力を回避するために硬度は重要である。銅は約3〜5のモーズ硬度を有しており、これは、上記の炭化ケイ素および窒化ケイ素よりかなり柔らかいことを意味する。静電クランプ2上にクランプされる必要があり得る基板およびレチクルは、それぞれシリコンおよび石英から形成されてもよい。シリコンは6〜7の間のモーズ硬度を有しており、石英は7のモーズ硬度を有している。これは、バール21に対して銅が使用された場合にバールは磨耗するということになる。バール21が磨耗した場合、平面24の位置が異なる場合があり、バール21は粘着力に対して敏感になる。
【0033】
SiCの熱伝導性は120W/m.Kであり、窒化ケイ素の熱伝導性は30W/m.Kである。これらの熱伝導性は、394W/m.Kの熱伝導性である銅またはアルミニウムに対しては237W/m.Kである熱伝導性より低いが、ほとんどの適用において、温度制御システムへの十分な熱伝達を得るためには十分である。温度制御システムは、クランプ2の温度を制御するために静電クランプ20のサポート25内の水管27を用いることができる。
【0034】
図5は、本発明の更なる実施形態による静電クランプの最上層の部分断面図を示す。図4に示す実施形態では、電極32は絶縁体および/または誘電材料35および33によって囲まれており、バール31間に設けられる。図5の実施形態では、絶縁材料33は電極の下に設けられ、誘電材料35は電極32の上に設けられる。誘電材料35および23としては、例えば、Para Tech Coating社によるParylene(登録商標)、Du Pont社(登録商標)によるKapton(登録商標)およびMylar(登録商標)の双方、あるいは液晶ポリマー(LCP)などといったプラスチックが挙げられ、これは絶縁体としても作用する。Schott(登録商標)封着ガラス、Schott(登録商標)AF32または37あるいはSchott Borofloat(BF)(登録商標)33などといった石英も誘電絶縁体として使用されてもよい。ガラスをバール間に溶け込ませてもよい。ガラスは、高容量の抵抗率および十分な誘電力といった利点を有する。絶縁体および/または誘電体として使用され得る他の材料としては、窒化ホウ素(borium-nitride)が挙げられる。
【0035】
図6は、更なる実施形態による静電クランプの上面図を開示する。静電クランプ41には、物体、例えば基板(図1のW)とサポート、例えば基板テーブル(図1のWT)との間にバックフィル(backfill)ガスを供給するためにバックフィルガスシステムが設けられている。バックフィルガスは、真空環境における、基板Wと水制御温度安定ユニット61との間の熱伝導性を改善するために使用され、この水制御温度安定ユニット61は、基板WTの一部であってその上で基板がクランプされる。真空内の熱伝導性は非常に低く、従って基板が暖かくなるというリスクがある。これは、基板の熱膨張を引き起こし、基板の露光における困難を加える。バックフィルガスは、温度安定ユニット61の底における供給チャネル49へとバックフィルガス弁43を介して接続されているバックフィル供給システム55から供給される。バックフィルガスは、12個の供給孔47および2つの円形の溝53(ここでは、外側の円形の溝は円形の溝の一部しか示していないが、実際には溝53は完全な円である)を介して入り、これにより、バックフィルガスは基板と温度安定ユニットとの間の空間を埋める。基板Wを取り替える必要がある場合、バックフィルガス弁43は閉じられて真空供給ライン57を供給チャネル49と接続する真空弁45は開けられ、それによって基板Wと温度制御ユニットとの間の空間は供給孔47および溝53を介して真空状態にするために吸われる。真空チャンバ内の真空と同様に基板と温度制御ユニットとの間に真空が達成された場合、基板を取り外すことができる。基板Wが取り替えられると、真空弁45は閉じられてバックフィルガス弁43は開けられ、それによってバックフィルガスを基板と温度制御ユニットとの間の空間に供給する。上記のバックフィル供給システムは、バックフィルガスがオフされて真空が適用された場合、またその逆であった場合、速い応答時間を保証する。
【0036】
図7は、真空壁66(壁は部分的にしか示されていないが、壁は静電クランプを完全に囲うということが理解されたい)を有する真空チャンバ内に配置された図6の静電クランプの断面図を開示する。バックフィルガスは、バックフィルガス弁43、供給ライン65、供給チャネル49、供給孔47および溝53を介して、基板Wと温度安定ユニット61との間の空間67に供給される。基板Wを温度安定ユニットと一定の距離を保つためには、突出部69が温度安定ユニット61に設けられる。制御された温度で水を温度安定ユニット61に提供するために、水管63が温度安定ユニット61に設けられる。静電クランプには、真空弁45を介して真空チャンバを供給ライン65に接続する真空供給ライン57がさらに設けられている。バックフィルガスシステムに短い応答時間を与えるために、溝53は1mmの流面を有し、供給孔47は1.5mmの直径を有する円形であり、供給チャネル49は9mmの流面を有し、かつ供給ライン65は直径6mmを有する円形であってもよい。チャネル49、供給ライン57および65は、速い応答時間を保証するために、例えば50cm未満といったように好都合に短く保たれるべきである。本発明による図6および図7の静電クランプは、バールが設けられたサポートおよびバール間に設けられた絶縁体に囲われた電極を含んでおり、サポートは低膨張材料から形成されてもよい。あるいは、図6および図7の静電クランプは、クランプを生成するための従来技術から形成されてもよい。
【0037】
更なる実施形態によると、静電クランプには、電極制御85に接続された外側電極81(図8参照)および内側電極83が設けられてもよい。基板Wを取り替える必要がある場合、外側電極81は制御85によって非活動化され、それによって物体(基板)は少し歪み、バックフィルガスは基板と外側電極81との間を抜けて基板およびクランプを囲む真空空間へと逃げ得る。基板と温度制御ユニットとの間の空間が真空圧であった場合、内側電極は非活動化されて基板は完全に取り外される。基板とクランプとの間の空間を真空するための応答時間は、外側および内側電極を用いてこの方法によって短縮することができる。本発明による図8の電極は、バールが設けられたサポートおよびバール間に設けられた絶縁体に囲われた電極を含んでおり、サポートは低膨張材料から形成されてもよい。あるいは、図8の静電クランプは、従来技術によって形成されてもよい。
【0038】
本明細書において、IC製造におけるリソグラフィ装置の使用について具体的な言及がなされているが、本明細書記載のリソグラフィ装置が、集積光学システム、磁気ドメインメモリ用のガイダンスパターンおよび検出パターン、フラットパネルディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD)、薄膜磁気ヘッド等の製造といった他の用途を有し得ることが理解されるべきである。当業者にとっては当然のことであるが、そのような別の用途においては、本明細書で使用される「ウェーハ」または「ダイ」という用語はすべて、それぞれより一般的な「基板」または「ターゲット部分」という用語と同義であるとみなしてよい。本明細書に記載した基板は、露光の前後を問わず、例えば、トラック(通常、基板にレジスト層を塗布し、かつ露光されたレジストを現像するツール)、メトロロジーツール、および/またはインスペクションツールで処理されてもよい。適用可能な場合には、本明細書中の開示内容を上記のような基板プロセシングツールおよびその他の基板プロセシングツールに適用してもよい。さらに基板は、例えば、多層ICを作るために複数回処理されてもよいので、本明細書で使用される基板という用語は、すでに多重処理層を包含している基板を表すものとしてもよい。
【0039】
光リソグラフィの関連での本発明の実施形態の使用について上述のとおり具体的な言及がなされたが、当然のことながら、本発明は、他の用途、例えば、インプリントリソグラフィに使われてもよく、さらに状況が許すのであれば、光リソグラフィに限定されることはない。インプリントリソグラフィにおいては、パターニングデバイス内のトポグラフィによって、基板上に創出されるパターンが定義される。パターニングデバイスのトポグラフィは、基板に供給されたレジスト層の中にプレス加工され、基板上では、電磁放射、熱、圧力、またはそれらの組合せによってレジストは硬化される。パターニングデバイスは、レジストが硬化した後、レジスト内にパターンを残してレジストの外へ移動される。
【0040】
本明細書で使用される「放射」および「ビーム」という用語は、紫外線(UV)(例えば、365nm、355nm、248nm、193nm、157nm、または126nmの波長、またはおよそこれらの値の波長を有する)、および極端紫外線(EUV)(例えば、5〜20nmの範囲の波長を有する)、ならびにイオンビームや電子ビームなどの微粒子ビームを含むあらゆる種類の電磁放射を包含している。
【0041】
「レンズ」という用語は、文脈によっては、屈折、反射、磁気、電磁気、および静電型光コンポーネントを含む様々な種類の光コンポーネントのいずれか1つまたはこれらの組合せを指すことができる。
【0042】
上記の説明は、制限ではなく例示を意図したものである。したがって、当業者には明らかなように、添付の特許請求の範囲を逸脱することなく本記載の発明に変更を加えてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用中、リソグラフィ装置において物体を固定面で保持する静電クランプであって、
前記クランプはバールが設けられたサポートを含み、それによって前記バールの頂部は前記物体が保持される平面を決定し、絶縁体に囲われた電極が前記バール間に設けられており、前記サポートは低膨張材料から形成されている、
静電クランプ。
【請求項2】
前記サポートは、10m/m.K×10−6より少ない膨張係数を有する材料から形成されている、
請求項1に記載の静電クランプ。
【請求項3】
前記サポートは、4m/m.K×10−6より少ない膨張係数を有する材料から形成されている、
請求項1または2に記載の静電クランプ。
【請求項4】
前記バールが設けられた前記サポートは、1個の低膨張材料から形成されている、
請求項1〜3のいずれかに記載の静電クランプ。
【請求項5】
前記静電クランプには、温度制御システムが設けられている、
請求項1〜4のいずれかに記載の静電クランプ。
【請求項6】
前記温度制御システムは水管を含む、
請求項5に記載の静電クランプ。
【請求項7】
前記バールが設けられた前記サポートは、非金属から形成されている、
請求項1〜6のいずれかに記載の静電クランプ。
【請求項8】
前記絶縁体は誘電材料である、
請求項1〜7のいずれかに記載の静電クランプ。
【請求項9】
前記誘電材料はParylene(登録商標)である、
請求項8に記載の静電クランプ。
【請求項10】
前記誘電材料はKapton(登録商標)である、
請求項8に記載の静電クランプ。
【請求項11】
前記誘電材料はMylar(登録商標)である、
請求項8に記載の静電クランプ。
【請求項12】
前記誘電材料は石英である、
請求項8に記載の静電クランプ。
【請求項13】
前記誘電材料は液晶ポリマーである、
請求項8に記載の静電クランプ。
【請求項14】
前記誘電材料は窒化ホウ素(borium nitride)である、
請求項8に記載の静電クランプ。
【請求項15】
前記静電クランプには、前記物体と前記サポートとの間にバックフィルガスを供給するためにバックフィルガスシステムが設けられている、
請求項1〜14のいずれかに記載の静電クランプ。
【請求項16】
前記クランプには電極制御に接続された内側電極および外側電極が設けられており、
前記電極制御は、前記物体の取り外し中に前記内側電極より前に前記外側電極を非活動化させ、それによってバックフィルガスが前記物体の取り外しの前に逃げることができるように構成されている、
請求項1〜15のいずれかに記載の静電クランプ。
【請求項17】
リソグラフィ装置において物体を物体サポートに静電的にクランプするように構成された静電クランプを製造する方法であって、
材料層にバールを設けることと、
絶縁体および/または誘電材料に囲われた電極を前記バール間に配置することと、
を含む方法。
【請求項18】
前記製造方法は、前記絶縁体および/または誘電材料を提供するためにスパッタリング法、化学蒸着法、またはそれらの組み合わせを用いることを含む、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
放射ビームのビームパス内の物体を支持するように構成された物体サポートと、前記物体を前記物体サポートに対して静電的にクランプするように構成された静電クランプとを含むリソグラフィ装置であって、
前記クランプはバールが設けられたサポートを含み、それによって前記バールの頂部は前記物体が保持される平面を決定し、絶縁体に囲われた電極が前記バール間に設けられており、前記サポートは低膨張材料から形成されている、
リソグラフィ装置。
【請求項20】
放射ビームのビームパス内の物体を支持するように構成された物体サポートと、
前記物体を前記物体サポートに対してクランプするように構成された請求項1〜16のいずれかに記載の静電クランプと、
を含むリソグラフィ装置。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−541196(P2010−541196A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525264(P2010−525264)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【国際出願番号】PCT/EP2008/007916
【国際公開番号】WO2009/036995
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(504151804)エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ. (1,856)
【Fターム(参考)】