説明

非接触吸着装置

【課題】 リング状をなすワークを確実に吸着保持できるだけでなく、吸着不良の防止や厚さの薄いワークの変形、破損防止も同時にできる非接触吸着装置を得る。
【解決手段】 チャック本体2の吸着側平面2bに多孔質体8を設け、その周囲に負圧室22への導入口21を周囲全体にわたり設けた。そして、多孔質体8のエア噴出面8bから圧縮エアを噴出させて半導体チップの被吸着面に浮上力を作用させる。それと同時に、導入口21周辺のエアを吸引して、その吸引力をチップの外周部側に作用させる。吸引力をチップの外周部側で作用させれば、その外周部側が被吸引部分となり、チップを確実に吸着保持できる。また、導入口21がエア噴出面8bの周囲全体にわたって配置されているため、吸引力が一箇所に集中せず、吸着不良の防止や厚さの薄いチップの変形、破損防止も図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを非接触状態で吸着する非接触吸着装置に関するものであり、具体的には半導体チップ等の微小なワークの実装、搬送に用いるのに好適な非接触吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップや小型レンズなどの部品(ワーク)を処理・搬送するため、吸引によりそれらワークを吸着保持する吸着装置が利用されている。そして、その吸着装置の中には、ワークの表面が傷つくのを避けるため、吸着装置の吸着面にワークの表面が直に接触した状態で吸着させるのではなく、非接触状態で吸着させる非接触吸着装置がある。例えば、特許文献1に示す非接触吸着装置31は次のように構成されている。すなわち、図4に示すように、チャック本体32にはそのワーク吸着側に略円錐状の空間をなす凹面33が形成され、その凹面33には円錐の頂点部分(凹面33の中央部)で吸引通路34が開口している。このため、吸引通路34内を負圧とすることで、その吸引通路34につながる前記略円錐状の空間も負圧となる。これにより、ワーク35は非接触吸着装置31の前記空間内で吸着されることになる。そして、前記空間は凹面33により略円錐状の空間をなすように形成されているため、縦断面が矩形状をなすワーク35は表面の四つ角のみが凹面33に当接し、傷を嫌う平面部分は非接触状態となる。なお、図4はワーク35の対角線に沿った断面を示す断面図である。
【0003】
このように、特許文献1の非接触吸着装置31ではワークの非接触吸着が可能となるが、次のような問題もあった。すなわち、近年では、リング状をなし中央部に穴が開いたワークを非接触状態で吸着させることが要請されるようになった。ところが、前述した従来の吸着装置31では、凹面33の中央部で吸引通路34が開口しているため、その中央部において最も吸引力が高くなっている。そうすると、吸引通路34の開口よりも大きな穴をもつリング状のワークを吸着しようとする場合、最も強い吸引力が作用する部分に穴が開いていて被吸引部分が存在しないため、ワークに吸引力が充分に作用せず、吸着が困難になるという問題がある。
【0004】
また、それ以外にも、特許文献1の吸着装置31には次のような問題がある。すなわち、ワークを吸着する箇所の中央という一箇所に吸引力が集中するため、ワーク表面での吸引力の作用点がワーク表面の中央からずれると、吸引力の作用に偏りが生じる。これにより、ワークは載置台に置かれた水平状態が保持されて吸着されるのではなく、縦向きで吸着されたり(図3のワーク36を参照)、傾いた状態で吸着されたりするなど、吸着不良を起こしてしまう。
【0005】
さらに、吸引力が一箇所に集中することによって、厚さの薄いワークは、その集中箇所で変形や破損してしまうという問題もある。
【特許文献1】特開2000−77436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、リング状をなすワークを確実に吸着保持できるだけでなく、吸着不良の防止や厚さの薄いワークの変形、破損防止も同時にできる非接触吸着装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、必要に応じて作用、効果、より踏み込んだ具体的手段等を示しつつ説明する。なお以下では、理解を容易にするため、発明の実施の形態において対応する構成を括弧書き等で適宜示すが、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。
【0008】
手段1.本体(チャック本体2)のワーク吸着側に、気体噴出部(エア噴出面8b)と、同気体噴出部の周囲に複数箇所又は周囲全体にわたって配置される吸引部(導入口21)とを設け、吸引部周辺の気体を吸引する際に生じる吸引力と、気体噴出部から加圧気体が噴出する際に生じる浮上力とを同時にワーク(半導体チップW)に作用させ、気体噴出部に対して非接触の状態でワークを吸着保持するように構成したことを特徴とする非接触吸着装置(非接触チャック)。
【0009】
手段1によれば、ワークは吸引部周辺の気体を吸引する際に生じる吸引力と、気体噴出部から加圧気体が噴出する際に生じる浮上力を同時に受けて、気体噴出部に対して非接触の状態で吸着保持される。このとき、浮上力は気体噴出部と対峙するワークの被吸着面に作用する。そして、吸引部が気体噴出部の周囲に複数箇所又は周囲全体にわたって配置されているため、吸引力はワークの外周部側で作用する。このため、リング状をなし中央部に穴が開いたワークであっても、そのワークの外周部側に吸引力が作用する以上、その吸引力を確実に作用させてワークを吸着保持することができる。なお、リング状をなさないワークも同様に非接触状態で吸着できる。
【0010】
また、その吸引力は一箇所に集中して作用するのではなく、ワークの外周部の数箇所又は全体にわたって作用する。すなわち、ワークに作用する吸引力はワークの外周部で分散されている。これにより、ワークが吸引力の集中箇所に向けて縦向きで吸着されたり、傾いた状態で吸着されたりするなどの吸着不良を防止できる。さらに、この吸引力の分散により、厚さの薄いワークであっても変形や破損することを防止できる。
【0011】
なお、吸引部を複数箇所設けた場合には、各吸引部は均等に配置して設けることが好ましい。ワークの外周部側に対して均等に吸引力を作用させることができるからである。このように均等に吸引力を作用させるという観点からは、吸引部を気体噴出部の周囲全体にわたって設けることがより好ましい。
【0012】
手段2.前記本体のワーク吸着側には、ワークを吸着したときにそのワークの側面と対峙する壁面(吸着穴20を形成する内面)を設け、その壁面を、同壁面にワークの側面が当接した状態でも、ワークに吸引力と浮上力が作用する位置に配置したことを特徴とする手段1に記載の非接触吸着装置。
【0013】
手段2によれば、ワークが吸着された状態で吸着装置が傾くなどしてワークが横ずれを起こしても、そのワークの側面が本体に設けられた壁面に当接することになる。そして、その当接状態でもワークには吸引力と浮上力とが作用していることから、非接触での吸着保持状態は維持される。これにより、ワークが横ずれするような状況になっても、ワークが吸着装置からずり落ちることを防止できる。
【0014】
なお、壁面はワーク側面の複数箇所で対峙する構成、又はワーク側面全体と対峙する構成が好ましく、その中でも後者の構成がより好ましい。ワークのずり落ちを防止できる方向が特定されないからである。
【0015】
手段3.前記気体噴出部の先方にワークを吸着保持する吸着空間(吸着穴20、筒体26内)を区画して設け、前記吸引部により吸着空間内の気体を吸引するように構成したことを特徴とする手段1又は2に記載の非接触吸着装置。
【0016】
手段3によれば、気体噴出部の先方に広がる領域の一部が、吸着空間として区画されることになる。そして、この吸着空間内の気体が吸引部により吸引されるため、その空間内の負圧度は、吸着空間を区画することなく吸引部の周辺が完全に開放された場合に比べて高まる。これにより。ワークの吸引効果が高められる。
【0017】
なお、ワークの側面と対峙する前記壁面により吸着空間を区画する構成が好ましい。この場合、前記壁面を設ければおのずと吸着空間も区画されることになり、構成を簡単にすることができる。
【0018】
手段4.前記吸引部を、吸着状態にあるワークの側方に配置したことを特徴とする手段1乃至3のいずれかに記載の非接触吸着装置。
【0019】
手段4によれば、ワークの側面により近づけて吸引部を配置することが可能となる。これにより、ワークに対する吸引力をより強く作用させることができる。
【0020】
手段5.本体(チャック本体2)のワーク吸着側端面(吸着側平面2b)に設けられた気体噴出部(エア噴出面8b)と、
本体のワーク吸着側に取り付けられ、前記気体噴出部周囲の吸着側端面を、同端面との間に内部空間が形成されるように覆い、前記気体噴出部と対峙する箇所に吸着穴を形成したキャップとを備え、
前記内部空間を負圧室とするとともに、前記吸着穴から負圧室に通ずる隙間(導入口21)を吸引部とし、その吸引部周辺の気体を吸引する際に生じる吸引力と、気体噴出部から加圧気体を噴出する際に生じる浮上力とを同時にワーク(半導体チップW)に作用させ、前記吸着穴内で前記気体噴出部に対し非接触の状態でワークを吸着保持するように構成したことを特徴とする非接触吸着装置(非接触チャック)。
【0021】
手段5によれば、ワークは吸引部周辺の気体を吸引する際に生じる吸引力と、気体噴出部から加圧気体が噴出する際に生じる浮上力を同時に受けて、気体噴出部に対し非接触の状態で吸着保持される。そして、気体噴出部の周囲全体にわたって負圧室とその負圧室への入口である吸引部とが配置された構成のため、吸引力はワークの外周側全体に均等に作用することになる。このため、外周側の数箇所に吸引力を作用させる場合に比べ、リング状をなすワークを吸着穴内でより確実に吸着保持できるし、吸着不良の防止や、薄いワークの変形や破損防止もより確実となる。
【0022】
また、ワークが吸着された状態で吸着装置が傾くなどしてワークが横ずれを起こしても、そのワークの側面が吸着穴を形成する内面に当接することになる。これにより、ワークが横ずれするような状況になっても、ワークが吸着装置からずり落ちることを防止できる。さらに、吸着穴という区画された空間内の気体が、気体噴出部の周囲にある吸引部により吸引される。このように区画された空間内の気体が吸引されることにより、その空間内の負圧度は、空間を区画することなく吸引部の周辺が完全に開放された場合に比べて高まる。これにより、ワークの吸引効果が高められる。
【0023】
しかも、本体のワーク吸着側にキャップを取り付けるだけで、気体噴出部の周囲全体にわたって負圧室とその負圧室への入口である吸引部とを配置した構成、吸着空間(吸着穴20)の形成、ワーク側面と対峙する壁面(吸着穴20を形成する内面)の設置が一度に行えるため、それらの構成を備えた吸着装置を容易に製造することができる。
【0024】
手段6.前記吸着穴を、前記気体噴出部の平面形状と同形状に形成したことを特徴とする手段5に記載の非接触吸着装置。
【0025】
手段6によれば、吸着穴を気体噴出部の平面形状と同形状に形成したことにより、気体噴出部から噴出された加圧気体はほとんど吸着穴内にいったん導入される。吸着穴を気体噴出部よりも小さく形成すると、負圧室内に加圧気体が直接導入されて負圧室内の負圧度、ひいては吸引力が弱まるが、これを防止できる。また、気体噴出部より小さいワークであっても、その外周部付近に、吸着穴から負圧室に通ずる入口である吸引部が配置されるため、ワークに吸引力を確実に作用させることができる。
【0026】
手段7.本体のワーク吸着側に加圧気体が供給される多孔質体を設け、その多孔質体の気体噴出面を前記気体噴出部としたことを特徴とする手段1乃至6のいずれかに記載の非接触吸着装置。
【0027】
手段7によれば、気体噴出部として多数の微細孔を有する多孔質体を用いていることから、多孔質体の気体噴出面から加圧気体を均一に噴出させることができる。これにより、ワークの被吸着面に均一に浮上力を作用させることができ、ワークの吸着保持を安定化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、発明を具体化した一実施の形態を図1及び図2に基づいて説明する。本実施の形態では、ワークの搬送装置に取り付けられ、そのワークを非接触状態で吸着する非接触チャックについて具体化している。なお、図1は非接触チャックの縦断面図、図2はワークを吸着した状態を示すため、図1の要部を拡大した断面図である。
【0029】
図1に示すように、非接触チャック1はステンレス等の金属により形成された本体としてのチャック本体2を備えており、そのチャック本体2の上面2aには取付用突部3が設けられている。この取付用突部3にはその外周に雄ネジ等の取付手段が形成されている。この取付手段により、非接触チャック1が図示しない搬送装置の被取付部に取り付けられる。また、前記取付用突部3の上面にはチャック本体2内に形成された給気通路4の給気口5が設けられている。この給気口5には、非接触チャック1が搬送装置に取り付けられた状態で、圧縮エアが供給されるようになっている。
【0030】
チャック本体2の下面、すなわち吸着側端面としての吸着側平面2bの略中央部には、円盤状の空間をなす収容凹部7が形成されている。収容凹部7には前記吸着側平面2bから突出した状態で円盤状の多孔質体8が収容され、その状態で固定されている。多孔質体8は焼結三フッ化樹脂、焼結四フッ化樹脂等の焼結フッ素樹脂により構成され、多数の微細孔を有する。
【0031】
前記多孔質体8の上側には流通溝9が形成され、多孔質体8の上面8aの一部がこの流通溝9内に露出している。そして、この流通溝9を形成する内面に前記給気通路4の排出口6が設けられている。このため、前記給気口5に供給された圧縮エアは給気通路4を解して流通溝9に流れ込み、さらに多孔質体8の微細孔を介して多孔質体8の下面(エア噴出面)8bから噴出されることになる。この多孔質体8のエア噴出面8bにより気体噴出部が構成される。図1にはその圧縮エアの流れを矢印で模式的に示している。なお、多孔質体8の外周には図示しないシール層が形成され、吸着側平面2bから突出している外周面から圧縮エアが流出することを防止している。
【0032】
また、前記チャック本体2にはその側面に吸引ポート11が設けられている。チャック本体2内にはその吸引ポート11に連通する吸引通路12が形成され、吸引通路12の吸引口13が多孔質体8周囲の吸着側平面2bに設けられている。本実施の形態では、吸引通路12や吸引口13は一箇所のみ設けられている。これにより、吸引口13の周囲に存在するエアが吸引通路12を介して吸引されることになる。図1にはそのエアが吸引される様子を矢印で模式的に示した。
【0033】
さらに、チャック本体2には多孔質体8周囲の吸着側平面2bを覆うようにキャップ16が設けられている。このキャップ16は平板状の底面部17とその底面部17の外周部に立設された外周壁部18とから構成され、その縦断面が図1及び図2に示すようにコ字状に形成されている。そして、吸着側平面2bの外周側に設けられた段差19に、前記外周壁部18が圧入、接着その他適宜の手段により固定されることで、キャップ16がチャック本体2に取り付けられている。この取付状態において、底面部17は多孔質体8のエア噴出面8bよりも下方に配置される。また、底面部17には、その略中央部に多孔質体8の平面形状と同径の円形状をなす吸着穴20が形成されている。かかる構成により、キャップ16がチャック本体2に取り付けられた状態では、吸着側平面2bの略中央部に設けられた多孔質体8のエア噴出面8bが吸着穴20を介して露出している。また、エア噴出面8bの外周縁と吸着穴20の内側開口縁との間には隙間21が形成され、吸着側平面2bとキャップ16の内面との間には空間22が形成されている。吸着側平面2bに形成された前記吸引口13はこの空間22に向けて開口することから、この空間22内のエアが吸引口13、吸引通路12を介して吸引される。そのため、同空間22は負圧室22とされ、前記隙間21は負圧室22への導入口21とされる。この導入口21により吸引部が構成される。なお、キャップ16の外周壁部18と同外周壁部18が固定される段差19との間にはシール処理が施され、外周壁部18の取付部分を通してエアが負圧室22に流入し負圧度が低下することを防止している。
【0034】
次に、上記の如く構成された非接触チャック1の動作について説明する。なお、この非接触式チャック1により吸着されるワークは、リング状をなす薄板の半導体チップWである。
【0035】
非接触チャック1はその取付用突部3を利用して図示しない搬送装置に取り付けられ、搬送装置とともに移動する。その取付状態において、給気口5に圧縮エアが供給されると、その圧縮エアは給気通路4を解して流通溝9に流れ込み、さらに多孔質体8の微細孔を介して多孔質体8のエア噴出面8b全体から噴出される。他方、吸引ポート11に負圧を作用させると、吸引通路12を介して負圧室22内が負圧とされる。これにより、導入口21付近のエアが負圧室22に吸引される。そして、エア噴出面8bに発生する加圧力と、負圧室22の導入口21に発生する負圧力とを調整することにより、エア噴出面8bの下方の吸着穴20内、さらにその下方に、図1に示すような負圧領域Fが生じる。この負圧領域Fにおける負圧力の強さ、すなわち吸引力の強さは、吸着穴20の開口縁付近においても最も高く、中央にいくにしたがって弱くなっている。これは、負圧力を発生させる導入口21が吸着穴20の内側開口縁に存在するからである。
【0036】
非接触チャック1をこのような状態とした上で、搬送装置は、前工程を終えた半導体チップWを後工程に搬送すべく、前工程の載置台に載置された半導体チップWの上方からそのチップWに向けて非接触チャック1を近づける。非接触チャック1が半導体チップWに近づいて同チップWが負圧領域F内に入ると、チップWに吸引力が作用し、同チップWは非接触チャック1の吸着穴20内に吸い寄せられる。このとき、多孔質体8のエア噴出面8bには加圧力(浮上力)が発生しているため、その加圧力がエア噴出面8bと対峙するチップWの被吸着面(上面)に作用する。それと同時に、チップWには、エアが導入口21から負圧室22に吸引される際の吸引力が作用する。
【0037】
ここで、この吸引力の作用について簡単に説明すると、吸引力を発生させる導入口21はエア噴出面8bの周囲全体にわたって存在する。このため、その吸引力は半導体チップWの外周部側に作用することになる。リング状をなす半導体チップWでもその外周部は被吸引部分となるから、そこに吸引力が作用するとなれば、その吸引力をチップWに対して確実に作用させることができる。
【0038】
このように、リング状をなす半導体チップWは、その被吸着面に加圧力、外周部側に吸引力が同時に作用することにより、図2に示すように、吸着穴20内でエア噴出面8bに対し非接触状態で吸着保持される。なお、図2では説明の便宜上、エア噴出面8bと半導体チップWとの間の隙間を誇張して記載している。しかし、実際に使用されるときは、加圧力と吸引力との調和により、ミクロン単位での隙間が確保されることになる。また、図2においては、多孔質体8のエア噴出面2bにおいて、その略中央部に半導体チップWが吸着保持された状態を示しているが、必ずこのような状態で吸着保持されるわけではない。半導体チップWが導入口21側に吸い寄せられ、同チップWの側面が吸着穴20を形成する内面に当接した状態で吸着保持される場合もある。
【0039】
前述のように、非接触チャック1に半導体チップWを吸着させた後、搬送装置を駆動して同チップWを後工程に搬送し、後工程の載置位置で圧縮エアの供給と負圧の作用を停止すると、その載置位置に半導体チップWは載置される。
【0040】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下の優れた効果を有する。
【0041】
本実施の形態によれば、半導体チップWは導入口21周辺の気体を吸引する際に生じる吸引力と、エア噴出面8bから圧縮エアが噴出する際に生じる浮上力を同時に受けて、エア噴出面8bに対し非接触の状態で吸着保持される。このとき、浮上力はエア噴出面8bと対峙するチップWの被吸着面(上面)に作用する。そして、導入口21がエア噴出面8bの周囲全体にわたり存在するため、吸引力はチップWの外周部側で周全体にわたり略均等に高められている。このため、図2のように、リング状をなし中央部に穴が開いた半導体チップWであっても、そのチップWの外周部側に吸引力が作用する以上、その吸引力を確実に作用させてチップWを吸着保持することができる。
【0042】
本実施の形態では、半導体チップWに作用する吸引力はチップWの外周部側の全体にわたり作用し、一箇所に集中して作用しない。すなわち、半導体チップWに作用する吸引力はチップWの外周部側で分散されている。これにより、半導体チップWが吸引力の集中箇所に向けて縦向きで吸着されたり、傾いた状態で吸着されたりするなどの吸着不良を防止できる。さらに、この吸引力の分散により、厚さが薄いチップをワークとした場合であっても変形や破損することを防止できる。
【0043】
搬送装置によって半導体チップWを搬送している最中に、非接触チャック1は常に水平状態に維持されるわけではなく、傾いてしまう場合もある。そして、非接触チャック1が傾くと、吸着保持されていたチップWが谷側に横ずれを起こす。本実施の形態では、このような場合、チップWは吸着穴20を形成する内面に当接する。そして、この当接状態でもチップWには吸引力と浮上力が同時に作用している。このため、チップWが非接触チャック1からずり落ちることを防止できる。また、吸着穴20を形成する内面はチップWの側面全体と対峙しているから、チップWのずり落ち防止の効果は傾いた方向を特定することなく得られる。
【0044】
本実施の形態では、エア噴出面8bの下方に吸着穴20が設けられ、その吸着穴20内のエアが導入口21において吸引される。このように、吸着穴20を形成する内面によって区画された空間内のエアを吸引するようにしたことにより、その空間(吸着穴20)内の負圧度は、導入口21の周辺がキャップ16もなく完全に開放された状態に比べて高まる。これにより、半導体チップWの吸引効果が高められる。
【0045】
本実施の形態では、吸着穴20が形成されたキャップ16を設けて、吸引部を吸引通路12の吸引口13ではなく、吸着保持された半導体チップWの側方に配置される導入口21としている。このため、吸引箇所がチップWの側面により近い位置に配置されることになり、チップWに対する吸引力をより強く作用させることができる。
【0046】
本実施の形態では、多孔質体8のエア噴出面8bから圧縮エアが噴出するように構成されているため、半導体チップWの被吸着面に対して圧縮エアを均一に噴出させることができる。これにより、チップWの被吸着面に均一に浮上力を作用させることができ、非接触状態をより一層安定して維持できる。
【0047】
本実施の形態では、チャック本体2にキャップ16を取り付けるだけで、エア噴出面8bの周囲全体にわたって負圧室22とその負圧室22への入口である導入口21とが配置された構成となり、吸着空間(吸着穴20)の形成、吸着状態にある半導体チップWの側面と対峙する壁面(吸着穴20を形成する内面)の設置が一度に行える。このため、それらの構成を備えた非接触チャック1を容易に製造することができる。
【0048】
本実施の形態では、吸着穴20を多孔質体8の平面形状と同径の円形状に形成したことにより、エア噴出面8bから噴出された圧縮エアはほとんど吸着穴20内にいったん導入される。吸着穴20を多孔質体8の平面形状よりも小さく形成すると、負圧室22内に圧縮エアが直接導入されて負圧室22内の負圧度、ひいては吸引力が弱まってしまうが、これを防止できる。しかも、エア噴出面8bより小さい半導体チップWであってもその外周部付近に導入口21が配置されるため、チップWに吸引力を確実に作用させることができる。
【0049】
なお、実施の形態は上記した内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。
【0050】
上記実施の形態では、キャップ16の底面部17により、吸着空間である吸着穴20とは別に負圧室22を形成する構成としたが、図3に示す非接触チャック25のように負圧室22を省略した構成としてもよい。非接触チャック1との相違点を中心に説明すると、この非接触チャック25はチャック本体2の吸着側平面2bにおいて、多孔質体8の周囲に複数の吸引口13が均等に配置されている。そして、キャップ16の代わりに、筒体26が設けられている。このため、筒体26内のエアが複数の吸引口13で吸引される。かかる構成においても、半導体チップWの外周部側で吸引力を作用させるため、上記実施の形態と同様、リング状をなす半導体チップWであっても確実に吸着保持できる。
【0051】
それ以外にも、非接触式チャック25によれば、上記実施の形態と同様の効果が得られる。すなわち、吸引力は半導体チップWの外周部側の複数箇所で作用し、一箇所に集中して作用しないため、吸着不良の防止や、厚さの薄いチップをワークとした場合にその変形や破損防止もできる。また、非接触チャック25が傾いて半導体チップWが谷側に横ずれしても、チップWは筒体26の内面に当接するため、チップWのずり落ちを防止できる。さらに、筒体26によって区画された空間内のエアが吸引されるため、その空間内の負圧度は、導入口21の周辺が筒体26もなく完全に開放された状態に比べて高まる。これにより、チップWの吸引効果が高められる。
【0052】
上記実施の形態では、多孔質体8を吸着側平面2bから突出して設けたが、多孔質体8をそのエア噴出面8bが吸着側平面2bと面一となるように設けてもよい。また、収容凹部7及び多孔質体8の平面形状は四角形状など円以外の任意の形状を選択できるし、環状に形成してもよい。但し、両者の形状は相互に共通していることが好ましい。また、多孔質体8は焼結銅、焼結ステンレス等の金属材料を焼結させて構成することもできるし、焼結ナイロン樹脂、焼結ポリアセタール樹脂等の合成樹脂材料や、焼結カーボン、焼結セラミックスなどでも構成できる。その他、多孔質体8の代わりに、多数のオリフィスを設けた構成としてもよい。
【0053】
上記実施の形態では、吸着穴20の内面を半導体チップWの側面が当接する壁面としたため、チップWの側面全体にわたりその側面と対峙する壁面が設けられた構成となっているが、例えば、図3において、筒体26の所々に切欠きを形成して、壁面を複数箇所だけ設けた構成とすることも可能である。
【0054】
上記実施の形態では、吸引通路12や吸引口13は一箇所のみ設けたが、複数設けてもよい。また、上記実施の形態では、エア噴出面8bから噴出される加圧気体として圧縮エア(空気)を例に挙げたが、空気以外にも窒素等の他の気体を用いても良い。
【0055】
上記実施の形態では、ワークとしてリング状をなす薄板の半導体チップWを例に挙げたが、それ以外にもリング状をなさない半導体チップ、小型レンズ等の被吸着面が吸着面に直接接触するのを嫌う部品であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】非接触チャックを示す縦断面図。
【図2】半導体チップを吸着した状態を示す図1の要部拡大断面図。
【図3】別例の非接触チャックを示す縦断面図。
【図4】従来の非接触吸着装置を示す断面図。
【符号の説明】
【0057】
1,25…非接触吸着装置としての非接触チャック、2…本体としてのチャック本体、2b…ワーク吸着側端面としての吸着側平面、8…多孔質体、8b…気体噴出部としてのエア噴出面、16…キャップ、20…吸着穴、21…吸引部としての導入口、22…負圧室、W…ワークとしての半導体チップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体のワーク吸着側に、気体噴出部と、同気体噴出部の周囲に複数箇所又は周囲全体にわたって配置される吸引部とを設け、吸引部周辺の気体を吸引する際に生じる吸引力と、気体噴出部から加圧気体が噴出する際に生じる浮上力とを同時にワークに作用させ、気体噴出部に対して非接触の状態でワークを吸着保持するように構成したことを特徴とする非接触吸着装置。
【請求項2】
前記本体のワーク吸着側には、ワークを吸着したときにそのワークの側面と対峙する壁面を設け、その壁面を、同壁面にワークの側面が当接した状態でも、ワークに吸引力と浮上力が作用する位置に配置したことを特徴とする請求項1に記載の非接触吸着装置。
【請求項3】
前記気体噴出部の先方にワークを吸着保持する吸着空間を区画して設け、前記吸引部により吸着空間内の気体を吸引するように構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の非接触吸着装置。
【請求項4】
前記吸引部を、吸着状態にあるワークの側方に配置したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の非接触吸着装置。
【請求項5】
本体のワーク吸着側端面に設けられた気体噴出部と、
本体のワーク吸着側に取り付けられ、前記気体噴出部周囲の吸着側端面を、同端面との間に内部空間が形成されるように覆い、前記気体噴出部と対峙する箇所に吸着穴を形成したキャップとを備え、
前記内部空間を負圧室とするとともに、前記吸着穴から負圧室に通ずる隙間を吸引部とし、その吸引部周辺の気体を吸引する際に生じる吸引力と、気体噴出部から加圧気体を噴出する際に生じる浮上力とを同時にワークに作用させ、前記吸着穴内で前記気体噴出部に対し非接触の状態でワークを吸着保持するように構成したことを特徴とする非接触吸着装置。
【請求項6】
前記吸着穴を、前記気体噴出部の平面形状と同形状に形成したことを特徴とする請求項5に記載の非接触吸着装置。
【請求項7】
本体のワーク吸着側に加圧気体が供給される多孔質体を設け、その多孔質体の気体噴出面を前記気体噴出部としたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の非接触吸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−88266(P2006−88266A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276416(P2004−276416)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000106760)シーケーディ株式会社 (627)
【Fターム(参考)】