面発光型半導体レーザ装置およびその製造方法
【課題】十分に満足できる電流狭窄が得られ、低閾値電流で外部微分量子効率が高く、高効率かつ信頼性の高い面発光型半導体レーザ装置を提供することにある。
【解決手段】面発光型半導体装置は、分布反射型多層膜ミラー(104)と誘電体多層膜ミラー(11)とからなる一対の反射鏡で構成される光共振器の導波路の一部が分離溝で分離され、分離溝を埋め込むシリコン系の絶縁層(107,108)と、量子井戸活性層(105)とを有する。
また、面発光型半導体装置は、前記光共振器を構成する半導体層と同じ半導体層を有する端面発光型半導体レーザ装置の発振波長をλGとすると、この発振波長λGが所期の発振波長λEMに対して所定波長差(ゲインオフセット量)△λEMだけ短波長側に設定される。
【解決手段】面発光型半導体装置は、分布反射型多層膜ミラー(104)と誘電体多層膜ミラー(11)とからなる一対の反射鏡で構成される光共振器の導波路の一部が分離溝で分離され、分離溝を埋め込むシリコン系の絶縁層(107,108)と、量子井戸活性層(105)とを有する。
また、面発光型半導体装置は、前記光共振器を構成する半導体層と同じ半導体層を有する端面発光型半導体レーザ装置の発振波長をλGとすると、この発振波長λGが所期の発振波長λEMに対して所定波長差(ゲインオフセット量)△λEMだけ短波長側に設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に対して垂直方向に光を出射する面発光型半導体レーザ装置の構造および製造方法に関する。さらに、本発明は、画像形成装置や光通信システムなどの並列光情報処理装置に用いることができる面発光型半導体レーザ装置の構造および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、面発光型半導体レーザ装置の構造として、第50回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第3分冊 p.909 29a−ZG−7(1989年9月27日発行)が報告されている。図45はその発光部を示す斜視図である。この半導体レーザ装置は、以下のプロセスで製造される。n型GaAs基板2202上に、n型AlGaAs/AlAs多層膜2203、n型AlGaAsクラッド層2204、p型GaAs活性層2205およびp型AlGaAsクラッド層2206を成長させた後、円柱状の領域2220を残してエッチングし、p型,n型,p型,p型の順にAlGaAs層2207,2208,2209,2210で埋め込む。しかる後、p型AlGaAsキャップ層2210の上部に誘電体多層膜2211を蒸着し、n型オーミック電極2201、p型オーミック電極2212を形成し、面発光型半導体レーザ装置を形成している。
【0003】
しかし、図45に示す従来の面発光型半導体レーザ装置では、活性層以外の部分に電流が流れるのを防ぐ手段として、埋込み層にp−n接合2207,2208を設けている。しかし、このp−n接合では十分な電流狭窄を得ることは難しく、完全には無効電流を抑制できない。このため、従来技術では素子の発熱に起因して、室温での連続発振駆動することが困難である。そして、このレーザ装置においては、光共振器全体を共振器よりも低屈折率の材料で埋め込んでいるため、共振器内に光が閉じ込められ、共振器の基板面に水平な方向の断面形状を変化させても、基本発振モードの発光スポットは直径2μm程度の点発光となってしまう。また、このレーザ装置では、面発光型半導体レーザ装置の特徴である2次元アレイ化を行なうとき、個々の共振器を基板面内で近づけて設置したとしても、各素子とも独立で発振しているため個々のレーザ光の位相がそろわず、各々のレーザ光が干渉しあい、1つの光束を持った安定したレーザ光が得られにくい。
【0004】
図46は、他の従来の面発光型半導体レーザ装置の構造を示す断面図である。このレーザ装置は、n型GaAs単結晶基板2401の上に、n型分布反射型(DBR)ミラー2402、n型クラッド層2408、量子井戸活性層2403、p型クラッド層2409、p型DBRミラー2404およびp型オーミック電極2405が形成されている。同図において斜線で示す領域2406は水素イオンを打ち込むことによって単結晶状態を破壊して高抵抗の領域とされ、注入電流が発振領域にだけ集中するようにした構造である。また、基板2401の下面には、n型オーミック電極2407が形成されている。そして、基板2401に垂直な方向2410から、光が放射される。
【0005】
また、図46に示す従来の面発光型半導体レーザ装置では、注入電流はp型DBRミラー2404を通して流れることになる。p型DBRミラー2404では、電流は正孔がキャリアとして流れる。正孔は電子に比べて有効質量が10倍程度大きく、ミラー内部のヘテロバリアを越えにくい。そのためp型DBRミラー2404は大きな抵抗成分を持つことになる。この従来例では、p型DBRミラー2404の反射率を大きくするためにミラーの層数を多くする必要があり、その結果p型DBRミラー2404の抵抗がかなり大きくなるという問題点を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、十分に満足できる電流狭窄が得られ、低閾値電流で外部微分量子効率が高く、高効率かつ信頼性の高い面発光型半導体レーザ装置を提供することにある。本発明の他の目的は、このような半導体レーザ装置の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の面発光型半導体レーザ装置は、
第1導電型の化合物半導体からなる基板、
前記基板の下側に形成された下側電極、
前記基板の上側に形成された第1導電型の分布反射型多層膜ミラー、
前記分布反射型多層膜ミラー上に形成された第1導電型の第1クラッド層、
前記第1クラッド層上に形成された量子井戸活性層、
前記量子井戸活性層上に形成され、単数もしくは複数の柱状部を有する第2導電型の第2クラッド層、
前記第2クラッド層の柱状部上に形成された第2導電型のコンタクト層、
前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲に埋め込まれ、少なくとも前記第2クラッド層および前記コンタクト層との界面がシリコン化合物からなる第1絶縁層によって被覆された埋込み絶縁層、
前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって形成された上側電極、および、
前記上側電極の開口部を覆うように、少なくとも前記コンタクト層上に形成された誘電体多層膜ミラー、を含む。
【0008】
この半導体レーザ装置においては、前記分布反射型多層膜ミラー、前記第1クラッド層、前記量子井戸活性層、前記第2クラッド層の柱状部、前記コンタクト層および前記誘電体多層膜ミラーから光共振器が構成される。
【0009】
そして、この半導体レーザ装置においては、前記柱状部(共振器部)が複数形成されている場合には、各共振器部で発生する平行横モードが電磁波的に互いに結合されているため、各共振器部から位相が同期された光が発振される。
【0010】
前記埋込み絶縁層は、少なくとも、前記クラッド層およびコンタクト層の表面に沿って連続的に形成された第1絶縁膜を有し、好ましくは、この第1絶縁層の周囲には前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲を平坦化するための第2絶縁層が形成されている。この第2絶縁層は前記第1絶縁層よりも低温で形成できる物質から構成されることが望ましい。この第1絶縁層によって、第2絶縁層の不純物、例えばナトリウム,塩素,重金属,水素等が第2クラッド層あるいは量子井戸活性層へ熱拡散等によって移動することが阻止される。この第1絶縁層は、熱CVD(化学気相成長)によって形成されることが好ましい。したがって、第1絶縁層の膜厚を薄くすることにより、成膜時に光共振器が熱にさらされる時間を短縮して、熱による結晶へのダメージをより少なくすることが望ましい。
【0011】
前記第1絶縁層は、前述したように、光共振器に悪影響を与えるような物質の移動を阻止できるのに十分な厚みを有すればよく、例えばその膜厚は500〜2000オングストロームに設定されることが好ましい。この第1絶縁層は、例えばシリコン酸化膜、シリコン窒化膜およびシリコン炭化膜から選択される少なくとも一種のシリコン化合物から構成されることが好ましい。また、前記第2絶縁層は、前記シリコン化合物よりも低温で形成されたシリコン化合物、ポリイミド等の耐熱性樹脂、および多結晶のII−VI属化合物半導体から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0012】
前記第2クラッド層はエッチングによって前記柱状部以外の領域が取り除かれるが、この柱状部以外の領域は所定範囲の膜厚を有し、好ましくは0μm(つまり完全に除去される)〜0.58μm、より好ましくは0〜0.35μmの膜厚に設定される。このように、前記柱状部以外の領域の膜厚を極限定された薄い膜とするかあるいは完全に除去することにより、活性層内に有効に電流を注入でき、高い外部微分量子効率を得ることができる。
【0013】
前記量子井戸活性層は、n型GaAsウエル層とn型Al0.3Ga0.7Asバリア層からなり、前記ウエル層の膜厚は40〜120オングストローム、前記バリア層の膜厚は40〜100オングストロームであり、かつウエル層の総数は3〜40層であることが好ましい。このような構成の量子井戸活性層によれば、面発光型半導体レーザ装置の低閾値化、高出力化、温度特性の向上および発振波長の再現性の向上を達成することができる。
【0014】
前記分布反射型多層膜ミラーは、発振波長λEMを含む少なくとも40nmの波長範囲で99.2%以上の反射率を有し、前記波長範囲内に発振波長が設定される。そして、分布反射型多層膜ミラーの反射率は、ミラーを構成する半導体層の各層のドーピング量によっても変動する。例えば、分布反射型多層膜ミラーをAl0.8Ga0.2As層とAl0.15Ga0.85As層とを交互に積層して構成する場合には、これらの各層にドーピングされるn型ドーパントは5×1016〜1×1019cm−3の平均ドーピング量であることが好ましい。更に、前記分布反射型多層膜ミラーは、アルミニウムの濃度が高いAl0.8Ga0.2As層と、この層よりもアルミニウムの濃度が低くバンドギャップが大きいAl0.15Ga0.85As層との界面近傍のキャリア濃度を、界面近傍以外の領域よりも高くすることが望ましい。具体的には、界面近傍のドーピング量の最大値は、界面近傍以外のドーピング量の最小値の1.1〜100倍の値を取ることが好ましい。
【0015】
また、前記誘電体多層膜ミラーは、その反射率が98.5〜99.5%であることが好ましい。反射率が98.5%より低いと、発振閾電流が増大してしまい、一方反射率が99.5%よりも大きいと光出力が外部に取り出しにくく、外部微分量子効率が低下してしまう。さらに、前記誘電体多層膜ミラーを構成する材料としては、レーザ発振波長に対して光の吸収損失が少ないものを使用することが好ましく、具体的には、発振波長に対して100cm−1以下の吸収係数を有する誘電体材料から構成されることが好ましい。このような誘電体としては、SiOx、Ta2O5、ZrOx、TiOx、ZrTiOx、MgFx、CaFx、BaFxおよびAlFxなどが例示される。
【0016】
前記クラッド層の柱状部は光共振器を構成し、その径をDaとし、前記上側電極の開口部の径をDwとすると、Daは6〜12μm、Dwは4〜8μmであり、かつDwはDaより若干小さく形成されることが好ましい。前記柱状部の径(共振器径)と前記開口部の径(出射口径)はレーザの横モード特性に影響を与え、基本横モードの放射光を得るためには、共振器の径を所定の大きさ以上にすることは好ましくなく、また高い出力を得るためには共振器の径を小さくし過ぎることも好ましくない。このような観点から、基本横モード発振をするためには、DaおよびDwは前記の範囲に設定されることが好ましい。
【0017】
前記第1クラッド層をおよび第2クラッド層は、AlxGa1−xAsで示される半導体層からなり、ここにおいてxは、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.65以上、特に好ましくは0.7〜0.8である。xをこの範囲に設定することにより、クラッド層のバンドキャップが十分高く注入キャリアの活性層内への閉じこめが良好であり、高い外部微分部量子効率を得ることができる。
【0018】
さらに、前記第2クラッド層は、その柱状部の膜厚が0.8〜3.5μmであることが好ましい。前記膜厚が0.8μmより小さいと、注入キャリアが不均一となって、特に前記柱状部の周囲付近にキャリアが多く分布し、レーザ発振に寄与しないキャリアの再結合が生じ、その結果、共振器中央付近のキャリア密度が十分大きくならないため、レーザ発振の閾値に達する前に光出力が熱飽和してしまうおそれがある。一方、前記膜厚が3.5μmより大きいと、素子抵抗が高くなって消費電力の増大を招き、光出力の熱飽和が低い注入電流で起こってしまうおそれがある。
【0019】
本発明の他の面発光型半導体レーザ装置は、
第1導電型の化合物半導体からなる基板、
前記基板の下側に形成された下側電極、
前記基板の上側に形成された第1導電型の分布反射型多層膜ミラー、
前記分布反射型多層膜ミラー上に形成された第1導電型の第1クラッド層、
前記第1クラッド層上に形成された量子井戸活性層、
前記量子井戸活性層上に形成され、単数もしくは複数の柱状部を有する第2導電型の第2クラッド層、
前記第2クラッド層の柱状部上に形成された第2導電型のコンタクト層、
前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲に埋め込まれた埋込み絶縁層、
前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって形成された上側電極、および、
前記上側電極の開口部を覆うように、少なくとも前記コンタクト層上に形成された誘電体多層膜ミラー、を含み、
前記量子井戸活性層の利得スペクトルのピーク波長λGは所期の発振波長λEMに対して所定波長差(ゲインオフセット量)△λBSだけ短波長側に設定される。
【0020】
この半導体装置において特に特徴的なことは、前記活性層における利得スペクトルのピーク波長λGが面発光型半導体レーザ装置の発振波長λEMに対してゲインオフセット量△λBSだけ短波長側に位置するように形成されている点にある。前記利得スペクトルのピーク波長λGは、例えば、本発明の面発光型半導体レーザ装置を構成する、基板上に形成された半導体層と同じ半導体層を有する端面発光型半導体レーザ装置を作成し、この端面発光型半導体レーザ装置の発振波長を求めることにより決定される。端面発光型半導体レーザ装置の発振波長は、ほぼピーク波長λGに等しい。そして、前記ゲインオフセット量△λBSは、好ましくは5〜20nm、より好ましくは5〜15nmであり、最も好ましくは10〜15nmである。このようなゲインオフセット量を設定しておくことにより、温度上昇によって活性層の利得スペクトルのピーク波長が長波長側にシフトしたとしても、共振器長で規定される発振波長と利得スペクトルのピーク波長とをほぼ一致させることができ、高い効率で確実なレーザ発振を行うことができる。
【0021】
より具体的には、前記端面発光型半導体レーザ装置の利得スペクトルのピークが面発光型半導体レーザ装置の発振波長より長波長側に存在すると、電流注入によって利得スペクトルのピーク波長が長波長側にシフトしてしまうため、レーザ発振に必要な利得が減少してしまい、高出力の発振が困難となる。但し、前記ゲインオフセット量が大きすぎると、電流注入によって利得スペクトルのピーク波長が長波長側にシフトしたとしても、発振波長λEMにおける利得が小さくなりすぎてレージングを起こさないおそれがある。例えば、ゲインオフセット量△λBSが20nmを越えると、実用的な閾電流での連続駆動が困難となり、一方ゲインオフセット量△λBSが5nmより小さいと、電流注入によって利得スペクトルのピーク波長が発振波長λEMより長波長側にシフトして発振波長での利得が小さくなり、十分なレーザ発振が行われない。ピーク波長λGは温度依存性があるので、λGは面発光型半導体レーザ装置が使用される温度で測定される。
【0022】
このようにゲインオフセット量が設定された半導体レーザ装置においては、その他の構成、具体的には前記埋込み絶縁層、前記第2クラッド層、前記量子井戸活性層、前記分布反射型多層膜ミラー、および前記誘電体多層膜ミラーなどの構成においては、上述した半導体レーザ装置と同様な構成を有することが好ましい。
【0023】
さらに、本発明の各面発光型半導体レーザ装置において、光共振器を構成する前記柱状部の形状を特定することにより、レーザ光の偏波面の方向を制御することが好ましい。以下、この点について詳細に説明する。
【0024】
すなわち、共振器を構成する前記柱状部は、半導体基板に平行な断面形状が、長辺と短辺からなる矩形を有することが好ましい。レーザ光の偏波面の方向は、断面矩形の柱状部の短辺の方向と平行な方向に揃うことが実験的に確かめられた。したがって、一素子内に一つの共振器を形成する場合にも、あるいは複数の共振器を形成する場合にも、その各共振器から出射されるレーザ光の偏波面の方向を、各共振器が有する断面矩形の柱状部の短辺の方向に揃えることができる。
【0025】
そして、断面矩形の柱状部の長辺の長さをAとし、短辺の長さをBとした時、B<A<2Bであることが好ましい。Aを2B以上とすると、光出射口の形状も円または正多角形とはならずに長方形になるため、発光スポットが一つにならず、一つの出射口に複数の発光スポットが形成されてしまう。また、共振器の体積も大きくなるので、レーザ発振閾電流も増加してしまう。
【0026】
また、前記第2クラッド層の柱状部を複数形成し、前記各柱状部の矩形横断面を形成する短辺の方向をそれぞれ平行に設定することが好ましい。この半導体レーザ装置においては、複数の柱状部より出射されるレーザ光の偏波面は、矩形断面を有する各柱状部の短辺の方向と一致しており、かつ各柱状部の短辺の方向がそれぞれ平行であるため、一つの開口部(光出射口)から出射されるレーザ光は、位相が同期しておりかつ偏波面の方向も一致していることになる。従って、例えばこの面発光型半導体レーザ装置をレーザ応用機器に用いる場合には、各素子の細かな位置調整を必要とせずにレーザ光の偏波面の方向をある特定方向に容易に設定することが可能となる。さらに、この半導体レーザ装置において、前記埋込み絶縁層を光透過性を有する物質によって構成することにより、埋込み絶縁層はレーザ発振波長に対してほぼ透明となり、この埋込み絶縁層にもれた光もレーザ発振に寄与することになるため、その分発光スポットが拡大し、位相および偏波面の方向が揃いかつ発光スポットが一つのレーザ光を出射することが可能となる。
【0027】
また、矩形横断面を有する複数の前記柱状部は、前記半導体基板と平行な二次元面上に対称に配置され、かつ前記上側電極に形成される開口部の形状を円または正多角形とすることにより、断面がほぼ円形のレーザ光を出射することができる。そして、このような複数の柱状部によって構成される光共振器は、それぞれ前記上側電極を独立に有するように前記半導体基板上に複数形成されることにより、各光共振器から出射されるレーザ光の断面をほぼ円形とすることができ、しかもこのレーザビームを各光共振器毎に独立してON,OFF,変調可能とすることができる。
【0028】
複数の前記光共振器は、前記柱状部の矩形の横断面の短辺の方向を全て平行に設定することにより、各光共振器から出射されるレーザ光の偏波面の方向を一方向に揃えることもできる。また、少なくとも一部の前記光共振器を他の光共振器に対して前記柱状部の矩形の横断面の短辺の方向を非平行に設定することにより、少なくとも一部の前記光共振器から出射されるレーザ光の偏波面の方向を他の前記光共振器からのレーザ光の偏波面の方向と異ならせることも可能である。
【0029】
さらに、矩形の横断面を有する複数の前記柱状部を、前記半導体基板と平行な二次元面上で横列および/または縦列で等間隔に配列することにより、出射されるレーザビームをラインビームとすることも可能である。
【0030】
レーザ光の偏波面の方向は、光共振器の柱状部を矩形断面としなくても、光出射側の電極に形成される光出射口の開口形状を矩形とし、その矩辺の方向と平行な方向に設置することができる。この構造は、光共振器の柱状部の二次元面上での配置上の制約により柱状部を矩形とできない場合に有効である。また、柱状部の断面形状および光出射口の開口形状の双方を矩形としてもよい。この場合、柱状部および光出射口の各矩辺の方向を平行にすればよい。光出射口の長辺の長さをaとし、短辺の長さをbとした時、好ましくはb<a<2bである。この理由は、b/aの比率を高くすると、それに応じて光共振器の柱状部の各辺の比率B/Aも高くなり、上述した各辺の長さA,Bの好適範囲外となってしまうからである。
【0031】
光共振器の配列方法は適用される機器によって各種の態様が選択され得るが、例えばレーザプリンタ,レーザビームを用いた測定機器,レーザピックアップおよびレーザ通信機器等のレーザ応用機器を設計する際には、レーザ光の偏波面の方向を制御できる技術は極めて有用である。
【0032】
本発明の面発光型半導体レーザ装置は、例えば、以下の工程(a)〜(e)を含む製造方法によって得られる。
【0033】
(a) 第1導電型の化合物半導体からなる基板上に、少なくとも、第1導電型の分布反射型多層膜ミラー、第1導電型の第1クラッド層、量子井戸活性層、第2導電型の第2クラッド層および第2導電型のコンタクト層を含む半導体層をエピタキシャル成長によって形成する工程、
(b) 前記コンタクト層および前記第2クラッド層をエッチングして、単数もしくは複数の柱状部を形成する工程、
(c) 前記柱状部の周囲に埋込み絶縁層を形成する工程であって、この工程では、少なくとも、前記第2クラッド層および前記コンタクト層との界面を被覆するシリコン化合物からなる第1絶縁層を形成する工程を含む工程、
(d) 前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって上側電極を形成する工程、および
(e)前記上側電極の開口部を覆うように、少なくとも前記コンタクト層上に誘電体多層膜ミラーを形成する工程。
【0034】
本発明の他の面発光型半導体レーザ装置は、例えば、以下の工程(a)〜(e)を含む製造方法によって得られる。
【0035】
(a) 第1導電型の化合物半導体からなる基板上に、少なくとも、第1導電型の分布反射型多層膜ミラー、第1導電型の第1クラッド層、量子井戸活性層、第2導電型の第2クラッド層および第2導電型のコンタクト層を含む半導体層をエピタキシャル成長によって形成する工程、
(b) 前記コンタクト層および前記第2クラッド層をエッチングして、単数もしくは複数の柱状部を形成する工程、
(c′) 前記柱状部の周囲に埋込み絶縁層を形成する工程、
(d) 前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって上側電極を形成する工程、および
(e) 前記上側電極の開口部を覆うように、少なくとも前記コンタクト層に誘電体多層膜ミラーを形成する工程、を含み、
前記量子井戸活性層の利得スペクトルのピーク波長λGは、所期の発振波長λEMに対して所定波長差(ゲインオフセット量)△λBSだけ短波長となるように、前記半導体層が設定される。前記ゲインオフセット量△λBSは、5〜20nmに設定されることが望ましい。また、ピーク波長λGは温度依存性があるので、λGは面発光型半導体レーザ装置が使用される温度で測定される。
【0036】
そして、前記工程(c′)においては、少なくとも前記第2クラッド層および前記コンタクト層との界面を被覆するシリコン化合物からなる第1絶縁層が形成される工程を含むことが望ましい。
【0037】
前記各製造方法において、前記埋込み絶縁層は、前記第1絶縁層を例えば熱CVD法によって形成した後に、この第1絶縁層上に、前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲を平坦化するための第2絶縁層が形成されることが好ましい。
【0038】
前記分布反射型多層膜ミラーは、成膜時に、所定波長の光例えば発振波長と同じ波長の光を基板上に照射してその反射スペクトルを検出することにより、基板上に形成された半導体層の反射率プロファイルを測定し、この反射率プロファイルの極大点又は極小点で屈折率の異なる一方の半導体層の堆積から他方の半導体層の堆積に切り替えることによって、低屈折率の半導体層と高屈折率の半導体層とを交互に積層して形成されることが望ましい。
【0039】
前記反射率プロファイルは、結晶の成長速度や成長時間に依存せず、各層の膜厚および各層の屈折率に依存している。従って、反射率プロファイルの極大点あるいは極小点で積層する層のAl組成を変更し、屈折率の違う層を交互にエピタキシャル成長させることにより、各層が理論通りの厚さを有する。また、反射率を測定するための入力光の光源として所定の発振波長を持つ半導体レーザを選ぶことにより、所定波長を厳密に設定できることから、各層の膜厚から屈折率も求めることもできる。そして、分布反射型多層膜ミラー自体の反射率を結晶成長中に測定できることから、層形成中にミラーのペア数を変更したり、構造の最適化がはかれる。
【0040】
各前記工程(b)において、エッチング時に、所定範囲の波長例えば、発振波長に対して±60nmの波長を有する光を前記半導体層を有する基板に照射してその反射スペクトルを検出し、この反射スペクトルに現れる、光共振器の定在波に起因するディップを測定することにより、エッチング厚を制御することが望ましい。前記エッチング厚は、前記第2クラッド層の柱状部以外の領域の膜厚が所定範囲の大きさ、例えば0〜0.58μmの範囲内にとなるように制御されることが望ましい。この膜厚の好ましい理由については、すでに述べた。
【0041】
このように、外部から光を入射すると、分布反射型多層膜ミラー上に積層された半導体層内に定在波(縦モード)が存在する波長で活性層が光を吸収するため、その波長での反射率が低下し、反射スペクトルにくぼみ、つまりディップを形成する。そして、このディップは、分布反射型多層膜ミラーから上の結晶層の膜厚の減少に対応して長波長側から短波長側に移動し、さらにエッチングを続けると、再び長波長側に新たなディップが発生し、ディップの移動と発生が繰り返される。したがって、エッチング中に高反射率帯域に存在するディップの数および波長移動量を測定することにより、エッチング量およびエッチング速度を管理できる。したがって、前記柱状部以外の領域の残り膜厚が正確に制御された共振器を作製することができる。なお、前記エッチング工程においては、基板の温度は0〜40℃から選択される所定の温度に設定されることが望ましい。
【0042】
また、反射スペクトルの値や形状もエッチング中に同時にモニタできるので、エッチング時の表面の汚れ、ダメージなども評価でき、これらの評価結果をエッチング条件にフィードバックすることができる。
【0043】
さらに、前記工程(a)の後に、前記半導体層の表面にSiOxからなる保護層が形成されることが望ましい。この保護層が積層された半導体の表面を覆うことにより、後のプロセスにおける表面汚染が防止される。そして、前記保護層は、前記工程(d)の前に、例えば反応性イオンエッチングによって除去され、その際に、所定波長の光を前記保護層が形成された基板に照射してその反射スペクトルを検出し、その反射率プロファイルを測定することにより、この保護層のエッチング厚が制御されることが望ましい。
【0044】
つまり、反射率は保護層の残り膜厚によって変化し、残り膜厚が(λ/4n)の整数倍になるごとに極大または極小をとり、保護層が完全にエッチングされると反射率の変化がなくなる。ここで、λは測定光源の波長、nは保護層の屈折率である。したがって、エッチング中に反射率を測定し、反射率プロファイルの極大点および極小点をモニタすることにより、保護層のエッチングを正確かつ完全に行うことができる。
【0045】
さらに、上述した保護層の除去に引き続き、前記工程(a)で形成された前記半導体層は、共振器長をコントロールするために必要に応じてエッチングされる。このエッチング時には、所定範囲の波長を有する光を前記半導体層を有する基板に照射してその反射スペクトルを検出し、この反射スペクトルに現れる、光共振器の定在波に起因するディップを測定することにより、エッチング厚を制御することが望ましい。そのメカニズムは工程(b)の場合と同様である。さらに、上記共振器長をコントロールするためのエッチングは、前記工程(a)の直後に行っても良い。工程(a)の直後にエッチングを行うと、広範囲のエピタキシャル層を一括でエッチングできる利点がある。このエッチング時にも、エッチング厚を制御するため、工程(b)のメカニズムを用いる。
【0046】
前記工程(a)において、前記半導体層は有機金属気相成長法によって形成されることが望ましい。
【0047】
本発明の面発光型半導体レーザ装置を製造する装置として、以下の成膜装置およびエッチング装置を用いることができる。
【0048】
例えば、前記基板上に半導体層を形成する成膜装置は、
ガス供給部およびガス排出部を有する反応管と、
前記反応管の内部に設置された、温度制御可能な基板支持部と、
前記基板支持部に所定波長の光を照射するための光源と、
前記光源から前記基板支持部上の基板に照射された光の反射光を検出する光検出器と、を含み、
前記基板支持部上に設置された基板上にエピタキシャル成長によって半導体層の成膜を行いながら、同時に生成する半導体層の反射率を測定することができる。
【0049】
この成膜装置によれば、前述したように、例えば分布反射型多層膜ミラーの膜厚および共振器長を極めて正確に設定することができる。このように層の反射率をモニタしながら膜厚を制御することができる成膜装置は、有機金属気相成長装置だけでなく、分子線エピタキシー装置にも適用することができる。
【0050】
また、前記柱状部を形成する工程(b)および前記保護層をエッチングする工程で用いられるエッチング装置は、
エッチング室と、
前記エッチング室内に配置された基板支持部と、
前記基板支持部上に所定波長の光を照射するための光源と、
この光源から前記基板支持部上の基板に照射された反射光を測定する光検出器とを含み、
基板上の堆積層をエッチングしながら同時に反射率を測定することができる。
【0051】
このようなエッチング装置によれば、前述したように、反射率プロファイルを検出することによりエッチング量を正確に制御することができる。そして、このエッチング装置は反応性イオンエッチングあるいは反応性イオンビームエッチングなどに適用することができる。
【0052】
また、前記成膜装置およびエッチング装置に用いられる前記窓は、前記所定波長の光およびその反射光に対して非反射的であることが望ましい。これらの成膜装置およびエッチング装置は種々の態様の光学系を採用しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
(第1実施例)
図1は、本発明の一実施例における面発光型半導体レーザ装置の発光部の断面を模式的に示す斜視図である。
【0054】
図1に示す半導体レーザ装置100は、n型GaAs基板102上に、n型Al0.8Ga0.2As層とn型Al0.15Ga0.85AS層を交互に積層し波長800nm付近の光に対し99.5%以上の反射率を持つ40ペアの分布反射型多層膜ミラー(以下これを「DBRミラー」と表記する)103、n型Al0.7Ga0.3AS層からなる第1クラッド層104、n−型GaAsウエル層とn−型Al0.3Ga0.7Asバリア層から成り該ウエル層が21層で構成される量子井戸活性層105(本実施例の場合は、多重量子井戸構造(MQW)の活性層となっている)、p型Al0.7Ga0.3As層からなる第2クラッド層106およびp+型Al0.15Ga0.85As層からなるコンタクト層109が、順次積層して成る。そして、コンタクト層109および第2クラッド層106の途中まで、半導体の積層体の上面からみて円形形状にエッチングされて、その柱状部114(以後、この部分を「共振器部」と記す。共振器部は後述するように円柱状である必要はない。)の周囲が、熱CVD法により形成されたSiO2等のシリコン酸化膜(SiOx膜)からなる第1絶縁層107と、ポリイミド等の耐熱性樹脂等からなる第2絶縁層108で埋め込まれている。
【0055】
第1絶縁層107は、第2クラッド層106およびコンタクト層109の表面に沿って連続して形成され、第2絶縁層108は、この第1絶縁層107の周囲を埋め込む状態で形成されている。
【0056】
第2絶縁層108としては、前述のポリイミド等の耐熱性樹脂の他に、SiO2等のシリコン酸化膜(SiOx膜)、Si3N4等のシリコン窒化膜(SiNx膜)、SiC等のシリコン炭化膜(SiCx膜)、SOG(スピンオングラス法によるSiO2等のSiOx)膜などの絶縁性シリコン化合物膜、あるいは多結晶のII−VI族化合物半導体膜(例えばZnSeなど)でもよい。これら、絶縁膜の中でも、低温で形成可能であるSiO2等のシリコン酸化膜、ポリイミドまたはSOG膜を用いるのが好ましい。さらには、形成が簡単であり、容易に表面が平坦となることからSOG膜を用いるのが好ましい。
【0057】
また、例えばCrとAu−Zn合金で構成されるコンタクト金属層(上側電極)112は、コンタクト層109とリング状に接触して形成され、電流注入のための電極となる。このコンタクト層109の上側電極112で覆われていない部分は、円形に露出している。そして、そのコンタクト層109の露出面(以後、この部分を「開口部」と記す)を充分に覆う面積で、SiO2等のSiOxとTa2O5層を交互に積層し波長800nm付近の光に対し98.5〜99.5%の反射率を持つ7ペアの誘電体多層膜ミラー111が形成されている。また、n型GaAs基板102の下には、例えばNiとAu−Ge合金から成る電極用金属層(下側電極)101が形成されている。
【0058】
図3は、図1に示す半導体レーザ装置のレーザ光が放射される方向110からみたレーザ出射部を示した図である。図3のA−A′線における断面が図1における正面に見える断面図と対応している。上側電極112は、コンタクト層109と接触しオーミックコンタクトがとれるようにアロイ化されている。そして、誘電体多層膜ミラー111は、共振器部114を表面全体を覆うように形成されている。ここで、以降図3に示すように、共振器部114の直径をDa、開口部113の直径をDwと、表記する。
【0059】
そして、上側電極112と下側電極101との間に順方向電圧が印加されて(本実施例の場合は、上側電極112から下側電極101への方向に電圧が印加される)電流注入が行なわれる。注入された電流は、量子井戸活性層105で光に変換され、DBRミラー103と誘電体多層膜ミラー111とで構成される反射鏡の間をその光が往復することにより増幅され、開口部113(コンタクト層109の露出面)から方向110すなわち基板102に対して垂直方向にレーザ光が放射される。
【0060】
ここで、図1のシリコン酸化膜(SiOx膜)からなる第1絶縁層107は、膜厚が500〜2000オングストロームで、常圧の熱CVD法により形成されたものである。耐熱性樹脂等からなる第2絶縁層108は素子の表面を平坦化するために必要なものである。たとえば、耐熱性樹脂には高抵抗を有するものの、膜中に水分の残留が発生しやすく、直接、半導体層と接触させると、素子に長時間通電した場合に半導体との界面に於てボイドが発生し素子の特性を劣化させる。そこで、本実施例の様に、第1絶縁層107のような薄膜を半導体層との境界に挿入すると、第1絶縁層107が保護膜となり前述の劣化が生じない。第1絶縁層を構成するシリコン酸化膜(SiOx膜)の形成方法には、プラズマCVD法、反応性蒸着法など種類があるが、SiH4(モノシラン)ガスとO2(酸素)ガスを用い、N2(窒素)ガスをキャリアガスとする常圧熱CVD法による成膜方法が最も適している。その理由は、反応を大気圧で行い、更にO2が過剰な条件下で成膜するのでSiOx膜中の酸素欠損が少なく緻密な膜となること、および、ステップ・カバーレッジが良く、共振器部114の側面および段差部も平坦部と同じ膜厚が得られることである。
【0061】
次に、図1に示す面発光型半導体レーザ100の製造プロセスについて説明する。図22A〜図22Cおよび図23D〜図23Fは、面発光型半導体レーザ装置の製造工程を示したものである。
【0062】
前述したように、n型GaAs基板102に、n型Al0.15Ga0.85As層とn型Al0.8Ga0.2As層とを交互に積層して波長800nm付近の光に対し99.5%以上の反射率を持つ40ペアのDBRミラー103を形成する。さらに、n型Al0.7Ga0.3As層(第1クラッド層)104を形成した後、n−型GaAsウエル層とn−型Al0.3Ga0.7Asバリア層とを交互に積層した量子井戸構造(MQW)の活性層105を形成する。その後、p型Al0.7Ga0.3As層(第2クラッド層)106、およびp型Al0.15Ga0.85As層(コンタクト層)109を順次積層する(図22A参照)。
【0063】
上記の各層は、有機金属気相成長(MOVPE:Metal−Organic Vapor Phase Epitaxy)法でエピタキシャル成長させた。この時、例えば、成長温度は750℃、成長圧力は150Torrで、III族原料にTMGa(トリメチルガリウム)、TMAl(トリメチルアルミニウム)の有機金属を用い、V族原料にAsH3、n型ドーパントにH2Se、p型ドーパントにDEZn(ジエチル亜鉛)を用いた。
【0064】
図22Aで示すように、各層の形成後、エピタキシャル層上に常圧熱CVD法を用いて、250オングストローム程度のSiO2層からなる保護層Iを形成する。この保護層Iが積層された半導体層を覆うことにより、プロセス中の表面汚染を防いでいる。
【0065】
なお、以上の工程で得られた、基板102上にDBRミラー103、第1クラッド層104、量子井戸活性層105、第2クラッド層106、コンタクト層109および絶縁層Iが形成されたウエハの一部は、後述する端面発光型半導体レーザ装置のサンプルとして使用される。
【0066】
次に、反応性イオンビームエッチング(RIBE)法により、レジストパターンR1で覆われた柱状の共振器部114を残して、保護層I、コンタクト層109および第2クラッド層106の途中までエッチングする。このエッチングプロセスの実施により、共振器部114を構成する柱状部は、その上のレジストパターンR1の輪郭形状と同じ断面を持つ(図22B参照)。また、RIBE法を用いるため、前記柱状部の側面はほぼ垂直であり、またエピタキシャル層へのダメージもほとんどない。RIBEの条件としては、例えば、圧力60mPa、入力マイクロ波のパワー150W、引出し電圧350Vとし、エッチングガスには塩素およびアルゴンの混合ガスを使用した。
【0067】
このRIBE法による柱状部の形成においては、エッチング中、前記基板102の温度は、比較的低温、すなわち好ましくは0〜40℃、より好ましくは10〜20℃に設定される。このように、基板の温度を比較的低温に保持することにより、エピタキシャル成長によって積層される半導体層のサイドエッチングを抑制することができる。ただし、基板の温度が0〜10℃であると、サイドエッチングを抑制するという点からは好ましいが、エッチングレートが遅くなってしまうために実用的には不向きである。また、基板の温度が40℃を超えると、エッチングレートが大きくなりすぎるため、エッチング面が荒れてしまうだけでなく、エッチングレートの制御がしにくいという不都合がある。
【0068】
この後、レジストパターンR1を取り除き、常圧熱CVD法で、表面に1000オングストローム程度のSiO2層(第1絶縁膜)107を形成する。この際のプロセス条件としては、例えば、基板温度450℃、原料としてSiH4(モノシラン)と酸素を使用し、キャリアガスには窒素を用いた。さらにこの上にスピンコート法を用いてSOG(Spin on Grass)膜108Lを塗布し、その後例えば、80℃で1分間、150℃で2分間、さらに300℃で30分間、窒素中でベーキングする(図22C参照)。
【0069】
次にSOG膜108L、SiO2膜107および保護層Iをエッチバックして、露出したコンタクト層109の表面と面一になるように平坦化させた(図23D参照)。エッチングには平行平板電極を用いた反応性イオンエッチング(RIE)法を採用し、反応ガスとして、SF6、CHF3およびArを組み合わせて使用した。
【0070】
次に、コンタクト層109とリング状に接触する上側電極112を公知のリフトオフ法により形成した(図23E参照)。コンタクト層109は上側電極112の円形開口を介して露出しており、この露出面を充分に覆うように誘電体多層膜ミラー(上部ミラー)111を公知のリフトオフ方法により形成する(図23F参照)。上部ミラー111は、電子ビーム蒸着法を用いて、SiO2層とTa2O5層を交互に例えば7ペア積層して形成され、波長800nm付近の光に対して98.5〜99.5%の反射率を持つ。この時の蒸着スピードは、例えばSiO2が5オングストローム/分、Ta2O5層が2オングストローム/分とした。
【0071】
なお、前記上部ミラー111は、前記リフトオフ法以外に、RIE法によって形成されてもよい。
【0072】
しかる後、基板102の下面に、NiとAuGe合金とからなる下側電極101が形成されて、面発光型半導体レーザ装置が完成する。
【0073】
以上、本実施例の構成要素および製造プロセスについて一通り説明したが、本実施例の主たる構造上の特徴は次の点にある。
【0074】
(A)量子井戸活性層
量子井戸活性層105は、n−型GaAsウエル層とn−型Al0.3Ga0.7Asバリア層から成る。本実施例の場合は、多重量子井戸構造(MQW)の活性層となっている。ウエル層の膜厚は、40〜120オングストローム,好ましくは61オングストローム、バリア層の膜厚は40〜100オングストローム,好ましくは86オングストローム、ウエル層の総数は3〜40層,好ましくは21層である。これにより、面発光型半導体レーザ装置の低閾値化、高出力化、温度特性の向上、発振波長の再現性の向上が達成できる。
【0075】
(B)埋込み絶縁層
埋込み絶縁層は、熱CVD法により形成された膜厚の薄いシリコン酸化膜(第1絶縁層)107と、その上に埋め込まれた第2絶縁層(具体的な材料は上述の説明を参照)108との2層構造から構成されている。この構造において、薄い第1絶縁層107を形成する理由は、その後に形成する第2絶縁層108は不純物(例えばナトリウム、塩素、重金属、水等)を多く含有しているので、その不純物が第2クラッド層106中や量子井戸活性層105中へ熱等により拡散することを阻止するためである。したがって、第1絶縁層107は、不純物を阻止できるだけの膜厚であればよい。また、この薄い第1絶縁層107は、熱CVDにより形成するので、その膜質は、その後形成される第2絶縁層108と比較するとち密である。本実施例においては、第1絶縁層107は、熱CVDにより形成されるため、素子への熱の影響を考慮して、この第1絶縁層107を厚くして1層とするのではなく、薄い第1絶縁層107と、膜質がち密でなくても、より低温で形成できる第2絶縁層108との2層構造とした。
【0076】
また、本実施例においては、埋込み絶縁層が量子井戸活性層105に至らない状態、つまり、共振器部114以外の領域において、第1絶縁層107と量子井戸活性層105との間に、第2クラッド層106を所定の厚さ(t)だけ残すことも特徴である。この残す膜厚tは、後述する理由により、好ましくは0〜0.58μm、さらに好ましくは0〜0.35μmに設定される。これにより、面発光型半導体レーザ装置において、活性層内に有効に電流が注入され、高効率化、高信頼性化が達成できる。
【0077】
(C)誘電体多層膜ミラー
誘電体多層膜ミラー111は、SiO2等のSiOx層とTa2O5層とを交互に積層し波長800nm付近の光に対し98.5〜99.5%の反射率を持つ7ペアの誘電体多層膜から形成されている。前記Ta2O5層は、その代わりに、ZrOx膜、ZrTiOx膜およびTiOx膜のいずれかで構成されていてもよい。また、前記SiOx層は、その代わりに、MgF2膜、CaF2膜、BaF2膜およびAlF2膜のいずれかで構成されていてもよい。これにより、面発光型半導体レーザ装置の低閾値化、外部微分量子効率の向上が達成できる。
【0078】
この点をさらに詳しく説明する。本実施例の面発光型半導体レーザ装置の特徴は、n型DBRミラー103と誘電体多層膜ミラー111を用いてレーザ共振器を構成し、例えば図46の従来技術に見られるp型DBRミラーを含んでいないことである。つまり、この従来例では、p型DBRミラーの反射率を大きくするためにミラーの層数を多くする必要があり、p型DBRミラーの抵抗が非常に大きくなるという問題点を有している。それに対して、本発明の実施例では、p型DBRミラーを用いることなく誘電体多層膜ミラー111を用いることを特徴としている。これによって以下の効果が得られる。
【0079】
(1)本実施例の装置においては、注入電流はコンタクト層109および第2クラッド層106を通して流れるので、大きな抵抗を持つことはない。
【0080】
すなわち、デバイスのシリーズ抵抗を下げることができ、閾電流値(Ith)における電圧(以下、これを「閾値電圧」と言い「Vth」と表記する)を下げることができる。これにより注入電流によるデバイスの発熱を抑える事ができ、その結果外部微分量子効率を上げ、発振可能な光出力を向上させることが可能である。
【0081】
(2)誘電体多層膜ミラーを、クラッド層,活性層等の結晶成長後に形成するので、共振器長を共鳴条件に正確に合わせ込んだ面発光型半導体レーザ装置の製造が可能である。共振器長の制御については、後に詳述する。
【0082】
次に、図2に、本発明の図1に示した実施例の面発光型半導体レーザ装置と図46に示した従来例の面発光型半導体レーザ装置のそれぞれの注入電流と光出力との関係を示す特性(以下これを「I−L特性」と記す)、および注入電流と順方向電圧の関係を示す特性(以下これを「I−V特性」と記す)をまとめて示してある。図2において、実線で示した曲線が本実施例のI−L特性201とI−V特性202を示し、破線で示した曲線が従来例のI−L特性203とI−V特性204を示している。両者のI−V特性を見れば明らかなように、デバイスの抵抗には大きな差がある。従来例のp型DBRミラーを用いた場合に比べて、本実施例のデバイス抵抗は一桁以上小さいことが判る。従来例ではデバイス抵抗は約600Ωであるのに対し、本実施例のデバイス抵抗は約50Ωである。また、閾値電圧Vth(I−L特性のIthの電流値に対するI−V特性の電圧値)は、従来例では約4.0Vであるのに対し、本実施例では約1.9Vと1/2以下の低い値である。これにより、本実施例の面発光型半導体レーザ装置は、デバイスの注入電流による発熱は抑えられ、高い電流領域まで熱飽和することなく光出力が得られることになる。
【0083】
また、図2のI−L特性を見れば明らかなように、従来例のI−L特性203では、デバイス抵抗が高いために、それによる発熱のため6mA程度で光出力が飽和してしまい、0.4mW程度の光出力が得られる程度である。これに対して、本実施例のI−L特性201では、10mA程度まで光出力が飽和することなく、1.2mWの出力が得られている。
【0084】
図4は、本実施例における面発光型半導体レーザ装置の注入電流と光出力の関係を示すI−L特性図である。このI−L特性を求めるために用いたサンプルは、図1および図3に示す構成の面発光型半導体レーザ装置において、Dw=6μm(レーザ光が放射される部分、つまり開口部113の直径)、Da=8μm(共振器部114の直径)、量子井戸活性層105中のGaAsウェル層の膜厚が61オングストローム、Al0.3Ga0.7Asバリア層の膜厚が86オングストローム、発振波長が800nmとしたものである。401の特性曲線は、上述の構成を有する面発光型半導体レーザ装置をパルス幅200nsec、繰り返し周波数10kHzのパルス電流でパルス駆動した場合の結果であり、402の特性曲線は、上述の構成を有する面発光型半導体レーザ装置を直流電流で連続駆動した場合の結果を示している。両者ともに明瞭な閾値を持ってレーザ発振を開始し、連続駆動の場合の閾電流は2mAと低い。そして、パルス駆動の場合の方が、連続駆動の場合より閾電流が低く発振した後の外部微分量子効率も高い。連続駆動の場合には、注入電流による素子の温度上昇の影響が大きく、注入電流を増していくとI−L特性の直線性が悪くなることが判る。実用的な面発光型レーザ装置を実現するためには、閾電流値が低く、かつ外部微分量子効率の高い特性が得られるようにして、その結果駆動電流値をできるだけ下げることが重要である。
【0085】
以下に、本発明による実施例をさらに詳細に説明し、その駆動電流を下げることが如何に可能であったかを、図5Aおよび図5Bを用いて説明する。図5Aに示す面発光型半導体レーザ装置は比較用デバイスである。
【0086】
図5Aにおいて、図1の正面からみた断面図と異なる部分は、埋込み絶縁層が量子井戸活性層105まで到達していることである。つまりこの図は、塩素イオンを用いた反応性イオンビームエッチング法によって、コンタクト層109と第2クラッド層106と量子井戸活性層105と一部のn型クラッド層104をエッチングし、その周囲をシリコン酸化膜(SiOx膜)からなる第1絶縁層107とポリイミドからなる第2絶縁層108とで埋め込んだ面発光型半導体レーザ装置の断面構造図を示す。
【0087】
図5Bは、図1の正面からみた断面図と構造的には同様のものである。つまり、エッチングが図5Aのように量子井戸活性層105まで到達せず、p型Al0.5Ga0.5As層からなる第2クラッド層106の途中迄で止めて、その周囲を図5Aと同様に埋め込んだ面発光型半導体レーザ装置の断面構造図を示す。そして、図5Bに示す様に第2クラッド層106のエッチング残り膜厚を「t」と表記する。
【0088】
図5Aの構造にすると、どの様な問題が発生するか、図6の実験結果に基づいて以下に説明する。
【0089】
図6の601で示した直線は、図5Aに示した構成の面発光型半導体レーザ装置の閾電流密度(発振閾電流値Ithを共振器部の面積(直径はDaである)で割った値;「Jth」と記す)と1/πDaとの関係を示したものである。この場合、開口部の直径Dwは6μmと一定にして、共振器部の直径Daだけを変えたレーザ素子を複数作製し、そのIthを測定して、Jthを求めたものである。図5Aの様に量子井戸活性層105を切って、その側面が第1絶縁層107と接触している場合には、その接合面で界面再結合電流が流れ、その成分が洩れ電流としてIthを増加させる。Jthは界面再結合電流がある場合、次の式(1)のように表される。
【0090】
【数1】
【0091】
ここでJ0は洩れ電流が無いときの閾電流密度、eは電子の電荷量、Nthは閾キャリア密度、daは活性層の膜厚、vsは界面再結合速度を表す。式(1)から明らかなように界面再結合電流が存在すると、Jthは、共振器部の直径Daの逆数に比例する成分を持ち、界面再結合電流が大きいほど(1/Da)に対する変化率は大きい。界面再結合電流は非発光の洩れ電流であり、これが大きいとIthを増大させ且つ電流を流した時に素子の発熱を生じせしめ、発光効率を減衰させるという悪影響を及ぼす。
【0092】
それに対し、図6の602の直線は、図5Bで示された構造の本実施例の面発光型半導体レーザ装置に対する同様な測定の結果である。図6から明らかなように、図5Bの量子井戸活性層105までエッチングを進めない場合、つまり量子井戸活性層と埋込み絶縁層との界面が存在していない場合、Jthは(1/Da)にほとんど依存しなくなり、閾電流値も減少する。従って、共振器部を形成するときに、第2クラッド層106に残り膜厚tを設け、界面再結合電流をなくすことが、面発光型半導体レーザ装置の構造上、特に重要なことであることが判る。
【0093】
ただし、その第2クラッド層106の残り膜厚tは、厚くなりすぎると注入キャリアの拡がりが大きくなってIthの増大をまねく。従って、適当な厚さでエッチングをストップさせる必要があり、さらに量子井戸活性層105との境界でピタリとエッチングを終えること、つまり第2クラッド層の残り膜厚t=0となることが最も好ましい。これには製造技術上困難を伴う場合があるが、理論的には問題ない。つまり、その下の活性層を実質的にエッチングしなければよいのである。
【0094】
図7には、本発明の実施例における第2クラッド層106のエッチングの残り膜厚tの異なる複数の面発光型半導体レーザ装置のI−L特性をまとめて示してある。このI−L特性を求めるにあたって、共振器部114の直径Daは8μm、開口部113の直径Dwは6μm、量子井戸活性層105の量子井戸(ウエル)は21層から成り、残り膜厚tを変えて複数の素子(発振波長;800nm)を作製し、連続駆動の条件で測定した。図7から明らかなように、tが0.62μmより大きくなるとIthは10mA以上となり、また外部微分量子効率が低下して光出力がすぐに熱飽和を起こす。
【0095】
さらに、このクラツド層の残り膜厚tの好ましい数値範囲について、図8を用いて説明する。
【0096】
図8において、縦軸は外部微分量子効率を示す傾き(スロープ効率)の値を示し、横軸はクラッド層の残り膜厚tを示す。スロープ効率が0.1(つまり10%)であるということは、10mAの電流でも1mWの光出力しか得られないことになる。一般的に、この10mAという電流値は、レーザ素子が熱飽和する電流値に近い電流値であり、ほとんど限界に近いものである。従って、実用上要求される傾きは0.1以上であり、図8からスロープ効率が0.1の時の残り膜厚tは、約0.58μmとなり、このことから好ましい残り膜厚tは、0〜0.58μmとなる。さらに、面発光型半導体レーザ装置を、たとえばプリンターに用いる際に必要な光出力は好ましくは2mW、さらに好ましくは2.5mwであることから、好ましい残り膜厚tは0〜0.4μm、さらに好ましくは0〜0.3μmである。
【0097】
本発明の特徴的な構成要件は、量子井戸活性層105の構造にあることは、前に簡単に説明した。これを次に詳細に、図9を用いて説明する。
【0098】
図9は、本発明の一実施例におけるMOVPE法によって結晶成長した単一量子井戸構造からの光励起による発光スペクトルの測定結果を示す図である。サンプルは、GaAs単結晶基板上に膜厚500オングストロームのAl0.3Ga0.7Asバリア層を介して膜厚の異なる単一量子井戸層をそれぞれ結晶成長させたものである。測定は、サンプルを液体窒素温度(77K)に冷却し、300mWのアルゴンレーザ光を照射して、発光した光を分光器でスペクトル分解受光して行なった。量子井戸の膜厚が薄い程、エネルギー準位が高くなり、短波長に鋭い発光スペクトルが観測された。図9には、各量子井戸膜厚に対応する発光のピーク波長(図中の、左のピークから17,33,55,115オングストローム)とその半値幅(同じく8.3,9.6,7.8,5.6meV)を記してある。
【0099】
また、図10の実線1001は、量子井戸膜厚(横軸)と、それに対応するピーク波長(縦軸)の関係を理論計算より求めた結果であり、ドット(●)は図9の測定結果をプロットしたものである。この図から実測値と理論計算とは、ほぼ一致した結果となっており、量子井戸構造が理論に近い形で作製されていることが判る。
【0100】
図11に、前記量子井戸からの発光強度の半値幅と量子井戸幅の関係を、理論的に求めた結果および測定結果で表す。図11の1101で示す破線は理論的に計算される半値幅であり、1102の破線は、量子井戸幅に1原子層の凹凸があった場合に、井戸幅に対して半値幅が、どの程度広がるかを理論的に計算した結果を示している。また、1103の実線およびドット(●)は実測値を示している。このように、図11から明らかなように、本実施例では1原子層分のゆらぎがある場合よりも半値幅は充分狭く、理想的な量子井戸に近いものが出来ていることが判る。
【0101】
この様な、1原子層のゆらぎもない量子井戸構造を作る為には、MOVPE法の結晶成長装置を工夫して用いることによって製造可能である。
【0102】
前述のように、単一量子井戸が作製可能であると、これを連続して積層して多重量子井戸を作製することが可能となる。面発光型半導体レーザ装置の量子井戸活性層としては、光の増幅が起こるためには、注入したキャリアが活性層内に閉じこもり、量子井戸層内に注入キャリアを分布させることが必要である。
【0103】
更に、面発光型半導体レーザ装置の構造において、低い閾電流を達成するには、共振器内部における定在波を考慮した活性層の膜厚を最適化する必要がある。図12は活性層の全膜厚に対して面発光型半導体レーザ装置の閾電流密度(Jth)の変化の様子を理論的に計算したものである。図12には、図1のDBRミラー103の反射率をRr、誘電体多層膜ミラー111の反射率をRfとし、ミラー103,111でつくられるファブリ・ペロ−共振器の平均反射率Rm(=(Rr・Rf)1/2)を変化させた場合を示している。Jthは下記の式(2)で表される。
【0104】
【数2】
【0105】
ここでeは電子の電荷量、dは活性層の膜厚、Lは共振器の長さ、ξは光の閉じ込め係数、αacは活性層の光損失、αinはキャリアが注入されていない状態での損失、αexは活性層以外の共振器部の損失、およびA0は定数を表す。図12は、上記理論式に基づいて、活性層の全膜厚と閾電流密度の関係を示したものであり、実線は共振器での定在波の分布を考慮しない場合、破線は定在波の分布を考慮した場合の計算結果である。図12においては、平均反射率Rmが0.98,0.99,0.995の場合の結果を示し、●は活性層の膜厚が0.13μm、Rmが0.98の場合の面発光レーザの実測値、■は活性層の膜厚が0.29μm、Rmが0.99の場合の実測値をそれぞれ示している。それぞれの実測値は理論値に良く合致している。この活性層を量子井戸構造にすることで、閾電流は更に低下し、実際にDa=8μmの時にIth=2mAが得られた。
【0106】
この様に、面発光型半導体レーザ装置の低閾値化を達成する為に必要な活性層の条件としては、以下の2点が必要である。
【0107】
(1)活性層が量子井戸構造であり、それが単原子以下の平坦性(凹凸)のある、急峻な井戸であること。
【0108】
(2)量子井戸活性層の全膜厚が共振器内の定在波分布を考慮した閾値電流密度の最小値をとる値、例えば、0.27〜0.33μmの範囲あるいは0.65〜0.75μmの範囲に設定されること(図12参照)。
【0109】
量子井戸の膜厚はレーザ発振の発振波長によって設定するので、全膜厚は量子井戸を繰り返し形成して、その井戸数を変えることで制御する。例えば800nmの発振波長で発振する面発光型半導体レーザ装置を製作する場合には、量子井戸層はGaAsで膜厚61オングストローム、バリア層はAl0.3Ga0.7Asで膜厚86オングストロームとし、21対の多重量子井戸構造を形成すればよい。
【0110】
次に、活性層におけるウエル層の数について、図47を参照して説明する。
【0111】
図47は、ウエル層の数がI−L特性に与える影響を示したものである。つまり、図47中の曲線a〜hは、所定の膜厚(da)を有する活性層のウエル層の数をそれぞれ1,2,3,12,21,30,40および50とした場合のI−L特性を示す。前記膜厚(da)は、図12に示した条件を満たす。曲線a〜eで示す活性層の膜厚は0.3μmであり、曲線f〜hで示す活性層の膜厚は0.7μmである。
【0112】
そして、活性層におけるウエル層の占める膜厚の総計はその数によって異なるが、バリア層の膜厚の総計をコントロールすることによって活性層の膜厚を所定の値に設定することができる。例えば、バリア層を所定の膜厚で等間隔で形成することができない場合には、図48に示すように、もっとも外側に位置するバリア層B1,B2の膜厚をそれ以外のバリア層の膜厚より大きくすることによって活性層全体の膜厚を規定することができる。
【0113】
図47より、閾値電流を低くするためにはウエル層の数を少なく、光出力を大きくするためにはウエル層の数を多くすることが有効であることがわかる。つまり、レーザ発振をするためには、ウエル層の数を1〜40とし、1mW以上の光出力を得るためにはウエル層の数を3〜30とする必要がある。したがって、本実施例において適切なウエル層の数は3〜30である。
【0114】
次に、クラッド層のバンドギャップの大きさがレーザ発振特性に及ぼす影響について詳述する。図13は、GaAs単結晶基板上に結晶成長した面発光型半導体レーザ装置用ウエハの各成長層AlxGa1−xAsのAl組成を示したものである。AlGaAsはAlの組成比が高いほどバンドギャップが大きいので、図13はバンドギャップの変化の様子を表していることにもなる。クラッド層のバンドギャップによって活性層に注入されたキャリアは閉じ込められ、キャリアの閉じ込めがよいほどデバイスの温度特性は向上する。図13中のn型クラッド層と第2クラッド層のAl組成xを0.5にした面発光型半導体レーザ装置と、xを0.7にした面発光型半導体レーザ装置を作製し、両者の特性を比較してみた。サンプルは、クラッド層の組成以外は全く同じ条件で作製され、量子井戸活性層はGaAs膜厚61オングストロームの量子井戸層とAl0.3Ga0.7Asで膜厚86オングストロームのバリア層とを21対重ねた多重量子井戸構造、誘電体多層膜ミラーはSiOxとTa2O5を8対積層して800nmの波長において99.0%の反射率を有し、Daは8μm、Dwは6μmである。
【0115】
図14は2つのタイプの面発光型半導体レーザ装置のI−L特性を示す図である。図において曲線1401は第1および第2クラッド層がAl組成0.5の面発光型半導体レーザ装置の特性を示し、曲線1402は第1および第2クラッド層がAl組成0.7の面発光型半導体レーザ装置の特性を示している。両者共に室温連続駆動の条件で電流を流している。図14から明らかなようにクラッド層のAl組成の大きい方が外部微分量子効率が高く、2倍以上のレーザ光出力を取り出すことが可能である。これはクラッド層のポテンシャルバリアにより注入キャリアの活性層内への閉じ込めが有効に働いていることを示す。
【0116】
さらに、クラッド層のAl組成について図15を用いて説明する。図15において、縦軸は外部微分量子効率(I−L特性の傾き)を表す値(スロープ効率)を示し、横軸はクラッド層中のAl組成を示している。前述の図8においても説明したように、通常外部微分量子効率は0.1以上である必要がある。このことから、クラッド層のAl組成は、0.4以上が好ましい。そして、面発光型半導体レーザ装置をプリンターに用いる際には、必要な光出力は2mW以上であることから、好ましいクラッド層のAl組成は0.65以上であり、さらに好ましくは0.7〜0.8程度である。
【0117】
次に、更なる低閾値化を達成するために必要な条件について詳述する。図1の誘電体多層膜ミラー111は、レーザ発振波長に対して98.5〜99.5%の反射率を有する必要がある。反射率が98.5%より低いと、図12の理論計算から明らかなように発振閾電流が大幅に増大してしまう。逆に99.5%よりも大きいと光出力が外部に取り出しにくく、外部微分量子効率が低下してしまう。従って、前述の反射率になるように誘電体多層膜ミラー111の対数を決定して薄膜形成する。更に、誘電体の材料に、レーザ発振波長に対して光の吸収損失が少ない特性のものを使用することが、閾値を低くし外部微分量子効率を向上させるために重要な要件である。
【0118】
図16は、実線1602で示す、誘電体多層膜ミラーとして非晶質SiとSiOxの多層膜ミラーを形成した面発光型半導体レーザ装置と、実線1601で示す、誘電体多層膜ミラーとしてZrTiOxとSiOxの多層膜ミラーを形成した面発光型半導体レーザ装置とのI−L特性を各々示す。さらに具体的には、図中の実線1601は、誘電体ミラーとしてSiOx/ZrTiOx多層膜を8対形成し、その反射率が99.0%の面発光型半導体レーザ装置のI−L特性を示し、実線1602は、誘電体ミラーとしてSiOx/非晶質Si多層膜を4対形成し、その反射率が98.7%の面発光型半導体レーザ装置のI−L特性を示す。図16から明らかなように、ほぼ同一の反射率を有する誘電体多層膜ミラーに対して、外部微分量子効率と発振可能な光出力は大きく異なる。これは非晶質Siの800nmの波長に対する光吸収係数が4000cm−1であるのに対して、ZrTiOxの同波長に対する光吸収係数が50cm−1と小さいことによる。
【0119】
表1に、電子線蒸着法(以下EB蒸着法と記す)により形成した誘電体薄膜の波長800nmに対する屈折率と光吸収係数を示す。
【0120】
【表1】
【0121】
この表1のうちZrTiOxは、ZrOx中にTiがZrに対して約5%のモル比で薄膜中に含まれた誘電体材料である。反射ミラーを形成するためには、発振波長λに対してλ/4n(nは誘電体材料の屈折率)の膜厚にして、低屈折率の誘電体と高屈折率の誘電体を交互に積層する。反射率を大きくするには積層する対数を増やせば反射率は増大していくが、光の吸収損失を持っていると反射率は上がらなくなる。
【0122】
次に、表2に各誘電体の組合せによるミラーの膜厚と対数およびλ=800nmにおける反射率の計算値とEB蒸着によって製作した各誘電体ミラーの反射率を示す。
【0123】
【表2】
【0124】
上記表2の反射率の計算値は、表1の光吸収係数を考慮した結果である。表2から判るようにa−Si(アモルファスシリコン)の様な大きな吸収係数を持った誘電体材料を用いると反射率を上げることが難しい。以上述べた様に、本発明の実施例の面発光型半導体レーザ装置に用いる誘電体多層膜ミラーは、閾電流値を下げ発光効率を上げるために、発振波長に対して100cm−1以下の光吸収係数を有する誘電体材料を用いてミラーを形成することが好ましく、より好ましくは60cm−1以下の光吸収係数であることがよい。
【0125】
次に、発振閾値が低く、効率の高い面発光型半導体レーザ装置を実現するために必要な更なる条件について説明する。
【0126】
図17Aは、図1に示した本発明の実施例を示す面発光型半導体レーザ装置の断面構造を模式的に示した図である。図17A中、図1と同じ符号は同一の構成をさし、1701はほぼ共振器長を示し、1702は注入電流の流れを模式的に示している。面発光型半導体レーザ装置は、誘電体多層膜ミラー111とDBRミラー103との間でファブリ・ペロー共振器を形成し、この共振器内に立つ定在波の波長で発振する事が可能である。共振器長1701は、誘電体多層膜ミラー111とDBRミラー103との間の膜厚でほぼ決定されるが、DBRミラー103への光の侵入があるので実効的な共振器長(以下これを「Leff」と記す)は1701で示す長さより長いものになる。この実効的な共振器長Leffは、反射率を調べることで直接に測定することが可能である。
【0127】
図17Bは、図1および図17Aに示す本実施例の面発光型半導体レーザ装置を形成するための半導体層を有するウェハ(以下、単に「半導体積層ウェハ」ともいう)を用いて形成されたストライプ型の端面発光型半導体レーザ装置の一例を示す。すなわち、この端面発光型半導体レーザ装置200は、図22Aに示したように、基板102上に、DBRミラー103、第1クラッド層104、量子井戸活性層105、第2クラッド層106およびコンタクト層109が積層された半導体積層ウェハの一部を切り出し、さらにコンタクト層109上に絶縁層120および上側電極121を形成し、基板102の下に下側電極101を形成することにより、得られる。この端面発光型半導体レーザ装置は、後述する利得のピーク波長を求めるためのサンプルとなる。また、端面発光型半導体レーザ装置としては、ストライプ−埋め込み型端面発光レーザおよびメサ−ストライプ型端面発光レーザ等を用いることもできる。
【0128】
図18は、DBRミラーの反射率スペクトル(曲線1801)と、ウエハ(半導体積層ウェハ)の反射率スペクトル(曲線1802)と、前記端面発光型半導体レーザ装置200の発振スペクトル(曲線1803)を測定した結果を示したものである。図18において、曲線1801および1802に対する縦軸は反射率を示し、曲線1803に対する縦軸は発光強度を示し、横軸は波長を示す。
【0129】
曲線1801においては、反射率が99.2%以上の領域は波長792nmから833nmまである。この半導体積層ウエハの場合、面発光型半導体レーザ装置の発振波長を800nmに設計してある。
【0130】
面発光型半導体レーザ装置の低閾値化と高効率化を達成するためには、この3つのスペクトルが特定の条件を満足する必要がある。
【0131】
[第1の条件]
まず第1の条件は、発振波長に対してDBRミラーの反射率が充分に高い必要がある。DBRミラーの反射率のピークはDBRミラーを構成する半導体層(Al0.8Ga0.2As/Al0.15Ga0.85As)の膜厚を正確に制御する事によって得られ、ピーク反射率の値はDBRミラーの対数を多くする事によって上げることが出来る。ところで、通常ウエハ面内で結晶層の膜厚は完全に均一ではないので、DBRミラーの反射率スペクトルはウエハ面内で短波長側と長波長側に分布を持っている。従って、Al0.8Ga0.2AS/Al0.15Ga0.85ASのDBRミラーの反射率は、発振波長に対して±20nmの領域で少なくとも99.2%以上の反射率を持っていないと、ウエハ面内でレーザ発振を起こさない領域が生じてしまう事になる。本実施例においてはDBRミラーとして40ペアの半導体層を積層してあるので、図18の曲線1801から明らかなように、ウエハ面内で例えば±2.5%の膜厚の分布があっても、狙った発振波長でレーザ発振を起こさせることが可能である。
【0132】
また、DBRミラーの反射率は、ミラーを構成する半導体層(Al0.8Ga0.2AS/Al0.15Ga0.85AS)の各層のドーピング量によっても変動する。これは、各層のドーピング量が増加すると、発生する自由キャリアによる光の吸収損失が無視できなくなるためである。
【0133】
特に、本実施例におけるAl0.8Ga0.2AS/Al0.15Ga0.85ASのDBRミラーでは、n型ドーパントであるSeのドーピング量が1×1019cm−3より多くなると、ペア数を40ペアにしても上記の設定波長±20nmで99.2%以上の反射率を得ることは難しくなる。従って、各層のドーピング量は1×1019cm−3以下にすることが好ましい。表3にDBRミラーへの平均ドーピング量と反射率の関係を示す。
【0134】
【表3】
【0135】
しかし、DBRミラーのドーピング量を下げることは、DBRミラーの電気抵抗を高くすることになり、DBRミラー内に電流を流す面発光型レーザにおいては、素子抵抗を増加させる要因となる。本実施例の面発光型レーザは、DBRミラーを柱状にエッチングをしない構造であるため、駆動電流はDBRミラー全体に広がり、DBRミラーの抵抗増加によるレーザ素子の抵抗増加への影響は少ない。しかし、DBRミラー各層へのドーピング量が5×1016cm−3より少なくなると、本実施例の構造においてもDBRミラーの抵抗が、上部コンタクト層と電極のコンタクト抵抗とほぼ同程度の大きさとなるため、素子抵抗への影響を無視できなくなる。従って、DBRミラーを構成する各層へのドーピング量には好適な範囲が存在し、その範囲は、5×1016cm−3以上1×1019cm−3以下となる。また、1つの基板から発振波長の異なる面発光型レーザを作製するといった発振波長の自由度などから、より好適には5×1017cm−3以上5×1018cm−3以下にすることが望ましい。
【0136】
更に、本実施例におけるDBRミラーについては、ドーピング量に関し以下の構成を有することが望ましい。すなわち、DBRミラーを構成する第1の層(アルミニウムの濃度が高い層)と、この第1の層よりもバンドギャップが小さく屈折率の異なる第2の層(アルミニウムの濃度が低い層)との界面近傍のキャリア濃度を界面近傍以外の領域よりも高くすることが望ましい。ここで「キャリア濃度」とは、不純物のドーピングによって発生した電子または正孔等のキャリア濃度をいう。キャリア濃度は、ドーピング量を変えることにより変化させることができる。具体的には、界面近傍のキャリア濃度の最大値は、界面近傍以外のキャリア濃度の最小値の1.1倍以上、100倍以内の値を取ることが好ましい。また、界面近傍のキャリア濃度の最大値は、5×1020cm−3以下の値を取ることが好ましい。
【0137】
このようにDBRミラーを構成する第1の層と第2の層とのヘテロ界面に、キャリア濃度の高い部分を形成することにより、電子および正孔のトンネル伝導を増進させることができ、従って不連続なバント構造が改善され、低抵抗のDBRミラーを構成することができる。また、このようなヘテロ界面でのキャリア濃度を高くすることによってミラーの屈折率分布は大きく影響されないので、ミラーの反射率が低下することはない。
【0138】
次にこのようなDBRミラーを製造するにあたっては、ドーパント原料を経時的に変化させる方法、所定のタイミングで成長表面に紫外線を照射する方法、経時的にV族原料とIII族原料との比率を変化させる方法、などを採用することにより、キャリア濃度を所定の界面近傍においてのみ高くすることができる。
【0139】
以下に、実験データによりこのようなDBRミラーについてさらに詳細に説明する。
【0140】
まず、DBRミラーの成長プロセスについて述べる。図35は、DBRミラーの原料であるTMGaとTMAlの流量変化およびn型ドーパントの原料であるH2Seの流量変化を示したタイミングチャート図である。この例においては、TMGaを一定に供給していることから、TMAl流量の高い成長部分がn型Al0.8Ga0.2As層を、TMAl流量の低い成長部分がn型Al0.15Ga0.85As層を構成することになる。ここで、各層の厚みは、層中を伝搬する波長800nmの光の1/4波長分になるように制御されている。また、ドーパントとしてのH2Se流量の高い部分はn型キャリアを高濃度にドープさせたい成長部分を、またH2Se流量の低い部分はn型キャリアを低濃度にドープさせたい成長部分を示している。流量の変化は、MOVPE装置において、H2Se流量の高いラインと低いラインとをコンピュータ制御のバルブを切り替えることによって、所定の界面へのドーパント量を制御している。また、この実施例では、ドーパントSe量の高い部分はTMAl流量の高い成長部分、すなわちn型Al0.8Ga0.2As層中のn型Al0.15Ga0.85As層との界面近傍において形成され、そしてSeの濃度は、TMAl流量の低い成長部分、すなわちn型Al0.15Ga0.85As層との界面で急峻に低下するように制御されている。
【0141】
このようにして得られたDBRミラーの一部をSIMS(二次イオン質量分析)法で評価した結果を図36に示す。図36において、縦軸はAlおよびSeの二次イオン数を示しており、層中に含まれる原子の量およびキャリアの数に対応している。横軸はDBRミラーの一部における膜厚方向の深さを示す。
【0142】
図35と図36とを対比すると、n型ドーパントであるSeの濃度が、第1の層(n型Al0.8Ga0.2As層)中の第2の層(n型Al0.15Ga0.85As層)との界面近傍において急峻に増加しており、所定通りのドーピングが行われていることが確認された。
【0143】
次に、図37に示すDBRミラーのエネルギーバンドの模式図を用いて、本実施例の作用について説明する。図37Aは、本実施例において、Seの濃度を第1の層の第2の層との界面近傍で急峻に高めた場合を示し、図37BはH2Seの流量を低濃度に一定に供給した以外は本実施例と同様にして作成した場合を示している。両者を比較すると、本実施例においては、界面近傍のキャリア濃度が高まった結果、伝導帯の障壁が薄くなり、その結果電子がトンネル伝導しやすくなるため多層膜に垂直な方向の電気抵抗が減少することが理解される。なお、ここでドーピングによってキャリア濃度を高めているは層の界面近傍に限定されていることから、高濃度のドーピングによる膜質の実質的な悪化はない。
【0144】
界面近傍のキャリア濃度を高める方法としては、上述したドーピング量を制御する方法の他に、紫外線などの光を照射する方法を用いることもできる。
【0145】
具体的には、キャリア濃度を高めたい部分の成長時に紫外光を照射する。図38は、DBRミラーの成長時におけるTMAlの流量変化および光照射のタイミングチャート図である。TMAl流量の高い成長部分が第1の層(n型Al0.8Ga0.2As層)を、TMAl流量の低い成長部分が第2の層(n型Al0.15Ga0.85As層)を構成する。ここで、各層の厚みは、層中を伝搬する波長800nmの光の1/4波長分になるように制御されている。また、この実施例においては、紫外光の照射は、TMAl流量の高い成長部分、すなわち第1の層中の第2の層との界面近傍で行われている。そして、n型ドーパントとしてはH2Seのかわりにテトラメチルシラン(TMSi)を用いる。
【0146】
このようにして得られたDBRミラーの一部をSIMS法で評価した結果を図39に示す。図39において、縦軸はAlおよびSiの二次イオン数を示しており、膜中に含まれる原子の量およびキャリア数に対応している。横軸はDBRミラーの一部における膜厚方向の深さを示している。
【0147】
図38と図39とを対比すると、紫外光を照射した層で、n型ドーパントであるSiの濃度が急激に増加しており、キャリア濃度の高い層となっていることがわかる。これは、以下の理由による。すなわち、ドーピング原料であるTMSiは、熱的に極めて安定で熱分解しにくいが紫外領域に吸収帯を有するため、紫外光の照射により容易に光分解が行われる。従って、紫外光を照射した場合は紫外光を照射しない場合に比べ、成長層のSi濃度が急激に上昇し、実質的にn型ドーピング物質の供給量が増加したことになる。そして、上述したSeドーパントの場合と同様に、DBRミラーを構成する層の界面近傍のキャリア濃度が高まった結果、伝導帯の障壁が薄くなって電子がトンネル伝導しやすくなり、従って多層膜に垂直な方向の電気抵抗が減少することになる。また、ここでドーピングによってキャリア濃度を高めているのは層の界面近傍のみであること、更に光照射が膜質の改善に寄与することから、高濃度のドーピングによる膜質の実質的な悪化はない。
【0148】
上述した界面ドープにおいては、ドーパント材料としてSe,Siの他にも、S,Se,Te,Zn,C,Be,Mg,Caなどを用いることができる。また、TeやMgなどのGaAs系でドーピング効率の低い材料を用いるときは、高濃度のドーピングを行いたい箇所でV族原料であるAsH3の流量をコントロールしてIII族原料との割合(V/III)を変えることにより、ドーピング効率を制御することができる。
【0149】
更に、ヘテロ界面のキャリア濃度を制御する方法としては、上述のようにバンドギャップの大きい層において界面近傍のキャリア濃度を高めることに限定されず、バンドギャップの小さい層において界面近傍のキャリア濃度を高めても良く、更にバンドギャップの大きい層と小さい層との両者における界面近傍のキャリア濃度を高めても良い。更に、キャリア濃度の分布と、多層膜の反射率,多層膜の垂直方向の電気抵抗および多層膜の結晶性との関係について詳細に検討したところ、キャリア濃度を高くする界面近傍の領域の厚さは、一対を成す、バンドギャップの大きい第1の層とハンドギャップの小さい第2の層とを合わせた厚さの1/3以内にすることが好ましい。キャリア濃度の高い領域をこれ以上の厚さにすると、結晶性が悪くなることが確認された。また、DBRミラーの抵抗を小さくするためには、高濃度のドーピングと低濃度のドーピングのタイミングを瞬時に切り替えることが望ましいが、ドーピング材料によってはこの操作によって結晶性が若干悪くなることが確認された。この場合、ドーピング量を急峻に切り替えるのではなく、界面近傍以外にドーピングするときの原料の供給量から界面近傍にドーピングするときの原料の供給量に至るまで原料の供給量を連続的に変化させることが望ましい。すなわち、界面近傍に所定のドーピング濃度でドープする前に、界面近傍のドープ時間の1/2以内の時間をかけて、ドーピング量を直線的、2次関数的もしくは3次関数的にドーピング量を変化させることにより、結晶性の低下を抑制することができる。
【0150】
[第2の条件]
次に、第2の条件は、前述した共振器長の中の定在波の波長が、面発光型半導体レーザ装置の発振波長になるので、実効的な共振器長は共振器内の発振波長の1/2の整数倍である(これを「モードの共鳴条件」と呼ぶ)。図18に示す曲線1802を見ると、図中に示したλEMの波長でスペクトルに明瞭なディップが観測されることが判る。このディップは、DBRミラー上に形成された半導体層で、波長λEMにおいて定在波が立ち、その波長の光が共振器内で共鳴的に吸収されたことを示す。従って面発光型半導体レーザ装置用の半導体積層ウエハの反射率スペクトルを測定すれば、前述の実効共振器長Leffを直接に測定できる。前述のモードの共鳴条件とは、この波長λEMが曲線1801で示すDBRミラーの反射率スペクトルの高反射率帯(ピーク)の中に含まれていることを意味している。
【0151】
[第3の条件]
そして、第3の条件は、活性層の利得のピーク波長が、前述のモード共鳴条件における定在波の波長λEMに対して短波長側に位置している必要があるということである。図18の曲線1803は、曲線1802のスペクトルが得られたのと同じ半導体積層ウェハを用いて作製された端面発光型半導体レーザ装置200(図17(B)参照)のレーザ発振スペクトルを測定したものである。ここで、曲線1802が得られる面発光型半導体レーザ装置と端面発光型半導体レーザ装置200は、n型クラッド層、活性層およびp型クラッド層が同じ半導体層から形成されているので、曲線1803は、端面発光型半導体レーザ装置の活性層の利得スペクトルを表すとともに、面発光型半導体レーザの活性層の利得スペクトルも表していることになる。利得スペクトルのピーク波長を図中でλGと表記している。λEMとλGの波長の差を△λBSと表記する。本実施例の第3の条件は、λGがλEMより必ず短波長側にあり、且つ、その差△λBSが20nm以内にあることである。
【0152】
この第3の条件は、本願出願人が初めて明らかにする重要な特徴である。以下に、この第3の条件が、なぜ本発明の面発光型半導体レーザ装置に必要不可欠な条件であるかを詳述する。
【0153】
図19Aは、前記端面発光型半導体レーザ装置200の発振波長とケース温度との関係を示した図である。図19Bは、図19Aの元になった測定結果であり、各ケース温度における発振スペクトルを示したものである。ここにおいて、ケース温度とはレーザ装置が実装されているパッケージの温度であり、ケース温度とレーザ装置の温度とは実質的に同じであると考えて良い。
【0154】
図19Aから明らかなように、温度上昇に対して、発振波長がほぼ直線的に長波長側にシフトする。その変化率△λ/△Tは2.78オングストローム/°Cである。これは温度上昇により利得スペクトルのピーク波長が長波長側にシフトする為である。
【0155】
一方、面発光型半導体レーザ装置の場合の発振波長とケース温度の関係を図20Aに示す。端面発光型半導体レーザ装置と同様に、温度上昇に対して、ほぼ直線的に発振波長が長波長側にシフトする。これは、前述した通り、面発光型半導体レーザ装置の発振波長は、実効共振器長によって決ってしまう為に、温度上昇によって共振器を構成する半導体の屈折率が変化することで発振波長が長波長側にシフトすることによるものである。ただし、その変化率△λ/△Tは0.41オングストローム/°Cであり、前記端面発光型半導体レーザ装置に比べると約1/7と小さい。従って、面発光型半導体レーザ装置の場合には、温度上昇によって、利得スペクトルのピーク波長が、屈折率の変化による発振波長の変化よりも大きく長波長側に動くことになる。
【0156】
図20Bは面発光型半導体レーザ装置の接合温度(ジャンクション温度)および発振波長が直流電流の注入によって、どの様に上昇するかを測定したものである。図20Bから明らかなように、注入電流密度の2乗に比例して、接合温度が上昇しており、前述のケース温度の上昇と同じように、電流注入によって利得スペクトルのピークおよび発振波長が長波長側にシフトすることになる。この場合も利得スペクトルのピーク方が発振波長より大きく長波長側にシフトする。従って、電流注入によってレーザ発振を起こし、かつその閾電流を小さくして高い効率を得るためには、予め利得スペクトルのピークを、実効共振器長によって決まるレーザの発振波長より短波長側に設定する必要がある。この予め設定される波長差(△λBS)を、以下「ゲインオフセット量」と表す。何故なら、利得スペクトルのピークが発振波長より長波長側にあると、電流注入によって利得スペクトルのピークが長波長側にシフトしてしまい、レーザ発振に必要な利得が減少してしまうからである。但し、利得スペクトルのピークを余りに大きく短波長側に設定すると、電流注入によって利得スペクトルのピークが長波長側にシフトしたとしても、発振波長での利得が小さくなりすぎて最初からレージングを起こさなくなってしまう。
【0157】
本出願人の実験によれば、ゲインオフセット量△λBSが20nmより大きいとレーザ発振せず、5nmより小さいと光出力がすぐに飽和してしまい、したがって△λBSは5nmから20nmの間にあることが望ましい。
【0158】
そして、このゲインオフセット量△λBSの数値範囲の根拠について、図21を用いて説明する。図21において、縦軸は閾値電流Ithを示し、横軸はゲインオフセット量△λBSを示す。本実施例において、例えば共振器部の直径Daが8μmの場合に、電流密度を例えば最大レベルの10kA/cm2とする閾電流は、5mAである。この閾電流を考慮すると、図21から面発光型半導体レーザ装置が連続駆動を行う限界のゲインオフセット量△λBSは約20nmである。一方、図21から、ゲインオフセット量△λBSが約5nmより小さいと閾電流が上昇し、光出力がすぐ飽和する。このことから、ゲインオフセット量△λBSは、好ましくは5〜20nmであり、さらに好ましくは5〜15nmであり、最も好ましくは10〜15nmである。図21は、共振器部の直径Daおよび開口部の径Dwの値を特定して得られたデータを示すが、DaおよびDwが異なったとしても本実施例のDaおよびDwの範囲では発振閾電流密度はほぼ同じであるため、第3の条件はDaおよびDwにほとんど依存せずに成立する。
【0159】
また、面発光型半導体レーザ装置の温度が変化すると、前述のように、面発光型半導体レーザの利得スペクトルのピーク波長も変化する。したがって、前述のλGの測定は、面発光型半導体レーザ装置を使用する温度付近で測定される。
【0160】
以上スペクトルに関する条件について述べたが、更に、面発光型半導体レーザ装置に必要な特性として、基本横モードでレーザ発振し、それが注入電流を増加させても変化しないことが要求される。高次横モードでレーザ発振すると、放射ビームが単峰性にならずに複雑な構造を持ち、これを光学的に集光したり、結像したりすると、分布のある結像となり実用に供さない。図24A,Bに、本発明の構造の面発光型半導体レーザ装置の発振光の横モード特性に関する測定の結果を示す。図24AはDa=8μm、Dw=6μmの面発光型半導体レーザ装置の発振光の遠視野像を等高線表示した測定結果である。この場合、等高線は面発光型半導体レーザ装置からの放射角度による分布を示している。図24Bは同様の測定によって得られた、Da=13μm、Dw=10μmの面発光型半導体レーザ装置の場合の遠視野像の結果である。図24Aに示す遠視野像においては、半値放射角8度の真円状のレーザビーム形状となり、基本横モードで発振していることを示している。これに対して、図24Bに示す遠視野像は、双峰状の形状となり、高次横モードで発振していることを示している。
【0161】
従って、図24A,Bから明かな様に、レーザの横モード特性は共振器径(Da)と開口部径(Dw)の大きさによって大きく異なる。前述した通り、放射光は基本横モードである必要があり、そのためには、共振器部の径をある大きさ以上にする事は好ましくない。また、発振する光の出力は、共振器の大きさが大きい程、出射面での光強度密度が小さくなるので、高い光出力を得るのに有利である。従って、共振器の大きさを小さくしすぎることも好ましくない。表4にDa、Dwの大きさと横モードおよび発振可能な光出力の関係を示す。
【0162】
【表4】
【0163】
表4から明かな様に共振器部114の径Daが12μmを越え、開口部113の径Dwが10μmを越えると横モードは高次となり、放射光は単一峰とならずに複数のピークのある構造を持つ。また、Daが6μm以下、Dwが4μm以下であると最大光出力は0.5mW程度しか得られない。更に、Daが12μm、Dwが8μmであると、注入電流を増加させていくと、比較的低い電流値で横モードが高次モードに移ってしまい、光出力に不安定な領域ができる(以下、これを「キンクの発生」と記述する)。従って、本発明の実施例に於いては、Daは6μm〜12μmであり、Dwは4μm〜8μmであることが基本横モード発振の条件であり、更に好適には、Daは7μm〜10μmであり、Dwは5μm〜7μmである。
【0164】
次に、図1の第2クラッド層106の共振器を形成している部分の膜厚が、レーザ装置の低閾値化にどの様に影響するか、実験例に基づき説明する。図17に示す通り、本発明の面発光型半導体レーザ装置の構造に於いては、リング状の上側電極112から活性層105に電流を注入する。レーザ発振は最も大きな利得を得る共振器中央付近で起こる。これは共振器中を往復する光は、共振器周辺部では上側電極および共振器界面における光損失が大きいため、中央付近で最大利得を得るためである。しかし注入電流は上側電極から第2クラッド層を介して活性層に流れるため、共振器内部では不均一な電流密度分布を生ずる。従って、共振器中央部でレーザ発振に充分な注入電流によるキャリア密度を得るためには、第2クラッド層の膜厚は適正に選択される必要がある。そして、前記注入キャリア密度が不十分であると、閾電流が増大する。
【0165】
図25Aは本実施例のレーザ装置で第2クラッド層106の膜厚が1.0μmの場合の発光近視野像、図25Bは第2クラッド層106の膜厚が0.3μmの場合の発光近視野像を計測したものである。また、下段の各図は、図中のラインa−aおよびb−bにおける光強度を示している。図25Aは、レーザ発光の近視野像である。図25Bは、レーザ発振に至らない、自然放出光の近視野像を示す。図25Bから明かなように、第2クラッド層の膜厚が薄いと注入キャリアの不均一は大きく、上側電極112(コンタクト金属)に対応する位置に多く分布し、つまり、上側電極付近で注入キャリアが再結合して発光してしまい、共振器中央付近の注入キャリア密度は大きくならない。そのためにレーザ発振の閾値に達する前に、光出力は熱飽和してしまう。これに対し図25Aのように第2クラッド層106が充分な膜厚を持っていると共振器内部に均一な注入キャリア密度が得られるため、共振器中央付近において最大利得を得ることができ、レーザ発振に至っている。
【0166】
従って、クラッド層は、本発明の面発光型半導体レーザ装置の構造の場合、その厚さが薄くなりすぎては、注入キャリアの不均一を生じ、その結果レーザ発振の閾電流の増大を招き、レーザ発振そのものに至らない場合がある。図26に、第2クラッド層106の膜厚が0.3μmの場合と2.0μmの場合のI−L特性の測定結果を示す。曲線(a)は膜厚が0.3μmの場合を示し、この場合、注入電流を上げてもレーザ発振には至らず自然放出光のみで光出力は飽和してしまっている。これに対して曲線(b)で示す膜厚が2.0μmの場合、3mAの閾電流値でレーザ発振を開始し、0.35W/Aのスロープ効率で最大光出力1.5mWまで発振可能である。
【0167】
しかし、第2クラッド層の膜厚が厚くなりすぎると、デバイスの素子抵抗が高くなって消費電力の増大を招き、光出力の熱飽和が低い注入電流で起ってしまうという問題や、デバイス全体の膜厚が増すことによって結晶成長に長い時間を要し、ウェハの製造効率を下げるといった問題が発生する。本実施例においては、第2クラッド層の膜厚は3.5μm以上にすると素子抵抗が100Ωを越え、光出力の最大値が低下する。図27に、第2クラッド層の膜厚が2.0μmの場合と4.0μmの場合のI−L特性を示す。曲線(a)は膜厚が2.0μmの場合であり、曲線(b)は膜厚が4.0μmの場合である。図27から明かなように、第2クラッド層の膜厚が厚くなりすぎると第2クラッド層の抵抗が増し、注入電流を大きくしていくと素子の温度上昇により光出力の熱飽和が低い電流値で起るようになる。
【0168】
このように第2クラッド層の膜厚には最適な厚さがあり、本発明においては好ましくは0.8μm〜3.5μmであり、更に好ましくは1.0μm〜2.5μmである。
【0169】
さらに第2クラッド層内での注入キャリアを均一にし、活性層で均一な注入キャリア密度を得るためには、第2クラッド層の比抵抗を下げることも効果がある。クラッド層の膜厚が薄い場合においても、比抵抗を下げ、注入キャリアの拡散を良くすることにより、第2クラッド層の膜厚を増加したことと同様な効果が得られる。表5に第2クラッド層を構成するAl0.7Ga0.3As層の厚さが1μmのときの比抵抗との注入キャリアの拡散長を示す。
【0170】
【表5】
【0171】
面発光型レーザの開口部の直径Dwが8μm程度の場合、注入キャリアの拡散長も同程度がよく、この関係を考慮すると、表5より、比抵抗は2×10−1Ω・cm以下にすることが好ましいことがわかる。しかし、前記DBRミラー中のドーピング量の時と同様に、第2クラッド層も、ドーピング量を多くしてその比抵抗を7×10−3Ω・cmより小さくすると、ドーピングにより発生した自由キャリアによる光吸収が無視できなくなり、発光効率が低下してしまう。従って、第2クラッド層の比抵抗は、7×10−3Ω・cm〜1×10−1Ω・cmにすることが好ましい。
【0172】
また、前記第2クラッド層の好ましい厚さの範囲と前記第2クラッド層の好ましい比抵抗範囲の両方を満たしていることがより好ましい。
【0173】
次に、前述の様な低閾電流を持ち、外部微分量子効率の高い面発光型半導体レーザ装置を実現するための製造方法について詳述する。これまで述べてきたように、結晶成長によってDBRミラー層、多重量子井戸構造を形成するので、結晶成長技術が本発明の面発光型半導体レーザ装置において最も重要な要素のひとつである。結晶成長技術には、
(1)ヘテロ界面が原子層オーダーで急峻であること
(2)広い面積にわたって膜厚の均一性が高いこと
(3)膜厚、組成およびドーピング効率の再現性が高いこと
等が必要な要件である。特に(1)の界面の急峻性が、面発光型半導体レーザ装置の特性の向上の為には重要である。化合物半導体の結晶成長技術において界面の急峻性を確保する方法には、分子線エピタキシー法(MBE法)、有機金属気相エピタキシー法(MOVPE法)がある。液相エピタキシー法(LPE法)は高純度の結晶成長が可能であるが、液相から固相への成長方法であるのでヘテロ界面の急峻性を実現する事は困難で、面発光型半導体レーザ装置の製造方法には適さない。これに対しMBE法とMOVPE法はそれぞれ分子線、気相から固相への成長方法であるので原理的には原子層オーダーの界面急峻性が得られる。
【0174】
しかしMBE法は分子線からの結晶形成であり成長速度を高めることはできず、0.1〜1オングストローム/秒といった比較的遅い成長速度しか得られず、面発光型レーザの様に数μm程度のエピタキシャル層を必要とする結晶成長には不向きである。またMBE法は、その製造装置の構造上、大面積において均一かつ高品質に結晶成長させることは非常に難しく、また原料の充填量の制約から、連続した結晶成長の回数にも制限がある。このことは、結晶成長のスループットを制限する点であり、基板の量産を難しくする要因となっている。
【0175】
これに対し、本実施例で用いているMOVPE法は、前述した、量子井戸構造の膜厚とピーク波長の関係(図10参照)で示したように、MBE法と同等の原子層オーダのヘテロ界面の急峻性が得られており、また、気相成長であるため原料の供給量を変化させることにより、0.1〜数10オングストローム/秒の成長速度を得ることができる。
【0176】
また、(2)の膜厚の均一性については、成長装置の反応管形状を最適化することにより、図28に示すように、例えば直径が3インチ円形基板のほぼ75%の面積で、±2%の膜厚分布が得られることが確認された。
【0177】
(3)の再現性の点では、MBE法やMOVPE法は成長の制御性が原理上よいので、膜厚、組成およびドーピング効率の再現性が高い。
【0178】
従って、本発明の面発光型半導体レーザ装置を実現する結晶成長方法はMOVPE法が好ましい。
【0179】
(3)の点については、MOVPE法で、以下に示す製造方法を組み合わせることにより、さらに再現性かつ制御性よくエピタキシャル層を作製することができる。
【0180】
図29は、MOVPE法が適用され、かつ結晶成長中にエピタキシャル層の反射率を常時測定することが可能な成膜装置の一例を示したものである。この成膜装置は、横型水冷反応管を用いたMOVPE装置において、成長基板上部の水冷管部分を無くし、反応管外部から成長基板上に光を入れることが可能な窓をもつ構造を特徴としている。
【0181】
つまり、このMOVPE装置は、原料ガスが供給されるガス供給部10aおよびガス排出部10bを有する反応管10の周囲に、内部に水を通すことによって反応管を冷却する冷却部12が設けられている。反応管10の内部には基板Sを載置するためのサセプタ14が設けられ、このサセプタ14の基板載置面に面する部分の反応管10壁面に窓16が設けられている。窓16の上方には光源18および光検出器20が設置され、光源18から出射された光は窓16を介してサセプタ14上の基板Sに到達し、その反射光は再び窓16を介して光検出器20に到達するように構成されている。
【0182】
そして、光源18からの光は基板S上にほぼ垂直(最大5°)に入射するように設定され、その反射光を光検出器20によって測定することにより、基板S上にエピタキシャル成長を行いながら、同時に生成するエピタキシャル層の反射率の変化を測定することができる。
【0183】
本実施例では、DBRミラーの中心波長を発振波長とするため、光源18としては前記中心波長800nmと同じ800nmの発振波長の半導体レーザを用いた。なお、この光源18として800nmの波長と異なる半導体レーザや分光器等を用いた波長可変光源を用いることにより、任意の波長の反射率を測定することも可能である。
【0184】
前述した、DBRミラーの反射率と面発光型半導体レーザ装置の発光特性との関係(図18参照)から、DBRミラーは所定の波長で99.5%以上の反射率を持つことが望まれている。これを満たすためには、DBRミラーを構成する各層の厚さがλ/4nでなければならない。ここで、λは所定波長、nは所定波長での屈折率を示す。
【0185】
従来の結晶成長方法では、各層の膜厚は結晶成長速度と成長時間で制御している。しかし、この方法では幾つかの問題を有する。第1の問題は、この方法では結晶の成長速度を常に一定にしなければならなく、成長速度が揺らぐとDBRミラーのペア数を増やしても99.5%以上の反射率を得ることは難しいことである。また、第2の問題は、膜厚を決定する要因として、屈折率nの値があるが、半導体層は波長によって屈折率も変化するため、所定の波長での各層の屈折率も厳密に測定しなければならず、そしてこの測定は非常に困難であることである。さらに、第3の問題は、反射率は結晶成長終了後のウェハを反応管外に取り出して測定するので、DBRミラーより上部の構造を含んだ反射率しか測定できず、DBRミラー単体の反射率が測定できないことである。
【0186】
これらの問題点は、先の反射率を測定しながらMOVPE法でエピタキシャル成長を行なうことで解決できる。以下に、そのメカニズムを説明する。
【0187】
図30は、本実施例の面発光型半導体レーザ装置を構成するDBRミラー103を図29に示す成膜装置を用いてMOVPE成長させる工程において、エピタキシャル層の反射率の経時的変化を示したものである。
【0188】
図30から明らかなように、GaAs基板上に初め低屈折率n1のAl0.8Ga0.2Asを積層すると膜厚が増加するにつれ反射率が減少する。膜厚が(λ/4n1)になると極小点(1)を向かえるので、この極小点をモニタして、高屈折率n2のAl0.15Ga0.85Asの堆積に切り替える。そして、Al0.15Ga0.85As層の膜厚が増加すると反射率は増加していくが、膜厚が(λ/4n2)になると極大点(2)に到達するので、再び低屈折率n1のAl0.8Ga0.2Asの推積に切り替える。この操作を繰り返すことにより、DBRミラーは、その反射率が低反射率および高反射率をくり返しながら変動し、反射率が増加していく。
【0189】
この反射率プロファイルは、結晶の成長速度や成長時間に依存せず、各層の膜厚および屈折率に依存している。従って、反射率プロファイルの極大点および極小点(1次微分値0)で積層する層のAl組成を変更し、屈折率の違う層を交互にエピタキシャル成長させることにより、各層が理論通りの厚さ(λ/4n)を持ったDBRミラーが得られる。また、反射率を測定するための入力光の光源として所定の発振波長を持つ半導体レーザを選ぶことにより、λを厳密に設定できることから、各層の膜厚から屈折率nも求めることもできる。
【0190】
さらに、DBRミラー自体の反射率を結晶成長中に測定できることから、層形成中にDBRミラーのペア数を変更したり、構造の最適化がはかれる。
【0191】
また、DBRミラーの成膜中に行われる反射率測定から得られるDBRミラーの各層の成長速度を元にして、DBRミラーより上部の各層の膜厚も制御できることから、結晶成長速度を測定できない従来の成膜方法に比べ、再現性がよく、かつスループットが高い方法で、結晶成長基板を作製できる。実際に、本実施例の成長方法により、面発光型レーザ素子に必要な99.5%以上の反射率を持つDBRミラーが制御性よく得られた。
【0192】
上述した、層の反射率をモニタして結晶層の膜厚を制御する方法は、MOVPE法だけでなく、他の成膜プロセス、例えばMBE法などにも使用できる。
【0193】
次に、柱状共振器部をRIBE法で形成する工程に、上述した反射率をモニタする手段を使用した実施例について述べる。
【0194】
前述したように、共振器部114の作製には、垂直側面が得られ、かつ表面ダメージの少ない点から、RIBE法によるエッチングを行っている。この柱状共振器部の形成において重要なポイントは、エッチング深さ、つまり第2クラッド層106の残り膜厚tを制御することである。この残り膜厚を管理して、所定の厚さにしなければならない理由は先に記した。
【0195】
RIBE法によるドライエッチングを行いながら、残り膜厚を測定する方法を、以下に具体的に示す。
【0196】
図31に、エッチングしなからエピタキシャル層の反射率を測定できるRIBE装置の一例の概略図を示す。
【0197】
このRIBE装置は、エッチング室30に、プラズマ室40および排気手段を構成する真空ポンプ32が接続されている。エッチング室30は、前記プラズマ室40に対向する位置に基板Sを載置するためのホルダ34を有する。このホルダ34は、ロードロック室50を介して進退自由に設けられている。エッチング室30のプラズマ室40側の側壁には、窓36および38が対向する位置に設けられている。そして、エッチング室30内には、前記窓36および38を結ぶライン上に一対の反射ミラーM1およびM2が設けられている。一方の窓36の外方には任意の波長を有する光源26が設置され、他方の窓38の外方には光検出器28が設置されている。また、プラズマ室40は、マイクロ波導入部44および反応ガスをプラズマ室40に供給するためのガス供給部46および48が連結されている。そして、プラズマ室40の周囲にはマグネット42が設けられている。光源26としては、分光器を通した光等、任意の波長を有する光を用いることができる。
【0198】
このRIBE装置においては、通常の方法によって基板S上に形成された結晶層をエッチングするとともに、光源26から照射される光を窓36および反射ミラーM1を介して基板S上に照射し、その反射光を反射ミラーM1および窓38を介して光検出器28によって測定することにより、基板S上の結晶層の反射率または反射スペクトルをモニタすることができる。
【0199】
次に、図32A〜Cに基づいて、エッチング中の第2クラッド層の残り膜厚tの測定方法を具体的に説明する。
【0200】
エッチング前状態(図22Aで示す状態)での共振器を構成するエピタキシャル結晶層は、図32Aに示す様な反射スペクトルを示す。このスペクトルは、図18に示されるスペクトル1802と同様である。そして、このスペクトルの特徴は、ある波長λoにおいて反射率が低下すること、つまりディップ(Do)が存在することである。
【0201】
このディップ(Do)の波長λoは、DBRミラーから上の結晶層の膜厚に対応することから、エッチングにより膜厚が薄くなると、ディップ(Do)も短波長側に移動して波長λ′となる(図32B参照)。
【0202】
さらに、長波長側に次のディップ(D1)(波長:λ″)が発生し、これが短波長側の波長λ1へと移動する(図32C参照)。さらにエッチングを続けると、再び長波長側に新たなディップが発生し、ディップの移動と発生が繰り返えされる。エッチング前の状態から、a個めのディップの波長をλaとすると、この時のエッチング量△aは下記式(3)で表される。
【0203】
【数3】
【0204】
式(3)において、Θは構造から決まる定数で、本実施例では1/2または1/4、nはエピタキシャル層の平均屈折率、である。
【0205】
このようにエッチングによりディップが短波長側にシフトして高反射率帯からはずれても、長波長側に次の縦モードに対応するディップが発生し、これがさらに短波長側にシフトするので、エッチング中に高反射率帯域に存在するディップの数および波長移動量を測定することにより、エッチング量およびエッチング速度を管理できる。したがって、第2クラッド層において所定の残り膜厚tを有する共振器部114を正確に作製することができる。
【0206】
また、反射スペクトルの値や形状もエッチング中に同時にモニタできるので、エッチング時の表面の汚れ、ダメージなども評価でき、これらの評価結果をエッチング条件にフィードバックすることができる。
【0207】
さらに、反射率のモニタ手段を使ったプロセスとして、RIE法によるSiO2層のエッチングについて説明する。
【0208】
図1に示す面発光型半導体レーザ装置の作製工程においては、前述したように、レーザ光出射側のリング状の上側電極112を形成する前まで、共振器表面のp型コンタクト層109は表面保護用のSiO2層I(図22B参照)で覆われているが、上側電極を形成するためには、このSiO2層を完全にエッチングしなければならない。ただし、必要以上にエッチングを行うと、コンタクト層もエッチングすることになり、コンタクト層へダメージを与えたり、発振波長に関係する共振器長が変化してしまう問題が起こる。
【0209】
従って、SiO2層のエッチング量の管理が重要である。そこで、本実施例ではSiO2層のエッチングに使用するRIE装置に、エッチング中にエピタキシャル結晶層の反射率を測定できる方法を導入し、エッチング量を測定することとした。
【0210】
図33に反射率測定手段を導入した平行平板型RIE装置の概略図を示す。このRIE装置においては、エッチング室60内に、RF発振器61に接続された載置電極62とメッシュ状の対向電極64とが対向して設けられている。エッチング室60には、ガス供給部70と排気用の真空ポンプ66とが接続されている。そして、エッチング室60の、前記載置台電極と対向する壁面には、窓68が設けられており、この窓68の外方には光源72と光検出器74とが設置されている。そして、光源72から照射された任意の波長の光は窓68を介して基板Sに到達し、その反射光は窓68を介して光検出器74に至る。このRIE装置においては、通常のメカニズムによってSiO2層がエッチングされるとともに、光源72からの光を検出することによってエッチング面の反射率または反射スペクトルをモニタすることができる。
【0211】
図34は、p型コンタクト層109上にSiO2層があるときの、800nmの光に対する反射率の変化を示したものである。横軸がSiO2層の膜厚、縦軸が反射率である。図に示したように、反射率はSiO2層の残り膜厚によって変化し、残り膜厚が(λ/4n)の整数倍になるごとに極大または極小をとる。ここでλは測定光源の波長、nはSiO2層の屈折率である。従って、RIEによるエッチング中に反射率を測定し、反射率曲線をモニタすることにより、SiO2層のエッチングを完全に行うことができる。
【0212】
また、SiO2層の完全なエッチング終了後、前記RIBEプロセスと同様に、RIE中の反射率測定の光源として分光器を通した光若しくは波長可変のレーザ光を用いて例えば700〜900nmの波長の光を照射することにより、反射率のディップが測定でき、共振器長が測定できる。つまり、この反射率のディップを測定しながらRIEによるエッチングを進めると、エッチング量は前記式(3)で求められ、共振器長を正確に制御することができる。ここで、RIEを用いているのは、p型コンタクト層109を保護するためのSiO2層を完全にエッチングした後、同一装置内でエッチングが可能なこと、またRIBEによるエッチングよりもエッチング速度が遅いので共振器長を制御しやすいことが挙げられる。このときのエッチング条件としては、例えば、エッチング圧力2Pa、RFパワー70WおよびエッチングガスCHF3を用いた。また、エピタキシャル成長膜の共振器長を広範囲に変えるときには、前述の工程(a)の後にRIEを行ってもよい。
【0213】
前述した様に本発明の面発光型半導体レーザ装置の実現には、DBRミラーの高反射帯域と共振器長によって定まる発振波長とゲインオフセット量とを所定の関係にしなければならないが、エピタキシャル成長後に仮にその関係が成立していなくとも、反射率をモニタしたRIEを用いてコンタクト層をエッチングすることにより、共振器長を所定長さに精度良く調整できるので、高い精度のデバイスを歩留まりよく製造することが可能である。これは、コンタクト層は、活性層の利得スペクトル、つまり端面発光型半導体レーザの発振スペクトルの測定においては必須の構成となるが、活性層の利得スペクトルは、pおよびn型クラッド層と活性層とによって決まるものなので、面発光型半導体レーザ装置のコンタクト層をエッチングしても、活性層の利得スペクトルは変化しないためである。つまり、コンタクト層をエッチングすることによって、λGを変化させずにλEMを調整することができる。
【0214】
また、反射率をモニタしたエッチングを用いることにより、基板面内で共振器長の異なる部分を精度良く作ることもでき、1枚の基板で発振波長の異なる面発光型半導体レーザ装置を作製することもできる。
【0215】
(第2実施例)
図40Aは、本発明の第2実施例にかかる面発光型半導体レーザ装置の発光部の断面を模式的に示す斜視図であり、図40Bは図40Aに示すレーザ装置の平面図である。
【0216】
本実施例の面発光型半導体レーザ装置300は、光共振器が複数の柱状共振器部から構成されている点に特徴を有する。光共振器以外の構成および作用は前記第1実施例と基本的に同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0217】
すなわち、半導体レーザ装置300は、n型GaAs基板302上に、n型Al0.8Ga0.2As層とn型Al0.15Ga0.85As層を交互に積層し波長800nm付近の光に対し99.5%以上の反射率を持つ40ペアのDBRミラー303、n型Al0.7Ga0.3Asクラッド層304、n−型GaAsウエル層とn−Al0.3Ga0.7Asバリア層から成り該ウエル層が21層で構成される量子井戸活性層305、p型Al0.7Ga0.3Asクラッド層306およびp+型Al0.15Ga0.85Asコンタクト層309が、順次積層して成る。そして、p型Al0.7Ga0.3Asクラッド層306の途中までエッチングされて、積層体の上面からみて矩形形状を有する複数の柱状共振器部314が形成され、その周囲は、SiO2等のシリコン酸化膜(SiOx膜)からなる第1絶縁層307と、この第1絶縁層307上に形成された第2絶縁層308で埋め込まれている。
【0218】
このタイプのレーザ装置においては、分離された複数の共振器部でたつ横モードが電磁波的に互いに結合されているため、各共振器部から位相同期された光が発振される。
【0219】
光共振器を構成する柱状共振器部314(314a〜314d)は、図40Bに示すように、半導体基板302に平行な各断面が長辺および短辺を有する矩形をなし、各共振器部314a〜314dの短辺の方向がそれぞれ平行となるように配置されている。この面発光型半導体レーザ装置においては、複数本の柱状共振器部314より出射されるレーザ光の偏波面は、矩形断面を有する各柱状共振器部314の短辺の方向と一致している。そして、これらの各柱状共振器部314の短辺の方向がそれぞれ平行であるため、各共振器部から出射されるレーザ光の偏波面の方向を揃えることができる。
【0220】
さらに、第1絶縁層307および第2絶縁層308を構成する材料として、例えばSiOxまたはSiNxなどの光透過性を有する物質によって構成することにより、埋込み絶縁層はレーザ発光波長に対してほぼ透明となる。したがって、複数の共振器部314からの光だけでなく、埋込み絶縁層にもれた光も有効にレーザ発進に寄与させ、発光スポットを広げることができる。
【0221】
次に、共振器部314の長辺および短辺の関係について更に詳しく説明する。
【0222】
各柱状共振器部314の長辺の長さをAとし、短辺の長さをBとした時、B<A<2Bであることが好ましい。長さAを長さ2B以上とすると、出射光の形状が円または正多角形とはならずに長方形になるため、発光スポットが一つにならず、1つの出射口に複数の発光スポットが形成されてしまう。また、共振器の体積も大きくなるので、レーザ発振しきい電流も増加してしまう。
【0223】
さらにこの矩形断面の各辺は、1.1×B≦A≦1.5×Bに設定すると良い。長辺の長さAが1.1×B未満であると、偏波面制御の効果が十分に発揮されない。また、レーザ発振しきい電流が大きく増加しない点を考慮すると、A≦1.5×Bに設定するものが良い。
【0224】
本実施例の半導体レーザ装置300は、柱状共振器部314の形成時に用いるマスクを変える以外は、前記第1実施例と同様のプロセスおよび装置によって製造することができる。つまり、柱状共振器部314を形成する際のマスクとして、柱状共振器部314の平面形状に対応したマスクを用いる以外は、図22A〜Cおよび図23D〜Fと同様のプロセスを用いることができる。
【0225】
図41A〜Dは、従来の面発光型半導体レーザおよび本実施例の面発光型半導体レーザの、光が出射される側の形状とレーザ発振時のNFPの強度分布を示したものである。図41Aは、図45に示す従来の面発光型半導体レーザの共振器を、n−p接合のGaAlAsエピタキシャル層2207,2208で埋め込むことが可能な距離である5μm程度まで接近させた場合を示している。レーザの出射面には、誘電体多層膜ミラーとp型オーミック電極(上側電極)があるが、共振器の形状を比較するために図では削除している。図41Bは図41Aのa−b間のNFP強度分布を示している。従来の面発光型半導体レーザの発光部2220を複数個、埋め込み可能な距離まで接近させても発光スポットが複数個現れるだけで、横方向の光の漏れが無いため、多峰性のNFPとなり、1つの発光スポットにならない。
【0226】
図41Cは本実施例の面発光型半導体レーザの形状であり、分離溝を埋込み絶縁層で埋め込んでおり、このように埋込み層が気相成長法で形成される場合には、分離溝の最小幅は約1μmに制御できる。図41Dは、図41Cのc−d間のNFPである。柱状共振器のみならず分離溝の上からも光が出射されるので、発光点が広がることがNFPからわかる。さらに接近した各共振器部314a〜314dのレーザ光の位相が同期するので、光出力が増加し、放射角が5°以下のビームが得られる。
【0227】
図42A〜Dは、第2実施例にて形成された例えば4本の共振器部314を有する光共振器を、半導体基板302上の4か所に配置した例を示している。図42Aにおいては、4本の共振器部314と対向する位置に一つの光出射口313を有する電極312を、各光共振器毎に形成している。そして、各光共振器を構成する4本の共振器部314の矩形断面における短辺(B)は、それぞれ平行な方向に設定されている。したがって、4つの光出射口313より出射される各レーザ光の偏波面は、矩形断面の柱状部分の短辺と平行な方向に揃っていることになる。
【0228】
この4つの光共振器を有する半導体レーザからの4本のレーザ光を、偏光フィルター340を通過させる状態が図42Bに示されている。4本のレーザ光はそれぞれ偏波面が揃っているので、偏光フィルター340を全て通過させることができる。
【0229】
図42Cは、矩形断面を有する柱状共振器部314の短辺の方向が、2つの光共振器でそれぞれ異なっていて、例えば相直交する方向に設定する場合を示している。この場合、図42Dに示すように、1本のレーザ光は偏光フィルター340を通過させることができるが、他の1本のレーザ光は偏光フィルター340を通過させることがない。この技術を利用すれば、ある特定方向のみの偏波面をもつレーザ光のみを選択的に通過させることができ、光通信の分野に好適に応用することができる。
【0230】
上述した第2実施例では、共振器部が4個配列されたものであるが、共振器部の配列は任意に設定することができる。例えば、図43A〜Cに示すように、共振器部は基板と平行な二次元面上で横列および/または縦列で等間隔に配列することができる。このようにn個の共振器部をライン状に配列することでラインビームを得ることができる。
【0231】
また、上述した第2実施例では、出射されるレーザ光の偏波面の方向を制御するために、光共振器を構成する柱状共振器部の断面形状を矩形としていたが、出射側の電極312に形成される光出射口313の開口形状を、矩形に形成することによっても、その短辺の方向に揃った偏波面を有するレーザ光を出射することができる。図44Aに示す実施例においては、柱状共振器部314の断面形状は円形であるが、電極に形成された光出射口313の開口形状が、長辺aと短辺bとを有する矩形形状となっている。この場合、出射されるレーザ光の偏波面の方向は、矩形の光出射口313の短辺bの方向に一致することになる。
【0232】
この光出射口の開口形状を矩形にすることは、光共振器の柱状共振器部の断面を矩形するよりもプロセス上簡便である。また、複数本の柱状共振器部を有する光共振器を成形する場合、その柱状共振器部の配置の関係で各柱状共振器部の断面を矩形にできない場合もあり、このような場合に光出射口を矩形にすることで偏波面の方向を設定することが有効である。図44Bおよび図44Cはそれぞれ、4本の柱状共振器部314の断面を円または正多角形とし、柱状共振器部と対向する領域に矩形の光出射口313を形成した例を示している。図44Dは、4本の柱状共振器部314の各断面もそれぞれ矩形とし、この4本の柱状共振器部と対向する領域に形成される光出射口315の開口形状をも矩形としている。そして、矩形断面の柱状共振器部の短辺(B)と光出射口の短辺(b)の方向がそれぞれ平行な方向に設定されている。
【0233】
このように光出射口の開口形状を矩形にする場合には、光出射口の長辺の長さをaとし、短辺の長さをbとしたとき、好ましくはb<a<2×b、さらに好ましくは1.1×b≦a≦1.5×bとする。この理由はb/aの比率を高くすると、それに応じて光共振器の柱状共振器部の各辺の比率B/Aも高くしなければならず、上述した各辺の長さAおよびBが好適範囲外となってしまうからである。
【0234】
さらに、図44Eで示すように、共振器部314の断面形状を長辺(A)および短辺(B)からなる矩形とし、光出射口313の形状を円形とする構成であってもよい。
【0235】
以上述べた第2実施例およびその変形例においては、レーザ光の偏波面をある特定方向に揃えることができるため、レーザ装置をレーザプリンタや通信機器などの機器に設置する場合に、そのレーザ装置の細かな位置調整を必ずしも要せずに、レーザ光の偏波面の方向をある特定方向に容易に設定することが可能となる。
【0236】
前述した実施例においては、AlGaAs型半導体を用いた面発光型半導体レーザ装置について述べたが、本発明はこれに限定されず、AlGaInP型あるいはInGaAsP型半導体を用いた面発光型レーザ装置には適用できる。また、本発明は前述した実施例の半導体層と逆の極性を有する半導体層からなる面発光型半導体レーザにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0237】
【図1】本発明の第1実施例における面発光型半導体レーザ装置の断面を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示す面発光型半導体レーザ装置と、図46に示す従来例の面発光型半導体レーザ装置との、I−L特性およびI−V特性を表す図である。
【図3】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の発光部の上面図である。
【図4】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の注入電流と光出力との関係を示す図である。
【図5】図5Aは、比較用の面発光型半導体レーザ装置であって、活性層までエッチングした素子を模式的に示す断面図である。図5Bは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置を模式的に示す断面図である。
【図6】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の共振器径の逆数と発振閾電流密度との関係を示す図である。
【図7】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の注入電流と光出力の関係を示し、この関係がクラッド層の残り膜厚tに依存することを示す図である。
【図8】図1に示す面発光型半導体レーザ装置のクラッド層の残り膜厚tと外部微分量子効率(スロープ効率)の値との関係を示す図である。
【図9】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の活性層の構造において、単一の量子井戸(ウエル)の膜厚を種々変化させた時の、波長と発光する発光スペクトルとの関係を示す図である。
【図10】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の活性層の構造において、単一量子井戸(ウエル)の膜厚と発光ピーク波長との関係を示し、その理論値(実線)と実測値(ドット)を示す図である。
【図11】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の活性層の構造において、単一量子井戸(ウエル)の膜厚と発光強度半値幅との関係を示し、その理論値と実測値を示す図である。
【図12】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の活性層の膜厚と閾電流密度との関係を示し、その理論値と実測値を示す図である。
【図13】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の結晶成長において、各結晶層のAl組成を示す図である。
【図14】図1に示す面発光型半導体レーザ装置において、クラッド層のAl組成の異なる素子の注入電流と光出力との関係を示す図である。
【図15】図1に示す面発光型半導体レーザ装置において、クラッド層のAl組成を種々変化させた時の、Al組成と外部微分量子効率(スロープ効率)の値との関係を示す図である。
【図16】図1に示す面発光型半導体レーザ装置において、誘電体多層膜ミラーに光吸収係数の異なる誘電体材料を用いた場合の注入電流と光出力との関係を示す図である。
【図17】図17Aは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置の断面、共振器長および注入電流の流れを模式的に示した図である。図17Bは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置を形成するための半導体積層ウエハの一部を用いて形成した端面発光型半導体レーザ装置の断面を模式的に示す斜視図である。
【図18】図1に示す面発光型半導体レーザ装置のDBRミラーおよび積層された半導体層の反射率スペクトルと、端面発光型半導体レーザ装置の発振スペクトルを示す図である。
【図19】図19Aは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置を形成するための半導体積層ウエハを用いて製作した端面発光型半導体レーザ装置の発振波長とケース温度との関係を示す図である。図19Bは、同じく図1に示す面発光型半導体レーザ装置を形成するための半導体積層を用いて製作した端面発光型半導体レーザ装置の発振スペクトルとケース温度との関係を示す図である。
【図20】図20Aは図1に示す面発光型半導体レーザ装置の発振波長とケース温度との関係を示す図である。図20Bは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置の注入電流密度と発振波長および接合温度上昇との関係を示す図であるである。
【図21】図1に示す面発光型半導体レーザ装置のゲインオフセット量△λBSと発振閾値電流との関係を示す図である。
【図22】図22A〜図22Cは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置の製造プロセスを模式的に示す断面図である。
【図23】図23D〜図23Fは、図22に引き続きいて行われる、図1に示す面発光型半導体レーザ装置の製造プロセスを模式的に示す断面図である。
【図24】図24Aは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置において、共振器部の径Daが8μm、光発射口の径が6μmのときの出射光の遠視野像強度を示した図であり、図24Bは、Daが13μm、Dw10μmのときの遠視野像強度を示した図である。
【図25】図25Aは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置においてp型クラッド層の膜厚が1.0μmの場合の発光近視野像、およびラインa−aにおける光強度分布を示す図である。図25Bは、同様にp型クラッド層の膜厚が0.3μmの場合の発光近視野像、およびラインb−bにおける光強度分布を示す図である。
【図26】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の注入電流と光出力との関係に及ぼすp型クラッド層の膜厚の影響を示す図である。
【図27】図1に示す面発光型半導体レーザ装置における注入電流と光出力との関係に及ぼすp型クラッド層の膜厚の影響を示す図である。
【図28】本発明の第1実施例にかかる面発光型半導体レーザ装置を製造するプロセスにおいて得られた半導体積層ウエハの膜厚分布を示す図である。
【図29】図1に示す面発光型半導体レーザ装置のDBRミラーを形成する際に用いられるMOVPE装置を模式的に示す断面図である。
【図30】図1に示す面発光型半導体レーザ装置のDBRミラーを形成するプロセスにおいて、エピタキシャル層の成長時間と反射率との関係を示す図である。
【図31】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の製造プロセスにおいて用いられるRIBE装置を模式的に示す断面図ある。
【図32】図32A〜図32Cは、RIBEプロセスにおける反射スペクトルの変化を示す図である。
【図33】図1に示す面発光型半導体レーザ装置のエッチングプロセスにおいて用いられるRIE装置を模式的に示す断面図である。
【図34】図33に示す装置を用いてRIEを行ったときのSiO2層の膜厚と反射率の関係を示す図である。
【図35】図35は、図1に示す面発光型半導体レーザ装置を構成するDBRミラーを成膜する際の、TMGa、TMAlおよびH2Seの流量変化を示すタイミングチャート図である。
【図36】図1に示す面発光型半導体レーザ装置のDBRミラーの一部をSIMS法で評価した結果を示す図である。
【図37】図37Aは、DBRミラーにおいて、Seの濃度をn型Al0.7Ga0.3As層中のn型Al0.1Ga0.9As層との界面近傍で急峻に高めた場合のバンド図である。図37Bは、Seを一定供給量で作成した場合のバンドを示す図である。
【図38】図1に示す面発光型半導体レーザ装置を構成するDBRミラーの製造工程において、TMAlの流量変化および紫外光の照射を示すタイミングチャート図である。
【図39】図1のプロセスによって得られたDBRミラーの一部をSIMS法で評価した結果を示す図である。
【図40】図40Aは、本発明の第2実施例にかかる面発光型半導体レーザ装置の断面を模式的に示す斜視図である。図40Bは、図40Aに示す装置の光出射側から見た平面図である。
【図41】図41Aは従来の面発光型半導体レーザ装置の光が出射される側の共振器部の形状を示し、図41Bは、図41Aに示したレーザ装置の発光近視野像の強度分布を示す。図41Cは第2実施例における光が出射される側の共振器の形状を示し、図41Dは図41Cに示すレーザ装置の発光近視野像の強度分布を示す。
【図42】図42Aは、第2実施例にかかる面発光型半導体レーザ装置の光共振器を複数箇所に配置した例を示し、図42Bはこの光共振器から出射されたレーザ光を偏光フィルタを通過させた状態を示す。図42Cは、第2実施例にかかる面発光型半導体レーザ装置の光共振器を異なった方向に配列した状態を示し、図42Dは図42Cに示す光共振器から出射されたレーザ光を偏光フィルタに通過させた状態を示す。
【図43】図43A〜図43Cは、断面形状が短辺と長辺を有する矩形を成す共振器部を基板と平行な二次元面上で横列および/または縦列で配列した状態を示す図である。
【図44】図44A〜図44Dは、光出射口の形状を矩形に形成することによってレーザ光の偏波面の方向を制御する共振器を示す図である。図44Eは共振器部の断面形状を矩形とし、光出射口の形状を円形とした共振器を示す図である。
【図45】従来の面発光型半導体レーザ装置の一例を示す斜視図である。
【図46】他の面発光型半導体レーザ装置の従来例を示す断面図である。
【図47】活性層の層数を変化させたときの注入電流と光出力との関係を示す図である。
【図48】活性層におけるウエル層およびバリア層の膜厚とAl組成との関係を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0238】
100 面発光素型半導体レーザ、101 電極用金属層(下側電極)、102 n型GaAs基板、103 DBRミラー、104 第1クラッド層、105 量子井戸活性層、106 第2クラッド層、107 第1絶縁層、108 第2絶縁層、109 コンタクト層、110 第1の方向、111 誘電体多層膜ミラー、112 コンタクト金属層(上側電極)、113 開口部、114 共振器部
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に対して垂直方向に光を出射する面発光型半導体レーザ装置の構造および製造方法に関する。さらに、本発明は、画像形成装置や光通信システムなどの並列光情報処理装置に用いることができる面発光型半導体レーザ装置の構造および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、面発光型半導体レーザ装置の構造として、第50回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第3分冊 p.909 29a−ZG−7(1989年9月27日発行)が報告されている。図45はその発光部を示す斜視図である。この半導体レーザ装置は、以下のプロセスで製造される。n型GaAs基板2202上に、n型AlGaAs/AlAs多層膜2203、n型AlGaAsクラッド層2204、p型GaAs活性層2205およびp型AlGaAsクラッド層2206を成長させた後、円柱状の領域2220を残してエッチングし、p型,n型,p型,p型の順にAlGaAs層2207,2208,2209,2210で埋め込む。しかる後、p型AlGaAsキャップ層2210の上部に誘電体多層膜2211を蒸着し、n型オーミック電極2201、p型オーミック電極2212を形成し、面発光型半導体レーザ装置を形成している。
【0003】
しかし、図45に示す従来の面発光型半導体レーザ装置では、活性層以外の部分に電流が流れるのを防ぐ手段として、埋込み層にp−n接合2207,2208を設けている。しかし、このp−n接合では十分な電流狭窄を得ることは難しく、完全には無効電流を抑制できない。このため、従来技術では素子の発熱に起因して、室温での連続発振駆動することが困難である。そして、このレーザ装置においては、光共振器全体を共振器よりも低屈折率の材料で埋め込んでいるため、共振器内に光が閉じ込められ、共振器の基板面に水平な方向の断面形状を変化させても、基本発振モードの発光スポットは直径2μm程度の点発光となってしまう。また、このレーザ装置では、面発光型半導体レーザ装置の特徴である2次元アレイ化を行なうとき、個々の共振器を基板面内で近づけて設置したとしても、各素子とも独立で発振しているため個々のレーザ光の位相がそろわず、各々のレーザ光が干渉しあい、1つの光束を持った安定したレーザ光が得られにくい。
【0004】
図46は、他の従来の面発光型半導体レーザ装置の構造を示す断面図である。このレーザ装置は、n型GaAs単結晶基板2401の上に、n型分布反射型(DBR)ミラー2402、n型クラッド層2408、量子井戸活性層2403、p型クラッド層2409、p型DBRミラー2404およびp型オーミック電極2405が形成されている。同図において斜線で示す領域2406は水素イオンを打ち込むことによって単結晶状態を破壊して高抵抗の領域とされ、注入電流が発振領域にだけ集中するようにした構造である。また、基板2401の下面には、n型オーミック電極2407が形成されている。そして、基板2401に垂直な方向2410から、光が放射される。
【0005】
また、図46に示す従来の面発光型半導体レーザ装置では、注入電流はp型DBRミラー2404を通して流れることになる。p型DBRミラー2404では、電流は正孔がキャリアとして流れる。正孔は電子に比べて有効質量が10倍程度大きく、ミラー内部のヘテロバリアを越えにくい。そのためp型DBRミラー2404は大きな抵抗成分を持つことになる。この従来例では、p型DBRミラー2404の反射率を大きくするためにミラーの層数を多くする必要があり、その結果p型DBRミラー2404の抵抗がかなり大きくなるという問題点を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、十分に満足できる電流狭窄が得られ、低閾値電流で外部微分量子効率が高く、高効率かつ信頼性の高い面発光型半導体レーザ装置を提供することにある。本発明の他の目的は、このような半導体レーザ装置の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の面発光型半導体レーザ装置は、
第1導電型の化合物半導体からなる基板、
前記基板の下側に形成された下側電極、
前記基板の上側に形成された第1導電型の分布反射型多層膜ミラー、
前記分布反射型多層膜ミラー上に形成された第1導電型の第1クラッド層、
前記第1クラッド層上に形成された量子井戸活性層、
前記量子井戸活性層上に形成され、単数もしくは複数の柱状部を有する第2導電型の第2クラッド層、
前記第2クラッド層の柱状部上に形成された第2導電型のコンタクト層、
前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲に埋め込まれ、少なくとも前記第2クラッド層および前記コンタクト層との界面がシリコン化合物からなる第1絶縁層によって被覆された埋込み絶縁層、
前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって形成された上側電極、および、
前記上側電極の開口部を覆うように、少なくとも前記コンタクト層上に形成された誘電体多層膜ミラー、を含む。
【0008】
この半導体レーザ装置においては、前記分布反射型多層膜ミラー、前記第1クラッド層、前記量子井戸活性層、前記第2クラッド層の柱状部、前記コンタクト層および前記誘電体多層膜ミラーから光共振器が構成される。
【0009】
そして、この半導体レーザ装置においては、前記柱状部(共振器部)が複数形成されている場合には、各共振器部で発生する平行横モードが電磁波的に互いに結合されているため、各共振器部から位相が同期された光が発振される。
【0010】
前記埋込み絶縁層は、少なくとも、前記クラッド層およびコンタクト層の表面に沿って連続的に形成された第1絶縁膜を有し、好ましくは、この第1絶縁層の周囲には前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲を平坦化するための第2絶縁層が形成されている。この第2絶縁層は前記第1絶縁層よりも低温で形成できる物質から構成されることが望ましい。この第1絶縁層によって、第2絶縁層の不純物、例えばナトリウム,塩素,重金属,水素等が第2クラッド層あるいは量子井戸活性層へ熱拡散等によって移動することが阻止される。この第1絶縁層は、熱CVD(化学気相成長)によって形成されることが好ましい。したがって、第1絶縁層の膜厚を薄くすることにより、成膜時に光共振器が熱にさらされる時間を短縮して、熱による結晶へのダメージをより少なくすることが望ましい。
【0011】
前記第1絶縁層は、前述したように、光共振器に悪影響を与えるような物質の移動を阻止できるのに十分な厚みを有すればよく、例えばその膜厚は500〜2000オングストロームに設定されることが好ましい。この第1絶縁層は、例えばシリコン酸化膜、シリコン窒化膜およびシリコン炭化膜から選択される少なくとも一種のシリコン化合物から構成されることが好ましい。また、前記第2絶縁層は、前記シリコン化合物よりも低温で形成されたシリコン化合物、ポリイミド等の耐熱性樹脂、および多結晶のII−VI属化合物半導体から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0012】
前記第2クラッド層はエッチングによって前記柱状部以外の領域が取り除かれるが、この柱状部以外の領域は所定範囲の膜厚を有し、好ましくは0μm(つまり完全に除去される)〜0.58μm、より好ましくは0〜0.35μmの膜厚に設定される。このように、前記柱状部以外の領域の膜厚を極限定された薄い膜とするかあるいは完全に除去することにより、活性層内に有効に電流を注入でき、高い外部微分量子効率を得ることができる。
【0013】
前記量子井戸活性層は、n型GaAsウエル層とn型Al0.3Ga0.7Asバリア層からなり、前記ウエル層の膜厚は40〜120オングストローム、前記バリア層の膜厚は40〜100オングストロームであり、かつウエル層の総数は3〜40層であることが好ましい。このような構成の量子井戸活性層によれば、面発光型半導体レーザ装置の低閾値化、高出力化、温度特性の向上および発振波長の再現性の向上を達成することができる。
【0014】
前記分布反射型多層膜ミラーは、発振波長λEMを含む少なくとも40nmの波長範囲で99.2%以上の反射率を有し、前記波長範囲内に発振波長が設定される。そして、分布反射型多層膜ミラーの反射率は、ミラーを構成する半導体層の各層のドーピング量によっても変動する。例えば、分布反射型多層膜ミラーをAl0.8Ga0.2As層とAl0.15Ga0.85As層とを交互に積層して構成する場合には、これらの各層にドーピングされるn型ドーパントは5×1016〜1×1019cm−3の平均ドーピング量であることが好ましい。更に、前記分布反射型多層膜ミラーは、アルミニウムの濃度が高いAl0.8Ga0.2As層と、この層よりもアルミニウムの濃度が低くバンドギャップが大きいAl0.15Ga0.85As層との界面近傍のキャリア濃度を、界面近傍以外の領域よりも高くすることが望ましい。具体的には、界面近傍のドーピング量の最大値は、界面近傍以外のドーピング量の最小値の1.1〜100倍の値を取ることが好ましい。
【0015】
また、前記誘電体多層膜ミラーは、その反射率が98.5〜99.5%であることが好ましい。反射率が98.5%より低いと、発振閾電流が増大してしまい、一方反射率が99.5%よりも大きいと光出力が外部に取り出しにくく、外部微分量子効率が低下してしまう。さらに、前記誘電体多層膜ミラーを構成する材料としては、レーザ発振波長に対して光の吸収損失が少ないものを使用することが好ましく、具体的には、発振波長に対して100cm−1以下の吸収係数を有する誘電体材料から構成されることが好ましい。このような誘電体としては、SiOx、Ta2O5、ZrOx、TiOx、ZrTiOx、MgFx、CaFx、BaFxおよびAlFxなどが例示される。
【0016】
前記クラッド層の柱状部は光共振器を構成し、その径をDaとし、前記上側電極の開口部の径をDwとすると、Daは6〜12μm、Dwは4〜8μmであり、かつDwはDaより若干小さく形成されることが好ましい。前記柱状部の径(共振器径)と前記開口部の径(出射口径)はレーザの横モード特性に影響を与え、基本横モードの放射光を得るためには、共振器の径を所定の大きさ以上にすることは好ましくなく、また高い出力を得るためには共振器の径を小さくし過ぎることも好ましくない。このような観点から、基本横モード発振をするためには、DaおよびDwは前記の範囲に設定されることが好ましい。
【0017】
前記第1クラッド層をおよび第2クラッド層は、AlxGa1−xAsで示される半導体層からなり、ここにおいてxは、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.65以上、特に好ましくは0.7〜0.8である。xをこの範囲に設定することにより、クラッド層のバンドキャップが十分高く注入キャリアの活性層内への閉じこめが良好であり、高い外部微分部量子効率を得ることができる。
【0018】
さらに、前記第2クラッド層は、その柱状部の膜厚が0.8〜3.5μmであることが好ましい。前記膜厚が0.8μmより小さいと、注入キャリアが不均一となって、特に前記柱状部の周囲付近にキャリアが多く分布し、レーザ発振に寄与しないキャリアの再結合が生じ、その結果、共振器中央付近のキャリア密度が十分大きくならないため、レーザ発振の閾値に達する前に光出力が熱飽和してしまうおそれがある。一方、前記膜厚が3.5μmより大きいと、素子抵抗が高くなって消費電力の増大を招き、光出力の熱飽和が低い注入電流で起こってしまうおそれがある。
【0019】
本発明の他の面発光型半導体レーザ装置は、
第1導電型の化合物半導体からなる基板、
前記基板の下側に形成された下側電極、
前記基板の上側に形成された第1導電型の分布反射型多層膜ミラー、
前記分布反射型多層膜ミラー上に形成された第1導電型の第1クラッド層、
前記第1クラッド層上に形成された量子井戸活性層、
前記量子井戸活性層上に形成され、単数もしくは複数の柱状部を有する第2導電型の第2クラッド層、
前記第2クラッド層の柱状部上に形成された第2導電型のコンタクト層、
前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲に埋め込まれた埋込み絶縁層、
前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって形成された上側電極、および、
前記上側電極の開口部を覆うように、少なくとも前記コンタクト層上に形成された誘電体多層膜ミラー、を含み、
前記量子井戸活性層の利得スペクトルのピーク波長λGは所期の発振波長λEMに対して所定波長差(ゲインオフセット量)△λBSだけ短波長側に設定される。
【0020】
この半導体装置において特に特徴的なことは、前記活性層における利得スペクトルのピーク波長λGが面発光型半導体レーザ装置の発振波長λEMに対してゲインオフセット量△λBSだけ短波長側に位置するように形成されている点にある。前記利得スペクトルのピーク波長λGは、例えば、本発明の面発光型半導体レーザ装置を構成する、基板上に形成された半導体層と同じ半導体層を有する端面発光型半導体レーザ装置を作成し、この端面発光型半導体レーザ装置の発振波長を求めることにより決定される。端面発光型半導体レーザ装置の発振波長は、ほぼピーク波長λGに等しい。そして、前記ゲインオフセット量△λBSは、好ましくは5〜20nm、より好ましくは5〜15nmであり、最も好ましくは10〜15nmである。このようなゲインオフセット量を設定しておくことにより、温度上昇によって活性層の利得スペクトルのピーク波長が長波長側にシフトしたとしても、共振器長で規定される発振波長と利得スペクトルのピーク波長とをほぼ一致させることができ、高い効率で確実なレーザ発振を行うことができる。
【0021】
より具体的には、前記端面発光型半導体レーザ装置の利得スペクトルのピークが面発光型半導体レーザ装置の発振波長より長波長側に存在すると、電流注入によって利得スペクトルのピーク波長が長波長側にシフトしてしまうため、レーザ発振に必要な利得が減少してしまい、高出力の発振が困難となる。但し、前記ゲインオフセット量が大きすぎると、電流注入によって利得スペクトルのピーク波長が長波長側にシフトしたとしても、発振波長λEMにおける利得が小さくなりすぎてレージングを起こさないおそれがある。例えば、ゲインオフセット量△λBSが20nmを越えると、実用的な閾電流での連続駆動が困難となり、一方ゲインオフセット量△λBSが5nmより小さいと、電流注入によって利得スペクトルのピーク波長が発振波長λEMより長波長側にシフトして発振波長での利得が小さくなり、十分なレーザ発振が行われない。ピーク波長λGは温度依存性があるので、λGは面発光型半導体レーザ装置が使用される温度で測定される。
【0022】
このようにゲインオフセット量が設定された半導体レーザ装置においては、その他の構成、具体的には前記埋込み絶縁層、前記第2クラッド層、前記量子井戸活性層、前記分布反射型多層膜ミラー、および前記誘電体多層膜ミラーなどの構成においては、上述した半導体レーザ装置と同様な構成を有することが好ましい。
【0023】
さらに、本発明の各面発光型半導体レーザ装置において、光共振器を構成する前記柱状部の形状を特定することにより、レーザ光の偏波面の方向を制御することが好ましい。以下、この点について詳細に説明する。
【0024】
すなわち、共振器を構成する前記柱状部は、半導体基板に平行な断面形状が、長辺と短辺からなる矩形を有することが好ましい。レーザ光の偏波面の方向は、断面矩形の柱状部の短辺の方向と平行な方向に揃うことが実験的に確かめられた。したがって、一素子内に一つの共振器を形成する場合にも、あるいは複数の共振器を形成する場合にも、その各共振器から出射されるレーザ光の偏波面の方向を、各共振器が有する断面矩形の柱状部の短辺の方向に揃えることができる。
【0025】
そして、断面矩形の柱状部の長辺の長さをAとし、短辺の長さをBとした時、B<A<2Bであることが好ましい。Aを2B以上とすると、光出射口の形状も円または正多角形とはならずに長方形になるため、発光スポットが一つにならず、一つの出射口に複数の発光スポットが形成されてしまう。また、共振器の体積も大きくなるので、レーザ発振閾電流も増加してしまう。
【0026】
また、前記第2クラッド層の柱状部を複数形成し、前記各柱状部の矩形横断面を形成する短辺の方向をそれぞれ平行に設定することが好ましい。この半導体レーザ装置においては、複数の柱状部より出射されるレーザ光の偏波面は、矩形断面を有する各柱状部の短辺の方向と一致しており、かつ各柱状部の短辺の方向がそれぞれ平行であるため、一つの開口部(光出射口)から出射されるレーザ光は、位相が同期しておりかつ偏波面の方向も一致していることになる。従って、例えばこの面発光型半導体レーザ装置をレーザ応用機器に用いる場合には、各素子の細かな位置調整を必要とせずにレーザ光の偏波面の方向をある特定方向に容易に設定することが可能となる。さらに、この半導体レーザ装置において、前記埋込み絶縁層を光透過性を有する物質によって構成することにより、埋込み絶縁層はレーザ発振波長に対してほぼ透明となり、この埋込み絶縁層にもれた光もレーザ発振に寄与することになるため、その分発光スポットが拡大し、位相および偏波面の方向が揃いかつ発光スポットが一つのレーザ光を出射することが可能となる。
【0027】
また、矩形横断面を有する複数の前記柱状部は、前記半導体基板と平行な二次元面上に対称に配置され、かつ前記上側電極に形成される開口部の形状を円または正多角形とすることにより、断面がほぼ円形のレーザ光を出射することができる。そして、このような複数の柱状部によって構成される光共振器は、それぞれ前記上側電極を独立に有するように前記半導体基板上に複数形成されることにより、各光共振器から出射されるレーザ光の断面をほぼ円形とすることができ、しかもこのレーザビームを各光共振器毎に独立してON,OFF,変調可能とすることができる。
【0028】
複数の前記光共振器は、前記柱状部の矩形の横断面の短辺の方向を全て平行に設定することにより、各光共振器から出射されるレーザ光の偏波面の方向を一方向に揃えることもできる。また、少なくとも一部の前記光共振器を他の光共振器に対して前記柱状部の矩形の横断面の短辺の方向を非平行に設定することにより、少なくとも一部の前記光共振器から出射されるレーザ光の偏波面の方向を他の前記光共振器からのレーザ光の偏波面の方向と異ならせることも可能である。
【0029】
さらに、矩形の横断面を有する複数の前記柱状部を、前記半導体基板と平行な二次元面上で横列および/または縦列で等間隔に配列することにより、出射されるレーザビームをラインビームとすることも可能である。
【0030】
レーザ光の偏波面の方向は、光共振器の柱状部を矩形断面としなくても、光出射側の電極に形成される光出射口の開口形状を矩形とし、その矩辺の方向と平行な方向に設置することができる。この構造は、光共振器の柱状部の二次元面上での配置上の制約により柱状部を矩形とできない場合に有効である。また、柱状部の断面形状および光出射口の開口形状の双方を矩形としてもよい。この場合、柱状部および光出射口の各矩辺の方向を平行にすればよい。光出射口の長辺の長さをaとし、短辺の長さをbとした時、好ましくはb<a<2bである。この理由は、b/aの比率を高くすると、それに応じて光共振器の柱状部の各辺の比率B/Aも高くなり、上述した各辺の長さA,Bの好適範囲外となってしまうからである。
【0031】
光共振器の配列方法は適用される機器によって各種の態様が選択され得るが、例えばレーザプリンタ,レーザビームを用いた測定機器,レーザピックアップおよびレーザ通信機器等のレーザ応用機器を設計する際には、レーザ光の偏波面の方向を制御できる技術は極めて有用である。
【0032】
本発明の面発光型半導体レーザ装置は、例えば、以下の工程(a)〜(e)を含む製造方法によって得られる。
【0033】
(a) 第1導電型の化合物半導体からなる基板上に、少なくとも、第1導電型の分布反射型多層膜ミラー、第1導電型の第1クラッド層、量子井戸活性層、第2導電型の第2クラッド層および第2導電型のコンタクト層を含む半導体層をエピタキシャル成長によって形成する工程、
(b) 前記コンタクト層および前記第2クラッド層をエッチングして、単数もしくは複数の柱状部を形成する工程、
(c) 前記柱状部の周囲に埋込み絶縁層を形成する工程であって、この工程では、少なくとも、前記第2クラッド層および前記コンタクト層との界面を被覆するシリコン化合物からなる第1絶縁層を形成する工程を含む工程、
(d) 前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって上側電極を形成する工程、および
(e)前記上側電極の開口部を覆うように、少なくとも前記コンタクト層上に誘電体多層膜ミラーを形成する工程。
【0034】
本発明の他の面発光型半導体レーザ装置は、例えば、以下の工程(a)〜(e)を含む製造方法によって得られる。
【0035】
(a) 第1導電型の化合物半導体からなる基板上に、少なくとも、第1導電型の分布反射型多層膜ミラー、第1導電型の第1クラッド層、量子井戸活性層、第2導電型の第2クラッド層および第2導電型のコンタクト層を含む半導体層をエピタキシャル成長によって形成する工程、
(b) 前記コンタクト層および前記第2クラッド層をエッチングして、単数もしくは複数の柱状部を形成する工程、
(c′) 前記柱状部の周囲に埋込み絶縁層を形成する工程、
(d) 前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって上側電極を形成する工程、および
(e) 前記上側電極の開口部を覆うように、少なくとも前記コンタクト層に誘電体多層膜ミラーを形成する工程、を含み、
前記量子井戸活性層の利得スペクトルのピーク波長λGは、所期の発振波長λEMに対して所定波長差(ゲインオフセット量)△λBSだけ短波長となるように、前記半導体層が設定される。前記ゲインオフセット量△λBSは、5〜20nmに設定されることが望ましい。また、ピーク波長λGは温度依存性があるので、λGは面発光型半導体レーザ装置が使用される温度で測定される。
【0036】
そして、前記工程(c′)においては、少なくとも前記第2クラッド層および前記コンタクト層との界面を被覆するシリコン化合物からなる第1絶縁層が形成される工程を含むことが望ましい。
【0037】
前記各製造方法において、前記埋込み絶縁層は、前記第1絶縁層を例えば熱CVD法によって形成した後に、この第1絶縁層上に、前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲を平坦化するための第2絶縁層が形成されることが好ましい。
【0038】
前記分布反射型多層膜ミラーは、成膜時に、所定波長の光例えば発振波長と同じ波長の光を基板上に照射してその反射スペクトルを検出することにより、基板上に形成された半導体層の反射率プロファイルを測定し、この反射率プロファイルの極大点又は極小点で屈折率の異なる一方の半導体層の堆積から他方の半導体層の堆積に切り替えることによって、低屈折率の半導体層と高屈折率の半導体層とを交互に積層して形成されることが望ましい。
【0039】
前記反射率プロファイルは、結晶の成長速度や成長時間に依存せず、各層の膜厚および各層の屈折率に依存している。従って、反射率プロファイルの極大点あるいは極小点で積層する層のAl組成を変更し、屈折率の違う層を交互にエピタキシャル成長させることにより、各層が理論通りの厚さを有する。また、反射率を測定するための入力光の光源として所定の発振波長を持つ半導体レーザを選ぶことにより、所定波長を厳密に設定できることから、各層の膜厚から屈折率も求めることもできる。そして、分布反射型多層膜ミラー自体の反射率を結晶成長中に測定できることから、層形成中にミラーのペア数を変更したり、構造の最適化がはかれる。
【0040】
各前記工程(b)において、エッチング時に、所定範囲の波長例えば、発振波長に対して±60nmの波長を有する光を前記半導体層を有する基板に照射してその反射スペクトルを検出し、この反射スペクトルに現れる、光共振器の定在波に起因するディップを測定することにより、エッチング厚を制御することが望ましい。前記エッチング厚は、前記第2クラッド層の柱状部以外の領域の膜厚が所定範囲の大きさ、例えば0〜0.58μmの範囲内にとなるように制御されることが望ましい。この膜厚の好ましい理由については、すでに述べた。
【0041】
このように、外部から光を入射すると、分布反射型多層膜ミラー上に積層された半導体層内に定在波(縦モード)が存在する波長で活性層が光を吸収するため、その波長での反射率が低下し、反射スペクトルにくぼみ、つまりディップを形成する。そして、このディップは、分布反射型多層膜ミラーから上の結晶層の膜厚の減少に対応して長波長側から短波長側に移動し、さらにエッチングを続けると、再び長波長側に新たなディップが発生し、ディップの移動と発生が繰り返される。したがって、エッチング中に高反射率帯域に存在するディップの数および波長移動量を測定することにより、エッチング量およびエッチング速度を管理できる。したがって、前記柱状部以外の領域の残り膜厚が正確に制御された共振器を作製することができる。なお、前記エッチング工程においては、基板の温度は0〜40℃から選択される所定の温度に設定されることが望ましい。
【0042】
また、反射スペクトルの値や形状もエッチング中に同時にモニタできるので、エッチング時の表面の汚れ、ダメージなども評価でき、これらの評価結果をエッチング条件にフィードバックすることができる。
【0043】
さらに、前記工程(a)の後に、前記半導体層の表面にSiOxからなる保護層が形成されることが望ましい。この保護層が積層された半導体の表面を覆うことにより、後のプロセスにおける表面汚染が防止される。そして、前記保護層は、前記工程(d)の前に、例えば反応性イオンエッチングによって除去され、その際に、所定波長の光を前記保護層が形成された基板に照射してその反射スペクトルを検出し、その反射率プロファイルを測定することにより、この保護層のエッチング厚が制御されることが望ましい。
【0044】
つまり、反射率は保護層の残り膜厚によって変化し、残り膜厚が(λ/4n)の整数倍になるごとに極大または極小をとり、保護層が完全にエッチングされると反射率の変化がなくなる。ここで、λは測定光源の波長、nは保護層の屈折率である。したがって、エッチング中に反射率を測定し、反射率プロファイルの極大点および極小点をモニタすることにより、保護層のエッチングを正確かつ完全に行うことができる。
【0045】
さらに、上述した保護層の除去に引き続き、前記工程(a)で形成された前記半導体層は、共振器長をコントロールするために必要に応じてエッチングされる。このエッチング時には、所定範囲の波長を有する光を前記半導体層を有する基板に照射してその反射スペクトルを検出し、この反射スペクトルに現れる、光共振器の定在波に起因するディップを測定することにより、エッチング厚を制御することが望ましい。そのメカニズムは工程(b)の場合と同様である。さらに、上記共振器長をコントロールするためのエッチングは、前記工程(a)の直後に行っても良い。工程(a)の直後にエッチングを行うと、広範囲のエピタキシャル層を一括でエッチングできる利点がある。このエッチング時にも、エッチング厚を制御するため、工程(b)のメカニズムを用いる。
【0046】
前記工程(a)において、前記半導体層は有機金属気相成長法によって形成されることが望ましい。
【0047】
本発明の面発光型半導体レーザ装置を製造する装置として、以下の成膜装置およびエッチング装置を用いることができる。
【0048】
例えば、前記基板上に半導体層を形成する成膜装置は、
ガス供給部およびガス排出部を有する反応管と、
前記反応管の内部に設置された、温度制御可能な基板支持部と、
前記基板支持部に所定波長の光を照射するための光源と、
前記光源から前記基板支持部上の基板に照射された光の反射光を検出する光検出器と、を含み、
前記基板支持部上に設置された基板上にエピタキシャル成長によって半導体層の成膜を行いながら、同時に生成する半導体層の反射率を測定することができる。
【0049】
この成膜装置によれば、前述したように、例えば分布反射型多層膜ミラーの膜厚および共振器長を極めて正確に設定することができる。このように層の反射率をモニタしながら膜厚を制御することができる成膜装置は、有機金属気相成長装置だけでなく、分子線エピタキシー装置にも適用することができる。
【0050】
また、前記柱状部を形成する工程(b)および前記保護層をエッチングする工程で用いられるエッチング装置は、
エッチング室と、
前記エッチング室内に配置された基板支持部と、
前記基板支持部上に所定波長の光を照射するための光源と、
この光源から前記基板支持部上の基板に照射された反射光を測定する光検出器とを含み、
基板上の堆積層をエッチングしながら同時に反射率を測定することができる。
【0051】
このようなエッチング装置によれば、前述したように、反射率プロファイルを検出することによりエッチング量を正確に制御することができる。そして、このエッチング装置は反応性イオンエッチングあるいは反応性イオンビームエッチングなどに適用することができる。
【0052】
また、前記成膜装置およびエッチング装置に用いられる前記窓は、前記所定波長の光およびその反射光に対して非反射的であることが望ましい。これらの成膜装置およびエッチング装置は種々の態様の光学系を採用しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
(第1実施例)
図1は、本発明の一実施例における面発光型半導体レーザ装置の発光部の断面を模式的に示す斜視図である。
【0054】
図1に示す半導体レーザ装置100は、n型GaAs基板102上に、n型Al0.8Ga0.2As層とn型Al0.15Ga0.85AS層を交互に積層し波長800nm付近の光に対し99.5%以上の反射率を持つ40ペアの分布反射型多層膜ミラー(以下これを「DBRミラー」と表記する)103、n型Al0.7Ga0.3AS層からなる第1クラッド層104、n−型GaAsウエル層とn−型Al0.3Ga0.7Asバリア層から成り該ウエル層が21層で構成される量子井戸活性層105(本実施例の場合は、多重量子井戸構造(MQW)の活性層となっている)、p型Al0.7Ga0.3As層からなる第2クラッド層106およびp+型Al0.15Ga0.85As層からなるコンタクト層109が、順次積層して成る。そして、コンタクト層109および第2クラッド層106の途中まで、半導体の積層体の上面からみて円形形状にエッチングされて、その柱状部114(以後、この部分を「共振器部」と記す。共振器部は後述するように円柱状である必要はない。)の周囲が、熱CVD法により形成されたSiO2等のシリコン酸化膜(SiOx膜)からなる第1絶縁層107と、ポリイミド等の耐熱性樹脂等からなる第2絶縁層108で埋め込まれている。
【0055】
第1絶縁層107は、第2クラッド層106およびコンタクト層109の表面に沿って連続して形成され、第2絶縁層108は、この第1絶縁層107の周囲を埋め込む状態で形成されている。
【0056】
第2絶縁層108としては、前述のポリイミド等の耐熱性樹脂の他に、SiO2等のシリコン酸化膜(SiOx膜)、Si3N4等のシリコン窒化膜(SiNx膜)、SiC等のシリコン炭化膜(SiCx膜)、SOG(スピンオングラス法によるSiO2等のSiOx)膜などの絶縁性シリコン化合物膜、あるいは多結晶のII−VI族化合物半導体膜(例えばZnSeなど)でもよい。これら、絶縁膜の中でも、低温で形成可能であるSiO2等のシリコン酸化膜、ポリイミドまたはSOG膜を用いるのが好ましい。さらには、形成が簡単であり、容易に表面が平坦となることからSOG膜を用いるのが好ましい。
【0057】
また、例えばCrとAu−Zn合金で構成されるコンタクト金属層(上側電極)112は、コンタクト層109とリング状に接触して形成され、電流注入のための電極となる。このコンタクト層109の上側電極112で覆われていない部分は、円形に露出している。そして、そのコンタクト層109の露出面(以後、この部分を「開口部」と記す)を充分に覆う面積で、SiO2等のSiOxとTa2O5層を交互に積層し波長800nm付近の光に対し98.5〜99.5%の反射率を持つ7ペアの誘電体多層膜ミラー111が形成されている。また、n型GaAs基板102の下には、例えばNiとAu−Ge合金から成る電極用金属層(下側電極)101が形成されている。
【0058】
図3は、図1に示す半導体レーザ装置のレーザ光が放射される方向110からみたレーザ出射部を示した図である。図3のA−A′線における断面が図1における正面に見える断面図と対応している。上側電極112は、コンタクト層109と接触しオーミックコンタクトがとれるようにアロイ化されている。そして、誘電体多層膜ミラー111は、共振器部114を表面全体を覆うように形成されている。ここで、以降図3に示すように、共振器部114の直径をDa、開口部113の直径をDwと、表記する。
【0059】
そして、上側電極112と下側電極101との間に順方向電圧が印加されて(本実施例の場合は、上側電極112から下側電極101への方向に電圧が印加される)電流注入が行なわれる。注入された電流は、量子井戸活性層105で光に変換され、DBRミラー103と誘電体多層膜ミラー111とで構成される反射鏡の間をその光が往復することにより増幅され、開口部113(コンタクト層109の露出面)から方向110すなわち基板102に対して垂直方向にレーザ光が放射される。
【0060】
ここで、図1のシリコン酸化膜(SiOx膜)からなる第1絶縁層107は、膜厚が500〜2000オングストロームで、常圧の熱CVD法により形成されたものである。耐熱性樹脂等からなる第2絶縁層108は素子の表面を平坦化するために必要なものである。たとえば、耐熱性樹脂には高抵抗を有するものの、膜中に水分の残留が発生しやすく、直接、半導体層と接触させると、素子に長時間通電した場合に半導体との界面に於てボイドが発生し素子の特性を劣化させる。そこで、本実施例の様に、第1絶縁層107のような薄膜を半導体層との境界に挿入すると、第1絶縁層107が保護膜となり前述の劣化が生じない。第1絶縁層を構成するシリコン酸化膜(SiOx膜)の形成方法には、プラズマCVD法、反応性蒸着法など種類があるが、SiH4(モノシラン)ガスとO2(酸素)ガスを用い、N2(窒素)ガスをキャリアガスとする常圧熱CVD法による成膜方法が最も適している。その理由は、反応を大気圧で行い、更にO2が過剰な条件下で成膜するのでSiOx膜中の酸素欠損が少なく緻密な膜となること、および、ステップ・カバーレッジが良く、共振器部114の側面および段差部も平坦部と同じ膜厚が得られることである。
【0061】
次に、図1に示す面発光型半導体レーザ100の製造プロセスについて説明する。図22A〜図22Cおよび図23D〜図23Fは、面発光型半導体レーザ装置の製造工程を示したものである。
【0062】
前述したように、n型GaAs基板102に、n型Al0.15Ga0.85As層とn型Al0.8Ga0.2As層とを交互に積層して波長800nm付近の光に対し99.5%以上の反射率を持つ40ペアのDBRミラー103を形成する。さらに、n型Al0.7Ga0.3As層(第1クラッド層)104を形成した後、n−型GaAsウエル層とn−型Al0.3Ga0.7Asバリア層とを交互に積層した量子井戸構造(MQW)の活性層105を形成する。その後、p型Al0.7Ga0.3As層(第2クラッド層)106、およびp型Al0.15Ga0.85As層(コンタクト層)109を順次積層する(図22A参照)。
【0063】
上記の各層は、有機金属気相成長(MOVPE:Metal−Organic Vapor Phase Epitaxy)法でエピタキシャル成長させた。この時、例えば、成長温度は750℃、成長圧力は150Torrで、III族原料にTMGa(トリメチルガリウム)、TMAl(トリメチルアルミニウム)の有機金属を用い、V族原料にAsH3、n型ドーパントにH2Se、p型ドーパントにDEZn(ジエチル亜鉛)を用いた。
【0064】
図22Aで示すように、各層の形成後、エピタキシャル層上に常圧熱CVD法を用いて、250オングストローム程度のSiO2層からなる保護層Iを形成する。この保護層Iが積層された半導体層を覆うことにより、プロセス中の表面汚染を防いでいる。
【0065】
なお、以上の工程で得られた、基板102上にDBRミラー103、第1クラッド層104、量子井戸活性層105、第2クラッド層106、コンタクト層109および絶縁層Iが形成されたウエハの一部は、後述する端面発光型半導体レーザ装置のサンプルとして使用される。
【0066】
次に、反応性イオンビームエッチング(RIBE)法により、レジストパターンR1で覆われた柱状の共振器部114を残して、保護層I、コンタクト層109および第2クラッド層106の途中までエッチングする。このエッチングプロセスの実施により、共振器部114を構成する柱状部は、その上のレジストパターンR1の輪郭形状と同じ断面を持つ(図22B参照)。また、RIBE法を用いるため、前記柱状部の側面はほぼ垂直であり、またエピタキシャル層へのダメージもほとんどない。RIBEの条件としては、例えば、圧力60mPa、入力マイクロ波のパワー150W、引出し電圧350Vとし、エッチングガスには塩素およびアルゴンの混合ガスを使用した。
【0067】
このRIBE法による柱状部の形成においては、エッチング中、前記基板102の温度は、比較的低温、すなわち好ましくは0〜40℃、より好ましくは10〜20℃に設定される。このように、基板の温度を比較的低温に保持することにより、エピタキシャル成長によって積層される半導体層のサイドエッチングを抑制することができる。ただし、基板の温度が0〜10℃であると、サイドエッチングを抑制するという点からは好ましいが、エッチングレートが遅くなってしまうために実用的には不向きである。また、基板の温度が40℃を超えると、エッチングレートが大きくなりすぎるため、エッチング面が荒れてしまうだけでなく、エッチングレートの制御がしにくいという不都合がある。
【0068】
この後、レジストパターンR1を取り除き、常圧熱CVD法で、表面に1000オングストローム程度のSiO2層(第1絶縁膜)107を形成する。この際のプロセス条件としては、例えば、基板温度450℃、原料としてSiH4(モノシラン)と酸素を使用し、キャリアガスには窒素を用いた。さらにこの上にスピンコート法を用いてSOG(Spin on Grass)膜108Lを塗布し、その後例えば、80℃で1分間、150℃で2分間、さらに300℃で30分間、窒素中でベーキングする(図22C参照)。
【0069】
次にSOG膜108L、SiO2膜107および保護層Iをエッチバックして、露出したコンタクト層109の表面と面一になるように平坦化させた(図23D参照)。エッチングには平行平板電極を用いた反応性イオンエッチング(RIE)法を採用し、反応ガスとして、SF6、CHF3およびArを組み合わせて使用した。
【0070】
次に、コンタクト層109とリング状に接触する上側電極112を公知のリフトオフ法により形成した(図23E参照)。コンタクト層109は上側電極112の円形開口を介して露出しており、この露出面を充分に覆うように誘電体多層膜ミラー(上部ミラー)111を公知のリフトオフ方法により形成する(図23F参照)。上部ミラー111は、電子ビーム蒸着法を用いて、SiO2層とTa2O5層を交互に例えば7ペア積層して形成され、波長800nm付近の光に対して98.5〜99.5%の反射率を持つ。この時の蒸着スピードは、例えばSiO2が5オングストローム/分、Ta2O5層が2オングストローム/分とした。
【0071】
なお、前記上部ミラー111は、前記リフトオフ法以外に、RIE法によって形成されてもよい。
【0072】
しかる後、基板102の下面に、NiとAuGe合金とからなる下側電極101が形成されて、面発光型半導体レーザ装置が完成する。
【0073】
以上、本実施例の構成要素および製造プロセスについて一通り説明したが、本実施例の主たる構造上の特徴は次の点にある。
【0074】
(A)量子井戸活性層
量子井戸活性層105は、n−型GaAsウエル層とn−型Al0.3Ga0.7Asバリア層から成る。本実施例の場合は、多重量子井戸構造(MQW)の活性層となっている。ウエル層の膜厚は、40〜120オングストローム,好ましくは61オングストローム、バリア層の膜厚は40〜100オングストローム,好ましくは86オングストローム、ウエル層の総数は3〜40層,好ましくは21層である。これにより、面発光型半導体レーザ装置の低閾値化、高出力化、温度特性の向上、発振波長の再現性の向上が達成できる。
【0075】
(B)埋込み絶縁層
埋込み絶縁層は、熱CVD法により形成された膜厚の薄いシリコン酸化膜(第1絶縁層)107と、その上に埋め込まれた第2絶縁層(具体的な材料は上述の説明を参照)108との2層構造から構成されている。この構造において、薄い第1絶縁層107を形成する理由は、その後に形成する第2絶縁層108は不純物(例えばナトリウム、塩素、重金属、水等)を多く含有しているので、その不純物が第2クラッド層106中や量子井戸活性層105中へ熱等により拡散することを阻止するためである。したがって、第1絶縁層107は、不純物を阻止できるだけの膜厚であればよい。また、この薄い第1絶縁層107は、熱CVDにより形成するので、その膜質は、その後形成される第2絶縁層108と比較するとち密である。本実施例においては、第1絶縁層107は、熱CVDにより形成されるため、素子への熱の影響を考慮して、この第1絶縁層107を厚くして1層とするのではなく、薄い第1絶縁層107と、膜質がち密でなくても、より低温で形成できる第2絶縁層108との2層構造とした。
【0076】
また、本実施例においては、埋込み絶縁層が量子井戸活性層105に至らない状態、つまり、共振器部114以外の領域において、第1絶縁層107と量子井戸活性層105との間に、第2クラッド層106を所定の厚さ(t)だけ残すことも特徴である。この残す膜厚tは、後述する理由により、好ましくは0〜0.58μm、さらに好ましくは0〜0.35μmに設定される。これにより、面発光型半導体レーザ装置において、活性層内に有効に電流が注入され、高効率化、高信頼性化が達成できる。
【0077】
(C)誘電体多層膜ミラー
誘電体多層膜ミラー111は、SiO2等のSiOx層とTa2O5層とを交互に積層し波長800nm付近の光に対し98.5〜99.5%の反射率を持つ7ペアの誘電体多層膜から形成されている。前記Ta2O5層は、その代わりに、ZrOx膜、ZrTiOx膜およびTiOx膜のいずれかで構成されていてもよい。また、前記SiOx層は、その代わりに、MgF2膜、CaF2膜、BaF2膜およびAlF2膜のいずれかで構成されていてもよい。これにより、面発光型半導体レーザ装置の低閾値化、外部微分量子効率の向上が達成できる。
【0078】
この点をさらに詳しく説明する。本実施例の面発光型半導体レーザ装置の特徴は、n型DBRミラー103と誘電体多層膜ミラー111を用いてレーザ共振器を構成し、例えば図46の従来技術に見られるp型DBRミラーを含んでいないことである。つまり、この従来例では、p型DBRミラーの反射率を大きくするためにミラーの層数を多くする必要があり、p型DBRミラーの抵抗が非常に大きくなるという問題点を有している。それに対して、本発明の実施例では、p型DBRミラーを用いることなく誘電体多層膜ミラー111を用いることを特徴としている。これによって以下の効果が得られる。
【0079】
(1)本実施例の装置においては、注入電流はコンタクト層109および第2クラッド層106を通して流れるので、大きな抵抗を持つことはない。
【0080】
すなわち、デバイスのシリーズ抵抗を下げることができ、閾電流値(Ith)における電圧(以下、これを「閾値電圧」と言い「Vth」と表記する)を下げることができる。これにより注入電流によるデバイスの発熱を抑える事ができ、その結果外部微分量子効率を上げ、発振可能な光出力を向上させることが可能である。
【0081】
(2)誘電体多層膜ミラーを、クラッド層,活性層等の結晶成長後に形成するので、共振器長を共鳴条件に正確に合わせ込んだ面発光型半導体レーザ装置の製造が可能である。共振器長の制御については、後に詳述する。
【0082】
次に、図2に、本発明の図1に示した実施例の面発光型半導体レーザ装置と図46に示した従来例の面発光型半導体レーザ装置のそれぞれの注入電流と光出力との関係を示す特性(以下これを「I−L特性」と記す)、および注入電流と順方向電圧の関係を示す特性(以下これを「I−V特性」と記す)をまとめて示してある。図2において、実線で示した曲線が本実施例のI−L特性201とI−V特性202を示し、破線で示した曲線が従来例のI−L特性203とI−V特性204を示している。両者のI−V特性を見れば明らかなように、デバイスの抵抗には大きな差がある。従来例のp型DBRミラーを用いた場合に比べて、本実施例のデバイス抵抗は一桁以上小さいことが判る。従来例ではデバイス抵抗は約600Ωであるのに対し、本実施例のデバイス抵抗は約50Ωである。また、閾値電圧Vth(I−L特性のIthの電流値に対するI−V特性の電圧値)は、従来例では約4.0Vであるのに対し、本実施例では約1.9Vと1/2以下の低い値である。これにより、本実施例の面発光型半導体レーザ装置は、デバイスの注入電流による発熱は抑えられ、高い電流領域まで熱飽和することなく光出力が得られることになる。
【0083】
また、図2のI−L特性を見れば明らかなように、従来例のI−L特性203では、デバイス抵抗が高いために、それによる発熱のため6mA程度で光出力が飽和してしまい、0.4mW程度の光出力が得られる程度である。これに対して、本実施例のI−L特性201では、10mA程度まで光出力が飽和することなく、1.2mWの出力が得られている。
【0084】
図4は、本実施例における面発光型半導体レーザ装置の注入電流と光出力の関係を示すI−L特性図である。このI−L特性を求めるために用いたサンプルは、図1および図3に示す構成の面発光型半導体レーザ装置において、Dw=6μm(レーザ光が放射される部分、つまり開口部113の直径)、Da=8μm(共振器部114の直径)、量子井戸活性層105中のGaAsウェル層の膜厚が61オングストローム、Al0.3Ga0.7Asバリア層の膜厚が86オングストローム、発振波長が800nmとしたものである。401の特性曲線は、上述の構成を有する面発光型半導体レーザ装置をパルス幅200nsec、繰り返し周波数10kHzのパルス電流でパルス駆動した場合の結果であり、402の特性曲線は、上述の構成を有する面発光型半導体レーザ装置を直流電流で連続駆動した場合の結果を示している。両者ともに明瞭な閾値を持ってレーザ発振を開始し、連続駆動の場合の閾電流は2mAと低い。そして、パルス駆動の場合の方が、連続駆動の場合より閾電流が低く発振した後の外部微分量子効率も高い。連続駆動の場合には、注入電流による素子の温度上昇の影響が大きく、注入電流を増していくとI−L特性の直線性が悪くなることが判る。実用的な面発光型レーザ装置を実現するためには、閾電流値が低く、かつ外部微分量子効率の高い特性が得られるようにして、その結果駆動電流値をできるだけ下げることが重要である。
【0085】
以下に、本発明による実施例をさらに詳細に説明し、その駆動電流を下げることが如何に可能であったかを、図5Aおよび図5Bを用いて説明する。図5Aに示す面発光型半導体レーザ装置は比較用デバイスである。
【0086】
図5Aにおいて、図1の正面からみた断面図と異なる部分は、埋込み絶縁層が量子井戸活性層105まで到達していることである。つまりこの図は、塩素イオンを用いた反応性イオンビームエッチング法によって、コンタクト層109と第2クラッド層106と量子井戸活性層105と一部のn型クラッド層104をエッチングし、その周囲をシリコン酸化膜(SiOx膜)からなる第1絶縁層107とポリイミドからなる第2絶縁層108とで埋め込んだ面発光型半導体レーザ装置の断面構造図を示す。
【0087】
図5Bは、図1の正面からみた断面図と構造的には同様のものである。つまり、エッチングが図5Aのように量子井戸活性層105まで到達せず、p型Al0.5Ga0.5As層からなる第2クラッド層106の途中迄で止めて、その周囲を図5Aと同様に埋め込んだ面発光型半導体レーザ装置の断面構造図を示す。そして、図5Bに示す様に第2クラッド層106のエッチング残り膜厚を「t」と表記する。
【0088】
図5Aの構造にすると、どの様な問題が発生するか、図6の実験結果に基づいて以下に説明する。
【0089】
図6の601で示した直線は、図5Aに示した構成の面発光型半導体レーザ装置の閾電流密度(発振閾電流値Ithを共振器部の面積(直径はDaである)で割った値;「Jth」と記す)と1/πDaとの関係を示したものである。この場合、開口部の直径Dwは6μmと一定にして、共振器部の直径Daだけを変えたレーザ素子を複数作製し、そのIthを測定して、Jthを求めたものである。図5Aの様に量子井戸活性層105を切って、その側面が第1絶縁層107と接触している場合には、その接合面で界面再結合電流が流れ、その成分が洩れ電流としてIthを増加させる。Jthは界面再結合電流がある場合、次の式(1)のように表される。
【0090】
【数1】
【0091】
ここでJ0は洩れ電流が無いときの閾電流密度、eは電子の電荷量、Nthは閾キャリア密度、daは活性層の膜厚、vsは界面再結合速度を表す。式(1)から明らかなように界面再結合電流が存在すると、Jthは、共振器部の直径Daの逆数に比例する成分を持ち、界面再結合電流が大きいほど(1/Da)に対する変化率は大きい。界面再結合電流は非発光の洩れ電流であり、これが大きいとIthを増大させ且つ電流を流した時に素子の発熱を生じせしめ、発光効率を減衰させるという悪影響を及ぼす。
【0092】
それに対し、図6の602の直線は、図5Bで示された構造の本実施例の面発光型半導体レーザ装置に対する同様な測定の結果である。図6から明らかなように、図5Bの量子井戸活性層105までエッチングを進めない場合、つまり量子井戸活性層と埋込み絶縁層との界面が存在していない場合、Jthは(1/Da)にほとんど依存しなくなり、閾電流値も減少する。従って、共振器部を形成するときに、第2クラッド層106に残り膜厚tを設け、界面再結合電流をなくすことが、面発光型半導体レーザ装置の構造上、特に重要なことであることが判る。
【0093】
ただし、その第2クラッド層106の残り膜厚tは、厚くなりすぎると注入キャリアの拡がりが大きくなってIthの増大をまねく。従って、適当な厚さでエッチングをストップさせる必要があり、さらに量子井戸活性層105との境界でピタリとエッチングを終えること、つまり第2クラッド層の残り膜厚t=0となることが最も好ましい。これには製造技術上困難を伴う場合があるが、理論的には問題ない。つまり、その下の活性層を実質的にエッチングしなければよいのである。
【0094】
図7には、本発明の実施例における第2クラッド層106のエッチングの残り膜厚tの異なる複数の面発光型半導体レーザ装置のI−L特性をまとめて示してある。このI−L特性を求めるにあたって、共振器部114の直径Daは8μm、開口部113の直径Dwは6μm、量子井戸活性層105の量子井戸(ウエル)は21層から成り、残り膜厚tを変えて複数の素子(発振波長;800nm)を作製し、連続駆動の条件で測定した。図7から明らかなように、tが0.62μmより大きくなるとIthは10mA以上となり、また外部微分量子効率が低下して光出力がすぐに熱飽和を起こす。
【0095】
さらに、このクラツド層の残り膜厚tの好ましい数値範囲について、図8を用いて説明する。
【0096】
図8において、縦軸は外部微分量子効率を示す傾き(スロープ効率)の値を示し、横軸はクラッド層の残り膜厚tを示す。スロープ効率が0.1(つまり10%)であるということは、10mAの電流でも1mWの光出力しか得られないことになる。一般的に、この10mAという電流値は、レーザ素子が熱飽和する電流値に近い電流値であり、ほとんど限界に近いものである。従って、実用上要求される傾きは0.1以上であり、図8からスロープ効率が0.1の時の残り膜厚tは、約0.58μmとなり、このことから好ましい残り膜厚tは、0〜0.58μmとなる。さらに、面発光型半導体レーザ装置を、たとえばプリンターに用いる際に必要な光出力は好ましくは2mW、さらに好ましくは2.5mwであることから、好ましい残り膜厚tは0〜0.4μm、さらに好ましくは0〜0.3μmである。
【0097】
本発明の特徴的な構成要件は、量子井戸活性層105の構造にあることは、前に簡単に説明した。これを次に詳細に、図9を用いて説明する。
【0098】
図9は、本発明の一実施例におけるMOVPE法によって結晶成長した単一量子井戸構造からの光励起による発光スペクトルの測定結果を示す図である。サンプルは、GaAs単結晶基板上に膜厚500オングストロームのAl0.3Ga0.7Asバリア層を介して膜厚の異なる単一量子井戸層をそれぞれ結晶成長させたものである。測定は、サンプルを液体窒素温度(77K)に冷却し、300mWのアルゴンレーザ光を照射して、発光した光を分光器でスペクトル分解受光して行なった。量子井戸の膜厚が薄い程、エネルギー準位が高くなり、短波長に鋭い発光スペクトルが観測された。図9には、各量子井戸膜厚に対応する発光のピーク波長(図中の、左のピークから17,33,55,115オングストローム)とその半値幅(同じく8.3,9.6,7.8,5.6meV)を記してある。
【0099】
また、図10の実線1001は、量子井戸膜厚(横軸)と、それに対応するピーク波長(縦軸)の関係を理論計算より求めた結果であり、ドット(●)は図9の測定結果をプロットしたものである。この図から実測値と理論計算とは、ほぼ一致した結果となっており、量子井戸構造が理論に近い形で作製されていることが判る。
【0100】
図11に、前記量子井戸からの発光強度の半値幅と量子井戸幅の関係を、理論的に求めた結果および測定結果で表す。図11の1101で示す破線は理論的に計算される半値幅であり、1102の破線は、量子井戸幅に1原子層の凹凸があった場合に、井戸幅に対して半値幅が、どの程度広がるかを理論的に計算した結果を示している。また、1103の実線およびドット(●)は実測値を示している。このように、図11から明らかなように、本実施例では1原子層分のゆらぎがある場合よりも半値幅は充分狭く、理想的な量子井戸に近いものが出来ていることが判る。
【0101】
この様な、1原子層のゆらぎもない量子井戸構造を作る為には、MOVPE法の結晶成長装置を工夫して用いることによって製造可能である。
【0102】
前述のように、単一量子井戸が作製可能であると、これを連続して積層して多重量子井戸を作製することが可能となる。面発光型半導体レーザ装置の量子井戸活性層としては、光の増幅が起こるためには、注入したキャリアが活性層内に閉じこもり、量子井戸層内に注入キャリアを分布させることが必要である。
【0103】
更に、面発光型半導体レーザ装置の構造において、低い閾電流を達成するには、共振器内部における定在波を考慮した活性層の膜厚を最適化する必要がある。図12は活性層の全膜厚に対して面発光型半導体レーザ装置の閾電流密度(Jth)の変化の様子を理論的に計算したものである。図12には、図1のDBRミラー103の反射率をRr、誘電体多層膜ミラー111の反射率をRfとし、ミラー103,111でつくられるファブリ・ペロ−共振器の平均反射率Rm(=(Rr・Rf)1/2)を変化させた場合を示している。Jthは下記の式(2)で表される。
【0104】
【数2】
【0105】
ここでeは電子の電荷量、dは活性層の膜厚、Lは共振器の長さ、ξは光の閉じ込め係数、αacは活性層の光損失、αinはキャリアが注入されていない状態での損失、αexは活性層以外の共振器部の損失、およびA0は定数を表す。図12は、上記理論式に基づいて、活性層の全膜厚と閾電流密度の関係を示したものであり、実線は共振器での定在波の分布を考慮しない場合、破線は定在波の分布を考慮した場合の計算結果である。図12においては、平均反射率Rmが0.98,0.99,0.995の場合の結果を示し、●は活性層の膜厚が0.13μm、Rmが0.98の場合の面発光レーザの実測値、■は活性層の膜厚が0.29μm、Rmが0.99の場合の実測値をそれぞれ示している。それぞれの実測値は理論値に良く合致している。この活性層を量子井戸構造にすることで、閾電流は更に低下し、実際にDa=8μmの時にIth=2mAが得られた。
【0106】
この様に、面発光型半導体レーザ装置の低閾値化を達成する為に必要な活性層の条件としては、以下の2点が必要である。
【0107】
(1)活性層が量子井戸構造であり、それが単原子以下の平坦性(凹凸)のある、急峻な井戸であること。
【0108】
(2)量子井戸活性層の全膜厚が共振器内の定在波分布を考慮した閾値電流密度の最小値をとる値、例えば、0.27〜0.33μmの範囲あるいは0.65〜0.75μmの範囲に設定されること(図12参照)。
【0109】
量子井戸の膜厚はレーザ発振の発振波長によって設定するので、全膜厚は量子井戸を繰り返し形成して、その井戸数を変えることで制御する。例えば800nmの発振波長で発振する面発光型半導体レーザ装置を製作する場合には、量子井戸層はGaAsで膜厚61オングストローム、バリア層はAl0.3Ga0.7Asで膜厚86オングストロームとし、21対の多重量子井戸構造を形成すればよい。
【0110】
次に、活性層におけるウエル層の数について、図47を参照して説明する。
【0111】
図47は、ウエル層の数がI−L特性に与える影響を示したものである。つまり、図47中の曲線a〜hは、所定の膜厚(da)を有する活性層のウエル層の数をそれぞれ1,2,3,12,21,30,40および50とした場合のI−L特性を示す。前記膜厚(da)は、図12に示した条件を満たす。曲線a〜eで示す活性層の膜厚は0.3μmであり、曲線f〜hで示す活性層の膜厚は0.7μmである。
【0112】
そして、活性層におけるウエル層の占める膜厚の総計はその数によって異なるが、バリア層の膜厚の総計をコントロールすることによって活性層の膜厚を所定の値に設定することができる。例えば、バリア層を所定の膜厚で等間隔で形成することができない場合には、図48に示すように、もっとも外側に位置するバリア層B1,B2の膜厚をそれ以外のバリア層の膜厚より大きくすることによって活性層全体の膜厚を規定することができる。
【0113】
図47より、閾値電流を低くするためにはウエル層の数を少なく、光出力を大きくするためにはウエル層の数を多くすることが有効であることがわかる。つまり、レーザ発振をするためには、ウエル層の数を1〜40とし、1mW以上の光出力を得るためにはウエル層の数を3〜30とする必要がある。したがって、本実施例において適切なウエル層の数は3〜30である。
【0114】
次に、クラッド層のバンドギャップの大きさがレーザ発振特性に及ぼす影響について詳述する。図13は、GaAs単結晶基板上に結晶成長した面発光型半導体レーザ装置用ウエハの各成長層AlxGa1−xAsのAl組成を示したものである。AlGaAsはAlの組成比が高いほどバンドギャップが大きいので、図13はバンドギャップの変化の様子を表していることにもなる。クラッド層のバンドギャップによって活性層に注入されたキャリアは閉じ込められ、キャリアの閉じ込めがよいほどデバイスの温度特性は向上する。図13中のn型クラッド層と第2クラッド層のAl組成xを0.5にした面発光型半導体レーザ装置と、xを0.7にした面発光型半導体レーザ装置を作製し、両者の特性を比較してみた。サンプルは、クラッド層の組成以外は全く同じ条件で作製され、量子井戸活性層はGaAs膜厚61オングストロームの量子井戸層とAl0.3Ga0.7Asで膜厚86オングストロームのバリア層とを21対重ねた多重量子井戸構造、誘電体多層膜ミラーはSiOxとTa2O5を8対積層して800nmの波長において99.0%の反射率を有し、Daは8μm、Dwは6μmである。
【0115】
図14は2つのタイプの面発光型半導体レーザ装置のI−L特性を示す図である。図において曲線1401は第1および第2クラッド層がAl組成0.5の面発光型半導体レーザ装置の特性を示し、曲線1402は第1および第2クラッド層がAl組成0.7の面発光型半導体レーザ装置の特性を示している。両者共に室温連続駆動の条件で電流を流している。図14から明らかなようにクラッド層のAl組成の大きい方が外部微分量子効率が高く、2倍以上のレーザ光出力を取り出すことが可能である。これはクラッド層のポテンシャルバリアにより注入キャリアの活性層内への閉じ込めが有効に働いていることを示す。
【0116】
さらに、クラッド層のAl組成について図15を用いて説明する。図15において、縦軸は外部微分量子効率(I−L特性の傾き)を表す値(スロープ効率)を示し、横軸はクラッド層中のAl組成を示している。前述の図8においても説明したように、通常外部微分量子効率は0.1以上である必要がある。このことから、クラッド層のAl組成は、0.4以上が好ましい。そして、面発光型半導体レーザ装置をプリンターに用いる際には、必要な光出力は2mW以上であることから、好ましいクラッド層のAl組成は0.65以上であり、さらに好ましくは0.7〜0.8程度である。
【0117】
次に、更なる低閾値化を達成するために必要な条件について詳述する。図1の誘電体多層膜ミラー111は、レーザ発振波長に対して98.5〜99.5%の反射率を有する必要がある。反射率が98.5%より低いと、図12の理論計算から明らかなように発振閾電流が大幅に増大してしまう。逆に99.5%よりも大きいと光出力が外部に取り出しにくく、外部微分量子効率が低下してしまう。従って、前述の反射率になるように誘電体多層膜ミラー111の対数を決定して薄膜形成する。更に、誘電体の材料に、レーザ発振波長に対して光の吸収損失が少ない特性のものを使用することが、閾値を低くし外部微分量子効率を向上させるために重要な要件である。
【0118】
図16は、実線1602で示す、誘電体多層膜ミラーとして非晶質SiとSiOxの多層膜ミラーを形成した面発光型半導体レーザ装置と、実線1601で示す、誘電体多層膜ミラーとしてZrTiOxとSiOxの多層膜ミラーを形成した面発光型半導体レーザ装置とのI−L特性を各々示す。さらに具体的には、図中の実線1601は、誘電体ミラーとしてSiOx/ZrTiOx多層膜を8対形成し、その反射率が99.0%の面発光型半導体レーザ装置のI−L特性を示し、実線1602は、誘電体ミラーとしてSiOx/非晶質Si多層膜を4対形成し、その反射率が98.7%の面発光型半導体レーザ装置のI−L特性を示す。図16から明らかなように、ほぼ同一の反射率を有する誘電体多層膜ミラーに対して、外部微分量子効率と発振可能な光出力は大きく異なる。これは非晶質Siの800nmの波長に対する光吸収係数が4000cm−1であるのに対して、ZrTiOxの同波長に対する光吸収係数が50cm−1と小さいことによる。
【0119】
表1に、電子線蒸着法(以下EB蒸着法と記す)により形成した誘電体薄膜の波長800nmに対する屈折率と光吸収係数を示す。
【0120】
【表1】
【0121】
この表1のうちZrTiOxは、ZrOx中にTiがZrに対して約5%のモル比で薄膜中に含まれた誘電体材料である。反射ミラーを形成するためには、発振波長λに対してλ/4n(nは誘電体材料の屈折率)の膜厚にして、低屈折率の誘電体と高屈折率の誘電体を交互に積層する。反射率を大きくするには積層する対数を増やせば反射率は増大していくが、光の吸収損失を持っていると反射率は上がらなくなる。
【0122】
次に、表2に各誘電体の組合せによるミラーの膜厚と対数およびλ=800nmにおける反射率の計算値とEB蒸着によって製作した各誘電体ミラーの反射率を示す。
【0123】
【表2】
【0124】
上記表2の反射率の計算値は、表1の光吸収係数を考慮した結果である。表2から判るようにa−Si(アモルファスシリコン)の様な大きな吸収係数を持った誘電体材料を用いると反射率を上げることが難しい。以上述べた様に、本発明の実施例の面発光型半導体レーザ装置に用いる誘電体多層膜ミラーは、閾電流値を下げ発光効率を上げるために、発振波長に対して100cm−1以下の光吸収係数を有する誘電体材料を用いてミラーを形成することが好ましく、より好ましくは60cm−1以下の光吸収係数であることがよい。
【0125】
次に、発振閾値が低く、効率の高い面発光型半導体レーザ装置を実現するために必要な更なる条件について説明する。
【0126】
図17Aは、図1に示した本発明の実施例を示す面発光型半導体レーザ装置の断面構造を模式的に示した図である。図17A中、図1と同じ符号は同一の構成をさし、1701はほぼ共振器長を示し、1702は注入電流の流れを模式的に示している。面発光型半導体レーザ装置は、誘電体多層膜ミラー111とDBRミラー103との間でファブリ・ペロー共振器を形成し、この共振器内に立つ定在波の波長で発振する事が可能である。共振器長1701は、誘電体多層膜ミラー111とDBRミラー103との間の膜厚でほぼ決定されるが、DBRミラー103への光の侵入があるので実効的な共振器長(以下これを「Leff」と記す)は1701で示す長さより長いものになる。この実効的な共振器長Leffは、反射率を調べることで直接に測定することが可能である。
【0127】
図17Bは、図1および図17Aに示す本実施例の面発光型半導体レーザ装置を形成するための半導体層を有するウェハ(以下、単に「半導体積層ウェハ」ともいう)を用いて形成されたストライプ型の端面発光型半導体レーザ装置の一例を示す。すなわち、この端面発光型半導体レーザ装置200は、図22Aに示したように、基板102上に、DBRミラー103、第1クラッド層104、量子井戸活性層105、第2クラッド層106およびコンタクト層109が積層された半導体積層ウェハの一部を切り出し、さらにコンタクト層109上に絶縁層120および上側電極121を形成し、基板102の下に下側電極101を形成することにより、得られる。この端面発光型半導体レーザ装置は、後述する利得のピーク波長を求めるためのサンプルとなる。また、端面発光型半導体レーザ装置としては、ストライプ−埋め込み型端面発光レーザおよびメサ−ストライプ型端面発光レーザ等を用いることもできる。
【0128】
図18は、DBRミラーの反射率スペクトル(曲線1801)と、ウエハ(半導体積層ウェハ)の反射率スペクトル(曲線1802)と、前記端面発光型半導体レーザ装置200の発振スペクトル(曲線1803)を測定した結果を示したものである。図18において、曲線1801および1802に対する縦軸は反射率を示し、曲線1803に対する縦軸は発光強度を示し、横軸は波長を示す。
【0129】
曲線1801においては、反射率が99.2%以上の領域は波長792nmから833nmまである。この半導体積層ウエハの場合、面発光型半導体レーザ装置の発振波長を800nmに設計してある。
【0130】
面発光型半導体レーザ装置の低閾値化と高効率化を達成するためには、この3つのスペクトルが特定の条件を満足する必要がある。
【0131】
[第1の条件]
まず第1の条件は、発振波長に対してDBRミラーの反射率が充分に高い必要がある。DBRミラーの反射率のピークはDBRミラーを構成する半導体層(Al0.8Ga0.2As/Al0.15Ga0.85As)の膜厚を正確に制御する事によって得られ、ピーク反射率の値はDBRミラーの対数を多くする事によって上げることが出来る。ところで、通常ウエハ面内で結晶層の膜厚は完全に均一ではないので、DBRミラーの反射率スペクトルはウエハ面内で短波長側と長波長側に分布を持っている。従って、Al0.8Ga0.2AS/Al0.15Ga0.85ASのDBRミラーの反射率は、発振波長に対して±20nmの領域で少なくとも99.2%以上の反射率を持っていないと、ウエハ面内でレーザ発振を起こさない領域が生じてしまう事になる。本実施例においてはDBRミラーとして40ペアの半導体層を積層してあるので、図18の曲線1801から明らかなように、ウエハ面内で例えば±2.5%の膜厚の分布があっても、狙った発振波長でレーザ発振を起こさせることが可能である。
【0132】
また、DBRミラーの反射率は、ミラーを構成する半導体層(Al0.8Ga0.2AS/Al0.15Ga0.85AS)の各層のドーピング量によっても変動する。これは、各層のドーピング量が増加すると、発生する自由キャリアによる光の吸収損失が無視できなくなるためである。
【0133】
特に、本実施例におけるAl0.8Ga0.2AS/Al0.15Ga0.85ASのDBRミラーでは、n型ドーパントであるSeのドーピング量が1×1019cm−3より多くなると、ペア数を40ペアにしても上記の設定波長±20nmで99.2%以上の反射率を得ることは難しくなる。従って、各層のドーピング量は1×1019cm−3以下にすることが好ましい。表3にDBRミラーへの平均ドーピング量と反射率の関係を示す。
【0134】
【表3】
【0135】
しかし、DBRミラーのドーピング量を下げることは、DBRミラーの電気抵抗を高くすることになり、DBRミラー内に電流を流す面発光型レーザにおいては、素子抵抗を増加させる要因となる。本実施例の面発光型レーザは、DBRミラーを柱状にエッチングをしない構造であるため、駆動電流はDBRミラー全体に広がり、DBRミラーの抵抗増加によるレーザ素子の抵抗増加への影響は少ない。しかし、DBRミラー各層へのドーピング量が5×1016cm−3より少なくなると、本実施例の構造においてもDBRミラーの抵抗が、上部コンタクト層と電極のコンタクト抵抗とほぼ同程度の大きさとなるため、素子抵抗への影響を無視できなくなる。従って、DBRミラーを構成する各層へのドーピング量には好適な範囲が存在し、その範囲は、5×1016cm−3以上1×1019cm−3以下となる。また、1つの基板から発振波長の異なる面発光型レーザを作製するといった発振波長の自由度などから、より好適には5×1017cm−3以上5×1018cm−3以下にすることが望ましい。
【0136】
更に、本実施例におけるDBRミラーについては、ドーピング量に関し以下の構成を有することが望ましい。すなわち、DBRミラーを構成する第1の層(アルミニウムの濃度が高い層)と、この第1の層よりもバンドギャップが小さく屈折率の異なる第2の層(アルミニウムの濃度が低い層)との界面近傍のキャリア濃度を界面近傍以外の領域よりも高くすることが望ましい。ここで「キャリア濃度」とは、不純物のドーピングによって発生した電子または正孔等のキャリア濃度をいう。キャリア濃度は、ドーピング量を変えることにより変化させることができる。具体的には、界面近傍のキャリア濃度の最大値は、界面近傍以外のキャリア濃度の最小値の1.1倍以上、100倍以内の値を取ることが好ましい。また、界面近傍のキャリア濃度の最大値は、5×1020cm−3以下の値を取ることが好ましい。
【0137】
このようにDBRミラーを構成する第1の層と第2の層とのヘテロ界面に、キャリア濃度の高い部分を形成することにより、電子および正孔のトンネル伝導を増進させることができ、従って不連続なバント構造が改善され、低抵抗のDBRミラーを構成することができる。また、このようなヘテロ界面でのキャリア濃度を高くすることによってミラーの屈折率分布は大きく影響されないので、ミラーの反射率が低下することはない。
【0138】
次にこのようなDBRミラーを製造するにあたっては、ドーパント原料を経時的に変化させる方法、所定のタイミングで成長表面に紫外線を照射する方法、経時的にV族原料とIII族原料との比率を変化させる方法、などを採用することにより、キャリア濃度を所定の界面近傍においてのみ高くすることができる。
【0139】
以下に、実験データによりこのようなDBRミラーについてさらに詳細に説明する。
【0140】
まず、DBRミラーの成長プロセスについて述べる。図35は、DBRミラーの原料であるTMGaとTMAlの流量変化およびn型ドーパントの原料であるH2Seの流量変化を示したタイミングチャート図である。この例においては、TMGaを一定に供給していることから、TMAl流量の高い成長部分がn型Al0.8Ga0.2As層を、TMAl流量の低い成長部分がn型Al0.15Ga0.85As層を構成することになる。ここで、各層の厚みは、層中を伝搬する波長800nmの光の1/4波長分になるように制御されている。また、ドーパントとしてのH2Se流量の高い部分はn型キャリアを高濃度にドープさせたい成長部分を、またH2Se流量の低い部分はn型キャリアを低濃度にドープさせたい成長部分を示している。流量の変化は、MOVPE装置において、H2Se流量の高いラインと低いラインとをコンピュータ制御のバルブを切り替えることによって、所定の界面へのドーパント量を制御している。また、この実施例では、ドーパントSe量の高い部分はTMAl流量の高い成長部分、すなわちn型Al0.8Ga0.2As層中のn型Al0.15Ga0.85As層との界面近傍において形成され、そしてSeの濃度は、TMAl流量の低い成長部分、すなわちn型Al0.15Ga0.85As層との界面で急峻に低下するように制御されている。
【0141】
このようにして得られたDBRミラーの一部をSIMS(二次イオン質量分析)法で評価した結果を図36に示す。図36において、縦軸はAlおよびSeの二次イオン数を示しており、層中に含まれる原子の量およびキャリアの数に対応している。横軸はDBRミラーの一部における膜厚方向の深さを示す。
【0142】
図35と図36とを対比すると、n型ドーパントであるSeの濃度が、第1の層(n型Al0.8Ga0.2As層)中の第2の層(n型Al0.15Ga0.85As層)との界面近傍において急峻に増加しており、所定通りのドーピングが行われていることが確認された。
【0143】
次に、図37に示すDBRミラーのエネルギーバンドの模式図を用いて、本実施例の作用について説明する。図37Aは、本実施例において、Seの濃度を第1の層の第2の層との界面近傍で急峻に高めた場合を示し、図37BはH2Seの流量を低濃度に一定に供給した以外は本実施例と同様にして作成した場合を示している。両者を比較すると、本実施例においては、界面近傍のキャリア濃度が高まった結果、伝導帯の障壁が薄くなり、その結果電子がトンネル伝導しやすくなるため多層膜に垂直な方向の電気抵抗が減少することが理解される。なお、ここでドーピングによってキャリア濃度を高めているは層の界面近傍に限定されていることから、高濃度のドーピングによる膜質の実質的な悪化はない。
【0144】
界面近傍のキャリア濃度を高める方法としては、上述したドーピング量を制御する方法の他に、紫外線などの光を照射する方法を用いることもできる。
【0145】
具体的には、キャリア濃度を高めたい部分の成長時に紫外光を照射する。図38は、DBRミラーの成長時におけるTMAlの流量変化および光照射のタイミングチャート図である。TMAl流量の高い成長部分が第1の層(n型Al0.8Ga0.2As層)を、TMAl流量の低い成長部分が第2の層(n型Al0.15Ga0.85As層)を構成する。ここで、各層の厚みは、層中を伝搬する波長800nmの光の1/4波長分になるように制御されている。また、この実施例においては、紫外光の照射は、TMAl流量の高い成長部分、すなわち第1の層中の第2の層との界面近傍で行われている。そして、n型ドーパントとしてはH2Seのかわりにテトラメチルシラン(TMSi)を用いる。
【0146】
このようにして得られたDBRミラーの一部をSIMS法で評価した結果を図39に示す。図39において、縦軸はAlおよびSiの二次イオン数を示しており、膜中に含まれる原子の量およびキャリア数に対応している。横軸はDBRミラーの一部における膜厚方向の深さを示している。
【0147】
図38と図39とを対比すると、紫外光を照射した層で、n型ドーパントであるSiの濃度が急激に増加しており、キャリア濃度の高い層となっていることがわかる。これは、以下の理由による。すなわち、ドーピング原料であるTMSiは、熱的に極めて安定で熱分解しにくいが紫外領域に吸収帯を有するため、紫外光の照射により容易に光分解が行われる。従って、紫外光を照射した場合は紫外光を照射しない場合に比べ、成長層のSi濃度が急激に上昇し、実質的にn型ドーピング物質の供給量が増加したことになる。そして、上述したSeドーパントの場合と同様に、DBRミラーを構成する層の界面近傍のキャリア濃度が高まった結果、伝導帯の障壁が薄くなって電子がトンネル伝導しやすくなり、従って多層膜に垂直な方向の電気抵抗が減少することになる。また、ここでドーピングによってキャリア濃度を高めているのは層の界面近傍のみであること、更に光照射が膜質の改善に寄与することから、高濃度のドーピングによる膜質の実質的な悪化はない。
【0148】
上述した界面ドープにおいては、ドーパント材料としてSe,Siの他にも、S,Se,Te,Zn,C,Be,Mg,Caなどを用いることができる。また、TeやMgなどのGaAs系でドーピング効率の低い材料を用いるときは、高濃度のドーピングを行いたい箇所でV族原料であるAsH3の流量をコントロールしてIII族原料との割合(V/III)を変えることにより、ドーピング効率を制御することができる。
【0149】
更に、ヘテロ界面のキャリア濃度を制御する方法としては、上述のようにバンドギャップの大きい層において界面近傍のキャリア濃度を高めることに限定されず、バンドギャップの小さい層において界面近傍のキャリア濃度を高めても良く、更にバンドギャップの大きい層と小さい層との両者における界面近傍のキャリア濃度を高めても良い。更に、キャリア濃度の分布と、多層膜の反射率,多層膜の垂直方向の電気抵抗および多層膜の結晶性との関係について詳細に検討したところ、キャリア濃度を高くする界面近傍の領域の厚さは、一対を成す、バンドギャップの大きい第1の層とハンドギャップの小さい第2の層とを合わせた厚さの1/3以内にすることが好ましい。キャリア濃度の高い領域をこれ以上の厚さにすると、結晶性が悪くなることが確認された。また、DBRミラーの抵抗を小さくするためには、高濃度のドーピングと低濃度のドーピングのタイミングを瞬時に切り替えることが望ましいが、ドーピング材料によってはこの操作によって結晶性が若干悪くなることが確認された。この場合、ドーピング量を急峻に切り替えるのではなく、界面近傍以外にドーピングするときの原料の供給量から界面近傍にドーピングするときの原料の供給量に至るまで原料の供給量を連続的に変化させることが望ましい。すなわち、界面近傍に所定のドーピング濃度でドープする前に、界面近傍のドープ時間の1/2以内の時間をかけて、ドーピング量を直線的、2次関数的もしくは3次関数的にドーピング量を変化させることにより、結晶性の低下を抑制することができる。
【0150】
[第2の条件]
次に、第2の条件は、前述した共振器長の中の定在波の波長が、面発光型半導体レーザ装置の発振波長になるので、実効的な共振器長は共振器内の発振波長の1/2の整数倍である(これを「モードの共鳴条件」と呼ぶ)。図18に示す曲線1802を見ると、図中に示したλEMの波長でスペクトルに明瞭なディップが観測されることが判る。このディップは、DBRミラー上に形成された半導体層で、波長λEMにおいて定在波が立ち、その波長の光が共振器内で共鳴的に吸収されたことを示す。従って面発光型半導体レーザ装置用の半導体積層ウエハの反射率スペクトルを測定すれば、前述の実効共振器長Leffを直接に測定できる。前述のモードの共鳴条件とは、この波長λEMが曲線1801で示すDBRミラーの反射率スペクトルの高反射率帯(ピーク)の中に含まれていることを意味している。
【0151】
[第3の条件]
そして、第3の条件は、活性層の利得のピーク波長が、前述のモード共鳴条件における定在波の波長λEMに対して短波長側に位置している必要があるということである。図18の曲線1803は、曲線1802のスペクトルが得られたのと同じ半導体積層ウェハを用いて作製された端面発光型半導体レーザ装置200(図17(B)参照)のレーザ発振スペクトルを測定したものである。ここで、曲線1802が得られる面発光型半導体レーザ装置と端面発光型半導体レーザ装置200は、n型クラッド層、活性層およびp型クラッド層が同じ半導体層から形成されているので、曲線1803は、端面発光型半導体レーザ装置の活性層の利得スペクトルを表すとともに、面発光型半導体レーザの活性層の利得スペクトルも表していることになる。利得スペクトルのピーク波長を図中でλGと表記している。λEMとλGの波長の差を△λBSと表記する。本実施例の第3の条件は、λGがλEMより必ず短波長側にあり、且つ、その差△λBSが20nm以内にあることである。
【0152】
この第3の条件は、本願出願人が初めて明らかにする重要な特徴である。以下に、この第3の条件が、なぜ本発明の面発光型半導体レーザ装置に必要不可欠な条件であるかを詳述する。
【0153】
図19Aは、前記端面発光型半導体レーザ装置200の発振波長とケース温度との関係を示した図である。図19Bは、図19Aの元になった測定結果であり、各ケース温度における発振スペクトルを示したものである。ここにおいて、ケース温度とはレーザ装置が実装されているパッケージの温度であり、ケース温度とレーザ装置の温度とは実質的に同じであると考えて良い。
【0154】
図19Aから明らかなように、温度上昇に対して、発振波長がほぼ直線的に長波長側にシフトする。その変化率△λ/△Tは2.78オングストローム/°Cである。これは温度上昇により利得スペクトルのピーク波長が長波長側にシフトする為である。
【0155】
一方、面発光型半導体レーザ装置の場合の発振波長とケース温度の関係を図20Aに示す。端面発光型半導体レーザ装置と同様に、温度上昇に対して、ほぼ直線的に発振波長が長波長側にシフトする。これは、前述した通り、面発光型半導体レーザ装置の発振波長は、実効共振器長によって決ってしまう為に、温度上昇によって共振器を構成する半導体の屈折率が変化することで発振波長が長波長側にシフトすることによるものである。ただし、その変化率△λ/△Tは0.41オングストローム/°Cであり、前記端面発光型半導体レーザ装置に比べると約1/7と小さい。従って、面発光型半導体レーザ装置の場合には、温度上昇によって、利得スペクトルのピーク波長が、屈折率の変化による発振波長の変化よりも大きく長波長側に動くことになる。
【0156】
図20Bは面発光型半導体レーザ装置の接合温度(ジャンクション温度)および発振波長が直流電流の注入によって、どの様に上昇するかを測定したものである。図20Bから明らかなように、注入電流密度の2乗に比例して、接合温度が上昇しており、前述のケース温度の上昇と同じように、電流注入によって利得スペクトルのピークおよび発振波長が長波長側にシフトすることになる。この場合も利得スペクトルのピーク方が発振波長より大きく長波長側にシフトする。従って、電流注入によってレーザ発振を起こし、かつその閾電流を小さくして高い効率を得るためには、予め利得スペクトルのピークを、実効共振器長によって決まるレーザの発振波長より短波長側に設定する必要がある。この予め設定される波長差(△λBS)を、以下「ゲインオフセット量」と表す。何故なら、利得スペクトルのピークが発振波長より長波長側にあると、電流注入によって利得スペクトルのピークが長波長側にシフトしてしまい、レーザ発振に必要な利得が減少してしまうからである。但し、利得スペクトルのピークを余りに大きく短波長側に設定すると、電流注入によって利得スペクトルのピークが長波長側にシフトしたとしても、発振波長での利得が小さくなりすぎて最初からレージングを起こさなくなってしまう。
【0157】
本出願人の実験によれば、ゲインオフセット量△λBSが20nmより大きいとレーザ発振せず、5nmより小さいと光出力がすぐに飽和してしまい、したがって△λBSは5nmから20nmの間にあることが望ましい。
【0158】
そして、このゲインオフセット量△λBSの数値範囲の根拠について、図21を用いて説明する。図21において、縦軸は閾値電流Ithを示し、横軸はゲインオフセット量△λBSを示す。本実施例において、例えば共振器部の直径Daが8μmの場合に、電流密度を例えば最大レベルの10kA/cm2とする閾電流は、5mAである。この閾電流を考慮すると、図21から面発光型半導体レーザ装置が連続駆動を行う限界のゲインオフセット量△λBSは約20nmである。一方、図21から、ゲインオフセット量△λBSが約5nmより小さいと閾電流が上昇し、光出力がすぐ飽和する。このことから、ゲインオフセット量△λBSは、好ましくは5〜20nmであり、さらに好ましくは5〜15nmであり、最も好ましくは10〜15nmである。図21は、共振器部の直径Daおよび開口部の径Dwの値を特定して得られたデータを示すが、DaおよびDwが異なったとしても本実施例のDaおよびDwの範囲では発振閾電流密度はほぼ同じであるため、第3の条件はDaおよびDwにほとんど依存せずに成立する。
【0159】
また、面発光型半導体レーザ装置の温度が変化すると、前述のように、面発光型半導体レーザの利得スペクトルのピーク波長も変化する。したがって、前述のλGの測定は、面発光型半導体レーザ装置を使用する温度付近で測定される。
【0160】
以上スペクトルに関する条件について述べたが、更に、面発光型半導体レーザ装置に必要な特性として、基本横モードでレーザ発振し、それが注入電流を増加させても変化しないことが要求される。高次横モードでレーザ発振すると、放射ビームが単峰性にならずに複雑な構造を持ち、これを光学的に集光したり、結像したりすると、分布のある結像となり実用に供さない。図24A,Bに、本発明の構造の面発光型半導体レーザ装置の発振光の横モード特性に関する測定の結果を示す。図24AはDa=8μm、Dw=6μmの面発光型半導体レーザ装置の発振光の遠視野像を等高線表示した測定結果である。この場合、等高線は面発光型半導体レーザ装置からの放射角度による分布を示している。図24Bは同様の測定によって得られた、Da=13μm、Dw=10μmの面発光型半導体レーザ装置の場合の遠視野像の結果である。図24Aに示す遠視野像においては、半値放射角8度の真円状のレーザビーム形状となり、基本横モードで発振していることを示している。これに対して、図24Bに示す遠視野像は、双峰状の形状となり、高次横モードで発振していることを示している。
【0161】
従って、図24A,Bから明かな様に、レーザの横モード特性は共振器径(Da)と開口部径(Dw)の大きさによって大きく異なる。前述した通り、放射光は基本横モードである必要があり、そのためには、共振器部の径をある大きさ以上にする事は好ましくない。また、発振する光の出力は、共振器の大きさが大きい程、出射面での光強度密度が小さくなるので、高い光出力を得るのに有利である。従って、共振器の大きさを小さくしすぎることも好ましくない。表4にDa、Dwの大きさと横モードおよび発振可能な光出力の関係を示す。
【0162】
【表4】
【0163】
表4から明かな様に共振器部114の径Daが12μmを越え、開口部113の径Dwが10μmを越えると横モードは高次となり、放射光は単一峰とならずに複数のピークのある構造を持つ。また、Daが6μm以下、Dwが4μm以下であると最大光出力は0.5mW程度しか得られない。更に、Daが12μm、Dwが8μmであると、注入電流を増加させていくと、比較的低い電流値で横モードが高次モードに移ってしまい、光出力に不安定な領域ができる(以下、これを「キンクの発生」と記述する)。従って、本発明の実施例に於いては、Daは6μm〜12μmであり、Dwは4μm〜8μmであることが基本横モード発振の条件であり、更に好適には、Daは7μm〜10μmであり、Dwは5μm〜7μmである。
【0164】
次に、図1の第2クラッド層106の共振器を形成している部分の膜厚が、レーザ装置の低閾値化にどの様に影響するか、実験例に基づき説明する。図17に示す通り、本発明の面発光型半導体レーザ装置の構造に於いては、リング状の上側電極112から活性層105に電流を注入する。レーザ発振は最も大きな利得を得る共振器中央付近で起こる。これは共振器中を往復する光は、共振器周辺部では上側電極および共振器界面における光損失が大きいため、中央付近で最大利得を得るためである。しかし注入電流は上側電極から第2クラッド層を介して活性層に流れるため、共振器内部では不均一な電流密度分布を生ずる。従って、共振器中央部でレーザ発振に充分な注入電流によるキャリア密度を得るためには、第2クラッド層の膜厚は適正に選択される必要がある。そして、前記注入キャリア密度が不十分であると、閾電流が増大する。
【0165】
図25Aは本実施例のレーザ装置で第2クラッド層106の膜厚が1.0μmの場合の発光近視野像、図25Bは第2クラッド層106の膜厚が0.3μmの場合の発光近視野像を計測したものである。また、下段の各図は、図中のラインa−aおよびb−bにおける光強度を示している。図25Aは、レーザ発光の近視野像である。図25Bは、レーザ発振に至らない、自然放出光の近視野像を示す。図25Bから明かなように、第2クラッド層の膜厚が薄いと注入キャリアの不均一は大きく、上側電極112(コンタクト金属)に対応する位置に多く分布し、つまり、上側電極付近で注入キャリアが再結合して発光してしまい、共振器中央付近の注入キャリア密度は大きくならない。そのためにレーザ発振の閾値に達する前に、光出力は熱飽和してしまう。これに対し図25Aのように第2クラッド層106が充分な膜厚を持っていると共振器内部に均一な注入キャリア密度が得られるため、共振器中央付近において最大利得を得ることができ、レーザ発振に至っている。
【0166】
従って、クラッド層は、本発明の面発光型半導体レーザ装置の構造の場合、その厚さが薄くなりすぎては、注入キャリアの不均一を生じ、その結果レーザ発振の閾電流の増大を招き、レーザ発振そのものに至らない場合がある。図26に、第2クラッド層106の膜厚が0.3μmの場合と2.0μmの場合のI−L特性の測定結果を示す。曲線(a)は膜厚が0.3μmの場合を示し、この場合、注入電流を上げてもレーザ発振には至らず自然放出光のみで光出力は飽和してしまっている。これに対して曲線(b)で示す膜厚が2.0μmの場合、3mAの閾電流値でレーザ発振を開始し、0.35W/Aのスロープ効率で最大光出力1.5mWまで発振可能である。
【0167】
しかし、第2クラッド層の膜厚が厚くなりすぎると、デバイスの素子抵抗が高くなって消費電力の増大を招き、光出力の熱飽和が低い注入電流で起ってしまうという問題や、デバイス全体の膜厚が増すことによって結晶成長に長い時間を要し、ウェハの製造効率を下げるといった問題が発生する。本実施例においては、第2クラッド層の膜厚は3.5μm以上にすると素子抵抗が100Ωを越え、光出力の最大値が低下する。図27に、第2クラッド層の膜厚が2.0μmの場合と4.0μmの場合のI−L特性を示す。曲線(a)は膜厚が2.0μmの場合であり、曲線(b)は膜厚が4.0μmの場合である。図27から明かなように、第2クラッド層の膜厚が厚くなりすぎると第2クラッド層の抵抗が増し、注入電流を大きくしていくと素子の温度上昇により光出力の熱飽和が低い電流値で起るようになる。
【0168】
このように第2クラッド層の膜厚には最適な厚さがあり、本発明においては好ましくは0.8μm〜3.5μmであり、更に好ましくは1.0μm〜2.5μmである。
【0169】
さらに第2クラッド層内での注入キャリアを均一にし、活性層で均一な注入キャリア密度を得るためには、第2クラッド層の比抵抗を下げることも効果がある。クラッド層の膜厚が薄い場合においても、比抵抗を下げ、注入キャリアの拡散を良くすることにより、第2クラッド層の膜厚を増加したことと同様な効果が得られる。表5に第2クラッド層を構成するAl0.7Ga0.3As層の厚さが1μmのときの比抵抗との注入キャリアの拡散長を示す。
【0170】
【表5】
【0171】
面発光型レーザの開口部の直径Dwが8μm程度の場合、注入キャリアの拡散長も同程度がよく、この関係を考慮すると、表5より、比抵抗は2×10−1Ω・cm以下にすることが好ましいことがわかる。しかし、前記DBRミラー中のドーピング量の時と同様に、第2クラッド層も、ドーピング量を多くしてその比抵抗を7×10−3Ω・cmより小さくすると、ドーピングにより発生した自由キャリアによる光吸収が無視できなくなり、発光効率が低下してしまう。従って、第2クラッド層の比抵抗は、7×10−3Ω・cm〜1×10−1Ω・cmにすることが好ましい。
【0172】
また、前記第2クラッド層の好ましい厚さの範囲と前記第2クラッド層の好ましい比抵抗範囲の両方を満たしていることがより好ましい。
【0173】
次に、前述の様な低閾電流を持ち、外部微分量子効率の高い面発光型半導体レーザ装置を実現するための製造方法について詳述する。これまで述べてきたように、結晶成長によってDBRミラー層、多重量子井戸構造を形成するので、結晶成長技術が本発明の面発光型半導体レーザ装置において最も重要な要素のひとつである。結晶成長技術には、
(1)ヘテロ界面が原子層オーダーで急峻であること
(2)広い面積にわたって膜厚の均一性が高いこと
(3)膜厚、組成およびドーピング効率の再現性が高いこと
等が必要な要件である。特に(1)の界面の急峻性が、面発光型半導体レーザ装置の特性の向上の為には重要である。化合物半導体の結晶成長技術において界面の急峻性を確保する方法には、分子線エピタキシー法(MBE法)、有機金属気相エピタキシー法(MOVPE法)がある。液相エピタキシー法(LPE法)は高純度の結晶成長が可能であるが、液相から固相への成長方法であるのでヘテロ界面の急峻性を実現する事は困難で、面発光型半導体レーザ装置の製造方法には適さない。これに対しMBE法とMOVPE法はそれぞれ分子線、気相から固相への成長方法であるので原理的には原子層オーダーの界面急峻性が得られる。
【0174】
しかしMBE法は分子線からの結晶形成であり成長速度を高めることはできず、0.1〜1オングストローム/秒といった比較的遅い成長速度しか得られず、面発光型レーザの様に数μm程度のエピタキシャル層を必要とする結晶成長には不向きである。またMBE法は、その製造装置の構造上、大面積において均一かつ高品質に結晶成長させることは非常に難しく、また原料の充填量の制約から、連続した結晶成長の回数にも制限がある。このことは、結晶成長のスループットを制限する点であり、基板の量産を難しくする要因となっている。
【0175】
これに対し、本実施例で用いているMOVPE法は、前述した、量子井戸構造の膜厚とピーク波長の関係(図10参照)で示したように、MBE法と同等の原子層オーダのヘテロ界面の急峻性が得られており、また、気相成長であるため原料の供給量を変化させることにより、0.1〜数10オングストローム/秒の成長速度を得ることができる。
【0176】
また、(2)の膜厚の均一性については、成長装置の反応管形状を最適化することにより、図28に示すように、例えば直径が3インチ円形基板のほぼ75%の面積で、±2%の膜厚分布が得られることが確認された。
【0177】
(3)の再現性の点では、MBE法やMOVPE法は成長の制御性が原理上よいので、膜厚、組成およびドーピング効率の再現性が高い。
【0178】
従って、本発明の面発光型半導体レーザ装置を実現する結晶成長方法はMOVPE法が好ましい。
【0179】
(3)の点については、MOVPE法で、以下に示す製造方法を組み合わせることにより、さらに再現性かつ制御性よくエピタキシャル層を作製することができる。
【0180】
図29は、MOVPE法が適用され、かつ結晶成長中にエピタキシャル層の反射率を常時測定することが可能な成膜装置の一例を示したものである。この成膜装置は、横型水冷反応管を用いたMOVPE装置において、成長基板上部の水冷管部分を無くし、反応管外部から成長基板上に光を入れることが可能な窓をもつ構造を特徴としている。
【0181】
つまり、このMOVPE装置は、原料ガスが供給されるガス供給部10aおよびガス排出部10bを有する反応管10の周囲に、内部に水を通すことによって反応管を冷却する冷却部12が設けられている。反応管10の内部には基板Sを載置するためのサセプタ14が設けられ、このサセプタ14の基板載置面に面する部分の反応管10壁面に窓16が設けられている。窓16の上方には光源18および光検出器20が設置され、光源18から出射された光は窓16を介してサセプタ14上の基板Sに到達し、その反射光は再び窓16を介して光検出器20に到達するように構成されている。
【0182】
そして、光源18からの光は基板S上にほぼ垂直(最大5°)に入射するように設定され、その反射光を光検出器20によって測定することにより、基板S上にエピタキシャル成長を行いながら、同時に生成するエピタキシャル層の反射率の変化を測定することができる。
【0183】
本実施例では、DBRミラーの中心波長を発振波長とするため、光源18としては前記中心波長800nmと同じ800nmの発振波長の半導体レーザを用いた。なお、この光源18として800nmの波長と異なる半導体レーザや分光器等を用いた波長可変光源を用いることにより、任意の波長の反射率を測定することも可能である。
【0184】
前述した、DBRミラーの反射率と面発光型半導体レーザ装置の発光特性との関係(図18参照)から、DBRミラーは所定の波長で99.5%以上の反射率を持つことが望まれている。これを満たすためには、DBRミラーを構成する各層の厚さがλ/4nでなければならない。ここで、λは所定波長、nは所定波長での屈折率を示す。
【0185】
従来の結晶成長方法では、各層の膜厚は結晶成長速度と成長時間で制御している。しかし、この方法では幾つかの問題を有する。第1の問題は、この方法では結晶の成長速度を常に一定にしなければならなく、成長速度が揺らぐとDBRミラーのペア数を増やしても99.5%以上の反射率を得ることは難しいことである。また、第2の問題は、膜厚を決定する要因として、屈折率nの値があるが、半導体層は波長によって屈折率も変化するため、所定の波長での各層の屈折率も厳密に測定しなければならず、そしてこの測定は非常に困難であることである。さらに、第3の問題は、反射率は結晶成長終了後のウェハを反応管外に取り出して測定するので、DBRミラーより上部の構造を含んだ反射率しか測定できず、DBRミラー単体の反射率が測定できないことである。
【0186】
これらの問題点は、先の反射率を測定しながらMOVPE法でエピタキシャル成長を行なうことで解決できる。以下に、そのメカニズムを説明する。
【0187】
図30は、本実施例の面発光型半導体レーザ装置を構成するDBRミラー103を図29に示す成膜装置を用いてMOVPE成長させる工程において、エピタキシャル層の反射率の経時的変化を示したものである。
【0188】
図30から明らかなように、GaAs基板上に初め低屈折率n1のAl0.8Ga0.2Asを積層すると膜厚が増加するにつれ反射率が減少する。膜厚が(λ/4n1)になると極小点(1)を向かえるので、この極小点をモニタして、高屈折率n2のAl0.15Ga0.85Asの堆積に切り替える。そして、Al0.15Ga0.85As層の膜厚が増加すると反射率は増加していくが、膜厚が(λ/4n2)になると極大点(2)に到達するので、再び低屈折率n1のAl0.8Ga0.2Asの推積に切り替える。この操作を繰り返すことにより、DBRミラーは、その反射率が低反射率および高反射率をくり返しながら変動し、反射率が増加していく。
【0189】
この反射率プロファイルは、結晶の成長速度や成長時間に依存せず、各層の膜厚および屈折率に依存している。従って、反射率プロファイルの極大点および極小点(1次微分値0)で積層する層のAl組成を変更し、屈折率の違う層を交互にエピタキシャル成長させることにより、各層が理論通りの厚さ(λ/4n)を持ったDBRミラーが得られる。また、反射率を測定するための入力光の光源として所定の発振波長を持つ半導体レーザを選ぶことにより、λを厳密に設定できることから、各層の膜厚から屈折率nも求めることもできる。
【0190】
さらに、DBRミラー自体の反射率を結晶成長中に測定できることから、層形成中にDBRミラーのペア数を変更したり、構造の最適化がはかれる。
【0191】
また、DBRミラーの成膜中に行われる反射率測定から得られるDBRミラーの各層の成長速度を元にして、DBRミラーより上部の各層の膜厚も制御できることから、結晶成長速度を測定できない従来の成膜方法に比べ、再現性がよく、かつスループットが高い方法で、結晶成長基板を作製できる。実際に、本実施例の成長方法により、面発光型レーザ素子に必要な99.5%以上の反射率を持つDBRミラーが制御性よく得られた。
【0192】
上述した、層の反射率をモニタして結晶層の膜厚を制御する方法は、MOVPE法だけでなく、他の成膜プロセス、例えばMBE法などにも使用できる。
【0193】
次に、柱状共振器部をRIBE法で形成する工程に、上述した反射率をモニタする手段を使用した実施例について述べる。
【0194】
前述したように、共振器部114の作製には、垂直側面が得られ、かつ表面ダメージの少ない点から、RIBE法によるエッチングを行っている。この柱状共振器部の形成において重要なポイントは、エッチング深さ、つまり第2クラッド層106の残り膜厚tを制御することである。この残り膜厚を管理して、所定の厚さにしなければならない理由は先に記した。
【0195】
RIBE法によるドライエッチングを行いながら、残り膜厚を測定する方法を、以下に具体的に示す。
【0196】
図31に、エッチングしなからエピタキシャル層の反射率を測定できるRIBE装置の一例の概略図を示す。
【0197】
このRIBE装置は、エッチング室30に、プラズマ室40および排気手段を構成する真空ポンプ32が接続されている。エッチング室30は、前記プラズマ室40に対向する位置に基板Sを載置するためのホルダ34を有する。このホルダ34は、ロードロック室50を介して進退自由に設けられている。エッチング室30のプラズマ室40側の側壁には、窓36および38が対向する位置に設けられている。そして、エッチング室30内には、前記窓36および38を結ぶライン上に一対の反射ミラーM1およびM2が設けられている。一方の窓36の外方には任意の波長を有する光源26が設置され、他方の窓38の外方には光検出器28が設置されている。また、プラズマ室40は、マイクロ波導入部44および反応ガスをプラズマ室40に供給するためのガス供給部46および48が連結されている。そして、プラズマ室40の周囲にはマグネット42が設けられている。光源26としては、分光器を通した光等、任意の波長を有する光を用いることができる。
【0198】
このRIBE装置においては、通常の方法によって基板S上に形成された結晶層をエッチングするとともに、光源26から照射される光を窓36および反射ミラーM1を介して基板S上に照射し、その反射光を反射ミラーM1および窓38を介して光検出器28によって測定することにより、基板S上の結晶層の反射率または反射スペクトルをモニタすることができる。
【0199】
次に、図32A〜Cに基づいて、エッチング中の第2クラッド層の残り膜厚tの測定方法を具体的に説明する。
【0200】
エッチング前状態(図22Aで示す状態)での共振器を構成するエピタキシャル結晶層は、図32Aに示す様な反射スペクトルを示す。このスペクトルは、図18に示されるスペクトル1802と同様である。そして、このスペクトルの特徴は、ある波長λoにおいて反射率が低下すること、つまりディップ(Do)が存在することである。
【0201】
このディップ(Do)の波長λoは、DBRミラーから上の結晶層の膜厚に対応することから、エッチングにより膜厚が薄くなると、ディップ(Do)も短波長側に移動して波長λ′となる(図32B参照)。
【0202】
さらに、長波長側に次のディップ(D1)(波長:λ″)が発生し、これが短波長側の波長λ1へと移動する(図32C参照)。さらにエッチングを続けると、再び長波長側に新たなディップが発生し、ディップの移動と発生が繰り返えされる。エッチング前の状態から、a個めのディップの波長をλaとすると、この時のエッチング量△aは下記式(3)で表される。
【0203】
【数3】
【0204】
式(3)において、Θは構造から決まる定数で、本実施例では1/2または1/4、nはエピタキシャル層の平均屈折率、である。
【0205】
このようにエッチングによりディップが短波長側にシフトして高反射率帯からはずれても、長波長側に次の縦モードに対応するディップが発生し、これがさらに短波長側にシフトするので、エッチング中に高反射率帯域に存在するディップの数および波長移動量を測定することにより、エッチング量およびエッチング速度を管理できる。したがって、第2クラッド層において所定の残り膜厚tを有する共振器部114を正確に作製することができる。
【0206】
また、反射スペクトルの値や形状もエッチング中に同時にモニタできるので、エッチング時の表面の汚れ、ダメージなども評価でき、これらの評価結果をエッチング条件にフィードバックすることができる。
【0207】
さらに、反射率のモニタ手段を使ったプロセスとして、RIE法によるSiO2層のエッチングについて説明する。
【0208】
図1に示す面発光型半導体レーザ装置の作製工程においては、前述したように、レーザ光出射側のリング状の上側電極112を形成する前まで、共振器表面のp型コンタクト層109は表面保護用のSiO2層I(図22B参照)で覆われているが、上側電極を形成するためには、このSiO2層を完全にエッチングしなければならない。ただし、必要以上にエッチングを行うと、コンタクト層もエッチングすることになり、コンタクト層へダメージを与えたり、発振波長に関係する共振器長が変化してしまう問題が起こる。
【0209】
従って、SiO2層のエッチング量の管理が重要である。そこで、本実施例ではSiO2層のエッチングに使用するRIE装置に、エッチング中にエピタキシャル結晶層の反射率を測定できる方法を導入し、エッチング量を測定することとした。
【0210】
図33に反射率測定手段を導入した平行平板型RIE装置の概略図を示す。このRIE装置においては、エッチング室60内に、RF発振器61に接続された載置電極62とメッシュ状の対向電極64とが対向して設けられている。エッチング室60には、ガス供給部70と排気用の真空ポンプ66とが接続されている。そして、エッチング室60の、前記載置台電極と対向する壁面には、窓68が設けられており、この窓68の外方には光源72と光検出器74とが設置されている。そして、光源72から照射された任意の波長の光は窓68を介して基板Sに到達し、その反射光は窓68を介して光検出器74に至る。このRIE装置においては、通常のメカニズムによってSiO2層がエッチングされるとともに、光源72からの光を検出することによってエッチング面の反射率または反射スペクトルをモニタすることができる。
【0211】
図34は、p型コンタクト層109上にSiO2層があるときの、800nmの光に対する反射率の変化を示したものである。横軸がSiO2層の膜厚、縦軸が反射率である。図に示したように、反射率はSiO2層の残り膜厚によって変化し、残り膜厚が(λ/4n)の整数倍になるごとに極大または極小をとる。ここでλは測定光源の波長、nはSiO2層の屈折率である。従って、RIEによるエッチング中に反射率を測定し、反射率曲線をモニタすることにより、SiO2層のエッチングを完全に行うことができる。
【0212】
また、SiO2層の完全なエッチング終了後、前記RIBEプロセスと同様に、RIE中の反射率測定の光源として分光器を通した光若しくは波長可変のレーザ光を用いて例えば700〜900nmの波長の光を照射することにより、反射率のディップが測定でき、共振器長が測定できる。つまり、この反射率のディップを測定しながらRIEによるエッチングを進めると、エッチング量は前記式(3)で求められ、共振器長を正確に制御することができる。ここで、RIEを用いているのは、p型コンタクト層109を保護するためのSiO2層を完全にエッチングした後、同一装置内でエッチングが可能なこと、またRIBEによるエッチングよりもエッチング速度が遅いので共振器長を制御しやすいことが挙げられる。このときのエッチング条件としては、例えば、エッチング圧力2Pa、RFパワー70WおよびエッチングガスCHF3を用いた。また、エピタキシャル成長膜の共振器長を広範囲に変えるときには、前述の工程(a)の後にRIEを行ってもよい。
【0213】
前述した様に本発明の面発光型半導体レーザ装置の実現には、DBRミラーの高反射帯域と共振器長によって定まる発振波長とゲインオフセット量とを所定の関係にしなければならないが、エピタキシャル成長後に仮にその関係が成立していなくとも、反射率をモニタしたRIEを用いてコンタクト層をエッチングすることにより、共振器長を所定長さに精度良く調整できるので、高い精度のデバイスを歩留まりよく製造することが可能である。これは、コンタクト層は、活性層の利得スペクトル、つまり端面発光型半導体レーザの発振スペクトルの測定においては必須の構成となるが、活性層の利得スペクトルは、pおよびn型クラッド層と活性層とによって決まるものなので、面発光型半導体レーザ装置のコンタクト層をエッチングしても、活性層の利得スペクトルは変化しないためである。つまり、コンタクト層をエッチングすることによって、λGを変化させずにλEMを調整することができる。
【0214】
また、反射率をモニタしたエッチングを用いることにより、基板面内で共振器長の異なる部分を精度良く作ることもでき、1枚の基板で発振波長の異なる面発光型半導体レーザ装置を作製することもできる。
【0215】
(第2実施例)
図40Aは、本発明の第2実施例にかかる面発光型半導体レーザ装置の発光部の断面を模式的に示す斜視図であり、図40Bは図40Aに示すレーザ装置の平面図である。
【0216】
本実施例の面発光型半導体レーザ装置300は、光共振器が複数の柱状共振器部から構成されている点に特徴を有する。光共振器以外の構成および作用は前記第1実施例と基本的に同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0217】
すなわち、半導体レーザ装置300は、n型GaAs基板302上に、n型Al0.8Ga0.2As層とn型Al0.15Ga0.85As層を交互に積層し波長800nm付近の光に対し99.5%以上の反射率を持つ40ペアのDBRミラー303、n型Al0.7Ga0.3Asクラッド層304、n−型GaAsウエル層とn−Al0.3Ga0.7Asバリア層から成り該ウエル層が21層で構成される量子井戸活性層305、p型Al0.7Ga0.3Asクラッド層306およびp+型Al0.15Ga0.85Asコンタクト層309が、順次積層して成る。そして、p型Al0.7Ga0.3Asクラッド層306の途中までエッチングされて、積層体の上面からみて矩形形状を有する複数の柱状共振器部314が形成され、その周囲は、SiO2等のシリコン酸化膜(SiOx膜)からなる第1絶縁層307と、この第1絶縁層307上に形成された第2絶縁層308で埋め込まれている。
【0218】
このタイプのレーザ装置においては、分離された複数の共振器部でたつ横モードが電磁波的に互いに結合されているため、各共振器部から位相同期された光が発振される。
【0219】
光共振器を構成する柱状共振器部314(314a〜314d)は、図40Bに示すように、半導体基板302に平行な各断面が長辺および短辺を有する矩形をなし、各共振器部314a〜314dの短辺の方向がそれぞれ平行となるように配置されている。この面発光型半導体レーザ装置においては、複数本の柱状共振器部314より出射されるレーザ光の偏波面は、矩形断面を有する各柱状共振器部314の短辺の方向と一致している。そして、これらの各柱状共振器部314の短辺の方向がそれぞれ平行であるため、各共振器部から出射されるレーザ光の偏波面の方向を揃えることができる。
【0220】
さらに、第1絶縁層307および第2絶縁層308を構成する材料として、例えばSiOxまたはSiNxなどの光透過性を有する物質によって構成することにより、埋込み絶縁層はレーザ発光波長に対してほぼ透明となる。したがって、複数の共振器部314からの光だけでなく、埋込み絶縁層にもれた光も有効にレーザ発進に寄与させ、発光スポットを広げることができる。
【0221】
次に、共振器部314の長辺および短辺の関係について更に詳しく説明する。
【0222】
各柱状共振器部314の長辺の長さをAとし、短辺の長さをBとした時、B<A<2Bであることが好ましい。長さAを長さ2B以上とすると、出射光の形状が円または正多角形とはならずに長方形になるため、発光スポットが一つにならず、1つの出射口に複数の発光スポットが形成されてしまう。また、共振器の体積も大きくなるので、レーザ発振しきい電流も増加してしまう。
【0223】
さらにこの矩形断面の各辺は、1.1×B≦A≦1.5×Bに設定すると良い。長辺の長さAが1.1×B未満であると、偏波面制御の効果が十分に発揮されない。また、レーザ発振しきい電流が大きく増加しない点を考慮すると、A≦1.5×Bに設定するものが良い。
【0224】
本実施例の半導体レーザ装置300は、柱状共振器部314の形成時に用いるマスクを変える以外は、前記第1実施例と同様のプロセスおよび装置によって製造することができる。つまり、柱状共振器部314を形成する際のマスクとして、柱状共振器部314の平面形状に対応したマスクを用いる以外は、図22A〜Cおよび図23D〜Fと同様のプロセスを用いることができる。
【0225】
図41A〜Dは、従来の面発光型半導体レーザおよび本実施例の面発光型半導体レーザの、光が出射される側の形状とレーザ発振時のNFPの強度分布を示したものである。図41Aは、図45に示す従来の面発光型半導体レーザの共振器を、n−p接合のGaAlAsエピタキシャル層2207,2208で埋め込むことが可能な距離である5μm程度まで接近させた場合を示している。レーザの出射面には、誘電体多層膜ミラーとp型オーミック電極(上側電極)があるが、共振器の形状を比較するために図では削除している。図41Bは図41Aのa−b間のNFP強度分布を示している。従来の面発光型半導体レーザの発光部2220を複数個、埋め込み可能な距離まで接近させても発光スポットが複数個現れるだけで、横方向の光の漏れが無いため、多峰性のNFPとなり、1つの発光スポットにならない。
【0226】
図41Cは本実施例の面発光型半導体レーザの形状であり、分離溝を埋込み絶縁層で埋め込んでおり、このように埋込み層が気相成長法で形成される場合には、分離溝の最小幅は約1μmに制御できる。図41Dは、図41Cのc−d間のNFPである。柱状共振器のみならず分離溝の上からも光が出射されるので、発光点が広がることがNFPからわかる。さらに接近した各共振器部314a〜314dのレーザ光の位相が同期するので、光出力が増加し、放射角が5°以下のビームが得られる。
【0227】
図42A〜Dは、第2実施例にて形成された例えば4本の共振器部314を有する光共振器を、半導体基板302上の4か所に配置した例を示している。図42Aにおいては、4本の共振器部314と対向する位置に一つの光出射口313を有する電極312を、各光共振器毎に形成している。そして、各光共振器を構成する4本の共振器部314の矩形断面における短辺(B)は、それぞれ平行な方向に設定されている。したがって、4つの光出射口313より出射される各レーザ光の偏波面は、矩形断面の柱状部分の短辺と平行な方向に揃っていることになる。
【0228】
この4つの光共振器を有する半導体レーザからの4本のレーザ光を、偏光フィルター340を通過させる状態が図42Bに示されている。4本のレーザ光はそれぞれ偏波面が揃っているので、偏光フィルター340を全て通過させることができる。
【0229】
図42Cは、矩形断面を有する柱状共振器部314の短辺の方向が、2つの光共振器でそれぞれ異なっていて、例えば相直交する方向に設定する場合を示している。この場合、図42Dに示すように、1本のレーザ光は偏光フィルター340を通過させることができるが、他の1本のレーザ光は偏光フィルター340を通過させることがない。この技術を利用すれば、ある特定方向のみの偏波面をもつレーザ光のみを選択的に通過させることができ、光通信の分野に好適に応用することができる。
【0230】
上述した第2実施例では、共振器部が4個配列されたものであるが、共振器部の配列は任意に設定することができる。例えば、図43A〜Cに示すように、共振器部は基板と平行な二次元面上で横列および/または縦列で等間隔に配列することができる。このようにn個の共振器部をライン状に配列することでラインビームを得ることができる。
【0231】
また、上述した第2実施例では、出射されるレーザ光の偏波面の方向を制御するために、光共振器を構成する柱状共振器部の断面形状を矩形としていたが、出射側の電極312に形成される光出射口313の開口形状を、矩形に形成することによっても、その短辺の方向に揃った偏波面を有するレーザ光を出射することができる。図44Aに示す実施例においては、柱状共振器部314の断面形状は円形であるが、電極に形成された光出射口313の開口形状が、長辺aと短辺bとを有する矩形形状となっている。この場合、出射されるレーザ光の偏波面の方向は、矩形の光出射口313の短辺bの方向に一致することになる。
【0232】
この光出射口の開口形状を矩形にすることは、光共振器の柱状共振器部の断面を矩形するよりもプロセス上簡便である。また、複数本の柱状共振器部を有する光共振器を成形する場合、その柱状共振器部の配置の関係で各柱状共振器部の断面を矩形にできない場合もあり、このような場合に光出射口を矩形にすることで偏波面の方向を設定することが有効である。図44Bおよび図44Cはそれぞれ、4本の柱状共振器部314の断面を円または正多角形とし、柱状共振器部と対向する領域に矩形の光出射口313を形成した例を示している。図44Dは、4本の柱状共振器部314の各断面もそれぞれ矩形とし、この4本の柱状共振器部と対向する領域に形成される光出射口315の開口形状をも矩形としている。そして、矩形断面の柱状共振器部の短辺(B)と光出射口の短辺(b)の方向がそれぞれ平行な方向に設定されている。
【0233】
このように光出射口の開口形状を矩形にする場合には、光出射口の長辺の長さをaとし、短辺の長さをbとしたとき、好ましくはb<a<2×b、さらに好ましくは1.1×b≦a≦1.5×bとする。この理由はb/aの比率を高くすると、それに応じて光共振器の柱状共振器部の各辺の比率B/Aも高くしなければならず、上述した各辺の長さAおよびBが好適範囲外となってしまうからである。
【0234】
さらに、図44Eで示すように、共振器部314の断面形状を長辺(A)および短辺(B)からなる矩形とし、光出射口313の形状を円形とする構成であってもよい。
【0235】
以上述べた第2実施例およびその変形例においては、レーザ光の偏波面をある特定方向に揃えることができるため、レーザ装置をレーザプリンタや通信機器などの機器に設置する場合に、そのレーザ装置の細かな位置調整を必ずしも要せずに、レーザ光の偏波面の方向をある特定方向に容易に設定することが可能となる。
【0236】
前述した実施例においては、AlGaAs型半導体を用いた面発光型半導体レーザ装置について述べたが、本発明はこれに限定されず、AlGaInP型あるいはInGaAsP型半導体を用いた面発光型レーザ装置には適用できる。また、本発明は前述した実施例の半導体層と逆の極性を有する半導体層からなる面発光型半導体レーザにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0237】
【図1】本発明の第1実施例における面発光型半導体レーザ装置の断面を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示す面発光型半導体レーザ装置と、図46に示す従来例の面発光型半導体レーザ装置との、I−L特性およびI−V特性を表す図である。
【図3】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の発光部の上面図である。
【図4】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の注入電流と光出力との関係を示す図である。
【図5】図5Aは、比較用の面発光型半導体レーザ装置であって、活性層までエッチングした素子を模式的に示す断面図である。図5Bは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置を模式的に示す断面図である。
【図6】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の共振器径の逆数と発振閾電流密度との関係を示す図である。
【図7】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の注入電流と光出力の関係を示し、この関係がクラッド層の残り膜厚tに依存することを示す図である。
【図8】図1に示す面発光型半導体レーザ装置のクラッド層の残り膜厚tと外部微分量子効率(スロープ効率)の値との関係を示す図である。
【図9】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の活性層の構造において、単一の量子井戸(ウエル)の膜厚を種々変化させた時の、波長と発光する発光スペクトルとの関係を示す図である。
【図10】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の活性層の構造において、単一量子井戸(ウエル)の膜厚と発光ピーク波長との関係を示し、その理論値(実線)と実測値(ドット)を示す図である。
【図11】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の活性層の構造において、単一量子井戸(ウエル)の膜厚と発光強度半値幅との関係を示し、その理論値と実測値を示す図である。
【図12】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の活性層の膜厚と閾電流密度との関係を示し、その理論値と実測値を示す図である。
【図13】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の結晶成長において、各結晶層のAl組成を示す図である。
【図14】図1に示す面発光型半導体レーザ装置において、クラッド層のAl組成の異なる素子の注入電流と光出力との関係を示す図である。
【図15】図1に示す面発光型半導体レーザ装置において、クラッド層のAl組成を種々変化させた時の、Al組成と外部微分量子効率(スロープ効率)の値との関係を示す図である。
【図16】図1に示す面発光型半導体レーザ装置において、誘電体多層膜ミラーに光吸収係数の異なる誘電体材料を用いた場合の注入電流と光出力との関係を示す図である。
【図17】図17Aは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置の断面、共振器長および注入電流の流れを模式的に示した図である。図17Bは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置を形成するための半導体積層ウエハの一部を用いて形成した端面発光型半導体レーザ装置の断面を模式的に示す斜視図である。
【図18】図1に示す面発光型半導体レーザ装置のDBRミラーおよび積層された半導体層の反射率スペクトルと、端面発光型半導体レーザ装置の発振スペクトルを示す図である。
【図19】図19Aは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置を形成するための半導体積層ウエハを用いて製作した端面発光型半導体レーザ装置の発振波長とケース温度との関係を示す図である。図19Bは、同じく図1に示す面発光型半導体レーザ装置を形成するための半導体積層を用いて製作した端面発光型半導体レーザ装置の発振スペクトルとケース温度との関係を示す図である。
【図20】図20Aは図1に示す面発光型半導体レーザ装置の発振波長とケース温度との関係を示す図である。図20Bは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置の注入電流密度と発振波長および接合温度上昇との関係を示す図であるである。
【図21】図1に示す面発光型半導体レーザ装置のゲインオフセット量△λBSと発振閾値電流との関係を示す図である。
【図22】図22A〜図22Cは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置の製造プロセスを模式的に示す断面図である。
【図23】図23D〜図23Fは、図22に引き続きいて行われる、図1に示す面発光型半導体レーザ装置の製造プロセスを模式的に示す断面図である。
【図24】図24Aは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置において、共振器部の径Daが8μm、光発射口の径が6μmのときの出射光の遠視野像強度を示した図であり、図24Bは、Daが13μm、Dw10μmのときの遠視野像強度を示した図である。
【図25】図25Aは、図1に示す面発光型半導体レーザ装置においてp型クラッド層の膜厚が1.0μmの場合の発光近視野像、およびラインa−aにおける光強度分布を示す図である。図25Bは、同様にp型クラッド層の膜厚が0.3μmの場合の発光近視野像、およびラインb−bにおける光強度分布を示す図である。
【図26】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の注入電流と光出力との関係に及ぼすp型クラッド層の膜厚の影響を示す図である。
【図27】図1に示す面発光型半導体レーザ装置における注入電流と光出力との関係に及ぼすp型クラッド層の膜厚の影響を示す図である。
【図28】本発明の第1実施例にかかる面発光型半導体レーザ装置を製造するプロセスにおいて得られた半導体積層ウエハの膜厚分布を示す図である。
【図29】図1に示す面発光型半導体レーザ装置のDBRミラーを形成する際に用いられるMOVPE装置を模式的に示す断面図である。
【図30】図1に示す面発光型半導体レーザ装置のDBRミラーを形成するプロセスにおいて、エピタキシャル層の成長時間と反射率との関係を示す図である。
【図31】図1に示す面発光型半導体レーザ装置の製造プロセスにおいて用いられるRIBE装置を模式的に示す断面図ある。
【図32】図32A〜図32Cは、RIBEプロセスにおける反射スペクトルの変化を示す図である。
【図33】図1に示す面発光型半導体レーザ装置のエッチングプロセスにおいて用いられるRIE装置を模式的に示す断面図である。
【図34】図33に示す装置を用いてRIEを行ったときのSiO2層の膜厚と反射率の関係を示す図である。
【図35】図35は、図1に示す面発光型半導体レーザ装置を構成するDBRミラーを成膜する際の、TMGa、TMAlおよびH2Seの流量変化を示すタイミングチャート図である。
【図36】図1に示す面発光型半導体レーザ装置のDBRミラーの一部をSIMS法で評価した結果を示す図である。
【図37】図37Aは、DBRミラーにおいて、Seの濃度をn型Al0.7Ga0.3As層中のn型Al0.1Ga0.9As層との界面近傍で急峻に高めた場合のバンド図である。図37Bは、Seを一定供給量で作成した場合のバンドを示す図である。
【図38】図1に示す面発光型半導体レーザ装置を構成するDBRミラーの製造工程において、TMAlの流量変化および紫外光の照射を示すタイミングチャート図である。
【図39】図1のプロセスによって得られたDBRミラーの一部をSIMS法で評価した結果を示す図である。
【図40】図40Aは、本発明の第2実施例にかかる面発光型半導体レーザ装置の断面を模式的に示す斜視図である。図40Bは、図40Aに示す装置の光出射側から見た平面図である。
【図41】図41Aは従来の面発光型半導体レーザ装置の光が出射される側の共振器部の形状を示し、図41Bは、図41Aに示したレーザ装置の発光近視野像の強度分布を示す。図41Cは第2実施例における光が出射される側の共振器の形状を示し、図41Dは図41Cに示すレーザ装置の発光近視野像の強度分布を示す。
【図42】図42Aは、第2実施例にかかる面発光型半導体レーザ装置の光共振器を複数箇所に配置した例を示し、図42Bはこの光共振器から出射されたレーザ光を偏光フィルタを通過させた状態を示す。図42Cは、第2実施例にかかる面発光型半導体レーザ装置の光共振器を異なった方向に配列した状態を示し、図42Dは図42Cに示す光共振器から出射されたレーザ光を偏光フィルタに通過させた状態を示す。
【図43】図43A〜図43Cは、断面形状が短辺と長辺を有する矩形を成す共振器部を基板と平行な二次元面上で横列および/または縦列で配列した状態を示す図である。
【図44】図44A〜図44Dは、光出射口の形状を矩形に形成することによってレーザ光の偏波面の方向を制御する共振器を示す図である。図44Eは共振器部の断面形状を矩形とし、光出射口の形状を円形とした共振器を示す図である。
【図45】従来の面発光型半導体レーザ装置の一例を示す斜視図である。
【図46】他の面発光型半導体レーザ装置の従来例を示す断面図である。
【図47】活性層の層数を変化させたときの注入電流と光出力との関係を示す図である。
【図48】活性層におけるウエル層およびバリア層の膜厚とAl組成との関係を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0238】
100 面発光素型半導体レーザ、101 電極用金属層(下側電極)、102 n型GaAs基板、103 DBRミラー、104 第1クラッド層、105 量子井戸活性層、106 第2クラッド層、107 第1絶縁層、108 第2絶縁層、109 コンタクト層、110 第1の方向、111 誘電体多層膜ミラー、112 コンタクト金属層(上側電極)、113 開口部、114 共振器部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の化合物半導体からなる基板、
前記基板の下側に形成された下側電極、
前記基板の上側に形成されたミラー、
前記ミラー上に形成された第1導電型の第1クラッド層、
前記第1クラッド層上に形成された量子井戸活性層、
前記量子井戸活性層上に形成され、単数もしくは複数の柱状部を有する第2導電型の第2クラッド層、
前記第2クラッド層の柱状部上に形成された第2導電型のコンタクト層、
前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲に埋め込まれた埋込み絶縁層、および
前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって形成された上側電極、
を含み、
前記量子井戸活性層の利得スペクトルのピーク波長λGは所期の発振波長λEMに対して所定波長差(ゲインオフセット量)△λBSだけ短波長側に設定され、該ゲインオフセット量△λBSは、面発光型半導体レーザ装置を使用する温度付近で測定されたときに5〜20nmである、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記埋込み絶縁層は、少なくとも前記第2クラッド層および前記コンタクト層との界面が被覆されるシリコン化合物からなる第1絶縁層を含む、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記埋込み絶縁層は、前記第1絶縁層と、この第1絶縁層上に形成され、前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲を平坦化するための第2絶縁層とを含む、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項4】
以下の工程(a)〜(d)を含む面発光型半導体レーザ装置の製造方法。
(a) 第1導電型の化合物半導体からなる基板上に、少なくとも、ミラー、第1導電型の第1クラッド層、量子井戸活性層、第2導電型の第2クラッド層および第2導電型のコンタクト層を含む半導体層をエピタキシャル成長によって形成する工程、
(b) 前記コンタクト層および前記第2クラッド層をエッチングして、単数もしくは複数の柱状部を形成する工程、
(c) 前記柱状部の周囲に埋込み絶縁層を形成する工程、および
(d) 前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって上側電極を形成する工程、
を含み、
前記量子井戸活性層の利得スペクトルのピーク波長λGが所期の発振波長λEMに対して所定波長差(ゲインオフセット量)△λBSだけ短波長となるように、前記半導体層が設定され、該ゲインオフセット量△λBSは、面発光型半導体レーザ装置を使用する温度付近で測定されたときに5〜20nmである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の化合物半導体からなる基板、
前記基板の下側に形成された下側電極、
前記基板の上側に形成されたミラー、
前記ミラー上に形成された第1導電型の第1クラッド層、
前記第1クラッド層上に形成された量子井戸活性層、
前記量子井戸活性層上に形成され、単数もしくは複数の柱状部を有する第2導電型の第2クラッド層、
前記第2クラッド層の柱状部上に形成された第2導電型のコンタクト層、
前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲に埋め込まれた埋込み絶縁層、および
前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって形成された上側電極、
を含み、
前記量子井戸活性層の利得スペクトルのピーク波長λGは所期の発振波長λEMに対して所定波長差(ゲインオフセット量)△λBSだけ短波長側に設定され、該ゲインオフセット量△λBSは、25℃のケース温度で測定されたときに5〜20nmであり、
前記量子井戸活性層の全膜厚は、0.27〜0.33μmの範囲あるいは0.65〜0.75μmの範囲に設定される、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記埋込み絶縁層は、少なくとも前記第2クラッド層および前記コンタクト層との界面が被覆されるシリコン化合物からなる第1絶縁層を含む、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記埋込み絶縁層は、前記第1絶縁層と、この第1絶縁層上に形成され、前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲を平坦化するための第2絶縁層とを含む、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかにおいて、
前記柱状部の径は、6〜12μmである、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかにおいて、
前記開口部の径は、4〜8μmである、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項6】
以下の工程(a)〜(d)を含む面発光型半導体レーザ装置の製造方法。
(a) 第1導電型の化合物半導体からなる基板上に、少なくとも、ミラー、第1導電型の第1クラッド層、量子井戸活性層、第2導電型の第2クラッド層および第2導電型のコンタクト層を含む半導体層をエピタキシャル成長によって形成する工程、
(b) 前記コンタクト層および前記第2クラッド層をエッチングして、単数もしくは複数の柱状部を形成する工程、
(c) 前記柱状部の周囲に埋込み絶縁層を形成する工程、および
(d) 前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって上側電極を形成する工程、
を含み、
前記量子井戸活性層の利得スペクトルのピーク波長λGが所期の発振波長λEMに対して所定波長差(ゲインオフセット量)△λBSだけ短波長となるように、前記半導体層が設定され、該ゲインオフセット量△λBSは、25℃のケース温度で測定されたときに5〜20nmであり、
前記量子井戸活性層の全膜厚は、0.27〜0.33μmの範囲あるいは0.65〜0.75μmの範囲に設定される。
【請求項1】
第1導電型の化合物半導体からなる基板、
前記基板の下側に形成された下側電極、
前記基板の上側に形成されたミラー、
前記ミラー上に形成された第1導電型の第1クラッド層、
前記第1クラッド層上に形成された量子井戸活性層、
前記量子井戸活性層上に形成され、単数もしくは複数の柱状部を有する第2導電型の第2クラッド層、
前記第2クラッド層の柱状部上に形成された第2導電型のコンタクト層、
前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲に埋め込まれた埋込み絶縁層、および
前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって形成された上側電極、
を含み、
前記量子井戸活性層の利得スペクトルのピーク波長λGは所期の発振波長λEMに対して所定波長差(ゲインオフセット量)△λBSだけ短波長側に設定され、該ゲインオフセット量△λBSは、面発光型半導体レーザ装置を使用する温度付近で測定されたときに5〜20nmである、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記埋込み絶縁層は、少なくとも前記第2クラッド層および前記コンタクト層との界面が被覆されるシリコン化合物からなる第1絶縁層を含む、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記埋込み絶縁層は、前記第1絶縁層と、この第1絶縁層上に形成され、前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲を平坦化するための第2絶縁層とを含む、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項4】
以下の工程(a)〜(d)を含む面発光型半導体レーザ装置の製造方法。
(a) 第1導電型の化合物半導体からなる基板上に、少なくとも、ミラー、第1導電型の第1クラッド層、量子井戸活性層、第2導電型の第2クラッド層および第2導電型のコンタクト層を含む半導体層をエピタキシャル成長によって形成する工程、
(b) 前記コンタクト層および前記第2クラッド層をエッチングして、単数もしくは複数の柱状部を形成する工程、
(c) 前記柱状部の周囲に埋込み絶縁層を形成する工程、および
(d) 前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって上側電極を形成する工程、
を含み、
前記量子井戸活性層の利得スペクトルのピーク波長λGが所期の発振波長λEMに対して所定波長差(ゲインオフセット量)△λBSだけ短波長となるように、前記半導体層が設定され、該ゲインオフセット量△λBSは、面発光型半導体レーザ装置を使用する温度付近で測定されたときに5〜20nmである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の化合物半導体からなる基板、
前記基板の下側に形成された下側電極、
前記基板の上側に形成されたミラー、
前記ミラー上に形成された第1導電型の第1クラッド層、
前記第1クラッド層上に形成された量子井戸活性層、
前記量子井戸活性層上に形成され、単数もしくは複数の柱状部を有する第2導電型の第2クラッド層、
前記第2クラッド層の柱状部上に形成された第2導電型のコンタクト層、
前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲に埋め込まれた埋込み絶縁層、および
前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって形成された上側電極、
を含み、
前記量子井戸活性層の利得スペクトルのピーク波長λGは所期の発振波長λEMに対して所定波長差(ゲインオフセット量)△λBSだけ短波長側に設定され、該ゲインオフセット量△λBSは、25℃のケース温度で測定されたときに5〜20nmであり、
前記量子井戸活性層の全膜厚は、0.27〜0.33μmの範囲あるいは0.65〜0.75μmの範囲に設定される、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記埋込み絶縁層は、少なくとも前記第2クラッド層および前記コンタクト層との界面が被覆されるシリコン化合物からなる第1絶縁層を含む、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記埋込み絶縁層は、前記第1絶縁層と、この第1絶縁層上に形成され、前記第2クラッド層の柱状部および前記コンタクト層の周囲を平坦化するための第2絶縁層とを含む、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかにおいて、
前記柱状部の径は、6〜12μmである、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかにおいて、
前記開口部の径は、4〜8μmである、面発光型半導体レーザ装置。
【請求項6】
以下の工程(a)〜(d)を含む面発光型半導体レーザ装置の製造方法。
(a) 第1導電型の化合物半導体からなる基板上に、少なくとも、ミラー、第1導電型の第1クラッド層、量子井戸活性層、第2導電型の第2クラッド層および第2導電型のコンタクト層を含む半導体層をエピタキシャル成長によって形成する工程、
(b) 前記コンタクト層および前記第2クラッド層をエッチングして、単数もしくは複数の柱状部を形成する工程、
(c) 前記柱状部の周囲に埋込み絶縁層を形成する工程、および
(d) 前記コンタクト層の一部に面して開口部を有し、前記コンタクト層および前記埋込み絶縁層の双方にまたがって上側電極を形成する工程、
を含み、
前記量子井戸活性層の利得スペクトルのピーク波長λGが所期の発振波長λEMに対して所定波長差(ゲインオフセット量)△λBSだけ短波長となるように、前記半導体層が設定され、該ゲインオフセット量△λBSは、25℃のケース温度で測定されたときに5〜20nmであり、
前記量子井戸活性層の全膜厚は、0.27〜0.33μmの範囲あるいは0.65〜0.75μmの範囲に設定される。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【公開番号】特開2006−253635(P2006−253635A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290315(P2005−290315)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【分割の表示】特願平7−519466の分割
【原出願日】平成7年1月20日(1995.1.20)
【特許番号】特許第3818388号(P3818388)
【特許公報発行日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【分割の表示】特願平7−519466の分割
【原出願日】平成7年1月20日(1995.1.20)
【特許番号】特許第3818388号(P3818388)
【特許公報発行日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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