説明

鞍乗型燃料電池車両

【課題】車体前後方向の適正な重量バランスを保ちつつ全長の短縮を可能とする鞍乗型燃料電池車両を提供する。
【解決手段】略直方体に形成される燃料電池30を、その長手方向を上下に向けた状態から車体後方側に傾けて運転者100が着座するシート18の下方に配設し、スイングアーム11を揺動自在に軸支するピボット軸13を、燃料電池30の側面視長方形30Hの頂点Pの前方かつ頂点Qの後方の範囲X内であると共に、頂点Pの下方かつ頂点Qの上方の範囲Y内に配置する。操向ハンドル5とシート18との間に、運転者100が乗車時に足を載せる足乗せ部19を設け、燃料電池30の重心G1の位置が、乗車時に運転者が着座する着座部18aの前後方向着座部中心G2、すなわち、乗車時の運転者100の重心より車体前方側に位置するように、燃料電池30を足乗せ部19の車体後方側に配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型燃料電池車両に係り、特に、車体前後方向の適正な重量バランスを保ちつつ全長の短縮を可能とする鞍乗型燃料電池車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水素と酸素の化学反応によって電気を発生する燃料電池を積載し、この燃料電池からの供給電力で走行する燃料電池車両が知られている。このような車両において、車重に占める比率の大きい燃料電池は、車体前後方向の重量バランスを考慮して車体の中央近傍に配設されることが多い。
【0003】
特許文献1には、車体の最下部かつ前後方向のほぼ中央に燃料電池を配設した燃料電池二輪車が開示されている。
【特許文献1】特開2005−112094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される手法では、燃料電池の長手方向が車体前後方向に向けられているので、スイングアームを揺動自在に軸支するピボット軸を燃料電池の後端部より前方に寄せることが難しかった。これにより、十分なスイングアーム長を確保しつつ、ホイールベースを短縮して車体全長の短縮を図るという手法が適用しにくくなるという課題があった。
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、車体前後方向の適正な重量バランスを保ちつつ全長の短縮を可能とする鞍乗型燃料電池車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、燃料電池からの供給電力で走行すると共に、後輪が取り付けられるスイングアームを車体フレームに揺動自在に軸支するピボット軸と、運転者が着座するシートとを備える鞍乗型燃料電池車両において、前記燃料電池は、略直方体に形成され、その長手方向を上下に向けた状態から車体後方側に傾けられて前記シートの下方に配設されており、前記ピボット軸は、前記燃料電池の側面視長方形の後端に位置する頂点の前方かつ下端に位置する頂点の後方の範囲内に配置されている点に第1の特徴がある。
【0007】
また、前記ピボット軸は、前記燃料電池の側面視長方形の後端に位置する頂点の下方かつ下端に位置する頂点の上方の範囲内に配置されている点に第2の特徴がある。
【0008】
また、前輪を操舵する操向ハンドルを備え、前記操向ハンドルと前記シートとの間に、前記運転者の足乗せ部が設けられており、前記燃料電池は、該燃料電池の重心位置が、乗車時に運転者が着座する着座部の前後方向中心より車体前方側に位置するように、前記足乗せ部の車体後方側に配設されている点に第3の特徴がある。
【0009】
さらに、前記燃料電池に供給する水素ガスを貯蔵する水素貯蔵手段を備え、前記水素貯蔵手段は後輪の上方に配設され、前記燃料電池の水素ガス供給口が、前記燃料電池の長手方向の上部側に設けられている点に第4の特徴がある。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、燃料電池は、略直方体に形成され、その長手方向を上下に向けた状態から車体後方側に傾けられてシートの下方に配設されており、ピボット軸は、燃料電池の側面視長方形の後端に位置する頂点の前方かつ下端に位置する頂点の後方の範囲内に配置されているので、例えば、長手方向を車体前後方向に向けて燃料電池の配設した場合に比して、ピボット軸を車体前方側に寄せることが可能となる。これにより、十分なスイングアーム長を確保しながらホイールベースを短縮し、車体全長の短縮を図ることができるようになる。さらに、燃料電池が車体後方側に傾斜しているので、発電時に生成されて燃料電池の下方に溜まる生成水の流れがよくなり、排水性を高めることが可能となる。
【0011】
第2の発明によれば、ピボット軸は、燃料電池の側面視長方形の後端に位置する頂点の下方かつ下端に位置する頂点の上方の範囲内に配置されているので、燃料電池が車体下方に配置されて低重心化が図られると共に、さらにコンパクトな車体を得ることができる。
【0012】
第3の発明によれば、前輪を操舵する操向ハンドルを備え、操向ハンドルとシートとの間に、運転者の足乗せ部が設けられており、燃料電池は、該燃料電池の重心位置が、乗車時に運転者が着座する着座部の前後方向中心より車体前方側に位置するように、足乗せ部の車体後方側に配設されているので、燃料電池の重心位置を、乗車時の運転者の重心位置より車体前方側に置くことができ、各重量物の重心を車体前後方向の略中央に集中させて、車体の前後重量バランスを向上させることが可能となる。また、足乗せ部の車体後方側に燃料電池が配設されているので、乗員が乗降時に燃料電池を跨ぐことがなくなり、鞍乗型燃料電池車両の乗り降りを容易にすることが可能となる。
【0013】
第4の発明によれば、燃料電池に供給する水素ガスを貯蔵する水素貯蔵手段を備え、水素貯蔵手段は後輪の上方に配設されており、燃料電池の水素ガス吸入口が、燃料電池の長手方向の上部側に設けられているので、水素貯蔵手段と燃料電池の水素ガス吸入口との距離が近くなり、燃料ガス管等の水素供給経路が短縮されて、圧力損失を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池車両1の斜視図である。また、図2は、燃料電池車両1の右側面図である。鞍乗型自動二輪車としての燃料電池車両1は、複数のセルが積層されたセルスタック(電極、セパレータ、電解質膜等を含む)と、該セルスタックに燃料の水素ガスを供給する燃料(水素)ガス供給系と、該セルスタックに酸素を含む反応ガス(空気)を供給する反応ガス供給系とから構成される燃料電池発電システムを備えており、以下では、セルスタックが収納される略直方体のケーシング全体を燃料電池30と呼称する。
【0015】
燃料電池車両1は、操向ハンドル5のハンドルポスト4を回動自在に軸支するヘッドパイプが接合されるメインフレーム2と、ヘッドパイプに接合されて車体下方かつ後方に延びるアンダーフレーム6と、車体の略中央に配設される燃料電池30を覆うガードパイプ7と、ガードパイプ7の上方に配設されるアッパーパイプ8と、ガードパイプ7の後端部から上方に延びてアッパーパイプ8と連結される連結パイプ28と、アッパーパイプ8の後方で2本の水素ボンベ15を支持するリヤフレーム9とからなる骨格を有する。ハンドルポスト4の下方には、前輪WFを回転自在に軸支する左右一対のフロントフォーク3が取り付けられており、操向ハンドル5の回動により前輪WFの操舵角を変更することができる。
【0016】
アンダーフレーム6の後端部に設けられたピボット軸13には、リヤクッション12によって車体に吊り下げられたスイングアーム11が揺動自在に軸支されている。スイングアーム11には、燃料電池車両1の動力源としての駆動モータ(不図示)が内蔵されており、後輪WRはこの駆動モータで駆動される。
【0017】
メインフレーム2とアンダーフレーム6とで囲まれた空間には、反応ガスを強制的に圧送する過給機としてのスクロール型圧縮機52、反応ガスの湿度を調整する加湿機53、略直方体形状を有する燃料電池30、該燃料電池30の発電電圧を昇圧または降圧することにより所定の電圧に変換する電圧変換器(VCU)50、燃料電池30から供給される電力を蓄積する二次電池51とが配設されている。また、メインフレーム2の車体前方側には、燃料電池30の冷却水を冷却する左右一対のラジエータ60L,60Rが取り付けられており、該ラジエータ60L,60Rの背面部には冷却効果を高めるための電動の冷却ファン61が配設されている。
【0018】
側面視長方形の燃料電池30は、その長方形を縦長とし、かつ車体後方側に傾けられて車体に取り付けられている。燃料電池30には、水素を含む燃料ガスを供給する燃料ガス管45と、酸素を含む反応ガスを供給する配管である吸入側マニホールド33と、セルスタックを通過した未反応ガスおよび生成水を排出する配管である排出側マニホールド36とが取り付けられている。略円柱状の水素ボンベ15は、水素ボンベレギュレータ16と接続されるバルブ側を車体前方側に向けて、後輪(駆動輪)WRの上方でリヤフレーム9およびガイドパイプ10に支持されている。水素ボンベ15に充填された水素は、各種センサ等からの情報に基づいて電気的に制御される水素ボンベレギュレータ16によって降圧された後、燃料ガス管45を介して燃料電池30に供給される。なお、リヤフレーム9の上方には、外装部品の一部としてのリヤカウル14が、水素ボンベ15を覆うようにして配設されている。
【0019】
前記ハンドルポスト4の車体前方側には、外気を濾過するエアクリーナボックス54が設けられており、該エアクリーナボックス54から導入された空気は、スクロール型圧縮機52によって加湿機53に圧送される。そして、加湿機53によって適切な湿度が与えられた反応ガスは、反応ガス管34およびこれに接続される吸入側マニホールド33を介して、燃料電池30に圧送される。
【0020】
前記ラジエータ60L,60Rの下方には、樹脂の薄板等で形成されて車体を覆う外装部品(不図示)の内側、すなわち、車体の内部へ積極的に外気を導入するための左右一対の電動ファン70が取り付けられている。また、スクロール型圧縮機52の車幅方向右側には、燃料電池30の冷却水の温度を所定値に保つためのサーモスタット52aが取り付けられている。
【0021】
図3は、鞍乗型燃料電池車両1の上面図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。車幅方向中央に配設される燃料電池30の上部には、燃料ガス管45が接続される燃料ガス吸入孔38と、前記吸入側マニホールド33が接続される反応ガス吸入口32とが設けられている。このような燃料ガス吸入孔38の配設位置によれば、後輪WRの上方に配設された水素ボンベ15との距離が近くなるので、燃料ガス管45等の水素供給経路を短縮して圧力損失を低減することが可能となる。略直方体の電圧変換器50は、燃料電池30の車体前方側において、左右一対のメインフレーム2に挟まれるように車幅方向中央に配設されている。電圧変換器50の天面には、金属等で形成された多数の薄い板状部材を車体前後方向に立設してなる放熱フィン50aが取り付けられている。
【0022】
図4は、鞍乗型燃料電池車両1の左側面図であり、また、図5は燃料電池30の配設状態を示す模式図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。本実施形態に係る鞍乗型燃料電池車両1においては、操向ハンドル5とシート18との間に、運転者100が乗車時に足を載せる足乗せ部19が設けられており、燃料電池30は、足乗せ部19の車体後方側に配設されている。このような燃料電池30の配設位置によれば、燃料電池30の重心G1の位置を、シート18において運転者100が着座する運転者着座部18aの前後方向着座部中心G2、換言すれば、乗車時の運転者100の重心より車体前方側に置くことができ、各重量物の重心を車体前後方向の略中央に集中させて、車体の前後重量バランスを向上させることができるようになる。本実施形態では、図4に示すように距離Aの分だけ、燃料電池30の重心G1が、運転者着座部18aの前後方向着座部中心G2、すなわち、乗車時の運転者100の重心より車体前方に位置するように設定されている。また、足乗せ部19の車体後方側に燃料電池30が配設されているので、運転者100が乗降時に燃料電池30を跨ぐことがなくなり、鞍乗型燃料電池車両1の乗り降りを容易にすることが可能となる。
【0023】
図5を参照して、略直方体に形成される燃料電池30は、その長手方向を上下に向けた状態から車体後方側に傾けられて前記シート18の下方に配設されている。これにより、例えば、長手方向を車体前後方向に向けて燃料電池を配設した場合に比して、スイングアーム11を揺動自在に軸支するピボット軸13を車体前方側に寄せることが可能となる。ここで、燃料電池30の側面視長方形30Hに注目すると、側面視長方形30Hの後端部に頂点Pが位置し、下端部に頂点Qが位置する。本実施形態では、ピボット軸13を、側面視長方形30Hの頂点Pの前方かつ頂点Qの後方の範囲Xの範囲内であると共に、頂点Pの下方かつ頂点Qの上方の範囲Yの範囲内に配置している。これにより、ピボット軸13は、燃料電池30に隣接した直角三角形30Tの中に収められることとなり、十分なスイングアーム長を確保しながらホイールベースを短縮し、車体全長の短縮を図ることが可能となる。また、燃料電池30が車体下方に配置されて低重心化が図られると共に、コンパクトな車体を得ることができるようになる。さらに、燃料電池30が車体後方側に大きく傾斜(例えば、30度)しているので、発電時に生成されて燃料電池30の下方に溜まる生成水の流れがよくなり、排水性を高めることが可能となる。
【0024】
なお、燃料電池や足乗せ部の形状、ピボット軸の配設位置、燃料電池の傾斜角度や上下方向位置、スイングアームの長さとホイールベースの比率等は、上記した実施形態に限られず、種々の変更が可能である。
【0025】
また、鞍乗型燃料電池車両の形態は、自動二輪車のほか3/4輪車等であってもよく、燃料電池、水素貯蔵手段、過給機、加湿機、電圧変換器、二次電池、ラジエータ等の構成部品の形態や配置も種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る鞍乗型燃料電池車両の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る鞍乗型燃料電池車両の右側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る鞍乗型燃料電池車両の上面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る鞍乗型燃料電池車両の左側面図である。
【図5】燃料電池の配設状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0027】
1…鞍乗型燃料電池車両、5…操向ハンドル、11…スイングアーム、13…ピボット軸、15…水素ボンベ(水素貯蔵手段)、18…シート、18a…運転者着座部、19…足乗せ部、30…燃料電池、30H…側面視長方形、38…燃料ガス吸入孔、45…燃料ガス管、50…電圧変換器、51…二次電池、52…スクロール型圧縮機、53…加湿機、100…運転者、G1…燃料電池の重心、G2…着座部中心、P…後端の頂点、Q…下端の頂点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池からの供給電力で走行すると共に、後輪が取り付けられるスイングアームを車体フレームに揺動自在に軸支するピボット軸と、運転者が着座するシートとを備える鞍乗型燃料電池車両において、
前記燃料電池は、略直方体に形成され、その長手方向を上下に向けた状態から車体後方側に傾けられて前記シートの下方に配設されており、
前記ピボット軸は、前記燃料電池の側面視長方形の後端に位置する頂点の前方かつ下端に位置する頂点の後方の範囲内に配置されていることを特徴とする鞍乗型燃料電池車両。
【請求項2】
前記ピボット軸は、前記燃料電池の側面視長方形の後端に位置する頂点の下方かつ下端に位置する頂点の上方の範囲内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の鞍乗型燃料電池車両。
【請求項3】
前輪を操舵する操向ハンドルを備え、
前記操向ハンドルと前記シートとの間に、前記運転者の足乗せ部が設けられており、前記燃料電池は、該燃料電池の重心位置が、乗車時に運転者が着座する着座部の前後方向中心より車体前方側に位置するように、前記足乗せ部の車体後方側に配設されていることを特徴とする請求項1または2に記載の鞍乗型燃料電池車両。
【請求項4】
前記燃料電池に供給する水素ガスを貯蔵する水素貯蔵手段を備え、
前記水素貯蔵手段は後輪の上方に配設され、
前記燃料電池の水素ガス供給口が、前記燃料電池の長手方向の上部側に設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の鞍乗型燃料電池車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−247326(P2008−247326A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94250(P2007−94250)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】