駆動力制御装置
【課題】吸気バルブの動作状態によらずに、燃費を向上させることが可能な駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】駆動力制御装置5は、アトキンソンサイクル運転時(VVT遅角)および通常運転時(VVT進角)で燃料消費率を算出し、アトキンソンサイクル運転時の燃料消費率と、通常運転時の燃料消費率とを比較して、燃料消費率が小さい運転状態を選択し、選択された運転状態のエンジン回転速度となるように無段変速機2の変速比を制御する。
【解決手段】駆動力制御装置5は、アトキンソンサイクル運転時(VVT遅角)および通常運転時(VVT進角)で燃料消費率を算出し、アトキンソンサイクル運転時の燃料消費率と、通常運転時の燃料消費率とを比較して、燃料消費率が小さい運転状態を選択し、選択された運転状態のエンジン回転速度となるように無段変速機2の変速比を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力制御装置に関し、特に、吸気バルブの開閉タイミングを変更可能な内燃機関に、無段変速機が連結された車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機は、無段階に変速比を変化させることが可能に構成されている。このため、無段変速機が搭載された車両の駆動力を制御する場合に、無段変速機の変速比を無段階に調節することにより、運転者の加速要求等に応じて比例的に駆動力を変化させることができる。
【0003】
例えば、特許文献1では、バルブタイミングと無段変速機の変速比とを協調制御して加速応答性と燃費との両立を図るために、出力要求量が所定値以上であることが出力要求判定手段で判定された場合に、吸気バルブの動作状態を高出力トルク側に制御するとともに、無段変速機の変速比を内燃機関の回転数が増大する方向に変更する出力増大手段と、吸気バルブの動作状態と無段変速機の変速比とが出力増大手段で制御されて車両の走行状態が所定の状態になった後、吸気バルブの動作状態を燃費効率に基づいて予め定められた動作状態に制御し、かつ無段変速機の変速比を内燃機関の回転数が燃費を考慮して予め定められた回転数となる変速比に制御する復帰手段とを備えた駆動力制御装置が開示されている。
【0004】
上記特許文献1は、吸気バルブの動作状態および無段変速機の変速比を出力要求量に基づいて決定する構成であるが、吸気バルブの動作状態によりエンジン効率が異なるため、必ずしもエンジンの効率(燃費)の良い状態で運転できていないという問題がある。すなわち、従来、エンジン単体に対して最も燃費率の良い条件を予め実験的に決定した結果に基づいて動作点を決定していたが、エンジンの効率特性はバルブタイミングの位相により異なる点について十分考慮されていないという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−129875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、吸気バルブの動作状態によらずに、燃費を向上させることが可能な駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、吸気バルブの開閉タイミングを変更可能な内燃機関に、無段変速機が連結された車両の駆動力制御装置において、前記吸気バルブの遅角運転時の燃料消費率を算出する第1の燃料消費率算出手段と、前記吸気バルブの進角運転時の燃料消費率を算出する第2の燃料消費率算出手段と、前記算出された吸気バルブの遅角運転時の燃料消費率と、前記算出された吸気バルブの進角運転時の燃料消費率とを比較して、燃料消費率が小さい運転状態を選択し、前記無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記変速比制御手段は、燃料消費率の比較結果から遅角運転から進角運転への移行条件が成立する場合、運転状態の移行によって、目標エンジン回転速度が現在エンジン回転速度よりも相対的に低下する場合は、遅角運転から進角運転へ移行しないことが望ましい。
【0009】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記吸気バルブの遅角運転は、アトキンソンサイクル運転であることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、吸気バルブの開閉タイミングを変更可能な内燃機関に、無段変速機が連結された車両の駆動力制御装置において、前記吸気バルブの遅角運転時の燃料消費率を算出する第1の燃料消費率算出手段と、前記吸気バルブの進角運転時の燃料消費率を算出する第2の燃料消費率算出手段と、前記算出された吸気バルブの遅角運転時の燃料消費率と、前記算出された吸気バルブの進角運転時の燃料消費率とを比較して、燃料消費率が小さい運転状態を選択し、前記無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、を備えているので、吸気バルブの動作状態によらずに、燃費を向上させることが可能な駆動力制御装置を提供することが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものまたは実質的に同一のものが含まれる。
【0012】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る駆動力制御装置を適用した車両の駆動系の概略構成を示す図である。同図において、エンジン1の出力トルクは、無段変速機2へ伝達される。無段変速機2は、変速比を無段階(連続的)に制御するものであり、エンジン1の出力を図示しない駆動軸へ伝達する。エンジン1の出力軸(図示せず)は、無段変速機2の入力軸(図示せず)と連結可能に構成されており、無段変速機2の入力回転数(入力軸回転数)は、エンジン1の回転数(出力軸回転数)と対応している。
【0013】
エンジン1および無段変速機2が搭載された車両(図示せず)には、車両の駆動力を制御する駆動力制御装置5が設けられている。駆動力制御装置5は、目標駆動力算出部6と、目標出力算出部7と、目標制御量算出部8と、制御部9とを備えている。駆動力制御装置5は、周知のマイクロコンピュータによって構成され、図示しないCPU、RAM、ROM、入力ポート、出力ポート、及びコモンバスを備えている。
【0014】
目標駆動力算出部6は、アクセル開度(アクセル操作量)accpおよび車速spdに基づいて、目標駆動力Ftag[N]を算出する。目標駆動力算出部6には、アクセル開度検出手段3、および車速検出手段4が接続されている。アクセル開度検出手段3は、図示しないアクセルに対する運転者の操作量であるアクセル操作量を検出する。なお、アクセルとは、所謂アクセルペダルに限らず、運転者が要求する加速度(駆動力)を車両に指示する操作機器のことである。アクセル操作に基づいて、運転者の加速要求の大きさが検出(推定)される。アクセル開度検出手段3は、アクセルが全開とされた場合のアクセル開度を100%とするアクセル開度accpを検出し、検出結果に対応する信号を目標駆動力算出部6に出力する。目標駆動力算出部6は、アクセル開度検出手段3から取得した信号に基づいてアクセル開度accpを検出する。
【0015】
車速検出手段4は、車両の速度である車速spdを検出するものである。車速検出手段4は、例えば、車速spdに比例する無段変速機2の出力軸の回転数を検出し、検出結果に対応する信号を目標駆動力算出部6に出力する。目標駆動力算出部6は、車速検出手段4から取得した信号に基づいて車速spdを検出する。
【0016】
目標駆動力算出部6は、検出されたアクセル開度accpおよび車速spdに基づいて、図2に示すマップを参照して目標駆動力Ftag(N)を算出する。図2において、横軸は車速spd、縦軸は駆動力forceをそれぞれ示す。符号accp1、accp2、およびaccp3は、アクセル開度accpの大きさに応じた車速spdと目標駆動力Ftag(N)との関係を示す曲線である。accp1からaccp3の順でアクセル開度accpが大きな値となっている。図2に示すように、所定の車速spdに対して、アクセル開度accpが大きな値となるほど、目標駆動力Ftag(N)が大きな値として算出される。目標駆動力算出部6は、算出された目標駆動力Ftag(N)および車速spdを目標出力算出部7に出力する。
【0017】
目標出力算出部7は、目標駆動力算出部6から取得した目標駆動力Ftagおよび車速spdに基づいて、エンジン1の目標パワー(目標出力)P(kW)を算出する。目標出力算出部7は、目標駆動力Ftagと車速spdの乗算により目標パワーP(kW)を算出する。
【0018】
目標制御量算出部8は、目標出力算出部7で算出された目標パワーP(kW)に基づいて、目標制御量を算出する。ここで、目標制御量は、エンジン1の回転速度Neの目標値である目標エンジン回転速度Netag、および、エンジン1の出力トルクTeの目標値である目標エンジントルクTetagである。目標制御量算出部8は、目標パワーPおよび燃費最適線に基づいて、目標制御量(目標エンジン回転速度Netag、目標エンジントルクTetag)を算出する。
【0019】
図3は、目標パワーPと燃費最適線に基づいて、目標制御量(目標エンジン回転速度Netag、目標エンジントルクTetag)を算出する方法を説明するための図である。図3において、横軸はエンジン回転速度Ne、縦軸はエンジン1の出力トルクTeをそれぞれ示す。符号P1,P2,およびP3は、エンジン1の出力(パワー)が等しくなる等パワー線を示す。エンジン1の動作点(回転速度Neと出力トルクTeの組み合わせ)が同一の等パワー線上にある場合には、エンジン1の出力(パワー)が等しくなる。符号P1で示す等パワー線から符号P3で示す等パワー線の順でエンジン1の出力が大きな値となる。
【0020】
符号60は、エンジン1の燃費最適線を示す。燃費最適線60は、エンジン1を最適な燃費で(効率良く)運転できる運転領域を示す。エンジン1の動作点が燃費最適線60上にある場合には、燃費を優先してエンジン1を運転することができる。本実施形態では、必要なパワー(目標パワーP)と燃費最適線60とから目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetagを算出する制御を基本とする。例えば、目標パワーPに対応する等パワー線が符号P2で示す等パワー線である場合について説明すると、等パワー線P2と燃費最適線60との交点(動作点)X2を求める。符号X2で示す動作点と現在の動作点との関係に基づいて、動作点X2を目標の動作点として設定可能である場合には、動作点X2に対応する回転速度Ne2および出力トルクTe2が、目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetagとしてそれぞれ設定される。
【0021】
本実施の形態では、駆動力制御装置5は、図4に示すように、アトキンソンサイクル運転用(吸気バルブの開閉タイミングが遅角している状態)燃費マップ100と、通常運転用(吸気バルブの開閉タイミングが進角している状態)燃費マップ200を備えている。アトキンソンサイクル運転用燃費マップ100において、符号101は燃費最適線、符号102は等燃費線、符号103は、エンジン最大出力を示している。また、通常運転用燃費マップ200において、符号201は燃費最適線、符号202は等燃費線、符号203はエンジン最大出力を示している。
【0022】
目標制御量算出部8は、目標パワーPに基づき、アトキンソンサイクル運転用燃費マップ100の燃費最適線101上の動作点を算出し、当該動作点での燃料消費率τaを算出する。また、目標制御量算出部8は、目標パワーPに基づき、通常運転用燃費マップ200の燃費最適線201上の動作点を算出し、当該動作点での燃料消費率τbを算出する。目標制御量算出部8は、算出したアトキンソンサイクル運転状態と通常運転状態の燃料消費率を比較し、燃料消費率の低い方の運転状態を選択する。選択された運転状態、並びに選択された運転状態の動作点(目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetag)は、目標制御量算出部8から制御部9へ出力される。なお、アトキンソンサイクル運転用燃費マップ100と通常運転用燃費マップ200をそれぞれ備えることにしてもよいが、これらのマップを統合した統合マップ300を備えることにしてもよい。
【0023】
図5を参照して、アトキンソンサイクル運転および通常運転の動作点の遷移の一例を説明する。図5において、アトキンソンサイクル運転では、動作点がアトキンソンサイクル運転用の燃費最適線101上に位置するように、エンジントルクおよびエンジン回転速度(変速比)が制御される。出力要求量が増大する以前の状態、すなわち加速要求前の初期状態はA1点で示され、この状態でアクセルが踏み込まれ、所定値以上の出力要求があると、エンジントルクを急峻に増大させると共に、エンジン回転速度(変速比)を増大させて達成された運転点がA2点である。ここで、通常運転に切り替えられ、エンジン回転速度(変速比)を増大させると、目標出力を超えたA3点となる。その後、アトキンソンサイクル運転用の燃費最適線101を目標とする動作点(A4点)に向けてエンジン1の運転状態が変更される。
【0024】
図1に戻り、算出された目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetagは、目標制御量算出部8から制御部9へ出力される。制御部9は、エンジン1に接続されており、制御部9からエンジン1へ、エンジン1の運転状態を制御するための指令値が出力される。制御部9は、選択された運転状態に応じた吸気バルブの開閉タイミングでエンジン1を制御すると共に、目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetagを実現するようにエンジン1を制御する。また、制御部9は、無段変速機2に接続されており、制御部9から無段変速機2へ変速比の目標値を示す信号が出力される。制御部9は、エンジン回転速度Ne(無段変速機2の入力回転数)を目標エンジン回転速度Netagとするように無段変速機2の変速比の目標値を決定する。無段変速機2は、制御部9から取得した変速比の目標値に従って変速を実行する。
【0025】
ここで、図6を参照して、駆動力制御装置5に制御されるエンジン1について説明する。このエンジン1は、多気筒の筒内噴射式ガソリンエンジンである。エンジン1は、下部からクランクケース10と、クランクケース10の上部に設けられたシリンダブロック11と、ヘッドガスケット(図示省略)を介してシリンダブロック11の上部に設けられたシリンダヘッド12とで外郭が形成されている。シリンダブロック11の上部には、上下動可能にピストン13が気筒数(図示では1つ)に応じて複数収容され、また、シリンダブロック11の下部およびクランクケース10により形成された収容部には、クランクシャフト14が収容されている。各ピストン13とクランクシャフト14とは、コンロッド15により連結されており、各ピストン13の上下動作をクランクシャフト14に伝達している。そして、上記シリンダブロック11、シリンダヘッド12およびピストン13により、ペントルーフ型の燃焼室16が気筒数に応じて複数形成されている。
【0026】
クランクケース10には、クランク角センサ20が配設されており、クランクシャフト14の回転角度を検知している。クランク角センサ20は、駆動力制御装置5に接続されており、駆動力制御装置5は、クランク角センサ20の検出結果に基づいて、後述する点火プラグ44による点火時期や、後述する燃料噴射弁45による燃料の噴射時期を制御している。
【0027】
シリンダブロック11は、その内部に複数のピストン13を収容するための複数のシリンダボア24が形成されている。そして、各ピストン13は、各シリンダボア24に嵌合するように円柱状に形成されており、このシリンダボア24内で上死点と下死点との間を上下動可能に支持されている。また、各ピストン13のヘッド面には、ピストンキャビティ25が没入形成されている。さらに、シリンダブロック11の内部には、エンジン1を冷却する冷却水の冷却水循環通路となるウォータージャケット26が形成されており、ウォータージャケット26は各シリンダボア24の周りを取り囲むように配設されている。そして、シリンダブロック11には、冷却水の水温を検出するエンジン水温検出センサ27が配設され、エンジン水温検出センサ27は、駆動力制御装置5に接続されている。
【0028】
シリンダヘッド12は、その内部の各燃焼室16に連通する複数の吸気ポート30(図示では1つ)と、各吸気ポート30に対向配置され、各燃焼室16に連通する複数の排気ポート31(図示では1つ)とが形成されている。複数の排気ポート31には、その下流側に排気通路36が接続されており、排気通路36には、空燃比センサ(以下、A/Fセンサ37という)が設けられている。このとき、A/Fセンサ37は、エンジン1の燃焼サイクル毎に空燃比を検出可能となっていると共に、気筒毎に空燃比を検出可能となっている。
【0029】
また、燃焼室16と吸気ポート30との間の吸気側連通口32には、吸気バルブ34が配設され、また、燃焼室16と排気ポート31との間の排気側連通口33には、排気バルブ35が配設されている。
【0030】
吸気バルブ34および排気バルブ35は、ラッパ形状をなす末広がりの円錐状に形成されており、吸気側連通口32および排気側連通口33を開放する開放位置(下降端位置)と、吸気側連通口32および排気側連通口33を閉塞する閉塞位置(上昇端位置)との間で移動自在に構成されている。そして、吸気バルブ34の基端部には吸気側カムシャフト40が、また、排気バルブ35の基端部には排気側カムシャフト41が、それぞれ配設されており、各カムシャフト40,41が回転することにより吸気バルブ34および排気バルブ35が開閉可能となっている。また、このエンジン1の動弁機構は、運転状態に応じて吸気バルブ34及び排気バルブ35を最適な開閉タイミングに制御する可変動弁機構(VVT:Variable Valve Timing-inTelligent)50となっている。この可変動弁手段としての可変動弁機構50は、カムスプロケットに対するカムシャフト40,41の位相を変更し、吸気バルブ34及び排気バルブ35の開閉時期を進角又は遅角することができるものである。駆動力制御装置5は、可変動弁機構(VVT:Variable Valve Timing-inTelligent)50の動作を制御する。
【0031】
また、燃焼室16の頂部には、先端部が突出するように点火プラグ44が配設され、また、シリンダヘッド12の吸気ポート30の下部には、燃焼室16の壁面から燃料を噴射する燃料噴射弁45が配設されている。
【0032】
ここで、エンジン1の各気筒における一燃焼サイクルの燃焼動作について説明する。燃焼サイクルでは、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程が順に行われている。
【0033】
吸気行程では、ピストン13が上死点から下死点へ向けて移動を開始すると共に、吸気バルブ34を下降移動させて吸気側連通口32を開放する。すると、燃焼室16の負圧により空気が吸気側連通口32を介して燃焼室16内に吸入され、この後、吸気バルブ34を上昇移動させて吸気側連通口32を閉塞する。このとき、燃料噴射弁45から燃料の噴射が開始され、吸入された空気と燃料とが混合して混合気となる。
【0034】
圧縮行程では、ピストン13が下死点から上死点へ向けて移動する。ピストン13が上死点に移動すると、この移動に伴って混合気は圧縮される。そして、ピストン13が上死点近傍に達すると、点火プラグ44をスパークさせて、混合気に着火する。なお、燃料噴射弁45からの燃料噴射は、点火プラグ44の放電前に終了している。
【0035】
膨張行程では、着火による混合気の燃焼により、混合気が膨張(爆発)して、ピストン13を上死点から下死点へ向けて移動させる。
【0036】
排気行程では、下死点へ到達したピストン13が、慣性により再び上死点へ向けて移動する。このとき、排気バルブ35を下降移動させて排気側連通口33を開放し、ピストン13の上死点への移動に伴って、燃焼後の排気ガスを排気側連通口33から排出させる。排気ガスの排出後、排気バルブ35を上昇移動させて排気側連通口33を閉塞する。
【0037】
以上の燃焼サイクルを繰り返し行うことで、各ピストン13を上下動作させ、この動力は、コンロッド15を介してクランクシャフト14に伝達することで、エンジン1は駆動力を得ることができる。
【0038】
また、このエンジン1は、上述したように、圧縮比より膨張比が大きいアトキンソンサイクル(高膨張比サイクル)を実行可能なエンジンであり、そのアトキンソンサイクルは、吸気バルブ34の閉じ時期を遅らせることにより達成される。可変動弁機構50によって吸気バルブ34の閉じ時期を変えることにより、膨張比が変化する。エンジン1では、可変動弁機構50によって吸気バルブ34の閉じ時期が制御され、図7に示すように、通常運転では、吸気バルブ34の開閉タイミングが進角され、アトキンソンサイクル運転では、吸気バルブ34の開閉タイミングが遅角される。
【0039】
図8は、上記駆動力制御装置5の駆動力制御を説明するためのフローチャートである。同図において、まず、目標駆動力算出部6は、検出されたアクセル開度accpおよび車速spdに基づいて、図2に示すマップを参照して目標駆動力Ftag(N)を算出して、目標出力算出部7に出力する(ステップS1)。目標出力算出部7は、目標駆動力算出部6から取得した目標駆動力Ftagおよび車速spdに基づいて、エンジン1の目標パワー(目標出力)P(kW)を算出し、目標制御量算出部8に出力する(ステップS2)。
【0040】
目標制御量算出部8は、最終目標パワーPとアトキンソンサイクル運転用燃費マップ100に基づいて、定常目標エンジン回転速度Netag−aを算出する(ステップS3)。つぎに、目標制御量算出部8は、最終目標パワーPと現在エンジン回転速度Neinに基づいて、目標エンジントルクTetag−aを算出する(ステップS4)。目標制御量算出部8は、現在エンジン回転速度Neinと目標エンジントルクTetag−aとに基づいて、アトキンソンサイクル運転用燃費マップ100を参照して、燃料消費率τaを算出する(ステップS5)。
【0041】
また、目標制御量算出部8は、最終目標パワーPと通常運転用燃費マップ200に基づいて、定常目標エンジン回転速度Netag−bを算出する(ステップS6)。つぎに、目標制御量算出部8は、最終目標パワーPと現在エンジン回転速度Neinに基づいて、目標エンジントルクTetag−bを算出する(ステップS7)。目標制御量算出部8は、現在エンジン回転速度Neinと目標エンジントルクTetag−bとに基づいて、通常運転用燃費マップ200を参照して、燃料消費率τbを算出する(ステップS8)。
【0042】
つづいて、目標制御量算出部8は、燃料消費率τa>燃料消費率τbであるか否かを判定する(ステップS9)。燃料消費率τa>燃料消費率τbである場合には(ステップS9の「Yes」)、目標エンジン回転速度を定常運転目標エンジン回転速度Netag−bとし(ステップS10)、制御部9は、通常運転(VVTを進角)を行うと共に(ステップS11)、通常運転に応じた変速制御を行う(ステップS12)。
【0043】
他方、目標制御量算出部8は、燃料消費率τa>燃料消費率τbでない場合には(ステップS9の「No」)、目標エンジン回転速度を目標エンジン回転速度Netag−aとし(ステップS13)、制御部9は、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行うと共に(ステップS14)、アトキンソンサイクル運転に応じた変速制御を行う(ステップS12)。これにより、最も燃費率の良い動作点に対してエンジントルクを高めている状態においては、アトキンソンサイクル運転状態を維持して高負荷にて運転するか、または通常運転状態に変更して低負荷にて運転するかを決定して、高効率な運転を行うことが可能となり、結果として加速感を損なうことなく燃費向上を図ることが可能となる。
【0044】
図9は、本実施形態の駆動力制御が行われた場合の効果を説明するためのタイムチャートである。同図において、(A)はアクセル開度、(B)はエンジントルク、(C)はエンジン回転速度、(D)は燃料消費率、(E)はVVT進角量の推移の一例を示している。
【0045】
同図において、t0〜t1の定常運転状態では、アトキンソンサイクル運転の方が通常運転よりも燃料消費率が小さいので、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行う。また、アクセルが踏み込まれても、t1〜t2間では、アトキンソンサイクル運転の方が通常運転よりも燃料消費率が小さいので、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行う。t2〜t3では、通常運転の方がアトキンソンサイクル運転よりも燃料消費率が小さいので、通常運転(VVT進角)を行う。この後、t3〜t4では、アトキンソンサイクル運転の方が通常運転よりも燃料消費率が小さくなるので、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行う。
【0046】
以上説明したように、実施の形態1によれば、アトキンソンサイクル運転時(VVT遅角)および通常運転時(VVT進角)で燃料消費率を算出し、アトキンソンサイクル運転時の燃料消費率と、通常運転時の燃料消費率とを比較して、燃料消費率が小さい運転状態を選択し、選択された運転状態のエンジン回転速度となるように無段変速機2の変速比を制御することとしたので、吸気バルブの動作状態によらずに、燃費を向上させることが可能となる。
【0047】
(実施の形態2)
実施の形態1では、アトキンソンサイクル運転状態と通常運転状態における最も燃費率の良い動作点をそれぞれ算出して、アトキンソンサイクル運転と通常運転の燃料消費率を比較して、燃料消費率の低い方を選択して、吸気バルブ34の開閉タイミングおよび無段変速機2の変速比を決定している。しかるに、アトキンソンサイクル運転状態から通常運転状態へ移行する条件において、目標回転速度が相対的に低下する条件が存在するが、これが加速中に生じると、車速が上昇しているにも拘わらず、エンジン回転速度が低下することになるため加速感を損なう。そこで、実施の形態2では、アトキンソンサイクル運転状態から通常運転状態へ移行する条件に合致した場合は、現在のエンジン回転速度とエンジン運転状態移行後の目標エンジン回転速度との差からエンジン運転状態の移行を判断して、エンジン回転速度の低下を回避し、加速感が損なわれることを防止する。
【0048】
図10は、上記駆動力制御装置5の実施の形態2に係る制御を説明するためのフローチャートである。図10において、図8と同様の処理を行うステップには、同一のステップ番号を付して、共通する部分の説明を省略する。
【0049】
図10のステップS9では、目標制御量算出部8は、燃料消費率τa>燃料消費率τbであるか否かを判定する(ステップS9)。燃料消費率τa>燃料消費率τbでない場合には(ステップS9の「No」)、ステップS13に移行する一方、燃料消費率τa>燃料消費率τbである場合には(ステップS9の「Yes」)、目標エンジン回転速度を定常運転目標エンジン回転速度Netag−bとし(ステップS10)、現在エンジン回転速度Nein−目標エンジン回転速度Netag−b>αであるか否かを判断する(ステップS20)。現在エンジン回転速度Nein−目標エンジン回転速度Netag−b>αでない場合には(ステップS20の「No」)、ステップS13に移行する一方、現在エンジン回転速度Nein−目標エンジン回転速度Netag−b>αである場合には(ステップS20の「Yes」)、制御部9は、通常運転(VVTを進角)を行うと共に(ステップS11)、通常運転に応じた変速制御を行う(ステップS12)。
【0050】
ステップS13では、目標エンジン回転速度を目標エンジン回転速度Netag−aとし(ステップS13)、制御部9は、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行うと共に(ステップS14)、アトキンソンサイクル運転に応じた変速制御を行う(ステップS12)。
【0051】
図11は、本実施形態の駆動力制御が行われた場合の効果を説明するためのタイムチャートである。同図において、(A)はアクセル開度、(B)はエンジントルク、(C)はエンジン回転速度、(D)は燃料消費率、(E)はVVT進角量の推移の一例を示している。
【0052】
同図において、t0〜t1の定常運転状態では、アトキンソンサイクル運転の方が通常運転よりも燃料消費率が小さいので、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行う。また、アクセルが踏み込まれても、t1〜t2間では、アトキンソンサイクル運転の方が通常運転よりも燃料消費率が小さいので、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行う。t2〜t3では、通常運転の方がアトキンソンサイクル運転よりも燃料消費率が小さいので、通常運転(VVT進角)を行う。この後、t3〜t5では、アトキンソンサイクル運転の方が通常運転よりも燃料消費率が小さくなるので、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行う。
【0053】
t5では、通常運転の方がアトキンソンサイクル運転よりも燃料消費率が小さくなるので、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)から通常運転に切り替えた方が、燃費がよくなるが、エンジン回転速度が低下してしまうため、アトキンソンサイクル運転を継続する。
【0054】
以上説明したように、実施の形態2によれば、燃料消費率の比較結果から遅角運転から進角運転への移行条件が成立する際、運転状態の移行によって、目標エンジン回転速度が現在エンジン回転速度よりも相対的に低下する場合は、遅角運転から進角運転へ移行しないこととしたので、ドライバの加速要求に対しては良好な加速を保ち、それ以外の場合では燃費向上を図ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る駆動力制御装置は、吸気バルブの動作状態によらずに、燃費を向上させる場合に有用であり、各種車両で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態1に係る駆動力制御装置を適用した車両の駆動系の概略構成を示す図である。
【図2】アクセル開度および車速と目標駆動力との対応関係を示す図である。
【図3】目標パワーと目標制御量との対応関係を示す図である。
【図4】アトキンソンサイクル運転用燃費マップと、通常運転用燃費マップを説明するための図である。
【図5】アトキンソンサイクル運転および通常運転の動作点の遷移の一例を説明するための図である。
【図6】エンジンの概略構成を示す図である。
【図7】アトキンソンサイクル運転および通常運転の吸気バルブの開閉タイミングの一例を示す図である。
【図8】駆動力制御装置の実施の形態1に係る駆動力制御を説明するためのフローチャートである。
【図9】実施の形態1に係る駆動力制御が行われた場合の効果を説明するためのタイムチャートである。
【図10】駆動力制御装置の実施の形態2に係る制御を説明するためのフローチャートである。
【図11】実施の形態2に係る駆動力制御が行われた場合の効果を説明するためのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0057】
1 エンジン
2 無段変速機
3 アクセル開度検出手段
4 車速検出手段
5 駆動力制御装置
6 目標駆動力算出部
7 目標出力算出部
8 目標制御量算出部
9 制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力制御装置に関し、特に、吸気バルブの開閉タイミングを変更可能な内燃機関に、無段変速機が連結された車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機は、無段階に変速比を変化させることが可能に構成されている。このため、無段変速機が搭載された車両の駆動力を制御する場合に、無段変速機の変速比を無段階に調節することにより、運転者の加速要求等に応じて比例的に駆動力を変化させることができる。
【0003】
例えば、特許文献1では、バルブタイミングと無段変速機の変速比とを協調制御して加速応答性と燃費との両立を図るために、出力要求量が所定値以上であることが出力要求判定手段で判定された場合に、吸気バルブの動作状態を高出力トルク側に制御するとともに、無段変速機の変速比を内燃機関の回転数が増大する方向に変更する出力増大手段と、吸気バルブの動作状態と無段変速機の変速比とが出力増大手段で制御されて車両の走行状態が所定の状態になった後、吸気バルブの動作状態を燃費効率に基づいて予め定められた動作状態に制御し、かつ無段変速機の変速比を内燃機関の回転数が燃費を考慮して予め定められた回転数となる変速比に制御する復帰手段とを備えた駆動力制御装置が開示されている。
【0004】
上記特許文献1は、吸気バルブの動作状態および無段変速機の変速比を出力要求量に基づいて決定する構成であるが、吸気バルブの動作状態によりエンジン効率が異なるため、必ずしもエンジンの効率(燃費)の良い状態で運転できていないという問題がある。すなわち、従来、エンジン単体に対して最も燃費率の良い条件を予め実験的に決定した結果に基づいて動作点を決定していたが、エンジンの効率特性はバルブタイミングの位相により異なる点について十分考慮されていないという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−129875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、吸気バルブの動作状態によらずに、燃費を向上させることが可能な駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、吸気バルブの開閉タイミングを変更可能な内燃機関に、無段変速機が連結された車両の駆動力制御装置において、前記吸気バルブの遅角運転時の燃料消費率を算出する第1の燃料消費率算出手段と、前記吸気バルブの進角運転時の燃料消費率を算出する第2の燃料消費率算出手段と、前記算出された吸気バルブの遅角運転時の燃料消費率と、前記算出された吸気バルブの進角運転時の燃料消費率とを比較して、燃料消費率が小さい運転状態を選択し、前記無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記変速比制御手段は、燃料消費率の比較結果から遅角運転から進角運転への移行条件が成立する場合、運転状態の移行によって、目標エンジン回転速度が現在エンジン回転速度よりも相対的に低下する場合は、遅角運転から進角運転へ移行しないことが望ましい。
【0009】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記吸気バルブの遅角運転は、アトキンソンサイクル運転であることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、吸気バルブの開閉タイミングを変更可能な内燃機関に、無段変速機が連結された車両の駆動力制御装置において、前記吸気バルブの遅角運転時の燃料消費率を算出する第1の燃料消費率算出手段と、前記吸気バルブの進角運転時の燃料消費率を算出する第2の燃料消費率算出手段と、前記算出された吸気バルブの遅角運転時の燃料消費率と、前記算出された吸気バルブの進角運転時の燃料消費率とを比較して、燃料消費率が小さい運転状態を選択し、前記無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、を備えているので、吸気バルブの動作状態によらずに、燃費を向上させることが可能な駆動力制御装置を提供することが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものまたは実質的に同一のものが含まれる。
【0012】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る駆動力制御装置を適用した車両の駆動系の概略構成を示す図である。同図において、エンジン1の出力トルクは、無段変速機2へ伝達される。無段変速機2は、変速比を無段階(連続的)に制御するものであり、エンジン1の出力を図示しない駆動軸へ伝達する。エンジン1の出力軸(図示せず)は、無段変速機2の入力軸(図示せず)と連結可能に構成されており、無段変速機2の入力回転数(入力軸回転数)は、エンジン1の回転数(出力軸回転数)と対応している。
【0013】
エンジン1および無段変速機2が搭載された車両(図示せず)には、車両の駆動力を制御する駆動力制御装置5が設けられている。駆動力制御装置5は、目標駆動力算出部6と、目標出力算出部7と、目標制御量算出部8と、制御部9とを備えている。駆動力制御装置5は、周知のマイクロコンピュータによって構成され、図示しないCPU、RAM、ROM、入力ポート、出力ポート、及びコモンバスを備えている。
【0014】
目標駆動力算出部6は、アクセル開度(アクセル操作量)accpおよび車速spdに基づいて、目標駆動力Ftag[N]を算出する。目標駆動力算出部6には、アクセル開度検出手段3、および車速検出手段4が接続されている。アクセル開度検出手段3は、図示しないアクセルに対する運転者の操作量であるアクセル操作量を検出する。なお、アクセルとは、所謂アクセルペダルに限らず、運転者が要求する加速度(駆動力)を車両に指示する操作機器のことである。アクセル操作に基づいて、運転者の加速要求の大きさが検出(推定)される。アクセル開度検出手段3は、アクセルが全開とされた場合のアクセル開度を100%とするアクセル開度accpを検出し、検出結果に対応する信号を目標駆動力算出部6に出力する。目標駆動力算出部6は、アクセル開度検出手段3から取得した信号に基づいてアクセル開度accpを検出する。
【0015】
車速検出手段4は、車両の速度である車速spdを検出するものである。車速検出手段4は、例えば、車速spdに比例する無段変速機2の出力軸の回転数を検出し、検出結果に対応する信号を目標駆動力算出部6に出力する。目標駆動力算出部6は、車速検出手段4から取得した信号に基づいて車速spdを検出する。
【0016】
目標駆動力算出部6は、検出されたアクセル開度accpおよび車速spdに基づいて、図2に示すマップを参照して目標駆動力Ftag(N)を算出する。図2において、横軸は車速spd、縦軸は駆動力forceをそれぞれ示す。符号accp1、accp2、およびaccp3は、アクセル開度accpの大きさに応じた車速spdと目標駆動力Ftag(N)との関係を示す曲線である。accp1からaccp3の順でアクセル開度accpが大きな値となっている。図2に示すように、所定の車速spdに対して、アクセル開度accpが大きな値となるほど、目標駆動力Ftag(N)が大きな値として算出される。目標駆動力算出部6は、算出された目標駆動力Ftag(N)および車速spdを目標出力算出部7に出力する。
【0017】
目標出力算出部7は、目標駆動力算出部6から取得した目標駆動力Ftagおよび車速spdに基づいて、エンジン1の目標パワー(目標出力)P(kW)を算出する。目標出力算出部7は、目標駆動力Ftagと車速spdの乗算により目標パワーP(kW)を算出する。
【0018】
目標制御量算出部8は、目標出力算出部7で算出された目標パワーP(kW)に基づいて、目標制御量を算出する。ここで、目標制御量は、エンジン1の回転速度Neの目標値である目標エンジン回転速度Netag、および、エンジン1の出力トルクTeの目標値である目標エンジントルクTetagである。目標制御量算出部8は、目標パワーPおよび燃費最適線に基づいて、目標制御量(目標エンジン回転速度Netag、目標エンジントルクTetag)を算出する。
【0019】
図3は、目標パワーPと燃費最適線に基づいて、目標制御量(目標エンジン回転速度Netag、目標エンジントルクTetag)を算出する方法を説明するための図である。図3において、横軸はエンジン回転速度Ne、縦軸はエンジン1の出力トルクTeをそれぞれ示す。符号P1,P2,およびP3は、エンジン1の出力(パワー)が等しくなる等パワー線を示す。エンジン1の動作点(回転速度Neと出力トルクTeの組み合わせ)が同一の等パワー線上にある場合には、エンジン1の出力(パワー)が等しくなる。符号P1で示す等パワー線から符号P3で示す等パワー線の順でエンジン1の出力が大きな値となる。
【0020】
符号60は、エンジン1の燃費最適線を示す。燃費最適線60は、エンジン1を最適な燃費で(効率良く)運転できる運転領域を示す。エンジン1の動作点が燃費最適線60上にある場合には、燃費を優先してエンジン1を運転することができる。本実施形態では、必要なパワー(目標パワーP)と燃費最適線60とから目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetagを算出する制御を基本とする。例えば、目標パワーPに対応する等パワー線が符号P2で示す等パワー線である場合について説明すると、等パワー線P2と燃費最適線60との交点(動作点)X2を求める。符号X2で示す動作点と現在の動作点との関係に基づいて、動作点X2を目標の動作点として設定可能である場合には、動作点X2に対応する回転速度Ne2および出力トルクTe2が、目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetagとしてそれぞれ設定される。
【0021】
本実施の形態では、駆動力制御装置5は、図4に示すように、アトキンソンサイクル運転用(吸気バルブの開閉タイミングが遅角している状態)燃費マップ100と、通常運転用(吸気バルブの開閉タイミングが進角している状態)燃費マップ200を備えている。アトキンソンサイクル運転用燃費マップ100において、符号101は燃費最適線、符号102は等燃費線、符号103は、エンジン最大出力を示している。また、通常運転用燃費マップ200において、符号201は燃費最適線、符号202は等燃費線、符号203はエンジン最大出力を示している。
【0022】
目標制御量算出部8は、目標パワーPに基づき、アトキンソンサイクル運転用燃費マップ100の燃費最適線101上の動作点を算出し、当該動作点での燃料消費率τaを算出する。また、目標制御量算出部8は、目標パワーPに基づき、通常運転用燃費マップ200の燃費最適線201上の動作点を算出し、当該動作点での燃料消費率τbを算出する。目標制御量算出部8は、算出したアトキンソンサイクル運転状態と通常運転状態の燃料消費率を比較し、燃料消費率の低い方の運転状態を選択する。選択された運転状態、並びに選択された運転状態の動作点(目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetag)は、目標制御量算出部8から制御部9へ出力される。なお、アトキンソンサイクル運転用燃費マップ100と通常運転用燃費マップ200をそれぞれ備えることにしてもよいが、これらのマップを統合した統合マップ300を備えることにしてもよい。
【0023】
図5を参照して、アトキンソンサイクル運転および通常運転の動作点の遷移の一例を説明する。図5において、アトキンソンサイクル運転では、動作点がアトキンソンサイクル運転用の燃費最適線101上に位置するように、エンジントルクおよびエンジン回転速度(変速比)が制御される。出力要求量が増大する以前の状態、すなわち加速要求前の初期状態はA1点で示され、この状態でアクセルが踏み込まれ、所定値以上の出力要求があると、エンジントルクを急峻に増大させると共に、エンジン回転速度(変速比)を増大させて達成された運転点がA2点である。ここで、通常運転に切り替えられ、エンジン回転速度(変速比)を増大させると、目標出力を超えたA3点となる。その後、アトキンソンサイクル運転用の燃費最適線101を目標とする動作点(A4点)に向けてエンジン1の運転状態が変更される。
【0024】
図1に戻り、算出された目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetagは、目標制御量算出部8から制御部9へ出力される。制御部9は、エンジン1に接続されており、制御部9からエンジン1へ、エンジン1の運転状態を制御するための指令値が出力される。制御部9は、選択された運転状態に応じた吸気バルブの開閉タイミングでエンジン1を制御すると共に、目標エンジン回転速度Netagおよび目標エンジントルクTetagを実現するようにエンジン1を制御する。また、制御部9は、無段変速機2に接続されており、制御部9から無段変速機2へ変速比の目標値を示す信号が出力される。制御部9は、エンジン回転速度Ne(無段変速機2の入力回転数)を目標エンジン回転速度Netagとするように無段変速機2の変速比の目標値を決定する。無段変速機2は、制御部9から取得した変速比の目標値に従って変速を実行する。
【0025】
ここで、図6を参照して、駆動力制御装置5に制御されるエンジン1について説明する。このエンジン1は、多気筒の筒内噴射式ガソリンエンジンである。エンジン1は、下部からクランクケース10と、クランクケース10の上部に設けられたシリンダブロック11と、ヘッドガスケット(図示省略)を介してシリンダブロック11の上部に設けられたシリンダヘッド12とで外郭が形成されている。シリンダブロック11の上部には、上下動可能にピストン13が気筒数(図示では1つ)に応じて複数収容され、また、シリンダブロック11の下部およびクランクケース10により形成された収容部には、クランクシャフト14が収容されている。各ピストン13とクランクシャフト14とは、コンロッド15により連結されており、各ピストン13の上下動作をクランクシャフト14に伝達している。そして、上記シリンダブロック11、シリンダヘッド12およびピストン13により、ペントルーフ型の燃焼室16が気筒数に応じて複数形成されている。
【0026】
クランクケース10には、クランク角センサ20が配設されており、クランクシャフト14の回転角度を検知している。クランク角センサ20は、駆動力制御装置5に接続されており、駆動力制御装置5は、クランク角センサ20の検出結果に基づいて、後述する点火プラグ44による点火時期や、後述する燃料噴射弁45による燃料の噴射時期を制御している。
【0027】
シリンダブロック11は、その内部に複数のピストン13を収容するための複数のシリンダボア24が形成されている。そして、各ピストン13は、各シリンダボア24に嵌合するように円柱状に形成されており、このシリンダボア24内で上死点と下死点との間を上下動可能に支持されている。また、各ピストン13のヘッド面には、ピストンキャビティ25が没入形成されている。さらに、シリンダブロック11の内部には、エンジン1を冷却する冷却水の冷却水循環通路となるウォータージャケット26が形成されており、ウォータージャケット26は各シリンダボア24の周りを取り囲むように配設されている。そして、シリンダブロック11には、冷却水の水温を検出するエンジン水温検出センサ27が配設され、エンジン水温検出センサ27は、駆動力制御装置5に接続されている。
【0028】
シリンダヘッド12は、その内部の各燃焼室16に連通する複数の吸気ポート30(図示では1つ)と、各吸気ポート30に対向配置され、各燃焼室16に連通する複数の排気ポート31(図示では1つ)とが形成されている。複数の排気ポート31には、その下流側に排気通路36が接続されており、排気通路36には、空燃比センサ(以下、A/Fセンサ37という)が設けられている。このとき、A/Fセンサ37は、エンジン1の燃焼サイクル毎に空燃比を検出可能となっていると共に、気筒毎に空燃比を検出可能となっている。
【0029】
また、燃焼室16と吸気ポート30との間の吸気側連通口32には、吸気バルブ34が配設され、また、燃焼室16と排気ポート31との間の排気側連通口33には、排気バルブ35が配設されている。
【0030】
吸気バルブ34および排気バルブ35は、ラッパ形状をなす末広がりの円錐状に形成されており、吸気側連通口32および排気側連通口33を開放する開放位置(下降端位置)と、吸気側連通口32および排気側連通口33を閉塞する閉塞位置(上昇端位置)との間で移動自在に構成されている。そして、吸気バルブ34の基端部には吸気側カムシャフト40が、また、排気バルブ35の基端部には排気側カムシャフト41が、それぞれ配設されており、各カムシャフト40,41が回転することにより吸気バルブ34および排気バルブ35が開閉可能となっている。また、このエンジン1の動弁機構は、運転状態に応じて吸気バルブ34及び排気バルブ35を最適な開閉タイミングに制御する可変動弁機構(VVT:Variable Valve Timing-inTelligent)50となっている。この可変動弁手段としての可変動弁機構50は、カムスプロケットに対するカムシャフト40,41の位相を変更し、吸気バルブ34及び排気バルブ35の開閉時期を進角又は遅角することができるものである。駆動力制御装置5は、可変動弁機構(VVT:Variable Valve Timing-inTelligent)50の動作を制御する。
【0031】
また、燃焼室16の頂部には、先端部が突出するように点火プラグ44が配設され、また、シリンダヘッド12の吸気ポート30の下部には、燃焼室16の壁面から燃料を噴射する燃料噴射弁45が配設されている。
【0032】
ここで、エンジン1の各気筒における一燃焼サイクルの燃焼動作について説明する。燃焼サイクルでは、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程が順に行われている。
【0033】
吸気行程では、ピストン13が上死点から下死点へ向けて移動を開始すると共に、吸気バルブ34を下降移動させて吸気側連通口32を開放する。すると、燃焼室16の負圧により空気が吸気側連通口32を介して燃焼室16内に吸入され、この後、吸気バルブ34を上昇移動させて吸気側連通口32を閉塞する。このとき、燃料噴射弁45から燃料の噴射が開始され、吸入された空気と燃料とが混合して混合気となる。
【0034】
圧縮行程では、ピストン13が下死点から上死点へ向けて移動する。ピストン13が上死点に移動すると、この移動に伴って混合気は圧縮される。そして、ピストン13が上死点近傍に達すると、点火プラグ44をスパークさせて、混合気に着火する。なお、燃料噴射弁45からの燃料噴射は、点火プラグ44の放電前に終了している。
【0035】
膨張行程では、着火による混合気の燃焼により、混合気が膨張(爆発)して、ピストン13を上死点から下死点へ向けて移動させる。
【0036】
排気行程では、下死点へ到達したピストン13が、慣性により再び上死点へ向けて移動する。このとき、排気バルブ35を下降移動させて排気側連通口33を開放し、ピストン13の上死点への移動に伴って、燃焼後の排気ガスを排気側連通口33から排出させる。排気ガスの排出後、排気バルブ35を上昇移動させて排気側連通口33を閉塞する。
【0037】
以上の燃焼サイクルを繰り返し行うことで、各ピストン13を上下動作させ、この動力は、コンロッド15を介してクランクシャフト14に伝達することで、エンジン1は駆動力を得ることができる。
【0038】
また、このエンジン1は、上述したように、圧縮比より膨張比が大きいアトキンソンサイクル(高膨張比サイクル)を実行可能なエンジンであり、そのアトキンソンサイクルは、吸気バルブ34の閉じ時期を遅らせることにより達成される。可変動弁機構50によって吸気バルブ34の閉じ時期を変えることにより、膨張比が変化する。エンジン1では、可変動弁機構50によって吸気バルブ34の閉じ時期が制御され、図7に示すように、通常運転では、吸気バルブ34の開閉タイミングが進角され、アトキンソンサイクル運転では、吸気バルブ34の開閉タイミングが遅角される。
【0039】
図8は、上記駆動力制御装置5の駆動力制御を説明するためのフローチャートである。同図において、まず、目標駆動力算出部6は、検出されたアクセル開度accpおよび車速spdに基づいて、図2に示すマップを参照して目標駆動力Ftag(N)を算出して、目標出力算出部7に出力する(ステップS1)。目標出力算出部7は、目標駆動力算出部6から取得した目標駆動力Ftagおよび車速spdに基づいて、エンジン1の目標パワー(目標出力)P(kW)を算出し、目標制御量算出部8に出力する(ステップS2)。
【0040】
目標制御量算出部8は、最終目標パワーPとアトキンソンサイクル運転用燃費マップ100に基づいて、定常目標エンジン回転速度Netag−aを算出する(ステップS3)。つぎに、目標制御量算出部8は、最終目標パワーPと現在エンジン回転速度Neinに基づいて、目標エンジントルクTetag−aを算出する(ステップS4)。目標制御量算出部8は、現在エンジン回転速度Neinと目標エンジントルクTetag−aとに基づいて、アトキンソンサイクル運転用燃費マップ100を参照して、燃料消費率τaを算出する(ステップS5)。
【0041】
また、目標制御量算出部8は、最終目標パワーPと通常運転用燃費マップ200に基づいて、定常目標エンジン回転速度Netag−bを算出する(ステップS6)。つぎに、目標制御量算出部8は、最終目標パワーPと現在エンジン回転速度Neinに基づいて、目標エンジントルクTetag−bを算出する(ステップS7)。目標制御量算出部8は、現在エンジン回転速度Neinと目標エンジントルクTetag−bとに基づいて、通常運転用燃費マップ200を参照して、燃料消費率τbを算出する(ステップS8)。
【0042】
つづいて、目標制御量算出部8は、燃料消費率τa>燃料消費率τbであるか否かを判定する(ステップS9)。燃料消費率τa>燃料消費率τbである場合には(ステップS9の「Yes」)、目標エンジン回転速度を定常運転目標エンジン回転速度Netag−bとし(ステップS10)、制御部9は、通常運転(VVTを進角)を行うと共に(ステップS11)、通常運転に応じた変速制御を行う(ステップS12)。
【0043】
他方、目標制御量算出部8は、燃料消費率τa>燃料消費率τbでない場合には(ステップS9の「No」)、目標エンジン回転速度を目標エンジン回転速度Netag−aとし(ステップS13)、制御部9は、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行うと共に(ステップS14)、アトキンソンサイクル運転に応じた変速制御を行う(ステップS12)。これにより、最も燃費率の良い動作点に対してエンジントルクを高めている状態においては、アトキンソンサイクル運転状態を維持して高負荷にて運転するか、または通常運転状態に変更して低負荷にて運転するかを決定して、高効率な運転を行うことが可能となり、結果として加速感を損なうことなく燃費向上を図ることが可能となる。
【0044】
図9は、本実施形態の駆動力制御が行われた場合の効果を説明するためのタイムチャートである。同図において、(A)はアクセル開度、(B)はエンジントルク、(C)はエンジン回転速度、(D)は燃料消費率、(E)はVVT進角量の推移の一例を示している。
【0045】
同図において、t0〜t1の定常運転状態では、アトキンソンサイクル運転の方が通常運転よりも燃料消費率が小さいので、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行う。また、アクセルが踏み込まれても、t1〜t2間では、アトキンソンサイクル運転の方が通常運転よりも燃料消費率が小さいので、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行う。t2〜t3では、通常運転の方がアトキンソンサイクル運転よりも燃料消費率が小さいので、通常運転(VVT進角)を行う。この後、t3〜t4では、アトキンソンサイクル運転の方が通常運転よりも燃料消費率が小さくなるので、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行う。
【0046】
以上説明したように、実施の形態1によれば、アトキンソンサイクル運転時(VVT遅角)および通常運転時(VVT進角)で燃料消費率を算出し、アトキンソンサイクル運転時の燃料消費率と、通常運転時の燃料消費率とを比較して、燃料消費率が小さい運転状態を選択し、選択された運転状態のエンジン回転速度となるように無段変速機2の変速比を制御することとしたので、吸気バルブの動作状態によらずに、燃費を向上させることが可能となる。
【0047】
(実施の形態2)
実施の形態1では、アトキンソンサイクル運転状態と通常運転状態における最も燃費率の良い動作点をそれぞれ算出して、アトキンソンサイクル運転と通常運転の燃料消費率を比較して、燃料消費率の低い方を選択して、吸気バルブ34の開閉タイミングおよび無段変速機2の変速比を決定している。しかるに、アトキンソンサイクル運転状態から通常運転状態へ移行する条件において、目標回転速度が相対的に低下する条件が存在するが、これが加速中に生じると、車速が上昇しているにも拘わらず、エンジン回転速度が低下することになるため加速感を損なう。そこで、実施の形態2では、アトキンソンサイクル運転状態から通常運転状態へ移行する条件に合致した場合は、現在のエンジン回転速度とエンジン運転状態移行後の目標エンジン回転速度との差からエンジン運転状態の移行を判断して、エンジン回転速度の低下を回避し、加速感が損なわれることを防止する。
【0048】
図10は、上記駆動力制御装置5の実施の形態2に係る制御を説明するためのフローチャートである。図10において、図8と同様の処理を行うステップには、同一のステップ番号を付して、共通する部分の説明を省略する。
【0049】
図10のステップS9では、目標制御量算出部8は、燃料消費率τa>燃料消費率τbであるか否かを判定する(ステップS9)。燃料消費率τa>燃料消費率τbでない場合には(ステップS9の「No」)、ステップS13に移行する一方、燃料消費率τa>燃料消費率τbである場合には(ステップS9の「Yes」)、目標エンジン回転速度を定常運転目標エンジン回転速度Netag−bとし(ステップS10)、現在エンジン回転速度Nein−目標エンジン回転速度Netag−b>αであるか否かを判断する(ステップS20)。現在エンジン回転速度Nein−目標エンジン回転速度Netag−b>αでない場合には(ステップS20の「No」)、ステップS13に移行する一方、現在エンジン回転速度Nein−目標エンジン回転速度Netag−b>αである場合には(ステップS20の「Yes」)、制御部9は、通常運転(VVTを進角)を行うと共に(ステップS11)、通常運転に応じた変速制御を行う(ステップS12)。
【0050】
ステップS13では、目標エンジン回転速度を目標エンジン回転速度Netag−aとし(ステップS13)、制御部9は、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行うと共に(ステップS14)、アトキンソンサイクル運転に応じた変速制御を行う(ステップS12)。
【0051】
図11は、本実施形態の駆動力制御が行われた場合の効果を説明するためのタイムチャートである。同図において、(A)はアクセル開度、(B)はエンジントルク、(C)はエンジン回転速度、(D)は燃料消費率、(E)はVVT進角量の推移の一例を示している。
【0052】
同図において、t0〜t1の定常運転状態では、アトキンソンサイクル運転の方が通常運転よりも燃料消費率が小さいので、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行う。また、アクセルが踏み込まれても、t1〜t2間では、アトキンソンサイクル運転の方が通常運転よりも燃料消費率が小さいので、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行う。t2〜t3では、通常運転の方がアトキンソンサイクル運転よりも燃料消費率が小さいので、通常運転(VVT進角)を行う。この後、t3〜t5では、アトキンソンサイクル運転の方が通常運転よりも燃料消費率が小さくなるので、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)を行う。
【0053】
t5では、通常運転の方がアトキンソンサイクル運転よりも燃料消費率が小さくなるので、アトキンソンサイクル運転(VVT遅角)から通常運転に切り替えた方が、燃費がよくなるが、エンジン回転速度が低下してしまうため、アトキンソンサイクル運転を継続する。
【0054】
以上説明したように、実施の形態2によれば、燃料消費率の比較結果から遅角運転から進角運転への移行条件が成立する際、運転状態の移行によって、目標エンジン回転速度が現在エンジン回転速度よりも相対的に低下する場合は、遅角運転から進角運転へ移行しないこととしたので、ドライバの加速要求に対しては良好な加速を保ち、それ以外の場合では燃費向上を図ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る駆動力制御装置は、吸気バルブの動作状態によらずに、燃費を向上させる場合に有用であり、各種車両で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態1に係る駆動力制御装置を適用した車両の駆動系の概略構成を示す図である。
【図2】アクセル開度および車速と目標駆動力との対応関係を示す図である。
【図3】目標パワーと目標制御量との対応関係を示す図である。
【図4】アトキンソンサイクル運転用燃費マップと、通常運転用燃費マップを説明するための図である。
【図5】アトキンソンサイクル運転および通常運転の動作点の遷移の一例を説明するための図である。
【図6】エンジンの概略構成を示す図である。
【図7】アトキンソンサイクル運転および通常運転の吸気バルブの開閉タイミングの一例を示す図である。
【図8】駆動力制御装置の実施の形態1に係る駆動力制御を説明するためのフローチャートである。
【図9】実施の形態1に係る駆動力制御が行われた場合の効果を説明するためのタイムチャートである。
【図10】駆動力制御装置の実施の形態2に係る制御を説明するためのフローチャートである。
【図11】実施の形態2に係る駆動力制御が行われた場合の効果を説明するためのタイムチャートである。
【符号の説明】
【0057】
1 エンジン
2 無段変速機
3 アクセル開度検出手段
4 車速検出手段
5 駆動力制御装置
6 目標駆動力算出部
7 目標出力算出部
8 目標制御量算出部
9 制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気バルブの開閉タイミングを変更可能な内燃機関に、無段変速機が連結された車両の駆動力制御装置において、
前記吸気バルブの遅角運転時の燃料消費率を算出する第1の燃料消費率算出手段と、
前記吸気バルブの進角運転時の燃料消費率を算出する第2の燃料消費率算出手段と、
前記算出された吸気バルブの遅角運転時の燃料消費率と、前記算出された吸気バルブの進角運転時の燃料消費率とを比較して、燃料消費率が小さい運転状態を選択し、前記無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、
を備えたことを特徴とする駆動力制御装置。
【請求項2】
前記変速比制御手段は、燃料消費率の比較結果から遅角運転から進角運転への移行条件が成立する場合、運転状態の移行によって、目標エンジン回転速度が現在エンジン回転速度よりも相対的に低下する場合は、遅角運転から進角運転へ移行しないことを特徴とする請求項1に記載の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記吸気バルブの遅角運転は、アトキンソンサイクル運転であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の駆動力制御装置。
【請求項1】
吸気バルブの開閉タイミングを変更可能な内燃機関に、無段変速機が連結された車両の駆動力制御装置において、
前記吸気バルブの遅角運転時の燃料消費率を算出する第1の燃料消費率算出手段と、
前記吸気バルブの進角運転時の燃料消費率を算出する第2の燃料消費率算出手段と、
前記算出された吸気バルブの遅角運転時の燃料消費率と、前記算出された吸気バルブの進角運転時の燃料消費率とを比較して、燃料消費率が小さい運転状態を選択し、前記無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、
を備えたことを特徴とする駆動力制御装置。
【請求項2】
前記変速比制御手段は、燃料消費率の比較結果から遅角運転から進角運転への移行条件が成立する場合、運転状態の移行によって、目標エンジン回転速度が現在エンジン回転速度よりも相対的に低下する場合は、遅角運転から進角運転へ移行しないことを特徴とする請求項1に記載の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記吸気バルブの遅角運転は、アトキンソンサイクル運転であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の駆動力制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−47128(P2010−47128A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213334(P2008−213334)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]