説明

駆動力配分装置及び駆動力配分装置の制御方法

【課題】正確に温度推定して駆動力伝達部材が過熱することを防止できる駆動力配分装置及び駆動力配分装置の制御方法を提供する。
【解決手段】温度推定部37は、エンジンの温度を検出する水温センサにて検出されたエンジン水温T_engに基づいて、エンジンからの熱伝達量W_engを演算する熱伝達量演算部42と、熱伝達量W_engを考慮してトランスファ油温T_ptuを演算する温度演算部48とを備えた。そして、ECUは、温度推定部37で推定(演算)したトランスファ油温T_ptuが所定温度以上である場合には、トランスファ油温T_ptuが所定温度未満の場合よりも、指令トルクT*の目標値を小さく補正し、補正指令トルクに応じた駆動電流をトルクカップリングに供給するようした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク伝達容量を変更可能なトルクカップリングを備えた駆動力配分装置及駆動力配分装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのトルクを各車輪に伝達する駆動伝達系内に設けられ、クラッチ機構の係合力に基づいて、その伝達可能なトルク容量、即ちトルク伝達容量を変更可能なトルクカップリングを備えた駆動力配分装置がある。このようなトルクカップリングとして、円筒状の第1回転部材と、該第1回転部材内に回転可能に同軸配置された軸状の第2回転部材とを備え、これら第1回転部材と第2回転部材との間に設けられたクラッチ機構により第1回転部材及び第2回転部材をトルク伝達可能に連結するトルクカップリングが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、トランスファ等の駆動伝達系に設けられた駆動力伝達部材は、例えばトルク伝達の際に生じる伝達ロス分が熱に変換されて発熱する。そのため、車両の走行状況等によっては過熱状態となる虞があり、ひいては、焼き付きの発生に繋がるという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献2には、トルク伝達に伴う駆動力伝達部材での発熱量及びその雰囲気温度に基づいて該駆動力伝達部材の温度を推定するようにした駆動力配分装置が開示されている。そして、この駆動力配分装置では、推定した温度が所定温度以上の場合には、該推定した温度が所定温度未満の場合よりも、トルク伝達容量の制御目標値を小さくなるように補正することで、各駆動力伝達部材にてトルク伝達に伴う発熱を抑え、過熱状態になることを防止している。
【特許文献1】特開2005−3167号公報
【特許文献2】特許3988405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、各駆動力伝達部材の温度は、トルク伝達に伴う発熱や外気との熱交換以外の他の要因(例えば隣接する部材からの熱伝達等)によっても変化する。そのため、上記特許文献2の構成では、車両に搭載された各部材の温度等によっては、必ずしも駆動力伝達部材の温度を正確に推定することができているとはいえず、この点においてなお改善の余地があった。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、正確に温度推定して駆動力伝達部材が過熱することを防止できる駆動力配分装置及び駆動力配分装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、駆動源のトルクを各車輪に伝達する駆動伝達系内に設けられクラッチ機構の係合力に基づいてトルク伝達容量を変更可能なトルクカップリングと、前記係合力の調整を通じて前記トルクカップリングの作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段がトルク伝達容量を変更することで前記駆動伝達系内に設けられた駆動力伝達部材が前記各車輪に伝達するトルクを変更させる駆動力配分装置であって、車両に搭載された発熱源の温度を検出する発熱源温度検出手段にて検出された前記発熱源の検出温度に基づいて、前記発熱源からの熱伝達量を演算する熱伝達量演算手段と、前記熱伝達量を考慮して前記駆動力伝達部材の温度を推定する駆動力伝達部材温度推定手段とを備え、前記制御手段は、前記駆動力伝達部材温度推定手段で推定した前記駆動力伝達部材の推定温度が所定温度以上である場合には、前記推定温度が前記所定温度未満の場合よりも前記トルク伝達容量の制御目標値を小さくすることを要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、駆動力伝達部材温度推定手段により、発熱源からの熱伝達量を考慮して駆動力伝達部材の温度が推定される。そのため、車両に搭載された発熱源の温度に応じて、正確に駆動力伝達部材の温度を推定することが可能になり、該駆動力伝達部材が過熱することを防止できる。なお、所定温度とは、駆動力伝達部材が過熱し、焼き付きの発生に繋がる温度よりも、十分に小さい温度である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の駆動力配分装置において、前記熱伝達量演算手段は、前記発熱源の定常状態における定常温度と前記検出温度との偏差に基づいて前記熱伝達量を演算することを要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、発熱源の定常温度と検出温度との偏差に基づいて熱伝達量を演算するため、発熱源の検出温度が定常温度よりも低い場合には、発熱源からの熱伝達量が負の値となる。従って、駆動力伝達部材の温度下降(冷却)も含めてその温度を推定することができ、より正確な温度推定が可能になる。なお、定常状態とは、例えば車両に2名乗車した状態で平坦路を走行する状態であり、定常温度は定常状態で安定する発熱源の温度である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の駆動力配分装置において、前記駆動力伝達部材温度推定手段は、前記熱伝達量による前記駆動力伝達部材の温度変化を車速の増大に基づいて小さく推定することを要旨とする。
【0012】
車速の増大により、駆動力伝達部材の温度変化に対する該駆動力伝達部材と外気との間での熱交換の割合が大きくなるため、発熱源からの熱伝達量等の影響は小さくなる。この点、上記構成によれば、車速の増大により、発熱源からの熱伝達量による駆動力伝達部材の温度変化を小さく推定するため、車速に応じて適切な駆動力伝達部材の温度を推定することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のうちの何れか一項に記載の駆動力配分装置において、前記発熱源は、前記駆動源及び該駆動源の回転を変速して出力する変速機のうちの少なくとも一方を含み、前記駆動力伝達部材は、前記変速機の出力を、前記変速機の出力が常時伝達される主駆動輪側及び前記車両の状態に応じて必要時に前記変速機の出力が伝達される補助駆動輪側に配分するトランスファであることを要旨とする。
【0014】
他の車両を牽引して走行する車両牽引走行時や、登坂走行が長時間継続する場合などには、駆動源の負荷が大きくなるため、駆動源から空気や変速機を介してトランスファへ伝達される熱伝達量が大きくなる。つまり、トランスファの温度が、該トランスファでのトルク伝達に伴う発熱や外気との熱交換以外の要因により大きく変化するため、上記従来の構成(特許文献2)では、トランスファの温度を正確に推定できなくなる虞がある。この点、上記構成によれば、トランスファの温度を推定する際に、駆動源及び変速機のうちの少なくとも一方からの熱伝達量が含まれるため、同トランスファの温度を正確に推定することができる。この結果、車両牽引走行などを行う場合でも、トランスファの過熱を確実に防止することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、駆動源のトルクを各車輪に伝達する駆動伝達系内に設けられクラッチ機構の係合力に基づいてトルク伝達容量を変更可能なトルクカップリングと、前記係合力の調整を通じて前記トルクカップリングの作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段がトルク伝達容量を変更することで前記駆動伝達系内に設けられた駆動力伝達部材が前記各車輪に伝達するトルクを変更させる駆動力配分装置の制御方法であって、車両に搭載された発熱源の温度に基づいて該発熱源からの熱伝達量を演算し、前記熱伝達量を考慮して該駆動力伝達部材の温度を推定して、推定温度が所定温度以上である場合には、前記推定温度が前記所定温度未満の場合よりも前記トルク伝達容量の制御目標値を小さくするようにしたことを要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、車両に搭載された発熱源の温度に応じて、正確に駆動力伝達部材の温度を推定することが可能になり、該駆動力伝達部材が過熱することを防止できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、正確に温度推定して駆動力伝達部材が過熱することを防止可能な駆動力配分装置及び駆動力配分装置の制御方法を提供ことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、車両1は、前輪駆動車をベースとする4輪駆動車である。車両1の前部(図1において左側)には駆動源としてのエンジン2が搭載されるとともに、そのエンジン2には変速機としてのトランスミッション3が組み付けられている。トランスミッション3には、トランスファ4が組み付けられるとともに、トランスファ4には、第1プロペラシャフト5及び第2プロペラシャフト6が連結されている。第1プロペラシャフト5は、フロントディファレンシャル7を介して一対のフロントアクスル8に連結され、各フロントアクスル8には、前輪10fが連結されている。また、第2プロペラシャフト6は、トルクカップリング11を介してピニオンシャフト(ドライブピニオンシャフト)12と連結可能となっている。そして、ピニオンシャフト12は、リヤディファレンシャル13を介して一対のリヤアクスル14に連結され、各リヤアクスル14には、後輪10rが連結されている。なお、トルクカップリング11は、リヤディファレンシャル13とともに、デフキャリヤ15内に収容されている。
【0019】
トランスファ4は、トランスミッション3を介して伝達されたエンジン2のトルクを第1プロペラシャフト5(前輪10f側)と第2プロペラシャフト6(後輪10r側)とに配分する。従って、エンジン2のトルクは、先ずトランスミッション3を介してトランスファ4に伝達される。そして、トランスファ4から第1プロペラシャフト5、フロントディファレンシャル7及びフロントアクスル8を介して前輪10fに伝達されるとともに、第2プロペラシャフト6、トルクカップリング11、ピニオンシャフト12、リヤディファレンシャル13及び各リヤアクスル14を介して後輪10rに伝達されるようになっている。
【0020】
従って、本実施形態では、トランスミッション3、駆動力伝達部材としてのトランスファ4、第1及び第2プロペラシャフト5,6、フロントディファレンシャル7、フロントアクスル8、トルクカップリング11、ピニオンシャフト12、リヤディファレンシャル13及びリヤアクスル14により、エンジン2のトルクを前輪10f及び後輪10rに伝達する駆動伝達系が構成されている。
【0021】
トルクカップリング11は、電磁コイルに供給される電流量に応じてその摩擦係合力が変化する電磁クラッチ16を備えており、該電磁クラッチ16の摩擦系合力に基づいて後輪10rに伝達可能なトルク容量、即ちトルク伝達容量を変更可能に構成されている。そして、トルク伝達容量を変更することで、トルクカップリング11は主駆動輪である前輪10fと補助駆動輪である後輪10rとの間の駆動力配分を変更するようになっている。
【0022】
トルクカップリング11(電磁クラッチ16)には、制御手段としてのECU(電子制御装置)17が電気的に接続されている。ECU17には、ROM等のメモリ18が設けられている。そして、ECU17は、車両1の走行状態に応じてトルクカップリング11(電磁クラッチ16)に駆動電流を供給し、この電流供給を通じて、即ち電磁クラッチ16の摩擦係合力の調整を通じてトルクカップリング11の作動を制御することにより、トルク伝達容量を制御する。つまり、トルクカップリング11及びECU17により駆動力配分装置19が構成されている。
【0023】
次に、ECU17の電気的構成について説明する。
ECU17には、アクセル開度センサ21及び車輪速センサ22f,22rが接続されている。ECU17には、アクセル開度センサ21からその時々のアクセル開度Saが入力され、各車輪速センサ22f,22rからそれぞれその時々の前輪車輪速Vf及び後輪車輪速Vrが入力される。
【0024】
また、ECU17には、エンジン2のラジエータ(図示略)に設けられた発熱源温度検出手段としての水温センサ23及び外気温センサ24が接続されている。そして、ECU17には、水温センサ23からその時々のエンジン水温T_engが入力され、外気温センサ24からそれぞれその時々の外気温T_ambが入力される。
【0025】
ECU17は、各車輪速センサ22f,22rにより測定された前輪車輪速Vf及び後輪車輪速Vrに基づき、車速V及び前輪10fと後輪10rとの間の車輪速差ΔWを算出し、これら算出した車速V及び車輪速差ΔW、並びにアクセル開度Saに基づいて指令トルクを演算する。
【0026】
そして、ECU17は、この演算した指令トルクをトランスファ4の温度(トランスファ油温T_ptu)に応じて補正し、補正後の指令トルクに基づいてトルクカップリング11に駆動電流Iを供給するようになっている。
【0027】
詳述すると、図2に示すように、ECU17は、各車輪速センサ22f,22rから入力した前輪車輪速Vf及び後輪車輪速Vrを、車速演算部31及び前後車輪速差演算部32に入力する。車速演算部31は、前輪車輪速Vf及び後輪車輪速Vrに基づいてその時々の車速Vを演算し、指令トルク演算部34に出力する。また、前後車輪速差演算部32は、前輪車輪速Vf及び後輪車輪速Vrに基づいてその時々の前輪10fと後輪10rとの間の車輪速差ΔWを演算し、指令トルク演算部34に出力する。
【0028】
指令トルク演算部34には、車速V及び車輪速差ΔWとともに、アクセル開度センサ21からアクセル開度Saが入力される。そして、指令トルク演算部34は、これら車速V,車輪速差ΔW及びアクセル開度Saに基づいて指令トルクT*を演算する。
【0029】
具体的には、指令トルク演算部34は、メモリ18に記憶された所定のマップを参照することにより、車速V及び車輪速差ΔWに基づいた第1トルクと、車速及びアクセル開度Saに基づいた第2トルクとを演算する。続いて、指令トルク演算部34は、これら第1トルクと第2トルクとを足し合わせることで指令トルクT*を演算する。そして、指令トルク演算部34は、演算した指令トルクT*をトルク補正部35に出力する。
【0030】
トルク補正部35は、トランスファ4の温度を推定する駆動力伝達部材温度推定手段としての温度推定部37と、温度推定部37にて推定された推定温度としてのトランスファ油温T_ptuに基づいて補正係数αを演算する補正係数演算部38と、補正係数演算部38にて演算された補正係数αを指令トルクT*に乗算する乗算器39とを備えている。
【0031】
温度推定部37には、各車輪速センサ22f,22rにより測定された前輪車輪速Vf、水温センサ23により測定されたエンジン水温T_eng、及び外気温センサ24により測定された外気温T_ambが入力される。また、温度推定部37には、車速演算部31にて演算された車速V及び指令トルク演算部34にて演算された指令トルクT*が入力される。そして、温度推定部37は、前輪車輪速Vf、エンジン水温T_eng、外気温T_amb、車速V及び指令トルクT*に基づいてトランスファ油温T_ptuを演算する。
【0032】
詳述すると、図3に示すように、温度推定部37は、仕事量演算部41と、熱伝達量演算手段としての熱伝達量演算部42とを備えている。
仕事量演算部41には、前輪車輪速Vf及び指令トルクT*が入力される。そして、仕事量演算部41は、前輪車輪速Vfと指令トルクT*とを乗算器43にて乗算することで、トルク伝達にかかるトランスファ4での仕事量W_ptuを演算し、加算器44に出力する。
【0033】
熱伝達量演算部42は、偏差演算部46と、変換部47とを備えており、偏差演算部46には、エンジン水温T_engが入力される。偏差演算部46は、エンジン水温T_engと定常状態におけるエンジン水温T_eng0との偏差ε1(=T_eng−T_eng0)を演算し、変換部47に出力する。そして、変換部47では、偏差演算部46から出力された偏差ε1に対して係数K11を乗ずることでエンジン2からの熱伝達量W_engを演算し、加算器44に出力する。なお、係数K11は、偏差ε1をエンジン2からの熱伝達量W_engに変換するための係数である。
【0034】
なお、本実施形態では、定常状態とは、車両1に2名乗車した状態で平坦路を走行する状態であり、エンジン水温T_eng0は定常状態で安定するエンジン水温T_engである。この定常状態でのエンジン水温T_eng0は、予め実験などにより求められており、ECU17内のメモリ18に記憶されている。
【0035】
そして、加算器44は、トランスファ4での仕事量W_ptu及びエンジン2からの熱伝達量W_engを加算して温度演算部48に出力する。温度演算部48には、仕事量W_ptu及び熱伝達量W_engに加え、外気温T_amb及び車速Vが入力される。本実施形態では、温度演算部48は、下記(1)式を演算することにより、トランスファ油温T_ptuを演算する。
【0036】
【数1】

ここで、(1)式における右辺の第1項は、エンジン2からの熱伝達量W_eng及びトランスファ4での仕事量W_ptuを入力とした熱伝達モデルを用いて推定されるトランスファ4の温度変化量である。但し、「K2」は車速Vがパラメータとなるトランスファ4の冷却効率を示す係数であり、図4に示すように、車速Vが大きくなるほど、小さな値となるようになっている。また、「Tf」は時定数であって、トランスファ4の熱容量、及びトランスファ4と外部(エンジン2や外気など)との熱抵抗により適宜決定される。なお、「s」はラプラス演算子である。
【0037】
また、「K3」は、エンジン水温T_engが定常状態のエンジン水温T_eng0、指令トルクT*が「0」、外気温T_ambが基準温度T_amb0(例えば27℃)である状態におけるトランスファ4の温度から前記基準温度T_amb0をオフセット(差分)した値である。「K3」の値は、予め実験などにより求められており、メモリ18に記憶されている。
【0038】
そして、温度演算部48は、上記(1)式に基づいて演算したトランスファ油温T_ptuを補正係数演算部38に出力する。つまり、温度推定部37では、トランスファ4のトルク伝達(W_ptu)に伴う発熱量に加え、エンジン水温T_engに基づいて演算される熱伝達量W_engによるトランスファ4の温度変化を含んで、トランスファ油温T_ptuを推定(演算)し、補正係数演算部38に出力する。従って、トランスファ油温T_ptuは、正確に推定演算されて、補正係数演算部38に出力されることになる。
【0039】
図2に示すように、補正係数演算部38は、温度推定部37にて推定されたトランスファ油温T_ptuに基づいて補正係数αを演算する。本実施形態では、補正係数演算部38は、温度推定部37にて推定されたトランスファ油温T_ptuが所定温度Tth以上である場合には、後輪10rに配分されるトルクが指令トルクT*よりも小さくなるような補正係数α(本実施形態では、「0」)を乗算器39出力する。一方、補正係数演算部38は、T_ptuが所定温度Tth未満である場合には、補正係数αとして「1」を乗算器39に出力する。
【0040】
なお、所定温度Tthとは、トランスファ4が過熱し、焼き付きの発生に繋がる温度よりも、十分に小さい温度であり、予め実験などにより求められてメモリ18に記憶されている。
【0041】
乗算器39は、指令トルク演算部34で演算した指令トルクT*と補正係数演算部38で演算した補正係数αを乗算した演算結果を補正指令トルクT**として出力する。
つまり、トルク補正部35(乗算器39)は、トランスファ油温T_ptuが所定温度Tth以上である場合には、指令トルクT*よりも小さい値の補正指令トルクT**(=0)を指令電流値演算部51に出力する。一方、トルク補正部35は、トランスファ油温T_ptuが所定温度Tth未満である場合には、指令トルクT*と同じ値の補正指令トルクT**(=T*)を指令電流値演算部51に出力する。
【0042】
指令電流値演算部51は、電磁クラッチ16に供給する駆動電流と後輪10rに伝達するトルクとの関係を記憶したI−T特性マップに、補正指令トルクT**を照らし合わせることで指令電流値I*を演算する。なお、I−T特性マップは、メモリ18に記憶されており、補正指令トルクT**の絶対値が大きくなる程、指令電流値I*が大きくなるように設定されている。そして、指令電流値演算部51は、演算した指令電流値I*を減算器52に出力する。
【0043】
減算器52は、指令トルク演算部34により演算された指令電流値I*を入力するとともに、電磁クラッチ16に供給される電流を検出する電流センサ53により検出された駆動電流Iを入力する。減算器52は、指令電流値I*と駆動電流Iとの電流偏差ΔI(=I*−I)を演算する。減算器52は、演算した電流偏差ΔIをF/B(フィードバック)制御演算部54に出力する。
【0044】
F/B制御演算部54は、入力された電流偏差ΔIに基づいてフィードバック制御量を演算し、駆動信号出力部55に出力する。駆動信号出力部55は、このフィードバック制御量に応じて所定のデューティー(DUTY)比を有するパルス信号を駆動信号として駆動回路56に出力する。そして、駆動回路56は、駆動信号に応じた電流をトルクカップリング11に供給することで、検出される駆動電流Iを指令電流値I*に追従させるようになっている。これにより、後輪10rには、補正指令トルクT**に応じたトルクが伝達される。
【0045】
このように、駆動力配分装置19は、温度推定部37において、トランスファ4でのトルク伝達に伴う仕事量W_ptuに伴う発熱量に加え、エンジン水温T_engに基づいて演算される熱伝達量W_engによる温度変化を考慮してトランスファ油温T_ptuを推定(演算)した。そして、駆動力配分装置19は、演算したトランスファ油温T_ptuが所定温度Tth以上である場合には、トランスファ油温T_ptuが所定温度Tth未満の場合よりも、後輪10rに配分されるトルクを小さくするようにした。このように、正確にトランスファ油温T_ptuを推定したことで、トランスファ4にてトルク伝達に伴う発熱を抑え、トランスファ4が過熱状態になることを未然に防止している。
【0046】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)温度推定部37は、エンジン2の温度を検出する水温センサ23にて検出されたエンジン水温T_engに基づいて、エンジン2からの熱伝達量W_engを演算する熱伝達量演算部42と、熱伝達量W_engを考慮してトランスファ油温T_ptuを演算する温度演算部48とを備えた。そして、ECU17は、温度推定部37で推定したトランスファ油温T_ptuが所定温度Tth以上である場合には、トランスファ油温T_ptuが所定温度Tth未満の場合よりも、指令トルクT*の目標値を小さく補正し、補正指令トルクT**に応じた駆動電流Iをトルクカップリング11に供給するようした。そのため、車両1に搭載されたエンジン2のその時々の温度も考慮して、正確にトランスファ4の温度を推定することが可能になり、該トランスファ4が過熱することを未然に防止できる。
【0047】
(2)熱伝達量演算部42は、エンジン2の定常状態におけるエンジン水温T_eng0と水温センサ23により検出されたエンジン水温T_engとの偏差ε1に係数K11を乗ずることで、熱伝達量W_engを演算するようにした。そのため、エンジン水温T_engが定常状態のエンジン水温T_eng0よりも低い場合には、エンジン2からの熱伝達量W_engが負の値となる。従って、トランスファ4の温度下降(冷却)も含めてその温度を推定することができ、より正確な温度推定が可能になる。
【0048】
(3)温度演算部48は、上記(1)式における「K2」を、車速Vが大きくなるほど小さな値となるようにし、熱伝達量W_eng及び仕事量W_ptuによるトランスファ4の温度変化を車速Vの増大に基づいて小さくなるようにした。
【0049】
ここで、車速Vの増大により、トランスファ4の温度変化に対するトランスファ4と外気と間での熱交換の割合が大きくなるため、エンジン2からの熱伝達量W_engやトランスファでの仕事量W_ptuの影響は小さくなる。この点、本実施形態によれば、車速Vの増大により、熱伝達量W_eng及び仕事量W_ptuによるトランスファ4の温度変化を小さく推定するため、車速Vに応じて適切なトランスファ油温T_ptuを推定することができる。
【0050】
(4)エンジン2の熱伝達量を考慮してトランスファ油温T_ptuを推定するようした。
ここで、車両1が他の車両を牽引して走行する車両牽引走行時や、登坂走行が長時間継続する場合などには、エンジン2の負荷が大きくなるため、エンジン2から空気やトランスミッション3を介してトランスファ4へ伝達される熱伝達量が大きくなる。つまり、トランスファ4の温度が、該トランスファ4でのトルク伝達に伴う発熱や外気との熱交換以外の要因により大きく変化することから、上記従来の構成(特許文献2)では、トランスファ油温T_ptuを正確に推定できなくなる虞がある。この点、本実施形態によれば、トランスファ油温T_ptuを推定する際に、エンジン2からの熱伝達量が含まれるため、同トランスファ4の温度を正確に推定することができる。この結果、車両1が車両牽引走行などを行う場合でも、トランスファ4の過熱を確実に防止することができる。
【0051】
なお、本実施形態は、以下の態様で実施してもよい。
・上記実施形態では、エンジン2のみを発熱源としたが、これに限らず、トランスミッション3のみを発熱源としてもよい。具体的には、図5に示すように、熱伝達量演算部61は、偏差演算部62でトランスミッション油温T_trmと定常状態のトランスミッション油温T_trm0との偏差ε2(=T_trm−T_trm0)を演算し、変換器63で係数K12を乗ずることで、トランスミッション3からの熱伝達量W_trmを演算し、温度演算部48に出力する。なお、係数K12は、偏差ε2をトランスミッション3からの熱伝達量W_trmに変換するための係数である。そして、上記実施形態と同様に、温度演算部48で、下記(2)式を演算することにより、トランスファ油温T_ptuを演算する。
【0052】
【数2】

ここで、(2)式における右辺の第1項は、トランスミッション3からの熱伝達量W_trm及びトランスファ4での仕事量W_ptuを入力とした熱伝達モデルを用いて推定されるトランスファ4の温度変化量である。但し、「K2」、「Tf」及び[s]は、上記実施形態と同様の係数であり、トランスファ4の熱容量等に応じて適宜決定される。
【0053】
また、エンジン2及びトランスミッション3を発熱源としてもよい。具体的には、図6に示すように、熱伝達量演算部64は、偏差演算部65でエンジン水温T_engと定常状態のエンジン水温T_eng0との偏差ε1を算出し、変換器66で係数K11を乗ずることで、エンジン2からの熱伝達量W_engを演算し、温度演算部48に出力する。また、熱伝達量演算部67は、偏差演算部68でトランスミッション油温T_trmと定常状態のトランスミッション油温T_trm0との偏差ε2を算出し、変換器69で係数K12を乗ずることで、トランスミッション3からの熱伝達量W_trmを演算し、温度演算部48に出力する。そして、上記実施形態と同様に、温度演算部48で、下記(3)式に示す演算式により、トランスファ油温T_ptuを演算する。
【0054】
【数3】

ここで、(3)式における右辺の第1項は、エンジン2からの熱伝達量W_eng、トランスミッションからの熱伝達量W_trm及びトランスファ4での仕事量W_ptuを入力とした熱伝達モデルを用いて推定されるトランスファ4の温度変化量である。但し、「K2」、「Tf」及び[s]は、上記実施形態と同様の係数であり、トランスファ4の熱容量等に応じて適宜決定される。
【0055】
・上記実施形態では、エンジン2を発熱源とし、トランスファ4を駆動力伝達部材としたが、これに限らない。例えば、リヤディファレンシャル13を発熱源とし、トルクカップリング11を温度推定する駆動力伝達部材としてもよい。上記実施形態のように、トルクカップリング11及びリヤディファレンシャル13がデフキャリヤ15内に配置される構成では、リヤディファレンシャル13からトルクカップリング11に伝達される熱伝達量が大きくなる。そのため、リヤディファレンシャル13からの熱伝達量に基づいてトルクカップリング11の温度を推定することで、正確にその温度推定を行うことができる。
【0056】
・上記実施形態では、水温センサ23により測定されたエンジン水温T_engに基づいてエンジン2からの熱伝達量を演算したが、これに限らず、エンジン2の温度をその他のセンサにより測定してもよく、また、エンジン2の温度を所定の演算式により推定するようにしてもよい。
【0057】
・上記実施形態では、熱伝達量演算部42は、定常状態のエンジン水温T_eng0と水温センサ23により検出されたエンジン水温T_engとの偏差ε1に係数K11を乗ずることで、熱伝達量W_engを演算するようにしたが、これに限らない。例えば、検出されたエンジン水温T_engに係数K11を乗ずることで、熱伝達量W_engを演算するようにしもよい。
【0058】
・上記実施形態では、上記(1)式における係数K2を、車速Vが大きくなるほど小さな値となるようにし、熱伝達量W_eng及び仕事量W_ptuによるトランスファ4の温度変化を車速Vの増大に基づいて小さくなるようにしたが、これに限らず、係数K2は一定としてもよい。
【0059】
・上記実施形態では、定常状態を車両1に2名乗車した状態で平坦路を走行する状態としたが、これに限らず、例えば1名乗車でもよく、その他どのような走行状態であってもよい。
【0060】
・上記実施形態では、トルクカップリング11のクラッチ機構には、電磁式の摩擦クラッチである電磁クラッチ16を用いることとした。しかし、これに限らず、油圧式のクラッチ機構を用いるもの、或いは摩擦クラッチ以外のクラッチ機構を用いるものに適用してもよい。
【0061】
・上記実施形態では、トルクカップリング11は、第2プロペラシャフト6とリヤディファレンシャル13との間に介在されることとしたが、駆動伝達系を構成するその他の箇所、例えばリヤディファレンシャル13と後輪10rとの間等に配置してもよい。
【0062】
・上記実施形態では、前輪10fを主駆動輪とする車両1に駆動力配分装置19を搭載したが、これに限らず、後輪10rを主駆動輪とする車両に搭載してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】駆動力配分装置を備えた車両の概略構成図。
【図2】駆動力配分装置のブロック図。
【図3】温度推定部のブロック図。
【図4】係数K2と車速との関係を示す波形図。
【図5】別の温度推定部のブロック図。
【図6】別の温度推定部のブロック図。
【符号の説明】
【0064】
1…車両、2…エンジン、3…トランスミッション、4…トランスファ、10f…前輪、10r…後輪、11…トルクカップリング、16…電磁クラッチ、17…ECU、19…駆動力配分装置、37…温度推定部、41…水温センサ、42,61,64,67…熱伝達量演算部、K2…係数、T_eng…エンジン水温、T_eng0…定常状態のエンジン水温、T_ptu…トランスファ油温、T_trm…トランスミッション油温、T_trm0…定常状態のトランスミッション油温、T*…指令トルク、V…車速、W_eng,W_trm…熱伝達量、ε1,ε2…偏差。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源のトルクを各車輪に伝達する駆動伝達系内に設けられクラッチ機構の係合力に基づいてトルク伝達容量を変更可能なトルクカップリングと、前記係合力の調整を通じて前記トルクカップリングの作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段がトルク伝達容量を変更することで前記駆動伝達系内に設けられた駆動力伝達部材が前記各車輪に伝達するトルクを変更させる駆動力配分装置であって、
車両に搭載された発熱源の温度を検出する発熱源温度検出手段にて検出された前記発熱源の検出温度に基づいて、前記発熱源からの熱伝達量を演算する熱伝達量演算手段と、
前記熱伝達量を考慮して前記駆動力伝達部材の温度を推定する駆動力伝達部材温度推定手段とを備え、
前記制御手段は、前記駆動力伝達部材温度推定手段で推定した前記駆動力伝達部材の推定温度が所定温度以上である場合には、前記推定温度が前記所定温度未満の場合よりも前記トルク伝達容量の制御目標値を小さくすることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項2】
前記熱伝達量演算手段は、前記発熱源の定常状態における定常温度と前記検出温度との偏差に基づいて前記熱伝達量を演算することを特徴とする請求項1に記載の駆動力配分装置。
【請求項3】
前記駆動力伝達部材温度推定手段は、前記熱伝達量による前記駆動力伝達部材の温度変化を車速の増大に基づいて小さく推定することを特徴とする請求項1又は2に記載の駆動力配分装置。
【請求項4】
前記発熱源は、前記駆動源及び該駆動源の回転を変速して出力する変速機のうちの少なくとも一方を含み、
前記駆動力伝達部材は、前記変速機の出力を、前記変速機の出力が常時伝達される主駆動輪側及び前記車両の状態に応じて必要時に前記変速機の出力が伝達される補助駆動輪側に配分するトランスファであることを特徴とする請求項1〜3のうちの何れか一項に記載の駆動力配分装置。
【請求項5】
駆動源のトルクを各車輪に伝達する駆動伝達系内に設けられクラッチ機構の係合力に基づいてトルク伝達容量を変更可能なトルクカップリングと、前記係合力の調整を通じて前記トルクカップリングの作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段がトルク伝達容量を変更することで前記駆動伝達系内に設けられた駆動力伝達部材が前記各車輪に伝達するトルクを変更させる駆動力配分装置の制御方法であって、
車両に搭載された発熱源の温度に基づいて該発熱源からの熱伝達量を演算し、前記熱伝達量を考慮して該駆動力伝達部材の温度を推定して、推定温度が所定温度以上である場合には、前記推定温度が前記所定温度未満の場合よりも前記トルク伝達容量の制御目標値を小さくするようにしたことを特徴とする駆動力配分装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−64653(P2010−64653A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233771(P2008−233771)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】