説明

骨塩密度関連の疾患の治療および診断の方法

本発明は、骨塩密度関連の障害の治療および診断の方法に関する。より詳細には、本発明は、TBXAS1遺伝子の突然変異を検出することを含む、対象における骨塩密度関連の疾患または骨塩密度関連の疾患のリスクを診断または予測する方法であって、前記突然変異の存在が骨塩密度関連の疾患または骨塩密度関連の疾患のリスクの指標となる方法に関する。本発明は、さらに、骨塩密度の増加を伴う疾患(例えば、ゴサール血液骨幹異形成症候群)を治療または予防するための、トロンボキサン合成酵素(TXAS)をコードするポリヌクレオチド、TXAS、トロンボキサンA2またはその類似体からなる群において選択される化合物にも関する。本発明は、さらに、骨塩密度の減少を伴う疾患(例えば骨粗鬆症)を治療または予防するための、TBXAS1遺伝子発現阻害薬またはトロンボキサン阻害薬からなる群から選択される化合物にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨塩密度関連の障害の治療および診断の方法に関する。より詳細には、本発明は、トロンボキサン合成酵素が骨塩密度の差異に関与しているという発見に基づく。
【背景技術】
【0002】
椎骨の骨質は、椎骨の強度において必須である。骨質の主要な要素は、骨塩密度、および、骨全体にわたるその分布であり、いくつかの証拠から、現時点では、骨塩密度がいくつかのヒトの状態に影響することが示されている。
【0003】
骨粗鬆症または多孔性骨は、骨塩密度が低く、結果として骨の脆弱性および骨折しやすさ(特に、寛骨、脊椎および手首の骨折)が高まることを特徴とする疾患であるが、いかなる骨も罹患する可能性がある。予防しないか、または治療しないままにしておくと、骨粗鬆症は痛みもなく進行して、骨の破損に至ることがある。骨粗鬆症が原因で年間150万件超の骨折が発生すると推定され、その内訳は、300,000件超が寛骨骨折、およそ700,000件が椎骨骨折、250,000件が手首の骨折、300,000件が他の部位の骨折である。骨粗鬆症の病因において遺伝因子は重要な役割を果たしており、いくつかの研究から、骨塩密度における50%〜85%の間のばらつきが遺伝的に決定されることが示唆される(Gueguenら、1995;ArdenおよびSpector、1997)。しかし、こうした効果に関与する遺伝子は完全に定義されてはいない。骨粗鬆症の治療に使用される大部分の薬剤(エストロゲンおよびビスホスホネートなど)は、あまり有効ではない。こうした薬剤は、骨吸収を遅らせるが、結合性を改善しない。したがって、骨粗鬆症の治療のための新しい標的を提供する必要性が常に存在する。
【0004】
反対に、いくつかの他の病態または状態においては、骨塩密度が増加することが示されている。例えば、骨塩密度の増加は、甲状腺摘出後の副甲状腺機能低下症に罹患している閉経期後の女性において示されている。さらに、いくつかの薬物が、骨塩密度の増加を誘導することが示されている。例えば、カテプシン−Kを選択的に阻害する治験薬であるオダナカチブ(旧MK−0822)を用いた第IIB相試験の12カ月の結果から、閉経期後の女性においては、プラセボと比較して、骨塩密度が用量依存的に増加し、骨代謝回転が低下することが実証された(第29回Annual Meeting of the American Society for Bone and Mineral Research(ASBMR))。他の例としては、主要な骨幹の病変、無再生性の皮質感受性貧血および慢性の生物学的炎症を伴う、骨塩密度の増加を特徴とする稀な常染色体劣性障害であるゴサール血液骨幹異形成症候群(GHDD)が挙げられる(Ghosalら、1988)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、骨塩密度関連の疾患を診断、予測、予防および治療する方法を構想するために、骨塩密度に影響する因子を同定する必要性が従来から存在する。
【0006】
ビタミンD受容体(Kelly PJら、1997)およびエストロゲン受容体(Kobayashiら、1996)など多種多様な候補遺伝子が、骨塩密度に関してこれまでに研究されている。ところが、現時点での証拠からは、これらの遺伝子における対立遺伝子の差異では骨塩密度のばらつきのごく一部しか説明されない(Rubinら、1999)ことが示唆されており、そのことは、骨塩密度を調節する遺伝子の大部分が未だ発見されていないことを示すものである。骨塩密度の調節に関連する多形性の同定および遺伝子型同定は、骨量、ひいては、例えば、骨塩密度関連の疾患への罹患しやすさのマーカーを明確にするために有用である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、TBXAS1遺伝子の突然変異を検出することを含む、対象における骨塩密度関連の疾患または骨塩密度関連の疾患のリスクを診断または予測する方法であって、前記突然変異の存在が骨塩密度関連の疾患または骨塩密度関連の疾患のリスクの指標となり、前記対象から採取した核酸試料においてTBXAS1の突然変異を検出するステップを含む方法に関する。
【0008】
本発明は、さらに、骨塩密度の増加を伴う疾患(例えば、ゴサール血液骨幹異形成症候群)を治療または予防するための、トロンボキサン合成酵素(TXAS)をコードするポリヌクレオチド、TXAS、トロンボキサンA2またはその類似体からなる群から選択される化合物にも関する。
【0009】
本発明は、さらに、骨塩密度の減少を伴う疾患(例えば骨粗鬆症)を治療または予防するための、TBXAS1遺伝子発現阻害薬またはトロンボキサン阻害薬からなる群から選択される化合物にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
「コード配列」、または、発現産物(RNA、ポリペプチド、タンパク質または酵素など)を「コードする」配列は、発現時に、当該RNA、ポリペプチド、タンパク質または酵素の産生を結果としてもたらすヌクレオチド配列であり、すなわち、このヌクレオチド配列は、当該ポリペプチド、タンパク質または酵素のアミノ酸配列をコードする。タンパク質のコード配列としては、開始コドン(通常はATG)および終止コドンを挙げることができる。
【0011】
用語「遺伝子」は、1つまたは複数のタンパク質または酵素の全てもしくは一部を含む特定のアミノ酸配列をコードするか、またはそれに相当するDNA配列を意味し、例えば、遺伝子が発現する条件を決定する調節性のDNA配列(プロモーター配列など)は含まれても含まれなくてもよい。いくつかの遺伝子(構造遺伝子ではない)は、DNAからRNAへ転写されることがあるが、アミノ酸配列には翻訳されない。他の遺伝子は、構造遺伝子の調節因子として、またはDNA転写の調節因子として、機能することがある。とりわけ、遺伝子という用語は、タンパク質をコードするゲノム配列、すなわち、調節因子、プロモーター、イントロンおよびエキソンの配列を含む配列を意図することがある。
【0012】
本明細書中で使用する場合、用語「TBXAS1遺伝子」は、任意の種のトロンボキサン合成酵素の遺伝子を表し、この場合の種は、特にヒトであるが、本発明の方法を適用できる他の哺乳動物または脊椎動物でもある。TBXAS1遺伝子は、60kDaの膜貫通型トロンボキサン合成酵素(「TXAS」)をコードする。ヒトTBXAS1遺伝子は、第7染色体(7q34〜q35位)上に局在しており、その配列は、NC_000007.12の受入番号で遺伝子バンクに寄託されている。
【0013】
TBXAS1遺伝子は、NM_001061の受入番号で遺伝子バンクに寄託されている転写物をコードし、配列番号1に記載されているようなオープンリーディングフレームを含有する。対応するアミノ酸配列は、受入番号NP_001052でGenPeptデータベースに寄託され、配列番号2に記載されている。
【0014】
核酸分子の一本鎖形態が、温度および溶液イオン強度の適切な条件下で他の核酸分子にアニールできるとき、核酸分子は別の核酸分子(cDNA、ゲノムDNAまたはRNAなど)と「ハイブリダイズでき」る(Sambrookら、1989を参照)。
【0015】
温度およびイオン強度の条件は、ハイブリダイゼーションの「ストリンジェンシー」を決定する。相同な核酸の予備スクリーニングの場合、55℃のTm(溶融温度)に対応する低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件、例えば、5倍SSC、0.1%SDS、0.25%ミルク、およびホルムアミドなし;または、30%ホルムアミド、5倍SSC、0.5%SDSを用いることができる。中ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、より高いTmに対応し、例えば、40%ホルムアミド、5倍または6倍のSCCである。高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、最も高いTmに対応し、例えば、50%ホルムアミド、5倍または6倍のSCCである。SCCは、0.15M NaCl、0.015M クエン酸Naである。ハイブリダイゼーションには、2つの核酸が相補的な配列を有することが必要であるが、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーによっては、塩基間のミスマッチが生じる可能性がある。核酸をハイブリダイズするための適切なストリンジェンシーは、核酸の長さおよび相補性の程度、当技術分野で周知の変数によって決まる。2つのヌクレオチド配列間の類似性または相同性の程度が大きいほど、そうした配列を有する核酸をハイブリダイズするためのTmの値が大きくなる。核酸ハイブリダイゼーションの相対的な安定性(より高いTmに対応する)は、以下の順序で低下する:RNA:RNA、DNA:RNA、DNA:DNA。長さが100ヌクレオチドを超えるハイブリッドの場合のTmを計算する式が導かれている(Sambrookら、1989、9.50〜9.51を参照)。比較的短い核酸、すなわち、オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションの場合は、ミスマッチの位置がより重要になり、オリゴヌクレオチドの長さによりその特異性が決まる(Sambrookら、1989、II.7〜11.8を参照)。ハイブリダイズ可能な核酸のための最短の長さは、少なくとも約10ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約15ヌクレオチド、より好ましくは、この長さは少なくとも約20ヌクレオチドである。
【0016】
特定の一実施形態では、用語「標準的なハイブリダイゼーション条件」は、55℃のTmを指し、前述したような条件を利用する。好ましい一実施形態では、Tmは60℃である。より好ましい実施形態では、Tmは65℃である。特定の一実施形態では、「高ストリンジェンシー」は、0.2倍SSC中で68℃、50%ホルムアミド、4倍SSC中で42℃、またはこれら2つの条件のいずれかの元で観察されるものと同等なハイブリダイゼーションのレベルを得られる条件下でのハイブリダイゼーションおよび/または洗浄の条件を指す。
【0017】
本明細書中で使用する場合、増幅プライマーは、ハイブリダイゼーション後にオリゴヌクレオチドを標的配列に拡張すること、または標的配列とハイブリダイズする際に隣接する複数のオリゴヌクレオチドを連結させることによる、標的配列の増幅のためのオリゴヌクレオチドである。増幅プライマーの少なくとも一部は、標的とハイブリダイズする。この部分は標的結合配列と呼ばれ、これがプライマーの標的特異性を決定する。標的結合配列に加え、一定の増幅方法には、増幅プライマーにおける特殊化された非標的結合配列が必要である。このような特殊化された配列は、増幅反応が進み、典型的には、特殊化された配列を標的に付加するように働くために必要である。例えば、鎖置換増幅(SDA)において使用される増幅プライマーとしては、標的結合配列への制限エンドヌクレアーゼ認識部位5’が挙げられる(米国特許第5,455,166号および米国特許第5,270,184号)。核酸ベース増幅(NASBA)、自律的配列複製(3SR)および転写ベース増幅プライマーには、プライマーの標的結合配列に連結したRNAポリメラーゼプロモーターが必要である。そのような特殊化された配列を、選択された増幅反応において使用するための標的結合配列に連結することは、当技術分野では日常行われていることである。対照的に、特殊化された配列を標的の末端に必要としないPCRなどの増幅方法は、標的結合配列のみからなる増幅プライマーを一般に用いる。
【0018】
本明細書中で使用する場合、用語「プライマー」および「プローブ」は、オリゴヌクレオチドの機能を指す。プライマーは、典型的には、ポリメラーゼ、または標的とのハイブリダイゼーションに次ぐ連結により拡張されるが、プローブは、典型的には拡張されない。ハイブリダイズされたオリゴヌクレオチドは、標的配列を捕捉または検出するために使用される場合にはプローブとして機能でき、同じオリゴヌクレオチドが、増幅プライマー中で標的結合配列として用いられるときにはプライマーとして機能できる。したがって、TBXAS1の増幅、検出または定量化のための本明細書中で開示する標的結合配列のいずれも、ハイブリダイゼーションプローブとして、または、検出もしくは増幅用のプライマー中の標的結合配列として、そのいずれかで使用でき、場合によっては、選択された増幅反応により必要とされるか、または検出を容易にするための、特殊化された配列に連結されてもよいと理解されよう。
【0019】
用語「突然変異体」および「突然変異」は、遺伝物質(例えば、DNA、RNA、cDNA)もしくは任意の過程、機序において検出可能な任意の変化、または、そのような変化の結果を意味する。これには、遺伝子の構造(例えばDNA配列)が変化している遺伝子突然変異、任意の突然変異過程から生じる任意の遺伝子またはDNA、および、改変された遺伝子またはDNAの配列により発現される任意の発現産物(例えば、タンパク質または酵素)が含まれる。一般に、突然変異は、対象において、前記対象により発現される核酸またはポリペプチドの配列を、対照集団において発現される対応する核酸またはポリペプチドと比較することにより同定される。遺伝物質の突然変異は「サイレント」である(すなわち、突然変異の結果、発現産物のアミノ酸配列の変化が生じない)場合もある。
【0020】
本出願に関する場合、TBXAS1遺伝子中で同定される突然変異は、DunnenおよびAntonarakis(2000)の命名法に従って指定される。DunnenおよびAntonarakisにより定義されるように、核酸レベルでは、置換は「>」により指定され、例えば「1463T>C」は、参照配列のヌクレオチド1463でTがCに変化することを表す。完全長のゲノム配列がわかっている場合、突然変異は、ゲノム参照のヌクレオチド番号により最もよく指定される。核酸の突然変異は、配列番号1のヌクレオチド番号を参照することにより指定される。
【0021】
用語「配列類似性」は、その全ての文法形態において、タンパク質の核酸またはアミノ酸の配列間の同一度または一致度を指し、それらは共通の進化上の起源を共有してもしなくてもよい。好ましくは、配列同一度は、参照配列の全体と比較して計算される。
【0022】
特定の一実施形態では、配列比較アルゴリズム(BLAST、FASTA、DNA Striderなど)により定量した場合にヌクレオチドの少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%または80%または85%または90%または95%または99%がDNA配列の規定の長さを超えて一致するとき、2本のDNA配列は「実質的に相同」または「実質的に類似」である。そのような配列の例は、TBXAS1遺伝子の対立遺伝子変種または種変種である。実質的に相同な配列は、配列データバンクにおいて、またはサザンハイブリダイゼーション実験において入手可能な標準的なソフトウェアを使用して、例えば、当該特定のシステムについて規定されるようなストリンジェントな条件下で配列を比較することにより同定できる。
【0023】
同様に、特定の一実施形態では、アミノ酸の80%超、好ましくは85%超または90%超または95%超または99%超が類似(機能的に同一)であるとき、2つのアミノ酸配列は「実質的に類似」である。「機能的に同一の」ポリペプチドは、その中の所与のアミノ酸残基が変化しているが、ポリペプチドの全体的な立体配座および機能の変質を伴わないものであり、この場合の変質とは、アミノ酸を、特性(例えば、極性、水素結合ポテンシャル、酸性、塩基性、疎水性、芳香族など)の類似したものに置換することを非限定的に含む。特性の類似したアミノ酸は、当技術分野で周知である。例えば、アルギニン、ヒスチジンおよびリシンは、親水性の塩基性アミノ酸であり、互換性がある場合がある。同様に、疎水性のアミノ酸であるイソロイシンは、ロイシン、メチオニンまたはバリンで置換できる。そのような変化は、タンパク質またはポリペプチドの見かけの分子量または等電点にほとんどまたは全く影響しないと考えられる。好ましくは、類似した配列は、例えば、GCG(Genetics Computer Group、Program Manual for the GCG Package、Version7、Madison、Wisconsin)パイルアッププログラム、または、前述のプログラムのいずれか(BLAST、FASTAなど)を使用する配列比較により同定される。
【0024】
「トロンボキサン阻害薬」としては、いわゆるトロンボキサンA2受容体拮抗薬、トロンボキサンA2拮抗薬、トロンボキサンA2/プロスタグランジンエンドペルオキシド拮抗薬、トロンボキサン受容体(TP)拮抗薬、トロンボキサン拮抗薬、トロンボキサン合成酵素阻害薬、ならびに、二重作用性のトロンボキサン合成酵素阻害薬およびトロンボキサン受容体拮抗薬である化合物が挙げられる。
【0025】
「トロンボキサンA2受容体拮抗薬」は、任意のトロンボキサンA2受容体の活性化を可逆的または不可逆的に遮断する任意の化合物を指す。
【0026】
「トロンボキサン合成酵素阻害薬」は、酵素トロンボキサン合成酵素を可逆的または不可逆的に阻害することによりトロンボキサンA2の形成を減少させる任意の化合物を指す。
【0027】
「二重作用性のトロンボキサン受容体拮抗薬およびトロンボキサン合成酵素阻害薬」は、トロンボキサンA2受容体拮抗薬およびトロンボキサン合成酵素阻害薬として同時に作用する任意の化合物を指す。
【0028】
用語「骨塩密度関連の疾患」は、骨塩密度の差異(すなわち、対照集団と比較した場合の増減)を伴うか、またはそれにより引き起こされるか、またはその結果である全ての障害を包含する。より詳細には、「骨塩密度の減少を伴う疾患」は、骨塩密度の減少を伴うか、またはそれにより引き起こされるか、またはその結果である疾患を表す。より詳細には、「骨塩密度の増加を伴う疾患」は、骨塩密度の増加を伴うか、またはそれにより引き起こされるか、またはその結果である疾患を表す。
【0029】
本発明における文脈では、用語「治療すること」または「治療」は、本明細書中で使用する場合、そのような用語が適用される障害もしくは状態、または、そのような障害もしくは状態の1つもしくは複数の症状の進行を反転、軽減、阻害すること、あるいは、そのような障害もしくは状態もしくは症状を予防することを意味する。「治療上有効量」は、対象に治療上の利益をもたらすのに必要な最少量の活性剤(例えば、TBXAS1ポリヌクレオチドまたはトロンボキサン合成酵素阻害薬)を意図する。例えば、哺乳動物に対する「治療上有効量」は、病理学的な症状、疾患の進行、または、障害を伴う生理的な状態もしくは障害への屈服に対する抵抗性の改善を、誘導し、回復させ、または別の形でもたらすような量である。
【0030】
用語「生体試料」は、患者に由来する任意の生体試料を意味する。そのような試料の例としては、体液、組織、細胞試料、臓器、生検などが挙げられる。好ましい生体試料は、細胞または組織の試料である。好ましい生体試料は、全血、血清、血漿または尿である。
【0031】
本明細書中で使用する場合、用語「対象」は、齧歯動物、ネコ、イヌおよび霊長動物などの哺乳動物を表す。好ましくは、本発明による対象はヒトである。
【0032】
「トロンボキサン合成酵素活性の低下を伴うTBXAS1遺伝子の突然変異」という表現は、結果としてTBXAS1遺伝子の発現レベルの減少をもたらす突然変異、および、結果として、酵素活性の低下、すなわち、プロスタグランジン(PG)H2のトロンボキサンA2(TXA2)への転換の低下を示すTXASの合成をもたらす突然変異を包含する。
【0033】
「トロンボキサン合成酵素活性の増加を伴うTBXAS1遺伝子の突然変異」という表現は、結果としてTBXAS1遺伝子の発現レベルの増加をもたらす突然変異、および、結果として、酵素活性の増加、すなわち、プロスタグランジン(PG)H2のトロンボキサンA2(TXA2)への転換の増加を示すTXASの合成をもたらす突然変異を包含する。
【0034】
TBXAS1遺伝子の突然変異
本発明者らは、TBXAS1遺伝子における多様な突然変異を同定した。実施例に示すように、TBXAS1遺伝子の直接配列決定の結果、実施例のGHDDの4家族全てにおいて、異なるホモ接合ミスセンス突然変異が検出された:1463T>C、248T>C、1444G>Tおよび1238G>A、配列番号1のヌクレオチド番号を参照。
【0035】
前述のような突然変異を有するTBXAS1ヌクレオチド配列を含む核酸またはその断片は、本発明の一部である。
【0036】
したがって、本発明は、1463T>C、248T>C、1444G>Tおよび1238G>Aからなる群から選択される突然変異を有するTBXAS1遺伝子配列を含み、またはそれからなる、TXASをコードする単離された核酸に関する。前記核酸は、前述の突然変異の1つまたは複数を有することがある。
【0037】
本発明は、さらに、前記核酸によりコードされるポリペプチドに関する。より具体的には、TBXAS1遺伝子における突然変異1463T>C、248T>C、1444G>Tおよび1238G>Aは、結果として、それぞれ、TXASのLeu488Pro突然変異体、Leu83Pro突然変異体、Gly482Trp突然変異体およびArg413Glu突然変異体になる。アミノ酸の位置は、配列番号2に記載の通りのポリペプチド配列を参照することにより示される。
【0038】
したがって、本発明は、さらに、Leu488Pro、Leu83Pro、Gly482TrpおよびArg413Gluからなる群から選択される突然変異を有するTXASのポリペプチド配列を含み、またはそこに存在する、単離されたポリペプチドを提供する。前記ポリペプチドは、前述の突然変異の1つまたは複数を有してもよい。
【0039】
本発明の診断方法:
本発明者らは、トロンボキサン合成酵素活性の低下を伴うTBXAS1遺伝子において見出された突然変異は、骨塩密度の増加を伴う疾患、とりわけゴサール血液骨幹異形成症候群(GHDD)と関連があることをさらに示した。
【0040】
したがって、本発明は、対象におけるゴサール血液骨幹異形成症候群またはゴサール血液骨幹異形成症候群のリスクを診断または予測する方法であって、突然変異の存在がゴサール血液骨幹異形成症候群またはゴサール血液骨幹異形成症候群のリスクの指標となる、対照集団と比較してTBXAS1遺伝子の突然変異を検出することを含む方法を提供する。
【0041】
いかなる理論に拘束されるものでもないが、本発明者らは、TBXAS1遺伝子は骨塩密度関連の疾患の病因に関与していると考える。
【0042】
したがって、本発明の目的は、対照集団と比較してTBXAS1遺伝子の突然変異を検出することを含む、対象における骨塩密度関連の疾患または骨塩密度関連の疾患のリスクを診断または予測する方法であって、突然変異の存在が骨塩密度関連の疾患または骨塩密度関連の疾患のリスクの指標となる、方法に関する。
【0043】
特定の一実施形態では、骨塩密度関連の疾患は、ゴサール血液骨幹異形成症候群または骨粗鬆症からなる群において選択される。
【0044】
第1の実施形態によれば、前記突然変異は、TBXAS1核酸分子を分析することにより検出できる。本発明に関する場合、TBXAS1核酸分子としては、mRNA、ゲノムDNA、および、mRNAに由来するcDNAが含まれる。DNAまたはRNAは、一本鎖でも二本鎖でもよい。こうした核酸分子は、例えば、プローブを用いた増幅および/またはハイブリダイゼーションによる検出に利用してもよい。
【0045】
したがって、本発明は、TBXAS1遺伝子の突然変異を検出することを含む、対象における骨塩密度関連の疾患または骨塩密度関連の疾患のリスクを診断または予測する方法であって、突然変異の存在が骨塩密度関連の疾患または骨塩密度関連の疾患のリスクの指標となり、前記対象から採取した核酸試料におけるTBXAS1遺伝子の突然変異を検出するステップを含む方法を提供する。
【0046】
核酸試料は、任意の細胞源または組織生検から採取できる。採取可能な細胞源の非限定例としては、血球、頬の細胞、上皮細胞、線維芽細胞、または生検により採取される組織中に存在する任意の細胞が挙げられるが、これらに限定されない。細胞は、血液、血漿、血清、リンパなどの体液からも採取できる。DNAは、Sambrookら、1989中に記載のような、当技術分野において公知の任意の方法を用いて抽出してもよい。RNAは、グアニジンチオシアネート−フェノール−クロロホルム抽出など、当業者に周知の標準的な方法を用いて、例えば組織生検から単離してもよい。
【0047】
本発明によるTBXAS1の突然変異は、TBXAS1遺伝子の調節領域(例えば、プロモーター配列、または転写因子結合部位)中、TBXAS1遺伝子のイントロン中、または、TXASをコードするエキソン中で見出すことができる。
【0048】
好ましくは、本発明によるTBXAS1遺伝子の突然変異は、1463T>C、248T>C、1444G>Tおよび1238G>Aからなる群から選択される。
【0049】
TBXAS1の突然変異は、RNAまたはDNAの試料中で、好ましくは増幅後に検出してもよい。例えば、単離RNAは、変異部位に特異的であるか、または変異部位を有する領域の増幅が可能な特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)による逆転写および増幅など、対合型の逆転写および増幅に供してもよい。第1の代替手段によれば、プライマーアニーリングのための条件は、増幅産物が出現すれば特定のTBXAS1の突然変異の存在が診断されるように、特異的な逆転写(適切な場合)および増幅を確実にするように選択できる。それ以外には、RNAを逆転写および増幅させてもよく、またはDNAを増幅させてもよく、その後、適当なプローブを用いたハイブリダイゼーションにより、または、直接配列決定もしくは当技術分野で公知の他の任意の適切な方法により、増幅された配列中で突然変異部位を検出してもよい。例えば、RNAから得られたcDNAをクローニングおよび配列決定して、TBXAS1配列の突然変異を同定してもよい。
【0050】
実際には、遺伝子型分析についての多数の戦略を用いることが可能である(Antonarakisら、1989;Cooperら、1991;Grompe、1993)。手短に言えば、制限部位の有無について核酸分子をテストできる。塩基置換突然変異により制限酵素の認識部位が作り出され、または消失すると、これにより、突然変異についての単純な直接PCRテストが可能になる。以下のようにさらなる戦略が挙げられるが、これらに限定されない:直接配列決定、制限酵素断片長多型(RFLP)分析;適切にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、完全にマッチする配列にのみハイブリダイズする短い合成プローブである対立遺伝子特異的なオリゴヌクレオチド(ASO)を用いたハイブリダイゼーション;対立遺伝子特異的なPCR;変異原性プライマーを用いたPCR;リガーゼPCR、HOT切断;変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)、温度変性勾配ゲル電気泳動法(TGGE)、一本鎖の立体配座多型(SSCP)および変性高性能液体クロマトグラフィー(Kuklinら、1997)。直接配列決定は任意の方法により達成でき、そのような方法としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:Maxam−Gilbert法を用いた化学的配列決定;Sanger法を用いた酵素的配列決定による;質量分析配列決定;チップベースの技術を用いた配列決定、および、リアルタイム定量PCR。好ましくは、対象由来のDNAは、まず、特異的な増幅プライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅に供する。しかし、ローリングサークル増幅(RCA)、Invader(商標)アッセイ、またはオリゴヌクレオチド連結アッセイ(OLA)など、PCRとは独立にDNAを試験することが可能ないくつかの他の方法を用いることが可能である。OLAは、塩基置換突然変異を明らかにするために使用してもよい。この方法によれば、突然変異の位置に置かれる接合箇所を有する、標的核酸中の隣接する配列とハイブリダイズする2つのオリゴヌクレオチドが構成される。DNAリガーゼは、2つのオリゴヌクレオチドを、それらが完全にハイブリダイズされる場合にのみ共有結合的に連結させることになる。
【0051】
したがって、本発明による有用な核酸分子、とりわけオリゴヌクレオチドのプローブまたはプライマーとしては、突然変異が位置する領域と特異的にハイブリダイズするものが挙げられる。
【0052】
オリゴヌクレオチドのプローブまたはプライマーは、少なくとも10、15、20または30ヌクレオチドを含有できる。その長さは、400、300、200または100ヌクレオチドより短くてもよい。
【0053】
第2の実施形態によれば、TBXAS1遺伝子の前記突然変異は、タンパク質レベルで検出できる。
【0054】
したがって、本発明によるTXASの突然変異は、好ましくは、結果としてTXASのLeu488Pro突然変異体、Leu83Pro突然変異体、Gly482Trp突然変異体およびArg413Glu突然変異体になる突然変異からなる群から選択される。
【0055】
前記突然変異は、当技術分野で公知の適切な任意の方法により検出できる。とりわけ、対象から採取した組織生検などの試料を、TXASの突然変異型に特異的な抗体、すなわち、TBXAS1の突然変異型と野生型のタンパク質(または他の任意のタンパク質)との間を識別して、抗体により特定されたTBXAS1の有無を定量することが可能な抗体と接触させることができる。
【0056】
突然変異型TXASを特異的に認識する抗体も、本発明の一部となる。こうした抗体は、突然変異型TXASに特異的であり、すなわち、野生型TXASと交差反応しない。
【0057】
本発明の抗体は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でも、単鎖または二本鎖のキメラ抗体、ヒト化抗体、または免疫グロブリン分子の一部(抗原結合断片Fab、Fab’、F(ab’)2およびF(v)として当技術分野で公知の当該部分など)であってもよい。こうした抗体は、例えば、毒素または標識化抗体と共に免疫複合体化することもできる。
【0058】
ポリクローナル抗体を使用してもよいが、長期的に見て再現性がより高いことから、モノクローナル抗体が好ましい。
【0059】
「ポリクローナル抗体」を産生させる手順も周知である。ポリクローナル抗体は、適切な抗原に対して免疫化された動物の血清から入手でき、遺伝子工学により、例えば、当業者に周知の標準的な方法に従って作製できる。典型的には、そのような抗体は、まず出血させて免疫前の血清を採取しておいたニュージーランドシロウサギに突然変異型TXASを皮下投与することにより産生できる。抗原は、6つの異なる部位において、1部位当たり総量100μlで注射できる。各注射材料は、アジュバンドを含有してもよく、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、タンパク質またはポリペプチドを含有する微粉化されたアクリルアミドゲルを含有してもしなくてもよい。次に、1回目の注射後、ウサギを2週間出血させ、同じ抗原を用いて6週間毎に3回、定期的に追加免疫を行った。次に、各追加免疫の10日後に血清試料を採取した。次に、抗体を捕捉するための対応する抗原を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより血清からポリクローナル抗体を回復させた。ポリクローナル抗体を産生するためのさまざまな手順がHarlowら(1988)により開示されており、これらの文献は、参考文献の形で本明細書に組み込まれる。
【0060】
多様な文法形態での「モノクローナル抗体」は、特定のエピトープと免疫反応することが可能な、1つの種のみの抗体結合部位を含有する抗体分子の集団を指す。したがって、モノクローナル抗体は、典型的には、この抗体が免疫反応する任意のエピトープに対する単一の結合の親和性を示す。したがって、モノクローナル抗体は、異なるエピトープに対してそれぞれが免疫特異的である複数の抗体結合部位を有する抗体分子(例えば二重特異性モノクローナル抗体)を有することがある。歴史的には、モノクローナル抗体はクローン的に純粋な免疫グロブリン分泌細胞株の不死化により産生されたが、本発明の方法によりモノクローナル的に純粋な抗体分子集団を調製することもできる。
【0061】
モノクローナル抗体を調製するための実験室法は、当技術分野で周知である(例えば、Harlowら、1988を参照)。モノクローナル抗体(mAb)は、精製した突然変異型TXASを、哺乳動物、例えば、マウス、ラット、ヒトなどの哺乳動物の体内で免疫化することにより調製してもよい。免疫化された哺乳動物体内の抗体産生細胞は、単離され、骨髄腫細胞またはヘテロ骨髄腫細胞と融合されてハイブリッド細胞(ハイブリドーマ)が産生される。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、所望のモノクローナル抗体源として利用される。ハイブリドーマ培養のこの標準的な方法については、KohlerおよびMilstein(1975)中に記載がある。
【0062】
mAbは、ハイブリドーマ培養により産生できるが、本発明は、そのように限定されるものではない。同様に企図するのは、本発明のハイブリドーマからクローニングされた核酸を発現させることにより産生されたmAbの使用である。すなわち、本発明のハイブリドーマにより分泌される分子を発現する核酸を別の細胞株中に移して形質転換体を産生させることができる。形質転換体は、遺伝子型で元のハイブリドーマと区別されるが、ハイブリドーマにより分泌されるものに相当する、抗体分子全体の免疫活性断片など、本発明の抗体分子を産生することも可能である。例えば、Readingに付与された米国特許第4,642,334号;PCT公開第 号;Winterらに付与された欧州特許公開第0239400号およびCabillyらに付与された同第0125023号を参照。
【0063】
例えば、ファージディスプレイ技術を用いてナイーブライブラリー(非免疫化動物に由来)を調べるなど、免疫化を含まない抗体産生法も企図される;Barbasら(1992)およびWaterhouseら(1993)を参照。
【0064】
突然変異型TXASに対して産生された抗体は、野生型TXASと交差反応できる。したがって、突然変異型TXASに特異的な抗体を選択することが必要である。このことは、野生型TXASと反応性のものから抗体のプールを枯渇させること、例えば、産生した抗体を、野生型TXASに対するアフィニティークロマトグラフィーにかけることにより達成してもよい。
【0065】
あるいは、本発明の目的のために、抗体以外の結合剤を使用してもよい。こうした結合剤は、例えば、分子認識に関する抗体の代替物を代表する分子の種類であるアプタマーであってもよい。アプタマーは、高い親和性および特異性を有する任意の種類の標的分子を実質的に認識する能力をもつオリゴヌクレオチド配列またはオリゴペプチド配列である。そのようなリガンドは、Tuerk C.およびGold L.、1990に記載のような、ランダム配列ライブラリーのSystematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment(SELEX)により単離してもよい。ランダム配列ライブラリーは、DNAのコンビナトリアル化学合成により得られる。このライブラリーにおいては、各構成要素は、最終的に化学的に修飾された、独自の配列の直鎖オリゴマーである。この種類の分子の、可能性のある修飾、使用および利点については、Jayasena S.D.、1999に概説されている。ペプチドアプタマーは、2つのハイブリッド法によりコンビナトリアルライブラリーから選択される大腸菌チオレドキシンAなどのプラットフォームタンパク質により示される、立体配座的に束縛された抗体可変領域からなる(Colasら、1996)。
【0066】
本発明のプローブ、プライマー、アプタマーまたは抗体は、蛍光分子、放射性分子または当技術分野で公知の任意の他の標識など、検出可能な分子または物質で標識できる。シグナルを一般にもたらす(直接的または間接的いずれかで)標識は、当技術分野で公知である。
【0067】
用語「標識された」は、本発明のプローブ、プライマー、アプタマーまたは抗体に関する場合、本発明のプローブ、プライマー、アプタマーまたは抗体を、検出可能な物質を本発明のプローブ、プライマー、アプタマーまたは抗体と対合させること(すなわち、物理的に連結させること)により直接標識化すること、ならびに、直接標識されている別の試薬との反応性により本発明のプローブ、プライマー、アプタマーまたは抗体を間接的に標識することを包含することを意図している。検出可能な物質のその他の例としては、放射性薬剤またはフルオロフォア(例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)またはフィコエリトリン(PE)またはインドシアニン(Cy5))が挙げられるが、これらに限定されない。間接標識化の例としては、蛍光標識されたストレプトアビジンで検出できるように蛍光標識された二次抗体を用いた一次抗体の検出、およびビオチンでのDNAプローブの末端標識化が挙げられる。本発明の抗体またはアプタマーは、当技術分野で公知の任意の方法により、放射性分子で標識できる。例えば、放射性分子としては、l123、l124、ln111、Re186、Re188などのシンチグラフ試験用の放射性原子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
本発明のキット
本発明の別の態様によれば、TBXAS1突然変異は、対象のDNAを核酸プローブ(標識されていてもよい)と接触させることにより検出される。
【0069】
プライマーは、所望の突然変異位置を有するTBXAS1遺伝子の一部を増幅または配列決定するためにも有用な場合がある。
【0070】
そのようなプローブまたはプライマーは、所望の突然変異位置を有するTBXAS1遺伝子配列の一部と特異的にハイブリダイズする能力のある核酸である。つまり、それらは、高ストリンジェンシー条件下で関係する、部分的に突然変異したTBXAS1核酸配列とハイブリダイズする配列であるということである。
【0071】
本発明は、TBXAS1遺伝子の突然変異の少なくとも1つを決定するのに適したキットをさらに提供する。
【0072】
このキットには、以下の構成要素が含まれていてもよい:
(i)プローブ:通常はDNAからなり、予め標識されていてもよい。あるいは、このプローブは標識されていなくてもよく、別々の容器に入った形で標識用の原料がキット内に含まれていてもよい;および
(ii)ハイブリダイゼーション試薬:キットには、固相マトリックスなど特定のハイブリダイゼーションプロトコールに必要な、適切に包装された他の試薬および材料(該当する場合)ならびに標準品が入っていてもよい。
【0073】
別の実施形態では、キットには以下が含まれていてもよい:
(i)配列決定または増幅用のプライマー:配列決定用プライマーは予め標識されていてもよく、または、親和性精製部分もしくは付着部分を有していてもよい;および
(ii)配列決定または増幅用の試薬:キットには、特定の配列決定増幅プロトコールに必要な、適切に包装された他の試薬および材料が入っていてもよい。好ましい一実施形態では、キットは、配列決定または増幅プライマーのパネル(その配列は、多型位置の少なくとも1つに隣接する配列に対応する)、ならびに、各多型配列の存在を検出するための手段を備える。
【0074】
特定の一実施形態では、本発明において同定される突然変異の少なくとも1つ、特に、1463位、248位、1444位および1238位を含むTBXAS1遺伝子の全てまたは一部の増幅に特異的なヌクレオチドプライマー対を備えるキットが提供される。
【0075】
あるいは、本発明のキットは、本発明の突然変異ポリペプチドを検出する能力のある標識化された化合物または薬剤(例えば、該ポリペプチドと結合する前述のような抗体またはアプタマー)を備えてもよい。例えば、キットは以下を備えてもよい:(1)本発明の突然変異を含むポリペプチドに結合する第1の抗体(例えば、固体の支持体に付着している);および、場合により、(2)該ポリペプチドまたは第1の抗体のいずれかに結合し、検出可能な薬剤にコンジュゲートする、異なる第2の抗体。
【0076】
このキットは、例えば、緩衝化剤、保存剤またはタンパク質安定化剤も備えることができる。このキットは、検出可能な薬剤の検出に必要な構成要素(例えば、酵素または基質)も備えることができる。このキットには、アッセイし、入っているテスト試料と比較できる対照試料または一連の対照試料が入っていてもよい。キットの各構成要素は、個別の容器内に通常は封入されており、多様な容器は全て、テストされる対象が骨塩密度関連の疾患に罹患しているか、またはこの疾患を発症するリスクを有するかを観察するための取扱説明書と共に、単一のパッケージ内に入っている。
【0077】
本発明の治療法:
さらなる目的では、本発明は、骨塩密度関連の疾患を治療または予防するための使用、方法および医薬組成物に関する。
【0078】
特定の一実施形態では、骨塩密度関連の疾患は、骨塩密度の増加を伴う。そのような疾患の例としては、ゴサール血液骨幹異形成症候群(GHDD)が挙げられるが、これに限定されない。
【0079】
したがって、本発明は、さらに、骨塩密度の増加を伴う疾患を治療または予防する方法であって、それを必要とする対象に、TBXAS1ポリヌクレオチド、すなわち、野生型TXASをコードする核酸配列を投与して、TXASが、前記ポリヌクレオチドを形質移入されている対象の細胞によりin vivoで発現されるようにするステップを含む方法に関する。したがって、前記方法は、欠陥のある突然変異型TXASの発現を補う野生型TXASの過剰発現をもたらす。投与されるポリヌクレオチドは、1463T>C、248T>C、1444G>Tおよび1238G>Aからなる群において選択される突然変異を有さない。
【0080】
本発明は、さらに、骨塩密度の増加を伴う疾患の治療を意図した医薬の製造のためのTBXAS1ポリヌクレオチドの使用にも関する。好ましくは、前記TBXAS1ポリヌクレオチドは、治療上有効量で投与される。
【0081】
好ましくは、本発明によるTBXAS1ポリヌクレオチド配列は、プロモーター配列など、その発現の調節を可能にする要素を伴う。
【0082】
そのような核酸は、ベクターの形態をしていてもよい。本明細書中で使用する場合、用語「ベクター」は、自身が連結している別の核酸を輸送する能力のある核酸分子を指す。ベクターの一種が「プラスミド」であり、これは、中に追加的なDNA区域を連結できる環状の二本鎖DNAループを指す。別の種類のベクターはウイルスベクターであり、この場合、ウイルスゲノム中に追加的なDNA区域を連結できる。ある種のベクターは、導入された宿主細胞中で自律複製する能力がある(例えば、細菌由来の複製を有する細菌ベクターおよび哺乳動物のエピソームベクター)。他のベクター(例えば、哺乳動物の非エピソームベクター)は、宿主細胞中に導入されると宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、それにより、宿主のゲノムと共に複製される。さらに、ある種のベクター(発現ベクター)は、自身が操作可能に連結している遺伝子の発現を誘導する能力を有する。一般に、組換えDNA法において利用できる発現ベクターは、プラスミド(ベクター)の形態をしていることが多い。しかし、本発明は、ウイルスベクター(例えば、複製能のないレトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルス)など、同等の機能を果たす他の形態の発現ベクターを包含することを意図している。
【0083】
TBXAS1ポリヌクレオチドは、ex vivo(培養細胞上、または、動物もしくは患者から取り出した細胞上で)またはin vivoで核酸を細胞核へ送達するための公知の任意の手順により、標的細胞中に導入できる。
【0084】
ex vivoでの導入は、当業者に周知の標準的な任意の方法、例えば、形質移入、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、形質導入、細胞融合、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム沈殿により、または遺伝子銃の使用により、実施できる。
【0085】
TBXAS1ポリヌクレオチドは、リポフェクションによりex vivoまたはin vivoで導入することもできる。特定の実施形態では、リポソームおよび/またはナノ粒子の使用は、ドナーの核酸の標的系を宿主細胞中に導入することを企図したものである。
【0086】
ナノカプセルは、一般に、安定で再現可能な様式で化合物を封入できる。細胞内のポリマーの過負荷による副作用を回避するために、そのような超微粒子(0.1μm前後のサイズ)は、in vivoでの分解が可能なポリマーを使用して設計すべきである。本発明における使用には、こうした要件を満たす生分解性のポリアルキルシアノアクリレートナノ粒子が企図され、そのような粒子は容易に作製できる。
【0087】
リポソームは、水性媒体中に分散されると自然に多層同心二重層ベシクル(多層ベシクル(MLV)とも呼ばれる)を形成するリン脂質から形成される。MLVの直径は、一般に、25nm〜4μmである。MLVを超音波処理する結果、直径が200〜500Åの範囲の、コア中に水溶液を含有する小型単層ベシクル(SUV)が形成される。
【0088】
リポソームが媒介する形質移入に伴って遭遇する困難および危険を制限するために設計される合成の陽イオン脂質を使用して、マーカーをコードする遺伝子のin vivoでの形質移入用リポソームを調製できる。陽イオン脂質を使用すると、負に帯電した核酸の封入を促進でき、負に帯電した細胞膜との融合も促進できる(Felgnerら、1989)。
【0089】
あるいは、in vivoで細胞膜を通過してTBXAS1ポリヌクレオチドを送達するための最も単純で最も安全な様式の1つには、高濃度の遊離した、またはむき出しのポリヌクレオチド(典型的にはmRNAまたはDNA)の直接施用が含まれることがある。「むき出しのDNA(またはRNA)」とは、他の化学部分と予め複合体化されていないDNA(RNA)分子の意味である。動物細胞によるむき出しのDNAの取込みは、賦形剤および核酸を細胞に同時投与することにより増加させることができる。そのような賦形剤は、細胞膜を通過したDNAの透過、ひいては治療剤の細胞への送達を強化または増加させる試薬である。当技術分野では、界面活性物質、例えば、以下からなる群から選択される界面活性物質など、多様な賦形剤についての記載がある:Triton X−100、ドデシル硫酸ナトリウム、Tween20およびTween 80;細菌毒素、例えばストレプトリジンO、コレラ毒素、および、組換え改変された大腸菌不安定毒素;ならびに、例えば、グルコース、ショ糖、フルクトースまたはマルトースなど、細胞膜付近における浸透圧を乱すことにより作用する多糖類。細胞外ヌクレアーゼおよび細胞内ヌクレアーゼ両方による内側または外側からの核酸分解切断を介してポリヌクレオチド不活性化を遮断するなど、遊離ポリヌクレオチドの送達を強化する他の方法についての記載がある。
【0090】
あるいは、本発明は、さらに、骨塩密度の増加を伴う疾患を治療または予防する方法であって、それを必要とする対象に野生型TXASを投与するステップを含む方法を提供する。
【0091】
投与されるTXASポリペプチドは、野生型TXASの変異体であってもよいが、プロスタグランジン(PG)H2をトロンボキサンA2(TXA2)に変換させる活性を保持することが条件である。したがって、このポリペプチドは、結果としてTXASのLeu488Pro突然変異体、Leu83Pro突然変異体、Gly482Trp突然変異体およびArg413Glu突然変異体になる突然変異からなる群から選択される突然変異を含まない。
【0092】
所望の配列のアミノ酸配列がわかれば、当業者であれば、ポリペプチド作製の標準的な手法により前記ポリペプチドを容易に作製できる。例えば、ポリペプチドは、周知の固相法を用いて、好ましくは市販のペプチド合成装置(Applied Biosystems、Foster City、California製のものなど)を用いて、製造者の取扱説明書に従って合成できる。
【0093】
あるいは、本発明のポリペプチドは、現在当技術分野で周知のもののような組換えDNA法により合成できる。例えば、所望の(ポリ)ペプチドをコードするDNA配列を発現ベクター中に組み込み、所望のポリペプチドを発現すると思われる適当な真核宿主または原核宿主中にそのようなベクターを導入した後でDNA発現産物としてこの断片を得ることができ、その後、周知の手法を用いてそうした断片を宿主から単離できる。
【0094】
本発明のポリペプチドは、単離された(例えば精製された)形態で使用するか、または、膜ベシクルまたは脂質ベシクル(例えばリポソーム)などのベクター中に入っていてもよい。
【0095】
あるいは、本発明は、さらに、骨塩密度の増加を伴う疾患を治療または予防する方法であって、それを必要とする対象にトロンボキサンA2またはその類似体を投与するステップを含む方法を提供する。トロンボキサンA2は、以下のような二環式のオキサンオキセタン構造を有する:
【0096】
【化1】

【0097】
トロンボキサンA2の類似体は、例えば、U46619(9,11−ジデオキシ−9α,11α−メタノエポキシPGF2α;9,11−ジデオキシ−9α,11α−メタノエポキシプロスタグランジンF2α、(CAS56985−40−1))であってもよく、その構造は以下の通りである:
【0098】
【化2】

【0099】
本発明は、さらに、骨塩密度の減少を伴う疾患を治療または予防する方法を提供する。そのような疾患の例としては、骨粗鬆症、アテローム性硬化症に伴う骨粗鬆症、偽性神経膠腫に伴う骨粗鬆症、骨粗鬆症および眼皮膚の低色素沈着症候群、内分泌機能障害による骨粗鬆症、骨形成不全症、骨転移および初期の骨癌、骨肉腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0100】
特定の実施形態では、本発明は、骨塩密度の減少を伴う疾患を治療する方法であって、それを必要とする対象に、TBXAS1遺伝子発現の発現阻害薬を投与するステップを含む方法に関する。
【0101】
本発明において使用するためのTBXAS1遺伝子発現阻害薬は、アンチセンスオリゴヌクレオチドのコンストラクトに基づくものであってもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチド(アンチセンスRNA分子およびアンチセンスDNA分子など)は、TBXAS1のmRNAの翻訳を、mRNAに結合することによりタンパク質翻訳を妨げ、もしくはmRNAの分解を増加させ、それにより細胞中でのTXASのレベル、ひいては活性を低下させることにより直接遮断するように作用すると考えられる。例えば、従来のリン酸ジエステル法により、および、例えば、静脈内注射または注入により投与することにより、例えば、少なくとも約15塩基でありTXASをコードするmRNA転写物配列の独特の領域に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを合成できる。その配列が公知である遺伝子の遺伝子発現を特異的に阻害するためのアンチセンス法を用いる方法は、当技術分野で周知である(例えば、米国特許第6,566,135号、同第6,566,131号、同第6,365,354号、同第6,410,323号、同第6,107,091号、同第6,046,321号および同第5,981,732号を参照)。
【0102】
阻害性低分子RNA(siRNA)も、本発明において使用するためのTBXAS1遺伝子発現阻害薬として機能させることができる。TBXAS1遺伝子発現は、TBXAS1遺伝子発現が特異的に阻害(すなわち、RNA干渉またはRNAi)されるように、対象または細胞を小分子の二本鎖RNA(dsRNA)と、または、小分子の二本鎖RNAを産生させるベクターもしくはコンストラクトと接触させることにより、減らすことができる。適切なdsRNAまたはdsRNAをコードするベクターを選択する方法は、その配列が公知である遺伝子については当技術分野で周知である(例えば、Tuschl,T.ら(1999);Elbashir,S.M.ら(2001);Hannon,GJ.(2002);McManus,MT.ら(2002);Brummelkamp,TR.ら(2002);米国特許第6,573,099号および同第6,506,559号;ならびに国際特許公開第WO01/36646号、同第WO99/32619号および同第WO01/68836号を参照)。
【0103】
リボザイムも、本発明において使用するためのTBXAS1遺伝子発現阻害薬として機能させることができる。リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒する能力のある酵素的RNA分子である。リボザイム作用の機序には、相補的な標的RNAとのリボザイム分子の配列特異的なハイブリダイゼーション、次いでエンドヌクレアーゼ分解切断が関与している。それにより、TBXAS1のmRNA配列のエンドヌクレアーゼ分解切断を特異的および効率的に触媒する、操作されたヘアピンモチーフまたはハンマーヘッドモチーフのリボザイム分子は、本発明の範囲内で有用である。以下の配列:GUA、GUUおよびGUCを典型的に含むリボザイム切断部位について標的分子を走査することにより、可能性のある任意のRNA標的内の特異的なリボザイム切断部位をまず同定する。一旦同定したら、切断部位を有する標的遺伝子の領域に相当する約15〜20リボヌクレオチドの間の短鎖RNA配列を、オリゴヌクレオチド配列を不適当なものにする可能性のある予測される構造上の特徴(二次構造など)について評価できる。候補標的の適合性は、例えばリボヌクレアーゼ保護アッセイを用いて、相補的なオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションのしやすさをテストすることにより評価することもできる。
【0104】
TBXAS1遺伝子発現阻害薬として有用なアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびリボザイムは両方とも、公知の方法により調製できる。こうした方法としては、例えば、固相ホスホラマダイト(phosphoramadite)化学合成によるなど、化学合成のための手法が挙げられる。あるいは、アンチセンスRNA分子は、RNA分子をコードするDNA配列のin vitroまたはin vivoでの転写により産生できる。そのようなDNA配列は、T7またはSP6ポリメラーゼプロモーターなど適当なRNAポリメラーゼプロモーターを組み込む多種多様なベクター中に組み込むことができる。本発明のオリゴヌクレオチドへの多様な修飾は、細胞内の安定性を高め半減期を伸ばす手段として導入できる。可能性のある修飾としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドのフランキング配列の、当該分子の5’末端および/または3’末端への付加、または、オリゴヌクレオチドの骨格内でのホスホジエステラーゼ連結ではなくホスホロチオエートもしくは2’−O−メチルの使用。
【0105】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドsiRNAおよびリボザイムは、単独で、またはベクターと結合した形で、in vivo送達させることができる。最も広い意味では、「ベクター」は、アンチセンスオリゴヌクレオチドsiRNAまたはリボザイム核酸の、細胞への、好ましくはTBXAS1遺伝子を発現する細胞への移動を容易にする能力のある任意の媒体である。好ましくは、ベクターは、ベクターがなければ結果としてもたらされると考えられる分解の程度と比較して低い分解度で、核酸を細胞へ輸送する。一般に、本発明において有用なベクターとしては以下が挙げられるが、これらに限定されない:プラスミド、ファージミド、ウイルス、アンチセンスオリゴヌクレオチドsiRNAまたはリボザイム核酸配列の挿入または組込みにより操作されているウイルス源または細菌源に由来する他の媒体。ウイルスベクターは好ましい種類のベクターであり、こうしたベクターとしては以下のウイルスに由来する核酸配列が挙げられるが、これらに限定されない:レトロウイルス(モロニーマウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳癌ウイルスおよびラウス(rouse)肉腫ウイルスなど);アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス;SV40タイプウイルス;ポリオーマウイルス;エプスタイン・バーウイルス;パピローマウイルス;ヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;ポリオウイルス;およびRNAウイルス(レトロウイルスなど)。名前が挙がっていなくても当技術分野にとって公知の他のベクターを容易に採用できる。
【0106】
好ましいウイルスベクターは、必須でない遺伝子を所望の遺伝子で置き換えてある真核生物の非細胞変性ウイルスが基になっている。非細胞変性ウイルスとしてはレトロウイルス(例えばレンチウイルス)が挙げられるが、その生活環には、ウイルスのゲノムのRNAからDNAへの逆転写、次いで宿主細胞のDNA中へのプロウイルスの組込みが含まれる。レトロウイルスは、ヒト遺伝子療法の試みとして認可されている。最も有用なのは、複製欠損(すなわち、所望のタンパク質の合成を誘導する能力はあるが、感染性の粒子を作る能力はない)しているようなレトロウイルスである。そうした遺伝的に変質したレトロウイルス発現ベクターは、in vivoで遺伝子を高効率に形質導入することに一般に利用される。複製欠損レトロウイルスを作製するための標準的なプロトコール(外因性の遺伝物質をプラスミド中に組み込むステップ、パッケージング細胞株にプラスミドを形質移入するステップ、パッケージング細胞株により組換えレトロウイルスを作製するステップ、組織培養培地からウイルス粒子を回収するステップおよび標的細胞をウイルス粒子に感染させるステップを含む)は、Kriegler、1990およびMurry、1991中に記載がある。
【0107】
一定の用途にとって好ましいウイルスは、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスであり、遺伝子療法におけるヒトへの使用がすでに認可されている二本鎖のDNAウイルスである。アデノ随伴ウイルスは、複製欠損であるように操作することができ、広範な細胞の型および種に感染する能力がある。このウイルスは、熱安定性および脂質溶媒安定性;造血細胞など多様な系統の細胞における高い形質導入頻度;ならびに、重複感染が阻害されないことから複数組の形質導入が可能になるなど、さらに利点を有する。報告によれば、アデノ随伴ウイルスは、部位特異的な様式でヒト細胞のDNA中に組み込むことにより、挿入変異の可能性、およびレトロウイルス感染の特徴を示す挿入遺伝子の発現のばらつきを最小限にできる。加えて、野生型アデノ随伴ウイルス感染は、選択圧がない状態では組織培養物中で100継代超にわたり続いており、このことから、アデノ随伴ウイルスのゲノムの組込みは比較的安定な事象であることが示唆される。アデノ随伴ウイルスは、染色体外の様式でも機能できる。
【0108】
他のベクターとしては、プラスミドベクターが挙げられる。プラスミドベクターは、当技術分野で広範に記載されており、当業者に周知である。例えば、Sambrookら、1989を参照。ここ数年では、プラスミドベクターは、抗原をコードする遺伝子をin vivoで細胞に送達するためのDNAワクチンとして使用されている。プラスミドベクターは、これにとってとりわけ有利であるが、その理由は、このベクターはウイルスベクターの多くほど安全上の懸念をもたないからである。しかし、宿主細胞と適合するプロモーターを有するこうしたプラスミドは、プラスミド内で操作的にコードされた遺伝子からペプチドを発現することができる。一般に使用されるいくつかのプラスミドとしては、pBR322、pUC18、pUCI9、pRC/CMV、SV40およびpBlueScriptが挙げられる。他のプラスミドは、当業者には周知である。加えて、プラスミドは、制限酵素および連結反応を用いて特別設計して、特異的なDNA断片を除去および付加することができる。プラスミドは、さまざまな非経口経路、粘膜経路および局所経路により送達できる。例えば、DNAプラスミドは、筋肉内、皮内、皮下または他の経路により注射できる。DNAプラスミドは、鼻腔内用の噴霧剤または点鼻薬、直腸用の坐薬により、および経口的に投与してもよい。DNAプラスミドは、遺伝子銃を用いて表皮または粘膜表面中に投与してもよい。プラスミドは、水溶液の形で、金粒子上に乾燥させて、または別のDNA送達系(リポソーム、デンドリマー、コクリエート(cochleate)およびマイクロカプセル化を非限定的に含む)に連結させて、投与してもよい。
【0109】
あるいは、本発明は、さらに、骨塩密度の減少を伴う疾患を治療または予防する方法であって、それを必要とする対象にトロンボキサン阻害薬を投与するステップを含む方法を提供する。
【0110】
本発明における使用のために企図されるトロンボキサン阻害薬としては、例えば以下が挙げられる:2−(アセチルオキシ)−安息香酸、AA2414(セラトロダスト、(4−ヒドロキシ−(Z)−(2,4,5−トリメチル−3,6−ジオキソ−1,4−シクロヘキサジエン−1−イル)ベンゼンヘプタン酸)、AH2,848((1[α](Z),2[β],5[α])−(+−)−7−(5−(((1,1’−ビフェニル)−4−イル)メトキシ)−2−(4−モルホリニル)−3−オキソシクロペンチル)−4−ヘプテン酸)、BAY u3405(ラマトロバン、3R−((4−フルオロフェニル)スルホニル)アミノ)−1,2,3,4−テトラヒドロ−9H−カルバゾール−9−プロパン酸)、BM13177(スロトロバン、((4−(2−((フェニルスルホニル)アミノ)エチル)フェノキシ)−酢酸)、BM13505(ダルトロバン、(4−(2−(((4−クロロフェニル)スルホニル)アミノ)エチル)−ベンゼン酢酸)、BMS180291(イフェトロバン、((+)−1S−(1[α],2[α],3[α],4[α])−2−((3−(4−(n−ペンチルアミノ)カルボニル)−2−オキサゾリル)−7−オキサビシクロ)(2.2.1)ヘプタ−2−イル)メチル)ベンゼンプロポン酸(proponic acid))、シナモルヒリン(cinnamorphilin)((8R,8’S)−4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメトキシ−7−オキソ−8,8’−ネオリグナン)、CGS12970(3−メチル−2−(3−ピリジル)インドール−1−オクタン酸)、CGS15435、CGS22652(4−(((4−クロロフェニル)スルホニル)アミノ)ブチル)−3−ピリジンヘプタン酸)、CV4151((E)−7−フェニル−7−(3−ピリジニル)−6−ヘプテン酸)、ダゾキシベン(4−(2−(1H−イミダゾ−ル−1−イル)エトキシ)安息香酸)、ダズメグレル、DT−TX30((E)−6−(4−2−(4−クロロベンゼンスルホニルアミノ)エチル)フェニル)−6−(3−ピリジル)ヘキサ−5−エノン酸)、エトフィブレート(2−(2−(4−クロロフェノキシ)−2−メチル−1−オキソプロポキシ)−3−ピリジンカルボン酸エチルエステル)、EP045((1[α],2[β](Z),3[α],4[α])−7−(3−((((フェニルアミノ)カルボニル)ヒドラゾノ)メチル)ビシクロ(2.2.1)ヘプタ−2−イル)、EP092(7−((1S,2S,3S,4R)−3−(1−(3−(フェニルチオウレイドイミノ)エチル)ビシクロ(2.2.1)ヘプタン−2−イル)−5−ヘプテン酸)、F10171(1−(((5−(4−クロロフェニル)−2−フラニル)メチレン)アミノ)−3−(4−(1−ピペラジニル)ブチル)−2,4−イミダゾリジンジオン)、FCE27262((E)−(+−)−5−(((1−シクロヘキシル−2−(1H−イミダゾール−1−イル)−3−フェニルプロピリデン)アミノ)オキシペンタン酸)、Fl2845(カモングレル(camongrel)、2,3−ジヒドロ−5−(2−(1H−イミダゾ−ル−1−イル)エトキシ)インデン−1−カルボン酸)、FK070((5Z)−6−((2S,4R)−4−((4−クロロフェニル)スルホニル)アミノ)−1−(3−ピリジニルメチル)−2−ピロリジニル)−5−ヘキセン酸一水和物)、フレグレレート、GR32191(バピプロスト、(1R−(1[α](Z),2[β],3[β],5[α]))−(+)−7−(5−((1,1’−ビフェニル)−4−イルメトキシ)−3−ヒドロキシ−2−(1−ピペリジニル)シクロペンチル)−4−++++ヘプトン酸(heptonoic acid))、GR83783((+−)−(1[α](Z),2[β],5[β])−6−((2−(ヘキサヒドロ−1H−アゼピン−1イル)−5−((4−(4−プロピル−3−ピリジニル)フェニル)メトキシ)シクロペンチル)オキシ)−4−ヘキサン酸)、GR85305((5E)−6−(3−(2−((4−ヨードフェニル)スルホニル)アミノ)エチル)フェニル)−6−(3−ピリジニル)−5−ヘキセン酸)、GR108774((5E)−6−(3−(2−((4−ヨードフェニル)スルホニル)アムニノ(amnino))−1,1−ジメチルエチル)フェニル)−6−(3−ピリジニル)−5−ヘキセン酸)、IBI P−05006(2−(6−カルボキシヘキシル)−3−n−ヘキシルシクロヘキシルアミン)、イスボグレル((E)−7−フェニル−7−(3−ピリジニル)−6−ヘプテン酸)、ICI180080(5(Z)−7−(2,2−ジメチル−4−(2−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキサン−シス−5−イル)ヘプテン酸)、ICI192605((Z)−(2[α],4[α]5[α])−6−(2−(2−クロロフェニル)−4−(2−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキサン−5−イル)−4−ヘキセン酸)、KT2962(3−(4−(((4−クロロフェニル)スルホニル)アミノ)ブチル)−6−(1−メチルエチル)−1−アズレンスルホン酸一ナトリウム塩)、KY234((E)−11−(2−(5,6−ジメチル−1H−ベンズイミダゾール−1−イル)−6,11−ジヒドロ−ジベンズ(b,e)オキセピン−2−カルボン酸ナトリウム塩)、KW3635(ナトリウム(E)−11−(2−(5,6−ジメチル−1−ベンズイミダゾリル)エチリデン)−6,11−ジヒドロジベンズ(b,e)オキセピン−2−カルボキシレート一水和物)、リノトロバン(4−メチルベンゼンスルホネート−N−((フェニルメトキシ)カルボニル)−セリンエチルエステル)、L640035(ジベンゾ(b,f)チエピン−3−メタノール−5,5−ジオキシド)、L670596((−)−6,8−ジフロロ−2,3,4,9−テトラヒドロ−9−((4−(メチルスルホニル)フェニル)メチル)−1H−カルバゾール−1−酢酸)、L636499((5,5−ジオキシド−ジベンゾ(b,f)チエピン−3−カルボン酸)、L655240(3−メチル−1−((4−クロロフェニル)メチル)−5−フルオロ−[α],[α],−1H−インドール−2−プロパン酸)、ミダゾグレル、ON579((4−((2−(((4−クロロフェニル)スルホニル)アミノ)エチル)チオ)−2,6−ジフルオロフェノキシ)酢酸)、ONO3708((1S−(1[α],2[β](Z),3[α](S),5[α]))−7−(3−((シクロペンチルヒドロキシアセチル)アミノ)−6,6−ジメチルビシクロ(3.1.1ヘプタ−2−イル)−5−ヘプテン酸)、OKY046(塩酸オザグレル、(E)−3−(4−(1H−イミダゾール−1−イルメチル)フェニル)−2−プロペン酸モノヒドロクロリド)、OKY1555、OKY1580、OKY1581、(E)−2−メチル−3−(4−(3−ピリジニルメチル)フェニル)−2−プロペン酸ナトリウム塩)、S−145((+−)−(5Z)−7−(3−エンド((フェニルスルホニル)アミノ)ビシクロ(2.2.1)ヘプタ−2−エキソ−イル)ヘプテン酸)、ピコタミド(4−メトキシ−N−N’−ビス(3−ピリジニルメチル)−1,3−ベンゼンジカルボキサミド一水和物)、R68070(リドグレル、(E)−5−(((3−ピリジニル(3−(トリフルオロメチル)フェニル)メチレン)アミノ)オキシ)−ペンタン酸)、S−1452(ドミトロバン、(1R)−(1[α]2[α](Z),3[β],4[α]))−7−(3−((フェニルスルホニル)アミノ)ビシクロ(2.2.1)ヘプタ−2−イル)−5−ヘプテン酸)、SKF88046(N7−(3−クロロフェニル)−N2−((7−(((3−クロロフェニル)アミノ)スルホニル)−3,4−ジヒドロ−2(1H)−イソキノリニル)スルホニル)−3,4−ジヒドロ−2,7(1H)−イソキノールジスルホンアミド)、SQ27427(((1S)−(1[α],2[α](Z),3[α](1E,3R),4[α]))−7−(3−(3−シクロヘキシル−3−ヒドロキシ−1−プロペニル)−7−オキサビシクロ(2.2.1)ヘプタ−2−イル)−5−ヘプテン酸)、SQ28668((1[α],2[α](Z),3[α](1E,3S,4R),4[α]))−7−(3−(3−ヒドロキシ−4−フェニル−1−ペンチル)−7−オキサビシクロ(2.2.1)ヘプタ−2−イル)−5−ヘプテン酸)、SQ29548(((1S)−(1[α],2[β](5Z),3[β],4[α])−7−(3−((2−((フェニルアミノ)−カルボニル)ヒドラジノ)メチル)−7−オキサビシクロ(2.2.1)−ヘプタ−2−イル)−5−ヘプテン酸)、SQ30741(((1S)−(1[α],2[α](Z),3[α],4[α]))−7−(3−(((((1−オキソヘプチル)アミノ)アセチル)アミノ)メチ(methy))−7−オキサビシクロ(2.2.1)ヘプタ−2−イル)−5−ヘプテン酸)、SQ33961((1−エキソ,エキソ))−2−((3−(4−(((4−シクロヘキシルブチル)アミノ)カルボニル)−2−オキサゾリル)−7−オキサビシクロ(2.2.1)−ヘプタ−2−イル)メチル)ベンゼンプロパン酸)、TER930180(4−(1−(((4−クロロフェニル)スルホニル)アミノ)メチル)−4−(3−ピリジニル)ブチル)ベンゼンプロパン酸)、UK34787、UP11677(ミピトロバン([β],[β]−ジメチル−6−クロロ−3−((4−クロロフェニル)メチル)−3H−イミダゾ(4,5−b)ピリジン−2−ブタン酸)、Y20811、YM158((3−((4−tert−ブチルチアゾール−2−イル)メトキシ)−5’−(3(4−クロロベンゼンスルホニル)プロピル−2’−(1−テトラゾール−5−イルメトキシ)ベンザニリド一ナトリウム塩一水和物)、Z335((+−)ナトリウム(2−(4−(クロロフェニルスルホニルアミノメチル)インダン−5−イル)アセテート一水和物)、ZD1542(4(Z)−6−(2S,4S,5R)−2−(1メチル−1−(2−ニトロ−4−トリロキシ)エチル)−4−(3−ピリジル)−1,3−ジオキサン−5−イル)ヘキサ−4−酸)、ZD9583((4Z)−6−((2S,4S,5R)−2−(1−(2−シアノ−4−メチルフェノキシ)−1−メチルエチル)−4−(3−ピリジル)−1,3−ジオキサン−5−イル)ヘキサ−4−エノイクン酸(enoicn acid))。
【0111】
前記の化合物は「トロンボキサン阻害薬」と総称されるが、当業者であれば、特定の任意の化合物が、具体的にはトロンボキサンA2受容体拮抗薬であるか、トロンボキサン合成酵素阻害薬であるか、または二重作用性のトロンボキサン受容体拮抗薬であるか、およびトロンボキサン合成酵素阻害薬であるかを容易に認識できるであろう。
【0112】
二重作用性のトロンボキサン受容体拮抗薬およびトロンボキサン合成酵素阻害薬は、以下からなる群から選択してもよい:テルボグレル、ピコタミド、ならびに、EP0811621、EP0816361および米国特許第5,990,308号中で開示されているような化合物など、オキサゾールカルボキサミドで置換された[ω]−フェニル−[ω]−(3−ピリジル)アルケン酸の誘導体。テルボグレルは、式
【0113】
【化3】

のピリジン誘導体であり、
化学名は、(5E)−6−[3−[[(シアノアミノ)[(1,1−ジメチルエチル)アミノ]−メチレン]アミノ]フェニル]−6−(3−ピリジニル)−5−ヘキセン酸であり、例えばEP547517中に記載がある。
【0114】
別の適当なトロンボキサン合成酵素阻害薬は、TXASの選択的な阻害薬として作用する1−アルキルイミダゾール誘導体であるオザグレルであり、IC50は11nMである。オザグレルは以下の通りの式を有する:
【0115】
【化4】

【0116】
適当なトロンボキサン阻害薬は、WO01/87343,JP7179425、JP62010072、JP2004043380、US5,468,757、US5,550,118、US5,604,236およびUS5,246,956中にも記載があり、これらの開示内容は、参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる。
【0117】
本発明の化合物は、薬学上許容される賦形剤、および場合により徐放性のマトリックス(生分解性ポリマーなど)と組み合わせて、治療用組成物を形成してもよい。
【0118】
経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所または経直腸での投与用の本発明の医薬組成物では、活性成分は、単独で、または別の活性成分と組み合わせて、従来の医薬担体との混合物として、動物およびヒトに単位投与形態で投与できる。適当な単位投与形態は、錠剤、ゲルカプセル、粉末、顆粒および経口用の懸濁液または溶液などの経口経路形態、舌下投与およびバッカル投与用の形態、噴霧剤、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、真皮下、経皮、くも膜下腔内および鼻腔内の投与形態および経直腸投与形態を含む。
【0119】
好ましくは、この医薬組成物は、注射可能な製剤用に薬学上許容される媒体を含有する。これらは、とりわけ、等張性で滅菌済の生理食塩溶液(リン酸一ナトリウムもしくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムもしくは塩化マグネシウムなど、またはそのような塩の混合物)、または、場合により、滅菌済の水もしくは生理食塩水を加えると注射可能な溶液が構成できる乾燥、特に凍結乾燥させた組成物であってもよい。
【0120】
注射剤用途に適した医薬形態としては、滅菌済の水溶液または分散系;ゴマ油、ピーナッツ油または水性プロピレングリコールを含む製剤;および注射用の滅菌済の溶液または分散系を即席調製するための滅菌済の粉末が挙げられる。全ての場合において、この形態は、滅菌済でなければならず、容易に注射できる程度に流動性でなければならない。この形態は、製造条件および保管条件下で安定でなければならず、細菌および真菌など微生物の汚染作用を受けないように維持されなければならない。
【0121】
遊離塩基としての本発明の化合物または薬理学上許容される塩を含む溶液は、水中で、適切には、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性物質と混合して調製できる。分散系は、グリセロール中、液体ポリエチレングリコール中およびその混合物中ならびに油中でも調製できる。普通の保管条件および使用条件下では、こうした調製品は、微生物の成長を予防するために保存剤を含有する。
【0122】
本発明の化合物は、中性形態または塩形態の組成物に製剤できる。薬学上許容される塩としては、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基で形成される)が挙げられ、このような塩は、例えば、塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸で形成される。遊離カルボキシル基で形成される塩は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムまたは水酸化酸化鉄などの無機塩基、および、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導することもできる。
【0123】
担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、適当なその混合物および植物油を含有する溶媒または分散媒であってもよい。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散系の場合には必要な粒子サイズの維持により、および、界面活性物質の使用により、維持できる。微生物作用の予防は、多様な抗微生物剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどにより達成できる。多くの場合、等張性の作用剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含ませることが好ましいと考えられる。注射用組成物の吸収の持続は、吸収を遅らせる薬剤の組成物、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの中での使用により達成できる。
【0124】
滅菌済の注射用溶液は、活性ポリペプチドを必要な量で、必要に応じ、上に列挙した多様な他の原料と共に適切な溶媒中に組み込み、次いで濾過による滅菌により調製する。一般に、分散系は、滅菌済の多様な活性成分を、基礎となる分散媒および上に列挙したもののうち必要な他の原料を含有する滅菌済の媒体中に組み込むことにより調製する。滅菌済の注射用溶液を調製するための滅菌済粉末の場合に、好ましい調製方法は、活性成分に、予め滅菌濾過しておいたその溶液に由来する追加的な所望の任意の原料を加えた粉末を得る、真空乾燥法および凍結乾燥法である。
【0125】
製剤時には、溶液は、剤形と適合する様式および治療上有効であるような量で投与されることになる。この製剤は、前述した種類の注射用溶液などさまざまな剤形で容易に投与されるが、薬物放出カプセルなどを採用することもできる。
【0126】
水溶液の形態での非経口投与の場合は、例えば、溶液は、必要に応じ適切に緩衝化され、液体希釈剤をまず、十分な生理食塩水またはグルコースで等張性にすべきである。こうした特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内の投与に特に適している。この関係においては、採用できる滅菌済の水性媒体は、本開示に照らせば当業者にはわかるであろう。例えば、1回の用量は、等張性のNaCl溶液1ml中に溶解させることができると考えられ、皮下注入液1000mlに加えるか、または、提案される注入部位で注射するか、いずれかとする。ある程度の用量の差異は、治療される対象の状態に応じ、必ず生じるであろう。投与の責任者は、いかなる事象においても、個々の対象について適切な用量を決定することになろう。
【0127】
本発明の化合物は、治療用混合物内で製剤して、1回用量当たり、約0.0001〜1.0ミリグラム、または約0.001〜0.1ミリグラム、または約0.1〜1.0またはさらには約10ミリグラムほどを含んでもよい。複数回用量を投与することもできる。
【0128】
静脈内注射または筋肉内注射など非経口投与用に製剤される本発明の化合物に加え、薬学上許容される他の形態としては、例えば、錠剤、または、経口投与用の他の固体、リポソーム製剤、時間放出カプセル、および、現在使用されている他の任意の形態が挙げられる。
【0129】
スクリーニング法:
本発明は、骨塩密度関連の疾患の治療に有用である可能性のある候補化合物(例えば、ポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは小分子または他の薬物)をスクリーニングする方法も提供する。
【0130】
より詳細には、本発明は、以下からなるステップを含む、骨塩密度の増加を伴う疾患の治療に有用である可能性がある化合物をスクリーニングする方法を提供する:
a)候補化合物を供給するステップ、
b)前記候補化合物の能力を測定してTXASの活性を高めるステップ、
c)TXASの活性を高めることが可能な候補化合物を選別するステップ。
【0131】
あるいは、本発明は、以下からなるステップを含む、骨塩密度の減少を伴う疾患の治療に有用である可能性がある化合物をスクリーニングする方法を提供する:
a)候補化合物を供給するステップ、
b)前記候補化合物の能力を測定してTXASの活性を阻害するステップ、
c)TXASの活性を阻害することが可能な候補化合物を選別するステップ。
【0132】
次に、本発明の方法により同定される候補化合物を細胞モデル中でテストできる。例えば、候補化合物は、実施例に記載の方法により、初代培養物である骨芽細胞中で、オステオプロテゲリン(OPG)、および、NF−κBの受容体アクチベーターのリガンド(RANKL)の発現を調節する能力についてテストしてもよい。
【0133】
本発明の候補化合物は、当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多数のアプローチのいずれかを用いて入手でき、そうしたライブラリー法としては以下が挙げられる:生物学的ライブラリー、空間的にアドレス可能な平行固相または液相ライブラリー、デコンボリューションが必要な合成ライブラリー法、「1ビーズ1化合物」ライブラリー法、および、親和性クロマトグラフィーによる選別を用いる合成ライブラリー法。生物学的ライブラリーによるアプローチはペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つのアプローチは、化合物のペプチド、非ペプチドオリゴマーまたは小分子ライブラリーに適用可能である。
【0134】
以下の図および実施例に照らして、本発明をさらに例証することとする。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】罹患個体の家系図および骨格X線写真である:(a)この試験の4家族の罹患個体は、(b)にはっきりさせてある。GHDDにおける骨密度の増加は、骨幹の病変、異常な長骨モデリングおよび皮質性過骨症を特徴とする。
【図2】TXAS/TXA2は、RANKL経路を調節する:(a)アラキドン酸(AA)カスケードの図である。AAは、3段階で動員される:a)ホルモンまたはストレスにより活性化されたAAが、ホスホリパーゼ(A2およびC)により、細胞の脂質二重層のω−6脂肪酸から動員される、b)シクロオキシゲナーゼ(COX)1および2により、AAがプロスタグランジン(PG)H2に変換される、c)個々の合成酵素により、小胞体内腔上のPGH2が、プロスタノイドと呼ばれる生物学的に活性な最終産物(すなわち、PGI2、PGD2、PGE2、PGF2αおよびTXA2)を異性化させる。抗炎症性および抗血栓性の活性を有するエイコサペンタン酸であるTXA3は、脂質二重層のω−3脂肪酸の動員から産生される。(b)RANKLおよびOPGの発現試験のグラフである。骨芽細胞におけるリアルタイム定量PCR試験から、オザグレルによるTXASの阻害に次いで、RANKLの減少およびOPGのmRNAレベルの増大が示された。対照的に、TXA2の類似体であるCTA2は、RANKLの増大およびOPGのmRNAレベルの減少をもたらした。(c)破骨細胞の分化/活性化の誘導におけるTXA2の仮定される作用の概略図である。TXA2は、RANKLを増加させ、骨中のOPG発現を少なくとも自己分泌様式で減少させる。
【図3】ヒトトロンボキサン合成酵素(TXAS)の概略図である。(a)GHDD家族において検出された突然変異の位置を赤および緑色で示す。(b)TXASの三次元のSwiss−Pdb Viewer図である。突然変異した4つの残基は、7つのβシートの1つ(アミノ酸83、緑色)、ヘムおよび酵素窩の付近(アミノ酸413および482、赤)中およびαヘリックス(アミノ酸488、緑色)中に位置していた。(c)482位におけるアミノ酸のファンデルワールス体積のSwiss−Pdb Viewer図である。グリシン(左)は、家族3(右)においてトリプトファンに変化した。触媒部位(ヘム、青色)付近での立体障害の変化に注目。
【図4】TBXAS1の発現プロファイル:ヒト骨芽細胞(OB)、破骨細胞(OC)、軟骨細胞、筋肉、ヒトリンパ芽球腫細胞株および皮膚線維芽細胞におけるRT−PCRの写真である。Ψ=DNAラダー。
【図5】血小板試験:(a)対照(左)および患者(右)における血小板凝集プロファイルを示すグラフである。色は、多様な刺激に対応する。中間のアラキドン酸濃度(AA、緑色)では凝集プロファイルの障害が観察されたが、トロンボキサン受容体拮抗薬であるU46619を使用すると、正常な血小板凝集(薄い青色)がもたらされた。(b)多様な刺激下での血小板エキソサイトーシス試験を示すグラフである。AAにより誘導されたP−セレクチン発現は劇的に減少した(p<0.005)が、TRAP、ADPおよびU46619により誘導されたP−セレクチン発現は、対照と同等であった。
【0136】
【表1】

【0137】
【表2】

【実施例】
【0138】
<実施例1>
材料および方法:
罹患個体:本発明者らは、近親交配の4家族に属する10名の罹患個体を試験した。試験組入れのための診断基準は以下の通りであった:i)輸血が必要な重度の貧血、およびii)骨密度の増加、異常な長骨モデリング、皮質性過骨症、ならびに、正常な骨幹端および骨端を有する、骨幹の異形成症など骨格の変化。DNA試料は、署名を伴うインフォームドコンセントの後に採取した。
【0139】
突然変異検出:一連のイントロンプライマー17種を設計して、TBXAS1遺伝子の非コードエキソン4種およびコードエキソン13種を増幅させた。増幅産物を精製し、蛍光ジデオキシターミネーター法を用いて自動配列決定装置(ABI3100)で配列決定した。
【0140】
RT−PCR:ヒトの筋肉、初代培養細胞(骨芽細胞、軟骨細胞および線維芽細胞)、ならびに、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いて臍帯血細胞を破骨細胞に分化転換させたものから、全RNAを抽出した。製造者のプロトコール(GeneAmp RNA PCR Core Kit、Roche)を用いて、MuLV逆転写酵素の存在下でランダムヘキサマーとプライミングすることによりcDNAを合成した。60℃のアニーリング温度でPCRを合計30サイクル実施して、スプライシングされることがわかっているエキソン12種を含む、TBXAS1に特異的な772−bp断片を増幅させた(要求に応じたプライマー配列を入手可能)。
【0141】
三次元構造:ヒトトロンボキサン合成酵素(アイソフォームTXS−I)の三次元構造を、Swiss−Modelプログラムを最適化された様式で用いて、比較モデリング法およびエネルギー最少化によりモデル化した(Schwede,Tら、2003)。TXASと5つのテンプレート(1W0F、1TQN、2j0C、1OG5および1BVYについて、それぞれ、41.31%、40.01%、37.52%、27.72%および33.24%)との間の同一性の程度から、これらのテンプレートのX線座標を用いた、ヒトTXASの構造のモデル化が可能になった。構造モデル用のテンプレートとして、2.65Å(PDBは1W0Fをコードする)、2.05Å(1TQN)、2.80Å(2J0C)、2.55Å(1OG5)および2.03Å(1BVY)の座標セットを使用した。全体の折畳みは、構造的に確立されたP450タンパク質にかなり類似していたが、但し、2つの領域(アミノ酸260〜277および295〜330)については、構造情報がないことから例外であった。提示された配列の残基32〜534を使用して、モデルを構築した。Swiss−Pdb Viewer3.7を使用して、構造を可視化し、TXAS突然変異への構造洞察を分析した。
【0142】
トロンボキサンレベルおよびプロスタグランジンE2レベル:AA誘導前後の多血漿血小板におけるTXB2およびPGE2の産生の新規レベルを、酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)(Cayman chemical ref 519031.1および514010.1、Ann Arbor、MI)により、家族1の患者II1およびII2において直接定量し、性別および年齢のマッチ対照と比較した。Revelation software V4.22(Dynec technology)を用いてELISAデータを分析した。
【0143】
血小板凝集テスト:測光法を用いることにより4チャネルの血小板凝集計(Regulest、Amneville、フランス)で、採血の2時間以内に37℃で凝集試験を実施した(Dupont,A.ら、2003)。手短に言えば、一定分量280μLの多血小板血漿を37℃で3分間インキュベートしてから、1100rpmで2分間撹拌した後、生理食塩水20μLを加えるか、または、以下の作動薬を続いて加えた:1.5、0.75および0.375mmol/Lのアラキドン酸(Helena)、2、5および10μmol/LのADP(Sigma Aldrich)、1.5μmol/LのU46619(Calbiochem)およびコラーゲン1μg/mL(Horm)。作動薬を加えると血小板が凝集することにより、光透過率が増加する結果となり、これを5分間記録する。凝集は、基準(任意に100%)として貧血小板血漿を用い、ベースラインからの光透過率の最大変化率(%)として表した。
【0144】
フローサイトメトリーによる血小板糖タンパク質および血小板活性化の分析:製造者の取扱説明書に従い、FACSCalibur血球計数器(Becton Dickinson)を用い、Platelet GP Receptors(Biocytex)を用いて、活性化前後にフローサイトメトリーにより多血漿血小板中での血小板糖タンパク質GPIb(CD42b)、GPIIIa(CD61)およびP−セレクチン(CD62P)の表面発現を実施した(Hezard,N.ら、2003)。TRAP(50μM、25μM、12.5μM、NeoMPS)、アラキドン酸(0.5mg/mL、Sigma)、U46619(5μM、VWR Calbiochem)を使用して活性化を達成した。結果は、患者の血小板表面での平均蛍光強度(MFI)の、同じ条件で試験した対照の表面でのMFIと比較した比率(%)の形で表す。作動薬により誘導されたP−セレクチン発現の変化をMFIで表す。
【0145】
骨芽細胞の培養およびリアルタイム定量PCR:署名を伴うインフォームドコンセントの後、頭蓋癒合症の日常的な外科手術の間に、ヒトの正常な頭蓋縫合線を採取した。別の箇所で説明するように、ダルベッコ変法イーグル培地(10%ウシ胎仔血清を添加)中で骨芽細胞を培養した(De Pollack,C.ら、1996)。培養培地中に0.25μM(IC50は11nM)でオザグレル(Cayman Chemical)を3日間毎日加え、CTA2(Cayman Chemical)を、1日目に培養培地中に2通りの濃度(5μMおよび15μM)で加えた。細胞は3日目に回収した。各試料中のOPGおよびRANKLのmRNAについて、Light Cycler技術(Roche Manheim)を用いてリアルタイム定量PCRを実施した。実験は5回実施した。各実験においては、試料を3回ずつ試験した。OPGおよびRANKLのmRNAの量をβ−アクチンのmRNAの量に正規化した。P値の定量にはスチューデント検定を用いた。
【0146】
結果:
GHDD(OMIM231095)は、主要な骨幹の病変および無再生性の皮質感受性貧血を伴う骨密度増加(IBD)障害を特徴とする稀な常染色体劣性障害である(Ghosalら、1988)。アルジェリアおよびチュニジア出身の血縁のGHDDの2家族を試験して、本発明者らは、最近、染色体7q33〜q34に疾患遺伝子をマッピングした(Isidor B.ら、2007)。ここに、本発明者らは、これらの家族、ならびに、チュニジアおよびパキスタンを起源とするさらなる2家族においては、GHDDの原因はトロンボキサン合成酵素遺伝子(TBXAS1)の突然変異であるものとする(図1)。
【0147】
IBDは、骨吸収と骨形成との間の不均衡が原因である。ヒトの3.84Mb領域の36個の遺伝子のうち、本発明者らは、まず、その機能により25個の遺伝子について検討し、直接配列決定によりそれらを除外した。TBXAS1は、ヒトにおける軽度の出血障害に関与していると考えられる(Mestel F.ら、1980;Weiss HJ.ら、2002)が、この遺伝子は、その後、破骨細胞の動員において関与が推定されることに基づき候補遺伝子とみなされた(Gruber R.ら、2002)。TBXAS1(エキソン17種、非コードエキソン4種およびコードエキソン13種)は、60kDAの膜貫通型トロンボキサン合成酵素(TXAS)をコードするが、モノオキシゲナーゼ活性をもたないことから、チトクロムp450スーパーファミリーの非定型構成要素とみなされる。TXASは、アラキドン酸(AA)カスケードの終末酵素の1つであり、小胞体内腔中でプロスタグランジン(PG)H2をトロンボキサンA2(TXA2)に変換する。TXA2は、ほぼ全ての細胞により産生され、炎症、血管収縮/血管拡張、凝固、疼痛および発熱に関与するエイコサノイドの群に属する(Shen RF.ら、1998)。エイコサノイドは、シクロオキシゲナーゼ(COX1〜2)によるAAの変換(脂質二重層のω−6脂肪酸から)、および個々の合成酵素による生物学的に活性な最終産物への異性化により産生される(Shen RF.ら、1998)(図2a)。TXA2は、血小板凝集の強力な誘導因子であり、血管/呼吸器の平滑筋の収縮因子である。
【0148】
TBXAS1遺伝子の直接配列決定により、GHDDの4家族全てにおいて異なるホモ接合ミスセンス突然変異が検出された(c.1463T>C、c.248T>C、c.1444G>Tおよびc.1238G>A、図1、図3および表1)。この突然変異には、種を超えて保存されたアミノ酸が含まれており、3/4は、ヘム結合領域中に含まれる残基の近くに位置していた。こうしたアミノ酸は、疾患と同時分離し、210個の対照染色体中では同定されなかった。RT−PCR分析により、ヒトの骨芽細胞(OB)、破骨細胞(OC)、軟骨細胞、筋肉、リンパ芽球腫の細胞株において、また、程度は低いが皮膚の線維芽細胞においても、TBXAS1転写物が検出された(図4)。
【0149】
TXASは内因性の膜タンパク質であるため、精製には界面活性剤処理が必要であり、その構造分析は、達成が難しい。したがって、突然変異の機能的な結果は、他のP450ファミリーの構成要素が有するTXAS配列の配列比較を介した三次元構造モデリングにより調査した。得られたモデルを、Swiss−Pdb Viewer図として示す(図3a)。突然変異した4つの残基は、7つのβシートの1つ(アミノ酸83)、ヘム付近の中、酵素窩(アミノ酸413および482)中およびαヘリックス(アミノ酸488)中に位置していた。
【0150】
TXA2は、血小板凝集において主要な役割を果たす((Shen RF.ら、1998)ことから、本発明者らは、本試験の患者における一次止血を調査した。外科手術後の突発性または過剰な出血歴は報告されず、患者II2、II3およびII6(それぞれ、家族1、2および3)における一次止血は正常であった(Ivyテスト)(表1)。家族1の患者II2は、血小板凝集分析に適格であったが、その理由は、この男性は、凝集テストを妨げる恐れのある薬物適用を一切受けていなかったからである。中間のAA濃度(4%)を用いて凝集プロファイルの障害を観察したが、年齢および性別のマッチした2つの対照により、それぞれ80%および90%の値が示された(図5a)。低濃度または高濃度のAAのいずれかおよび他の作動薬により誘導された凝集は、患者II2および対照において同様の結果となった。とりわけ、TXA2受容体の特異的な作動薬であるU46619により誘導された凝集は、患者II2(家族1)において正常であった。本発明者らは、異なる刺激下での血小板エキソサイトーシスも試験した。活性化に先立つ血小板GPIb、GPIIIaおよびP−セレクチンの発現は、5名のGHDD患者において正常な範囲であった(75〜156%、データは示していない)。最後に、本発明者らは、3名のGHDD患者における多様な刺激前後のP−セレクチン発現を試験した。AAにより誘導されるP−セレクチン発現は劇的に減少した(p<0.005)が、TRAP、ADPおよびU46619により誘導されるP−セレクチン発現は、対照と同等であった(図5b)。
【0151】
多血漿血小板(PRP)におけるTXB2およびPGE2のELISAアッセイから、対照と比較して、AA誘導前の患者においてはTXB2レベルが低く、AA誘導後のTXB2レベルはあまり変化していない(それぞれ100倍および200倍低い)ことが明らかになった。対照的に、AA誘導前のPRP PGE2レベルは、対照と比較して患者において高く、広範なばらつきがあった(対照より5〜18倍高かった)。興味深いことに、AA誘導への応答は、対照におけるよりGHDD患者のPRPにおけるほうが強かった(表2)。
【0152】
GHDDにおけるIBDの機序を解明するため、本発明者らは、正常なヒトの縫合線に由来する初代培養した骨芽細胞(OB)におけるRANKL(NF−κBの受容体アクチベーターのリガンド)およびオステオプロテゲリン(OPG)の発現に対するTXASおよびTXA2の役割を調査した。TXASの特異的な阻害薬であるオザグレルを培養培地に加えると、対照値と比較して、RANKL発現は劇的に減少したが、OPG発現は増加した(それぞれ、−78%、p<0.005、および、+50%、p<0.005)。TXA2の安定類似体であるCTA2を加えると逆の効果があり、RANKLは増加し(5μMおよび15μMでそれぞれ、+94%、p<0.005、および、+471%、p<0.03)、OPG発現は減少した(5μMおよび15μMでそれぞれ、−40%、p<0.005、および、−53%、p<0.005)(図2b)。
【0153】
ここに、本発明者らは、骨の異常と血液学的な異常とが組み合わさったヒト障害におけるTBXAS1の突然変異を同定したことを報告する。4つのミスセンス突然変異には、酵素活性にとってきわめて重大なアミノ酸が含まれていた。家族3(p.Arg413Glu)にも含まれている413位のアルギニン(p.Arg413Lys)の変化は、酵素のヘム含有量の低下(30%)を伴い、TXAS活性の低下(1%)の主な原因となることが示されている(Hsu PY.ら、2000)。突然変異p.Gln482Trp(家族4)は、触媒部位付近で、立体障害度の低い脂肪族アミノ酸を立体障害度の高い芳香族酸に変化させた。立体障害のそのような変化は、酵素/基質複合体(すなわち、TXASおよびPGH2)の相互作用を変化させることがある(図3b)。最後に、83位(βシート)および488位(αヘリックス)においてロイシンがプロリンに変化すると、TXASの四次構造中にコイルが導入されることがある。
【0154】
GHDD患者には出血の問題は一切ないが、in vitro試験から、おそらくTXAS酵素活性の低下およびTXA2産生欠損が原因で、AA誘導後は血小板凝集が起こらないことが明らかになり、このことから、TXA2は血小板凝集の主要因子であることが確認された。しかし、本試験の患者において出血障害がないことから、血小板凝集についての機序は非常に豊富であることが示唆される。同様に、マウスにおいてtbxas1が無効化しても突発性の出血障害には至らず、特徴は、トロンビンおよびコラーゲンにより誘導される、TXA2とは無関係の血小板凝集によるものとされる(Yu IS.ら、2004)。
【0155】
動脈高血圧症においては高いレベルのTXA2が観察される(Shen RF.ら、1998)が、この試験の患者の血圧は正常であった(表1)。
【0156】
無再生性の皮質感受性貧血および炎症は、GHDD患者において観察されるまた別の特徴である。この特徴は、高いPGE2レベルに関連があると考えられる。事実、PGE2は、炎症など多様な細胞機能に関与しており(Davies P.ら、1984)、in vitro試験から、後の赤血球前駆体細胞の成長を抑制する能力を有することが示されている(Taniguchi S.ら、1989)。しかし、貧血および炎症は、全患者において一貫して観察されるものではなく、重症度において相当なばらつきがある。このばらつきは、個体間におけるPGE2産生のばらつきに関連があると考えられる。
【0157】
IBDはGHDDにおける主要な特徴であることから、TXAS/TXA2は、未だ明らかになっていない機能、すなわち骨のリモデリングにおいても主要な役割を果たすと仮定できる。エイコサノイドは、骨格の代謝において重要な生理的/病理学的役割を有する(Pilbeam CC.ら、2002)。その中でも、PGE2は、骨吸収を刺激すると共に、とりわけ皮質骨量も高めることが公知であり、このことから、EP2およびEP4受容体に依存している、PGE2に誘導される骨リモデリングの複雑な機序が示唆される(Raisz LG.ら、2003)。加えて、ヒトにおける長期のPGE2注入は、用量依存的な過骨症の原因となる(Jorgensen HR.ら、1988)。
【0158】
TXA2(CTA2)の安定な類似体は、骨芽細胞のRANKL経路を介した骨髄培養物中での破骨細胞の動員および成熟にも関与している(Gruber R.ら、2002)。本発明者らのデータから、i)CTA2は、用量応答の様式で、RANKLを増加させ、OPGレベルを減少させること、および、ii)オザグレルによりTXASを阻害すると、反対の効果がもたらされることが示される(図2b)。RANKL/OPG発現とTXAS活性の間に直接の結び付きがあるという知見は、TXA2が、骨芽細胞において自己分泌の様式で破骨細胞の分化/活性化の誘導を制御するという見解を支持する(図2c)。骨リモデリングに及ぼすTXAS/TXA2の効果に加え、個体間のPGE2産生のばらつきも、GHDDにおける骨の兆候のばらつきの原因となると考えられる。
【0159】
IBDの原因となる遺伝子のほとんどは、破骨細胞および骨芽細胞の機能/分化に関与している。興味深いことに、こうした遺伝子のいくつかは、骨塩密度の差異における候補遺伝子とみなされる(Ralston SH.ら、2006)。さらに、エストロゲンおよびプロゲステロンは、トロンボキサン受容体の発現を低下させるが、栄養法における過剰な量のω−6脂肪酸は、骨粗鬆症を引き起こすと考えられる(Watkins BA.ら、2001)。したがって、トロンボキサン合成酵素は、骨塩密度の差異および骨粗鬆症の病因に関与している。結論として、GHDDにおけるTBXAS1の突然変異の同定により、ピーク骨量の差異に大きな影響を及ぼす、骨リモデリングにおけるTXAS/TXA2の未だ明らかになっていない機能が実証される。
【0160】
<実施例2>
この実施例では、骨塩密度の減少を伴う疾患を治療する能力について、多様なモデルおよびヒト患者においていくつかのトロンボキサン阻害薬をテストする。
【0161】
トロンボキサン阻害薬
・オザグレルは、トロンボキサン合成酵素阻害薬である(Cayman Chemical)。これを800mg/日の用量で成人に経口投与する。
【0162】
・ピコタミドは、二重作用性のトロンボキサン受容体拮抗薬であり、トロンボキサン合成酵素阻害薬である(Plactidil(登録商標)、Novartis製)。これを、600mgの用量で1日2回、成人に経口投与する。
【0163】
・セラトロダストは、トロンボキサン受容体拮抗薬である(Takeda,Abott)。これを、80mg/日で成人に経口投与する。
【0164】
骨塩密度の減少を伴う疾患
1)in vitroモデル
ヒト骨芽細胞の初代培養物を、トロンボキサン阻害薬がある条件またはない条件で培養する。
【0165】
以下の変数を測定する:
・TCB2レベルをELISAによりアッセイする、
・RANKL/OPGレベルを定量PCRによりアッセイする、
・PALレベル、
・骨芽細胞の細胞成長。
【0166】
2)動物モデル:卵巣切除ラット
この動物モデルは、女性の骨粗鬆症、閉経後骨粗鬆症の最も頻繁な原因をモデル化するために頻繁に使用される。
【0167】
最低6カ月の年齢の雌のラット(1群当たり6匹)を、卵巣切除して、異なる処置に供する:未処置群、ラロキシフェン(Evista(登録商標))およびビスホスホネート、骨粗鬆症のための基準処置で処置した対照群、オザグレル処置群、ピコタミド処置群、セラトロダスト処置群。これらの群を、以下の変数について、非卵巣切除群と比較する:
・骨密度測定(BD)
○定量的コンピューター断層撮影法(QCT)により測定する骨密度測定。このテストは、容積測定BD(1cm当たりのヒドロキシアパタイトのグラム数で表される)、および骨形状(直径、皮質厚、皮質および骨梁部分の表面)を測定する;
○DXAタイプの密度測定(二重エネルギーX線吸収測定法)。このテストは、表面BD(1cm当たりのグラム数で表される)を測定する。
【0168】
・骨梁の組織構造。
【0169】
・骨芽細胞増殖(初代培養物において)。
【0170】
・骨芽細胞機能(初代培養物において)。
【0171】
・カルシウム取込み(初代培養物において)。
【0172】
3)臨床試験
Cochin/Lariboisiere、Paris、フランスのBone Disease Reference Center(「Centre de Reference Maladie Osseuse」)からの患者のコホートを、処置群(プラセボ、Evista(登録商標)およびビスホスホネートの基準処置、オザグレル、ピコタミドまたはセラトロダスト)にランダムに割り付ける。
【0173】
DXAタイプの密度測定により、処置の有効性を評価する。
【0174】
要するに、これらの試験から、トロンボキサン合成酵素阻害薬は、骨密度の減少を伴う疾患の治療に首尾よく使用できることが実証される。
【0175】
参考文献:
本出願を通して各種の参考文献が本発明が関連する技術を記載している。これらの参考文献の開示は、参照により本発明の開示に組み込まれる。
【表3】

【0176】
【表4】

【0177】
【表5】

【0178】
【表6】

【0179】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
TBXAS1遺伝子の突然変異を検出することを含む、対象における骨塩密度関連の疾患または骨塩密度関連の疾患のリスクを診断または予測する方法であって、前記突然変異の存在が骨塩密度関連の疾患または骨塩密度関連の疾患のリスクの指標となり、前記対象から採取した核酸試料においてTBXAS1の突然変異を検出するステップを含む方法。
【請求項2】
前記骨塩密度関連の疾患が、骨塩密度の増加を伴う疾患であり、前記TBXAS1遺伝子の前記突然変異が前記トロンボキサン合成酵素活性の減少を伴う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
骨塩密度の増加を伴う前記疾患がゴサール血液骨幹異形成症候群である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記突然変異が、1463T>C、248T>C、1444G>Tおよび1238G>Aからなる群から選択される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記突然変異が、結果としてトロンボキサン合成酵素(TXAS)のLeu488Pro突然変異体、Leu83Pro突然変異体、Gly482Trp突然変異体およびArg413Glu突然変異体になる突然変異からなる群から選択される、請求項2または3に記載の方法。
【請求項6】
前記骨塩密度関連の疾患が、骨塩密度の減少を伴う疾患であり、前記TBXAS1遺伝子の前記突然変異が前記トロンボキサン合成酵素活性の増加を伴う、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
骨塩密度の減少を伴う前記疾患が、骨粗鬆症、骨形成不全症、骨転移、初期の骨癌および骨肉腫からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
骨塩密度の減少を伴う前記疾患が骨粗鬆症である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
骨塩密度の増加を伴う疾患を治療または予防するための、TXASをコードするポリヌクレオチド、TXAS、トロンボキサンA2またはその類似体からなる群において選択される化合物。
【請求項10】
ゴサール血液骨幹異形成症候群を治療または予防するための請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
骨塩密度の減少を伴う疾患を治療または予防するためのTBXAS1遺伝子発現阻害薬またはトロンボキサン阻害薬からなる群から選択される化合物。
【請求項12】
骨塩密度の減少を伴う疾患を治療または予防するための請求項11に記載の化合物であって、骨塩密度の減少を伴う前記疾患が、骨粗鬆症、骨形成不全症、骨転移、初期の骨癌および骨肉腫からなる群から選択される化合物。
【請求項13】
骨塩密度の減少を伴う前記疾患が骨粗鬆症である、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−507491(P2011−507491A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536471(P2010−536471)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【国際出願番号】PCT/EP2008/066880
【国際公開番号】WO2009/071661
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(599176506)アンセルム(アンスチチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル) (23)
【Fターム(参考)】