説明

高プロトン導電性ガラス

【課題】高プロトン導電性を維持しつつ、水分雰囲気における減量を抑え、水分雰囲気に対する耐久性を高めるのに有利な高プロトン導電性ガラス、これを製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】高プロトン導電性ガラスは、La23、Al23、P25系を主要成分とする高プロトン導電性ガラスであり、La23をbモル%、Al23をcモル%含み、且つ、bは1〜10モル%、cは0.05〜2モル%に設定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高いプロトン導電率を有する高プロトン導電性ガラス、その製造方法、燃料電池及び水素センサに関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン(水素イオン)による高い電気伝導をもつ、例えば室温で10-6Scm-1以上を示すような高プロトン導電性膜は、燃料電池などの隔膜(高プロトン導電性固体電解質)として、近年、有望視されている。高プロトン導電性膜を作製する方法として、通常のガラスの製法である溶融ー急冷法を用いて作製する方法も考えられる。ところが、従来のこの方法では高温で溶融するために、原料中の水分または水素イオンの大半が蒸発して失われるため、分子状の水及び水素イオンが極めて少なく、高プロトン導電性ガラスは得られない。そこで、いわゆるゾルーゲル法を用いて、低温合成によりリン酸ジルコニウム系などの高プロトン導電性ガラスを得る方法が研究されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平8−119612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記したゾルーゲル法を用いて高プロトン導電性ガラスを作製する場合には、作製過程に極めて長時間を要するうえ、作製途中にガラスに亀裂が入りやすいため、膜や板などは得られにくい。
【0004】
ところで、従来から実施されているガラスの製造方法は、前述したように溶融ー急冷法と言われる方法である。例えば、原料としてケイ砂、炭酸ソーダ、炭酸カルシウムなどの混合物を用い、これらを混合して溶融させた後、急冷固化させてガラスを得ることができる。この方法によれば、原料混合物を溶解させるために、その液相温度(融点)以上の高温に維持して調製する必要がある。
【0005】
そのため、原料混合物の付着水分、含有水分、または結晶水等による水及び水素イオンは、蒸発揮散してガラス中にほとんど残存しない状態となる。したがって、従来の方法では、高プロトン導電性を示すガラスを得られなかったのである。そこで、近年、このような高プロトン電導性ガラスを、半溶融法によりアルカリ土類金属と鉛及び亜鉛を含むリン酸ガラスにより実現する技術が本出願人により開発されている。このような特性をもつガラス合成ができたのは、非架橋酸素濃度を減少させ(なお、非架橋酸素の減少に伴って水素結合しているプロトン濃度が増加する)、かつ、ガラス中に多量の分子状水分子(プロトンのホッピング移動の点として働くと考えられる)の導入が成功したためであると推察される。
【0006】
しかしながら、このガラスは、高プロトン導電性をもつものの、水分に対する耐久性が必ずしも充分ではない。即ち、上記した高プロトン導電性ガラスの耐久性の悪い主な原因は、このガラス中には多量のオルトリン酸塩が存在し、ガラスを加湿雰囲気,水分雰囲気に長時間置くと、オルトリン酸塩化合物がガラス中から徐々に溶けでてくるためと考えられる。このため、高いプロトン導電性ガラスをそのまま、現在多くの研究分野から注目を浴びている固体電解質等の用途として用いるには、必ずしも充分ではない。例えば、燃料電池に用いられる固体電解質においては、ガラス中のオルトリン酸塩化合物が反応系に含まれる水分を吸収し、ガラス表面に析出する反応が加速度的に進み易くなり、この結果、燃料電池の特性を低下させるおそれがある。
【0007】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、高プロトン導電性を維持しつつ、水分雰囲気における減量を抑え、水分雰囲気に対する耐久性を高めるのに有利な高プロトン導電性ガラス、これを製造できる製造方法、燃料電池及び水素センサを提供することを課題とするにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、高プロトン導電性ガラスについて長年にわたり鋭意開発を進めている。そして、リン酸化物を主要成分とするガラス構成成分にLa23及びAl23を併有することで、高プロトン導電性を維持しつつ、水分雰囲気におけるガラスの安定性を向上させ得ることを知見し、試験で確認し、本発明を完成させた。水分雰囲気におけるガラスの安定性を向上させ得る理由としては、必ずしも明確ではないものの、La及びAlは共に3価の元素であり、ガラスの網目構造を強化するためであり、より多量の水を含み得る構造を形成するため、プロトン導電性が確保されるものと推察される。
【0009】
即ち、様相1の本発明に係る高プロトン導電性ガラスは、La23、Al23、P25を主要成分とする高プロトン導電性ガラスであり、La23をbモル%、Al23をcモル%含み、且つ、bは1〜10モル%、cは0.05〜3モル%に設定されていることを特徴とするものである。
【0010】
様相2の本発明に係る高プロトン導電性ガラスの製造方法は、アルカリ土類金属を含む化合物と、La成分を含む化合物と、Al成分を含む化合物と、液状リン酸を主要成分とする溶媒とを用意する工程と、液状リン酸を主要成分とする溶媒と前記化合物とを混合し、その混合物を300℃〜1000℃の範囲内に加熱して融液とする工程と、前記融液を冷却固化させる工程とを順に実施し、前記した各様相のうちのいずれかに記載の高プロトン導電性ガラスを製造することを特徴とするものである。上記したLa成分を含む化合物、Al成分を含む化合物としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物の1種または2種以上が挙げられる。
【0011】
様相3の本発明に係る燃料電池は、プロトン導電性を有する電解質相と、電解質相の片側に設けられ発電用燃料が供給される燃料極と、電解質相の他の片側に設けられ発電用酸化剤が供給される酸化剤極と、発電用燃料を燃料極に供給する燃料供給部と、発電用酸化剤を酸化剤極に供給する酸化剤供給部とを具備する燃料電池において、電解質相は、上記した各様相のいずれかに係る高プロトン導電性ガラスで構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
様相4の本発明に係る水素センサは、プロトン導電性を有する電解質相と、電解質相の片側に設けられ第1水素含有物質が供給される第1電極と、電解質相の他の片側に設けられ第2水素含有物質が供給される第2電極とをもち、第1水素含有物質と第2水素含有物質との間の水素濃度に基づく起電力を生じさせる水素センサにおいて、電解質相は、上記した各様相のいずれかに係る高プロトン導電性ガラスで構成されていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明において、La23及びAl23の双方が配合されていると、図1及び図2に示す試験結果で示すように、プロトン導電性を維持しつつ、水分雰囲気に対する耐久性を高めるのに有利となる。Al23については上記した配合量未満では、水分雰囲気におけるガラスの耐久性の向上効果が小さくなり、また上記した配合量を越えると、ガラスが生成されにくい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高プロトン導電性を維持しつつ、水分雰囲気における減量を抑え、水分雰囲気に対する耐久性を高めるのに有利な高プロトン導電性ガラス、これを製造できる製造方法を提供することができる。更に、高プロトン導電性を維持しつつ、水分雰囲気に対する耐久性を高めた電解質相を有する燃料電池及び水素センサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る高プロトン導電性ガラスは、La23、Al23、P25を主要成分としており、La23をbモル%、Al23をcモル%含み、且つ、bは1〜10モル%、cは0.05〜3モル%に設定されている。La及びAlは共に3価の元素であり、ガラスの網目構造を強化すると推察される。
【0016】
La23及びAl23について、上記した配合量未満では、水分雰囲気におけるガラスの耐久性の向上効果が小さくなる。Al成分については上記した配合量を越えると、ガラスが生成されにくくなる。
【0017】
他の配合成分によっても相違するものの、bとしては1〜8モル%、1〜7モル%、1〜6モル%、1.5〜4モル%、2〜4モル%を採用することができる。bの値については、上限値としては8モル%、7モル%、6モル%、5モル%、4モル%、3モル%を例示することができ、その上限値と組み合わせ得る下限値としては1.5モル%、2モル%、2.5モル%を例示することができる。cとしては0.05〜3モル%、0.1〜2.5モル%、0.1〜2モル%、0.2〜1.8モル%、0.2〜1.5モル%を採用することができる。cの値については、上限値としては2.5モル%、2モル%、1.8モル%、1.6モル%、1.4モル%を例示することができ、その上限値と組み合わせ得る下限値としては0.07モル%、0.1モル%、0.15モル%、0.2モル%を例示することができる。
【0018】
ここで、本発明に係る高プロトン導電性ガラスは、好ましくは、La23、Al23、P25の他にMO(Mはアルカリ土類金属)を主要成分とする。アルカリ土類金属であるMとしてはSr,Ba,Caのうちの少なくとも1種とすることができ、従って、MOとしてはSrO,BaO,CaOのうちの少なくとも1種とすることができる。アルカリ土類金属はガラス骨格を形成し、ガラスの構造を強化する役割を果たす。従って本発明によれば、BaO−La23−Al23−P25系、あるいは、SrO−La23−Al23−P25系、あるいは、CaO−La23−Al23−P25系の高プロトン導電性ガラスを採用することができる。他にはZnO、PbO等を含むことがある。
【0019】
本発明に係る高プロトン導電性ガラスは、aMO(Mはアルカリ土類金属)−bLa23−cAl23−dP25系の高プロトン導電性ガラスであり、aは19〜24モル%、bは1〜10モル%、cは0.05〜3モル%、dは70〜78モル%である形態を採用することができる。他の配合成分によっても相違するもののaは20〜24モル%、21〜23モル%を採用することができる。aの値については、上限値としては24モル%、23モル%、22モル%を例示することができ、その上限値と組み合わせ得る下限値としては20モル%、21モル%を例示することができる。
【0020】
他の配合成分によっても相違するものの、dは71〜77モル%、72〜76モル%である形態を採用することができる。dの値については、上限値としては77モル%、76モル%、75モル%を例示することができ、その上限値と組み合わせ得る下限値としては72モル%、73モル%、74モル%を例示することができる。なお、ガラスは半ガラスも含む意味である。半ガラスは50wt%以下の結晶を含むガラスを示すが、本発明においては併せてガラスと称する。
【0021】
本発明方法によれば、Al成分、La成分としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物等の粉末の形態でガラスの融液に添加することができる。上記した粉末の粒子のサイズとしては0.01〜20μm、0.01〜10μm、0.01〜5μmを例示することができるが、これらに限定されるものではない。微細である方が均一分散性を向上させることができる。
【0022】
また本発明に係るガラスによれば、150℃において10-6Scm-1以上、殊に10-5Scm-1以上、10-4Scm-1以上のプロトン導電率を有することが好ましい。本発明に係るガラスの厚みとしては特に限定されるものではないが、10ミリメートル以下、5ミリメートル以下、2ミリメートル以下を例示できる。図2に示す試験結果によれば、高いプロトン導電率を得るためには、aは20〜24モル%、bは2〜4モル%、cは0.25〜0.4モル%、dは74〜76モル%とすることが好ましい。
【0023】
ガラスの製造段階ではリン供給源として、好ましくは液状リン酸が用いられる。液状リン酸は液状リン酸塩を含む。例えば、液状正リン酸(H3 PO4 、濃度85wt%)、液状リン酸アルミニウムのうちの1種または2種以上を用いることができる。これらの液状リン酸を用いることによって、本発明方法で製造されるガラスに含まれるH2 Oを高濃度に保つことができる。
【0024】
液状リン酸と金属塩とを含む混合物を攪拌しながら温度を上げていくと、混合物は融解して透明または半透明の高粘度融液となる。混合物を加熱保持する調製温度は、ガラスの組成等によっても相違するが、一般的には350〜850℃、殊に400〜850℃、450℃〜850℃、あるいは、500〜800℃、600〜800℃を例示することができる。この場合、調製温度としては液相温度以下が良く、800℃以下、750℃以下、650℃以下、下限側としては350℃以上を例示することができる。一般的には、調製温度が低いと、ガラスに含まれる含水量が増加すると共に、調製温度が高いと、ガラスに含まれる含水量が減少する傾向が得られる。
【0025】
液相温度とは加熱したときに平衡状態として溶融液化するときの温度である。加熱して温度を上昇させるとリン酸は脱水縮合して熱リン酸となり、この熱リン酸の分解作用によって金属はその融点よりもはるかに低い温度でリン酸中に反応して均一に溶け込むことができ、高粘度の融液となる。この高粘度の融液を冷却固化させることにより、多量の分子状の水と水素イオンとが残存したガラス状物質が得られる。上記した分子状の水と水素イオンとの数値が大きいほど、プロトン導電性は高くなる傾向にある。一方、分子状の水と水素イオンとの数値が大きすぎると、ガラスの化学的耐久性が低下する傾向がある。
【0026】
分子状の水と水素イオンとは、通常のガラスにおいてはほとんど存在しない。しかし本発明に係るガラスによれば、ガラスの骨格を100重量部としたとき、ガラスの骨格100重量部に対して、水は例えば0.5〜40重量部、0.5〜20重量部、殊に1〜10重量部存在することができる。ここで、水が10重量部であるとは、ガラスの骨格100重量部と水10重量部とで合計110重量部となることを意味する。
【0027】
本発明に係る高プロトン導電性ガラスによれば、高プロトン導電性を維持しつつ、水分雰囲気における減量が抑えられている。従って、大気雰囲気において80℃の温度に維持されている温水(純水)中に210分間浸漬したとき、配合割合によっても異なるものの、減量としては20重量%以下,10重量%以下、5重量%以下、または3重量%以下とすることができる。
【0028】
本発明方法によれば、ゾルーゲル法を用いずに、高プロトン導電性ガラスが得られる。本発明方法によれば、従来の溶融法に較べてはるかに製造時の温度が低いため、ガラス中には多量の水と水素イオンが残存している。そのため、本発明方法で製造したガラスに高プロトン導電性が発現する。なお、加熱時間と加熱温度(調製温度)を変えることにより、残存する分子状の水と水素イオンとの量をコントロ−ルすることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0030】
(1)ガラスの作製方法
ガラスの作製は半溶融法で行なった。即ち、下記のガラスの組成となるように、炭酸バリウム(BaCO3)、酸化ランタン(La23)、正リン酸(H3PO4、濃度85wt%)を所定の比率で秤量し、これらを混合し、更に安定化剤として、Alを有する化合物である水酸化アルミニウム(Al(OH)3)の粉末(粒径:約1μm)を添加し、さらに純水を少量添加して充分混合し、混合物を形成した。
【0031】
次に、この混合物を磁製るつぼに入れ、電気炉にセットし、通常の空気雰囲気中で700℃に加熱し、30分保持し、融液とした。その後、その融液をカーボン板上に流し出して凝固させてガラスを形成し、導電率測定用の試験片を形成した。融液を流しだすときにパイレックスガラス製の型を用いて成形し、浸漬試験用の試験片を形成した。得られたガラス製の各試験片を再び電気炉に投入し、200℃で10時間アニールし、徐歪した。
【0032】
ここで、実施例に係るガラスは、22.5モル%BaO−2.25モル%La23−0.25モル%Al23−75モル%P25系の高プロトン導電性ガラスとした。La23の配合量はAl23の配合量よりも多くされている。上記したガラスはH2Oを含有しており、多量の分子状の水と水素イオンとが残存したガラス状物質であり、プロトン導電性を有する。即ち、このガラスによれば、ガラスの骨格を100重量部としたとき、ガラスの骨格100重量部に対して、水分は例えば0.5〜40重量部程度存在することができる。上記したガラスにおいて、La及びAlの双方を併有することでガラスの網目構造が良好に成長し、ガラス網目構造そのものを強化するものと推察される。
【0033】
(2)浸漬試験
浸漬試験では、上記したガラスは高いプロトン導電率をもつものの、化学的に不安定な原因のひとつとして、ガラス中の不安定なオルトリン酸基が周囲の水分と反応して正リン酸として溶け出し、ガラスが分解してしまうことが考えられる。したがって、安定性を評価する方法として、温水中に試験片を浸漬した際の重量変化を調べた。すなわち、直径15ミリメートル、厚さ10ミリメートルの円柱状に成形したガラス製の試験片を用い、大気雰囲気において、80℃の温度に維持されている温水中に試験片を浸漬した。そして温水を攪拌し、30分ごとに試験片を取り出して秤量し、温水に浸漬する前の試験片の重量に対する重量変化を測定した。
【0034】
図1は浸漬試験の試験結果を示す。図1の横軸は浸漬時間、縦軸は浸漬前の重量に対する浸漬後の重量を割合で示したものである。つまり縦軸は、浸漬前の試験片の重量をW0とし、所定時間浸漬後の試験片の重量をW1としたとき、(W1/W0)×100%を意味する。◎印は本発明品であり、22.5モル%BaO−2.25モル%La23−0.25モル%Al23−75モル%P25系を示す。○印は比較例1であり、22.5モル%BaO−2.5モル%La23−75モル%P25系を示す。×印は比較例2であり、5モル%SrO−15モル%BaO−10モル%PbO−70モル%P25系を示す。図1から理解できるように、ガラスにLa及びAlの双方が配合されることで、水分雰囲気における減量が抑えられ、水分雰囲気に対する耐久性が高まる。即ち、水分雰囲気において使用したとしても、ガラスの重量の減少量がかなり少なくなり、ガラスの耐久性、寿命がかなり延びることが分かる。
【0035】
(3)導電率測定試験
導電率測定試験では、直径15ミリメートル、厚さ1ミリメートルのディスク状に成形したガラスで形成した試験片の厚み方向の両面に、スパッタリング法で金電極(厚み:約1μm)を形成した。そしてその試験片を電気炉中にセットし、インピーダンスアナライザを用いてプロトン導電率の温度依存性を測定した。図2は試験結果を示す。図2の横軸は温度を示し、縦軸はプロトン導電率を示す。図2において、●印は比較例3であり、21.25モル%BaO−3.75モル%La23−75%P25を示す。■印は比較例4であり、20モル%BaO−5モル%La23−75%P25を示す。
【0036】
△印は本発明品を示し、La23を示すbが2.5モル%、Al23を示すcが0.25モル%である場合を示し、従って22.25モル%BaO−2.5モル%La23−0.25モル%Al23−75%P25を示す。図2に示すように、△印に係るガラス(本発明品)については、同一組成の試験片を3種作製し、それぞれについてプロトン導電率を測定した。▽印は、La23を示すbが2.5モル%、Al23を示すcが1.25モル%であり、従って21.25モル%BaO−2.5モル%La23−1.25モル%Al23−75%P25を示す。
【0037】
×印は比較例2を示し、5モル%SrO−15モル%BaO−10モル%PbO−70モル%P25系の高プロトン導電性ガラスの試験片の試験結果を示す。
【0038】
図2に示すように、△印、▽印で示す本発明品に係るガラスでは、×印で示す比較例2に係るガラスよりも、プロトン導電率が高かった。殊に、図2に△印で示すように、22.25モル%BaO−2.5モル%La23−0.25モル%Al23−75%P25に係るガラスについては、150℃において3×10-3Scm-1以上という飛躍的に高いプロトン導電率が得られた。従って、BaO−La23−Al23−P25系の高プロトン導電性ガラスにおいて、BaOが20〜24モル%、La23が1.5〜3.5モル%、Al23が0.05〜0.4モル%、P25が76〜73モル%といった範囲に設定されていると、水分に対する耐久性を良好に確保しつつ、プロトン導電率がかなり高くなるものと考えられる。以上の試験結果から理解できるように、高プロトン導電性ガラスにおいてLa及びAlの双方を併有させることで、プロトン導電率を高めに維持しつつ、ガラスの安定性を向上させることができた。
【0039】
(適用例1)
図3は適用例1を示す。図3に示すように、本適用例に係る水電気分解装置は、プロトン導電性を有する板状または膜状の電解質相11と、電解質相11の厚み方向の片側に設けられ電圧が印加される多孔質の第1電極12と、電解質相11の厚み方向の他の片側に設けられ電圧が印加される多孔質の第2電極13と、第1電極12の側に設けられ第1電極12及び第2電極13に電圧を印加したとき電気分解される水を供給すると共に酸素ガス通路を兼ねる給水通路14と、第2電極13の側に設けられ水の電気分解に基づいて発生した水素ガスを通過させる水素ガス通路15とを具備する。
【0040】
酸素ガス通路を兼ねる給水通路14は、隔壁14aで形成されている。水素ガス通路15は隔壁15aで形成されている。電解質相11は、分子状の水及び水素イオンを多量に含む上記した実施例に係る高プロトン導電性を多量に有するガラスで構成されている。
【0041】
第1電極12は導電経路12xを経て給電装置17のプラス極に接続される。第2電極13は導電経路13xを経て給電装置17のマイナス極に接続される。給電装置17により第1電極12及び第2電極13に所定の電圧が印加される。すると、プラス極側の第1電極12側では酸素ガスが生成し、マイナス極側の第2電極13側では水素ガスが生成される。
【0042】
発生した酸素ガスは、酸素ガス通路を兼ねる給水通路14を経て外部に吐出される。発生した水素ガスは水素ガス通路15を経て外部に吐出される。第1電極12側に存在する水素イオン(プロトン)は、電解質相11の内部を伝導して第2電極13側に移行する。なお、印加される電圧としては1.5〜30ボルトの範囲を例示できるが、これに限定されるものではなく、要するに、水を電気分解できる電圧であれば良い。なお本適用例に係る水電気分解装置は室温領域(常温領域)で使用される。電解質相11の形状は板状または膜状に限定されるものではなく、有底筒形状などの筒形状でも良く、要するに両側に電極を配置できる形状であれば良い。発生ガスが逆になるが、第1電極12及び第2電極13の極性を逆にすることもできる。
【0043】
(適用例2)
図4は適用例2を示す。本適用例に係るガス発生装置は、水素発生装置または酸素発生装置となり得るものである。このガス発生装置は、プロトン導電性を有する板状または膜状の電解質相21と、電解質相21の厚み方向の片側に設けられ光が照射され光触媒機能を有する光触媒物質を基材とすると共に水から酸素を発生させる多孔質の第1電極22と、電解質相21の厚み方向の他の片側に設けられ水から水素を発生させる白金を基材とする多孔質の第2電極23と、電気分解される水を供給する給水通路24とを具備する。
【0044】
第1電極22及び第2電極23は白金を基材とする。給水通路24は第1電極22側に配置されている。光触媒物質は酸化チタン(TiO2)で形成されている。場合によっては、光触媒物質は、酸化チタンと同じようなエネルギバンド構造をもつ酸化タングステン、酸化亜鉛等とすることも期待できる。
【0045】
電解質相21は、分子状の水及び水素イオンを多量に含む上記した実施例に係る高プロトン導電性を有するガラスで構成されている。第1電極22は集電用の白金のメッシュ22mをもつ。第2電極23は集電用の白金のメッシュ23mをもつ。第1電極22と第2電極23とは導電経路22xで接続されている。
【0046】
使用の際には、酸化チタンである光触媒物質を基材とする第1電極22に紫外線領域の波長を含む光(400ナノメートル以下の波長を含む光:自然太陽光、人工太陽光、蛍光灯など)が照射される。すると、光触媒物質を基材とする第1電極22側では、光触媒作用に基づく水の分解が生じる。光触媒作用に基づく水の分解現象は、文献(光触媒の世界,136ページ,著者 竹内浩士など,1998年7月15日 初版第2刷,発行所 株式会社工業調査会)などでも、近年、報告されている。
【0047】
生成された酸素ガスは、酸素ガス通路を兼ねる給水通路24から吐出される。生成された水素イオン(プロトン)は電解質相21の内部を伝導し、白金を基材とする第2電極23側に移行し、第2電極23で水素ガスとなる。従って本実施例に係るガス発生装置は、水素ガス発生装置として、また、酸素ガス発生装置として機能できる。なお本適用例に係るガス発生装置は、一般的には室温領域(常温領域)で使用される。
【0048】
(適用例3)
図5は適用例3を示す。本適用例に係る燃料電池は、プロトン導電性を有する板状または膜状の電解質相31と、電解質相31の厚み方向の片側に設けられ発電用燃料である水素含有ガスが供給される多孔質の燃料極32と、電解質相31の厚み方向の他の片側に設けられ発電用酸化剤としての酸素含有ガス(一般的には空気)が供給される多孔質の酸化剤極33と、水素含有ガスを燃料極32に供給する通路状の燃料供給部34と、酸素含有ガス(空気など)を酸化剤極33に供給する通路状の酸化剤供給部35とを具備する。電解質相31は、分子状の水及び水素イオンを多量に含む上記した実施例に係る高プロトン導電性を有するガラス体で構成されている。水素含有ガスが燃料供給部34を経て燃料極32に供給されると共に、酸素含有ガス(一般的には空気)が酸化剤供給部35を経て酸化剤極33に供給されると、発電反応が生じる。発電された電力は、導電経路36xを経て接続された電力負荷36を介して取り出される。
【0049】
(適用例4)
図6は適用例4を示す。本適用例に係る燃料電池は、プロトン導電性を有する板状または膜状の電解質相31と、電解質相31の厚み方向の片側に設けられ発電用燃料である水素含有ガスが供給される多質質の燃料極32と、電解質相31の厚み方向の他の片側に設けられ発電用酸化剤としての酸素含有ガス(一般的には空気)が供給される多孔質の酸化剤極33と、発電用燃料である水素含有ガスを燃料極32に供給する通路状の燃料供給部34と、酸化剤通路33xを経た発電用の酸素含有ガスを酸化剤極33に供給する通路状の酸化剤供給部35とを具備する。更に、本適用例に係る燃料電池は、上記した適用例3に相当するガス発生装置4を備えている。即ち、このガス発生装置4は、プロトン導電性を有する電解質相41と、電解質相41の厚み方向に片側に設けられ光が照射され光触媒機能を有する光触媒物質(一般的には酸化チタン)を主要成分とすると共に光触媒機能により酸素を発生させる多孔質の第1電極42と、電解質相41の厚み方向の他の片側に設けられ光触媒機能により水素を発生させる白金を基材とする多孔質の第2電極43とを具備する。
【0050】
電解質相41は、分子状の水及び水素イオンを多量に含む上記した実施例に係る高プロトン導電性を有するガラスで構成されている。前述同様に、使用時には、光触媒物質を基材とすると共に酸素を発生させる第1電極42に紫外線領域の波長を含む光200(自然太陽光、人工太陽光、蛍光灯光など)が照射される。すると、光触媒物質を基材とする第1電極42側では酸素ガスが生成される。酸素ガスは、酸化剤通路33x、通路状の酸化剤供給部35を経て、燃料電池の酸化剤極33に供給され、発電反応に消費される。また、ガス発生装置4において、白金を基材とする第2電極43側では水素ガスが生成される。生成された水素ガスは、通路状の燃料供給部34を経て燃料電池の燃料極32に供給され、発電反応に消費される。
【0051】
この結果、燃料電池の発電反応が生じる。発電された電力は、導電経路36xを経て接続された電力負荷36を介して取り出される。発電時に生成された水は、水通路48を経てポンプ手段などにより、ガス発生装置4の第1電極42に供給され、再び水素ガスの生成、ひいては発電反応に消費される。
【0052】
(適用例5)
図7は適用例5を示す。本適用例に係る水素センサは、プロトン導電性を有する板状または膜状の電解質相51と、電解質相51の厚み方向の片側に設けられ第1水素含有物質としての第1水素含有ガスが供給される第1電極52と、電解質相53の厚み方向の他の片側に設けられ別の水素含有物質としての第2水素含有ガスが供給される第2電極53とをもつ。電解質相51は、分子状の水及び水素イオンを多量に含む上記した実施例に係る高プロトン導電性を有するガラスで形成されている。
【0053】
第1電極52は、白金を担持したカーボンと、白金網からなる集電体で形成されている。第2電極53は、同様に、白金を担持したカーボンと、白金網からなる集電体で形成されている。第1電極52は導電経路52xを介して起電力測定装置69(一般的には電圧計)に接続されていると共に、第2電極62は導電経路62xを介して起電力測定装置69に接続されている。
【0054】
本適用例に係る水素センサは、高温領域(例えば150〜700℃、殊に170〜400℃)で使用される。使用環境温度はこれに限定されるものではない。第1内管57の通路57xは 第1水素含有物質としての第1水素含有ガスを第1電極52に供給する。第1電極52に供給された第1水素含有ガスは、第1内管57の外側に配置された第1外管58の通路58xを経て外部に吐出される。第2内管67の通路67xは、第2水素含有物質としての第2水素含有ガスを第2電極53に供給する。第2電極53に供給された第2水素含有ガスは、第2内管67の外側に配置された第2外管68の通路経路68xを経て外部に吐出される。なお、第1内管57、第1外管58、第2内管67、第2外管68は、セラミックス製(例えばアルミナ製)である。
【0055】
使用時には、高温の第1水素含有ガスが第1内管57の通路57xに供給されると共に、高温の第2水素含有ガスが第2内管67の通路67xに供給される。すると、第1水素含有ガスの水素分圧(水素濃度)及び第2水素含有ガスの水素分圧(水素濃度)に基づいて、起電力が発生する。起電力の大きさは、基本的には物理化学におけるネルンストの式に基づく。起電力は起電力測定装置69により測定される。水素センサの使用の使用の際には、第1水素含有ガス及び第2水素含有ガスのうちのいずれを一方を、基準物質としても用い、他方を測定用ガスとする。
【0056】
その他、本発明は上記し且つ図面に示した実施例のみに限定されるものではなく、例えばアルミニウム成分の出発原料として水酸化アルミニウム(Al(OH)3)を用いているが、これに限らず、アルミナ(Al23)を用いてもよい等、必要に応じて適宜変更して実施できるものである。上記した記載から次の技術的思想も把握できる。
(付記項1)La23、Al23、P25を主要成分とする高プロトン導電性ガラスであり、150℃において10-6Scm-1以上のプロトン導電率を有することを特徴とする高プロトン導電性ガラス。
(付記項2)
La23、Al23、P25の他に、MO(Mはアルカリ土類金属)を主要成分としており、150℃において10-6Scm-1以上のプロトン導電率を有することを特徴とする高プロトン導電性ガラス。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は水分雰囲気で使用されることがあるプロトン導電ガラスに利用することができる。殊に、水素検知器、水素ガスセンサー、水素濃淡電池、水素分離膜、水素燃料電池用の固体電解質、エレクトロクロミック表示素子用の固体電解質などのプロトン(水素イオン)の移動性が要請される用途に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】ガラスについて浸漬試験を行った結果を示すグラフである。
【図2】ガラスについてプロトン導電率試験を行った結果を示すグラフである。
【図3】水電気分解装置の概念を示す断面構成図である。
【図4】ガス発生装置の概念を示す断面構成図である。
【図5】燃料電池の概念を示す断面構成図である。
【図6】燃料電池の概念を示す断面構成図である。
【図7】水素センサの概念を示す断面構成図である。
【符号の説明】
【0059】
図中、11は電解質相、12は第1電極、13は第2電極を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
La23、Al23、P25を主要成分とする高プロトン導電性ガラスであり、La23をbモル%、Al23をcモル%含み、且つ、bは1〜10モル%、cは0.05〜3モル%に設定されていることを特徴とする高プロトン導電性ガラス。
【請求項2】
請求項1において、La23、Al23、P25の他に、MO(Mはアルカリ土類金属)を主要成分とすることを特徴とする高プロトン導電性ガラス。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、aMO(Mはアルカリ土類金属)−bLa23−cAl23−dP25系の高プロトン導電性ガラスであり、
aは19〜24モル%、bは1〜10モル%、cは0.05〜3モル%、dは70〜78モル%であることを特徴とする高プロトン導電性ガラス。
【請求項4】
請求項3において、aは20〜24モル%、bは2〜4モル%、cは0.25〜0.4モル%、dは74〜76モル%であることを特徴とする高プロトン導電性ガラス。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のうちのいずれか一項において、水分雰囲気に対する耐久性を高めた高プロトン導電性ガラス。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のうちのいずれか一項において、MはBa,Sr,Caのうちの少なくとも1種であることを特徴とする高プロトン導電性ガラス。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のうちのいずれか一項において、150℃において10-6Scm-1以上のプロトン導電率を有することを特徴とする高プロトン導電性ガラス。
【請求項8】
アルカリ土類金属を含む化合物と、La成分を含む化合物と、Al成分を含む化合物と、液状リン酸を主要成分とする溶媒とを用意する工程と、液状リン酸を主要成分とする溶媒と前記化合物とを混合し、その混合物を300℃〜1000℃の範囲内に加熱して融液とする工程と、前記融液を冷却固化させる工程とを順に実施し、
請求項1〜請求項7のうちのいずれかに記載の高プロトン導電性ガラスを製造することを特徴とする高プロトン導電性ガラスの製造方法。
【請求項9】
プロトン導電性を有する電解質相と、前記電解質相の片側に設けられ発電用燃料が供給される燃料極と、前記電解質相の他の片側に設けられ発電用酸化剤が供給される酸化剤極と、発電用燃料を前記燃料極に供給する燃料供給部と、発電用酸化剤を前記酸化剤極に供給する酸化剤供給部とを具備する燃料電池において、
前記電解質相は、請求項1〜請求項8のうちのいずれか一項に記載の高プロトン導電性を有するガラスで構成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項10】
プロトン導電性を有する電解質相と、前記電解質相の片側に設けられ第1水素含有物質が供給される第1電極と、前記電解質相の他の片側に設けられ第2水素含有物質が供給される第2電極とをもち、第1水素含有物質と第2水素含有物質との間の水素濃度に基づく起電力を生じさせる水素センサにおいて、
前記電解質相は、請求項1〜請求項8のうちのいずれか一項に記載の高プロトン導電性を有するガラス体で構成されていることを特徴とする水素センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−176342(P2006−176342A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368442(P2004−368442)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】