説明

高周波誘導炉およびそれを用いた溶融物製造方法

【課題】「棚吊り現象」を抑制しながら溶融対象物を急速に溶融できる高周波誘導炉およびそれを用いた溶融物製造方法を提供すること。
【解決手段】溶融対象物4を収容する収容凹部を有する円筒状の坩堝1と、該坩堝1の周囲に配置された高周波コイル2と、前記高周波コイル2からの高周波により誘導加熱を起こして坩堝1内の前記溶融対象物4を溶融する被加熱体3Aとを備え、前記被加熱体3Aは、坩堝1の前記収容凹部内または坩堝1を構成する周囲壁内において、溶融対象物4の溶融開始位置を規定する形状に形成されている、または前記溶融開始位置を規定する位置に設けられていることを特徴とする高周波誘導炉。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波誘導炉およびそれを用いた溶融物製造方法に関し、詳しくは、太陽電池に用いられる精製シリコンを製造する高周波誘導炉およびそれを用いた溶融物製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、大気汚染や地球温暖化等により環境意識が高まり、クリーンなエネルギー源としての太陽電池への注目が高まっており、太陽電池市場が急拡大している。
太陽電池用原料シリコンとしては、これまでシリコンウェハ製造などの半導体プロセスで発生するスクラップシリコンが主に用いられてきた。しかしながら、太陽電池市場の急拡大により、スクラップシリコンの供給が追いつかず、太陽電池用原料シリコンの不足が起きている。
【0003】
また、太陽電池の普及をさらに拡大するには、太陽電池の製造コスト低減が不可欠であり、安価な太陽電池用原料シリコンの製造技術が求められている。
このような安価な太陽電池用原料シリコンの製造技術の1つとして、比較的安価に得られる純度99%レベルの金属級シリコン(Metallurgical Grade Silicon:以下、MG−Siと称する)を冶金プロセスによって精製して太陽電池用原料シリコンを製造しようという試みがある。
MG−Siに含まれる不純物としては鉄、アルミニウム、ナトリウム等の金属、および炭素、リン、ボロンなどがあるが、これらのうちボロンは、蒸気圧が低いため単純な真空除去はできない、および偏析係数が1に近いため一方向凝固では偏析除去できない、という理由により、特に除去困難であることが知られている。
そのため、溶融シリコンからのボロン除去方法が各種提案されてきた。これらは主としてフラックスを用いた方法とプラズマ、アークまたは電子ビームを用いた方法とに分類できる。
【0004】
フラックスによるボロン除去方法として、例えば特許文献1には、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化ナトリウムなどのフラックスと酸化性ガスを併用したボロン除去方法が開示されている。また、特許文献2には、二酸化シリコンを主成分とする固体と、アルカリ金属の炭酸塩および炭酸塩水和物のうちの少なくとも一方とを主成分とする固体を混合したフラックスを使用する、ボロン除去方法が開示されている。
プラズマを用いたボロン除去方法として、例えば特許文献3には、溶融シリコンの溶湯面に、不活性ガスと水蒸気を混合したガスを用いたプラズマジェット流を噴射するボロン除去方法が開示されている。ただし、プラズマ、アークまたは電子ビームを用いるボロン除去方法は、設備が大掛かりになるばかりでなく、多大な電力を消費するため設備投資、電力費がかさみ生産コストが高くなるという問題があるため、現在のところ安価な太陽電池用原料シリコンの製造技術ということはできない。
【0005】
また、MG−Siを冶金プロセスによって精製し、安価な太陽電池用原料シリコンを製造するためには、MG−Siを簡便な装置で、できるだけ急速に溶融する必要がある。
シリコンの急速溶融方法および溶融装置として、例えば特許文献4には、原料シリコンをカーボン発熱体などの予備加熱手段を用いて所定温度まで予備加熱した後、高周波加熱により溶融してシリコンのスカルを形成するシリコン溶融方法が開示されていると共に、導電性材料からなる水冷坩堝とその内側に絶縁性材料からなる坩堝が設置され、水冷坩堝の外側に誘導加熱コイルおよび加熱電源を備え、内側の坩堝内に挿入および引き出し可能な予備加熱手段を備えた溶融装置が開示されている。ここで、「スカル」とは、溶融シリコンが坩堝に接触して冷えて固まった部分を意味する。
【0006】
【特許文献1】特開2003−12317号公報
【特許文献2】特開2005−247623号公報
【特許文献3】特開平4−228414号公報
【特許文献4】特開平11−130581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、MG−Siを溶融対象として特許文献4に開示された溶融方法および溶融装置を使用した場合、以下のような問題が生じることが分かった。
第1の問題は、特許文献4に開示された溶融方法と溶融装置のように、シリコンのスカルを形成する溶融方法や溶融装置によっては、効率的なシリコン精製(ボロン除去など)が行えないという問題である。すなわち原料シリコンの一部がスカルを形成すると、溶融シリコンとスカルとの界面においては平衡状態が成り立ち、凝固と溶融が常時繰り返されていると見なされる。そのため、フラックスを用いたボロン除去を溶融シリコンに対して行っても、スカル内部のボロンは除去できない。溶融シリコンとスカルとの界面において凝固と溶融を繰り返す際、該界面からボロンが徐々に溶融シリコン中に排出されるので、ボロン除去効率が著しく悪化してしまう。
【0008】
第2の問題は、予備加熱工程と溶融工程とを明確に分離することが困難であるという問題である。
すなわち、特許文献4に開示された溶融方法と溶融装置で用いられる原料シリコン)は、例えばシーメンス法で作製されたシリコンであるため、ある程度のサイズ(換算直径および平均直径)が揃った原料シリコンを分別して準備できる。このようなサイズ(換算直径および平均直径)が揃った原料シリコンを用いる場合は、高周波の周波数と原料シリコンの平均直径で規定できる予備加熱温度を溶融装置全域で比較的得られやすい。
これに対し、MG−Siを用いる場合、MG−Siの換算直径は極めて不均一である場合が多く、通常、数mm〜十数cm程度の幅広い粒状や塊状シリコン粒子が混合しており、ここへスクラップシリコンなどを混合して使用する場合はさらに不均一になる。そのため、種々の換算直径を持つ原料シリコンが個々に加熱されるために、均一な予備加熱状態(原料シリコンは溶融していないが、高周波により加熱されうる温度状態)を溶融装置全域で得ることが難しい。
なお、前記の「換算直径」とは、個々の原料シリコンの断面積を円として換算して得られる直径を意味し、前記の「平均直径」とは、それら換算直径の平均値を意味する。
【0009】
そこで、本発明者らは、原料シリコンがスカルを形成するような水冷坩堝を用いない簡便な高周波誘導炉において、カーボン発熱体などの被加熱体によってMG−Siが溶融するまで加熱する実験を試みた。
ところが、不均一な換算直径を持つMG−Siを被加熱体を用いて溶融すると、いわゆる「棚吊り」と呼ばれる状態が起こりやすいという新たな問題(第3の問題)が起きることが分かった。
【0010】
ここで、本明細書において「棚吊り」とは、図16に示すように、溶融物5(溶融領域)と、その上部の溶融対象物4(未溶融領域)との間に空間1407ができた状態であると定義する。なお、図16において、符号1408で示されているのが、いわゆる「棚」であり、一般に坩堝1の内壁に固着したもの(例えば、一旦溶融し始めた溶融対象物4が再度固化して付着したもの)や、上部の重量により押し付けられて落下しづらくなった溶融対象物4からなる。ただし、溶融対象物4がシリコンの場合には、この「棚」がシリコン酸化物からなる、あるいはシリコン酸化膜で覆われたシリコンとなることもある。
【0011】
具体的に説明すると、図17に示すような従来の高周波誘導炉900において、高周波コイル920からの高周波により被加熱体930を加熱してゆくと、MG−Si904は被加熱体930の最下部近傍領域905から溶融を始める。これは、被加熱体930から発生した熱が、坩堝910の上部からは熱伝導に加えて放射、対流等で系外に放出されるのに対して、坩堝910の下部においてはほとんど熱伝導のみであるため、この領域905が最も温度上昇しやすいためと考えられる。
この際、不均一な換算直径を持つMG−Si904のうち、比較的加熱されやすい換算直径を持つ原料シリコンが溶融し、それ以外の原料シリコンが固体のままである状態が坩堝910の下部で起こると「棚吊り」となりやすいと考えられる。さらにこの際、坩堝910の底の溶融シリコン上に空間ができると(図16参照)、その溶融シリコンは固液共存状態ではなくなり、融解熱を奪われなくなった溶融物の温度が急速に上昇する。このために坩堝910の耐熱温度を超え、坩堝910を破損するおそれがある。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その主たる第1の目的は、室温では誘導加熱を可能とする導電性を有さず、かつ所定温度への加熱時または溶融後に導電性を有する溶融対象物を急速に溶融できる高周波誘導炉およびそれを用いた溶融物製造方法を提供することである。
また、本発明の主たる第2の目的は、換算直径が不均一な溶融対象物を用いた場合でも「棚吊り」を起こしにくい、または「棚吊り」が起きても溶融物の温度上昇を比較的長期間抑制できる高周波誘導炉およびそれを用いた溶融物製造方法を提供することである。
さらに本発明は、換算直径が不均一なシリコン材料を用いた際にも「棚吊り」を起こしにくい、または「棚吊り」が起きても溶融物の温度上昇を比較的長期間抑制できる高周波誘導炉およびそれを用いた溶融物製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かくして、本発明によれば、溶融対象物を収容する収容凹部を有する円筒状の坩堝と、該坩堝の周囲に配置された高周波コイルと、前記高周波コイルからの高周波により誘導加熱を起こして坩堝内の前記溶融対象物を溶融する被加熱体とを備え、前記被加熱体は、坩堝の前記収容凹部内または坩堝を構成する周囲壁内において、溶融対象物の溶融開始位置を規定する形状に形成されているか、または前記溶融開始位置を規定する位置に設けられている高周波誘導炉が提供される。
また、本発明の別の観点によれば、前記高周波誘導炉を用いた溶融物製造方法であって、前記坩堝の収容凹部内に溶融対象物を収容する工程(A)と、前記高周波コイルからの高周波により前記被加熱体を誘導加熱することで前記溶融対象物を溶融して溶融物とする工程(B)とを含む溶融物製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明のさらに別の観点によれば、溶融対象物を収容する円筒状の坩堝と、該坩堝の周囲に配置された高周波コイルと、前記高周波コイルからの高周波により誘導加熱を起こして前記溶融対象物を溶融して溶融物とする被加熱体とを備えた高周波誘導炉を用いる溶融物製造方法であって、前記坩堝内に内底面から所定高さまでの第1量の溶融対象物を収容する第1収容工程と、前記第1量の溶融対象物を収容した坩堝内に前記被加熱体を挿入する工程と、被加熱体を挿入した坩堝内に第2量の溶融対象物を収容する第2収容工程と、前記高周波コイルからの高周波により被加熱体を誘導加熱することで坩堝内の第1量の溶融対象物と第2量の溶融対象物のうちの少なくとも一方の一部を溶融して溶融物とする工程と、被加熱体を坩堝内から引き抜いた後、高周波コイルからの高周波により溶融した溶融物を種湯として坩堝内の未溶融の溶融対象物を溶融する工程とを含む溶融物製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、室温では誘導加熱を可能とする導電性を有さず、かつ所定温度への加熱時または溶融後に導電性を有する溶融対象物を、従来よりも簡便な装置で急速に溶融することができる。よって、本発明の高周波誘導炉を、例えばシリコンの溶融やMG−Siなどのシリコン精製に用いることにより、安価な太陽電池用原料シリコンの製造が可能となる。
また、被加熱体は、坩堝の収容凹部内または坩堝を構成する周囲壁内において、溶融対象物の溶融開始位置を規定する形状に形成されている、または前記溶融開始位置を規定する位置に設けられているため、坩堝の底部には未溶融の溶融対象物が存在し、かつ坩堝に接触せずに溶融物が形成される。この結果、平均直径が不均一なMG−Siといった溶融対象物を溶融しても「棚吊り現象」が生じ難い。また、棚吊り現象が生じたとしても、溶融物と周囲の溶融対象物との境界が固液共存状態となって対流が生じ、対流が生じていれば溶融物は融点以上の温度上昇は起きないため、溶融物の温度上昇を比較的長期間抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の高周波誘導炉は、溶融対象物を収容する収容凹部を有する坩堝と、該坩堝の周囲に配置された高周波コイルと、前記高周波コイルからの高周波により誘導加熱を起こして坩堝内の前記溶融対象物を溶融する被加熱体とを備え、前記被加熱体は、坩堝の前記収容凹部内または坩堝を構成する周囲壁内において、溶融対象物の溶融開始位置を規定する形状に形成されているか、または前記溶融開始位置を規定する位置に設けられていることを特徴とする。
この高周波誘導炉は、室温では誘導加熱を可能とする導電性を有さず、かつ所定温度への加熱時または溶融後に導電性を有する溶融対象物を急速に溶融するものであり、溶融対象物としては、例えばシリコン、ゲルマニウムなどの半導体材料であり、さらに具体的にはMG−Siである。
【0017】
本発明の高周波誘導炉における被加熱体は、以下の(A)〜(D)のように構成されていることを特徴としている。
(A)坩堝の収容凹部内において、溶融対象物の溶融開始位置を規定する形状に形成されている。
(B)坩堝の収容凹部内において、溶融対象物の溶融開始位置を規定する位置に設けられている。
(C)坩堝を構成する周囲壁内において、溶融対象物の溶融開始位置を規定する位置に設けられている。
(D)前記(A)および(B)の組み合わせ、または前記(A)および(C)の組み合わせ。
ここで、前記「収容凹部内」とは、坩堝を構成する周囲壁の内面を含む収容凹部の内部空間領域を意味する。また、前記「周囲壁内」とは、周囲壁の内面と外面の間の厚み領域内を意味する。
以下、図面を参照しながら前記構成(A)〜(D)について説明する。
【0018】
構成(A)の場合、前記被加熱体は、前記坩堝の収容凹部内に挿入および引き出し可能な上下方向に長い中実または中空の柱形であって、
(1)坩堝内に挿入されて坩堝の上方開口縁に上載することにより、被加熱体の下端底面を坩堝の内底面よりも所定高さで上方位置に規定するフランジが上端外周面に形成されている(図1および図2参照)、または、
(2)下端外周面が所定高さ範囲で上端へ向かって拡径するテーパ状に形成されている(図3および図4参照)、または、
(3)下端外周面に上下方向のスリットおよび孔の少なくとも一方が所定高さ範囲で形成されている(図6および図8参照)、または、
(4)前記構成(1)〜(3)のうち2つ以上が組み合わされている(図10参照)。
【0019】
<実施形態1:第1の構成(A−1)>
図1は、実施形態1である第1の構成(A−1)の高周波誘導炉100Aを示す概略断面図である。この高周波誘導炉100Aは、溶融対象物4を収容する収容凹部を有する円筒状の坩堝1と、該坩堝1の周囲に配置された高周波コイル2と、高周波コイル2からの高周波により誘導加熱を起こして坩堝1内の溶融対象物4を溶融する被加熱体3Aとを備える。
さらに、この高周波誘導炉100Aは、被加熱体3Aを昇降させて坩堝1に出し入れする昇降手段(図示省略)、溶融領域を坩堝内において均一にするために被加熱体3Aを回転させる回転手段(図示省略)あるいは、坩堝1を傾動可能に保持し、かつ坩堝1を傾斜させて内部の溶融物を外部に取り出す排出手段(図示省略)とを備えていてもよい。
【0020】
本発明において、坩堝1は絶縁性材料からなる。その理由は、換算直径が不均一な溶融対象物4を用いた際にも「棚吊り」(図16参照)を起こしにくい、または「棚吊り」が起きても溶融物5の温度上昇を比較的長期間抑制できる高周波誘導炉とするためには、溶融対象物4の溶融開始位置を被加熱体3Aの形状、挿入位置あるいはそれら両方により制御する際に、坩堝1自体が発熱することは好ましくないからである。
坩堝1としては、アルミナ製坩堝(アルミナ90重量%以上、好ましくは96重量%以上)、シリカ製坩堝(シリカ90重量%以上)、ムライト質坩堝(アルミナ69〜70重量%とシリカ30〜31重量%の混合物)等の絶縁性材料を用いることができる。溶融対象物4が、不純物としてボロンを含む原料シリコンである場合、ボロン除去時にフラックスとして、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどのアルカリ金属、またはアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩あるいは珪酸塩などを用いる際には、フラックスに対する耐性の点から考慮すると、アルミナ製坩堝を使用することが好ましい。
坩堝のサイズとしては、内径200〜2500mm程度、深さ200〜3200mm程度、厚み5〜75mm程度とすることができる。
【0021】
高周波コイル2は、被加熱体3Aを加熱する手段であり、市販の坩堝型高周波誘導炉を使用することができる。
昇降手段としては、例えば、被加熱体3Aを吊り下げながら昇降することができるクレーン装置を用いることができる。
排出手段としては、例えば、高周波コイル2と共に坩堝1を保持部と、坩堝上部に設けた回転軸を介して保持部を傾動可能に支持する支持部と、坩堝下部に設けられて支持部を傾動する油圧シャフトを備えた構成とすることができる。
【0022】
図1に示すように、被加熱体3は、上端面から下端面まで太さがほぼ均一な中実円柱形の本体3aと、本体3aの上端寄りの外周面に設けられた円環状のフランジ3bと、本体3aの上端面に設けられたフック3cとを有してなる。
被加熱体3Aの材料としては、高周波コイル2からの高周波により発熱し、溶融対象物4を溶融できるものであればいかなるものを用いてもよいが、溶融対象物4がシリコンである場合には、黒鉛や炭化珪素を材料としたもの、さらにはそれらの表面にシリカ、シリコンカーバイドなどの保護被膜を形成したものが好ましく用いられる。
被加熱体3Aの本体3aのサイズとしては、直径80〜1000mm程度、長さ250〜4000mm程度とすることができ、フランジ3bのサイズとしては、直径は坩堝1の内径よりも10〜130mm程度大きく、厚み20〜500mm程度とすることができる。また、フランジ3bの下面から本体3aの下面までの距離は160〜2500mm程度とすることができる。なお、フランジ3bには、被加熱体3Aが挿入された坩堝1内に溶融対象物4を投入できるよう投入穴、また坩堝内の溶融物の状態が確認できるよう覗き穴が形成されている。あるいは、フランジ3bを円環状ではなく、2本以上の棒を放射状に配置して構成してもよい。
【0023】
実施形態1によれば、被加熱体3Aを坩堝1内に挿入していくと、被加熱体3Aの下端が坩堝1の底面1aに接する前にフランジ3bが坩堝1の開口縁1bに上載するため、被加熱体3Aは坩堝底面1aよりも上方位置で坩堝1内に設置可能となる。この設置状態のとき、被加熱体3の下端面は坩堝底面1aから所定の高さ位置に規定され、この高さ位置近傍が溶融対象物4の溶融開始位置となる。
図1に示すように、坩堝1内に所定量の溶融対象物4が収容され、かつ被加熱体3Aが坩堝1内の中心位置に挿入された状態において、高周波コイル2を作動させて高周波により被加熱体3Aを加熱してゆくと、溶融対象物4は被加熱体3Aの最下部近傍領域から溶融を始める。このとき、被加熱体3Aの下端は坩堝1の底面1aから所定高さH1上方に位置しているため、溶融対象物4が溶融した溶融物5は坩堝1の底面1aよりも上方に位置しており、溶融物5の上下および周囲に未溶融の溶融対象物4が残存している。
【0024】
このように、坩堝1の底部には未溶融の溶融対象物4が存在し、かつ坩堝1に接触せずに溶融物5が形成されるため、平均直径が不均一なMG−Siといった溶融対象物4を溶融しても、図16で説明した棚1408が生じ難い。また、棚1408が生じたとしても、溶融物5と周囲の溶融対象物4との境界が固液共存状態となって対流が生じ、対流が生じていれば溶融物5は融点以上の温度上昇は起きないため、溶融物5の温度上昇を比較的長期間(例えば0.5〜4時間程度)抑制することができる。
この結果、棚1408の発生時から、坩堝1の温度が上昇し耐熱温度を越えて坩堝1が損傷するまでの時間が延びるため、この間に作業者は例えば黒鉛棒を坩堝1内に挿入して棚1408を壊すといった適切な作業を余裕をもって確実に行うことができ、坩堝1の破損を回避することができる(効果1)。
【0025】
また、被加熱体3Aのフランジ3bが坩堝1の開口縁1bに上載することで、坩堝底面1aから被加熱体3Aの下端までの前記高さH1が自動的に規定されるため、昇降手段やその他の位置制御装置による被加熱体3Aの高さ制御が不要である(効果2)。
実施形態1において、前記棚1408の発生を抑制しながら溶融対象物4を迅速に溶融する上で、坩堝底面1aから被加熱体3Aの下端面までの高さH1は、100〜1600mm程度が好ましく、50〜800mm程度がさらに好ましく、30〜500mm程度が特に好ましく、坩堝底面1aからの溶融対象物4の高さHに対する前記高さH1の比率H1/Hは0.01〜0.8が好ましく、0.05〜0.5がさらに好ましく、0.1〜0.3が特に好ましい。
【0026】
<実施形態2:第2の構成(A−1)>
図2は実施形態2である第2の構成(A−1)の高周波誘導炉100Bを示す概略断面図である。
実施形態2の高周波誘導炉100Bは、被加熱体13Bの形状が実施形態1における被加熱体3A(図1参照)と異なること以外は、実施形態1と同様の構成である。なお、図2における図1と同様の要素には同一の符号を付している。以下、実施形態2における実施形態1とは異なる点を主として説明する。
この高周波誘導炉100Bの被加熱体13Bは、本体13aが中空柱形であり、その本体13aの上端寄りの外周面にフランジ13bを有すると共に、上端面にフック13cを有している。
被加熱体13Bにおいて、本体13aの直径、長さ、フランジ13bのサイズおよびフランジ13bの取付位置は、図1で説明した中実円柱形の被加熱体3Aと同じにすることができ、本体13aの内部軸心位置に形成された穴の径は8〜900mm程度とすることができる。
【0027】
この実施形態2によれば、実施形態1の前記効果(1)および(2)が得られることに加え、被加熱体13Bの本体13aが中空円柱形であるため、その内部に溶融対象物4を収納して誘導加熱すると、被加熱体3Aが中実円柱形の実施形態1に比べて、溶融開始がさらに短時間で起きる利点が得られる(効果3)。この利点は、被加熱体13Bの熱容量が小さくなること、被加熱体13Bの中空部の溶融物5の熱が周囲方向(坩堝周囲壁の方向)に放出し難いことなどに起因するものと考えられる。また、被加熱体13Bの本体13aが中空円柱形であるため、中実の被加熱体よりも軽量化をはかることができるので、作業性が容易になるというメリットもある。
実施形態2において、棚1408の発生を抑制しながら溶融対象物4を迅速に溶融する上で、坩堝底面1aから被加熱体13Bの下端面までの高さH2、および、坩堝底面1aからの溶融対象物4の高さHに対する高さH2の比率H2/Hは、実施形態1での比率H1/Hと同程度とすることが好ましい。
【0028】
<実施形態3:第1の構成(A−2)>
図3は実施形態3である第1の構成(A−2)の高周波誘導炉200Aを示す概略断面図である。この高周波誘導炉200Aは、実施形態1と同様の坩堝1、高周波コイル2、昇降手段(図示省略)、回転手段(図示省略)および排出手段(図示省略)を備えると共に、実施形態1とは形状が異なる被加熱体23Aを備える。なお、図3における図1と同様の要素には同一の符号を付している。以下、実施形態3における実施形態1とは異なる点を主として説明する。
【0029】
実施形態3の場合、被加熱体23Aは、中実円柱形の本体23aと、その上端に設けられたフック23cとを有し、さらに本体23aは、その下端外周面が所定高さ範囲(下端面からの所定長さ範囲)で上端へ向かって拡径するテーパ状に形成されている。なお、図3において、符号23bはテーパ面部を表している。
被加熱体23Aのサイズとしては、直径80〜1000mm程度、長さ300〜4800mm程度とすることができる。また、本体23aにおける直径がほぼ一定である胴部とテーパ面部23bとの境界線23dから本体23aの下端面までの高さH3は60〜2600mm程度とすることができる。
【0030】
実施形態3では、図3に示すように、坩堝1の底面1a上に被加熱体23Aを載置した状態で、坩堝1内に収容された溶融対象物4を溶融する。このとき、被加熱体23Aの前記境界線23dの高さ近傍位置が溶融対象物4の溶融開始位置となる。
つまり、被加熱体23Aが坩堝1内に挿入された状態において、被加熱体23Aのテーパ面部23bは下端面に向かうほど高周波コイル2からの距離が広がるため発熱量が減少していく。これにより、坩堝1内の溶融対象物4の溶融開始位置を、被加熱体23Aのテーパ面部23bの最下端近傍ではなく、テーパ面部23bの上端である境界線23dの近傍位置に規定することができる。
【0031】
この実施形態3によれば、実施形態1と同様に前記効果(1)および(2)が得られる。なお、実施形態3の効果(2)については、被加熱体23Aを坩堝1の底面1a上に接触させた状態で設置することができ、このとき自動的にテーパ面部23bの上端の境界線23dの高さH3が規定されるため、昇降手段やその他の位置制御装置による被加熱体3Aの高さ制御が不要となる。
また、実施形態3によれば、さらに以下の効果(4)〜(6)が得られる。
【0032】
つまり、実施形態3では、坩堝1内における被加熱体23Aの境界線23dよりも下方の収容領域は、テーパ面部23bが縮径することにより広がっているため、溶融開始位置(境界線23dの位置)よりも上方の溶融対象物4が溶融開始領域に落下しやすい。この結果、棚吊り現象をさらに効果的に抑制することができる(効果4)。
また、従来型の被加熱体930(図17参照)を坩堝910の底面に接触するまで挿入して加熱した場合、被加熱体930が局所的に高温となり、坩堝910との接触面において坩堝材質を軟化させ、被加熱体930が坩堝910に固着してしまう場合があった。これに対し、実施形態3のように被加熱体23Aの下端にテーパ面部23bを形成して下端面の面積を小さくすることで、仮に被加熱体23Aが坩堝1に固着した場合でも被加熱体23Aを容易に取り出すことができる(効果5)。
さらに、実施形態3では、溶融対象物4の溶融開始位置よりも下の坩堝底面1aまで被加熱体23Aが存在するため、坩堝1内から引き上げる際の被加熱体23Aの動き(例えば回転機構による回転運動や、フック23cに掛けられているクレーンによる前後左右への揺動や振動)によって、発生または発生しかけている棚吊り現象が破壊されやすくなる(効果6)。
【0033】
実施形態3において、棚吊り現象の発生を抑制しながら溶融対象物4を迅速に溶融する上で、坩堝底面1aから被加熱体23Aの境界線23dまでの高さH3と、坩堝底面1aからの溶融対象物4の高さHとの比率H3/Hは、実施形態1での比率H1/Hと同程度とすることができる。また、図5に示すように、被加熱体23Aの軸心に対するテーパ面部23bのテーパ角度θは、溶融対象物4の溶融開始位置を被加熱体23Aの下端面よりも上方位置にできる角度であれば特に限定されるものではなく、例えば5°〜60°が適当であり、好ましくは10°〜30°である。
【0034】
<実施形態4:第2の構成(A−2)>
図4は実施形態4である第2の構成(A−2)の高周波誘導炉200Bを示す概略断面図である。
実施形態4の高周波誘導炉200Bは、被加熱体33Bの本体33aが中空円柱形であること以外は、実施形態3と同様の構成である。なお、図4における図3と同様の要素には同一の符号を付している。以下、実施形態4における実施形態3とは異なる点を主として説明する。
【0035】
被加熱体33Bは、本体33aが中空円柱形であり、その上端面にフック33cを有し、さらに本体33aは、その下端外周面が所定高さ範囲(下端面からの所定長さ範囲)で上端へ向かって拡径するテーパ状に形成されている。なお、図4において、符号33bはテーパ面部を表し、33dは本体33aの胴部とテーパ面部33bとの境界線を表している。
本体33aのサイズとしては、外径、長さおよび下端から境界線33dまでの高さH4は実施形態3と同じにすることができ、本体33aの内部軸心位置に形成された穴の径は8〜500mm程度とすることができる。
【0036】
この実施形態4によれば、前記効果(1)〜(6)が得られ、さらに効果(5)については、実施形態4の被加熱体33Bは中空円柱形であることにより下端の面積が実施形態3よりも大幅に小さくなり、そのため坩堝1の底面1aとの接触面積が大幅に小さくなり、仮に被加熱体33Bが坩堝1に固着してもより容易に取り出すことができる。
実施形態4において、棚吊り現象の発生を抑制しながら溶融対象物4を迅速に溶融する上で、坩堝底面1aから被加熱体33Bの境界線33dまでの高さH4と、坩堝底面1aからの溶融対象物4の高さHとの比率H4/Hは、実施形態3での比率H3/Hと同程度とすることができる。また、被加熱体33Bの軸心に対するテーパ面部33bのテーパ角度θも、実施形態3と同様に特に限定されるものではなく、例えば5°〜60°が適当であり、好ましくは10°〜30°である。
【0037】
<実施形態5:第1の構成(A−3)>
図6は実施形態5である第1の構成(A−3)の高周波誘導炉300Aを示す概略断面図である。この高周波誘導炉300Aは、実施形態1と同様の坩堝1、高周波コイル2、昇降手段(図示省略)、回転手段(図示省略)および排出手段(図示省略)を備えると共に、実施形態1とは形状が異なる被加熱体43Aを備える。なお、図6における図1と同様の要素には同一の符号を付している。以下、実施形態5における実施形態1とは異なる点を主として説明する。
【0038】
実施形態5の場合、被加熱体43Aは、中空円柱形の本体43aと、その上端に設けられたフック43cとを有し、さらに本体43aは、その下端外周面に所定高さ範囲(下端面からの所定長さ範囲)で上下方向のスリット43bがほぼ等間隔で複数形成されている。なお、本明細書において、「スリット」とは、図7に示すように長穴の長手方向の一方端が開放した形状を意味し、例えば、図7(a)に示すような幅が一定のスリット43b1や、図7(b)に示すように上端へ向かうにつれて幅が連続的に狭くなるスリット43b2、スリット43b2の頂部がR加工され円弧状になるスリット(図示省略)あるいは幅が段階的に狭くなるスリット(図示省略)等を実施形態5のスリット43bとして採用することができる。
本体43aのサイズとしては、外径80〜1000mm程度、内径8〜900mm程度、長さ250〜4000mm程度とすることができる。また、スリット43bの長さH5は60〜2600mm程度、幅は1〜50mm程度、スリット本数は1〜200本程度とすることができる。
【0039】
実施形態5では、図6に示すように、坩堝1の底面1a上に被加熱体43Aを載置した状態で、坩堝1内に収容された溶融対象物4を溶融する。このとき、被加熱体43Aの前記スリット43bの上端近傍位置が溶融対象物4の溶融開始位置となる。
つまり、被加熱体43Aが坩堝1内に挿入された状態において、被加熱体43Aの下端には複数のスリット43bが形成されているため、高周波コイル2を作動させると、スリット形成部分においては高周波による誘導電流が周回できないので発熱されない。このため、スリット43b部分の発熱量は、スリット43bが無い部分の発熱量よりも少なくなり、溶融対象物4の溶融開始位置が坩堝1の底面1aよりも上方のスリット43bの上端近傍位置となる。
【0040】
実施形態5において、棚吊り現象の発生を抑制しながら溶融対象物4を迅速に溶融する上で、坩堝底面1aから被加熱体43Aのスリット43bの上端までの高さH5と、坩堝底面1aからの溶融対象物4の高さHとの比率H5/Hは、実施形態1での比率H1/Hと同程度とすることができる。
【0041】
この実施形態5によれば、前記効果(1)〜(3)、(5)および(6)が得られる。また、スリットを形成することで、中空の被加熱体がさらに軽量化して作業性が容易になるメリットもある。
なお、効果(5)については、実施形態5の被加熱体43Aは中空円柱形であり、かつ下端はスリット43bにより部分的に切欠かれているため下端面積が大幅に小さくなり、そのため坩堝1の底面1aとの接触面積が大幅に小さくなり、仮に被加熱体43Aが坩堝1に固着してもより容易に取り出すことができる。
なお、スリット43bの形状、寸法、本数等は上述の説明に限定されるものではなく、例えば、被加熱体43Aの下方に向かうにつれてスリット本数が増えるようにしてもよい。つまり、被加熱体43Aの発熱量が最下端よりも高さH5の位置の方が多くなるように、発熱量の増減を多数の段階に分けて行うように加工すればよい。
【0042】
<実施形態6:第2の構成(A−3)>
図8は実施形態6である第2の構成(A−3)の高周波誘導炉300Bを示す概略断面図である。
実施形態6の高周波誘導炉300Bは、実施形態5における被加熱体43Aの下端のスリット43bに代えて、孔53bを形成したこと以外は、実施形態5と同様の構成である。なお、図8における図6と同様の要素には同一の符号を付している。以下、実施形態6における実施形態5とは異なる点を主として説明する。
【0043】
被加熱体53Bは、本体53aが中空円柱形であり、その上端面にフック53cを有し、さらに本体53aは、その下端外周面に所定高さ範囲(下端面からの所定長さ範囲)で孔53b1が複数形成されている。図8および図9(a)ではこの孔53b1が上下方向に長い一定幅の長孔の場合を例示している。なお、このような長孔に限定されず、図9(b)に示すように、例えば、上端へ向かうにつれて直径が段階的に小さくなる複数の孔53b2、楕円状の長孔(図示省略)であってもよく、あるいは直径が一定の複数の孔(図示省略)を形成してもよく、あるいは図7(b)で示したような上端へ向かうにつれて幅が連続的に小さくなる長孔を形成してもよい。また、前述のような孔を組み合わせてもよいし、斜め方向に形成しても構わない。
本体53aのサイズは、実施形態5と同じにすることができる。また、例えば、長孔の場合、被加熱体53Bの下端から孔53b1の上端までの高さH6は60〜2600mm程度、孔53b1の長さは57〜2570mm程度、孔53b1の幅は1〜50mm程度、孔本数は1〜200本程度とすることができる。なお、図9(b)で示した孔53b2の場合、例えば、図9(a)で示した複数の長い孔53b1の形成領域内に収まるサイズで形成することができる。
【0044】
実施形態6では、図8に示すように、坩堝1の底面1a上に被加熱体53Bを載置した状態で、坩堝1内に収容された溶融対象物4を溶融する。このとき、被加熱体53Bの前記孔53b1の上端近傍位置が溶融対象物4の溶融開始位置となる。
つまり、実施形態5のスリット43bと同様に、高周波コイル2を作動させたとき、孔53b1部分は、円周方向に連続した導電体が無いため、誘導電流が発生せず、発熱されない。そのため、孔53b1が無い部分の発熱量よりも少なくなるため、孔53b1の上端近傍位置が溶融対象物4の溶融開始位置となる。
【0045】
実施形態6において、棚吊り現象の発生を抑制しながら溶融対象物4を迅速に溶融する上で、坩堝底面1aから被加熱体53Bの孔53b1の上端までの高さH6と、坩堝底面1aからの溶融対象物4の高さHとの比率H6/Hは、実施形態1での比率H1/Hと同程度とすることができる。
この実施形態6によれば、前記効果(1)〜(3)、(5)および(6)が得られる。なお、効果(5)については、実施形態6の被加熱体53Bが中空円柱形であることによる。
なお、孔の形状、寸法、個数等は上述の説明に限定されるものではなく、例えば、被加熱体53Bの下方に向かうにつれて、長孔の本数が増加するあるいは同じ径の孔の密度が増加するように配置してもよい。つまり、被加熱体53Bの発熱量が最下端よりも高さH6の位置の方が多くなるように、発熱量の増減を多数の段階に分けて行うように加工すればよい。
【0046】
<実施形態7:第1の構成(A−4)>
図10(a)は実施形態7である第1の構成(A−4)の高周波誘導炉における被加熱体63Aの下端を示す正面図である。
この実施形態7は、被加熱体63Aが異なる以外は、前記実施形態4〜6と同様であり、以下被加熱体63Aの構造について主に説明する。
この被加熱体63Aは、上端に図示しないフックを有する中空柱形の本体63aの下端にテーパ面部63bが形成されると共に、テーパ面部63bに上下方向のスリット63cが複数本が形成されている。つまり、実施形態7の被加熱体63Aは、実施形態4(図4)と実施形態5(図6)を組み合わせたものである。
【0047】
この場合、被加熱体63Aの本体63aのサイズは、実施形態4〜6と同じにすることができ、被加熱体63Aの下端からテーパ面部63bの上端までの高さH7およびテーパ角度は、実施形態4と同じに設定することができる。また、スリット63cの形成範囲は、前記高さH7と同じまたはそれより短くすることができ、スリット63cの形状、寸法および本数等は実施形態5と同じにすることができる。
この実施形態7の被加熱体63Aも、実施形態3〜6と同様に、坩堝の底面上に被加熱体63Aを載置した状態で、坩堝内に収容された溶融対象物を溶融する(図4、図6参照)。このとき、被加熱体63Aのテーパ面部63bの上端近傍位置が溶融対象物の溶融開始位置となる。そして、実施形態7によれば、前記効果(1)〜(6)が得られる。
【0048】
<実施形態8:第2の構成(A−4)>
図10(b)は実施形態8である第2の構成(A−4)の高周波誘導炉における被加熱体73Bの下端を示す正面図である。
この実施形態8は、被加熱体73Bが異なる以外は、前記実施形態4〜6と同様であり、以下被加熱体73Bの構造について主に説明する。
この被加熱体73Bは、上端に図示しないフックを有する中空柱形の本体73aの下端にテーパ面部73bが形成されると共に、テーパ面部73bに複数個の孔73cが形成されている。つまり、実施形態8の被加熱体73Bは、実施形態4(図4)と実施形態6(図8および図9)を組み合わせたものである。
【0049】
この場合も、被加熱体73Bの本体73aのサイズは、実施形態4〜6と同じにすることができ、被加熱体73Bの下端からテーパ面部73bの上端までの高さH8およびテーパ角度は、実施形態4と同じに設定することができる。また、孔73cの形成範囲は、前記高さH8と同じまたはそれより短くすることができ、孔73cの形状、寸法および本数等は実施形態6と同じにすることができる。
この実施形態8の被加熱体73Bも、実施形態4〜6と同様に、坩堝の底面上に被加熱体73Bを載置した状態で、坩堝内に収容された溶融対象物を溶融する(図4、図8参照)。このとき、被加熱体73Bのテーパ面部73bの上端近傍位置が溶融対象物の溶融開始位置となる。そして、実施形態8によれば、前記効果(1)〜(6)が得られる。
【0050】
<実施形態9:構成(B)>
図11は実施形態9である前記構成(B)の高周波誘導炉400を示す概略断面図である。この実施形態9は、被加熱体83が異なると共に、昇降手段を有さないこと以外は実施形態1〜8と同様であり、図11における実施形態1〜8と同様の要素には同一の符号を付している。以下、実施形態9における実施形態1〜8とは異なる点を主として説明する。
【0051】
前記構成(B)では、上述したように、被加熱体83は、坩堝1の収容凹部内において、溶融対象物4の溶融開始位置を規定する位置に設けられている。具体的には、被加熱体83は、リング形であり、坩堝1の周囲壁内面における内底面1aから所定高さ位置に固定されている。
被加熱体8の材料としては、高周波コイル2からの高周波により発熱し、溶融対象物4を溶融できるものであればいかなるものを用いてもよいが、溶融対象物4がシリコンである場合には、黒鉛や炭化珪素を材料としたもの、さらにはそれらの表面にシリカ、シリコンカーバイドなどの保護被膜を形成したものが好ましく用いられる。
【0052】
被加熱体83がリング形の場合、外径は坩堝1の内周壁の内径と同程度であり、内径は195〜2450mm程度、高さh9は60〜2600mm程度とすることができる。
また、被加熱体83を設置する位置は、坩堝1の底面1aから被加熱体83の上下中間位置までの高さH9が35〜1310mm程度とすることができる。この高さH9が坩堝1内の溶融対象物4の溶融開始位置となる。
【0053】
被加熱体83を坩堝1の内周壁内面における前記の高さ位置に固定するために、絶縁性材料(例えば坩堝1と同じ材料)からなる上下一対のリング形固定部材86が坩堝1の内周壁内面に取り付けられている。この固定部材86において、外径は坩堝1の内周壁の内径と同程度であり、厚みは被加熱体83を保持できる5〜50mm程度である。また、下側の固定部材86の高さは、被加熱体83を前記高さH9に支持できる5〜600mm程度とすることができる。
【0054】
固定部材86の坩堝1への固定および被加熱体83の固定部材86への固定は、ネジ部材を用いて固定することができる。他の方法としては、坩堝1の内壁に適当なテーパ(下に行くほど内径が小さくなる)を付け、被加熱体83と固定部材86をその内径に合わせたものにすれば、それらを押し込むことにより固定することができる。また、被加熱体83を押さえる上部固定部材86を坩堝1と同じ材質で、かつ坩堝1の上端面まで延設し、上部固定部材86の上端面と坩堝1の上端面とを粘度のようなパッチング材と呼ばれる築炉用材料で固定して、バーナーで乾燥させて焼き固めて固定することもできる。
【0055】
この実施形態9の高周波誘導炉400の場合、図11に示すように、被加熱体83を収容凹部に有する坩堝1内に溶融対象物4を収容した後、高周波コイル2を作動させると、高周波により被加熱体83が誘導加熱を起こし、それによって被加熱体83の近傍の溶融対象物4が溶融を開始する。このとき、被加熱体83は坩堝底面1aよりも所定高さH9分上方に位置しているため、溶融物5は坩堝1の底面1aよりも上方に位置し、溶融物5と坩堝底面1aとの間には未溶融の溶融対象物4が存在する。
【0056】
実施形態9において、棚吊り現象の発生を抑制しながら溶融対象物4を迅速に溶融する上で、坩堝底面1aから被加熱体83の高さH9と、坩堝底面1aからの溶融対象物4の高さHとの比率H9/Hは、実施形態1での比率H1/Hと同程度とすることができる。
この実施形態9によれば、前記効果(1)および(2)を奏すると共に、被加熱体83を昇降させる昇降手段が不要であり(効果7)、柱形被加熱体が坩堝1の底面1aに固着する配がない(効果8)。また、被加熱体83は据付型であるため、所定温度以上に加熱され、あるいは溶融した状態でも導電性を有さない溶融対象物の溶融にも対応できる(効果9)。
【0057】
<実施形態10:構成(C)>
図12は実施形態10である前記構成(C)の高周波誘導炉500を示す概略断面図である。この実施形態10は、被加熱体93および坩堝10が異なると共に、昇降手段を有さないこと以外は実施形態1〜8と同様であり、図12における実施形態1〜8と同様の要素には同一の符号を付している。以下、実施形態10における実施形態1〜8とは異なる点を主として説明する。
【0058】
前記構成(C)では、上述したように、被加熱体93は、坩堝10を構成する周囲壁内において、溶融対象物4の溶融開始位置を規定する位置に設けられている。具体的には、被加熱体93は、リング形であり、坩堝10の周囲壁内部における内底面10aから所定高さ位置に埋設されている。つまり、被加熱体93は坩堝10の周囲壁の一部を構成している。
被加熱体93の材料としては、高周波コイル2からの高周波により発熱し、溶融対象物4を溶融できるものであればいかなるものを用いてもよいが、溶融対象物4がシリコンである場合には、黒鉛や炭化珪素を材料としたもの、さらにはそれらの表面にシリカ、シリコンカーバイドなどの保護被膜を形成したものが好ましく用いられる。
【0059】
被加熱体93がリング形の場合のサイズは、被加熱体93を坩堝10の内周壁内に埋設することができるサイズに設定され、高さh10は60〜2600mm程度とすることができる。
また、被加熱体93の埋設位置は、坩堝10の底面10aから被加熱体93の上下中間位置までの高さH10が35〜1310mm程度とすることができる。この高さH10が坩堝10内の溶融対象物4の溶融開始位置となる。
【0060】
加熱体93の材料と坩堝10の材料の線膨張係数が異なる場合、被加熱体93が高温となるので、被加熱体93の内側に位置する坩堝10は外側へ膨張する。そのため、被加熱体93の膨張が坩堝10の膨張より大きければ、被加熱体93は内側の坩堝10により押し広げられ破損するおそれがある。したがって、被加熱体93の外周面と坩堝10との間には膨張を見込んで0.01〜10mm程度の隙間を設けておくことが好ましい。
【0061】
この実施形態10の高周波誘導炉500の場合、図12に示すように、被加熱体93が内蔵された坩堝10内に溶融対象物4を収容した後、高周波コイル2を作動させると、高周波により被加熱体93が誘導加熱を起こし、坩堝10における被加熱体93の周辺部分が加熱され、それによって被加熱体93の高さ位置付近の溶融対象物4が溶融を開始する。このとき、被加熱体93は坩堝底面10aよりも所定高さH10分上方に位置しているため、溶融物5は坩堝10の底面10aよりも上方に位置し、溶融物5と坩堝底面10aとの間には未溶融の溶融対象物4が存在する。
【0062】
実施形態10において、棚吊り現象の発生を抑制しながら溶融対象物4を迅速に溶融する上で、坩堝底面10aから被加熱体93の高さH10と、坩堝底面10aからの溶融対象物4の高さHとの比率H10/Hは、実施形態1での比率H1/Hと同程度とすることができる。
この実施形態10も、実施形態9と同様に、前記効果(1)および(2)を奏すると共に、被加熱体93を昇降させる昇降手段が不要であり(効果7)、柱形被加熱体が坩堝10の底面1aに固着する心配がない(効果8)。また、被加熱体93は据付型であるため、所定温度以上に加熱され、あるいは溶融した状態でも導電性を有さない溶融対象物の溶融にも対応できる(効果9)。
【0063】
<実施形態11:構成(D)>
前記構成(D)は、上述したように、前記構成(A)および(B)の組み合わせ、または構成(A)および(C)の組み合わせである。
構成(A)および(B)の組み合わせとしては、以下のものが挙げられる。
〔1〕実施形態9における被加熱体83の外周面における下部に、実施形態3および4で説明したテーパ面部を形成して、そのテーパ面部から高周波コイルまでの距離を下方に向かうにつれて遠ざけるように構成する。
〔2〕実施形態9における被加熱体83の下部に、実施形態5で説明した複数のスリットまたは実施形態6で説明した複数の孔を形成して、そのスリット部分または孔部分の発熱量を少なくするように構成する。
〔3〕実施形態9における被加熱体83の外周面における下部に、実施形態3および4で説明したテーパ面部を形成し、かつこのテーパ面部に複数のスリットまたは孔を形成する。
【0064】
構成(A)および(C)の組み合わせとしては、以下のものが挙げられる。
〔4〕実施形態10における被加熱体93の外周面における下部に、実施形態3および4で説明したテーパ面部を形成して、そのテーパ面部から高周波コイルまでの距離を下方に向かうにつれて遠ざけるように構成する。
〔5〕実施形態10における被加熱体93の下部に、実施形態5で説明した複数のスリットまたは実施形態6で説明した複数の孔を形成して、そのスリット部分または孔部分の発熱量を少なくするように構成する。
〔6〕実施形態10における被加熱体93の外周面における下部に、実施形態3および4で説明したテーパ面部を形成し、かつこのテーパ面部に複数のスリットまたは孔を形成する。
【0065】
<被加熱体の他の実施形態>
1.実施形態1(図1)および実施形態2(図2)の被加熱体の下端に、テーパ面部、スリット、孔、テーパ面部とスリット、またはテーパ面部と孔を設けてもよい。
2.図4、図6および図8等で説明した中空柱形の被加熱体は、テーパ面部の上端から上、スリットから上、あるいは孔から上は、中空ではなく中実であってもよい。
【0066】
<溶融物製造方法の説明>
本発明によれば、上述の実施形態の高周波誘導炉を用いる溶融物製造方法であって、前記坩堝の収容凹部内に溶融対象物を収容する工程(A)と、前記高周波コイルからの高周波により前記被加熱体を誘導加熱することで前記溶融対象物を溶融して溶融物とする工程(B)とを含む溶融物製造方法を提供することができる。
これらの工程(A)および工程(B)を基礎として、上述の実施形態1〜10の高周波誘導炉を用いて以下のようにして溶融物を製造することができる。
【0067】
(実施形態1の高周波誘導炉を用いる場合)
実施形態1の高周波誘導炉100Aを用いた場合、図1を参照しながら説明すると、前記工程(A)が、坩堝1内に内底面1aから所定高さまでの第1量の溶融対象物4を収容する第1収容工程(a1)と、前記第1量の溶融対象物4を収容した坩堝1内に被加熱体3Aを挿入する工程(a2)と、被加熱体3Aを挿入した坩堝1内に第2量の溶融対象物4を収容する第2収容工程(a3)とを含み、前記工程(B)が、高周波コイル2からの高周波により被加熱体3Aを誘導加熱することで坩堝1内の第1量の溶融対象物4と第2量の溶融対象物4のうちの少なくとも一方の一部を溶融して溶融物5とする工程(b1)と、被加熱体3Aを坩堝1内から引き抜いた後、高周波コイル2からの高周波により溶融した溶融物5を種湯として坩堝1内の未溶融の溶融対象物4を溶融する工程(b2)とを含む。
なお、本工程では溶融対象物4として、上述したように、所定温度への加熱時または溶融後に導電性を有するシリコン、ゲルマニウム、MG−Si等であるため、前記工程(b2)において坩堝1内から被加熱体3Aを引き抜いても溶融物5が高周波誘導電流によって加熱され発熱して周囲の未溶融の溶融対象物4を溶融する。また、被加熱体3Aの昇降は上述の昇降手段により行われる。
【0068】
この場合、前記第1量の溶融対象物4の前記所定高さは、坩堝1内に被加熱体3Aを挿入した状態での坩堝底面1aから被加熱体3Aの下端面までの高さH1とほぼ同じ高さとされる。なお、前記第1量の溶融対象物4の前記所定高さは、高さH1よりも幾分高くてもよいが、被加熱体3Aを坩堝1内に挿入したときに被加熱体3Aの下端が溶融対象物4の中に沈み込んでフランジ3bが確実に坩堝1の開口縁1bに上載できる程度までが望ましい。
また、前記第2量の溶融対象物4の高さは、比率H1/Hが前記0.01 〜0.8となるように設定される。
【0069】
このようなプロセスにより、上述した効果(1)および(2)が得られる。すなわち、坩堝1の底部には未溶融の溶融対象物4が存在し、かつ坩堝1に接触せずに溶融物5が形成されるため、平均直径が不均一なMG−Siといった溶融対象物4を溶融しても棚吊り現象が生じ難い。また、棚吊り現象が生じたとしても、溶融物5の温度上昇を比較的長期間抑制することができる。この結果、棚吊り現象の発生した場合は、坩堝1の温度が上昇し耐熱温度を越えて坩堝1が損傷するまでの間に適切な処置を行って坩堝1の破損を回避することができる。
また、被加熱体3Aのフランジ3bが坩堝1の開口縁1bに上載することで、坩堝底面1aから被加熱体3Aの下端までの前記高さH1が自動的に規定されるため、昇降手段やその他の位置制御装置による被加熱体3Aの高さ制御が不要であると共に、溶融対象物4の第1量を厳密に重量測定する必要がない。
【0070】
(実施形態2の高周波誘導炉を用いる場合)
図2に示す実施形態2の高周波誘導炉100Bを用いる場合、実施形態1の高周波誘導炉100Aを用いた前記溶融物製造方法を採用することができるが、さらに、前記第2収容工程(a3)では、被加熱体13B内の中空部にも溶融対象物4を充填する。この場合、被加熱体13Bの上端の開口部から溶融対象物4を充填すればよい。
このプロセスによれば、実施形態2で説明した前記効果(1)〜(3)が得られる。
【0071】
(実施形態3〜8の高周波誘導炉を用いる場合)
実施形態3(図3)、実施形態4(図4)、実施形態5(図6)、実施形態6(図8)、実施形態7(図10(a))および実施形態8(図10(b))の高周波誘導炉を用いる場合、実施形態1および2とは異なって、坩堝1内に溶融対象物を収容する工程(A)の前に、空の坩堝1内に被加熱体を挿入して坩堝底面1a上に設置する。
その後、工程(A)において、坩堝1内に所定高さHまで溶融対象物4を収容する。なお、実施形態4〜8のように中空柱形の被加熱体を用いる場合は、実施形態2と同様に、被加熱体内にも溶融対象物4を充填する。
その後は、実施形態1での工程(B)の工程(b1)および(b2)と同様にして溶融物5を形成する。
このようなプロセスによれば、前記効果(1)および(2)に加え、実施形態4〜8で説明した被加熱体の構成による効果が得られる。
【0072】
(実施形態9〜11の高周波誘導炉を用いる場合)
実施形態9(図11)、実施形態10(図12)および実施形態11の高周波誘導炉を用いる場合、実施形態1〜8とは異なって、被加熱体を坩堝1内に挿入する工程および坩堝1内から被過熱体を引き抜く工程が省略される。
すなわち、まず、坩堝1内に被加熱体を設置して、その後に溶融対象物4を収容する工程(A)を行う。この際、坩堝1内に所定高さHまで溶融対象物4を収容する。その後、高周波コイル2からの高周波により被加熱体83(または93)を誘導加熱することで溶融対象物4を溶融して溶融物5とする工程(B)を行う。
このようなプロセスによれば、前記効果(1)および(2)に加え、実施形態9〜11で説明した被加熱体の構成による効果が得られる。
【0073】
(実施形態1〜11の高周波誘導炉を用いる場合)
実施形態1〜11の高周波誘導炉を用い、かつ溶融対象物4がボロンを含有する原料シリコンである場合、さらに以下のようにすることができる。
前記工程(B)が、図13に示すように、溶融シリコン5a中にフラックス7を投入してスラグを形成する工程(b3)を含み、工程(B)の後に、図14に示すように、前記溶融シリコン5a中のボロンを吸収した前記スラグ8を坩堝1外へ排出する工程(C)をさらに含む。
ここで、図13は本発明の溶融物製造方法における坩堝1内で含量シリコンの全量を溶融した溶融シリコン5a中にフラックス7を投入する状態を示す図であり、図14は図13の続きの工程であって、溶融シリコン5a中のボロンを吸収したスラグ8を坩堝1外へ排出する状態を示す図である。なお、図13および図14において、図1〜図4等で説明した要素と同一の要素には同一の符号を付している。
【0074】
工程(b3)において、フラックス7としては、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、珪酸塩とからなる群より選択された少なくとも1種類が含まれており、例えば炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、珪酸リチウムなどが挙げられる。このフラックスにシリカ(SiO2)を適量混合したものであってもよく、別々に加えても良く、さらにはフッ化カルシウムを適宜添加してもよい。フラックス7の添加量としては溶融シリコン100重量部に対して1〜30重量部が適当である。
溶融シリコン5a中のボロンを吸収したスラグ8は、溶融シリコン5a上に浮上する。
その後、工程(C)において、坩堝1内の溶融シリコン5a上のスラグ8が排出される程度に上述の排出手段によって坩堝1を所定角度αで傾けることにより、スラグ8が坩堝1内から排出され、スラグ回収容器(図示しない)内に回収される。
このような工程(b3)および工程(C)を行うことにより、ボロンが除去された精製シリコンを製造することができる。
なお、本明細書において「スラグ」とは、フラックスが溶融し熱分解したもの、および、この溶融物や熱分解物と溶融シリコンの各成分とが反応した生成物の少なくとも一方を含むものを意味し、このスラグにボロンなどの不純物が取り込まれることによりシリコンの精製が行われる。
【0075】
本発明の溶融物製造方法によれば、前記工程(C)の後に、坩堝1内の溶融シリコン5aの一部を坩堝1外へ排出する工程(D)と、坩堝1内に新たな原料シリコンを投入し、坩堝1内に残った溶融シリコン5aを種湯として前記新たな原料シリコンを溶融して溶融シリコン5aとし、その後、坩堝1内の溶融シリコン5a中に新たなフラックス7を投入して新たなスラグ8を形成する工程(E)と、前記溶融シリコン5a中のボロンを吸収した前記新たなスラグ8を坩堝1外へ排出する工程(F)とを含み、前記工程(D)〜工程(F)を1回以上繰り返すものとしてもよい。
このような工程(D)〜(F)を1回以上繰り返すことにより、精製シリコンを効率よく継続して製造することができ、精製シリコンの生産性が向上する。なお、工程(D)において、溶融シリコン5aは坩堝1から専用の溶融シリコン回収容器(具体的には一方向凝固炉)に移注し、偏析凝固によってシリコン中に残存するFe、Alなどの金属不純物元素を除去しつつ結晶化することにより、太陽電池、半導体デバイス等の製造用材料となる。
【0076】
(その他の溶融物製造方法)
図15は、本発明の別の観点による溶融物製造方法を説明する工程図を示している。
この溶融物製造方法は、溶融対象物4を収容する円筒状の坩堝1と、該坩堝1の周囲に配置された高周波コイル2と、前記高周波コイル2からの高周波により誘導加熱を起こして前記溶融対象物4を溶融して溶融物5とする被加熱体103とを備えた高周波誘導炉を用いる溶融物製造方法であって、坩堝1内に内底面1aから所定高さH12までの第1量の溶融対象物4aを収容する第1収容工程と、前記第1量の溶融対象物4aを収容した坩堝1内に前記被加熱体103を挿入する工程と、被加熱体103を挿入した坩堝1内に第2量の溶融対象物4bを収容する第2収容工程と、高周波コイル2からの高周波により被加熱体103を誘導加熱することで坩堝1内の第1量の溶融対象物4aと第2量の溶融対象物4bのうちの少なくとも一方の一部を溶融して溶融物5とする工程と、被加熱体103を坩堝1内から引き抜いた後、高周波コイル2からの高周波により溶融した溶融物5を種湯として坩堝1内の未溶融の溶融対象物4を溶融する工程とを含む。
【0077】
つまり、この溶融物製造方法は、前記実施形態1では、被加熱体3Aのフランジ3bを坩堝1の開口縁1bに上載することにより、被加熱体3Aの下端面を坩堝底面1aから所定高さH1に規定したが、このようなフランジを有さない被加熱体103によっても下端面を坩堝底面1aから所定高さH12に規定できるようにするものである。
まず、図15(a)に示すように、坩堝1内に第1量の溶融対象物4aを収容することにより、溶融対象物4aの高さを所定高さH12に規定する(第1収容工程)。
次に、図15(b)に示すように、昇降手段により被加熱体103を坩堝1内に挿入して溶融対象物4a上に載置し、この位置よりも被加熱体103が上下しないように昇降手段によって被加熱体103を位置決めする。なお、昇降手段がクレーン装置であれば、ストップ位置を維持すればよい。
【0078】
その後、図15(c)に示すように、坩堝1内の被加熱体103の周囲に第2量の溶融対象物4bを収容する(第2収容工程)。このとき、前記第2量の溶融対象物4の高さHは、比率H12/Hが前記0.01〜0.8となるように設定される。
そして、図15(d)に示すように、高周波コイル2を作動することにより、高周波により被加熱体103が誘導加熱し、坩堝1内の前記高さH12近傍位置の溶融対象物4が溶融して溶融物5となる。
その後、被加熱体103を坩堝1内から引き抜き、高周波コイル2からの高周波により溶融した溶融物5を種湯として坩堝1内の未溶融の溶融対象物4を溶融する。
このような溶融物製造方法によっても、実施形態1と同様の効果(1)および(2)が得られる。なお、被加熱体103を実施形態2のように中空柱形としてもよく、そうすれば前記効果(3)が得られる。
【0079】
また、図15で説明した溶融物製造方法において、溶融対象物4としてボロンを含む原料シリコンを用いる場合は、上述と同様に、溶融シリコン中にフラックスを投入してスラグを形成する工程と、その後、溶融シリコン中のボロンを吸収したスラグを坩堝外へ排出する工程をさらに含んでもよく、さらに、坩堝内の溶融シリコンの一部を坩堝外へ排出する工程と、坩堝内に新たな原料シリコンを投入し、坩堝内に残った溶融シリコンを種湯として前記新たな原料シリコンを溶融して溶融シリコンとし、その後、坩堝内の溶融シリコン中に新たなフラックスを投入して新たなスラグを形成する工程と、前記溶融シリコン中のボロンを吸収した前記新たなスラグを坩堝外へ排出する工程とを含み、これらの工程を1回以上繰り返すものとしてもよい。
【実施例】
【0080】
(実施例1)
実施形態1(図1)の高周波誘導炉100Aであって、被加熱体3Aの下端にテーパ面部を形成したもの(被加熱体3A1)を用いて、以下のようにして溶融物を製造した。
【0081】
大気開放系にある内径380mm、深さ650mmのアルミナ製坩堝1の中に、不純物としてホウ素を10ppmw含むMG−Si(溶融対象物4)を20kg投入した。ここで、この20kg(第1量)のMG−Siは、坩堝1の底面1aから約200mmの高さH1で収容された。
次に、この坩堝1内部に直径250mm、長さ2000mm、下端部に40°のテーパー加工を施したフランジ付き黒鉛棒(被加熱体3A1)を昇降手段を用いて挿入し、続いて不純物としてホウ素を10ppmw含むMG−Siを20kg(第2量)投入した。このとき、この20kg(第2量)のMG−Siは、坩堝1の底面1aから約550mmの高さHで収容された。
【0082】
次に、高周波コイル2に900Hzの高周波を75kWで印加することで、第1量および第2量のMG−Siの溶融を行った。
高周波印加開始後、約2時間経過した時点で十分な量の溶融シリコン5が確認できたため、昇降手段にて黒鉛棒を坩堝1から外へ引き出した。
黒鉛棒の引き出し時点においては、未溶融のMG−Siが残っており、この未溶融MG−Siを溶融シリコン5への誘導加熱で溶融しつつ、さらに追加として60kg(追加量)のMG−Siを投入した。
このMG−Siの追加投入および、全MG−Si(第1量、第2量、追加量の総和)の溶融には約5時間必要であった。ここで、この追加投入ならびに全量溶融期間中に、作業者が耐熱棒(黒鉛製)で溶融対象物内を突付いて適宜溶融状態を確認したが「棚吊り現象」は確認されなかった。
【0083】
高周波出力を調整することで、全量溶融した溶融シリコン(溶融物5)を1450℃〜1600℃程度の温度範囲に維持した。
この溶融シリコン100kgに対し、約10kgのフラックス7を投入した(図13参照)。使用したフラックス7は炭酸ナトリウムとシリカが重量比1:1となるように調合したものである。
フラックス7の投入後、溶融シリコンの湯面にスラグ8が形成されていることが確認できた。
【0084】
フラックス7の投入終了後、約10分経過した時点で一旦高周波を停止し、排出手段を用いて坩堝1を約60°傾動して溶融シリコン5aの湯面に浮かんだスラグ8を排出した(図14参照)。
スラグ8を排出した後、坩堝1を元の位置に戻して高周波の印加を再開し、フラックス7の投入(投入量約10kg)とスラグ8の排出をさらに40回繰り返した。
その後、排出手段を用いて坩堝1を約80°傾動して溶融シリコン5aを約36kg出湯した。このMG−Siの投入から80°傾動による溶融シリコン5aの排出までの溶融・精製作業を1サイクルとする。
【0085】
本実施例1において、フラックス処理後のシリコン(出湯後の溶融シリコン5a)中のボロン濃度は0.3ppmwであった。なお、ボロン濃度は、ICP-AES法(Inductively Coupled Plasma - Atomic Emission Spectroscopy:誘導結合プラズマ発光分析装置)を用いて測定した。
さらに、坩堝1中に残った溶融シリコン5aに対して、新たにMG−Siを投入(投入量約36kg)して溶融することによっても、急速な溶融が可能となり、MG−Siの溶融・精製作業が比較的短時間で行えた。
なお、本実施例1においては、25サイクルの溶融・精製作業を繰り返した時点において、排出手段を用いて坩堝1を約95°傾動して溶融シリコン5aを全出湯した後、坩堝1の交換を行った。
【0086】
(比較例1)
フランジおよびテーパ面部を有さない中実柱形の被加熱体(図15参照)を用いたこと以外は、実施例1と同様の高周波誘導炉を用いて、以下のように溶融物を製造した。
まず、黒鉛棒を坩堝の底面に接触するまで挿入し、この黒鉛棒の周囲を覆うようにMG−Siを投入した。MG−Siの投入量は約40kgであった。
実施例1と同じ条件で高周波によりMG−Siの溶融を行ったところ、約80分後の溶融開始確認とほぼ同時に「棚吊り現象」が確認された。
この「棚吊り現象」は、黒鉛棒の引き抜き後、作業者が耐熱棒(黒鉛製)を用いて破壊したので、この作業期間中は追加のMG−Si投入が行えず、溶融時間の遅延を招いた。
また、一旦発生した「棚吊り現象」は完全な破壊が難しく、残った「棚」を始点として新たな「棚吊り現象」が起きることもあり、これを確認しつつMG−Siの追加投入および溶融を行ったため、さらなる溶融工程の遅延を招いた。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施形態1である第1の構成(A−1)の高周波誘導炉を示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態2である第2の構成(A−1)の高周波誘導炉を示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施形態3である第1の構成(A−2)の高周波誘導炉を示す概略断面図である。
【図4】本発明の実施形態4である第2の構成(A−2)の高周波誘導炉を示す概略断面図である。
【図5】実施形態4における被加熱体の下端を示す部分正面図である。
【図6】本発明の実施形態5である第1の構成(A−3)の高周波誘導炉を示す概略断面図である。
【図7】実施形態5における被加熱体の下端形状を示す部分正面図であって、図7(a)はスリットを形成した場合、図7(b)は孔を形成した場合を示している。
【図8】本発明の実施形態6である第2の構成(A−3)の高周波誘導炉を示す概略断面図である。
【図9】実施形態6における被加熱体の下端形状を示す部分正面図であって、図9(a)は一定幅の孔を形成した場合、図7(b)は異なる径の孔を形成した場合を示している。
【図10】図10(a)は本発明の実施形態7である第1の構成(A−4)の高周波誘導炉における被加熱体の下端を示す正面図であり、図10(b)は本発明の実施形態8である第2の構成(A−4)の高周波誘導炉における被加熱体の下端を示す正面図である。
【図11】本発明の実施形態9である前記構成(B)の高周波誘導炉を示す概略断面図である。
【図12】本発明の実施形態10である前記構成(C)の高周波誘導炉を示す概略断面図である。
【図13】本発明の溶融物製造方法におけるフラックス投入工程を示す説明図である。
【図14】本発明の溶融物製造方法におけるスラグ排出工程を示す説明図である。
【図15】本発明の別の溶融物製造方法を説明する工程図である。
【図16】溶融対象物を溶融する際に発生する「棚吊り現象」を説明する概略断面図である。
【図17】従来の高周波誘導炉を用いて溶融対象物を溶融する状態を説明する概略断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1 坩堝
1a 内底面(底面)
2 高周波コイル
3A、13B、23A、33B、43A、53B、63A、73B、83、93 被加熱体
4 溶融対象物
5 溶融物
23b、33b、63b、73b、テーパ面部
43b、43b1、43b2、63c スリット
53b1、53b2、73c 孔
100A、100B、200A、200B、300A、300B、400、500 高周波誘導炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融対象物を収容する収容凹部を有する円筒状の坩堝と、該坩堝の周囲に配置された高周波コイルと、前記高周波コイルからの高周波により誘導加熱を起こして坩堝内の前記溶融対象物を溶融する被加熱体とを備え、
前記被加熱体は、坩堝の前記収容凹部内または坩堝を構成する周囲壁内において、溶融対象物の溶融開始位置を規定する形状に形成されているか、または前記溶融開始位置を規定する位置に設けられていることを特徴とする高周波誘導炉。
【請求項2】
前記被加熱体は、前記坩堝の収容凹部内に挿入および引き出し可能な上下方向に長い中実または中空の柱形であって、
(1)坩堝内に挿入されて坩堝の上方開口縁に上載することにより、被加熱体の下端底面を坩堝の内底面よりも所定高さで上方位置に規定するフランジが上端外周面に形成されている、または、
(2)下端外周面が所定高さ範囲で上端へ向かって拡径するテーパ状に形成されている、または、
(3)下端外周面に上下方向のスリットおよび孔の少なくとも一方が所定高さ範囲で形成されている、または、
(4)前記構成(1)〜(3)のうち2つ以上が組み合わされている請求項1に記載の高周波誘導炉。
【請求項3】
前記被加熱体は、リング形であり、前記坩堝の周囲壁内面における内底面から所定高さ位置に固定されている請求項1に記載の高周波誘導炉。
【請求項4】
前記被加熱体は、リング形であり、前記坩堝の周囲壁内部における内底面から所定高さ位置に埋設されている請求項1に記載の高周波誘導炉。
【請求項5】
前記被加熱体は、下端に上下方向のスリットおよび孔の少なくとも一方が形成されている請求項3または4に記載の高周波誘導炉。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれか1つに記載の高周波誘導炉を用いた溶融物製造方法であって、
前記坩堝の収容凹部内に溶融対象物を収容する工程(A)と、
前記高周波コイルからの高周波により前記被加熱体を誘導加熱することで前記溶融対象物を溶融して溶融物とする工程(B)とを含む溶融物製造方法。
【請求項7】
前記工程(A)が、
前記坩堝内に内底面から所定高さまでの第1量の溶融対象物を収容する第1収容工程(a1)と、
前記第1量の溶融対象物を収容した坩堝内に前記被加熱体を挿入する工程(a2)と、
被加熱体を挿入した坩堝内に第2量の溶融対象物を収容する第2収容工程(a3)とを含み、
前記工程(B)が、
前記高周波コイルからの高周波により被加熱体を誘導加熱することで坩堝内の第1量の溶融対象物と第2量の溶融対象物のうちの少なくとも一方の一部を溶融して溶融物とする工程(b1)と、
被加熱体を坩堝内から引き抜いた後、高周波コイルからの高周波により溶融した溶融物を種湯として坩堝内の未溶融の溶融対象物を溶融する工程(b2)とを含む請求項6に記載の溶融物製造方法。
【請求項8】
前記溶融対象物がボロンを含有する原料シリコンであり、
前記工程(B)が、溶融シリコン中にフラックスを投入してスラグを形成する工程(b3)を含み、
工程(B)の後に、前記溶融シリコン中のボロンを吸収した前記スラグを坩堝外へ排出する工程(C)をさらに含む請求項6または7に記載の溶融物製造方法。
【請求項9】
前記工程(C)の後に、
坩堝内の溶融シリコンの一部を坩堝外へ排出する工程(D)と、
坩堝内に新たな原料シリコンを投入し、坩堝内に残った溶融シリコンを種湯として前記新たな原料シリコンを溶融して溶融シリコンとし、その後、坩堝内の溶融シリコン中に新たなフラックスを投入して新たなスラグを形成する工程(E)と、
前記溶融シリコン中のボロンを吸収した前記新たなスラグを坩堝外へ排出する工程(F)とを含み、
前記工程(D)〜工程(F)を1回以上繰り返す請求項8に記載の溶融物製造方法。
【請求項10】
溶融対象物を収容する円筒状の坩堝と、該坩堝の周囲に配置された高周波コイルと、前記高周波コイルからの高周波により誘導加熱を起こして前記溶融対象物を溶融して溶融物とする被加熱体とを備えた高周波誘導炉を用いる溶融物製造方法であって、
前記坩堝内に内底面から所定高さまでの第1量の溶融対象物を収容する第1収容工程と、
前記第1量の溶融対象物を収容した坩堝内に前記被加熱体を挿入する工程と、
被加熱体を挿入した坩堝内に第2量の溶融対象物を収容する第2収容工程と、
前記高周波コイルからの高周波により被加熱体を誘導加熱することで坩堝内の第1量の溶融対象物と第2量の溶融対象物のうちの少なくとも一方の一部を溶融して溶融物とする工程と、
被加熱体を坩堝内から引き抜いた後、高周波コイルからの高周波により溶融した溶融物を種湯として坩堝内の未溶融の溶融対象物を溶融する工程とを含むことを特徴とする溶融物製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−52764(P2009−52764A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217429(P2007−217429)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】