説明

高圧ガスタンクの製造方法と製造装置

【課題】繊維強化樹脂層を樹脂製ライナーの外周に形成した高圧ガスタンクの形状維持に有益な新たな製造手法を提供する。
【解決手段】中間生成品タンク12は、樹脂容器製のライナー10の外周に熱硬化前のエポキシ樹脂を含浸した繊維強化樹脂層20を備える。繊維強化樹脂層20のエポキシ樹脂の熱硬化に際しては、タンク軸支シャフト112にて軸支した中間生成品タンク12のライナー10の内圧を正圧・負圧に交互に繰り返しながら、中間生成品タンク12を回転しつつ加熱してエポキシ樹脂を熱硬化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガスタンクの製造方法と製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、燃料ガスの燃焼エネルギや、燃料ガスの電気化学反応によって発電された電気エネルギによって駆動する車両が開発されており、高圧ガスタンクには、天然ガスや水素等の燃料ガスが貯蔵され、車両に搭載される場合がある。このため、高圧ガスタンクの軽量化が求められており、炭素繊維強化プラスチックや、ガラス繊維強化プラスチック(以下、これらを総称して、繊維強化樹脂層と呼ぶ)で被覆するライナーとして、樹脂製容器を用いることが検討されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一般に、このような高圧ガスタンクは、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸した繊維強化樹脂層をライナー外周に形成する。こうした繊維強化樹脂層の形成に際しては、熱硬化性樹脂を含浸した繊維を樹脂製容器の外周に繰り返し巻き付けて繊維強化樹脂層とし、その後に、当該樹脂層に含まれる熱硬化樹脂を熱硬化させる。これにより、樹脂製容器のライナーを繊維強化樹脂層で被覆した高圧ガスタンクが製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−304038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ライナー外周への上述した繊維強化樹脂層の形成に用いられる熱硬化性樹脂は、その熱硬化の間に与えられる熱により低粘度となった後に熱硬化し、この熱硬化を起こす際に接着剤として機能する。ライナーにあっては、樹脂製である都合上、熱硬化の間に熱収縮を起こす。このため、ライナー表面と繊維強化樹脂層の最下層との間には隙間が生じ、その隙間に入り込んだ熱硬化性樹脂は、ライナーと繊維強化樹脂層とを固着させる。こうした熱硬化性樹脂によるライナー固着がライナー外周において部分的に起きると、タンク使用期間においてその部分的なライナー固着部位の接着界面に応力の集中が起きやすくなる。ライナーは、軽量化のために樹脂製とされた上で薄肉とされることから、上記した部分的な応力集中によるライナーの変形が危惧されるに至った。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、熱硬化性樹脂の熱硬化を経て繊維強化樹脂層をライナー外周に形成した高圧ガスタンクの形状維持に有益な新たな製造手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明では、以下の構成を採用した。
【0008】
[適用1:高圧ガスタンクの製造方法]
高圧ガスタンクの製造方法であって、
樹脂製容器をライナーとして用意する工程と、
前記ライナーの外周に、熱硬化性樹脂を含浸した繊維強化樹脂層を形成する繊維強化樹脂層形成工程と、
前記繊維強化樹脂層の形成済みの前記ライナーを軸支し、該軸支したライナーの内圧を変化させつつ前記繊維強化樹脂層を熱硬化させる熱硬化工程とを備える
前記繊維強化樹脂層の形成済みの前記ライナーを軸支し、該軸支したライナーの内圧を
正圧と負圧の交互に切り換えつつ前記繊維強化樹脂層を熱硬化させる熱硬化工程とを備える
ことを要旨とする。
【0009】
上記構成を備える高圧ガスタンクの製造方法では、樹脂性容器のライナー外周に繊維強化樹脂層を形成した後に、軸支したライナーの内圧(以下、ライナー内圧と称する)を変化させつつ、繊維強化樹脂層に含まれる熱硬化性樹脂を熱硬化させる。このため、熱硬化性樹脂を熱硬化の間において、ライナーは、ライナー内圧の変化により膨張と原型復帰、或いは収縮と原型復帰、もしくは、膨張と収縮を起こすことになるので、ライナー表面と繊維強化樹脂層の最下層との間の隙間は、ライナー表面において偏在し難くなる。しかも、この隙間に、熱硬化前で低粘度の熱硬化性樹脂が入り込んでも、その樹脂は、ライナーの膨張と収縮により押されたり戻されたりするので、部分的に留まり難くなる。この結果、熱硬化した熱硬化性樹脂によるライナー固着は、ライナー外周において部分的に起きる可能性は低くなり、ライナー外周においてほぼ均等化する。よって、上記構成を備える高圧ガスタンクの製造方法によれば、ライナーと繊維強化樹脂層の接着界面における応力集中を抑制でき、高圧ガスタンクの形状維持に寄与できる。
【0010】
ライナー内圧を変化させるに当たり、ライナー内圧を正圧と負圧の交互に切り換えつつ、繊維強化樹脂層に含まれる熱硬化性樹脂を熱硬化させるようにもできる。こうすれば、熱硬化性樹脂を熱硬化の間において、ライナーは、ライナー内圧の正圧と負圧の交互に切り換えにより膨張と収縮をより確実に繰り返すことになる。このため、ライナー表面と繊維強化樹脂層の最下層との間の隙間は、ライナー表面においてより一層、偏在し難くなると共に、この隙間に入り込んだ熱硬化前で低粘度の熱硬化性樹脂の、ライナーの膨張と収縮による押し戻しが顕著となることから、より一層、樹脂は部分的に留まり難くなる。よって、ライナー内圧変化をライナー内圧の正負圧の交互切換とすれば、熱硬化した熱硬化性樹脂によるライナー固着がライナー外周において部分的に起きる可能性はより低くなり、ライナーと繊維強化樹脂層の接着界面における応力集中を高い実効性で抑制でき、高圧ガスタンクの形状維持に有益である。
【0011】
ライナー内圧の正負圧交互切換は、ライナーを軸支するシャフトを中空とした上で通気孔を外周に設け、その中空部にエアーの加圧吸引装置を装着することが簡便である。
【0012】
また、ライナー内圧の正負圧交互切換を行うに当たっては、前記繊維強化樹脂層の熱硬化の当初において前記ライナーの内圧を正圧とし、前記繊維強化樹脂層の熱硬化に伴い前記熱硬化性樹脂が低粘度となるタイミングで前記ライナーの内圧を正圧から負圧に切り換える。こうすれば、最初の負圧化の際におけるライナー収縮に伴い、ライナー表面と繊維強化樹脂層の最下層との間に隙間が確実に生じた上で、樹脂は、低粘度故に、その隙間により均一に行き渡り易くなる。そして、一旦負圧とした後は、樹脂の熱硬化の間において前記ライナーの内圧を正圧と負圧の交互に切り換えるようにできる。こうすれば、ライナー内圧の正負圧の交互切換によるライナーの膨張と収縮の交互繰り返しにより、隙間に入り込み済みの樹脂はより均一にライナー外周に行き渡ることになるので、熱硬化した熱硬化性樹脂によるライナー固着は、より均等化する。
【0013】
本発明は、上述した高圧ガスタンクの製造方法としての構成の他、この製造方法によって製造された高圧ガスタンクや、高圧ガスタンクの製造装置の発明として構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例としての高圧ガスタンクの製造工程を模式的に示す説明図である。
【図2】熱硬化の際のタンク軸支シャフト112を介したライナー内圧切換の様子を模式的に示す説明図である。
【図3】熱硬化炉100における中間生成品タンク12の保持の様子を模式的に示す説明図である。
【図4】熱硬化工程におけるライナー内圧の加減圧の様子を示す説明図である。
【図5】熱硬化工程におけるライナー内圧変化の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の一実施例としての高圧ガスタンクの製造工程を模式的に示す説明図である。本実施例では、高圧ガスタンクを、高圧水素を貯蔵する高圧水素タンクとした。
【0016】
本実施例のタンク製造工程では、まず、図1(a)に示したように、樹脂製容器をライナー10として用意する。本実施例では、樹脂容器として、ナイロン系樹脂からなる樹脂製容器を用いるものとした。樹脂容器として、他の樹脂からなる樹脂容器を用いるものとしてもよい。
【0017】
次に、図1(b)に示したように、ライナー10の外周部に、繊維強化樹脂層20を形成する(繊維強化樹脂層形成工程)。本実施例では、繊維強化樹脂層形成工程として、ライナーの外周部に、フィラメント・ワインディング法(FW法)によって、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂を含浸したカーボン繊維を繰り返し巻き付けることにより、カーボン繊維層を形成する(図1(b−1))。その後、カーボン繊維層外周部に、さらに、フィラメント・ワインディング法(FW法)によって、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂を含浸したガラス繊維を繰り返し巻き付けることにより、ガラス繊維層をカーボン繊維層の上に重ねて形成する(図1(b−2))。こうして重なったカーボン繊維層とガラス繊維層が、ライナー外周表面の繊維強化樹脂層20となり、樹脂層形成済みの中間生成品タンク12が得られる。ガラス繊維層はカーボン繊維層よりも耐衝撃性が強いため、高圧水素タンクの機械的強度を高くすることができる。エポキシ樹脂に代えて、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることもできる。
【0018】
上述した繊維強化樹脂層形成工程では、ライナー10の外周においてカーボン繊維の上にガラス繊維を重ねて巻き付けて、カーボン繊維層とガラス繊維層を形成するが、その際に、ガラス繊維層の表面には、過剰なエポキシ樹脂が浮き出す。この浮き出したエポキシ樹脂は、後述の熱硬化工程を経て繊維強化樹脂層の最外周部で熱硬化して樹脂熱硬化層(エポキシ樹脂硬化層)となる。そして、樹脂浮き出しの程度は、FW法により繊維巻き付けの条件、例えば、巻き取り速度や樹脂含浸の程度等によって定まり、通常は1〜2mmと想定され、この厚みで樹脂熱硬化層(エポキシ樹脂硬化層)が形成されることになる。ライナー10の外周表面の側では、図1(b)に示す繊維強化樹脂層形成工程において、カーボン繊維層が熱硬化前のエポキシ樹脂を含浸した状態でライナー外周表面にほぼ密着している。なお、本実施例では、カーボン繊維とこれに重なるガラス繊維とで繊維強化樹脂層20を形成したが、カーボン繊維での繊維強化樹脂層20の形成、ガラス繊維での繊維強化樹脂層20の形成とすることもできる。また、アラミド繊維での繊維強化樹脂層20の形成を行うようにすることもできる。
【0019】
繊維強化樹脂層20の形成に続いては、熱硬化を行う。図2は熱硬化の際のタンク軸支シャフト112を介したライナー内圧切換の様子を模式的に示す説明図、図3は熱硬化炉100における中間生成品タンク12の保持の様子を模式的に示す説明図である。熱硬化工程では、図1(c)と図3に示す熱硬化炉100を用いる。この熱硬化炉100は、架台110にタンク軸支シャフト112を回転可能に軸支する他、軸支済みのタンク軸支シャフト112の炉内上方に長尺状の放熱ヒーター114を備える。よって、熱硬化炉100は、中間生成品タンク12をタンク軸方向において均等に加熱する。また、熱硬化炉100は、タンク軸支シャフト112の図における右端において、タンク軸支シャフト112をチャック116を経てタンク回転機構118に連結する。
【0020】
熱硬化炉100は、炉外に配設される加減圧装置120を備え、当該装置からタンク軸支シャフト112まで加減圧系を有する。この加減圧系は、切換バルブ122と、タンク軸支シャフト112の流路カプラー124と、加減圧装置120で構成される。加減圧装置120は、加圧用配管127と減圧用配管129を切換バルブ122まで延ばし、切換バルブ122から流路カプラー124まではシャフト側流路125を備える。加減圧装置120は、加圧用配管127を経た加圧エアーの圧送と、減圧用配管129を経た減圧吸引とを交互に繰り返し、切換バルブ122は、加圧・減圧の繰り返しタイミングで、加圧用配管127と減圧用配管129を切り換える。なお、流路カプラー124は、気密にタンク軸支シャフト112に組み込まれており、回転する中空のタンク軸支シャフト112に対する加圧・減圧に寄与する。
【0021】
図2に示すように、タンク軸支シャフト112は、シャフト軸に沿って中空部113を備え、当該中空部をシャフト側流路125に連通させている。また、タンク軸支シャフト112は、中空部113とシャフト外部とを連通する通気孔115をシャフト回りに点在配置して備える。よって、加減圧装置120(図1(c)参照)が加圧エアーを圧送すると、切換バルブ122での流路切換を経て、加圧エアーが中間生成品タンク12の内部に吹き出される。これにより、中間生成品タンク12の最内部に位置するライナー10の内圧は高まり、ライナー内圧は加圧エアーの圧力程度まで正圧化となる。また、加減圧装置120(図1(c)参照)が減圧吸引を行うと、切換バルブ122での流路切換を経て、中間生成品タンク12の最内部に位置するライナー10の内部のエアーは吸引され、ライナー内圧は負圧となる。
【0022】
図2および図3に示す上記の熱硬化炉100を用いた熱硬化工程では、熱硬化炉100への搬入に先だち、樹脂層形成済みの中間生成品タンク12にタンク軸支シャフト112を装着する。タンク軸支シャフト112は、中間生成品タンク12の両端の口金14に挿入され、タンク両端からシャフトを出した状態で、架台110に軸支される。この場合、タンク軸支シャフト112は、図示しないシール部材を介して、口金14において気密に中間生成品タンク12に装着される。こうして中間生成品タンク12を軸支した後、熱硬化炉100は、中間生成品タンク12を熱硬化工程に処する。この熱硬化工程では、タンク回転機構118により中間生成品タンク12をタンク軸支シャフト112ごと定速で回転させ、その回転を熱硬化工程の間に亘って維持する。タンク回転と同時に、或いは、定速回転となると、熱硬化炉100は、繊維強化樹脂層20の形成に用いた上記の熱硬化樹脂(例えば、エポキシ樹脂)の熱硬化に適う温度に炉内温度が維持されるよう、放熱ヒーター114を加熱制御する。これにより、中間生成品タンク12では、ライナー10の外周に形成された繊維強化樹脂層20における熱硬化樹脂の熱硬化が始まる。
【0023】
熱硬化炉100は、上記したタンク回転とヒーター加熱を開始すると、このタンク回転とヒーター加熱とに加え、加減圧装置120によるライナー内圧の正圧・負圧の交互切換をも並行して実施する。図4は熱硬化工程におけるライナー内圧の加減圧の様子を示す説明図である。図示するように、加減圧装置120は、まず、加圧エアーの圧送(当初加圧エアー圧送)を行い、中間生成品タンク12におけるライナー10の内圧を正圧化する。これにより、ライナー内圧は、図4に示すように、正圧とする前の元圧から正圧に昇圧することになる。そして、所定時間経過後に、加減圧装置120は、加圧エアー圧送から減圧吸引に切り換え、中間生成品タンク12におけるライナー10の内圧を負圧化する。これにより、ライナー内圧は、図4に示すように、負圧とする前の正圧から元圧を下回って負圧に降圧することになる。
【0024】
この当初のライナー内圧の負圧化は、繊維強化樹脂層20における熱硬化樹脂が熱放射を受けて低粘度となるタイミングで実行される。この負圧化のタイミングは、繊維強化樹脂層20における熱硬化樹脂の性質や、ヒーター加熱量、ヒーターとの距離等を考慮して、予め実験的に、或いはシミュレーション演算を経て決定され、タンク回転とヒーター加熱を開始してから、繊維強化樹脂層20における熱硬化樹脂が熱放射を受けて低粘度となるまでの経過時間で規定される。
【0025】
上記した当初加圧エアー圧送によるライナー内圧の正圧化は、減圧吸引に切り換えられるまでの間に亘って維持され、ライナー10は、この圧力を受けて膨張する。一方、ライナー内圧の負圧化により、ライナー10は収縮する。その後、加減圧装置120は、図4に示すように、加圧エアー圧送と減圧吸引を熱硬化工程の間に亘って交互に繰り返し、その間で繊維強化樹脂層20のエポキシ樹脂の熱硬化が起きる。そして、この熱硬化後の冷却養生を経ることで、ライナー10の外周にエポキシ樹脂を含浸して熱硬化した繊維強化樹脂層20を有する高圧水素タンク30が得られる。
【0026】
以上説明したように、本実施例の製造方法では、繊維強化樹脂層20のエポキシ樹脂の熱硬化に際して、中間生成品タンク12を回転させつつ放熱するだけではなく、熱硬化のための放熱の際に、中間生成品タンク12の最内周のライナー10の内圧の正圧・負圧の交互繰り返しを図る。よって、次の利点がある。
【0027】
エポキシ樹脂は、図1(c)に中間生成品タンク12の一部を破断して模式的に示すように、ライナー10の外周表面で繊維巻回が層状となった繊維強化樹脂層20の各層の繊維に含浸されて各層間にも浸み込む他、放熱を受けて低粘度となるために、熱収縮したライナー10の外周表面と繊維強化樹脂層20の最下層との間に生じた隙間にも入り込む。これらのエポキシ樹脂は、放熱ヒーター114からの放熱を受けて低粘度化を経て熱硬化するが、低粘度の状態にある間は元より熱硬化の間においても、ライナー10は、上記した内圧の正圧・負圧の交互繰り返しに伴う膨張・収縮を交互に繰り返すことになる。このため、ライナー10の外周表面と繊維強化樹脂層20の最下層との間の隙間は、ライナー表面においてより一層、偏在し難くなる。しかも、この隙間に熱硬化前で低粘度の熱硬化性樹脂が入り込んでも、その樹脂は、ライナー10の膨張と収縮による顕著な押し戻しを受けることになるので、その入り込んだ間隙に部分的に留まるようなことはなく、ライナー10の外周表面に沿って広がることになる。このため、熱硬化したエポキシ樹脂によるライナー10と繊維強化樹脂層20との固着は、ライナー外周において部分的に起きる難くなり、ライナー外周においてほぼ均等化する。この結果、本実施例の高圧ガスタンクの製造方法によれば、ライナー10と繊維強化樹脂層20の接着界面における応力集中を高い実効性で抑制でき、高圧水素タンク30の形状維持の実効性も高まる。
【0028】
また、本実施例では、中間生成品タンク12の最内周のライナー10の内圧の正圧・負圧の交互繰り返しを行うに当たり、タンク軸支シャフト112を中空シャフトとした上で通気孔115を形成し、加減圧装置120による加圧エアー圧送と減圧吸引を交互に繰り返すだけに過ぎない。このため、ライナー10の膨張・収縮の繰り返しを容易且つ確実に起こすことができ、簡便である。
【0029】
また、本実施例では、ライナー10の内圧の正負圧交互切換を行うに当たり、繊維強化樹脂層20の熱硬化の当初において加圧エアー圧送を経てライナー10の内圧を正圧とし、繊維強化樹脂層20の熱硬化に伴いエポキシ樹脂が低粘度となるタイミングで減圧吸引に切り換えてライナー内圧を正圧から負圧に切り換える。このため、最初の負圧化の際におけるライナー収縮に伴い、ライナー10の外周表面と繊維強化樹脂層20の最下層との間に隙間が確実に生じた上で、エポキシ樹脂を、低粘度故に、その隙間により均一に行き渡らせることができる。その上で、一旦負圧とした後は、エポキシ樹脂の熱硬化の間において、加圧エアー圧送と減圧吸引の交互切換によるライナー内圧の正負圧の交互切換を図る。このため、ライナー内圧の正負圧の交互切換に伴うライナー10の膨張と収縮の交互繰り返しにより、隙間に入り込み済みのエポキシ樹脂をより均一にライナー10の外周表面に行き渡ることができるので、熱硬化したエポキシ樹脂によるライナー固着はより均等化し、ライナー10と繊維強化樹脂層20の接着界面における応力集中を高い実効性で抑制して、高圧水素タンク30の形状維持の実効性もより高まる。
【0030】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、上記の実施例では、繊維強化樹脂層20の熱硬化工程の間のライナー内圧変化を正圧・負圧の交互繰り返しとしたが、次のように変形することができる。図5は熱硬化工程におけるライナー内圧変化の変形例を示す説明図である。
【0031】
図示するように、熱硬化工程において、ライナー内圧をその元圧から正圧に昇圧した後に、元圧に復帰させ、この正圧・元圧復帰を交互に繰り返すようにできる(図5(a)参照)。この逆に、ライナー内圧をその元圧から負圧に降圧した後に、元圧に復帰させ、この負圧・元圧復帰を交互に繰り返すようにできる(図5(b)参照)。このようにライナー内圧を変化させるには、図1(c)における切換バルブ122を炉外に設置し、正圧・元圧復帰の交互繰り返しとする場合には、減圧用配管129を省略し、加圧用配管127を介した加圧エアー圧送後に、切換バルブ122を解放側に制御して、ライナー内のエアーを大気放出すればよい。負圧・元圧復帰の交互繰り返しとする場合には、この逆に、加圧用配管127を省略し、減圧用配管129を介した減圧吸引後に、切換バルブ122を解放側に制御してライナー内に外気を導入すればよい。
【0032】
また、中間生成品タンク12を、その両端の口金14において別々のタンク軸支シャフト112にて回転自在に軸支し、一方のタンク軸支シャフト112を回転付与のためにタンク回転機構118と接続し、他方の112については、これを従動回転するようにした上で、加減圧装置120からの加圧エアー圧送と減圧吸引用の中空シャフトとすることができる。
【0033】
また、高圧水素タンク30の製造工程の繊維強化樹脂層形成工程(図1(b))において、カーボン繊維とガラス繊維とをそれぞれフィラメント・ワインディング法によってライナー10に繰り返し巻き付けて繊維強化樹脂層20を形成するものとしたが、本発明は、これに限られない。この繊維強化樹脂層形成工程において、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させたスライバー繊維(糸)の代わりに、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させた織布をライナー10の外周に重ねて巻き付けるようにしてもよい。
【0034】
上記実施例では、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂を用いるものとしたが、他の熱硬化性樹脂を用いるものとしてもよい。
【0035】
上記実施例では、高圧ガスタンクは、高圧水素タンク30であるものとしたが、本発明は、これに限られない。例えば、天然ガス等、他の高圧ガスを貯蔵する高圧ガスタンクとしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
10…ライナー
12…中間生成品タンク
14…口金
20…繊維強化樹脂層
30…高圧水素タンク
100…熱硬化炉
110…架台
112…タンク軸支シャフト
113…中空部
114…放熱ヒーター
115…通気孔
116…チャック
118…タンク回転機構
120…加減圧装置
122…切換バルブ
124…流路カプラー
125…シャフト側流路
127…加圧用配管
129…減圧用配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ガスタンクの製造方法であって、
樹脂製容器をライナーとして用意する工程と、
前記ライナーの外周に、熱硬化性樹脂を含浸した繊維強化樹脂層を形成する繊維強化樹脂層形成工程と、
前記繊維強化樹脂層の形成済みの前記ライナーを軸支し、該軸支したライナーの内圧を変化させつつ前記繊維強化樹脂層を熱硬化させる熱硬化工程とを備える
高圧ガスタンクの製造方法。
【請求項2】
前記熱硬化工程は、前記ライナーの内圧を正圧と負圧の交互に切り換えつつ前記繊維強化樹脂層を熱硬化させる請求項1に記載の高圧ガスタンクの製造方法。
【請求項3】
前記熱硬化工程は、前記繊維強化樹脂層の熱硬化の当初において前記ライナーの内圧を正圧とし、前記繊維強化樹脂層の熱硬化に伴い前記熱硬化性樹脂が低粘度となるタイミングで前記ライナーの内圧を正圧から負圧に切り換え、その後は前記ライナーの内圧を正圧と負圧の交互に切り換える請求項2に記載の高圧ガスタンクの製造方法。
【請求項4】
樹脂製容器をライナーとして該ライナーの外周に熱硬化性樹脂を含浸して熱硬化した繊維強化樹脂層を有する高圧ガスタンクの製造に用いる装置であって、
熱硬化前の前記繊維強化樹脂層を外周に形成済みの前記ライナーを軸支した上で、該軸支したライナーの内圧を変化させるライナー軸支手段と、
該ライナー軸支手段に軸支された前記ライナーを加熱して、前記繊維強化樹脂層を熱硬化させる熱硬化手段とを備える
高圧ガスタンクの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−230398(P2011−230398A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103486(P2010−103486)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】