説明

2次元的硬さ測定装置

【課題】2次元的硬さ測定装置において、圧接の仕方に影響を受けることを少なくすることである。
【解決手段】2次元的硬さ測定装置において、複数の探触素子40が2次元的に配置される探触素子組立体30は、接触シート32と、保持基板34と、保持基板34にリード端子48によって接続され取付固定された探触素子40と、探触素子40と保持基板34との間に設けられる振動絶縁部材46とを含んで構成される。探触素子40は、振動検出センサ44と振動子42が積層されて構成され、振動検出センサ44も振動子42も、平板状の振動子板を平面内で縦横に切断されて形成される。被測定対象に面する振動検出センサ44の接触面は、圧接方向に垂直な面に平行な平坦面形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2次元的硬さ測定装置に係り、特に、複数の探触素子を2次元アレイ状に配置して2次元的に硬さを測定する2次元的硬さ測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、乳がん検診等においては、患者の診断部位をはさんでX線撮影等を行って、生体内部に硬いところ、すなわち、しこりがないか判断される。また、触診によりしこりの有無や程度を判断することも行われ、後者は医師等の専門家による触診のほか、医師等の指導のもとで患者自身により行われることもある。
【0003】
生体の内部におけるしこりは、患者等の生体の外観からはどこにしこりがあるか判断が困難なため、広範囲にわたりX線撮影や触診を行う必要がある場合がある。また、X線撮影等のように患者の診断部位をはさんで診断を行う方法では、診断部位あるいは患者の体形によっては十分な範囲をはさむことができない場合がある。また、触診による方法は経験が必要で、しこりの有無、その程度の判別に触診者の個人差が現れ、定量的な判断が困難である。
【0004】
そこで、特許文献1には、生体のしこり検査装置として、複数の探触素子を2次元的に配置し、各探触素子は、硬さ算出切替回路により順次選択されて硬さ算出部に接続される構成が開示されている。ここでは、各探触素子は、生体組織に振動を入射する振動子、反射波を検出する振動検出センサ、略半球状の接触ボールが取り付け台の上に積層されて構成され、それぞれの取り付け台がプローブ基体に2次元的に配置されている。また、硬さ算出部は、振動子への入力波形と振動検出センサからの出力波形との間の位相差に応じ周波数を変化させる位相シフト回路を備え、その周波数変化より生体組織の硬さを算出する。そして探触素子にはそれぞれ圧力センサが設けられ、押し付け圧が所定の範囲にある探触素子の硬さデータが表示部に2次元的に表示され、しこりが検査されることが述べられている。なお、位相シフト回路の詳細な内容は、特許文献2に開示されている。
【0005】
なお、特許文献3には、超音波診断装置に用いられるセンサアレイとしての超音波プローブにおいて、バッキング材からなる基板の一方主面上に複数の圧電振動子がマトリクス状に固着される構成が開示される。ここでは、圧電振動子は、積層される複数の圧電体層を含み、圧電体層の間に内部電極がそれぞれ形成され、圧電体層の両端面に外部電極がそれぞれ形成され、各圧電振動子は、複数の圧電体層が基板の主面と平行な方向に積層されるように、基板上に接着されることが述べられている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−283547号公報
【特許文献2】特開平9−145691号公報
【特許文献3】特開2001−103600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示される生体のしこり検査装置によれば、複数の探触素子を2次元的に配置し、位相シフト法を用いて、生体の硬さの2次元的分布を得ることができる。ここでは、各探触素子は、振動子、振動検出センサ、略半球状の接触ボールが取り付け台の上に積層されて構成され、それぞれの取り付け台がプローブ基体に2次元的に配置されている。したがって、ここでは、円板状の振動子、振動検出センサ、略半球状の接触ボールを製作し、これらを順次取り付け台に積層して、1つの探触素子を製造し、このようにして製造された探触素子を多数必要とするので、工数がかかり、コスト低減に限界がある。
【0008】
また、特許文献1の探触素子によれば、略半球状の接触ボールで生体に圧接する。したがって、圧接の深さによって、接触ボールの接触面積が異なり、圧接の仕方によっては、硬さ測定の結果に相違が生じる恐れがある。
【0009】
本発明の目的は、コスト低減が可能な探触素子を用いた2次元的硬さ測定装置を提供することである。また、他の目的は、圧接の仕方に影響を受けることの少ない2次元的硬さ測定装置を提供することである。以下の手段は、上記目的の少なくとも1つに貢献する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る2次元的硬さ測定装置は、被測定対象に接触シートを介して圧接される複数の探触素子であって、各探触素子は、被測定対象に振動を入射する振動子と、被測定対象からの反射波を検出する振動検出センサとをそれぞれ有する複数の探触素子と、複数の探触素子を2次元アレイ状に配置して保持する保持基板と、保持基板と各探触素子との間に設けられる振動絶縁部材と、振動子の信号入力端と振動検出センサの信号出力端との間に設けられ、探触素子に接触する部分の被測定対象の硬さを算出する硬さ算出器と、各探触素子と硬さ算出器との間の接続を順次切り替える硬さ算出切替回路と、各探触素子について算出された硬さを2次元表示する表示器と、を備え、硬さ算出器は、振動検出センサの信号出力端に入力端が接続された増幅器と、増幅器の出力端と振動子の信号入力端との間に設けられ、振動子と振動検出センサと増幅器と共に閉ループ回路を形成し、振動子への入力波形と振動検出センサからの出力波形に位相差が生じるときは、その位相差について周波数を変化させてゼロにシフトさせ、閉ループ回路の共振を持続させる位相シフト回路と、位相差をゼロにシフトさせるための周波数変化量を検出し、検出された周波数変化量から硬さを算出して出力する硬さ出力手段と、を含み、各探触素子は、圧接深さに関らず一定の接触面積で接触する接触面形状を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る2次元的硬さ測定装置において、各探触素子は、圧接方向に垂直な方向に平坦な接触面形状を有することが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る2次元的硬さ測定装置において、各探触素子は、圧接方向に垂直な方向に、振動子と振動検出センサとが積層されていることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る2次元的硬さ測定装置において、振動子は、平板状の振動子板を平面内で縦横に分割して形成された矩形形状の平面形状を有し、振動検出センサは、平板状の振動検出センサ板を平面内で縦横に分割して形成された矩形形状の平面形状を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る2次元的硬さ測定装置において、保持基板は、硬さ算出器と硬さ算出切替回路を構成する回路要素のうち少なくとも一部が搭載される回路基板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記構成の少なくとも1つにより、2次元的硬さ測定装置は、複数の探触素子を2次元的に配置し、これを被測定対象に圧接し、位相シフト法を用いて、被測定対象の硬さの2次元的分布を求めるものであって、各探触素子は、圧接深さに関らず一定の接触面積で接触する接触面形状を有する。したがって、硬さ測定において、圧接の仕方に影響を受けることを抑制できる。
【0016】
また、2次元的硬さ測定装置において、各探触素子は、圧接方向に垂直な方向に平坦な接触面形状を有するので、被測定対象に対し、平坦な接触面で接触し、これにより、硬さ測定において、圧接の仕方に影響を受けることを抑制できる。
【0017】
また、2次元的硬さ測定装置において、各探触素子は、圧接方向に垂直な方向に、振動子と振動検出センサとが積層されている。これにより、振動子と振動検出センサとを平面的に並べて配置する方法に比べ、2次元的硬さ測定装置を小型にできる。
【0018】
また、2次元的硬さ測定装置において、振動子は、平板状の振動子板を平面内で縦横に分割して形成された矩形形状の平面形状を有し、振動検出センサは、平板状の振動検出センサ板を平面内で縦横に分割して形成された矩形形状の平面形状を有する。すなわち、振動子も、振動検出センサも、平板状の原材料を縦横に分割したものを用いることができるので、従来技術のように円板状とする加工を要せず、コストを大幅に低減することができる。
【0019】
また、2次元的硬さ測定装置において、保持基板は、硬さ算出器と硬さ算出切替回路を構成する回路要素のうち少なくとも一部が搭載される回路基板であるので、別途に回路基板を設ける方法に比べ、2次元的硬さ測定装置を小型にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、被測定対象として、生体、特に乳がんのチェックを行うための生体組織について説明するが、圧接によって硬さを測定する対象物であればよく、乳がんのチェックを行う生体組織以外の生体組織であってもよい。例えば、一般的に生体のしこりをチェックするための生体組織であってもよい。また、一般的に硬さ、軟らかさの分布を調べるための生体組織であってもよい。また、生体組織以外の物質を被測定対象としてもよい。
【0021】
また、以下では、プローブ体には複数の探触素子と、簡単な回路部品等を搭載する回路基板を含むものとし、演算処理機能等は本体部に含むものとして説明するが、これは説明のための1構成例であり、プローブ体に演算機能の一部、あるいは全部を含む構成としても勿論構わない。
【0022】
また、以下で述べる寸法、材質等は説明のための一例であって、2次元的硬さ測定装置の仕様等に応じて適宜変更ができる。
【0023】
図1は、2次元的硬さ測定装置10の全体構成を示す図である。2次元的硬さ測定装置10は、複数の探触素子を2次元アレイ状に配置して2次元的に硬さを測定する装置である。なお以下では、2次元的硬さ測定装置10を、特に断らない限り、簡単に、硬さ測定装置10として述べるものとする。
【0024】
硬さ測定装置10は、ここでは乳がんをチェックするための生体組織8を被測定対象として、具体的には乳部組織を被測定対象としている。そして、生体組織8に対して、プローブ部20を圧接し、プローブ部20を構成する2次元的配置された複数の探触素子によって、生体組織8の硬さを2次元的に検出し、これを2次元的硬さ分布として表示する機能を有する。
【0025】
硬さ測定装置10は、上記のように、生体組織8に圧接されるプローブ部20と、インタフェース回路50と、2次元的硬さ分布を表示する本体部60とを含んで構成される。
【0026】
図2は、硬さ測定装置10の構成を示すブロック図である。プローブ部20は、64個の探触素子40を有し、各探触素子40は、振動子42と、振動検出センサ44を含んでそれぞれ構成される。本体部60は、硬さ算出器70と、各探触素子40と硬さ算出器70との間の接続を順次切り替える硬さ算出切替回路62と、硬さ算出器70によって算出された各探触素子40の硬さを2次元的表示に転換するための処理を行う表示処理部92と、処理された結果を表示する2次元的硬さ表示器94を含んで構成される。
【0027】
なお、図2では図示を省略してあるが、プローブ部20と本体部60との間には、図1で説明したインタフェース回路50が設けられる。このインタフェース回路50は、プローブ部20の信号系と、本体部60の信号系の整合を取るために設けられる回路で、例えば、電圧レベルを調整するためのレベルシフタ、信号間のインピーダンス整合をとるためのバッファ回路等で構成される。
【0028】
図3は、プローブ部20の斜視図である。プローブ部20は、被測定対象に圧接する先端部22と、検査者が手で把持する把持部24とから構成される。把持部24の大きさは、手のひらで保持でき、圧接する力をかけるのに十分なものとすることが好ましく、小さすぎないように、また大きすぎないように設定される。場合によっては、取っ手形式の把持部24としてもよい。
【0029】
先端部22は、平坦な圧接面26を有し、圧接面26の内側に、縦に8列、横に8行の合計64個の探触素子40が配置される探触素子組立体30が収納される。先端部22の圧接面を一部破断して示したが、各探触素子40は、それぞれ矩形の圧接面、あるいは接触面を有し、その接触面の平面形状は、矩形形状である。
【0030】
図4は、探触素子組立体30の様子を示す部分拡大断面図である。探触素子組立体30は、接触シート32と、保持基板34と、保持基板34にリード端子48によって接続され取付固定された探触素子40と、探触素子40と保持基板34との間に設けられる振動絶縁部材46とを含んで構成される。
【0031】
探触素子40は、振動子42と振動検出センサ44とが積層されたもので、図4の例では、平面形状が矩形形状の振動検出センサ44の上に、振動検出センサ44の平面形状よりやや小型の平面形状の振動子42が搭載されている。振動子42の平面形状も矩形形状である。寸法の一例を上げると、振動検出センサ44の平面形状は、(約1.5mmから約3mm)×(約1.5mmから約3mm)、厚さが約0.5mmから約2mmである。この場合に、正方形形状を用いてもよい。したがって、ここで矩形形状というときは、正方形形状も含む広義の矩形形状である。この場合、振動子42の平面形状は、振動検出センサ44よりもやや小型のものとし、厚さを同じとすることができる。
【0032】
振動子42の小型の程度は、図4に示されるように、リード端子48のうちの1本が、振動検出センサ44の上面に接続され、これが上方の保持基板34に延ばされたとき、振動子42に接触しない程度とする。例えば、振動検出センサ44が、約2mm×約2mmとすると、振動子42を、約1.7mm×約2mm程度とすることができる。勿論、これは一例であって、接続技術によっては、これ以外の寸法を用いることができる。
【0033】
なお、積層の順序を逆にして、振動子42を大きめの平面形状とし、その上に振動子42の平面形状より小型の平面形状を有する振動検出センサ44を搭載するものとしてもよい。
【0034】
図5は、振動子42の製造方法を説明するための図である。振動子42は、平板状の振動子板100を平面内で縦横に分割して製造される。振動子板100は、圧電材料層102の両面にそれぞれ上面電極層104と下面電極層106を配置して積層したものである。かかる振動子板100は、亜鉛チタン酸鉛(PZT)の圧電材料層102の両面に、適当な金属導電層を上面電極層104と下面電極層106として、積層したものを用いることができる。振動子板100の平面寸法の一例は、例えば、約30mm角から約60mm角である。かかる振動子板100は、一般的に、圧電素子を製造する際に用いられる圧電素子板であるので、市販製品の中で、適当な仕様と形状寸法を有する圧電素子板を選択し、これを振動子板100として用いることができる。
【0035】
この振動子板100を、例えば、カッター刃を回転させるダイシングソー等を用いて、振動子42の平面寸法に縦横に切断する。図5の例では、8×6=48個の振動子42が1枚の振動子板100から作り出す様子が示される。
【0036】
振動検出センサ44も、材料的な構成は全く振動子42と同じものを用いることができるので、図5に説明した方法で、1枚の振動子板100から複数の振動検出センサ44を製造することができる。すなわち、振動子42を製造するために用いたものと同じ振動子板100を、振動検出センサ44の平面形状に合わせて、縦横に切断することで、振動検出センサ44を製造することができる。つまり、同じ振動子板100を用いて、切断寸法を異ならせるだけで、振動子42、振動検出センサ44の双方を得ることができる。
【0037】
このように、振動検出センサ44、振動子42の平面形状を正方形形状矩形形状とすることで、平板状の圧電素子板を振動子板100とし、これを縦横に切断するだけで、振動検出センサ44、振動子42を形成することができる。これにより、振動検出センサ44、振動子42を円板状に形成する場合に比較し、大幅にコストを低減して、振動検出センサ44、振動子42を得ることができる。
【0038】
図6は、このようにして得られた振動検出センサ44と振動子42を積層して探触素子40を形成し、リード端子48を取り付けた様子を示す図である。上記のように、振動検出センサ44も振動子42も、平面形状が異なるのみで、いずれも圧電材料層102とその両側の上面電極層104、下面電極層106とから構成される。探触素子40は、振動検出センサ44の上面電極層104と、振動子42の下面電極層106とを半田付け、あるいは導電接着材によって接合して形成される。
【0039】
そして、3本のリード端子48として、振動子42の上面電極層104に入力端子112が、振動検出センサ44の下面電極層106に出力端子114が、振動子42の下面電極層106及び振動検出センサ44の上面電極層104の接合された電極層に共通接地端子116が、それぞれ取り付けられる。3本のリード端子48は、適当な金属線を用いることができる。3本のリード端子48のそれぞれを対応する電極層に取り付けるのには、半田付け、あるいは導電接着材等を用いることができる。
【0040】
再び図4に戻り、保持基板34は、各探触素子40が2次元的配置で取り付けられる回路基板である。保持基板34には、各探触素子40に取り付けられた3本のリード端子48の先端部が挿入され、半田付けされる接続穴36が設けられる。そして、これらの接続穴36は、図示されていない配線パターンに接続され、配線パターンによって以後の処理に適した位置に引き出される。また、保持基板34には、適当な回路部品38を搭載することができる。かかる保持基板34としては、ガラスエポキシ製の回路基板等を用いることができる。
【0041】
保持基板34と各探触素子40との間に設けられる振動絶縁部材46は、探触素子40を構成する振動子42の自由な振動が保持基板34によって抑制されないように配置される緩衝材である。かかる振動絶縁部材46としては、例えば、ウレタン樹脂から構成されるウレタンシート、あるいはウレタンフォームを用いることができる。その他の材料から構成されるプラスチックゴムを用いてもよい。振動絶縁部材46は、図4に示されるように各探触素子40ごとに設けるものとしてもよく、場合によっては、複数の探触素子40にまたがって1枚のウレタンシート等を設けるものとしてもよい。振動絶縁部材46の厚さとしては、例えば約0.2mmから約0.5mm程度とすることができる。
【0042】
接触シート32は、保持基板34に取り付けられた複数の探触素子40の接触面側に配置される薄い保護シートである。かかる接触シート32としては、シリコン樹脂から構成されるシリコンシート等を用いることができる。その他の材料から構成されるプラスチックシートを用いてもよい。接触シート32の厚さとしては、例えば約0.2mmから約0.5mm程度とすることができる。
【0043】
以上でプローブ部20の説明を行ったので、再び図2に戻り、本体部60の構成の詳細を以下に説明する。以下では、図1、図3から図6と同様の要素については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。また、以下では、図1、図3から図6の符号を用いて説明する。
【0044】
本体部60において、硬さ算出切替回路62は、複数の探触素子40の中から、硬さ算出器70に接続される探触素子40を選択する機能を有する回路である。硬さ算出切替回路62は、切替スイッチ群64と、切替スイッチ群64の作動を制御する切替制御部66を含んで構成される。切替スイッチ群64は、複数の探触素子40を構成する各振動子42からの信号線と、各振動検出センサ44からの信号線とについて、複数のスイッチにより順次切り替えて硬さ算出器70に接続するスイッチ回路である。スイッチには半導体スイッチを用いることができる。
【0045】
切替制御部66は、切替スイッチ群64を構成する各スイッチにおける接続の順次切り替えを制御する。順次切替制御の方法としては、各探触素子40ごとの逐次切り替え、例えば、各探触素子40にアドレスを付し、アドレスの順に、硬さ算出器70への接続を行うものとすることができる。
【0046】
このように、硬さ算出切替回路62により、選択された1つの探触素子40について、その振動子42の信号線と、振動検出センサ44の信号線が、それぞれ硬さ算出器70に接続される。
【0047】
硬さ算出器70は、振動検出センサ44からの出力信号を受け取る端子72と、振動子42への入力信号を出す端子74と、算出された硬さのデータを出力する端子76とを有する。硬さ算出器70の内部は、次のように構成される。
【0048】
振動検出センサ44に接続される端子72は、適当なDCカットコンデンサ80を介して増幅器82に接続され、増幅器82の出力は、位相シフト回路84に入力され、位相シフト回路84の出力は、端子74を介して振動子42に接続される。このようにして振動子42−被測定対象である生体組織8−振動検出センサ44−増幅器82−位相シフト回路84−振動子42の閉ループが構成される。
【0049】
そして、位相シフト回路84から出力される閉ループの共振周波数は硬さ演算部86に入力される。硬さ演算部86は、周波数変化量算出モジュール88と、硬さ出力モジュール90を含んで構成される。周波数変化量算出モジュール88は、プローブ部20が生体組織8に接触する前後の閉ループの共振周波数の変化量を算出して硬さ出力モジュール90に入力し、硬さ出力モジュール90は予め求めておいた相関関係に基づき周波数変化量を硬さに変換して、各探触素子40の硬さとして端子76に出力する。
【0050】
増幅器82は、振動検出センサ44によって検出された信号を適当に増幅する電子回路で、周知の増幅回路を用いることができる。
【0051】
位相シフト回路84は、増幅器82の出力端と振動子42の入力端との間に設けられ、振動子42への入力波形と振動検出センサ44からの出力波形に位相差が生じるときは、その位相差について周波数を変化させてゼロにシフトさせ、閉ループ回路の共振を持続させる機能を有する。かかる位相シフト回路84の詳細は、上記特許文献2に述べられているので、ここでは、被測定対象である生体組織8の硬さに応じた大きさで、振動子42の入力波形と振動検出センサ44の出力波形に位相差が生じ、位相シフト回路84は、その位相差をゼロにするように閉ループの共振周波数を変化させることを述べるに止める。
【0052】
そこで、探触素子40が生体組織8に接触する前において振動子42の入力波形と振動検出センサ44の出力波形の位相差をゼロにしたときの閉ループの共振周波数f1を求め
、次に、探触素子40が生体組織8に接触する後において振動子42の入力波形と振動検出センサ44の出力波形の位相差をゼロにしたときの閉ループの共振周波数f2を求める。そして、求められた周波数f1とf2とが、硬さ算出部86の周波数変化量算出モジュール88に入力される。
【0053】
周波数変化量算出モジュール88は、入力された2つの周波数f1とf2から、周波数変化量Δf=f2−f1を算出する機能を有する。
【0054】
硬さ出力モジュール90は、予め周波数変化量Δfの大きさと、硬さとの間の関係を求めておき、これを周波数変化量Δfから硬さへの変換関係とし、この変換関係に基づいて、生体組織8の硬さとして出力する機能を有する。変換関係は、予め実験等で求めておき、これを適当な記憶装置に記憶し、必要に応じ読み出すものとできる。例えば、標準的な生体組織の硬さを別途の方法で求め、同じ生体組織について位相シフト法を用いた硬さ測定装置で周波数変化量Δfを求め、予め周波数変化量Δfと硬さとの相関関係を用意することができる。変換関係に基づいて変換された硬さは、対応する探触素子40が接触した部位の硬さとして、端子76から表示処理部92に出力される。
【0055】
表示処理部92は切替制御部66と協働して、端子76から出力された硬さを、対応する探触素子40の2次元的位置と関連付け、それぞれの探触素子40の硬さデータを2次元的表示に対応する変換処理を行う機能を有する。変換処理されたデータは2次元的硬さ表示器94に出力され、ここで、変換処理されたデータが2次元的硬さ分布として表示される。
【0056】
かかる構成の2次元的硬さ測定装置10の作用、特に、探触素子40の作用を、従来技術と比較して説明する。図7は、従来技術の構成及び作用と、図2で説明した構成及び作用とを比較して示す図で、図7(a)は上記特許文献1の構成及び作用を、(b)は、図2における探触素子40の構成及び作用を、それぞれ示してある。以下では、図1から図6と同様の要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。また、以下では、図1から図6の符号を用いて説明する。なお、図7(a)においても、比較のため、特許文献1に記載の符号、用語とは異なるが、図2の要素と同様の要素には同一の符号を付し、図2の用語を用いて説明する。
【0057】
図7(a)において、探触素子40は、振動子42と振動検出センサ44が積層され、取り付け台120を介して保持基板34に取り付けられる。そして、生体組織8に接触する側には、略半球状のボール122が取り付けられる。取り付け台120には、押付圧を検出するための圧力センサ124が設けられる。このような構成で、生体組織8に全体が圧接されると、生体組織8は、自然状態の表面N−Nから、略半球状のボール122の押し込みに応じて、略半球状にくぼみながら変形する。したがって、接触深さが浅いときは、ボール122と生体組織8との接触面積が少なく、接触深さが深くなるにつれ、ボール122と生体組織8との接触面積が多くなる。
【0058】
このことから、接触深さが各探触素子40で異なる場合には、検出される硬さにばらつきが出ることが考えられる。図7(a)の構成では、圧力センサ124を用い、所定の押し込み圧の範囲に入る探触素子40の硬さデータのみを表示することとして、接触深さの相違による硬さデータのばらつきを抑制している。
【0059】
図7(b)は、図2で説明した探触素子40周りの構成を図示したものである。上記のように、この探触素子40を構成する振動検出センサ44も振動子42も、振動子板100を平面内で縦横に切断して形成されたものである。したがって、接触シート32側に面する振動検出センサ44の接触面は、圧接方向に垂直な方向に平坦な接触面形状を有する。このような構成で、生体組織8に全体が圧接されると、生体組織8は、自然状態の表面N−Nから、振動検出センサ44の平坦面の押し込みに応じて、平坦面のまま変形する。したがって、接触深さが変化しても、探触素子40の先端面である振動検出センサ44の接触面と生体組織8との接触面積は常に同じである。このことから、接触深さが異なっても、接触面積の相違に基づく硬さの相違が生じることが抑制される。
【0060】
このように、平板状の振動子板を平面内で縦横に切断されて形成された振動検出センサ44と振動子42とを積層して探触素子40とすることで、これを用いた2次元的硬さ測定装置10のコストを低減でき、また、同時に、圧接の仕方に影響を受けることを少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る実施の形態における2次元的硬さ測定装置の全体構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態における硬さ測定装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、プローブ体の斜視図である。
【図4】本発明に係る実施の形態において、探触素子組立体の様子を示す部分拡大断面図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、振動子の製造方法を説明するための図である。
【図6】本発明に係る実施の形態において、振動検出センサと振動子を積層して探触素子を形成し、リード端子を取り付けた様子を示す図である。
【図7】本発明に係る実施の形態の構成及び作用を、従来技術の構成及び作用と比較して示す図である。
【符号の説明】
【0062】
8 生体組織、10 硬さ測定装置、20 プローブ部、22 先端部、24 把持部、26 圧接面、30 探触素子組立体、32 接触シート、34 保持基板、36 接続穴、38 回路部品、40 探触素子、42 振動子、44 振動検出センサ、46 振動絶縁部材、48 リード端子、50 インタフェース回路、60 本体部、62 硬さ算出切替回路、64 切替スイッチ群、66 切替制御部、70 硬さ算出器、72,74,76 端子、80 DCカットコンデンサ、82 増幅器、84 位相シフト回路、86 硬さ演算部、88 周波数変化量算出モジュール、90 硬さ出力モジュール、92 表示処理部、94 2次元的硬さ表示器、100 振動子板、102圧電材料層、104 上面電極層、106 下面電極層、112 入力端子、114 出力端子、116 共通接地端子、120 取り付け台、122 ボール、124 圧力センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象に接触シートを介して圧接される複数の探触素子であって、各探触素子は、被測定対象に振動を入射する振動子と、被測定対象からの反射波を検出する振動検出センサとをそれぞれ有する複数の探触素子と、
複数の探触素子を2次元アレイ状に配置して保持する保持基板と、
保持基板と各探触素子との間に設けられる振動絶縁部材と、
振動子の信号入力端と振動検出センサの信号出力端との間に設けられ、探触素子に接触する部分の被測定対象の硬さを算出する硬さ算出器と、
各探触素子と硬さ算出器との間の接続を順次切り替える硬さ算出切替回路と、
各探触素子について算出された硬さを2次元表示する表示器と、
を備え、
硬さ算出器は、
振動検出センサの信号出力端に入力端が接続された増幅器と、
増幅器の出力端と振動子の信号入力端との間に設けられ、振動子と振動検出センサと増幅器と共に閉ループ回路を形成し、振動子への入力波形と振動検出センサからの出力波形に位相差が生じるときは、その位相差について周波数を変化させてゼロにシフトさせ、閉ループ回路の共振を持続させる位相シフト回路と、
位相差をゼロにシフトさせるための周波数変化量を検出し、検出された周波数変化量から硬さを算出して出力する硬さ出力手段と、
を含み、
各探触素子は、圧接深さに関らず一定の接触面積で接触する接触面形状を有することを特徴とする2次元的硬さ測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の2次元的硬さ測定装置において、
各探触素子は、圧接方向に垂直な方向に平坦な接触面形状を有することを特徴とする2次元的硬さ測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の2次元的硬さ測定装置において、
各探触素子は、圧接方向に垂直な方向に、振動子と振動検出センサとが積層されていることを特徴とする2次元的硬さ測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の2次元的硬さ測定装置において、
振動子は、平板状の振動子板を平面内で縦横に分割して形成された矩形形状の平面形状を有し、
振動検出センサは、平板状の振動検出センサ板を平面内で縦横に分割して形成された矩形形状の平面形状を有することを特徴とする2次元的硬さ測定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の2次元的硬さ測定装置において、
保持基板は、硬さ算出器と硬さ算出切替回路を構成する回路要素のうち少なくとも一部が搭載される回路基板であることを特徴とする2次元的硬さ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−301903(P2008−301903A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149722(P2007−149722)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、都市エリア産学官連携促進事業(発展型)委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】