説明

Al基合金スパッタリングターゲットおよびその製造方法

【課題】スパッタリングターゲットの使用初期段階でのスプラッシュの発生を軽減し、これにより配線膜等に生じる欠陥を防止し、FPDの歩留りや動作性能を向上させることが可能なAl−(Ni,Co)−(Cu,Ge)−(La,Gd,Nd)系合金スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】A群(Ni,Co)から選択される少なくとも1種と、B群(Cu,Ge)から選択される少なくとも1種と、C群(La,Gd,Nd)から選択される少なくとも1種を各々含有するAl−(Ni,Co)−(Cu,Ge)−(La,Gd,Nd)系合金スパッタリングターゲットを構成し、そのビッカース硬さ(HV)を35以上にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A群(Ni,Co)から選択される少なくとも1種と、B群(Cu,Ge)から選択される少なくとも1種と、C群(La,Gd,Nd)から選択される少なくとも1種を各々含有するAl基合金(以下、「Al−(Ni,Co)−(Cu,Ge)−(La,Gd,Nd)系合金」と記載する)スパッタリングターゲットおよびその製造方法に関し、詳細には、スパッタリングターゲットを用いて薄膜を成膜する際、スパッタリングの初期段階で発生する初期スプラッシュを低減することが可能なAl基合金スパッタリングターゲットおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Al基合金は、電気抵抗率が低く、加工が容易であるなどの理由により、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、プラズマディスプレイパネル(PDP:Plasma Display Panel)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD:Electro Luminescence Display)、フィールドエミッションディスプレイ(FED:Field Emission Display)、メムス(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(FPD:Flat Panel Display)、タッチパネル、電子ペーパーの分野で汎用されており、配線膜、電極膜、反射電極膜などの材料に利用されている。
【0003】
例えば、アクティブマトリクス型の液晶ディスプレイは、スイッチング素子である薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)、導電性酸化膜から構成される画素電極、および走査線や信号線を含む配線を有するTFT基板を備えており、走査線や信号線は、画素電極に電気的に接続されている。走査線や信号線を構成する配線材料には、一般に、純AlやAl−Nd合金の薄膜が用いられるが、これらの薄膜を画素電極と直接接触させると、絶縁性の酸化アルミニウムなどが界面に形成されて接触電気抵抗が増加するため、これまでは、上記Alの配線材料と画素電極の間に、Mo,Cr,Ti,W等の高融点金属からなるバリアメタル層を設けて接触電気抵抗の低減化を図ってきた。
【0004】
しかしながら、上記のようにバリアメタル層を介在させる方法は、製造工程が煩雑になって生産コストの上昇を招くなどの問題がある。
【0005】
そこで、本出願人は、バリアメタル層を介さずに、画素電極を構成する導電性酸化膜を配線材料と直接接触することが可能な技術(ダイレクトコンタクト技術)を提供するため、配線材料として、Al−Ni合金や、NdやYなどの希土類元素を更に含有するAl−Ni−希土類元素合金の薄膜を用いる方法を提案している(特許文献1)。Al−Ni合金を用いれば、界面に導電性のNi含有析出物などが形成され、絶縁性酸化アルミニウム等の生成が抑制されるため、接触電気抵抗を低く抑えることができる。また、Al−Ni−希土類元素合金を用いれば、耐熱性が更に高められる。
【0006】
ところで、Al基合金薄膜の形成には、一般にスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法が採用されている。スパッタリング法とは、基板と、薄膜材料と同一の材料から構成されるスパッタリングターゲットとの間でプラズマ放電を形成し、プラズマ放電によってイオン化させた気体をスパッタリングターゲットに衝突させることによってスパッタリングターゲットの原子をたたき出し、基板上に積層させて薄膜を作製する方法である。
【0007】
スパッタリング法は、真空蒸着法とは異なり、スパッタリングターゲットと同じ組成の薄膜を形成できるというメリットを有している。特に、スパッタリング法で成膜されたAl基合金薄膜は、平衡状態では固溶しないNdなどの合金元素を固溶させることができ、薄膜として優れた性能を発揮することから、工業的に有効な薄膜作製方法であり、その原料となるスパッタリングターゲットの開発が進められている。
【0008】
近年、FPDの生産性向上などに対応するため、スパッタリング工程時の成膜速度は、従来よりも高速化する傾向にある。成膜速度を速くするためには、スパッタリングパワーを大きくすることが最も簡便であるが、スパッタリングパワーを増加させると、スプラッシュ(微細な溶融粒子)などのスパッタリング不良が発生し、配線膜等に欠陥が生じるため、FPDの歩留りや動作性能が低下するなどの弊害をもたらす。
【0009】
そこで、スプラッシュの発生を防止する目的で、例えば、特許文献2〜5に記載の方法が提案されている。このうち、特許文献2〜4は、いずれも、スプラッシュの発生原因がスパッタリングターゲットの組織中にある微細な空隙に起因するという観点に基づいてなされたものであり、Alマトリックス中のAlと希土類元素との化合物粒子の分散状態を制御したり(特許文献2)、Alマトリックス中のAlと遷移元素との化合物の分散状態を制御したり(特許文献3)、スパッタリングターゲット中の添加元素とAlとの金属間化合物の分散状態を制御したり(特許文献4)することによって、スプラッシュの発生を防止している。また、特許文献5には、スプラッシュの原因であるアーキング(異常放電)を低減するため、スパッタ面の硬度を調整した後、仕上機械加工を行うことにより、機械加工に伴う表面欠陥の発生を抑制する方法が開示されている。
【0010】
他方、特許文献6には、スプラッシュの発生を防止する技術として、Alを主体とするインゴットを300〜450℃の温度範囲で75%以下の加工率で圧延により板状にし、次いで圧延時温度以上で550℃以下の加熱処理を行い、圧延面側をスパッタリング面とすることにより、得られるAl−Ti−W合金等のスパッタリングターゲットのビッカース硬さを25以下とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−214606号公報
【特許文献2】特開平10−147860号公報
【特許文献3】特開平10−199830号公報
【特許文献4】特開平11−293454号公報
【特許文献5】特開2001−279433号公報
【特許文献6】特開平9−235666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、例えば、Al−Ni−希土類元素合金や、Al−Ti−W合金に対しては一定のスプラッシュ防止策が開示されている。しかしながら、スプラッシュ防止技術はスパッタリングターゲットの種類によっても異なると考えられる。本発明者らは、既にスパッタリングターゲットとしてAl−(Ni,Co)−(Cu,Ge)−(La,Gd,Nd)系合金を用いれば、当該材料で形成されるAl基合金膜と導電性酸化膜からなる画素電極とを直接接触させることができ、更に、接触後の熱処理温度が比較的低い場合でも、低い電気抵抗率及び優れた耐熱性が得られることを見出しているが、スパッタリングターゲットがAl−(Ni,Co)−(Cu,Ge)−(La,Gd,Nd)系合金である場合に特に有効なスプラッシュ防止策が確立されているわけではない。
【0013】
そこで、本発明は、スパッタリングターゲットとしてAl−(Ni,Co)−(Cu,Ge)−(La,Gd,Nd)系合金を用いた場合にスプラッシュを有効に防止できるスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決することのできた本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、
A群(Ni,Co)から選択される少なくとも1種と、
B群(Cu,Ge)から選択される少なくとも1種と、
C群(La,Gd,Nd)から選択される少なくとも1種
を各々含有するAl基合金スパッタリングターゲットであって、その硬さがビッカース硬さ(HV)で35以上であることを特徴とするものである。
【0015】
上記Al基合金スパッタリングターゲットにおいて、
A群の総含有量を0.05原子%以上、1.5原子%以下、
B群の総含有量を0.1原子%以上、1原子%以下、
C群の総含有量を0.1原子%以上、1原子%以下
とすることが推奨される。
【0016】
上記Al基合金スパッタリングターゲットにおいて、
A群からNiのみを選択し、B群からCuのみを選択し、C群からLaのみを選択することが望ましい。
【0017】
上記Al基合金スパッタリングターゲットにおいて、
A群からCoのみを選択し、B群からGeのみを選択し、C群からLaのみを選択することが望ましい。
【0018】
上記Al基合金スパッタリングターゲットにおいて、
A群からNiのみを選択し、B群からGeのみを選択し、C群からNdのみを選択することが望ましい。
【0019】
上記Al基合金スパッタリングターゲットにおいて、
A群からCoのみを選択し、B群からGeのみを選択し、C群からNdのみを選択することが望ましい。
【0020】
また、上記課題を解決することのできた本発明のAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法は、
A群(Ni,Co)の総含有量が0.05原子%以上、1.5原子%以下、
B群(Cu,Ge)の総含有量が0.1原子%以上、1原子%以下、
C群(La,Gd,Nd)の総含有量が0.1原子%以上、1原子%以下
であるAl基合金の850〜1000℃の溶湯を得る工程と、
溶湯を、ガス/メタル比が6Nm/kg以上でガスアトマイズしてAl基合金を微細化する工程と、
微細化したAl基合金をスプレイ距離が900〜1200mmの条件でコレクターに堆積し、プリフォームを得る工程と、
プリフォームを緻密化手段によって緻密化し、緻密体を得る工程と、
緻密体を450℃以下で塑性加工を行う工程と、
塑性加工後の緻密体を100〜300℃で焼鈍を行う工程と
を包含するものである。
【0021】
上記Al基合金スパッタリングターゲットの製造方法において、
A群からNiのみを選択し、B群からCuのみを選択し、C群からLaのみを選択することが望ましい。
【0022】
上記Al基合金スパッタリングターゲットの製造方法において、
A群からCoのみを選択し、B群からGeのみを選択し、C群からLaのみを選択することが望ましい。
【0023】
上記Al基合金スパッタリングターゲットの製造方法において、
A群からNiのみを選択し、B群からGeのみを選択し、C群からNdのみを選択することが望ましい。
【0024】
上記Al基合金スパッタリングターゲットの製造方法において、
A群からCoのみを選択し、B群からGeのみを選択し、C群からNdのみを選択することが望ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、スパッタリングターゲットとしてAl−(Ni,Co)−(Cu,Ge)−(La,Gd,Nd)系合金を用い、かつ、スパッタリングターゲットのビッカース硬さ(HV)が適切に調整されているために、スパッタリングターゲットの使用初期段階での異常放電、特に初期スプラッシュの発生が軽減される。従って、スプラッシュによる配線膜等に生じる欠陥を防止でき、ひいてはFPDの歩留りを向上させ、FPDの動作性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本実施の形態にかかるプリフォームを製造するのに用いられる装置の一例を部分的に示す断面図である。
【図2】図2は、図1中、Xの要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明者らは、Al−(Ni,Co)−(Cu,Ge)−(La,Gd,Nd)系合金スパッタリングターゲットを用いたときのスパッタリング不良を低減するため、種々の条件によるスプラッシュの発生状況について鋭意研究を重ねてきた。その結果、スパッタリングターゲットのビッカース硬さ(HV)を増加することによりスプラッシュの発生が著しく低減されることを見いだし、また、スプラッシュの発生を抑制できるAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法と製造条件を追求することにより本発明を完成した。
【0028】
より詳細には、以下のように検討した。Al−(Ni,Co)−(Cu,Ge)−(La,Gd,Nd)系合金スパッタリングターゲットの硬さが低いと初期スプラッシュが発生し易い。その理由として次のようなことが考えられる。すなわち、スパッタリングターゲットの硬さが低いと、スパッタリングターゲットの製造に用いるフライス盤や旋盤などによる機械加工の仕上げ面の微視的平滑さが悪化するため、言い換えると、素材表面が複雑に変形し、粗くなるため、機械加工に用いる切削油等の汚れがスパッタリングターゲットの表面に取り込まれ、残留する。このような汚れは、後工程で表面洗浄を行っても十分に取り除くことが困難である。以上のように、スパッタリングターゲットの表面に残留した汚れが、スパッタリング時の初期スプラッシュの発生起点になっていると考えられる。
【0029】
このような汚れをスパッタリングターゲットの表面に残留させないようにするには、機械加工時の加工性(切れ味)を改善し、素材表面が粗くならないようにすることが必要である。そのため、本発明者等はスパッタリングターゲットの硬さを増大させることを考えた。
【0030】
本発明では、Al−(Ni,Co)−(Cu,Ge)−(La,Gd,Nd)系合金スパッタリングターゲットの硬さをビッカース硬さ(HV)で35以上としている。その理由は、ビッカース硬さが35未満であると、機械加工後の表面が粗くなり初期スプラッシュが増加してしまうためである。そのため、ビッカース硬さを35以上とし、より好ましくは40以上、さらに好ましくは45以上とする。ビッカース硬さの上限値は特に限定されないが、高すぎると、鍛造や圧延などの塑性加工が行いにくくなるため、好ましくは160以下、より好ましくは140以下、さらに好ましくは120以下とする。
【0031】
本出願人は、これまでも、Al基合金スパッタリングターゲットを用いて形成される配線膜、電極膜、反射電極膜などのAl基合金膜に関して、画素電極を構成する導電性酸化膜と低接触電気抵抗で直接接触させることができる技術を提案してきた。このような技術は、上述のように「ダイレクトコンタクト技術」として好ましく用いられる。本発明のAl基合金スパッタリングターゲットに含まれるA群(Ni,Co)は、該Al基合金膜と、このAl基合金膜に直接接触する画素電極との接触電気抵抗を低減するのに有効な元素であり、1種以上を含ませる。
【0032】
A群の総含有量は、0.05〜1.5原子%とすることが好ましい。総含有量を0.05原子%以上としたのは、接触電気抵抗を低減する効果を一層有効に発揮させるためであり、より好ましくは0.07原子%以上、さらに好ましくは0.1原子%以上である。一方、A群の総含有量を多くし過ぎると、Al基合金膜の電気抵抗率が高くなってしまうため、好ましくは1.5原子%以下とする。より好ましくは1.3原子%以下、さらに好ましくは1.1原子%以下である。
【0033】
また、本発明のAl基合金スパッタリングターゲットに含まれるB群(Cu,Ge)は、このAl基合金スパッタリングターゲットを用いて形成されるAl基合金膜の耐食性を向上させるのに有効な元素であり、1種以上を含ませる。
【0034】
B群の総含有量は、0.1〜1原子%とすることが好ましい。総含有量を0.1原子%以上としたのは、耐食性向上の効果を一層有効に発揮させるためであり、より好ましくは0.2原子%以上、さらに好ましくは0.3原子%以上である。一方、B群の総含有量を多くし過ぎると、Al基合金膜の電気抵抗率が高くなってしまうため、好ましくは1原子%以下とする。より好ましくは0.8原子%以下、さらに好ましくは0.6原子%以下である。
【0035】
また、本発明のAl基合金スパッタリングターゲットに含まれるC群(La,Gd,Nd)は、このAl基合金スパッタリングターゲットを用いて形成されるAl基合金膜の耐熱性を向上させ、Al基合金膜の表面に形成されるヒロックを防止するのに有効な元素であり、1種以上を含ませる。
【0036】
C群の総含有量は、0.1〜1原子%とすることが好ましい。総含有量を0.1原子%以上としたのは、耐熱性の向上効果、すなわちヒロックの防止効果を一層有効に発揮するためであり、より好ましくは0.2原子%以上、さらに好ましくは0.3原子%以上である。一方、C群の総含有量を多くし過ぎると、Al基合金膜の電気抵抗率が高くなってしまうため、好ましくは1原子%以下とする。より好ましくは0.8原子%以下、さらに好ましくは0.6原子%以下である。
【0037】
本発明に用いられるAl基合金は、A群(Ni,Co)から選択される少なくとも1種と、B群(Cu,Ge)から選択される少なくとも1種と、C群(La,Gd,Nd)から選択される少なくとも1種を各々含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものである。不可避的不純物としては、製造過程などで不可避的に混入する元素、例えば、Fe、Si、C、O、Nなどが挙げられ、その含有量としては、各元素それぞれ0.05重量%以下とすることが好ましい。
【0038】
次に、本発明のスパッタリングターゲットを製造する方法の概要を説明する。
まず、Al−(Ni,Co)−(Cu,Ge)−(La,Gd,Nd)系合金の溶湯を用意する。
【0039】
次に、上記のAl基合金を用い、好ましくは、スプレイフォーミング法によってAl基合金プリフォーム(最終的な緻密体を得る前の中間体)を製造した後、プリフォームを緻密化手段によって緻密化する。
【0040】
ここで、スプレイフォーミング法は、各種の溶融金属をガスによってアトマイズし、半溶融状態・半凝固状態・固相状態に急冷させた粒子を堆積させ、所定形状の素形材(プリフォーム)を得る方法である。この方法によれば、溶解鋳造法や粉末焼結法などでは得ることが困難な大型のプリフォームを単一の工程で得られるほか、結晶粒を微細化でき、合金元素を均一に分散することができる、などの利点がある。
【0041】
プリフォームの製造工程は、おおむね、(液相温度+150℃)〜(液相温度+300℃)の範囲内で溶解し、Al基合金の溶湯を得る工程と、Al基合金の溶湯を、ガス流出量/溶湯流出量の比で表されるガス/メタル比が6Nm/kg以上の条件でガスアトマイズし、微細化する工程と、微細化したAl基合金を、スプレイ距離:約900〜1200mmの条件でコレクターに堆積し、プリフォームを得る工程とを包含する。
【0042】
以下、図1および図2を参照しながら、プリフォームを得るための各工程を詳細に説明する。
【0043】
図1は、本発明のプリフォームを製造するのに用いられる装置の一例を部分的に示す断面図である。図2は、図1中、Xの要部拡大図である。
【0044】
図1に示す装置の断面概要図及び図2に示すガス噴出部の要部拡大説明図に従って述べると、Al基合金を溶解するための誘導溶解炉1と、誘導溶解炉1の下方に設置されたガスアトマイザー3a、3bと、プリフォームを堆積するためのコレクター5とを備えている。誘導溶解炉1は、Al基合金の溶湯2を落下させるノズル6を有している。また、ガスアトマイザー3a、3bは、それぞれ、ガスをアトマイズするためのボビンのガス穴4a、4bを有している。コレクター5は、プリフォームの製造が進行してもプリフォーム堆積面の高さが一定となるよう、コレクター5を下降させるべくステッピングモータなどの駆動手段(不図示)を有している。
【0045】
まず、前述した組成のAl基合金を用意する。このAl基合金を誘導溶解炉1に投入した後、好ましくは、不活性ガス(例えば、Arガス)雰囲気中で、Al基合金の液相温度に対し、おおむね、+150℃〜+300℃の範囲内で溶解する。
【0046】
溶解温度は、一般に、液相温度+50℃〜+200℃の範囲で実施されている(例えば、特開平9−248665号公報参照)。これに対して、本発明のAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法においては、金属間化合物の粒度分布を適切に制御するため、液相温度+150℃〜+300℃の範囲に設定した。本発明で対象とするAl−(Ni,Co)−(Cu,Ge)−(La,Gd,Nd)系合金の場合は、おおむね、850〜1000℃で実施する。溶解温度が850℃未満では、スプレイフォーミングにおいて用いるノズルの閉塞が生じてしまうからである。
【0047】
一方、1000℃を超えると、液滴温度が高くなるため、平均粒径3μm以上の金属間化合物が占める面積率が増加し、所望のスプラッシュ軽減効果が得られない。したがって、Al基合金の溶解温度は、(液相温度+150℃)〜(液相温度+300℃)の範囲内であることが好ましい。本発明で対象とするAl−(Ni,Co)−(Cu,Ge)−(La,Gd,Nd)系合金の場合は、前述の通り850〜1000℃であることが好ましく、900〜1000℃であることがより好ましい。
【0048】
本発明のAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法では、Al基合金の溶湯を、ガス/メタル比が6Nm/kg以上でガスアトマイズし、微細化する工程を包含する。
【0049】
ガスアトマイズは、上記のように不活性ガスあるいは窒素ガスを用いて行なうことが好ましく、これにより、溶湯の酸化が抑えられる。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガスなどが挙げられる。
【0050】
ここで、ガス/メタル比は6Nm/kg以上とする。ガス/メタル比は、ガス流出量(Nm)/溶湯流出量(kg)の比で表される。本明細書において、ガス流出量とは、Al基合金の溶湯をガスアトマイズするために、ボビンのガス穴4a、4bから流出されるガスの総量(最終的に使用した合計量)を意味する。また、本明細書において、溶湯流出量とは、Al基合金の溶湯が入った容器(誘導溶解炉1)の溶湯流出口(ノズル6)から流出される溶湯の総量を意味する。
【0051】
ガス/メタル比が6Nm/kg未満の場合、液滴のサイズが大きくなる傾向にあるため、冷却速度が低下し、平均粒径3μm超の金属間化合物の占積率が増加し、所望の効果が得られない。
【0052】
ガス/メタル比は大きい程良く、例えば、6.5Nm/kg以上であることが好ましく、7Nm/kg以上であることがより好ましい。なお、その上限は特に限定されないが、ガスアトマイズ時の液滴流れの安定性やコストなどを考慮すると、15Nm/kg以下であることが好ましく、10Nm/kg以下であることがより好ましい。
【0053】
ガスアトマイズノズル中心軸6a,6bのなす角度を2αとしたとき、2αを1〜50°、より好ましくは10〜40°の範囲内に制御することが好ましい。
【0054】
本発明のAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法では、微細化したAl基合金をスプレイ距離が900〜1200mmの条件でコレクターに堆積し、プリフォームを得る工程を包含している。この工程は、上記のようにして微細化したAl基合金(液滴)をコレクター5に堆積し、プリフォームを得ることにより実施される。
【0055】
ここでは、スプレイ距離を900〜1200mmの範囲内に制御することが好ましい。スプレイ距離とは液滴の集積位置を規定しており、図1に示すように、ノズル6の先端(図1中、A1)からコレクター5の中心(図1中、A2)までの距離Lを意味する。後述するように、コレクター5はコレクター角度βで傾斜しているため、スプレイ距離Lは、厳密には、ノズル6の先端と、コレクター5の中心A2の水平線がスプレイ軸Aと交差する点(図1中、A3)との距離を意味している。ここで、スプレイ軸Aとは、説明の便宜のため、Al基合金の液滴が真下に落下する方向を規定したものである。
【0056】
一般に、スプレイフォーミングにおけるスプレイ距離は、おおむね、500mm前後に制御していることが多いが、本発明では、上記金属間化合物について所望の粒度分布を得るため、上記の範囲に設定した。スプレイ距離が900mmを下回ると、高温状態の液滴がコレクター上に堆積するために冷却速度が低下し、平均粒径3μm以上の金属間化合物の占積率が増加するため、所望の効果が得られない。一方、スプレイ距離が1200mmを超えると、歩留りが低下してしまう。スプレイ距離Lは、おおむね、950〜1100mmの範囲内であることがより好ましい。
【0057】
更に、コレクター角度βを20〜45°、より好ましくは30〜40°の範囲内に制御することが好ましい。
【0058】
本発明のAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法では、上記プリフォームを緻密化手段によって緻密化し、緻密体を得る工程を包含している。
【0059】
緻密化手段としては、プリフォームを略等方向に加圧する方法、特に熱間で加圧する熱間静水圧プレス(HIP:Hot Isostatic Pressing)を行うことが好ましい。具体的には、例えば、80MPa以上、より好ましくは90MPa以上の圧力下、400〜600℃、より好ましくは500〜570℃の温度でHIP処理を行うことが好ましい。HIP処理の時間は、おおむね、1〜10時間、より好ましくは1.5〜5時間の範囲内とすることが好ましい。
【0060】
本発明のAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法では、450℃以下で上記の緻密体を塑性加工する工程を包含している。温度を450℃以下とした理由は、450℃を超えるとAl母相の結晶粒やAl母相中の金属間化合物が成長し、硬さが低下して、初期スプラッシュの発生数が増加するためである。したがって緻密体を塑性加工する温度としては450℃以下とすることが好ましく、より好ましくは420℃以下、さらに好ましくは400℃以下とすることが望ましい。
【0061】
本発明のAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法では、塑性加工後の緻密体を100〜300℃で焼鈍を行う工程を包含するものである。焼鈍を行うのは、塑性加工により生じた緻密体の歪みを除去するためである。
【0062】
焼鈍温度を100℃以上とした理由は、100℃未満となると塑性加工により生じた歪みを焼鈍により除去することができず、後工程の機械加工によって所望の寸法・形状に仕上げることが困難になるからである。より好ましい焼鈍温度は、150℃以上、さらに好ましくは、200℃以上である。一方、焼鈍温度が300℃を超えるとAl母相の結晶粒やAl母相中の金属間化合物が成長し、硬さが低下して、初期スプラッシュの発生数が増加してしまう。従って、焼鈍温度の上限は、300℃とすることが好ましい。より好ましくは、270℃以下、さらに好ましくは、250℃以下である。また、焼鈍時間は、例えば、1時間〜4時間、好ましくは2時間〜3時間とする。
【0063】
以上説明したAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法では、Al−(Ni,Co)−(Cu,Ge)−(La,Gd,Nd)系合金中の合金元素量(A群及びB群及びC群から選択される元素の総量)が少ないながらも、Al母相中の金属間化合物を微細・均一に析出させたことによる析出強化、さらにAl母相の結晶粒を微細・均一にすることによる結晶粒界強化によって、高硬度化を図ることが可能である。そこで本発明では、Al母相中の金属間化合物を微細・均一に析出させるため、その製造方法には溶解鋳造法ではなく、急冷法の一つであるスプレイフォーミング法を採用している。また、Al母相の結晶粒を微細・均一にするため、その製造方法に温度を制御した塑性加工、そして温度を制御した焼鈍を採用したものである。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0065】
(実施例1)
Al−Ni−Cu−La系合金を用い、表1,表2に示すような種々の条件のもと、スプレイフォーミング法によってAl基合金プリフォーム(密度:約50〜60%)を得た。
【0066】
(スプレイフォーミング条件)
溶解温度 :800〜1100℃(表1,表2を参照)
ガス/メタル比 :5〜8Nm/kg(表1,表2を参照)
スプレイ距離 :800〜1300mm(表1,表2を参照)
ガスアトマイズ出口角度α(図2参照):7°
コレクター角度β:35°
【0067】
このようにして得られたプリフォームをカプセルに封入して脱気し、上記カプセル全体に熱間静水圧プレス(HIP)を行い、Al−Ni−Cu−La系合金の緻密体を得た。HIP処理は、HIP温度:550℃、HIP圧力:85MPa、HIP時間:2時間で行なった。
【0068】
次に、得られた緻密体を鍛造して板状の金属材とし、更に、板厚がほぼ最終製品(スパッタリングターゲット)と同程度になるように圧延を行なった後、焼鈍し、機械加工(丸抜き加工および旋盤加工)を行って、円板状のAl−Ni−Cu−La系合金スパッタリングターゲット(サイズ:直径101.6mm×厚さ5.0mm)を製造した。塑性加工等の詳細な条件は以下の通りである。
【0069】
鍛造前の加熱条件:500℃で2時間
圧延前の加熱条件:350〜480℃で2時間
総圧下率:50%
焼鈍条件:50〜350℃で2時間
【0070】
製造された試料のビッカース硬さ(HV)は、ビッカース硬度計(株式会社明石製作所製、AVK−G2)を用いて測定した。
【0071】
次に、上記の方法によって得られた各スパッタリングターゲットを用い、以下の条件でスパッタリングを行なったときに発生するスプラッシュ(初期スプラッシュ)の個数を測定した。
【0072】
まず、Siウェーハ基板(サイズ:直径100.0mm×厚さ0.50mm)に対し、株式会社島津製作所製「スパッタリングシステムHSR−542S」のスパッタリング装置を用いてDCマグネトロンスパッタリングを行った。スパッタリング条件は、以下の通りである。
【0073】
背圧:3.0×10−6Torr以下
Arガス圧:2.25×10−3Torr
Arガス流量:30sccm、スパッタリングパワー:811W
極間距離:51.6mm
基板温度:室温
スパッタリング時間:81秒間
【0074】
このようにして、スパッタリングターゲット1枚につき、16枚の薄膜を形成した。従って、スパッタリングは、81(秒間)×16(枚)=1296秒間行なった。
【0075】
次に、パーティクルカウンター(株式会社トプコン製:ウェーハ表面検査装置WM−3)を用い、上記薄膜の表面に認められたパーティクルの位置座標、サイズ(平均粒径)、および個数を計測した。ここでは、サイズが3μm以上のものをパーティクルとみなしている。その後、この薄膜表面を光学顕微鏡観察(倍率:1000倍)し、形状が半球形のものをスプラッシュとみなし、単位面積当たりのスプラッシュの個数を計測した。
【0076】
詳細には、上記薄膜1枚につき、上記のスパッタリングを行なう工程を、Siウェーハ基板を差し替えながら、連続して、薄膜16枚について同様に行い、スプラッシュの個数の平均値を「初期スプラッシュの発生数」とした。本実施例では、このようにして得られた初期スプラッシュの発生数が8個/cm未満のものを「初期スプラッシュ軽減効果あり:合格(○)」とし、8個/cm以上のものを「初期スプラッシュ軽減効果なし:不合格(×)」とした。これらの試験結果を表1,表2に示す(番号1〜33)。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
表1,表2中、Ni(at%)は、Ni元素の含有量(原子%)、Cu(at%)は、Cu元素の含有量(原子%)、La(at%)は、La元素の含有量(原子%)をそれぞれ示す。表1,表2から次のことが分かる。番号1〜10,12〜14,17〜19,21〜23,25〜27,30〜32は、Al−Ni−Cu−La系合金スパッタリングターゲットのビッカース硬さ(HV)が適切に制御されているため、初期スプラッシュの発生数は8個/cm未満にとどまっており、初期スプラッシュの軽減効果がある。
【0080】
これに対し、上記ビッカース硬さ(HV)が適切でない試料では、それぞれ以下の理由により、スプラッシュの発生数が8個/cm以上であり、初期スプラッシュの軽減効果があるとはいえない。
【0081】
番号11は、Al−Ni−Cu−La系合金を溶解する温度が低い例であり、スプレイフォーミングにおいてノズルの閉塞が発生したため、スプレイフォーミングを中断し、その後のビッカースの硬さ測定と初期スプラッシュの評価を行うことができなかったものである。
【0082】
番号15は、Al−Ni−Cu−La系合金を溶解する温度が高い例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0083】
番号16は、Al−Ni−Cu−La系合金の溶湯をガスアトマイズする工程におけるガス/メタル比が低い例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0084】
番号20は、Al−Ni−Cu−La系合金をコレクターに堆積する工程におけるスプレイ距離が短い例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0085】
番号24は、Al−Ni−Cu−La系合金をコレクターに堆積する工程におけるスプレイ距離が長い例であり、スプレイフォーミングにおいて歩留り低下が発生した。そのため、その後の工程へ付するに至らず、ビッカース硬さの測定と初期スプラッシュの評価を行うことができなかった。
【0086】
番号28は、高い温度で塑性加工(圧延)した例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0087】
番号29は、低い温度で焼鈍した例であり、塑性加工(圧延)により生じた歪みを除去することができず、その後の機械加工によって所望の寸法・形状に仕上げることが困難であった。そのため、その後の初期スプラッシュの評価を行うことができなかった。
【0088】
番号33は、高い温度で焼鈍した例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0089】
(実施例2)
次に、Al−Co−Ge−La系合金(表3,表4)を用い、実施例1と同様の方法と条件(表3,表4に示す条件を除く)により、Al基合金スパッタリングターゲット(試料)を製造した(番号34〜66)。得られたAl基合金スパッタリングターゲットのビッカース硬さ(HV)を測定し、さらにスパッタリング試験を行うことにより初期スプラッシュの発生を評価した。
【0090】
【表3】

【0091】
【表4】

【0092】
表3,表4中、Co(at%)は、Co元素の含有量(at%)、Ge(at%)は、Ge元素の含有量(at%)、La(at%)は、La元素の含有量(at%)をそれぞれ示す。表3,表4から次のことが分かる。番号34〜43,45〜47,50〜52,54〜56,58〜60,63〜65は、Al−Co−Ge−La系合金スパッタリングターゲットのビッカース硬さ(HV)が適切に制御されているため、初期スプラッシュの発生数は8個/cm未満にとどまっており、初期スプラッシュの軽減効果がある。
【0093】
これに対し、上記ビッカース硬さ(HV)が適切でない試料では、それぞれ以下の理由により、スプラッシュの発生数が8個/cm以上であり、初期スプラッシュの軽減効果があるとはいえない。
【0094】
番号44は、Al−Co−Ge−La系合金を溶解する温度が低い例であり、スプレイフォーミングにおいてノズルの閉塞が発生したため、スプレイフォーミングを中断し、その後のビッカース硬さの測定と初期スプラッシュの評価を行うことができなかったものである。
【0095】
番号48は、Al−Co−Ge−La系合金を溶解する温度が高い例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0096】
番号49は、Al−Co−Ge−La系合金の溶湯をガスアトマイズする工程におけるガス/メタル比が低い例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0097】
番号53は、Al−Co−Ge−La系合金をコレクターに堆積する工程におけるスプレイ距離が短い例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0098】
番号57は、Al−Co−Ge−La系合金をコレクターに堆積する工程におけるスプレイ距離が長い例であり、スプレイフォーミングにおいて歩留り低下が発生した。そのため、その後の工程へ付するに至らず、ビッカース硬さの測定と初期スプラッシュの評価を行うことができなかった。
【0099】
番号61は、高い温度で塑性加工(圧延)した例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0100】
番号62は、低い温度で焼鈍した例であり、塑性加工(圧延)により生じた歪みを除去することができず、その後の機械加工によって所望の寸法・形状に仕上げることが困難であった。そのため、その後の初期スプラッシュの評価を行うことができなかった。
【0101】
番号66は、高い温度で焼鈍した例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0102】
(実施例3)
次に、Al−Ni−Ge−Nd系合金(表5,表6)を用い、実施例1と同様の方法と条件(表5,表6に示す条件を除く)により、Al基合金スパッタリングターゲット(試料)を製造した(番号67〜99)。得られたAl基合金スパッタリングターゲットのビッカース硬さ(HV)を測定し、さらにスパッタリング試験を行うことにより初期スプラッシュの発生を評価した。
【0103】
【表5】

【0104】
【表6】

【0105】
表5,表6中、Ni(at%)は、Ni元素の含有量(at%)、Ge(at%)は、Ge元素の含有量(at%)、Nd(at%)は、Nd元素の含有量(at%)をそれぞれ示す。表5,表6から次のことが分かる。番号67〜76,78〜80,83〜85,87〜89,91〜93,96〜98は,Al−Ni−Ge−Nd系合金スパッタリングターゲットのビッカース硬さ(HV)が適切に制御されているため、初期スプラッシュの発生数は8個/cm未満にとどまっており、初期スプラッシュの軽減効果がある。
【0106】
これに対し、上記ビッカース硬さ(HV)が適切でない試料では、それぞれ以下の理由により、スプラッシュの発生数が8個/cm以上であり、初期スプラッシュの軽減効果があるとはいえない。
【0107】
番号77は、Al−Ni−Ge−Nd系合金を溶解する温度が低い例であり、スプレイフォーミングにおいてノズルの閉塞が発生したため、スプレイフォーミングを中断し、その後のビッカース硬さの測定と初期スプラッシュの評価を行うことができなかったものである。
【0108】
番号81は、Al−Ni−Ge−Nd系合金を溶解する温度が高い例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0109】
番号82は、Al−Ni−Ge−Nd系合金の溶湯をガスアトマイズする工程におけるガス/メタル比が低い例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0110】
番号86は、Al−Ni−Ge−Nd系合金をコレクターに堆積する工程におけるスプレイ距離が短い例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0111】
番号90は、Al−Ni−Ge−Nd系合金をコレクターに堆積する工程におけるスプレイ距離が長い例であり,スプレイフォーミングにおいて歩留り低下が発生した。そのため、その後の工程へ付するに至らず、ビッカース硬さの測定と初期スプラッシュの評価を行うことができなかった。
【0112】
番号94は、高い温度で塑性加工(圧延)した例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0113】
番号95は、低い温度で焼鈍した例であり、塑性加工(圧延)により生じた歪みを除去することができず、その後の機械加工によって所望の寸法・形状に仕上げることが困難であった。そのため、その後の初期スプラッシュの評価を行うことができなかった。
【0114】
番号99は、高い温度で焼鈍した例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0115】
(実施例4)
次に、Al−Co−Ge−Nd系合金(表7,表8)を用い、実施例1と同様の方法と条件(表7,表8に示す条件を除く)により、Al基合金スパッタリングターゲット(試料)を製造した(番号100〜132)。得られたAl基合金スパッタリングターゲットのビッカース硬さ(HV)を測定し、さらにスパッタリング試験を行うことにより初期スプラッシュの発生を評価した。
【0116】
【表7】

【0117】
【表8】

【0118】
表7,表8中、Co(at%)は、Co元素の含有量(at%)、Ge(at%)は、Ge元素の含有量(at%)、Nd(at%)は、Nd元素の含有量(at%)をそれぞれ示す。表7,表8から次のことが分かる。番号100〜109,111〜113,116〜118,120〜122,124〜126,129〜131は、Al−Co−Ge−Nd系合金スパッタリングターゲットのビッカース硬さ(HV)が適切に制御されているため、初期スプラッシュの発生数は8個/cm未満にとどまっており、初期スプラッシュの軽減効果がある。
【0119】
これに対し、上記ビッカース硬さ(HV)が適切でない試料では、それぞれ以下の理由により、スプラッシュの発生数が8個/cm以上であり、初期スプラッシュの軽減効果があるとはいえない。
【0120】
番号110は、Al−Co−Ge−Nd系合金を溶解する温度が低い例であり、スプレイフォーミングにおいてノズルの閉塞が発生したため、スプレイフォーミングを中断し、その後のビッカース硬さの測定と初期スプラッシュの評価を行うことができなかったものである。
【0121】
番号114は、Al−Co−Ge−Nd系合金を溶解する温度が高い例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0122】
番号115は、Al−Co−Ge−Nd系合金の溶湯をガスアトマイズする工程におけるガス/メタル比が低い例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0123】
番号119は、Al−Co−Ge−Nd系合金をコレクターに堆積する工程におけるスプレイ距離が短い例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0124】
番号123は、Al−Co−Ge−Nd系合金をコレクターに堆積する工程におけるスプレイ距離が長い例であり、スプレイフォーミングにおいて歩留り低下が発生した。そのため、その後の工程へ付するに至らず、ビッカース硬さの測定と初期スプラッシュの評価を行うことができなかった。
【0125】
番号127は、高い温度で塑性加工(圧延)した例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【0126】
番号128は、低い温度で焼鈍した例であり、塑性加工(圧延)により生じた歪みを除去することができず、その後の機械加工によって所望の寸法・形状に仕上げることが困難であった。そのため、その後の初期スプラッシュの評価を行うことができなかった。
【0127】
番号132は、高い温度で焼鈍した例であり、ビッカース硬さが低いため、初期スプラッシュの軽減効果がない。
【符号の説明】
【0128】
1 誘導溶解炉
2 Al基合金の溶湯
3a、3b ガスアトマイザー
4a、4b ボビンのガス穴
5 コレクター
6 ノズル
6a、6b ガスアトマイズノズル中心軸
A スプレイ軸
A1 ノズル6の先端
A2 コレクター5の中心
A3 コレクター5の中心A2の水平線がスプレイ軸Aと交差する点
L スプレイ距離
α ガスアトマイズ出口角度
β コレクター角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A群(Ni,Co)から選択される少なくとも1種と、
B群(Cu,Ge)から選択される少なくとも1種と、
C群(La,Gd,Nd)から選択される少なくとも1種
を各々含有するAl基合金スパッタリングターゲットであって、その硬さがビッカース硬さ(HV)で35以上であることを特徴とするAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記A群の総含有量が0.05原子%以上、1.5原子%以下、
前記B群の総含有量が0.1原子%以上、1原子%以下、
前記C群の総含有量が0.1原子%以上、1原子%以下
である請求項1に記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記A群からNiのみが選択され、前記B群からCuのみが選択され、前記C群からLaのみが選択された請求項1または2に記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項4】
A群(Ni,Co)の総含有量が0.05原子%以上、1.5原子%以下、
B群(Cu,Ge)の総含有量が0.1原子%以上、1原子%以下、
C群(La,Gd,Nd)の総含有量が0.1原子%以上、1原子%以下
であるAl基合金の850〜1000℃の溶湯を得る工程と、
前記溶湯を、ガス/メタル比が6Nm/kg以上でガスアトマイズしてAl基合金を微細化する工程と、
前記微細化したAl基合金をスプレイ距離が900〜1200mmの条件でコレクターに堆積し、プリフォームを得る工程と、
前記プリフォームを緻密化手段によって緻密化し、緻密体を得る工程と、
前記緻密体を450℃以下で塑性加工を行う工程と、
前記塑性加工後の緻密体を100〜300℃で焼鈍を行う工程と
を包含することを特徴とするAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
前記A群からNiのみが選択され、前記B群からCuのみが選択され、前記C群からLaのみが選択された請求項4に記載のAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
前記A群からCoのみが選択され、前記B群からGeのみが選択され、前記C群からLaのみが選択された請求項1または2に記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記A群からCoのみが選択され、前記B群からGeのみが選択され、前記C群からLaのみが選択された請求項4に記載のAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項8】
前記A群からNiのみが選択され、前記B群からGeのみが選択され、前記C群からNdのみが選択された請求項1または2に記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項9】
前記A群からNiのみが選択され、前記B群からGeのみが選択され、前記C群からNdのみが選択された請求項4に記載のAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項10】
前記A群からCoのみが選択され、前記B群からGeのみが選択され、前記C群からNdのみが選択された請求項1または2に記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
【請求項11】
前記A群からCoのみが選択され、前記B群からGeのみが選択され、前記C群からNdのみが選択された請求項4に記載のAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−263768(P2009−263768A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53376(P2009−53376)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000130259)株式会社コベルコ科研 (174)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】