説明

AlCr含有の硬質材料層を有する工作物および製造方法

【課題】(AlyCr1-y)Xコーティング工作物、たとえば鉋がけ工具(Zerspanungswerkzeug)、切削工具および成型工具あるいは機械製造および金型製造のための部品、ならびに工作物上にこのような層を析出するための方法を提供し、その際先行技術にあった問題を回避する。
【解決手段】工作物あるいは部品であって、組成(AlyCr1-y)Xの少なくとも1層を含む層システムを有し、X=N、C、B、CN、BN、CBN、NO、CO、BO、CNO、BNOまたはCBNOでありかつ0.4≦y<0.68であり、上記層中の層組成は、実質的に一定であるか、または層厚にわたって連続的あるいは段階的に変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明が関する技術分野は、請求項1および2に記載の組成(AlyCr1-y)Xの少なくとも1層を含む層システムでコーティングされた工作物である。さらに、この発明は、請求項16に記載の、工作物上に少なくとも1の(AlyCr1-y)X層を析出するためのPVD方法に関する。
【0002】
個別的には、この発明は以下のものを含む。すなわち、
・1または一連の複数の異なるアルミニウム窒化クロムあるいは窒化炭素の層を有する硬質材料コーティング工作物、
・アルミニウム窒化クロムあるいは窒化炭素の層を有する工具、特に切削工具および成型工具(穴あけ機、フライス、スローアウェイチップ、ねじタップ、ねじ型込め機、ホブ盤、父型、母型、引っ張り父型など)およびこれら工具の使用、
・AlCrNあるいはAlCrCNの層を有する部品、特に機械工学分野における部品、たとえば歯車、ポンプ、カップタペット、ピストンリング、注入針、一揃いの軸受組またはこれらの個々の構成部分およびこれら部品の使用、
・規定された層構造を有するアルミニウム窒化クロムあるいは窒化炭素の層の製造方法。
【背景技術】
【0003】
従来の先行技術からさまざまなAlCrN層が公知である。JP09−041127においては、以下の組成の耐摩耗性の硬質層が記載されている。すなわち(Al1-yy)Z、ここでX=Cr、VまたはMg、Z=N、C、B、CN、BNまたはCBNおよび0<Y≦0.3。この層は、スローアウェイチップにおいて耐用期間を延ばすために有利に使用されていた。
【0004】
D.シュルツ(Schulz)およびR.ウィルベルク(Wilberg)は、「多成分硬質薄膜…(Multicomponent hard thin films…)」、薄膜(Thin films)(第4回国際薄膜トレンドおよび新用途シンポジウム(int. Sympos. Trends & New Applications of Thin Films)、1993年、の記録)、DGM情報協会(Info. gesellschaft)、オーバーウルゼル(Oberursel)、1993年、第73頁、において、穴あけ実験の際、TiAlNコーティング穴あけ機における2倍の耐用期間を達成するCrAlN層を記載している。層の析出はホロー陰極プロセスで行なわれているが、しかしながらこれは、非連続的な蒸発プロセスのため、(CrAl)N層におけるクロム/アルミニウム分布についての大きな揺れを引き起こすものである。
【0005】
M.カワテ(Kawate)他は、「Cr1-xAlxNおよびTi1-xAlxN膜の耐酸化性(Oxidation resistance of Cr1-xAlxN & Ti1-xAlxN films)」、表面コーティング技術(Surf. & Coat. Tech.)、第165巻、2、(2003年)、第163〜167頁、において、Cr1−xAlN層であって、高いAl含有量およびウルツ鉱構造において、従来のTiAlN層に対して向上した耐酸化性を有するものについて述べている。
【0006】
E.ルークシャイダー(Lugscheider)、K.ボプツィーン(Bobzin)、K.ラックナー(Lackner)は、「切削工具上に堆積させたCrAlN+C薄膜コーティングの機械的および摩擦学的特性の調査(Investigations of Mechanical & Tribol Properties of CrAlN + C Thin Coatings Deposited on Cutting Tools)」において、アーク処理されたCrAlN層と、追加的にさらにより硬質の炭素含有のカバー層を設けたCrAlN層とを比較している。すべての層は、急速に高い値に上昇する摩擦係数を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−41127号公報
【特許文献2】特開平10−25566号公報
【特許文献3】特開平11−335813号公報
【特許文献4】特開2000−271699号公報
【特許文献5】特開2002−113604号公報
【特許文献6】特開2002−160129号公報
【特許文献7】井手幸夫外2名著、「反応性スパッタリング法によるAl−Cr−N系皮膜の作製」、日本金属学会誌、第63巻、第12号、1999年、P.1576−1583
【特許文献8】特開平7−164211号公報
【特許文献9】特表平11−502775号公報
【特許文献10】特開2000−1768号公報
【特許文献11】特開平2002−307128号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】D.シュルツ(Schulz)およびR.ウィルベルク(Wilberg)は、「多成分硬質薄膜…(Multicomponent hard thin films…)」、薄膜(Thin films)(第4回国際薄膜トレンドおよび新用途シンポジウム(int. Sympos. Trends & New Applications of Thin Films)、1993年、の記録)、DGM情報協会(Info. gesellschaft)、オーバーウルゼル(Oberursel)、1993年、第73頁
【非特許文献2】M.カワテ(Kawate)他は、「Cr1-xAlxNおよびTi1-xAlxN膜の耐酸化性(Oxidation resistance of Cr1-xAlxN & Ti1-xAlxN films)」、表面コーティング技術(Surf. & Coat. Tech.)、第165巻、2、(2003年)、第163〜167頁
【非特許文献3】E.ルークシャイダー(Lugscheider)、K.ボプツィーン(Bobzin)、K.ラックナー(Lackner)は、「切削工具上に堆積させたCrAlN+C薄膜コーティングの機械的および摩擦学的特性の調査(Investigations of Mechanical & Tribol Properties of CrAlN + C Thin Coatings Deposited on Cutting Tools)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明の技術的課題は、(AlyCr1-y)Xコーティング工作物、たとえば鉋がけ工具(Zerspanungswerkzeug)、切削工具および成型工具あるいは機械製造および金型製造のための部品、ならびに工作物上にこのような層を析出するための方法を提供し、その際先行技術にあった問題を回避することである。
【0010】
これはたとえば、工作物であって、少なくともAl/Cr比に関して調節可能な均質または変更可能な層組成を有しかつ少なくとも特定の用途においては従来公知の層を設けた工作物よりも高い耐摩耗性を有するものを含む。
【課題を解決するための手段】
【0011】
さまざまな工具における(AlyCr1-y)NあるいはCN層の耐摩耗性を調べるために、さまざまな工作物上において、バルツェルス(Balzers)社のRCS型の工業用コーティング装置、たとえばEP1186681において図3〜6、明細書第12頁第26行目から第14頁第9行目に記載されたものなどにおいて、異なるアルミニウム含有量を有するCr層を析出させた。上記の文献はここに本願の一体的な部分であると宣言される。これのために、洗浄した工作物を、直径に応じて、ダブル回転あるいは直径50mm未満についてはトリプル回転の基板支持体に固定し、異なるAlCr合金からなる2つのチタンおよび4つの粉末冶金製造のターゲットを、コーティング装置の壁に取付けた6つの陰極アーク源に取付けた。
【0012】
それから、まず工作物を、やはり当該装置に取付けられた放射加熱装置によって約500℃の温度にされ、表面を、−100〜−200Vのバイアス電圧の印加により、Ar雰囲気中で、0.2Paの圧力で、Arイオンによるエッチング洗浄を施した。
【0013】
次に、3.5kW(140A)の出力を有する2つのTi源を動作させることによって、純粋な窒素雰囲気中で、3Paの圧力および−50Vの基板電圧で、5分間にわたり、厚み約0.2μmのTiN硬質層を析出し、それから、3kWの出力を有する4つのAlCr源を動作させることによって、120分間にわたり、AlCrN層を析出させた。最適な層移行を達成するために、各源を2分間にわたり一緒に動作させた。その後、純粋な窒素雰囲気中で、やはり3Paの圧力および−50Vの基板電圧で、AlCrベースの窒化物層を析出させた。基本的には、これらステップのいずれにおいても、プロセス圧は0.5〜約8Pa、好ましくは2.5〜5Paの範囲に設定することができ、その際、純粋な窒素雰囲気または窒素および希ガスの混合物、たとえば窒化物層についてはアルゴン、あるいは、窒化炭素層については、必要に応じ希ガスを混合させた炭素含有のガスおよび窒素の混合物が使用可能である。これに対応して、酸素あるいはホウ素含有の層の析出には、公知のように酸素あるいはホウ素含有のガスを混合させることができる。
【0014】
表1には、化学的組成および結晶構造に依存するAlCrN層の層特性、たとえば層の結晶構造、層厚、層硬度、耐摩耗性および固着性、ならびに使用されたターゲットの組成が示される。表2には、プロセスパラメータ、たとえばターゲット出力、基板バイアス電圧、プロセス圧および温度をまとめてある。
【0015】
表3においては、Al/Cr比が3に等しいターゲットを使用して、異なる基板電圧を印加しながらAlCrN層を析出させた際の一連の測定値を示す。その際、耐摩耗性は、フラウンホーファーインスティトゥート−IST/ブラウンシュワイク(Fraunhoferinstituts-IST/Braunschweig)の精密磨耗テスタで判定され、その際、磨耗レートを判定するために、DIN EN 1071−2に基づいて変更を加えたキャップ研削方法(Kalottenschliffverfahren)を使用した。この方法についての詳細は、ミヒラー(Michler)、表面コーティング技術、第163〜164巻(2003年)第547頁、第1欄および図1に記載されている。上記の文献はここに本願の一体的な部分であると宣言される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】B1およびB4構造を有するAlCrNのXRDスペクトルを示す図である。
【図2】化学的組成Al/Cr:A=75/25、C=50/50、D=25/75に依存するAlCrN層のXRDスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下において、この発明について図面を用いて例としてより詳細に説明する。
表1および図1から見て取れるように、またカワテ、「Cr1-xAlxN膜の微小硬度および格子パラメータ(Micro-hardness and lattice parameter of Cr1-xAlxN films)」、真空科学技術報(J. Vac. Sci. Technol.)、A20(2)、2002年3月/4月、第569〜571頁、から公知のように、層中の金属含有量に対する割合にして70割合%(At%)超のAl濃度については六方晶系(B4)の層構造を確認することができ、それより小さいAl濃度については立方晶系(B1)の層構造を確認することができた。六方晶系の層については、約2100HV0.03のHV値を測定することができ、これに対して立方晶系の層構造については、より高い約2800〜3100HV0.03のHV値を測定することができた(表1を参照)。より高いCr含有量(試験D)においては、約2300HV0.03の硬度が確認された。この組成においては、図2Aに示すような高アルミニウム含有層のAlN格子とは異なり、図2DにおけるようなCrN格子が存在した。
【0018】
次に、硬度230HBの鋼工作材料DIN 1.2080上における、AlCrNでコーティングされた6mmのHSS穴あけ機の耐用期間を、0.12mmの送りおよび35m/分の切削速度で、下記の実施例1に従って判定した。その際明らかになったことには、JP09−041127では特に有利であると記載されていたAlCr1−yNが1<y≦0.7の範囲に対して、0.3より大きいクロム含有量が有利であると判明した。Cr含有量が0.8以上では、この応用分野について存在するCrN格子のため性能は再び低下した。六方晶系に対する立方晶系のAlCrN層の耐用期間の増加はこのテストでは235%であった。
【0019】
Al含有量が60〜75割合%の移行範囲にある層については、優先配向だけでなく、プロセスパラメータを介して結晶格子の基本構造もまた調節可能である。たとえば実験B(表2)においては、1Paの小さい圧力および−50Vの基板電圧で六方晶系の構造が生成されるのに対し、3Paの圧力範囲および−50Vの基板電圧においては立方晶系の構造が生成される。したがって、六方晶系の構造は、比較的低いバイアス電圧および低い圧力で析出されるのに対し、好ましい立方晶系の構造は、より高い圧力あるいはより高いバイアス電圧による値で析出される。より高いAl含有量では、立方晶系の層構造を生成させることはもはや不可能である。
【0020】
したがって、この発明に従う工作物は、以下の組成を有する立方晶系の(AlyCr1-y)Xコーティングを特徴とする。すなわち、X=NあるいはCN、好ましくはN、および0.2≦Y<0.7、好ましくは0.40≦Y≦0.68。その際、層構造は、約20〜120nmの中程度の粒径を有する微結晶である。
【0021】
この発明に従う方法は、上に規定した組成を有する立方晶系の(AlyCr1-y)X層が析出される方法の実施を特徴とする。記載の陰極アーク方法には、アルミニウム含有量が75〜15%のターゲット組成を使用することが有利である。高いアルミニウム含有量では、立方晶系の結晶構造を生成するために、上述のもののようなプロセスパラメータが設定されることになる。
【0022】
その際、粉末冶金の、特に冷間プレスで製造されたターゲットの使用が有利であり、これは、特に高いAl含有量でたいてい脆性相を含む溶融または焼結冶金製造のAlCrターゲットよりも高い強度を有し得る。
【0023】
このようなターゲットは、粉末状の開始材料の混合によって冷間プレスされ、次に、流し込みおよび冷間溶接して660℃未満の温度で、たとえば鍛造プレスにおいて複数回成型することによって圧縮し、約96〜100%の理論的密度の最終状態にする。
【0024】
さらに、たとえばAl/Cr=3の組成のターゲットで析出されたAlCrNコーティングにおいて、耐磨耗性が基板バイアス電圧によって制御可能であることが確認できた。基板バイアス電圧が上昇するのに伴い、摩擦での磨耗に対する抵抗は低下する(表3を参照)。僅か数ボルト(3〜10Vおよび任意の中間値)の極めて小さい、表には明示しない負の基板電圧で既に、フローティング基板(外部電圧供給なし)に対して明らかな向上が達成できる。約−20Vで、耐磨耗性はAl/Cr=3の場合最大値に達し、より高い電圧では再び低下する。磨耗挙動を判定する実験から、3〜150V、特に5〜40Vの基板電圧の最適範囲を導き出すことができ、ここにおいて0.4〜1.0、特に0.4〜0.8m3-1-11015の極めて小さな磨耗レートが測定された。同様のことが、異なるAl/Cr組成の、この発明に従うすなわち立方晶系の層にも当てはまり、ここでは1.5m3-1-110-15を上回る磨耗レートは測定されなかった。しかしながら、フローティングの、高い基板電圧で析出された層の耐磨耗性もまた、公知の、磨耗係数が明らかにより高いTiAlN層の耐磨耗性よりも、はるかに大きいことに注目すべきである。たとえば、AlCrN層と類似に析出されたTiAlN層(実験2、Al47割合%、Ti53割合%)の場合、3.47m3-1-110-15の磨耗レートが測定された。
【0025】
上述の方法によって、特に粉末冶金製造のTiAlターゲットの使用によって、粗さの小さい層が析出可能であった。測定されたRa値は0.1〜0.2μmの範囲内であり、したがって同様に製造されたCrN層と同じ領域内で動く。極の対向する2つの磁石系を含む磁場生成装置であって、結果として生じる磁場の、表面に垂直な成分Bが表面の大部分にわたって実質的に一定の小さい値を有するかまたは0であるように構成された磁場生成装置を使用した場合、層についてのさらなる平滑化が生じた。その際、垂直の磁場成分Bの値は、30ガウス未満、好ましくは20ガウス未満、特に好ましくは10ガウス未満に設定された。こうして析出された(AlyCr1-y)X層のRa値は、0.05〜0.15μmの範囲内であった。その際、磁場は、極の対向した2つの、ターゲット背後に同軸に配置されたコイルによって生成された。
【0026】
さらに、(AlyCr1-y)X層の析出の際、他の、好ましくは良好な伝導性の、窒化物あるいは金属の固着層を使用してもよく、あるいは特定の用途についてはこのような固着層を用いなくてもよい。たとえば、極めて高い生産性を達成するために、TiN固着層の代わりにAlCr/AlCrN固着層を塗布してもよく、これによって、コーティング装置のアーク源すべてにAlCrターゲットを設けてコーティングレートを上昇させることが可能である。
【0027】
同様に、異なるAl/Cr比を有する2つのターゲットタイプが使用される、または、Crおよび/またはCrN固着層から出発して、CrターゲットもAlCrターゲットも備え付けたコーティング室についての対応のターゲット出力をたとえば連続的または段階的に調整することによって層組成の変化が達成される場合、たとえば表面に向かって増加するAl含有量の勾配層の析出が可能である。その際、このような層システムの工業用途においては、プロセスパラメータを実質的にコーティングの経過全体にわたって、およびこれに伴い層厚全体にわたって再現可能に設定できることが本質的である。その際、組成における最小限の揺れ、たとえば、シングル回転またはマルチ回転の基板支持体上などで基板の動きによって引き起こされる揺れが、部分的または層厚全体にわたって形成されるナノ構造化、すなわちナノあるいはマイクロメートル範囲の薄層化に追加的に利用され得る。その際、プロセスに応じて、非合金化クロムおよびアルミニウムターゲットの使用時に、合金化AlCrターゲットの使用時よりも粗く構造化された硬質層が析出される。
【0028】
これに対し、先行技術から公知のプロセスは、たとえば少なくとも1成分の蒸発プロセスが制御困難または不連続的であり、再現可能な層品質が達成不可能であることから、ほとんど適してはいない。
【0029】
当然のことながら、上記のような層を他の真空コーティング装置において、あるいはたとえばスパッタプロセスによって製造することも可能であるが、スパッタプロセスにおいては原理的に低くなるプロセスガスのイオン化を、状況によっては、特別の固着層、追加のイオン化などといった公知の措置によって補償することによって同等の層固着性を達成することになる。
【0030】
基本的に、立方晶系の構造を有する上記のようなCr1-xAlxN層では、多種多様にわたる工作物にコーティングすることが有利に可能である。その例としては、切削工具たとえばフライス、ホブ盤、球頭フライス、プレーナフライス、プロファイルフライス、ならびに穴あけ機、ねじタップ、ブローチ、リーマおよび回転/フライス加工用のスローアウェイチップ、あるいは成型工具たとえば父型、母型、引っ張りリング、噴出中子(Auswurfkerne)またはねじ型込め機がある。また、たとえば金属射出成型合金、合成樹脂または熱可塑性プラスチック用の射出成型工具、特にプラスチック成型部品あるいはデータ担体たとえばCD、DVDなどの製造に使用されるような射出成型工具もまた、上記のような層によって保護することが有利に可能である。さらに他の応用分野として、耐摩耗性に対して高い要求が、場合により高い耐酸化性とともに課されるような部品がある。そのポンプあるいは原動機の製造における例としては、パッキンリング、ピストン、ラム、歯車および弁ギア、たとえばカップタペットおよびロッカー、あるいは注入ノズル用の針、コンプレッサシャフト、ポンプスピンドル、あるいは、1つ以上の歯車要素が取付けられた多くの部品がある。
【0031】
さらに、(AlyCr1-y)X層における原理的に同様の挙動に基づき、立方晶系の層構造が達成されるようにターゲット組成およびコーティングパラメータを以下の層システムにおいて選択した場合、磨耗挙動の向上もまた期待できる。
【0032】
(AlyCr1-y)X層、ここでX=N、C、B、CN、BN、CBN、NO、CO、BO、CNO、BNO、CBNO、好ましくはNあるいはCNおよび0.2≦Y<0.7、好ましくは0.40≦Y≦0.68である。
【0033】
そこで、異なるN/O比を有する(Al66Cr34)NO層が析出され、その層特性が試験された。コーティングパラメータは上と同様に選択された。酸素流れが20〜60sccm(残りは窒素)で全体圧力は1〜5Pa、基板電圧は−40〜−150V、温度は450℃、そして電流140Aでコーティング源出力は3.5kWに設定された。その際、O/N比が約0.2、0.6および2.2の層が製造された。その際、さまざまなフライス試験において、酸素含有量の小さい層が優勢であることが示された。結果は、従来のTiNあるいはTiCNで達成された耐用期間を明らかに上回った。
【0034】
上記(AlyCr1-y)X層における、公知のTiAlN層に対して向上したすべり特性によって、工具、特に切削工具および成型工具の動作において潤滑剤を使わずに済ます、または最小限の潤滑剤の量の使用にとどめるという、環境的観点からも経済的観点からも興味深い可能性が生まれる。ここで、経済的観点においては、特に切削工具においては、冷却用の潤滑剤にかかる費用は工具そのものにかかる費用よりもいくらか高いこともあり得ることを考慮すべきである。
【0035】
この発明に従う(AlyCr1-y)X層含有の層システムのすべり特性を向上させるさらに1歩前進した可能性は、最外層として追加的に1のすべり層が塗布されたときに生まれる。その際、上記すべり層が、(AlyCr1-y)X層よりも小さい硬度を含みかつなじみ特性を有していれば有利である。
【0036】
その際、上記すべり層システムは、少なくとも1の金属または少なくとも1の金属の炭化物および分散炭素(disperser Kohlenstoff)、MeC/Cから構成されるようにしてもよく、ここで上記金属は、IVb、Vbおよび/またはVIb族の金属および/またはケイ素である。たとえば、優れたなじみ特性を有する、1000〜1500HVで設定可能な硬度を有するWC/Cカバー層が特に好適である。また、CrC/C層も類似の挙動を呈するが、摩擦係数はいくらか高くなる。
【0037】
上述のようにコーティングされた深穴あけ機においては、1〜3個の穿孔の作製後にすくい面において優れたなじみ平滑化を確認することができた。これは従来は、手間のかかる機械加工によってのみ達成可能であったものである。このような特性は、すべり、摩擦あるいは転がり負荷を伴う部品用途に対しても、特に潤滑剤不足または乾式動作の際に、または同時にコーティングされていない対向物体の保護を図るときに興味深いものである。
【0038】
最後のすべり層を形成するための他の可能性としては、金属を含まないダイヤモンド様の炭素層、あるいはMoSx、WSxまたはチタン含有のMoSxあるいはMoWx層がある。
【0039】
その際、上記すべり層は、上述のように、層結合における可能な限り良好な固着性をもたらすために、直接(AlyCr1-y)X層上に塗布されても、または、金属、窒化物、炭化物、窒化炭素のものとして、または、たとえば(AlyCr1-y)X層とすべり層との間で連続的な移行を伴う勾配層として形成され得るさらに他の固着層の塗布後に塗布されてもよい。
【0040】
たとえば、スパッタリングまたはアーク処理されたCrあるいはTi固着層の塗布後にWC/CあるいはCrC/C層が、炭素含有のガスを加えながらWCターゲットからのスパッタリングによって有利に製造され得る。その際、層中における自由炭素の割合を増大させるために、時間の経過に伴って上記炭素含有のガスの割合を上昇させる。
【0041】
以下において、異なる(AlyCr1-y)X硬質材料コーティング工具についてのさらに他の有利な応用例を、異なる切削作業における使用を例として示す。
【0042】
実施例1:建設用鋼のフライス
工具:エンドミル硬質金属
直径D=8mm、歯数z=3
工作材料:建設用鋼Ck45、DIN 1.1191
フライスパラメータ:
切削速度vc=200/400m/分
送り速度vf=2388/4776mm/分
径方向の作用幅ae=0.5mm
軸方向の作用幅ap=10mm
冷却:エマルジョン5%
プロセス:下向き削り
磨耗基準: 自由表面磨耗VB=0.12mm
【0043】
【表1】

【0044】
実施例1は、異なる切削パラメータで試験された、コーティングされたHMフライスの耐用期間の比較を示す。
【0045】
ここでは、TiCNおよびTiAlNといった従来工業使用されてきた層システムと比較して上述のAlCrN層がより長い耐用期間を有することを明らかに見て取ることができる。さらにこれらの結果から、既に実施例1で、Al含有量が上昇するのに伴い、立方晶系のB1構造が維持される限り、耐用期間挙動が向上する(実験番号3、4、6と比較)ことが見て取れる。これはとりわけ、上昇するAl含有量で確認される耐酸化性および硬度の向上(表1を参照)に起因する。乾式および高速加工(たとえばvc=400m/分)の範囲でまさに、AlCrNコーティングにおける極めて良好な耐酸化性が顕著となる。さらにまた、この試験においては、B1からB4構造への結晶格子の転移において、磨耗挙動が劣化する(実験3および4と比較)ことが確認される。
【0046】
実施例2:オーステナイト鋼のフライス加工
工具:硬質金属のエンドミル
直径D=8mm、歯数z=3
工作材料:オーステナイト鋼X 6 CrNiMoTi 17 12 2、DIN 1.4571
フライスパラメータ:
切削速度vc=240m/分
歯送りfz=0.08mm
径方向の作用幅ae=0.5mm
軸方向の作用幅ap=10mm
冷却:エマルジョン5%
プロセス:下向き削り
磨耗基準:自由表面磨耗VB=0.1mm
【0047】
【表2】

【0048】
実施例2は、コーティングされたHMフライスの耐用期間の比較を示す。ここでもまた、AlCrN層によって、工業使用されている硬質材料層に対して磨耗における向上を達成することが可能であった。AlCrNにおける耐用期間の向上は、一方では、現在のところ証明されてはいないことであるが、Tiと比較してTiAlN層では第2の合金元素Crが材料塗着する傾向が小さいことによって達成され、他方では、この発明に従うAlCrN層(A、B、D)における、表1で見て取れるような良好な耐磨耗性および同時に高い硬度によって達成されると考えられる。
【0049】
実施例3:硬化鋼のフライス加工
工具:硬質金属の球頭フライス
直径D=10mm、歯数z=2
工作材料:K340(62HRC)であって、C1.1%、Si0.9%、Mn0.4%、Cr8.3%、Mo2.1%、Mo2.1%、V0.5%に対応
フライスパラメータ:
切削速度vc=0〜120m/分
歯送りfz=0.1mm
径方向の作用幅ae=0.2mm
軸方向の作用幅ap=0.2mm
冷却:乾燥
プロセス:下向きおよび上向き削り、仕上げ削り
磨耗基準:自由表面磨耗VB=0.3mm
【0050】
【表3】

【0051】
実施例4:工具鋼の粗削り
工具:硬質金属のエンドミル
直径D=10mm、歯数z=4
工作材料:工具鋼X 38 CrMoV 5 1、DIN 1.2343(50HRC)
フライスパラメータ:
切削速度vc=60m/分
歯送りfz=0.02mm
径方向の作用幅ae=2mm
軸方向の作用幅ap=10mm
冷却:乾燥
プロセス:下向き削り、粗削り
磨耗基準:自由表面磨耗VB=0.1mm
【0052】
【表4】

【0053】
実施例3および実施例4は、工業使用されているTiAlN層に対して向上したAlCrN層の耐用行程を示す。AlCrNは、特に、耐酸化性および耐磨耗性に関して高い要求を課す乾式加工に適している。
【0054】
実施例5:工具鋼における穴あけ
工具:穴あけ機HSS(S 6−5−2)、直径D=6mm
工作材料:工具鋼X 210 Cr 12、DIN 1.2080(230HB)
穴あけパラメータ:
切削速度vc=35m/分
送りf=0.12mm
穿孔深さz=15mm、底つき穴
冷却:エマルジョン5%
磨耗基準:回転モーメント停止(≧0.3mmの角磨耗に対応)
【0055】
【表5】

【0056】
実施例6は、異なるAl含有量のAlyCr1-yN/AlyCr1-yCN層でのHSS穴あけによる、層厚にわたって規格化された穴数の比較を示す。
【0057】
各層は表2に対応したパラメータで製造された。その際、アルミニウム含有量が増加するのに伴い、金属含有量に対するアルミニウムの70%の割合近くまで耐用期間の上昇が示される。しかしながら、さらに上昇させ、これに伴い六方晶系の結晶構造の層が析出すると、性能は明らかに低下する。したがって、この応用例については、41.5〜69.5%Al(実験15,17)の範囲において、先行技術(実験18)に対する明らかな性能の向上を確認することができた。
【0058】
実施例6:Ck45における深穴あけ5xD
工具:硬質金属の穴あけ機、直径D=6.8mm
工作材料:建設用鋼1.1191(Ck45)
穴あけパラメータ:
切削速度vc=120m/分
送りf=0.2mm
穿孔深さz=34mm、底つき穴
冷却:エマルジョン5%
磨耗基準:角磨耗VB=0.3mm
【0059】
【表6】

【0060】
実施例6は、穴あけ用途における工業使用されているTiAlN層に対するAlCrN層における改良された耐用行程を示す。この例においては、この発明に従うAlCrNコーティングの耐摩擦磨耗性の向上が顕著となっている。
【0061】
追加的に、実験番号20におけるようにコーティングされた穴あけ機は、Cr固着層の塗布後にWC/炭素すべり層が設けられ、他では同じ試験条件下で部分的に明らかに向上した耐用期間が達成可能であった。同時に実施された回転モーメント測定においては、すべり層のないものよりも明らかに低い回転モーメントが得られた。さらに、穿孔における表面品質の向上と、耐用期間の終わりの直前まで過度の温度負荷による変色がないこととを確認することができた。
【0062】
実施例7:オーステナイト鋼におけるねじ穴あけ2xD
工具:ねじタップHSS、ねじ寸法M8
工作材料:オーステナイト鋼1.4571(X6CrNiMoTi17/12/2)
切削パラメータ:
切削速度vc=3m/分
ねじ深さ:2xD
ねじの種類:止まり穴
ねじ数:64
冷却:エマルジョン5%
磨耗基準:ねじ数にわたる回転モーメントの走り方(Verlauf)、64のねじの後の視覚的磨耗判定
【0063】
【表7】

【0064】
すべてのAlCrN層において、先行技術(TiCN)に対して平均最大切削モーメントの低減を達成することができた。さらに、より高いアルミニウム含有の層における極めて良好な耐磨耗性から、TiCNに対する磨耗挙動の向上が得られる。しかしながら、この実施例においては、おそらくアルミニウムの粘着性の傾向によって材料塗着およびさらにその後の結果として層の遊離が生じることから、実験番号23における層は実験番号22よりも良好な磨耗状況を呈している。
【0065】
追加的に、実験番号22および実験番号23におけるようにコーティングされたねじタップは、AlCr固着層の塗布後にWC炭素すべり層が、あるいはTi固着層の塗布後にTi含有のMoS層が設けられ、ここでもまた、他では同じ試験条件下で、加工された工作材料における耐用期間の向上および表面品質の向上を達成することができた。
【0066】
実施例8:Cr−Mo鋼に対するホブ盤削り
工具:ホブ盤
材料:DIN S6−7−7−10(ASP60)
直径D=80mm、長さL=240mm、モジュールm=1.5
チップ溝25本
作用角度α=20°
基準プロファイル2、歯数50、動きの幅(Gangbreite)25mm
工作材料:Cr−Mo鋼 DIN 34CrMo4
切削パラメータ:
切削速度vc=260m/分
送り2mm/回転
個数:300
冷却:乾式切削、圧縮空気による鉋屑の除去
【0067】
【表8】

【0068】
実験25〜30においては、異なる層システムを有する、粉末冶金で製造された高速鋼(HSS)からなるさまざまなホブ盤が乾式切削において試験された。その際、この発明に従ってコーティングした工具(実験29および30)においては、公知のTiCNまたはTiAlNでコーティングしたフライスに対して大幅な向上を達成することができた。同様に、Al含有量が小さい(番号28)あるいはAl含有量が高すぎて六方晶系の結晶構造が存在する(番号27)AlCrN層が提供する対磨耗保護はより小さいものであることが見て取れる。
【0069】
以下の実施例番号31〜33もまた、立方晶系の結晶格子、実質的に化学量論的な窒素割合および66%のAl含有量を有するこの発明に従うAlCrN層が明らかに優れていることを示している。その際、PM HSSあるいは硬質金属から製造されたホブ盤を、乾式切削においても、エマルジョン塗着切削においても試験した。
【0070】
実験番号31:ホブ盤削り
工具:PM HSS
直径D=80mm、長さL=240mm
工作材料:16 Mn Cr 5
切削速度:180m/分、乾燥
(Al0.42Ti0.58)N、バリニット(Balinit)NANO:1809個
(Al0.63Ti0.37)N、バリニットX.CEED:2985個
(Al0.66Cr0.34)N:5370個
実験番号32:ホブ盤削り
工具:硬質金属(HM)
直径D=60mm、長さL=245mm
モジュール:1.5
作用角度□=20°
工作材料:42 CrMo4
切削速度:350m/分、乾燥
(Al0.41Ti0.59)N、バリニットX.TREME:1722個
(Al0.63Ti0.37)N、バリニットX.CEED:2791個
(Al0.66Cr0.34)N:>3400個
実験番号33:ホブ盤削り
工具:PM HSS
モジュール:2.5
工作材料:16MnCr5
切削速度:140m/分、エマルジョン
TICN、バリニットB:1406個
(Al0.42Ti0.58)N、バリニットNANO:1331個
(Al0.66Cr0.34)N:1969個
その他ここでは詳細には説明しない実験においては、vc=450m/分までのさらに高い切削速度範囲でも良好な安定性が得られた。また、コーティングされた硬質金属ホブ盤の耐用期間も、湿式加工においても、特にまた乾式加工においても明らかに上昇させることができた。
【0071】
実施例9:工具鋼の粗削り
工具:エンドミルHSS
直径D=10mm、歯数z=4
工作材料:工具鋼X 40 CrMoV 5 1、DIN 1.2344(36HRC)
フライスパラメータ:
切削速度vc=60m/分
歯送りfz=0.05mm
径方向の作用幅ae=3mm
軸方向の作用幅ap=5mm
冷却:エマルジョン5%
プロセス:下向き削り、粗削り
磨耗基準:自由表面磨耗VP=0.1mm
【0072】
【表9】

【0073】
実施例10:硬化浸炭鋼の外長手回転(Aussenlaengsdrehen)
工具:はんだ付されたCBN浸炭鋼のバイト
工作材料:浸炭鋼16 MnCr 5、DIN 1.7131(49−62HRC)
回転パラメータ:断続切削および部分的に厚みの小さい壁強度を有する硬・軟加工
冷却:乾燥
磨耗基準:VB=0.1mmの自由表面磨耗に到達するまでの個数
【0074】
【表10】

【0075】
TiN、TiCまたはTi(CN)硬質相であって個々の場合にはモリブデンおよび/またはタンタルが添加されるものからなる、粉末冶金製造のサーメットでも同様の結果を達成した。その際、結合相としてNiあるいはNi/Coが使用された。
【0076】
実施例11:亜鉛めっきした板金におけるねじ型込め
実験番号43
工具:HSS M9ねじ型込め機
工作材料:DC01、DIN 1.0330に対応、St 12 ZE
コア穴直径:8.34mm
切削パラメータ:55m/秒
切削回転数:2000回/分
戻し回転数:3600回/分
潤滑剤:S26 CA
TiN:3200ねじ
TiCN:3200ねじ
TiAlN:3500ねじ
(Al0.66Cr0.34)N:8800ねじ
コーティングされたCBN(立方晶系の窒化ホウ素)あるいはサーメット工具での実験:30〜99体積%のCBN含有量を有し残りが結合剤であるさまざまなCBN焼結工作材料からなるスローアウェイチップを、一方では実験8に従い公知のTiAlN層でコーティングし、他方では実験3、5および6に従いこの発明に従うAlCrN層でコーティングした。しかしながら、CBN焼結工作材料の非伝導性という性質から、エッチングおよびコーティングのプロセスについては、中周波領域、好ましくは20〜250kHzの周波数領域で、パルス化した基板バイアスを印加した。
【0077】
その際、90%までのCBN含有量を有する工作材料については、少なくとも以下の群にある要素のうちの1つからなる結合剤粉末が使用された。すなわち、Ti族、V族あるいはCr族、すなわちIVa、VaおよびVIa元素およびアルミニウムあるいはAl化合物の、窒化物、炭化物、ホウ化物および酸化物である。
【0078】
その際、95%までのCBN含有量を有する工作材料については、窒化チタンと、少なくとも以下の群における要素のうちの1つとからなる結合剤粉末が使用された。すなわち、コバルト、ニッケル、炭化タングステン、アルミニウムまたはアルミニウム化合物である。
【0079】
また、90%超のCBN含有量を有する工作材料については、窒化チタンと、少なくとも以下の群における要素のうちの1つとからなる結合剤粉末が使用された。すなわち、アルカリあるいはアルカリ土金属のホウ化物あるいは窒化ホウ素である。
【0080】
引き続き実行された回転およびフライス実験においては、ほとんどの場合において、TiAlN層に対して明らかに向上した磨耗挙動を確認することができた。特に手間のかかる外長手回転実験においても同様であり、ここにおいては、複雑な幾何学的形状の、部分的にのみ硬化されたシャフトが、部分的に断続切削で加工された。
【0081】
実施例12:熱鍛造
工具:鍛造グリップ4 St、220×43×300mm、ベーラー(Boehler)W360、硬度54 HRC、同時に4つの工具が作用状態
工作物:球状材料、直径22mm、材料42CrMo4
工程:温度 成型前の工作物 1050℃
プレス力 57t/グリップあたり
冷却:モリコート+グラファイト
【0082】
【表11】

【0083】
実施例13:熱つば出し
工具:HMフロードリル、直径10mm
工作物:1.0338
工程:工具は、約2800回/分、3000Nの回転で工作物に対して押圧された。運動力学的エネルギーによって、工作物は赤熱状態に、すなわち約1000℃にされて成型された。
【0084】
【表12】

【0085】
実施例14:打抜き
工具:1.2379、長穴父型20mm×10mm
工作物:TRIP 700、厚み1.2mm
工程:剪断、切断間隙10%、500往復/分、切断力20kN
【0086】
【表13】

【0087】
【表14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成(AlyCr1-y)Xの少なくとも1層を含む層システムを有する工作物であって、X=N、C、B、CN、BN、CBN、NO、CO、BO、CNO、BNOまたはCBNOでありかつ0.40≦y≦0.68であり、上記層中の層組成は、実質的に一定であるか、または層厚にわたって連続的あるいは段階的に変化し、上記工作物は、以下の工作物のうちの1つであり、すなわちフライス、特にホブ盤、球頭フライス、プレーナフライスまたはプロファイルフライス、ブローチ、リーマ、回転およびフライス加工用のスローアウェイチップ、型込めまたは射出成型工具である、工作物。
【請求項2】
上記工具が、成型工具、特に父型、母型、引っ張りリング、噴出中子、ねじ型込め機、打抜き工具であることを特徴とする、請求項1に記載の工作物。
【請求項3】
上記工具が、熱成型工具、特に鍛造、つば出し、打抜き工具であることを特徴とする、請求項1に記載の工作物。
【請求項4】
上記工具が、プラスチック成型部品あるいはデータ担体を製造するための射出成型工具であることを特徴とする、請求項1に記載の工作物。
【請求項5】
上記工具が、CBNまたはサーメット材を含むあるいはCBNまたはサーメット製スローアウェイチップであることを特徴とする、請求項1に記載の工作物。
【請求項6】
上記(AlyCr1-y)X層が、立方晶系の結晶構造として存在することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の工作物。
【請求項7】
上記(AlyCr1-y)X層の磨耗レートが、1.5m3-1-110-15以下であることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の工作物。
【請求項8】
上記(AlyCr1-y)X層のビッカーズ硬度が2300〜3100であることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の工作物。
【請求項9】
上記(AlyCr1-y)X層の層構造が微晶質であり、中程度の粒径が20〜120nmであることを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の工作物。
【請求項10】
上記工作物と上記(AlyCr1-y)X層との間に固着層が塗布されることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の工作物。
【請求項11】
上記固着層が、IV、VまたはVI亜族の金属のうちの少なくとも1つあるいはアルミニウムを含むことを特徴とする、請求項10に記載の工作物。
【請求項12】
上記固着層が、IV、VまたはVI亜族における1または複数の金属の、少なくとも1の窒化物、炭化物あるいは窒化炭素を含むことを特徴とする、請求項10または11のいずれかに記載の工作物。
【請求項13】
上記少なくとも1の(AlyCr1-y)X層上に追加的に1のすべり層が堆積されることを特徴とする、請求項1から12のいずれかに記載の工作物。
【請求項14】
上記すべり層が、分散炭素を有する少なくとも1の金属の炭化物、MeC/C、ダイヤモンド様の炭素層、Siあるいは金属含有のダイヤモンド様の炭素層、MoSx、WSxまたはチタン含有のMoSxあるいはMoWx層を含むことを特徴とする、請求項13に記載の工作物。
【請求項15】
組成(AlyCr1-y)Xの少なくとも1層のRa値は、0.05μm〜0.2μmである、請求項1〜14のいずれかに記載の工作物。
【請求項16】
工作材料を加工するための方法であって、請求項1に記載の工具が使用されることを特徴とする、方法。
【請求項17】
上記加工が、潤滑剤または冷却剤を添加することなしに行なわれることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
上記工具が、硬質金属またはHSSホブ盤であり、切削速度が60〜450m/分であることを特徴とする、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
上記工具が、シャフトフライス、球頭フライスまたは粗削りフライスであることを特徴とする、請求項16または17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−126009(P2011−126009A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14198(P2011−14198)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【分割の表示】特願2005−507691(P2005−507691)の分割
【原出願日】平成16年3月24日(2004.3.24)
【出願人】(598051691)エリコン・トレーディング・アクチェンゲゼルシャフト,トリュープバッハ (44)
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Trading AG,Truebbach
【Fターム(参考)】