説明

DCモータの滑り軸受用支持ばね及びそれを用いたDCモータ

【課題】調芯トルクに方向性を持たず、ばね荷重、調芯トルクのばらつきを可及的に抑えることのできるDCモータの滑り軸受用支持ばねを提供する。
【解決手段】滑り軸受41が挿入される中央開口60dを有する平面視円環状の基板部60aの内周端部に、滑り軸受41の外周全周にわたって外接する円錐台状外接部60bが設けられ、基板部60aの半径方向中間部における同一円周上には、所定の幅と長さを有する平面視円弧状の切欠部60hが等角度間隔で3箇所形成されるとともに、該切欠部60hの外周側端縁中央に前記円錐台状外接部60bと同方向に切り起こされた脚片部60fがそれぞれ設けられ、この3つの脚片部60fが前記内側カバー52の段丘部52bに当接せしめられ、前記切欠部60hと切欠部60hとの間の部分60kでばね性を得るようにされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周面が球面等とされたDCモータの滑り軸受用の支持ばね及びそれを用いたDCモータに関する。
【背景技術】
【0002】
DCモータとして、例えば図7、図8に示される如くのものが本願の発明者等により開発が進められている。図示例のDCモータ10’は、インナーロータ型のブラシレスDCモータであり、ステータコア21を有するステータ20、マグネット31を有するロータ30を備えている。
【0003】
前記ステータコア21は、例えば電磁鋼板を積層したもので、平面視円環状の基体部23とこの基体部23から半径方向内方に向けて突出する所定個数(ここでは9個)の、巻回部25aと歯部25bとからなる平面視概略T形状の突極歯25が所定角度間隔(ここでは40度)をあけて放射状に設けられている。
【0004】
該ステータコア21の隣り合う突極歯25-25の巻回部25a-25a間にはスロット28と呼ばれる導線巻回用空所が形成されるとともに、隣り合う突極歯25-25の歯部25b-25b間には、所定の幅βを有するスリット状間隙27が形成されている。また、巻回部25aには導線が巻装されてコイル26が形成され、このコイル26を含むステータコア21の内周部を除く略全体(ステータ20)、回路基板、配線、コネクタ等は樹脂モールド22により封止・一体化されてDCモータ10’の本体部が構成されている。
【0005】
ステータコア21の内周には、ロータ30が回転自在に挿入されている。このロータ30は、マグネット31及びそれと一体成型された回転軸部32を有し、この回転軸部32が前記樹脂モールドされたステータ20の軸方向一端側(後側=下側)及び他端側(前側=上側)に後付け固定される軸受ブラケット40、40’により回転自在に支持されている。
【0006】
前記ステータ20の軸方向一端側(下側)に後付け固定される軸受ブラケット40は、ロータ30の回転軸部32を回転自在に支持する、外周面が球面の滑り軸受41と、ステータ20(ステータコア21)の軸方向一端部(下端部)に内嵌される天井部42a及び鍔状部42b付き円筒状で、その天井部42a中央に穴42cが設けられた内側カバー42と、この内側カバー42に内嵌される大径短筒状部43aと小径短筒状部43bとを有する断面外形が逆凸字状を呈する段付き有底円筒状の外側カバー43と、を備えている。
【0007】
前記外側カバー43は、その小径短筒状部43bにおけるRが施された上端縁部で滑り軸受41の下部を受け止めるようになっている。また、前記内側カバー42(の軸受穴42c部分)と滑り軸受41との間に、滑り軸受41を上側より回動可能に支持する滑り軸受用支持ばね61(従来例1)が介装されている。
【0008】
この滑り軸受用支持ばね61は、図4に示される如くに、滑り軸受41の上部が挿入される中央開口61dを有する平面視円環状の基板部61aの内周部が、放射状に形成された6個の溝61cにより隔てられた六ツ割形状とされ、その内周端部が前記滑り軸受41の上部外周面に外接してそれを回動可能に支持する6つの切り起こし外接片部61bとなっており、隣り合う溝61cと溝61cとの間に形成される切り起こし外接片部61bを含む6つの台形片部61fでばね性(ばね荷重)を得るようになっている。
【0009】
前記円形の内側カバー42と外側カバー43とは圧入あるいは接着材等により接合固定されており、滑り軸受41を前記滑り軸受用支持ばね61を挟んで内側カバー42と外側カバー43との間で挟圧保持するようになっている。
【0010】
なお、前記ステータ20の軸方向他端側(上側)に後付け固定される軸受ブラケット40’も、上記した下側の軸受ブラケット40と基本的には同じであるが、上側の軸受ブラケット40’の小径短筒状部42bから上方にロータ30の回転軸部32が突出せしめられており、この突出部分が当該DCモータ10’の出力軸部となる。
【0011】
また、滑り軸受用支持ばねとしては、上記した支持ばね61の他に、図5に示される如くのものが知られている(下記特許文献1に所載)。この滑り軸受用支持ばね62(従来例2)は、滑り軸受41の上部が挿入される中央開口62dを有する平面視円環状の基板部62aの内周端部が、前記滑り軸受41の上部の外周全周にわたって外接して回動可能に支持する円錐台状外接部62bとされ、基板部62aの外周には、基端から先端にかけて上側に曲げられた平面視円弧状の3つの片持弾性脚部62eが設けられており、この3つの片持弾性脚部62eでばね性(ばね荷重)を得るようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−339134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記した如くのDCモータにおいて、滑り軸受用支持ばねとして、図4に示される如くの支持ばね61(従来例1)を用いた場合には、滑り軸受41を、分割された6つの切り起こし外接片部61bを含む台形片部61fで弾性支持するようになっているため、調芯トルクが、図6のグラフにおける従来例1で示される如くに、方向(平面視で60度間隔)によって大きくばらつく。すなわち、調芯トルクは、溝61cがある部分(Q部分)では弱く、無い部分(P部分)では強くなる。
【0014】
それに対し、図5に示される支持ばね62(従来例2)では、円錐台状外接部62bで滑り軸受41の上部の外周全周を支持するようされているので、調芯トルクのばらつきは従来例1に比して小さくなるものの、3つの片持弾性脚部62eの高さH等は、折り曲げ加工精度に依存するため、差が生じやすくなり、3つの片持弾性脚部62e間でばね荷重に差がついて、調芯トルクのばらつきを十分には抑えられない(図6のグラフの従来例2参照)。
調芯トルクのばらつきが大きいと、回転が不安定となり、振動騒音が発生してしまう。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、調芯トルクに方向性を持たず、ばね荷重、調芯トルクのばらつきを可及的に抑えることのできる滑り軸受用支持ばね、及び、回転安定性の向上並びに振動騒音の抑制を図ることのできるDCモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の目的を達成すべく、本発明に係るDCモータの滑り軸受用支持ばねは、基本的には、滑り軸受が挿入される中央開口を有する平面視円環状の基板部の内周端部に、前記滑り軸受の外周全周にわたって外接する円錐台状外接部が設けられ、前記基板部の半径方向中間部における同一円周上には、所定の幅と長さを有する平面視円弧状の切欠部が等角度間隔で3箇所以上形成されるとともに、該切欠部の外周側端縁に前記円錐台状外接部と同方向に切り起こされた脚片部が設けられ、前記切欠部と切欠部との間の部分でばね性を得るようにされていることを特徴としている。
【0017】
また、本発明に係るDCモータは、ステータと、ロータと、該ロータの回転軸部を回転自在に支持すべく前記ステータの軸方向一端側に内嵌される軸受ブラケットとを備え、前記軸受ブラケットは、外周面が球面、楕球面、又は円錐面の滑り軸受と、該滑り軸受の一端側を支持すべく、前記滑り軸受より内方側に配在された内側カバーと、前記滑り軸受の他端側を支持する支持穴を有する外側カバーと、を有し、前記内側カバーと前記滑り軸受との間に上記特徴を有する滑り軸受用支持ばねが介装され、前記滑り軸受を前記内側カバーと外側カバーとの間で挟圧保持するようにされてる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るDCモータの滑り軸受用支持ばねにおいては、円錐台状外接部で滑り軸受の外周全周を支持するようされているので、滑りトルクに方向性を持たず、また、各脚片部は切り起こしによって形成されているので、それらの高さ等に差は生じ難く、各脚片部間でばね荷重のばらつきが小さくなり、調芯トルクのばらつきを十分に抑えることができる。
【0019】
このように本発明の滑り軸受用支持ばねでは、調芯トルクに方向性を持たず、ばね荷重のばらつきを可及的に抑えることができ、したがって、それが用いられたDCモータでは、回転安定性が向上し、振動騒音の発生を効果的に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るDCモータの一実施形態を示す断面図。
【図2】図1に示されるDCモータの軸受ブラケット部分を示す拡大図。
【図3】図1に示されるDCモータで使用されている滑り軸受用支持ばねを示し、(A)は側面図、(B)は平面図、(C)は(B)のC-C断面図。
【図4】滑り軸受用支持ばねの従来例1を示し、(A)は側面図、(B)は平面図。
【図5】滑り軸受用支持ばねの従来例2を示し、(A)は側面図、(B)は平面図。
【図6】滑り軸受用支持ばねの本発明品と従来例1、2の調芯トルクのばらつき度合いを示すグラフ。
【図7】従来のDCモータの一例を示す断面図。
【図8】従来のDCモータの一例を示す、主としてステータコア部分を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は本発明に係るDCモータ一実施形態を示している。図示実施例のDCモータ10は、前述した図7、図8に示されるDCモータ10’と基本構成は同じであるので、対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略し、以下は相違点である軸受ブラケット50、50’及び滑り軸受用支持ばね60を重点的に説明する。
【0022】
ステータ20の軸方向一端側(下側)に後付け固定される本実施例の軸受ブラケット50は、図2に拡大図示されているように、ロータ30の回転軸部32を回転自在に支持する、外周面が球面で銅等の焼結金属からなる滑り軸受41と、ステータ20(ステータコア21)の軸方向一端部(下端部)に内嵌される中央開口付き凸部52a、段丘部52b及び鍔状部52c付き段付き円筒状の内側カバー52と、この内側カバー52に内嵌される大径短筒状部53aと小径短筒状部53bとを有する断面外形が逆凸字状を呈する段付き有底円筒状の外側カバー53と、を備えている。外側カバー53の小径短筒状部53bの上部は滑り軸受41を回動自在に支持する円錐面部53cとなっている。
【0023】
この円錐面部53cは滑り軸受41の外周面と線状に接触するため摩擦を低減することができる。また、小径短筒状部53bの内底面と回転軸部32bの先端との間にはスペーサ70が設けられている。このスペーサ70は、弾性を有するとともに摺動性に優れた材料(例えばポリ塩化ビニル)で形成されており、回転軸部32bと小径短筒状部53bとの間の摩擦を低減するとともに、回転軸部32bと小径短筒状部53bとの衝突による騒音を防止する。
【0024】
前記内側カバー52と滑り軸受41との間に、滑り軸受41を上側より回動可能に支持する滑り軸受用支持ばね60(本発明品)が介装されている。
【0025】
この滑り軸受用支持ばね60は、図3に示される如くに、滑り軸受41が挿入される中央開口60dを有する平面視円環状の基板部60aの内周端部に、滑り軸受41の上部の外周全周にわたって外接する円錐台状外接部60bが設けられ、基板部60aの半径方向中間部における同一円周上には、所定の幅と長さを有する平面視円弧状の切欠部60hが等角度間隔で3箇所形成されるとともに、該切欠部60hの外周側端縁中央に前記円錐台状外接部60bと同方向に切り起こされた脚片部60fがそれぞれ設けられ、この3つの脚片部60fが前記内側カバー52の段丘部52bに当接せしめられ、主として前記切欠部60hと切欠部60hとの間の部分60kでばね性を得るようにされている。
【0026】
このような構成を有する滑り軸受用支持ばね60においては、円錐台状外接部60bで滑り軸受41の上部の外周全周を支持するようにされているので、調芯トルクに方向性を持たず、また、3つの脚片部60fは切り起こしによって形成されているので、それらの高さH等に差は生じ難く、3つの脚片部60f間でばね荷重のばらつきが小さくなり、調芯トルクのばらつきを十分に抑えることができる(図6のグラフの本発明品参照)。
【0027】
このように本実施形態の滑り軸受用支持ばね60は、調芯トルクに方向性を持たず、ばね荷重のばらつきを可及的に抑えることができ、したがって、それが用いられたDCモータ10では、回転安定性が向上し、振動騒音の発生を効果的に抑えることができる。
【符号の説明】
【0028】
10 DCモータ
20 ステータ
30 ロータ
32 回転軸部
41 滑り軸受
50 軸受ブラケット
52 内側カバー
53 外側カバー
60 滑り軸受用支持ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑り軸受が挿入される中央開口を有する平面視円環状の基板部の内周端部に、前記滑り軸受の外周全周にわたって外接する円錐台状外接部が設けられ、前記基板部の半径方向中間部における同一円周上には、所定の幅と長さを有する平面視円弧状の切欠部が等角度間隔で3箇所以上形成されるとともに、該切欠部の外周側端縁に前記円錐台状外接部と同方向に切り起こされた脚片部が設けられ、前記切欠部と切欠部との間の部分でばね性を得るようにされていることを特徴とするDCモータの滑り軸受用支持ばね。
【請求項2】
ステータと、ロータと、該ロータの回転軸部を回転自在に支持すべく前記ステータの軸方向一端側に内嵌される軸受ブラケットとを備えたDCモータであって、
前記軸受ブラケットは、外周面が球面、楕球面、又は円錐面の滑り軸受と、該滑り軸受の一端側を支持すべく、前記滑り軸受より内方側に配在された内側カバーと、前記滑り軸受の他端側を支持する支持穴を有する外側カバーと、を有し、前記内側カバーと前記滑り軸受との間に請求項1に記載の滑り軸受用支持ばねが介装され、前記滑り軸受を前記内側カバーと外側カバーとの間で挟圧保持するようにされていることを特徴とするDCモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−102559(P2013−102559A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233235(P2011−233235)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(391002166)株式会社不二工機 (451)
【Fターム(参考)】