ESD検証装置、ESD検証方法およびESD検証プログラム
【課題】半導体回路内のパッド間の電流の流れやすさを精度よく解析する。
【解決手段】ESD保護素子が接続された2つのパッド間の一方側から他方側に流れる電流の流れ易さを数値化した第1テーブル作成手段と、反対向きの電流の流れ易さを数値化した第2テーブル作成手段と、第1及び第2テーブルを合成して、最も電流が流れ易い経路を数値化した第3テーブル作成手段と、第3テーブルに基づいて、任意のパッド間で、ESD保護素子を経由する全経路について、電流の流れ易さを数値化した第4テーブル作成手段と、全ESD保護素子を削除した状態で、任意のパッド間の電流の流れ易さを数値化した第5テーブル作成手段と、第4及び第5テーブルとに基づいて、任意のパッド間で、ESD保護素子を通過する経路と通過しない経路の電流の流れ易さの比較結果が一致しない場合に、対応するパッド同士の組合せと、パッド間の経路とを提示する手段4と、を備える。
【解決手段】ESD保護素子が接続された2つのパッド間の一方側から他方側に流れる電流の流れ易さを数値化した第1テーブル作成手段と、反対向きの電流の流れ易さを数値化した第2テーブル作成手段と、第1及び第2テーブルを合成して、最も電流が流れ易い経路を数値化した第3テーブル作成手段と、第3テーブルに基づいて、任意のパッド間で、ESD保護素子を経由する全経路について、電流の流れ易さを数値化した第4テーブル作成手段と、全ESD保護素子を削除した状態で、任意のパッド間の電流の流れ易さを数値化した第5テーブル作成手段と、第4及び第5テーブルとに基づいて、任意のパッド間で、ESD保護素子を通過する経路と通過しない経路の電流の流れ易さの比較結果が一致しない場合に、対応するパッド同士の組合せと、パッド間の経路とを提示する手段4と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ESD(Electro Static Discharge)保護素子を有する半導体回路を対象としてESD検証を行うESD検証装置、ESD検証方法およびESD検証プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一部の半導体回路(例えば、アナログLSI)は、過酷な環境条件で使用されることから、厳しいサージ試験に合格することが求められる。サージ試験では、パッド間に高電圧を印加するため、パッド間に大きなサージ電流が流れて、半導体回路が破壊するおそれがある。この破壊は主に、半導体回路内にPN結合を介した低インピーダンスの電流経路が存在するためである。あるいは、サージをかけたパッドから、半導体回路内の寄生素子を通過して接地パッドに大きなサージ電流が流れて半導体回路が破壊することもあり得る。
【0003】
この種のサージ電流は、通常の動作シミュレーションでは発見できない。サージ状態の動作シミュレーションを行うことも考えられるが、すべてのパッド間でサージ状態の動作シミュレーションを行うのは、時間的にも困難である。
【0004】
モータ制御ドライバやオーディオ用アンプ等は、その出力段に、電動モータやスピーカ等の内部にインダクタ素子を有する機器が接続されている。サージにより出力側電圧が大きく変動すると、機器内部のインダクタ素子に誘導起電力が生じ、機器内部に大きなサージ電流が流れて、機器およびその周辺回路が破壊するおそれがある。
【0005】
特に、サージにより機器内部に負の電圧が印加されると、想定外の寄生素子が動作して、機器内部およびその周辺の回路部品に大きなサージ電流が流れて破壊するおそれがある。この種のサージによる影響を事前に動作シミュレーションで予測することは困難である。
【0006】
特許文献1〜3には、静電放電(ESD)の解析技術が開示されているが、半導体回路内のPN接合部やゲート−ソース間容量部を経由する電流経路まで解析することは念頭に置いておらず、ESDの解析を精度よく行うことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−11964号公報
【特許文献2】特開2005−196468号公報
【特許文献3】特開2007−221011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以下に説明する実施形態では、半導体回路内のパッド間の電流の流れやすさを精度よく解析して、問題のある箇所を的確に検出可能なESD検証装置、ESD検証方法およびESD検証プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態は、複数のパッドと、これらパッドに接続される内部回路と、前記複数のパッドの中の2つのパッド間に接続される少なくとも一つのESD保護素子と、を有する半導体回路のESD検証装置を対象とする。このESD検証装置は、前記内部回路および前記ESD保護素子内に存在するPN接合部と、ゲート−ソース間容量部と、キャパシタ素子とをそれぞれ整流素子に置換する置換手段を有する。また、ESD検証装置は、前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の一方側から他方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第1テーブルを作成する第1テーブル作成手段を有する。また、ESD検証装置は、前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の他方側から一方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第2テーブルを作成する第2テーブル作成手段を有する。また、ESD検証装置は、前記第1および第2テーブルを合成して、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の電流経路のうち、最も電流が流れやすい電流経路を数値化した第3テーブルを作成する第3テーブル作成手段を有する。また、ESD検証装置は、前記第3テーブルに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を経由するすべての電流経路について、電流の流れやすさを数値化した第4テーブルを作成する第4テーブル作成手段を有する。また、ESD検証装置は、前記半導体回路からすべての前記ESD保護素子を削除した状態で、前記複数のパッドの中の任意のパッド間の電流の流れやすさを数値化した第5テーブルを作成する第5テーブル作成手段を有する。また、ESD検証装置は、前記第4テーブルと前記第5テーブルとに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を通過する電流経路の電流の流れやすさと、前記ESD保護素子を通過しない電流経路の電流の流れやすさとを比較する比較手段を有する。また、ESD検証装置は、前記比較手段の比較結果が一致しない場合には、対応するパッド同士の組合せと、これらパッド間の経路とを提示する提示手段を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一実施形態に係るESD検証装置の概略構成を示すブロック図。
【図2】図1のESD検証装置の処理動作を説明するフローチャート。
【図3】図2のステップS2の置換処理の具体例を説明する図。
【図4】具体的な半導体回路についてステップS2の置換処理を行った例を示す回路図。
【図5】有向経路グラフを説明する図。
【図6】第1テーブルの作成手順を説明する図。
【図7】第2テーブルの作成手順を説明する図。
【図8】第3テーブルを作成する手順を説明する図。
【図9】第4テーブルを作成する手順を説明する図。
【図10】ステップS13の処理内容を説明する図。
【図11】ステップS13の処理内容を説明する図。
【図12】第5テーブルを作成する手順を説明する図。
【図13】VCCAパッドに静電サージが印加された状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、実施形態を説明する。図1は一実施形態に係るESD検証装置の概略構成を示すブロック図である。図1のESD検証装置は、半導体回路のESD解析を行うものである。より具体的には、半導体回路内のESD保護素子の接続が正しいか否かの解析と、半導体回路内のパッド間に大量の電流が流れる経路がないか否かの解析とを行う。
【0012】
本実施形態に係るESD保護素子は、半導体回路のパッド間に接続されるものであり、ESD保護素子の具体的な形態としては、ダイオードやサイリスタ等、種々の回路素子が考えられる。また、複数の回路素子を組み合わせてESD保護素子を構成してもよい。
【0013】
図1のESD検証装置は、ESDの解析を行う処理部1と、処理部1で使用する各種データを記憶する記憶部2と、ESDの解析条件等を入力する入力部3と、ESDの解析結果を出力する出力部4とを備えている。
【0014】
図1のESD検証装置の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいが、例えば、汎用のPCやワークステーション上で実行されるプログラムにより、ESD検証装置の少なくとも一部の機能を実施してもよい。
【0015】
ESD検証装置内の処理部1は、置換部11と、第1テーブル作成部12と、第2テーブル作成部13と、第3テーブル作成部14と、第4テーブル作成部15と、第5テーブル作成部16と、第6テーブル作成部17と、比較部18とを有する。
【0016】
置換部11は、半導体回路のパッド間に接続される内部回路と、パッド間に接続されるESD保護素子とに含まれるPN接合部とゲート−ソース間容量部とをそれぞれ整流素子(例えばダイオード)に置換する。
【0017】
第1テーブル作成部12は、ESD保護素子のそれぞれごとに、ESD保護素子が接続された2つのパッド間のESD保護素子の一方側(例えばアノード)から他方側(例えばカソード)に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第1テーブルを作成する。
【0018】
第2テーブル作成部13は、ESD保護素子のそれぞれごとに、ESD保護素子が接続された2つのパッド間のESD保護素子の他方側(例えばカソード)から一方側(例えばアノード)に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第2テーブルを作成する。
【0019】
第3テーブル作成部14は、第1および第2テーブル12,13を合成して、ESD保護素子が接続された2つのパッド間の電流経路のうち、電流が流れやすい電流経路を数値化した第3テーブルを作成する。
【0020】
第4テーブル作成部15は、第3テーブルに基づいて、複数のパッドの中の任意のパッド間で、ESD保護素子を経由するすべての電流経路について、電流の流れやすさを数値化した第4テーブルを作成する。
【0021】
第5テーブル作成部16は、半導体回路からすべてのESD保護素子を削除した状態で、任意のパッド間の電流の流れやすさを数値化した第5テーブルを作成する。
【0022】
第6テーブル作成部17は、ESD保護素子のそれぞれごとに、ESD保護素子が接続された2つのパッド間の電流経路について、電流の流れやすさを数値化した第6テーブルを作成する。
【0023】
比較部18は、第4テーブルと第5テーブルに基づいて、任意のパッド間で、ESD保護素子を通過する電流経路の電流の流れやすさと、ESD保護素子を通過しない電流経路の電流の流れやすさとを比較する。より具体的には、比較部18は、第4テーブルの数値と第5テーブルの数値が異なる場合には、問題があると判断する。
【0024】
出力部4は、第4テーブルの数値と第5テーブルの数値が異なる場合には、対応するパッド同士の組合せと、これらパッド間の経路とを操作者に提示する。提示の具体的な形態は問わないが、例えば、表示装置に解析対象の半導体回路の回路図を表示して、問題のある回路素子や接続ノードを強調表示する。
【0025】
記憶部2は、第1ネットリストを記憶する第1ネットリスト記憶部21と、第2ネットリストを記憶する第2ネットリスト記憶部22と、第3ネットリストを記憶する第3ネットリスト記憶部23と、第1テーブルを記憶する第1テーブル記憶部24と、第2テーブルを記憶する第2テーブル記憶部25と、第3テーブルを記憶する第3テーブル記憶部26と、第4テーブルを記憶する第4テーブル記憶部27と、第5テーブルを記憶する第5テーブル記憶部28と、第6テーブルを記憶する第6テーブル記憶部29と、第1有向経路グラフを記憶する第1有向経路グラフ記憶部30と、第2有向経路グラフを記憶する第2有向経路グラフ記憶部31とを有する。
【0026】
図2は図1のESD検証装置の処理動作を説明するフローチャートである。以下、このフローチャートに基づいて図1のESD検証装置の処理動作を説明する。
【0027】
まず、入力部3を介して、ESD解析対象の半導体回路のネットリスト(以下、第1ネットリストと呼ぶ)を入力する(ステップS1)。この第1ネットリストは、第1ネットリスト記憶部21に記憶される。第1ネットリストは、ESD検証装置とは別個の装置で作成される。あるいは、ESD検証装置の内部で第1ネットリストを作成して、データバスと入力部3等を介して取り込んでもよい。
【0028】
次に、第1ネットリスト中の内部回路モデルとESD保護素子モデルの中から、PN接合部とゲート−ソース間容量部を抽出して、ダイオードまたは寄生ダイオード(以下、まとめてダイオードと呼ぶ)にそれぞれ置換し、新たなネットリスト(以下、第2ネットリストと呼ぶ)を作成する(ステップS2)。この第2ネットリストは、第2ネットリスト記憶部22に記憶される。
【0029】
図3は図2のステップS2の置換処理の具体例を説明する図である。図3(a)のNPNトランジスタは、ベース−コレクタ間、ベース−エミッタ間、および基板PB−コレクタ間にそれぞれPN接合部が形成されているため、それぞれ別個のダイオードに置換される。図3(b)のPNPトランジスタも同様である。
【0030】
図3(c)のPMOSトランジスタでは、ソース−ゲート間とドレイン−ゲート間にそれぞれPN接合部が形成されているため、それぞれ別個のダイオードに置換される。また、ゲート−ソース間容量もダイオードに置換される。図3(d)のNMOSトランジスタも同様である。
【0031】
図3(e)のNPNトランジスタはベース−エミッタ間が短絡している。よって、ベース−エミッタ間のダイオードは省略される。図3(f)も同様である。
【0032】
図3(g)のPMOSトランジスタはソース−ドレイン間が短絡している。よって、ソース−ドレイン間のダイオードは省略される。図3(h)も同様である。
【0033】
図3(i)のポリ抵抗は、PN接合部が存在しないため、短絡経路に置換される。図3(j)の拡散抵抗は、PN接合部が存在するため、PN接合部の箇所はダイオードに置換される。
【0034】
図3(k)のN+MOSキャパシタは、内部にPN接合部を有するため、ダイオードに置換される。ゲート−N+拡散間容量もMOSトランジスタと同様にダイオードに置換される。一方、図3(l)のMIMキャパシタは、PN接合部がなく、両側電極間に直流的な電流経路が存在しないため、向き合ったダイオードに置換される。或いはMIMキャパシタ間の耐圧が十分高ければ、開放状態に置換してもよい。
【0035】
図4は具体的な半導体回路についてステップS2の置換処理を行った例を示す回路図である。図4の左側は第1ネットリストに対応する元の回路図、右側は置換処理後の回路図である。図示のように、MOSトランジスタと拡散抵抗がそれぞれダイオードに置換される。
【0036】
図2のステップS2の処理が終わると、次に、第2ネットリスト中で、自分自身のアノードとカソードが短絡しているダイオードを除去する縮約処理を行って、第2ネットリストを簡略化した第3ネットリストを作成する(ステップS3)。この第3ネットリストは第3ネットリスト記憶部23に記憶される。
【0037】
次に、第3ネットリストに基づいて、ESD保護素子を経由する経路の電流の流れやすさを数値化した有向経路グラフ(以下、第1有向経路グラフ)を作成する(ステップS4)。この第1有向経路グラフは、第1有向経路グラフ記憶部30に記憶される。
【0038】
図5は有向経路グラフを説明する図である。有向経路グラフは、ESD保護素子を経由するパッド間の電流経路の電流の流れやすさを数値化したものである。例えば、図5に示すように、ESD保護素子がダイオードの場合、順方向の電流経路の数値は順方向電圧降下値とすればよく、逆方向の電流経路の数値は降伏電圧値とすればよい。また、MOSトランジスタのゲート−ソース間容量を置換したダイオードの場合は、順方向および逆方向それぞれを、ゲート−ソース間の絶縁破壊電圧の比Vgs/Vsgを、電流の流れやすさを表す数値とすればよい。Vgsはゲートが高電位でソースが低電位の場合の絶縁破壊電圧であり、Vsgはソースが高電位でゲートが低電位の場合の絶縁破壊電圧である。MIMキャパシタの向き合ったダイオードは、それぞれ順方向は0で、逆方向はMIMキャパシタの絶縁破壊電圧を電流の流れやすさを表す数値とすれば良い。
【0039】
有向経路グラフでは、数値が小さいほど電流が流れやすいことを示す。したがって、各経路ごとの数値を単純に比較するだけで、各経路の電流の流れやすさを把握できる。
上述したステップS4では、まず、ESD保護素子を順方向に通過するパッド間の電流経路を検索する。そして、検索されたESD保護素子のPN接合部やゲート−ソース間容量部を置換したダイオードのアノードを起点として、いずれかのパッドか他のESD保護素子のダイオードのアノードに至る経路までを有向経路とする。そして、検索された有向経路について、電流の流れやすさを表す数値を設定する。
【0040】
あるESD保護素子のダイオードのアノードから、パッドまたは他のESD保護素子のダイオードのアノードまでの経路に、複数の有向経路を経由する場合は、これら有向経路のそれぞれの電流の流れやすさを表す数値を足し合わせた合計値を採用する。
【0041】
あるESD保護素子のダイオードのアノードから、パッドまたは他のESD保護素子のダイオードのアノードまでの経路が複数存在する場合は、これら経路の中で数値の合計値が最も小さい経路を選択する。例えば、数値の合計値の最小値をX1とし、新たに検索された経路の数値の合計値を計算する途中で、それまでの合計値がX1を超えてしまった場合は、その経路の経路探索を途中で打ち切って、他の経路の数値計算を行う。また、経路が見つからない箇所は、経路が存在しないことがわかるように、非常に大きな数値(例えば99999)を設定する。
【0042】
以上のようにして、ESD保護素子を経由する任意のパッド間について、対応するESD保護素子のダイオードのアノードから各パッドまたは他のESD保護素子のダイオードのアノードまでの経路の電流の流れやすさを表す数値の合計値の最小値を記述した第1テーブルを作成する(ステップS5)。
【0043】
図6は第1テーブルの作成手順を説明する図である。図6(a)の回路は、ESD保護素子内にダイオードD1を有し、他のESD保護素子内にダイオードD2およびD3を有する例を示している。ダイオードD1のアノードはGNDパッドに接続され、ダイオードD1のカソードはパッドP1に接続されている。ダイオードD2のアノードはパッドP1に接続され、ダイオードD2のカソードはVCCパッドに接続されている。VCCパッドとGNDパッドの間にはダイオードD3が接続されている。
【0044】
図6(b)は図6(a)の回路に対応する第1有向経路グラフである。この第1有向経路グラフには、ESD保護素子のダイオードD1のアノードから、GNDパッド、パッドP1(ダイオードD2のアノード)、またはVCCパッドへの電流の流れやすさを表す数値が記述されている。
【0045】
図6(c)は、図6(b)の各経路のうち、順方向の経路を実線で表し、逆方向の経路を破線で表している。
【0046】
図6(d)は図6(c)に対応する第1テーブルを示す図である。図6(d)の第1テーブルでは、逆方向の経路については非常に大きな値(例えば99999)を設定し、順方向の経路については図6(c)の数値を記述している。
【0047】
次に、第1有向経路グラフ中のESD保護素子のダイオードのカソードを起点として、いずれかのパッドか他のESD保護素子のダイオードのカソードに至る経路を検索して、逆方向の電流の流れやすさを数値化した第2テーブルを作成する(ステップS6)。
【0048】
図7は第2テーブルの作成手順を説明する図である。図7(a)は図6(b)に示した第1有向経路グラフである。図7(b)は図7(a)から逆方向の経路を選択して実線で表し、順方向の経路は破線で表している。図7(c)は図7(b)に対応する第2テーブルを示す図である。図7(c)の第2テーブルでは、逆方向の経路は図7(b)に示す数値を記述し、順方向の経路は非常に大きな値(例えば99999)を設定している。
【0049】
次に、第1テーブルと第2テーブルを合成して、ESD保護素子が接続された任意のパッド間の順方向および逆方向の経路についての電流の流れやすさを数値化した第3テーブルを作成する(ステップS7)。この第3テーブルは、第1テーブルと第2テーブルの対応する数値同士を比較し、小さい方の数値を選択したものである。
【0050】
図8は第3テーブルを作成する手順を説明する図である。図8(a)は図6(d)に示した第1テーブル、図8(b)は図7(c)に示した第2テーブル、図8(c)は第1テーブルと第2テーブルの各数値を比較して、どちらか小さい数値を記述したものである。例えば、ESD保護素子のダイオードからパッド1への経路について、第1テーブルでの数値が0.6で、第2テーブルでの数値が99999であれば、0.6を選択して、第3テーブルに記述する。これにより、第3テーブルでは、数値99999のような非常に大きな数値はなくなっている。
【0051】
次に、第3テーブルに基づいて、ESD保護素子を含む任意のパッド間の電流の流れやすさを数値化した第4テーブルを作成する(ステップS8)。ここでは、パッドAからESD保護素子のダイオードとパッドCを介してパッドBに至る経路の電流の流れやすさを示す数値と、パッドAからESD保護素子のダイオードを経由して直接(パッドCを介さずに)、パッドBに至る経路の電流の流れやすさを示す数値とを比較し、後者の数値の方が小さい場合は、その数値を第4テーブルに記述する。すなわち、第4テーブルには、パッドAからパッドBに至る複数の経路が存在する場合は、その中で最も電流が流れやすい経路の数値が記述される。
【0052】
図9は第4テーブルを作成する手順を説明する図である。図8(c)に示した第3テーブルでは、VCCパッドからGNDパッドに至る経路の電流の流れやすさを示す数値が16.8であった。この数値はESD保護素子のダイオードを経由する経路の電流の流れやすさを表している。これに対して、VCCパッドからESD保護素子のダイオードを経由してGNDパッドに至る経路が別に存在し、この経路の電流の流れやすさを示す数値は10.4であり、16.8よりも小さいため、第4テーブルでは10.4に更新される。数値10.4は、VCCパッドからパッドP1までの経路の数値5.2と、パッドP1からGNDパッドまでの経路5.2とを足し合わせたものである。したがって、数値10.4の経路は、VCCパッドからパッドP1を経由してGNDパッドに至る経路である。
【0053】
同様に、GNDパッドからVCCパッドに至る経路も、ESD保護素子のダイオードを経由してGNDパッドからVCCパッドに直接至る経路の数値が3.2で、ESD保護素子のダイオードを経由してGNDパッドからパッドP1を経由してVCCパッドに至る経路の数値が1.2であるため、第4テーブルでは、1.2に更新される。数値1.2は、GNDパッドからパッドP1までの経路の数値0.6と、パッドP1からVCCパッドまでの経路の数値0.6とを足し合わせたものである。すなわち、数値1.2の経路は、GNDパッドからパッドP1を経由してVCCパッドに至る経路である。
【0054】
次に、第4テーブルの数値と、操作者が入力部3を介して予め入力した第6テーブルの数値とを比較する(ステップS9)。第6テーブルは、パッド間のESD保護素子の電流の流れやすさを示す数値の設計値を記述したものである。
【0055】
第4テーブルと第6テーブルを比較した結果、第4テーブルの数値の方が小さければ、操作者(設計者)が意図していないESD保護素子を経由する経路、またはESD保護素子の寄生ダイオードを経由する経路、または他のESD保護素子を経由するパッド間の経路が存在することを示す。したがって、第4テーブルの数値の方が小さければ、出力部4を介して、意図しない経路の存在を報知する(ステップS10)。
【0056】
一方、第4テーブルと第6テーブルを比較した結果、第6テーブルの数値の方が小さければ、操作者(設計者)が意図したESD保護素子を経由する経路は存在しないことになるため、その旨を出力部4を介して報知する(ステップS11)。
【0057】
ステップS10またはS11により、出力部4を介して問題のある経路が提示された場合は、操作者は、提示された経路を調べて、ESD保護素子の接続方法や使用すべきESD保護素子の種類等に誤りがないかを確認し、誤りが見つかった場合は、第1ネットリストを修正して、ステップS1以降の処理を再度行う(ステップS12)。
【0058】
ここで、操作者(設計者)が第6テーブルを予め用意できるとは限らない。したがって、上述したステップS9〜S12の処理は必ずしも必須ではない。仮に、第6テーブルが用意できなかった場合は、ステップS9の後に、以降に説明するステップS13の処理を行う。また、第4テーブルの数値と第6テーブルの数値が一致する場合もステップS13の処理を行う。
【0059】
ステップS13では、第1有向経路グラフから、ESD保護素子のダイオードを経由する有向経路を削除した第2有向経路グラフを作成する。
【0060】
図10および図11はステップS13の処理内容を説明する図である。図10(a)の回路は、ステップS2の処理により、例えば図10(b)のようなダイオードおよび寄生ダイオードを有する回路に置換される。その後、ステップS4の処理により、図10(c)および図11(a)のような第1有向経路グラフが作成される。その後、ステップS13の処理により、図11(b)のような第2有向経路グラフが作成される。図11(a)と図11(b)を比較すればわかるように、第2有向経路グラフでは、VCCAパッドとGNDAパッド間のダイオードを経由する経路(図11(a)の左端の二本の経路)と、VCCBパッドとGNDBパッド間のダイオードを経由する経路(図11(a)の右端二本の経路)とが削除される。
【0061】
次に、第2有向経路グラフを利用して、任意のパッド間における順方向および逆方向の全経路を検索し、各経路の電流の流れやすさを示す数値の最小値が第4テーブルの数値より小さいか否かを検証する。もし、各経路の数値の合計値を計算する過程で、同じ経路の第4テーブル上の数値を超えてしまった場合は、その経路については数値計算を中止し、別の経路を探索してもよい。(ステップS14)。
【0062】
すべてのパッド間についてステップS14の処理を行って、第5テーブルを作成する(ステップS15)。
【0063】
図12は第5テーブルを作成する手順を説明する図である。図12(a)は図11(b)に示した第2有向経路グラフである。図12(b)は図11(b)の第2有向経路グラフに対応する第4テーブルである。この第4テーブルは、ESD保護素子の接続された経路のみを対象とするため、ESD保護素子が接続されていない経路の数値を非常に大きな値99999に設定している。
【0064】
図12(c)は、ESD保護素子を削除した状態で、パッド間の全ての経路の電流の流れやすさを検索して、最も電流が流れやすい経路の数値を記述した第5テーブルの一例を示している。
【0065】
図12(b)の第4テーブルと図12(c)の第5テーブルを比較すればわかるように、第4テーブルで数値99999を持つ経路は、第5テーブルでは、より小さい数値に更新される。また、他の数値を持つ経路でも、ESD保護素子を経由しない経路で、より電流が流れやすい経路が存在すれば、その経路の数値に更新される。
【0066】
図13は第5テーブルのVCCAパッドからVCCBパッドに至る経路の電流の流れやすさを表す数値が6.7になる理由を説明する図である。図13(a)は図12(a)と同じ第2有向経路グラフであり、図13(b)は図12(c)と同じ第5テーブルである。
【0067】
図13(c)の回路図に示すように、VCCAパッドとVCCBパッドの間には、MOSトランジスタQ1とQ2が存在する。図13(c)の矢印の向きに、VCCパッドからVCCBパッドに電流が流れるには、MOSトランジスタQ2が破壊されて、ゲート絶縁膜を突き抜けるような電流が流れることが前提となる。このようなMOSトランジスタQ2の破壊のしやすさも考慮に入れて、第5テーブルが生成される。
【0068】
本実施形態では、このような大量の電流が流れうる電流経路を確実に検出できるように、第4テーブルと第5テーブルを比較して(ステップS16)、第5テーブル内の数値と第4テーブル内の数値とが異なる場合には、その数値に対応する経路には問題があると判断して、出力部4を介して、その経路と対応するパッド間とを操作者に提示する(ステップS17)。
【0069】
上述したステップS16において、第4テーブルの数値以下の数値を持つ経路が一つ見つかるたびに、ステップS17の操作者への提示を行う必要はない。このような経路が予め定めた所定個数見つかった段階で、ステップS17の提示を行ってもよい。
【0070】
ステップS17の提示を受けた操作者は、問題のあるパッド間と経路を解析して、問題を解決すべく第1ネットリストを修正する(ステップS18)。修正後に、上述したステップS1以降の処理を再度行い、最終的に問題箇所がなくなるまで、ステップS1〜S18の処理を繰り返す。
【0071】
このように、本実施形態では、半導体回路のパッド間に接続されるESD保護素子と内部回路内のPN接合部とゲート−ソース間容量部をダイオードに置換した後に、パッド間の電流の流れやすさを解析するため、電流の流れやすさの解析を精度よく行うことができる。
【0072】
また、本実施形態では、想定したESD保護素子を経由するパッド間の経路以外に、想定外のESD保護素子を経由するパッド間の経路が存在するか否かを検索するため、設計者が意図しなかった電流経路の存在を的確に検出できる。
【0073】
また、電流の流れやすさを数値化した有向経路グラフを利用して、ESD保護素子を経由するパッド間の電流の流れやすさを示す数値を、予め設計した数値と比較するため、ESD保護素子の接続形態に誤りがないか否かを簡易且つ正確に検証できる。
【0074】
また、ESD保護素子を接続した場合の有向経路グラフと、ESD保護素子を接続しない場合の有向経路グラフとを比較するため、ESD保護素子を経由しないで電流が流れやすい経路を漏れなく検出でき、問題のある経路の修正作業を簡易かつ迅速に行うことができる。
【0075】
上述した実施形態で説明したESD検証装置の少なくとも一部は、上述したようにハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、ESD検証装置の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD−ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0076】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 処理部
2 記憶部
3 入力部
4 出力部
11 置換部
12〜17 第1〜第6テーブル作成部
18 比較部
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ESD(Electro Static Discharge)保護素子を有する半導体回路を対象としてESD検証を行うESD検証装置、ESD検証方法およびESD検証プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一部の半導体回路(例えば、アナログLSI)は、過酷な環境条件で使用されることから、厳しいサージ試験に合格することが求められる。サージ試験では、パッド間に高電圧を印加するため、パッド間に大きなサージ電流が流れて、半導体回路が破壊するおそれがある。この破壊は主に、半導体回路内にPN結合を介した低インピーダンスの電流経路が存在するためである。あるいは、サージをかけたパッドから、半導体回路内の寄生素子を通過して接地パッドに大きなサージ電流が流れて半導体回路が破壊することもあり得る。
【0003】
この種のサージ電流は、通常の動作シミュレーションでは発見できない。サージ状態の動作シミュレーションを行うことも考えられるが、すべてのパッド間でサージ状態の動作シミュレーションを行うのは、時間的にも困難である。
【0004】
モータ制御ドライバやオーディオ用アンプ等は、その出力段に、電動モータやスピーカ等の内部にインダクタ素子を有する機器が接続されている。サージにより出力側電圧が大きく変動すると、機器内部のインダクタ素子に誘導起電力が生じ、機器内部に大きなサージ電流が流れて、機器およびその周辺回路が破壊するおそれがある。
【0005】
特に、サージにより機器内部に負の電圧が印加されると、想定外の寄生素子が動作して、機器内部およびその周辺の回路部品に大きなサージ電流が流れて破壊するおそれがある。この種のサージによる影響を事前に動作シミュレーションで予測することは困難である。
【0006】
特許文献1〜3には、静電放電(ESD)の解析技術が開示されているが、半導体回路内のPN接合部やゲート−ソース間容量部を経由する電流経路まで解析することは念頭に置いておらず、ESDの解析を精度よく行うことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−11964号公報
【特許文献2】特開2005−196468号公報
【特許文献3】特開2007−221011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以下に説明する実施形態では、半導体回路内のパッド間の電流の流れやすさを精度よく解析して、問題のある箇所を的確に検出可能なESD検証装置、ESD検証方法およびESD検証プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態は、複数のパッドと、これらパッドに接続される内部回路と、前記複数のパッドの中の2つのパッド間に接続される少なくとも一つのESD保護素子と、を有する半導体回路のESD検証装置を対象とする。このESD検証装置は、前記内部回路および前記ESD保護素子内に存在するPN接合部と、ゲート−ソース間容量部と、キャパシタ素子とをそれぞれ整流素子に置換する置換手段を有する。また、ESD検証装置は、前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の一方側から他方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第1テーブルを作成する第1テーブル作成手段を有する。また、ESD検証装置は、前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の他方側から一方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第2テーブルを作成する第2テーブル作成手段を有する。また、ESD検証装置は、前記第1および第2テーブルを合成して、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の電流経路のうち、最も電流が流れやすい電流経路を数値化した第3テーブルを作成する第3テーブル作成手段を有する。また、ESD検証装置は、前記第3テーブルに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を経由するすべての電流経路について、電流の流れやすさを数値化した第4テーブルを作成する第4テーブル作成手段を有する。また、ESD検証装置は、前記半導体回路からすべての前記ESD保護素子を削除した状態で、前記複数のパッドの中の任意のパッド間の電流の流れやすさを数値化した第5テーブルを作成する第5テーブル作成手段を有する。また、ESD検証装置は、前記第4テーブルと前記第5テーブルとに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を通過する電流経路の電流の流れやすさと、前記ESD保護素子を通過しない電流経路の電流の流れやすさとを比較する比較手段を有する。また、ESD検証装置は、前記比較手段の比較結果が一致しない場合には、対応するパッド同士の組合せと、これらパッド間の経路とを提示する提示手段を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一実施形態に係るESD検証装置の概略構成を示すブロック図。
【図2】図1のESD検証装置の処理動作を説明するフローチャート。
【図3】図2のステップS2の置換処理の具体例を説明する図。
【図4】具体的な半導体回路についてステップS2の置換処理を行った例を示す回路図。
【図5】有向経路グラフを説明する図。
【図6】第1テーブルの作成手順を説明する図。
【図7】第2テーブルの作成手順を説明する図。
【図8】第3テーブルを作成する手順を説明する図。
【図9】第4テーブルを作成する手順を説明する図。
【図10】ステップS13の処理内容を説明する図。
【図11】ステップS13の処理内容を説明する図。
【図12】第5テーブルを作成する手順を説明する図。
【図13】VCCAパッドに静電サージが印加された状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、実施形態を説明する。図1は一実施形態に係るESD検証装置の概略構成を示すブロック図である。図1のESD検証装置は、半導体回路のESD解析を行うものである。より具体的には、半導体回路内のESD保護素子の接続が正しいか否かの解析と、半導体回路内のパッド間に大量の電流が流れる経路がないか否かの解析とを行う。
【0012】
本実施形態に係るESD保護素子は、半導体回路のパッド間に接続されるものであり、ESD保護素子の具体的な形態としては、ダイオードやサイリスタ等、種々の回路素子が考えられる。また、複数の回路素子を組み合わせてESD保護素子を構成してもよい。
【0013】
図1のESD検証装置は、ESDの解析を行う処理部1と、処理部1で使用する各種データを記憶する記憶部2と、ESDの解析条件等を入力する入力部3と、ESDの解析結果を出力する出力部4とを備えている。
【0014】
図1のESD検証装置の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいが、例えば、汎用のPCやワークステーション上で実行されるプログラムにより、ESD検証装置の少なくとも一部の機能を実施してもよい。
【0015】
ESD検証装置内の処理部1は、置換部11と、第1テーブル作成部12と、第2テーブル作成部13と、第3テーブル作成部14と、第4テーブル作成部15と、第5テーブル作成部16と、第6テーブル作成部17と、比較部18とを有する。
【0016】
置換部11は、半導体回路のパッド間に接続される内部回路と、パッド間に接続されるESD保護素子とに含まれるPN接合部とゲート−ソース間容量部とをそれぞれ整流素子(例えばダイオード)に置換する。
【0017】
第1テーブル作成部12は、ESD保護素子のそれぞれごとに、ESD保護素子が接続された2つのパッド間のESD保護素子の一方側(例えばアノード)から他方側(例えばカソード)に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第1テーブルを作成する。
【0018】
第2テーブル作成部13は、ESD保護素子のそれぞれごとに、ESD保護素子が接続された2つのパッド間のESD保護素子の他方側(例えばカソード)から一方側(例えばアノード)に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第2テーブルを作成する。
【0019】
第3テーブル作成部14は、第1および第2テーブル12,13を合成して、ESD保護素子が接続された2つのパッド間の電流経路のうち、電流が流れやすい電流経路を数値化した第3テーブルを作成する。
【0020】
第4テーブル作成部15は、第3テーブルに基づいて、複数のパッドの中の任意のパッド間で、ESD保護素子を経由するすべての電流経路について、電流の流れやすさを数値化した第4テーブルを作成する。
【0021】
第5テーブル作成部16は、半導体回路からすべてのESD保護素子を削除した状態で、任意のパッド間の電流の流れやすさを数値化した第5テーブルを作成する。
【0022】
第6テーブル作成部17は、ESD保護素子のそれぞれごとに、ESD保護素子が接続された2つのパッド間の電流経路について、電流の流れやすさを数値化した第6テーブルを作成する。
【0023】
比較部18は、第4テーブルと第5テーブルに基づいて、任意のパッド間で、ESD保護素子を通過する電流経路の電流の流れやすさと、ESD保護素子を通過しない電流経路の電流の流れやすさとを比較する。より具体的には、比較部18は、第4テーブルの数値と第5テーブルの数値が異なる場合には、問題があると判断する。
【0024】
出力部4は、第4テーブルの数値と第5テーブルの数値が異なる場合には、対応するパッド同士の組合せと、これらパッド間の経路とを操作者に提示する。提示の具体的な形態は問わないが、例えば、表示装置に解析対象の半導体回路の回路図を表示して、問題のある回路素子や接続ノードを強調表示する。
【0025】
記憶部2は、第1ネットリストを記憶する第1ネットリスト記憶部21と、第2ネットリストを記憶する第2ネットリスト記憶部22と、第3ネットリストを記憶する第3ネットリスト記憶部23と、第1テーブルを記憶する第1テーブル記憶部24と、第2テーブルを記憶する第2テーブル記憶部25と、第3テーブルを記憶する第3テーブル記憶部26と、第4テーブルを記憶する第4テーブル記憶部27と、第5テーブルを記憶する第5テーブル記憶部28と、第6テーブルを記憶する第6テーブル記憶部29と、第1有向経路グラフを記憶する第1有向経路グラフ記憶部30と、第2有向経路グラフを記憶する第2有向経路グラフ記憶部31とを有する。
【0026】
図2は図1のESD検証装置の処理動作を説明するフローチャートである。以下、このフローチャートに基づいて図1のESD検証装置の処理動作を説明する。
【0027】
まず、入力部3を介して、ESD解析対象の半導体回路のネットリスト(以下、第1ネットリストと呼ぶ)を入力する(ステップS1)。この第1ネットリストは、第1ネットリスト記憶部21に記憶される。第1ネットリストは、ESD検証装置とは別個の装置で作成される。あるいは、ESD検証装置の内部で第1ネットリストを作成して、データバスと入力部3等を介して取り込んでもよい。
【0028】
次に、第1ネットリスト中の内部回路モデルとESD保護素子モデルの中から、PN接合部とゲート−ソース間容量部を抽出して、ダイオードまたは寄生ダイオード(以下、まとめてダイオードと呼ぶ)にそれぞれ置換し、新たなネットリスト(以下、第2ネットリストと呼ぶ)を作成する(ステップS2)。この第2ネットリストは、第2ネットリスト記憶部22に記憶される。
【0029】
図3は図2のステップS2の置換処理の具体例を説明する図である。図3(a)のNPNトランジスタは、ベース−コレクタ間、ベース−エミッタ間、および基板PB−コレクタ間にそれぞれPN接合部が形成されているため、それぞれ別個のダイオードに置換される。図3(b)のPNPトランジスタも同様である。
【0030】
図3(c)のPMOSトランジスタでは、ソース−ゲート間とドレイン−ゲート間にそれぞれPN接合部が形成されているため、それぞれ別個のダイオードに置換される。また、ゲート−ソース間容量もダイオードに置換される。図3(d)のNMOSトランジスタも同様である。
【0031】
図3(e)のNPNトランジスタはベース−エミッタ間が短絡している。よって、ベース−エミッタ間のダイオードは省略される。図3(f)も同様である。
【0032】
図3(g)のPMOSトランジスタはソース−ドレイン間が短絡している。よって、ソース−ドレイン間のダイオードは省略される。図3(h)も同様である。
【0033】
図3(i)のポリ抵抗は、PN接合部が存在しないため、短絡経路に置換される。図3(j)の拡散抵抗は、PN接合部が存在するため、PN接合部の箇所はダイオードに置換される。
【0034】
図3(k)のN+MOSキャパシタは、内部にPN接合部を有するため、ダイオードに置換される。ゲート−N+拡散間容量もMOSトランジスタと同様にダイオードに置換される。一方、図3(l)のMIMキャパシタは、PN接合部がなく、両側電極間に直流的な電流経路が存在しないため、向き合ったダイオードに置換される。或いはMIMキャパシタ間の耐圧が十分高ければ、開放状態に置換してもよい。
【0035】
図4は具体的な半導体回路についてステップS2の置換処理を行った例を示す回路図である。図4の左側は第1ネットリストに対応する元の回路図、右側は置換処理後の回路図である。図示のように、MOSトランジスタと拡散抵抗がそれぞれダイオードに置換される。
【0036】
図2のステップS2の処理が終わると、次に、第2ネットリスト中で、自分自身のアノードとカソードが短絡しているダイオードを除去する縮約処理を行って、第2ネットリストを簡略化した第3ネットリストを作成する(ステップS3)。この第3ネットリストは第3ネットリスト記憶部23に記憶される。
【0037】
次に、第3ネットリストに基づいて、ESD保護素子を経由する経路の電流の流れやすさを数値化した有向経路グラフ(以下、第1有向経路グラフ)を作成する(ステップS4)。この第1有向経路グラフは、第1有向経路グラフ記憶部30に記憶される。
【0038】
図5は有向経路グラフを説明する図である。有向経路グラフは、ESD保護素子を経由するパッド間の電流経路の電流の流れやすさを数値化したものである。例えば、図5に示すように、ESD保護素子がダイオードの場合、順方向の電流経路の数値は順方向電圧降下値とすればよく、逆方向の電流経路の数値は降伏電圧値とすればよい。また、MOSトランジスタのゲート−ソース間容量を置換したダイオードの場合は、順方向および逆方向それぞれを、ゲート−ソース間の絶縁破壊電圧の比Vgs/Vsgを、電流の流れやすさを表す数値とすればよい。Vgsはゲートが高電位でソースが低電位の場合の絶縁破壊電圧であり、Vsgはソースが高電位でゲートが低電位の場合の絶縁破壊電圧である。MIMキャパシタの向き合ったダイオードは、それぞれ順方向は0で、逆方向はMIMキャパシタの絶縁破壊電圧を電流の流れやすさを表す数値とすれば良い。
【0039】
有向経路グラフでは、数値が小さいほど電流が流れやすいことを示す。したがって、各経路ごとの数値を単純に比較するだけで、各経路の電流の流れやすさを把握できる。
上述したステップS4では、まず、ESD保護素子を順方向に通過するパッド間の電流経路を検索する。そして、検索されたESD保護素子のPN接合部やゲート−ソース間容量部を置換したダイオードのアノードを起点として、いずれかのパッドか他のESD保護素子のダイオードのアノードに至る経路までを有向経路とする。そして、検索された有向経路について、電流の流れやすさを表す数値を設定する。
【0040】
あるESD保護素子のダイオードのアノードから、パッドまたは他のESD保護素子のダイオードのアノードまでの経路に、複数の有向経路を経由する場合は、これら有向経路のそれぞれの電流の流れやすさを表す数値を足し合わせた合計値を採用する。
【0041】
あるESD保護素子のダイオードのアノードから、パッドまたは他のESD保護素子のダイオードのアノードまでの経路が複数存在する場合は、これら経路の中で数値の合計値が最も小さい経路を選択する。例えば、数値の合計値の最小値をX1とし、新たに検索された経路の数値の合計値を計算する途中で、それまでの合計値がX1を超えてしまった場合は、その経路の経路探索を途中で打ち切って、他の経路の数値計算を行う。また、経路が見つからない箇所は、経路が存在しないことがわかるように、非常に大きな数値(例えば99999)を設定する。
【0042】
以上のようにして、ESD保護素子を経由する任意のパッド間について、対応するESD保護素子のダイオードのアノードから各パッドまたは他のESD保護素子のダイオードのアノードまでの経路の電流の流れやすさを表す数値の合計値の最小値を記述した第1テーブルを作成する(ステップS5)。
【0043】
図6は第1テーブルの作成手順を説明する図である。図6(a)の回路は、ESD保護素子内にダイオードD1を有し、他のESD保護素子内にダイオードD2およびD3を有する例を示している。ダイオードD1のアノードはGNDパッドに接続され、ダイオードD1のカソードはパッドP1に接続されている。ダイオードD2のアノードはパッドP1に接続され、ダイオードD2のカソードはVCCパッドに接続されている。VCCパッドとGNDパッドの間にはダイオードD3が接続されている。
【0044】
図6(b)は図6(a)の回路に対応する第1有向経路グラフである。この第1有向経路グラフには、ESD保護素子のダイオードD1のアノードから、GNDパッド、パッドP1(ダイオードD2のアノード)、またはVCCパッドへの電流の流れやすさを表す数値が記述されている。
【0045】
図6(c)は、図6(b)の各経路のうち、順方向の経路を実線で表し、逆方向の経路を破線で表している。
【0046】
図6(d)は図6(c)に対応する第1テーブルを示す図である。図6(d)の第1テーブルでは、逆方向の経路については非常に大きな値(例えば99999)を設定し、順方向の経路については図6(c)の数値を記述している。
【0047】
次に、第1有向経路グラフ中のESD保護素子のダイオードのカソードを起点として、いずれかのパッドか他のESD保護素子のダイオードのカソードに至る経路を検索して、逆方向の電流の流れやすさを数値化した第2テーブルを作成する(ステップS6)。
【0048】
図7は第2テーブルの作成手順を説明する図である。図7(a)は図6(b)に示した第1有向経路グラフである。図7(b)は図7(a)から逆方向の経路を選択して実線で表し、順方向の経路は破線で表している。図7(c)は図7(b)に対応する第2テーブルを示す図である。図7(c)の第2テーブルでは、逆方向の経路は図7(b)に示す数値を記述し、順方向の経路は非常に大きな値(例えば99999)を設定している。
【0049】
次に、第1テーブルと第2テーブルを合成して、ESD保護素子が接続された任意のパッド間の順方向および逆方向の経路についての電流の流れやすさを数値化した第3テーブルを作成する(ステップS7)。この第3テーブルは、第1テーブルと第2テーブルの対応する数値同士を比較し、小さい方の数値を選択したものである。
【0050】
図8は第3テーブルを作成する手順を説明する図である。図8(a)は図6(d)に示した第1テーブル、図8(b)は図7(c)に示した第2テーブル、図8(c)は第1テーブルと第2テーブルの各数値を比較して、どちらか小さい数値を記述したものである。例えば、ESD保護素子のダイオードからパッド1への経路について、第1テーブルでの数値が0.6で、第2テーブルでの数値が99999であれば、0.6を選択して、第3テーブルに記述する。これにより、第3テーブルでは、数値99999のような非常に大きな数値はなくなっている。
【0051】
次に、第3テーブルに基づいて、ESD保護素子を含む任意のパッド間の電流の流れやすさを数値化した第4テーブルを作成する(ステップS8)。ここでは、パッドAからESD保護素子のダイオードとパッドCを介してパッドBに至る経路の電流の流れやすさを示す数値と、パッドAからESD保護素子のダイオードを経由して直接(パッドCを介さずに)、パッドBに至る経路の電流の流れやすさを示す数値とを比較し、後者の数値の方が小さい場合は、その数値を第4テーブルに記述する。すなわち、第4テーブルには、パッドAからパッドBに至る複数の経路が存在する場合は、その中で最も電流が流れやすい経路の数値が記述される。
【0052】
図9は第4テーブルを作成する手順を説明する図である。図8(c)に示した第3テーブルでは、VCCパッドからGNDパッドに至る経路の電流の流れやすさを示す数値が16.8であった。この数値はESD保護素子のダイオードを経由する経路の電流の流れやすさを表している。これに対して、VCCパッドからESD保護素子のダイオードを経由してGNDパッドに至る経路が別に存在し、この経路の電流の流れやすさを示す数値は10.4であり、16.8よりも小さいため、第4テーブルでは10.4に更新される。数値10.4は、VCCパッドからパッドP1までの経路の数値5.2と、パッドP1からGNDパッドまでの経路5.2とを足し合わせたものである。したがって、数値10.4の経路は、VCCパッドからパッドP1を経由してGNDパッドに至る経路である。
【0053】
同様に、GNDパッドからVCCパッドに至る経路も、ESD保護素子のダイオードを経由してGNDパッドからVCCパッドに直接至る経路の数値が3.2で、ESD保護素子のダイオードを経由してGNDパッドからパッドP1を経由してVCCパッドに至る経路の数値が1.2であるため、第4テーブルでは、1.2に更新される。数値1.2は、GNDパッドからパッドP1までの経路の数値0.6と、パッドP1からVCCパッドまでの経路の数値0.6とを足し合わせたものである。すなわち、数値1.2の経路は、GNDパッドからパッドP1を経由してVCCパッドに至る経路である。
【0054】
次に、第4テーブルの数値と、操作者が入力部3を介して予め入力した第6テーブルの数値とを比較する(ステップS9)。第6テーブルは、パッド間のESD保護素子の電流の流れやすさを示す数値の設計値を記述したものである。
【0055】
第4テーブルと第6テーブルを比較した結果、第4テーブルの数値の方が小さければ、操作者(設計者)が意図していないESD保護素子を経由する経路、またはESD保護素子の寄生ダイオードを経由する経路、または他のESD保護素子を経由するパッド間の経路が存在することを示す。したがって、第4テーブルの数値の方が小さければ、出力部4を介して、意図しない経路の存在を報知する(ステップS10)。
【0056】
一方、第4テーブルと第6テーブルを比較した結果、第6テーブルの数値の方が小さければ、操作者(設計者)が意図したESD保護素子を経由する経路は存在しないことになるため、その旨を出力部4を介して報知する(ステップS11)。
【0057】
ステップS10またはS11により、出力部4を介して問題のある経路が提示された場合は、操作者は、提示された経路を調べて、ESD保護素子の接続方法や使用すべきESD保護素子の種類等に誤りがないかを確認し、誤りが見つかった場合は、第1ネットリストを修正して、ステップS1以降の処理を再度行う(ステップS12)。
【0058】
ここで、操作者(設計者)が第6テーブルを予め用意できるとは限らない。したがって、上述したステップS9〜S12の処理は必ずしも必須ではない。仮に、第6テーブルが用意できなかった場合は、ステップS9の後に、以降に説明するステップS13の処理を行う。また、第4テーブルの数値と第6テーブルの数値が一致する場合もステップS13の処理を行う。
【0059】
ステップS13では、第1有向経路グラフから、ESD保護素子のダイオードを経由する有向経路を削除した第2有向経路グラフを作成する。
【0060】
図10および図11はステップS13の処理内容を説明する図である。図10(a)の回路は、ステップS2の処理により、例えば図10(b)のようなダイオードおよび寄生ダイオードを有する回路に置換される。その後、ステップS4の処理により、図10(c)および図11(a)のような第1有向経路グラフが作成される。その後、ステップS13の処理により、図11(b)のような第2有向経路グラフが作成される。図11(a)と図11(b)を比較すればわかるように、第2有向経路グラフでは、VCCAパッドとGNDAパッド間のダイオードを経由する経路(図11(a)の左端の二本の経路)と、VCCBパッドとGNDBパッド間のダイオードを経由する経路(図11(a)の右端二本の経路)とが削除される。
【0061】
次に、第2有向経路グラフを利用して、任意のパッド間における順方向および逆方向の全経路を検索し、各経路の電流の流れやすさを示す数値の最小値が第4テーブルの数値より小さいか否かを検証する。もし、各経路の数値の合計値を計算する過程で、同じ経路の第4テーブル上の数値を超えてしまった場合は、その経路については数値計算を中止し、別の経路を探索してもよい。(ステップS14)。
【0062】
すべてのパッド間についてステップS14の処理を行って、第5テーブルを作成する(ステップS15)。
【0063】
図12は第5テーブルを作成する手順を説明する図である。図12(a)は図11(b)に示した第2有向経路グラフである。図12(b)は図11(b)の第2有向経路グラフに対応する第4テーブルである。この第4テーブルは、ESD保護素子の接続された経路のみを対象とするため、ESD保護素子が接続されていない経路の数値を非常に大きな値99999に設定している。
【0064】
図12(c)は、ESD保護素子を削除した状態で、パッド間の全ての経路の電流の流れやすさを検索して、最も電流が流れやすい経路の数値を記述した第5テーブルの一例を示している。
【0065】
図12(b)の第4テーブルと図12(c)の第5テーブルを比較すればわかるように、第4テーブルで数値99999を持つ経路は、第5テーブルでは、より小さい数値に更新される。また、他の数値を持つ経路でも、ESD保護素子を経由しない経路で、より電流が流れやすい経路が存在すれば、その経路の数値に更新される。
【0066】
図13は第5テーブルのVCCAパッドからVCCBパッドに至る経路の電流の流れやすさを表す数値が6.7になる理由を説明する図である。図13(a)は図12(a)と同じ第2有向経路グラフであり、図13(b)は図12(c)と同じ第5テーブルである。
【0067】
図13(c)の回路図に示すように、VCCAパッドとVCCBパッドの間には、MOSトランジスタQ1とQ2が存在する。図13(c)の矢印の向きに、VCCパッドからVCCBパッドに電流が流れるには、MOSトランジスタQ2が破壊されて、ゲート絶縁膜を突き抜けるような電流が流れることが前提となる。このようなMOSトランジスタQ2の破壊のしやすさも考慮に入れて、第5テーブルが生成される。
【0068】
本実施形態では、このような大量の電流が流れうる電流経路を確実に検出できるように、第4テーブルと第5テーブルを比較して(ステップS16)、第5テーブル内の数値と第4テーブル内の数値とが異なる場合には、その数値に対応する経路には問題があると判断して、出力部4を介して、その経路と対応するパッド間とを操作者に提示する(ステップS17)。
【0069】
上述したステップS16において、第4テーブルの数値以下の数値を持つ経路が一つ見つかるたびに、ステップS17の操作者への提示を行う必要はない。このような経路が予め定めた所定個数見つかった段階で、ステップS17の提示を行ってもよい。
【0070】
ステップS17の提示を受けた操作者は、問題のあるパッド間と経路を解析して、問題を解決すべく第1ネットリストを修正する(ステップS18)。修正後に、上述したステップS1以降の処理を再度行い、最終的に問題箇所がなくなるまで、ステップS1〜S18の処理を繰り返す。
【0071】
このように、本実施形態では、半導体回路のパッド間に接続されるESD保護素子と内部回路内のPN接合部とゲート−ソース間容量部をダイオードに置換した後に、パッド間の電流の流れやすさを解析するため、電流の流れやすさの解析を精度よく行うことができる。
【0072】
また、本実施形態では、想定したESD保護素子を経由するパッド間の経路以外に、想定外のESD保護素子を経由するパッド間の経路が存在するか否かを検索するため、設計者が意図しなかった電流経路の存在を的確に検出できる。
【0073】
また、電流の流れやすさを数値化した有向経路グラフを利用して、ESD保護素子を経由するパッド間の電流の流れやすさを示す数値を、予め設計した数値と比較するため、ESD保護素子の接続形態に誤りがないか否かを簡易且つ正確に検証できる。
【0074】
また、ESD保護素子を接続した場合の有向経路グラフと、ESD保護素子を接続しない場合の有向経路グラフとを比較するため、ESD保護素子を経由しないで電流が流れやすい経路を漏れなく検出でき、問題のある経路の修正作業を簡易かつ迅速に行うことができる。
【0075】
上述した実施形態で説明したESD検証装置の少なくとも一部は、上述したようにハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、ESD検証装置の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD−ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0076】
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 処理部
2 記憶部
3 入力部
4 出力部
11 置換部
12〜17 第1〜第6テーブル作成部
18 比較部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のパッドと、これらパッドに接続される内部回路と、前記複数のパッドの中の2つのパッド間に接続される少なくとも一つのESD保護素子と、を有する半導体回路のESD検証装置において、
前記内部回路および前記ESD保護素子内に存在するPN接合部と、ゲート−ソース間容量部と、キャパシタ素子とをそれぞれ整流素子に置換する置換手段と、
前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の一方側から他方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第1テーブルを作成する第1テーブル作成手段と、
前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の他方側から一方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第2テーブルを作成する第2テーブル作成手段と、
前記第1および第2テーブルを合成して、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の電流経路のうち、最も電流が流れやすい電流経路を数値化した第3テーブルを作成する第3テーブル作成手段と、
前記第3テーブルに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を経由するすべての電流経路について、電流の流れやすさを数値化した第4テーブルを作成する第4テーブル作成手段と、
前記半導体回路からすべての前記ESD保護素子を削除した状態で、前記複数のパッドの中の任意のパッド間の電流の流れやすさを数値化した第5テーブルを作成する第5テーブル作成手段と、
前記第4テーブルと前記第5テーブルとに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を通過する電流経路の電流の流れやすさと、前記ESD保護素子を通過しない電流経路の電流の流れやすさとを比較する比較手段と、
前記比較手段の比較結果が一致しない場合には、対応するパッド同士の組合せと、これらパッド間の経路とを提示する提示手段と、
を備えることを特徴とするESD検証装置。
【請求項2】
前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された任意のパッド間の電流経路について、電流の流れやすさを数値化した第6テーブルを作成手段と、
前記第4テーブルと前記第6テーブルとに基づいて、前記ESD保護素子の接続に問題がないか否かを検証する検証手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のESD検証装置。
【請求項3】
前記第5テーブル作成手段は、前記任意のパッド間の電流経路を辿って電流の流れやすさを数値化する過程で、対応する電流経路の数値が前記第4テーブル上の数値を上回った場合は、該電流経路の数値化を中止することを特徴とする請求項1または2に記載のESD検証装置。
【請求項4】
複数のパッドと、これらパッドに接続される内部回路と、前記複数のパッドの中の2つのパッド間に接続される少なくとも一つのESD保護素子と、を有する半導体回路のESD検証方法において、
前記内部回路および前記ESD保護素子内に存在するPN接合部と、ゲート−ソース間容量部と、キャパシタ素子とをそれぞれ整流素子に置換するステップと、
前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の一方側から他方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第1テーブルを作成するステップと、
前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の他方側から一方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第2テーブルを作成するステップと、
前記第1および第2テーブルを合成して、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の電流経路のうち、最も電流が流れやすい電流経路を数値化した第3テーブルを作成するステップと、
前記第3テーブルに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を経由するすべての電流経路について、電流の流れやすさを数値化した第4テーブルを作成するステップと、
前記半導体回路からすべての前記ESD保護素子を削除した状態で、前記複数のパッドの中の任意のパッド間の電流の流れやすさを数値化した第5テーブルを作成するステップと、
前記第4テーブルと前記第5テーブルとに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を通過する電流経路の電流の流れやすさと、前記ESD保護素子を通過しない電流経路の電流の流れやすさとを比較するステップと、
前記比較手段の比較結果が一致しない場合には、対応するパッド同士の組合せと、これらパッド間の経路とを提示するステップと、
を備えることを特徴とするESD検証方法。
【請求項5】
複数のパッドと、これらパッドに接続される内部回路と、前記複数のパッドの中の2つのパッド間に接続される少なくとも一つのESD保護素子と、を有する半導体回路のコンピュータ読み取り可能なESD検証プログラムにおいて、
前記内部回路および前記ESD保護素子内に存在するPN接合部と、ゲート−ソース間容量部と、キャパシタ素子とをそれぞれ整流素子に置換するステップと、
前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の一方側から他方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第1テーブルを作成するステップと、
前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の他方側から一方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第2テーブルを作成するステップと、
前記第1および第2テーブルを合成して、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の電流経路のうち、最も電流が流れやすい電流経路を数値化した第3テーブルを作成するステップと、
前記第3テーブルに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を経由するすべての電流経路について、電流の流れやすさを数値化した第4テーブルを作成するステップと、
前記半導体回路からすべての前記ESD保護素子を削除した状態で、前記複数のパッドの中の任意のパッド間の電流の流れやすさを数値化した第5テーブルを作成するステップと、
前記第4テーブルと前記第5テーブルとに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を通過する電流経路の電流の流れやすさと、前記ESD保護素子を通過しない電流経路の電流の流れやすさとを比較するステップと、
前記比較手段の比較結果が一致しない場合には、対応するパッド同士の組合せと、これらパッド間の経路とを提示するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータ読み取り可能なESD検証プログラム。
【請求項1】
複数のパッドと、これらパッドに接続される内部回路と、前記複数のパッドの中の2つのパッド間に接続される少なくとも一つのESD保護素子と、を有する半導体回路のESD検証装置において、
前記内部回路および前記ESD保護素子内に存在するPN接合部と、ゲート−ソース間容量部と、キャパシタ素子とをそれぞれ整流素子に置換する置換手段と、
前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の一方側から他方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第1テーブルを作成する第1テーブル作成手段と、
前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の他方側から一方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第2テーブルを作成する第2テーブル作成手段と、
前記第1および第2テーブルを合成して、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の電流経路のうち、最も電流が流れやすい電流経路を数値化した第3テーブルを作成する第3テーブル作成手段と、
前記第3テーブルに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を経由するすべての電流経路について、電流の流れやすさを数値化した第4テーブルを作成する第4テーブル作成手段と、
前記半導体回路からすべての前記ESD保護素子を削除した状態で、前記複数のパッドの中の任意のパッド間の電流の流れやすさを数値化した第5テーブルを作成する第5テーブル作成手段と、
前記第4テーブルと前記第5テーブルとに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を通過する電流経路の電流の流れやすさと、前記ESD保護素子を通過しない電流経路の電流の流れやすさとを比較する比較手段と、
前記比較手段の比較結果が一致しない場合には、対応するパッド同士の組合せと、これらパッド間の経路とを提示する提示手段と、
を備えることを特徴とするESD検証装置。
【請求項2】
前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された任意のパッド間の電流経路について、電流の流れやすさを数値化した第6テーブルを作成手段と、
前記第4テーブルと前記第6テーブルとに基づいて、前記ESD保護素子の接続に問題がないか否かを検証する検証手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のESD検証装置。
【請求項3】
前記第5テーブル作成手段は、前記任意のパッド間の電流経路を辿って電流の流れやすさを数値化する過程で、対応する電流経路の数値が前記第4テーブル上の数値を上回った場合は、該電流経路の数値化を中止することを特徴とする請求項1または2に記載のESD検証装置。
【請求項4】
複数のパッドと、これらパッドに接続される内部回路と、前記複数のパッドの中の2つのパッド間に接続される少なくとも一つのESD保護素子と、を有する半導体回路のESD検証方法において、
前記内部回路および前記ESD保護素子内に存在するPN接合部と、ゲート−ソース間容量部と、キャパシタ素子とをそれぞれ整流素子に置換するステップと、
前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の一方側から他方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第1テーブルを作成するステップと、
前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の他方側から一方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第2テーブルを作成するステップと、
前記第1および第2テーブルを合成して、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の電流経路のうち、最も電流が流れやすい電流経路を数値化した第3テーブルを作成するステップと、
前記第3テーブルに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を経由するすべての電流経路について、電流の流れやすさを数値化した第4テーブルを作成するステップと、
前記半導体回路からすべての前記ESD保護素子を削除した状態で、前記複数のパッドの中の任意のパッド間の電流の流れやすさを数値化した第5テーブルを作成するステップと、
前記第4テーブルと前記第5テーブルとに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を通過する電流経路の電流の流れやすさと、前記ESD保護素子を通過しない電流経路の電流の流れやすさとを比較するステップと、
前記比較手段の比較結果が一致しない場合には、対応するパッド同士の組合せと、これらパッド間の経路とを提示するステップと、
を備えることを特徴とするESD検証方法。
【請求項5】
複数のパッドと、これらパッドに接続される内部回路と、前記複数のパッドの中の2つのパッド間に接続される少なくとも一つのESD保護素子と、を有する半導体回路のコンピュータ読み取り可能なESD検証プログラムにおいて、
前記内部回路および前記ESD保護素子内に存在するPN接合部と、ゲート−ソース間容量部と、キャパシタ素子とをそれぞれ整流素子に置換するステップと、
前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の一方側から他方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第1テーブルを作成するステップと、
前記ESD保護素子のそれぞれごとに、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の前記ESD保護素子の他方側から一方側に流れる電流経路の電流の流れやすさを数値化した第2テーブルを作成するステップと、
前記第1および第2テーブルを合成して、前記ESD保護素子が接続された前記2つのパッド間の電流経路のうち、最も電流が流れやすい電流経路を数値化した第3テーブルを作成するステップと、
前記第3テーブルに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を経由するすべての電流経路について、電流の流れやすさを数値化した第4テーブルを作成するステップと、
前記半導体回路からすべての前記ESD保護素子を削除した状態で、前記複数のパッドの中の任意のパッド間の電流の流れやすさを数値化した第5テーブルを作成するステップと、
前記第4テーブルと前記第5テーブルとに基づいて、前記複数のパッドの中の任意のパッド間で、前記ESD保護素子を通過する電流経路の電流の流れやすさと、前記ESD保護素子を通過しない電流経路の電流の流れやすさとを比較するステップと、
前記比較手段の比較結果が一致しない場合には、対応するパッド同士の組合せと、これらパッド間の経路とを提示するステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータ読み取り可能なESD検証プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−68798(P2012−68798A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211996(P2010−211996)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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