説明

FRP容器の製造方法

【課題】FRP容器の外径が大きくなることを抑制し、多層FRP層の繊維体積含有率をコントロールすることができるFRP容器の製造方法を提供する。
【解決手段】フィラメントワインディング法により、ライナー30に熱硬化性樹脂24を含浸させた繊維を巻き付けて多層FRP層を形成する多層FRP層形成工程と、前記多層FRP層を加熱硬化する硬化工程とを含むFRP容器の製造方法であって、前記多層FRP層形成工程において、前記多層FRP層の単層又は複数層毎に前記熱硬化性樹脂の含浸量を変化させた繊維を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメントワインディング法によるFRP容器の製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車等に搭載される圧力容器(ガスボンベ)は、鉄等に比べて軽量性、強靭性に優れているFRP(Fiber Reinforced Plastic)容器が用いられてきている。FRP容器は、樹脂や金属製のライナーと、熱硬化性樹脂を含む繊維の層である多層FRP層とを有する。
【0003】
多層FRP層を形成する方法としては、一般的にフィラメントワインディング法が知られている。フィラメントワインディング法とは、例えば、熱硬化性樹脂を含浸した繊維を、容器形状に賦形したライナーに巻き付けて、多層FRP層を形成するものである。
【0004】
そして、FRP容器は、フィラメントワインディング法により形成された多層FRP層を加熱硬化させることによって得られる。このFRP容器は、ガスの高い充填圧力を維持しつつ軽量化がなされたものである。
【0005】
多層FRP層の形成において、熱硬化性樹脂を含浸した繊維をライナー上に巻き付ける際、繊維には張力が掛かる。繊維に張力が掛かった状態でFRP層が多層化していくと、繊維が巻き締められて、繊維に含浸した熱硬化性樹脂が流れ出てしまう場合がある。
【0006】
FRP容器の使用耐圧が高圧になるほど、また、ライナーの外径が大きくなるほど、多層FRP層の層数を増やす必要がある。そして、多層FRP層の層数が増えるほど、多層FRP層の内層側の繊維が巻き締められていくため、多層FRP層の内層側ほど、繊維に含浸した熱硬化性樹脂が流出し易くなる。
【0007】
このように、繊維に含浸した熱硬化性樹脂が流出し、繊維内の熱硬化性樹脂の含浸量が減少すると、多層FRP層の繊維体積含有率(Vf)が高くなり、得られる多層FRP層の疲労耐久性能等が低下し、亀裂が生じてしまう場合がある。そして、多層FRP層の繊維体積含有率をコントロールするため、種々検討されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0008】
また、FRP容器の使用においては、多層FRP層の内層に応力が掛かり易いため、特に、多層FRP層の内層の繊維体積含有率をコントロールする必要がある。そして、FRP層の形成において、繊維体積含有率を簡易にコントロールできることが好ましい。
【0009】
また、繊維内の熱硬化性樹脂の流出は、繊維に掛かる張力等を調製することにより回避することができる(例えば、特許文献5参照)。しかし張力等による調製では、多層FRP層全体が熱硬化性樹脂リッチとなり、FRP容器の外径が大きくなる場合がある。
【0010】
【特許文献1】特開平7−88817号公報
【特許文献2】特開2000−166427号公報
【特許文献3】実開平6−64818号公報
【特許文献4】特開2005−305927号公報
【特許文献5】特開2004−66637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、FRP容器の外径が大きくなることを抑制し、多層FRP層の繊維体積含有率をコントロールすることができるFRP容器の製造方法である。特に、多層FRP層の内層と外層との繊維体積含有率の差を小さくし、内層の熱硬化性樹脂の量を相対的に増やすことができるFRP容器の製造方法である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、フィラメントワインディング法により、ライナーに熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付けて多層FRP層を形成する多層FRP層形成工程と、前記多層FRP層を加熱硬化する硬化工程とを含むFRP容器の製造方法であって、前記多層FRP層形成工程において、前記多層FRP層の単層又は複数層毎に前記熱硬化性樹脂の含浸量を変化させた繊維を用いる。
【0013】
また、前記FRP容器の製造方法において、前記多層FRP層の内層から外層に向かって前記熱硬化性樹脂の含浸量を減少させた繊維を用いることが好ましい。
【0014】
また、前記FRP容器の製造方法において、前記フィラメントワインディング法は、前記熱硬化性樹脂を繊維に含浸させるためのドラムと、前記ドラム上の熱硬化性樹脂の量を調整するために前記ドラムと所定の間隔をおいて配置される調整具とを用いて、前記熱硬化性樹脂を繊維に含浸させながら前記ライナーに巻き付ける湿式法であり、前記ドラムと前記調整具との間隔を小さくすることにより、前記熱硬化性樹脂の含浸量を減少させることが好ましい。
【0015】
また、前記FRP容器の製造方法において、前記フィラメントワインディング法は、予め前記熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付けたボビンを用いて、前記熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を前記ライナーに巻き付ける乾式法であり、前記ボビンの内側から外側に向かって熱硬化性樹脂の含浸量の多い繊維を用いることにより、前記熱硬化性樹脂の含浸量を少なくすることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フィラメントワインディング法により、ライナーに熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付けて多層FRP層を形成する多層FRP層形成工程と、前記多層FRP層を加熱硬化する硬化工程とを含むFRP容器の製造方法であって、前記多層FRP層形成工程において、前記多層FRP層の内層から外層に向かって、前記熱硬化性樹脂の含浸量を変化させた繊維を用いることによって、FRP容器の外径が大きくなることを抑制し、多層FRP層の繊維体積含有率をコントロールすることができるFRP容器の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態について以下説明する。
【0018】
本実施形態に係るFRP容器の製造方法では、フィラメントワインディング法により、ライナーに熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付けて多層FRP層を形成する多層FRP層形成工程と、多層FRP層を加熱硬化する硬化工程とを含むものである。
【0019】
<多層FRP層形成工程>
多層FRP層形成工程では、フィラメントワインディング法により、ライナーに熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付けて多層FRP層を形成するものであって、多層FRP層の単層又は複数層毎に熱硬化性樹脂の含浸量を変化させた繊維を用いる。
【0020】
本実施形態で用いられるフィラメントワインディング法には、熱硬化性樹脂を繊維に含浸させながらライナーに巻き付ける湿式法(湿式フィラメントワインディング法)、予め熱硬化性樹脂を含浸させた繊維(プリプレグ)をライナーに巻き付ける乾式法(乾式フィラメントワインディング法)等がある。まず、湿式フィラメントワインディング法を用いた多層FRP層の形成について説明する。
【0021】
図1は、湿式フィラメントワインディング法による多層FRP層の作製例を示す図である。図1に示すように、クリールスタンド10に収容された繊維が巻き付けられたボビン12から繰り出される繊維14は、張力調整ローラ(A)16、張力調整ローラ(B)18を介してドラム20と接触する。ドラム20の一部は、樹脂浴槽22内の熱硬化性樹脂24に浸かった状態で、ドラム20が回転することにより、ドラム20表面に熱硬化性樹脂24が付着する。ドラム20表面に付着した熱硬化性樹脂24をドラム20と所定の間隔をおいて配置された調整具26(スクレーパ)により一部除去して、ドラム20表面の熱硬化性樹脂24を、所定の量(又は厚み)に調整する。ドラム20表面に付着した所定量の熱硬化性樹脂24とボビン12から繰り出された繊維14とが接触することによって、熱硬化性樹脂24を繊維14内に含浸することができる。
【0022】
本実施形態における熱硬化性樹脂24の含浸方法として、上記説明したドラム20表面に付着した熱硬化性樹脂24と繊維14とを接触させることによるもの(以下、ドラム式)に限られず、例えば、ドラム20を用いず樹脂浴槽22内の熱硬化性樹脂24に直接、繊維14を浸漬させるもの(以下、ディップ方式)であっても、ディスペンサのようなもので定量的に熱硬化性樹脂24を送液して繊維14に塗布するもの(以下、ディスペンサ方式)等特に限定されるものではない。繊維14内に一定量の熱硬化性樹脂24を含浸することができる点で、ドラム式、ディスペンサ式が好ましく、後述する熱硬化性樹脂24の含浸量を容易に変化させることができる点等で、ドラム式が好ましい。
【0023】
上記方法によって熱硬化性樹脂24を含浸した繊維14は、図1に示すように、アイロ28を介してライナー30に巻き付けられ、多層FRP層が形成される。アイロ28は、熱硬化性樹脂24を含浸した繊維14をライナー30に巻き付ける際のガイドであり、前後左右(又は回転する)に動くものである。
【0024】
図2は、フィラメントワインディング法により作製した多層FRP層の一部模式断面図である。図2に示すように、ライナー30表面に形成されている多層FRP層32は、FRP層34が複数層形成されたものである。本実施形態では、図2に示すように、FRP層34を6層(34a,34b,34c,34d,34e,34f)形成したものを例示しているが、これに限定されるものではない。
【0025】
本実施形態では、多層FRP層32の単層又は複数層毎に、熱硬化性樹脂24の含浸量を変化させた繊維14を巻き付ける。
【0026】
熱硬化性樹脂24の含浸量は、ドラム式の場合、ドラム20の回転速度、ドラム20と調整具26との間隔等を調整することによって、変化させることができる。例えば、ドラム20の回転速度を速めれば、ドラム20に付着する熱硬化性樹脂24の量が増え、含浸量を増加させることができるし、ドラム20と調整具26との間隔を大きくすれば、ドラム20に付着した熱硬化性樹脂24の取り除かれる量が減り、含浸量を増加させることができる。また、ディップ方式の場合には、樹脂浴槽22内の熱硬化性樹脂24に繊維14を浸漬させる時間等を調整することによって、熱硬化性樹脂24の含浸量を変化させることができる。また、ディスペンサ方式の場合には、送液する熱硬化性樹脂24の量を変化させることにより、含浸量を変化させることができる。
【0027】
図2に示す多層FRP層32の単層毎又は複数層毎に熱硬化性樹脂24の含浸量を変化させた繊維14を巻き付けることにより、多層FRP層32の繊維体積含有率をコントロールすることができる。多層FRP層32の繊維体積含有率をコントロールすることができれば、種々の用途に適したFRP容器が得られる。上記でも説明したようにライナー30に熱硬化性樹脂24を含浸した繊維14を巻き付ける際に、繊維14には張力が掛かるため、多層FRP層32の内層(例えば、図2に示すFRP層34a,34b)を構成する繊維14から熱硬化性樹脂24が流出し易くなる。そうすると、多層FRP層32の内層側の熱硬化性樹脂24の量が外層側と比較して減少してしまう。すなわち、多層FRP層32の内層は、繊維体積含有率が高くなり、内層の強度が低下し易くなる。しかし、本実施形態のように、例えば、多層FRP層32の内層から外層(図2に示すFRP層34a〜34f)に向かって熱硬化性樹脂24の含浸量を減少させた繊維14をライナー30に巻き付けることにより、内層側の熱硬化性樹脂24の量が外層側と比較して減少することを抑制することができる。すなわち、多層FRP層32の内層と外層との繊維体積含有率の差を少なくすることができる。このような構成の多層FRP層32は、高耐圧が要求されるFRP容器に好適である。
【0028】
また、多層FRP層32の内層から外層に向かって熱硬化性樹脂24の含浸量を増加させた繊維14を巻き付けることにより、多層FRP層32の外層から内層に向かって繊維体積含有率が増加した多層FRP層32を形成することができる。このような構成の多層FRP層32は、外部からの耐衝撃性を確保するためのFRP容器に好適である。
【0029】
車輌用等に使用される高耐圧のFRP容器は、多層FRP層32の内層側に応力が掛かり易く、内層側の強度を確保する必要がある。そのため、多層FRP層32の内層側の繊維体積含有率が高くなることを抑制することができる点等で、多層FRP層32の内層から外層に向かって熱硬化性樹脂24の含浸量を減少させた繊維14を巻き付けることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態では、ライナー30に熱硬化性樹脂24を含浸した繊維14を巻き付ける際に、繊維14に掛かる張力を調整する(具体的には、張力を弱くする)必要は、ほとんど無いため、得られる多層FRP層32の厚さが、厚くなることはほとんどない。したがって、最終的に得られるFRP容器の外径が大きくなることを抑制することができる。
【0031】
例えば、図1に示すドラム式の場合、熱硬化性樹脂24を含浸した繊維14の巻き付けが、図2に示す多層FRP層32の内層から外層(FRP層34aから34f)に向かうにしたがい、ドラム20と調整具26との間隔を小さくすることにより、多層FRP層32の内層から外層に向かって熱硬化性樹脂24の含浸量を減少させた繊維14を巻き付けることができる。また、ディップ方式の場合には、多層FRP層32の内層から外層に向かうにしたがい、樹脂浴槽22内の熱硬化性樹脂24に繊維14を浸漬させる時間を短くすることによって、多層FRP層32の内層から外層に向かって熱硬化性樹脂24の含浸量を減少させた繊維14を巻き付けることができる。また、ディスペンサ方式の場合には、多層FRP層32の内層から外層に向かうにしたがい、送液する熱硬化性樹脂24の量を減少させることにより、多層FRP層32の内層から外層に向かって熱硬化性樹脂24の含浸量を減少させた繊維14を巻き付けることができる。
【0032】
本実施形態において、熱硬化性樹脂の含浸量を容易に変化させることができる点、内層側の強度を確保するために、内層側の繊維体積含有率が高くなることを抑制することができる点等で、ドラム20と調整具26との間隔を小さくすることにより、多層FRP層32の内層から外層に向かって熱硬化性樹脂24の含浸量を減少させた繊維14を巻き付けることが好ましい。また、ドラム20と調整具26との間隔は、使用する繊維14、熱硬化性樹脂24、多層FRP層32の層数、ライナー30の外径等によって、適宜設定されればよい。
【0033】
ライナー30への繊維14の巻き付けは、フープ巻き、ヘリカル巻き等があるが特に制限されるものではない。本実施形態の多層FRP層32は、フープ巻き、ヘリカル巻き単独で形成されたものであっても、フープ巻き、ヘリカル巻きを組み合わせて形成されたものであっても、フープ巻き、ヘリカル巻き以外の巻き付け方法であってもよい。
【0034】
図3(イ)は、フィラメントワインディング法におけるフープ巻きの一例を示す模式図であり、図3(ロ)は、フィラメントワインディング法におけるヘリカル巻きの一例を示す模式図である。図3(イ)に示すように、フープ巻きとは、ライナー30の軸方向(矢印X)に対して略垂直に熱硬化性樹脂24を含浸した繊維14を巻き付けるものである。また、図3(ロ)に示すように、ヘリカル巻きとは、ライナー30の軸方向(矢印X)に沿って、熱硬化性樹脂24を含浸した繊維14をらせん状に巻き付けるものである。上記フープ巻き、ヘリカル巻き等によって、ライナー30に多層FRP層32を形成することができる。
【0035】
次に、乾式フィラメントワインディング法を用いた多層FRP層の形成について説明する。
【0036】
図4は、乾式フィラメントワインディング法による多層FRP層の作製例を説明するための図である。図4に示すクリールスタンド36に収容されたボビン38から繰り出される繊維40が、アイロ28を介してライナー30に巻き付けられ、図2に示すような多層FRP層32が形成される。乾式フィラメントワインディング法により用いられる繊維40は、予め熱硬化性樹脂を含浸させた繊維(プリプレグ)である。
【0037】
本実施形態に用いられるボビン38は、内側から外側に向って熱硬化性樹脂の含浸量を増加させた繊維を巻き付けたものである。上記ボビン38を用いることによって、図2に示す多層FRP層32の内層から外層に向かって熱硬化性樹脂の含浸量を減少させた繊維を巻き付けることができる。
【0038】
また、内側から外側に向って熱硬化性樹脂の含浸量を減少させた繊維を巻きつけたボビン38を用いることによって、多層FRP層の内層から外層に向かって熱硬化性樹脂の含浸量を増加させた繊維を巻き付けることができる。上記でも説明したように、車輌用等に使用される高耐圧のFRP容器は、多層FRP層32の内層側に応力が掛かり易いため、内層側の強度を確保するために、内層側の繊維体積含有率が高くなることを抑制することができる点等で、内側から外側に向って熱硬化性樹脂の含浸量を増加させた繊維を巻き付けたボビン38を用いることが好ましい。
【0039】
また、ボビン38の内層と外層との熱硬化性樹脂量の差は、使用する繊維40、熱硬化性樹脂、多層FRP層32の層数、ライナー30の外径等によって、適宜設定されればよい。
【0040】
本実施形態に用いられるライナー30は、用途によって、樹脂製、金属製が選択される。樹脂製ライナーとしては、高密度ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を回転成形やブロー成形にて容器形状に賦形されたものに、金属製の口金が付けられているものが一般的である。金属製のライナーは、アルミニウム合金製や鋼鉄製等からできているパイプ形状や板形状からスピニング加工等により容器形状に賦形したあとで、口金形状を付与するものが一般的である。
【0041】
本実施形態に用いられる熱硬化性樹脂の種類としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
また、熱硬化性樹脂の分子構造としては、例えば、エポキシ樹脂の場合、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0043】
また、熱硬化性樹脂に加える硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン等の脂肪族アミン、ジエチレントリアミン等の脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミンまたはジアミノジフェニルスルフォン等の芳香族アミン、ピペリジンまたはジアザピシクロウンデセン等の第一、第三アミン、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等の酸無水物硬化剤等が挙げられる。
【0044】
本実施形態に用いられる繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、ポリエチレン繊維、スチール繊維、ザイロン繊維、ビニロン繊維等が挙げられる。また、本実施形態に用いられる繊維の繊維数(フィラメント)は、特に制限されるものではないが1000〜50000フィラメント、好ましくは3000〜30000フィラメントの範囲である。本実施形態に用いられる繊維の繊維数が、1000フィラメントより低いと、繊維中に含まれる熱硬化性樹脂の含有量が少なくなる場合があり、50000フィラメントを超えると繊維が太くなり、図2に示すような多層FRP層32を形成することが困難となる場合がある。特に高強度、高弾性率かつ軽量の点から炭素繊維が好ましい。
【0045】
<硬化工程>
硬化工程では、上記のように湿式フィラメントワインディング法又は乾式フィラメントワインディング法により形成した多層FRP層(例えば、図2に示す多層FRP層32)を加熱硬化させる。
【0046】
多層FRP層32の硬化条件は、特に制限されるものではないが、例えば、室温から150℃まで、1℃/分で昇温した後、1時間加熱させる。その後室温まで冷却させる。これにより、FRP容器が得られる。
【0047】
以上のように、本実施形態に係るFRP容器の製造方法では、フィラメントワインディング法により、ライナーに熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付けて多層FRP層を形成する多層FRP層形成工程と、多層FRP層を加熱硬化する硬化工程とを含み、多層FRP層形成工程において、多層FRP層の単層又は複数層毎に、熱硬化性樹脂の含浸量を変化させた繊維を用いることにより、FRP容器の外径が増加することを抑制し、多層FRP層の繊維体積含有率をコントロールしたFRP容器が得られる。特に、多層FRP層の内層から外層に向かって、熱硬化性樹脂の含浸量を減少させた繊維を用いることにより、高耐圧に好適なFRP容器が得られる。
【0048】
上記本実施形態に係るFRP容器の製造方法により得られるFRP容器は、例えば、車輌、消防、医療、レジャー用等に使用される空気、酸素、液化プロパンガス、液化天然ガス等の圧力容器(ガスボンベ)等として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】湿式フィラメントワインディング法による多層FRP層の作製例を示す図である。
【図2】フィラメントワインディング法により作製した多層FRP層の一部模式断面図である。
【図3】フィラメントワインディング法におけるフープ巻き、ヘリカル巻きの一例を示す模式図である。
【図4】乾式フィラメントワインディング法による多層FRP層の作製例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0050】
10 クリールスタンド、12 ボビン、14 繊維、16 張力調整ローラ(A)、18 張力調整ローラ(B)、20 ドラム、22 樹脂浴槽、24 熱硬化性樹脂、26 調整具、28 アイロ、30 ライナー、32 多層FRP層、34a〜34f FRP層、36 クリールスタンド、38 ボビン、40 繊維。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントワインディング法により、ライナーに熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付けて多層FRP層を形成する多層FRP層形成工程と、前記多層FRP層を加熱硬化する硬化工程とを含むFRP容器の製造方法であって、
前記多層FRP層形成工程において、前記多層FRP層の単層又は複数層毎に前記熱硬化性樹脂の含浸量を変化させた繊維を用いることを特徴とするFRP容器の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のFRP容器の製造方法であって、前記多層FRP層の内層から外層に向かって前記熱硬化性樹脂の含浸量を減少させた繊維を用いることを特徴とするFRP容器の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載のFRP容器の製造方法であって、前記フィラメントワインディング法は、前記熱硬化性樹脂を繊維に含浸させるためのドラムと、前記ドラム上の熱硬化性樹脂の量を調整するために前記ドラムと所定の間隔をおいて配置される調整具とを用いて、前記熱硬化性樹脂を繊維に含浸させながら前記ライナーに巻き付ける湿式法であり、
前記ドラムと前記調整具との間隔を小さくすることにより、前記熱硬化性樹脂の含浸量を減少させることを特徴とするFRP容器の製造方法。
【請求項4】
請求項2記載のFRP容器の製造方法であって、前記フィラメントワインディング法は、予め前記熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付けたボビンを用いて、前記熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を前記ライナーに巻き付ける乾式法であり、
前記ボビンの内側からから外側に向かって前記熱硬化性樹脂の含浸量の多い繊維を用いることにより、前記熱硬化性樹脂の含浸量を減少させることを特徴とするFRP容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−307791(P2008−307791A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157810(P2007−157810)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】